(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123362
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】車両のトルクベクタリング制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20230829BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20230829BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023018438
(22)【出願日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】22158399.0
(32)【優先日】2022-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・タゲソン
(72)【発明者】
【氏名】レオ・レイン
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA20
3D241CA13
3D241CA15
3D241CC17
3D241CD03
3D241CE01
3D241CE04
3D241CE05
3D241CE09
3D241DB02Z
3D241DB08Z
3D241DB12Z
3D241DB15Z
3D241DB24Z
3D241DB42Z
3D241DB47Z
3D241DB48Z
3D241DC43Z
3D241DC45Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】道路バンクを補償することができる改良された車両制御方法を提供する。
【解決手段】道路バンク角による大型車両100の横方向のドリフトを低減するためのコンピュータに実装される方法で、該大型車両は非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配に関連付けられる。この方法は、大型車両が縦断しようとする道路区間211の道路バンク角を取得するステップと、該道路バンク角に対する車両運動応答を示す車両モデルであって、アンダーステア/オーバーステア勾配を含む車両モデルを取得するステップと、道路バンク角と該車両モデルに基づいて、道路区間における大型車両の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルクを求めるステップと、該第1の補償トルクを大型車両の異なる複数の車輪に適用して、道路バンク角による大型車両の横方向のドリフトを低減するステップとを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路バンク角(ψ)による大型車両(100)の横方向のドリフトを低減するためのコンピュータに実装される方法であって、前記大型車両は非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配(Ku)に関連付けられ、
前記大型車両(100)が縦断しようとする道路区間(211)の道路バンク角(ψ)を取得するステップ(S1)と、
前記道路バンク角(ψ)に対する車両運動応答を示す車両モデルであって、前記アンダーステア/オーバーステア勾配(Ku)を含む車両モデルを取得するステップ(S2)と、
前記道路バンク角(ψ)と前記車両モデルに基づいて、前記道路区間(211)における前記大型車両(100)の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルク(TC)を求めるステップ(S3)と、
前記第1の補償トルク(TC)を前記大型車両(100)の異なる複数の車輪(140)に適用して、前記道路バンク角(ψ)による前記大型車両の横方向のドリフトを低減するステップ(S4)と
を含むコンピュータに実装される方法。
【請求項2】
前記第1の補償トルク(TC)の決定は、前記道路区間(211)の終点における前記大型車両(100)の横移動(Δy)のドリフトを低減させること(S31)に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の補償トルク(TC)の決定は、前記道路区間(211)を縦断中の前記大型車両(100)の横速度(vy)のドリフト及び/又はヨーレート(ωz)のドリフトを低減すること(S32)に基づく、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両モデルは、前記道路バンク角(ψ)に応じた、重心(420)での横速度(vy)および前記重心でのヨーレート(ωz)をモデル化する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アンダーステア/オーバーステア勾配(Ku)は、前記大型車両(100)の複数の車軸のそれぞれのコーナリング剛性に基づく、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コーナリング剛性は、前記大型車両(100)の複数の車輪(140)のタイヤ特性に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コーナリング剛性は、車両のロールステア幾何学的特性に基づく、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記コーナリング剛性は、前記大型車両(100)が道路区間(211)を縦断したときの該大型車両の車両運動測定値から求められる、請求項5から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記車両運動測定値は、道路バンク角(ψ)、横移動(Δy)、横速度(vy)、縦速度(vx)、ヨーレート(ωz)および前記第1の補償トルク(TC)のうちのいずれかを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記大型車両(100)は、牽引ユニット(430)と、連結ジョイント(441)によって接続された少なくとも1つの被牽引ユニット(440)とを含み、前記車両モデルは、前記道路バンク角(ψ)に応じた前記連結ジョイントにおける横方向結合力(FC)をモデル化する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記被牽引ユニット(440)は複数の被駆動輪を備え、前記方法は、前記道路バンク角(ψ)と前記車両モデルに基づいて、前記道路区間(211)における前記大型車両(100)の前記連結ジョイントでの前記結合力(FC)を低減するための第2の補償トルク(TC2)を求めるステップ(S5)と、該第2の補償トルクを前記被牽引ユニットの複数の被駆動輪に適用して、前記大型車両(100)の前記連結ジョイントにおける、前記道路バンク角(ψ)による前記結合力(FC)を低減するステップ(S6)をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記道路バンク角(ψ)が所定の閾値を超える場合に、前記第1の補償トルク(TC)が適用される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記道路バンク角(ψ)は、地図データおよび/または1つまたは複数の車両センサから取得される(S11)、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
コンピュータ上でまたは制御ユニット(110)の処理回路(710)上で実行されるときに、請求項1~13のいずれか1項に記載のステップを実施するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム(720)。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラム(720)と、該コンピュータプログラムが格納されるコンピュータ可読手段(710)とを含むコンピュータプログラム製品(700)。
【請求項16】
道路バンク角(ψ)による大型車両(100)の横方向のドリフトを低減するための制御ユニット(110)であって、前記大型車両は非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配(Ku)に関連付けられ、前記制御ユニットは、処理回路(610)と、前記処理回路(610)に結合されたネットワークインターフェース(620)と、前記処理回路(610)に結合されたメモリ(630)とを備え、該メモリは、機械可読コンピュータプログラム命令を含み、該命令が前記処理回路によって実行されるとき、前記制御ユニット(110)は、
前記大型車両(100)が縦断しようとする道路区間(211)の道路バンク角(ψ)を取得し、
前記道路バンク角(ψ)に対する車両運動応答を示す車両モデルであって、前記アンダーステア/オーバーステア勾配(Ku)を含む車両モデルを取得し、
前記道路バンク角(ψ)と前記車両モデルに基づいて、前記道路区間(211)における前記大型車両(100)の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルク(TC)を求め、
前記第1の補償トルク(TC)を前記大型車両(100)の異なる複数の車輪(140)に適用し、前記道路バンク角(ψ)による前記大型車両の横方向のドリフトを低減する、制御ユニット(110)。
【請求項17】
請求項16に記載の制御ユニット(110)を備える大型車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人間のドライバーが支援を受ける車両や自律走行車両において、道路のバンクを補償するために横方向の操舵制御支援を提供するシステムおよび方法に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、トルクベクタリングを用いた操舵支援技術に関する。本発明を主に大型車両に関して記載するが、本発明はこの特定のタイプの車両に限定されず、他のタイプの車両にも使用できる。
【背景技術】
【0002】
車両が、バンクのある道路、すなわち、該車両の縦方向に対して横方向に傾斜した道路を走行している場合、重力によって該車両は側方に移動する。この現象は例えば競輪場において望ましく、なぜなら、バンクがない場合と比べて、ドライバーはハンドルをあまり動かすことなく、その曲率に追随できるからである。直線の道路区間もまた、例えば路面から排水するために、多くの場合バンクを有する。この場合、道路バンクによる横方向移動は望ましくない。この例においては、ドライバーは軌道にとどまるためにカウンターステアを行う必要がある。ほとんどの道路はこのようにバンクを有するため、ドライバーは何マイルもの間カウンターステアを行う必要がある場合があり、これは望ましくない。計画された経路をたどる自律車両においては、道路バンクも考慮されるべきである。
【0003】
特許文献1は、車両の横方向操舵制御を提供する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
しかしながら、道路バンクを考慮した操舵制御方法の更なる改良は引き続き必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、道路バンクを補償することができる改良された車両制御方法を提供することである。この目的は、道路のバンク角による大型車両(heavy‐duty vehicle)の横方向のドリフトを低減するためのコンピュータに実装される方法によって少なくとも部分的に達成される。そこでは、該大型車両は非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配(アンダーステア勾配又はオーバーステア勾配、あるいはそれらの両方)に関連付けられる。本方法は、大型車両が縦断しようとする道路区間の道路バンク角を取得するステップと、該道路バンク角に対する車両運動応答を示す車両モデルであって、アンダーステア/オーバーステア勾配を含む車両モデルを取得するステップと、道路バンク角と該車両モデルに基づいて、該道路区間における大型車両の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルクを求めるステップと、該第1の補償トルクを大型車両の異なる複数の車輪に適用し、道路バンク角による大型車両の横方向のドリフトを低減するステップとを含む。
【0007】
この補償トルクは、トルクベクタリングタイプの車両制御である。非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配によって、このようなトルクベクタリングを使用して、車輪を転舵することなく道路バンクを補償することが可能になる。これにより、道路バンクからくる外乱に影響されにくい、より予測性の高い車両が実現する。さらに、ステアリングホイールが車輪に直接接続されている場合、道路バンクを補償するための車輪の転舵は、ドライバーに特に感知されやすい。このことは、動きが滑らかでないときに特に望ましくないが、フィードバック型の操舵制御においては一般的なことである。
【0008】
本方法は、車両の横方向移動の測定値に直接依存しないフィードフォワード型の制御を用いる。つまり、開示される制御方法は、既に発生した横方向のドリフトを補償するような反応型の手段に依存しない。代わりに、開示される制御方法は、来たる道路区間(Upcoming road section)の道路バンク情報に基づくことによる事前対応型である。このようなフィードフォワード制御の利点は、フィードバック制御方法に比べて走行のぎくしゃく感が小さいと同時に、道路バンク補償の点で優れたパフォーマンスを示すことである。
【0009】
ある態様によれば、第1の補償トルクの決定は、道路区間の終点における大型車両の横移動のドリフトを低減させることに基づく。意図した車両経路が車両の縦方向に直進するものである場合、横移動はゼロであるべきである。そこからの逸脱はいずれもドリフトと見なされ、望ましくない。しかし、意図された車両経路がカーブに沿って走行するものである場合、非ゼロ値の横移動が望まれる。ただし、その場合、この所望の値からのドリフトが生じる可能性がある。よって、第1の補償トルクは、トルク補償がない場合に発生するであろう横移動と所望の横移動との差を低減するために求められる。
【0010】
代替的に、あるいは、組み合わせて、第1の補償トルクの決定は、道路区間縦断中の大型車両の横速度のドリフトおよび/またはヨーレートのドリフトを低減させることに基づくことができる。横速度のドリフトおよび/またはヨーレートのドリフトを最小化することが望ましい場合や、横速度のドリフトおよび/またはヨーレートのドリフトを最小化するだけで十分な場合もある。
【0011】
ある態様によれば、車両モデルは、道路バンク角に応じた、重心での横速度および重心でのヨーレートをモデル化する。これは、例えば、単一軌道モデル(one-track model)であり得る。このモデルは大型車両をモデル化するための比較的単純だが正確な方法である。
【0012】
ある態様によれば、アンダーステア/オーバーステア勾配は、大型車両の複数の車軸のそれぞれのコーナリング剛性に基づく。その場合、コーナリング剛性は、比較的静的なパラメータである大型車両の車輪の寸法やタイヤ構造などのタイヤ特性、または比較的動的なパラメータである空気圧や負荷などに基づく。更にまたは代替的に、コーナリング剛性は車両のロールステア幾何学的特性に基づき得る。該ロールステア幾何学的特性はトラックにおいて一般的な現象であり、コーナリング剛性としてモデル化できる。
【0013】
ある態様によれば、コーナリング剛性は、大型車両が道路区間を縦断したときの大型車両の車両運動測定値から求められる。換言すれば、コーナリング剛性は、車両の運転中の直近の測定値から少なくとも部分的に求められる。本方法では、来たる道路区間における所望の横方向運動に関して、車両モデルを使用して第1の補償トルクが決定される。このような決定に用いられる方程式は、車両が区間を縦断した後に実際の横方向運動を測定する場合に、逆方向に使用できる。例えば、横移動は全地球航法衛星システムを使用して把握できる。車両モデル、道路バンク情報および適用された補償トルクを使用して、測定された横方向移動から車両モデルの特定のパラメータを計算できる。これにより、車両モデルで使用されるコーナリング剛性などのパラメータを更新することができ、その後の操舵制御が改善される。ある態様によれば、コーナリング剛性を求めるために使用される車両運動測定値は、道路バンク角、横移動、横速度、縦速度、ヨーレート、および第1の補償トルクのうちのいずれかを含む。
【0014】
ある態様によれば、大型車両は、牽引ユニットおよび連結ジョイントによって連結された少なくとも1つの被牽引ユニットを備える。そこでの車両モデルは、道路バンク角に応じた、連結ジョイントにおける横方向の結合力をモデル化する。この横方向の結合力が補償されない限り、横方向のドリフトが引き起こされるが、これは望ましくない。しかし、牽引車両に第1の補償トルクを適用することによって、横方向の結合力による不要な動きを補償できる。
【0015】
ある態様によれば、被牽引ユニットは複数の被駆動輪を備え、本方法は、道路バンク角と車両モデルに基づいて、道路区間における大型車両の連結ジョイントでの結合力を低減するための第2の補償トルクを求めるステップと、該第2の補償トルクを該被牽引ユニットの複数の被駆動輪に適用して、大型車両の連結ジョイントにおける、道路バンク角による結合力を低減するステップをさらに含む。道路バンクによる横方向の結合力がゼロになるか、または少なくとも低減されると、牽引車両の操舵制御が簡素化できる。特に、道路バンクによる外乱の低減を考慮するための第1の補償トルクの決定が簡素化できる。
【0016】
ある態様によれば、道路バンク角は、地図データおよび/または1つまたは複数の車両センサから取得される。車両センサは、来たる道路区間における道路バンク角の近似値として使用可能な現在のバンク角や、来たる道路区間のバンク角情報を提供できる。第1の補償トルクは、道路バンク角がいずれの値でも車両に適用されてよく、または道路バンク角が所定の閾値を超える場合にのみ適用されてよい。これにより、車両の運動の揺れを低減できる。
【0017】
本明細書ではまた、コンピュータ上または制御ユニットの処理回路上で実行されるときに、前述の本方法のステップを実行するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムも開示される。
【0018】
本明細書ではまた、上記のコンピュータプログラムと、このコンピュータプログラムが格納されるコンピュータ可読手段とを含むコンピュータプログラム製品も開示される。
【0019】
本明細書ではまた、道路バンク角による大型車両の横方向のドリフトを低減するための制御ユニットも開示される。そこでは、大型車両が非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配に関連付けられる。制御ユニットは、処理回路と、該処理回路に結合されたネットワークインターフェースと、該処理回路に結合されたメモリとを備える。該メモリは、機械可読コンピュータプログラム命令を含み、該命令が処理回路によって実行されるとき、制御ユニットは、大型車両が縦断しようとする道路区間の道路バンク角を取得し、該道路バンク角に対する車両運動応答を示す車両モデルであって、アンダーステア/オーバーステア勾配を含む車両モデルを取得し、道路バンク角と該車両モデルに基づいて、該道路区間における大型車両の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルクを求め、該第1の補償トルクを大型車両の異なる複数の車輪に適用し、道路バンク角による大型車両の横方向のドリフトを低減する。
【0020】
本明細書ではまた、上述の制御ユニットを備える大型車両も開示される。
【0021】
全体的に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で別段明示的に規定されない限り、技術分野のそれらの普通の意味に従って解釈されるべきである。「1つ(a)/1つ(an)/その(the)要素、装置、構成要素、手段、ステップ等々」に対する全ての参照は、別段明示的に記述されない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップ等々のうちの少なくとも1つの事例を参照していると開放的に解釈されるべきである。本明細書に開示された任意の方法のステップは、明示的に記述されない限り、開示された正確な順序で実行しなくてもよい。本発明の更なる特徴や利点は、添付された特許請求の範囲と次の説明を検討するときに明らかになろう。当業者は、本発明の様々な特徴が組み合わされて以下で説明されるそれら以外の実施形態を作成でき、本発明の範囲から逸脱しないことを理解する。
【0022】
添付の図面を参照して、以下に、例として言及される本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】バンクを有する道路上の大型車両を示す図である。
【
図7】例示的なコンピュータプログラム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のある態様が示されている添付の図面を参照して、本発明をさらに十分に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載されている実施形態と態様に制限されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が十分かつ完全であって、本発明の範囲を当業者に十分に知らしめるように単なる例示として提示されている。同じ参照番号は、明細書全体を通して同様の要素を指す。
【0025】
本発明は、本明細書に記載し図面で示した実施形態に制限されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、添付の請求項の範囲内において多くの変更及び修正がなされ得ることを認識するだろう。
【0026】
図1は、貨物輸送用の例示的な大型車両100を概略的に示す。大型車両は、特に車両の運動を制御するためのローカル制御ユニット110を備える。制御ユニット110は、様々なタイプのサポートシステムおよび先進運転支援システム(ADAS)などの車両機能安全のためのシステムや自律的な運転システム(ADS)のための機能などを実装できる。車両は、制御ユニット110を含む車両制御システムを支援するために演算を行うように構成された処理デバイス130に、接続120されていてよい。接続120は、好ましくは無線であるが、有線接続や、ハードドライブなどの記憶モジュールを介した接続であってもよい。
【0027】
ここで、大型車両100は、より重い物や大量の貨物の取り扱いや輸送を目的として設計された車両を示すものとする。例えば、大型車両は、
図1のようなトラックであるか、または、第5の車輪接続などの公知の方法によってトレーラユニットを牽引するように構成されたトラックまたは牽引車両を備える車両連結体である。大型車両は、建設、採掘作業などに使用するよう設計された車両であり得る。本発明を主に大型車両に関して記載するが、本発明はこの特定のタイプの車両に限定されず、他のタイプの車両にも使用してよい。
【0028】
図2および
図3は、バンクを有する道路210を縦断する大型車両100を示す。
図2は上面図であり、
図3は後方から、すなわち長手方向に車両を見た図である。該道路は水平方向に対してバンク角ψを有し、該水平方向は重力方向に対して垂直である。
図2には、車両の出発位置Sが示される。車両は、道路区間211を縦断しようとしている。定常状態の運動を仮定すると、補償操舵を行わない場合は、道路バンクにより時間t
P後に車両は位置P
Bに到達するだろう。その場合、車両は経路230を辿るだろう。この場合、経路220に沿って直進して時間t
P後に位置Pに到達する経路が所望の経路である。位置P
Bは、車両の出発位置の長手方向に対して、横移動Δyを有する。位置Pは、出発位置Sから長手方向距離L
Pだけ離れたところにある。この距離は、L
P=v
xt
pから求められる。ここで、v
xは車両の縦速度である。これらの位置は、例えば、車両の重心の位置を表す。
【0029】
図2の例では、大型車両の横方向のドリフトが生じている。ここでドリフトとは、所望の値からのずれを意味する。この例では、道路バンクの補償が適用されない場合、道路区間の終点における車両は横移動Δyを有する。さらに、この例では、横移動Δyがゼロであることが望ましく、この場合、横移動のドリフトがΔyに等しいことを意味する。しかし、本開示では一般的に、横移動Δyは常にゼロに等しくなければならないわけではない。例えばカーブにおいては、所望の横移動Δy
Dがあり得る。その場合、横移動のドリフトは、Δy
Dと、補償がない場合に発生するであろう横方向の移動距離との差である。さらに、横方向のドリフトは、ヨーレートや横速度など、横方向運動に関連する他のパラメータのドリフトを意味し得る。これらについては以下で詳しく説明する。
【0030】
道路バンクを補償する方法として、車輪でカウンターステアを行う方法がある。多くの場合、ステアリングホイールは車輪に機械的に結合されているため、道路バンクによる外乱を補償するためにカウンターステアが用いられると、ステアリングホイールも動く。このようなアプローチには別の限界があり、その限界とは、横方向移動(外乱)の計測に関与するセンサによって、ステアリングホイールのぎくしゃくした感覚をドライバーが感じるという点である。そのため、常にこの作用を用いるのではなく、外乱が十分大きいと検知された場合にのみ用いる必要がある。一方で、そうすることで、大きなドリフトは考慮される前に発生する可能性がある。
【0031】
本開示は、トルクベクタリングを使用して、道路バンクによる横方向のドリフトを補償することに関する。トルクベクタリングの一般的な考え方は、異なる複数の車輪に異なるトルクを適用して、垂直方向の有効トルクベクトルを提供することである。トルクベクタリングでは、各シャフトに対するトルクを変化させられるディファレンシャルが使用され得る。大型車両が単一軌道モデル(一般的に二輪モデルとも呼ばれる)を使用してモデル化されている場合(これについては後で詳しく説明する)、2つのシャフトに異なるトルクを適用すると、その車軸の有効二輪車輪において、垂直方向を指す有効トルクベクトルが生じる。このような垂直方向のトルクは、大型車両の操舵を制御するために使用できる。ディファレンシャルトルクは、大型車両の前部および/または後部に配置される1つまたは複数の車軸に適用できる。その場合、異なる車軸間でもトルクベクトルが生成され得る。さらに、車輪ごとに独立したモータを使ってトルクベクタリングを行うこともでき、これは電気自動車に一般的なことである。
【0032】
トルクベクタリングは、車輪に正のトルクまたは負のトルクを加えることで達成できる。しかし、負のトルクのためにブレーキを用いることは、長時間継続して適用できないことから好ましくない。一方、車軸の両輪を個別に制御する電気駆動では、継続的にトルクベクタリングを提供できる。
【0033】
要約すると、本開示は、大型車両100の異なる複数の車輪に補償トルクを適用して、道路バンクによる大型車両の横方向のドリフトを低減することに向けられる。この補償トルクは、例えば、上記トルクベクタリング技術を使用して適用される。
【0034】
開示される方法は、車輪とステアリングホイールとの間に直接的な機械的接続を有する大型車両に特に関連するが、この方法は、そのような直接的接続を有しない車両、例えば、ドライブバイワイヤを用いる車両にも好適である。
【0035】
本開示では、大型車両の横方向移動の測定値に直接依存しないフィードフォワード型の制御を使用する。すなわち、開示される制御は、既に発生した横方向のドリフトを補償するための反応型の手段に依存しない。開示される制御方法は、代わりに、来たる道路区間(Upcoming road section)の道路バンク情報に基づくことによる事前対応型である。道路バンク角ψは、例えば、地図データおよび/または1つまたは複数の車両センサから得られる。このようなフィードフォワード制御の利点は、フィードバック制御方法に比べて走行のぎくしゃく感が小さいと同時に、道路バンクの補償の点で優れたパフォーマンスを示すことである。
【0036】
図4は、開示される方法において使用できる大型車両の車両モデルを示す。このモデルは、前輪411と後輪412を含む単一軌道の二輪モデルである。牽引車両は質量mを有し、車輪411と車輪412の間に重心(COG)420を有する。COGにおいて、車両は横速度v
y、縦速度v
x、および垂直のヨーレートω
zを有する。前輪と後輪の間のホイールベースはLとする。Lは、前輪とCOGの間の距離L-
Fと、後輪とCOGの間の距離L
Rとの和、つまり、L=L-
F+-L
Rである。二輪モデルにおける前輪と後輪は、それぞれの横方向の線形コーナリング剛性C
F、C
Rに関連付けらる。
【0037】
一般にコーナリング剛性C
αは、車両の進行方向と車両が向く方向との間の角度である横すべり角α
slipに、横力F
y,slipがどのように依存するかを表す。スリップ角が小さい場合、例えば8度未満の場合、横力は、
【数1】
として表すことができる。
【0038】
コーナリング剛性は、大型車両100の車輪140のタイヤ特性、例えば、寸法、タイヤ構造(例えば、バイアスプライ又はラジアルプライ)、タイヤトレッド、コードアングル、プライ数等に基づき得る。これらのパラメータは比較的静的である。これらのパラメータが与えられると、空気圧及び負荷(つまり、特に車両の質量と形状から決定される垂直の力)が、コーナリング剛性に大きな影響を与える他のタイヤ特性となる。
【0039】
アクスルロールステア(Axle roll steer)は、トラックに一般的な現象である。この現象は、単一軌道モデルを使用する場合にコーナリング剛性の変化としてモデル化できる。したがって、CFとCRの値を調整することによって、ロールステアを考慮することができる。
【0040】
二輪モデルの前輪と後輪のコーナリング剛性を用いて、アンダーステア/オーバーステア勾配(アンダーステア勾配又はオーバーステア勾配、あるいはそれらの両方)K
uを計算することができる。アンダーステア/オーバーステア勾配K
uとは一般に、半径が一定である円を走行する際に、速度が上がるにつれて操舵をどの程度調整すべきかの指標である。アンダーステア/オーバーステア勾配K
uは、例えば、
【数2】
に従って、大型車両100の複数の車軸のそれぞれのコーナリング剛性に基づき得る。
【0041】
この車両モデルはさらに以下を仮定する。その仮定とは、大型車両100が線形タイヤ特性を有すること、大型車両が定常状態に達していること、つまり、横速度vy、縦速度vx、及びヨーレートωzの時間微分がゼロであることである。さらに、スリップ率vy/vxは小さいと仮定する。これらの仮定は過渡状態を除く多くの場合に有効である。一般的にこれらの仮定は、いずれかの条件が変更された後、数百ミリ秒後に有効になる。
【0042】
道路バンクによる横方向の外乱力F
Dは、
【数3】
として表される。ここで、gは重力定数、ψは道路区間211のバンク角である。
【0043】
例示的なシナリオでは、開示された方法によって、モデル化された二輪の後輪412に第1の補償トルクTCが適用される。しかしながら、上述したように、道路バンク補償のためのトルクベクタリングは、多くの異なる方法において達成できる。
【0044】
図4Aの二輪モデルを含む車両モデルと上記の仮定を用いると、横力の平衡とトルクの平衡は、
【数4】
として表すことができる。v
yとω
zについて解くと、
【数5】
が得られる。
【0045】
これら2つの方程式、つまり、方程式(1)と(2)から、道路バンクによる横方向の外乱FDがヨーレートωzと横速度vyの両方に影響することが分かる。注目すべきことに、大型車両がいわゆるニュートラルステア状態である場合、つまり、Ku=0である場合は、道路バンクはヨーレートに影響しない。ニュートラルステアの構成、あるいは少なくとも小さいアンダーステア/オーバーステア勾配を有する構成は、乗用車では比較的一般的であるが、大型車両では一般的ではない。2つの方程式はさらに、第1の補償トルクTCもヨーレートωzと横速度vyの両方に影響することを示している。しかし、TCはFDと比較するとKuに対して逆の関係を有する。Ku=0のとき、TCはvyに影響しない。したがって、これら2つの方程式が示すように、大型車両が非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配Kuに関連付けられるときは、補償トルクを適用することによって道路バンクによる横方向のドリフトを補償することが明示的に可能である。
【0046】
アンダーステア/オーバーステア勾配は車両の特性であるため、開示された方法で使用される車両モデルにおいて暗黙的にまたは明示的に反映される。換言すれば、車両モデルは、アンダーステア/オーバーステア勾配Kuを含む。方程式(1)及び(2)のパラメータ、例えばKu、LR、L-F、CR、CFは、大型車両100の横方向運動を計算するために明示的に使用される。また、例えば、第1の補償トルクTCが比vy/vxにどのように影響するかを測定することによって、パラメータを車両モデルに暗黙的に反映させることもできる。その場合、TCとvy/vxを関連付ける因子は、まとまりとして求められる。方程式(1)において、この因子は、比Ku/Lである。これにより、非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配は車両モデルに暗黙的に反映される。このような暗黙的な反映を用いることにより、モデルの不正確さを考慮できる。同様に、外乱力FDと比ωz/vxとを関連付ける何らかの因子を求めて、アンダーステア/オーバーステア勾配Kuを車両モデルにおいて暗黙的に反映させることができる。
【0047】
開示された方法は、
図5に要約される。
図5は、道路バンク角ψによる大型車両100の横方向のドリフトを低減するためのコンピュータに実装される方法を示す。ここで、大型車両は、非ゼロのアンダーステア/オーバーステア勾配K
uと関連付けられる。本方法は、大型車両100が縦断しようとする道路区間211の道路バンク角ψを取得するステップ(S1)と、該道路バンク角ψに対する車両運動応答を示す車両モデルであって、アンダーステア/オーバーステア勾配K
uを含む車両モデルを取得するステップ(S2)と、道路バンク角ψと該車両モデルに基づいて、道路区間211における大型車両100の横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルクT
Cを求めるステップ(S3)と、該第1の補償トルクT
Cを大型車両100の異なる複数の車輪140に適用し、道路バンク角ψによる大型車両の横方向のドリフトを低減するステップ(S4)とを含む。
【0048】
前述したように、道路バンク角ψは、例えば、地図データ及び/又は1つまたは複数の車両センサから取得できる(S11)。例えば、来たる道路区間211が長手方向に10メートル延びている場合、地図からその区間におけるバンクの平均値として道路バンク角ψが得られる。代替的に、または、組み合わせて、車両センサは、来たる道路区間におけるバンク角の近似値として使用可能な現在のバンク角を提供できる。このようなセンサの例としては、ジャイロ、加速度計、傾斜センサ、およびサスペンションシステムの圧力センサがある。カメラ、ライダー、レーダなどの他の車両センサも、来たる道路区間のバンク角情報を提供できる。第1の補償トルクTCは、道路バンク角ψの任意の値に対して車両に適用されてもよいし、道路バンク角ψが所定の閾値を超える場合にのみ適用されてもよい。
【0049】
道路区間211の長手方向の長さは、多くの異なる方法において求められる。例えば、モデルの仮定が正確な運動予測をもたらすと予想される時間係数を、大型車両の縦速度vxに乗じたものがある。該時間係数は数百ミリ秒程度であり得る。あるいは、ほとんどのシナリオおいて、道路区間211の長手方向の長さは、滑らかな操舵制御をもたらすある固定値であり得る。その場合、対応する時間は、大型車両の縦速度vxから計算できる。長さは、場所によって異なる所定の値であってもよい。例えば、直線路は縦断面の比較的長い長さを有する複数の部分に分けることができ、カーブは比較的短い長さを有する複数の部分に分けることができる。このような情報は、前述の地図データで構成され得る。
【0050】
車両モデルは、
図4Aに関連させて検討した単一軌道の二輪モデルである。しかしながら、道路バンクによる横方向のドリフトの低減を達成するために、開示された方法においては、他の二輪モデル又はより一般的なモデルを使用してもよい。
【0051】
アンダーステア/オーバーステア勾配K
uがゼロでない場合、ヨーレートω
z及び横速度v
yの両方が大型車両100の横方向のドリフトに影響する。第1の補償トルクT
Cは、道路区間211における大型車両の横方向のドリフトを低減するために求められる。横方向のドリフトの低減は、横方向運動に関連するパラメータのドリフトの低減であり得る。例えば、第1の補償トルクT
Cの決定は、道路区間211の終点における大型車両100の横移動Δyのドリフトの低減(S31)に基づくことができる。道路区間の終点は、構成可能な時間t
P後に大型車両が到達する地点である。横移動Δyの様々なドリフトは、
図2に関連させて上記で検討した。車両モデルを用いると、時間t
P後の横移動Δyは、
【数6】
から算出できる。
【0052】
道路バンク角ψが道路区間211にわたって一定であると仮定するとき、前方注視点Pにおいて車両の横移動Δyがゼロとなるように第1の補償トルクT
Cを求めることが可能である。換言すれば、Δy=0と設定すると、補償トルクは、
【数7】
として得られる。
【0053】
このように、車両の長手方向前方距離LPのところに位置する時間tP後のある前方注視位置Pにおける横移動(Δy)がゼロとなるように、第1の補償トルクTCは選択される。これは、第1の補償トルクTCの決定がどのように明示的な計算を含むかの例である。
【0054】
前述のように、この横移動Δyは必ずしもゼロであってはならない。場合によっては、横方向に距離を移動することが望まれる。例えば、コーナーに追従する場合、Δyはゼロでない値であることが望ましい。しかし、この所望の値からのドリフトが生じる可能性があり、その場合には補正が望まれる。その場合、第1の補償トルクTCは、上記と同様の方法で選択することができるが、Δyがゼロではなく所望の値に設定される点で異なる。この所望の値は、来たる道路の曲率に関する情報に基づく。
【0055】
あるいは、横速度vyまたはヨーレートωzの影響を無視することによって第1の補償トルクTCを選択できる。その後は、もう一方の部分のみをゼロにすることによって(または抑制することによって)、つまり、方程式(1)または(2)のvyまたはωzのいずれかをゼロにしてTCについて解くことによって、第1の補償トルクTCを求める。これは、アンダーステア/オーバーステア勾配Kuがゼロでない場合に適用できる。しかしながらより一般的には、この場合、TCは所望の値からの低減されたドリフトについて解かれる。換言すれば、第1の補償トルクTCの決定は、道路区間211を縦断中の大型車両100の横速度vyのドリフト及び/又はヨーレートωzのドリフトを低減すること(S32)に基づくことができる。第1の補償トルクを求めるこれら2つの方法の利点は、LPのようなチューニングパラメータを直接必要としないことである。この場合、横速度のドリフト及び/又はヨーレートのドリフトが低減される道路区間の長さ又は継続時間を予め決めることができる。しかし、該長さまたは該継続時間は、トルクを計算するために直接は使用されない。さらに、トルクを求めるこれらの方法は、ドライバーが横速度外乱よりもヨー外乱に悩まされにくい、またはその逆であると仮定した場合に有益であり得る。また、この設定は、アクティブ操舵補償によるヨー補償など、ヨーレートまたは横速度の一方を低減する他のシステムが車両に存在する場合にも適し得る。
【0056】
前述のように、アンダーステア/オーバーステア勾配Kuは、大型車両100の複数の車軸のそれぞれのコーナリング剛性に基づき、コーナリング剛性は、タイヤパラメータ、ロールステア幾何学的特性(roll steer geometrics)、又は他の車両パラメータに基づき得る。コーナリング剛性は、車両の様々な試験データ中のそのようなパラメータから直接計算/決定することができる。例えば、タイヤへの異なる負荷、空気圧、およびロールステアに影響を与える他のパラメータなどの多数の異なる状態について、車両のコーナリング剛性を測定できる。車両が道路区間211を縦断しようとしているとき、現在の車両状態を、対応するコーナリング剛性を含む状態のリストにマッピングすることができる。このようなマッピングは、補間または他のカーブフィッティング技術を使用することもできる。
【0057】
開示された方法において、第1の補償トルクTCは、来たる道路区間における所望の横方向運動のために、車両モデルを用いて決定される。このような決定に用いられる方程式は、車両が区間を縦断した後に実際の横方向運動を測定する場合に、逆方向に使用できる。例えば、横移動は全地球航法衛星システムを使用して把握される。車両モデル、道路バンク情報および適用された補償トルクを使用すると、測定された横方向移動から車両モデルにおける特定のパラメータを計算できる。これを用いて、車両モデルで使用されるコーナリング剛性などのパラメータを更新することができ、その後の操舵制御を改善できる。
【0058】
換言すれば、車両モデルの様々なパラメータは、横方向移動/横方向ドリフトが発生した後、及び既知の補償トルクが適用された後に、測定された該横方向移動/該横方向ドリフトから計算されてもよい。この既知の補償トルクは、ゼロに設定されることさえある。このように、他のパラメータの測定値に基づいて、車両モデルから、いくつかの車両運動パラメータを求めることが可能である。そのような更新されたパラメータは、道路の来たる区間に対して使用できる。一般的に、車両モデルのパラメータは、一定(試験データまたは物理的な車両パラメータに基づく)であり得るか、または走行中に適合され得る。
【0059】
例えば、コーナリング剛性は、大型車両100が道路区間211を縦断したときの車両運動測定値から決定できる。換言すれば、コーナリング剛性は、少なくとも部分的に、運転中の直近の測定値から決定できる。大型車両100が道路区間を縦断した後に、例えば、道路バンク角ψ、横移動Δy、横速度vy、縦速度vx、ヨーレートωz、及び第1の補償トルクTCのうちのいずれかの測定された車両運動パラメータから、コーナリング剛性は算出できる。そのようなパラメータが既知の場合、代わりに車両モデルを使用してコーナリング剛性を決定できる。例えば、アンダーステア/オーバーステア勾配Kuは、方程式(1)及び(2)から決定でき、これを用いてコーナリング剛性を推定することができる。また、コーナリング剛性は、コーナリング剛性と車両運動との間の他の既知の関係から決定することもできる。
【0060】
車両が縦断したばかりの道路区間から決定されるコーナリング剛性は、車両が縦断しようとする来たる道路区間211における補償トルクの決定に使用できる。コーナリング剛性はまた、縦断した複数の道路区間の測定値の平均に基づいてもよい。
【0061】
同様に、コーナリング剛性が既知であれば、他の車両運動パラメータの測定値に基づいて道路バンク角を決定できる。
【0062】
大型車両100は、牽引ユニット430と、連結ジョイント(articulation joint)441によって接続された、セミトレーラなどの少なくとも1つの被牽引ユニット440とを備えてもよい。ここでは、車両モデルは、道路バンク角ψに応じた、連結ジョイントにおける横方向の結合力F
Cをモデル化する。連結ジョイントは、例えば、第5の車輪接続であってもよい。
図4Bは、牽引ユニット430および被牽引ユニット440を有する車両モデルの例を示しており、これは
図4Aの二輪モデルに類似している。被牽引ユニットは有効車輪442を含み、重心422を有する。連結ジョイント441は、牽引ユニットのCOGから距離L
Aのところに配置される。連結ジョイント441から車輪442までの距離の長さはL
Tである。この被牽引ユニット440には、牽引ユニットに作用する道路バンクによって生じるさらに別の横力の項F
Cが存在する。該項はCOGではなく、連結ジョイントにおいて作用する。この横方向の結合力F
Cによって、横力の平衡とトルクの平衡に関する方程式は変形される。検討したモデルの仮定を用いると、線形システムであることから重ね合わせが可能である。これらの変形された方程式を用いると、
図4Aに関連させて検討した方法と同様の方法で、例えば、横移動Δy、横速度v
y及び/又はヨーレートω
zのドリフトの最小化などの、横方向のドリフトの低減のために、第1の補償トルクT
Cを決定することができる。
【0063】
大型車両100は、複数の被牽引ユニットを備えていてよい。その場合、
図4Bのモデルと同様のモデルを使用でき、その結果、横力の平衡とトルクの平衡に関する変形された他の方程式が得られる。該方程式を用いることで、横方向のドリフトを低減するための第1の補償トルクT
Cを決定できる。
【0064】
さらに、被牽引ユニット440は、トルクベクタリングを可能にする複数の被駆動輪、例えば、ホイールエンドモータ(wheel end motor)を備えてもよい。その場合、被牽引ユニットの複数の被駆動車軸に対して、道路バンクによる横方向の結合力FCを低減またはゼロにする第2の補償トルクTC2を導くことが可能である。換言すれば、開示された方法は、道路バンク角ψと車両モデルに基づいて、道路区間211における大型車両100の連結ジョイントでの結合力FCを低減するための第2の補償トルクTC2を求めるステップ(S5)と、該第2の補償トルクを被牽引ユニットの複数の被駆動輪に適用して、大型車両100の連結ジョイントにおける、道路バンク角ψによる結合力FCを低減するステップ(S6)を含んでよい。
【0065】
同様の補償トルクは、被駆動輪を備える各被牽引ユニットの各連結ジョイントに対して計算できる。
【0066】
図6は、本明細書において開示される方法と検討される実施形態による制御ユニット110の構成要素を、多くの機能ユニットの形で概略的に示したものである。処理回路610は、例えば記憶媒体630の形態のコンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行できる、好適な中央処理装置CPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSP等のうちの、1つまたは複数の任意の組合せを使用して提供される。処理回路610は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASICまたはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして、更に提供され得る。
【0067】
特に、処理回路610は、例えば
図5と関連させて検討された方法など、動作のセットまたは複数のステップを制御ユニット110に実施させるように構成される。例えば、記憶媒体630は動作のセットを格納してもよく、処理回路610は、記憶媒体630から動作のセットを取得し、制御ユニット110に動作のセットを実行させるように構成されてもよい。動作のセットは、実行可能な命令のセットとして提供されてもよい。したがって、処理回路610はこれにより、本明細書に開示されるような方法を実行するように構成される。
【0068】
記憶媒体630はまた、永続的ストレージを備えてもよく、例えば磁気メモリ、光学メモリ、ソリッドステートメモリ、または更には遠隔に取り付けられたメモリのうちの任意の単一のものまたは組合せであり得る。
【0069】
制御ユニット110は、処理デバイス130などの少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース620を更に含み得る。そのようなインターフェース620は、アナログおよびデジタル構成要素と有線または無線通信用の好適な数のポートとを備える1つまたは複数の送信機および受信機を含み得る。
【0070】
処理回路610は、例えば、データおよび制御信号をインターフェース620および記憶媒体630に送信することによって、インターフェース620からデータおよびレポートを受信することによって、ならびに記憶媒体630からデータおよび命令を取り込むことによって、制御ユニット110の全体的動作を制御する。本明細書に提示する概念を曖昧にしないように、制御ノードの他の構成要素および関連する機能性は省略されている。
【0071】
図7は、コンピュータプログラム720を担持するコンピュータ可読媒体710を示しており、コンピュータプログラムは、上記プログラム製品がコンピュータ上で実行されるときに、例えば
図5に示す方法を実行するためのプログラムコード手段を備える。コンピュータ可読媒体およびコード手段はまとまって、コンピュータプログラム製品700を形成し得る。
【外国語明細書】