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特開2023-123204濾材及びこれを用いた放電加工機用フィルタ、ワイヤーカット加工機用フィルタ、放電加工システム、濾材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123204
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】濾材及びこれを用いた放電加工機用フィルタ、ワイヤーカット加工機用フィルタ、放電加工システム、濾材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20230829BHJP
   D21H 13/10 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 13/08 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 27/08 20060101ALI20230829BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20230829BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B01D39/16 E
D21H13/10
D21H13/08
D21H27/08
D21H27/30 Z
B32B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027141
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 慶太
(72)【発明者】
【氏名】酒藤 潤
【テーマコード(参考)】
4D019
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB10
4D019BD01
4D019CB06
4F100AJ02A
4F100AJ02B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100GB56
4F100JK02
4F100YY00A
4L055AF09
4L055AF13
4L055AF27
4L055AF33
4L055AF47
4L055AJ01
4L055CD13
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA22
4L055FA30
4L055GA31
4L055GA39
(57)【要約】
【課題】初期効率を高くしつつ、寿命の低下を抑制した濾材等を提供する。
【解決手段】濾材は、支持層と、一方の面を支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層とを備える。濾過層は、支持層よりも目が細かく、濾過層が、合成樹脂繊維を含み、支持層が、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含み、リヨセル繊維の配合量が10~30重量%である。上記構成により、濾過層にダストが蓄積されて十分な濾過性能を発揮するまでの間は、支持層のフィブリル化リヨセル繊維でもってダストを濾過することで初期特性を向上させることができる。また、濾過層の合成樹脂繊維の配合量を増やさないことで、フィルタの短寿命化を回避できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と、
一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層と
を備える濾材であって、
前記濾過層は、前記支持層よりも目が細かく、
前記濾過層が、合成樹脂繊維を含み、
前記支持層が、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含み、前記リヨセル繊維の配合量が10~30重量%である濾材。
【請求項2】
請求項1に記載の濾材であって、
前記リヨセル繊維の配合量が、18~30重量%である濾材。
【請求項3】
請求項1に記載の濾材であって、
前記リヨセル繊維の配合量が、10~20重量%である濾材。
【請求項4】
請求項1に記載の濾材であって、
前記リヨセル繊維の配合量が、18~20重量%である濾材。
【請求項5】
支持層と、
一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層と
を備える濾材であって、
前記濾過層は、前記支持層よりも目が細かく、
前記濾過層が、合成樹脂繊維を含み、
前記支持層が、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含み、
前記濾材の、最大孔径が40~49μmであり、平均流量孔径が25~35μmである濾材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の濾材であって、
前記濾過層が、フィブリル化したリヨセル繊維を含まない濾材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の濾材であって、
前記濾過層が、さらにパルプ状合成高分子を含む濾材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の濾材であって、
初期効率が、粒径5μmにおいて85%以上である濾材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の濾材であって、
剛軟度が、700mgf以上である濾材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の濾材を用いた放電加工機用フィルタ。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の濾材を用いたワイヤーカット加工機用フィルタ。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の濾材を用いたフィルタ材と、
前記フィルタ材を挿入したフィルタカートリッジと
を備えるフィルタ装置と、
加工液を蓄えるための加工槽と、
前記加工槽に蓄えられた加工液中で放電加工を行う放電加工部と、
前記放電加工部の加工動作を制御する制御部と、
前記加工槽と前記フィルタ装置とで、加工液が循環するように接続される循環経路と、
を備え、
前記加工槽から排出された加工液を、前記フィルタ装置で濾過して、前記加工槽に環流するよう構成してなる放電加工システム。
【請求項13】
支持層と、
一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層と
を備える濾材の製造方法であって、
有機合成樹脂繊維を叩解し合成樹脂繊維と混合して濾過層を形成する工程と、
合成樹脂繊維に、フィブリル化したリヨセル繊維を10~30重量%配合して混合して前記支持層を形成する工程と、
前記濾過層の一面に、前記支持層を貼付して一体的に積層する工程と
を含む濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濾材及びこれを用いた放電加工機用フィルタ、ワイヤーカット加工機用フィルタ、放電加工システム、濾材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濾材は、液体等の媒体中に含有される固体粒子を効率良く除去して清浄化する等の用途で用いられている。例えばワイヤーカット放電加工機などの放電加工機において、被加工物(ワーク)の加工時に発生し、加工液中に混在される被加工物の微細な金属屑(スラッジ、ダスト等とも呼ばれる。)を除去するために、合成繊維やセルロース等のフィルタ濾材を折りたたみ、このフィルタ濾材を円筒形の金属容器もしくは円筒形の樹脂容器に詰め込んだ濾過フィルタが使用されている。このような放電加工機で使用される加工機の加工屑の微細化により、粒径の小さい初期粉じんを捕捉する効率(初期効率)の高い液体濾過用フィルタが望まれている。そこで、濾過層と支持体層の二層構造で、上流側の濾過層にフィブリル化したリヨセル繊維を含む液体濾過用フィルタが提案されている(特許文献1~6)。
【0003】
例えば特許文献2では、濾過層と準濾過層(支持体層)にフィブリル化したリヨセル繊維を含むことで、表面に捕捉した粒子が一定量堆積するまでの間、濾過層、準濾過層に含まれるフィブリル化したリヨセル繊維による内部濾過による高い濾過性能(得られる濾液が透明になるまでの濾過時間が短い)を達成することができるとされている。
【0004】
しかしながら、該特許文献によれば内部濾過による初期性能を向上させるため、濾過層にフィブリル化したリヨセル繊維を40~90重量%含むため、差圧の上昇速度が大きく、濾材の寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0005】
一方、特許文献3では、濾過層がフィブリル化したリヨセル繊維を含み、下流側にはフィブリル化したリヨセル繊維を含まない支持体層を設ける構造が開示されている。この場合、表面に捕捉した粒子が一定量堆積するまで濾過機能が十分に発揮できないという問題があった。
【0006】
これに対して、濾過層のフィブリル化したリヨセル繊維の配合量を増やすことで内部濾過による初期性能を向上させることが考えられる。しかしながらこの場合は、濾過層の目詰まりが進む結果、フィルタの寿命が短くなってしまうという問題があった。このように、フィブリル化したリヨセル繊維の配合量を増やして初期性能を向上させることと、フィルタの長寿命化を図ることは相反する特性であり、両立させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5727562号公報
【特許文献2】特許4120737号公報
【特許文献3】特許4086729号公報
【特許文献4】特許5599071号公報
【特許文献5】特許5599072号公報
【特許文献6】特許5759435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的の一は、初期効率を高くしつつ、寿命の低下を抑制した濾材及びこれを用いた放電加工機用フィルタ、ワイヤーカット加工機用フィルタ、放電加工システム、濾材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の第1の側面に係る濾材によれば、支持層と、一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層とを備える濾材であって、前記濾過層は、前記支持層よりも目が細かく、前記濾過層が、合成樹脂繊維を含み、前記支持層が、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含み、前記リヨセル繊維の配合量が10~30重量%である。上記構成により、濾過層にダストが蓄積されて十分な濾過性能を発揮するまでの間は、支持層のフィブリル化リヨセル繊維でもってダストを濾過することで初期特性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の第2の側面に係る濾材によれば、上記の側面において、前記リヨセル繊維の配合量が、18~30重量%である。
【0011】
さらに、本発明の第3の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、前記リヨセル繊維の配合量が、10~20重量%である。
【0012】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、前記リヨセル繊維の配合量が、18~20重量%である。
【0013】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る濾材によれば、支持層と、一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層とを備える濾材であって、前記濾過層は、前記支持層よりも目が細かく、前記濾過層が、合成樹脂繊維を含み、前記支持層が、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含み、前記濾材の、最大孔径が40~49μmであり、平均流量孔径が25~35μmである。
【0014】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、前記濾過層が、フィブリル化したリヨセル繊維を含まない。
【0015】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、前記濾過層が、さらにパルプ状合成高分子を含む。
【0016】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、初期効率が、粒径5μmにおいて85%以上である。
【0017】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る濾材によれば、上記いずれかの側面において、剛軟度が、700mgf以上である。
【0018】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る放電加工機用フィルタによれば、上記いずれかの側面に係る濾材を用いることができる。
【0019】
さらにまた、本発明の第11の側面に係るワイヤーカット加工機用フィルタによれば、上記いずれかの側面に係る濾材を用いることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の第12の側面に係る放電加工システムによれば、上記いずれかの側面に係る濾材を用いたフィルタ材と、前記フィルタ材を挿入したフィルタカートリッジとを備えるフィルタ装置と、加工液を蓄えるための加工槽と、前記加工槽に蓄えられた加工液中で放電加工を行う放電加工部と、前記放電加工部の加工動作を制御する制御部と、前記加工槽と前記フィルタ装置とで、加工液が循環するように接続される循環経路とを備え、前記加工槽から排出された加工液を、前記フィルタ装置で濾過して、前記加工槽に環流するよう構成している。
【0021】
さらにまた、本発明の第13の側面に係る濾材の製造方法によれば、支持層と、一方の面を前記支持層に固定するよう積層され、他方の面を濾過対象物が堆積する濾過面とする濾過層とを備える濾材の製造方法であって、有機合成樹脂繊維を叩解し合成樹脂繊維と混合して濾過層を形成する工程と、合成樹脂繊維に、フィブリル化したリヨセル繊維を10~30重量%配合して混合して前記支持層を形成する工程と、前記濾過層の一面に、前記支持層を貼付して一体的に積層する工程とを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る濾材を示す拡大断面図である。
図2】実施例1~2、比較例1に係る濾材のリヨセル繊維の配合量と初期効率、ライフの関係を示すグラフである。
図3】実施例1~2、比較例1に係る濾材の最大孔径と初期効率、ライフの関係を示すグラフである。
図4】実施例1~2、比較例1に係る濾材の平均流量孔径と初期効率、ライフの関係を示すグラフである。
図5】実施例3~7、比較例3に係る濾材のリヨセル繊維の配合量と初期効率の関係を示すグラフである。
図6】放電加工システムを示す模式図である。
図7】フィルタ装置の一例を示す斜視図である。
図8】フィルタ装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0024】
本発明の実施形態に係る濾材は、濾過対象物を濾過するための部材である。一般には、フィルタ装置のフィルタ材として用いられる。濾過対象物は、濾材の用途に応じて異なり、ダスト、スラッジなどと呼ばれる。濾材は、例えば、加工機等の工作機械において、排水を濾過するフィルタ装置や、エンジン等のオイルエレメント、あるいは浄化槽などに用いることができる。
【0025】
好適には、一定の休止期間を伴う機械器具、例えば加工機用のフィルタとして用いられる。このような休止期間を伴う機器であれば、夜間等の機器を使用していない間に、フィルタを構成する濾材に付着した濾過対象物を自重で落下させて、濾過性能の低下を抑制できる。すなわち本実施形態によれば、加工機などの機器を使用していない休止期間を利用して、濾過性能を回復させることができる。これにより、メンテナンスのための期間を特別に設けずとも、加工機などを使用していない期間に、濾過性能が回復されるため、ユーザは濾過性能回復のための操作や時間を特に意識することなく、自律的に濾過性能回復のための処理が実行される。このように、フィルタ自体の特性でもってダストを自重で落下させ、もって圧力損失の低下を抑制して、フィルタの寿命を長くし、交換までの期間を長くして、メンテナンスの手間とコストを削減するという優れた作用効果を実現するものである。このように本実施形態によれば、濾材表面に堆積したダスト粒子のダスト離れを促進し、濾過性能を回復することで、経年使用による濾過性能の低下を抑制できる。
【0026】
本実施形態に係る濾材は、放電加工機用フィルタに好適に利用できる。特に、ワイヤーカット加工機用フィルタとして好適に利用できる。
[実施形態1]
【0027】
本発明の実施形態に係る濾材10を、図1の模式断面図に示す。この図に示す濾材10は、支持層1と、濾過層2を備える。支持層1は濾過層2を支持している。濾過層2は、一方の面を支持層1に固定するよう積層されている。また濾過層2の他方の面は、濾過対象物が堆積する濾過面としている。
(支持層)
【0028】
支持層は、合成樹脂繊維と、フィブリル化したリヨセル繊維を含む。またリヨセル繊維の配合量は、10~30重量%である。
【0029】
このような構成により、濾過面にダストが堆積されて十分な濾過性能を発揮するまでの間は、支持層にフィブリル化リヨセル繊維を配合して内部濾過によりダストを捕捉することで、初期特性を向上させることができる。また、支持層のリヨセル繊維の配合量を上記範囲の上限値以下とすることで、濾目を過度に細かくすることがなく、フィルタの短寿命化を回避できる。
【0030】
本明細書における合成樹脂繊維として具体的には、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びこれらの変性樹脂並びにこれらの混合物等が挙げられ、中でもポリエステル系樹脂が好適に使用できる。
【0031】
合成樹脂繊維は、単一の樹脂からなる繊維であっても良いし、2種類以上の樹脂からなる繊維(複合繊維)であっても良い。また、1種の繊維を使用しても良いし、複数の繊維を組み合わせて使用しても良い。
【0032】
合成樹脂繊維として、熱融着バインダーの機能を持つ繊維を使用しても良い。具体的には、未延伸繊維、又は融点に差のある複数の樹脂からなる芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型等の複合繊維等が挙げられる。
【0033】
合成樹脂繊維の平均幅は、1.0μm以上50μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上40μm以下であるのがより好ましく、3.0μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。なお繊維の平均幅としては、例えば走査型電子顕微鏡による観察で、無作為に抽出した100本の繊維についての幅の相加平均値を採用することができる。
【0034】
リヨセル繊維の配合量は、18~30重量%とすることが好ましい。配合量を上記範囲の下限値以上とすることで、より微小な粒子を濾過する初期効率を向上できる。
【0035】
あるいはリヨセル繊維の配合量を、10~20重量%としてもよい。配合量を上記範囲の上限値以下とすることで、濾材の剛性を高く保ち、高圧で濾過運転する際の、変形、破損を抑制できる。
【0036】
あるいはまた、リヨセル繊維の配合量を、18~20重量%としてもよい。
【0037】
支持層のフィブリル化したリヨセル繊維の繊維長は、好適には4mm程度とする。なお本明細書において繊維長は、叩解前の状態でContour(繊維の中心線の経路長)で測定した値である。測定機器としては、kajaani FS300(Metso社)等が利用できる。
(濾過層)
【0038】
濾過層は、支持層よりも目が細かい。また濾過層は、合成樹脂繊維と、パルプ状合成高分子を含む。
【0039】
濾過層2中における合成樹脂繊維の含有率は、特に限定されないが、40質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、45質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、濾過層2の濾過性能及び強度を両立できる。
【0040】
合成樹脂繊維の長さは、特に限定されないが、1.5mm以上20mm以下であるのが好ましく、2.0mm以上18mm以下であるのがより好ましく、3.0mm以上18mm以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
濾過層は、さらにパルプ状合成高分子を含むことが好ましい。に含まれるパルプ状合成高分子として具体的には、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、液晶ポリマー、及びこれらの変性樹脂並びにこれらの混合物が挙げられる。その含有率は、好ましくは10~50%、より好ましくは15~45%、さらに好ましくは20~40%である。これによって、濾過面に堆積したダストのダスト離れを容易にできる。
【0042】
濾材10の初期効率は、粒径5μmにおいて85%以上とすることが好ましい。ここで初期効率とは、ISO19438:2003に規定された方法で測定できる。すなわち前述の規格に準拠したマルチパスフィルタ試験機を用いて濾材に試験油及びコンタミナント粒子を通過させ、濾材の上流及び下流で任意の粒径のコンタミナント粒子をカウントして下記式で計算される濾過効率であって、試験開始から4分、5分及び6分後の平均値である。
(式1)
(濾過効率)=(上流のカウント数-下流のカウント数)/(上流のカウント数)×100(%)
【0043】
これによって、微細な粉塵を含む液体を濾過する場合でも、短時間で清澄な濾液が得られる。
【0044】
また濾材10の剛軟度は、好ましくは700mgf以上、さらに好ましくは850mgf以上である。
(その他の成分)
【0045】
濾材10は、前述した以外の成分を含んでいてもよい。このような、その他の成分としては、例えば、バインダー、凝集剤、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、金属繊維、金属粒子等が挙げられる。
【0046】
濾材10の厚さは、特に限定されないが、50μm以上400μm以下であるのが好ましく55μm以上370μm以下であるのがより好ましく、60μm以上350μm以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
濾材10全体に占める支持層の体積率は、30体積%以上90体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上85体積%以下であるのがより好ましく、50体積%以上82体積%以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
支持層1として使用できるのはメルトブローン、スパンレース、ニードルパンチ等の乾式不織布、湿式不織布、織布等が挙げられる。なかでも湿式不織布が濾過層との接着性の面から好適に使用できる。
(濾材10の製造方法)
【0049】
ここで、このような濾材10の製造方法を、説明する。ただし、本発明の内容は以下の実施例に何ら限定されるものでない。
【0050】
濾過層の製造方法は、湿式抄紙法が好適に利用できる。まず、パルプ状合成高分子と合成樹脂繊維とを水中に分散して抄紙スラリーを形成する。次に抄紙機のワイヤーメッシュ上で濾水し、シリンダードライヤ等で乾燥して濾過層を得る。ここで抄紙機は、長網式、円網式、傾斜短網式、ツインワイヤ式等が利用できる。
【0051】
次に、合成樹脂繊維に、フィブリル化したリヨセル繊維を10~30重量%配合して混合して支持層を形成する。混合の方法は、合成樹脂繊維からなる基布に、リヨセル繊維の分散液を含浸、塗工しても良いし、濾過層と同様に抄紙しても良い。そして、濾過層の一面に、支持層を貼付して一体的に積層する。貼付の方法は、支持層及び濾過層の両方又は一方に、熱融着バインダー繊維を配合して、積層したものをシリンダードライヤ等で加熱、加圧しても良いし、熱融着メッシュ等を中間に積層しても良い。これにより、図1に示すように支持層1上に濾過層2を積層した濾材10が得られる。
[実施例1~2、比較例1~2]
【0052】
次に、実施例1~2に係る濾材と、比較例1~2に係る濾材とをそれぞれ作成し、特性を比較した。各サンプルの作製方法は、以下の通りである。まず濾過層の材料として、芯鞘型ポリエステル繊維(2.2dtex、5mm)と、延伸ポリエステル繊維(0.3dtex、5mm)と、アクリルパルプとを表1に示す配合率で水中に分散して抄紙スラリーとし、円網抄紙機で抄紙した。一方、支持層の材料として、芯鞘型ポリエステル繊維(2.2dtex、5mm)と、延伸ポリエステル繊維(0.3dtex、5mm)と、叩解したリヨセル繊維を表1に示す配合率で水に分散して抄紙スラリーとし、長網抄紙機で抄紙した。濾過層と支持層を湿紙の状態で積層して、ヤンキードライヤにより乾燥して実施例1~2及び比較例1に係る濾材を得た。
【0053】
また比較例2について、濾過層の材料として、芯鞘型ポリエステル繊維(2.2dtex、5mm)と、延伸ポリエステル繊維(0.3dtex、5mm)と、叩解したリヨセル繊維とを、表1に示す配合率で使用し、支持層の材料として、芯鞘型ポリエステル繊維(2.2dtex、5mm)と、延伸ポリエステル繊維(0.3dtex、5mm)とを、表1に示す配合率で使用し、支持層を傾斜短網型抄紙機で抄紙した他は、実施例1と同様にして比較例2に係る濾材を得た。得られた各サンプルについて、坪量、紙厚、密度、透気度、ポアサイズ(P.S)の最大値と中央値、柔軟度、初期効率、ライフを測定した。
【0054】
各サンプルの坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定した。
【0055】
各サンプルの紙厚は、JIS P 8118:2014に準拠して測定した。
【0056】
各サンプルの最大孔径及び平均流量孔径は、2-プロパノールを試験液としてバブルポイント法(ASTM F316?86、JIS K 3832)により測定した。平均流量孔径とは、膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を、膜が乾燥している場合と膜が液体で濡れている場合について測定し、得られたグラフをそれぞれ乾き曲線及び濡れ曲線とし、乾き曲線の流量を1/2とした曲線と、濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)としたとき、式d=cγ/Pで表されるd(μm)の値である。(cは定数、γは液体の表面張力(dynes/cm)である。)また最大孔径とは、液体で濡れているサンプルから最初に気泡が出始めた時の圧力(バブルポイント値)をP(Pa)としたとき、上記式で表されるd(μm)の値である。
【0057】
各サンプルの剛軟度は、JIS L 1096:2010に準拠したガーレ式試験機により、88.9×25.4mmのサンプルを3枚重ねて測定した値(mN)を換算し、剛軟度(mgf)とした。
【0058】
各サンプルの初期効率及びライフについて、ISO19438:2003に準拠したマルチパスフィルタ試験装置を用いて、濾過面積98.5cm2、油量6L、試験流量0.7L/分、濃度42.9mg/Lにて測定した。ここでライフとは、フィルタ圧力損失が試験開始時から100kPa上昇するまでの試験時間(分)としている。
【0059】
各サンプルの組成と物性を、表1に示す。また、各サンプルのリヨセル繊維の配合量と初期効率、ライフの関係を図2のグラフに示す。図において●は初期効率を、▲はライフを、それぞれ示している。さらに、ポアサイズ(最大値)と初期効率、ライフの関係を図3に、平均流量孔径と初期効率、ライフの関係を図4に、それぞれ示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すとおり、実施例1、2では比較例1、2より、初期効率として4μm以上、5μm以上、6μm以上のいずれでも、支持層のリヨセル繊維配合量の増加に伴い比較例よりも高い値を示した。またライフはリヨセル繊維配合量の増加に伴い若干減少したが、比較例2より高い水準を維持した。その理由は、上流側の濾過層の表面で、ダストの粒子を補足することで濾材中の細孔が閉塞することを防止する一方、支持層側に配置したフィブリル化したリヨセル繊維により粒子を補足して初期特性が向上されたものと推測される。
[実施例3~7、比較例3]
【0062】
また実施例3~7に係る濾材と、比較例3に係る濾材とをそれぞれ作成し、特性を比較した。各サンプルの作製方法は、濾過層及び支持層についてそれぞれJIS P 8222に準拠した角型シートマシンを用いて抄紙し、湿紙の状態で積層して120℃の熊谷理機製回転型乾燥機を用いて乾燥させた以外は、上記実施例1等と同様とした。得られた各サンプルについて、坪量、紙厚、初期効率を、実施例1等と同様に測定した。各サンプルの組成と物性を、表2に示す。また、リヨセル繊維の配合量と初期効率の関係を図5のグラフに、それぞれ示す。
【0063】
【表2】
【0064】
これらの表やグラフに示すように、実施例3~7では、支持層へのリヨセル繊維の配合量と初期効率の間に高い相関が見られた。
【0065】
本実施形態に係る濾材は、好ましくは放電加工機用、さらに好ましくはワイヤーカット加工機のフィルタ装置用のフィルタ材として、好適に用いることができる。中でも、ワイヤーカット放電加工機などの放電加工機において、加工時に排出されて加工液中に存在する被加工物の微細な金属屑を除去するフィルタ装置用の濾材として、好適に利用できる。この場合は、濾過対象物は微細な金属屑となる。
(放電加工システム1000)
【0066】
放電加工機200とフィルタ装置100を接続した放電加工システム1000を、図6に示す。この図に示す放電加工システム1000は、放電加工機200と、フィルタ装置100を接続している。放電加工機200は、加工液を蓄えるための加工槽210と、加工槽210に蓄えられた加工液中で放電加工を行う放電加工部220と、放電加工部220の加工動作を制御する制御部230と、加工槽210とフィルタ装置100とで、加工液が循環するように接続7される循環経路240を備える。この放電加工機200は、フィルタ装置100を通じて排水を行うように接続されている。放電加工システム1000は、加工槽210から排出された加工液を、フィルタ装置100で濾過して、加工槽210に環流するよう構成している。
【0067】
また制御部230は、放電加工部220の加工動作を一定期間停止させるよう制御している。このような構成により、夜間等の放電加工機200を使用していない間に、放電加工機200用フィルタに付着した濾過対象物を自重で落下させて、濾過性能の低下を抑制できる。
(フィルタ装置100)
【0068】
フィルタ装置100は、フィルタ材110を挿入したフィルタカートリッジ120を備える。フィルタ材110は、濾過面が縦置きとなる姿勢で保持されている。ここで、放電加工機200に接続されたフィルタ装置100の一例を、図7に示す。この図に示すフィルタ装置100は、円筒状のフィルタカートリッジ120に、濾材10で構成したフィルタ材110を挿入している。このフィルタ装置100は、縦置きの姿勢で静置されており、帯状の矢印で示すように、円周方向から排水を取り入れ、フィルタ材110で濾過して、濾過水を軸方向に排出する、アウトイン方式としている。このようなフィルタ装置100において、放電加工機200の稼働中は、ダストDTを含む排水が循環経路240を介して循環されている。そして排水がフィルタ装置100で濾過されることにより、浄化され、再利用可能な状態としている。
【0069】
一方でフィルタ装置100においては、排水の循環によってフィルタ材110の濾過面にダストDTが堆積していく。このような加工機用のフィルタ装置100では、フィルタ材110の表面に付着した加工屑などのダストDTがケーキ層を形成して滞在し、濾過性能を低下させる。加工機の使用と共に、このようなダストDTの付着量が増えて、圧力損失を低下させ、フィルタ装置100の寿命に至る。
【0070】
このため従来の加工機用のフィルタ装置では、フィルタ装置の延命のため、フィルタ材の表面に付着したダストを、圧縮空気を吹き付けて下方に落下させたり、フィルタ自体を振動させる等、機械的な動作によってふるい落とす構造が採用されていた。しかしながら、フィルタ装置に圧縮空気の吹付機構を付加するには、コンプレッサや配管などを準備する必要があり、構成が複雑化する。また、フィルタ材を振動させる構成においても、このような機械的な動作を生じさせる動力機構を設ける必要があって、同様に手間がかかる。さらにいずれの場合も、圧縮空気の吹付やフィルタ材の振動動作といった作業を繰り返し、定期的に行う必要があり、そのような管理の手間も余計にかかる問題があった。
【0071】
これに対して本実施形態に係る濾材によれば、このような付加的な機構を必要とせず、フィルタ材110自体の特性によって、付着したダストDTを自重で落下させ易くすることで、特別な操作を行うことなく、夜間や休止期間を利用してダストDTをフィルタカートリッジ120の底面に落下、沈降させて、フィルタ材110の濾過性能を回復させることができる。この方法であれば、既存のフィルタ装置をそのまま使用でき、適用のためのコストが不要となる。さらに、ダスト除去のための操作(圧縮空気の吹付やフィルタの振動)を別途、定期的に行う必要もなく、メンテナンス性にも優れる。
【0072】
すなわち本実施形態によれば、表面が平滑な濾材をフィルタとして用いることで、フィルタ表面に付着したダストDTなどが自重でフィルタカートリッジ120の底部に落下して、濾過性能の回復が見込まれる。特に、動作の停止を伴う加工機であれば、動作を停止している期間中に、このようなダストの落下が進み、濾過性能の回復効果が向上する。動作の停止は、一時的なもので足りる。すなわち、数日や数ヶ月といった長い期間でなくても、時間と共にダストの落下が見込まれる。また、ある一定期間を超えると、ダストがほぼ落下することから濾過性能の回復効果が飽和すると思われる。休止期間は、使用する加工機の処理量や加工対象物の材質、大きさ、濾過水の種別、フィルタのサイズなどによっても変化する。本発明者の行った試験によれば、概ね5時間程度の休止期間を設けることで、濾過性能の回復効果が発揮されるとの知見を得た。
【0073】
このような加工機のフィルタの交換時間は、一般にフィルタの圧力損失が規定値(例えば200kPa~300kPa)に達したタイミングで行われる。いいかえると、規定の圧力損失への到達時間によってフィルタの寿命が決まる。
【0074】
また本実施形態によれば、濾材表面に堆積されたダスト粒子が、加工機の停止期間中にフィルタカートリッジ120の底部に落下して、濾材の通液抵抗が低下することにより、圧力損失の上昇を抑え、規定値に達するまでの期間を長くして、フィルタの長寿命化が図られる。すなわち本実施形態に係る濾材は、一定期間以上、動作を停止させる休止期間を設けた加工機に対して好適に利用できる。加工機の休止期間中を利用して、ダストが堆積する量よりも自重で落下させる量を大きくして、濾過性能を回復させる。この方法であれば、特段の工程や処理を経ることなく、通常の運転動作を行いつつ、濾過性能の回復期間が設定されて、フィルタ装置の交換サイクルを長大化できる。
(濾過方法)
【0075】
ここで、本実施形態に係る濾材をフィルタ材として用いたフィルタ装置による濾過方法について説明する。放電加工機用フィルタをセットした放電加工機200で加工を行い、加工水に含まれる濾過対象物を、放電加工機用フィルタの表面に付着させる。そして放電加工機200の加工動作を一定期間以上停止させている間に、放電加工機用フィルタに付着した濾過対象物を自重で落下させる。これにより、夜間等の放電加工機200を使用していない間に、放電加工機用フィルタに付着した濾過対象物を自重で落下させて、濾過性能の低下を抑制できる。
【0076】
なおフィルタ装置の形状は、図7に示した形態に限らず、既知の態様を適宜利用できる。例えば実施形態2に係るフィルタ装置100’として、図8に示すような周囲に放射状に延長された複数の平板状で構成された形態としてもよい。この図に示すフィルタ装置100’も、フィルタカートリッジ120’にフィルタ材110’を挿入している。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る濾材及びこれを用いた放電加工機用フィルタ、ワイヤーカット加工機用フィルタ、放電加工システム、濾材の製造方法は、ワイヤーカット加工機等の加工機用のフィルタ装置に用いるフィルタ材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1…支持層
2…濾過層
10…濾材
100、100’…フィルタ装置
110、110’…フィルタ材
120、120’…フィルタカートリッジ
200…放電加工機
210…加工槽
220…放電加工部
230…制御部
240…循環経路
1000…放電加工システム
DT…ダスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8