(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123337
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】量子システムのシミュレーション方法、コンピューティングデバイス、コンピューティング装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 10/80 20220101AFI20230829BHJP
【FI】
G06N10/80
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170072
(22)【出願日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】202210184325.4
(32)【優先日】2022-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】514322098
【氏名又は名称】ベイジン バイドゥ ネットコム サイエンス テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Beijing Baidu Netcom Science Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】2/F Baidu Campus, No.10, Shangdi 10th Street, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シン ワン
(72)【発明者】
【氏名】シュアンチアン チャオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ユイ
(57)【要約】
【課題】量子システムのシミュレーション方法、コンピューティングデバイス、装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】少なくとも2つの計測結果を取得することと、第1計測結果は第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、第2計測結果は第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、第1目標出力状態は初期時間進化回路が第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、第2目標出力状態は初期時間進化回路が第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、初期時間進化回路は、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得ることと、損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を目標パラメータ化量子回路とすることと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法であって、
少なくとも2つの計測結果を取得することと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得ることと、
前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、前記初期時間進化回路の近似量子回路である目標パラメータ化量子回路とすることと、を含む、
量子システムのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない、
請求項1に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
目標量子システムの初期時間進化回路を取得すること、をさらに含む、
請求項1に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得することと、
予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることと、をさらに含む、
請求項1に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
予め設定されたアルゴリズム、及び前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得すること、をさらに含み、
ここで、前記予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることは、
前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることを含む、
請求項4に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第1量子状態と第2量子状態とは、
【数1】
ここで、前記Uは、前記初期時間進化回路であり、前記V(θ)は、前記プリセットパラメータ化量子回路であり、前記θは、調整可能なパラメータであり、
ここで、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である、
請求項1に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
前記損失関数の損失値が前記反復条件を満たさない場合に、前記調整可能なパラメータの第1パラメータ値を第2パラメータ値に調整することと、
前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を送信することと、をさらに含む、
請求項1に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項8】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
少なくとも2つの新たな計測結果を取得することと、ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記新たな第1出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記新たな第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態であり、
前記少なくとも2つの新たな計測結果に基づいて、新たな損失値が前記反復条件を満たすまで、前記損失関数の新たな損失値を計算して得ることと、をさらに含む、
請求項7に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項9】
量子コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法であって、
プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得ることと、
少なくとも2つの計測結果を得ることと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果を送信することと、を含む、
量子システムのシミュレーション方法。
【請求項10】
前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項11】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
目標量子システムの初期時間進化回路を取得すること、をさらに含む、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項12】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得することと、
予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることと、をさらに含む、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項13】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
予め設定されたアルゴリズム、及び前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得すること、をさらに含み、
ここで、前記予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることは、
前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることを含む、
請求項12に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項14】
前記第1量子状態と第2量子状態とは、
【数2】
ここで、前記Uは、前記初期時間進化回路であり、前記V(θ)は、前記プリセットパラメータ化量子回路であり、前記θは、調整可能なパラメータであり、
ここで、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項15】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
前記初期時間進化回路を前記第1量子状態に作用させて前記第1目標出力状態を得ると共に、前記初期時間進化回路を前記第2量子状態に作用させて前記第2目標出力状態を得ること、をさらに含む、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項16】
前記量子システムのシミュレーション方法は、
前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を受信することと、
前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて新たな第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて新たな第2出力状態を得ることと、
少なくとも2つの新たな計測結果を得ることと、ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、
前記少なくとも2つの新たな計測結果を送信することと、をさらに含む、
請求項9に記載の量子システムのシミュレーション方法。
【請求項17】
少なくとも2つの計測結果を取得するためのデータ取得ユニットと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得、前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、前記初期時間進化回路の近似量子回路である目標パラメータ化量子回路とするためのデータ処理ユニットと、を備える、
古典的コンピューティングデバイス。
【請求項18】
プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得るための量子処理ユニットと、
少なくとも2つの計測結果を得るための計測ユニットと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果を送信するための通信ユニットと、を備える、
量子コンピューティングデバイス。
【請求項19】
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと通信接続されたメモリと、を備え、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶されており、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の量子システムのシミュレーション方法を実行させることを可能にする、
古典的コンピューティングデバイス。
【請求項20】
少なくとも1つの量子処理ユニットと、
前記少なくとも1つの量子処理ユニットに結合され、実行可能な命令を格納することに用いられるメモリと、を備え、
前記命令は前記少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、前記少なくとも1つの量子処理ユニットに、請求項9から請求項16のいずれか1項に記載の量子システムのシミュレーション方法を実行させることを可能にする、
量子コンピューティングデバイス。
【請求項21】
請求項17に記載の古典的コンピューティングデバイスと、
請求項18に記載の量子コンピューティングデバイスと、を備える、
コンピューティング装置。
【請求項22】
プロセッサによって実行されると、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の量子システムのシミュレーション方法を実現し、あるいは、
少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、請求項9から請求項16のいずれか1項に記載の量子システムのシミュレーション方法を実現する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理の技術分野、特に量子コンピューティングの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、量子コンピュータは大規模化と実用化の方向に進んでおり、ますます多くの量子アルゴリズムと応用が次々と登場しており、量子コンピュータが古典的コンピュータを超える大きな潜在力を示している。
【0003】
量子コンピューティングの一つの重要な方向は量子シミュレーション(quantum simulation)であり、即ち化学分子などの量子システムの動態進化をシミュレーションし、量子化学、材料科学などの分野で重要な応用を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、量子システムのシミュレーション方法、コンピューティングデバイス、装置、及び記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの態様では、量子システムのシミュレーション方法を提供し、該方法は、古典的コンピューティングデバイスに適用、
少なくとも2つの計測結果を取得することと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得ることと
前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、前記初期時間進化回路の近似量子回路である目標パラメータ化量子回路とすることと、を含む。
【0006】
本開示のもう1つの様態では、量子システムのシミュレーション方法を提供し、該方法は、量子コンピューティングデバイスに適用、
プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得ることと、
少なくとも2つの計測結果を得ることと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果を送信することと、を含む。
【0007】
本開示のもう1つの様態では、古典的コンピューティングデバイスを提供し、該古典的コンピューティングデバイスは、
少なくとも2つの計測結果を取得するためのデータ取得ユニットと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得、前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、前記初期時間進化回路の近似量子回路である目標パラメータ化量子回路とするためのデータ処理ユニットと、を備える。
【0008】
本開示のもう1つの様態では、量子コンピューティングデバイスを提供し、該量子コンピューティングデバイスは、
プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得るための量子処理ユニットと、
少なくとも2つの計測結果を得るための計測ユニットと、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果を送信するための通信ユニットと、を備える。
【0009】
本開示のもう1つの様態では、古典的コンピューティングデバイスを提供し、該古典的コンピューティングデバイスは、
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと通信接続されたメモリと、を備え、
ここで、前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶されており、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、上記の古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実行させることを可能にする。
【0010】
本開示のもう1つの様態では、量子コンピューティングデバイスを提供し、該量子コンピューティングデバイスは、
少なくとも1つの量子処理ユニットと、
前記少なくとも1つの量子処理ユニットに結合され、実行可能な命令を格納することに用いられるメモリと、を備え、
前記命令は前記少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、前記少なくとも1つの量子処理ユニットに、上記の量子コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実行させることを可能にする。
【0011】
本開示のもう1つの様態では、コンピューティング装置を提供し、該コンピューティング装置は、
上述の古典的コンピューティングデバイスと、上述の量子コンピューティングデバイスと、を備える。
【0012】
本開示のもう1つの態様では、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を提供し、該非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、前記コンピュータに、上記の古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実行させるためのコンピュータ命令を記憶している。
【0013】
本開示のもう1つの態様では、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を提供し、該非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、前記少なくとも1つの量子処理ユニットに、上述の量子コンピューティングデバイスに適用量子システムのシミュレーション方法を実行させるコンピュータ命令を記憶している。
【0014】
本開示のもう1つの態様では、コンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品を提供し、該コンピュータプログラムは、
プロセッサによって実行されると、上記の古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実現し、あるいは、
少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、上記の量子コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実現する。
【0015】
これにより、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路に対する簡略化を実現し、最近の量子コンピューティングデバイスにおいて量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施例における古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法の流れを示す模式図である。
【
図2】本開示の実施例における量子システムのシミュレーション方法の具体例におけるプリセットパラメータ化量子回路の構成を示す模式図である。
【
図3】本開示の実施例における量子コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法の流れを示す模式図である。
【
図4】本開示の実施例における量子システムのシミュレーション方法の具体例での流れを示す模式図である。
【
図5】本開示の実施例における量子システムのシミュレーション方法の具体例におけるプリセットパラメータ化量子回路の構成を示す模式図である。
【
図6】本本開示の実施例における古典的コンピューティングデバイスの構成を示す模式図である。
【
図7】本開示の実施例における量子コンピューティングデバイスの構成を示す模式図である。
【
図8】本開示の実施例におけるコンピューティングデバイスの構成を示す模式図である。
【
図9】本開示の実施例における量子システムのシミュレーション方法の古典的電子デバイスのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここに記載された内容は、本開示の実施例のキーポイントまたは重要な特徴を記述することを意図せず、また、本開示の範囲を制限することにも用いられないことを理解すべきである。本開示の他の特徴については、下記の明細書を通して説明を促す。
【0018】
添付図面は、本方案をより良く理解するためのものであり、本開示を限定するものではない。
【0019】
以下では、本開示の例示的な実施例を、理解を容易にするために本開示の実施形態の様々な詳細を含む添付の図面に関連して説明するが、これらは単に例示的なものであると考えるべきである。したがって、当業者は、本開示の範囲及び精神を逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態に様々な変更及び修正を加えることができることを認識すべきである。同様に、以下の説明では、周知の機能及び構成については、明確化及び簡明化のために説明を省略する。
【0020】
高効率で実用的な量子シミュレーションは、量子化学における新薬や電池の研究開発などで高い応用可能な将来性があるが、その理由は量子シミュレーションがミクロ世界の量子システムの進化のシミュレーションに用いることができ、それによって研究開発者の新材料の研究開発、化学分子の性質のシミュレーションなどを助けることがためである。
【0021】
その上、量子シミュレーションは量子機械学習におけるいくつかのよく見られる量子アルゴリズムの核心的なサブステップであり、例えば量子主成分分析(quantum principal component analysis)と量子線形システム求解方案(quantum algorithm for linear systems of equations)などである。
【0022】
以下、量子シミュレーションについてさらに詳しく説明する。具体的には、時間に伴う量子システムの進化は、その量子システムのハミルトニアン(Hamiltonian)によって決まる。具体的には、その進化があるハミルトニアンHによって決定される量子システムの場合、その時間tにおける量子状態は、|Ψ(t)>=e-iHT|Ψ(0)>になる。
【0023】
【0024】
本開示の方案の主要な技術的課題は、1つのハミルトニアンHと進化時間tを定め、該ユニタリ行列U=e-iHtに近似し、且つ簡略化された量子回路を設計すること、即ち目標時間進化回路を設計することである。
【0025】
実際の応用において、短期と中期の量子コンピューティングデバイスが実現できる量子ビット数が少なく、ノイズの影響を受け、精度が限られているため、如何にさらに少ない量子ビットと基礎量子ゲートを用いて同じ精度の量子シミュレーションを実現するかが最近の量子アルゴリズムの重要な問題となっている。
【0026】
これに基づいて、本開示の方案により、最近の量子コンピューティングデバイスが提供することができるパラメータ化量子回路(Parameterized Quantum Circuits、PQCs)を十分に利用し、任意の量子シミュレーション方案(すなわり予め設定されたアルゴリズム)に基づき、革新的に該パラメータ化量子回路を訓練することで、より簡単で、量子ゲートの数がより少ない目標時間進化回路を得ることができ、これにより、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げる。また、本開示の方案の訓練プロセスは簡単かつ高効率である。
【0027】
具体的には、本開示の方案は、古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を提供し、
図1に示すように、以下のステップを含む。
【0028】
ステップS101において、前記古典的コンピューティングデバイスが、少なくとも2つの計測結果を取得し、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数である。
【0029】
理解できるのは、本開示の方案における前記初期時間進化回路は、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、プリセットパラメータ化量子回路は調整可能なパラメータを含む任意の量子回路であり、このように、該プリセットパラメータ化量子回路を訓練することによって、該初期時間進化回路の簡略化回路を得、量子シミュレーションを実現するコストを最大限に下げる。
【0030】
ここで、前記第1パラメータ値は、初期化時のパラメータ値であってもよく、または、前回の反復処理プロセスによって調整されたパラメータ値であってもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0031】
理解できるのは、本開示の方案における前記調整可能なパラメータは、1つまたは複数のパラメータであってもよく、本開示の方案ではこれを限定せず、プリセットパラメータ化量子回路に基づいて初期時間進化回路の近似量子回路を訓練により得ることができれば良い。したがって、調整可能パラメータが2つ以上である場合、第1パラメータ値、及び後で説明する第2パラメータ値は、必ずしも1つの具体的な値ではなく、相応のパラメータに対応するパラメータ値を指し、たとえば、パラメータ組に対応する1組のパラメータ値である。
【0032】
ステップS102において、前記古典的コンピューティングデバイスが、前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得る。
【0033】
ステップS103において、前記古典的コンピューティングデバイスが、前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、目標パラメータ化量子回路とし、ここで、前記目標パラメータ化量子回路は、前記初期時間進化回路の近似量子回路である。
【0034】
このようにして、本開示の方案は目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0035】
例えば、プリセットパラメータ化量子回路は主にいくつかの単一量子ビット回転ゲートと制御否定ゲートを含むことができ、ここで、単一量子ビット回転ゲートの回転角度は、該プリセットパラメータ化量子回路における調整可能なパラメータであり、具体的には、
図2に示すように、3つの量子ビットの量子システムの場合、選択された訓練対象のパラメータ化量子回路(即ち、プリセットパラメータ化量子回路)も、量子ビットQ1、量子ビットQ2及び量子ビットQ3という3つの量子ビットを含み、さらに、各量子ビットにはそれぞれ単一量子ビット回転ゲートU
3が作用し、例えば、前記U
3回転ゲート(即ち、例えば、X軸、Y軸、又はZ軸上での回転操作のような、ブロッホ球上での一般的な回転操作)は、3つの調整可能なパラメータを含む。具体的には、量子ビットQ1に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3にとって、3つの調整可能なパラメータをそれぞれ、θ
11、θ
12及び、θ
13と記し、即ち該量子ビットQ1に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
11,θ
12,θ
13)のように記すことができ、同様に、量子ビットQ2に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
21,θ
22,θ
23)と記し、及び量子ビットQ3に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
31,θ
32,θ
33)と記すことができる。さらに、量子ビットQ1と量子ビットQ2との間にはCNOTゲートが、量子ビットQ2と量子ビットQ3との間にはCNOTゲートが、及び量子ビットQ1と量子ビットQ3との間にはCNOTゲートが作用し、即ち計3つのCNOTゲートがある。
【0036】
理解できるのは、上記で示されたプリセットパラメータ化量子回路は例示的なものであり、本開示の方案を限定するものではなく、実際の応用において、他の構造のパラメータ化量子回路を訓練することも可能であり、本開示の方案では限定しない。
【0037】
本開示の方案の1つの具体例において、前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない。即ち、本開示の方案は、可能な限り少ない量子ゲートを含む目標パラメータ化量子回路を、該初期時間進化回路の近似量子回路として用いることができ、これにより、初期時間進化回路をより簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築くことができる。
【0038】
その上、本公開の方案は補助量子ビットを使用しなくても該初期時間進化回路の近似量子回路を得ることができるため、補助量子ビットを使用する必要がある既存の方案より、本公開は可能な限り少ない量子ビットを使用し、ひいては量子シミュレーションのコストをさらに低減する。
【0039】
本開示の方案の1つの具体例において、以下の方法により初期時間進化回路を得ることができる。具体的には、古典的コンピューティングデバイスは、シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得することと、予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることと、を含む。即ち、この具体例において、初期時間進化回路の取得が依存する関連情報を具体的に明らかにしていることで、古典的コンピューティングデバイスにおいて初期時間進化回路をシミュレーションにより得、さらに該初期時間進化回路は即ち該目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、その後に該初期時間進化回路を簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築く。
【0040】
ここで、理解できるのは、上述の予め設定されたアルゴリズムは任意の量子シミュレーションアルゴリズムであってもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0041】
なお、この具体例において、前記初期時間進化回路は、目標量子システムの目標ハミルトニアン、時間パラメータ、及び予め設定されたアルゴリズムに基づいて得られる。しかし、実際の応用において、該初期時間進化回路はユーザが直接入力したものであってもよく、即ち、古典的コンピューティングデバイスが直接取得した、ユーザに指定された該目標量子システムに対応する初期時間進化回路であってよく、このようにして、ユーザに指定された初期時間進化回路を簡略化することができる。このように、ユーザの様々なニーズを満たし、本公開方式の実用性をさらに向上することができる。
【0042】
理解できるのは、この例において、予め設定されたアルゴリズムは、古典的コンピューティングデバイスに組み込まれていてもよく、古典的コンピューティングデバイスが現在のコンピューティングリソースに基づいて選択していてもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0043】
本開示の方案の1つの具体例において、該初期時間進化回路を以下の方法で得ることもできる。具体的には、前記古典的コンピューティングデバイスは、予め設定されたアルゴリズムを取得する(例えば、ユーザによって入力された予め設定されたアルゴリズムを取得する)とともに、前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得する。その上、上述の予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることは、具体的に、前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることを含む。このように、この後に該初期時間進化回路を簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築く。
【0044】
理解できるのは、この例では、予め設定されたアルゴリズムはユーザによって入力されてもよく、このようにして、ユーザのニーズをさらに満たし、量子シミュレーションのコストを低減すると同時に、異なる科学研究のニーズを満たす。
【0045】
本開示の方案の1つの具体例において、前記第1量子状態と第2量子状態とは、次の条件を満たす。
【0046】
【0047】
ここで、前記Uは、前記初期時間進化回路であり、前記V(θ)は、前記プリセットパラメータ化量子回路であり、前記θは、調整可能なパラメータである。
【0048】
このようにして、最小限の入力状態を使用して、プリセットパラメータ化量子回路を訓練するためのサポートが提供される。言い換えれば、本開示の方案は少なくとも2つの量子状態を使用して、初期時間進化回路の近似量子回路を訓練により得ることができ(このプロセスは、数学的推論に基づく証明により得ることができるため、ここではこれ以上言及しない)ので、従来の方案に比べて、本開示の方案は効率とコストの面で大きな優位性を有する。例えば、nが比較的大きい場合、本開示の方案は量子状態の生成と保存のための消費を効果的に低減することができ、同時に、プリセットパラメータ化量子回路の訓練に必要な時間を低減することができる。さらに、本開示の方案は比較的少ないデータを用いて損失関数を計算できるということは、本開示の方案による誤差が小さく、よってより精度が高く、より実用的であることを意味する。
【0049】
本開示の方案の1つの具体例において、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である。例えば、一例では、前記第1量子状態と第2量子状態とはいずれもランダムに生成された混合量子状態であり、このようにして、初期時間進化回路を簡略化するためのデータサポートが提供される。
【0050】
ここで、本開示の方案における量子状態(即ち、第1量子状態と第2量子状態)について簡単に説明する。具体的には、量子力学では、量子状態(quantum state)を密度行列(density matrix)で表すことができ、純粋状態(pure state)と混合状態(つまり混ざった状態)(mixed state)に分けることができる。本開示の方案の具体例との区別を容易にするために、ここで、純粋状態は、ρpと記し、混合状態は、ρmと記すことがある。理解できるのは、本開示の方案における前記混合状態は、以下の条件を満たす。具体的には、
純粋状態ρpの密度行列はρp=|Ψ><Ψ|と表現することができ、混合状態ρmは2つ以上の純粋状態のアンサンブル(ensemble)形式で表現することができ、即ち混合状態ρmの密度行列は、ρm=Σici|Ψi><Ψi|と表現することができ、ここで、Σici=1である。
【0051】
本開示の方案の1つの具体例において、前記損失関数の損失値が前記反復条件を満たさない場合(例えば、収束していない場合、又は反復回数が予め設定された回数に達していない場合など)、前記古典的コンピューティングデバイスは、前記調整可能なパラメータの第1パラメータ値を第2パラメータ値に調整し、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を送信する。例えば、勾配降下法又は他の最適化方法によって、パラメータを調整し、且つ第2パラメータ値に調整し、さらに、量子コンピューティングデバイスが更新されたパラメータ値に基づいて新たな計測結果を得るために、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を量子コンピューティングデバイスに送信する。このようにして、量子-古典混合のアルゴリズムを実現し、そして初期時間進化回路の近似量子回路を得るために技術的サポートを提供する。
【0052】
本開示の方案の1つの具体例において、前記損失関数の損失値が前記反復条件を満たさない場合(例えば、収束していない場合、又は反復回数が予め設定された回数に達していない場合など)、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を量子コンピューティングデバイスに送信した後、前記古典的コンピューティングデバイスはさらに、少なくとも2つの新たな計測結果を取得し、ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記新たな第1出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記新たな第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態であり、さらに前記少なくとも2つの新たな計測結果が表す新たなトレース距離に基づいて、前記損失関数の新たな損失値を計算して得る。新たな損失値が前記反復条件を満たすまで、このサイクルを繰り返す。
【0053】
即ち、本開示の方案において、量子コンピューティングデバイスはプリセットパラメータ化量子回路の準備に用いられ、且つ計測結果を得、古典的コンピューティングデバイスは損失値の計算を担当し、且つパラメータを更新する。このようにプリセットパラメータ化量子回路を訓練して、量子-古典混合のアルゴリズムを実現し、初期時間進化回路の近似量子回路を得るための技術的サポートを提供する。
【0054】
このようにして、本開示の方案は、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて比較的高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0055】
本開示の方案はさらに、量子コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を提供し、
図3に示すように、以下のステップを含む。
【0056】
ステップS301において、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得る。
【0057】
ステップS302において、少なくとも2つの計測結果を得、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数である。
【0058】
ステップS303において、前記少なくとも2つの計測結果を送信する。
【0059】
なお、量子コンピューティングデバイスは、1つの計測結果を得た後、該計測結果を古典的コンピューティングデバイスに送信することができ、又はすべての計測結果を得た後、一斉に古典的コンピューティングデバイスに送信することができ、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0060】
ここで、前記第1パラメータ値は、初期化時のパラメータ値であってもよく、また、前回の反復処理プロセスによって調整されたパラメータ値であってもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0061】
理解できるのは、本開示の方案における前記調整可能なパラメータは、1つまたは複数のパラメータであってもよく、本開示の方案ではこれを限定せず、プリセットパラメータ化量子回路に基づいて初期時間進化回路の近似量子回路を訓練により得ることができれば良い。したがって、調整可能パラメータが2つ以上である場合、第1パラメータ値、及び後で説明する第2パラメータ値は、必ずしも1つの具体的な値ではなく、相応のパラメータに対応するパラメータ値を指し、たとえば、パラメータ組に対応する1組のパラメータ値である。
【0062】
このようにして、本開示の方案は、第1量子状態及び第2量子状態のような、少なくとも2つの量子状態を使用することで、初期時間進化回路の簡略化を実現でき、量子シミュレーションのリソースコストと時間コストを低減し、量子シミュレーションの実用性を大幅に高め、最近の量子デバイスが複雑な量子アルゴリズムを実行できるための技術的サポートを提供すると同時に、最近の量子デバイスの実用的な応用価値を間接的に高める。
【0063】
同時に、本開示の方案は、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて比較的高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0064】
理解できるのは、前記プリセットパラメータ化量子回路は、上記の例を参照することができ、ここでは繰り返し言及しない。また、実際の応用において、他の構造のパラメータ化量子回路を訓練することも可能であり、本開示の方案ではこれに対して限定しない。
【0065】
本開示の方案の1つの具体例において、前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない。即ち、本開示の方案は、可能な限り少ない量子ゲートを含む目標パラメータ化量子回路を、該初期時間進化回路の近似量子回路として用いることができ、これにより、初期時間進化回路をより簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築くことができる。
【0066】
その上、本公開方案は補助量子ビットを使用しなくても該初期時間進化回路の近似量子回路を得ることができるため、補助量子ビットを使用する必要がある既存の方案より、本公開は可能な限り少ない量子ビットを使用し、ひいては量子シミュレーションのコストをさらに低減する。
【0067】
本開示の方案の1つの具体例において、以下の方法に基づいて初期時間進化回路を得ることができる。具体的には、量子コンピューティングデバイスは、シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得することと、予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることと、を含む。即ち、この具体例において、初期時間進化回路の取得が依存する関連情報を具体的に明らかにしていることで、量子コンピューティングデバイスにおいて初期時間進化回路をシミュレーションにより得、さらに該初期時間進化回路は即ち該目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、その後に該初期時間進化回路を簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築く。
【0068】
ここで、理解できるのは、上記の予め設定されたアルゴリズムは任意の量子シミュレーションアルゴリズムであってもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0069】
なお、この具体例において、前記初期時間進化回路は、目標量子システムの目標ハミルトニアン、時間パラメータ、及び予め設定されたアルゴリズムに基づいて得られる。しかし、実際の応用において、該初期時間進化回路はユーザが直接入力したものであってもよく、即ち、量子コンピューティングデバイスが直接取得した、ユーザに指定された該目標量子システムに対応する初期時間進化回路であってよく、このようにして、ユーザに指定された初期時間進化回路を簡略化することができる。このように、ユーザの様々なニーズを満たし、本公開方式の実用性をさらに向上することができる。
【0070】
理解できるのは、この例において、予め設定されたアルゴリズムは、古典的コンピューティングデバイスに組み込まれていてもよく、古典的コンピューティングデバイスが現在のコンピューティングリソースに基づいて選択していてもよく、本開示の方案ではこれを限定しない。
【0071】
本開示の方案の1つの具体例において、該初期時間進化回路は、以下の方法で得ることもできる。具体的には、前記量子コンピューティングデバイスは、さらに、予め設定されたアルゴリズム、及び前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得し、ここで、上述の予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることは、具体的に、前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることを含む。このように、この後に該初期時間進化回路を簡略化し、量子シミュレーションのコストを低減するための基礎を築く。
【0072】
理解できるのは、この例において、予め設定されたアルゴリズムは、ユーザによって入力されてもよく、このようにして、ユーザのニーズをさらに満たし、量子シミュレーションのコストを低減すると同時に、異なる科学研究のニーズを満たす。
【0073】
本開示の方案の1つの具体例において、前記第1量子状態と第2量子状態とは、次の条件を満たす。
【0074】
【0075】
ここで、前記Uは、前記初期時間進化回路であり、前記V(θ)は、前記プリセットパラメータ化量子回路であり、前記θは、調整可能なパラメータである。
【0076】
このようにして、最小限の入力状態を使用して、プリセットパラメータ化量子回路を訓練するためのサポートが提供される。言い換えれば、本開示の方案は少なくとも2つの量子状態を使用して、初期時間進化回路の近似量子回路を訓練により得ることができ(このプロセスは、数学的推論に基づく証明により得ることができるため、ここではこれ以上言及しない)ので、従来の方案に比べて、本開示の方案は効率とコストの面で大きな優位性を有する。例えば、nが比較的大きい場合、本開示の方案は量子状態の生成と保存のための消費を効果的に低減することができ、同時に、プリセットパラメータ化量子回路の訓練に必要な時間を低減することができる。さらに、本開示の方案は比較的少ないデータを用いて損失関数を計算できるということは、本開示の方案による誤差が小さく、よってより精度が高く、より実用的であることを意味する。
【0077】
本開示の方案の1つの具体例において、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である。例えば、一例では、前記第1量子状態と第2量子状態とはいずれもランダムに生成された混合量子状態であり、このようにして、初期時間進化回路を簡略化するためのデータサポートが提供される。
【0078】
本開示の方案の1つの具体例において、前記量子コンピューティングデバイスはさらに、前記初期時間進化回路を前記第1量子状態に作用させて前記第1目標出力状態を得、及び、前記初期時間進化回路を前記第2量子状態に作用させて前記第2目標出力状態を得る。このようにして、訓練データセットが得られ、初期時間進化回路の近似回路を得るためのデータサポートが提供される。
【0079】
本開示の方案の1つの具体例において、前記量子コンピューティングデバイスはさらに、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を受信し、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて新たな第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて新たな第2出力状態を得、少なくとも2つの新たな計測結果を得、前記少なくとも2つの新たな計測結果を送信する。ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表す。即ち、本開示の方案において、量子コンピューティングデバイスはプリセットパラメータ化量子回路の準備に用いられ、且つ計測結果を得、古典的コンピューティングデバイスは損失値の計算を担当し、且つパラメータを更新する。このようにプリセットパラメータ化量子回路を訓練して、量子-古典混合のアルゴリズムを実現し、初期時間進化回路の近似量子回路を得るための技術的サポートを提供する。
【0080】
このようにして、本開示の方案は目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0081】
以下では、具体例に関連して、本開示の方案に対してさらに詳細な説明を行う。本開示の方案は革新的に、2つのランダムに生成された混合量子状態(mixed quantum state)を用いてパラメータ化量子回路を訓練し、初期時間進化回路(即ち初期量子回路)を簡略化し、該初期量子回路の簡略化量子回路、即ち近似量子回路を得ることができ、さらに、該訓練プロセスは簡単で効率的である。
【0082】
具体的には、シミュレーション対象のハミルトニアンを定め、まず、積公式法又は他の方法に基づいて、該ハミルトニアンの初期量子回路をシミュレーションにより得、次に、パラメータ化量子回路を訓練することによって、該初期量子回路を簡略化し、そして該初期量子回路の近似量子回路を得ることで、該ハミルトニアンをシミュレーションするコストを減少し、例えば、目標時間進化回路(即ち初期量子回路)における量子ゲートの数を減少する。
【0083】
この例では、パラメータ化量子回路は主にいくつかの単一量子ビット回転ゲートと制御否定ゲートを含み、ここで、単一量子ビット回転ゲートの回転角度は、該パラメータ化量子回路における調整可能なパラメータであり、具体的には、
図2に示すように、3つの量子ビットの量子システムの場合、選択された訓練対象のパラメータ化量子回路(即ち、プリセットパラメータ化量子回路)も、量子ビットQ1、量子ビットQ2及び量子ビットQ3という3つの量子ビットを含み、さらに、各量子ビットにはそれぞれ単一量子ビット回転ゲートU
3が作用し、例えば、前記U
3回転ゲート(即ち、例えば、X軸、Y軸、又はZ軸上での回転操作のような、ブロッホ球上での一般的な回転操作)は、3つの調整可能なパラメータを含む。具体的には、量子ビットQ1に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3にとって、3つの調整可能なパラメータをそれぞれ、θ
11、θ
12及びθ
13と記し、即ち該量子ビットQ1に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
11,θ
12,θ
13)のように記すことができ、同様に、量子ビットQ2に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
21,θ
22,θ
23)と記し、及び量子ビットQ3に作用する単一量子ビット回転ゲートU
3は、U
3(θ
31,θ
32,θ
33)と記すことができる。さらに、量子ビットQ1と量子ビットQ2との間にはCNOTゲートが、量子ビットQ2と量子ビットQ3との間にはCNOTゲートが、及び量子ビットQ1と量子ビットQ3との間にはCNOTゲートが作用し、即ち計3つのCNOTゲートがある。
【0084】
理解できるのは、上記で示されたプリセットパラメータ化量子回路は例示的なものであり、本開示の方案を限定するものではなく、実際の応用において、他の構造のパラメータ化量子回路を訓練することも可能であり、本開示の方案では限定しない。
【0085】
なお、本開示の方案は量子コンピューティングデバイス上で実行することもでき、古典的コンピューティングデバイス上でシミュレーションにより完成することもできる。以下において、量子-古典混合のアルゴリズムに基づいてシミュレーションプロセスを完成する、効率最大化の処理方法を提供する。
図4に示すように、具体的なステップは以下のステップを含む。
【0086】
ステップS401において、量子コンピューティングデバイスにおいて、シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアンHと、と時間パラメータtとを入力すると共に、初期時間進化回路(即ち初期量子回路)を得るために必要な予め設定されたアルゴリズムFと、該予め設定されたアルゴリズムFのハミルトニアンH、時間パラメータt以外のパラメータ集合Λとを入力する。
【0087】
ステップS402において、量子コンピューティングデバイスにおいて、入力された情報、即ち目標ハミルトニアンHと、時間パラメータtと、パラメータ集合Λとに基づいて、入力された予め設定されたアルゴリズムFを実行して、該シミュレーション対象の目標ハミルトニアンHの初期時間進化回路(即ち初期量子回路)を得、Uとする。同時に、例えば、
図2に示されたプリセットパラメータ化量子回路のような、プリセットパラメータ化量子回路V(θ)を用意し、ここで、θは該パラメータ化量子回路の調整可能なパラメータである。
【0088】
理解できるのは、ステップ401及びステップ402のプロセスは、量子コンピューティングデバイスによりも計算コストが高いだけで、古典的コンピューティングデバイスにおいてシミュレーションにより得ることもできる。
【0089】
ステップS403において、量子コンピューティングデバイスにおいて、第1混合量子状態ρと第2混合量子状態σとの2つの混合量子状態をランダムに生成する。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
ここで、T(・,・)は2つの量子状態間のトレース距離を表す。そして、この損失関数の損失値を得る。
【0096】
ステップS407において、古典的コンピューティングデバイスにおいて、勾配降下法又はその他の最適化方法によりパラメータθを調整し、損失関数C(θ)を最小化するようにステップS404~ステップ406を繰り返し、得られた最適パラメータをθ*と記す。この最適パラメータθ*に対応する目標パラメータ化量子回路V(θ*)は、初期時間進化回路(即ち初期量子回路)Uの近似量子回路、即ち目標時間進化回路である。
【0097】
ステップS408において、量子コンピューティングデバイスにおいて、本開示の方案に係る、入力された目標ハミルトニアンをシミュレーションするための目標時間進化回路として、目標パラメータ化量子回路V(θ*)を出力する。
【0098】
なお、本開示の方案では、量子-古典混合のアルゴリズムを採用し、量子コンピュータ(即ち量子コンピューティングデバイス)において、プリセットパラメータ化量子回路V(θ)を配置して、対応する出力状態(第1出力状態と第2出力状態)と目標出力状態(第1目標出力状態と第2目標出力状態)との間のトレース距離を計測し、また、古典的コンピュータ(つまり古典的コンピューティングデバイス)において、損失関数C(θ)を計算して、伝統的な最適化方法を使用してパラメータθを最適化して、その後最適化されたθを量子コンピュータに送り返してプリセットパラメータ化量子回路を更新し、このように訓練を完成する。
【0099】
理解できるのは、上記の具体的な方案では、初期時間進化回路を構築するには、ハミルトニアン、シミュレーション時間、初期時間進化回路を生成する予め設定されたアルゴリズムなどを入力する必要があるが、実際の応用において、シミュレーション対象の量子システムの理想時間進化回路が存在する場合には、初期時間進化回路を生成する必要はなく、その理想時間進化回路をそのまま初期時間進化回路Uとすることができる。
【0100】
このように、本開示の方案は、以下の利点を有する。
【0101】
本開示の方案は、より柔軟で実用的である。既存の積公式法のシミュレーション方案(その背景にある数学の原理に制限されているため、シミュレーションによって得られる量子回路のコストが比較的高い)と比べて、本開示の方案は、積公式法による制限を全く受けない。具体的な応用シーンとハードウェアデバイスの特性に応じて柔軟に適切な量子ゲートを選択してプリセットパラメータ化量子回路を構築することができ、また該プリセットパラメータ化量子回路を訓練することで、具体的な量子システムのハミルトニアンの特性を抽出しやすくなり、同様なシミュレーション精度の下で使用する量子ゲートの数を大幅に減らすことができる。そのため、本公開の方案は量子ビットの数が限られ、ノイズの影響を受けやすい最近の量子コンピューティングデバイスに更に適しており、汎用性と実用性を兼ね備えている。
【0102】
本開示の方案は補助量子ビットなしで量子シミュレーションを実現することができ、最近の量子コンピューティングデバイスにおいて量子シミュレーションを実現することに適しており、効率性がある。
【0103】
以下、本開示の方案の利点を、具体的な例に関連してさらに示す。具体的には、この例では、シミュレーション対象の量子システムとして、一次元でリング状のハイゼンベルクモデル(Heisenberg model)を選択する。ハイゼンベルクモデルは物理でよく使われるモデルであり、そのハミルトニアンは次のような形で書くことができる。
【0104】
【数9】
ここで、nは量子システムにおける量子ビットの数を表し、σ
k
x,σ
k
y,σ
k
zはそれぞれ第k個の量子ビット上のパウリ行列(Pauli matrices)を表し、h
kは環境磁場と関係する係数を表す。該量子システムはリング状の構造を有しているため、第n+1個の量子ビットは即ち1つ目の量子ビットを表すことになる。具体的な数値実験において、この例では、n=3即ち3個の量子ビットのハイゼンベルクモデルを選び、[-1,1]の範囲内でランダムに磁場係数h
kを生成する。
【0105】
まず、2次トロッター・鈴木積公式(即ち、上記の予め設定されたアルゴリズム)に基づいて、4320個の量子ゲートを含む初期時間進化回路Uを構築すると共に、48個の量子ゲートのみを含むプリセットパラメータ化量子回路V(θ)を用意し、その各層構造は
図5に示すように計8層である。
【0106】
次に、本開示の方案で説明した方法に基づいて、構築したプリセットパラメータ化量子回路V(θ)を訓練し、300回の反復訓練を経て訓練後の目標パラメータ化量子回路V(θ*)を得て、それと初期時間進化回路Uのゲート忠実度(gate fidelity)は0.9999に達する。このように、本公開の方案によれば、シミュレーション精度を保証する前提の下でシミュレーションのコストを大幅に下げることができることを十分に説明できる。
【0107】
本開示の方案はまた、
図6に示すように、古典的コンピューティングデバイスを提供し、該古典的コンピューティングデバイスは
少なくとも2つの計測結果を取得するためのデータ取得ユニット601と、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1出力状態は、プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が第2量子状態に作用した後の出力状態であり、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果が表すトレース距離に基づいて、平均トレース距離を表す損失関数の損失値を計算して得、前記損失関数の損失値が反復条件を満たす場合に、前記調整可能なパラメータが第1パラメータ値にあるプリセットパラメータ化量子回路を、前記初期時間進化回路の近似量子回路である目標パラメータ化量子回路とするためのデータ処理ユニット602と、を備える。
【0108】
このようにして、本開示の方案は目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0109】
本開示の方案の具体例において、前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない。
【0110】
本開示の方案の具体例において、前記データ取得ユニットは、目標量子システムの初期時間進化回路を取得することにさらに用いられる。
【0111】
本開示の方案の具体例において、前記データ取得ユニットは、シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得することにさらに用いられ、
前記データ処理ユニットは、予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることにさらに用いられる。
【0112】
本開示の方案の具体例において、前記データ取得ユニットは、予め設定されたアルゴリズム、及び前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得することにさらに用いられ、
前記データ処理ユニットは、前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることにさらに用いられる。
【0113】
【0114】
本開示の方案の具体例において、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である。
【0115】
本開示の方案の具体例において、前記データ取得ユニットは、前記損失関数の損失値が前記反復条件を満たさない場合に、前記調整可能なパラメータの第1パラメータ値を第2パラメータ値に調整し、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を送信することにさらに用いられる。
【0116】
本開示の方案の具体例において、前記データ取得ユニットは、少なくとも2つの新たな計測結果を取得することにさらに用いられ、ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記新たな第1出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態であり、前記新たな第2出力状態は、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態であり、
前記データ処理ユニットは、前記少なくとも2つの新たな計測結果に基づいて、新たな損失値が前記反復条件を満たすまで、前記損失関数の新たな損失値を計算して得ることにさらに用いられる。
【0117】
上述した古典的コンピューティングデバイスにおける各ユニットの具体的な機能は、上述した方法の説明を参照することができ、ここでは繰り返し説明しない。
【0118】
このようにして、本開示の方案は目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0119】
本開示の方案はまた、
図7に示すように、量子コンピューティングデバイスを提供するし、該量子コンピューティングデバイスは、
プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが第1パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて第2出力状態を得るための量子処理ユニット701と、
少なくとも2つの計測結果を得るための計測ユニット702と、ここで、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第1計測結果は、前記第1出力状態と第1目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記少なくとも2つの計測結果のうちの第2計測結果は、前記第2出力状態と第2目標出力状態との間のトレース距離を表し、前記第1目標出力状態は、初期時間進化回路が前記第1量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記第2目標出力状態は、前記初期時間進化回路が前記第2量子状態に作用した後の出力状態を表し、前記初期時間進化回路は、n個の量子ビットを含む目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路であり、前記プリセットパラメータ化量子回路は、n個の量子ビットを含み、且つ調整可能なパラメータを含む量子回路であり、前記nは1以上の自然数であり、
前記少なくとも2つの計測結果を送信するための通信ユニット703と、を備える。
【0120】
本開示の方案の具体例において、前記プリセットパラメータ化量子回路における量子ゲートの数は、前記初期時間進化回路における量子ゲートの数よりも少ない。
【0121】
本開示の方案の具体例において、前記量子処理ユニットは、目標量子システムの初期時間進化回路を取得することにさらに用いられる。
【0122】
本開示の方案の具体例において、前記量子処理ユニットは、シミュレーション対象の目標量子システムの目標ハミルトニアン、及び時間パラメータを少なくとも取得し、予め設定されたアルゴリズムに基づいて前記目標量子システムの目標ハミルトニアンと前記時間パラメータとに対して処理を行い、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることにさらに用いられる。
【0123】
本開示の方案の具体例において、前記量子処理ユニットは、予め設定されたアルゴリズム、及び前記予め設定されたアルゴリズムのパラメータ集合を取得し、前記目標ハミルトニアンと、時間パラメータと、前記パラメータ集合とに基づいて前記予め設定されたアルゴリズムを実行し、前記目標量子システムのユニタリ行列をシミュレーションし、且つ少なくとも時間パラメータを含む初期時間進化回路を得ることにさらに用いられる。
【0124】
【0125】
本開示の方案の具体例において、前記第1量子状態は混合量子状態であり、及び/又は、前記第2量子状態は混合量子状態である。
【0126】
本開示の方案の具体例において、前記量子処理ユニットは、前記初期時間進化回路を前記第1量子状態に作用させて前記第1目標出力状態を得ると共に、前記初期時間進化回路を前記第2量子状態に作用させて前記第2目標出力状態を得ることにさらに用いられる。
【0127】
本開示の方案の具体例において、前記量子処理ユニットは、前記調整可能なパラメータの第2パラメータ値を受信し、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第1量子状態に作用させて新たな第1出力状態を得ると共に、前記プリセットパラメータ化量子回路自身の調整可能なパラメータが前記第2パラメータ値にある場合に、該プリセットパラメータ化量子回路を少なくとも第2量子状態に作用させて新たな第2出力状態を得ることにさらに用いられ、
前記計測ユニットは、少なくとも2つの新たな計測結果を得ることにさらに用いられ、ここで、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第1計測結果は、新たな第1出力状態と前記第1目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、前記少なくとも2つの新たな計測結果のうちの新たな第2計測結果は、新たな第2出力状態と前記第2目標出力状態との間の新たなトレース距離を表し、
前記通信ユニットは、前記少なくとも2つの新たな計測結果を送信することにさらに用いられる。
【0128】
上述の量子コンピューティングデバイスにおける各ユニットの具体的な機能は上述の方法の説明を参照することができ、ここでは繰り返し説明しない。
【0129】
このようにして、本開示の方案は、第1量子状態及び第2量子状態のような、少なくとも2つの量子状態を使用することで、初期時間進化回路の簡略化を実現でき、量子シミュレーションのリソースコストと時間コストを低減し、量子シミュレーションの実用性を大幅に高め、最近の量子デバイスが複雑な量子アルゴリズムを実行できるための技術的サポートを提供すると同時に、最近の量子デバイスの実用的な応用価値を間接的に高める。
【0130】
同時に、本開示の方案は、目標量子システムのユニタリ行列の近似量子回路の簡略化を実現し、短期と中期の量子コンピューティングデバイスにおいて比較的高いシミュレーション精度を達成できる量子回路を設計し、最近の量子コンピューティングデバイスで量子シミュレーションを実現するコストを大幅に引き下げ、最近の量子デバイスで実用的な量子シミュレーション応用を実現する可能性を高め、実用性と効率性を兼ね備えている。
【0131】
本開示の方案はまた、
図8に示すように、コンピューティング装置を提供し、該コンピューティング装置は、
上述した古典的コンピューティングデバイス801と、
上述した量子コンピューティングデバイス802と、を備える。
【0132】
上述の古典的コンピューティングデバイスの具体的な構造、及び古典的コンピューティングデバイスにおける各ユニットの具体的な機能は上述の方法の説明を参照することができ、同様に、上述の量子コンピューティングデバイスの具体的な構造、及び量子コンピューティングデバイスにおける各ユニットの具体的な機能は上述の方法の説明を参照することができ、ここでは繰り返し説明しない。
【0133】
本開示の方案はまた、コンピュータ命令を格納した非瞬間的なコンピュータ可読記憶媒体を提供し、少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されるときに、前記コンピュータ命令は、上記の量子コンピューティングデバイスに適用される前記方法を前記少なくとも1つの量子処理ユニットに実行させる。
【0134】
本開示の方案はまた、プロセッサによって実行されると、上記の古典的コンピューティングデバイスに適用される前記方法を実現し、
あるいは、少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、上記の量子コンピューティングデバイスに適用される前記方法を実現するコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0135】
本開示の方案はまた、量子コンピューティングデバイスを提供し、該量子コンピューティングデバイスは、
少なくとも1つの量子処理ユニットと、
前記少なくとも1つの量子処理ユニットQPUに結合され、実行可能な命令を格納することに用いられるメモリと、を備え、
前記命令は前記少なくとも1つの量子処理ユニットによって実行されると、前記少なくとも1つの量子処理ユニットに、量子コンピューティングデバイスに適用される前記方法を実行させることを可能にする。
【0136】
理解できるのは、本開示の方案で使用される量子処理ユニット(quantum processing unit,QPU)は,量子プロセッサまたは量子チップとも呼ばれることがあり、特定の方法で相互接続された複数の量子ビットを含む物理チップに係ることができる。
【0137】
さらに、理解できるのは、本開示の方案に記載された量子ビットは、量子コンピューティングデバイスの基本的な情報ユニットを指すことができる。量子ビットはQPUに含まれ、古典的なデジタルビットの概念を広める。
【0138】
本開示の実施例によれば、本開示は、古典的コンピューティングデバイス(以下、この古典的コンピューティングデバイスが具体的に電子デバイスであることを例として説明する)、読取可能記憶媒体及びコンピュータプログラム製品をさらに提供する。
【0139】
本開示の実施例によれば、本開示はまた、電子デバイス、可読記憶媒体、及びコンピュータプログラム製品を提供する。
【0140】
図9は、本開示の実施例を実現するための電子デバイス900のブロック図である。電子デバイスは、各形式のデジタルコンピュータを指し、例えば、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ワークステーション、パーソナルデジタルアシスタント、サーバー、ブレードサーバー、大型コンピュータ、及びその他の適合するコンピュータが挙げられる。電子デバイスは、各形式の移動装置を更に指し、例えば、パーソナルデジタルアシスタント、セルラー電話、インテリジェントフォン、ウェアラブルデバイス、及びその他の類似のコンピュータ装置が挙げられる。本開示に記載されているコンポーネント、それらの接続関係、及び機能は例示的なものに過ぎず、本開示に記載・特定されているものの実現を限定するわけではない。
【0141】
図9に示すように、デバイス900は、リードオンリーメモリ(ROM)902に記憶されたコンピュータプログラム命令、又は記憶ユニット908からランダムアクセスメモリ(RAM)903にローディングされたコンピュータプログラム命令に基づいて、各種の適切な動作と処理を実行できるコンピューティングユニット901を含む。RAM903には、デバイス900の動作に必要な各種のプログラム及びデータを更に記憶することができる。コンピューティングユニット901と、ROM902と、RAM903とは、バス904を介して互いに接続されている。入力/出力(I/O)インターフェース905もバス904に接続されている。
【0142】
デバイス900における複数のコンポーネントは、I/Oインターフェース905に接続されており、その複数のコンポーネントは、キーボードやマウス等の入力ユニット906と、種々なディスプレイやスピーカ等の出力ユニット908と、磁気ディスクや光学ディスク等の記憶ユニット908と、ネットワークカード、モデム、無線通信トランシーバー等の通信ユニット909と、を備える。通信ユニット909は、デバイス900がインターネットのようなコンピュータネット及び/又は種々なキャリアネットワークを介して他の機器と情報/データを交換することを許可する。
【0143】
コンピューティングユニット901は、処理及びコンピューティング能力を有する様々な汎用及び/又は専用の処理コンポーネントであってもよい。コンピューティングユニット901のいくつかの例としては、中央処理装置(CPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、様々な専用の人工知能(AI)コンピューティングチップ、様々な機械学習モデルアルゴリズムを実行するコンピューティングユニット、デジタル信号プロセッサ(DSP)、及び任意の適切なプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を備えるが、これらに限定されない。コンピューティングユニット901は、上述で説明された各方法及び処理、例えば古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実行する。例えば、いくつかの実施例では、古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を、記憶ユニット908のような機械読み取り可能な媒体に有形的に含まれるコンピュータソフトウエアプログラムとして実現することができる。一部の実施例では、コンピュータプログラムの一部又は全ては、ROM902及び/又は通信ユニット909を介して、デバイス900にロード及び/又はインストールすることができる。コンピュータプログラムがRAM903にロードされてコンピューティングユニット901によって実行される場合に、前述した古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法の1つ又は複数のステップを実行することができる。追加可能に、他の実施例では、コンピューティングユニット901は、他の任意の適当な方式(例えば、ファームウェア)により古典的コンピューティングデバイスに適用される量子システムのシミュレーション方法を実行するように構成することができる。
【0144】
ここで記載されているシステム又は技術の各種の実施形態は、デジタル電子回路システム、集積回路システム、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け標準品(ASSP)、システムオンチップ(SOC)、コンプレックスプログラマブルロジックデバイス(CPLD)、コンピュータのハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、及び/又はこれらの組み合わせによって実現することができる。これらの各実施形態は、少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステムにて実行及び/又は解釈される1つ又は複数のコンピュータプログラムにより実行することを含み得、該プログラマブルプロセッサは、ストレージシステム、少なくとも1つの入力デバイス、及び少なくとも1つの出力デバイスからデータ及び命令を受け取り、データ及び命令を該ストレージシステム、該少なくとも1つの入力デバイス、及び該少なくとも1つの出力デバイスに転送することができる専用又は汎用のプログラマブルプロセッサであってもよい。
【0145】
本開示の方法を実行するためのプログラムコードは、1つ又は複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで作成することができる。これらのプログラムコードは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ又は他のプログラミングデータ処理装置のプロセッサ又はコントローラに提供されることにより、プログラムコードがプロセッサ又はコントローラによって実行される場合に、フローチャート及び/又はブロック図に規定された機能/動作を実行することができる。プログラムコードは、完全にマシンで実行されてもよいし、部分的にマシンで実行されてもよいし、独立したソフトパッケージとして部分的にマシンで実行されるとともに部分的にリモートマシンで実行されてもよし、又は完全にリモートマシン又はサーバーで実行されてもよい。
【0146】
本開示の説明において、機械読み取り可能な媒体は、有形な媒体であってもよく、命令実行システム、装置又は機器によって、又は命令実行システム、装置又は機器と合わせて用いられるプログラムを含み、又は記憶する。機械読み取り可能な媒体は、機械読み取り可能な信号媒体又は機械読み取り可能な記憶媒体であってもよい。機械読み取り可能な媒体は、電子、磁気、光学、電磁、赤外線、又は半導体システム、装置、又はデバイス、又は前述した内容の任意の適切な組み合わせを含むことができるがこれらに限定されない。機械読み取り可能な記憶媒体のさらなる具体例として、1つ又は複数の配線による電気的接続、ポータブルコンピュータディスクカートリッジ、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(RMO)、消去可能なプログラマブルリードオンリーメモリ(EPRMO又はフラッシュメモリ)、光ファイバー、ポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD-RMO)、光学記憶装置、磁気記憶装置、又は前述した内容の任意の組み合わせを含む。
【0147】
ユーザとのインタラクションを提供するために、コンピュータでここで記載されているシステム及び技術を実施することができ、該コンピュータは、ユーザに情報を表示するための表示装置(例えば、CRT(陰極線管)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニター等)、ユーザが入力をコンピュータに提供するためのキーボード及びポインティングデバイス(例えば、マウス又はトラックボール等)を備えるができる。ユーザとのインタラクションを提供するために、他の種類の装置を使用することもでき、例えば、ユーザに提供するフィードバックは、いかなる形式のセンサーフィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバック等)であってもよく、また、いかなる形式(例えば、音響入力、音声入力、触覚入力等)によって、ユーザからの入力を受付取ることができる。
【0148】
ここに記載されているシステムと技術を、バックグラウンド部品に含まれるコンピューティングシステム(例えば、データサーバーとして)、又はミドルウェア部品を含むコンピューティングシステム(例えば、アプリケーションサーバー)、又はフロント部品を含むコンピューティングシステム(例えば、GUI又はネットワークブラウザを有するユーザコンピュータが挙げられ、ユーザがGUI又は該ネットワークブラウザによって、ここに記載されているシステムと技術の実施形態とインタラクションすることができる)、又はこのようなバックグラウンド部品、ミドルウェア部品、又はフロント部品のいかなる組合したコンピューティングシステムで実施することができる。如何なる形式又はメディアのデジタルデータ通信(例えば、通信ネットワーク)を介して、システムの部品を互いに接続することができる。通信ネットワークの例は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)及びインターネットを含む。
【0149】
コンピュータシステムは、クライアントとサーバーを含み得る。通常、クライアントとサーバーは、互いに離れており、通信ネットワークを介してインタラクションを行うことが一般的である。対応するコンピュータで動作することで、クライアント-サーバーの関係を有するコンピュータプログラムによってクライアントとサーバーの関係を生み出す。
【0150】
上記の様々な態様のフローを使用して、ステップを新たにソート、追加、又は削除することが可能であることを理解すべきである。例えば、本開示で記載された各ステップは、並列に実行しても良いし、順次に実行しても良いし、異なる順序で実行しても良い。本開示で開示された技術案が所望する結果を実現することができる限り、本開示ではこれに限定されない。
【0151】
上記具体的な実施形態は、本開示の保護範囲に対する限定を構成するものではない。当業者は、設計事項やその他の要因によって、様々な修正、組み合わせ、サブ組み合わせ、及び代替が可能であることを理解するべきである。本開示の要旨及び原理原則内における変更、均等な置換及び改善等は、いずれも本開示の保護範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0152】
801 古典的コンピューティングデバイス
802 量子コンピューティングデバイス
900 電子デバイス
901 計算ユニット