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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123184
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】型枠支持部材および型枠セット
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/01 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
E02D27/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027100
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和裕
(72)【発明者】
【氏名】平尾 昂之
(72)【発明者】
【氏名】尾内 惇史
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046BA11
(57)【要約】
【課題】低コストであって、しかも設置作業性に優れる型枠支持部材および型枠セットを提供する。
【解決手段】型枠支持部材11は、べた基礎における立ち上がり部16を構成する中通り型枠26を保持する。型枠支持部材11は、耐圧盤部14内に配設されるスラブ配筋20のうち平行する2本の補助配筋20bに対してそれぞれ係合する一対の係合部44と、一対の係合部44をつなぐ第1梁部48と、第1梁部48に支:低コストであって、しかも作業性に優れ持され、中通り型枠26の下面を支持する型枠受部52とを有する。型枠支持部材11は下部構成体40と上部構成体42とを有する。上部構成体42は、調整ナット60の螺合位置により第1梁部48に対する高さの位置決めがなされ、かつ、高さ調整ねじ56をねじ孔48aから抜くことにより下部構成体40から分離可能となっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
べた基礎における立ち上がり部を構成する型枠を保持する型枠支持部材であって、
前記べた基礎における耐圧盤部内に配設されるスラブ配筋のうち平行する2本に対してそれぞれ係合する一対の係合部と、
一対の前記係合部をつなぐ第1梁部と、
前記第1梁部に支持され、前記型枠の下面を支持する型枠受部と、
を有することを特徴とする型枠支持部材。
【請求項2】
前記係合部および前記第1梁部を備える下部構成体と、
前記型枠受部、下方に突出して前記第1梁部に形成されているねじ孔に挿通される高さ調整ねじ、および該高さ調整ねじに螺合する調整ナットを備える上部構成体と、
を有し、
前記上部構成体は、前記調整ナットの螺合位置により前記第1梁部に対する高さの位置決めがなされ、かつ、前記高さ調整ねじを前記ねじ孔から抜くことにより前記下部構成体から分離可能となっている
ことを特徴とする請求項1に記載の型枠支持部材。
【請求項3】
前記上部構成体は、前記下部構成体から上方に変位するのに非拘束となっている
ことを特徴とする請求項2に記載の型枠支持部材。
【請求項4】
前記調整ナットと前記第1梁部との間には前記スラブ配筋の径に応じた高さのスぺーサが配設されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の型枠支持部材。
【請求項5】
前記係合部は、前記スラブ配筋の側方に配置される側壁部、前記側壁部から突出して前記スラブ配筋の上方に配置される上ヒレ部、および前記側壁部から突出して前記スラブ配筋の下方に配置される下ヒレ部を備え、
一対の前記係合部における前記上ヒレ部および前記下ヒレ部は、互いに離間する向きに突出している
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の型枠支持部材。
【請求項6】
前記上ヒレ部は前記下ヒレ部よりも長く突出している
ことを特徴とする請求項5に記載の型枠支持部材。
【請求項7】
前記上部構成体は第2梁部を有し、
前記高さ調整ねじは、前記第2梁部における離間した位置に2本設けられて前記第2梁部を前記第1梁部に対して支持し、
前記型枠受部は、一対が前記第2梁部の両端近傍に設けられている
ことを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の型枠支持部材。
【請求項8】
2本の前記スラブ配筋および前記型枠を含み、
さらに、請求項1~7のいずれか1項に記載の型枠支持部材が2本の前記スラブ配筋に対して複数設けられていることを特徴とする型枠セット。
【請求項9】
前記スラブ配筋は、升目状で縦横に配設される主配筋と、前記主配筋に対して補助的に付加して設けられる補助配筋とを有し、
前記型枠支持部材が係合する2本は前記補助配筋である
ことを特徴とする請求項8に記載の型枠セット。
【請求項10】
前記型枠は不連続部を介して複数設けられており、
2本の前記補助配筋は平面視で前記不連続部を横断して配設されている
ことを特徴とする請求項9に記載の型枠セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、べた基礎における立ち上がり部を構成する型枠を保持する型枠支持部材、および該型枠支持部材を備える型枠セットに関する。
【背景技術】
【0002】
べた基礎は耐圧盤部と立ち上がり部とを有している。耐圧盤部には縦横に組まれたスラブ配筋が配設されている。立ち上がり部には外周部と中通り部とがある。べた基礎の耐圧盤部と立ち上がり部とを一回のコンクリート打設で構成する工法では、中通り部を構成する型枠を捨てコンクリート等の基盤の上面から浮いた状態に配置する必要がある。外周部における内面側型枠についても基本的に同様である。
【0003】
このため従来用いられている型枠支持部材は、基盤上に載置する載置台と、型枠の下面を支持する型枠受部とを有しており、これらの載置台と型枠受部との間は支柱でつながれている(例えば、特許文献1参照)。支柱はスラブ配筋が形成する升目の間を通って載置台と型枠受部とをつないでおり、型枠はスラブ配筋よりも所定の高さだけ浮いた状態で配置することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭63-7649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基盤の根入り深さは一様に形成されるのではなく、耐震強度確保や凍上防止のために一部に深掘部を設けることがある。深掘部に適用する型枠支持部材は浅い箇所に適用するものと比較して支柱を長くするとともに安定化を図るために構造自体を変える必要があり共通化が困難であるとともにコスト高となる。型枠支持部材は、基本的には基礎の強度を担うものではなく、コンクリート打設時にだけ型枠を支持すれば足りるものであって低コストであることが望ましい。また、深掘部にはスラブ配筋が増設されており、深掘部の底に型枠支持部材を設置することは容易ではない。さらに、根入りの浅い箇所においても、スラブ配筋を配設した後にはその下方の基盤に型枠支持部材を設置するのは必ずしも容易ではなく、作業者の負担となっている。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、低コストであって、しかも設置作業性に優れる型枠支持部材および型枠セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる型枠支持部材は、べた基礎における立ち上がり部を構成する型枠を保持する型枠支持部材であって、前記べた基礎における耐圧盤部内に配設されるスラブ配筋のうち平行する2本に対してそれぞれ係合する一対の係合部と、一対の前記係合部をつなぐ第1梁部と、前記第1梁部に支持され、前記型枠の下面を支持する型枠受部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる型枠セットは、前記型枠、2本の前記スラブ配筋を備え、さらに、上記の型枠支持部材が2本の前記スラブ配筋に対して複数設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、型枠支持部材を基盤部ではなくスラブ配筋に係合させる構成のため、深掘部の有無にかかわらず適用可能であって低コストであって、しかも設置作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態にかかる型枠セットの模式分解斜視図である。
図2】型枠セットの断面側面図である。
図3】組み立て途中の型枠セットの一部を示す平面図である。
図4】型枠セットによって打設・形成される基礎の模式平面図である。
図5】型枠支持部材の斜視図である。
図6】型枠支持部材の分解側面図である。
図7】型枠支持部材の下部構成体を補助配筋に取り付ける様子を示した模式平面図である
図8】補助配筋が上配筋の上に配置される場合の型枠支持部材とその周辺の断面側面図である。
図9】スラブ配筋が撓んだ状態における型枠支持部材とその周辺の断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる型枠支持部材および型枠セットの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態にかかる型枠セット10の模式分解斜視図である。型枠セット10は、本発明の実施形態にかかる型枠支持部材11を含んでいる。図2は、型枠セット10の断面側面図である。図3は、組み立て途中の型枠セット10の一部を示す平面図である。図4は、型枠セット10によって打設・形成される基礎12の模式平面図である。本実施の形態にかかる型枠セット10および型枠支持部材11は基礎12の施工で用いられるものである。
【0013】
まず、基礎12について説明する。
図4に示すように、基礎12はべた基礎であり、平面状に広がる耐圧盤部14と、鉛直に起立する壁状の立ち上がり部16とを有している。立ち上がり部16は、耐圧盤部14の縁に沿った外周部16aと、該外周部16aによって囲まれた範囲で耐圧盤部14上に設けられる中通り部16bとに区分される。中通り部16bは間仕切りとも呼ばれる。中通り部16bは人通孔18を形成するために不連続に形成されることがある。図4では、人通孔18を介した一方に符号16baを付し、他方に符号16bbを付している。
【0014】
次に、型枠セット10について説明する。
図1図2図3に示すように、型枠セット10は、複数の型枠支持部材11と、平面状に配設されるスラブ配筋20と、一部が上方に突出している立ち上がり配筋22と、外面側型枠24aと、内面側型枠24bと、一対の中通り型枠26とを有している。各型枠には補強のための枠材が設けられていてもよい。各型枠は立ち上がり部16の長さに応じた1枚のものでもよいし、分割式のものを所定数つなげてもよい。スラブ配筋20は、耐圧盤部14内に配設されるものである。スラブ配筋20は、所定間隔で升目状に配設された主配筋20aと、該主配筋20aに対して補助的に付加して設けられる補助配筋20bとに区分される。
【0015】
主配筋20aは升目状で縦横に配設される。図1では主配筋20aのうち横方向に延在しているものが下側で、縦方向に延在しているものが上側となっている。以下の説明では、必要に応じて下側のものを下配筋20aaと呼び、上側のものを上配筋20abと呼ぶ。本実施例における補助配筋20bは所定間隔で平行な2本が一組として設けられている。図1の例では、補助配筋20bは下配筋20aaの上に載置されており上配筋20abと平行になっている。スラブ配筋20は適度な間隔に配設されたブロック28(図2参照)によって支持されている。ブロック28は基盤30に載置されている。基盤30は、基本的には捨てコンクリートであるが敷地の状態が良好であれば捨てコンクリートを省略してもよい。基盤30には防湿シートを貼ってもよい。
【0016】
立ち上がり配筋22は、スラブ配筋20に沿って水平に配設される水平部22aと、該水平部22aから屈曲して上方に突出している鉛直部22bとを有する。鉛直部22bは立ち上がり部16内に配設されるものであり、該立ち上がり部16に沿って複数設けられる。図1では簡略化のため立ち上がり配筋22等を省略している。中通り部16bがT字に交差するコーナー部には、強度担保のために平面視でL字のコーナー補助筋32が設けられる。コーナー補助筋32は鉛直部22bに対して延長筋29(図2参照)を介して設けられる。複数の立ち上がり配筋22は、それぞれ支持配筋33によって支持されている。各配筋は基本的に同径(例えば13mm程度)であるが、条件によって一部に異なる径のものを用いてもよい。各配筋は、例えば鉄筋である。
【0017】
外面側型枠24aは外周部16aの外周側の型を形成する。図示を省略するが、外面側型枠24aはサポート部材によって基盤や地盤に固定され、外周側に傾斜しないようになっている。外面側型枠24aには、内周側に突出する複数の内面型枠支持部材34が設けられている。内面側型枠24bは外面側型枠24aと対向しており、外周部16aの内周側の型を形成する。内面側型枠24bの下面は内面型枠支持部材34によって支持されており、打設するスラブ高さに応じて浮いた状態になる。
【0018】
一対の中通り型枠26は対向しており、中通り部16bにおける両側の型を形成する。一対の中通り型枠26の一端部、つまり人通孔18の形成のために途切れている一端部は端板36(図1参照)によって塞がれている。一対の中通り型枠26の他端部は内面側型枠24bとつながっている。
【0019】
次に、型枠支持部材11について説明する。図5は、型枠支持部材11の斜視図である。図6は、型枠支持部材11の分解側面図である。
図5図6に示すように、本実施例における型枠支持部材11は左右対称構造となっている。型枠支持部材11は下部構成体40と上部構成体42とに分離可能となっている。下部構成体40は、補助配筋20bに係合する一対の係合部44と、両端で嵩上げ片46を介して一対の係合部44をつなぐ第1梁部48とを有する。下部構成体40の図6における奥行方向の幅は補助配筋20bの径と同じかそれよりやや長い程度である。
【0020】
係合部44は、補助配筋20bの側方に配置される側壁部44a、該側壁部44aから外側に突出して補助配筋20bの上方に配置される上ヒレ部44b、および側壁部44aから外側に突出して補助配筋20bの下方に配置される下ヒレ部44cを備える。一対の係合部44における上ヒレ部44bおよび下ヒレ部44cは反対側、つまり互いに離間する向きに突出している。
【0021】
係合部44は、下部構成体40を上下方向および補助配筋20bの延在方向と直交する方向(つまり図2図6の左右方向)について移動不能となるように補助配筋20bに係合させるものであり、補助配筋20bの延在方向については非拘束とする。具体的には、上ヒレ部44bおよび下ヒレ部44cが上下方向について移動不能とさせ、側壁部44aが図6の左右方向について移動不能とさせる。
【0022】
側壁部44aは嵩上げ片46の下方延長部となっている。一対の側壁部44aは一対の補助配筋20bの対向面にそれぞれ当接する間隔に設定されている。逆にいうと、一対の補助配筋20bの間隔は、それぞれが側壁部44aに当接するように設定される。側壁部44aは鉛直壁であるが多少傾斜していてもよい。上ヒレ部44bは下ヒレ部44cよりも長く突出している。具体的には上ヒレ部44bの突出長さは補助配筋20bの直径よりもやや長くなっており、下ヒレ部44cの突出長さは補助配筋20bの直径より短く半径より長い程度になっている。第1梁部48は嵩上げ片46によって係合部44よりもやや高い位置に保持される。第1梁部48には両端近傍にねじ孔48aが形成されている。
【0023】
下部構成体40は、例えば金属板を曲げ加工した主部(第1梁部48、一対の上ヒレ部44b、一対の嵩上げ片46からなる部分)に対し、嵩上げ片46、側壁部44aおよび下ヒレ部44cからなるL字状の一対の補助板金49を接合して形成される。つまり、嵩上げ片46の箇所では2枚の板金が接合されている。下部構成体40は樹脂であってもよい。
【0024】
上部構成体42は、中通り型枠26の下面を支持する一対の型枠受部52と、一対の型枠受部52をつなぐ第2梁部54と、該第2梁部54から下方に突出する一対の高さ調整ねじ56とを有している。第2梁部54および型枠受部52は一体であり、金属板を曲げ加工して形成されているが、樹脂で形成してもよい。第2梁部54および型枠受部52は、図6における奥行方向の幅が下部構成体40と同じ程度となっている。
【0025】
型枠受部52は、第2梁部54の端部からやや下方に突出する内面壁52aと、該内面壁52aから外側に突出する底壁52bと、該底壁52bから上方に突出する外面壁52cとを有する。外面壁52cは内面壁52aよりも高く、この実施例では2倍程度となっている。外面壁52cの上端近傍には固定孔52caが形成されている。底壁52bにおける図6の左右方向の幅は、中通り型枠26およびそれに付随するレール64(図2参照)よりやや広い程度となっている。
【0026】
第2梁部54には離間した位置に一対の孔54aが形成されている。一対の高さ調整ねじ56は、それぞれ孔54aを挿通して下方に突出しており、ヘッド56aと固定ナット58とが第2梁部54を挟持することによって固定されている。高さ調整ねじ56には調整ナット60が螺合している。固定ナット58および調整ナット60は汎用品であって同じものを適用可能であるが機能を理解しやすいように別の呼称としている。
【0027】
一対の高さ調整ねじ56は第1梁部48に形成されているねじ孔48aに挿通されるように間隔が設定されている。調整ナット60が第1梁部48に当接することによって第2梁部54の高さが設定されている。第2梁部54の高さは、整ナット60の螺合位置により調整が可能である。高さ調整ねじ56は適度に長く、第2梁部54を下部構成体40よりもある程度高い位置に設定することができる。高さ調整ねじ56は2本が第2梁部54の両端近傍に離間して設けられており、第1梁部48と第2梁部54とを並行に支持しやすく、また上部構成体42の下部構成体40に対する回り止め作用がある。
【0028】
なお、高さ調整ねじ56における第1梁部48よりも下方の部分に別のナットを設けて調整ナット60によって第2梁部54を挟持すると該高さ調整ねじ56を固定することができるが、本実施の形態では高さ調整ねじ56を固定しない非拘束状態としておく。つまり、上部構成体42は下部構成体40から上方に向かって自由に変位可能となっている。ただし、高さ調整ねじ56は第1梁部48よりも下方に向かって適度に突出しており、相当上方まで引かないとねじ孔48aから抜けないようになっている。
【0029】
高さ調整ねじ56には筒体のスペーサ62が挿通されるようになっている。スペーサ62は調整ナット60と第1梁部48との間に設けられる。スペーサ62の高さは補助配筋20bの径と同じ程度である。スペーサ62は筒体に限らず、例えば開口幅を弾性的に広げることが可能な断面C字形状の柱体であってもよい。このような柱体では、高さ調整ねじ56の側方から着脱が可能である。
【0030】
次に、型枠セット10における型枠支持部材11の使用方法について説明する。図7は、型枠支持部材11の下部構成体40を補助配筋20bに取り付ける様子を示した模式平面図である。この時点で主配筋20aは升目状に組まれ、さらに2本の補助配筋20bは下配筋20aaの上で上配筋20abと平行かつ所定間隔に設置されているものとする。立ち上がり配筋22なども設置済とする。
【0031】
図7に示すように、まず下部構成体40を主配筋20aおよび補助配筋20bで構成される升目に入るように斜めにして差し込む。このとき、上部構成体42は引き抜いておくことにより、周囲の立ち上がり配筋22などと干渉することがない。さらに、矢印で示すように下部構成体40を回転させ、仮想線で示すように第1梁部48を補助配筋20bに対して垂直向きとする。これにより、図3に示す状態となり一対の係合部44がそれぞれ補助配筋20bに係合する。下部構成体40は所定間隔で複数設置する。上ヒレ部44bは下ヒレ部44cよりも長く突出しており、下部構成体40は多少傾いても上ヒレ部44bと補助配筋20bとの当接状態が保たれて脱落してしまうことがない。
【0032】
図2に示すように、下部構成体40の第1梁部48は嵩上げ片46によってやや上方の位置となっていることから該第1梁部48が支持配筋33に干渉することがない。次に、係合部44で補助配筋20bに係合している下部構成体40に対して上部構成体42を取り付ける。上部構成体42における高さ調整ねじ56には調整ナット60を螺合させておき、さらにスペーサ62を挿入しておく。2本の高さ調整ねじ56をそれぞれ第1梁部48のねじ孔48aに挿入することにより上部構成体42が下部構成体40と組み合わされる。
【0033】
このとき、調整ナット60のおおよその螺合深さLは、基盤30から型枠受部52の底壁52bまでが所定のスラブ高さHとなるように設定されているものとする。上部構成体42の組み付け後に、調整ナット60によって第2梁部54の高さを微調整してもよい。
【0034】
そして、一対の型枠受部52にレール64を介して中通り型枠26を配置し、ビス68を固定孔52caから螺設してレール64および中通り型枠26を型枠受部52に固定する。さらに、一対の中通り型枠26の上端同士は幅止め部材66によって固定する。これにより型枠セット10が組み上がる。施工条件によってはレール64を省略してもよい。
【0035】
図8は、補助配筋20bが上配筋20abの上に配置される場合の型枠支持部材11とその周辺の断面側面図である。中通り部16bは縦向きの場合と横向きの場合とがあり(図4参照)、中通り部16bに沿って設置される補助配筋20bも縦向き設置と横向き設置の場合がある。そのため、図2に示す例では補助配筋20bが下配筋20aaの上に配置されていたが、縦横の関係からは、図8に示すように補助配筋20bが上配筋20abの上に配置される場合がある。
【0036】
この場合には、スペーサ62を省略して上部構成体42を下部構成体40に組み付けるとよい。スペーサ62の高さは補助配筋20bの径と同じ程度であることから、結局、底壁52bまでのスラブ高さHが維持されることになる。つまり、補助配筋20bが下配筋20aaの上に配置される場合、および上配筋20abの上に配置される場合のいずれでも、高さ調整ねじ56は一定の螺合深さLの位置にしておけばスペーサ62の有無により対応が可能となる。
【0037】
また、基盤30には一部に深掘部70を設けることがある。上記のとおり耐震強度確保や凍上防止のためである。一般的な深掘部70は底部70aと、該底部70aの両側に形成される傾斜面のハンチ70bとからなる。深掘部70は中通り部16bの直下に設けられる場合がある。深掘部70には、ハンチ70bに沿って傾斜した補強筋74や中通り部16bに沿って延在する複数の補強筋74などが設けられる。また、この部分における立ち上がり配筋22の鉛直部22bは底部70aの近くまで延在しており、さらに傾斜した補強筋22cを介して水平部22aとつながっている。このように、深掘部70は基盤30における他の部分よりもかなり深く、しかも補強筋72,74などの障害物が多く存在する。また、底部70aは幅が狭い場合もあり得る。
【0038】
このような深掘部70が存在する場所では、従来技術にかかる型枠支持部材11は底部70aへの設置が難しく作業者の負担となり、しかも底部70aから中通り型枠26の底部までは距離があり、安定化のために丈夫な構造としてコスト高となる。これに対して、本実施の形態にかかる型枠支持部材11はスラブ配筋20の一部となる補助配筋20bに係合させることから深掘部70の有無に関係なく共用的に適用することができ、設置作業性に優れるとともに低コストである。なお、型枠支持部材11は、従来技術のようにスラブ配筋20の下方の基盤30にまで降ろして設置するという手間がないため、深掘部70が存在していない箇所においても設置作業性に優れている。
【0039】
図9は、スラブ配筋20が撓んだ状態における型枠支持部材11とその周辺の断面側面図である。スラブ配筋20は作業のために重量物(人や機械など)が乗ることがあり、その重量により図9に示すように一時的に下向きに撓むことがある。これにより、重量物の周辺では下部構成体40および補助配筋20bが主配筋20aとともに沈み込む。しかしながら、型枠支持部材11の上部構成体42は下部構成体40に対して上下方向に非拘束であって相対的に変位可能となっていることから、補助配筋20bとともに沈み込むのは下部構成体40だけであり、上部構成体42の高さは維持されている。このため中通り型枠26には無理な外力が加わることがなく、型形状が適正に維持される。高さ調整ねじ56はねじ孔48aから適度に長く突出していることから、下部構成体40が多少下方に変位しても該ねじ孔48aから抜けることはない。なお、重量物が除去されると下部構成体40は元の高さに復帰する。
【0040】
型枠セット10を用いたコンクリートの打設では、中通り型枠26がスラブ高さHに保持されていることから1回打ちが可能となっている。コンクリートの打設は2つの中通り型枠26の間から行われ、耐圧盤部14と立ち上がり部16とが一体的に打設されることから両者間にコールドジョイントなどが発生しない。
【0041】
コンクリートの打設により型枠支持部材11には揚力が作用する場合があるが、係合部44の下ヒレ部44cが補助配筋20bの下面に当接して浮き上がりが防止される。下ヒレ部44cは浮き上がり防止のために補助配筋20bに当接していれば足り、上ヒレ部44bより短く設定される。コンクリートの打設により型枠支持部材11には図2における左右方向の力が作用する場合があるが、一対の係合部44における上ヒレ部44bおよび下ヒレ部44cは、互いに離間する向きに突出していることから、左右いずれの方向の力が作用しても型枠支持部材11が補助配筋20bから抜けてしまうことがない。これらの作用は係合部44が補助配筋20bに対して、少なくとも上下方向および図2の左右方向について係合していることに基づく。なお、係合部44は補助配筋20bの延在方向については固定されていないため変位し得るが、この方向への下部構成体40の多少の変位は中通り型枠26の支持に影響がほぼない。ただし、条件によっては係合部44を補助配筋20bの延在方向についても移動不能な構造としてもよい。
【0042】
コンクリートの打設により中通り型枠26には揚力が作用する場合があるが、ビス68によって型枠支持部材11に固定されていることから浮き上がりが防止される。また、中通り型枠26に上向きに作用する揚力は、立ち上がり部16からスラブ側へコンクリートが流動する際に発生する局所的なものである、これに対して、型枠の重量(金具、補強材、アンカー等を含む)、打設時に第1梁部48、第2梁部54に堆積するコンクリ質量、および型枠内部に粘性付着したコンクリ質量が下向きに作用することになり、中通り型枠26は実質的に浮き上がることはない。ただし、施工条件などにより、通り型枠26の上面を押さえるような外部から延在するアーム部材を設けるなどの浮き上がり防止手段をさらに設けてもよい。
【0043】
コンクリートの打設により中通り型枠26には外向きの力が作用する場合があるが、一対の型枠受部52における外面壁52cは比較的長く設定されており、外向きの力を支持することができる。内面壁52aはずれ防止のために中通り型枠26に当接していれば足り、外面壁52cより短く設定される。内面壁52aが比較的短く設定されているため、型枠受部52への中通り型枠26の配置が容易である。
【0044】
図1に示すように、中通り型枠26は端板36で仕切られて不連続部80を形成し、該不連続部80を介して複数設けられる場合がある。この不連続部80は人通孔18(図4参照)に対応する。2本の補助配筋20bは平面視で不連続部80を横断して配設されている。したがって、立ち上がり部16がない人通孔18の強度を補強することができる。
【0045】
上記の型枠支持部材11は一対の補助配筋20bに係合させるものとしたが、条件によっては一対の主配筋20aに係合させてもよいし、1本の主配筋20aと1本の補助配筋20bに係合させてもよい。型枠支持部材11で支持する中通り型枠26は、施工条件によりコンクリート打設後に脱型してもよいし、そのまま残置してもよい。型枠支持部材11で支持する一対の中通り型枠26は必ずしも同じものでなくてよく、例えば板厚の異なるものであってもよい。この場合、両端の型枠受部52はそれぞれ支持する中通り型枠26の板厚に対応した形状にするとよい。型枠支持部材11は一対の中通り型枠26を支持するものとしたが、例えば内面型枠支持部材34の代わりに用いて1枚の内面側型枠24bを支持するようにしてもよい。この場合、型枠受部52は第2梁部54におけるいずれかの位置に1つだけあればよい。型枠支持部材11には高さ調整ねじ56が2本設けられていることから下部構成体40に対する上部構成体42の回り止め作用があるとともに水平調整が容易となっているが、回り止め手段および水平設定手段が別途設けているなどの場合には高さ調整ねじ56は1本でもよい。
【0046】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0047】
本発明にかかる型枠支持部材は、べた基礎における立ち上がり部を構成する型枠を保持する型枠支持部材であって、前記べた基礎における耐圧盤部内に配設されるスラブ配筋のうち平行する2本に対してそれぞれ係合する一対の係合部と、一対の前記係合部をつなぐ第1梁部と、前記第1梁部に支持され、前記型枠の下面を支持する型枠受部と、を有することを特徴とする。
【0048】
このような型枠支持部材はスラブ配筋の一部に係合させることから深掘部の有無に関係なく共用的に適用することができ、設置作業性に優れるとともに低コストである。
【0049】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記係合部および前記第1梁部を備える下部構成体と、前記型枠受部、下方に突出して前記第1梁部に形成されているねじ孔に挿通される高さ調整ねじ、および該高さ調整ねじに螺合する調整ナットを備える上部構成体と、を有し、前記上部構成体は、前記調整ナットの螺合位置により前記第1梁部に対する高さの位置決めがなされ、かつ、前記高さ調整ねじを前記ねじ孔から抜くことにより前記下部構成体から分離可能となっていてもよい。このように下部構成体と上部構成体とが分離可能になっていると、下部構成体をスラブ配筋に係合させる際に上部構成体が立ち上がり配筋などに干渉することがない。
【0050】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記上部構成体は、前記下部構成体から上方に変位するのに非拘束となっていてもよい。これにより、重量物が乗ることによってスラブ配筋が一時的に沈みこむことがあっても上部構成体および型枠の高さは維持される。
【0051】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記調整ナットと前記第1梁部との間には前記スラブ配筋の径に応じた高さのスペーサが配設されていてもよい。
【0052】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記係合部は、前記スラブ配筋の側方に配置される側壁部、前記側壁部から突出して前記スラブ配筋の上方に配置される上ヒレ部、および前記側壁部から突出して前記スラブ配筋の下方に配置される下ヒレ部を備え、一対の前記係合部における前記上ヒレ部および前記下ヒレ部は、互いに離間する向きに突出していてもよい。これにより、係合部による左右方向の係合がなされ、コンクリート打設時に左右いずれの方向から力を受けても型枠支持部材が移動してしまうことがない。
【0053】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記上ヒレ部は前記下ヒレ部よりも長く突出していてもよい。上ヒレ部を長く設定することにより、型枠支持部材が多少傾いても係合状態が維持されて型枠支持部材が脱落することがない。
【0054】
本発明にかかる型枠支持部材は、前記上部構成体は第2梁部を有し、前記高さ調整ねじは、前記第2梁部における離間した位置に2本設けられて前記第2梁部を前記第1梁部に対して支持し、前記型枠受部は、一対が前記第2梁部の両端近傍に設けられていてもよい。このような2本の高さ調整ねじによれば上部構成体を水平に調整しやすく、また下部構成体に対する上部構成体の回り止めとなる。
【0055】
本発明にかかる型枠セットは、2本の前記スラブ配筋および前記型枠を含み、さらに、上記の型枠支持部材が2本の前記スラブ配筋に対して複数設けられていることを特徴とする。
【0056】
本発明にかかる型枠セットは、前記スラブ配筋は、升目状で縦横に配設される主配筋と、前記主配筋に対して補助的に付加して設けられる補助配筋とを有し、前記型枠支持部材が係合する2本は前記補助配筋であってもよい。このような補助配筋によれば型枠支持部材の設置個所の自由度が高まる。
【0057】
本発明にかかる型枠セットは、前記型枠は不連続部を介して複数設けられており、2本の前記補助配筋は平面視で前記不連続部を横断して配設されていてもよい。これにより、立ち上がり部がない人通孔の強度を補強することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 型枠セット、11 型枠支持部材、12 基礎、14 耐圧盤部、16 立ち上がり部、16b 中通り部、18 人通孔、20 スラブ配筋、20a 主配筋、20b 補助配筋、22 立ち上がり配筋、26 中通り型枠、30 基盤、40 下部構成体、42 上部構成体、44 係合部、44b 上ヒレ部、44c 下ヒレ部、46 嵩上げ片、48 第1梁部、48a ねじ孔、52 型枠受部、54 第2梁部、58 固定ナット、60 調整ナット、62 スペーサ、64 レール、68 ビス、80 不連続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9