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特開2023-123432ワクチン及びコンジュゲートワクチンプラットフォームとしての改変されたクロストリジウム神経毒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123432
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ワクチン及びコンジュゲートワクチンプラットフォームとしての改変されたクロストリジウム神経毒
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/195 20060101AFI20230829BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
C07K14/195 ZNA
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023087721
(22)【出願日】2023-05-29
(62)【分割の表示】P 2020532949の分割
【原出願日】2018-12-17
(31)【優先権主張番号】62/599,444
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】511148204
【氏名又は名称】ザ メディカル カレッジ オブ ウィスコンシン インク
【氏名又は名称原語表記】THE MEDICAL COLLEGE OF WISCONSIN, INC.
(71)【出願人】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】バルビエリ ジョセフ ティー
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン エリック エイ
(72)【発明者】
【氏名】ペレット サビーヌ
(72)【発明者】
【氏名】テップ ウィリアム エイチ
(72)【発明者】
【氏名】プルゼドペルスキ アマンダ
(57)【要約】
【課題】破傷風菌毒素の固有の毒性を不活化し、安全且つ有効なワクチンを生産する手段を提供する。
【解決手段】本明細書では、操作された非触媒性、非毒性破傷風菌毒素変異体及びそのような操作された破傷風菌毒素変異体を、非毒性及びそれらのそれぞれの化学的に不活化されたトキソイドよりも有効な低用量の予防ワクチンとして使用する方法が提供される。加えて、本明細書では、操作された破傷風菌毒素変異体を含むコンジュゲートワクチン担体及び単一のワクチンとして広域の微生物病原体を標的とし得るT細胞依存性免疫記憶応答を惹起するためにそのようなコンジュゲートワクチンを使用する方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも95%の同一性を有し、且つ、R372及びY375の各位置に突然変異を有し、更にE334、K768、R1226、及びW1289から選択される2つ以上の位置に突然変異を含む配列を含み、各位置は配列番号1に対して符番されている、改変された破傷風菌毒素ポリペプチドであって、配列番号1の毒性及び受容体結合に比べて毒性及び受容体結合が低減されているポリペプチド。
【請求項2】
R372の位置のアミノ酸Rがアミノ酸Aに置換され、且つ、Y375の位置のアミノ酸Yがアミノ酸Fに置換されている、請求項1に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項3】
前記突然変異がR372A、Y375F、E334Q、R1226L、及びW1289Aを含む、請求項1に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項4】
配列番号4によりコードされる、請求項3に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項5】
前記突然変異がR372A、Y375F、E334Q、K768A、R1226L、及びW1289Aを含む、請求項1に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項6】
配列番号5によりコードされる、請求項5に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項7】
L231及びY26の一方又は両方の位置に突然変異を更に含み、各位置は配列番号1に対して符番される、請求項1に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項8】
L231及びY26の一方又は両方の位置の突然変異がL231K及びY26Aを含む、請求項7に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項9】
配列番号6又は配列番号7によりコードされる、請求項7に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項10】
共有結合された糖鎖を更に含み、それにより、ポリペプチドはポリペプチド-糖鎖コンジュゲートである、請求項1~9のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチド及び薬学上許容される担体を含む組成物。
【請求項12】
対象が破傷風を発症するリスクを低減する方法であって、前記対象に治療上有効な量の請求項1~10のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドを投与することにより免疫応答を誘導することによる、方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドのアジュバントとしての使用。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドのワクチンとしての使用。
【請求項15】
ワクチンとしての効力が増強された操作された細菌タンパク質トキソイドを得る方法であって、
マルチドメイン細菌タンパク質毒素をコードするアミノ酸配列の各ドメインにおいて1以上のアミノ酸位置を選択すること、ここで、各位置は、各ドメインに関連するタンパク質機能を不活化するように選択され、前記ドメインは、触媒ドメイン、移行ドメイン、受容体結合ドメイン、及び基質結合ドメインのうち2つ以上を含む;
選択された各位置の天然アミノ酸残基を非天然アミノ酸残基で置換し、それにより、前記置換が前記ドメインに関連する1以上のタンパク質機能を不活化すること;及び
宿主細胞において前記置換非天然アミノ酸残基を含む全長細菌タンパク質毒素をコードする核酸配列を発現させ、それにより、発現されたタンパク質は、天然アミノ酸を含む全長細菌タンパク質毒素に比べて触媒活性、受容体結合活性、移行活性、又は基質結合活性の部分的又は完全喪失を示すこと、
を含む、方法。
【請求項16】
選択が、細菌タンパク質毒素の一次配列又は構造に基づいて個々の機能的アミノ酸残基を同定することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記構造がX線結晶学、電子顕微鏡、核磁気共鳴法、コンピュータータンパク質構造モデリング、又はそれらの組合せを用いて得られる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
選択が、全長タンパク質を不安定化することなく、又は免疫原性の喪失なく改変され得る個々のアミノ酸残基を同定することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
置換が部位特異的突然変異誘発を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年12月15日出願の米国仮特許出願第62/599,444号の優先権を主張するものであり、その全内容が本明細書に完全に示されているかのように本明細書の一部として援用される。
【0002】
連邦政府資金による研究の記載
本発明は、NIH-NIAIDにより授与された認可番号R01 AI030162及びAI118389の下、政府の支援を受けてなされたものである。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ヒトに対して最も有毒な物質であるボツリヌス菌神経毒(BoNT)は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)及び酪酸菌(Clostridium butyricum)及びクロストリジウム・バラティ(Clostridium baratii)の選抜株により産生されるタンパク質毒素である(Hill and Smith, 2013; Johnson and Montecucco, 2008)。BoNTは、ジスルフィド結合によって連結された100kDaの重鎖(HC)と50kDaの軽鎖(LC)から構成される150kDaの2鎖タンパク質として合成される。HCは更に、サイトゾルへのLCの移行を助けるN末端ドメイン(HN)と神経細胞の細胞表面受容体を認識してそれに結合するC末端ドメイン(HC)に分割される(Montal,2010)。ひと度細胞内に入ると、LCは可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(soluble N-ethylmaleimide sensitive-factor attachment protein receptors)(SNARE)の部分を特異的に切断し、それにより、神経伝達物質の放出を不活化する(Montecucco and Schiavo, 1993, Trends in biochemical sciences 18, 324-327;Schiavoら, 1995)。これまでに試験ワクチンが「リスクのある」集団をボツリヌスから保護するために使用されたが、この化学的に不活化されたBoNTトキソイドワクチンの使用は、効力の低下のために中断された。また、従来の破傷風菌毒素フラグメントワクチンは、低い抗原性及び免疫効力に伴う問題のために理想的ではない。よって、当技術分野では、アジュバント及びコンジュゲートワクチンとして使用するための破傷風及びボツリヌス菌毒素の非触媒性、非毒性変異体の必要がなおある。
【発明の概要】
【0004】
開示の概要
本明細書では、破傷風菌毒素の組換え非触媒性、非毒性変異体形態及びこのような変異体毒素の使用が提供される。本明細書に記載のデータは、天然破傷風菌毒素に比べて、また、従前に記載された破傷風変異体に比べて毒性の著しい低減を示す。本発明者らは、破傷風菌毒素の固有の毒性を不活化し、安全且つ有効なワクチンを生産するために組み合わせることができる、毒素中毒の他の段階の中でも、限定されるものではないが、基質親和性の排除若しくは反応速度の低下による触媒活性の排除、受容体結合の排除、移行能の阻害、又は毒素のドメイン内切断若しくはジスルフィド結合の崩壊への干渉を含む、いくつかの独立した、操作された突然変異を想定する。本明細書では、本発明者らが触媒作用の低下とともに、宿主の受容体結合が低下した突然変異を有する毒素を操作した実験を記載する。これらのデータは、それらを非毒性、且つ、ワクチン及び毒性を軽減するための化学的架橋の必要のないコンジュゲートワクチンとして好適なものとする選択された独立の突然変異を含む組換え毒素の可能性を示す。
【0005】
第1の態様において、本明細書では、配列番号1と少なくとも95%の同一性を有し、且つ、R372及びY375の各位置に突然変異を有し、更にE334、K768、R1126、及びW1289から選択される2つ以上の位置に突然変異を含む配列を含み、各位置は配列番号1に対して符番されている、改変された破傷風菌毒素ポリペプチドであって、配列番号1の毒性及び受容体結合に比べて触媒活性、移行、及び受容体結合が低減されているポリペプチドが提供される。R372の位置のアミノ酸Rはアミノ酸Aに置換することができ、且つ、Y375の位置のアミノ酸Yはアミノ酸Fに置換することができる。突然変異はR372A、Y375F、E334Q、R1226L、及びW1289Aを含み得る。改変されたポリペプチドは、共有結合された糖鎖を更に含むことができ、それにより、このポリペプチドは、ポリペプチド-糖鎖コンジュゲートとなる。改変されたポリペプチドは、配列番号2によりコードされ得る。
【0006】
いくつかの場合、突然変異は、R372A、Y375F、E334Q、K768A、R1226L、及びW1289Aを含み得る。改変されたポリペプチドは、配列番号5によりコードされ得る。いくつかの場合、改変されたポリペプチドは、L231及びY26の一方又は両方の位置に突然変異を更に含むことができ、各位置は配列番号1に対して符番されている。L231及びY26の一方又は両方の位置の突然変異は、L231K及びY26Aを含む。改変されたポリペプチドは、配列番号6又は配列番号7によりコードされ得る。
【0007】
別の態様において、本明細書では、本明細書に記載されるような改変されたポリペプチド及び薬学上許容される担体を含む組成物が提供される。
【0008】
更なる態様において、本明細書では、対象が破傷風を発症するリスクを低減する方法であって、前記対象に治療上有効な量の本明細書に記載されるような改変されたポリペプチドを投与することにより免疫応答を誘導することによる方法が提供される。いくつかの場合、改変されたポリペプチドは、アジュバントとして使用される。いくつかの場合、改変されたポリペプチドは、ワクチンとして使用される。
【0009】
本発明の前記及びその他の態様及び利点は、以下の説明から明らかになる。説明では、その一部を成す添付図面が参照され、図面には例として本発明の好ましい実施形態が示される。このような実施形態は必ずしも本発明の全範囲を表すものではなく、従って、本発明の範囲を解釈するためには特許請求の範囲及び本明細書が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ワクチン接種に対する宿主免疫応答を評価するために使用される組換えタンパク質を示す。(上のパネル)本試験に使用したBoNT誘導体の模式図を示す。示されている場合、2つのエピトープ(His6及びStrep)は、タンパク質精製のために使用された。3XFLAG(3XF)及び2つの連続した血球凝集素(2HA)エピトープを細胞研究のために含めた。ドメイン接合点は、BoNT/A1の結晶構造(PDB:3BTA)を用いて定義した。各模式図の上の一文字アミノ酸表記は、触媒作用(LC)又は受容体結合(HCC)を低減するために導入されるアミノ酸置換の導入を示す。ワクチン接種には一本鎖BoNT及びLCHCNを使用したことに留意されたい。(下のパネル)4μgの示されたタンパク質にSDS-PAGE及びクーマシーブルー染色を施した。レーン:1、M-BoNT/A1;2、M-BoNT/A1トリプシンによりニックを入れ、還元したもの;3、M-LCHCN/A1;4、M-LCHCN/A1トリプシンによりニックを入れ、還元したもの;5、LC/A1RY;6、HCC/A1W;及び7、TeNTRY。分子量マーカータンパク質(kDa)の移動を左のレーンに示す。レーン2では、ニックが入ったHCは約80kDaに泳動するが、これは他の実験でトリプシンによるHCのベルト領域の切断によるものであることが示されたことに留意されたい。
図2図2は、M-BoNT/A1又はM-BoNT/A1Wを接種し、異種サブタイプである天然BoNT/A2で抗原刺激したマウス由来の血清のELISAである。マウスにM-BoNT/A1(上のパネル)又はM-BoNT/A1W(下のパネル)を接種し、106のLD50の天然BoNT/A2での抗原刺激の前に血清を採取した。抗原刺激から生き残ったマウス(A)又は生き残らなかったマウス(D)を示す。ELISAにより、M-BoNT/A1;M-LCHCN/A1;LC/A1RY;HCC/A1W;TeNTRY;及びタンパク質不含対照(Con)の血清(1:20,000希釈)の抗体力価の測定を行った。結合したマウス抗体は、TMB試薬を用い、ヤギα-マウスIgG-HRP(1:20,000希釈)で検出した。反応を希H2SO4で停止させ、450nmで読み取った。データは、示された標準偏差で、二反復で行った2回の独立した実験からの、M-BoNT/A1接種後ではマウス5個体(A)及び4個体(D)、また、M-BoNT/A1W接種後ではマウス3個体(A)及び6個体(D)の平均として示す。統計分析は本明細書に記載されるように行った:P,.05=*
図3図3は、BoNT誘導体を接種し、天然BoNT/A1で抗原刺激したマウス由来の血清のELISAである。マウスにM-BoNT/A1W(0.3μg)、M-LCHCN/A1(0.2μg)、M-LCHCN/A1(0.2μg)+HCC/A1W(0.1μg)、又はHCC/A1W(0.3μg)を接種した。BoNT抗原刺激の前に血清を得た。ELISAは、M-BoNT/A1;M-LCHCN/A1;LC/A1RY;HCC/A1W;TeNTRY;及びタンパク質不含対照(Con)の血清(1:30,000希釈)の抗体力価を決定する。結合したマウス抗体は、TMB試薬を用い、ヤギα-マウスIgG-HRP(1:20,000希釈)で検出した。反応を希H2SO4で停止させ、450nmで読み取った。データが天然BoNT/A1抗原刺激の生存個体(A)7又は非生存個体(D)3からのものであるHCC/A1W接種マウスを除き、データは、示された標準偏差で、二反復で行った2回の独立した実験で分析した表1の実験3の、BoNT/A1抗原刺激から生き残ったマウスの10の独立した血清の平均として表す。力価範囲の変動は、ELISA反復によるものではなく、個々のマウス間の抗体力価の変動によるものであった。統計分析は方法の節に記載されるように行った:P<0.05=*、0.01=**、0.001=***、及び0.0001=****
図4図4は、M-BoNT誘導体を接種した個々のマウス及び天然BoNT/A1による抗原刺激から生き残った個々のマウス由来の血清のELISAである。天然BoNT/A1抗原刺激から生き残った、BoNT/A1W(#7及び#3)、HCC/A1W(#78)及びLCHCN/A1(#21、#24、及び#25)を接種した個々のマウスからBoNT抗原刺激前に得た血清を、抗原としてM-BoNT/A1;M-LCHCN/A1;LC/A1RY;HCC/A1Wを用いてELISAにより分析した(1:30,000希釈)。結合したマウス抗体は、TMB試薬を用い、ヤギα-マウスIgG-HRP(1:20,000希釈)で検出した。反応を希H2SO4で停止させ、450nmで読み取った。示されたデータは、示された標準偏差で、それぞれ二反復で行った2回の独立した実験の平均である。
図5図5は、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)におけるSNAP25の天然BoNT/A1切断の血清中和を示す。BoNT/A1抗原刺激から生き残った、M-BoNT/A1W(#7及び#3)、HCC/A1W(#78)及びM-LCHCN/A1(#21、#24、及び#25)を接種した個々のマウスからBoNT抗原刺激前に得た血清を、天然BoNT/A1を中和するそれらの能力に関して分析した。ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)由来ニューロンを、ポリ-L-オルニチン及びマトリゲルコーティングプレートにウェル当たり35,000~40,000細胞の密度で播種し、中和アッセイ前の7日間、iCell Neurons培養培地で維持した。マウス血清中の中和抗体を検出するために、2pMの天然BoNT/A1を培養培地中、濾過除菌血清の連続希釈液と合わせ、37℃で1時間インキュベートした。「抗体不含」バッファーを対照として使用した。hiPSC由来ニューロンの1ウェル当たり50μlの各抗体-毒素混合物を少なくとも二反復で加え、細胞を37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。毒素/抗体をこれらの細胞から吸引し、細胞溶解液にPAGEを行った後に、SNAP-25切断に関してウエスタンブロットにより分析した(Pellettら, 2007;Pellettら, 2010)。非切断SNAP-25に対する切断SNAP-25を濃度計により定量し、保護%を、「抗体不含」対照との比較により決定した。IC50値は、GraphPad Prism 6ソフトウエア及び非線形回帰、変動勾配、4パラメーターを用いて評価した。
図6図6は、BoNT/A1による抗原刺激から生き残ったM-BoNT/A1W接種マウス由来の血清の代表的なELISAである。BoNT/A1抗原刺激から生き残ったマウスのBoNT/A1Wワクチン接種由来の血清を、示された抗原を用い、方法の節に記載されるようにELISAにより分析した。値は、示された標準偏差で、二反復で行った代表的測定の平均である。
図7図7は、M-BoNT/A1WはM-LCHCN/A1、又はLCHCN/A1+HCC/A1Wよりも免疫原性が高いことを示す。106 LD50 BoNT/A1での抗原刺激から生き残った、M-BoNT/A1(0.3μg)、M-LCHCN/A1W(0.2μg)、又はM-LCHCN/A1(0.2μg)+HCC/A1W(0.1μg)を接種した個々のマウスに由来する血清を、M-BoNT/A1、M-LCHCN/A1、LC/A1RY、HCC/A1W、TeNTRY、又はタンパク質不含(Con)に対する抗体に関してELISAにより分析した。データは、示された標準偏差で、二反復で行った2回の独立した実験で分析した表1の実験3の、BoNT/A1抗原刺激から生き残ったマウスの10の独立した血清の平均として表す。統計分析は本明細書に記載されるように行った:P<0.05=*、0.01=**、0.001=***、及び0.0001=****
図8図8は、野生型破傷風菌(Clostridium tetani)毒素をコードするアミノ酸配列である(配列番号1)。
図9図9は、2M-TTをコードするアミノ酸配列である(配列番号2)。
図10図10は、5M-TeNTをコードするアミノ酸配列である(配列番号4)。
図11図11は、6M-TeNTをコードするアミノ酸配列である(配列番号5)。
図12図12は、7M-TeNTをコードするアミノ酸配列である(配列番号6)。
図13図13は、8M-TeNTをコードするアミノ酸配列である(配列番号7)。
図14図14は、K768は破傷風菌毒素において軽鎖移行を媒介することを示す。(左のパネル)TT767DKE(WT)、TT767AAA、TT767RKK、又はTT767DAEをニューロンとともにインキュベートし、移行に関してリポーター(β-ラクタマーゼ)CCF2切断としてアッセイした。(右のパネル)767DKEにおけるTT及びBTのアラインメント。毒素間で保存されたリシン(K)に注目されたい。
図15図15は、TeNTRY PDB:5n0bの結晶構造である。4つのTT機能を不活化した:軽鎖E234Q、R373A、Y376F(Zn++結合)、L231K(VAMP-2切断)及びY26A(VAMP-2結合)、K768A(LC移行)、及びR1226L及びW1289A(受容体結合)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示の詳細な説明
本発明は、1以上の好ましい実施形態に関して説明されているが、当然のことながら、明示されているものの他に多くの等価物、代替、変形、及び改変が可能であり、本発明の範囲内にある。
【0012】
本明細書に記載の方法及び組成物は、少なくとも部分的に、本発明者の非触媒性で、且つ神経細胞結合不能の遺伝的に操作された毒素の開発に基づいている。以下の段落及び例に記載されるように、触媒作用及び受容体結合を妨げる操作された欠陥を有する破傷風菌毒素及びボツリヌス菌毒素(BoNT)は、毒素介在疾患のワクチン開発のためのプラットフォームを提供する。例えば、操作された突然変異により非触媒性且つ受容体結合不能とされた改変型の破傷風菌毒素及びBoNTでは、毒性は検出されなかった。更に、このような改変された毒素は、ボツリヌス菌神経毒刺激から保護するためのワクチンとして好適であった。
【0013】
組成物
好ましくは、本開示の遺伝的に改変された毒素は、野生型毒素に関する複数の標的における遺伝的改変を含み、このような改変は残留属性を排除し、安全性を高め、これを下記に詳説する。BoNT及び破傷風菌毒素は異なる基質及び受容体に作用するが、本発明者らは、免疫細胞は非触媒性、非受容体結合形態のBoNT(本明細書では「M-BoNTW」と呼称)を取り上げ、非触媒性BoNT(「M-BoNT」)で見られるものと同様の中和免疫応答を惹起することを示した。この所見に基づき、更なる独立した突然変異部位が、他の非触媒性、非受容体型毒素変異体を操作するために決定された。本明細書に記載のように改変すると、結果として操作された非触媒性、非受容体結合毒素は、ワクチン及びコンジュゲートワクチンのプラットフォームとして使用するのに好適である。
【0014】
特定の理論又は作用様式に縛られるものではないかが、破傷風菌毒素及びボツリヌス菌毒素の独立した部位において操作された突然変異は、毒素タンパク質を独立した機序を介して毒性が発現できなくし、従って、不慮に毒性に遺伝的に復帰することに対するフェイルセーフ(fail-safe)を提供する。このような特性は、破傷風及びボツリヌス中毒に対するワクチンとしての、及びコンジュゲートワクチンのプラットフォームとしての変異体毒素の使用に有利である。
【0015】
よって、本明細書では、不可逆的に非毒性で、現行の化学的に不活化されたトキソイドよりも有効で生産及び操作が容易であり、従って、改良型ワクチン及びコンジュゲートワクチン担体を提供する組換え的に不活化された細菌毒素が提供される。第1の態様において、本明細書では、組換えによる非触媒性、非毒性改変形態の細菌タンパク質毒素(例えば、破傷風菌毒素及びボツリヌス菌神経毒)の単離調製物が提供され、ここで、改変型の毒素は、タンパク質を独立した機序により毒性が発現できなくする少なくとも4つのアミノ酸置換を含む全長毒素である。「調製物」とは、その天然存在に対して濃縮又は精製されたいずれの濃度の毒素ポリペプチドも意味する。好ましくは、調製物は、実質的に純粋であるか、又は他の成分を組み合わせて医薬製剤とする。いくつかの場合、本発明の調製物は、免疫系を刺激する助けをする毒素ポリペプチド配列に結合されてもよい1以上のアジュバント又は担体を含み得る。他の場合では、調製物それ自体がアジュバント活性を有し、結合抗原又は併用投与抗原に対する免疫応答を増強するために有効である。
【0016】
本明細書で使用する場合、「毒素」は、特定の微生物の代謝及び成長中に、細胞若しくは組織の組み込み部分(内毒素)として、細胞内若しくは細胞外生成物(外毒素)として、又はこれらの組合せとして形成又は合成される有毒物質又は毒物(例えば、細胞毒素)を指す。本明細書で使用する場合、「改変された毒素」という用語は、非触媒性、非毒性変異体形態の毒素を指し、ここで、毒素は、ポリペプチド毒素のアミノ酸配列に対する遺伝的に操作された(例えば、非天然、人為的)改変により非触媒性且つ非毒性とされる。例示的実施形態では、改変された毒素は、クロストリジウム属の細菌(例えば、C.ディフィシル(C. difficile)、C.ノービー(C. novyi)、C.ソルデリー(C. sordellii)、ウェルシュ菌(C. perfringens)、破傷風菌(C. tetani)、及びボツリヌス菌(C. botulinum)により産生される毒素の遺伝的に操作された又はそうでなければ改変された変異体である。これらの毒素は、組換え体、合成品、抗原に共有結合された、且つ/又は抗原と化学的に架橋された融合タンパク質(例えば、融合タンパク質の精製を容易にする抗原、又はポリペプチド(例えば、His6)を含む)の一部であり得る。いくつかの場合、非触媒性、非毒性形態の毒素はトキソイドと呼ばれる。トキソイドは毒性を欠くが、それらの抗原性及びそれらの免疫能を保持する。
【0017】
本明細書で使用する場合、「毒性の低減」という用語は、特定のタンパク質有効成分(例えば、野生型TT)を含む第1の組成物に比べて、特定のタンパク質有効成分の改変された形態を含む第2の組成物は、第1の組成物では致死的な用量水準と同じか又はそれより多い用量水準で哺乳動物に、その哺乳動物に死に至らせることなく投与するができることを意味する。毒性の低減は、当技術分野の熟練者に公知の方法によって検出可能であるような毒性の部分的又は完全な除去を包含する。加えて、毒性の低減は、全身毒性の低減(すなわち、静脈投与の場合)又は筋肉投与時の毒性の低減を包含する。
【0018】
特定の実施形態では、調製物は、改変された破傷風菌毒素を含む。一般に、本明細書に記載のように改変された破傷風菌毒素は、例えば、触媒活性及び受容体結合活性の有意な低下など、配列番号1に示される野生型破傷風菌毒素ポリペプチドと比較した場合に1以上の特性変化を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の改変された破傷風菌毒素は、野生型破傷風菌毒素の多くても1,000,000分の1の毒性である。
【表1】
【0019】
特定の実施形態では、調製物は、アミノ酸残基372及び375に突然変異を有し、更に残基334、1226、及び1289のうち1以上に突然変異を有する改変された破傷風菌毒素を含み、なお、これらの残基位置は配列番号1として示される全長野生型破傷風神経毒(破傷風菌CN3911;GenBank受託番号X06214)に対して符番されている。特定の実施形態では、残基372及び375のアミノ酸突然変異はR372A及びY375Fであり、改変された毒素は、E334Q、R1226L、及びW1289Aから選択される少なくとも1つの突然変異を更に含む。いくつかの場合、改変された毒素は、配列番号1に対して符番された5つの突然変異(R372A、Y375F、E334Q、R1226L、及びW1289A)を含み、本明細書で「5M-TeNT」又は「5M-TT」と呼称する。表1参照。いくつかの場合、5M-TeNTは、配列番号4として示されるアミノ酸配列によりコードされる。
【0020】
いくつかの実施形態では、破傷風菌毒素は、改変された移行ドメインを有する。例えば、768の位置のリシン(K)残基は、2つの長いαヘリックスを接続するループ内に位置する。この単一アミノ酸のアラニン(A)への突然変異は、軽鎖移行を不活化又は遮断する。いくつかの場合、5M-TT改変毒素にK768A突然変異を付加して6M-TTを作出し、それにより、得られた改変破傷風菌毒素は、6つの部位に独立した突然変異を含む(表2及び3参照)。いくつかの場合、改変された毒素は、配列番号1に対して符番された6つの突然変異(R372A、Y375F、E334Q、K768A、R1226L、及びW1289A)を含み、本明細書では「6M-TeNT」又は「6M-TT」と呼称する。いくつかの場合、6M-TeNTは、配列番号5として示されるアミノ酸配列によりコードされる。特定の機序又は理論に縛られるものではないが、6M-TTのワクチン効力は5M-TTよりも高いと思われるが、5M-TTよりも低い復帰率を持たなければならない。5M-TTへのD767、K768、又はE769Aのうち1以上における突然変異の付加は、触媒ドメイン及び受容体結合ドメインの機能の破壊に加えて移行ドメインの機能を不活化することにより、遺伝的に操作されたワクチンのより完全な不活性化をもたらす。
【表2】
【0021】
いくつかの実施形態では、破傷風菌毒素は、VAMP-2切断を阻害するように改変した。例えば、231の位置のロイシン残基の突然変異(例えば、ロイシンからリシン(K)への突然変異)は、VAMP-2切断に関する毒素の触媒活性を不活化する。いくつかの場合、6M-TT改変毒素にL231K突然変異を付加して7M-TTを作出し、それにより、得られた改変破傷風菌毒素は、7つの部位に独立した突然変異を含む(表3)。いくつかの場合、改変された毒素は、配列番号1に対して符番された8つの独立した突然変異(R372A、Y375F、E334Q、R1226L、W1289A、K768A、及びL231K)を含み、本明細書では「7M-TeNT」又は「7M-TT」と呼称する。いくつかの場合、7M-TeNTは、配列番号6として示されるアミノ酸配列によりコードされる。
【0022】
いくつかの実施形態では、破傷風菌毒素は、VAMP-2結合を阻害するように改変された。例えば、26の位置のチロシン(Y)残基の突然変異(例えば、チロシンからアラニン(A)への突然変異)は、毒素のVAMP-2結合能を不活化する。いくつかの場合、7M-TT改変毒素にY26A突然変異を付加して8M-TTを作出し、それにより、得られた改変破傷風菌毒素は、8つの部位に独立した突然変異を含む(表3)。いくつかの場合、改変された毒素は、配列番号1に対して符番された8つの独立した突然変異(R372A、Y375F、E334Q、R1226L、W1289A、K768A、L231K、及びY26A)を含み、本明細書では「8M-TeNT」又は「8M-TT」と呼称する。いくつかの場合、8M-TeNTは、配列番号7として示されるアミノ酸配列によりコードされる。
【表3】
【0023】
いくつかの場合、改変された破傷風菌毒素は、372、275、334、768、1226、1289、231、及び/又は26の位置の残基にその他のアミノ酸置換を含む。例えば、列挙されたアミノ酸を置換可能なアミノ酸としては、元の残基とは逆の電荷又は疎水性とする置換、保存的アミノ酸置換、及び元の残基を欠失させる置換が含まれる。
【0024】
当業者に周知のように、保存的アミノ酸置換によるポリペプチドの一次構造の変更は、その配列に導入されるアミノ酸の側鎖は置換されたアミノ酸の側鎖と類似の結合及び接触を形成し得るので、そのポリペプチドの活性を有意に変更しない。置換がポリペプチドの立体配座の決定に重要な領域にある場合であってもそうである。
【0025】
保存的アミノ酸置換は、あるアミノ酸で、類似の特徴を有する別のアミノ酸を置換することと当技術分野で認識されている。保存的アミノ酸置換は、ヌクレオチド配列をその保存的置換をコードするヌクレオチド変化を導入するように改変することによって達成され得る。例えば、各アミノ酸は、以下の特徴:電気的陽性、電気的陰性、脂肪族、芳香族、極性、疎水性及び親水性のうち1以上を有すると記述することができる。保存的置換としては、各群内のアミノ酸間での置換が含まれる。酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸が含まれる。塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン、リシン、アルギニンが含まれ;脂肪族アミノ酸としては、イソロイシン、ロイシン及びバリンが含まれる。芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、グリシン、チロシン及びトリプトファンが含まれる。極性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン及びチロシンが含まれる。疎水性アミノ酸としては、アラニン、システイン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、バリン及びトリプトファンが含まれる。アミノ酸はまた、相対的大きさに関して記述することもでき、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グリシン、アスパラギン、プロリン、トレオニン、セリン、バリンは小さいと見なされる。
【0026】
いくつかの場合、非保存的置換も、これらの置換がポリペプチド内のエピトープの三次元構造を崩壊させない、例えば、ポリペプチドの免疫原性(例えば、抗原性)を妨害せず、且つ、毒性を復帰しない限り可能である。
【0027】
特定の実施形態では、改変された破傷風菌毒素は、アミノ酸残基372及び375における突然変異を含み、更に残基334、1226、及び1289のうち1以上に突然変異を含み、ここで、改変された毒素は、適当な治療方法向けに、下記のように別のペプチドにコンジュゲート又はカップリングされている。有利には、本開示の改変された破傷風菌毒素は、ワクチン又はアジュバントとして使用するためにホルマリンで解毒する必要はない。いくつかの場合、少量のホルマリン(約0.04%)又は別の固定剤又は安定化試薬(例えば、ホルマリン、グルタルアルデヒド、β-プロピオラクトンなど)が改変された破傷風菌毒素に分解防止剤として適用されるが、このような量は、野生型破傷風菌毒素(又は本明細書に記載されるように改変されていない破傷風菌毒素)を解毒して「破傷風トキソイド」を形成するために一般に使用される量(約0.4%)よりも少ない(例えば、一桁少ない)。
【0028】
特定の実施形態では、本明細書に記載の改変された毒素は、糖鎖、タンパク質又はペプチド(例えば、抗原)、及び化学部分などの分子を更に含む。特に、本明細書では、コンジュゲートされた又は化学的に連結された(例えば、架橋された)糖鎖を含むように更に改変された組換え非触媒性、非毒性変異体毒素形態(例えば、改変された破傷風菌毒素及び改変されたボツリヌス菌神経毒)が提供される。このように、糖鎖にコンジュゲートされた改変毒素は、T細胞依存性免疫原として使用するためのプラットフォームを提供する。いくつかの場合、他の分子又は部分(例えば、抗原)は、「積荷」として架橋部分に更に連結することができる。
【0029】
いくつかの場合、改変された糖鎖コンジュゲート破傷風菌毒素は、配列番号1に対して符番された5つの突然変異(R372A、Y375F、E334Q、R1226L、及びW1289A)を含み、本明細書では「TeNT(CB)」と呼称する。他の場合では、改変された糖鎖コンジュゲートBoNT毒素は、UniProtKB/Swiss-Prot:P10845.4に対して符番された4つの突然変異(E224A、R363A、Y366F、及びW1266A)を含み、本明細書では「BoNT(CB)」と呼称する。いくつかの場合、糖鎖は、改変された毒素に化学架橋によりコンジュゲートされる。毒素などのポリペプチドに多糖を共有結合させるための一般的な化学反応としては、限定されるものではないが、還元的アミノ化、シアン化コンジュゲーション(cyanalation conjugation)、及びカルボジイミド反応が含まれる。他の場合では、糖鎖-毒素コンジュゲートは、Chuら,1983. Infect and Immun. 40(1):245-256が記載しているスキームなどの他の合成スキームによって調製される。
【0030】
「糖鎖」という用語は、本明細書で使用する場合、モノマー糖を含め、多糖、オリゴ糖及び他の糖鎖ポリマーを含むことが意図される。一般に、多糖は約10から最大2,000又はそれを超える繰り返し単位、好ましくは約100~1900の繰り返し単位を有する。オリゴ糖は一般に、約2~10の繰り返し単位から約15、20、25、30、又は35~約40又は45までの繰り返し単位を有する。いくつかの場合、本明細書で提供される改変された毒素へのコンジュゲーションに好適な糖鎖としては、限定されるものではないが、カルボキシル基を有する多糖が含まれる。このような場合、カルボキシル基を有する多糖は、改変された毒素に前記カルボキシル基のチオール誘導体を介してコンジュゲートすることができる。
【0031】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書で使用する場合、主として共有アミド結合により相互に結合されたアミノ酸残基を含むポリマーを指す。「タンパク質」という用語により、本発明者らは、上記の定義を全て包含することを意味する。これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が天然アミノ酸の人工化学模倣物であり得るアミノ酸ポリマー、並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに当てはまる。本明細書で使用する場合、これらの用語は、アミノ酸が共有ペプチド結合により連結された、全長タンパク質を含むいずれの長さのアミノ酸鎖も包含し得る。タンパク質又はペプチドは、天然生物から単離されてもよいし、組換え技術により生産されてもよいし、又は当業者に公知の合成製造技術により生産されてもよい。
【0032】
いくつかの場合、スペーサー部分は、改変された毒素と連結された分子の間のスペーサーアームブリッジとして使用される。スペーサー部分は、限定されるものではないが、デキストラン、ポリグルタミン酸、及びオリゴペプチドを含む多様な分子構造のいずれであってもよい。
【0033】
アミノ酸配列間の配列同一性は、配列のアラインメントを比較することによって決定することができる。比較される配列の等しい位置が同じアミノ酸で占有されていれば、それらの分子はその位置で同一である。同一性パーセンテージとしてのアラインメントのスコア化は、比較される配列により共有される位置における同一のアミノ酸の数の関数である。配列を比較する場合、最適なアラインメントは、配列内にあり得る挿入及び欠失を考慮するために配列の1以上にギャップが導入される必要のある場合がある。配列比較法では、ギャップペナルティを使用することができ、従って、比較される配列の同数の同一分子に関して、できる限り少ないギャップを用いた配列アラインメント(2つの比較配列間のより高い関連を反映する)の方が多くのギャップを用いたものよりも高いスコアとなる。最大同一性パーセントの計算は、ギャップペナルティを考慮した最適アラインメントの作成を含む。前述のように、配列同一性パーセンテージは、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiで公開されているNeedleman-Wunschグローバル配列アラインメントツールを使用し、デフォルトパラメーター設定を用いて決定することができる。Needleman-Wunschアルゴリズムは、J. Mol. Biol. (1970) vol. 48:443-53に公開されている。
【0034】
本発明のポリペプチド及び核酸は、従来の合成装置を用いて合成により作製することができる。あるいは、それらは組換えDNA技術を用いて生産することもでき、好適な発現ベクターに組み込むこともでき、その後これを用いて大腸菌(E. coli)などの原核細胞などの好適な宿主細胞を形質転換させる。形質転換宿主細胞を培養し、それらからポリペプチドを単離する。
【0035】
別の実施形態では、本発明は、改変された毒素調製物をコードする核酸配列及び高ストリンジェンシー条件下で上記のヌクレオチド配列からなる核酸分子(nucleic molecule)とハイブリダイズする他の核酸配列である。本明細書において特定の実施形態で、アミノ酸残基372及び375に突然変異を有し、更に残基334、1226、及び1289のうち1以上に突然変異又は本明細書に記載の改変された触媒ドメインを含む改変された破傷風菌毒素をコードするDNA配列で提供される。いくつかの場合、改変された破傷風菌毒素をコードする核酸配列は配列番号3として示される。
【0036】
「ストリンジェント条件」という用語は、本明細書で使用する場合、当技術分野で周知のパラメーターを意味する。例えば、核酸ハイブリダイゼーションパラメーターは、このような方法を編纂した参照文献、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら編,第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubelら編, John Wiley & Sons, Inc., New Yorksに見出すことができる。より具体的には、高ストリンジェンシー条件は、本明細書で使用する場合、ハイブリダイゼーションバッファー(3.5×SSC、0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、25mM NaH2PO4(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中、65℃でのハイブリダイゼーションを指す。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.015Mクエン酸ナトリウムpH7であり;SDSはドデシル硫酸ナトリウムであり;EDTAはエチレンジアミン四酢酸である。ハイブリダイゼーション後、DNAが転写された膜を室温にて2×SSCで、次いで、68℃までの温度、例えば55℃、60℃、65℃又は68℃にて0.1~0.5×SSC/0.1×SDSで洗浄する。あるいは、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、製造者が記載しているハイブリダイゼーション及び洗浄条件を用い、ExpressHyb(商標)バッファー(Clontech)などの市販のハイブリダイゼーションバッファーを用いて行うことができる。
【0037】
また、本発明は、発現ベクターにおける、並びに宿主細胞及び細胞株(これらは、原核生物(例えば、大腸菌)、又は真核生物(例えば、樹状細胞、CHO細胞、COS細胞、酵母発現系、昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現)である)をトランスフェクトするための配列の使用を包含することも理解されるであろう。これらの発現ベクターは、適切な配列、すなわち前記のものはプロモーターに機能的に連結されていることを必要とする。
【0038】
本明細書において別の態様では、宿主に導入された際に、前記タンパク質を産生した宿主がその後同じ微生物(例えば、破傷風菌)に攻撃された場合に宿主に免疫を付与する、本明細書に記載されるような改変毒素を含む免疫原性組成物が提供される。好ましい実施形態では、免疫原性組成物は、本明細書に記載されるような改変毒素を含み、更に組成物が破傷風菌若しくはボツリヌス菌又はそれらの精製毒素により引き起こされる疾病の発症に対するワクチン接種を必要とする対象に投与される場合に適当な賦形剤及び/又は希釈剤を含むワクチンである。
【0039】
「ワクチン」という用語は、本明細書で使用する場合、抗原を含む組成物を指す。ワクチンはまた、特定の疾患に対する免疫を高める生物学的製剤も含み得る。ワクチンは一般に、疾患を引き起こす微生物に似た、抗原と呼ばれる薬剤を含有してよく、この薬剤は多くの場合、微生物の弱毒若しくは死滅形態、その毒素又はその表面タンパク質の1つから作製され得る。抗原は、身体の免疫系を、その薬剤を非自己と認識させ、それを破壊させ、それを「記憶させる」ように促し、その結果、この免疫系は、後にそれが遭遇するこれらの微生物のいずれをもより容易に認識し破壊することができる。同様に、改変された毒素調製物は、他の病原体に対するワクチンと合わせると、それら自体がワクチンアジュバントとして作用することにより対象とする病原体に対する免疫応答を「増強する」ことができる。アジュバントは、それらの物理化学的特性又は作用機序に従って分類することができる。2つの主要なクラスのアジュバントとしては、免疫応答を刺激する細菌毒素などの免疫系に直接作用する化合物及び担体としての制御された様式及び挙動で抗原提示を助けることができる分子が含まれる。
【0040】
適当なワクチン成分の選択は、当業者の通常の能力の範囲内である。例えば、本発明のワクチン組成物は、好都合には、例えば、水性溶媒、非水性溶媒、非毒性賦形剤、例えば、塩、保存剤、バッファーなどのような薬学上許容される賦形剤又は希釈剤を用いて調剤することができる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油及び注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルである。水性溶媒としては、水、アルコール/水溶液、生理食塩水、非経口ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖加リンゲル液などが含まれる。保存剤としては、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスが含まれる。pH及びワクチン組成物中の種々の成分の厳密な濃度は常法に従って調整される。
【0041】
いくつかの場合、本明細書に記載の調製物は、部分的毒素複合体を含む調製物を含め、精製された改変毒素を含み得る。いくつかの実施形態では、調製物は、改変されたBoNT及び破傷風菌毒素タンパク質を安定化することが知られている安定剤を更に含み得る。好適な安定剤は当技術分野で公知であり、限定されるものではないが、例えば、ヒト又はウシ血清アルブミン、ゼラチン、とりわけ米国特許出願第2005/0238663号(その内容は全て本明細書の一部として援用される)に記載されているような組換えアルブミンが含まれる。
【0042】
「対象」及び「患者」という用語は互換的に使用され、特定の処置のレシピエントとなる、限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含むいずれの動物(例えば、哺乳動物)も指す。一般に、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書ではヒト対象に関して互換的に使用される。
【0043】
本発明の調製物は、治療上有効な量で投与することができる。「有効量」又は「治療上有効な量」という用語は、抗原又はワクチンを受容した対象に、ウイルス又は細菌などの病原体の感染により引き起こされる、有害な健康作用又はその合併症を含む疾患の徴候又は症状を予防するために十分な免疫応答を誘導する抗原又はワクチンの量を指す。体液性免疫又は細胞媒介免疫又は体液性免疫と細胞媒介免疫の両方を誘導し得る。ワクチンに対する動物の免疫原性応答は、例えば、抗体力価の測定、リンパ球増殖アッセイによって間接的に、又は野生株の投与の後に徴候及び症状の経過観察によって直接的に評価することができる。ワクチンにより付与される防御免疫は、例えば、死亡率、罹患率、体温、総合的な身体状態などの臨床徴候の軽減、並びに対象の総合的な健康及びパフォーマンスを測定することによって評価することができる。ワクチンの治療上有効な量は、使用する特定の調製物、又は対象の状態によって異なり、医師によって決定することができる。
【0044】
本発明の調製物は、必要な処置のタイプに応じた治療上有効な量で投与することができる。個々の処置に好適な用量又は用量範囲を決定する方法は、当業者に公知である。本明細書で提供される方法に関して、本発明の調製物は、意図する目的を達成する、又は当業者により適当であると考えられるいずれの手段によって投与することもできる。例示的実施形態では、改変された毒素調製物は、単回用量として又は適当であれば、例えばミニポンプシステムを用いた連続投与として投与される。いくつかの場合、改変された毒素調製物は、液体剤形として又は例えば投与前に再構成される凍結乾燥剤形として提供される。
【0045】
「保護される」という用語は、本明細書で使用する場合、疾患又は病態に対する患者の免疫誘導を指す。免疫誘導は、抗原を含むワクチンを投与することによって生じ得る。特に本発明では、免疫患者は破傷風疾患又はその症状から保護される。
一実施形態では、好適な用量は約1μg~20μgである。
本明細書に記載の改変された毒素の調製物に関する好適な投与経路としては、限定されるものではないが、直接注射が含まれる。特定の実施形態では、各用量は筋肉内に投与される。
【0046】
本技術の薬剤の用量、毒性、及び治療効力は、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定するための細胞培養又は試験動物における標準的な薬学的手法によって決定することができる。毒性作用と治療効果の間の用量比が治療係数であり、それはLD50/ED50比として表すことができる。
【0047】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な量」は、疾患を治療するために対象に投与した場合に、その疾患に対するそのような治療に十分な化合物量を指す。「治療上有効な量」は、化合物、治療される病態、治療される疾患の重篤度(the severity or the disease treated)、対象の齢及び相対的健康状態、投与の経路及び形態、担当の医師又は獣医の判断、並びに他の因子によって異なる。本発明の目的では、「治療する」又は「治療」は、疾患、病態、又は障害に対抗するための患者の管理及びケアを言う。これらの用語は、防止的療法、すなわち、予防療法と待期療法の両方を包含する。
【0048】
本明細書に記載のコンジュゲート型送達プラットフォームは、どのコンジュゲート型改変Tet毒素プラットフォームを使用するかを調整することによって特定の病態又は疾患を標的とするように調整することができる。
【0049】
方法
本明細書において別の態様では、毒性が低減され且つ効力が増強されたワクチン及びコンジュゲートワクチンを操作するための方法が提供される。これらの方法は、マルチドメインタンパク質毒素のドメイン内の特定のアミノ酸残基を遺伝的に改変することを含み、それにより、その毒素は標的細胞(例えば、ニューロン)に対する触媒活性又は受容体結合活性のいずれかにより毒性を発現できなくされ、移行に欠陥があり、且つ、毒性形態に復帰する可能性が低減される。複数の独立したタンパク質機能の改変により、本明細書で提供される方法は有利には、タンパク質の毒性への復帰の可能性が実質的にない、強力なワクチン及びコンジュゲートワクチンの理想的な候補となる全長毒素を提供する。本明細書で使用する場合、「効力」という用語は、適当な臨床検査により又は十分に管理された臨床データにより示されるようなワクチンの特異的な防御免疫遂行力又は遂行能を指す。言い換えれば、効力はワクチンの強さの尺度である。
【0050】
いくつかの場合、ワクチンとしての効力が増強された操作された細菌タンパク質トキソイドを得るための方法は、下記の工程:マルチドメイン細菌タンパク質毒素をコードするアミノ酸配列の各ドメインにおいて1以上のアミノ酸を選択すること、ここで、各位置は、各ドメインに関連するタンパク質機能を不活化するように選択され、これらのドメインは、触媒ドメイン、移行ドメイン、受容体結合ドメイン、及び基質結合ドメインのうち2つ以上を含む;選択された各位置の天然アミノ酸残基を非天然アミノ酸残基で置換し、それにより、その置換はそのドメインに関連する1以上のタンパク質機能を不活化すること;及び宿主細胞において置換された非天然アミノ酸残基を含む全長細菌タンパク質毒素をコードする核酸配列を発現させ、それにより、発現されたタンパク質は、天然アミノ酸を含む全長細菌タンパク質毒素に比べて触媒活性、受容体結合活性、移行活性、又は基質結合活性の部分的又は完全喪失を示すことを含むか、又はそれらから本質的になる。
【0051】
改変のためのアミノ酸残基の選択は、タンパク質配列(例えば、一次アミノ酸配列)又は細菌タンパク質毒素の各ドメインの個々の機能的アミノ酸残基を同定するための構造情報の分析を含む。好ましくは、選択される残基は、全長タンパク質を不安定化することなく、且つ、免疫原性の喪失なく改変することができる各機能的ドメイン(例えば、触媒ドメイン、移行ドメイン、受容体結合ドメイン、基質結合ドメイン)の1以上の個々のアミノ酸残基である。タンパク質の安定性は、いずれの適当な方法によって評価してもよい。いくつかの場合、改変された毒素は安定性に関しては、トリプシン感受性3を測定することにより試験され、又、改変された毒素は免疫原性に関しては、マウスモデル4で改変された毒素接種に対する免疫応答を測定することにより試験される。
【0052】
タンパク質構造情報は、例えば、X線結晶学、電子顕微鏡、核磁気共鳴法、コンピュータータンパク質構造モデリング、又はそれらの組合せなどのいずれの適当な方法によって得てもよい。いくつかの場合、対象とする細菌タンパク質毒素の結晶構造は、例えば、毒素の機能的ドメイン間の相互作用の特異的部位及び関連のタンパク質毒素間で機能的に保存されている残基を同定するために使用することができる。例えば、例としてジフテリア毒素を使用する場合、触媒作用、基質結合、移行、及び受容体結合に関与するアミノ酸残基が従前の研究からの文献で特定され、ジフテリア毒素の結晶構造内のアミノ酸配列のアラインメントに基づき、毒素の4つの機能的ドメインのそれぞれにおいて複数の独立した突然変異をコードする変異型ジフテリア毒素遺伝子を作出するために、ジフテリア毒素をコードする遺伝子中で操作を行う。変異型ジフテリア毒素をコードする核酸配列は大腸菌に形質転換され、タンパク質が組換え生産され、毒性の喪失、安定性の維持、及び免疫原性の保持に関して試験される。
【0053】
例として、ドメイン間及びドメイン内の分子相互作用は、野生型細菌タンパク質毒素の結晶構造の分析から決定することができる。置換突然変異は、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介突然変異誘発、及び全遺伝子合成、並びに当技術分野で公知の他の方法など周知の方法を用いて達成することができる。突然変異誘発プロトコールの例示的方法は例えば下記の実施例で示される。いくつかの場合、単一のアミノ酸残基において突然変異を作出するために部位特異的突然変異誘発が使用される。いくつかの場合、部位特異的突然変異誘発のためのオリゴヌクレオチドプライマーを設計するためにPrimerX(World Wide Web上のbioinformatics.org/primerx/で利用可能)などのソフトウエアプログラムが使用できる。例えばポリメラーゼ連鎖反応などの任意の適当な方法による突然変異誘発のための鋳型として供するために、野生型細菌タンパク質毒素遺伝子を発現ベクターにクローン化することができる。突然変異誘発は、核酸シーケンシングによって確認することができる。いくつかの場合、改変されたタンパク質毒素をコードするポリヌクレオチドは発現ベクター内に位置する。いくつかの場合、このベクターは宿主細胞(例えば、細菌細胞、酵母細胞、真核細胞)内にある。原核生物及び真核生物の両方で多くの発現ベクター及び発現系が知られ、適当な系の選択は意図による。本発明の改変されたタンパク質生成物の発現及び精製は当業者ならば容易に行うことができる。Sambrookら,“Molecular cloning-A Laboratory Manual,第2版”参照。
【0054】
これらの方法は、細菌により分泌され、多くの場合、触媒的に働き基質特異性を示すという点で酵素に似たマルチドメインタンパク質である、外毒素としても知られる実質的にいずれの細菌タンパク質毒素にも適用可能である。細菌タンパク質毒素としては、限定されるものではないが、ボツリヌス菌毒素、破傷風菌毒素、志賀毒素、ジフテリア毒素、百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素、大腸菌易熱性毒素LT、炭疽菌(Bacillus anthracis)毒素、シュードモナス外毒素A、炭疽毒素致死因子(LF)、コレラ腸毒素、及び黄色ブドウ球菌エクスフォリアチンBが含まれる。表4は、ワクチン及びコンジュゲートワクチンに特に有利である遺伝的に操作された組換え、非毒性、高効力トキソイドの設計に使用するために結晶構造情報が利用可能な例示的細菌タンパク質毒素を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
いくつかの場合、独立の不活化改変は、細菌タンパク質毒素の触媒ドメイン、基質結合ドメイン、移行ドメイン、及び受容体結合ドメインのうち1以上を破壊するように選択される。例えば、ジフテリア毒素は、アミノ酸535個の長さの細菌タンパク質毒素である。触媒機能(E149S)、基質結合機能(H21A)、移行機能(E349K、E362K)、及び受容体結合機能(K516A、K526A、H391A)に関与するアミノ酸残基の不活化は、非毒性でありながらなお効力のあるジフテリアワクチンを生じる。
【0057】
しかしながら、これらの方法は、アミノ酸配列及び/又は結晶構造情報が入手可能であり、不活性化改変が既知の構造機能特性に基づいて決定することができる複数の機能的ドメイン(例えば、エフェクタードメイン)を有する実質的にいずれのタンパク質にも適用できることが理解されるであろう。
【0058】
特定の実施形態では、宿主の受容体活性を妨げるための遺伝的改変を重鎖のC末端部分(HCC)に導入する。触媒活性を妨げるためには、軽鎖の、SNARE複合体を介する神経伝達物質の放出に必要な又は重要なアミノ酸残基に遺伝的改変を導入する。
【0059】
本明細書に記載又は参照される技術及び手順は一般に、当業者により、例えば、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)に記載の広く使用されている分子クローニング法などの従来の方法を用いて十分に理解され、一般に使用される。必要に応じて、市販のキット及び試薬の使用を含む手順は一般に、特に断りのない限り、製造が規定しているプロトコール及び/又はパラメーターに従って実施される。
【0060】
キット
本明細書において別の態様では、対象に本明細書に記載されるような改変された毒素ワクチンを含むワクチン又はアジュバントを投与するためのキットが提供される。一実施形態では、このキットは、改変された毒素(例えば、本明細書に記載されるような改変された破傷風菌毒素)の一形態を含む。このキットは更に、使用者が、破傷風菌により引き起こされる疾患、特に、破傷風菌毒素により引き起こされる疾患の発症に対して対象に予防接種を行う方法を実施することを可能とする説明書を含み得る。一実施形態では、本発明の改変された毒素は、生理学的条件で使用するために調剤され、配送され、且つ、保存される。好適な医薬担体としては、限定されるものではないが、例えば、生理食塩水(例えば、0.9%塩化ナトリウム)、リン酸緩衝生理食塩水、乳酸加リンゲル液などが含まれる。
【0061】
「使用説明書」により、本発明者らは、本明細書に示される目的の1つに対する本発明の有用性を伝えるために使用される出版物、記録、図、又は他のいずれかの表現媒体を意味する。キットの説明資料は、例えば、本発明を含有する容器に添付されてもよいし、又は本発明を含有する容器と一緒に輸送されてもよい。あるいは、説明資料は容器とは別に輸送されてもよく、又は説明資料と生体適合性ハイドロゲルがレシピエントによって協力的に使用されるという意図をもってインターネットウェブサイトに電子的にアクセス可能な形態で提供されてもよい。
【0062】
本明細書及び特許請求の範囲では、「を含む(including)」及び「を含む(comprising)」という用語はオープンエンドの用語であり、「限定されるものではないが、~を含むこと」を意味して解釈されるべきである。これらの用語は、「から本質的になる」及び「からなる」というより限定的な用語を包含する。
【0063】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、そうではないことが明示されない限り、複数の指示物を含む。同様に、「1つの(a)」(又は1つの(an))、「1以上の」及び「少なくとも1つの」という用語は、本明細書において互換的に使用可能である。また、「を含む(comprising)」、「を含む(including)」、「を特徴とする」及び「を有する」という用語は互換的に使用可能であることにも留意されたい。
【0064】
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に特に記載されている全ての刊行物及び特許は、本発明に関連して使用され得る、刊行物に報告されている化学物質、装置、統計分析及び方法論の記載及び開示を含めあらゆる目的で、それらの全内容が本明細書の一部として援用される。本明細書に引用される全ての参照文献は、当技術分野の技術水準を示すと考えられる。本明細書において、先行発明のために本発明にそのような開示に先行する権利がないことを認めたものと解釈されるべきでない。
【0065】
本発明は下記の限定されない例を考慮すればより詳しく理解される。
【実施例0066】
実施例1:M-BoNT/A1及びM-BoNT/A1 W の単離及び特性決定
本実施例は、触媒作用及び受容体結合に欠陥を持つように操作された全長BoNTが106 LD50の天然BoNT/A1による抗原刺激から保護したことを説明する。これらのデータは、ボツリヌス中毒及び他の毒素により媒介される疾患に対するワクチンの開発のために独立した機序により毒性を低減する複数の突然変異を有する遺伝的に操作された毒素の、プラットフォーム戦略としての可能性を示す。
【0067】
材料及び方法:
バイオセーフティー及びバイオセキュリティー: ウィスコンシン大学マディソン校で実施された実験は、所内バイオセーフティー委員会により承認されたものである。加えて、実験は、本研究に関して連邦指定生物剤プログラム(Federal Select Agent Program)により承認された実験室で、適合性評価を受けた研究者らにより、所内の方針及び手順を遵守して実施された。動物実験は、ウィスコンシン大学マディソン校の動物実験委員会の指針に従って承認及び実施された。米国保健福祉省は、3つのLC突然変異(E224A/R363A/Y366F、Mと呼称)をコードするBoNT/Aの遺伝子及びタンパク質産物は、指定生物剤の規制定義を満たさず、指定生物剤登録なくM-BoNT/Aの生産を可能とする(§73.3 HHS指定生物剤及び毒素 42 CFR 73.3(e)(1)。
【0068】
ボツリヌス菌神経毒: BoNT/A1、/A2、/A3及び/A5は、ボツリヌス菌株Hall A-hyper、Kyoto-F、CDC A3(Susan Maslanka及びBrian Raphael、疾病管理予防センターにより提供)及びA661222から標準的な毒素精製プロトコール(Jacobsonら, 2011; Linら, 2010; Malizioら, 2000; Teppら, 2012)により精製した。BoNT/A6は、CDC41370 B2tox-(CDC41370株からBoNT/A6のみを産生するように改変)毒素から従前に記載された方法(Pellettら, 2016)を用いて精製した。毒素純度は分光法及びSDS-PAGE分析(Whitemarshら, 2013)により確認した。精製された毒素は、40%グリセロールを含むリン酸緩衝生理食塩水中、-20℃で使用まで保存した。5つのサブタイプの調製物の活性を、従前に記載されているような(Hatheway, 1988; Schantz, 1978)、標準的腹腔内マウス生物検定法(MBA)を用いて決定した。各毒素の半致死量を1マウスLD50単位(U)として定義した。BoNT/Aサブタイプの比活性は、8pg/U(A1)、7.9pg/U(A2)、17pg/U(A3)、7.3pg/U(A5)、及び5.9pg/U(A6)であった。
【0069】
組換えBoNT誘導体: HCC/A1(W1266A)(HCC/A1W)、LC/A1(R363A/Y366F)(LC/A1RY)、LCHCN/A1(E224A/R363A/Y366F)(M-LCHCN/A1)、BoNT/A1(E224A/R363A/Y366F)(M-BoNT/A1)、BoNT/A1(E224A/R363A/Y366F/W1266A)(M-BoNT/A1W)及び非触媒性破傷風菌毒素(R372A/Y375F)(TeNTRY)の生産を従前に記載されたように(Przedpelskiら,2013)に行った。簡単に述べれば、大腸菌を、50μg/mlカナマイシンを含むLB寒天上で37℃にて一晩増殖させた。培養物を、カナマイシンを含有するLB培地(400ml)に植え込み、37℃で振盪しながら3~6時間、1.0mMのIPTGを加えた場合にはOD600が約0.6となるまで培養した後、16℃で振盪しながら一晩インキュベートした。細胞を採取し、ペレットを溶解バッファー(20mM Tris(pH7.9)、500mM NaCl、5mMイミダゾール、RNアーゼ、DNアーゼ、及びプロテアーゼ阻害剤)(Sigma)に懸濁させた。細胞をフレンチプレスで破壊し、遠心分離により清澄化し、0.45μmの界面活性剤不含酢酸セルロース膜(Thermo Fischer)で濾過した。溶解液を、Ni2+-NTAレジン(Qiagen)、p-アミノベンズアミジン-アガロース(Sigma)、及びStrep-tactin Superflow high-capacityレジン(IBA-LifeSciences)を用いるタンデム重力流クロマトグラフィーにより更に精製した。精製したタンパク質を10mM Tris(pH7.9)、200mM NaCl、及び40%グリセロールに対して透析し、-20℃で保存した。本試験に使用した組換えタンパク質を示す(図1)。M-BoNT/A1Wをコードするヌクレオチド配列を配列番号4として示す(図9参照)。
【0070】
ワクチン接種: 雌ICRマウス(18~22g)の群をアジュバントとしての等量のアルハイドロゲルを混合した示された濃度のHCC/A1W、M-LCHCN/A1、M-BoNT/A1、又はM-BoNT/A1Wで腹膜内免疫した。非トリプシン処理M-BoNT/A1及びM-BoNT/A1Wをワクチンとして使用した。1日目及び14日目にワクチンを投与し、21日目に上顎採血により血液を採取し、26日目に示されたようにマウスをBoNT/A1、BoNT/A2、又はBoNT-/A2、/A3、/A5、A6カクテルで抗原刺激した。示されているように、各実験に各群少なくとも8個体のマウスを使用した。結果の統計的適切性をp=0.05で対応のあるスチューデントの両側t検定により評価した。
【0071】
ELISA: BoNT誘導体又はTeNTRY(250ng/ウェル)を高タンパク質結合96ウェルプレート(Corning)の0.1mlのコーティングバッファー、50mM Na2CO3(pH9.6)に加え、4℃で一晩インキュベートした。次に、プレートを、0.05%Tween20を含む0.3mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、1%(wt/vol)ウシ血清アルブミン(BSA)を含む0.2mlのPBSで室温(RT)にて30分間ブロッキングした。プレートを、1%(wt/vol)BSA(0.1ml)を含むPBS中、個々にワクチン接種を行ったマウスから1:20,000又は1:30,000のいずれかの示された希釈率の血清とともにRTで1時間インキュベートした。0.05%Tween20を含む0.3mlのPBSで3回洗浄した後、プレートを、1%(wt/vol)BSAを含むPBS中、ヤギα-マウスIgG-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(1:20,000希釈のIgG-HRP;Thermo)とともにRTで1時間インキュベートした。プレートを、0.05%Tween20を含む0.3mlのPBSで3回洗浄した後、基質としての0.1ml/ウェルのテトラメチルベンジジン(TMB;Thermo Ultra TMB)とともにインキュベートした。10分後に0.1mlの0.1M H2SO4で反応を終了させ、450nmで吸光度を読み取った。α-HA及びα-FLAG抗体と結合した抗原を測定する対照ELISAは、各抗原内の適当なエピトープの存在が15%以内であることを示した(データは示されていない)。ELISAについては、免疫誘導時及び/又は抗原刺激条件時に基づき個々に分析した血清群(N=10)に対してP<0.05=*、0.01=**、0.001=***、及び0.0001=****(GraphPad Prism 7)での対応のないスチューデントの両側t検定により統計分析を行った。個々の血清を、二反復で行った少なくとも2回の独立したELISAによって分析した。1:20,000~1:30,000倍希釈でのマウス血清の分析は、いくつかの個々の血清の評価に基づいた。血清希釈は、BoNT/A1抗原刺激から生き残ったM-BoNT/A1接種マウス数個体の用量反応ELISAから確定した。代表的なELISAを図6に示す。
【0072】
中和抗体の検出のための細胞に基づくアッセイ: 細胞に基づく中和アッセイは従前に記載されているように(Whitemarshら, 2012)行った。簡単に述べれば、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)由来ニューロン(Cellular Dynamics International、WI)をポリ-L-オルニチン及びマトリゲル(商標)をコーティングした96ウェルTPPプレート(Midwest Scientific、MO)に約35,000~40,000細胞/ウェルの密度で播種し、中和アッセイ前の7日間、iCell Neurons培養培地(Cellular Dynamics International、WI)で製造者の説明書に従って維持した。マウス血清中の中和抗体を検出するために、2pMのBoNT/A1を培養培地中、濾過除菌血清の連続希釈液と合わせ、37℃で1時間インキュベートした。血清不含のBoNT/A1を「抗体不含」参照として使用し、ナイーブマウス由来の血清を対照として使用した。毒素を含まない血清を陰性対照として使用した。hiPSC由来ニューロンの1ウェル当たり50μlの各抗体-毒素混合物を少なくとも二反復でそれぞれ加え、細胞を37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。毒素/抗体を細胞から吸引し、細胞溶解液を50μlのドデシル硫酸リチウム(LDS)サンプルバッファー(Life Technologies)中に調製した。細胞溶解液を従前に記載されたように(Pellettら, 2007; Pellettら, 2010)、SNAP-25切断に関してウエスタンブロットにより分析した。PhosphaGlo試薬(KPL、Gaithersburg、MD)及びFotodyne/FOTO/Analyst FXイメージングシステム(Harland、WI)を用いて画像を得た。切断(24kDa)シグナルと非切断(25kDa)SNAP-25シグナルを、TotalLab Quantソフトウエア(Fotodyne、Harland、WI)を用い、濃度計により分析した。保護のパーセンテージは、「抗体不含」対照と比較して決定され、IC50値は、GraphPad Prism 6ソフトウエア及び非線形回帰、変動勾配、4パラメーターを用いて評価した。
【0073】
結果
M-BoNT/A1は非近交系マウス又は培養細胞に毒性がない
腹腔内注射した10μgのトリプシン処理又は非トリプシン処理M-BoNT/A1/マウス(ICR)は観察可能なボツリヌス中毒の徴候をもたらさなかったが、これはM-BoNT/A1が天然BoNT/A1の多くても100万分の1の毒性であったことを示す。加えて、ヒトiPSC由来ニューロンの80nMのM-BoNT/A1とのインキュベーションは検出可能なSNAP-25切断はもたらされなかったが、50fMの天然BoNT/A1とのインキュベーションはSNAP-25を切断し、これは細胞に基づくアッセイにより多くとも100万分の1の毒性を示す(データは示されていない)。
【0074】
M-BoNT/A1及びM-BoNT/A1 W はHCc/A1 W よりも保護性の高いワクチンである
ワクチン投与は、初回免疫とその後の1回の追加免疫を用い、宿主内の自然免疫変動を表すために(Raiら, 2009)、非近交系ICRマウス(n=8~10)に対して行った。従前の研究がHCC/A1(W1266A)(HCC/A1W)はボツリヌス中毒のマウスモデルにおいてHCC/A1と同等のワクチン効力を示した(Przedpelskiら, 2013)ことから、M-BoNT/A1Wも操作した。0.3μg/マウスの一本鎖M-BoNT/A1W又は0.2μg/マウスのM-LCHCN/A1を接種したマウスは、106 LD50の天然BoNT/A1又は105 LD50のBoNT/Aサブタイプカクテル(A2、A3、A5、A6各2.5×104 LD50)による抗原刺激から保護され、106 LD50の、異種サブタイプである天然BoNT/A2による抗原刺激から部分的に保護された(表4)。0.1μg/マウスのHCC/A1Wを接種したマウスは、103 LD50の天然BoNT/A1又は天然BoNT/A2による抗原刺激から部分的に保護された。これらのデータは、等モル用量で、M-BoNT/A1WワクチンとM-LCHCN/A1ワクチンは、HCC/A1Wワクチンよりも1,000倍の毒素に対する保護を示したことを示す。体重等価用量を用いたワクチンの比較では、0.3μg/マウスのHCC/A1Wを接種したマウスは105 LD50の天然BoNT/A1又は105 LD50の天然BoNT/Aサブタイプカクテルによる抗原刺激から部分的に保護された。このことは、等濃度(及び3倍モル過剰のHCC)であっても、M-BoNT/A1Wワクチン及びM-LCHCN/A1ワクチンは、同種及び異種BoNT/A抗原刺激に対してより良好に保護を示したことを示す。M-BoNT/A1WワクチンとM-BoNT/A1ワクチンの保護に差は見られず、付加的な「受容体結合」突然変異はワクチン効力に影響を及ぼさないことを示す。全体的にみれば、M-BoNT/A1、M-BoNT/A1W及びM-LCHCN/A1は、HCC/A1Wよりも強力なワクチンであった。培養ニューロンにおける作用の持続期間をヒトiPSC由来ニューロンにおいて、ニューロンをBoNT/A1又はBoNT/A6いずれかの連続希釈液に72時間曝した後に細胞外毒素を完全に除去し、培養培地中で更にインキュベーションを行うことによって更に検討した。3、39、及び70日目に細胞を各希釈系とともに3反復で採取し、各時点のSNAP-25切断に対するEC50を決定した。BoNT/A6では、EC50値は、3、39、及び70日目でそれぞれ約0.04、0.7、及び1U/50μl/ウェル(32、560、及び800fM)であった(図2)。BoNT/A1では、EC50値は、3、39、及び70日目で約0.7、6.3、及び28U/50μl/ウェル(それぞれ313、2940、及び12,880fM)であった(図2)。これらのhiPSC由来ニューロンにおけるBoNT/A1及び/A6の半減期は、EC50値から経時的に決定した場合、BoNT/A1及び/A6の両方で同等であり、それぞれおよそ12日及び14日であった(図2)。これらの結果を考え合わせると、BoNT/A6は他のBoNT/Aサブタイプと同様に作用持続期間が長いことを示す。
【0075】
BoNT接種に対する抗体応答は非近交系マウスにおいて質的及び量的に変動した
M-BoNT/A1W及びM-BoNT/A1のワクチン接種は、105 LD50のBoNT/A2による抗原刺激に対して完全な保護を、又、106 LD50の、異種サブタイプである天然BoNT/A2による抗原刺激に対して部分的保護をもたらした(表5)。ELISAにより分析したワクチン接種マウスの抗体応答は、天然BoNT/A2抗原刺激から生き残ったマウスも生き残らなかったマウスもBoNT及びLCHCNに対して同等の優勢な抗体力価を有したことを示し、これらに統計的な差はなかった(図2)。よって、天然BoNT/A2抗原刺激からの部分的保護は、送達されたワクチンに対して免疫応答を惹起するワクチン接種マウスの能力ではなく、BoNT/Aサブタイプ間の中和エピトープの組成物における特定の違いによるものであると思われる。
【表5】
【0076】
ワクチン接種マウスの抗体応答は、LCA1RY、HCC/A1W、M-LCHCN/A1、又はM-BoNT/A1ホロ毒素を結合基質として用い、個々の血清のELISAにより分析した。ワクチン接種マウスの各群内の抗体応答は、群内で量的及び質的に変動があった。M-BoNT/A1W接種マウス(図3、左下)は、BoNT(平均力価2.2(範囲1.3~2.6))及びLCHCN(平均力価1.7(範囲0.8~2.4))に対して優勢な抗体力価を示した。HCCに対する力価は、マウス間で変動があった(平均力価0.41(範囲0.07~1.83))。LCに対する力価は対照を上回らず、抗体応答のほとんどがHCに対するものであったことを示す。力価範囲の変動は、ELISA反復のばらつきによるものではなく、個々のマウス間の抗体力価の変動によるものであった。M-BoNT/A1接種に対しても同様の免疫応答が見られた(データは示されていない)。M-LCHCN/A1接種マウス(図3、左上)もまた、BoNT及びLCHCNに対して優勢な抗体力価を示したが、M-BoNT/A1W接種マウスよりも平均して低い力価であった。M-LCHCN/A1+HCC/A1W接種マウスは、質的にはM-BoNT/A1W接種マウス同様の抗体力価特性を示したが、量的には、それらはM-LCHCN/A1単独を接種したマウスに匹敵した(図7)。HCC/A1W接種マウスは、HCCに対して、BoNT/A1抗原刺激に対する生き残りに相関した抗体力価を示した(図3、右下)。M-BoNT/A1W接種マウスはTeNTRYに対して限定された抗体力価を有し(図3)、このことは、見られた抗体応答がBoNT特異的であったことを示す。
【0077】
BoNT抗原刺激から生き残った個々のワクチン接種マウス由来の血清の特性
天然BoNT/A1抗原刺激から生き残ったM-BoNT/A1W、M-LCHCN/A1、又はHCC/A1W接種マウス由来の個々の血清の分析は、ワクチン接種に対するいくつかの代表的免疫応答を示した(図4)。本発明者らの初期の研究(Przedpelskiら, 2013 Infect Immun. 81(7):2638-44)では、M-LCHCN/A1接種に対する抗体応答の特性決定は行わなかったので、3個体のLCHCN/A1接種マウス由来の血清を分析した。ELISA結果は、M-BoNT/A1W接種マウスは、BoNT及びLCHCN(#7)又はBoNT、LCHCN、及びHCC(マウス#3)に対して優勢な抗体力価を有したことを示した。M-LCHCN/A1接種マウスは、BoNT及びLCHCNに対して優勢な抗体応答を示し(マウス#21、#24、及び#25)、一方、HCC/A1Wを接種し、且つ、BoNT/A1抗原刺激から生き残ったマウスは、HCCに対して優勢な抗体応答を示した(マウス#78)。全体的に見れば、TeNTRYに対する抗体応答は低く、このことは、ELISAで検出された免疫反応性はBoNT特異的であったことを示す。
【0078】
BoNT/A及びHCCワクチンはLCHCNワクチンよりも強い中和抗体応答を惹起する
ワクチン接種マウスの血清中の中和抗体は、hiPSC由来ニューロンを用いた細胞系アッセイにより測定した。等モルのワクチンを接種した各ワクチン接種群から10検体の血清をプールし、細胞系アッセイで、BoNT/A1により誘導されたSNAP25の切断を中和するそれらの能力を試験した。M-BoNT/A1W接種プールはIC50値0.004で、最も中和効力が高く、これはHCC/A1W接種プール及びM-LCHCN/A1+HCC/A1W接種プールの約2分の1で、M-LCHCN/A1接種プールの約5分の1であった(データは示されていない)。このHCC接種マウスとM-BoNT/A1接種マウスにおける中和抗体力価の類似性は、M-BoNT/A1ワクチンがHCcワクチンの1,000倍を超える毒素刺激からマウスを保護したことを考えれば、著しいものであった。このことを更に検討するために、細胞系アッセイで、6検体の各個の血清の、SNAP25のBoNT/A1切断を中和する能力も決定した(図5)。全体的に見れば、6検体の血清のそれぞれはBoNT/A1作用を中和し、血清効力の差は約10倍であった。HCCに対して優勢な抗体応答を含んだHCC/A1W接種(マウス#78)及びM-BoNT/A1W接種(マウス#3)からの血清(図4)は、SNAP-25のBoNT/A1切断の最も極力な阻害剤であった。検出可能なHCC抗体応答のない血清(マウス#7、#21、#24、及び#25)は、SNAP-25切断の阻害においてあまり効果がなかった。よって、このアッセイでは、HCcエピトープを含むワクチンが、LCHCNワクチンよりも大きな「中和/阻止抗体」応答を惹起した。これらのデータを考え合わせると、BoNT/A1のHCCドメインはHCNドメイン又はLCドメインよりも強い中和/阻止抗体応答を惹起するが、このHCNドメイン及びおそらくはLCドメインが生体防御に主要な役割を果たすことを示す。
【0079】
考察
ボツリヌス中毒の非近交系マウスモデルにおいて、M-BoNT/A1、M-BoNT/A1W及びM-LCHCN/A1はHCC/A1Wよりも極力なワクチンであった。BoNT/A1抗原刺激から生き残ったワクチン接種マウス由来の血清の評価は、LCHCN内の中和エピトープの存在と一致するLCHCNに対する共通の応答を示した。M-BoNT/A1に対して同様の防御免疫応答を惹起するM-BoNT/A1Wの能力は、宿主細胞結合の低減がワクチンの有効性に悪影響を及ぼさなかったことを示した。よって、触媒ドメインと受容体結合ドメインの両方に欠陥を有するように操作された全長BoNTは、ボツリヌス中毒及びその他の毒素により媒介される疾患に対するワクチンの開発の新規なプラットフォーム戦略といえる。Collier及び共同研究者らは(Killeenら, 1992)は、ワクチン開発の試験として遺伝的に不活化したジフテリア毒素を部分的に復帰した第2の部位の突然変異を作出できることを示した。加えて、Smith及び共同研究者らによる最近の研究では、BoNTに基づくワクチンのいくつかの血清型に対する単に触媒作用の低減以上の弱毒の必要が示されている(Webbら, 2017)。
【0080】
初期の研究では、LCHCNは、BoNTワクチン候補とされていた(Shoneら, 2009)。LCHCNは、発酵により大腸菌によって大量に生産され、低用量BoNT抗原刺激(103 LD50のBoNT)に対する単回ワクチンとして有効であった。この報告では、本発明者らは、初回免疫と1回の追加免疫を用いた他のBoNTワクチン候補との直接比較によりLCHCNが有効なワクチンであることを認め、LCHCN内に中和エピトープの存在を確認した(Shoneら, 2009)。Dolly及び共同研究者らは、BoNT/A作用を妨げたLC特異的モノクローナル抗体(Mab)を同定し(Cenci Di Belloら, 1994)、一方、Marks及び共同研究者らは、SNARE切断を阻害したLC機能を有するBoNT/A中和mAb(Chengら, 2009)及びHCNを標的とし、いくつかのBoNT血清型を中和したmAb(Garcia-Rodriguezら, 2011)を同定した。これらの研究を考え合わせると、BoNT接種はLCHCNドメイン内の中和エピトープに対する抗体の生産を惹起することが示される。M-BoNT/A1WはM-LCHCN/A1より大きい抗体応答を惹起したことから(図7)、HCCが培養細胞で最大の中和/遮断能を有する抗体を産生したという決定も伴って、M-BoNT/A1WなどのHCCを含むワクチンが、LCHCN又はHCCワクチン誘導体よりも、「高用量」曝露下でより高い防御があると思われる。
【0081】
HCC、DNAベクター及びウイルスベクターを用いたボツリヌス中毒に対するワクチン、並びにHCCの中和効力(Claytonら, 1995)及び生産の容易さ(Baldwinら, 2008)が示されている初期の研究で構築されたタンパク質に基づくワクチンを開発するために定評のあるドメインである。Smith及び共同研究者らは酵母ピキア・パストリス(Pichia pastoris)でHCCを発現させ、HC(c)により惹起された防御免疫(Byrne及びSmith, 2000)、及び次に組換えHCC/A及びHCC/B(rBV A/B)から構成される二価ワクチンを報告し、このワクチンは現在臨床試験中である(Webb及びSmith, 2013)。大腸菌も、BoNT抗原刺激に対する7つの血清型(A~G)のHCCワクチンの生産を含むBoNTワクチン開発のための異種宿主として使用されている(Baldwinら, 2008)。ワクチン効力を高めるために、HCCに宿主の受容体結合を遮断する突然変異を導入し、ここでHCC Wはワクチン効力を保持していた(Przedpelskiら, 2013)。生産の容易さはHCCを魅力的なワクチンプラットフォームとするが、現在の研究はHCC/A1WよりもM-BoNT/A1Wの方が強力なワクチンであったことを示している。このことは、BoNTのLCHCNの免疫原性と一致しているBoNT療法に耐性のある頸部ジストニア患者由来のヒト血清を用い、LC及びHCN内の免疫エピトープを検出したAtassi及び共同研究者らの所見(Atassiら, 2011; Dolimbekら, 2007)によって裏づけられる。
【0082】
Smith及び共同研究者ら(Webbら, 2017)による最近の研究で、触媒的に不活性のBoNTは、単回接種の後の1000LD50の毒素投与による抗原刺激に対して対応するHCCよりも大きな効力を示したことを報告した。Smith共同研究者らによって記載されている抗原刺激試験では閾値毒素刺激を測定し、これはエンドポイントの毒素刺激に対する防御を測定する現行の試験とは異なっていた。このデータは、閾値又はエンドポイントのいずれによるものであれ毒素刺激に対する防御を測定する両場合において、全長BoNTワクチンはそれらの個々のHCCサブユニットよりも強力であった。触媒作用及び宿主受容体結合に欠陥があるM-BoNT/A1Wは、エンドポイント毒素刺激において、サブユニットよりも有効であった。細胞結合又は侵入による潜在的毒性を低減するために複数の機能的部位を不活化することで、ワクチン候補としてのM-BoNT/A1Wの有用性は、触媒機能だけの遺伝的不活化では全長BoNTのワクチン開発の安全性の十分な余地をとることができない(Webbら, 2017)という懸念に取り組む。
【0083】
ボツリヌス中毒に対するワクチン候補としてのHCCの有用性は確立されているが(Baldwinら, 2008; Henderson, 2006)、現在の研究では、BoNTのマルチドメイン誘導体の方がHCCよりも強力なワクチンであることを示している。M-BoNT/A1Wは、非近交系マウスにおいて、LCHCNに対して共通の優勢な抗体応答を惹起したが、HCC抗体応答には変動があった。触媒作用と受容体結合の両方を低減できるということは、ボツリヌス中毒に対するワクチンプラットフォームとしてのM-BoNT/A1Wの使用の裏付けとなる。BoNT/Aサブタイプカクテルからの保護は、このワクチンの広範な中和能を確実なものとする。この研究でワクチンとして使用されたM-BoNT/A1Wは、活性化型の二本鎖形態に加工されず、マウス又は細胞において毒性は検出されなかったが、このことは安全で有効なワクチンとしての一本鎖M-BoNT/A1Wを示唆する。
【0084】
実施例2-リシン768 TeNT変異体において障害された軽鎖移行の特性決定
この節は、軽鎖(LC)移行を遮断したTTの移行ドメイン内の一アミノ酸点突然変異の初めての同定及び特性決定を記載する。LC移行におけるK768の役割の特定により、組換えワクチンの開発のためにTT、及び類似によればBTの独立した活性(表6参照)、触媒作用、移行、並びに受容体結合を不活化する機会を初めて提供される。
【0085】
破傷風菌毒素を用い、本発明者らは最近、移行ドメイン内にコードされている軽鎖(LC)移行の律速段階を特定した。リシン(K)768は、2つの長いα-ヘリックス(ヘリックス12-13とヘリックス16-17)を連結するループ内に位置する。部位特異的突然変異誘発により、移行ドメインの2つの長いα-ヘリックスを接続するループ内に位置する、移行を阻害した点突然変異K768Aを特定した(図12)。細胞研究は、M-TT(K768A)がニューロン膜に結合しなかったことを示し、これは膜透過におけるループの役割を裏づける。対照実験は、K768A突然変異は宿主細胞においてTTの結合、侵入、輸送、又は膜孔形成を阻害せず、且つ、トリプシンによる軽鎖(LC)-重鎖(HC)の好ましい切断も阻害しなかったことを示し、このことはこの突然変異がM-TT構造全体を障害しなかったことを示し、又、軽鎖移行におけるこのループの直接的役割を暗に示す。他の実験では、K768はpH誘因の成分ではなかったことが示された。これは軽鎖移行に必要とされる移行ドメイン内の一アミノ酸であり、毒素-膜相互作用における2つの長いα-ヘリックス(ヘリックス12-13及びヘリックス16-17)の役割を暗に示す。他の実験では、D767A/E769A突然変異も破傷風菌毒素において移行欠陥をもたらしたことを示し、破傷風菌毒素においてLC移行を阻害するためにD767/E769をK768に捕足及び/又は付加するものとした。
【0086】
ボツリヌス菌毒素(BT)(表6参照)及びTTワクチン候補中に独立した突然変異を作出することで毒素作用の3つの機能:触媒作用、移行、及び受容体結合のそれぞれを不活化し、従ってワクチンの安全性が高まる。複数の独立した突然変異は毒素効力を指数関数的に低減し、タンパク質構造及び恐らくは免疫原性を障害せずにワクチンの安全性を高め、大規模生産中の復帰の可能性を軽減する。
【表6】
【0087】
実施例3-低用量防御ワクチンとしての操作されたM-破傷風菌毒素(M-TT)
BTと同様の構成の破傷風菌毒素(TT)は、N末端ドメイン(触媒軽鎖、LC)及びC末端ドメイン(移行及び受容体結合重鎖、HC)を含むAB毒素である。TTのZn++結合ポケット内の2つのアミノ酸の突然変異(R372A、Y375F)は、Zn++結合を阻害し、天然破傷風菌毒素の125,000分の1に毒性を低減した2M-TTをもたらした。2M-TTのアミノ酸配列は配列番号2として示され、ヌクレオチド配列は配列番号3として示される。毒性を更に低減するための予備実験で、Zn++結合の阻害の程度を増すために、E234が、Zn++結合に直接配位するH233を安定化することに基づいて付加的突然変異(E234Q)を付加した。次に、二重のガングリオシド受容体結合へのニューロン結合(neuron binding to dual ganglioside receptor binding)を2つの独立した突然変異(R1226L、W1289A)を作出することにより阻害して5M-TTを作出した(表7参照)。原理証明として、本発明者らは、LC移行を阻害するために付加的突然変異(K768A)を有するように6M-TTを操作した(図14)。6M-TTは、破傷風菌毒素機能:触媒作用、移行、及び受容体結合のそれぞれに突然変異を含む。6M-TTは、約6mg/リットルのバッチ培養で大腸菌から精製した。20μgの一本鎖又は二本鎖6M-TTをそれぞれ注射した4個体のマウスは、破傷風の症状を示さなかった。よって、6M-TTは、可溶性の、十分に発現される、非毒性のタンパク質である。
【表7】
【0088】
6M-TTは、Y26及びL231の位置に突然変異を導入することにより、VAMP-2の結合及び切断を連続的に阻害するように更に操作され、7M-TT及び8M-TTが作出される。L231は、この突然変異はVAMP-2親和性に影響を及ぼさずにkcatを低下させたことを示した初期の研究に基づき、又、L231K突然変異はLCの構造全体に影響を及ぼさなかった9ことから選択した。Y26は、HCR/TのS7ポケット内の位置及びY26A突然変異がVAMP-2に対するLC/Tの親和性を低下させた9という証拠に基づいて選択した(表7参照)。8M-TT及び中間生成物(6M-TT、及び7M-TT)に関して、二次構造を評価するために円偏光二色性を調べ、タンパク質全体の安定性を評価するためにトリプシン感受性を調べ、及びタンパク質組成を評価するために質量分析を行う42
本発明者らにはこの段階で6M-TTが可溶性タンパク質として生産され、発現が高く、マウスにおいて20μgの注射で非毒性であるという知見があるので、まず、6M-TT、7M-TT、及び8M-TTの毒性を、細胞侵入後のVAMP-2切断並びに細胞溶解液中のVAMP-2切断を分析する64ヒト神経細胞に基づくアッセイで評価する。切断又は細胞傷害性が無いことが検出されれば、非近交系雌ICRマウス(18~22g、マウス5個体/群)を用い、マウスモデルでin vivo毒性が無いことが確認される(表8)。
【表8】
【0089】
最初の試験で、マウスの腹膜内にマウス当たり20、50、250、又は1000μgの8M-TT(質量1000μgは約4×107 LD50の野生型破傷風菌毒素に相当する)を注射する65。注射したマウスについてマウス生物検定で3日間生存スコアをとり、無体重増、ストレス徴候、臓器損傷、及び破傷風症状を含むTT病理を示す症状に関して最大14日間観察する。雄マウスも性差に関して試験する。
【0090】
非近交系雌ICRマウス(8個体/群)を0.01~0.1μgの最適化M-TT又は等量の化学的に不活化した破傷風トキソイドで免疫した後、14日目に追加のワクチン接種を行う(表9)。26日目にマウスの採血を行い、30日目にマウスを103~106Uの破傷風菌毒素で抗原刺激する。長期保護を調べるために、ワクチン接種マウスを180日間維持し、免疫応答の持続期間を試験するためにTTで抗原刺激する。3日生存したマウスを保護されたものと評価する。抗原刺激前に得た血清を従前に記載されたように6ELISAにより抗TTに関して、又、VAMP-2切断の阻害として71-72培養ニューロンの破傷風菌毒素中毒に対する中和効力に関して試験する。雄マウスも性差がないことを確認するために試験する。
【表9】
【0091】
本発明者らは、導入された独立した各LC点突然変異は触媒作用の独立した工程を阻害することから、これらのLC突然変異は触媒活性に倍数的低下を示し、それを反映してM-TT毒性効力に低下を示すことを期待する。本発明者らは、これらのLC又はHC突然変異は、LC-TT又はHC-TTにおける個々の突然変異としてのそれらの効果に関する初期の研究に基づけばタンパク質の安定性又は免疫原性に影響を及ぼすとは思わない。1000μgの8M-TTの注射は本発明者らのマウスモデルでは毒性があるとは思えず、8M-TTは、化学的に不活化されたTTよりも高い中和免疫応答を有すると思われ、8M-TTでは低用量の免疫誘導が可能となる。
【0092】
最近の総説では、現行のコンジュゲートワクチンの潜在的免疫誘導効力の一部が達成されたに過ぎないと評価されている4。微生物病原体の研究では、有効なT細胞依存性免疫応答を生じるためにタンパク質トキソイドとのコンジュゲーションを要するさらなる免疫原が同定され続けている。これらには、限定されるものではないが、髄膜炎菌15、真菌16、及び肺炎球菌17-18の莢膜が含まれる。加えて、合成グリカンは、純度及び含量に変動のある天然多糖に基づくワクチンの有望な将来的代替となる20-22。破傷風トキソイドは、多糖のための免疫原性担体タンパク質である23。破傷風菌毒素は、TT構造-機能特性についての本発明者らの知見及び化学的に不活化されたトキソイドとしての破傷風菌毒素の基礎情報、並びに破傷風ワクチン接種の継続した世界的需要に基づけば、これらの次世代組換えコンジュゲートワクチンを開発するための最良の候補の中にある。安全で、生産が容易で、且つ、防御的組換えTTワクチンの生産は、初めて、コンジュゲートワクチン担体としての全長無毒(非毒性)の組換えTTの分析を可能とする。現在、破傷風トキソイドを含め、コンジュゲートワクチン担体の防御特性に関する知見はない73。無毒な組換えM-TTは、化学的に不活化されたTTに対してM-TTにコンジュゲートされた場合の抗原に対する免疫応答の増強を測定するためのいくつかの慣用抗原の担体として使用することができる。
【0093】
M-TTにオリゴ糖をコンジュゲートするためのプロトコールは、Lees laboratoryの公開プロトコール74に従う。簡単に述べれば、LV-1マイクロフルイダイザーを用いて多糖(PS)を分子量100~300kDaまで縮小する。PSを水中5mg/mlで調製し、1-シアノ-4-ジメチルアミノ-ピリジニウムテトラフルオロボラート(CDAP、0.5mg/mg)で活性化する74。等質量のタンパク質(5mg/ml)を加え、溶液をpH9に維持する。反応をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)HPLCによりモニタリングし、過剰量のグリシンで急冷する。コンジュゲートをSECにより精製し、分子量をSEC多角度光散乱により決定する。認証された多糖及びペプチドを8M-TTと架橋する:(i)B群連鎖球菌属(GBS)多糖血清型Ia、Ib、II、III、IV及びIV;(2)肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、及びセパシア菌群(Burkholderia cepacia complex)(BCC)の候補広域ワクチンとしてバイオフィルムの形成を媒介するポリ-β-(1-6)-N-アセチル-グルコサミン(PNAG)45;(3)インフルエンザワクチンで現在試験中のペプチド。
【0094】
非近交系雌ICRマウス(8個体/群)を0.01~0.1μgのコンジュゲートされた最適化M-TT又は等量の化学的に不活化した破傷風トキソイドで免疫した後、14日目に追加のワクチン接種を行う(表10)。26日目にマウスの採血を行い、30日目にマウスを103~106Uの破傷風菌毒素で抗原刺激する。長期保護を調べるために、ワクチン接種マウスを180日間維持し、免疫応答の持続期間を試験するためにTTで抗原刺激する。3日生存したマウスを保護されたものと評価する。抗原刺激前に得た血清を従前に記載されたように6 74ELISAにより抗コンジュゲート及び抗TTに関して試験する。雄マウスも性差に関して試験する。
【表10】
【0095】
PNAGオリゴ糖、GBS多糖、及びインフルエンザペプチドを8M-TTワクチンに個々にコンジュゲートする。続いての実験で、GBSとPNAGを組み合わせて多重多糖コンジュゲート8M-TTワクチンを作出する。次に、インフルエンザペプチド及びPNAGを組み合わせて多重ペプチド-多糖コンジュゲート8M-TTワクチンを作製する。これらの実験はワクチン担体としての8M-TTの可能性を試験する。
【0096】
個々のコンジュゲートワクチン、PNAG-8M-TT、GBS-8M-TT、及びペプチド-8M-TTは、そのコンジュゲートに対して同等の免疫応答を惹起し、TTに対しては各コンジュゲート化学不活化TTワクチンよりも強い免疫応答を惹起すると思われる。本発明者らはまた、8M-TTワクチン内の多糖及びペプチドに対する免疫応答が個々の抗原が8M-TTにコンジュゲートされた場合と同等の免疫応答を惹起すると予想する。本発明者らは、8M-TTに対する免疫応答が天然TT抗原刺激に対する防御と相関すると予想する。
【0097】
参照文献





【0098】
上記の説明、添付図面及びそれらの説明は例示を意図し、本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の多くの主題及び変形が当業者に、又、本開示に鑑みて示唆されるであろう。このような主題及び変形は全てその企図の範囲内にある。例えば、本発明は上記に概略を示した種々の例示的実施形態に関して説明してきたが、種々の代替、改変、変形、改良、及び/又は実質的等価物は、既知であれ、希少であれ、又は現在予期されないものであれ、少なくとも当技術分野の通常の技術を持つ者には明らかとなろう。種々の変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく行える。よって、本発明はこれらの例示的実施形態の全ての既知の又は今後開発される代替、改変、変形、改良、及び/又は実質的等価物を包含するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
2023123432000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0098
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0098】
上記の説明、添付図面及びそれらの説明は例示を意図し、本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の多くの主題及び変形が当業者に、又、本開示に鑑みて示唆されるであろう。このような主題及び変形は全てその企図の範囲内にある。例えば、本発明は上記に概略を示した種々の例示的実施形態に関して説明してきたが、種々の代替、改変、変形、改良、及び/又は実質的等価物は、既知であれ、希少であれ、又は現在予期されないものであれ、少なくとも当技術分野の通常の技術を持つ者には明らかとなろう。種々の変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく行える。よって、本発明はこれらの例示的実施形態の全ての既知の又は今後開発される代替、改変、変形、改良、及び/又は実質的等価物を包含するものとする。

本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕配列番号1と少なくとも95%の同一性を有し、且つ、R372及びY375の各位置に突然変異を有し、更にE334、K768、R1226、及びW1289から選択される2つ以上の位置に突然変異を含む配列を含み、各位置は配列番号1に対して符番されている、改変された破傷風菌毒素ポリペプチドであって、配列番号1の毒性及び受容体結合に比べて毒性及び受容体結合が低減されているポリペプチド。
〔2〕R372の位置のアミノ酸Rがアミノ酸Aに置換され、且つ、Y375の位置のアミノ酸Yがアミノ酸Fに置換されている、前記〔1〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔3〕前記突然変異がR372A、Y375F、E334Q、R1226L、及びW1289Aを含む、前記〔1〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔4〕配列番号4によりコードされる、前記〔3〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔5〕前記突然変異がR372A、Y375F、E334Q、K768A、R1226L、及びW1289Aを含む、前記〔1〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔6〕配列番号5によりコードされる、前記〔5〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔7〕L231及びY26の一方又は両方の位置に突然変異を更に含み、各位置は配列番号1に対して符番される、前記〔1〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔8〕L231及びY26の一方又は両方の位置の突然変異がL231K及びY26Aを含む、前記〔7〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔9〕配列番号6又は配列番号7によりコードされる、前記〔7〕に記載の改変されたポリペプチド。
〔10〕共有結合された糖鎖を更に含み、それにより、ポリペプチドはポリペプチド-糖鎖コンジュゲートである、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチド。
〔11〕前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチド及び薬学上許容される担体を含む組成物。
〔12〕対象が破傷風を発症するリスクを低減する方法であって、前記対象に治療上有効な量の前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドを投与することにより免疫応答を誘導することによる、方法。
〔13〕前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドのアジュバントとしての使用。
〔14〕前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の改変されたポリペプチドのワクチンとしての使用。
〔15〕ワクチンとしての効力が増強された操作された細菌タンパク質トキソイドを得る方法であって、
マルチドメイン細菌タンパク質毒素をコードするアミノ酸配列の各ドメインにおいて1以上のアミノ酸位置を選択すること、ここで、各位置は、各ドメインに関連するタンパク質機能を不活化するように選択され、前記ドメインは、触媒ドメイン、移行ドメイン、受容体結合ドメイン、及び基質結合ドメインのうち2つ以上を含む;
選択された各位置の天然アミノ酸残基を非天然アミノ酸残基で置換し、それにより、前記置換が前記ドメインに関連する1以上のタンパク質機能を不活化すること;及び
宿主細胞において前記置換非天然アミノ酸残基を含む全長細菌タンパク質毒素をコードする核酸配列を発現させ、それにより、発現されたタンパク質は、天然アミノ酸を含む全長細菌タンパク質毒素に比べて触媒活性、受容体結合活性、移行活性、又は基質結合活性の部分的又は完全喪失を示すこと、
を含む、方法。
〔16〕選択が、細菌タンパク質毒素の一次配列又は構造に基づいて個々の機能的アミノ酸残基を同定することを含む、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記構造がX線結晶学、電子顕微鏡、核磁気共鳴法、コンピュータータンパク質構造モデリング、又はそれらの組合せを用いて得られる、前記〔16〕に記載の方法。
〔18〕選択が、全長タンパク質を不安定化することなく、又は免疫原性の喪失なく改変され得る個々のアミノ酸残基を同定することを含む、前記〔15〕に記載の方法。
〔19〕置換が部位特異的突然変異誘発を含む、前記〔15〕に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチンとしての効力が増強された操作された細菌タンパク質トキソイドを得る方法であって、
マルチドメイン細菌タンパク質毒素をコードするアミノ酸配列の各ドメインにおいて1以上のアミノ酸位置を選択すること、ここで、各位置は、各ドメインに関連するタンパク質機能を不活化するように選択され、前記ドメインは、触媒ドメイン、移行ドメイン、受容体結合ドメイン、及び基質結合ドメインのうち2つ以上を含む;
選択された各位置の天然アミノ酸残基を非天然アミノ酸残基で置換し、それにより、前記置換が前記ドメインに関連する1以上のタンパク質機能を不活化すること;及び
宿主細胞において前記置換非天然アミノ酸残基を含む全長細菌タンパク質毒素をコードする核酸配列を発現させ、それにより、発現されたタンパク質は、天然アミノ酸を含む全長細菌タンパク質毒素に比べて触媒活性、受容体結合活性、移行活性、又は基質結合活性の部分的又は完全喪失を示すこと、
を含む、方法。
【請求項2】
選択が、細菌タンパク質毒素の一次配列又は構造に基づいて個々の機能的アミノ酸残基を同定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記構造がX線結晶学、電子顕微鏡、核磁気共鳴分光法、コンピュータータンパク質構造モデリング、又はそれらの組合せを用いて得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
選択が、全長タンパク質を不安定化することなく、又は免疫原性の喪失なく改変され得る個々のアミノ酸残基を同定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
置換が部位特異的突然変異誘発を含む、請求項1に記載の方法。
【外国語明細書】