(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123201
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】Mg合金の絞りしごき加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/28 20060101AFI20230829BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230829BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B21D22/28 B
B21D22/28 A
B21D22/20 H
B21D24/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027132
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥出 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 拓
(72)【発明者】
【氏名】中村 勲
(72)【発明者】
【氏名】村岡 剛
(72)【発明者】
【氏名】片桐 嵩
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA08
4E137AA10
4E137AA23
4E137BA06
4E137BB01
4E137BC09
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137DA02
4E137DA10
4E137DA11
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA22
4E137EA26
4E137FA02
4E137FA22
4E137FA23
4E137GA02
4E137GA16
4E137HA06
4E137HA07
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】低温でMg合金を円筒状に加工することができるMg合金の絞りしごき加工方法を提供する。
【解決手段】ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法であって、温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによってMg合金を絞らず、かつ、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を押圧する押圧工程と、温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、パンチによってMg合金を円筒状に絞る絞り工程と、を含み、絞り工程において、加工前のMg合金の厚さt〔mm〕に対する、パンチとダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下であるMg合金の絞りしごき加工方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法であって、
温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによって前記Mg合金を絞らず、かつ、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を押圧する押圧工程と、
温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダと前記ダイとの間に配置した状態で、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、前記パンチによって前記Mg合金を円筒状に絞る絞り工程と、
を含み、
前記絞り工程において、加工前の前記Mg合金の厚さt〔mm〕に対する、前記パンチと前記ダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下であるMg合金の絞りしごき加工方法。
【請求項2】
前記押圧工程と、前記絞り工程と、を交互に複数回含み、
前記複数回の前記押圧工程の中で、少なくとも1回前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力を変更する請求項1に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【請求項3】
前記複数回の前記押圧工程の中で、前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力を2回目以降の前記押圧工程で変更する請求項2に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【請求項4】
前記変更した後の前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力が、前記変更する前の前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力と比較して、高い請求項2又は請求項3に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【請求項5】
前記押圧工程において、前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力が、下記式1を満たす請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【数1】
式1中、BHFは前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力[N/mm
2]であり、P
0は下記式2で表され、Aは前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に圧力を与える面積[mm
2]である。
【数2】
式2中、D
0は加工前の前記Mg合金の直径[mm]であり、d
1は前記パンチの直径[mm]であり、tは加工前の前記Mg合金の厚さ[mm]であり、sは加工前の前記Mg合金の引張強さ[N/mm
2]である。
【請求項6】
前記厚さt〔mm〕が0.50mm以上であり、前記クリアランス比c/tが0.75~0.90である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Mg合金の絞りしごき加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の加工方法には、従来から種々の加工方法が提案されている。
例えば、プレス加工が挙げられる。プレス加工とは、ダイを含む一対の工具の間に金属等の材料を入れて圧力を加えることで、材料をダイに対応した形状に加工する加工方法である。
プレス加工の一種として、絞り加工が知られている。絞り加工とは、金属板成形法の一種で一枚の金属板から円筒、円筒、円錐等様々な形状の底付き容器を成形する加工法である。絞り加工を用いることで、つなぎ目の無い容器形状の金属を成形することができる。
【0003】
絞り加工法に用いられる金属材料としては、例えば、チタン、チタン合金、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅、マグネシウム等が挙げられる。
【0004】
例えば特許文献1には、カルシウムを含有するマグネシウム合金のプレス材であって、前記マグネシウム合金をプレス金型によって曲げ加工した曲げ部を備え、前記曲げ部は、内径R1と外径R2との比R1/R2が0<R1/R2<6であり、外径R2と板厚tとの比R2/tが0.2≦R2/t≦12.0であり、板厚tが1mm≦t≦6mmであること、を特徴とするマグネシウム合金のプレス材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、金属材料に対し、高温(例えば、700℃~870℃)の範囲にて加熱することで延性を付与してから加工する方法は存在していた。しかし、この方法ではダイ全体を高温まで加熱するために大がかりな加熱装置を用いていると考えられ、コストが高くなり、さらに作業性が悪化しやすい。また、金属材料のみならず、装置までもが高温に曝される結果、装置の寿命を縮めやすいと考えられる。
また、金属材料の中には高温に加熱されることが好ましくない金属材料も存在する。このような金属材料は、比較的低温の範囲(例えば、400℃以下)で加工されることが好ましい。
しかし、例えば、低温の範囲では延性が低い金属材料(例えばマグネシウム合金(本開示において、単に「Mg合金」ともいう))は、低温で加工することが非常に困難であった。
一方、Mg合金は非常に軽量であり、加工対象の金属材料としては、大変有用性が高く、Mg合金の比較的低温の範囲での加工方法が求められていた。
また、Mg合金の加工方法としては、比較的自由度の高い加工方法であることが好ましい。例えば、得られるMg合金加工物において曲線形状が実現できることが好ましく、得られるMg合金加工物を円筒状に加工することも好ましい。
上記特許文献1は、Mg合金の加工方法として改善の余地がある。
以上より、金属材料(特に、低温の範囲で延性が低い金属材料)を低温(例えば、400℃未満)にて加工できる技術が求められている。
【0007】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、低温でMg合金を円筒状に加工することができるMg合金の絞りしごき加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法であって、温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによって前記Mg合金を絞らず、かつ、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を押圧する押圧工程と、温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダと前記ダイとの間に配置した状態で、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、前記パンチによって前記Mg合金を円筒状に絞る絞り工程と、を含み、前記絞り工程において、加工前の前記Mg合金の厚さt〔mm〕に対する、前記パンチと前記ダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下であるMg合金の絞りしごき加工方法。
<2> 前記押圧工程と、前記絞り工程と、を交互に複数回含み、前記複数回の前記押圧工程の中で、少なくとも1回前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力を変更する<1>に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
<3> 前記複数回の前記押圧工程の中で、前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力を2回目以降の前記押圧工程で変更する<2>に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
<4> 前記変更した後の前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力が、前記変更する前の前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力と比較して、高い<2>又は<3>に記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
<5> 前記押圧工程において、前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力が、下記式1を満たす<1>~<4>のいずれか1つに記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【0009】
【0010】
式1中、BHFは前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力であり、P0は下記式2で表され、Aは前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に圧力を与える面積[mm2]である。
【0011】
【0012】
式2中、D0は加工前の前記Mg合金の直径[mm]であり、d1は前記パンチの直径[mm]であり、tは加工前の前記Mg合金の厚さ[mm]であり、sは加工前の前記Mg合金の引張強さ[N/mm2]である。
<6> 前記厚さt〔mm〕が0.50mm以上であり、前記クリアランス比c/tが0.75~0.90である<1>~<5>のいずれか1つに記載のMg合金の絞りしごき加工方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示の実施形態によれば、低温でMg合金を円筒状に加工することができるMg合金の絞りしごき加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】クリアランス比が1.0以上である状態にてMg合金を円筒状に絞る場合を説明するための断面図である。
【
図2】クリアランス比が1.0未満である状態にてMg合金を円筒状に絞る場合を説明するための断面図である。
【
図3】本開示における押圧工程を説明するためのダイ、Mg合金、パンチ及びブランクホルダの断面図である。
【
図4】本開示における絞り工程を説明するためのダイ、Mg合金、パンチ及びブランクホルダの断面図である。
【
図5】本開示におけるダイの一例を示す断面図である。
【
図6】本開示におけるブランクホルダの一例を示す断面図である。
【
図7】本開示におけるパンチの一例を示す断面図である。
【
図8】本開示におけるMg合金加工物の一例を示す断面図である。
【
図9】本開示の絞りしごき加工方法を用いてMg合金を加工した場合の時間、BHF及びパンチストロークの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1~
図9を参照して、本開示の絞り加工方法の実施形態について具体的に説明する。但し、本開示においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0016】
≪絞りしごき加工方法≫
本開示のMg合金の絞りしごき加工方法(本開示において、単に「本開示の絞りしごき加工方法」ともいう)は、ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法であって、
温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによってMg合金を絞らず、かつ、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を押圧する押圧工程と、
温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、パンチによってMg合金を円筒状に絞る絞り工程と、
を含み、
絞り工程において、加工前のMg合金の厚さt〔mm〕に対する、パンチとダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下である。
【0017】
なお、本開示においてクリアランスとは、絞り工程における、ダイの表面とパンチの表面との間の最短距離を指す。
【0018】
上述の通り、従来、低温の範囲では延性が低いMg合金は、低温で加工することが非常に困難であった。
しかし、Mg合金に対して高温(例えば、500℃以上)を付与するとしても、別途Mg合金、ダイ等を加熱するための装置及び工程が必要となり、製造コストが増大する点が懸念される。
【0019】
本開示の絞りしごき加工方法は、上述の構成を含むことで、低温の範囲で延性が低いMg合金を、高温に加熱することなく加工することができる。
上記の効果が得られる理由は以下の通りであると考えられる。
クリアランス比が1.0以下の状態にて絞り加工を行うことで、上記絞り工程において、ダイとパンチとの間において厚さが小さくなるようにMg合金を円筒状に絞る、いわゆる絞りしごき加工を行うことができる。
クリアランス比が1.0以下の状態にて上記絞りしごき加工を行う場合、Mg合金を絞る際に、Mg合金の一部はダイとパンチとの間に到達せず、曲げ部に留まることとなる。そして、絞りしごき加工の進展に伴ってMg合金の流入量を一定の範囲内に制御することで、破断を生じやすい曲げ部の厚さを一定の範囲内とすることができる。
以上の点と上述のその他の構成とを含むことで、本開示の絞りしごき加工方法は、低温でも加工を進行させ、かつ、破断等のダメージを抑制することができる。
【0020】
本開示の絞りしごき加工方法は、押圧工程と、絞り工程と、を交互に複数回含むことが好ましい。つまり、本開示の絞りしごき加工方法は、押圧工程と絞り工程とを交互に繰り返すことにより、Mg合金を円筒に加工することが好ましい。
これによって、本開示の絞りしごき加工方法を、しわが発生しないように、また、壁厚が減少しないように緩やかに進行させることができる。その結果、得られるMg合金加工物のしわの発生を抑制しつつ、壁厚の均一性の高いMg合金加工物を得ることができる。
【0021】
本開示の絞りしごき加工方法は、低温(例えば、300℃未満)でMg合金を絞りしごき加工することが可能であることから、Mg合金を高温に加熱する必要はない。そのため、一般的に用いられる簡易な装置を用いて、Mg合金を絞り成形することが可能となる。これによって、製造コストの低減、作業の簡便性を向上させることができる。
また、本開示の絞りしごき加工方法は、得られるMg合金加工物の壁厚が部分的に減少することを抑制できるため、壁厚の均一性に優れたMg合金加工物を製造することができる。
【0022】
<押圧工程>
本開示における押圧工程は、温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによってMg合金を絞らず、かつ、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を押圧する工程である。
これによって、得られるMg合金加工物にしわが発生することを抑制することができる。
【0023】
~押圧工程の一実施形態~
本開示における押圧工程の一実施形態について、
図3を参照して説明する。
図3は、本開示における押圧工程を説明するためのダイ、Mg合金、パンチ及びブランクホルダの断面図である。
本開示における押圧工程の一実施形態としては、
図3に示すように、Mg合金11をブランクホルダ7とダイ5との間に配置した状態で、ブランクホルダ7を用いてMg合金11の例えばスクラップ部13をブランクホルダ7からダイ5へ向かう方向に押圧する。この際、パンチ9によってMg合金11をダイ5の孔5C内に押し上げて孔5Cに絞ることは行わない。
【0024】
本開示の絞りしごき加工方法は、押圧工程と、絞り工程と、を交互に複数回含み、複数回の押圧工程の中で、少なくとも1回ブランクホルダがMg合金の周辺部に与える圧力(BHF:Blank Holding Force)を変更することが好ましい。
これによって、絞りしごき加工中に、ダイに材料であるMg合金が流入する前の段階でMg合金の板厚を制御することができる。結果として、ダイ5での絞りしごき加工と合わせて、2種類の作業を含む成形を1つのダイで行うことができる。
【0025】
本開示の絞りしごき加工方法は、Mg合金のフランジ部の肉厚を積極的に制御する観点から、複数回の押圧工程の中で、BHFを2回目以降の押圧工程で変更することが好ましい。
【0026】
本開示の絞りしごき加工方法は、変更した後のブランクホルダがMg合金の周辺部に与える圧力(BHF)は、前記変更する前の前記ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に与える圧力(BHF)と比較して、高いことが好ましい。
本開示の絞りしごき加工方法は、複数回の押圧工程の中で、BHFを高くすることが好ましい。つまり、複数回の押圧工程の中で、少なくとも1回BHFを高くすることが好ましい。
【0027】
BHFは、下記式1を満たすことが好ましい。
【0028】
【0029】
式1中、BHFはブランクホルダがMg合金の周辺部に与える圧力であり、P0は下記式2で表され、Aはブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に圧力を与える面積[mm2]である。
【0030】
【0031】
式2中、D0は加工前のMg合金の直径[mm]であり、d1はパンチの直径[mm]であり、tは加工前のMg合金の厚さ[mm]であり、sは加工前のMg合金の引張強さ[N/mm2]である。
【0032】
式1は、BHFの下限値を表す。
複数回の押圧工程の中でBHFを変更する場合及び変更しない場合のいずれであっても、BHFは式1を満たすことが好ましい。
例えば、複数回の押圧工程の中でBHFを高くする場合、式1を満たす範囲内でBHFを高めることが好ましい。
【0033】
式1中のP0×Aを最低BHFとも称する。
式1は、BHFが最低BHFの15倍以上であることを意味する。
【0034】
(Mg合金)
本開示におけるMg合金は、本開示の絞りしごき加工方法によって得られるMg合金加工物の材料である。
本開示の絞りしごき加工方法によれば、低温の範囲で延性が低いMg合金を加工する場合であっても、Mg合金を高温に加熱することなく加工することができる。
【0035】
本開示におけるMg合金は、上記の中でも、低温の範囲で延性が低いMg合金であるチタン又はチタン合金であることが好ましい。
低温の範囲で延性が低いMg合金を低温の範囲で加工した場合に破断、しわ等の不具合が発生しやすく、良好な加工が困難である。しかし、本開示の絞りしごき加工方法によれば、低温の範囲で延性が低いMg合金を、所望の形状に良好に加工することが可能である。
【0036】
Mg合金に含まれる、マグネシウム(本開示においてMgともいう)以外の金属又は非金属としては、Al、Zn、Ca等が挙げられる。
本開示におけるMg合金としては、Al及びZnを含むAZ合金が好ましく、AZ31合金がより好ましい。
【0037】
Mg合金の加工前の厚さtは、加工後に得られる加工物の強度の観点から、0.30mm以上であることが好ましく、0.35mm以上であることがより好ましく、0.50mm以上であることがさらに好ましい。
また、Mg合金の加工前の厚さtは、加工後に得られる加工物のしわを抑制する観点から、1.5mm以下であることが好ましく、1.2mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本開示におけるMg合金の形状としては、特に制限はない。例えば、Mg合金の形状は、円板形状であってもよい。
【0039】
Mg合金が円板形状である場合、Mg合金の直径は、50mm~80mmが好ましい。
上記外接円の直径が、50mm以上であることで、絞りしごき加工中、Mg合金の流入量を良好に制御することができる。
上記の観点から、上記外接円の直径は55mm以上がより好ましく、60mm以上がさらに好ましい。
また、上記外接円の直径が80mm以下であることで、Mg合金を破断させずに、Mg合金をしごき面へ円滑に流入させることができる。
上記の観点から、上記外接円の直径は75mm以下がより好ましく、70mm以下がさらに好ましく、65mm以下が特に好ましい。
【0040】
(潤滑剤)
Mg合金は、表面に潤滑剤を含むことが好ましい。
これによって、ダイ及びパンチとの摩擦を軽減させることでMg合金を保護することができ、ダイ及びパンチへのMg合金の凝着を抑制することができる。
具体的には、Mg合金の表面に潤滑剤を含むことで、絞り工程においてダイ及びパンチを用いてMg合金を絞る際に、ダイ及びパンチの少なくとも一方とMg合金との間の摺動を抑制することができる。従って、Mg合金は、絞り工程を行った場合にダイ及びパンチの少なくとも一方と接触する部分に潤滑剤を含むことが好ましい。
【0041】
潤滑剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)等が挙げられる。
上記の中でも、摩擦を軽減させる観点、及び凝着を抑制する観点から、潤滑剤は、固形の潤滑剤が好ましく、厚み10μm~200μmのPTFEがより好ましく、厚み50μm~100μmのPTFEがさらに好ましい。
【0042】
Mg合金は、表面に酸化被膜を施したものであってもよい。これによって、Mg合金を保護することができ、ダイへのMg合金の凝着を抑制することができる。
Mg合金に酸化被膜を施す方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、大気酸化、陽極酸化等の方法が挙げられる。
大気酸化とは、空気中の酸素により、金属表面にアナターゼ型の酸化被膜を形成する酸化被膜形成方法である。
陽極酸化とは、金属を陽極として通電し、金属表面にルチル型の酸化被膜を形成する酸化被膜形成方法である。
【0043】
(ダイ)
本開示におけるダイについて、
図5を参照して説明する。
図5は、本開示におけるダイの一例を示す断面図である。
ダイ5は、
図5に示すように、中央に略円筒形状の孔5C及び側壁5Eを有し、ダイ5と接するようにしてMg合金11が配置される側(下面5B側)における孔5Cの開口端に、屈曲部5Dを有することができる。ダイ5と接するように配置されたMg合金11を、パンチ9を用いて、下面5Bから上面5Aに向かう方向に、上記孔5Cに沿って絞ることで、所望の円筒形状のMg合金加工物に加工することができる。
本開示のMg合金の絞りしごき加工方法は、ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法である。そのため、本開示におけるダイ5の孔5Cの形状は、円筒形状であることが好ましい。
【0044】
ダイ5の高さ5h、上面側における孔5Cの内径5r及び外径5Rは、目的とするMg合金加工物の形状等によって適宜調整することができる。
ダイ5の材質としては、特に制限はないが、例えば、SKD61、SKD11等が挙げられる。
【0045】
(ブランクホルダ)
本工程において、ブランクホルダ7がMg合金11の周辺部に与える圧力は、Mg合金11の種類によって適宜調整できる。
本工程におけるBHFとしては、例えば、2kN~50kNであってもよく、3kN~10kNであることが好ましく、4kN~7kNであることがより好ましい。
【0046】
本開示におけるブランクホルダについて、
図6を参照して説明する。
図6は、本開示におけるブランクホルダの一例を示す断面図である。
ブランクホルダ7は、
図6に示すように、例えば円形状である孔7Aを有し、
図3に示すように、ダイ5との間にMg合金11を配置する際に、Mg合金11を支持する。また、Mg合金11のダイ5と接する面とは反対の面の周辺部(フランジ部)に対し、圧力を加える。これによって、Mg合金加工物のしわの発生を抑制することができる。
図6に示すように、ブランクホルダ7は、パンチが通過するための円形状である孔7Aを有するため、後述の絞り工程を行う際、パンチ9が上記孔7Aを通過し、Mg合金11を押圧することで円筒状に絞り加工を行うことができる。
【0047】
ブランクホルダ7は、
図6に示すように、中央に円形状の孔7Aを有する円盤形とすることができる。
ブランクホルダ7の外径7Rは、ダイ5の外径5Rと同じ外径とすることが好ましい。
ブランクホルダ7の内径7rは、孔7Aを通過するパンチ9の通過を阻害しない内径が好ましい。
ブランクホルダ7の厚み7hは、特に制限はないが、例えば、1cm~2cmとすることができる。
ブランクホルダ7の材質は、特に制限はないが、例えば、SKD61、SKD11等が挙げられる。
【0048】
<絞り工程>
本開示における絞り工程は、温度が0℃~300℃であるMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、パンチによってMg合金を円筒状に絞る工程である。
本工程によって、破断の原因である引張張力に起因するせん断変形を抑制し、かつ、Mg合金を所望の円筒形状へと変形させることができる。
【0049】
絞り工程において、上記ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を押圧しない場合、ブランク材であるMg合金の周端部側が、ブランクホルダとダイとの間に挟持された状態であってもよく、ブランク材であるMg合金の周端部側が、ブランクホルダ及びダイの少なくとも一方と接触せずにブランクホルダとダイとの間に配置された状態であってもよい。
【0050】
~絞り工程の一実施形態~
本開示における絞り工程の一実施形態について、
図4を参照して説明する。
図4は、本開示における絞り工程を説明するためのダイ、Mg合金、パンチ及びブランクホルダの断面図である。
本開示における絞り工程の一実施形態としては、
図4に示すように、Mg合金11をブランクホルダ7とダイ5との間に配置した状態で、パンチ9を動作させることで、パンチ9がブランクホルダ7の孔7Aを通過し、例えばMg合金11の内底面11D(
図8参照)を押圧し、チタン合金をダイ5の孔5C内に押し上げてMg合金11を絞ることができる。この際、ブランクホルダ7を用いてチタン合金11を2kN以下で押圧するか、又は押圧はしない。
【0051】
ブランクホルダを用いてMg合金を押圧する方法としては、例えば、ブランクホルダを可動させるサーボモーターを設け、サーボモーターによって、ブランクホルダをダイに向かう方向へ可動させていき、ブランクホルダとダイとの間に配置したMg合金を押圧することが考えられる。
【0052】
本工程は、Mg合金を、ブランクホルダを用いて2kN以下で押圧し又は押圧せずに行う。これによって、得られるMg合金加工物の壁厚を均一にすることができる。上記の中でも、Mg合金加工物の側部及び肩部の壁厚を良好に均一にすることができる。
特に肩部は、絞り加工中、パンチの押圧面の端部が接触する部分(
図8の肩部113)であるために壁厚の減少が顕著であるところ、本開示の絞り加工方法であれば、壁厚(特に肩部)の減少を良好に抑制することができる。
壁厚減少を良好に抑制する観点から、Mg合金を2kN以下で押圧し又は押圧しないことが好ましく、押圧しないことがより好ましい。
【0053】
(パンチ)
本開示におけるパンチについて、
図7を参照して説明する。
図7は、本開示におけるパンチの一例を示す断面図である。
パンチ9は、
図7に示すように、例えば略円筒形状とすることができ、胴体部9Bを有し、胴体部9BにMg合金11を押圧するための円形状の押圧面9Aを備えることができる。パンチ9は、
図4に示す通り、Mg合金11のダイ5と接する面とは反対の面の一部分を押圧してMg合金11をダイ5の孔5Cに絞るためのものである。
【0054】
パンチ9の材質は、特に制限はないが、例えば、SKD61、SKD11等が挙げられる。
【0055】
本開示のMg合金の絞りしごき加工方法は、ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法である。そのため、パンチ9の形状は、円筒形状であることが好ましい。
【0056】
パンチ9がMg合金11を押圧する際の荷重(パンチロード)は、例えば
図9に示すように、パンチ9のストローク(パンチストローク)の長さによって適宜調整することができる。チタン合金11の成形が進行しパンチストロークが長くなるにしたがって、パンチロードを増加させることができる。これによって、所望の形状にチタン合金11を成形することができる。
【0057】
パンチ9がMg合金11を押圧する際の荷重の最大値(最大パンチロード)は、Mg合金11の種類によって適宜調整できる。例えば、最大パンチロードは2kN~200kNとすることができる。
【0058】
パンチ9がMg合金11を押圧する際の速度(パンチスピード)は、Mg合金11の種類によって適宜調整できる。例えば、パンチスピードは5mm/分~500mm/分とすることができる。
なお、本開示においてパンチスピードとは、パンチにより、Mg合金がダイの孔に押し込まれる速度を指す。
【0059】
本開示のMg合金の絞りしごき加工方法は、上記押圧工程と上記絞り工程とを交互に複数回含むことが好ましい。
この点について
図9を参照して説明する。
図9は、本開示の絞りしごき加工方法を用いてMg合金を加工した場合の時間、BHF及びパンチストロークの関係を示すグラフである。
【0060】
図9に示す通り、まず、押圧工程及び絞り工程を交互に繰り返していくことで、パンチストロークが増加していく。この際、最大パンチロード付近におけるパンチストロークは例えば9mm付近であってもよい。また、押圧工程において、BHFは20kN付近とし、パンチストロークの値に関わらずほぼ一定の値とする。
なお、パンチストロークとは、パンチによってMg合金を押圧する際の、パンチがMg合金に接触し、かつ、BHFが付加されていない状態から材料が破断に至る、又は、絞り加工が終了する位置までのパンチの移動距離をいう。
最大パンチロード付近までパンチストロークが増加した後は、Mg合金を円筒形状に加工するために、パンチロードを調整することが好ましい。この際、パンチロードを徐々に低下させてもよく維持してもよい。最大パンチロード付近までパンチストロークが増加した後も、上記の調整を行う間にパンチストロークは増加し得る。
【0061】
本開示の絞りしごき加工方法は、複数回の押圧工程の中でBHFを変更することが好ましい。
図9に示す通り、BHFを変更したタイミングにおけるBHFは、上記タイミング前のBHFと比較して、大きな値を示す。そして、上記タイミング以降は、変更後のBHFで押圧工程を行う。
【0062】
<クリアランス比>
本開示の絞りしごき加工方法において、加工前のMg合金の厚さt〔mm〕に対する、パンチとダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下である。
これによって、上述の通り、絞りしごき加工を行うことができ、Mg合金を絞る際に、Mg合金の一部はダイとパンチとの間に到達せず、曲げ部に留まることとなる。
そして、絞りしごき加工された部分における絞りしごき加工された量と、ブランクホルダ及びダイからなるMg合金が流入する部分におけるMg合金の流入量と、を制御することで、曲げ部の厚さを制御できる。その結果、得られるMg合金加工物において破断を発生しやすい曲げ部の厚さを大きくすることができる。
【0063】
上記について、
図1及び
図2を用いて詳細に説明する。
図1は、クリアランス比が1.0以上である状態にてMg合金を円筒状に絞る場合を説明するための断面図である。
図2は、クリアランス比が1.0未満である状態にてMg合金を円筒状に絞る場合を説明するための断面図である。
まず、
図1に示す通り、クリアランス比が1.0超である場合には、クリアランス10の長さは、Mg合金11の加工前の厚さtを超える。クリアランス比が1.0超の状態にて絞りしごき加工を行う場合、ダイ5を用いてMg合金11を絞る際に、Mg合金11はダイ5とパンチ9との間を厚さが減少することなく通過できるため、加工中にMg合金11の一部が曲げ部8に留まりにくい。
一方で、
図2に示す通り、クリアランス比が1.0以下である場合には、クリアランス10の長さは、Mg合金11の加工前の厚さt以下である。クリアランス比が1.0以下の状態にて絞りしごき加工を行う場合、ダイ5を用いてMg合金11を絞る際に、Mg合金11における絞りしごき加工された部分の全てがダイ5とパンチ9との間に到達することを抑制することができる。そしてMg合金11における絞りしごき加工された部分の内、ダイ5とパンチ9との間に到達することができなかったMg合金11の一部は、曲げ部に留まることとなり、絞りしごき加工された部分における絞りしごき加工された量と、ブランクホルダ及びダイからなるMg合金が流入する部分におけるMg合金の流入量と、を制御することで、曲げ部の厚さを制御できる。その結果、得られるMg合金加工物において破断を発生しやすい曲げ部の厚さを大きくすることができる。
以上により、曲げ部の厚さを大きくすることにより、得られるMg合金加工物における破断の発生を抑制することができる。
【0064】
上記クリアランス比は、曲げ部の厚さを制御することで破断等の不具合なくMg合金を加工する観点から、1.0以下であり、0.90以下であることが好ましい。
また、上記クリアランス比は、破断を良好に抑制する観点、及び得られるMg合金加工物の強度を得る観点から、0.75以上であることがより好ましく、0.80以上であることがより好ましい。
【0065】
クリアランス比は、厚さtの値によって調整してもよい。
例えば、本開示の絞りしごき加工方法は、厚さtが0.50mm以上であり、クリアランス比が0.75~0.90であってもよい。
【0066】
(絞り比)
Mg合金11が円板形状であり、かつ、パンチ9が円筒形状である場合に、パンチ9の直径(d1)に対するMg合金11の直径(D0)の比(絞り比:D0/d1)は1.5以上であることが好ましい。絞り比が1.5以上であることで、一般産業上の実用性を得られやすい。D0の値が大きい程、即ち、絞り比が大きい程、1回の絞りでMg合金加工物に破断を起こしやすく、絞り比は素材の絞り性の指標となり得る。
上記同様の観点から、上記絞り比が1.7以上であることがより好ましく、1.8以上であることが更に好ましい。
【0067】
本工程におけるパンチロードは、パンチストロークの長さによって適宜調整できる。例えば、パンチロードは5kN~100kNとすることができる。
【0068】
本工程におけるパンチスピードは、チタン合金の種類によって適宜調整することができるが、例えば10mm/分~900mm/分とすることができる。
加工性の観点から、20mm/分~700mm/分であることが好ましく、30mm/分~300mm/分であることがより好ましい。
【0069】
(温度調整工程)
本開示の絞りしごき加工方法は、広い温度範囲にてMg合金を加工することが可能であるが、押圧工程及び絞り工程の前に、Mg合金の温度を0℃~300℃に調整する温度調整工程をさらに含んでいてもよい。
Mg合金の温度を0℃未満とする作業を行う場合、コストが増大すると考えられるところ、上記Mg合金の温度を0℃以上に調整することで、コストの増大を抑制することができる。
上記の観点から、上記Mg合金の温度は15℃以上が好ましい。
また、押圧工程及び絞り工程の前に、Mg合金の温度を300℃以下に調整することで、Mg合金とダイとの焼付きによる摺動性低下を抑制できる。また、Mg合金及びダイ等の熱による損傷を抑制することができる。さらに、例えばPTFE等の固体潤滑剤を用いる場合に、上記固体潤滑剤の熱による損傷を抑制することができる。
上記の観点から、上記Mg合金の温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
【0070】
温度調整工程における温度調整の方法としては、特に制限はなく、例えば、ヒーター、炉内加熱等を用いた方法が挙げられる。
なお、室温(例えば25℃)であれば温度調整を行う必要はなく、温度調整を行わない場合においても、本開示の絞りしごき加工方法であれば、Mg合金を破断等の不具合なく加工することが可能である。
【実施例0071】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0072】
以下に記載の絞りしごき加工方法により、Mg合金に対して絞りしごき加工を行った。
なお、本実施例における、ダイ、パンチ、Mg合金、絞り比、クリアランスc及びクリアランス比は以下の通りである。
【0073】
使用したダイの外形は、水平な面にダイを配置した場合、外径140mm×高さ18mmの円筒形状であり、孔の内径は、38.0mmであった。
使用したブランクホルダの外形は、外径140mm×高さ18mmの円筒形状であり、孔の内径は、40.0mmであった。
【0074】
使用したパンチの外形は、円形の押圧面の直径(d1)が33.0mmであり、胴体部の長さが130mmの円柱形状であった。
【0075】
使用したMg合金は、円板形状のAZ31合金である。上記円板形状の円形の面における直径(D0)及び加工前の厚さtは表1に記載の通りである。
また、パンチの円の直径(d1)に対するMg合金の円の直径(D0)の比(絞り比:D0/d1)は、表1に記載の通りである。
加工前のMg合金の直径D0は、60.0mmである。
加工前のMg合金の引張強さsは、250×106N/mmである。
【0076】
上記パンチ及びダイによって得られるクリアランスcは0.4mmであった。また、各実施例又は比較例におけるクリアランス比c/tについては表1に記載した。
【0077】
本実施例において、ブランクホルダが前記Mg合金の周辺部に圧力を与える面積Aは、1972mm2である。
【0078】
(実施例1)
-Mg合金の配置-
Mg合金をブランクホルダ上に配置し、ブランクホルダをサーボモーターにより駆動させることでダイに向けて接近移動させ、Mg合金をダイとブランクホルダとの間で挟持されるように配置した。なお、Mg合金の温度は表1に記載した。
【0079】
-押圧工程-
図3に示すように、上記でブランクホルダとダイとの間に配置したMg合金を、ブランクホルダを用いて、前記Mg合金のスクラップ部をブランクホルダからダイへ向かう方向に、BHFとして表1に記載の力で押圧した。この際、パンチによってMg合金をダイの孔に絞ることは行わなかった。
【0080】
-絞り工程-
図4に示すように、押圧工程後のMg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチを動作させることで、パンチがブランクホルダの孔を通過してMg合金の内底面を押圧し、Mg合金をダイの孔内に押し上げて孔に絞った。この際、ブランクホルダを用いてMg合金のフランジ部を押圧しなかった。なお、絞り工程におけるパンチスピードは90mm/分とした。
【0081】
パンチストローク、BHF及びパンチロードを適宜調整し、押圧工程及び絞り工程を交互に複数回繰り返した。そして、得られたMg合金加工物のフランジ部が水平な面と接触するように配置した場合の、水平面から底面までの長さ(
図8の11h)が15mmとなる位置まで内底面11Dを押し込んだ段階で、Mg合金11の加工を終了し、円筒状のMg合金加工物を製造した。
【0082】
得られたMg合金加工物について、
図8を参照して説明する。
図8は、本開示におけるMg合金加工物の一例を示す断面図である。
得られたMg合金加工物は、底部の直径(
図8の11R)が34.0mmであり、
図8のようにMg合金加工物を水平な面に配置した場合の、水平な面から底部までの垂直方向の高さ11hが16mmであった。
【0083】
(実施例2)
複数回の押圧工程の中で、表1に記載の時点(押圧工程の回数)でBHFを表1に記載の通りに変更し、表1に記載の時点以降の押圧工程においても変更後のBHFを維持したこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒状のMg合金加工物を製造した。
【0084】
(比較例1)
押圧工程及び絞り工程を交互に複数回繰り返さず、押圧工程及び絞り工程を同時に1回ずつ行った。つまり、Mg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、ブランクホルダを用いてMg合金の周辺部を4kN超で押圧し、かつ、パンチによってMg合金を円筒状に絞った。
押圧工程におけるBHFを5kNに変更し、絞り工程におけるパンチストロークが一定の速度で増加するようにした。
上記の点以外は、実施例1と同様の方法で円筒状のMg合金加工物を製造しようと試みた。
つまり、通常の深絞り成形法により、円筒状のMg合金加工物を製造しようと試みた。
【0085】
~評価~
(加工性の評価)
各実施例又は比較例で製造されたMg合金加工物におけるしわ発生の有無やその状態を目視で調べて、下記評価基準に基づいて評価し、評価結果を表1に記載した。
-評価基準-
A:Mg合金加工物に、しわ、割れ等の不良の発生が認められなかった。
B:Mg合金加工物に、割れの発生が認められなかったが、しわの発生が認められた。
C:Mg合金加工物に、割れの発生が認められた。
【0086】
(曲げ部の最大厚さに対する側部の厚さの比率(側部厚さ/曲げ部最大厚さ)の測定)
各実施例又は比較例で製造されたMg合金加工物を、底部の面積が1/2となるように直線的に切断した。そして、切断したMg合金加工物の断面について、肩部及び側部の壁の厚み(壁厚ともいう。)をマイクロスコープ(DMI5000、ライカ マイクロシステムズ株式会社製)を用いて測定した。結果は表1に示す。
【0087】
(Mg合金加工物の壁厚の均一性の評価)
各実施例又は比較例で製造されたMg合金加工物を、底部の面積が1/2となるように直線的に切断した。そして、切断したMg合金加工物の断面について、肩部及び側部の壁の厚み(壁厚ともいう。)をマイクロスコープ(DMI5000、ライカ マイクロシステムズ株式会社製)を用いて測定し、下記の評価基準に従って評価した。また、評価結果を表1に記載した。
なお、下記評価基準における壁厚のひずみとは、加工前のMg合金の厚みを基準として、減少又は増加した壁厚の割合を指す。
壁厚のひずみは、加工前のMg合金の厚みから、マイクロスコープで測定した加工後の壁厚を引いた値の絶対値を、加工前のMg合金の厚みで除した百分率とする。
-評価基準-
A:肩部の壁厚のひずみが27%未満であった。
B:肩部の壁厚のひずみが27%以上35%未満であった。
C:肩部の壁厚のひずみが35%以上であるか、又は、得られたMg合金加工物に破断が発生した。
【0088】
【0089】
表1に示す通り、ブランク材であるMg合金を円筒に加工するMg合金の絞りしごき加工方法であって、温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダとダイとの間に配置した状態で、パンチによって前記Mg合金を絞らず、かつ、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を押圧する押圧工程と、温度が0℃~300℃である前記Mg合金をブランクホルダと前記ダイとの間に配置した状態で、前記ブランクホルダを用いて前記Mg合金の周辺部を2kN以下で押圧し又は押圧せず、かつ、前記パンチによって前記Mg合金を円筒状に絞る絞り工程と、を含み、前記絞り工程において、加工前の前記Mg合金の厚さt〔mm〕に対する、前記パンチと前記ダイとの間のクリアランスc〔mm〕の比であるクリアランス比c/tが0.70以上1.0以下であるMg合金の絞りしごき加工方法を用いた実施例は、加工性、及び壁厚の均一性に優れていた。そのため、低温でMg合金を円筒状に加工することができた。
一方、本開示の押圧工程及び絞り工程を交互に複数回繰り返さず、押圧工程及び絞り工程を同時に1回ずつ行った比較例1は、割れの発生が確認されたため、加工性に劣っていた。そのため、低温でMg合金を円筒状に加工することができなかった。