(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123415
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】可視的な連続的空間指向性進化の方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230829BHJP
C12N 15/34 20060101ALN20230829BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20230829BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N15/34
C12Q1/6869 Z
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023076039
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2020535029の分割
【原出願日】2017-12-29
(31)【優先権主張番号】201711446362.3
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】516323792
【氏名又は名称】深▲セン▼先進技術研究院
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN INSTITUTES OF ADVANCED TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】1068, Xueyuan Avenue Xili University Town, Nanshan Shenzhen, Guangdong 518055, China
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】劉 陳立
(72)【発明者】
【氏名】頼 旺生
(72)【発明者】
【氏名】陳 茜
(72)【発明者】
【氏名】魏 ▲てぃん▼
(72)【発明者】
【氏名】孫 陳健
(57)【要約】 (修正有)
【課題】可視的な連続的空間指向性進化の方法を提供する。
【解決手段】指向性進化(実験室進化とも呼ばれる)は生物学的進化プロセスを制御することにより特定の機能を備えた生体分子を生成することができる有効な技術的手段である。宿主は固体培養空間で成長して移動し、前記宿主は進化する外来標的遺伝子を有し、前記宿主自体は標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素を含み、前記標的遺伝子は前記宿主の成長および移動に関連する。前記宿主が成長し移動するプロセスにおいて、前記固体培養空間で異なる空間分布パターンを形成してスクリーニングすることにより進化の生成物を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主は固体培養空間において成長して移動し、前記宿主は進化させる外来標的遺伝子を保有し、前記宿主自体は標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素を含み、前記標的遺伝子は前記宿主の成長と移動に関連し、
前記宿主の成長と移動により前記固体培養空間に異なる空間分布パターンを形成し、かつそれに対してスクリーニングすることにより進化の生成物を得ることを特徴とする可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項2】
前記標的遺伝子は前記宿主ゲノムまたはプラスミドまたは前記宿主に対応する寄生生物内に存在することを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項3】
前記寄生生物は、ファージ、シアノファージ、動物ウイルスもしくは植物ウイルス、真菌ウイルス、マイコプラズマ、クラミジアおよび細菌のうちいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項4】
前記寄生生物はファージであり、
前記宿主は、
前記ファージの非欠損株の天然宿主細菌、
前記ファージの非欠損株の天然宿主細菌に対して遺伝子の組み換えにより得られる菌株、
遺伝子の組み換え後にのみ感受性を獲得する非天然宿主細菌のうちいずれか1つであり、
前記宿主は、大腸菌、パスツレラ、赤痢菌、シュードモナス、キサントモナス、サルモネラ、黄色ブドウ球菌および遺伝子の組み換えによりその感受性が変化する改変株を含み、
好ましくは、前記宿主はF因子を保有する大腸菌であり、
前記ファージは、溶原性ファージ、毒性ファージまたは慢性感染ファージであり、
前記ファージは、繊維状ファージ、T4ファージ、T7ファージ、Xファージ、P1ファージ、P2ファージ、P22ファージ、9X174ファージおよびSP6ファージを含み、
好ましくは、前記繊維状ファージはM13繊維状ファージおよびf1繊維状ファージを含むことを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項5】
前記標的遺伝子は1つまたは複数のタンパク質のコード遺伝子と非コード遺伝子の組み合わせであり、
前記標的遺伝子は、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、セルラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子および密度感知遺伝子のうち1つまたは複数であることを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項6】
前記標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素は変異誘発プラスミドであり、前記変異誘発プラスミドは進化前後の標的遺伝子により発現をそれぞれ促進するか或いは発現を誘導することを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項7】
前記変異誘発プラスミドは変異誘発遺伝子を含み、前記変異誘発遺伝子は、12位と14位のアミノ酸がAlaに変異しているDNAQ遺伝子変異体のDNAQ926遺伝子、デオキシアデノシンメチラーゼdam遺伝子、ヘミメチル化GATC結合タンパク質seqA遺伝子、活性化誘導シトシンデアミナーゼ遺伝子AID、ファージPBS2のウラシルDNAグリコシラーゼ阻害遺伝子Ugiおよび転写抑制因子emrRのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項8】
前記固体培養空間は二次元平面培養構造と三次元空間培養構造を含み、
前記固体培養空間の垂直方向の移動と進化は定期的に形成されるキャスティング固体培養システムにより連続性を維持し、
前記指向性進化は高スループット進化であり、
前記高スループット進化は複数の固体培養空間または固体培養空間の異なる位置を用いることにより実施されることを特徴とする請求項1に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項9】
前記標的遺伝子はヘルパープラスミドを介して前記宿主の成長および移動に関連付けられ、前記ヘルパープラスミドは少なくとも第1のヘルパープラスミドを含み、前記第1のヘルパープラスミドはヘルパープラスミドCCP1またはヘルパープラスミドCCP2であり、ヘルパープラスミドCCP1の核酸配列は配列番号3に示され、ヘルパープラスミドCCP2の核酸配列は配列番号4に示され、
前記ヘルパープラスミドは第2のヘルパープラスミドを更に含み、前記第2のヘルパープラスミドはヘルパープラスミドCCP3またはヘルパープラスミドCCP4であり、
ヘルパープラスミドCCP3の核酸配列は配列番号5に示されていることを特徴とする請求項4~8のうちいずれか一項に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【請求項10】
前記指向性進化は異なる宿主を交代に用いることにより実施され、かつ後者の宿主に含まれかつファージの増殖をサポートする遺伝的要素は、進化後のファージの増殖をサポートするヘルパープラスミドと、進化前のファージの増殖を抑制するヘルパープラスミドを含むことを特徴とする請求項9に記載の可視的な連続的空間指向性進化の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2017年12月27日に中国特許庁に出願され、発明の名称が「可視的な連続的空間指向性進化の方法」であり、特許出願番号が第201711446362.3号である中国特許出願の優先権を主張し、その全文の内容は引用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、指向性進化スクリーニングの分野に属し、具体的には、可視的な連続的空間指向性進化の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
指向性進化(実験室進化とも呼ばれる)は生物学的進化プロセスを制御することにより特定の機能を備えた生体分子を生成することができる有効な技術的手段である。生成された生体分子は、工業生産、生物工学、医薬品開発などの多くの分野で広く使用されている。ハーバード大学のDavid R Liu実験室は、ファージの成長による連続的進化システム(ファージにより連続的進化を補助する、PACE)を開発した。そのシステムは、主として、LWS、CCP、IMPの3つのモジュールを含む。ファージモジュール(LWS)において、宿主細菌のパッケージングと感染に必要なファージM13遺伝子中のgIII遺伝子を切除し、進化させる生体分子の遺伝子を挿入する。gIIIが切除されるファージは、宿主を感染させることにより子孫ファージを生成することができない。変異誘発モジュール(IMP)において、DNAQ926、damおよびseqAの発現を誘導する誘導物質としてアラビノースを用いるので、DNA複製中にポリメラーゼによって導入される不適当な塩基を切除することができず、かつ突然変異率を増加させ、アラビノースによって誘導されたIMPによりファージの突然変異率を数百倍増加させることができる。補助モジュール(CCP)において、ファージが宿主細胞を感染させかつ増殖することにより用いられるgIII遺伝子を含み、CCP上のgIIIの発現とLWS上において進化させる標的遺伝子の生物活性と関連させる(例えば、あるRNAポリメラーゼを特定の方向に進化させる必要がある場合、進化の方向と一致するプロモーターによりgIIIの発現を制御する)ことにより、各突然変異LWSが感染活性を有する子孫ファージLWSを生成することができるか否かを決定する。
【0004】
進化プールにおいて、進化させる野生型標的遺伝子を保有するファージが宿主細胞を感染させるとき、その遺伝物質の野生型LWSを宿主細菌に注入し、宿主細菌内の複製システムにより遺伝物質を複製する。また、アラビノースの誘導が存在する場合、宿主細胞内のIMPのDNAQ926、damとseqAの発現によりLWSには突然変異が生じる。LWSが得た突然変異(つまり、LWS上の標的遺伝子の突然変異)がgIIIタンパク質の発現を促進することができると、感染性がある子孫ファージを生成することができる。生成された前記子孫ファージ突然変異株LWSeは宿主細菌の外部に分泌され、新しい宿主細菌を感染させ、次の複製と増殖をする。その結果、gIII発現を促進することができるLWSe突然変異株は増殖を続け、その数を増やすことができるが、野生型のLWSとgIIIの発現を促進することができない突然変異LWSは子孫ファージを分泌して増殖することができず、かつその数を増加させることができない。このとき、新しい宿主細菌培養物を一定の速度で進化プールに添加し続けるとともに元の培養物を排出すると、gIIIの発現を促進することができないか或いは発現の能力が低い野生型LWSおよびその突然変異株は直ちに溶出され、gIIIの発現を効率的に促進することができるLWSe突然変異株は最後まで保留される。
【0005】
前記システムは、サイズが比較的大きく、高感度のリアルタイムモニタリングシステムを備えている一連の自動流加培養装置により流加培養を連続的に行う必要がある。さまざまな進化の生成物を混合して培養槽内に入れて希釈するので、検出と分離を直接行うのは難しい。システムは、大量の試薬を消費し、培養装置のコストが高く、進化操作が複雑であるという欠点を有している。また、前記システムは、一度に1つの標的遺伝子しか進化させることができないため、スループットが低いという欠点を有している。
【0006】
これに鑑み、次のような本発明を提案する。
【発明の概要】
【0007】
サンプルの検出と分離が困難であり、スループットが低く、コストが高く、進化の操作が複雑であるという従来技術の問題を解決するため、本発明は可視的な連続的空間指向性進化の方法を提供する。それを採用する場合、固体培養プレートの表面などの固体培養空間において直接進化することができ、液体流加培養装置を必要としない。また、進化のプロセスで形成される感染スポットの空間内の形態と分布を肉眼で観察することにより進化の効果を把握することができるので、リアルタイムモニタリング装置を必要とせず、操作が簡単であり、スループットが高く、一度に複数グループの進化実験を行うことができる。
【0008】
前記目的を実現するため、本発明は下記の技術的手段を採用する。
【0009】
可視的な連続的空間指向性進化の方法であって、宿主は固体培養空間において成長して移動し、前記宿主は進化させる外来標的遺伝子を保有し、前記宿主自体は標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素を含み、前記標的遺伝子は前記宿主の成長と移動に関連し、
前記宿主の成長と移動により前記固体培養空間に異なる空間分布パターンを形成し、かつそれに対してスクリーニングをすることにより進化の生成物を得る。
【0010】
本発明の可視的な連続的空間指向性進化の方法(Spatial Phage-Assisted Continuous Evolution、SPACE)において、当該システムには進化させる標的遺伝子と宿主が含まれ、宿主には標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素が含まれ、かつ標的遺伝子は宿主と関連している。標的遺伝子は宿主が固体培養空間において成長し移動することにより進化し、進化後は肉眼で認識できるさまざまな空間分布パターンが形成され、この状態において進化の生成物を選別する。
【0011】
進化とスクリーニングのプロセス全体は、二次元平面または三次元空間に広がり、異なる進化の生成物は平面の異なる領域に分布しかつ互いに混合することはできない。各生成物の活性が異なることにより局部には肉眼で認識できる異なる空間分布パターン画像が形成される。進化が続くことに伴い、その画像は更に拡大される。進化の生成物が現れると、対応する位置に画像を形成することができる。生成物の量が極めて少なくてもその画像は薄くなったり不鮮明になったりはしない。画像の状態によりニーズを満たす進化の生成物を直接選別して分離することができる。そのシステムは、操作が簡単で、コストが低く、特別な装置を必要とせず、1人で一度に複数グループの進化実験を行うことができ、かつ標的遺伝子の指向性進化を高スループットで行うことができる。
【0012】
本発明の実施例において、前記標的遺伝子は、前記宿主ゲノム、プラスミドまたは前記宿主に対応する寄生生物内に存在する。標的遺伝子は遺伝子の組換えにより宿主ゲノムに挿入され、宿主にプラスミドを導入するか或いは寄生生物が宿主に侵入することにより、進化させる標的遺伝子が含まれている宿主を得ることができる。
【0013】
本発明の実施例において、前記寄生生物は、ファージ(バクテリオファージ)、シアノファージ、動物ウイルス若しくは植物ウイルス、真菌ウイルス、マイコプラズマ、クラミジアおよび細菌のうちいずれか1つを含む。
【0014】
本発明の実施例において、前記寄生生物はファージであり、
前記宿主は、
前記ファージの非欠損株の天然宿主細菌、
前記ファージの非欠損株の天然宿主細菌に対して遺伝子の組み換えにより得られる菌株、
遺伝子の組み換えにより得られかつ感受性が低い非天然宿主細菌(遺伝子の組み換え後にのみ感受性を獲得する非天然宿主細菌)のうちいずれか1つであり、
前記宿主は、大腸菌、パスツレラ、赤痢菌、シュードモナス、キサントモナス、サルモネラ、黄色ブドウ球菌および遺伝子の組み換えによりその感受性が変化する改変株を含み、
好ましくは、前記宿主はF因子(fertility factor)を保有する大腸菌であり、
前記ファージは、溶原性ファージ、毒性ファージまたは慢性感染ファージであり、
前記ファージは、繊維状ファージ、T4ファージ、T7ファージ、λファージ、P1ファージ、P2ファージ、P22ファージ、φX174ファージ、SP6ファージを含み、
好ましくは、前記繊維状ファージは、M13繊維状ファージ、f1繊維状ファージを含む。
【0015】
本発明の好適な実施例において、前記ファージはM13ファージであり、宿主細菌のパッケージングおよび感染に必要なgIII遺伝子は切除され、ヘルパープラスミドなどの標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素は前記gIII遺伝子を含む。ファージは通常、宿主細菌に侵入しかつDNAを複製することができる。しかしながら、所定のヘルパープラスミドがない場合、感染活性を有する子孫をパッケージすることができない。
【0016】
本発明の実施例において、前記標的遺伝子は1つまたは複数のタンパク質のコード遺伝子と非コード遺伝子の組み合わせである。
【0017】
本発明の実施例において、前記標的遺伝子は、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、セルラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、密度感知遺伝子のうち1つまたは複数でから選択される。
【0018】
本発明の実施例において、前記標的遺伝子の進化を補助する遺伝的要素は変異誘発プラスミドであり、前記変異誘発プラスミドは進化前後の標的遺伝子の発現をそれぞれ促進するか或いは発現を誘導する。
【0019】
好ましくは、前記変異誘発プラスミドは変異誘発遺伝子を含み、前記変異誘発遺伝子は、12位と14位のアミノ酸がAlaに変異しているDNAQ遺伝子変異体DNAQ926遺伝子、デオキシアデノシンメチラーゼdam遺伝子、ヘミメチル化GATC結合タンパク質seqA遺伝子、活性化誘導シトシンデアミナーゼ遺伝子AID、ファージPBS2におけるウラシルDNAグリコシラーゼ阻害遺伝子Ugi、転写抑制因子emrRのうち少なくとも1つである。
【0020】
変異誘発遺伝子は複製や転写などの伝達プロセスの遺伝情報の突然変異率を増加させることができる。変異誘発プラスミドIMPは、同じ方法により誘導と発現をする(例えば、pspプロモーターにより誘導および制御をする)ことができる。異なる実施例において、IMP1、IMP2、IMP3などの複数の変異誘発プラスミドIMPが存在する場合、それらの変異誘発プラスミドは同じであってもよく、進化前後の標的遺伝子は発現をそれぞれ促進することもできる。その場合、IMPとIMP2は異なるIMPを表す。
【0021】
本発明の実施例において、前記固体培養空間は二次元平面培養構造および三次元空間培養構造を含む。
【0022】
本発明の実施例において、前記固体培養空間の垂直方向の移動と進化は定期的に形成されるキャスティング固体培養システムにより連続性を維持する。
【0023】
本発明の実施例において、前記指向性進化は高スループット進化である。
【0024】
本発明の実施例において、前記高スループット進化は複数の固体培養空間または固体培養空間のさまざまな位置により実現することができる。
【0025】
本発明の実施例において、前記標的遺伝子は、ヘルパープラスミを介して、前記宿主の成長および移動と関連し、前記ヘルパープラスミドは少なくとも第1のヘルパープラスミドを含み、前記第1のヘルパープラスミドはヘルパープラスミドCCP1またはヘルパープラスミドCCP2であり、ヘルパープラスミドCCP1の核酸配列はSEQ ID NO:3(配列番号3)に示すとおりであり、ヘルパープラスミドCCP2の核酸配列はSEQ ID NO:4(配列番号4)に示すとおりである。
【0026】
前記ヘルパープラスミドCCP1またはヘルパープラスミドCCP2は、ファージ進化前の低レベルの複製と増殖をサポートし、進化後の標的遺伝子の活性が増加すると、ヘルパープラスミドCCP1またはヘルパープラスミドCCP2はファージの進化がより高いレベルの複製および増殖することをサポートする。
【0027】
本発明の実施例において、前記ヘルパープラスミドは第2のヘルパープラスミドを更に含み、前記第2のヘルパープラスミドはヘルパープラスミドCCP3またはヘルパープラスミドCCP4であり、ヘルパープラスミドCCP3の核酸配列はSEQ ID NO:5(配列番号5)に示すとおりである。
【0028】
前記ヘルパープラスミドCCP3とヘルパープラスミドCCP4は、機能的な欠陥を有しているので、進化前のファージの増殖をサポートすることができない。
【0029】
具体的には、宿主細菌S1は、IMP1とCCP1を有しており、培養プレート上において成長し移動することができる。宿主細菌S1は、移動するときファージLWSと接触し、かつ進化後の標的遺伝子を保有するファージLWSeが生成されるまでにLWSと共に進化する。ファージLWSは増殖欠陥を有しているので、進化の前LWSはCCP1のバックグラウンド発現により低レベルの感染と増殖をすることができる。進化後の標的遺伝子の少なくとも一部分の機能は、進化後のファージLWSeの増殖をサポートするCCP2の遺伝的要素の機能と関連している。したがって、LWSeは、S1においてCCP1により感染性複製を効率的に実施することができる。ファージの感染性複製が効率的に行われると、宿主細菌の成長が抑制されるので、LWSe感染領域には細菌が少なくかつ肉眼で認識できる透明な感染スポットが形成される。その感染スポットにより進化の効果を直接分析することができる。
【0030】
本発明の実施例において、宿主細菌は、培養プレート上で成長し移動する宿主細菌S2または宿主細菌S3を更に含む。宿主細菌S2は、移動するとき最初に進化したファージLWSeと接触し、かつ進化した標的遺伝子を保有するファージLWSeNが生成されるまで、LWSeと共に進化する。前記宿主細菌S2は、進化したファージLWSeまたはLWSeNの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2、進化前のファージLWSの増殖を抑制するヘルパープラスミドCCP3および変異誘発プラスミドIMP2を含む。進化後の標的遺伝子の少なくとも一部分の機能は、進化後のファージLWSeまたはLWSeNの増殖をサポートするCCP2の遺伝的要素の機能と関連している。CCP3とCCP4上の遺伝的要素の機能は、進化前の標的遺伝子の機能と関連しており、CCP3とCCP4が保有する遺伝的要素は、機能的欠陥を有しており、進化前のファージLWSの増殖をサポートすることができない。それによりファージLWSeN上の標的遺伝子の野生型活性は更に低下する。ファージLWSeN内の標的遺伝子の野生型活性が十分に低い場合、S2においてCCP2を用いることにより感染性複製を効率的に実施することができる。ファージの感染性複製が効率的に行われると、宿主細菌の成長が抑制されるので、ファージLWSeN感染領域には細菌が少なくかつ肉眼で認識できる透明な感染スポットが形成される。その感染スポットにより進化の効果を直接分析することができる。前記宿主細菌S3は、進化後のファージLWSeまたはLWSeNの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2、進化前のファージLWSの増殖を抑制するヘルパープラスミドCCP4および変異誘発プラスミドIMP2を含む。CCP4は、高コピープラスミドであり、欠損性遺伝的要素のレベルが高いことを示す。すなわちCCP4はCCP3の強化型である。S2細菌の代わりにS3細菌を用いることにより、ファージLWSeが更に進化するようにする。同様に、CCP2プラスミドはコピー数がCCP1より低く、低コピーのCCP2のバックグラウンド発現が低いため、進化前のファージLWSの複製をサポートすることができず、より強力な進化の選択圧を提供することができる。
【0031】
本発明の実施例において、前記方法は、宿主細菌がプレートの端部に移動するとき、宿主細菌と進化後のファージを次のプレートに移動させて進化を続けることを更に含む。
【0032】
本発明の実施例において、前記指向性進化は、異なる宿主を交代に用いることにより実施され、かつ後者の宿主に含まれかつファージの増殖をサポートする遺伝的要素は、進化後のファージの増殖をサポートするヘルパープラスミドと、進化前のファージの増殖を抑制するヘルパープラスミドを含む。
【0033】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0034】
(1)本発明が提供する可視的な連続的空間指向性進化の方法は空間属性を有し、進化プロセス全体は二次元平面空間または三次元立体空間において実施され、空間はサポートプラットフォームだけでなく進化の選択圧でもある。少量の進化の生成物があっても所定の位置にプラークなどの空間分布パターンが直接形成されるので、進化時形成される感染スポットのサイズ、プラーク数またはレポーター遺伝子をリアルタイムでモニタリングすることにより、標的遺伝子の活性とファージの増殖活性を把握し、かつ進化の生成物を直接認識しかつ分離することができる。そのため、液体流加培養装置やリアルタイムモニタリング装置を必要としない。
【0035】
(2)本発明に係る可視的な連続的空間指向性進化の方法を採用する場合、異なる空間的位置に現れる進化結果はその位置に固定され、他の成分による希釈と混合の影響を受けず、直接分離することができる。また、異なる空間的位置に現れる進化結果の信号は進化の方向に沿って増幅されるので、進化の効果を向上させ、より高い検出感度を得ることができる。
【0036】
(3)本発明に係る可視的な連続的空間指向性進化の方法は、進化の操作が簡単で、スループットが高く、一度に複数グループの進化実験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の実施例または従来技術の技術的事項をより明確に説明するため、以下、実施例または従来技術に係る図面を簡単に説明する。
【0038】
【
図1】本発明の実施例の宿主細菌の移動および感染スポットの効果を示す図である。
【
図2】本発明の実施例の連続空間指向性進化の原理を示す図である。
【
図3】本発明の実施例の連続空間指向性進化のモデルを示す図である。
【
図4】本発明の実施例4の1回目のSPACEポジティブスクリーニング進化の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例5および6の複数回のSPACE進化の結果を示す図である。
【
図6】本発明の実験例1における、IMP3の誘導によるSPACE進化の効果と異なるファージの数を示す棒グラフである。
【
図7】本発明の実験例2における、T7ファージの感染移動効果とファージの数を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、具体的な実施例により本発明の技術的事項を詳細に説明するが、周知のように、下記の実施例は単なる例示であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。下記の実施例に特定の条件が示されていない場合、従来の条件または製造元が推薦する条件により実施することができる。本発明において使用する試薬や機器にメーカーが示されていない場合、いずれも市場で購入することができる従来の製品である。
【0040】
本発明が提供する可視的な連続的空間指向性進化の方法において、ファージと宿主細菌を混合してプレートにコーティングするとき、М13ファージにより感染した宿主細菌と感染していない宿主細菌との間の成長のバラツキが存在するので、肉眼で認識できるプラークが形成される。レポーター遺伝子は、特異性、感度および操作性に係る問題を有している。本発明は、レポーター遺伝子を用いないで、感染プロセスで形成されるスポットをSPACEの指標信号として直接用いることにより、SPACEの可視化を実現することができる。
【0041】
プラークを形成する実験と同様に、宿主細菌を培養プレートの中央に接種し、宿主細菌の周囲の3つの隅に野生ファージを接種する(
図1aを参照)。このとき、宿主細菌はプレート上で成長するとともにプレートの端部へ移動する。移動中の宿主細菌はファージと接触し、感染するとともに子孫ファージを生成し、かつ外縁へ移動し続ける。感染した宿主細菌の成長は遅く、非感染領域の宿主細菌は元の状態を維持しているため、感染領域には細菌が少なくかつ肉眼で認識できるV字型の感染スポットが形成される(
図1bを参照)。その透明な感染スポットはファージが感染したことを示すため、透明スポットの透明度とサイズによりファージの感染活性を表すことができる。
【0042】
本発明の発明者が空間進化システムを研究してきた経験により発明したSPACEの核心的な設計原理は、
図2、
図3に示すとおりである。標的遺伝子を保有するファージLWSにより変異誘発プラスミドIMPとヘルパープラスミドCCPを有している宿主細菌が感染すると、ファージゲノムは複製と突然変異を行う。突然変異子孫LWSがCCP上のgIII遺伝子の発現を活性化させることができる場合、感染活性を有する子孫ファージLWSeが生成され、次の感染進化が始まる。活性化させることができない場合、感染活性を有していない欠損性子孫ファージが生成される。進化が進むにつれ、LWSeは増加し続けるが、野生型LWSファージと感染活性欠損子孫ファージは増加しないか或いは若干増加する。図中のLWS上のGOI(gene of interest)は進化させる標的遺伝子を表す。
【0043】
CCPとIMPが含まれる宿主細菌を培養プレートの中央に接種し、宿主細菌の周囲の3つの隅にファージLWSを接種する。このとき、宿主細菌は、プレート上で成長・分裂しながら、自体のべん毛によりプレートの端部へ移動し、かつ特定の位置においてその位置に予め接種するファージLWSと接触する。ファージLWSは、宿主細菌に侵入し、かつ宿主細菌に担持されるまま前へ移動する。最初に、ファージLWSはCCP上のgIIIの発現を促進することができず、CCPのバックグラウンド発現のみにより低レベルの増殖することができる。このとき、ファージの増殖レベルが非常に低いので、宿主細菌に与える影響は小さい。感染した宿主細菌と感染していない宿主細菌はほぼ同じ速度で成長・分裂し、肉眼で認識できる形態の差異はない。同時に、ファージLWSの低レベルの増殖速度は宿主細菌の成長移動速度より遅いため、非効率的なファージLWSは移動してい
る宿主細菌に直ちに追い越される。
【0044】
ファージLWSが増殖しているとき、CCPの発現を効率的に促進できるファージLWSeが進化するまで、IMPにより突然変異進化する。このとき、ファージLWSeは直接CCPを促進し、高効率の増殖により子孫ファージが連続的に生成され、移動中の細菌を連続的に感染させる。ファージLWSeの効率的な増殖により、宿主細菌の成長は破壊され、細菌の成長は遅くなる。したがって、進化により形成されるファージLWSeの所定の位置には宿主細菌の成長が遅くかつ細菌が少なくなる透明な領域が形成される。進化の進行とファージLWSeに感染した細菌が継続的な移動することにより、前記透明領域は移動方向に拡大し続け、最終的にプレートには肉眼で認識できるV字型感染スポットが形成される。感染スポットの外側に近ければ近いほど、進化時間は長くなり、進化の効果もより明らかになる。感染したスポットにより所定の進化後のファージLWSeを取得することができる。
【0045】
図2、3に示すように、本発明の一実施形態に係るファージが補助する連続空間指向性進化システムは、ポジティブスクリーニング(a)と、ネガティブスクリーニング(b)2つの部分を含む。なお、本発明の実施可能な実施例において、ポジティブスクリーニング(a)の部分のみにより進化させる標的遺伝子を進化後の標的遺伝子に進化させる目的を達成することができる。したがって、ネガティブスクリーニング(b)の部分は、本発明の指向性進化システムを更に改良して得られた技術的解決手段と見なすことができる。実際の応用において、ポジティブスクリーニング(a)の部分により「進化する標的遺伝子」から「進化後の標的遺伝子」への質的変化を実現し、ネガティブスクリーニング(b)の部分により「進化後の標的遺伝子」の機能が更に強化される量的変化を実現する。
【0046】
本発明において、いわゆる「進化する標的遺伝子」(GOI)とは「進化前の標的遺伝子」と同一であり得る。すなわち、本発明のシステムと方法によって進化性突然変異が発生していない標的遺伝子を「野生型遺伝子」と呼ぶこともできる。いわゆる「進化後の標的遺伝子」とは「進化させる標的遺伝子」に相対するものであり、「進化後の標的遺伝子」は、進化する新しい機能を有しているが、元の機能を有することもあり得る。元の機能が完全に消えることもある。本発明において、標的遺伝子が進化により新しい機能を有する場合、元の機能が存在するか否かに関わらず、「進化後の標的遺伝子」と呼ぶことができる。
【0047】
なお、本発明中の記号、例えば、LWS、CCP、IMPおよびS等は単なる例示的な記号表現である。それらの記号がつけられる対象に他の名称をつけることもできる。例えば、ファージLWSを進化前のファージと呼び、ファージLWSeを進化後のファージと呼ぶか或いは進化後のファージと総称することもできる。ファージLWSeNを更に進化したファージと呼ぶこともできる。その番号N(例えば、1、2、3または他のアルファベットと数字の組み合わせなど)は、継代培養数、進化の回数または異なる条件下での進化などを指すことができる。宿主細菌S1を第1の宿主細菌と呼び、宿主細菌S2を第2の宿主細菌と呼び、宿主細菌S3を第3の宿主細菌と呼び、ヘルパープラスミドCCP1を第1のヘルパープラスミドと呼び、ヘルパープラスミドCCP2を第2のヘルパープラスミドと呼び、ヘルパープラスミドCCP3を第3のヘルパープラスミドと呼び、ヘルパープラスミドCCP4を第4のヘルパープラスミドと呼び、変異誘発プラスミドIMP1を第1の変異誘発プラスミドと呼び、変異誘発プラスミドIMP2を第2の変異誘発プラスミドと呼ぶこともできる。変異誘発プラスミドIMP3を第3の変異誘発プラスミドと呼ぶこともできる。進化後のファージLWSeの増殖をサポートするプラスミドCCP1、CCP2をポジティブスクリーンCCPと総称することもできる。同様に、進化前のファージLWSの増殖を抑制するプラスミドCCP3、CCP4をネガティブスクリーンCCPと総称することもできる。突然変異の生成に用いられるプラスミドIMP1、IMP2およびIMP3をIMPと総称する。
【0048】
なお、本発明の宿主細菌は、前記宿主細菌S1、S2、S3だけでなく、他の宿主細菌を更に含むことができる。なお、本発明の宿主細菌S1、S2、S3は、「菌種」が異なることを意味するものでなく、菌株に含まれるヘルパープラスミドまたは変異誘発プラスミドが異なることを意味する。本発明において、宿主細菌S1、S2、S3は、同じ菌種に異なるプラスミドをそれぞれ導入することにより得られる細菌、例えば、F因子を保有する大腸菌等であり得る。
【0049】
図2、3に示すように、本発明の一実施形態に係るファージが補助する連続空間指向性進化システムは進化させる標的遺伝子を保有するファージLWSを含む。前記ファージLWSは増殖欠陥を有している。いわゆる「増殖欠陥」とはファージのライフサイクルの所定の機能、例えば、宿主細菌のパッケージングおよび/または感染の機能に欠陥があることを指す。その機能は関連遺伝子の突然変異により引き起こされる可能性がある。異なるファージにおいて、宿主細菌のパッケージングおよび/または感染などの機能を担当する遺伝子は異なる。例えば、本発明の一実施例において、ファージLWSはM13ファージであり、宿主細菌のパッケージングおよび感染に用いられるgIII遺伝子が切除されることにより、宿主細菌の正常なパッケージングおよび感染をすることができない。周知のとおり、前記ファージと類似している任意のファージを本発明のファージLWSとして用いることができ、本発明はM13ファージにのみ限定されるものでない。
【0050】
図2、3に示す指向性進化システムにおいて、宿主細菌S1は進化後のLWSeの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP1と変異誘発プラスミドIMP1を含む。進化前のLWSはCCP1のバックグラウンド発現により低レベルの感染増殖することができる。進化後のLWSeの増殖に対するヘルパープラスミドCCP1とCCP2のサポートは、進化後の標的遺伝子の少なくとも一部分の機能とCCP1およびCCP2上の進化後のLWSeの増殖をサポートする遺伝的要素の機能を関連させることにより実施される。いわゆる「少なくとも一部」とは、進化後の標的遺伝子の一部分の機能と進化後のLWSeの増殖をサポートする遺伝的要素の機能を関連させることだけでなく、その一部分の機能と進化前のLWSの増殖をサポートする遺伝的要素の機能と関連させることも意味する。例えば、本発明の一実施例において、進化前の標的遺伝子はT7 RNAポリメラーゼ遺伝子を指し、進化後の標的遺伝子はT3 RNAポリメラーゼ機能を有する遺伝子(T7 RNAポリメラーゼ機能を更に含む)を指し、CCP2上の遺伝的要素はT3プロモーターを指し、その遺伝的要素は下流のgIII遺伝子の発現を制御することによりgIIIの機能的欠損のファージLWSeの増殖を補助する。それにより、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子はT7プロモーターの機能と関連し、T3 RNAポリメラーゼ遺伝子はT3プロモーターの機能と関連する。なお、本発明の一実施例において、IMP1は、進化の前にLWSが保有する標的遺伝子が発現するT7 RNAポリメラーゼにより促進され、かつLWSの突然変異進化を誘導する。IMP2は、進化の後にLWSeが保有する標的遺伝子が発現するT3 RNAポリメラーゼにより促進され、かつ突然変異進化を続けるようにLWSeを誘導する。
【0051】
周知のとおり、本発明は、進化前の標的遺伝子として「T7 RNAポリメラーゼ遺伝子」を使用する前記実施例に限定されるものでなく、類似している任意の技術的解決手段を用いることができる。具体的には、プロテアーゼ遺伝子、セルラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、密度感知遺伝子、抗体遺伝子などの異なる標的遺伝子である場合、異なる原理によりそれらの機能をヘルパープラスミドの機能に関連させることができる。
【0052】
理解を容易にするために、本発明において、いくつかの他の標的遺伝子活性をCCP上のgIIIに関連させる方法を簡単に紹介する。標的遺伝子活性をgIIIに関連させる方法は多くあり、本発明の方法にのみ限定されるものでない。プロテアーゼ遺伝子の場合、(1)標的プロテアーゼの分解配列を連結フラグメントとし、gIII遺伝子とgIIIタンパク質をブロックさせる補助タンパク質(M13ファージのg6タンパク質など)と融合させて発現させる。このとき、タンパク質と融合するgIIIの一部分はブロックされかつ活性がなくなる。標的プロテアーゼが特定の活性を進化させ、所定の分解配列を分解する場合のみ、活性のあるgIIIを放出することができる。(2)T7ポリメラーゼを媒介とし、標的プロテアーゼの分解配列を連結フラグメントとし、T7ポリメラーゼとT7リゾチームを融合させて発現させ、新しいポリメラーゼを形成する。前記新しいポリメラーゼの活性はT7リゾチームによりブロックされる。進化するプロテアーゼのみが、設定される分解配列を認識し、かつリゾチーム部分を切除することでき、それにより得られるポリメラーゼは活性を有する。セルラーゼ遺伝子の場合、セルロースの酵素加水分解生成物であるグルコースに抑制される乳糖オペロンにより、gIII遺伝子の発現を制御することができる。蛍光タンパク質遺伝子の場合、標的蛍光タンパク質が発光する蛍光に感度を有している光誘導プロモーターにより、gIII遺伝子の発現を促進することができる。密度感知遺伝子の場合、密度感知システムによりgIII遺伝子の発現を制御することができる。抗体遺伝子の場合、抗体とgIII発現を制御する転写因子と融合させて発現させ、抗体結合部位と転写酵素を融合させて発現させることができる。
【0053】
図2のネガティブスクリーニング(b)には本発明を更に改良する技術的解決手段が示されている。前記システムは宿主細菌S2またはS3を更に含み、前記宿主細菌S2は、進化後のLWSeの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2および変異誘発プラスミドIMP2と、ヘルパープラスミドCCP3を含む。当該宿主細菌S3は、進化後のLWSeの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2および変異誘発プラスミドIMP2と、ヘルパープラスミドCCP4を含む。ヘルパープラスミドCCP2および変異誘発プラスミドIMP2はポジティブスクリーニング(a)の部分と類似し、その相違点は、CCP1が高コピープラスミドであり、CCP2が低コピープラスミドであることにある。IMP1およびIMP2はそれぞれ、進化前と進化後の標的遺伝子によりその発現が促進される。しかしながら、CCP3とCCP4上の遺伝的要素の機能は進化前の標的遺伝子の機能と関連しており、CCP3およびCCP4には機能的欠陥があるので、進化前のLWSの増殖をサポートすることができない。本発明の一実施例において、ヘルパープラスミドCCP3、CCP4上の遺伝的要素はT7プロモーターであり、当該T7プロモーターはgIII-neg遺伝子の発現を制御し、gIII-negは、欠損のあるgIIIであり、gIII遺伝子aa280~aa350の間の約70個のアミノ酸が欠損しているので、LWSの増殖進化をサポートすることができない。gIII-negとgIIIを共に発現するとき、LWS増殖を競合的に抑制する。周知のとおり、gIII-negは本発明の例示にしかすぎないものであり、ファージが異なることにより異なる遺伝子を用いることができ、同じ遺伝子であっても異なる突然変異を発生させることができる。なお、本発明の一実施例において、IMP2は、進化後にLWSeが保有する進化後の標的遺伝子が発現するT3 RNAポリメラーゼにより促進され、かつLWSe突然変異進化を誘導する。実際の応用において、IMP1、IMP2は同じ方法によって誘導および発現される(例えば、pspプロモーターによって誘導および制御される)ことができ、その場合、IMP1、IMP2の代わりに同じIMP3プラスミドを用いることができる。pspプロモーターは細菌に対するM13ファージの感染を感知することができる。pspプロモーターは通常、自己抑制状態になっており、それに制御される遺伝子は基本的に発現しないが、感染するときpspプロモーターが活性化するので、それに制御される遺伝子は効率的に発現することができる。IPM3のプロモーション発現はファージLWSが保有する標的遺伝子の有無に係っていないので、IPM1およびIPM2の代わりにIPM3を用いるとき、ポジティブとネガティブスクリーニングにおいてIMPプラスミドを置き換える必要がない。突然変異の生成に用いられるプラスミドIMP1、IMP2およびIMP3はIMPと総称される。
【0054】
本発明の好適な実施例において、変異誘発プラスミドIMPは変異誘発遺伝子を含み、当該変異誘発遺伝子は、12位と14位のアミノ酸がAlaに変異しているDNAQ遺伝子変異体DNAQ926遺伝子、デオキシアデノシンメチラーゼdam遺伝子、ヘミメチル化GATC結合タンパク質seqA遺伝子、活性化誘導シトシンデアミナーゼ遺伝子AID、ファージPBS2のウラシルDNAグリコシラーゼ阻害遺伝子Ugi、転写抑制因子emrRのうちの少なくとも1つである。それらは、DNAの複製プロセスを妨害し、突然変異の頻度を高めることができる。実際には、突然変異効率を高めることができる遺伝子はいずれも、本発明において変異誘発遺伝子として用いることができる。
【0055】
本発明が提供する指向性進化方法は、IMP1とCCP1を保有する宿主細菌S1を培養プレートにおいて成長し移動させることと、宿主細菌S1が移動するときファージLWSと接触し、かつ進化後の標的遺伝子を保有するファージLWSeが生成されるまでLWSと共に進化することを含む。前記ファージLWSは増殖欠陥があり、進化の前LWSはCCP1のバックグラウンド発現により低レベルの感染と増殖することができる。進化後の標的遺伝子の少なくとも一部分の機能はCCP2上の進化後のLWSeの増殖をサポートする遺伝的要素の機能と関連している。したがって、LWSeはS1においてCCP1により高効率の感染性増殖を実施することができる。ファージの高効率の感染性増殖は宿主細菌の成長を抑制し、それによりLWSe感染領域には細菌が少なくかつ肉眼で認識できる透明な感染スポットが形成される。その感染スポットにより進化の効果を直接分析することができる。
【0056】
改良後の前記方法は宿主細菌S2またはS3が培養プレート上で成長し移動することを更に含むことができる。宿主細菌S2が移動するとき初期に進化するファージLWSeと接触し、かつ進化する標的遺伝子を保有するファージLWSeNが生成されるまでLWSeと共に進化し続ける。前記宿主細菌S2は、進化後のLWSeの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2、進化前のLWSの増殖を抑制するヘルパープラスミドCCP3および変異誘発プラスミドIMP2を含む。前記宿主細菌S3は、進化後のLWSeの増殖をサポートするヘルパープラスミドCCP2、進化前のLWSの増殖を抑制するヘルパープラスミドCCP4および変異誘発プラスミドIMP2を含む。進化後の標的遺伝子の少なくとも一部分の機能はCCP2上の進化後のLWSの増殖をサポートする遺伝的要素の機能と関連している。CCP3とCCP4上の遺伝的要素の機能は進化前の標的遺伝子の機能と関連しており、CCP3とCCP4が保有する遺伝的要素には機能的欠陥があるので、進化前のLWSの増殖をサポートすることができない。それによりLWSeN上の標的遺伝子の野生型活性を低下させることができる。したがって、LWSeN上の標的遺伝子の野生型活性が十分に低くなる場合、S2においてCCP2により高効率の感染性複製を実施することができる。ファージの高効率の感染性複製により宿主細菌の成長を抑制し、それによりLWSeN感染領域には細菌が少なくかつ肉眼で認識できる透明な感染スポットが形成される。その感染スポットにより進化の効果を直接分析することができる。CCP4は、高コピープラスミドであり、欠損性遺伝的要素を発現するレベルが高い。すなわち、CCP4はCCP3の強化型である。S2宿主細菌の代わりにS3宿主細菌を用いることによりS2宿主細菌において進化するファージを更に進化させることができる。同様に、CCP2プラスミドのコピー数はCCP1より少なく、低コピーのCCP2のバックグラウンド発現が低いので、進化前のLWSファージの複製をサポートすることができず、より強力な進化の選択圧を提供することができる。
【0057】
また、宿主細菌が外へ移動し続けることにより、増殖の効率が低くかつ含量が少ない野生型標的遺伝子の活性を有し、低い増殖効率と少ない含有量のファージを溶出することができる。なお、進化感染スポットのサイズ、プラーク数またはレポーター遺伝子のリアルタイムモニタリングを観察することにより、標的遺伝子の活性とファージの増殖活性を示すことができる。
【0058】
CCP2.1はCCP2上のgIII遺伝子を制御するT3をT7プロモーターに改変することにより得られるものである。宿主細菌S4はCCP2を有しており、宿主細菌S5はCCP2.1を有している。本発明は、進化後のファージLWSeNがS4、S5宿主細菌にそれぞれ形成するプラーク数の差により、LWSeN上の進化後の標的遺伝子のT7とT3ポリメラーゼの活性を比較する。
【0059】
以下、T7プロモーター(SEQ ID NO:1(配列番号1))を認識するT7 RNAポリメラーゼ遺伝子T7 RNAPを、T3プロモーター(SEQ ID NO:2(配列番号2))を認識するT3ポリメラーゼ遺伝子T3 RNAPに進化させることを例として本発明を詳細に説明するが、本発明の保護は、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子の進化にのみ限定されるものでない。そのT3ポリメラーゼは進化実験により得て、T3プロモーターを機能的に認識できるポリメラーゼを意味するが、前記ポリメラーゼが天然のT3 RNAポリメラーゼと同じ遺伝子配列を有していることを意味するものでない。ファージLWSに含まれかつ進化させる標的遺伝子はT7 RNAポリメラーゼ遺伝子であり、ヘルパープラスミドCCP1(配列番号3)上のgIII遺伝子の発現はT3プロモーターにより制御され、ヘルパープラスミドCCP2(配列番号4)上のgIII遺伝子の発現はT3プロモーターにより制御され、ヘルパープラスミドCCP2.1(SEQ ID NO:6(配列番号6))上のgIII遺伝子の発現はT7プロモーターにより制御され、ヘルパープラスミドCCP3(配列番号5)上のgIII-negの発現はT7プロモーターにより制御され、ヘルパープラスミドCCP4上のgIII-negの発現はT7プロモーターにより制御される。gIII-negは、欠損のあるgIIIであり、gIII遺伝子のaa280~aa350の間の約70個のアミノ酸が欠損しているので、LWSの増殖進化をサポートすることができない。gIII-negとgIIIを共に発現するとき、LWS増殖を競合的に抑制する。
【0060】
本発明において、ファージLWS、およびヘルパープラスミドCCP4はそれぞれ、出願番号201610349254.3の発明に開示されたファージSM、HP4と同じである。
【0061】
変異誘発プラスミドIMP1上の変異誘発遺伝子の発現はT7プロモーターにより制御され、変異誘発プラスミドIMP2と変異誘発プラスミドIMP1の相違点は、変異誘発遺伝子の発現がT3プロモーターにより制御されることにある。変異誘発プラスミドIMP2の遺伝子配列はSEQ ID NO:7(配列番号7)に示すとおりである。変異誘発プラスミドIMP3上の変異誘発遺伝子の発現がpspプロモーターによって制御されるという点において、変異誘発プラスミドIMP3は変異誘発プラスミドIMP2と異なる。ファージM13-WTはNEBから購入したM13KO7ファージに遺伝子を挿入することにより得られる野生型ファージである。ファージLWSと比較すると、M13-WT(NCBI ACCESSION:V00604)とT7ファージ(NCBI ACCESSION:NC_001604)のゲノムと機能は完全であり、宿主細菌において独自に感染して増殖することができる。
【0062】
本発明の一部分のファージ、プラスミドは、本発明の発明者がDavid R Liuの実験室が提供する一部分の材料をさらに改良して得られたものである。所定の文献(Nat Chem Biol. 2014 March;10(3): 216-222)にはその遺伝情報が既に記載されている。他のプラスミドと菌株は本発明の発明者が研究により得られたものである。本発明の宿主細菌はE.coli M15であり、E.coli M15はE.coli K12シリーズのE.coli MG1655にFプラスミドを導入することにより得られたものであり、遺伝子型は、F´proA+B+ lacIq Δ(lacZ)M15 zzf::Tn10(TetR)/attB::aph tetRである。
【0063】
なお、本発明の宿主細菌は、E.coli M15にのみ限定されるものでなく、F因子を保有する任意の大腸菌であり得る。また、本発明のE.coli M15およびLWS、CCP1、CCP2、CCP2.1、CCP3、CCP4、IMP1、IMP2、IMP3(
図4-12)はいずれも、遺伝子マップと配列を参照することができ、PCR、酵素消化とライゲーション、遺伝子の組換えなどの従来の分子クローニング方法により得ることができる。遺伝子の組換え、PCR、酵素消化とライゲーションなどの分子クローニング方法は本技術分野の周知の技術であり、その方法により所定の菌株、プラスミドおよびファージを得ることができる。したがって、本発明の宿主細菌、プラスミドおよびファージは、再現可能な特徴を有しており、当業者は従来の方法によりそれを得ることができる。当業者が理解することができるとおり、本発明において菌種の保存を提供しなくても本発明を充分に実施することができる。
【0064】
本発明において、CCP1とIMP1を保有する宿主細菌はS1と呼ばれ、IMP2、CCP2、CCP3を保有する宿主細菌はS2と呼ばれ、IMP2、CCP2、CCP4を保有する宿主細菌はS3と呼ばれる。ポジティブスクリーニングにおいて、最初のLWSはS1菌内において連続的指向性進化を実施する。最初のLWSは、T7 RNAP遺伝子を保有し、S1菌でのみCCP1のバックグラウンド発現により低いレベルの増殖と突然変異進化する。LWSが保有するT7RNAPがT3RNAPの方向に進化し続けることにより、CCP1上のT3プロモーターに制御されるgIIIの発現を促進するLWS突然変異株が生産される。当該突然変異株は、S1菌においてより高いレベルの増殖と進化を行い、CCP1中のT3プロモーターが制御するgIIIのプロモーション活性を更に改善し、突然変異ファージLWSeとpre-T3RNAPに進化した標的遺伝子を得ることができる(
図2a)。そのプロセスはポジティブスクリーニングと呼ばれる。
【0065】
進化後のLWSe上のpre-T3RNAPは、T7、T3プロモーターに対していずれも高い活性を有する。T3プロモーターに対するpre-T3RNAPの特異性を改善するため、T7プロモーターに対する認識プロモーション性能が低いT3RNAPを進化させてスクリーニングする必要がある。このプロセスはネガティブスクリーニングと呼ばれる。
【0066】
ネガティブスクリーニングはCCP3またはCCP4を用いる必要があり、ポジティブスクリーニングによって進化したLWSeによりS2菌が感染するとき、LWSe上の進化後の標的遺伝子pre-T3RNAPは、gIII-R5の発現を促進することができ、それによりその増殖を抑制することができる。その状況はLWSeがいくつかの新しいファージ突然変異株を進化させるまで続く。それらの新しいファージ突然変異株が保有する標的遺伝子は、CCP2上のT3プロモーターが制御するgIII遺伝子の発現を効率的に促進することができるが、CCP3またはCCP4上のT7プロモーターが制御するgIII-R5遺伝子の発現を促進しないか或いはほとんど促進しない。このとき、それらの新しいファージ突然変異株はS2またはS3菌株内において更に進化し続け、最終的に進化して、高特異性のT3 RNAポリメラーゼ遺伝子T3RNAPを運ぶファージLWSeNを得ることができる(
図2b)。CCP4は、高コピープラスミドであり、欠損性遺伝的要素を発現するレベルが高い。すなわち、CCP4はCCP3の強化型である。S2宿主細菌の代わりにS3宿主細菌を用いることにより、S2宿主細菌において進化したファージをS3宿主細菌に転送して更に進化させることができる。
【0067】
以下、実施例によって本発明の実行可能性を説明する。なお、下記の実施例は単なる例示であり、下記の実施例により本発明の実行可能性を説明するが、それらにより本発明の保護範囲を限定する意図はない。
【実施例0068】
実施例1
進化実験を行う前に、下記の準備をする。
【0069】
1)CCP1およびIMP1プラスミドを保有する宿主細菌S1を、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S1を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S1を進化実験に用いることができる。
【0070】
2)CCP2、CCP3およびIMP2プラスミドを保有する宿主細菌S2を、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシン、50μg/mlのカルベニシリンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S2を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S2を進化実験に用いることができる。
【0071】
3)CCP2、CCP4およびIMP2プラスミドを保有する宿主細菌S3を、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシン、50μg/mlのカルベニシリンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S3を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S3を進化実験に用いることができる。
【0072】
4)CCP2を保有する宿主細菌S4を、50μg/mlのテトラサイクリンおよび50μg/mlのカルベニシリンが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S4を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S4を実験に用いることができる。
【0073】
5)CCP2.1を保有する宿主細菌S5を、50μg/mlのテトラサイクリンおよび50μg/mlのカルベニシリンが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S5を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S5を実験に用いることができる。
【0074】
6)CCP1を保有する宿主細菌S6を、50μg/mlのテトラサイクリンおよび50μg/mlのスペクチノマイシンが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S6を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S6を進化実験に用いることができる。
【0075】
7)IMP3およびCCP1を保有する宿主細菌S7を、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、S7を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、宿主細菌S7を実験に用いることができる。
【0076】
8)E.coli M15を50μg/mlのテトラサイクリンが含まれるLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、E.coli M15を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、E.coli M15を実験に用いることができる。
【0077】
9)E.coli MG1655をLB培地に入れた後、37℃、220rpmの条件によりOD600=0.3まで培養する。次に、E.coli MG1655を100倍に希釈した後、同じ培養条件により再びOD600=0.3まで培養する。2回の培養後、E.coli MG1655を実験に用いることができる。
【0078】
実施例2
S4またはS5の宿主細菌におけるLWSプラークの観察方法
【0079】
1)10cmの細菌培養プレート上に10mlの1.5%アガロースゲルを1層広げた後、室温で20min放置することによりそれを凝固させる。
【0080】
2)ファージLWSの濃度がわからない場合、LWSを101、102、103、104、105、106、107倍の比率で連続的に勾配希釈する必要がある。
【0081】
3)「実施例1」で準備した200μLのS4またはS5宿主細菌を複数組取り、各組に希釈勾配が異なる「2)」のLWSを10μLずつ添加した後、55℃で保存し、かつ0.4%の細菌学用寒天が含まれている4mlのLB培地と最終濃度が50μg/mlであるカルベニシリンを更に添加する。ボルテックスミキサーにより均一に混合した後、サンプルを「1)」で準備したプレート上に広げ、かつ室温で1h放置することによりそのサンプルを凝固させる。
【0082】
4)37℃の生化学インキュベーターで一晩培養する。
【0083】
5)各勾配希釈サンプルによって形成されたプラーク数を検出してカウントし、元のサンプルLWSの濃度を算出する。
【0084】
S5が保有するCCP2.1のgIII遺伝子はT7プロモーターにより促進され、T7 RNAP標的遺伝子を保有するファージLWSはS5宿主細菌においてプラークを希釈することができる。S4が保有するCCP2のgIII遺伝子はT3プロモーターにより促進され、含有される標的遺伝子のみによりT3 RNAP活性を有するLWSeを進化させ、S4宿主細菌にプラークを形成することができる。LWSeによりS4、S5宿主細菌に形成されたプラーク数の変化を比較することにより、LWSeの進化の効果を直接分析することができる。
【0085】
実施例3
宿主細菌、ファージ感染および移動テスト
【0086】
1)10cmの細菌培養プレートに、0.25%細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は50μg/mlのテトラサイクリンと50μg/mlのカルベニシリンを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0087】
2)
図1aに示すように、2μlの「実施例1」で準備した宿主細菌S5をプレートの中央表面に接種する。S5接種部位から1cm離れた外側の3つのコーナーには保存濃度が10
6pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。
【0088】
3)プレートを37℃の生化学インキュベーターに入れて一晩培養する。その後、
図1bに示す現象を観察できる。宿主細菌は、中央から端に移動し、移動中の宿主細菌はファージと接触することにより感染しかつ子孫ファージを生成し、その後外縁へ移動し続ける。感染した宿主細菌の成長が遅いため、細菌の数は比較的少なく、非感染領域の宿主細菌が元の状態を維持するため、細菌の数は比較的多い。したがって、感染領域には細菌が少なくかつ透明なV字型感染スポットが形成されていることを見つけることができる。前記透明な感染スポットはファージが感染することを意味し、透明スポットの透明度とサイズはファージの感染活性を意味する。
【0089】
実施例4
SPACEポジティブスクリーニング進化
【0090】
1)1回目の進化:3つの10cmの細菌培養プレートa、b、cを準備し、各培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシンを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0091】
4つの10cmの細菌培養プレートd、e、f、gを準備し、各培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0092】
2)
図1aに示すように、2μlの「実施例1」で準備した宿主細菌S6を3つのプレートa、b、cの中央表面に接種する。S6接種部位から1cm離れたプレートaの外側の3つのコーナーに保存濃度が10
8pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。S6接種部位から1cm離れたプレートbの外側の3つのコーナーに保存濃度が10
9pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。S6接種部位から1cm離れたプレートcの外側の3つのコーナーに保存濃度が10
10pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。
【0093】
2μlの「実施例1」で準備した宿主細菌S1を4つのプレートd、e、f、gの中央表面に接種する。S1接種部位から1cm離れたプレートdの外側の3つのコーナーに保存濃度が108pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。S1接種部位から1cm離れたプレートeの外側の3つのコーナーに保存濃度が109pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。S1接種部位から1cm離れたプレートfの外側の3つのコーナーに保存濃度が1010pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。プレートgにはファージを接種しない。
【0094】
プレートd、e、fは異なる量の初期ファージが添加されたSAPCE進化グループであり、プレートa、b、cは異なる量のファージが添加されかつ変異誘発プラスミドIMP1が含まれていないコントロールグループであり、プレートgはファージが含まれていないネガティブコントロールグループである。
【0095】
3)プレートを37℃の生化学インキュベーターに入れて一晩培養する。
【0096】
4)プレートa~gの培養効果は4a~gに示すとおりである。プレートa、b、c中のS6宿主細菌は変異誘発プラスミドを有しておらず、ファージは突然変異進化することができない。プレートa、b、cでは、ファージLWSは、CCP1のバックグラウンド発現のみにより促進されかつ弱く増殖するため、移動中の宿主細菌に直ちに振り払われ、かつ肉眼で認識できる感染スポットを形成することができない。最終結果はg組のネガティブコントロールと同じである。
【0097】
プレートd、e、f中の宿主細菌S1は変異誘発プラスミドIMP1を保有している。したがって、最初時のファージLWSはCCP1のバックグラウンド発現のみにより促進されかつ複製および増殖する。しかしながら、ファージLWSはIMP1上の突然変異誘発遺伝子を促進することによりそれ自体がT3RNAP活性を突然変異進化させるようにすることができる。したがって、プレートd、e、fには感染スポットが直ちに形成され、かつ最初に添加されたファージ量が多ければ多いほど感染スポットがより明らかになる。
【0098】
プレートe中の感染スポットは明らかであり、eと同じ量の初期ファージLWSが添加されたプレートbには非特異的な感染スポットが形成されない。したがって、後の実施例においてプレートeを選択して実験分析する。
【0099】
プレートeで進化した感染スポットには進化後のファージLWSeがある。プレートeにおける感染スポットの開始点α(プレートの中央付近)、中間点β、終点γ(プレートの中央から離れた位置)において5μlのサンプルをそれぞれ採取し、それらをLWSeα、LWSeβ、LWSeγと表記する。サンプルをLB液体培地により100倍に希釈した後、ボルテックスミキサーにより2min均一に混合する。次に、均一に混合されたサンプルを0.22μmの小型フィルタで濾過し、「実施例2」に記載の方法により、T3プロモーターでgIII遺伝子の発現を制御するS4宿主細菌中のサンプルLWSeα、LWSeβ、LWSeγによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、T7プロモーターでgIII遺伝子の発現を制御するS5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0100】
図4hに示すように、進化前のファージLWSは、野生型のT7RNAP遺伝子を保有し、宿主細菌S5のみでT7 plaqueを形成することができ、宿主細菌S4でT3 plaqueを形成することができない。進化が進むにつれ、ファージLWSはファージLWSeになる。LWSeが保有する標的遺伝子は、絶えず突然変異しているので、T3 RNAP活性を持ち始め、T3プロモーターを認識することができ、かつ宿主細菌S4にT3 plaqueを形成することができる。また、プレートの中央から離れれば離れるほど、進化の時間は長くなり、進化の効果が高くなり、LWSeにより得られるT3RNAPの活性が明らかになる。
図4hに示すように、LWS~LWSeγがS4においてT3 plaqueを形成する能力が強くなる。したがって、後の実施例において、進化するたびにプレートの中央から離れた感染スポットの終点においてサンプルを採取し、それを100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、分析または進化を続ける。
【0101】
後の実施例との一致性を確保するため、以下、LWSeγサンプルをLWSe1と表記する。ここで、「1」は進化を1回したことを表す。、本発明において、LWSe1とLWSeγは異なるシーンにおける同じサンプルの名称の表記を表す。
【0102】
2回目の進化:同じプレートにおいて、S1宿主細菌をプレートの中央に接種し、S1接種部位の外側から1cm離れた3つのコーナーに濾過後のファージLWSe1を2μlずつ接種し、同じ条件で2回目の進化を行う。
【0103】
2回目の進化感染スポットの最後に、LWSe2ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
図5に示すように、追加の進化を1回した後、LWSe2によりS4宿主細菌にプラークT3 plaqueを形成する能力はLWSe1よりも強くなる。
【0104】
実施例5
S2またはS3宿主細菌によるSPACEネガティブスクリーニング進化
【0105】
1)3回目の進化:10cmの培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。S2が保有するCCP3およびCCP4プラスミドにはT7プロモーターだけでなくテオフィリンに誘導されるリボスイッチも含まれている。リボスイッチは厳密ではないので、テオフィリンを添加しなくても一定のgIII-negバックグラウンド発現が存在し、標的遺伝子を保有し、かつ野生型T7 RNAP活性を有するファージLWSeの増殖を抑制する。
【0106】
プレートの中央に2μlの宿主細菌S2を接種した後、S2接種部位の外側から1cm離れた3つのコーナーに濾過後のファージLWSe2を2μlずつ接種し、37℃のインキュベーターで一晩培養する。3回目の進化を行う。
【0107】
3回目の進化感染スポットの最後において、LWSe3ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0108】
2)4回目の進化:本実施例のステップ「1)」と同じ条件により濾過後のLWSe3サンプルに対して4回目の進化を行う。同様に、4回目の進化感染スポットの最後において、LWSe4ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるサンプルのプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0109】
3)5回目の進化:10cmの培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのスペクチノマイシン、25μg/mlのクロラムフェニコールおよび1mMテオフィリンを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。テオフィリンを添加することによりCCP3およびCCP4のgIII-negの発現を向上させ、進化スクリーニングの圧力を強めることができる。
【0110】
プレートの中央に2μlの宿主細菌S2を接種した後、S2接種部位の外側から1cm離れた3つのコーナーに濾過後のファージLWSe4を2μlずつ接種し、37℃のインキュベーターで一晩培養する。5回目の進化を行う。
【0111】
5回目の進化感染スポットの最後において、LWSe5ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0112】
4)6回目の進化:10cmの培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0113】
プレートの中央に2μlの宿主細菌S3を接種した後、S3接種部位の外側から1cm離れた3つのコーナーに濾過後のファージLWSe5を2μlずつ接種し、37℃のインキュベーターで一晩培養する。6回目の進化を行う。
【0114】
6回目の進化感染スポットの最後において、LWSe6ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過し、、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0115】
5)7回目の進化:10cmの培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのスペクチノマイシン、25μg/mlのクロラムフェニコールおよび1mMテオフィリンを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0116】
プレートの中央に2μlの宿主細菌S3を接種した後、S3接種部位の外側から1cm離れた3つのコーナーに濾過後のファージLWSe6を2μlずつ接種し、37℃のインキュベーターで一晩培養する。7回目の進化を行う。
【0117】
7回目の進化感染スポットの最後において、LWSe7ファージサンプルを5μl採取して100倍に希釈し、0.22μmの小型フィルタで濾過した後、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0118】
7回目の進化の効果は
図5に示すとおりである。
図5中のa部分は異なるCCPのコピー数を示している。コピー数は、遺伝子の発現レベルに影響を与え、進化プロセスにおける選択圧にも影響を与える。
図5中のb部分は各進化によるプレート上の効果を示している。b部分の進化圧線において、明るい色から暗い色に変化する色により、異なる進化条件で、進化選択圧が弱から強に変化することを示している。
図5中のc部分は各進化の生成物によりS4、S5宿主細菌に形成されるプラークの形成効果を示している。図に示すように、進化の回数が増加すると、進化プロセスの選択圧は強くなり、進化の効果は明らかになる。野生型T7 RNAP遺伝子を保有するLWSファージは、T7プロモーターのみによりgIII遺伝子の発現を制御できるS5宿主細菌においてプラークT7 plaqueを形成することができるが、T3プロモーターによりgIII遺伝子の発現を制御するS4宿主細菌においてプラークT3 plaqueを形成することができない。進化が進むにつれ、LWSe1からLWSe7ファージまでのファージによりS5宿主細菌にプラークT7 plaqueを形成する能力は全体的に弱くなるが、S4宿主細菌にプラークT3 plaqueを形成する能力は全体的に強くなる。
【0119】
実施例6
SPACE生成物の配列決定分析
【0120】
最初の2回の進化生成物のファージLWSe1、LWSe2に対して、いくつかのクローンを精製することにより標的遺伝子を配列決定する。
図5dに示すように、ファージが保有する標的遺伝子はいずれも、N末端の第1~310のアミノ酸において対応する突然変異が発生した。この領域がT7 RNAPがプロモーターを認識することに関連しているという報告がある。E222Kの突然変異はT7 RNAPの特異性に影響を与えることが、David R Liuによって報告されている。
【0121】
進化前後のファージがS5、S4宿主細菌においてプラークを形成する能力および配列決定結果を比較すると、LWSeファージが保有する標的遺伝子の活性がT7RNAPからT3RNAPに変化することはSAPCE進化による突然変異により引き起こされることが分かる。
【0122】
実験例1
IMP3誘導によるSPACE進化テスト
【0123】
1)3つの10cmの細菌培養プレートa、b、cを準備し、各培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれる10mlのLB培地を添加する。培地は、50μg/mlのテトラサイクリン、50μg/mlのスペクチノマイシンおよび25μg/mlのクロラムフェニコールを含む。室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0124】
2)
図1aに示すように、2μlの実施例1で準備した宿主細菌S7をプレートa、cの中央表面にそれぞれ接種する。プレートaの宿主細菌S7の接種部位から1cm離れた外側の3つのコーナーに、保存濃度が10
9pfu/mlであるLWSファージを2μl接種する。negative組であるプレートcにはファージを接種しない。
【0125】
2μlの実施例1で準備した宿主細菌S1をプレートbの中央表面に接種する。プレートbの宿主細菌S1の接種部位から1cm離れた外側の3つのコーナーに保存濃度が109pfu/mlであるLWSファージを2μlずつ接種する。
【0126】
3)プレートを37℃の生化学インキュベーターに入れて一晩培養する。
【0127】
4)プレートa~cの進化の効果は
図6a~6cに示すとおりであり、IPM3を保有する宿主細菌S7とIMP1を保有する宿主細菌S1には進化が類似する感染スポットが形成される。宿主細菌S7組の進化感染スポットの最後において、進化後のファージサンプルLWSeP1を5μl採取して100倍に希釈した後、0.22μmの小型フィルタで濾過する。次に、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0128】
進化による宿主細菌S1組の感染スポットの終点において進化後のファージサンプルLWSeT1を5μl採取して100倍に希釈した後、0.22μmの小型フィルタで濾過する。次に、サンプルによりS4宿主細菌に形成されるプラークT3 plaqueの形成状況と、S5宿主細菌に形成されるプラークT7 plaqueの形成状況をそれぞれ検出する。
【0129】
図6dに示すように、LWSeT1とLWSeP1のT3、T7plaqueの数は類似している。それはpspオペロンに制御されるIMP3とIMP1により突然変異進化を促進する効果が同様であることを示す。
【0130】
以上のとおり、IMP1とIMP2の代わりにIMP3を直接用いることによりIMPの発現を標的遺伝子の活性から分離させることができる。このとき、標的遺伝子の進化的合成に係らず、ポジティブスクリーニングまたはネガティブスクリーニングをするときいずれも、同じIMP3を用いることができる。
【0131】
実験例2
毒性ファージの感染移動テスト
【0132】
1)前記実施例は慢性感染M13ファージにより実行されるものである。しかしながら、本発明は他のファージにより進化実験をすることもできる。本実施例において、毒性ファージのT7ファージを例として説明する。
【0133】
2)10cmの細菌培養プレートに0.25%の細菌学用寒天が含まれている10mlのLB培地を添加し、室温で1h放置することによりそれを凝固させる。
【0134】
3)
図1aに示すように、2μlの「実施例1」で準備した宿主細菌E.coli MG1655をプレートの中央表面に接種する。E.coli MG1655接種部位から1cm離れた外側の3つのコーナーに保存濃度が10
4、10
5、10
6pfu/mlであるT7ファージを2μlずつ接種する。コントロール組において、ファージの代わりにLB培地を用いる。
【0135】
4)プレートを37℃の生化学インキュベーターに入れて一晩培養する。その後、
図7bに示す現象を見つけることができる。宿主細菌は中央から端部に移動し、移動中の宿主細菌はファージと接触することにより、感染するとともに子孫ファージを生成し、かつ外縁へ移動し続ける。T7ファージは強力なファージであり、感染する宿主細菌はいずれも分解して死亡する。したがって、プレート上にV字型の透明な感染スポットが形成される。コントロール組16aにはファージがないため、V字型感染スポットが形成されず、その細菌は円状に均等に分布する。接種量が10
6pfu/mlである組において、
図7bの感染領域のα点、非感染領域のβ点および交差領域のγ点でサンプルをそれぞれ採取し、「実施例2」に従って、E.coli MG1655によりプラーク数をカウントする。
図7cに示すように、γ点において10
9pfu/mlレベルのT7ファージが検出された。T7激烈ファージはプレートにおいて宿主細菌と共に移動しながら感染し、かつ肉眼で認識できる感染スポットを感染の兆候とすることができる。M13ファージにより実施される本発明実施例をT7ファージにより実施することもできる。
【0136】
前記実施例において、T7プロモーターを認識するT7 RNAポリメラーゼ遺伝子T7RNAPを、T3プロモーターを認識するT3 RNAポリメラーゼ遺伝子T3 RNAPに進化させることを例として本発明を説明してきた。しかしながら、他の実施例において、LWSにおけるT7RNAP遺伝子の代わり他の標的遺伝子(プロテアーゼ遺伝子、セルラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、密度感知遺伝子など)を用い、CCP1、CCP2、CCP3およびCCP4プラスミド中のgIIIとgIII-R5遺伝子の発現の調節方法と発現後の修飾方式を対応させて調整することにより、gIIIおよびgIII-R5の発現とLWS上の新しい進化待ちの標的遺伝子の生物活性を関連させることができる。それにより本システムは新しい標的遺伝子に対して指向性進化することができる。
【0137】
具体的な実施例により本発明を説明してきたが、本発明の趣旨および範囲を逸脱しない範囲内において、さまざまな変更および改良等をすることができ、それらがあっても本発明に含まれることは勿論である。
前記変異誘発プラスミドは変異誘発遺伝子を含み、前記変異誘発遺伝子は、12位と14位のアミノ酸がAlaに変異しているDNAQ遺伝子変異体のDNAQ926遺伝子、デオキシアデノシンメチラーゼdam遺伝子、ヘミメチル化GATC結合タンパク質seqA遺伝子、活性化誘導シトシンデアミナーゼ遺伝子AID、ファージPBS2のウラシルDNAグリコシラーゼ阻害遺伝子Ugiおよび転写抑制因子emrRからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。