(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123535
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】血液脳関門移動化合物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20230829BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230829BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230829BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230829BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230829BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C07K16/00
C07K14/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61K38/17
A61K47/68
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023094278
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2020561952の分割
【原出願日】2018-07-31
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/050576
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバーシー,バル
(72)【発明者】
【氏名】スタニミロヴィック,ダニカ
(72)【発明者】
【氏名】ドローチャー,イブ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血液脳関門を移動する化合物又は組成物と、その使用を提供する。
【解決手段】アミロイドβ結合ペプチドの脳浸透性組成物が開示される。これは、例えば、血液脳関門を通過して脳に移動できるFc断片を介して連結された、血液脳関門を越える抗体とアミロイドβ標的ペプチドとを含む二機能性分子として、及びそれを含む組成物として、アルツハイマー病の治療に有用であってもよい。アルツハイマー病を治療するためにこの組成物を使用する方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV)(配列番号46)のアミノ酸配列を含む、βアミロイドに結合する単離ペプチド。
【請求項2】
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31)(式中、X1=K、G又はA、又はX1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV、X7=K、G又はV、X8=R、G又はA、X9=K、G又はA)
のアミノ酸配列を含む、βアミロイドに結合する単離ペプチド、
又はそのC末端切断βアミロイド結合産物。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号32);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号33);
KTFKTRGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号34);
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVK(配列番号37);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRV(配列番号38);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSR(配列番号39);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKS(配列番号40);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLK(配列番号41);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQL(配列番号42);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQ(配列番号43);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTVKNI(配列番号44);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRG(配列番号45);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGG(配列番号47);及びそれと実質的に同等の配列からなる群から選択される配列、又はそのC末端切断βアミロイド結合ペプチドを含む、請求項1又は2に記載の単離ペプチド。
【請求項4】
前記C末端切断βアミロイド結合ペプチドが、
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVK(配列番号37);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRV(配列番号38);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSR(配列番号39);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKS(配列番号40);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLK(配列番号41);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQL(配列番号42);及び
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQ(配列番号43)からなる群から選択される配列を含む、請求項3に記載の単離ペプチド。
【請求項5】
血液脳関門を移動できる抗体又はその抗体断片に融合された、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離ペプチド。
【請求項6】
Fc断片に連結された、請求項5に記載の単離ペプチド。
【請求項7】
前記単離ペプチド、前記抗体又はその断片、及び前記Fc断片が、一本鎖ポリペプチド融合タンパク質を形成する、請求項6に記載の単離ペプチド。
【請求項8】
前記Fc断片が、エフェクター機能が減弱されたFcを含む、請求項6又は7に記載の単離ペプチド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の単離ペプチドと、血液脳関門(BBB)を移動する抗体又は抗体断片とを含む融合タンパク質。
【請求項10】
前記融合タンパク質が、Fc断片をさらに含む一本鎖ポリペプチドである、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記一本鎖ポリペプチドが二量体を形成する、請求項10に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記二量体が、ABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であり、βアミロイドに結合できる少なくとも1つのABPを含む、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記一本鎖ポリペプチドが、
抗体又はその断片;
配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、及び配列番号47からなる群から選択されるβアミロイドに結合するペプチド;並びに
配列番号、配列番号48、配列番号49、配列番号50からなる群から選択されるFc断片
を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記抗体又はその断片が、
GFKITHYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、GSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列
を含む配列を含む、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
前記抗体又はその断片が、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び上記配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む、請求項14に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
前記抗体又はその断片が、
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;及び
GRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片
からなる群から選択される配列を含む、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
前記抗体又はその断片が、配列番号18、配列番号21、及び配列番号24のいずれか1つから選択される配列を含む、請求項16に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
前記抗体又はその断片が、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、配列番号26及び上記配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む、請求項17に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
前記抗体又はその断片を含む一本鎖ポリペプチドが、Fc断片を介してβアミロイドに結合するペプチドに連結される、請求項13~18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
前記融合タンパク質が、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及びそれと実質的に同一の配列からなる群から選択される配列を含む一本鎖ポリペプチドである、請求項13又は19に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
前記一本鎖ポリペプチドが二量体を形成する、請求項20に記載の融合タンパク質。
【請求項22】
前記融合タンパク質が、任意の適切なペプチドリンカーを含む一本鎖ポリペプチドである、請求項21に記載の融合タンパク質。
【請求項23】
前記ペプチドリンカーが、融合タンパク質の連結された構成要素がその無制限の所望の生物学的機能を維持するのを可能にするアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の融合タンパク質。
【請求項24】
前記ペプチドリンカーが、配列(GGGS)n、(GGGGS)n、又は任意の適切なペプチド連結配列を含む、請求項22又は23に記載の融合タンパク質。
【請求項25】
前記一本鎖ポリペプチドが、二量体ポリペプチドを形成する、請求項11~24のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項26】
前記二量体ポリペプチドが、そこに含まれるβアミロイド結合タンパク質(ABP)に
関してホモ二量体又はヘテロ二量体を含む、請求項25に記載の融合タンパク質。
【請求項27】
前記ヘテロ二量体が、βアミロイドに結合できる少なくとも1つの機能的ABPを含む、請求項26に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
前記抗体又はその断片が、ヒト化されている、請求項9~27のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項29】
前記抗体又はその断片が、単一ドメイン抗体(sdAb)である、請求項9~28のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項30】
前記Fc断片が、マウスFc2a又はヒトFc1である、請求項9~29のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項31】
前記Fc断片が、配列番号48、配列番号49、配列番号50を含む、請求項30に記載の融合タンパク質。
【請求項32】
前記融合タンパク質が、前記Fc断片のN末端に連結される抗体又はその断片を含み、βアミロイドに結合する前記ポリペプチドが前記Fc断片のC末端に連結される、請求項9~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項33】
前記抗体又はその断片が、前記Fc断片のC末端に連結され、βアミロイドに結合する前記ポリペプチドが、前記Fc断片のN末端に連結される、請求項9~13及び16~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項34】
前記リンカーが、前記抗体又はその断片を前記Fcに連結する、及び/又はβアミロイドに結合する前記ポリペプチドを前記Fcに連結する、独立して選択されたリンカー配列である、請求項33~33に記載の融合タンパク質。
【請求項35】
前記リンカー配列が、GGGGSGGGGS、GGGSGGGGS、配列番号71に提供される任意の適切なリンカー、又は任意の適切なリンカーである、請求項34に記載の融合タンパク質。
【請求項36】
前記融合タンパク質が、請求項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチドを含む二量体を形成する、請求項9~35のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項37】
前記二量体が、2つの一本鎖ポリペプチドを含み、前記2つの一本鎖ポリペプチドが、配列番号31~47のいずれか1つから選択される2つのABPを含む二機能性ホモ二量体;配列番号31~47のいずれか1つから選択される2つの異なるABPを含む二機能性ヘテロ二量体;又は配列番号31~47のいずれか1つから選択される1つのABPを含む一機能性ヘテロ二量体である、請求項38に記載の融合タンパク質。
【請求項38】
請求項1~8のいずれか一項に記載の単離ペプチド、又はその任意の組合せと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項39】
請求項9~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又はその任意の組合せと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項40】
請求項1~39のいずれか一項に記載の任意のタンパク質をコードする、核酸分子。
【請求項41】
請求項40に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項42】
請求項38又は39に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項43】
患者においてアルツハイマー病を治療するための請求項38又は39に記載の医薬組成物。
【請求項44】
請求項9~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質又は請求項38若しくは39に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、アルツハイマー病を治療する方法。
【請求項45】
十分な量の請求項38又は39に記載の医薬組成物を対象に反復非経口投与するステップを含む、アミロイドベータレベルが増加している対象のβアミロイドレベルを減少させる方法。
【請求項46】
非経口投与が皮下又は静脈内投与である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項38又は39に記載の組成物の反復非経口投与後に、アミロイドベータレベルが増加している対象のβアミロイドレベルが減少する、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
請求項38又は39に記載の組成物の反復非経口投与の4週間以内にβアミロイドが減少する、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
請求項38又は39に記載の組成物の非経口投与後に、脳脊髄液(CSF)が増加している対象のCSF中のβアミロイドレベルが減少する、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
請求項38又は39に記載の組成物の単回非経口投与の24時間以内に、脳脊髄液(CSF)が増加している対象のCSF中のβアミロイドレベルが減少する、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
請求項9~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質を投与することを含む、アミロイドベータのレベルが増加している対象のβアミロイドレベルを減少させる方法。
【請求項52】
請求項9~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質の混合物を含む、医薬組成物。
【請求項53】
前記融合タンパク質の混合物が、ABP二機能性ホモ二量体融合タンパク質、ABP二機能性ヘテロ二量体融合タンパク質及びABP一機能性ヘテロ二量体融合タンパク質又はその任意の組合せを含む、請求項52に記載の医薬組成物。
【請求項54】
単離された一本鎖ポリペプチド融合物の混合物が、有効収率の機能的融合タンパク質を含む薬学的に有効な混合物である、請求項52又は53に記載の医薬組成物。
【請求項55】
アルツハイマー病の症状を改善するための、請求項52~54のいずれか一項に記載の医薬組成物、及び薬学的に許容可能な希釈剤、担体、ビヒクル又は賦形剤。
【請求項56】
アミロイドベータのレベルが増加している対象のβアミロイドレベルを減少させるのに使用するための請求項55に記載の医薬組成物。
【請求項57】
請求項55に記載の医薬組成物を対象の体内に導入するステップを含む、脳アミロイドベータのレベルが増加している対象のβアミロイドレベルを減少させる方法。
【請求項58】
βアミロイドレベルが増加している対象の脳、組織、又は生体液(CSF及び血液)中のβアミロイドレベルを減少させるための、請求項56に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液脳関門を移動する化合物とその使用とに関する。より具体的には、本発明は、血液脳関門を通過する抗体又はその断片、免疫グロブリンFcドメイン又はその断片、及びβアミロイドに結合するポリペプチド、融合タンパク質及びその組成物を含んでもよい化合物、並びにアルツハイマー病の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、これら身体障害性病状態に対する有効な治療法が現在ないため、高齢化社会の負担を増大させる。アルツハイマー病(AD)は、65歳以上の人口のおよそ15%が罹患する不可逆的神経変性障害であり、高齢人口における進行性の知的及び認知性障害の主な原因である(Hardy et al, 2014)。
【0003】
ADでは、コリン作動性ニューロンの重度の喪失があり、その結果、記憶処理及び保存に関与する重要な神経伝達物質である、アセチルコリン(ACh)のレベルが減少する。さらに、神経伝達物質であるグルタミン酸によって誘導される興奮毒性も、ADの病因に関与する。したがって、グルタミン酸毒性のコリン作動性増強及び/又は阻害は、ADにおける認知力を改善するかもしれない。確かに、ADの治療のためにFDAが承認した唯一の薬剤は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤(例えば、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)であり、AChの喪失を予防して特定のグルタミン酸受容体(例えば、メマンチン)を阻害する(Mangialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010; Savonenko et al, 2012)。しかし、これらの対症療法薬物の有益な効果は限定的で一時的なものであり、認知機能の一時的な改善をもたらすが、疾患の進行は止まらない。抗酸化剤、抗炎症薬(NSAIDS)、コレステロール低下薬、及びエストロゲン療法などのその他の治療法が検討されているものの、これらの治療法はいずれも、特にAD患者の記憶及び認知機能の改善に長期的な有益な効果をもたらしそうにない(Magialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010)。
【0004】
アルツハイマー病の主要な特徴は、39~43アミノ酸ペプチドであるβアミロイド(Aβ)が、凝集体及びプラークの形態で脳に蓄積することである。遺伝的、病理学的、及び生化学的研究に基づく相当数の証拠が、Aβ、特にそのオリゴマー凝集体がAD病理の発生において中心的な役割を果たすことを示唆している(Hardy et al, 2014; DeLaGarza, 2003; Selkoe and Hardy, 2016)。アミロイド仮説によれば、脳内のAβの産生とクリアランスの慢性的な不均衡は、加齢に伴ってその蓄積と凝集をもたらす。これらのAβ凝集体は、シナプス喪失及び神経機能をもたらす一連の事象を開始すると考えられ、記憶及びその他の認知機能の進行性喪失をもたらす(Hardy et al, 2014; DeLaGarza, 2003; Selkoe and Hardy, 2016; Sengupta et al, 2016)。
【0005】
前駆体タンパク質APPからのAβの生成は、プロテアーゼβ及びγセクレターゼによるAPPの逐次タンパク質分解によって達成される(Barageb and Sonawane, 2015)。これらの酵素の阻害剤は、Aβ産生を減少させることが示されており、ADを治療するための潜在的な薬剤として開発されている(Hardy et al, 2014; Mangialasche et al, 2010;Selkoe and Hardy, 2016; Ji and Ha, 2010)。同様に、Aβクリアランスを隔離及び/又は促進する薬剤もまた開発されている。これらの中で注目に値するのは、ADワクチンによる免疫療法の開発である。能動免疫(Aβペプチド)及び受動免疫(Aβ抗体)はどちらも、ADの遺伝子組換え動物モデルにおいて、そしてAD患者が参加する臨床試験において、アミロイド沈着を予防するのに、そしてあらかじめ形成されたアミロイド斑を除去するのに、有効であることが示されている(Mangialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010; Morrone et al, 2015; Lannfelt et al, 2014; Selkoe and Hardy, 2016; Goure etal, 2014)。
【0006】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性切断を防止し、それによって脳Aβ産生を減少させ又は抑制するβ及びγセクレターゼの阻害剤が開発されている(例えば、タレンフルビル、セマガセスタット、ベルベセスタット)。しかし、Aβ負荷の軽減におけるそれらの治療有効性はまだ知られておらず、これらの薬物の多くは前臨床又は臨床試験において失敗している(Savonenko et al, 2012; Musiek and Holtzman, 2015)。さらに、これらの酵素は、神経細胞の発達と関連があるその他の酵素及びNotchなどのシグナル伝達分子のプロセシングにも関与しているため(Savonenko et al, 2012;Musiek and Holtzman, 2015)、これらの阻害剤は、深刻な非特異的副作用をもたらすこともある。
【0007】
能動免疫(Aβワクチン、AN1792)及び受動免疫(例えば、バピネオズマブ、ソラネズマブ、クレネズマブ、アデュカヌマブなど)などの免疫療法的アプローチは、遺伝子組換え動物におけるAβ沈着の低減と記憶欠損の部分的除去とに、かなり効果的であることが示されている(Monsonego and Weiner, 2003; Bard et al, 2000, Sevigny J et al., 2016)。能動免疫と受動免疫の双方を用いたいくつかの臨床試験では、認知の中等度の改善を伴う脳Aβ沈着の減少が示されている。しかし、AD患者の重度の炎症反応(髄膜脳炎症状)、血管原性浮腫、及び微小出血のために、臨床試験を中止する必要があった。これらの限界にもかかわらず、免疫療法のアプローチは、Aβを効果的に隔離してその沈着と毒性を防ぐ薬剤が、ADの進行を阻止する効果的な薬物の役割を潜在的に果たし、その進行さえ予防し得ることを示す(Rafii and Aisen, 2015, Selkoe and Hardy, 2016)。
【0008】
適切な治療用分子及び診断薬の大部分は、厳密で高度に制限的な血液脳関門(BBB)に侵入できないため、脳に由来するADとその他の疾患の治療並びに早期診断は困難なままである(Abbott, 2013)。BBBは、血管を裏打ちし密着接合部を介して互いに接続する脳内皮細胞(BEC)によって形成される、物理的なバリケードを構成する(Abbott, 2013)。BEC間に形成される密着接合は、BBBの完全性に不可欠であり、500ダルトン(Da)を超える分子の傍細胞輸送を妨げる。脳内皮細胞は非常に低い飲作用率を示すことから(Abbott, 2013)、より大きな分子の経細胞輸送は、非常に特異的な受容体媒介トランスサイトーシス(RMT)経路と、受動的な電荷ベースの吸着媒介トランスサイトーシスとに限定される(Abbott, 2013; Pardridge, 2002)。さらに、P糖タンパク質や多剤耐性タンパク質-1(MDR-1)などの排出ポンプの高密度は、脳からの望まれない物質の除去に寄与する(Abbott, 2013)。
【0009】
これらの特性は全て、脳を病原体や毒素から保護するが、ほとんどの治療薬の侵入も同等に妨げる。実際には、それらが明確に「輸送」される、すなわち、輸送体分子と共役している場合を除いて、小分子治療薬の5%未満が薬理学的に適切な濃度(すなわち、中枢神経系(CNS)標的に結合して薬理学的/治療応答を引き出すのに十分な濃度)でBBBを通過し得て、より大きな治療薬は通過し得ない。BBBを越えて分子を輸送する効果的な「担体」が欠如していることから十分な量が脳に送達され得ないため、神経変性疾患に対する多数の薬物が「棚上げされ」又はさらなる開発から排除されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AD病理の分子機構の理解はかなり進歩しているにもかかわらず、現在、病気の進行を予防又は治療し得る有効な薬物や治療法はない。さらに、大容量で高選択性のBBB担体の欠如のために、脳腫瘍や神経変性疾患などの脳に源を発する疾患の新たな治療法及び診断法の開発が遅れている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、血液脳関門を移動する化合物又は組成物と、その使用とに関する。
【0012】
本発明は、ベータアミロイド(βアミロイド)に結合するペプチドを提供する。βアミロイドに結合するペプチド(又はタンパク質)は、病理学的に関連したβアミロイド1~42(Aβ1~42)凝集体に選択的に結合してもよく、本明細書でABPと略記され、称されることもあり、本明細書におけるABPは、任意のABPペプチド、ABP変異型、任意のC末端切断ABP、又はその同等な機能的βアミロイド結合ペプチドを包含する。本発明は、βアミロイドに結合する特異的ABPペプチド種を提供し、有利には、機能的βアミロイド結合ペプチドの混合物、したがって、前記特異的ABPペプチドを含む安定且つ機能的な融合タンパク質の混合物を提供する。
【0013】
本発明は、血液脳関門(BBB)を通過する抗体又はその断片に連結される、ベータアミロイド(βアミロイド)結合ペプチド(本明細書で提供される任意のABP)を含む、融合タンパク質(本明細書では化合物、組成物、一本鎖ポリペプチド又はコンストラクトとも称される)を提供し、本明細書におけるBBBは、血液脳関門を移動する担体抗体又は断片の略語を指す。一実施形態では、融合タンパク質は、ABP及びBBB担体、又はその断片を含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素は、Fc領域又はその一部を介して連結されてもよい。一実施形態では、ABPとBBBとを含む融合タンパク質は、Fcとして知られている免疫グロブリンタンパク質エフェクタードメイン、又はその断片をさらに含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素は、Fc領域又はその部分を介して連結されてもよい。例えば、本発明のコンストラクトはリンカー(L)をさらに含んでもよく、Lは小型の連結ペプチド又はペプチド様鎖である。BBB-Fc-ABPを含む一本鎖ポリペプチドは、融合タンパク質の二量体化を可能にするFcを介して二量体を形成してもよい。本発明の化合物は、融合タンパク質、コンストラクト、融合分子、製剤又は組成物と称されてもよい。
【0014】
BBB-Fc-L-ABP融合タンパク質を含む一本鎖ポリペプチドは、Fc二量体化によって二量体を形成してもよく、BBB-Fc-L-ABPは、ABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であってもよい。すなわち、提供されるBBB-Fc-L-ABP融合タンパク質は、一本鎖ポリペプチド又はその二量体ポリペプチドであってもよく、二量体は、ABPアームが両方とも機能的である(ABP及び/又はC末端切断機能的ABP)ホモ二量体であってもよいか、又は二量体は、機能的ABPアーム(ABP又はC末端切断機能的ABP)と、非機能的ABPアーム、又は2つの機能的ABPアームを含むヘテロ二量体であってもよい。用語「機能的」は、ABPペプチドが、配列番号31のコンセンサス配列(40aa)を有するペプチド及びそのC末端切断機能的産物、又は配列番号46のコンセンサス配列(29aa)を有するペプチドなどのβアミロイドに結合できることを示すが、用語「非機能的」は、ABPがβアミロイドに結合できない任意のC末端切断産物を示す。Fc二量体化は、BBB-Fc-ABPを含むコンストラクトにおいて2つのFc CH3ドメイン間の大きな緊密に詰め込まれた疎水性界面の相互作用によって媒介されてもよい。本明細書におけるBBB-Fc-ABP及びBBB-Fc-L-ABPは、融合タンパク質の各構成要素が、任意の適切なリンカーを介して連結又はコンジュゲートされ、血液脳関門を移動できるβアミロイド結合融合タンパク質を形成する、BBB、Fc部分、及びABPを含む一本鎖ポリペプチド融合タンパク質に言及する同等の略記であることに留意すべきである。BBB、Fc、ABP及びリンカー(L)は、本明細書で提供される任意のBBB、Fc、ABP又はLであってもよい。一実施形態では、BBBはFc5(例えば、配列番号17)であり、FcはhFc1X7(例えば、配列番号49)であり、ABPは配列番号31(40aa)を有する任意のペプチド、例えば、ABP(6G)、配列番号36(40aa)又はその任意のβアミロイド結合C末端切断産物、例えば、配列番号37(38aa)、配列番号38(37aa)、配列番号39(36aa)、配列番号40(35aa)、配列番号41(34aa)、配列番号42(33aa)、若しくは配列番号43(32aa)などのβアミロイド結合ペプチド又は配列番号46(29aa)を含むか、若しくはそれからなる任意のペプチド、例えば、配列番号47(29aa)であり;Lは(GGGGS)n、(GGGS)n又はその任意の適切なリンカー、例えば、T(GGGGS)2であってもよい。提供される融合タンパク質は、特定のリンカーに限定されず、融合タンパク質の各構成要素の作動可能な生物学的機能、すなわち、血液脳関門移動及びβアミロイド結合を可能にする任意のリンカーであってもよいことが理解される。例えば、本発明の融合タンパク質は、本明細書に提供される任意のβアミロイド結合タンパク質又はそのC末端切断産物などの、配列番号56、71に提供されるようなFc5-H3-hFc1X7-L-ABP(6G)又はその同等な融合タンパク質であってもよい。
【0015】
その同等な融合タンパク質は、任意のβアミロイド結合タンパク質(配列番号31)、配列番号36のC末端切断産物(例えば、配列番号37~配列番号43)、又は配列番号46を含む、若しくはそれからなるタンパク質、又はその同等なβアミロイド結合タンパク質を含んでもよい。例えば、C末端切断ABPは、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、又は配列番号43の配列を含んでもよい。
【0016】
提供されるBBB-Fc-ABPコンストラクトは、一本鎖ポリペプチド(一本鎖融合タンパク質の単量体と称される)又はその二量体ポリペプチドであってもよい。2つの一本鎖ポリペプチドを含む二量体ペプチドは、ホモ二量体であってもよい-ABPペプチドは両方とも同じである(例えば、両方とも配列番号36);又は二量体ペプチドは、ヘテロ二量体であってもよい(例えば、配列番号36と配列番号40若しくは配列番号31~47の任意の組合せ)-二量体のABPペプチドは、一本鎖のAPBペプチドの両方又は少なくとも一方が、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、若しくは配列番号43からなる群から選択される、任意の2つの異なる配列であってもよい。二量体を形成する一本鎖ポリペプチドのABPペプチドは、任意の生物学的に機能的なβアミロイド結合ABPペプチド;具体的には、配列番号27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、44、45、46、47からなる群から選択される任意のABP、又は配列番号36の生物学的に機能的なC末端切断産物、具体的には、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、若しくは配列番号43又はその任意の組合せであってもよい。
【0017】
2つのBBB-Fc-L-ABP一本鎖ポリペプチドを含む二量体ペプチドは、前記ABP配列の少なくとも一方が、生物学的に機能的な分子である(すなわち、βアミロイドに結合できる)、2つの異なるABP配列を含んでもよい。二量体ペプチドが単一の非機能的ABPペプチドを収容し、βアミロイド結合に関して同等の機能的な生物活性を依然として維持し得ることは、非常に有利であり、予想外のことである。2つの異なるABP配列を含む二量体(すなわち、ABPに関するヘテロ二量体)において、ヘテロ二量体において提供されるABPペプチドの少なくとも一方は、2つの機能的ABPペプチドがヘテロ二量体中で提供される場合、生物学的に機能的なABP、すなわち、配列番号27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47又はその任意の組合せである。ヘテロ二量体中のABPペプチドは両方とも、ヘテロ二量体中に少なくとも1つの生物学的に機能的なABPを有する、生物学的に機能的なβアミロイド結合タンパク質であり、βアミロイド結合活性に関して融合タンパク質の全体としての生物活性を維持する必要はない。ヘテロ二量体は、単一の非機能的ABPペプチドを収容し、生物学的に有効なヘテロ二量体を保持することができることが有利である。この利点は、提供される融合タンパク質の製造可能性を助け、生物活性産物の混合物における収率を有意に改善する。
【0018】
本発明は、
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV)(配列番号46;29aa)
のアミノ酸配列を含む、又はそれからなるβアミロイドに結合する単離ペプチドを提供する。
【0019】
本発明は、
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31;40aa)
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV、X7=K、G又はV、X8=R、G又はA、X9=K、G又はA)
のアミノ酸配列を含む、若しくはそれからなるβアミロイドに結合する単離ペプチド、又はそのC末端切断βアミロイド結合産物を提供する。
【0020】
単離ペプチドのアミノ酸配列は、
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号32;40aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号33;40aa);
KTFKTRGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号34;40aa);
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35;40aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36);40aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVK(配列番号37;38aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRV(配列番号38;37aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSR(配列番号39;36aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKS(配列番号40;35aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLK(配列番号41;34aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQL(配列番号42;33aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQ(配列番号43;32aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTVKNI(配列番号44;35aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRG(配列番号45;29aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGG(配列番号47;29aa);及び
それと実質的に同等の配列からなる群から選択される配列、又はそのC末端切断βアミロイド結合ペプチドを含む。39アミノ酸の切断産物を得るための1つのアミノ酸のC末端切断(すなわち、イソロイシンの欠失)も提供される。コンセンサス配列である配列番号31において、X10=I又はアミノ酸なし(すなわち、アミノ酸X10が配列番号30から欠失される)であり、-OH基がアミノ酸40の代わりに39aaのペプチドのC末端に存在してもよい(配列番号31)。
【0021】
より具体的には、C末端切断βアミロイド結合ペプチドは、
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVK(配列番号37;38aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRV(配列番号38;37aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSR(配列番号39;36aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKS(配列番号40;35aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLK(配列番号41;34aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQL(配列番号42;33aa);及び
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQ(配列番号43;32aa)
からなる群から選択される配列を含む。
【0022】
本発明の任意の単離ペプチドを、血液脳関門を移動できる抗体又は抗体断片に融合してもよい。単離ペプチドをFc断片に連結してもよく、ここで、単離ペプチド、抗体又はその断片、及びFc断片は、一本鎖ポリペプチド融合タンパク質を形成する。一実施形態では、Fc断片は、エフェクター機能が減弱されたFcを含む。
【0023】
本発明は、したがって、本明細書で提供される任意の単離ペプチドと、血液脳関門(BBB)を移動する抗体又は抗体断片とを含む融合タンパク質を提供する。この融合タンパク質は、Fc断片をさらに含む、一本鎖ポリペプチドであって、二量体を形成する一本鎖ポリペプチドであってもよい。二量体は、そこに含まれるABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であってもよく、ヘテロ二量体は、二機能性(2つの機能的ABPアーム)又は一機能性(ただ1つの機能的ABPアーム)であってもよい。一機能性二量体は、そこに含まれる機能的ABPタンパク質に関係なく、二機能性二量体と同等であることが非常に有利である。すなわち、例えば、ヘテロ二量体は、二量体の一方のアーム上に配列番号37、及び二量体の他方のアーム上に配列番号41を有するABPを含んでもよいか、又は二量体の一方のアーム上に配列番号43を有するABP及び二量体の他方のアーム上に非機能的ABPを含んでもよく、両方の二量体は、有利には、同等のβアミロイド結合機能を示す。これは、有利には、同等の機能を有する二量体の混合物の産生を可能にし、したがって、産生収率の増大を可能にする。
【0024】
したがって、二量体がABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であり、βアミロイドに結合できる少なくとも1つのABPを含む、融合タンパク質が提供される。
【0025】
提供される一本鎖ポリペプチドは、抗体又はその抗体断片と、βアミロイドに結合するペプチドと、Fc断片とを含んでもよい。一本鎖ポリペプチドは、βアミロイドに結合するペプチドの、Fc断片への連結を可能にする任意の適切なリンカーをさらに含んでもよい。抗体又はその断片を、Fcにコンジュゲートするか、又は連結してもよく、ABPを、任意の適切なリンカーを介してFcに連結して、一本鎖ポリペプチドを形成させてもよい。提供される融合タンパク質は、本明細書に提供されるリンカーを含むことに限定されず、構成要素(すなわち、抗体、Fc、及びABP)の連結を可能にして、本明細書に提供される融合タンパク質と同等の融合タンパク質を形成させる任意の適切なリンカーを含んでもよい。
【0026】
抗体又はその断片は、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、及び配列番号26からなる群から選択される任意の抗体;配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、及び配列番号47からなる群から選択されるβアミロイドに結合するペプチド;及び配列番号48、配列番号49、配列番号50からなる群から選択されるFc断片であってもよい。
【0027】
抗体又はその断片は、GFKITHYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、GSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列を含む配列を含んでもよい。具体的には、抗体又はその断片は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び上記配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む。
【0028】
抗体、又はその断片は、
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;及び
GRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はTである)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片
からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0029】
具体的には、抗体又はその断片は、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26及び/又はそれと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。
【0030】
抗体又はその断片は、ヒト化されていてもよい。抗体又はその断片は、単一ドメイン抗体(sdAb)であってもよい。
【0031】
抗体又はその断片を含む融合タンパク質一本鎖ポリペプチドは、Fc断片を介してβアミロイドに結合するペプチドに連結される。一本鎖ポリペプチドは、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71及びそれと実質的に同一の配列からなる群から選択される任意の配列を含んでもよい。一本鎖ポリペプチドは、二量体、具体的には、提供される任意の一本鎖ポリペプチドを含むホモ二量体又は提供される一本鎖ポリペプチドの少なくとも1つを含むヘテロ二量体を形成してもよい。
【0032】
融合タンパク質は、任意の適切なペプチドリンカーを含む一本鎖ポリペプチドであってもよい。ペプチドリンカーは、融合タンパク質の連結された構成要素がその無制限の所望の生物学的機能を維持することができる任意のアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、ペプチドリンカーは、(GGGS)n、(GGGGS)nの配列、又は任意の適切なペプチド連結配列を含んでもよい。
【0033】
一実施形態では、提供される一本鎖ポリペプチドは、そこに含まれるβアミロイド結合タンパク質(ABP)に関してホモ二量体又はヘテロ二量体を含む、二量体ポリペプチドを形成する。ヘテロ二量体は、βアミロイドに結合できる少なくとも1つの機能的ABPを含んでもよい。
【0034】
融合タンパク質のFc断片は、マウスFc2a又はヒトFc1であってもよい;また、配列番号48、配列番号49、配列番号50を含むFc断片を含んでもよい。
【0035】
一実施形態では、融合タンパク質は、Fc断片のN末端に連結された抗体又はその断片と、Fc断片のC末端に連結されたβアミロイドに結合するポリペプチドとを含み;抗体又は断片は、本明細書に提供される任意の抗体、例えば、配列番号1、2、3(FC5)のCDR;配列番号4、5、6(IGF1R-3)のCDR、配列番号7、8、9(IGF1R-4)のCDR;配列番号10、11、12(IGF1R-5)のCDRを含む抗体若しくは断片;配列番号14~配列番号17(FC5抗体);又は配列番号18~配列番号26(IGF1R抗体)である。
【0036】
別の実施形態では、融合タンパク質は、Fc断片のC末端に連結された抗体又はその断片と、Fc断片のN末端に連結されたβアミロイドに結合するポリペプチドとを含み;抗体又は断片は、配列番号4、5、6(IGF1R-3)のCDR、配列番号7、8、9(IGF1R-4)のCDR;配列番号10、11、12(IGF1R-5)のCDRを含む任意の抗体若しくは断片;又は配列番号18~配列番号26(IGF1R抗体)である。
【0037】
融合タンパク質は、抗体又はその断片をFcに連結する、及び/又はβアミロイドに結合するポリペプチドをFcに連結する、独立して選択されたリンカーを含んでもよい。リンカーは、配列(GGGS)n、(GGGGS)n、GGGGSGGGGS、GGGSGGGGS、当業界で提供される、又は配列番号71のコンセンサスリンカーにおいて提供される任意の適切なリンカー又は任意の適切なリンカーを含んでもよい。
【0038】
本発明は、二量体が配列番号31~配列番号47のいずれか1つに記載の少なくとも1つのペプチド、又はその任意の組合せを含む、提供される任意の融合タンパク質の二量体を提供する。
【0039】
より具体的には、融合タンパク質の二量体は、配列番号31~47のいずれか1つから選択される2つのABPを含む二機能性ホモ二量体;配列番号31~47のいずれか1つから選択される2つの異なるABPを含む二機能性ヘテロ二量体;又は配列番号31~47のいずれか1つから選択される1つのABPを含む一機能性ヘテロ二量体である、2つの一本鎖ポリペプチドを含む。
【0040】
また、配列番号31~47のいずれか1つの単離ペプチド、又はその任意の組合せと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物も提供される。医薬組成物を、患者におけるアルツハイマー病を治療するために使用してもよい。
【0041】
また、本発明の任意のタンパク質又は融合タンパク質をコードする核酸分子も提供される。本発明の任意のタンパク質又は融合タンパク質をコードする核酸分子を含むベクターが提供される。医薬組成物を含むキットが提供される。
【0042】
本発明は、任意の融合タンパク質、又はその二量体を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、アルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【0043】
十分な量の提供される医薬組成物を対象に反復非経口投与するステップを含む、脳アミロイドβレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法が提供される。非経口投与は、皮下投与又は静脈内投与であってもよい。βアミロイドレベルの減少は、脳に限定されず、βアミロイドのレベルが増加している対象の脳、組織、又は生体液(CSF及び血液)におけるものであり得る。
【0044】
提供される方法では、アミロイドベータの脳内レベルが増加している対象の脳において提供される組成物の反復非経口投与後、毒性βアミロイドレベルが減少する。毒性βアミロイドは、組成物の反復非経口投与の4週間以内に減少する。βアミロイドのCNS(中枢神経系)レベルが増加している対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルは、組成物の非経口投与後に減少する。提供される方法及びその組成物は、組成物の単回非経口投与の24時間以内にCNSレベルが増加している対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルを有利に減少させた。具体的には、毒性βアミロイドレベルは、提供される融合タンパク質の投与を含む方法において、脳アミロイドベータのレベルが増加している対象の脳内で減少した。
【0045】
医薬組成物は、提供される融合タンパク質の任意の混合物を含んでもよい;融合タンパク質の混合物は、ABP二機能性ホモ二量体融合タンパク質、ABP二機能性ヘテロ二量体融合タンパク質及びABP一機能性ヘテロ二量体融合タンパク質又はその任意の組合せを含む。一本鎖ポリペプチド融合物の混合物を含む医薬組成物は、同等の機能活性を有する機能的融合タンパク質の薬学的に有効な収率を提供する。医薬組成物は、アルツハイマー病の症状を改善するための薬学的に許容可能な希釈剤、担体、ビヒクル又は賦形剤を含んでもよい。医薬組成物を、脳アミロイドベータのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させるために使用してもよい。
【0046】
本発明の化合物は、アルツハイマー病(AD)の治療で使用されてもよい。
【0047】
βアミロイドに結合するペプチドは、
SGKTEYMAFPKPFESSSSIGAEKPRNKKLPEEEVESSRTPWLYEQEGEVEKPFIKTGFSVSVEKSTSSNRKNQLDTNGRRRQFDEESLESFSSMPDPVDPTTVTKTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNITHARRILQQSNRNACNEAPETGSDFSMFEA(配列番号27;174aa);
FSSMPDPVDPTTVTKTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSK(配列番号28;40aa);
KDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNITHARRILQQSNRNACN(配列番号29;40aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNI(配列番号30;40aa);
からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0048】
配列:
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV、X7=K、G又はV、X8=R、G又はA、X9=K、G又はA)(配列番号31;40aa)、又はそのC末端切断タンパク質[配列番号37(38aa)~配列番号43(32aa)]を含むβアミロイドに結合するペプチドが提供される。
【0049】
配列番号31のコンセンサス配列において、可変アミノ酸での置換の変化(式中、X1=G又はA;X2=G又はV;X3=G又はA、X4=G又はA、X5=G又はV);又は配列番号31中のこれらのアミノ酸置換の任意の組合せも提供される。
【0050】
また、配列:
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV)(配列番号46;29aa)を含むβアミロイドタンパク質に結合するペプチドも提供される。
【0051】
配列番号46のコンセンサス配列において、可変アミノ酸での置換の変化(式中、X1=G又はA;X2=G又はV;X3=G又はA、X4=G又はA、X5=G又はV);又は配列番号46中のこれらのアミノ酸置換の任意の組合せも提供される。
【0052】
特定の非限定的な実施形態では、ABP、その変異型、又はそのC末端産物は、
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV、X7=K、G又はV、X8=R、G又はA、X9=K、G又はA)(配列番号31;40aa)、
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号32;40aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号33;40aa);
KTFKTRGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号34;40aa);
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35;40aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36;40aa);又は配列番号36のC末端切断産物(式中、1つのアミノ酸(イソロイシン)がC末端から欠失される)、
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVK(配列番号37;38aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRV(配列番号38;37aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSR(配列番号39;36aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKS(配列番号40;35aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLK(配列番号41;34aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQL(配列番号42;33aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQ(配列番号43;32aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTVKNI(配列番号44;35aa);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRG(配列番号45;29aa);
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV)(配列番号46;29aa);及び
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGG(配列番号47;29aa)
又はβアミロイドに結合できる、上記配列のいずれかと実質的に同一の配列、のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。
【0053】
βアミロイドに結合するABPは、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、及び配列番号45、配列番号46、配列番号47からなる群から選択されるペプチド配列を含んでもよい。配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、及び配列番号45、配列番号46、配列番号47からなる群から選択されるペプチド配列を含むか、又はそれからなるABPは、ABP、ABP変異型、C末端切断産物又は任意の同等のβアミロイド結合ペプチドと称されてもよい。本発明は、配列番号31のコンセンサス配列若しくはそのC末端機能的産物、又は配列番号46のコンセンサス配列を有するABP配列をさらに含む;例えば、ABPは、配列番号32~配列番号36の配列、又は配列番号36の任意のC末端切断βアミロイド結合産物(すなわち、配列番号37~配列番号43)、又は配列番号46を含むβアミロイド結合タンパク質を含んでもよい。C末端切断産物は、C末端切断産物がβアミロイドに結合でき、哺乳動物発現系での融合タンパク質の発現及び産生の間にペプチド安定性を有する同等の安定なペプチド配列である、配列番号36の任意のC末端切断であってもよい。例えば、本発明のABP変異型は、先行技術のABPペプチドよりも改善されたペプチド安定性を示してもよい(参考文献、国際公開第2006/133566号)。
【0054】
本発明は、βアミロイドに結合する単離ポリペプチドであって、配列番号31のコンセンサス配列又は配列番号46のコンセンサス配列又はその任意のβアミロイド結合ペプチド配列からなる群から選択される配列を含んでもよい、単離ポリペプチドを提供する。例えば、本発明のβアミロイド結合ペプチドは、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、及び配列番号47又は同等に安定なポリペプチド配列を含む配列からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0055】
本発明は、配列番号31、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、及び配列番号47又は同等のポリペプチド配列を含む配列からなる群から選択されるABPを含むか、又はそれからなる融合タンパク質を提供する。非限定的な例では、ABP変異型は、配列
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35;40aa);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36;40aa)又は配列番号46(29aa)を含むか、若しくはそれからなる任意のペプチドなどの、その任意のβアミロイド結合C末端切断産物を含んでもよい。
【0056】
本発明の融合タンパク質は、血液脳関門(BBB)を越えて移動する抗体、又はその断片を含んでもよい(上述のように、BBBは血液脳関門を移動する抗体担体の略称である)。抗体又はその断片(BBB)は、血液脳関門を越えた移動を可能にする脳内皮細胞上の表面受容体エピトープに結合してもよい。例えば、このような表面受容体エピトープは、TMEM30A又はインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)エピトープ、又はそのアイソフォーム、変異型、部分、又は断片であってもよい。
【0057】
抗体、又はその断片は、
GFKITHYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、GSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;及び
GRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0058】
抗体、又はその断片は、
X1VQLVX2SGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWX3RQAPGKX4X5EX6VSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTX7YLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号13)
式中、X1=D又はE,X2=A又はE,X3=F又はV,X4=E又はG,X5=R又はL,X6=F又はW,X7=L又はV;
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCX5ASEYPSNFYAMSWX6RQAPGKX7X8EX9VX10GVSRDGLTTLYADSVKGRFTX11SRDNX12KNTX13X14LQMNSX15X16AEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTX17VTVSS、(配列番号18)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はA;X6はF又はV;X7はE又はG;X8はR又はL;X9はF又はW;X10はA又はS;X11はM又はI;X12はA又はS;X13はV又はL;X14はD又はY;X15はV又はL;X16はK又はR;及びX17はQ又はL;
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCX5X6SGGTVSPTAMGWX7RQAPGKX8X9EX10VX11HITWSRGTTRX12ASSVKX13RFTISRDX14X15KNTX16YLQMNSLX17X18EDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTX19VTVSS、(配列番号21)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はA又はE;X6はV又はA;X7はV又はF;X8はG又はE;X9はL又はR;X10はF又はW;X11はG又はS;X12はV又はY;X13はD又はG;X14はN又はS;X15はA又はS;X16はL又はV;X17はK又はR;X18はA又はS;及びX19はL又はQ;及び
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWX5RQAPGKX6X7EX8VX9TIDWGDGGX10RYANSVKGRFTISRDNX11KX12TX13YLQMNX14LX15X16EDTAVYX17CAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTX18VTVSS(配列番号24)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はS;X6はD又はG;X7はL又はR;X8はF又はW;X9はA又はS;X10はA又はT;X11はA又はS;X12はG又はN;X13はM又はL;X14はN又はR;X15はE又はR;X16はP又はA;X17はS又はY;及びX18はQ又はL
からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0059】
特定の非限定的な実施形態では、抗体、又はその断片は、
DVQLQASGGGLVQAGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKEREFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTADYYCAAGSTSTATPLRVDYWGKGTQVTVSS(配列番号14);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWVRQAPGKGLEWVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号15)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWVRQAPGKGLEWVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号16);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKGLEFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号17);
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCVASEYPSNFYAMSWFRQAPGKEREFVAGVSRDGLTTLYADSVKGRFTMSRDNAKNTVDLQMNSVKAEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTQVTVSS(配列番号19);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASEYPSNFYAMSWFRQAPGKEREFVSGVSRDGLTTLYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTLVTVSS(配列番号20);
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCEVSGGTVSPTAMGWFRQAPGKEREFVGHITWSRGTTRVASSVKDRFTISRDSAKNTVYLQMNSLKSEDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTQVTVSS(配列番号22);
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAVSGGTVSPTAMGWFRQAPGKGLEFVGHITWSRGTTRYASSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTLVTVSS(配列番号23);
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWSRQAPGKDREFVATIDWGDGGARYANSVKGRFTISRDNAKGTMYLQMNNLEPEDTAVYSCAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTQVTVSS(配列番号25);
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWVRQAPGKGLEWVATIDWGDGGTRYANSVKGRFTISRDNSKNTMYLQMNSLRAEDTAVYYCAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTLVTVSS(配列番号26)
及び上記の配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。
【0060】
BBBは抗体又はその断片であってもよく、一実施形態では、BBBは単一ドメイン抗体(sdAb)であってもよい。sdAbは、ヒト化されていてもよい。
【0061】
一実施形態では、抗体又はその断片(BBB)はFc又はその断片に連結されてもよく、BBB-Fcコンストラクトは二量体を形成してもよい。本発明は、BBB-Fc-L-ABPを含む融合ペプチドをさらに提供し、融合ペプチドのBBB-Fc部分は、短いペプチド性リンカー(例えば、12個未満のアミノ酸を有するリンカー)を介してABPに連結され、Fc又はFc断片は、前記融合ペプチドの二量体化を可能にして二量体を提供し、したがってコンストラクトを分解から保護し、その血清半減期を延長する。Fc断片は、望ましい薬物動態を与えるために選択された任意の適切なFc断片であってもよく、Fc又はFc断片は、融合分子の長い半減期に寄与する。その他のFc又はFc断片の実施形態は、免疫学的エフェクター機能を調節、修飾又は抑制してもよい(Shields et al., 2001)。その他のFc断片の実施形態は、脳からの融合ペプチドのクリアランスを媒介してもよい(Caram-Salas N, 2011)。非限定的な例では、Fc又はFc断片は、エフェクター機能が減弱された、配列番号48、配列番号49、配列番号50のいずれか1つ、及びそれと実質的に同一の配列から選択される、FcマウスFc2a、又はヒトFc1であってもよく、これが前記融合ペプチドに含まれる場合、脳からのアミロイドのクリアランスが促進されてもよい。
【0062】
本発明の化合物において、BBBは、Fc断片、及び/又は任意の追加的な適切なリンカーLを介して、ABPに連結されてもよい。
【0063】
本発明の化合物は融合タンパク質を含み;融合タンパク質は、抗体又はその断片、Fc断片、及びβアミロイドに結合するペプチドを含む。融合タンパク質は、Fc断片のN末端に連結された抗体又はその断片を含んでもよく、βアミロイドに結合するペプチドは、連結ペプチド又は化学リンカーであるLを介して、Fc断片のC末端に連結される。抗体又はその断片は、Fc断片のC末端に連結されてもよく、βアミロイドに結合するペプチドは、Fc断片のN末端に連結されてもよい。
【0064】
したがって、本発明は、配列番号13~配列番号26からなる群から選択される抗体又はその断片;配列番号48~配列番号50からなる群から選択されるFc断片を介して連結される、配列番号27~配列番号47からなる群から選択されるβアミロイドに結合するペプチド;を含む一本鎖ポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。提供されるFcは、エフェクター機能が減弱されたFcを含んでもよい。一本鎖ポリペプチドは、二量体がABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であってよく、前記ホモ二量体が機能的ABPを含み、前記ヘテロ二量体が少なくとも1つの機能的ABPを含む、二量体を形成してもよい。
【0065】
例えば、融合タンパク質は、配列番号51~配列番号70、又はそれと実質的に同一の配列を含んでもよい。融合タンパク質は一本鎖ポリペプチドであってもよく、融合タンパク質の一本鎖ポリペプチドは二量体ポリペプチドのためのものであってもよい。配列番号51~配列番号70に含まれる融合タンパク質に提供される(GGGSGGGGS又はGGGGSGGGGS)リンカーは、任意の適切なリンカー配列であってもよいことに留意されたい。例えば、強調表示されたリンカー配列(例えば、GGGGSGGGGS)は、配列番号71で例示されるように、提供される融合タンパク質の構成要素の連結を可能にする任意の同等のペプチド連結配列であってもよく、リンカーは任意のペプチド又は化学リンカーであってもよい。
【0066】
一実施形態では、BBBはFc断片に連結され、したがって二量体を形成してもよい。Fc断片は、エフェクター機能が減弱された、例えばマウスFc2a又はヒトFc1などの任意の適切なFc断片であってもよい(Shields et al., 2001)。
【0067】
本発明のABPは、配列番号31の配列を含んでもよく、例えば、ABPペプチドは、配列番号32~36のいずれか1つから選択される配列、又は配列番号36のC末端切断機能的産物、具体的には、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、又は配列番号46のペプチドであってもよく、提供されるABPペプチドのいずれか1つは、機能的βアミロイド結合ペプチドである。本明細書で提供されるABPは、先行技術のABPポリペプチドに優る予想外の有意な利点を示す。より具体的には、提供される本発明のABPは、安定性及び生物製造可能性の向上を示す。さらに、本明細書で提供されるリンカー及び/又はFc断片を介してBBBと共役した場合、本明細書で提供されるABPを含む本発明の化合物又は組成物は、血液脳関門の移動において相乗的且つ予想外の効力を示す。このようなABP変異型は、本明細書で提供される選択されたFc断片を介してBBBと共役すると、脳からのAβの予想外の、迅速且つ改善されたクリアランスを提供する。さらに、本明細書で提供されるABP変異型を含む本発明の融合タンパク質は、BBBの移動における相乗的且つ予想外の効力と、脳からのAβの改善されたクリアランスとを示す。本発明の融合タンパク質は、配列番号31~配列番号47のいずれか1つのABPを含んでもよい。本発明の組成物は、配列番号31~配列番号47の任意のABPを有する一本鎖ペプチド又はその二量体を含む任意の融合タンパク質の混合物を含んでもよい。
【0068】
したがって、βアミロイドに結合するペプチド(ABP若しくはABP変異型、又はそのC末端切断産物)に連結した血液脳関門移動抗体又はその断片(BBB)、Fc(Fc)を含む治療用組成物が提供され、前記ペプチドは、提供される治療用組成物の安定性及び有効性の相乗的増加をもたらす。示されるように、意外なことに且つ最も顕著に、BBB-Fc-ABPの単回のボーラス投与は、動物で同様の結果を達成するための遊離ABPによる3ヶ月間の複数回処置(ADのマウスモデル)(
図9A)と比較して、処置の24時間以内に脳Aβ負荷を50%減少させた(
図9B)。したがって、本明細書で提供される化合物は、脳Aβ負荷の低減において遊離ABPよりもはるかにより強力であることが示された。さらに、Fcを含むこの融合タンパク質は、遊離ABP又はBBB-ABPと比較して、実質的により長い血清半減期を提供し(国際公開第2006/133566号)、それによって改善された治療用化合物を提供した(
図10)。
【0069】
本発明のABP変異型、及びABPを含む融合タンパク質(コンストラクト)は、先行技術の欠点を克服する。先行技術では、ABPとBBB担体のみの連結(国際公開第2006/133566号)は、有効な分子の生成を保証しない。血清半減期の延長を目的としたFcを含む融合物は、血液脳関門を越えるABPの効率的な輸送を保証しない。BBB担体とFc断片とABPとを含む融合分子の特定の設計及び製剤は、効率的なBBB透過性治療用化合物を提供する。提供される効率的な血液脳関門透過性治療用化合物は、BBB-Fc-ABPの特別に設計された製剤を含み、製剤は、化合物の安定性と有効性の相乗的改善を示す。
図9に示されるように、前記融合タンパク質コンストラクトを含む組成物では、融合組成物の安定性の予想外の増加、及び血液脳関門の移動の効率と脳からのAβのより速いクリアランス(24時間以内)との相乗的増加が提供される。
【0070】
本明細書で提供されるABPのC末端切断産物(例えば、配列番号37~43及び配列番号46~47)は、有利には、βアミロイドタンパク質に結合できる機能的な融合タンパク質の単離可能な混合物の収率の増大を可能にする機能的タンパク質の特定の新規且つ予想外のサブセットを提供する。提供される一本鎖ポリペプチドの融合タンパク質は、配列番号31~47のいずれか1つを含んでもよいことが非常に有利である。前記一本鎖ポリペプチドの二量体は、ホモ二量体、ヘテロ二量体、一機能性ヘテロ二量体又はその任意の組合せであってもよいことがさらに有利である。これは、医薬組成物における使用のための前記融合タンパク質の産生において特に重要且つ有利であり、前記医薬組成物は、本明細書で提供される任意の融合タンパク質(配列番号53~配列番号71のいずれか1つを含むホモ又はヘテロ二量体;そのABPは、配列番号31~配列番号47からなる群から選択される任意のABPであってもよい)、又はその任意の組合せを含んでもよい。
【0071】
本明細書で提供される化合物は、化合物、融合タンパク質、製剤、組成物又はコンストラクトと称されてもよい。提供されるコンストラクトは、抗体又はその断片(BBBと略記される)、Fc断片(Fcと略記される)、及びβアミロイドに結合するポリペプチド(ABPと略記される)を含んでもよい。提供されるコンストラクト又は組成物(本明細書ではBBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPと略記されることがある)は、血液脳関門移動、有効性及び化合物安定性に関して先行技術で遭遇する欠点を相乗的に克服する構成要素を含む。したがって、本明細書で提供される化合物は、血液脳関門の移動における予想外の優れた効率、治療有効性及び化合物安定性を有する新規製剤を含む。
【0072】
Fc融合物では血清半減期は必ずしも延長しないが、先行技術では、Fc融合物が血清半減期を延長する事例がある。さらに、Fc融合物は、血液脳関門を越えた移動を必ずしも改善しない。
【0073】
本発明は、βアミロイドに結合するペプチドを提供し、このペプチド配列は、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46及び配列番号47又はペプチド安定性において実質的に同一の配列又はそのβアミロイド結合C末端切断機能的産物からなる群から選択されてもよい。
【0074】
本発明は、ペプチド配列がABP若しくはABP変異型と称される、βアミロイドに結合するペプチド、又はそのC末端切断βアミロイド結合機能的産物を提供し、ABPは、配列番号31又は配列番号46を含んでもよく、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号46、配列番号47及びペプチド安定性又はβアミロイド結合活性において実質的に同一の配列、例えば、配列番号31又は配列番号46の任意の配列変異型からなる群から選択されてもよい。配列番号31又は配列番号46のコンセンサス配列を有するABP変異型は、ポリペプチド安定性に関して先行技術の欠点を克服する。さらに、本発明のABPを含む化合物は、改善された化合物安定性及び生物製造可能性を示す。さらに、本明細書で提供されるABP又はABP変異型を含む化合物は、相乗的且つ予想外の治療改善を示す。
【0075】
本発明のABPは、配列番号31~配列番号47のいずれか1つから選択される配列、及びβアミロイド結合活性が維持されるという条件で、同等に安定なポリペプチド配列又はC末端切断産物を含んでもよい。本発明のABP変異型は先行技術のABP配列よりも優れており、本ABP変異型ポリペプチドは改善された安定性を示す(
図2Aと
図16との比較で示されるように)。
【0076】
本発明はまた、本発明のABP又はABP変異型を含む、融合タンパク質(化合物、コンストラクト、又は融合分子とも称される)を提供する。融合タンパク質は、Fc断片を含んでもよい。融合タンパク質は、血液脳関門を移動する抗体又はその断片と、Fc断片と、配列番号31~配列番号36からなる群から選択されてもよいβアミロイド結合ポリペプチド配列、又は配列番号36のC末端切断産物、すなわち、配列番号37~43、又は配列番号46を含む、若しくはそれからなるABP(例えば、配列番号47)とを含んでもよい。提供されるBBB-Fc-ABP製剤は、脳から毒性アミロイドを除去する際に、化合物の安定性と治療有効性との相乗的な改善を示す。
【0077】
本明細書でBBB-Fc-ABPと称されることもある融合タンパク質又はコンストラクトは、その中に含まれる構成要素に関して配向が異なっていてもよい。本発明の化合物において、融合タンパク質は二量体を形成し(
図1に示されるように)、融合ペプチドはFc領域を介して二量体化する。例えば、一実施形態では、提供される化合物は、
図1Ai、1Aii、及び1Aiiiにさらに示されるような、C末端に結合した短いペプチドリンカーを介してFc断片(Fc)のN末端に連結されたBBBと、Fc断片のC末端に連結されたABP又はABP変異型(ABP)とを含む融合タンパク質(
図1A、ここで、化合物は融合タンパク質の二量体として示される)を含んでもよく、
図1Aiに表されるような二量体は、2つの機能的ABPペプチド(例えば、配列番号36などの任意のβアミロイド結合ABPペプチド)を有する二機能性ホモ二量体、又は二量体が2つの異なる機能的βアミロイド結合ABPペプチド(ABP及び/又はC末端切断ABP、例えば、配列番号37~配列番号43)を有する、
図1Aiiに示されるような二機能性ヘテロ二量体、又は一方だけが機能的βアミロイド結合ABPペプチド(ABP又はC末端切断ABP、1Aiii)を有し、他方のアームが非機能的ペプチドを有する一機能性ヘテロ二量体である。構成1Ai~1Aiiiにおいて、ABP又はABP変異型のN末端(融合物)又はC末端(化学的連結)は、Fcに融合/連結されてもよいことに留意する。さらなる実施形態では、提供される化合物は、Fc断片(Fc)のC末端に連結されるBBBを含んでもよく、ABP又はABP変異型(ABP)は、適切なリンカー(L)を介してFc断片のN末端に連結されてもよい(
図1B)。その他の可能な構成では、BBBはABPのN末端に連結され、ABPはFc断片のN末端に連結されてもよい(
図1C)。さらに別の可能な構成では、BBBはABPのC末端に連結されてもよく、ABPはFc断片のC末端に連結される(
図1D)。
【0078】
本明細書で提供される化合物は、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71及びこれらの配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される一本鎖ポリペプチド配列、又はその二量体を含む融合タンパク質を含む。本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質(BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABP、Lは任意の適切なリンカーであってもよい)二量体である(
図1に示され、好ましくは
図1A又は1Bに示される)。非限定的な例では、提供される化合物又は融合タンパク質は、配列番号35(ABP-GG-G)若しくは配列番号36(ABP-6G)の配列を含むポリペプチド又はそのC末端切断機能的産物(配列番号37~43);配列番号17(FC5-H3)の配列を含む抗体又はその断片;及び配列番号49(hFc1X7)の配列を含むFc断片を含むか、又はそれからなってもよい。
【0079】
本発明の特定の非限定的な実施形態では、化合物は、配列番号55[FC5-H3-hFc1X7-L-ABP(GG-G)]又は配列番号56[FC5-H3-hFc1X7-L-ABP(6G)]の配列又は任意のそのC末端切断ABP機能的産物を含んでもよく、式中、Lは任意の適切なリンカーであってもよい。
【0080】
本発明の化合物は、血液脳関門を移動する。
【0081】
本発明は、本明細書に記載されるような本発明の任意の化合物をコードする核酸分子を包含する。本発明の融合タンパク質の核酸分子又は化合物を含むベクターもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0082】
本発明は、本発明の化合物又は融合タンパク質と、薬理的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む組成物を包含する。
【0083】
本発明の医薬組成物を含むキットもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0084】
本発明の組成物は、患者においてアルツハイマー病を治療するために使用されてもよい。
【0085】
本発明の組成物は、脳Aβレベルが増加している対象の脳内又はCSF中の毒性βアミロイド(Aβ)レベルを減少させるために使用されてもよい。
【0086】
本発明は、アルツハイマー病を治療する方法を提供し、本発明の医薬組成物は、それを必要とする対象に投与されてもよい。
【0087】
本発明は、脳Aβのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイド(Aβ)レベルを減少させる方法を提供する。本発明の方法は、本発明の化合物をADを有する患者に投与することを含む。より具体的には、本方法は、十分な量の本発明の医薬組成物を対象に反復非経口投与するステップを含む。
【0088】
本発明の方法では、非経口投与は、皮下又は静脈内投与である。
【0089】
本発明の方法は、本明細書で提供される組成物の反復非経口投与後に、Aβの脳レベルが増加した対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる。より具体的には、毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の反復非経口投与の4週間以内に減少する。
【0090】
本発明の方法は、本発明の組成物の非経口投与後に、対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルを減少させる。より具体的には、対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の単回非経口投与の24時間以内に有意に減少し、有意な減少は24時間以内に50%に至る。
【0091】
本発明は、血液脳関門透過性単一ドメイン抗体(sdAb)を提供し、sdAbは、ラクダ科動物FC5又はそのヒト化バージョンのどちらかである。Fc上に二価形態で提示されたFC5は、VHH形態のFC5と比較して、血液脳関門通過特性が改善されていることが示されている(Farrington et al., 2014)。
【0092】
本発明は、生体外で血液脳関門移動を促進するBBBとFc断片とを含む化合物を提供し、融合分子の血清半減期を延長して、Fc融合体の血清半減期は完全IgGと同様になる。FC5-Fc-ABPの血清半減期の延長は脳全体の曝露を増加させ、これは、アルツハイマー病などの慢性疾患の治療にとって特に重要である。
【0093】
FC5-Fc-ABP融合分子並びにヒト化バージョンFC5(H3)-hFc-ABP、及びIGF1R5-H2-ABP融合分子は、二量体としてCHO細胞で産生される一本鎖ポリペプチドである。配列番号31及び配列番号46に提供されるような、本発明のABP変異型は、融合分子(配列番号54、配列番号55;配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69 配列番号70、配列番号71)の生物製造可能性及び安定性を向上させる特定の点突然変異又は欠失を用いて方法論的に再設計される。提供されるABPは、配列番号36のC末端切断種であってもよく、又は配列番号46の任意の配列を含んでもよい。前記一本鎖ポリペプチドの二量体は、配列番号31の配列、そのC末端切断産物又は配列番号46の配列を含む少なくとも1つの機能的ABPが存在するという条件で、ホモ又はヘテロ二量体であってもよい。ABPを含む本発明の融合分子は、アミロイドβ(Aβ)結合能力を保持し、血液脳関門を移動し、有利には、脳からのAβのクリアランスを可能にし、例えば、投与の24時間以内に脳からのAβの迅速なクリアランスを可能にする。
【0094】
本発明のABP変異型、例えば、ABP(GG-G)(配列番号35)、若しくはABP(6G)(配列番号36)又はその任意のC末端切断βアミロイド結合産物(すなわち、配列番号46の配列を含むか、又はそれからなるABP)を、特異的に設計して、コンストラクトの安定性及び製造可能性を向上させた(
図16に示されるように)。本発明のコンストラクトの向上した安定性及び生物製造可能性は、本技術分野において有意な利点である。したがって、本発明は、提供される融合分子の安定性及び生物製造可能性を高めるが、治療活性もまた維持する、ABP及びABP変異型を包含する(
図15Aに記載されるように)。配列番号46の配列を含む、本明細書で提供されるC末端切断産物は、機能的ABPペプチドの混合物を含む機能的な融合タンパク質の混合物を可能にし、前記混合物は、機能的産物の収率を有利に増大させる。
【0095】
したがって、配列番号32~47などの配列番号31に記載されるような異なるABP変異型を含む融合分子は、生体外で親ABPのAβオリゴマー結合能を維持し(
図2B、2C、12及び15A、B、及びC、23A及びB)、生体外及び生体内の双方で親FC5のBBB浸透性を維持する(
図4、5A、6、7、17A、17B、18、19、22A及びB、24、25)。ABPは、ラット及びイヌのCSF中に存在することで確立されたように、生体外及び生体内で例えばFC5などの担体によってBBBを越えて輸送される(
図5及び6)。ABP融合体はまた、野生型及びAD遺伝子組換えマウスの双方で、海馬や皮質などの脳内の標的領域にも輸送され送達された(
図8、19、及び24)。脳に送達されたABPはまた、CSF(
図9C及び11A及び11B)及びAD遺伝子組換えマウス及びラットの皮質及び海馬領域(
図9B及び11C)において、Aβクリアランスも促進した。さらに、そして最も重要なことには、ラットADモデルにおけるAβクリアランスは、海馬の体積及び神経細胞結合性の強化と相関し(
図12A及び12B)、治療に対する望ましい薬理学的/生理学的応答が示唆された。
【0096】
意外なことに且つ最も顕著に、BBB-Fc-ABPの単回のボーラス投与は、動物で同様の結果を達成するための遊離ABPによる3ヶ月間の複数回処置(
図9A)と比較して、処置の24時間以内に脳Aβ負荷を50%減少させた(
図9B)。したがって、BBB対応のABPは、脳Aβ負荷を軽減させる上で、遊離ABPよりもはるかにより強力であることが示された。さらに、この化合物は、Fcとの融合により、遊離又はFC5-ABPと比較して、実質的により長い血清半減期を有し、それはより良い治療薬に必須の特徴である(
図10)。
【0097】
先行技術では、ABPとBBB担体のみの連結(国際公開第2006/133566号)は、有効な分子の生成を保証しない。血清半減期を延長するためのFcとの融合もまた、血液脳関門を越えるABPの効率的な輸送は保証しない。本発明の融合タンパク質コンストラクトで提供されるような、BBB担体、Fc断片、及びABP融合分子の適切な設計及び配合は、効率的なBBB透過性治療用化合物を提供する。
【0098】
この新しい二機能性融合分子は、現在開発中の従来の治療用抗体に優る明確な利点がある。第一に、BBB融合治療用ABPは、はるかにより高いレベルで、より速い速度で脳に浸透し、治療有効性を実質的に改善する。さらに、ABP及びBBB(例えば、FC5)は、それぞれの受容体に対する親和性が比較的低く、したがって脳からより早く除去される可能性が高いため、ABP結合Aβの迅速なクリアランスが促進される。より緩慢なプロセスである、Aβクリアランスのための反応性小膠細胞/星状細胞を主に用いる治療用抗体(例えば、アデュカヌマブ)とは異なり、本発明の融合分子は、Aβクリアランスのためにより速い血管周囲排液経路を用いる可能性が高い。これは、同様の結果を得るために複数回の反復投与による数ヶ月間の処置が必要である、遊離ABP(
図9B)及び抗体ベースの治療法と比較して、処置の24時間以内にCNSのAβが50%近く減少することによって裏付けられる。
【0099】
さらに、本化合物は、抗体ベースの治療薬と比較して、神経炎症応答を誘発する可能性がより低い。
【0100】
図面の簡単な説明
本発明のこれらの及びその他の特徴を添付の図面を参照して、例としてここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【
図1】血液脳関門を通過するアミロイド結合融合タンパク質二量体の概略図を示す。リンカーペプチドを介して融合された、BBB通過単一ドメイン抗体(BBB又はBBB担体)、Fc断片(Fc)及びアミロイド結合ペプチド(ABP)を含む一本鎖ポリペプチド融合タンパク質の略図を提供し、二量体として示す。
図1は、BBB-Fc-ABPを含む融合タンパク質の対応する二量体を示す。融合タンパク質の二量体は、両方のABPアームが、機能的ABPペプチド(例えば、配列番号36、
図1Ai)及び/又は様々なC末端切断機能的ABP(例えば、配列番号36及び/又は配列番号37~配列番号43、
図1Aii)を含有するという点でABPに関して二機能性ホモ二量体若しくは二機能性ヘテロ二量体であるか、又は一方のABPアームが機能的であり(ABP又はそのC末端切断機能的切断産物)、他方のアームが非機能的ペプチドである一機能性ヘテロ二量体であり得る(
図1Aiii)。一本鎖ポリペプチドの構成要素(すなわち、BBB、Fc、及びABP)は、
図1A、1B、1C、及び1Dに示されるように、様々な構成で描写される。
【
図2】CHO細胞におけるFC5-mFc-ABP及びヒト化FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号32)融合分子の産生を示す。
図2Aに示されるように、SDS-PAGE(NR-非還元及びR-還元条件)によるFC5融合分子の分離後のクマシーブルー染色ゲルは、組換え融合分子の産生の成功を示す。
図2Bと2Cは、ELISA及びウエスタンブロット(WB)オーバーレイアッセイによる、遊離ABP及びBBB-Fc-ABP融合タンパク質のAβオリゴマー結合。遊離又は融合ABPは、ELISAプレート上で固定化され、Aβに曝露された。結合Aβは、Aβ特異的抗体6E10又は4G8を用いて検出された。融合分子もまたSDS-PAGEによって分離され、PVDF紙に転写され、Aβに曝露された。結合Aβは、上記のように特異的抗体で検出された。結果は、ABPがBBB担体との融合後に、Aβオリゴマー結合能力を維持したことを示す。Mo:Aβモノマー;Oli:Aβオリゴマー
【
図3】AD-Tgマウス(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)のアミロイド沈着物へのFC5-Fc-ABPの結合の免疫組織蛍光アッセイを示す。ABPは、免疫組織蛍光アッセイで示されるように、AD-Tgマウス脳内で自然に生成されたAβ凝集体を結合する能力を維持する。野生型及びAD遺伝子組換えマウスの脳切片がIR800標識されたFC5-mFc-ABPと共にインキュベートされ、結合した融合分子が蛍光顕微鏡下で視覚化された。選択的結合(明るい点)は、Aβ沈着物を産生するAD-Tgマウスの脳切片で見られ、アミロイド沈着物を産生しない野生型マウスの脳切片では見られなかった。
【
図4】生体外でABPとの融合後に、FC5のBBB透過性が維持されていることを示す。FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過は、ラット及びヒトの生体外BBBモデルで評価された。BBBを通過する融合分子は、nanoLC-MRM法(
図4A、
図4B、及び
図4C)によって、そしてFc特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析によって検出された(
図4D、3連で実施された)。FC5-mFc-ABPがFC5-mFcと同程度に効果的にBBBを通過したのに対して、BBB担体部分FC5のないFc-ABPは、脳内皮細胞単層を横断しなかった。予測されたように、対照の単一ドメイン抗体EG2及びA20.1、又は対照の完全IgG(抗HEL)は、血液脳関門を通過しなかった。ヒト化FC5-H3-hFc-ABP融合タンパク質でも、同様の結果が得られた(
図4C及び
図4D)。
【
図5】生体内におけるFC5-Fc-ABPの血清及びCSF薬物動態を示す。FC5-mFc-ABPは、示された用量(2.5、6.25、12.5、及び25mg/kg)で尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与された。血清及びCSFが連続的に採取された。FC5-Fc-ABPレベルは、nanoLC-MRM法を用いて定量化された。
図5に示されるように、FC5-mFc-ABPは時間及び用量依存様式でCSF中に出現し、Cmaxは12~24時間であり、生体内におけるFC5による脳及びCSF区画内へのABPの輸送が示唆される。血清PKパラメータ(
図5及び表1)は、FC5-mFc-ABPのα及びβ半減期が、完全IgG(ラットFcを含むベンチマーク抗体)のそれと同様であることを示す。
【
図6】ビーグル犬のFC5-mFc-ABPの血清及びCSFPKプロファイルを示す。FC5-mFc-ABPが10~12歳齢のビーグル犬に静脈内注射によって投与され、血清及びCSFが連続的に採取され、nanoLC-MRM(
図6A)によって、及びFc特異的抗体を使用したウエスタンブロット(
図6B)によって分析された。星印は、血液に汚染されたサンプルを示す(MRM分析には示されない)。見て分かるように、FC5-mFc-ABPはCSF中に時間依存様式で現れ、生体内でイヌの血液脳関門を通過するFC5によるABPの輸送を示唆する。PKパラメータ及びCSF暴露は、WinNonlinソフトウエアによって分析され、以下の表2に示される。
【
図7】生体内(ラットモデル)においてヒトFc(hFc)と融合しABP(FC5-hFc-ABP)に化学的に連結された、FC5のBBB透過性とCSFの出現を示す。FC5-hFcは、製造会社の使用説明書(ThermoFisher Scientific)に従ってヘテロ二機能性架橋剤スルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)を使用して、ABP-シスタミドと連結された。化学的にコンジュゲートされた分子がラットに6.25mg/kgで尾静脈を介して静脈内投与され、血清及びCSFサンプルが4及び24時間目に採取され、nanoLC-MRMで分析された。FC5-hFc-ABPは、BBB担体のないFc-ABPとは対照的に、CSFに時間依存様式で出現する。この化学的に連結されたコンストラクトでは、FcのC末端に融合されているのがABPのN末端であり、ABPのC末端は遊離している融合コンストラクトとは異なり、ABPのC末端がFc断片(ランダム領域)に連結され、N末端は遊離していることに留意すべきである。ABPの配向のこの逆転は、そのAβ結合能力及び血液脳関門を越える輸送に影響を及ぼさなかった。
【
図8】マウスにおける静脈内注射後に、様々な脳領域(皮質及び海馬)で測定されたFC5-mFc-ABPのレベルを示す。15mg/kg用量のFC5-mFc-ABPが野生型(WT)又はAD遺伝子組換えマウス(AD-Tg、B6.Cg-Tg、Jackson Lab)の尾静脈に静脈内注射され、心臓内生理食塩水灌流の4時間後及び24時間後に脳が採取された。海馬及び皮質組織が解剖され、nanoLC-MRM(
図8A)によって、そしてFc特異的抗体を使用したウエスタンブロット(
図8B)によって分析された。融合分子の3つの構成要素全て(BBB、この例ではFC5、Fc、及びABP)に属する特定のペプチドが、皮質と海馬の双方でMRMによって検出され、FC5担体がABPを脳の標的領域に成功裏に送達したことが示唆された。Fc又はFc断片のみに融合した対照単一ドメイン抗体A20.1で典型的に測定される約50ng/g組織と比較して、測定されたレベルは、異なる時点で750~1400ng/g脳組織に及んだ。これはさらに、組織抽出物中のFc及びABPを探索するウエスタンブロット分析によって確認された(
図8B)。生理食塩水のみが投与された動物では、ウエスタンブロットによって融合分子のタンパク質シグナルは検出されなかった。脳の標的領域でウエスタンブロットによって検出されたFC5-mFc-ABPレベルの用量依存的な増加があった。
【
図9】遺伝子組換え(Tg)マウスにおけるAβレベルに対するABPの効果を示す。ABP単独(
図9A)又はBBB担体FC5と融合したABP(
図9B及び
図9C)による処置の比較。2つの異なるAD Tgマウスモデル、三重遺伝子組換え(PS1M146V、APPSwe、及びtauP301L導入遺伝子を保有する、3XTg-AD、sv129/C57BL6マウス、Dr. F.M. LaFerla, University of California)及び二重遺伝子組換え(B6.Cg-Tg、PSEN1dE9及びAPPSwe導入遺伝子を保有する、Jackson Lab)が使用され;マウスには、それぞれ3ヶ月間又は2ヶ月間期間にわたり、隔日で300nmol/kgの遊離ABPが皮下(sc)投与された。処置期間の終了時に、脳のAβレベルがELISAで測定された。ABP単独による処置は、2~3ヶ月の複数回の(隔日)処置後に、脳Aβの25~50%の減少をもたらした(
図9A)。FC5-mFc-ABPコンストラクトが二重遺伝子組換えADマウス(B6.Cg-Tg、15mg/kg、220nmol/kgに相当)に静脈内注射され、ELISAとnanoLC-MRMの双方によって、注射後24時間の脳Aβレベルが測定された。意外なことに、FC5-mFc-ABPによる処置の24時間以内に約50%のアミロイドの減少が観察され(
図9B)、Fcに適切に連結されたFC5によるABPの効率的な脳送達が、Aβレベルの減少におけるABPの有効性を劇的に高めたことが示唆された。CSF分析はまた、FC5-mFc-ABP処置後24時間以内にAβ1~42レベルの有意な減少を示した(
図9C)。MRM又はELISA分析によって検出されたAβのシグネチャペプチド又はエピトープは、ABPによって認識されるAβエピトープから離れている/異なる(したがって、ELISA又はMRMによる定量化に干渉しない)。
【
図10】FC5-ABP(Fc構成要素なし)と比較したFC5-Fc-ABPコンストラクトの血清半減期の延長の一例を示す。FC5-ABP及びFC5-Fc-ABPは尾静脈を介してラットに注射され、様々な時点で連続血清サンプルが採取され、FC5特異的抗体を用いた直接ELISAによって分析された。
図10Aに見られるように、FC5-Fc-ABP(
図10B)と比較して、FC5-ABPコンストラクトは血清中で急速に除去され(1時間未満)、Fc断片を含む分子の血清安定性の実質的な増加が示唆される。
【
図11】Tgラットの脳アミロイド負荷に対する、FC5-mFc-ABPの効果を示す。AD-Tgラットは、生理食塩水又はFC5-mFc-ABPのどちらかを4週間にわたり毎週尾静脈から投与された(30mg/kgの初回負荷量及び引き続く15mg/kgの4回の週用量)。FC5-mFc-ABP及びAβのCSFレベルは、nanoLC MRMによって分析された(
図11A及び
図11B)。4週間の処置の前後に、特定のAβ結合剤[18F]NAV4694を使用して、PETスキャンによって脳Aβレベルが判定された。トレーサー注入後、60分間の動的画像が取得され、透過スキャンが取得され、画像が再構築され、結合能(BPND)パラメトリックマップが作成された。FC5-mFc-ABPは、24時間以内にラットにおけるCSFのAβレベルを減少させた(
図11A及び
図11B)。Tgラットにおけるように、FC5-mFc-ABPのCSFレベルとAβとの逆相関が観察され、FC5によって脳及びCSFに送達されたABPによる、Aβの標的結合と急速なクリアランスが示唆された(
図11B)。これは、FC5-mFc-ABPによる4週間の処置に続くラット脳Aβレベルの有意な減少(30~50%)を明確に示したPETスキャンによって、さらに裏付けられた(
図11C)。
【
図12】生理食塩水又はFC5-mFc-ABPによる処置の前後のTgラットの体積磁気共鳴画像法(MRI、定常歳差運動の高速画像法を使用)及び機能的MRI(fMRI)を示す。
図12Aに示されるように、4週間の処置後、生理食塩水処置Tgラット(Tg-Sal)と比較してABP処置Tgラット(Tg-ABP)における海馬体積の増加が観察された。
図12Bに示されるように、4週間の処置後のグループ比較では、ABP処置Tgラット(Tg-ABP)は、生理食塩水処置Tgラット(Tg-Sal)と比較して、前帯状皮質(ACC)の結合性が高いことが示された。
【
図13】ビーグル犬のCSF中のFC5-mFc-ABPの時間及び用量依存性の出現と、Tgマウス(
図9C)及びTgラット(
図11A及びB)に見られるようなCSFのAβレベルの減少とを示す。FC5-mFc-ABPが10~12歳齢のビーグル犬に15mg/kg及び30mg/kgで静脈注射によって投与され、血清及びCSFが連続的に採取され、FC5-mFc-ABP及びAβレベルがnanoLC-MRMによって分析された。見て分かるように、FC5-mFc-ABPは、CSF中に時間及び用量依存様式で出現した。重要なことには、Tgマウス及びTgラットで見られるように、FC5-mFc2a-ABP注射後24時間以内にCSFのAβレベルの有意な減少があり、大型動物におけるFC5担体の翻訳特性と、CNSのAβ負荷の低減におけるABPの異種間効力が示唆される。
【
図14】異なるBBB担体を使用したABP融合分子の生成を示す。ABP融合分子の汎用性を評価するために、ABPは、別のヒト化BBB担体IGF1R5(H2)と成功裏に融合された。示されるように、分子の二機能性が維持され、ABPがAβオリゴマーに結合する能力(ELISA及びオーバーレイアッセイ)が維持され、IGF1R5が生体外でBBBモデルを越えてABPを送達する能力もまた維持された(データ未掲載)。これは、ABPが、異なるBBB通過単一ドメイン抗体と融合され、脳に送達され得ることを明確に示唆する。
【
図15】異なる単一ドメイン抗体-Fc-ABPコンストラクトによる、Aβオリゴマーの結合を示す(
図15A、15B、及び15C)。これらのコンストラクトのいくつかでは、配列番号に示されるように、ABPは部位特異的変異又は分子のC末端部分の除去によって修飾されている。全てのコンストラクトは、ELISA法によって、Aβオリゴマーの結合における同様の効力を維持した。
【
図16】安定性及び生物製造可能性を改善するための特定の変異を有する、FC5-hFc1X7-ABPの生成を示す。特定の変異を担持するFC5-hFc1X7-ABP(配列番号35又は配列番号36のABPなど)がCHO細胞で産生され、還元(R)及び非還元(NR)条件下においてSDS-PGE上で分離され、
図2に記載されるようにクマシーブルーで染色された。分離されたタンパク質は、ニトロセルロース膜に転写され、FC5特異的、hFc特異的、又はABP特異的いずれかの抗体を用いて免疫ブロット法が実施された。別のセットでは、融合分子中のABPのAβ結合もまたオーバーレイアッセイにより試験された。結合したAβは、Aβ特異的抗体6E10によって検出された。見て分かるように、特定の変異を伴うABPの方法論的修飾は、還元及び非還元条件下における単一タンパク質バンドによって示されるように、生成された分子の安定性を実質的に高めた。
【
図17A-B】生体外における様々なFC5-Fc-ABPコンストラクト及びIGF1R5-Fc-ABPコンストラクトの血液脳関門透過性を示す。
図4に記載されているように、BBB通過は生体外ラットBBBモデルで評価され、血液脳関門を通過する分子がnanoLC-MRM法で検出された。ヒト化FC5及びIGF1R担体に融合した全てのABP変異型は、血液脳関門を効果的に通過した。予測されたように、非BBB透過性sdAbであるA20.1は血液脳関門を通過せず、A20.1に融合したABPもまた同様にBBBを通過しなかった(
図17A)。
図17Bでは、融合分子FC5、Fc、及びABPの3つの構成要素全ての「フィンガープリント」ペプチドがnanoLC-MRMによって検出されることが示され、その結果、無傷のFC5、Fc、及びABPのBBBを越える移動が示唆される。
【
図18】ヒト化FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクト(ABP、配列番号35及び配列番号36)が、FC5によって生体外血液脳関門を越えて無傷で輸送されることを示す。血液脳関門通過は、
図4に記載されるような生体外ラットBBBモデルで評価され、BBBを通過する分子は、ウエスタンブロット及びELISAアッセイによって検出された。
図18(1)A及びBは、それぞれhFc及びABP特異的抗体で探索された免疫ブロットを示す。分子サイズは、生体外血液脳関門モデルに適用された融合分子のサイズと全く同一である。
図18(1)Cは、BBBを通過した後の分子がELISAプレート上のFC5特異的抗体によって捕捉され、ABP特異的抗体を用いて検出された、サンドイッチELISAを示す。このサンドイッチELISAは、生体外でラットの血液脳関門を通過した後に、FC5(H3)-hFc1X7-ABPが無傷のままであったことを確認した。C5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)で同様の結果が得られた;
図18(2)A、B、及びC。
【
図19】ヒト化FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクト(ABP、配列番号35及び配列番号36)が、FC5によって生体内血液脳関門を越えて輸送され、無傷で脳に送達されることを示す。FC5-ABP融合分子は、
図8に記載されるように、野生型及びAD-Tgマウスに尾静脈を介して静脈内投与され、心臓内灌流に続いて脳が採取された。脳皮質は均質化され、RIPA緩衝液で抽出され、抽出物は、
図18に記載されるように、ウエスタンブロット及びサンドイッチELISA分析に供された。
図19Aは、ABP特異的抗体で探索された免疫ブロットを示す。分子サイズは、動物に注射された融合分子のサイズと全く同じである。
図19Bは、サンドイッチELISA、ELISAプレート上のFC5特異的抗体を用いて捕捉され、ABP特異的抗体を用いて検出された、同一抽出物中の分子を示す。これは、FC5(H3)-hFc1X7-ABPが生体内でBBBを越えて輸送され無傷で脳に送達されるという、免疫ブロットの結果を裏付ける。
【
図20】AD-Tgマウス脳(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)内の内因性Aβ沈着物に対する、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)のex-vivo結合(A)及び生体内結合(B)の免疫組織化学的分析を示す。AD遺伝子組換えマウス由来の脳切片は、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)と共にインキュベートされ、結合した融合分子はHRPコンジュゲートFC5特異的抗体を用いて視覚化された。FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクトでは選択的結合(黒点)が見られたが、ABPのないFC5(H3)-hFc1X7(A)では見られず、脳内のAβ沈着のABP依存性結合(標的結合)が示唆された。アミロイド沈着を生じない野生型マウス由来の脳切片には、結合は見られなかった(データ未掲載)。AD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射後(注射の4時間後)、Aβ沈着物の同様の結合が検出された(ABP特異的抗体を使用)(B)。
【
図21】生体内における、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号32)による標的結合を示す。
図21Aは、海馬内注射後の生体内AD遺伝子組換えマウスにおける、Alexa 647標識FC5-hFc-ABPコンストラクトの天然アミロイドβ(Aβ)沈着物への結合を示す。Aβの同定は、Alexa 488で標識されたAβ特異的抗体6E10を用いて脳切片を探索し、2つのシグナルの同時局在化(Merge)を実証することで確認された。
図21Bは、ELISAによる標的結合の実証を示す。野生型及びAD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射に続いて(注射の4時間後)、海馬体が解剖され均質化された。FC5-ABP融合コンストラクトは、捕捉抗体としてFC5抗体、検出抗体としてABP抗体を使用する、サンドイッチELISAによって検出された。ABPの内因性Aβへの生体内結合は、同一のサンドイッチELISAによって検出されたが、検出抗体としてAβ特異的抗体が使用された。
図21A及び21Bから、野生型とAD遺伝子組換えマウスの双方において、FC5-ABPコンストラクトが注射の4時間後に無傷のままであることが明らかである。最も重要なことは、ヒトAβを発現するTgマウスでは、注射されたABPはAβに結合して複合体(FC5(H3)-hFc-ABP*Aβ)として沈降し、生体内におけるABPによるAβ標的結合が示唆される。
【
図22A-B】非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト間のPK、PD比較を示す。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPは、
図5に記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与された。血清及びCSFが連続的に採取された。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
図22Aに示されるように、血清及びCSFのPKプロファイルは、非ヒト化及びヒト化コンストラクトで非常に良く似ていた。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPは、
図9Bに記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてTgマウスに静脈内投与された。CSF中のFC5-Fc-ABP及びAβレベルは、
図9Bに記載されるようにnanoLC-MRMによって測定された。
図22Bに示されるように、CSF中の非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPのレベルは類似しており、最も重要なことには、CSFのAβレベルの変化(減少)も非常に良く似ており、FC5-Fc-ABPコンストラクトのヒト化は、融合コンストラクのPK及びPDプロファイルに影響を及ぼさなかった。
【
図23A-B-C】安定なCHO細胞株で産生されたFC5(H3)-hFc1x7-ABP(配列番号56)の陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィープロファイルを示し、製造中の複数の形態のFC5(H3)-hFc1x7-ABP(ABP変異型)の生成を示唆する。抗hFc抗体を用いた詳細なウエスタンブロット分析(
図23A)及び質量分析(
図23B)は、産生中に異なる位置でのABPペプチドのC末端切断(配列番号36の配列番号37~配列番号43に示される)に起因して、異なる形態の融合タンパク質が生成され、二機能性二量体、すなわち、ABP機能性に関する二機能性ホモ二量体及びヘテロ二量体(両方のABPアームが機能的である)並びに
図1Ai、1Aii及び1Aiiiに描写される融合タンパク質の一機能性ヘテロ二量体(一方の機能的ABPアーム及び他方の非機能的アーム)を生成することを示した。無傷の、及びC末端切断ABPの存在を示す、CHO細胞中で産生されたFC5(H3)-hFc1x7-L-ABP(6G)(配列番号56)二量体のCEX画分の代表的な質量分析データ(
図23B)。ABP 配列番号36を含む配列番号56のホモ二量体(無傷の鎖二量体ピーク)、C末端切断ABP変異型を含むヘテロ二量体[配列番号57(NI、Asn-Ileピーク);配列番号60(RVKNIピーク)]及び非機能的ABP(ASAQ/ASLAピーク)が示される(
図23B)。融合タンパク質の切断産物(配列番号56)の正確な性質は未知であり、詳細な分析が実行されるまで明らかではなかった。総タンパク質の約25%を占める、ホモ二量体(二機能性)とヘテロ二量体(一機能性及び二機能性)との混合物を含有するCEX画分のβアミロイド結合活性(ウエスタンブロットAβオーバーレイ、及びELISAアッセイ、EC50)(ピーク2)(
図23A)は、総タンパク質の約65%を占める、二機能性ホモ及びヘテロ二量体(ピーク3)のものと非常に似ていた。これは、ヘテロ二量体及びホモ二量体画分(CEXの中央及び主ピーク)を、βアミロイド結合活性を有意に失うことなく組み合わせることができることを強く示唆していた。これは、有利には、大規模生物製造の間、特に、融合タンパク質産物の下流のプロセシングの間に、FC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質の収率を実質的に増加させたであろう。これは、改変されたCEX条件が、ホモ二量体と、ヘテロ二量体との両方(一機能性及び二機能性)からなる、高収率の画分(カラムに印加された総タンパク質の85%を超える)を生成することを示す
図23Cにおいて示されている。この組み合わせたプール(画分B3~B6)のβアミロイド結合活性(EC50)は、主にホモ二量体型(C10~D2、E12)又はヘテロ二量体型(C6~C8)のいずれかを含有する他のCEX画分と非常によく似ていた。
【
図24】サンドイッチELISA(24A)及びウエスタンブロット分析(24B)によって評価された、野生型(wt)及びTgマウス(詳細については、
図8及び19の凡例を参照されたい)の静脈内注射(尾静脈)後のFC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質(ホモ二量体とヘテロ二量体との混合物)の生体内での脳への送達を示し、主にホモ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABP(配列番号56、
図19を参照されたい)の脳への送達と非常によく似ており、混合物中のヘテロ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABPが、生体内で血液脳関門を越える融合タンパク質の脳への送達に影響しないことを裏付けている。
【
図25】Tgマウスの静脈内注射後のFC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質(ホモ二量体とヘテロ二量体との混合物)のCSF曝露及びCSFのβアミロイドに対するその効果を示す(
図22及び
図24を参照されたい)。
図25に示されるように、FC5(H3)-hFc1x7-ABPのCSF曝露及びCSFのAβレベルの変化(減少)は、主にホモ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABP(配列番号56、
図22を参照されたい)について見られるものと非常によく似ており、混合物中のFC5(H3)-hFc1x7-ABPが、生体内のFC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質の機能的有効性に影響しないことをさらに裏付けている。
【発明を実施するための形態】
【0102】
発明の詳細な説明
本発明は、血液脳関門を移動する、ポリペプチド、前記ポリペプチドを含む融合タンパク質、及び前記ポリペプチドと抗体又はそれらの断片とを含む融合タンパク質を提供する。
【0103】
本発明は、ベータアミロイド(βアミロイド)に結合するペプチドを提供する。βアミロイドに結合するペプチド(又はタンパク質)は、病理学的に関連したβアミロイド1~42(Aβ1~42)凝集体に選択的に結合してもよく、本明細書でABP又はABP変異型(又は集合的にABP)、又はC末端切断ABP産物と略記され称されることもある。
【0104】
本発明は、血液脳関門を横断する抗体又はその断片に連結された、ABP(ABP変異型及びそのC末端切断産物)を含む融合タンパク質を提供する。一実施形態では、ABPとBBBとを含む融合タンパク質は、Fc又はその断片をさらに含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素を、Fc領域又はその部分を介して連結して、一本鎖ポリペプチド(本明細書ではBBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPと略記される)を形成してもよい。例えば、本発明のコンストラクトは、BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPを含んでもよく、式中、Lは任意の適切なリンカーであってもよい。提供されるBBB-Fc-ABP(BBB-Fc-L-ABPとも略記される)コンストラクトは、一本鎖ポリペプチド又はその二量体ポリペプチドであってもよく、BBB-Fc-ABPを含む一本鎖ポリペプチドは、構成要素Fc領域を介して多量体(好ましくは、二量体)を形成してもよく、多量体は、融合タンパク質中のABPに関してホモ二量体又はヘテロ二量体であってもよく、ヘテロ二量体は、それぞれ、1つの機能的ABPアームを有する、又は2つの異なる機能的ABPアームを有するABPに関して一機能性又は二機能性であってもよい。
【0105】
本発明は、血液脳関門を移動する化合物とその使用とに関する。より具体的には、本発明は、BBB及びABPを含む化合物と、アルツハイマー病(AD)の治療におけるそれらの使用とに関する。
【0106】
血液脳関門を越えてABPを効率的に移動し、ABPの結合を通じてAβの除去を提供し得る治療用製剤が必要である。先行技術では、ADの発症に関係するAβ1~42オリゴマーに選択的に結合する、40アミノ酸のAβ結合ペプチド(ABP)が同定された(国際公開第2006/133566号)。このAβ結合ペプチドは、生体外で細胞タンパク質へのAβ結合を阻害し、Aβ1~42誘導細胞毒性を阻害する(Chakravarthy et al, 2013)。このAβ結合ペプチドは、AD遺伝子組換えマウス脳内の内のアミロイド沈着物に結合し、並びに生体外でAD患者由来の脳内アミロイド沈着物に結合する。より重要なことには、生きたAD遺伝子組換えマウス脳に直接注射された場合(Chakravarthy et al, 2014)、ABPは生体内で天然アミロイド沈着を標的化する。したがって、ABPは潜在的にCNSのAβを標的化し得て、脳からのAβの除去を助け得て、その毒性効果を減少させる。しかし、全身投与されたABPは、BBBを通過して脳実質に単独でアクセスする能力が限定的である。
【0107】
したがって、ABPは直接適用されるとAβ沈着物に結合することが示されているが、Aβに結合して脳から除去するためには、非経口投与されたABPが血液脳関門を透過する必要がある。本発明は、有利には、Fc断片を介してFC5又はIGF1RなどのBBB透過性単一ドメイン抗体に融合されたABPを提供し、二重特異性血液脳関門透過性治療薬を提供する(Farrington et al, 2014)。本発明のBBB-Fc-ABPコンストラクトは二量体化されてもよく、すなわち、BBB-Fc-ABP一本鎖融合タンパク質は、2つの一本鎖融合タンパク質の二量体を形成して二量体化合物を生じてもよく、二量体の各一本鎖は、BBB、Fc断片、及びABPを含んで、BBB-Fc-ABP二量体を提供する。BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPコンストラクト及びそれらの二量体は、血液脳関門を越えるABPの効率的な移動を可能にする。したがって、CSF及び脳実質におけるABPの結合を通じたAβの有利な治療的除去が、本発明のコンストラクト及び方法において提供される。
【0108】
ABPの脳への送達を可能にしてその有効性を改善するために、ABPペプチドが現在、Fc断片のC末端に融合されているのに対して、二重特異性BBB透過性治療薬を創出するために、FC5などのBBB透過性単一ドメイン抗体(国際公開第2002/057445号)が同じFc断片のN末端に融合されている(Farrington et al, 2014)。本発明の非限定的な実施形態では、Fc断片は、マウス(配列番号48)又はヒト(配列番号49;配列番号50)であってもよい。一実施形態では、本発明のFc断片は、エフェクター機能を減少させるように設計された(Shields et al., 2001)。例えば、Fc断片はhFc1x7(配列番号49)であってもよく、BBB-Fc-ABP融合タンパク質中のFc断片は、有利には、融合タンパク質の二量体化を可能にして、血液脳関門を移動できる治療的に有効な融合分子(BBB-Fc-ABP二量体)を生じる。一実施形態では、BBB-Fc-ABP融合タンパク質は、FC5-H3-hFc1x7-ABP(6G)(配列番号56)及びその二量体、又は配列番号56の機能的に同等の融合タンパク質、すなわち、βアミロイドタンパク質に結合できるC末端切断ABP産物を含む配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65であってもよい。融合タンパク質は、配列番号56又は配列番号71中で具現化されるリンカー配列L、又は任意の適切なリンカー配列を含んでもよい。
【0109】
本発明は、ベータアミロイド(βアミロイド)に結合する単離ペプチドを提供する。本発明のペプチドは、配列
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31;40aa)
(式中、X1=K、G又はA、X1=G又はA、X2=K、G又はV、X3=R、G又はA、X4=K、G又はA、X5=R、G又はV、X6=N、G又はV、X7=K、G又はV、X8=R、G又はA、X9=K、G又はA)、又はβアミロイドに結合する、そのC末端切断産物を含んでもよいか、又はそれからなってもよい。
【0110】
本発明は、配列番号36(40aa)のC末端切断産物、すなわち、配列番号37(38aa)~配列番号43(32aa)を提供する。本発明は、特定のC末端欠失及びこれらのC末端欠失を含む混合物を提供する。具体的には、配列番号36を、C末端から1アミノ酸で切断してもよい[アミノ酸イソロイシン(I)の除去によって39アミノ酸の切断産物を得る-1aa];又はそれをC末端から2aaで切断してもよい(NIの-2aaの欠失、すなわち、NI(アスパラギン及びイソロイシン)の除去);又はそれをC末端から3アミノ酸で切断してもよい(-KNI);又はそれをC末端から4aaで切断してもよい(VKNIの除去);又はそれをC末端から5アミノ酸で切断してもよい(-RVKNI);又はそれをC末端から6アミノ酸で切断してもよい(-SRVKNI);又はそれをC末端から7アミノ酸で切断してもよい(-KSRVKNI);又はそれをC末端から8アミノ酸で切断してもよい(-LKSRVKNI)。提供される切断産物は、提供される融合タンパク質に含まれてもよい機能的な(βアミロイド結合)ペプチドをもたらし、提供される融合タンパク質は、ホモ又はヘテロ二量体であってもよく、ホモ及びヘテロ二量体は、少なくとも1つの機能的ABPアーム(ホモ二量体の場合、両方のアームが機能的である)、又はその任意の組合せを含む混合物を含む。本発明の融合タンパク質二量体は、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71若しくはその任意の組合せのいずれか1つの一本鎖ポリペプチド、又は定義された一本鎖ポリペプチドの少なくとも1つを有する二量体を含んでもよい。
【0111】
本発明は、配列番号46(29aa)を含むか、又はそれからなるβアミロイド結合ペプチドを提供する。
【0112】
本発明のABPペプチド(ABP、ABP変異型又はそのC末端切断産物)は、配列番号27~配列番号36若しくはそれと実質的に同一の配列、又は配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、若しくは配列番号43などの、βアミロイドタンパク質に結合できるC末端切断ABPペプチドからなる群から選択されてもよい。一実施形態では、提供されるポリペプチドは、配列番号31と実質的に同等の配列、若しくは生物学的に機能的なそのC末端切断産物を含むABP変異型、又は配列番号46の配列を含む任意のABPである。それと実質的に同等の配列は、融合分子に同等の安定性を付与してもよい。
【0113】
本発明は、血液脳関門(BBB)を越えて移動する抗体又はその断片と、βアミロイドに結合するポリペプチドとを含む化合物、すなわち融合タンパク質を提供する。本発明は、BBB、βアミロイドに結合するポリペプチド、及びFc含む、融合タンパク質を提供する。
【0114】
当該技術分野で「免疫グロブリン」(Ig)とも称される「抗体」という用語は、本明細書の用法では重及び軽ポリペプチド鎖の対から構築されたタンパク質を指し;IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMを含む様々なIgアイソタイプが存在する。抗体が正しく折り畳まれると、それぞれの鎖は、より線形のポリペプチド配列によって連結されたいくつかの別個の球状ドメインに折り畳まれる。例えば、免疫グロブリン軽鎖が可変(VL)及び定常(CL)ドメインに折り畳まれる一方で、重鎖は可変(VH)及び3つの定常(CH、CH2、CH3)ドメインに折り畳まれる。重鎖及び軽鎖可変ドメイン(VH及びVL)の相互作用は、抗原結合領域(Fv)の形成をもたらす。各ドメインは、当業者に良く知られている十分確立された構造を有する。
【0115】
軽鎖及び重鎖の可変領域は標的抗原の結合に関与するため、抗体間で顕著な配列多様性を示し得る。定常領域は配列の多様性がより少なく、いくつかの天然タンパク質の結合に関与して重要な生化学的事象を誘発する。抗体の可変領域は、分子の抗原結合決定基を含み、したがって、その標的抗原に対する抗体の特異性を決定する。配列の可変性の大部分は、可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)毎に3つ、合わせて6つの超可変領域で生じ;超可変領域は組み合わさって抗原結合部位を形成し、抗原決定基の結合と認識に寄与する。抗原に対する抗体の特異性及び親和性は、超可変領域の構造、並びにそれらのサイズ、形状、及びそれらが抗原に提示する表面の化学的性質によって決定される。超可変性の領域を同定するための様々なスキームが存在するが、最も一般的な2つがKabat及びChothia and Leskの領域である。Kabat et al(1991)は、VH及びVLドメインの抗原結合領域での配列の可変性に基づいて、「相補性決定領域」(CDR)を定義する。Chothia and Lesk(1987)は、VH及びVLドメインの構造ループ領域の位置に基づいて、「超可変ループ」(H又はL)を定義する。これらの個々のスキームは、隣接し又は重複するCDR及び超可変ループ領域を定義し、抗体分野の当業者はしばしば用語「CDR」及び「超可変ループ」を同義的に用いて、それらは本明細書でそのように使用されることもある。本明細書では、Kabatスキームに従ってCDR/ループが同定される。
【0116】
本明細書で言及される「抗体断片」は、当該技術分野で公知の任意の適切な抗原結合抗体断片を含んでもよい。抗体断片は、天然に存在する抗体断片であってもよく、又は天然に存在する抗体の操作によって、又は組換え法を使用することによって、得られてもよい。例えば、抗体断片としては、Fv、一本鎖Fv(scFv;ペプチドリンカーで結合されたVLとVHからなる分子)、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(sdAb;単一のVL又はVHから構成される断片)、及びこれらのいずれかの多価提供形態が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここで記載されるような抗体断片は、断片の異なる部分を連結するために、リンカー配列、ジスルフィド結合、又はその他のタイプの共有結合を必要としてもよく;当業者は、異なるタイプの断片の要件、及びそれらの構築のための様々なアプローチ及び様々なアプローチ(and various approaches and various approaches)に精通しているであろう。
【0117】
非限定的な例では、抗体断片は、天然に存在する供給源に由来するsdAbであってもよい。ラクダ科動物由来の重鎖抗体(Hamers-Casterman et al, 1993)は軽鎖を欠いており、したがってその抗原結合部位は、VHHと称される1つのドメインからなる。sdAbはサメでも観察されており、VNARと称される(Nuttall et al, 2003)。その他のsdAbは、ヒトIg重鎖及び軽鎖配列に基づいて設計されてもよい(Jespers et al, 2004; To et al, 2005)。本明細書の用法では、「sdAb」という用語は、ファージディスプレイ又はその他の技術を通じて、任意の起源のVH、VHH、VL、又はVNARリザバーから直接単離されたsdAb;上記sdAbに由来するsdAb;組換え的に産生されたsdAb;並びにヒト化、親和性成熟、安定化、可溶化、ラクダ化、又は抗体工学のその他の方法による、このようなsdAbのさらなる修飾によって生成されたsdAbを含む。sdAbの抗原結合機能及び特異性を維持する同族体、誘導体、又は断片もまた本発明に包含される。
【0118】
SdAbは、高い熱安定性、高い洗剤耐性、プロテアーゼに対する比較的高い耐性(Dumoulin et al, 2002)、及び高い生産収率(Arbabi-Ghahroudi et al, 1997)などの抗体分子にとって望ましい特性を有し;それらはまた、免疫ライブラリーからの単離によって(Li et al, 2009)、又は生体外親和性成熟によって(Davies & Riechmann, 1996)、親和性が非常に高くなるように設計され得る。非標準的なジスルフィド結合の導入などの、安定性を高めるためのさらなる修飾(Hussack et al, 2011a,b; Kim et al, 2012)もまたsdAbに導入されてもよい。
【0119】
当業者は、単一ドメイン抗体の構造に精通しているであろう(例えば、Protein Data Bankの3DWT、2P42を参照されたい)。sdAbは、免疫グロブリンの折り畳みを維持する単一の免疫グロブリンドメインを含み;最も注目すべきは、3つのCDR/超可変ループのみが抗原結合部位を形成することである。しかし、当業者に理解されるように、抗原を結合するために全てのCDRが必要とは限らないこともある。例えば、限定することは望まないが、CDRの1つ、2つ、又は3つが、本発明のsdAbによる抗原の結合及び認識に寄与してもよい。sdAb又は可変ドメインのCDRは、本明細書ではCDR1、CDR2、及びCDR3と称される。
【0120】
本明細書に記載の抗体又はその断片は、血液脳関門を移動してもよい。脳は、血液脳関門(BBB)として知られる特殊な内皮組織によって、身体のその他の部分から分離されている。BBBの内皮細胞は密着接合部によって連結され、多くの治療用化合物が脳に侵入するのを効率的に妨げる。小胞輸送の低率に加えて、BBBに特異的な特徴の1つは、酵素的関門の存在と、BBBの反管腔(脳)側におけるP-糖タンパク質をはじめとするATP依存性輸送体の高レベルの発現であり(Gottesman and Pastani, 1993; Watanabe,1995)、それは様々な分子を脳から血流に能動的に輸送する(Samuels, 1993)。小型(<500ダルトン)で疎水性(Pardridge, 1995)の分子のみが、BBBを容易に通過し得る。したがって、表面受容体に特異的に結合し、脳内皮細胞に内部移行し、リソソーム分解から逃れることによって血液脳関門を通過するトランスサイトーシスを受ける、上述したような抗体又はその断片の能力は、神経学の分野で有用である。血液脳関門を通過する抗体又はその断片は、脳組織への送達のために、治療薬などのその他の分子を輸送するために使用されてもよい。抗体又はその断片は、血液脳関門を移動することが当該技術分野で知られている、任意の適切な抗体又はその断片であってもよい。
【0121】
本発明は、血液脳関門(BBB)を移動する抗体又はその断片を含む、化合物又は融合タンパク質を提供する。本発明の抗体又は断片は、例えば、国際公開第2007/036021号に記載される膜貫通タンパク質30A(TMEM30A)、又はインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)エピトープ、又はそのアイソフォーム、変異型、部分、若しくは断片に、結合してもよい。
【0122】
本発明の化合物中の抗体又はその断片は、HYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、及びGSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列;又は
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列;又は
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列;又はGRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片を含んでもよい。
【0123】
前述したように、抗体又はその断片は、ラクダ科動物起源のsdAbであっても又はラクダ科動物VHHから誘導されてもよく、したがってラクダ科動物フレームワーク領域をベースとしてもよく;代案としては、上述したCDRは、VNAR、VHH、VH又はVLフレームワーク領域上にグラフトされてもよい。さらに別の代案では、上述した超可変ループは、任意の起源(例えば、マウス又はヒト)のその他の各種抗体断片(Fv、scFv、Fab)のフレームワーク領域上に、又はその上にCDRを移植し得る同様のサイズと性質のタンパク質上に、移植されてもよい(例えば、Nicaise et al, 2004を参照されたい)。
【0124】
本発明は、キメラ(又はキメラ化)、ベニア化、又はヒト化された抗体又はその断片をさらに包含する。キメラ抗体又はそれらの断片は、その中で(マウス又はラクダ科動物起源の)天然可変ドメインが、ヒト定常ドメインに連結されているコンストラクトである(Gonzales et al 2005を参照されたい )。抗体のベニアリング又はリサーフェシングは、天然抗体又はその断片のフレームワーク領域の露出残基をヒトの対応物のアミノ酸残基で置き換えることを伴う(Padlan, 1991; Gonzales et al 2005)。抗体又は抗体断片のヒト化は、抗原結合能力又は特異性を失うことなく、配列中のアミノ酸をヒトコンセンサス配列中に見られるそのヒト対応物で置換することを含み;このアプローチは、抗体又はその断片がヒト対象に導入された場合、その免疫原性を減少させる。このプロセスでは、本明細書で定義される1つ又は1つ以上のCDRが、ヒト可変領域(VH、又はVL)に、その他のヒト抗体(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)に、ヒト抗体断片フレームワーク領域(Fv、scFv、Fab)に、又はその上にCDRを移植し得る同様のサイズと性質のヒトタンパク質に融合又は移植されてもよい(Nicaise et al, 2004)。このような場合、前記1つ又は1つ以上の超可変ループの立体構造はおそらく保存され、sdAbのその標的(すなわち、TMEM30Aなどの脳内皮細胞上のエピトープ、又はIGF1Rエピトープ)脳内皮細胞)に対する親和性及び特異性胞は、ほとんど影響を受けない。当業者に知られているように、結合及び特異性を維持するために、特定の天然アミノ酸残基をヒトフレームワークに組み込むことが必要であってもよい。CDR移植によるヒト化は、当該技術分野で知られており(例えば、Tsurushita et al, 2005; Jones et al, 1986; Tempest et al, 1991; Riechmann et al, 1988; Queen et al, 1989; Gonzales et al, 2005におけるレビューを参照されたく、その中で引用される参考文献もまた参照されたい)、そのため、当業者は、このようなヒト化抗体又はその断片を調製する方法に十分精通しているであろう。
【0125】
提供される抗体又はその断片は、FC5抗体のヒト化バージョン(国際公開第2002/057445号に記載される)又はIGF1R抗体であってもよい。FC5(配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17のいずれか1つの配列を含む)、及びIGF1R(配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、又は配列番号26のいずれか1つの配列を含む)は、脳内皮細胞上の受容体エピトープの表面に結合し、引き続いて血液脳関門(BBB)を移動する。FC5はまた、BBBを越える様々なサイズの分子を導く担体として機能することも示されている(例えば、国際公開第2011/127580号を参照されたい)。FC5の移動を媒介する抗原は、膜貫通ドメインタンパク質30A(TMEM30A;国際公開第2007/036021号)として暫定的に同定され、脳内皮細胞の表面に豊富にある。
【0126】
例えば、限定することは望まないが、抗体又はその断片は、以下の配列を含んでもよい。
X1VQLVX2SGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWX3RQAPGKX4X5EX6VSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTX7YLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号13)
式中、X1=D又はE,X2=A又はE,X3=F又はV,X4=E又はG,X5=R又はL,X6=F又はW,X7=L又はV,又はそれと実質的に同一の配列;
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCX5ASEYPSNFYAMSWX6RQAPGKX7X8EX9VX10GVSRDGLTTLYADSVKGRFTX11SRDNX12KNTX13X14LQMNSX15X16AEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTX17VTVSS、(配列番号18)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はA;X6はF又はV;X7はE又はG;X8はR又はL;X9はF又はW;X10はA又はS;X11はM又はI;X12はA又はS;X13はV又はL;X14はD又はY;X15はV又はL;X16はK又はR;及びX17はQ又はL;又はそれと実質的に同一の配列;
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCX5X6SGGTVSPTAMGWX7RQAPGKX8X9EX10VX11HITWSRGTTRX12ASSVKX13RFTISRDX14X15KNTX16YLQMNSLX17X18EDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTX19VTVSS、(配列番号21)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はA又はE;X6はV又はA;X7はV又はF;X8はG又はE;X9はL又はR;X10はF又はW;X11はG又はS;X12はV又はY;X13はD又はG;X14はN又はS;X15はA又はS;X16はL又はV;X17はK又はR;X18はA又はS;及びX19はL又はQ;又はそれと実質的に同一の配列;
X1VX2LX3ESGGGLVQX4GGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWX5RQAPGKX6X7EX8VX9TIDWGDGGX10RYANSVKGRFTISRDNX11KX12TX13YLQMNX14LX15X16EDTAVYX17CAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTX18VTVSS(配列番号24)
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はS;X6はD又はG;X7はL又はR;X8はF又はW;X9はA又はS;X10はA又はT;X11はA又はS;X12はG又はN;X13はM又はL;X14はN又はR;X15はE又はR;X16はP又はA;X17はS又はY;及びX18はQ又はL;又はそれと実質的に同一の配列。
【0127】
より具体的には、どのようにも限定することは望まないが、抗体又はその断片は、
DVQLQASGGGLVQAGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKEREFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTADYYCAAGSTSTATPLRVDYWGKGTQVTVSS(配列番号14);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWVRQAPGKGLEWVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号15);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWVRQAPGKGLEWVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号16);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKGLEFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号17);
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCVASEYPSNFYAMSWFRQAPGKEREFVAGVSRDGLTTLYADSVKGRFTMSRDNAKNTVDLQMNSVKAEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTQVTVSS(配列番号19);
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASEYPSNFYAMSWFRQAPGKEREFVSGVSRDGLTTLYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAIVITGVWNKVDVNSRSYHYWGQGTLVTVSS(配列番号20);
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCEVSGGTVSPTAMGWFRQAPGKEREFVGHITWSRGTTRVASSVKDRFTISRDSAKNTVYLQMNSLKSEDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTQVTVSS(配列番号22);
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAVSGGTVSPTAMGWFRQAPGKGLEFVGHITWSRGTTRYASSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAASTFLRILPEESAYTYWGQGTLVTVSS(配列番号23)
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWSRQAPGKDREFVATIDWGDGGARYANSVKGRFTISRDNAKGTMYLQMNNLEPEDTAVYSCAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTQVTVSS(配列番号25);
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGRTIDNYAMAWVRQAPGKGLEWVATIDWGDGGTRYANSVKGRFTISRDNSKNTMYLQMNSLRAEDTAVYYCAMARQSRVNLDVARYDYWGQGTLVTVSS(配列番号26);
及びそれと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。抗体又はその断片は、単一ドメイン抗体であってもよい。
【0128】
本発明の融合タンパク質中の任意の構成要素ペプチドに関して、「実質的に同一」の配列は、1つ若しくは複数の保存的アミノ酸変異、又は生物学的に機能的な活性を維持することができるアミノ酸欠失(本明細書で提供されるC末端切断ABPペプチドにおけるものなど)を含んでもよい。参照配列に対する1つ又は複数の保存的アミノ酸変異が、参照配列と比較して、生理学的、化学的、物理化学的又は機能的特性に実質的な変化のない変異ペプチドをもたらしてもよいことは、当該技術分野で知られており;このような場合、参照配列と変異体配列は、「実質的に同一」のポリペプチドと見なされる。保存的アミノ酸置換は、本明細書において、同様の化学的性質(例えば、サイズ、電荷、又は極性)を有する別のアミノ酸残基へのアミノ酸残基の置換として定義される。これらの保存的アミノ酸変異は、上に列挙されたCDR配列と、抗体又は断片のCDRの全体的構造とを維持しながら、sdAbのフレームワーク領域に対して作製してもよい;したがって、抗体の特異性と結合が維持される。
【0129】
本発明の融合タンパク質中の任意の構成要素ペプチドに関して、「実質的に同等」の配列は、1つ若しくは複数の保存的アミノ酸変異又は生物学的に機能的な活性を維持することができるアミノ酸欠失(本明細書に提供されるC末端切断ABPペプチドにおけるものなど)を含んでもよく;変異体ペプチドは、ペプチド安定性及び生物製造可能性に関して実質的に同等である。実質的に同等とは、融合分子の安定性に関して同等であることを指してもよい;例えば、SDS PAGE(還元及び非還元条件)で見られるような、分解産物の欠如、又は低分子量バンド。参照配列に対する1つ又は複数の保存的アミノ酸変異が、参照配列と比較して、生理学的、化学的、物理化学的又は機能的特性に実質的な変化のない変異ペプチドをもたらしてもよいことは、当該技術分野で知られており;このような場合、参照配列と変異体配列は、「実質的に同等」のポリペプチドと見なされる。
【0130】
非限定的な例では、保存的変異は、機能性を維持するアミノ酸置換又は欠失であってもよい。このような保存的アミノ酸置換は、塩基性、中性、疎水性、又は酸性アミノ酸を同一グループの別のアミノ酸で置換してもよい。「塩基性アミノ酸」という用語は、生理的pHで典型的に正に荷電する、7より大きい側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を意味する。塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン(His又はH)、アルギニン(Arg又はR)、及びリシン(Lys又はK)が挙げられる。「中性アミノ酸」という用語(「極性アミノ酸」とも)は、生理学的pHで非荷電の側鎖を有する親水性アミノ酸を意味するが、それはその中で、2つの原子が共有する電子の対が、1つの原子によってより密接に保持される、少なくとも1つの結合を有する。極性アミノ酸としては、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、システイン(Cys又はC)、チロシン(Tyr又はY)、アスパラギン(Asn又はN)、及びグルタミン(Gln又はQ)が挙げられる。「疎水性アミノ酸」という用語は、(「非極性アミノ酸」とも)は、Eisenberg(1984)の正規化されたコンセンサス疎水性スケールに従って、0より大きい疎水性示すアミノ酸を含むことを意味する。疎水性アミノ酸としては、プロリン(Pro又はP)、イソロイシン(Ile又はI)、フェニルアラニン(Phe又はF)、バリン(Val又はV)、ロイシン(Leu又はL)、トリプトファン(Trp又はW)、メチオニン(Met又はM)、アラニン(Ala又はA)、及びグリシン(Gly又はG)が挙げられる。「酸性アミノ酸」は、典型的には生理学的pHで負に荷電する、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を指す。酸性アミノ酸としては、グルタミン酸(Glu又はE)、及びアスパラギン酸(Asp又はD)が挙げられる。
【0131】
2つの配列の類似性を評価するために、配列同一性が使用され;これは、2つの配列を残基位置間の最大の対応のために整列させた場合に、同一である残基のパーセントを計算することによって決定される。任意の既知の方法を使用して、配列同一性が計算されてもよく;例えば、コンピューターソフトウエアを使用して、配列同一性を計算できる。限定することは望まないが、配列同一性は、Swiss Institute of Bioinformaticsが管理するNCBI BLAST2サービス(ca.expasy.org/tools/blast/)や、BLAST-P、Blast-N、若しくはFASTA-Nなどのソフトウエア、又は当技術分野で知られているその他の適切なソフトウエアによって計算され得る。
【0132】
本発明の実質的に同一の配列は、少なくとも74%同一であってもよい;別の例では、実質的に同一の配列は、アミノ酸レベルで本明細書に記載の配列と、少なくとも74、75、76、77、78、79、80~90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一、又はそれらの間の任意の百分率であってもよい。重要なことには、実質的に同一の配列は、参照配列の活性及び特異性を保持している。非限定的な実施形態では、配列同一性の違いは、保存的アミノ酸変異に起因してもよい。非限定的な例では、本発明は、本明細書に記載の抗体と、少なくとも95%、98%、又は99%同一である配列を含む、抗体又はその断片を対象としてもよい。別の非限定的な例では、本明細書で提供されるように、本発明のABPペプチドは、配列番号36(40aa)と少なくとも74%同一である配列を含んでもよい;すなわち、本発明は、配列番号36のC末端切断産物であるABPペプチドを含み、それと少なくとも74%、75%、76%、77%、78%~100%同一、又はそれらの間の任意の百分率であってもよい。同一性パーセントは、参照ペプチド配列と比較した(すなわち、ABP構成要素ペプチド配列を比較する)、それぞれの構成要素ペプチドに基づいて算出されることに留意すべきである。本発明のABPは、配列番号46(29aa)の配列、又はその同等のβアミロイド結合タンパク質を含む。
【0133】
本発明の化合物中の抗体又はその断片は、Fcドメイン、例えば、これに限定されるものではないが、ヒトFcドメイン、に連結されてもよい。Fcドメインは、IgG、IgMをはじめとするが、これに限定されるものではない様々なクラスから、又はIgG1、IgG2などをはじめとするが、これに限定されるものではない様々なサブクラスから、選択されてもよい。このアプローチでは、Fc遺伝子がsdAb遺伝子と共にベクターに挿入されて、sdAb-Fc融合タンパク質が生成され(Bell et al, 2010; Iqbal et al, 2010);融合タンパク質が組換え的に発現され、次に精製される。例えば、どのようにも限定することは望まないが、多価提示形態は、Fcドメインに連結されたFC5-H3及びその変異体のキメラ形態を包含してもよい。このような抗体は、設計及び製造が容易であり、sdAbの血清半減期を大幅に延長し得る(Bell et al., 2010)。
【0134】
ここで記載されるような化合物のFcドメインは、当該技術分野で公知の任意の適切なFc断片であってもよい。Fc断片は、任意の適切な起源に由来してもよく;例えば、Fcはマウス又はヒト起源であってもよい。その他のFc又はFc断片の実施形態は、免疫学的エフェクター機能を調節、修飾又は抑制してもよい(Shields 2001)。その他のFc断片の実施形態は、脳からの融合ペプチドのクリアランスを媒介してもよい(Caram-Salas N, 2011)。特定の非限定的な例では、Fcは、マウスFc2a断片又はヒトFc1断片であってもよい(Bell et al, 2010; Iqbal et al, 2010)。特定の非限定的な例では、多量体化コンストラクトは、本明細書に記載の単離又は精製された抗体又は断片と、配列番号48;配列番号49;配列番号50の配列のFcを含んでもよい。したがって、本明細書で提供されるBBB-Fc-ABP融合タンパク質は、Fcを介して二量体を形成し、二価の二機能性BBB-Fc-ABPを提供してもよい。
【0135】
本発明の化合物は、βアミロイドに結合するポリペプチドに連結された抗体又はその断片を含む。リンカーは、適切な長さの中性又は親水性アミノ酸を含む、任意のポリペプチドであってもよい。非限定的な例では、長さは、好ましくは12アミノ酸未満であり、ポリペプチドは、GGGGSGGGGS、若しくはTGGGGSGGGGS、又は任意の適切なリンカー(例えば、(GGGSGGGGS)n若しくは(GGGGSGGG)n若しくは任意の適切な組合せ)である。正しい配向のアミド又はエステル結合などの非ペプチド性形態を使用する、その他の化学リンカーが用いられてもよい。例えば、配列番号71は、任意の適切なリンカーを含む融合タンパク質を提供し、本発明の任意の融合タンパク質、すなわち、配列番号51~70は、配列番号71に例示されるような任意の適切なリンカーを含んでもよい。βアミロイド(Aβ)に結合するポリペプチドは、AD病理に関与するAβ1~42凝集体などの病理学的に関連したβアミロイドに結合してもよく;ポリペプチドは、高親和性(nM範囲)でAβに結合し、生体外で細胞タンパク質へのAβ結合及びAβ1~42誘導細胞毒性を阻害してもよく、生体外でAD遺伝子組換えマウス脳内及びAD患者由来の脳内のアミロイド沈着物に結合する。本発明の化合物中のポリペプチドは、逆方向ペプチドAβ42~1に結合しない。
【0136】
本明細書で提供される化合物において、βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列番号27;配列番号28;配列番号29;配列番号30;配列番号31;配列番号32;配列番号33;配列番号34;配列番号35;配列番号36からなる群から選択される配列、又はβアミロイドに結合するそのC末端切断産物、すなわち、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43;又は配列番号44;配列番号45;配列番号46;配列番号47及びそれと実質的に同一の配列を含んでもよい。「実質的に同一の」配列は、上記のとおりである。
【0137】
したがって、本発明は、βアミロイドに結合するポリペプチド及びその変異型(すなわち、ABP及びABP変異型)を提供する。ABP変異型は、例えば、配列番号31を有する配列を含んでもよく、提供されるABP変異型は、配列番号31~配列番号47又はそれと実質的に同等の配列からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0138】
したがって、ABPの詳細な生物物理学的特徴に基づいた、特定の系統的及び方法論的修飾を含む、ABPポリペプチド配列が提供される。ABPポリペプチドに対する特異的且つ方法論特異的修飾は、配列番号31、又はβアミロイド結合活性を有するC末端切断産物に提供されるような、本発明の新規且つ自明でないABP変異型を含む。
【0139】
本明細書で提供されるペプチドは、配列番号27~配列番号47からなる群から選択されてもよい配列、及びそれと実質的に同等の配列又はβアミロイド結合活性を有するC末端切断産物を含むABPを含んでもよい。
【0140】
本明細書で提供される融合タンパク質は、配列番号31~配列番号47のいずれか1つから選択されてもよい配列を含むABPを含んでもよい。ABPは、配列番号31と任意の同等の配列又は配列番号31若しくは36のC末端切断産物であってもよく、前記C末端産物は、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、又は配列番号43などの、βアミロイド結合活性を有する。ABPは、配列番号46と同等の任意の配列であってもよい。本明細書で提供される、ABP、ABP変異型又はC末端切断産物を含むコンストラクトは、化合物安定性及び生物製造可能性の有利な改善を示す(
図16に見られるように)。
【0141】
より具体的には、本明細書で提供される特定のABP切断種(すなわち、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、又は配列番号43)は予測することができず、配列番号36からC末端が切断されたここで特定される切断部位は知られておらず、予測されていなかった。これらの特定のC末端切断産物は、融合ペプチドの生物製造の間に予測することができなかった。ABPタンパク質及びそのC末端切断産物の安定性及び生物製造可能性は、予測することができなかった。
【0142】
さらに、本明細書で提供される融合タンパク質が、βアミロイド結合機能及び活性に関して同等の融合タンパク質を提供する、二機能性二量体又は一機能性二量体であってもよいことは、非常に有利であり、予想外のことである。提供されるC末端切断産物の有利な安定性、製造可能性及び同等のβアミロイド結合機能は、知られておらず、自明ではなかった。これは、同等のβアミロイド結合活性を有するABPペプチドの混合物の製造、並びに同等のβアミロイド結合活性を有する融合タンパク質及びその二量体の混合物の製造を可能にする。さらに、一機能性及び二機能性二量体の有利な同等の機能は知られておらず、予測することができなかった。本発明が同等の活性の融合タンパク質及び二量体(配列番号46を含む最小のABP配列を含む一機能性及び二機能性二量体)の混合物を提供し、それによって、生物製造における機能的ABPタンパク質の収率の増加並びに機能的融合タンパク質及び機能的融合タンパク質二量体の収率の増加を可能にすることは非常に有利である。
【0143】
本明細書で提供される融合タンパク質及び化合物は、改善された治療有効性を示す。より具体的には、提供される化合物は、例えば、特定の部位-ABP配列(配列番号36)のN末端から1、4、6、7、28及び29位での特定のアミノ酸K(リシン)、R(アルギニン)及びN(アスパラギン)からG(グリシン)への変異を含む、特異的に修飾されたABPを含み、生物製造可能性(ヒト哺乳動物発現系における産生)の向上のための安定なBBB-Fc-ABP融合分子の生成を可能にする。本明細書で提供されるABPへの特定の修飾は、ABPの詳細な生物物理学的特性に基づく系統的及び方法論的な修飾であった。本明細書で提供される修飾ABPは、例えば、配列番号32~配列番号47から選択される配列、及び配列番号31などのそれと実質的に同等の配列、又はそのC末端切断機能的産物を含んでもよい。本明細書で提供される化合物は、有利には、改善された安定性及び生物製造可能性、並びに脳内のAβレベルを減少させる有効性の最も顕著な増加を示し;本発明のコンストラクトによる処置の24時間以内に、50%のアミロイドの減少が観察された。
【0144】
本明細書では「コンジュゲートされた」とも称される「連結された」という用語は、2つの部分が、直接又は間接的に(例えば、リンカーを介して)、共有結合的に又は非共有結合的に(例えば、吸着、イオン性相互作用)連結されることを意味する。共有結合は、化学的架橋反応を通じて、又は細菌、酵母、哺乳類細胞ベースのシステムなどの任意のペプチド発現系と組み合わされた組換えDNA方法論を使用した融合を通じて、達成されてもよい。抗体又はその断片をAβ又はFcに結合するポリペプチドにコンジュゲートさせる場合、適切なリンカーが使用されてもよい。例えば、適切なリンカーは、BBB-Fc-ABPタンパク質融合物の構成要素のコンジュゲーションを可能にする、適切な長さの中性又は親水性アミノ酸を含む、任意のポリペプチドであってもよい。例えば、融合タンパク質の構成要素(例えば、配列番号51~69)をそれに応じて連結させるリンカーは、GGGGSGGGGS又は(GGGS)nリンカーを強調表示したものに限定されず、任意の適切なリンカーであってもよい(すなわち、配列番号71の非限定的な融合タンパク質のように)。非限定的な例では、長さは、好ましくは12アミノ酸未満であり、ポリペプチドは、GGGGSGGGS、若しくはGGGSGGGGS、若しくはTGGGGSGGGS、又は当業界における任意の適切なリンカーであってもよい。正しい配向のアミド又はエステル結合などの非ペプチド性形態を使用する、その他の化学リンカーが用いられてもよい。本技術分野の当業者は、抗体又はその断片をポリペプチドに連結するリンカー又は方法を良く承知しているであろう。抗体又はその断片をポリペプチド又はFcに連結させる方法は、当業者に良く知られている。
【0145】
本明細書で提供される化合物は、抗体又はその断片、βアミロイドに結合するポリペプチド、及びFc断片を含み、連結されてコンストラクトを提供し(本明細書では化合物又は融合分子とも称される)、コンストラクトは融合タンパク質及びその二量体を含む。抗体又はその断片は、Fc断片又は適切なリンカーを介してβアミロイドに結合する、ポリペプチドに連結されてもよい。
【0146】
抗体又はその断片は、配列番号14、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、配列番号26、及びそれと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む。抗体又はその断片は、血液脳関門を移動する。抗体又は断片はsdAbであってもよく;sdAbはヒト化されていてもよい。
【0147】
βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、及びそれと実質的に同一の配列からなる群から選択される配列、並びに配列番号31を含むか、若しくはそれからなる配列又はβアミロイド結合活性を有するC末端切断産物、又は配列番号46を含むか、若しくはそれからなる配列を含む。
【0148】
Fc断片は、配列番号48、配列番号49、配列番号50のいずれか1つ、及びそれと実質的に同一の配列から選択される配列を含む。本発明のFc断片は、エフェクター機能が減弱された任意の適切なFc断片であってもよい。融合タンパク質中で提供されるFc断片は、二量体構造の形成を可能にし;例えば、配列番号51~配列番号71からなる群から選択される配列を含む一本鎖融合タンパク質は、その中のFc断片を介してコンジュゲートされた二量体構造を形成してもよい。
【0149】
したがって、本発明の化合物又はコンストラクトは、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、及びそれと実質的に同一の配列からなる群から選択される配列、又はその二量体構造を含んでもよく、二量体ペプチドは、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69 配列番号70、配列番号71、及びそれと実質的に同一の配列、配列番号47などの欠失変異型又は連続的な、若しくはそうでなければ、配列番号46を含む機能的産物からなる、配列番号31に由来する、任意のC末端切断ABP変異型を含む群から選択される2つの一本鎖ポリペプチドを含む;具体的には、配列番号31の連続する1アミノ酸のC末端欠失又は-1、2、3、4、5、6、7、若しくは8アミノ酸(配列番号37~43に提供されるような)が提供される。二量体の一本鎖ポリペプチドは、二機能性ホモ二量体(
図1Ai)、二機能性ヘテロ二量体(
図1Aii)又は一機能性ヘテロ二量体(
図1Aiii)であってもよい。例えば、それぞれの二量体のABP部分は、同じか、又は異なっていてもよい;二量体中のABP部分が異なる場合、一本鎖ポリペプチド中のABPの少なくとも一方は、生物学的に機能的なペプチドである(すなわち、βアミロイドに結合できる)。
【0150】
2つのBBB-Fc-L-ABP一本鎖ポリペプチドを含む二量体ペプチドは、2つの異なるABP配列(ヘテロ二量体)を含んでもよく、ヘテロ二量体中の前記ABP配列の少なくとも一方は、
図23、24及び25に記載のような、生物学的に機能的なABP分子である(すなわち、
図1Aii又は
図1Aiiiに表されるように、βアミロイドに結合できる)。二量体ペプチドが、単一の非機能的ABPペプチド(すなわち、
図1Aiiiに表されるような一機能性ヘテロ二量体)を収容し、βアミロイド結合に関して同等の機能的な生物活性を維持してもよいことは非常に有利である(
図23B、C)。2つの異なるABP配列を含む二量体(すなわち、ABPに関するヘテロ二量体)において、ヘテロ二量体において提供されるABPペプチドの少なくとも一方は、2つの機能的ABPペプチドが二量体中で提供される場合(二機能性ヘテロ二量体)、生物学的に機能的なABP、すなわち、配列番号27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、若しくは47又はその任意の組合せである。製造可能性、単離可能性及び機能的産物の収率に関して、一機能性(又は二機能性)ヘテロ二量体を有する、生物学的に機能的なβアミロイド結合タンパク質であるヘテロ二量体中のABPが両方とも、生体外でのβアミロイド結合活性(
図23)並びに生体内での脳取込み及び有効性(
図24及び
図25)に関して融合タンパク質の全体の生物活性を維持することは必要ではないことが非常に有利である。一及び二機能性ホモ及びヘテロ二量体の混合物を含有する画分のβアミロイド結合活性(EC50)(ピーク2、
図23A)は、組み合わせようとする二機能性ホモ及びヘテロ二量体のもの(ピーク3、一及び二機能性ヘテロ及びホモ二量体画分(CEXのピーク2及び3)を可能にする
図23A)と非常によく似ていた。ヘテロ二量体は、それが提供される融合タンパク質の製造可能性を補助するため、単一の非機能的ABPペプチド(一機能性)を収容し、生物学的に有効なヘテロ二量体を保持することができることが有利である。特定の例では、FC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質(配列番号56)の下流のプロセシング(精製)中にホモ二量体とヘテロ二量体プールとを合わせた場合、大規模生物製造の間に生成物の収率は約65%から約86%に有意に増加し(
図23を参照されたい)、これは非常に明確な利点である。一機能性ヘテロ二量体の同等の機能の予想外の維持によって提供される利点は、生成物の収率を増加させ、製造可能性を容易にし、完全に活性な医薬組成物の敏速な単離を可能にする(融合タンパク質の収率を増加させ、産生される機能的な融合タンパク質二量体の収率の増加を可能にする)。その対応する二機能性二量体と同等に活性である一機能性ヘテロ二量体を有することは、製造される融合タンパク質の収率の増加を可能にし、それによって、融合タンパク質とその対応する二量体との混合物を含む組成物の製造可能性を容易にし、増加させる。
【0151】
本発明は、BBB通過単一ドメイン抗体(BBB)、Fc断片(Fc)、及びアミロイド結合ペプチド(ABP)を含む融合タンパク質を提供し、各部分は連結されて、
図1に示される融合分子を提供してもよい。例えば、本発明の非限定的な実施形態では、BBBはFcのN末端に連結され、ABPはFc断片のC末端に連結されてもよい(
図1A)。
図1は、BBB-Fc-ABPを含む一本鎖融合タンパク質の対応する二量体を示す。融合タンパク質の二量体は、両方のABPアームが機能的な完全長(例えば、二機能性ホモ二量体、例えば、配列番号36、
図1Ai)及び/若しくは様々なC末端切断ABP(例えば、二機能性ヘテロ二量体、配列番号36及び/若しくは配列番号37~配列番号43、
図1Aii)を含有する点で、ABPに関してホモ二量体であってよいか、又はABPアームの一方が機能的であり(ABP若しくはC末端切断)、他方のアームが非機能的であるヘテロ二量体(すなわち、一機能性ヘテロ二量体)であってもよい。3つの構成要素(すなわち、BBB、Fc、及びABP)は、
図1A、1B、1C、及び1Dに示されるように、様々な構成で描写される。本発明の化合物の特定の非限定的な例では、βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列番号31の配列又はそのC末端切断機能的産物を含んでもよい。
【0152】
一実施形態では、ABP変異型は、
本明細書ではABP(6G)と称される配列:
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36)及びそれと実質的に同等の配列、又は配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、若しくは配列番号43などの、βアミロイド結合活性を有する任意のC末端切断産物を含む。一実施形態では、ABPは、配列番号46の配列を含む。
【0153】
抗体又はその断片は、
本明細書でFC5-H3と称される、
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKGLEFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSS(配列番号17)
の配列を含んでもよい。
【0154】
抗体又はその断片は、
本明細書ではhFc1X7とも称される、
AEPKSSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEGPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号49)などのヒトFcの配列をさらに含んでもよい。
【0155】
どのようにも限定することは望まないが、本発明の化合物は、配列:
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKITHYTMGWFRQAPGKGLEFVSRITWGGDNTFYSNSVKGRFTISRDNSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAGSTSTATPLRVDYWGQGTLVTVSSAEPKSSDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEGPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGTGGGGSGGGGSGTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI[本明細書ではFC5-H3-hFc1X7-ABP(6G)とも称される、配列番号56]を含んでもよい。本発明はまた、融合物のFc及びABP構成要素を連結するリンカーが、(GGGGS)2、(GGGS)2、T(GGGGS)2又は当業界で知られている任意の適切なリンカーであり、配列番号56の融合タンパク質のABPペプチドが、配列番号36、それと実質的に同等の配列、又は配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43又は配列番号47(配列番号57-63、配列番号65)などの、機能的なβアミロイド結合活性を有する任意のC末端切断産物であってもよい、配列番号56の融合タンパク質も提供する。
【0156】
【0157】
上記の表では、BBB-Fc-ABP融合タンパク質コンストラクトはまた、リンカー(L)も含んでもよいことに留意されたく、式中、BBB-Fc-ABPコンストラクトは、本発明のBBB-Fc-L-ABP融合タンパク質であり、式中、Lは、GGGGSGGGGS、GGGSGGGGS、TGGGGSGGGGS又はその任意の複数、又は任意の適切なリンカー、又は配列番号53のコンセンサスリンカー配列に例示されるような任意のリンカーであってもよい。
【0158】
本明細書ではFC5-H3-hFc1X7-L-ABP(6G)とも称される、配列番号56の融合タンパク質中で提供される本発明の化合物は、その中に含まれる各構成要素のバリエーションを含んでもよく、例えば、ABPは、配列番号55に提供されるようなABP(GG-G)又はABP(6G)、配列番号36、又はその任意のC末端切断産物であってもよい。その中で提供されるリンカー配列(例えば、配列番号51~配列番号71中で強調表示される)は、BBB-Fc-ABP融合タンパク質の連結を可能にする任意のリンカーであってもよい。本発明の化合物はまた、組換え抗体又はその断片の発現、検出又は精製を補助する追加の配列も含んでもよい。当業者には知られている任意のこのような配列又はタグが、使用されてもよい。例えば、限定することは望まないが、抗体又はその断片は、標的化又はシグナル配列(例えば、ompAであるが、これに限定されるものではない)、検出/精製タグ(例えば、c-Myc、His5、又はHis6であるが、これに限定されるものではない)、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。別の例では、追加の配列は、Cronan et al(国際公開第95/04069号)又はVoges et al(国際公開第/2004/076670号)によって記載されたものなどのビオチン認識部位であってもよい。これもまた当業者に知られているように、リンカー配列は、追加の配列又はタグと組み合わせて使用されてもよく、又は検出/精製タグとして機能してもよい。
【0159】
本発明はまた、本明細書に記載されるような化合物をコードする核酸配列も包含する。遺伝暗号の縮重を考慮すると、いくつかのヌクレオチド配列は、当業者によって容易に理解されるように、ポリペプチドをコードする効果を有するであろう。核酸配列は、様々な微生物における発現のためにコドン最適化されてもよい。本発明はまた、ここで記載されるような核酸を含むベクターも包含する。さらに、本発明は、記載されるような核酸及び/又はベクターを含む細胞を包含する。
【0160】
本発明は、本明細書に記載されるような1つ又は1つ以上の化合物と、薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、又は担体とを含む組成物をさらに包含する。組成物はまた、薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、又は担体も含んでもよい。希釈剤、賦形剤、又は担体は、当該技術分野で知られている任意の適切な希釈剤、賦形剤、又は担体であってもよく、組成物のその他の構成要素、組成物の送達方法と適合性でなくてはならず、組成物の受容者にとって有害でない。組成物は、任意の適切な形態であってもよく;例えば、組成物は、懸濁形態又は粉末形態で提供されてもよい(例えば、限定されるものではないが、凍結乾燥又は封入される)。例えば、限定することは望まないが、組成物が懸濁形態で提供される場合、担体は、水、生理食塩水、適切な緩衝液、又は添加剤を含んで、溶解性及び/又は安定性が改善されてもよく;懸濁液を作成するための再構成は、抗体又はその断片の生存度を保証するために、適切なpHの緩衝液中で実施される。乾燥粉末はまた、安定性を改善するための添加剤、及び/又は嵩/体積を増加させるための担体も含んでもよく;例えば、限定することは望まないが、乾燥粉末組成物は、ショ糖又はトレハロースを含んでもよい。本化合物を含む適切な組成物を調製することは、当業者の能力の範囲内であろう。
【0161】
本発明の化合物又は組成物がそれを必要とする対象に投与される、アルツハイマー病を治療する方法もまた提供される。静脈内、腹腔内、非経口、頭蓋内、筋肉内、皮下、口腔、又は経鼻をはじめとするが、これに限定されるものではない、任意の適切な投与経路が使用されてもよい。最適な投与量及び投与経路は、一般に実験的に決定される。
【0162】
増加したβアミロイドレベルを有する対照の脳脊髄液(CSF)中及び脳実質内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法が提供される。より具体的には、対照の脳脊髄液(CSF)中及び脳実質内の毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の単回非経口投与の24時間という早い時期に減少する。
【実施例0163】
本発明を以下の実施例でさらに例証する。しかし、これらの実施例は例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲をどのようにも限定するためには使用されないものと理解される。
【0164】
実施例1:BBB-Fc-L-ABP融合分子の構築
a)FC5 sdAb(配列番号14)、マウスFc(配列番号48)、及びABP(配列番号30)、
b)FC5のヒト化バージョン(FC5-H3;配列番号17)、ヒトFc(配列番号49、配列番号50)、及びABP(配列番号30;配列番号31;配列番号32;配列番号33;配列番号34;配列番号35;配列番号36;配列番号37;配列番号38;配列番号39;配列番号40;配列番号41;配列番号42;配列番号43;配列番号44;配列番号45;配列番号46;配列番号47;)、
c)IGF1R-5 sdAbのヒト化バージョン(IGF1R-5-H2;配列番号26)、マウスFc(配列番号48)、及びABP(配列番号30)
を含む融合分子を調製した。融合タンパク質コンストラクトの概略的を
図1に示す。融合タンパク質は、二量体としてBBB通過単一ドメイン抗体、Fc断片、及びアミロイド結合ペプチドを含む。
【0165】
実施例2:BBB-Fc-L-ABP融合分子の産生
実施例1に記載されたコンストラクトFC5-mFc-ABP及びヒト化FC5(H3)-hFc-ABPを二量体としてCHO細胞内で発現させ、発現された化合物をMabSelect Sureアフィニティーカラム上で精製した。
【0166】
実施例1に記載されるようにABP変異型にそれらのC末端で融合された、マウス又はヒトFc抗体断片N末端に融合された、FC5変異型FC5及びFC5-H3VHHを含むコンストラクトを調製し、発現させ、精製した。
【0167】
FC5-Fc-ABP変異型DNA(DNA合成サプライヤー)を、哺乳動物発現ベクターpTT5中にクローニングした(Durocher 2002)。プラスミドベクター(80%)、pTT-AKTdd(15%、タンパク質キナーゼBの活性化変異体)、及びpTTo-GFP(5%、形質移入効率モニターするため)と、PEI MAX溶液(Polysciences、カタログ番号24765)との組合せを混合することによって、細胞1リットルあたり1mgのDNAの最終濃度のためのポリプレックスを事前に形成した。PEI:DNA比は4:1(W:W)であり、どちらも補給F17培地(4mMグルタミン、0.1%Kolliphor)中で調製した。細胞培養物への添加前に、混合物を室温で5分間インキュベートした。DNA/PEIポリプレックス(polyplexe)の体積は、最終培養体積の10%に相当する(すなわち、培養物1L当たり100ml)。形質移入の24時間後に、1%の最終濃度のトリプトンN1(40%w/v溶液、Organotechnie)と、0.5mMバルプロ酸(200mM溶液)とを培養物に供給した。細胞密度及び生存率、並びに生産力価(1L当たりのFcのmg)について、形質移入/産生をモニターし、細胞生存率が最低65%に達したら、遠心分離によって回収した(上清)。5mlのプロテインA MabSelect SuRe樹脂(GE Healthcare)を充填したカラムに印加する前に、清澄化した細胞培養培地を、0.45μmメンブレンを通して濾過した。装入後、カラムを5容量のリン酸緩衝食塩水pH7.1(PBS)で洗浄し、融合タンパク質を100mMクエン酸ナトリウム緩衝液pH3.0で溶出した。溶出された融合タンパク質を含む画分をプールし、PBSで平衡化された脱塩Econo-Pacカラム(BioRad)に装入することによって、緩衝液交換を実施した。脱塩した融合タンパク質を、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)によってさらに精製し、Millex GP(Millipore)フィルターユニット(0.22μm)を通過させることによって滅菌濾過し、アリコートした。CEX画分を、質量分析及びウエスタンブロット分析によって、ホモ及びヘテロ二量体変異型として特徴付けた。
【0168】
SDS-PAGE及びAβオーバーレイ:Laemmliサンプル緩衝液中で調製されたタンパク質サンプル(非還元ゲルでは70℃、還元ゲルでは95°Cで加熱した、βME又はDTT)は、12%Tris-Tricineゲル又はTGX4-15%ゲル(BioRad)上のSDS-PAGEによって分離した。ゲルをクマシーブルーで染色するか、或いはウエスタンブロット/Aβオーバーレイアッセイのためにタンパク質をPVDF又はニトロセルロース膜に転写した。免疫ブロットを脱脂粉乳でブロックし、次に室温で45分間Aβ製剤(50~100nM)に曝露させ、前述のように6E10抗体を使用して結合Aβを検出した(Chakravarthy et al. 2013)。
【0169】
ELISA:Aβ結合アッセイをChakravarthy et al(2013)によって記載されるように実施した。Maxisorp 96ウェルELISAプレート(Nunc)は、PBS中4°Cで一晩、遊離ABP(合成)又は様々なFC5-ABPコンストラクトで被覆した。ウェルをTBS-T中の1%BSAで30分間ブロックし、次にTBS-T中の単量体及び二量体(Mo)又はそれを越えるオリゴマー(Oli)のいずれかで主に構成されるAβ1-42調製物と共に、穏やかに撹拌しながら室温で45分間インキュベートした。3回のTBS-T洗浄に続いて、HRPコンジュゲートAβ特異的抗体(6E10又は4G8)をTBS-T中にてRTで90分間インキュベートすることによって、結合したAβを検出した。結合抗体は、SureBlue(商標)TMB試薬キット(KPL)を用いて、製造会社の使用説明書に従って450nmにおける比色分析によって検出した。
【0170】
組換え融合分子の産生の成功を示唆する、SDS-PAGE(NR-非還元及びR-還元条件)によるFC5融合分子の分離後のクマシーブルー染色ゲルを
図2Aに示す。ELISA及びウエスタンブロット(WB)オーバーレイアッセイによる、遊離ABP及びFC5-Fc-ABP融合タンパク質のAβオリゴマー結合を
図2B及びCに示す。Chakravarthy et al., 2013に記載されるように、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のサンプルを4℃で一晩コーティングし、Aβ製剤に曝露させることによって、ELISAプレート上に遊離又は融合ABPを固定した。結合AβをAβ特異的抗体6E10又は4G8を用いて検出した(Chakravarthy et al, 2013)。融合分子もまたSDS-PAGEによって分離し、PVDF紙に転写してAβオリゴマーに曝露させた。結合Aβを上記のように特異的抗体で検出した。結果は、ABPがBBB担体との融合後に、Aβオリゴマー結合能力を維持したことを示す。Mo:Aβモノマー;Oli:Aβオリゴマー
【0171】
実施例3:生体外でのAD-Tgマウス(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)のAβ沈着物へのBBB-Fc-L-ABP融合分子の結合
実施例2で生成したコンストラクトを免疫組織蛍光アッセイに供し、FC5-Fc-ABP融合分子が、記載されるようなマウス脳の天然に産生されたアミロイド沈着に結合する能力を維持しているかどうかを評価した(Chakravarthy et al., 2014)。野生型(Wt)及びAD遺伝子組換え(AD-Tg)マウス由来の凍結半頭脳をOCTに埋め込み、Jung CM 3000クリオスタットを使用して10μm切片を調製し、-80℃で保存した。組織切片を解凍し、かみそりの刃でOCTを切片から剥離させ、Dakoタンパク質ブロッキング試薬と共に室温で30分間インキュベートした。ブロッキング剤を除去し、切片をTBS中で穏やかに洗浄した。抗体希釈液中のIR800標識FC5-mFc-ABP(5.0μg/μl溶液の1:250希釈)を添加し、室温で1時間インキュベートした。次に、切片をTBSで2回洗浄し、ミリQ水ですすぎ、過剰なすすぎ溶液を除去し、切片にDako Fluorescent Mounting Mediaと共にカバーグラスを載せた。蛍光顕微鏡下で視覚化された切片(
図3)。選択的結合(明るい点)は、Aβ沈着物を産生するAD-Tgマウスの脳切片で見られ、アミロイド沈着物を産生しないWtマウスの脳切片では見られず、FC5-Fc-ABPコンストラクトのABPが、AD-Tgマウス脳内で天然に産生されたAβ凝集体に結合する能力を維持することが示唆された。提供されるBBB-Fc-ABPコンストラクトにおいて、BBBはFC5又は抗IGF1R抗体であってもよい。
【0172】
実施例4:生体外におけるFC5-Fc-L-ABP融合分子のBBB移動
生体外ラット及びヒト由来のBBBモデルで、FC5-Fc-ABP融合分子のBBB通過を評価した(
図4)。Papp測定のための単一時点を使用して、BBBを通過する融合分子を生体外BBB透過性アッセイでスクリーニングした。変異型の定量化をMRM-ILISによって実施した(
図4A、4B、及び4C)。
【0173】
SV40不死化成体ラット脳(SV-ARBEC)及びヒト脳内皮細胞(HBEC)を使用して、記載されるような生体外血液脳関門(BBB)モデルを作製した(Garberg etal., 2005; Haqqani et al., 2013)。Sv-ARBEC(80,000細胞/メンブレン)を1mlの増殖培地中の0.1mg/mLラット尾コラーゲンI型被覆組織培養インサート(孔サイズ1μm;表面積0.9cm2、Falcon)に播種した。インサートアセンブリーのボトムチャンバーは、1:1(v/v)比で不死化新生児ラット星状細胞-馴化培地が添加された、2mlの増殖培地を含んだ。等モル量(5.6μM)の陽性(FC5コンストラクト)又は陰性対照(A20.1、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)毒素A結合V
HH;及びEG2、EGFR結合V
HH)と、実施例1からのFc-ABPとを、ラット又はヒト生体外BBBモデルを通過する能力について試験した。等モル量のsdAbのBBB管腔側への曝露に続いて、反管腔側から15、30、及び60分後にサンプルを採取した。次に、各サンプルのsdAb含有量を質量分析(多重反応モニタリング-アイソタイプ標識内標準;MRM-ILIS)で定量化した(
図4A、4B、4C)。
【0174】
MRM-ILIS:方法は、全てHaqqani et al.(2013)に記載されるとおりである。簡潔に述べると、VHHのSRM(多重反応モニタリング(MRM)アッセイとしても知られる、選択された反応モニタリング)アッセイを開発するために、データ依存収集を使用して全てのイオン化可能(ionizible)ペプチドを識別するnanoLC-MS/
MSによって、各VHHを最初に分析した。各ペプチドについて、3~5個の最も強力な断片イオンを選択した。最初のSRMアッセイを開発し、アトモル量の消化物(約100~300amol)でこれらの断片をモニターした。少量で再現可能な強度比を示した(すなわち、より高い量と比較してピアソンr2≧0.95を有した)断片は安定していると見なされ、最終SRMアッセイのために選択した。アッセイをさらに最適化するために、m/z(質量電荷比)と溶出時間が近いペプチドを選択しないように注意して、各ペプチドの溶出時間も含めた。
【0175】
細胞培地又は体液(血清又は脳脊髄液(CSF))中のVHHの典型的な多重SRM分析は、既知量のILIS(0.1~10nM)のスパイクを伴い、nanoLC-MSシステムへの100~400ngのCSF又は培養培地タンパク質(0.3~1μL)又は約50~100ngの血清タンパク質(1~3ナノリットル)の注入がそれに続いた。規定される標的の溶出時間に、各標的ペプチドイオンの前駆体m/zをイオントラップで選択し(残りの無関係のイオンは廃棄した)、衝突誘起解離(CID)断片化と、検出器によるモニターのためのイオントラップ内の所望の断片イオンのみの選択とがそれに続いた。定量分析のために、LTQ(ThermoFisher)によって生成された生ファイルを標準的な質量分析データ形式mzXMLに変換し、MatchRxソフトウエアの修正バージョンである、Q-MRM(Quantitative-MRM; Haqqani et al. 2013を参照されたい)と称される自社内ソフトウエアを使用して、強度を抽出した。各VHHについて、溶出時間全体にわたって、断片m/zの0.25Da以内の合わせた強度からなる、断片イオン毎の抽出イオンクロマトグラムを作成した。各断片の最終強度値を得るために、予想される保持時間の0.5分以内の全ての強度を合計した。VHHは、そのペプチドの少なくとも1つの断片が予想される強度比を示した場合に、サンプル中で検出可能と定義され、すなわち、最終強度値が、その対応する純粋なVHHの最終強度値と比較して、r≧0.95及びp<0.05の強いピアソン相関を示した。
【0176】
VHH(培地、血清、CSF)の混合物を含むサンプルは、前述のように還元、アルキル化、及びトリプシン消化された(Haqqani et al., 2012; Gergov et al., 2003)。消化物(トリプシンペプチド)を酢酸(最終濃度5%)で酸性化し、LTQ XL ETD又はLTQ Orbitrap ETD質量分析計(ThermoFisher, Waltham, MA)に接続した逆相nanoAcquity UPLC(Waters, Milford, MA)で分析した。サンプルの所望のアリコートを300μm内径×0.5mm 3μm PepMaps C18トラップ(ThermoFisher)に注入し負荷した後、400nL/minの流量で、1分間で0%から20%、16分間で20%から46%、1分間で46%から95%のアセトニトリル(0.1%ギ酸中)への勾配を使用して、100μm内径×10cm 1.7μm BEH130C18 nanoLCカラム(Waters)上に溶出させた。ペプチドイオンの断片化のためのCIDを使用して、MS/MS及びSRM分析のためのエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって、溶出したペプチドを質量分光計内でイオン化させた。CIDは、衝突ガスとしてヘリウムを用いて、35%の正規化された衝突エネルギー及び30msの活性化時間で実行した。線形イオントラップへのイオン注入時間は、6×103の自動ゲイン制御(AGC)目標値及び200msの最大蓄積時間を使用して、機器によって調節した。
【0177】
見かけの透過係数の判定:定量化された値は直接プロットされ得て、又はPapp(見かけの浸透係数)値を所定の式[Qr/dt=時間に対する受け手区画内の累積量;A=細胞単層の面積;C0=投与溶液の初期濃度]を用いて判定され、プロットされ得る。Papp値が一般に使用されて、BBBを通過する分子の能力が判定される。Papp値は、脳内皮単層を越える化合物の特異的な比透過性の尺度である。
【0178】
FC5コンストラクトの検出及び定量に使用される特定のペプチドを以下の表1に示す。
【0179】
【0180】
サンプルはまた、実施例2に記載されるように、Fc特異的抗体を使用してウエスタンブロット分析によっても分析した(
図4D、三連で実施)。FC5-mFc-ABPがFC5-mFcと同程度に効果的に血液脳関門を通過したのに対して、BBB担体部分FC5のないFc-ABPは、脳内皮細胞単層を横断しなかった。予測されたように、対照の単一ドメイン抗体EG2及びA20.1、又は対照の完全IgG(抗HEL)は、血液脳関門を通過しなかった。ヒト化FC5-H3-hFc-ABP融合タンパク質でも、同様の結果が得られた(
図4C及び
図4D)。IGF1R5-mFc-ABPABPでも、同様の結果が得られた(
図17A及びB)。
【0181】
実施例5:生体内におけるFC5-Fc-L-ABP融合分子のBBB移動及び薬物動態学
実施例2のコンストラクトが、血液脳関門から脳、特に脳脊髄液(CSF)に移動する能力を生体内で評価し、並びにCSF及び血清中のコンストラクトの存在を定量化した。FC5-mFc-ABPを示された用量(2.5、6.25、12.5、及び25mg/kg)で尾静脈を通じてラットに静脈内投与した。血清及びCSFを連続的に採取した。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
【0182】
大槽CSFの複数の試料採取に使用される技術は、以前記載された方法の修正によってNRCで開発された(Huang et al.,1995; Kornhuber et al., 1986)。全ての動物は、Charles River Laboratories International, Inc. (Wilmington, MA, USA)から購入した。動物は、温度24°C、相対湿度50±5%で12時間の明暗サイクルで3匹ずつのグループに収容し、食物と水を自由摂取させた。全ての動物の処置は、NRCの動物管理委員会によって承認され、カナダ動物管理協会ガイドラインに準拠した。8~10週齢のオスウィスターラット(体重範囲、230~250g)を全ての研究で使用した。
【0183】
全ての実験で、試験抗体(FC5 Fc融合物)を等モル投与量(7mg/kg)で尾静脈に静脈内投与した。CSFのサンプル採取は、96時間にわたる5回までの穿刺によって大槽から行った。サンプル採取のために、ラットを3%イソフルランで短時間軽く麻酔し、定位固定枠に入れ、頭部を45°の角度で下向きに回転させた。後頭稜から開始して、耳の間に2cmの正中切開を行い、筋肉を分離して大槽を覆う硬膜を露出させた。1mlシリンジに管材料を取り付けた、27Gバタフライニードル(QiuckMedical、カタログ番号SV27EL)を使用して硬膜を穿刺し、約20μlのCSFを吸引した。次に、CSFをサンプルガラスバイアル(Waters、カタログ番号186000384c)に移し、さらなる分析まで-80°Cの冷凍庫に入れた。
【0184】
血液サンプルは、市販のチューブで尾静脈から採取した(BD microtainer、カタログ番号365956)。室温で15~30分間凝固させた後、1100rcf(3422rpm)で10分間遠心分離して凝血塊を除去し;次に、血清を清浄なガラスバイアル(Waters、カタログ番号186000384c)に移し、ドライアイスで凍結させ、さらなる分析まで-80°Cで保存した。採取の終了時に、ラットを心臓穿刺によって殺処分した。血液及びCSF PK分析は、WinLin 6.0プログラムを使用して実施した。
【0185】
血清及びCSFサンプルは、表1に示されるペプチドシグネチャーを使用して、実施例4に記載される質量分析及びnanoLC-SRMベースの定量によって分析した。
【0186】
CSF採取は、CSFが血液で容易に汚染され得る繊細な手順である。VHHの量は、CSF中では血中よりもはるかに少ない(<0.1%)と予想されるために、わずかな血液の混入でも個々のCSFサンプルの価値を著しく損ない得る。したがって、血液で汚染されたCSFサンプルについて厳密な除外基準を開発する必要があった。血液とCSFのアルブミン比を評価するために、血漿及びCSF中のアルブミンレベルを定量化するためのnanoLC-SRM法が開発された。多重アッセイにおいて、その他のペプチドピークとの干渉を最小限に抑えるために、アルブミンペプチドAPQVSTPTLVEAARをその独自の保持時間及びm/z値(Mol Pharm)に基づいて選択した。ペプチドの強度は、上述したようなSRMを使用して、CSF及び血漿サンプルの双方で定量化した。アルブミン比は、各ラットについて次のように計算した:
アルブミン比=分析された血漿のnLあたりの強度/分析されたCSFのnLあたりの強度
1500以下の比率は、血液汚染と見なされた。
【0187】
図5に示されるように、FC5-mFc-ABPは時間及び用量依存様式でCSF中に出現し、Cmaxは12~24時間であり、生体内におけるFC5による脳及びCSF区画内へのABPの輸送が示唆された(A)。血清PKパラメーター(
図5及び以下の表2)は、FC5-mFc-ABPのα及びβ半減期が、完全IgG(ラットFcを含むベンチマーク抗体)の半減期と同様であり、Fcを含まないABP又はFC5又はFC5-ABPよりも実質的に高いことを示す。
【0188】
【0189】
実施例6:非げっ歯類の大型動物の脳へのFC5-ABPコンストラクトの送達
FC5-mFc-ABPの血清及びCSF PKプロファイルをビーグル犬において評価した。FC5-mFc-ABPを10~12歳齢のビーグル犬に静脈内注射によって投与し、血清及びCSFを連続的に採取して、上記の実施例5に記載されるように、nanoLC-MRM(左パネル)によって、及びFc特異的抗体を使用したウエスタンブロットによって分析した(
図6B)。星印は、血液に汚染されたサンプルを示す(MRM分析には示されない)。見て分かるように、FC5-mFc-ABPはCSF中に時間依存様式で出現し、生体内でイヌ血液脳関門を越えるFC5によるABPの輸送を示唆し、BBB担体の翻訳特性を裏付けた。PKパラメータ及びCSF暴露をWinNonlinソフトウエアによって分析し、以下の表3に示す。
【0190】
【0191】
実施例7:BBB透過性
生体内(ラットモデル)においてヒトFc(hFc)と融合しABP(FC5-hFc-ABP)に化学的に連結されたFC5のBBB透過性とCSFの出現。FC5-hFcは、製造会社の使用説明書(ThermoFisher Scientific)に従ってヘテロ二機能性架橋剤スルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)を使用して、ABP-シスタミドと連結させた。化学的にコンジュゲートされた分子をラットに6.25mg/kgで尾静脈を介して静脈内投与し、血清及びCSFサンプルを4及び24時間目に採取して、
図5に記載されるように分析した。
図7に示されるように、FC5-hFc-ABPはCSF中に時間依存様式で出現するが、BBB担体のないFc-ABPは出現せず、血液脳関門を越えるABPのFC5媒介輸送を裏付けた。
【0192】
実施例8:BBB-Fc-L-ABPコンストラクトの脳への送達
実施例2のFC5-Fc-ABPコンストラクトが、生体内で血液脳関門を移動し脳実質に浸透する能力をマウスで評価した。
【0193】
FC5-mFc-L-ABPは、野生型(WT)及びAD遺伝子組換え(AD-Tg、B6.Cg-Tg、Jackson Lab)マウスに15mg/kgで尾静脈を介して静脈内注射によって投与し(
図8A及び8B)、又はAD-Tgマウスに7.5、15、及び30mg/kgで投与し、4及び24時間循環させた。次に、マウスの左総頸動脈を介して、1ml/分の速度で10mlのヘパリン化(100U/ml)生理食塩水で脳を完全に灌流し、脳の特定の灌流を促進した。次に、脳を摘出して海馬及び皮質の組織を解剖し、即座に凍結して、使用するまで-80℃で保存した。50mM Tris-HCl pH8、150mM NaCl及び、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich, Oakville, ON)を含む氷冷均質化緩衝液中で、ダウンスホモジナイザー(4℃で10~12回のストローク)を使用して、凍結組織を均質化した。次に、サンプルを4℃でそれぞれ10秒間3回超音波分解し、不溶性物質を除去した(10,000×g、4℃で10分間)。上清をタンパク質含量について分析し、実施例4に記載の方法及び表1に示すペプチドシグネチャーを使用して、約0.5μgのタンパク質をSRM分析に使用した(
図8A)。サンプルはまた、mFc特異的抗体を使用してウエスタンブロットによって分析した(
図8B及び8C)。融合分子の3つの構成要素全て(FC5、Fc、及びABP)に属する特定の「シグネチャ」ペプチドが、皮質及び海馬の双方でMRMによって検出され、FC5担体がABPを脳の標的領域に成功裏に送達したことが示唆された(FC5ペプチドのデータのみが
図8Aに示される)。Fc又はFc断片のみに融合した対照単一ドメイン抗体A20.1で典型的に測定される約50ng/g組織と比較して、測定されたレベルは、異なる時点で750~1400ng/g脳組織に及んだ。これは、組織抽出物中のFc及びABPを探索するウエスタンブロット分析によって、さらに確認された(8B及び8C)。生理食塩水のみが投与された動物では、ウエスタンブロットによって融合分子のタンパク質シグナルは検出されなかった。脳の標的領域でウエスタンブロットによって検出されたFC5-mFc-ABPレベルの用量依存的な増加があった(
図8C)。これらの結果は、野生型(WT)及びAD-Tgマウスにおいて、FC5がABPを脳の標的領域(すなわち、海馬及び皮質)に成功裏に送達することを明確に示す。
【0194】
実施例9:マウス脳からのAβクリアランス
Tgマウスのアミロイド負荷に対するABPの有効性を評価するために、ABP単独又はFC5-ABPコンストラクトによる処置の結果を比較した。
【0195】
ABP単独(
図9A)又はBBB担体FC5と融合したABP(
図9B及び9C)による処置の比較。2つの異なるAD Tgマウスモデル、三重遺伝子組換え(PS1M146V、APPSwe、及びtauP301L導入遺伝子を保有する、3XTg-AD、sv129/C57BL6マウス、Dr. F.M. LaFerla, University of California)及び二重遺伝子組換え(B6.Cg-Tg、PSEN1dE9及びAPPSwe導入遺伝子を保有する、Jackson Lab)を使用し;マウスに、それぞれ3ヶ月間又は2ヶ月間期間にわたり、隔日で300nmol/kgの遊離ABPを皮下(sc)投与した。処置期間の終了時に、市販のアッセイキット(InVitrogen、KHB3544)を使用して、製造業者のアッセイ手順に従って脳内AβレベルをELISAで測定した。ABP単独による処置は、2~3ヶ月の複数回の(隔日)処置後に、脳Aβの25~50%の減少をもたらした(9A)。FC5-mFc-ABPコンストラクトを二重遺伝子組換えADマウス(B6.Cg-Tg、15mg/kg、220nmol/kgに相当)に静脈内注射し、上記の実施例8に記載されるように、ELISAとnanoLC-MRMの双方で注射後24時間の脳Aβレベルを測定した。意外なことに、FC5-mFc-ABPによる処置の24時間以内に約50%のアミロイドの減少が観察され(
図9B)、FC5によるABPの効率的な脳送達が、脳Aβレベルの減少におけるABPの有効性を劇的に高めたことが示唆された。CSF分析はまた、FC5-mFc-ABP処置後24時間以内にAβ1~42レベルの有意な減少を示した(
図9C)。MRMによって検出されたAβペプチド配列(配列:LVFFAEDVGSNK、表1/ELISA分析は、ABPによって認識されるAβエピトープと離れている/異なる(したがって、ELISA又はMRMによる定量化に干渉しない)。
【0196】
実施例10:FC5-ABPコンストラクトへのFc構成要素の導入はその血清半減期を延長する
FC5-ABP(FC5配列番号17;及びABP配列番号36)及びFC5-hFc-ABP(FC5配列番号17;hFc1x7配列番号49及びABP配列番号36]コンストラクトを実施例2に記載されるようにCHO細胞で生成した。血清PKは、実施例5に記載されるように判定した。FC5-ABP及びFC5-Fc-ABPコンストラクトを15mg/kgでラットの尾静脈に静脈内投与した。血清を連続的に採取し、FC5-ABP及びFC5-Fc-ABPレベルをFC5-及びABP-特異的抗体を使用した直接ELISAによって定量化した。血清サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈(1:5,000)し、Maxisorbプレートに適用して、4℃で一晩インキュベートした。ELISAプレートを3X×100μlのPBSで洗浄し、室温で(RT)30分間、TBST中の1%BSAでブロックした。ブロッキング溶液を除去し、プレートをHRPコンジュゲートFC5モノクローナル抗体と共にインキュベートした(90分間)。インキュベーションと洗浄に続いて、100μlのSureBlue試薬を添加し、室温で10~15分間暗所でインキュベートした。反応の終了時に、100μlの1M HClを添加し、プレートリーダーで450nmにおける発色を読み取った。
図10に示されるように、Fcを含まないFC5-ABPは、Fc構成要素を含むFC5-ABPコンストラクト(FC5-Fc-ABP)と比較して、血清中で非常に急速に(1時間以内)除去された。このアッセイはまた、ABP特異的抗体でも同様の結果で繰り返された。サンプル適用後、ELISAプレートを最初にABPウサギポリクローナル抗体と共にインキュベートし(90分間)、HRPコンジュゲートウサギ二次抗体がそれに続き(30分間)、結合抗体を上記のように検出した(データ未掲載)。
【0197】
実施例11:ラット脳からのAβクリアランス
AD-Tgラットに、生理食塩水又はFC5-mFc-ABPのどちらかを4週間にわたり毎週尾静脈から投与した(30mg/kgの初回負荷量及び引き続く15mg/kgの4回の週用量)。FC5-mFc-ABP及びAβのCSFレベルをnanoLC MRMによって分析した。4週間の処置の前後に、特定のAβ結合剤[18F]NAV4694を使用して、PETスキャンによって脳Aβレベルを判定した。FC5-mFc-ABPは、24時間以内にラットにおけるCSFのAβレベルを減少させた。Tgマウスにおけるように、FC5-mFc-ABPのCSFレベルとAβとの逆相関が観察され、FC5によって脳及びCSFに送達されたABPによる、Aβの標的結合と急速なクリアランスが示唆された(
図11A及び
図11B)。これは、FC5-mFc-ABPによる4週間の処置に続くラット脳Aβレベルの有意な減少(30~50%)を明確に示したPETスキャンによって、さらに裏付けられた(
図11C)。
【0198】
実施例12:海馬の体積の増加及び神経細胞結合性の改善
実施例11に記載される実験では、生理食塩水処置及びFC5-mFc-ABP処置Tgマウスを、処置前に体積測定及び機能的磁気共鳴画像化(MRI)に供した。体積測定MRI(
図12A)は、生理食塩水処置対照と比較して、ABP処置Tgマウスにおける海馬の体積の増加を示し、ABPで処置すると海馬の萎縮が停止したことが示唆された。機能的MRI(
図12B)は、生理食塩水処置対照と比較して、ABP処置Tgマウスの前帯状回(cingulated)皮質における改善された結合性を示し、神経細胞の結合性の回復が示唆された。このデータは、現在提供されている意義、有効性、及び優れた治療上の利点を裏付ける。
【0199】
実施例13:FC5-mFc2a-ABP処置はイヌのCSFAβレベルの低下を示す
実施例6に記載されるように、FC5-mFc-ABPの血清及びCSFのPKプロファイルを2つの用量(15mg/kg及び30mg/kgで、ビーグル犬において評価した。nanoLC-MRMによるFC5-mFc2a-ABPの血清及びCSFレベルの測定に加えて、AβのCSFレベルもまた、実施例9に記載されるようにnanoLC-MRMによって測定した。見て分かるように、FC5-mFc-ABPは、用量及び時間依存様式でCSF中に出現した(
図13B)。最も重要なことは、Tgマウス及びTgラットで見られるように、CSF FC5-mFc2a-ABPレベルに反比例する、CSF Aβレベルの有意な減少があった。
【0200】
実施例14:異なるBBB担体を用いたABP融合分子の生成
ABP融合分子の汎用性を評価するために、ABPを別のヒト化BBB担体IGF1R5(H2)と成功裏に融合させた。
図12に示されるように、分子の二機能性が維持され、ABPがAβオリゴマーに結合する能力(ELISA及びオーバーレイアッセイ)、及びIGF1R5が生体外でBBBモデルを越えてABPを送達する能力(データ未掲載)もまた維持された。これは、ABPが、異なるBBB通過単一ドメイン抗体と融合され、脳に送達され得ることを明確に示唆する。
【0201】
実施例15:異なるBBB通過単一ドメイン抗体-Fc-ABPコンストラクトによるAβオリゴマーの結合
修飾されたABP(表1及び
図15に示される配列番号によって示されるような分子の部位特異的変異又はC末端部分の除去)を有する、様々なFC5-Fc-ABPコンストラクトが提供される。
図15に示されるように、全てのコンストラクトは、ELISA法によって、Aβオリゴマーの結合における同様の効力を維持した。
【0202】
実施例16:安定性及び生物製造可能性を改善するための特定の変異を含むFC5-hFc1X7-L-ABPの生成。
特定の変異を有するFC5-hFc1X7-L-ABP(配列番号35のABP;配列番号36のABP)をCHO細胞で生成し、還元(R)及び非還元(NR)条件下においてSDS-PGE上で分離して、
図2に記載されるようにクマシーブルーで染色した。分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、FC5特異的、hFc特異的、及びABP特異的の抗体を用いて免疫ブロット法を実施した。別のセットでは、融合分子中のABPのAβ結合もまたオーバーレイアッセイにより試験した。結合したAβをAβ特異的抗体6E10によって検出した。見て分かるように、特定の変異(例えば、ここに示されているように、ABP配列番号35及びABP配列番号36)によるABPの系統的修飾は、例えば、還元及び非還元条件下での単一タンパク質バンドによって本明細書で明確に示されているように、生成される分子の安定性を実質的に高めた(二重タンパク質バンドが見られる、
図2Aのその他のABPコンストラクトと比較して)。融合分子の安定性におけるこの実質的な強化は、有利には、均質分子の生物製造可能性を促進する。
【0203】
実施例17:生体外における様々なFC5-Fc-L-ABPコンストラクト及びIGF1R5-Fc-ABPコンストラクトのBBB透過性。
図4に記載されているように、BBB通過を生体外ラットBBBモデルで評価し、血液脳関門を通過する分子をnanoLC-MRM法で検出した。ヒト化FC5及びIGF1R担体に融合された全てのABP変異型は、BBBを効果的に通過した。予測されたように、非BBB透過性sdAbであるA20.1はBBBを通過せず、同様に、A20.1に融合されたABPはBBBを透過しなかった(
図17A)。
図17Bでは、融合分子の3つの構成要素、FC5、Fc、及びABP全ての「フィンガープリント」ペプチドが、nanoLC-MRMによって検出されたことが示される。
【0204】
本明細書に記載される実施形態及び実施例は例示的であり、特許請求される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。代替物、修正、及び均等物をはじめとする前述の実施形態のバリエーションは、発明者らによって特許請求の範囲に含まれることが意図される。さらに、論じられる特徴の組み合わせは、本発明の解決策には必要ではないかもしれない。
【0205】
実施例18:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号35及びABP配列番号36)]は生体外ラット血液脳関門を無傷で通過する。
ヒト化FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過を実施例4に記載されるように評価した。血液脳関門を通過する融合分子をウエスタンブロット法及びELISA法によって分析した。免疫ブロットは、hFc特異的及びABP特異的抗体で探索した。どちらの抗体もBBB(ボトムチャンバー)を通過する分子を認識し、分子サイズは生体外BBB(上部チャンバー)に適用されたFC5-ABP融合コンストラクトの分子サイズと同一であり、BBBを通過した分子が無傷のままであることを示した。これは、サンドイッチELISAアッセイによって立証され、BBB通過分子がFC5特異的抗体で捕捉され、捕捉された分子がABP抗体を用いて検出された。
【0206】
実施例19:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-L-ABP(ABP配列番号35及びABP配列番号36)]はFC5によって生体内でBBBを越えて輸送され脳に無傷で送達される。
マウスにおけるヒト化FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過及び脳送達を、実施例8に記載されるように評価した。分子の静脈内投与及び心臓内灌流に続いて4時間後、脳を摘出し、皮質をRIPA緩衝液で抽出し、注入されたFC5-ABP融合分子の存在を、ABP特異的抗体でプローブするウエスタンブロットによって、及び分子をFC5特異的抗体で捕捉してABP特異的抗体で検出するサンドイッチELISAによって、検出した。ウエスタンブロットは、皮質に完全長のFC5-ABPコンストラクトが存在することを明らかにした。これはサンドイッチELISAによって立証され、FC5特異的抗体によって分子が捕捉され、ABP特異的抗体によって捕捉された分子が検出される能力によって示唆されるように、それは分子の無傷の特性を明らかにした。
【0207】
実施例20:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号36]のex-vivo(A)及び生体内(B)結合(標的結合)
免疫組織化学検査を実施例3に記載されるように実施した。AD遺伝子組換えマウス由来の脳切片をFC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)と共にインキュベートし、結合した融合分子はHRPコンジュゲートFC5特異的抗体を用いて視覚化した。陰性対照として、切片をコンストラクトなしで、又は融合ABPなしのFC5-hFcコンストラクトと共に、インキュベートした。簡潔に述べると、APP/PS1遺伝子組換えマウスの皮質及び海馬を含むホルマリン固定40μmのフリー浮遊切片を、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH9)中で80°Cで30分間抗原賦活化に供し、次に室温まで冷却した。切片をPBSですすぎ、PBS中の3%H2O2で30分間処理して内因性ペルオキシダーゼをブロックし、再度すすいだ。0.3%トリトンX-100を含むDako無血清タンパク質ブロック中での1時間のインキュベートに続いて、切片を0.3%トリトンX-100を含むDako希釈液中のFC5(H3)-hFc1x7-ABPと、又はFC5-hFc1x7のモル当量と共に、室温で90分間インキュベートした。PBSで完全にすすいだ後、切片をDako希釈液中の抗FC5-HRPと共に室温で60分間インキュベートし、再度すすぎ、次にキットの指示に従ってVector Immpact DABを使用して展開した。切片をSuperfrostプラススライドに載せて一晩風乾させ、次に再水和させてメチルグリーンで対比染色し、アセトン/0.05%酢酸(v/v)に浸して脱水し、透明化してPermountで覆った。FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクトでは選択的結合(黒点)が見られたが、ABPのないFC5(H3)-hFc1X7では見られず、脳内のAβ沈着のABP依存性結合(標的結合)が示唆された。アミロイド沈着を生じない野生型マウス由来の脳切片には、結合は見られなかった(データ未掲載)。
【0208】
Aβ沈着物の同様の結合が、AD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射後に検出された(B)。海馬内注射の4時間後、Tgマウスを灌流して脳を摘出し、切片化した。FC5(H3)-hFc-ABPのAβ沈着物(光沢のある白い点)への結合を、ABP特異的ポリクローナル抗体で視覚化した。脳切片を最初にABP特異的モノクローナル抗体と共にインキュベートし、Alexa-647コンジュゲート抗ウサギFc二次抗体がそれに続いた。
【0209】
実施例21:生体内におけるヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト(FC5(H3)-hFc-ABP(配列番号54)による標的結合
フルオロフォア標識(
図18A)又は未感作FC5-ABP(
図18B)融合分子を、野生型(Wt)及びAD-Tg(Tg)マウスの海馬領域に微量注入した。フルオロフォア標識FC5-ABP融合分子のマイクロインジェクションの30分後、脳を摘出し、切片化して蛍光顕微鏡下で観察した。21Aに示されるように、注入された分子は、Aβ特異的抗体との共局在によって確認されるように、Aβ沈着物に結合した。並行研究では、未感作FC5-ABP融合分子の海馬内注射の4時間後に、注入領域(ips)及び非注入領域(con)からの海馬体を採取して、トリス緩衝化生理食塩水で均質化した。捕捉抗体としてFC5抗体を用い、検出抗体としてABP又はAβ特異的抗体のどちらかを用いる、サンドイッチELISAに海馬抽出物を供した。21Bに示されるように、微量注入されたFC5-ABP分子は無傷のままであり、Aβ特異的抗体によって検出されたプルダウン複合体中のAβの存在によって示されるように、ABPは生体内で標的Aβと会合し結合できた。
【0210】
実施例22:非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-L-ABPコンストラクト間のPK/PD比較
FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPを、
図5に記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与した。血清及びCSFを連続的に採取した。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
図22Aに示されるように、血清及びCSFのPKプロファイルは、非ヒト化及びヒト化コンストラクトで非常に良く似ていた。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPを
図9Bに記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてTgマウスに静脈内投与した。CSF中のFC5-Fc-ABP及びAβレベルを
図9Bに記載されるようにnanoLC-MRMによって測定した。
図22Bに示されるように、CSF中の非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPのレベルは類似しており、最も重要なことには、CSFのAβレベルの変化(減少)も非常に良く似ており、FC5-Fc-ABPコンストラクトのヒト化は、融合コンストラクのPK及びPDプロファイルに影響を及ぼさなかった。
【0211】
実施例23:CHO細胞中でのFC5-(H3)-hFc1x7-ABP(6G)融合タンパク質(配列番号56)の産生中のC末端切断産物の生成
融合タンパク質を、実施例2及び16に記載のように安定なCHO細胞株中で産生させた。プロテインAアフィニティーカラムを使用した精製の後(実施例2)、融合タンパク質を、陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィーを使用してさらに精製した。CEXクロマトグラフィープロファイルは、FC5-(H3)-hFc1x7-ABP(6G)の変異型の存在を示した。それぞれのCEX画分の、抗hFc抗体を用いたウエスタンブロット分析(23A)及び質量分析(23B)の際に、融合タンパク質の変異型の生成が、産生中のABPペプチドのC末端切断に起因することが決定された。C末端切断は、配列番号36のABP配列のC末端切断ペプチドである配列番号37~配列番号43に示されるように、FC5-(H3)-hFc1x7-ABP(6G)タンパク質中のABP配列の特定の部位で起こる。配列番号36のC末端切断産物又は配列番号47を有するABPは、二量体形式で融合タンパク質中に含有された場合、予想外の安定性及びβアミロイド結合活性を示した。さらに、このようなC末端切断産物は、有利には、ELISA及びウエスタンブロットAβオーバーレイアッセイ(実施例2に記載されるように)によって評価された場合、機能的なホモ二量体形態と比較して、βアミロイド結合活性の同等の生物学的機能(EC50、
図23A)を維持した。これらのC末端切断産物は、有利には、機能的且つ安定なβアミロイド結合産物の製造可能性及び単離可能な収率を増加させる。これらの安定な切断産物は、自明ではなく、βアミロイド結合性機能的ペプチド並びに対応する融合ペプチド及び二量体収率に関して有利である。したがって、CHO細胞中での産生中のABPのC末端切断は、
図1Ai、1Aii及び1Aiiiに描写されるように、融合タンパク質の二機能性ホモ二量体、二機能性ヘテロ二量体(ABPアームが両方とも機能的であり、任意のABP及び/又はC末端が切断されているが、機能的である任意のABPを含有してもよい)及び一機能性ヘテロ二量体(二量体中の1つの機能的ABP)の生成をもたらした。融合タンパク質(配列番号56)の切断産物の正確な性質は、詳細な分析が行われるまで自明ではなく、生物製造及びタンパク質産生において予測することができなかった。ここで定義されるC末端切断産物が、βアミロイドに有利に結合し、安定なペプチドであることは、知られておらず自明でもなかった。二機能性ホモ二量体、並びに一機能性及び二機能性ヘテロ二量体の混合物を含有するCEX画分のβアミロイド結合活性(ピーク2、
図23A、EC50 19nM)は、二機能性ホモ二量体のそれ(ピーク3、
図23A、EC50 13nM)と非常によく似ていたが、これは、ヘテロ二量体及びホモ二量体画分(CEXのピーク2及び3)を、βアミロイド結合活性を有意に損なうことなく組み合わせることができることを示している。これは、大規模生物製造中に、完全に機能的な、安定な融合タンパク質としてのFC5(H3)-hFc1x7-ABPの収率及び単離可能性を実質的且つ有利に増加させる。これは、修飾CEX条件が高収率の画分を生成し(ピーク2、
図23C)、カラムに印加された総タンパク質の86.4%を占めることを示す、
図23Cにおいて示された。ピーク2の典型的な質量分析は、
図23Bに示されるように、配列番号56のホモ二量体(MW87,695)と、配列番号56及び配列番号57(MW=87,470);配列番号56及び配列番号60(MW=87,085)並びに配列番号56及び完全に切断された非機能的ABP(MW=84,040)を含むヘテロ二量体との混合物からなる。この組み合わせたプール(画分B3~B6)のβアミロイド結合活性(EC50)は、
図23C、B及びCに示されるように、主にホモ二量体型(C10~D2、E12)又はヘテロ二量体型(C6~C8)のいずれかを含有する他のCEX画分と非常によく似ていた。
【0212】
実施例24:ホモ及びヘテロ二量体の混合物を含有するFC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質の脳への送達
血液脳関門を通過するFC5(H3)-hFc1x7-ABPの輸送及び脳の標的領域への送達を、実施例8及び19に記載のように評価した。FC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質(実施例23に由来するホモ及びヘテロ二量体の混合物として)を、15mg/kgで、野生型(wt)及びTgマウスの尾静脈を介して投与した。注入の4時間(データ未掲載)又は24時間後、脳の皮質及び海馬領域を切開し、実施例8及び19に記載のように評価した。
図24に示されるように、FC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質は、サンドイッチELISA(24A)及びウエスタンブロット分析(24B)によって評価されるように、標的領域中で検出された。これらの結果は、主にホモ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABP(配列番号56、
図19を参照されたい)の脳への送達と非常によく似ており、混合物中のヘテロ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABPが、血液脳関門の通過及び融合タンパク質の脳への送達に影響しないことをさらに裏付けている。
【0213】
実施例25:ホモ及びヘテロ二量体の混合物を含有するFC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質のCSF曝露並びにCSF βアミロイドに対するその効果
TgマウスへのFC5(H3)-hFc1x7-ABPの注射の静脈内投与の24時間後、CSFを回収し、FC5(H3)-hFc1x7-ABP及びβアミロイドのレベルを、実施例5及び22に記載されたMRMによって測定した。
図25に示されるように、FC5(H3)-hFc1x7-ABPのCSF曝露及びCSFのAβレベルの変化(減少)は、主にホモ二量体型のFC5(H3)-hFc1x7-ABP(配列番号56、
図22を参照されたい)について見られるものと非常によく似ており、混合物中のFC5(H3)-hFc1x7-ABPが、FC5(H3)-hFc1x7-ABP融合タンパク質の機能的有効性に影響しないことをさらに裏付けている。
【0214】
配列
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
参考文献
本明細書及び本出願全体を通して参照される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照により本明細書に援用される。
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