(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123537
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
D03D 15/267 20210101AFI20230829BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230829BHJP
C03C 25/1095 20180101ALI20230829BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20230829BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230829BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20230829BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230829BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20230829BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
D03D15/267
D03D1/00 A
C03C25/1095
B29B11/16
H05K1/03 610T
D06M13/513
C08J5/04
B29K105:10
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094332
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2022563227の分割
【原出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2021166225
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
(72)【発明者】
【氏名】深谷 結花
(57)【要約】
【課題】誘電特性の向上を図ることができるガラスクロスを提供すること。
【解決手段】本開示は、ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である、ガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である、ガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が160以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が80 %以上である、請求項2又は3に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0008以下である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記ガラス糸における、ケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%~100質量%である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項8】
前記ガラス糸における、ケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で99.0質量%~100質量%である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項9】
表面処理されている、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項10】
前記表面処理が下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、
Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機官能基であり、
Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、
nは、1~3の整数であり、
Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基である)
で示される構造を有するシランカップリング剤で処理されている、請求項9に記載のガラスクロス。
【請求項11】
前記一般式(1)中のXが、アミノ基を含まず、かつ(メタ)アクリロキシ基を有する、請求項10に記載のガラスクロス。
【請求項12】
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.10質量%以下である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項13】
質量あたりの窒素含有量が0.004質量%未満である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項14】
共振法で測定した、10GHzにおけるガラスクロスの誘電正接が0超え0.0008.以下である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項15】
共振法で測定した、10GHzにおける誘電正接が0超え0.0005以下である、請求項1又は3に記載のガラスクロス。
【請求項16】
請求項1又は3に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸させたマトリックス樹脂と、を含有する、プリプレグ。
【請求項17】
無機充填剤を更に含有する、請求項16に記載のプリプレグ。
【請求項18】
請求項16に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
【請求項19】
請求項18に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
【請求項20】
請求項18に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。かかる背景に伴い、特に高速通信用のプリント配線板に対して、従来から求められている耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、低誘電正接化)が望まれている。同様に、プリント配線板の絶縁材料に用いられるプリプレグ、及び該プリプレグに含まれるガラス糸並びにガラスクロスに対しても、誘電特性の向上が望まれている背景がある。
【0003】
絶縁材料の低誘電化を図るため、低誘電樹脂(以下、「マトリックス樹脂」と称する。)をガラスクロスに含浸させたプリプレグを用いて絶縁材料を構成する手法が知られている(特許文献1及び2)。特許文献1及び2には、ビニル基又はメタクリロキシ基で末端変性させたポリフェニレンエーテルは低誘電特性及び耐熱性に有利である旨、及びこの変性ポリフェニレンエーテルをマトリックス樹脂として用いる旨が記載されている。
【0004】
また、プリプレグの誘電特性の向上を図るため、低誘電ガラスを用いてプリプレグを構成する手法も知られている(特許文献3)。特許文献3では、SiO2組成量が98質量%~100質量%であるガラス糸が用いられている。そして、特許文献3には、不飽和二重結合基を有するシランカップリング剤で表面処理され、かつ、その強熱減量値が0.12質量%~0.40質量%である等の各種要件を具備する低誘電ガラスクロスを用いてプリプレグを構成する手法が記載されている。また、カップリング剤としては、例えば、アミノシラン又はアミノシラン塩酸塩が知られている(特許文献4)。
【0005】
また、特許文献5及び6には、ウォータージェット等の水流圧力によるガラスクロスの開繊技術、及び超音波等によるガラスクロスの開繊技術が報告されている。ガラスクロスに開繊処理を行うことで、プリプレグ及びプリント配線板中に存在するボイドと呼ばれる気泡を発生させにくくすることが可能となる。ボイドを低減することによって、プリント配線板の耐熱性及び絶縁性を向上させることができることから、開繊処理工程はガラスクロスの製造工程において重要であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/065940号
【特許文献2】国際公開第2019/065941号
【特許文献3】特開2018-127747号公報
【特許文献4】特開2016-98135号公報
【特許文献5】特開2009-263824号公報
【特許文献6】特開2020-158945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2は、更なる誘電特性の向上を図る観点で検討の余地があった。例えば、特許文献1及び2においては、特許文献3に記載されるような低誘電ガラスの使用について考慮されていなかった。また、特許文献3には、SiO2組成量が98質量%~100質量%であるガラスが実用上の観点から問題があると記載されており、そのため、この種のガラス糸を用いて好適にガラスクロスひいてはプリプレグを提供する、他の手法の提供が待たれていた。
【0008】
また、シランカップリング剤として、特許文献6に記載のアミノシラン又はアミノシラン塩酸塩を用いると、ガラスクロス及びマトリックス樹脂の界面で剥離が生じ易くなり、その結果、各種特性を確保するのが困難になり易いという問題があった。更に、特許文献4に記載のガラスクロスに対しても、更なる誘電特性の向上を図る観点で検討の余地があった。言い換えれば、特許文献4が指摘するような、ガラスクロスの表面に存在するシラノール基を低減させる手法とは別の、ガラスクロスの低誘電正接化のための新たな手法の提供が待たれていた。
更に、石英ガラスは、石英ガラス以外のガラスと比較して、その硬度が高いことから、石英ガラスヤーンから構成されるガラスクロスは特許文献5及び6に記載されている従来の開繊処理では、十分に開繊されないことが発明者らによって明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、石英ガラスクロスを代表とした低誘電ガラスと、特定のシランカップリング剤によるガラス糸の表面処理と、の利点を好適に得ることができ、そして誘電特性の向上(例えば、誘電正接の低減)を図ることができるガラスクロス及びプリプレグを提供することを目的とする。また、本発明は、従来よりも高開繊となるような加工を施したガラスクロス用いることで、絶縁信頼性及び耐熱性の向上をも図ることができる、プリント配線板、集積回路及び電子機器を提供することも目的とする。更に、本発明は、上記ガラスクロスを好適に得るためのガラスの処理方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ガラス糸として低誘電ガラスを用いた場合における、該ガラスの表面と化学的に結合したシランカップリング剤の種類及び量に着目するに至った。そして、ガラスの表面と化学的に結合したシランカップリング剤の種類及び量を制御することで、得られるプリント配線板の耐熱性を確保しつつ、ガラスクロスの誘電正接を好適に低下させることが可能であることを見出した。また、ガラスクロスを例えばドライアイスブラストで開繊処理することで、シランカップリング剤の付着量を少なくしながらもプリント配線板の絶縁信頼性及び耐熱性を向上させることが可能であることを見出し、本発明に至った。本発明の態様の一部を以下に例示する。
[1]
ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である、ガラスクロス。
[2]
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である、ガラスクロス。
[4]
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が160以下である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[5]
前記ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が80 %以上である、項目2又は3に記載のガラスクロス。
[6]
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0008以下である、項目1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[7]
前記ガラス糸における、ケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%~100質量%である、項目1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[8]
前記ガラス糸における、ケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で99.0質量%~100質量%である、項目1~7のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[9]
表面処理されている、項目1~8のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[10]
前記表面処理が下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、
Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機官能基であり、
Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、
nは、1~3の整数であり、
Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基である)
で示される構造を有するシランカップリング剤で処理されている、項目9に記載のガラスクロス。
[11]
前記一般式(1)中のXが、アミノ基を含まず、かつ(メタ)アクリロキシ基を有する、項目10に記載のガラスクロス。
[12]
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.10質量%以下である、項目1~11のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[13]
質量あたりの窒素含有量が0.004質量%未満である、項目1~12のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[14]
共振法で測定した、10GHzにおけるガラスクロスの誘電正接が0超え0.0008以下である、項目1~13のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[15]
共振法で測定した、10GHzにおける誘電正接が0超え0.0005以下である、項目1~14のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[16]
項目1~15のいずれか1項に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸させたマトリックス樹脂と、を含有する、プリプレグ。
[17]
無機充填剤を更に含有する、項目16に記載のプリプレグ。
[18]
項目16又は17に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
[19]
項目18に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
[20]
項目18に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低誘電ガラスと、特定のシランカップリング剤によるガラス糸の表面処理と、の利点を好適に得ることができ、誘電特性の向上(例えば、誘電正接の低減)を図ることができるガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。また、本発明によれば、該プリプレグを用い、耐熱性の向上をも図ることができる、プリント配線板、集積回路及び電子機器を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
本実施形態において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。また、本実施形態では、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。更に、本実施形態では、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。そして、本実施形態において、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、工程の機能が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
[ガラスクロス]
〔全体構成〕
本実施形態に係るガラスクロスは、ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である。更に、好ましくはひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である。
また本実施形態に係る第二のガラスクロスは、ガラス糸を製織して成るガラスクロスであって、ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が0.0010以下であり、ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満であり、ひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である。
なお、ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数は、160以下であることが好ましく、また、ガラスクロスのひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率は、80%以上が好ましい。
【0015】
これによれば、誘電特性の向上(例えば、誘電正接の低減)、並びにプリント配線板の耐熱性及び絶縁信頼性の向上を図ることができるガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。そして、本実施形態によれば、ガラスのバルク誘電正接に近い誘電正接を有する上記ガラスクロスを得ることができる。
【0016】
本実施形態に係るガラスクロスは、ガラス糸(例えば、複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸)を経糸及び緯糸として製織して成ることができる。ガラスクロスの織り構造は、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織り構造が挙げられる。なかでも、平織り構造が好ましい。
【0017】
本実施形態に係るガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは10本/inch~120本/inch(=10~120本/25.4mm)であり、より好ましくは40本/inch~100本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。
【0018】
本実施形態に係るガラスクロスの目付量(ガラスクロスの質量)は、好ましくは8g/m2~250g/m2であり、より好ましくは8g/m2~100g/m2であり、更に好ましくは8g/m2~80g/m2であり、特に好ましくは8g/m2~50g/m2である。ガラスクロスの目付量が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。
【0019】
〔ガラス糸〕
本実施形態に係るガラスクロスを構成するガラス糸は、低誘電ガラスを原料にして得られる。具体的に、該ガラス糸は、そのガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接は0.0010以下である。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性の向上を図ることができる。得られるガラスクロスの誘電特性の向上の観点から、ガラスのバルク誘電正接は0.0008以下が好ましく、0.0006以下がより好ましく、0.0005以下が更に好ましく、0.0003以下が特に好ましい。
【0020】
バルク誘電正接が0.0010以下の範囲となるガラス糸は、Si含有量が、SiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であることが好ましく、99.0~100質量%がより好ましく、99.5~100質量%が更に好ましく、99.9~100質量%が特に好ましい。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性の向上を図ることができる。
【0021】
本実施形態のガラスクロスを構成するガラスのバルク誘電正接は0.0010以下の範囲であり、0.0008以下の範囲がより好ましく、0.0005以下の範囲が更に好ましく、0.0004以下の範囲が特に好ましい。ガラスクロスを構成するガラスのバルク誘電正接は実施例記載の方法で測定することができる。
【0022】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント径は、好ましくは2.5μm~9.0μmであり、より好ましくは2.5μm~7.5μmであり、更に好ましくは3.5μm~7.0μmであり、より更に好ましくは3.5μm~6.0μmであり、特に好ましくは3.5μm~5.0μmである。フィラメント径が上記の値未満であると、フィラメントの破断強度が低くなるため、得られるガラスクロスに毛羽が発生し易い。また、フィラメント径が上記の値を超えると、ガラスクロスの質量が大きくなるため、搬送又は加工を行い難くなる。また、ガラスフィラメントの平均フィラメント径が上記の範囲内であれば、本発明の効果が得られ易い。
【0023】
本実施形態に係るガラスクロスでは、プリプレグに用いられる樹脂との密着性向上の観点からガラス糸が表面処理されていることが好ましい。ガラス糸は、例えばチタネート系カップリング剤、シランカップリング剤により表面処理されることができ、プリプレグの樹脂ごとに適した官能基を修飾しやすいという観点からシランカップリング剤により表面処理されることが好ましい。
ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は0.004質量%未満であることが好ましい。このような窒素含有量は、例えば、シランカップリング剤における、アミノ基を含む成分量に基づく。なお、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は、0以上でよい。
【0024】
〔シランカップリング剤〕
本実施形態で用いられるシランカップリング剤は、下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、
Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機官能基であり、
Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、
nは、1~3の整数であり、
Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
で示される構造を有することが好ましい。ガラスクロスが一般式(1)のシランカップリング剤で表面処理されることで、プリント配線板の絶縁信頼性、耐熱性の向上を図りやすくなる。
【0025】
また、一般式(1)のシランカップリング剤は分子構造中のXは、アミノ基を含まず、かつ(メタ)アクリロキシ基を有することが好ましい。アミノ基を含む成分が極めて微量、又はアミノ基を含まないシランカップリング剤は、疎水性が高い。このような疎水性の高いシランカップリング剤で、低誘電ガラスであるガラス糸を表面処理することで、得られるガラスクロス及びマトリクス樹脂の界面での剥離を抑制でき、その結果、誘電特性を含む各種特性(例えば絶縁性)の向上を図ることができる。なお、本明細書において、ガラスフィラメントがシランカップリング剤で表面処理されている場合、及びガラスクロスがシランカップリング剤で表面処理されている場合、の両方とも、ガラス糸がシランカップリング剤で表面処理されている概念に含まれる。アミノ基を含有しているか評価する手法としては、特に限定されないが、ガスクロマトグラフィーを用いた方法が知られている。ガスクロマトグラフィーによって、熱分解で発生した二酸化窒素量を測定することで、シランカップリング剤中のアミノ基を有するかどうか判断することが可能となる。具体的には、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は0.004質量%未満であればシランカップリング剤中にはアミノ基を有しないと判断できる。なお、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は、0以上でよい。シランカップリング剤において、アミノ基を含む成分が極めて微量、又は該成分が含まれない場合、その測定手法によっては、ベースラインの乱れ等により、「シランカップリング剤における、アミノ基を含む成分の含有量」、ひいては、「ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量」が、マイナス値で導出される場合もあり得る。ただし、この場合も、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量が微量である趣旨に該当する場合、「0.004質量%未満」の概念に含まれる。
【0026】
ここで、本発明者は、ガラスクロスの誘電正接を上昇させる原因の1つが、ガラス糸の表面と化学結合を形成せずに物理付着したままの不要成分にあると推察した。不要成分としては、例えば、ガラス糸の表面と化学結合を形成せずに物理付着したまま、洗浄しきれなかったシランカップリング剤の残留物若しくは変性物が挙げられる。このような、ガラス糸の表面から本来は低減されるはずの不要成分の残存及び発生(変性)を抑制する観点から、一般式(1)中のXは、アミノ基を含まず、かつ、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機官能基であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)中のXは、アミノ基を含まない。例えば、一般式(1)中のXは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン、又は第4級アンモニウムカチオン等のアンモニウムカチオンを含まないことが好ましい。これにより、ガラス糸の表面と化学的に結合するシランカップリング剤の量を好適に制御でき、ガラスクロスの誘電特性の向上を好適に図ることができる。また、得られるプリント配線板の耐熱性も確保することができる。
【0028】
ガラスクロスへの安定処理化のため、一般式(1)中、複数存在するYの少なくとも1つは、炭素数が1~5のアルコキシ基(炭素数が1、2、3、4又は5のアルコキシ基)であることが好ましい。複数存在するYの半数以上、又は全てが、炭素数が1以上5以下のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0029】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上のシランカップリング剤を併用してもよい。例えば、一般式(1)中のXが互いに異なる2種以上のシランカップリング剤を併用してもよく、また、一般式(1)中のRが互いに異なる2種以上のシランカップリング剤を併用してもよい。
【0030】
ガラス糸を表面処理するシランカップリング剤における、一般式(1)で示されるシランカップリング剤由来の含有量は、95.0質量%~100質量%であることが好ましく、96.5質量%~100質量%がより好ましく、98.0質量%~100質量%が更に好ましく、99.0質量%~100質量%がより更に好ましく、99.9質量%~100質量%が特に好ましい。これによれば、得られるガラスクロスについて、誘電特性を含む各種特性の向上をより図り易くなる。本実施形態で用いられるシランカップリング剤は、一般式(1)で示されるシランカップリング剤以外のシランカップリング剤(他のシランカップリング剤)を含んでもよいし、本発明の範囲内で、シランカップリング剤以外の成分を含んでもよい。
【0031】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600であり、より好ましくは150~500であり、更に好ましくは200~450である。なかでも、シランカップリング剤として、上記範囲内で分子量が互いに異なる複数種のシランカップリング剤を併用することが好ましい。これによれば、種類の異なるシランカップリング剤によってガラス糸を好適に表面処理することができ、ガラス表面におけるシランカップリング剤の密度が高くなる。これにより、マトリックス樹脂との反応性が更に向上する傾向にある。分子量が互いに異なる複数種のシランカップリング剤を併用する場合、少なくとも2種のシランカップリング剤が、一般式(1)で示され、かつ、上記分子量の範囲内であるシランカップリング剤であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤は非イオン性であることが好ましい。例えば、一般式(1)中のXは、ビニル基、(メタ)アクリロキシ基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基を有することが好ましく、(メタ)アクリロキシ基を有することがより好ましい。これによれば、マトリックス樹脂との好適な反応性を確保でき、プリント配線板の耐熱性及び信頼性を高め易くなる。なお、(メタ)アクリロキシ基は、メタクリロキシ基、及びアクリロキシ基の少なくとも1つを含む。
【0033】
一般式(1)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン及びアクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらのシランカップリング剤であれば、本発明の効果が得られ易い。上記を含めて、一般式(1)に示されるシランカップリング剤としては、下記のシランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
【0035】
〔ガラスクロスの強熱減量値〕
ここで、本実施形態に係るガラスクロスは、その強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満である。これによれば、良好な絶縁性を有しつつ、より低い誘電正接を有するプリント配線板を提供することができる。強熱減量値は、ガラスクロスに表面処理されたシランカップリング剤の量を間接的に把握することができる指標であり、JIS R3420に記載された方法に準拠して測定することができる。
【0036】
ガラスクロスの強熱減量値は、0.01質量%以上0.10質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.09質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上0.08質量%以下が更に好ましい。強熱減量値が上記の値を超えると、ガラス糸の表面と化学結合したシランカップリング剤の量が多くなり過ぎる傾向が生じ、この場合、ガラスクロスの誘電正接、ひいては得られるプリント配線板の誘電正接が低下し易くなる。他方、強熱減量値が上記の値未満であると、ガラス糸の表面と結合しているシランカップリング剤の量が少なくなり過ぎる傾向が生じ、この場合、得られるプリント配線板の耐熱性が悪化し易くなる。
【0037】
この点、本実施形態では、上記のとおり、ガラス糸として低誘電ガラスを用い、そして、そのガラスクロスの質量あたりの窒素含有量が0.004質量%未満が好ましく、0.0035未満がより好ましく、0.003未満が更に好ましく、0.0025未満が特に好ましい。一般に、SiO2が有する高い硬度のために、低誘電ガラスを用いたガラスクロスは脆性破壊が起き易いという指摘がある。しかしながら、その低誘電ガラスと、それを表面処理するシランカップリング剤の種類と、の良好な相性に加え、ガラスクロスの強熱減量値が上記の範囲内の値であることで、本実施形態に係るガラスクロスは脆性破壊のおそれも低減させることができている。
【0038】
〔ガラスクロスの誘電正接測定方法〕
本実施形態に係るガラスクロスの誘電特性は、共振法を用いて測定することができる。共振法を用いた好ましい測定機器としては、スプリットシリンダー共振器が挙げられる。共振法によれば、測定サンプルとしてのプリント配線板を作製して誘電特性を評価する従来の測定方法と比べて、簡便かつ精度よく測定することができる。この理由としては、理論に限定されないが、共振法は高周波数領域での低損失材料を評価することに適しているためである。共振法以外の誘電特性の評価法としては、例えば、集中定数法又は反射伝送法が知られている。他方、集中定数法では、測定試料を2枚の電極で挟んでコンデンサを形成する必要があるため、オペレーションが煩雑である。また、反射伝送法では、低損失材料を評価する場合、ポートのマッチング特性の影響が表れ易く、そのため、試料の誘電正接を高精度に評価することが困難になり易い。
【0039】
プリント配線板、特に、高速通信用のプリント配線板に適用可能な、本実施形態に係るガラスクロスの誘電特性を測定するにあたり、その測定機器の測定可能範囲は、周波数誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)ともに、好適な範囲であることが好ましい。例えば、Dkは、1.1Fm-1~50Fm-1の範囲が好ましく、1.5Fm-1~10Fm-1の範囲がより好ましく、2.0Fm-1~5Fm-1の範囲が更に好ましい。また、Dfは、1.0×10-6~1.0×10-1の範囲が好ましく、1.0×10-5~5.0×10-1の範囲がより好ましく、5.0×10-5~1.0×10-2の範囲が更に好ましい。
【0040】
測定機器の測定可能な周波数は10GHz以上であることが好ましい。周波数が10GHz以上であれば、高速通信用のプリント配線板のガラスクロスとして実際に使用される場合に想定される周波数帯領域での特性評価を行うことが可能である。
【0041】
測定面積は、10mm2以上であることが好ましく、15mm2以上であることがより好ましく、20mm2以上であることが更に好ましい。より大面積でガラスクロスの誘電特性を測定することで、ガラスクロスに対する検査結果の信頼性を高めることができる。
【0042】
測定可能なサンプルの厚みは、3μm~300μmであることが好ましく、5μm~200μmがより好ましく、7μm~150μmが更に好ましい。これによれば、ガラスクロスに対する検査結果の信頼性を高めることができる。
【0043】
バルク誘電正接から、ガラスクロスの誘電正接にある程度見当をつけることが可能であり、その逆も可能である。他方、バルク誘電正接に対して、ガラスクロスの誘電正接に差が生じる場合がある。この差の要因は、理論に拘束されることを望まないが、例えば、(1)ガラス糸の表面に物理付着したサイジング剤の熱酸化物・劣化物の発生、(2)ガラス糸の表面と化学結合を形成せずに物理付着し、洗浄しきれなかった不要成分の残存及び発生、が挙げられる。従って、サイジング剤の種類の選択、ガラスクロスの製造プロセスにおける各種条件の最適化、等により、ガラスクロスの誘電正接を上記範囲内に制御することができる。
【0044】
本実施形態に係るガラスクロスは、上記共振法で測定した、10GHzにおける誘電正接が0.0008以下であることが好ましく、0.0005以下であることがより好ましく、0.00045以下であることが更に好ましく、0.000425以下であることがより更に好ましく、0.0004以下であることが特に好ましい。このようなガラスクロスであれば、誘電特性の向上を図ることができるプリプレグを提供することができる。
【0045】
〔ガラスクロスの含浸性〕
本実施形態に係る第一のガラスクロスは、ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下である。これによれば、ガラスクロスが樹脂と良好な含浸性を有することから、プリント配線板の絶縁性及び耐熱性を向上させることができる。5分後のボイド数が160以下の範囲が好ましく、140以下の範囲がより好ましく、120以下の範囲が更に好ましく、110以下の範囲がより更に好ましく、100以下の範囲が特に好ましい。5分後のボイド数が少ないほど、含浸性が良好であることを示し、ガラスクロスと樹脂の密着性が強固になるため、ガラスクロス表面に付着している表面処理剤の量が少なくても、良好な絶縁信頼性及び耐熱性を有するプリント配線板を提供することが可能である。ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下とするためには、例えばガラスクロスを上述の一般式(1)で示されるシランカップリング剤で処理し、ドライアイスブラスト加工又は曲げ加工等といった開繊手法を用いることで達成できる。
【0046】
本実施形態に係る第一のガラスクロスは、ひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上であることが好ましい。また80%以上の範囲が好ましく、82%以上の範囲がより好ましく、84%以上の範囲が更に好ましく、86%以上の範囲がより更に好ましく、88%以上の範囲が特に好ましい。ボイド数は実施例記載の方法で測定することができる。
【0047】
本実施形態に係る第二のガラスクロスは、ひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上である。これによれば、ガラスクロスが樹脂と良好な含浸性を有することから、プリント配線板の絶縁性及び耐熱性を向上させることができる。1分後から5分後のボイド減少率が80%以上の範囲が好ましく、82%以上の範囲がより好ましく、84%以上の範囲が更に好ましく、86%以上の範囲がより更に好ましく、88%以上の範囲が特に好ましい。1分後から5分後のボイド減少率が高いほど、ガラスクロスにワニスとして樹脂を含浸させる工程やプリプレグから加熱加圧してプリント配線板を加工する工程において、ガラスクロスの糸束中のボイドが抜けやすいことを意味しており、ガラスクロス及び樹脂との密着性を向上させることが可能となる。そして、ガラスクロスと樹脂の密着性を向上させることで、ガラスクロス表面に付着している表面処理剤の量が少なくても、良好な絶縁信頼性及び耐熱性を有するプリント配線板を提供することが可能である。ひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上とするためには、例えばガラスクロスを上述の一般式(1)で示されるシランカップリング剤で処理し、ドライアイスブラスト加工又は曲げ加工等といった開繊手法を用いることで達成できる。ボイド減少率は実施例記載の方法で測定することができる。
【0048】
〔ガラスクロスの製造方法〕
本実施形態に係る第一のガラスクロスの製造方法は、ガラスの処理方法を含む。
本実施形態に係るガラスの処理方法は、
バルク誘電正接が0.0010以下であるガラス糸から、サイジング剤を低減する工程(A)と、
強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満になるように、該ガラスクロスからシランカップリング剤を低減する工程(B)と、
ガラスクロスをひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数が180以下となるようにガラスクロスを開繊処理する工程(C)と、
を有する。これにより、誘電特性及びプリント配線板の耐熱性の向上を図ることができるガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。
【0049】
本実施形態に係る第二のガラスクロスの製造方法は、ガラスの処理方法を含む。
本実施形態に係るガラスの処理方法は、
バルク誘電正接が0.0010以下であるガラス糸から、サイジング剤を低減する工程(A)と、
強熱減量値が0.01質量%以上0.12質量%未満になるように、該ガラスクロスからシランカップリング剤を低減する工程(B)と、
ガラスクロスをひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率が70%以上となるようにガラスクロスを開繊処理する工程(C)と、
を有する。これにより、誘電特性及びプリント配線板の耐熱性の向上を図ることができるガラスクロス及びプリプレグを提供することができる。
【0050】
本実施形態に係るガラスの処理方法は、ガラス糸に適用することができ、また、ガラスクロスにも適用することができる。言い換えれば、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、本実施形態に係るガラスの処理方法の前に設けられてもよく、途中に設けられてもよく、後に設けられてもよい。なお、本実施形態に係るガラスの処理方法において「低減」とは、例えば、サイジング剤又はシランカップリング剤の少なくとも一部を取り除く趣旨であって、除去しきれなかった残存物の発生が許容される。
【0051】
サイジング剤を低減する工程(A)は、例えば、
ガラスを650℃~1000℃の温度で加熱する脱糊工程(加熱脱油工程)、
を有することができる。これにより、ガラスからサイジング剤を低減し易くなる。ガラスの表面に物理的に付着した状態で残存する、微量のサイジング剤の熱酸化劣化物を低減することで、得られるガラスクロスの誘電正接の上昇を効果的に抑制し易くなる。
【0052】
ガラスクロスの加熱は、逐次的もしくは連続的に、閉鎖系もしくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。生産性の観点から、巻出機構と巻取機構と有する装置を用いて、Roll-to-Rollでガラスクロスを加熱処理する方式が特に好ましい。
【0053】
閉鎖系の場合には、加熱手段の観点から、ガラスクロスを加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペース及び加熱範囲の観点から、ガラスクロスを巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物除去の効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロスを搬送しながら加熱することも好ましい。
【0054】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロスを搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロスの搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構により行われることができる。
【0055】
〔加熱炉〕
加熱炉の加熱手段としては、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナーなど種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて、加熱をしてもよいが、ガラスクロスを酸素濃度10%以上の雰囲気下で加熱することが好ましく、そのためには、ガス式シングルラジアントチューブバーナー、もしくは、電気式ヒーターを用いることが好ましい。
【0056】
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁などでよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備などでよい。
【0057】
また、ガラスクロス表面に付着している有機物を効率よく除去するためには、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロスを加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロスを連続的に加熱炉に通しながら、加熱することが可能な連続方式が好ましい。
【0058】
ガラスクロス表面に付着している有機物を十分に除去するためには、加熱温度としては、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度が好ましく、より好ましくは700℃以上、更に好ましくは750℃以上、特に好ましくは800℃以上である。ガラスクロスの表面温度は、例えば、熱電対、非接触型温度計などにより測定されることができる。
【0059】
〔ガラスクロスを加熱するための接触部材〕
ガラスクロスを加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材とガラスクロスを接触させることで、ガラスクロスを加熱してもよい。
【0060】
ガラスクロスの表面温度が650℃を超えるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロスの搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロスを加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロスを加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロスの表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0061】
また、ガラスクロスを連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、ロールに付着した汚れや異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
【0062】
シランカップリング剤を付着させる工程(B)は、例えば、
濃度0.1質量%~0.5質量%の処理液によってガラスの表面にシランカップリング剤を付着させる被覆工程と、
加熱乾燥によりシランカップリング剤をガラスの表面に固着させる固着工程と、
の少なくとも1つの工程を有することができる。また、水では低減できないシランカップリング剤残留物及び変性物を低減するため、疎水性の高い有機溶媒、又は水酸基を有するシランカップリング剤残留物及び変性物との親和性が高い有機溶媒での洗浄を固着工程の後に実施することで、ガラスクロスを好適に表面処理し易くなる。
【0063】
被覆工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が可能である。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。
【0064】
処理液の濃度は、濃度0.1質量%~0.5質量%が好ましく、濃度0.1質量%~0.45質量%がより好ましく、濃度0.1質量%~0.4質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
【0065】
固着工程において、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤が有する有機官能基の劣化を防ぐために、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
【0066】
シランカップリング剤残留物及び変性物を除去する方法は浸漬法、シャワー噴霧等の公知の方法を使用でき、必要に応じて加温、冷却してもよい。溶解したガラスクロス付着物が再付着しないように、洗浄後のガラスクロスは絞りローラー等により、仕上げ乾燥前に余剰な溶媒を低減することが好ましい。使用する有機溶媒は、特に限定をしないが、例えば、疎水性の高い有機溶媒としては、
n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)などの飽和鎖状脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの飽和環状脂肪族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;
クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの含ハロゲン溶媒;
等が挙げられる。シランカップリング剤変性物との親和性が高い有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;
ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これらの中でも、得られるガラスクロスの誘電正接をバルク誘電正接に近付けるという観点から、芳香族炭化水素、アルコール類、又はケトン類が好ましく、メタノールがより好ましい。従って、仕上げ洗浄工程における洗浄液としては、メタノールが主成分(洗浄液100質量%に対してメタノール50質量%以上、又は60質量%以上)である洗浄液を用いることが好ましい。
【0067】
仕上げ乾燥工程では、上記仕上げ洗浄工程で用いた洗浄液を低減することができる。乾燥による洗浄液の低減の容易性から、上記仕上げ洗浄工程で用いる洗浄液は、沸点が120℃以下であることが好ましい。乾燥には、加熱乾燥又は送風乾燥の方法を採用できる。なお、洗浄液として有機溶媒を用いる場合、安全上の観点から、低圧蒸気又は熱媒オイル等を熱源とした熱風乾燥により加熱乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、洗浄液の沸点以上であることが好ましく、シランカプリング剤の劣化を抑制する観点から180℃以下であることが好ましい。
【0068】
ガラスクロスを開繊する工程(C)は、例えば、得られたガラスクロスに水流の圧力を掛ける開繊処理;水(例えば脱気水、イオン交換水、脱イオン水、電解陽イオン水又は電解陰イオン水等)等を媒体とした高周波振動による開繊処理;ロールによる加圧での加工処理;ドライアイスブラストによる加工;低曲率半径で曲げる加工等が挙げられる。かかる開繊処理は織成と同時に行ってもよいし、織成後に行ってもよい。ヒートクリーニング前あるいは後若しくはヒートクリーニングと同時に行ってもよいし、表面処理工程(B)と同時に若しくは後に行ってもよい。ひまし油を含浸させた際の5分後のボイド数及びひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率を制御する観点からは開繊工程における加工力を大きくすることが必要であり、ガラス硬度が高いガラス糸から構成されるガラスクロスの開繊方法としては、ドライアイスブラスト加工又は曲げ加工が好ましい。
【0069】
ドライアイスブラスト加工は、粒径5~300μmのドライアイス微粒子を、5~1000mmの高さから0.05~1MPaのエアー圧力で噴射する(吹きかける)方法である。より好ましくは粒径5~300μmのドライアイス微粒子を5mm~600mmの高さから0.1~0.5MPaのエアー圧力で噴射する方法である。この範囲内であることで、ガラス繊維の糸切れ等の品質が起こらずに、含浸性向上の効果が見込まれる。
【0070】
曲げ加工は曲率半径R=2.5mm以下、好ましくは曲率半径R=2.0mm以下のロールに、2回以上、好ましくは10回以上通すことで開繊加工する方法である。曲率半径R=2.5mm以下であれば、サイズ剤やランカップリング剤によるフィラメント同士の接着を十分に剥がすことができ、含浸性向上の効果が見込まれ易い。
【0071】
本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、
ガラス糸を製織してガラスクロスを得る製織工程、
を有することができる。本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、被覆工程の前に、製織工程を有することができ、被覆工程から仕上げ洗浄工程までの間に、製織工程を有することもでき、仕上げ洗浄工程後に、製織工程を有することもできる。
【0072】
また、本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、必要に応じて、
脱糊工程で残存したサイジング剤の変性物を低減する残糊低減工程と、
製織工程後に、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程と、
の少なくとも1の工程を有することができる。
【0073】
残糊低減工程では、プラズマ照射、UVオゾン等の乾式クリーニング;高圧水洗浄、有機溶媒洗浄、ナノバブル水洗浄、超音波水洗等の湿式クリーニング;加熱脱糊工程よりも高い温度での加熱クリーニング;等を行うことができ、また、これらを複数組み合わせてもよい。特に、残糊低減工程では、ガラス糸又はガラスクロスを、ROLL to ROLLで800℃以上の加熱炉に通過させる短時間加熱クリーニングを行うことが好ましい。
【0074】
以上説明した、本実施形態に係るガラスクロスの製造方法によれば、誘電正接を上昇させると考えられる不要成分を好適に低減した上で、ガラス糸を構成するガラスフィラメント1本1本の表面に、シランカップリング剤を付与し易くなる。また、ガラス繊維の開繊処理を強化することで、プリント配線板の耐熱性、絶縁信頼性を向上させることが可能となる。
【0075】
〔プリプレグ〕
本実施形態に係るプリプレグは、上記ガラスクロスと、上記ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂と、を含有する。これにより、ボイドの少ないプリプレグを提供することができる。
【0076】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用可能である。可能であれば、両者を併用してもよいし、他の樹脂を更に含んでもよい。
【0077】
熱硬化性樹脂としては、例えば、
(a)エポキシ基を有する化合物と、該エポキシ基に反応するアミノ基、フェノール基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基、シアネート基、及び水酸基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るエポキシ樹脂;
(b)アリル基、メタクリル基、及びアクリル基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物を硬化させて成るラジカル重合型硬化樹脂;
(c)シアネート基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るマレイミドトリアジン樹脂;
(d)マレイミド化合物と、アミン化合物と、を反応させて硬化させて成る熱硬化性ポリイミド樹脂;
(e)ベンゾオキサジン環を有する化合物を加熱重合により架橋硬化させて成るベンゾオキサジン樹脂;
等が例示される。なお、(a)エポキシ樹脂を得るにあたり、無触媒で化合物を反応させることができ、また、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、尿素化合物、及びリン化合物等の反応触媒能を持つ触媒を添加して化合物を反応させることもできる。また、(b)ラジカル重合型硬化樹脂を得るにあたり、熱分解型触媒又は光分解型触媒を反応開始剤として使用することができる。
【0078】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、不溶性ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂等が例示される。高速通信用のプリント配線板の絶縁材料としては、ラジカル反応性に富んだポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0079】
高速通信用のプリント配線板に使用されるマトリックス樹脂が、ビニル基又はメタクリル基を有する場合、疎水性が比較的高く、かつ、メタクリル基等のラジカル反応に関与する官能基を有するシランカップリング剤が、該マトリックス樹脂との相性が良い。
【0080】
上記のとおり、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは併用することができる。また、プリプレグは、無機充填剤を更に含有することができる。無機充填剤は、熱硬化性樹脂と併用されることが好ましく、例えば、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、マイカ、炭酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、タルク、ガラス短繊維、ホウ酸アルミニウム、及び炭化ケイ素等が挙げられる。無機充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
[プリント配線板]
本実施形態に係るプリント配線板は、上記プリプレグを含有する。これにより、絶縁信頼性に優れたプリント配線板を提供することができる。
【0082】
[集積回路及び電子機器]
また、上記プリント配線板を含む集積回路及び電子機器も本実施形態の一態様である。本実施形態に係るプリント配線板を用いて得られる集積回路及び電子機器は、各種特性に優れる。
【実施例0083】
次に、本発明を実施例及び比較例によって詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって限定されない。
【0084】
〔目付量(クロスの質量)の測定方法〕
クロスを所定のサイズにカットし、その質量をサンプル面積で除することで求めた。本実施例では、ガラスクロスを10cm2のサイズに切り出し、その質量を測定することで、各ガラスクロスの目付量を求めた。
【0085】
〔換算厚みの測定方法〕
ガラスクロスは、ガラス繊維の間に空気が存在する、不連続の面状体であるため、各ガラスクロスの目付量(クロスの質量)を密度で除することで、換算厚みを算出した。具体的に、下記式(3):
換算厚み(μm)=目付量(g/m2)÷密度(g/cm3) ・・・(3)
により、換算厚みを算出した。この換算厚みの値を、共振法での測定に用いた。
【0086】
〔誘電正接の測定方法〕
IEC 62562に準拠して、各ガラスクロスの誘電正接を求めた。具体的には、スプリットシリンダー共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラスクロスのサンプルを、23℃,50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上保管した。そして、保管後のサンプルに対して、スプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて誘電特性を測定した。測定は、各サンプルで5回実施し、その平均値を求めた。また、各サンプルの厚みとしては、上記換算厚みを用いて測定を行った。同様に、各ガラスクロスと同様の組成を有する厚さ300μm以下のガラス板を用意して、該ガラス板の厚み測定から得られた厚み値から、バルク誘電正接も測定した。なお、IEC 62562は、主に、マイクロ波回路に用いるファインセラミックス材料の、マイクロ波帯における誘電特性の測定方法が規定されている。
【0087】
〔ガラスクロスの強熱減量値の測定方法〕
JIS R3420に準拠して、ガラスロスの強熱減量値を求めた。
【0088】
〔窒素含有量の測定方法〕
表面処理ガラスクロスを約800℃で1分間加熱し、発生した気体中の二酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定し、発生した気体中の二酸化窒素量を求めた。事前に所定量のアセトアニリド(C8H9NO)を同様に約800℃で1分間加熱した際に発生した二酸化窒素量を比較対象にすることで、表面処理ガラスクロスに含まれる、ガラスクロスの質量あたりの、窒素含有量(質量%)を求めた。測定には、SUMIGRAPH NC-90A(住化分析センター製)を用いた。
アセトアニリドの分子量=135.17
アセトアニリドの窒素割合=10.36%
【0089】
すなわち、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は、下記式に基づいて算出した。
ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量=
[{アセトアニリドの質量×(アセトアニリドの窒素割合/100)}/アセトアニリドから発生した二酸化窒素由来のピーク面積]×{(ガラスクロスから発生した二酸化窒素のピーク面積/ガラスクロスの質量)×100}
【0090】
〔含浸性の測定方法〕
ガラスクロスを50mm×50mm以上のサイズとなるようにサンプリングした。この際、測定箇所は曲げたり、触ったりしないようにサンプリングを行った。24~26℃の液温下でひまし油(林純薬工業株式会社製)にサンプリングしたガラスクロスを所定時間含浸させた際のボイド数をカウントすることで評価を行った。ガラスクロスに対して垂直方向の位置に高精度カメラ(フレームサイズ:5120×5120pixel)を設置し、光源としてLEDライト(CCS株式会社製パワーフラッシュ・バー型照明)をガラスクロスから15cm離れた真横の位置から、ガラスクロスを挟み込むように両側方向から照射した。そして、32mm×32mm視野角において、ガラスフィラメント間に存在する160μm以上のボイドの数をカウントし、3回測定した平均値をボイド数とした。ボイドは、マトリックス樹脂への未含浸部分に相当する。従って、ガラスクロスのボイド数が少ないことは、該ガラスクロスがマトリックス樹脂への含浸性に優れることを意味する。
【0091】
ここで、「ひまし油を含浸させた際の1分後から5分後のボイド減少率(%)」は、
ひまし油に1分後含浸させたときの、ガラスクロスのボイド数をAとし、
ひまし油に5分後含浸させたときの、ガラスクロスのボイド数をBとすると、
「{(A-B)/A}×100(%)」の式により算出される。
【0092】
〔ガラスクロス〕
(生機A)
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でクロスを製織した。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
【0093】
(生機B)
SiO2組成量が99.9質量%よりも多いガラス糸を用いて、エアジェットルームを用い、経糸54本/25mm、緯糸54本/25mmの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
【0094】
(生機C)
Eガラスヤーンを使用して、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でクロスを製織した。経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0ZのEガラスの糸を使用した。また、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0ZのEガラスの糸を使用した。
【0095】
(実施例1)
生機Aを900℃で60秒加熱処理し、脱糊を行った(加熱脱油工程)。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。ライン速度が1.5m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し(洗浄工程)、その後、130℃で1分乾燥した(乾燥工程)。その後、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.4MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理(ドライアイスブラストによる開繊処理)を行うことでガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0096】
(実施例2)
生機Aを600℃で60秒加熱処理し、脱糊を行った。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.1質量%分散させた処理液を調整した。ライン速度が1.5m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し、その後、130℃で1分乾燥した。その後、その後、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.5MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行うことで、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0097】
(実施例3)
生機Aを900℃で60秒加熱処理し、脱糊を行った。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。ライン速度が1.5m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し、その後、130℃で1分乾燥した。その後、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.5MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行うことで、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0098】
(実施例4)
生機Aを900℃で60秒加熱処理し、脱糊を行った。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、5-ヘキセニルトリメトキシシラン(シランカップリング剤B);Z6161(ダウ・東レ社製)を0.15質量%と、を分散させた処理液を調整した。ライン速度が1.5m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った。乾燥させたクロスを水中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し、その後、130℃で1分乾燥した。その後、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.2MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行うことで、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0099】
(実施例5)
超音波洗浄で用いる溶媒を水からメタノールに変更した点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0100】
(実施例6)
生機Bを1000℃で20秒加熱処理し、脱糊を行った。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤A);Z6030(ダウ・東レ社製)を0.15質量%分散させた処理液を調整した。ライン速度が1.5m/分の速度でクロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った。乾燥させたクロスをメタノール溶媒中で周波数25kHz、出力0.50W/cm2の超音波を照射することで、クロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減し、その後、130℃で1分乾燥した。その後、その後、5~50μmのドライアイス微粒子を、0.45MPaのエアー圧力でガラスクロス全体に均一に噴射することで開繊処理を行うことですることで、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0101】
(比較例1)
処理液の濃度を0.7質量%に変更した点とドライアイスブラストによる開繊処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法で、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0102】
(比較例2)
処理液の濃度を0.04質量%とした点とドライアイスブラストによる開繊処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法で、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0103】
(比較例3)
N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(シランカップリング剤C);Z6032(東レダウコーニング株式会社製)を0.15質量%分散させた処理液を用いた点とドライアイスブラストによる開繊処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法で、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0104】
(比較例4)
処理液の濃度を0.35質量%とした点とドライアイスブラストによる開繊処理を行わなかった点以外は、比較例3と同様の方法で、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0105】
(比較例5)
1.4MPa高圧水スプレーから吐出される柱状流で開繊加工した以外は、実施例1と同様の方法でガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0106】
(比較例6)
生機Cを用いた点と、加熱脱油を400℃で72時間行った点以外は、実施例1と同様の方法でガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの目付量と密度から換算厚みを算出したのち、ガラスクロスの誘電正接を測定した。
【0107】
〔積層板の作製方法〕
実施例及び比較例で得たガラスクロスに、ポリフェニレンエーテル(SABIC社製、SA9000)45質量部、トリアリルイソシアヌレート10質量部、トルエン45質量部、1,3-ジ(tert-ブチルイソプロピルベンゼン)0.6質量部をステンレス製の容器に加えて、1時間室温で撹拌させることで、ワニスを作製した。作製したワニスにガラスクロスを含浸させてから、115℃で1分間乾燥後、プリプレグを得た。得られたプリプレグを8枚重ね、更に上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、200℃、40kg/cm2で120分間加熱加圧して積層板を得た。
【0108】
〔積層板の耐熱性の評価方法〕
上記のようにして得られた積層板の銅箔を除去してから、プレッシャークッカー容器で133℃62時間に亘り、加熱及び吸水させた。更に、吸水後の積層板を、288℃のハンダ浴に20秒浸漬し、ガラスクロス及び樹脂の界面での剥離に起因する膨れ(ふくれ)の有無を目視確認した。各ガラスクロスで4回の試験を実施した。表2中、耐熱性の評価は以下のとおりである。なお、ガラスクロスの膨れが少ない傾向にあるほど、耐熱性に優れることを指す。
E(〇):積層板4枚中、すべての積層板で膨れが無かった。
G(△):1又は2枚の積層板で膨れが有った。
P(×):3又は4枚の積層板で膨れが有った。
【0109】
〔積層板の絶縁信頼性の評価方法〕
上記のようにして厚さ1.0mmとなるように積層板を作製し、積層板の両面の銅箔上に、0.30mm間隔のスルーホールを配する配線パターンを作製して絶縁信頼性評価の試料を得た。得られた試料に対して温度85℃湿度85%RHの雰囲気下で50Vの電圧を掛け、抵抗値の変化を測定した。この際、試験開始後500時間以内に抵抗が1MΩ未満になった場合を絶縁不良としてカウントした。10枚の試料について同様の測定を行い、10枚中絶縁不良とならなかったサンプルの枚数を求めた。
【0110】
実施例及び比較例の製造条件及び評価結果を表2に示す。なお、実施例1~6のいずれのガラスクロスも、定法によりプリプレグ及びプリント配線版を作製できた。
【0111】