(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123307
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】膜製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/30 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
C23C16/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027326
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】591006003
【氏名又は名称】株式会社トリケミカル研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】徐 永華
(72)【発明者】
【氏名】今瀬 章公
(72)【発明者】
【氏名】三橋 智
(72)【発明者】
【氏名】山崎 翔弥
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA18
4K030AA24
4K030BA01
4K030BA24
4K030BA35
4K030CA04
4K030CA06
4K030JA10
4K030JA12
(57)【要約】
【課題】成膜効率が高い高品質なMgF
2膜の成膜技術を提供する。
【解決手段】成膜方法であって、成膜室にMg源が供給される工程と、成膜室にフッ化剤と酸化剤とが併存するよう前記フッ化剤と前記酸化剤とが供給される工程とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜方法であって、
基板に堆積したMg源が、フッ化剤と酸化剤とに、略同時に、曝される
方法。
【請求項2】
成膜方法であって、
前記方法は、
成膜室にMg源が供給される工程と、
成膜室にフッ化剤と酸化剤とが併存するよう前記フッ化剤と前記酸化剤とが供給される工程
とを具備する方法。
【請求項3】
成膜室にMg源が供給されて前記Mg源が基板に堆積する工程と、
前記基板に未堆積のMg源が前記成膜室から除去される除去工程と、
前記除去工程後に、前記フッ化剤と前記酸化剤とが、前記成膜室に、供給される工程
とを具備する請求項1又は請求項2の方法。
【請求項4】
前記フッ化剤と前記酸化剤とが供給された工程後、かつ、前記成膜室にMg源が供給される工程前に、除去工程が有り、
前記除去工程は、基板に堆積した前記Mg源がフッ化マグネシウムに変化するのに寄与しなかった残りのフッ化剤と酸化剤とが除去される工程である
請求項3の方法。
【請求項5】
基板温度が200℃以上に加熱されている
請求項1~請求項4いずれかの方法。
【請求項6】
ALDによる成膜方法である
請求項1~請求項5いずれかの方法。
【請求項7】
前記Mg源は80℃以下において液体である
請求項1~請求項6いずれかの方法。
【請求項8】
前記Mg源は(R1Cp)(R2Cp)Mg[R1,R2は水素原子またはCnH2n+1(nは0~5)である。Cpはシクロペンタジエニル基である。R1とR2とは同一でも異なっても良い。]で表される化合物である
請求項1~請求項7いずれかの方法。
【請求項9】
前記Mg源は(EtCp)2Mgである
請求項1~請求項8いずれかの方法。
【請求項10】
前記フッ化剤は原料温度が0~100℃において、蒸気圧が1torr~100torrである
請求項1~請求項9いずれかの方法。
【請求項11】
前記フッ化剤はC-F結合を有する化合物である
請求項1~請求項10いずれかの方法。
【請求項12】
前記フッ化剤はHfacHである
請求項1~請求項11いずれかの方法。
【請求項13】
前記酸化剤はO3を有する
請求項1~請求項12いずれかの方法。
【請求項14】
基板に対する前記Mg源の暴露量が0.05~10torr・秒、
前記フッ化剤の暴露量が0.1~20torr・秒、
前記酸化剤の暴露量が0.1~10torr・秒である
請求項1~請求項13いずれかの方法。
【請求項15】
成膜速度が0.1nm/cycle以上である
請求項1~請求項14いずれかの方法。
【請求項16】
膜中のC量が1原子%以下である
請求項1~請求項15いずれかの方法。
【請求項17】
MgFx(xは1.8~2.5)膜の成膜方法である
請求項1~請求項16いずれかの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばMgF2膜に関する。
【背景技術】
【0002】
MgF2膜の屈折率は小さい(n=1.38 )。MgF2膜は広い帯域(深紫外線から中赤外線まで)に亘って光透過率に優れている。従って、MgF2は光学素子に利用されている。例えば、反射防止膜などに用いられている。
【0003】
MgF2膜の成膜方法には次の方法が知られている。
バルクなMgF2が電子ビーム(或いは、抵抗加熱)によって溶融させられる。蒸発したMgF2が基板上に堆積する。
この成膜方法には次の問題点が指摘されていた。MgF2膜の均一性が劣っていた。特に、大面積の場合には、MgF2膜全面における均一性が悪い。複雑な構造の素子表面へのMgF2膜の成膜が難しかった。成膜中にスプラッシュ(突沸)が起き易い。この為に、膜には欠陥が出来易かった。
【0004】
原子層成膜法(atomic layer deposition: ALD)が用いられた成膜方法が提案されている。ALDに拠れば前記溶融法による場合の問題点の幾つかが改善される。下記非特許文献1,2,3が前記ALDを用いたMgF2膜の成膜技術として提案されている。
【0005】
非特許文献1に開示の技術は次の通りである。Mg源がビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム((EtCp)2Mg)である。フッ化剤がHFである。MgF2膜がALDで成膜された。
この時のMgF2膜の成膜速度は約0.04nm/cycle(成膜温度:150℃)である。成膜速度が遅い。
腐食性が強いHFが使用されている。ガラス等の材料はHFに弱い。従って、基板に制約が有る。
【0006】
非特許文献2に開示の技術は次の通り(
図3参照)である。Mg源はMg(thd)
2である。前記Mg(thd)
2が成膜室に導入された(工程1)。不活性ガス(N
2)が成膜室に導入され、真空排気された(工程2)。O
3が成膜室に導入された(工程3)。不活性ガス(N
2)が成膜室に導入され、真空排気された(工程4)。HfacH(Hexafluoroacetylacetone:フッ化剤)が成膜室中に導入された(工程5)。不活性ガス(N
2)が成膜室に導入され、真空排気された(工程6)。O
3が成膜室に導入された(工程7)。不活性ガス(N
2)が成膜室に導入され、真空排気された(工程8)。
前記工程1~工程8で1サイクルである。この1サイクルで成膜されたMgF
2膜の厚さは約0.038nmである。従って、約100nm厚のMgF
2膜を成膜しようとすると、約2700回の繰り返しが必用になる。
この製造方法で、工程3,4は必須であった。すなわち、MgF
2膜を形成する為に、まずMgO膜の形成が必要としていた。
この製造方法で、工程7,8は必須であった。すなわち、繰り返しで一原子層のMgF
2膜の上に更に一原子層のMgF
2膜を堆積する為には、工程7,8が必須であった。工程7,8が飛ばされた(工程6後に工程1が行われた)場合、2サイクル目以降のMgF
2膜が成膜できなかった。
【0007】
非特許文献3に開示の技術は次の通りである。Mg源はMg(thd)2である。フッ化剤はTiF4,TaF4である。
非特許文献3の技術は、非特許文献2の技術に比べたならば、成膜プロセスが簡単である。
しかし、TiF4,TaF4は固体で、蒸気圧が低い。原料、容器と配管の高温加熱が必要であり、取扱性が悪い。
成膜速度が約0.16nm/cycle(250℃)~0.07nm/cycle(400℃)である。成膜効率が悪い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Younghee Lee, Huaxing Sun, Matthias J. Young, and Steven M. George, Chem. Mater. 2016,28,7,pp2022-2032
【非特許文献2】Matti Putkonen, Adriana Szeghalmi, Eckhard Pippel, and Mato Knea, J. Mater. Chem. 2011,21,pp14461-14465
【非特許文献3】Tero Pilvi, Timo Hatanpaa, Esa Puukilainen, Kai Arstila, Martin BischOff, Ute Kaiser, Norbert Kaiser, Markku Leskela, and Mikko Ritala, J. Mater. Chem. 2007,17,pp5077-5083
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
MgF2が反射防止膜として利用される場合、前記膜は、例えば100nm厚程度が必要である。前記非特許文献1,2,3に開示の技術は成膜効率が低すぎる。
【0010】
本発明が解決しようとする第1の課題は、成膜効率が高い成膜技術を提供する事である。
本発明が解決しようとする第2の課題は、腐食性が低いフッ素原料、取り扱い易いMg原料を利用する技術を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する為の研究が、本発明者によって、鋭意、推し進められた。
本発明者は、非特許文献2の技術における遅い成膜速度の理由を検討した。その結果、本発明者は、成膜速度が遅い理由は主に次の二つの事であろうと考えるに至った。一つは、非特許文献2の技術では、MgF2膜がMgO膜のフッ化により形成された為、まずはMgO膜の形成が必要となっている。よって、MgO膜の形成が律速になり、MgOの成膜速度以上のMgF2形成速度が望めない。MgO膜からMgF2膜への変換には変換効率の問題もある。もう一つは、非特許文献2の技術では、フッ化源の導入過程のみならず、更に二回の酸化源導入過程もあった。製造工程が倍に増えた。ここで、我々はこのMgO形成工程とMgOからMgF2への変換工程の二つの工程を一つの工程にすることを試みた。即ち、前記Mg源に対して、酸化剤とフッ化剤とを順に(時間を空けて)作用させるのでは無く、酸化剤とフッ化剤とを同時に作用させてみた。前記酸化剤と前記フッ化剤とを同時に成膜室に供給した。
その結果、成膜効率は驚くほど高かった。而も、出来たMgF2膜中の炭素含有量が非常に少なかった。低不純物・高品質のMgF2膜の作製に成功した。
【0012】
前記知見を基にして本発明が達成された。
【0013】
本発明は、基体上にALDによりフッ化マグネシウム(例えば、MgFx(xは1.8~2.5:便宜上、xは2で代表される場合(MgF2)も有る))膜を形成する方法である。
【0014】
フッ化マグネシウム膜の成膜方法であって、基板に堆積したMg源が、フッ化剤と酸化剤とに、略同時に、曝され、高品質な薄いフッ化マグネシウム層を形成する方法を提案する。
【0015】
本発明は、成膜室にMg源が供給される工程Aと、成膜室にフッ化剤と酸化剤とが併存するよう前記フッ化剤と前記酸化剤とが同時に供給される工程Bとを具備する方法を提案する。
本発明は、フッ化マグネシウム膜の形成方法であって、成膜室にMg源が供給される工程Aと、成膜室にフッ化剤と酸化剤とが併存するよう前記フッ化剤と前記酸化剤とが同時に供給される工程Bとを具備する方法を提案する。
本発明は、MgFx(xは1.8~2.5)膜の形成方法であって、成膜室にMg源が供給される工程Aと、成膜室にフッ化剤と酸化剤とが併存するよう前記フッ化剤と前記酸化剤とが同時に供給される工程Bとを具備する方法を提案する。
【0016】
本発明は、
前記膜の形成方法(成膜方法)であって、
前記工程Aと前記工程Bとの間に、好ましくは、工程Cと工程Dとが有り、
前記工程Cは、前記工程Aで供給された前記Mg源の中の基板に未堆積のMg源が成膜室から除去される工程であり、
前記工程Dは、基板に堆積した前記Mg源が前記フッ化マグネシウムに変化するのに寄与しなかった残りのフッ化剤と酸化剤とが除去される工程である
方法を提案する。
【0017】
本発明は、前記膜の形成方法(成膜方法)であって、
好ましくは、前記工程A→前記工程C→前記工程B→前記工程D→前記工程A→前記工程C→前記工程B→前記工程D……の順で繰り返して行われる
方法を提案する。
【0018】
本発明は、前記Mg源が、好ましくは、80℃以下において、液体である方法を提案する。
【0019】
本発明は、前記Mg源が、好ましくは、(R1Cp)(R2Cp)Mg[R1,R2は水素原子またはCnH2n+1(nは0~5)である。Cpはシクロペンタジエニル基である。R1とR2とは同一でも異なっても良い。]で表される化合物である方法を提案する。
【0020】
本発明は、前記Mg源が、好ましくは、(EtCp)2Mgである方法を提案する。
【0021】
本発明は、前記フッ化剤が、好ましくは、原料温度が0~100℃において、蒸気圧が1torr~100torrである方法を提案する。
【0022】
本発明は、前記フッ化剤が、好ましくは、C含量が少ない化合物である方法を提案する。
【0023】
本発明は、前記フッ化剤が、好ましくは、フルオロカーボンである方法を提案する。
【0024】
本発明は、前記フッ化剤が、好ましくは、炭化水素(ここで、炭化水素とは、C,H以外の元素(例えば、O)を持っていても良い。)の一部のHがFに置換された化合物である方法を提案する。
【0025】
本発明は、前記フッ化剤が、好ましくは、HfacHである方法を提案する。
【0026】
本発明は、前記酸化剤が、好ましくは、O3を有する方法を提案する。
【0027】
本発明は、前記膜の形成方法(成膜方法)であって、
前記方法は、好ましくは、
基板に対する前記Mg源の暴露量が0.01~10torr・秒、
前記フッ化剤の暴露量が0.01~20torr・秒、
前記酸化剤の暴露量が0.1~10torr・秒である
方法を提案する。
【0028】
本発明は、前記膜の形成方法(成膜方法)であって、前記基板が、好ましくは、200℃以上に加熱されている方法を提案する。
【0029】
本発明は、好ましくは、前記膜の成膜速度が0.1nm/cycle以上である方法を提案する。
【0030】
本発明は、好ましくは、前記膜の成膜速度が0.15nm/cycle以上である方法を提案する。
【0031】
本発明は、好ましくは、前記膜中のC量が1原子%以下である方法を提案する。
【発明の効果】
【0032】
プロセスが単純であった。成膜速度が大きかった。効率良くフッ化マグネシウム膜が得られた。
炭素含有量が低い高品質のフッ化マグネシウム膜が得られた。
原料選択の自由度が高い。
基板選択の自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態が以下に説明される。
本発明は成膜方法である。フッ化マグネシウム膜の成膜方法である。前記フッ化マグネシウムは、例えばMgFx(xは1.8~2.5)である。MgFxはMgF2で代表される場合もある。
前記方法は次の通りである。基板に堆積したMg源(Mg原料とも称される。)が、フッ化剤(フッ化源とも称される。)と酸化剤(酸化源とも称される。)とに、略同時に、曝される。前記略同時は、同時でも、少しの時間差が有っても良いと言う意味合いである。勿論、酸化剤による処理が終わった後でフッ化剤による処理が始まると言った大きな時間差までは含まれていない。
【0035】
前記方法は次の通りでも良い。
前記方法は、成膜室にMg源(Mg原料とも称される。)が供給される工程(工程Aとも称される。)を具備する。例えば、キャリアーガス(例えば、N2)が前記Mg源含有溶液に供給される。バブリングによって前記溶液から前記Mg源が前記成膜室に供給(輸送)される。前記溶液は、好ましくは、加熱されている。
前記方法は、フッ化剤(フッ化源とも称される。)と酸化剤(酸化源とも称される。)とが成膜室に供給される工程(工程Bとも称される。)を具備する。この工程(工程B)によって、前記フッ化剤と前記酸化剤とが前記成膜室内で併存(共存)する。前記工程Bは前記工程Aの後で行われる。例えば、キャリアーガス(例えば、N2)が前記フッ化剤含有溶液に供給される。バブリングによって前記フッ化剤が前記成膜室に供給(輸送)される。前記溶液は、好ましくは、冷却されている。
前記工程Bが採用されたならば、前記工程Aによって基板に堆積したMg源が、前記フッ化剤と前記酸化剤とに、略同時に、曝される。
前記フッ化剤と前記酸化剤とは、前記成膜室に同時に供給される場合と、時間差を持って供給される場合とが有る。前記フッ化剤と前記酸化剤とが前記成膜室に時間差を持って供給された場合でも、前記成膜室には前記フッ化剤と前記酸化剤とが併存する。従って、前記工程Aによって基板に堆積したMg源が、前記フッ化剤と前記酸化剤とに、略同時に、曝される。前記フッ化剤と前記酸化剤とは、同一経路で前記成膜室に送られても、別経路で前記成膜室に送られても良い。
【0036】
前記方法は、前記成膜室にMg源が供給されて前記Mg源が基板に堆積する工程(工程A又は工程A’とも称される。)を具備する。前記方法は、好ましくは、前記基板に未堆積のMg源が前記成膜室から除去される工程(工程Cとも称される。)を具備する。前記方法は、好ましくは、前記除去工程(工程C)後に、前記フッ化剤と前記酸化剤とが、前記成膜室に、供給される工程(工程B又は工程B’とも称される。)を具備する。
前記方法は、好ましくは、工程Dを具備する。前記工程Dは、前記工程B(B’)の後で前記工程A(A’)の前に行われる。前記工程Dは、基板に堆積した前記Mg源が前記MgF2に変化するのに寄与しなかった残りのフッ化剤と酸化剤とが除去される工程である。
【0037】
前記方法は、好ましくは、前記工程A(A’)→前記工程C→前記工程B(B’)→前記工程D→前記工程A(A’)→前記工程C→前記工程B(B’)→前記工程D→前記工程A(A’)→前記工程C→前記工程B(B’)……の順で繰り返して行われる。繰り返し回数は、目的とするMgF2膜の厚さによって決まる。
【0038】
前記方法にあっては、前記基板に対する前記Mg源の暴露量は、好ましくは、0.01~10torr・秒であった。更に好ましくは0.05torr・秒以上であった。もっと好ましくは0.1torr・秒以上であった。更に好ましくは5torr・秒以下であった。もっと好ましくは1torr・秒以下であった。前記Mg源暴露量が多いと言う事は前記Mg源の使用量が多いと言う事である。多すぎると、無駄が多くなる。処理時間も長い。生産性が低下した。前記Mg源暴露量が少ないと言う事は前記Mg源の前記基板への堆積量が少ない事を意味する。前記Mg源の堆積量が少ない事は成膜速度が遅い事を意味する。生産性が悪かった。斯かる観点から前記範囲が好ましかった。
前記基板(前記堆積したMg源)に対する前記フッ化剤の暴露量は、好ましくは、0.01~20torr・秒であった。更に好ましくは0.1torr・秒以上であった。もっと好ましくは0.5torr・秒以上であった。更に好ましくは10torr・秒以下であった。もっと好ましくは5torr・秒以下であった。前記フッ化剤暴露量が多いと言う事は前記フッ化剤の使用量が多いと言う事である。多すぎると、無駄が多くなる。処理時間も長い。生産性が低下した。前記フッ化剤暴露量が少ないと言う事は前記Mgがフッ化され難い事を意味する。高品質なMgF2が得られ難い。成膜速度が低下した。生産性が悪かった。斯かる観点から前記範囲が好ましかった。
前記基板(前記堆積したMg源)に対する前記酸化剤の暴露量は、好ましくは、0.1~10torr・秒であった。更に好ましくは0.4torr・秒以上であった。更に好ましくは5torr・秒以下であった。もっと好ましくは2torr・秒以下であった。前記酸化剤暴露量が多いと言う事は前記酸化剤の使用量が多いと言う事である。多すぎると、無駄が多くなる。処理時間も長い。生産性が低下した。前記酸化剤暴露量が少ないと言う事は高品質なMgF2が得られ難かった。成膜速度が低下した。生産性が悪かった。斯かる観点から前記範囲が好ましかった。
前記基板は、好ましくは、200℃以上に加熱されている。更に好ましくは250℃以上であった。もっと好ましくは300℃以上であった。特に好ましくは350℃以上であった。好ましくは700℃以下であった。更に好ましくは600℃以下であった。特に好ましくは550℃以下であった。前記温度が低すぎると、酸化が不十分であった。成膜速度が低下した。不純物が膜中に残留し易かった。膜質が悪化した。前記温度が高すぎると、原料が分解した。不純物が膜中に残留し易かった。膜質が悪化した。斯かる観点から前記範囲が好ましかった。
【0039】
前記Mg源は、好ましくは、80℃以下において、液体であった。好ましくは、(R1Cp)(R2Cp)Mg[R1,R2は水素原子またはCnH2n+1(nは0~5。)である。Cpはシクロペンタジエニル基である。R1とR2とは同一でも異なっても良い。好ましくはR1とR2とは同一である。]で表される化合物であった。特に好ましくは(EtCp)2Mgであった。
【0040】
前記フッ化剤は、好ましくは、原料温度が0~100℃において、蒸気圧が1torr~100torrの化合物であった。好ましくはC-F結合を有する化合物であった。好ましくは、フルオロカーボンであった。好ましくは、炭化水素(ここで、炭化水素とは、C,H以外の元素(例えば、O)を持っていても良い。)の一部の水素がフッ素に置換された化合物であった。特に好ましくは、HfacHであった。これ等の化合物(フッ化剤)は、HFに比べると、腐食性が小さかった。基板の制約が少なくなる。
【0041】
前記酸化剤は、好ましくは、O3であった。O3含有ガスでも良い。プラズマ酸素(プラズマ処理された酸素)であっても良い。
【0042】
前記成膜速度が、好ましくは、0.1nm/cycle以上であった。より好ましくは0.15nm/cycle以上であった。
【0043】
前記膜中のC量は、好ましくは、1原子%以下であった。
【0044】
ALD(atomic layer deposition)でMgF2膜が成膜される方法が更に具体的に説明される。
【0045】
図1は本発明が示される成膜フローチャートである。
図2は成膜装置の概略図である。
【0046】
四つの工程(工程A→工程C→工程B→工程D)が
図1に示される。
前記Mg源(例えば、(EtCp)
2Mg)が原料容器1内に入れられている。原料容器1は加熱(例えば、70℃)されている。キャリアーガス(例えば、N
2)が原料容器1内に供給(例えば、50sccm)された。バブリングによって前記(EtCp)
2Mgが原料容器1内から成膜室2に供給された。勿論、バブリング以外の方式が採用されても良い。基板(ガラス或いはシリコンウェーハ等)3が成膜室(反応室)2内に配置されている。前記基板3はヒーター4で加熱(例えば、300℃以上)されている。前記成膜室2内に供給された前記(EtCp)
2Mgが前記基板3上に堆積した。前記基板3が前記(EtCp)
2Mgに曝されている量(暴露量)は0.05~10torr・秒であった(工程A)。
前記工程Aの後、不活性ガス(例えば、N
2)が前記成膜室2内に供給された。この後、前記成膜室2内が真空排気された。これによって、前記成膜室2内に残存する未反応ガスや副生ガス等が排気口5から排出(除去)された(工程C)。
前記工程Cの後、前記フッ化剤(例えば、HfacH)と前記酸化剤(例えば、O
3)とが同時に、前記成膜室2に、供給された。前記HfacHは原料容器6内に入れられている。原料容器6は冷却(例えば、0℃)されている。キャリアーガス(例えば、N
2)が原料容器6内に供給(例えば、100sccm)された。バブリングによって前記HfacHが原料容器6内から成膜室2に供給された。勿論、バブリング以外の方式が採用されても良い。前記O
3がオゾン発生器7から成膜室2に供給された。勿論、O
3はO
3成分が入るボンベから供給されても良い。前記基板3上に堆積している前記(EtCp)
2Mgが前記HfacHに曝されている量(暴露量)は0.1~20torr・秒であった。前記基板3上に堆積している前記(EtCp)
2Mgが前記O
3に曝されている量(暴露量)は0.1~10torr・秒であった(工程B)。
前記工程Bの後、不活性ガス(例えば、N
2)が前記成膜室2内に供給された。この後、前記成膜室2内が真空排気された。これによって、前記成膜室2内に残存する未反応ガスや副生ガス等が排気口5から排出(除去)された(工程D)。
「工程A→工程C→工程B→工程D」が1サイクルである。このサイクルが必要に応じて繰り返された。2サイクルが2回繰り返される場合は「工程A→工程C→工程B→工程D→工程A→工程C→工程B→工程D」である。必要に応じてn(nは自然数)回繰り返される。
【0047】
以下、具体的な実施例が挙げられる。但し、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【実施例0048】
前記基板3が400℃に加熱されている。前記「工程A→工程C→工程B→工程D」が150回繰り返された。成膜速度は0.323nm/cycleであった。48.48nm厚のMgF2膜が基板3上に成膜された。
前記ALD法によって成膜されたMgF2膜は均一性に優れていた。
XPS測定により前記膜の分析が行われた。その結果は次の通りであった。Mg:27.9原子%,F:68.8原子%,O:2.5原子%,C:0.8原子%(XPSの検出限界値に近い。)
前記膜の屈折率は1.38であった。
前記基板3が300℃に加熱されている。前記「工程A→工程C→工程B→工程D」が94回繰り返された。成膜速度は0.137nm/cycleであった。12.92nm厚のMgF2膜が基板3上に成膜された。
前記ALD法によって成膜されたMgF2膜は均一性に優れていた。
XPS測定により前記膜の分析が行われた。その結果は次の通りであった。Mg:28.3原子%,F:64.6原子%,O:6.4原子%,C:0.7原子%(XPSの検出限界値に近い。)
前記膜の屈折率は1.38であった。