(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123203
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】層間剥離検出システム、及び、層間剥離検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20230829BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20230829BHJP
G01S 13/87 20060101ALI20230829BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01S13/88 200
G01S13/87
G01N22/00 X
G01V3/12 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027137
(22)【出願日】2022-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000201515
【氏名又は名称】前田道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅川 眞二
(72)【発明者】
【氏名】小池 克明
(72)【発明者】
【氏名】久保 大樹
【テーマコード(参考)】
2G105
5J070
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB14
2G105CC01
2G105DD04
2G105EE01
2G105GG03
2G105LL03
5J070AC03
5J070AD02
5J070AE07
5J070AE11
5J070AF03
5J070BD01
(57)【要約】
【課題】非破壊的な方法で道路の内部の層間剥離部を検出できる層間剥離検出システム、及び、層間剥離検出方法を提供する。
【解決手段】層間剥離検出システム100は、道路Rを移動する移動体1と、移動体1に搭載され、道路Rに対して電磁波W1を発信し、電磁波W1の反射波W2を受信する電磁波受発信装置2と、反射波W2に基づいて層間剥離部X’を検出する反射波解析装置4とを備え、反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2が、道路Rの内部で反射した反射波W2を受信した場合に、電磁波W1の発信から反射波W2の受信までにかかった受発信時間T1に基づいて、電磁波W1の反射箇所Xの深度Dを推定し、反射箇所Xの深度Dが、第1層と第2層との境界面Bの深度Dを含む所定の深度範囲Daに含まれる場合に、反射箇所Xを層間剥離部X’として抽出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出システムであって、
前記道路を移動する移動体と、
前記移動体に搭載され、前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信する電磁波受発信装置と、
前記電磁波受発信装置が受信した前記反射波に基づいて、前記層間剥離部を検出する反射波解析装置とを備え、
前記反射波解析装置は、
前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、
前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の層間剥離検出システムであって、
前記電磁波受発信装置と前記道路の路面との間の空気層厚を取得する空気層厚取得装置をさらに備え、
前記反射波解析装置は、前記受発信時間、及び、前記空気層厚に基づいて前記反射箇所の深度を推定する、層間剥離検出システム。
【請求項3】
請求項2に記載の層間剥離検出システムであって、
前記空気層厚取得装置は、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を電磁波を用いて計測し、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を前記空気層厚として取得する、層間剥離検出システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の層間剥離検出システムであって、
前記移動体の位置を測定する位置測定装置と、
前記位置測定装置が測定した位置情報に基づいて、前記反射波解析装置が前記層間剥離部を検出した位置を記録する記録装置とをさらに備える、層間剥離検出システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の層間剥離検出システムであって、
前記電磁波受発信装置は1GHz以上の周波数の前記電磁波を発信する、層間剥離検出システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の層間剥離検出システムであって、
前記第1層は、アスファルト混合物により形成された表層であり、
前記第2層は、アスファルト混合物により形成された基層である、層間剥離検出システム。
【請求項7】
第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、層間剥離検出システムを用いて、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出方法であって、
前記層間剥離検出システムは、
前記道路を移動する移動体に搭載された電磁波受発信装置を用いて前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信し、
前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、
前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間剥離検出システム、及び、層間剥離検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト混合物等で形成された道路は、表層、基層、路盤層等の複数の層により構成されているが、経年劣化等で層と層との間の付着力が低下し、層間剥離が発生する場合がある。層間剥離が発生すると、剥離箇所への水の侵入、道路の舗装剥離、ブリスタリング等の路面の損傷等が発生するおそれがある。そのため、道路の内部の層間剥離を非破壊的な方法で早期に発見する必要がある。ここで、特許文献1には、電磁波を用いて、道路の内部の空洞又は埋設物の有無を検出する検出方法が記載されている(特許文献1の段落[0067]~[0078]、及び、
図22,24,26参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の検出方法では、道路の内部の空洞又は異物の有無を検出することができるが、検出した空洞又は異物が層間剥離に起因するもの(層間剥離部)であるか否かを判断することができない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、非破壊的な方法で道路の内部の層間剥離部を検出できる層間剥離検出システム、及び、層間剥離検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記課題を解決するために、本発明に係る層間剥離検出システムは、第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出システムであって、前記道路を移動する移動体と、前記移動体に搭載され、前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信する電磁波受発信装置と、前記電磁波受発信装置が受信した前記反射波に基づいて、前記層間剥離部を検出する反射波解析装置とを備え、前記反射波解析装置は、前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出システムである。
【0007】
[2]上記発明において、層間剥離検出システムは、前記電磁波受発信装置と前記道路の路面との間の空気層厚を取得する空気層厚取得装置をさらに備え、前記反射波解析装置は、前記受発信時間、及び、前記空気層厚に基づいて前記反射箇所の深度を推定してもよい。
【0008】
[3]上記発明において、空気層厚取得装置は、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を電磁波を用いて計測し、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を前記空気層厚として取得してもよい。
【0009】
[4]上記発明において、層間剥離検出システムは、前記移動体の位置を測定する位置測定装置と、前記位置測定装置が測定した位置情報に基づいて、前記反射波解析装置が前記層間剥離部を検出した位置を記録する記録装置とをさらに備えてもよい。
【0010】
[5]上記発明において、電磁波受発信装置は1GHz以上の周波数の前記電磁波を発信してもよい。
【0011】
[6]上記発明において、前記第1層は、アスファルト混合物により形成された表層であり、前記第2層は、アスファルト混合物により形成された基層であってもよい。
【0012】
[7]また、本発明に係る層間剥離検出方法は、第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、層間剥離検出システムを用いて、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出方法であって、前記層間剥離検出システムは、前記道路を移動する移動体に搭載された電磁波受発信装置を用いて前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信し、前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電磁波の反射箇所の深度が、第1層と第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、当該反射箇所を層間剥離部として抽出するので、電磁波を用いた非破壊的な方法で道路の内部の層間剥離部を検出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る層間剥離検出システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す層間剥離検出システムの電磁波受発信装置が受信した電磁波の電圧値の波形の例を示すグラフである。
【
図3】
図1に示す層間剥離検出システムを用いた層間剥離検出方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
層間剥離検出システム100は、表層L1、表層L1の下側の基層L2、及び、基層L2の下側のアスファルト安定処理層L3を有する道路Rにおいて、表層L1と基層L2との間の層間剥離部X’を検出する。なお、本実施形態において、道路Rはアスファルト混合物により形成されたアスファルト舗装道路である。また、表層L1、及び、基層L2は、アスファルト混合物により形成されている。本実施形態において、表層L1は第1層を構成し、基層L2は第2層を構成するが、これに限定されない。すなわち、基層L2が第1層を構成し、基層L2の下側のアスファルト安定処理層L3が第2層を構成し、層間剥離検出システム100は、基層L2とアスファルト安定処理層L3との間の層間剥離部X’を検出してもよい。また、アスファルト安定処理層L3が第1層を構成し、アスファルト安定処理層L3の下側の路盤層(図示せず)が第2層を構成してもよい。すなわち、第1層、及び、第2層は、略上下方向に互いに隣接して積層し、道路Rを構成する2つの任意の層であればよい。
なお、「層間剥離」とは、アスファルト舗装道路等の道路Rを構成する表層・基層・アスファルト安定処理層・路盤層などの境界において適切な付着力が維持されず層同士の一体性が失われる現象である。また、「層間剥離部」とは、層間剥離によって道路Rの内部に発生した空洞である。なお、層間剥離部X’には水等が浸入している場合もある。
【0016】
図1に示すように、層間剥離検出システム100は、移動体1、電磁波受発信装置2、空気層厚取得装置3、反射波解析装置4、位置測定装置5、及び、記録装置6を備える。移動体1は、例えば、車両であり、道路Rを30~80km/hで走行することが可能である。また、移動体1は搭乗者が運転するものであってもよく、自動運転によって走行する無人車両であってもよい。電磁波受発信装置2、空気層厚取得装置3、反射波解析装置4、位置測定装置5、及び、記録装置6は、移動体1に搭載されている。なお、反射波解析装置4、及び、記録装置6は、プロセッサを備えたコンピュータにより構成されており、例えば、記録装置6に格納されたプログラムを実行することにより、反射波解析装置4の機能が実現されてもよい。また、反射波解析装置4、及び、記録装置6は、移動体1に搭載されずに、移動体1とは異なる位置に設置されていてもよい。また、反射波解析装置4、及び、記録装置6は、クラウドサーバであってもよい。
【0017】
電磁波受発信装置2は、発信部2a及び受信部2bを有する。発信部2aは道路Rに対して電磁波W1を発信する。また、受信部2bは、電磁波W1の反射波W2を受信する。電磁波受発信装置2は、移動体1の下部に、道路Rに対向するように設けられる。なお、電磁波受発信装置2の発信部2a、及び、受信部2bは、好ましくは、ホーンアンテナであるが、これに限定されず、電磁波W1を発信し、かつ、反射波W2を正確に取得できる形状/大きさであればよい。また、発信部2aが発信する電磁波W1の周波数は、1GHz以上であり、好ましくは、2GHz以上である。なお、層間剥離検出システム100は、各々異なる周波数の電磁波W1を発信する複数の電磁波受発信装置2を備え、検出対象の深度範囲に応じて最適な波長・周波数の電磁波W1を発信できるように、利用する電磁波受発信装置2を適宜切り替えてもよい。
【0018】
空気層厚取得装置3は、移動体1の下部に設けられたレーダ測距計である。空気層厚取得装置3は、電磁波受発信装置2と同じ高さに設けられる。これにより、空気層厚取得装置3は、空気層厚取得装置3と道路Rの路面Raとの間の距離、すなわち、電磁波受発信装置2と道路Rの路面Raとの間に存在する空気層の厚さ(空気層厚A)を測定することができる。すなわち、空気層厚取得装置3は、道路Rの路面Raと電磁波受発信装置2との距離を電磁波を用いて計測し、道路Rの路面Raと電磁波受発信装置2との距離を空気層厚Aとして取得する。また、空気層厚取得装置3は、空気層厚Aをリアルタイムに測定する装置に限定されず、予め設定/入力された空気層厚Aを取得する装置であってもよい。この場合には、空気層厚Aは、特に図示しない入力装置を介して入力され、特に図示しない記録装置に予め記憶されている。空気層厚取得装置3が予め設定/入力された空気層厚Aを取得する場合は、空気層厚Aは、移動体1の底面1aの高さに応じて設定される。また、空気層厚取得装置3が、予め設定/入力された空気層厚Aを取得する装置である場合は、空気層厚取得装置3は移動体1に搭載されずに、移動体1とは異なる位置に設置されていてもよい。また、空気層厚取得装置3が、予め設定/入力された空気層厚Aを取得する装置である場合は、空気層厚取得装置3はプロセッサを備えたコンピュータにより構成され、プロセッサのプログラムを実行することにより機能的に実現されるものであってもよい。また、空気層厚取得装置3は、クラウドサーバであってもよい。
【0019】
反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信した反射波W2に基づいて、層間剥離部X’を検出する。なお、反射波解析装置4が移動体1に搭載されずに、移動体1とは異なる位置に設置されている場合は、既知の通信手段を介して、反射波解析装置4は電磁波受発信装置2から反射波W2の情報を取得してもよい。
【0020】
具体的には、電磁波受発信装置2が道路Rの内部で反射した反射波W2を受信した場合に、反射波解析装置4は、電磁波W1の発信から反射波W2の受信までにかかった受発信時間T1に基づいて、反射箇所X1の深度D1を推定する。深度D1は、道路Rの路面Raから反射箇所X1までの距離である。
【0021】
ここで、電磁波W1は、道路Rの内部に存在する物質の境界(反射箇所X)で反射する。また、電磁波W1は、道路Rの路面Raでも反射する(反射波W0)。このため、反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2が道路Rの路面Raからの反射波W0以外の反射波、又は、路面Ra上の物体からの反射波以外の反射波を受信したと判断した場合に、電磁波受発信装置2が反射波W2を受信したと判定する。具体的には、反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2が電磁波W1を発信してから道路Rの路面Raで反射した反射波W0を受信するまでの路面反射時間T0を算出する。そして、反射波解析装置4は、路面反射時間T0と受発信時間T1と比較して、受発信時間T1が路面反射時間T0よりも長い場合に、電磁波受発信装置2が道路Rの内部で反射した反射波W2を受信したと判断する。
【0022】
なお、反射波解析装置4は、
図2に示すように、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信した電磁波(反射波W0,W2を含む電磁波)の波形の特徴に基づいて、受発信時間T1を取得する。すなわち、
図2に示すグラフの破線で囲まれた部分が、電磁波受発信装置2が反射波W2を受信したことを示している。特に限定されないが、こうした波形の特徴としては、例えば、振幅の大きさや波形の傾き等を例示することができる。なお、
図2に示すグラフは、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信した電磁波の電圧値の経時的変化を示す波形グラフである。反射波解析装置4は、反射波W2を含む電磁波の波形パターンを学習した学習済みモデルを用いて受発信時間T1を取得してもよい。
【0023】
また、反射波解析装置4は、下記の式(1)を用いて、空気層厚取得装置3が取得した空気層厚Aに基づいて、路面反射時間T0を算出する。下記の式(1)において比誘電率ε
r=1(空気の比誘電率)である。
なお、反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信した電磁波の電圧値の波形の特徴に基づいて、路面からの反射波W0に対応する路面反射時間T0を取得してもよい。
【数1】
【0024】
そして、反射波解析装置4は、電磁波受発信装置2が道路Rの内部で反射した反射波W2を受信したと判断した場合は、路面反射時間T0と受発信時間T1との時間差dT(=T1-T0)を算出する。なお、時間差dTは、電磁波W1及び反射波W2が道路Rの内部を通過した時間である。反射波解析装置4は、下記の式(2)を用いて、時間差dTに基づき、反射箇所Xの深度Dを算出する。なお、下記の式(2)において比誘電率ε
rはアスファルト混合物の比誘電率である。反射波解析装置4は、下記の式(2)におけるアスファルト混合物の比誘電率ε
rを、天候や道路Rの状態(例えば、道路Rが湿っているか乾いているか等)に応じて適宜設定してもよい。具体的には、乾燥時のアスファルト混合物の比誘電率ε
rは2~4であり、湿潤時のアスファルト混合物の比誘電率ε
rは6~12である。
【数2】
【0025】
上記の式(1),(2)により、反射波解析装置4は、受発信時間T1、及び、空気層厚Aに基づいて反射箇所Xの深度Dを推定している。
【0026】
さらに、反射波解析装置4は、反射箇所Xの深度Dが、表層L1と基層L2との境界面Bの深度を含む所定の深度範囲Daに含まれる場合に、反射箇所Xを層間剥離部X’として抽出(検出)する。具体的には、
図1に示す反射箇所X1の深度D1は深度範囲Daに含まれるため、反射波解析装置4は、反射箇所X1を層間剥離部X’として抽出(検出)する。一方、反射箇所X2の深度D2は深度範囲Daに含まれないため、反射波解析装置4は、反射箇所X2を層間剥離部X’として検出しない。
なお、深度範囲Daは、例えば、表層L1と基層L2との境界面Bに対して上下に各々5cm程度の幅を取った範囲であるが、これに限定されない。一例を挙げれば、表層L1と基層L2との間の深度が10cmである場合には、この深度範囲Daは、5cm~15cmに設定される(5cm≦Da≦15cm)。また、より好ましくは、深度範囲Daは、表層L1と基層L2との境界面Bに対して上下に各々2.5cm程度の幅を取った範囲であり、この場合には、深度範囲Daは、7.5cm~12.5cmに設定される(7.5cm≦Da≦12.5cm)。
【0027】
なお、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信する電磁波には、路面Raからの反射波W0、又は、層間剥離部X’からの反射波W2以外にも、層同士の境界面(例えば、表層L1と基層L2との境界面B、及び/又は、基層L2とアスファルト安定処理層L3との境界面)からの反射波も含まれる。そこで、反射波解析装置4は、反射波の反射強度RIに基づいて、層同士の境界面を検出対象から除外する。具体的には、反射波解析装置4は、上層側の比誘電率をε
r1,下層側の比誘電率をε
r2としたときに、下記の式(3)によって反射強度RIを算出する。
【数3】
【0028】
すなわち、道路Rの内部の各々の層は比誘電率の差が小さいため、層同士の境界面からの反射波の反射強度RIは、アスファルト混合物と空洞内の空気、又は、水との間で反射が起きる層間剥離部X’からの反射強度RIと比較して、小さくなる。そのため、反射波解析装置4は、深度範囲Daにおいて複数の反射箇所Xを検出した場合であっても、反射波の反射強度RI(波形グラフにおけるピークの大きさ)が所定値以下である反射箇所Xについては層間剥離部X’ではないと判断し、検出対象から除外することができる。
【0029】
また、位置測定装置5は、移動体1の現在位置を測定するGNSS(衛星測位システム)である。すなわち、位置測定装置は、複数の衛星通信から送信される電波を検出し、移動体1の位置情報を周期的に取得する。
【0030】
また、記録装置6は、位置測定装置5が測定した位置情報に基づいて、反射波解析装置4が層間剥離部X’を検出した位置を記録する。具体的には、記録装置6は、道路情報を含む地図データベースを有しており、層間剥離部X’の検出位置を地図上に記録する。なお、記録装置6が移動体1に搭載されずに、移動体1とは異なる位置に設置されている場合は、既知の通信手段を介して、記録装置6は位置測定装置5から移動体1の位置情報を取得してもよい。
【0031】
次に、
図3のフローチャートを用いて、層間剥離検出システム100による層間剥離検出方法の手順を説明する。
まず、ステップS1において、電磁波受発信装置2の発信部2aが電磁波W1を発信する。
次に、ステップS2において、電磁波受発信装置2の受信部2bが反射波W2を受信する。
さらに、ステップS3において、反射波解析装置4は、受発信時間T1を取得する。
さらに次に、ステップS4において、空気層厚取得装置3は空気層厚Aを取得する。
そして、ステップS5において、反射波解析装置4は、路面反射時間T0を算出する。
【0032】
次に、ステップS6において、反射波解析装置4は、受発信時間T1に基づいて、反射箇所Xが道路の内部に存在するか否かを判定する。具体的には、反射波解析装置4は、受発信時間T1が路面反射時間T0よりも長い場合に、反射箇所Xが道路Rの内部に存在すると判定する。一方、反射波解析装置4は、受発信時間T1が路面反射時間T0以下である場合に、反射箇所Xが道路の内部に存在しないと判定する。反射箇所Xが道路R0の内部に存在しない場合は、処理は終了する。
【0033】
一方、ステップS6において、反射箇所Xが道路の内部に存在すると判定された場合は、ステップS7において、反射波解析装置4は、受発信時間T1と路面反射時間T0との時間差dTを算出する。
次に、ステップS8において、反射波解析装置4は、時間差dTに基づいて反射箇所Xの深度Dを推定する。
【0034】
次に、ステップS9において、反射波解析装置4は、反射箇所Xの深度Dが所定の深度範囲Daに含まれるか否かを判定する。反射箇所Xの深度Dが所定の深度範囲Daに含まれない場合は、処理は終了する。
【0035】
ステップS9において、反射箇所Xの深度Dが所定の深度範囲Daに含まれると判定された場合は、ステップS10において、反射波解析装置4は、反射箇所Xを層間剥離部X’として抽出(検出)する。
【0036】
次に、ステップS11において、記録装置6は、位置測定装置5が測定した移動体1の位置情報に基づいて、反射波解析装置4が層間剥離部X’を検出した位置を記録する。
【0037】
なお、
図3に示すフローチャートにおいて、層間剥離検出システム100は、ステップS1~S3に示す処理とステップS4,S5に示す処理とを同時に実行してもよい。また、層間剥離検出システム100は、ステップS4,S5に示す処理の実行後に、ステップS1~S3に示す処理を実行してもよい。本実施形態では、移動体1が30km/h以上の車速で走行しながら、層間剥離検出システム100は、少なくともステップS1,S2,S4の計測ステップを実行しており、ステップS1~S3とステップS4,S5とを同時に実行している。このように、ステップS1~S3とステップS4,S5とを同時に実行することで、移動体が30km/h以上の車速で移動している場合であっても、層間剥離部X’の検出の精度を上げることができる。
【0038】
以上より、本実施形態に係る層間剥離検出システム100は、電磁波受発信装置2が道路Rの内部で反射した反射波W2を受信した場合に、反射箇所Xの深度Dが、表層L1と基層L2の境界面Bの深度を含む所定の深度範囲Daに含まれる場合に、その反射箇所Xを層間剥離部X’として抽出する。これにより、層間剥離検出システム100は、道路Rの内部に存在する反射箇所Xのうち、層間剥離が発生している可能性が高い反射箇所X1を層間剥離部X’として、非破壊的・非接触的な方法で効率よく検出することができる。また、電磁波受発信装置2は一般的に小型かつ軽量であるため、層間剥離検出システム100は、電磁波受発信装置2を移動体1に搭載した状態で、迅速に層間剥離部X’の検出を行うことができる。また、従来は、層間剥離部X’を検出するために打音調査や熱赤外センサによる道路Rの昼夜の温度差測定等の方法が用いられてきたが、層間剥離検出システム100は、移動体1に搭載した電磁波受発信装置2を利用することにより、従来の方法に比べて、層間剥離部X’の検出にかかる時間的コスト及び費用的コストを大幅に低減させることができる。
【0039】
また、層間剥離検出システム100は、電磁波W1の受発信時間T1、及び、空気層厚Aに基づいて反射箇所Xの深度Dを推定する。これにより、層間剥離検出システム100は、移動体1に搭載された電磁波受発信装置2と道路Rの路面Raとの間に存在する空気層の厚さ(空気層厚A)に基づいて、より正確に反射箇所Xの深度Dを推定する。また、層間剥離検出システム100は、反射箇所Xの深度Dを推定するために空気層厚A及び空気の比誘電率εr=1に基づいて路面反射時間T0を算出することにより、電磁波受発信装置2の受信部2bが受信した電磁波の波形グラフに基づいて路面反射時間T0を取得する方法よりも正確に路面反射時間T0を取得することができる。
【0040】
また、層間剥離検出システム100の空気層厚取得装置3は、道路Rの路面Raと電磁波受発信装置2との距離を電磁波を用いて計測し、道路Rの路面Raと電磁波受発信装置2との距離を空気層厚Aとして取得する。これにより、層間剥離検出システム100はリアルタイムで空気層厚Aを計測して取得することができる。また、特に移動体1が60km/h以上の高速で移動している場合には、移動体1の振動が激しく、空気層厚A(路面Raと電磁波受発信装置2との距離)が変化しやすくなるが、このような状況であっても、層間剥離検出システム100は、正確な空気層厚Aに基づいて反射箇所Xの深度Dを推定することができる。
【0041】
また、層間剥離検出システム100は、移動体1の位置を測定する位置測定装置5と、位置測定装置5が測定した位置情報に基づいて、反射波解析装置4が層間剥離部X’(反射箇所X1)を検出した位置を記録する記録装置6とをさらに備える。これにより、層間剥離検出システム100は、層間剥離が発生している可能性が高い位置を記録することができる。よって、記録装置6の記録情報に基づいて、事業者が道路Rの修繕計画等を効率よく立案することができる、
【0042】
また、層間剥離検出システム100の電磁波受発信装置2は1GHz以上の周波数の電磁波W1を発信する。これにより、層間剥離検出システム100は、5cm~1m程度の深度Dの反射箇所Xを検出することができる。
【0043】
また、層間剥離検出システム100の検出対象の道路Rにおいて、第1層は、アスファルト混合物により形成された表層L1であり、第2層は、アスファルト混合物により形成された基層L2である。これにより、層間剥離検出システム100は、アスファルト舗装の道路Rの表層L1と基層L2との境界面Bに発生する層間剥離部X’を検出することができる。なお、層間剥離検出システム100は、基層L2とアスファルト安定処理層L3との境界面Bに発生する層間剥離部を検出してもよい。
【符号の説明】
【0044】
100…層間剥離検出システム
1…移動体
2…電磁波受発信装置
3…空気層厚取得装置
4…反射波解析装置
5…位置測定装置
6…記録装置
A…空気層厚
R…道路
L1…表層
L2…基層
B…境界面
T1…受発信時間
W1…電磁波
W2…反射波
X…反射箇所
X’…層間剥離部
D…反射箇所の深度
【手続補正書】
【提出日】2022-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出システムであって、
前記道路を移動する移動体と、
前記移動体に搭載され、前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信する電磁波受発信装置と、
前記電磁波受発信装置が受信した前記反射波に基づいて、前記層間剥離部を検出する反射波解析装置と、
前記移動体に搭載され、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を電磁波を用いて計測し、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との間の空気層厚として取得する空気層厚取得装置と、を備え、
前記反射波解析装置は、
前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間、及び、前記空気層厚に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、
前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の層間剥離検出システムであって、
前記移動体の位置を測定する位置測定装置と、
前記位置測定装置が測定した位置情報に基づいて、前記反射波解析装置が前記層間剥離部を検出した位置を記録する記録装置とをさらに備える、層間剥離検出システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の層間剥離検出システムであって、
前記電磁波受発信装置は1GHz以上の周波数の前記電磁波を発信する、層間剥離検出システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の層間剥離検出システムであって、
前記第1層は、アスファルト混合物により形成された表層であり、
前記第2層は、アスファルト混合物により形成された基層である、層間剥離検出システム。
【請求項5】
第1層と前記第1層の下側の第2層とを有する道路において、層間剥離検出システムを用いて、前記第1層と前記第2層との間の層間剥離部を検出する層間剥離検出方法であって、
前記層間剥離検出システムは、
前記道路を移動する移動体に搭載された電磁波受発信装置を用いて前記道路に対して電磁波を発信し、前記電磁波の反射波を受信し、
前記移動体に搭載された空気層厚取得装置によって、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を電磁波を用いて計測し、
前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との距離を、前記道路の路面と前記電磁波受発信装置との間の空気層厚として取得し、
前記電磁波受発信装置が、前記道路の内部で反射した前記反射波を受信した場合に、前記電磁波の発信から前記反射波の受信までにかかった受発信時間、及び、前記空気層厚に基づいて、前記電磁波の反射箇所の深度を推定し、
前記反射箇所の深度が、前記第1層と前記第2層との境界面の深度を含む所定の深度範囲に含まれる場合に、前記反射箇所を前記層間剥離部として抽出する、層間剥離検出方法。