(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123558
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/04 20060101AFI20230829BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230829BHJP
C02F 11/06 20060101ALI20230829BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20230829BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20230829BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20230829BHJP
F23J 1/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B01J20/04 A ZAB
B01J20/30
C02F11/06 A
B01D53/62
B01D53/82
F23J15/00 Z
F23J1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095482
(22)【出願日】2023-06-09
(62)【分割の表示】P 2021075531の分割
【原出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】橋田 修吉
(57)【要約】
【課題】環境に負荷を与えず、しかも低コストで二酸化炭素を吸収可能な二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素吸収剤は、ガスに含まれる二酸化炭素を吸収させるための二酸化炭素吸収剤であって、バイオマスの燃焼灰であるバイオマス燃焼灰を含み、バイオマス燃焼灰は酸化カルシウムを含む。二酸化炭素吸収剤は、粒状体であり、バイオマス燃焼灰とバインダーとを含み、バインダーは、硫酸カルシウムを含む。バインダーは、石膏であってもよい。石膏は、脱硫石膏であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスに含まれる二酸化炭素を吸収させるための二酸化炭素吸収剤であって、
バイオマスの燃焼灰であるバイオマス燃焼灰を含み、前記バイオマス燃焼灰は酸化カルシウムを含み、
前記二酸化炭素吸収剤は、粒状体であり、前記バイオマス燃焼灰とバインダーとを含み、
前記バインダーは、硫酸カルシウムを含む、
二酸化炭素吸収剤。
【請求項2】
前記バインダーは、石膏である、
請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項3】
前記石膏は、脱硫石膏である、
請求項2に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項4】
前記バイオマスは、木質、家畜糞、下水汚泥及び農業残渣の少なくとも1つを含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項5】
燃焼装置の排気系に接続された二酸化炭素吸収設備であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収剤を内部に収容するタンクと、
前記タンクに接続され、前記燃焼装置からの排気ガスを前記タンクの内部に供給するガス供給管路と、
前記タンクに接続され、前記二酸化炭素吸収剤により前記排気ガス中の二酸化炭素が除去された処理ガスを前記タンクの外部に排出するガス排出管路と、
を備える二酸化炭素吸収設備。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収剤をタンクの内部に供給する供給工程と、
前記タンクの内部に供給された前記二酸化炭素吸収剤に対して二酸化炭素を含む排気ガスを接触させる接触工程と、
前記排気ガスと接触した前記二酸化炭素吸収剤を前記タンクから除去する除去工程と、
を含む二酸化炭素吸収方法。
【請求項7】
バイオマス火力発電所においてバイオマスを燃焼させて発電する発電工程と、
前記バイオマス火力発電所にて排出されたバイオマス燃焼灰から前記二酸化炭素吸収剤を生成する生成工程と、をさらに含み、
前記供給工程では、前記生成工程で生成された前記二酸化炭素吸収剤を前記タンクの内部に供給する、
請求項6に記載の二酸化炭素吸収方法。
【請求項8】
バイオマスを燃焼する工程と、
前記バイオマスの燃焼により排出された酸化カルシウムを含むバイオマス燃焼灰とバインダーとを含む粒状体を生成する工程と、
を含み、
前記バインダーは、硫酸カルシウムを含む、
二酸化炭素吸収剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の一つとして化石燃料を使用する設備からの二酸化炭素排出削減が要請されている。化石燃料の燃焼に由来する二酸化炭素の排出量を削減するには、プラントの熱効率向上のみならず、二酸化炭素回収・貯留技術(Carbon dioxide Capture and Storage:CCS)の開発を進めることが必要であり、このための技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、火力発電所の脱硫装置で発生した炭酸イオンをアルカリ土類金属又はアルカリ金属と結合させる二酸化炭素吸収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の二酸化炭素吸収方法では、アルカリ土類金属又はアルカリ金属を大量に使用しており、これらの物質は低コストで大量に入手することが困難である。また、これらの物質は廃棄の際の環境負荷が大きいという問題もある。そして、このような問題は、火力発電所のタービンで発生した排気ガスから二酸化炭素を吸収する場合に限られず、他の燃焼装置において排気ガスから二酸化炭素を吸収する場合にも存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、環境に負荷を与えず、しかも低コストで二酸化炭素を吸収可能な二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る二酸化炭素吸収剤は、
ガスに含まれる二酸化炭素を吸収させるための二酸化炭素吸収剤であって、
バイオマスの燃焼灰であるバイオマス燃焼灰を含み、前記バイオマス燃焼灰は酸化カルシウムを含み、
前記二酸化炭素吸収剤は、粒状体であり、前記バイオマス燃焼灰とバインダーとを含み、
前記バインダーは、硫酸カルシウムを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境に負荷を与えず、しかも低コストで二酸化炭素を吸収可能な二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る火力発電所の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る二酸化炭素吸収設備の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る二酸化炭素吸収設備の構成を示す図である。
【
図4】本発明の変形例に係る火力発電所の構成を示す図である。
【
図5】実施例における水を添加した鶏糞焼却灰の蛍光X線測定の結果を示す図である。
【
図6】実施例における水を添加した鶏糞焼却灰のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
(実施の形態1)
図1及び
図2を参照して、実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を説明する。二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素との化学反応によりガス中に含まれる二酸化炭素を吸収する。二酸化炭素吸収剤は、例えば、二酸化炭素吸収設備内に収容され、二酸化炭素吸収設備内に取り込まれたガス中の二酸化炭素を吸収し、ガスを二酸化炭素が除去された処理ガスに変化させる。二酸化炭素吸収設備は、例えば、火力発電所、製鉄所で発生した化石燃料に由来する排気ガスを排出する排気系統に設置され、排気ガスを処理ガスに変化させる。
【0011】
実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤は、バイオマスを焼却した燃焼灰(バイオマス燃焼灰)及び水から生成されている。バイオマス燃焼灰には酸化カルシウムCaOが含まれ、酸化カルシウムに水を添加することで水酸化カルシウムCa(OH)2が生成される。そして、水酸化カルシウムが二酸化炭素CO2と接触すると、両者が化学反応を引き起こして炭酸カルシウムCaCO3が生成される。この化学反応により排気ガス中の二酸化炭素(炭酸イオン)を吸収できる。
【0012】
二酸化炭素吸収剤中に含まれる酸化カルシウムの量は、バイオマスの種類に依存しており、経済性や二酸化炭素吸収の反応効率を考慮して適宜の値となるように設定すればよい。なお、二酸化炭素吸収剤による二酸化炭素の吸収後に生成された炭酸カルシウムは、工業生産された他の炭酸カルシウムと同様の用途で有効利用すればよい。
【0013】
バイオマスは、燃焼させると酸化カルシウムに変化するカルシウム化合物を多く含むバイオマスであることが好ましい。バイオマスの燃焼温度は、カルシウム化合物を酸化カルシウムに変化させる程度の温度、例えば、800℃~1500℃の範囲内であり、より好ましくは1000℃程度である。バイオマスとしては、例えば、木質、家畜糞、下水汚泥、農業残渣が含まれる。
【0014】
このうち家畜糞、特に、鶏卵用の鶏の糞には、1000℃前後の燃焼温度で酸化カルシウムに変化するカルシウム化合物が多く含まれ、二酸化炭素吸収剤の原料として好適である。これは、家畜糞、特に鶏卵用の鶏の糞には、カルシウムを多く含む飼料が与えられており、家畜の体内で消化しきれなかったカルシウム化合物や、消化後に排泄されたカルシウム化合物が含まれるためである。
【0015】
また、木質をガス化炉で燃焼させて得られたチャー(炭状の未燃物)にも、重量比で50%程度の酸化カルシウムが含まれているため、二酸化炭素吸収剤の原料として好適である。他方、家畜の骨は、リン酸カルシウム及びアパタイトを多く含んでおり、これらのカルシウム化合物は1000℃以上の燃焼温度でも酸化カルシウムに変化しないため、二酸化炭素吸収剤の原料としては好適でない。
【0016】
実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤は、バイオマス燃焼灰及び水から形成されたスラリー(湿式吸収剤)である。スラリーは、バイオマス燃焼灰に水を混合し、ミキサーで攪拌することで製造され、酸化カルシウムと水とが反応して生成された水酸化カルシウムを含んでいる。スラリーにおけるバイオマス燃焼灰と水との重量比は、例えば、1:1である。
【0017】
バイオマス燃焼灰に添加する水分量は、バイオマス燃焼灰の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させるのに必要な量である。例えば、1キログラムのバイオマス燃焼灰の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させるのに必要な水分量の理論値は、酸化カルシウムの溶解度から計算すると、温度20℃で最大約1.6Lである。ただし、実際のスラリーの生成工程においては、温度数十℃で水を添加して酸化カルシウムを連続反応させるため、当該理論値よりも少ない量の水をバイオマス燃焼灰に添加すればよい。
【0018】
水酸化カルシウムは、石灰石を粉砕し、化石燃料で焼成して酸化カルシウムを生成し、酸化カルシウムに水を添加することで工業的に生成されるのに対し、水酸化カルシウムを含むバイオマス燃焼灰は、バイオマス火力発電所又はバイオマス焼却設備で焼却されることで生成される。バイオマスの燃焼は、化石燃料を使用しないため、二酸化炭素の排出扱いとしてカウントされず、カーボンニュートラルである。また、バイオマス燃焼灰は、自然由来のバイオマスを原料としており、アルカリ土類金属又はアルカリ金属のような物質を含まないため、環境負荷が低い。
【0019】
加えて、バイオマス火力発電所やバイオマス熱供給用ボイラのようなバイオマス燃焼設備から得られるバイオマス燃焼灰については以下の利点を有する。まず、バイオマス燃焼灰は、発電や熱供給で発生する副産物であるため、低コストで入手できる。また、バイオマス燃焼設備は、化石燃料を使用しないカーボンニュートラルな電源であり、将来的な普及が見込めるため、バイオマス焼却灰の安定的な供給が期待できる。そして、バイオマス燃焼設備の燃焼灰から生成された二酸化炭素吸収剤を、火力発電所や熱供給用ボイラ又は製鉄用設備のような化石燃料を使用する産業設備における二酸化炭素の吸収に用いることで、産業全体における二酸化炭素の排出を削減できる。
【0020】
次に、実施の形態1に係る二酸化炭素吸収設備10の構成を説明する。以下、火力発電所から排出される排気ガス中の二酸化酸素を吸収する場合を例に説明する。
【0021】
図1に示すように、二酸化炭素吸収設備10は、火力発電所1の排気系統に接続され、ボイラ4で発生した排気ガスから二酸化炭素を除去する。火力発電所1は、二酸化炭素吸収設備10に加えて、発電を行う発電機2と、発電機2を回転させるタービン3と、タービン3に向けて水蒸気を供給するボイラ4と、ボイラ4で発生した排気ガスから窒素酸化物を除去する脱硝装置5と、ボイラ4で発生した排気ガスから粉塵を除去する電気集塵装置6と、ボイラ4で発生した排気ガスから硫黄酸化物を除去する脱硫装置7と、ボイラ4で発生した排気ガスを大気中に放出する煙突8と、をさらに備える。ボイラ4は、燃料を燃焼させる燃焼装置の一例であり、燃料を燃焼させる燃焼室4aと、燃焼室4aの内部に配置され、燃料の燃焼により水蒸気を発生させる熱交換器4bと、を備える。
【0022】
タービン3の回転軸は、発電機2の回転軸に機械的に接続され、ボイラ4の熱交換器4bは、タービン3に対して水蒸気が流動可能な配管で接続されている。また、ボイラ4の燃焼室4a、脱硝装置5、電気集塵装置6、脱硫装置7、二酸化炭素吸収設備10及び煙突8は、排気ガスが流動可能な配管で直列的に接続されている。
【0023】
二酸化炭素吸収設備10は、二酸化炭素吸収剤を内部に収容し、外部から供給された排気ガス中の二酸化炭素を二酸化炭素吸収剤に吸収させてから外部に排出する。二酸化炭素吸収設備10は、例えば、脱硫装置7と同一又は同等の構成を備える。脱硫装置7は、硫化酸化物の吸収に炭酸カルシウムを含むスラリーを用いる湿式脱硫装置と、炭酸カルシウムを含む粒状体を用いる乾式脱硫装置とに分類される。二酸化炭素吸収設備10を火力発電所に既設の脱硫装置7と同一又は同等の構成にすることで、二酸化炭素吸収設備10に設置やメンテナンスに要するコストを抑制できる。実施の形態1では、二酸化炭素吸収剤がスラリーであるため、二酸化炭素吸収設備10が湿式の二酸化炭素吸収設備である場合を例に説明する。
【0024】
二酸化炭素吸収設備10では、水酸化カルシウムを含むバイオマス燃焼灰のスラリー(二酸化炭素吸収剤)をタンク内部に取り入れた排気ガスに吹き付けることで、排気ガスに含まれる二酸化炭素を吸収する。
【0025】
図2に示すように、二酸化炭素吸収設備10は、スラリーを受け入れる吸収塔11と、吸収塔11に排気ガスを供給するガス供給管路12と、吸収塔11から二酸化炭素が除去された処理ガスを排出するガス排出管路13と、スラリーが貯蔵されたスラリー貯蔵タンク14と、スラリー貯蔵タンク14から吸収塔11にスラリーを供給するスラリー供給ポンプ15と、吸収塔11内にスラリーを放出するスプレー管16と、吸収塔11内に放出されたスラリーを回収して再び吸収塔11内に循環させる循環ポンプ17と、吸収塔11の外部にスラリーを排出するスラリー排出管路18と、を備える。吸収塔11には、二酸化炭素吸収剤を収容するタンクの一例であり、スプレー管16から下方に放出されたスラリーが逆流することを防ぐ逆流防止板11aが設けられている。逆流防止板11aには、排気ガスが通過可能な多数の孔が形成されている。
【0026】
図2において実線矢印はスラリーの流れ、点線矢印はガスの流れを示す。二酸化炭素吸収設備10では、ボイラ4から吸収塔11内に取り込まれた排気ガスに対し、スプレー管16から二酸化炭素吸収剤であるスラリーを吹き付ける。火力発電所の運転中、スラリーがスプレー管16から吸収塔11内に常に放出され、反応後のスラリーの一部は、循環ポンプ17により再び吸収塔11内に戻るように循環し、その他はスラリー排出管路18から吸収塔11の外部に常に排出される。
以上が、二酸化炭素吸収設備10の構成である。
【0027】
次に、実施の形態1に係る二酸化炭素吸収設備10を用いて実行される二酸化炭素吸収方法の流れを説明する。
【0028】
まず、二酸化炭素吸収剤を吸収塔11の内部に供給する(供給工程)。具体的には、スラリー供給ポンプ15を作動させ、スプレー管16から吸収塔11内にスラリーを放出させる。
【0029】
次に、吸収塔11の内部に供給された二酸化炭素吸収剤に対して二酸化炭素を含む排気ガスを接触させる(接触工程)。ガス供給管路12から吸収塔11内に排気ガスを供給することで、スプレー管16から放出されたスラリーとガス供給管路12から供給された排気ガスとが接触し、スラリーに含まれる水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムに変化する。
【0030】
次に、二酸化炭素を含む排気ガスに接触した二酸化炭素吸収剤、すなわち炭酸カルシムを含む二酸化炭素吸収剤を吸収塔11から除去する(除去工程)。具体的には、炭酸カルシウムを含む反応後のスラリーの一部は、吸収塔11からスラリー排出管路18を通って外部に排出され、他のスラリーは循環ポンプ17を通ってスプレー管16から吸収塔11の内部に放出される。なお、各工程は、二酸化炭素吸収設備10において並列的に実行される。
以上が、二酸化炭素吸収設備10を用いて実行される二酸化炭素吸収方法の流れである。
【0031】
以上説明したように、実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤は、ガスに含まれる二酸化炭素を吸収させるための二酸化炭素吸収剤であって、バイオマスの燃焼灰であるバイオマス燃焼灰を含み、バイオマス燃焼灰は酸化カルシウムを含む。このため、環境に大きな負荷を与えず、しかも低コストで排気ガス中の二酸化炭素を吸収できる。
【0032】
また、実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤は、バイオマス燃焼灰と水とを含むスラリーである。このため、湿式の脱硫装置7と同一又は類似する構成を備える湿式の二酸化炭素吸収設備10を用いて排気ガス中の二酸化炭素の吸収を実現できる。
【0033】
(実施の形態2)
図3を参照して、実施の形態2に係る二酸化炭素吸収剤、二酸化炭素吸収設備、二酸化炭素吸収方法及び二酸化炭素吸収剤の製造方法を説明する。実施の形態1に係る二酸化炭素吸収剤は、スラリーであったが、実施の形態2に係る二酸化炭素吸収剤は、粒状体(乾式吸収剤)である。以下、両者の異なる点を中心に説明する。
【0034】
実施の形態2に係る二酸化炭素吸収剤は、バイオマス燃焼灰を主成分とした粒状体である。二酸化炭素吸収剤の粒状体は、バイオマス燃焼灰にバインダーや必要に応じて水を添加し、これらを混合して成形することで生成される。バインダーは、バイオマス燃焼灰の粒子を凝集する役割を果たす。粒状体には、早期に強度を発現させるために蒸気養生を施してもよい。
【0035】
粒状体は、例えば、ペレットである。ペレットは、押出造粒(ペレット造粒)又はプレス成形により円筒形状に圧縮成型された粒状体である。押出造粒では、例えば、バイオマス燃焼灰にバインダーと水を添加して混練機で混練した後、混練した材料を板に形成された多数の孔に通過させ、カッターで一定長さに切断することにより、円筒形状の粒状体を成形する。
【0036】
ペレットの成形に必要な水分量は、成形の容易性やペレットの強度を考慮して、例えば、重量比で0%~40%の範囲内である。プレス形成では0%~15%の範囲内であることが好ましく、押出造粒では30%~40%の範囲内であることが好ましい。なお、粒状体の二酸化炭素吸収剤に二酸化炭素を吸収させる時点で、粒状体に水を接触させ、粒状体の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させることができるため、粒状体の成形時に全ての酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させておく必要はない。
【0037】
バインダーは、石膏、セメント、ソーダ灰、粘土、又は、アルギン酸、ポリビニルアルコールのような有機高分子を含む。バインダーは、硫酸カルシウムを含むバインダーであることが好ましく、石膏が好ましい。石膏としては、乾式又は湿式脱硫法で生ずる脱硫石膏を用いることが好ましい。
【0038】
次に、実施の形態2に係る二酸化炭素吸収設備20の構成を説明する。二酸化炭素吸収設備20は、内部に取り入れた排気ガスを二酸化炭素吸収剤である粒状体に接触させることで、排気ガスに含まれる二酸化炭素を吸収する乾式の二酸化炭素吸収設備である。二酸化炭素吸収設備20は、二酸化炭素吸収設備10と同様に火力発電所1の排気系統に接続され、例えば、脱硫装置7と煙突8との間に管路を介して接続すればよい。
【0039】
図3に示すように、二酸化炭素吸収設備20は、粒状体(例えば、ペレット)を充填する吸収塔21と、吸収塔21の内部に排気ガスを供給するガス供給管路22と、吸収塔21から外部に二酸化炭素が除去された処理ガスを排出するガス排出管路23と、吸収塔21の内部に水を供給する水供給管路24と、水供給管路24に設置され、水供給管路24内の水を送り出すポンプ25と、吸収塔21から外部に水を排出する水排出管路26と、を備える。ガス供給管路22、ガス排出管路23、水供給管路24及び水排出管路26は、それぞれ吸収塔21に接続されている。
【0040】
吸収塔21は、二酸化炭素吸収剤を収容するタンクの一例である。吸収塔21の内部には、粒状体が下方に落下することを防ぐ落下防止板21aが設けられている。落下防止板21aには、粒状体が通過できない程度の多数の孔が形成されている。また、吸収塔21には、その上部に粒状体を投入する開閉可能な投入口(図示せず)が設けられ、その下部に粒状体を排出可能な排出口(図示せず)が設けられている。
【0041】
ガス供給管路22は、吸収塔21の落下防止板21aより底面側に接続され、ガス排出管路23は、吸収塔21の上面側に接続されている。また、水供給管路24は、吸収塔21の上面側に接続され、水排出管路26は、吸収塔21の落下防止板21a及びガス供給管路22より底面側に接続されている。
【0042】
図3において実線矢印は水の流れ、点線矢印はガスの流れを示す。水供給管路24から供給された水は、吸収塔21に充填された粒状体に向けてスプレー状に落下し、粒状体に接触して粒状体の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させた後、下方にある水排出管路26から排出される。また、ガス供給管路22から吸収塔21に導入された排気ガスは、吸収塔21の下側から上側に向かって流れ、その際に粒状体の間を通気することで、二酸化炭素が除去された処理ガスに変化し、ガス排出管路23から外部に向けて排出される。なお、二酸化炭素と反応した粒状体は、吸収塔21の下側の排出口(図示せず)から定期的に取り出し、新たな粒状体を吸収塔21の上側の投入口から投入すればよい。
以上が、二酸化炭素吸収設備20の構成である。
【0043】
以上説明したように、実施の形態2に係る二酸化炭素吸収剤は、粒状体であり、バイオマス燃焼灰とバインダーとを含む。このため、乾式の脱硫装置7と同一又は類似する乾式の二酸化炭素吸収設備20を用いて排気ガス中の二酸化炭素の吸収を実現できる。
【0044】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0045】
(変形例)
上記実施の形態では、脱硫装置7と煙突8との間に二酸化炭素吸収設備10、20を設置していたが、本発明はこれに限られない。二酸化炭素吸収設備10、20は、火力発電所の排気系統であれば、どのような位置に配置してもよい。例えば、二酸化炭素吸収設備10、20を電気集塵装置6と脱硫装置7との間に配置してもよい。
【0046】
上記実施の形態では、脱硫装置7とは別個の二酸化炭素吸収設備10、20を設置していたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図4に示すような火力発電所において既設の脱硫装置7を二酸化炭素吸収設備として併用してもよく、既設の脱硫装置7を改造して二酸化炭素吸収設備として併用してもよい。
【0047】
例えば、脱硫装置7が湿式の脱硫装置であれば、脱硫用の炭酸カルシウムのスラリーに二酸化炭素吸収用のバイオマス燃焼灰を混合し、このスラリーを脱硫装置7のタンク内で排気ガスに吹き付ければよい。また、脱硫装置7が乾式の脱硫装置であれば、バイオマス燃焼灰から製造したペレットを脱硫用の炭酸カルシウムのペレットと共に既設の脱硫装置7の吸収塔の内部に充填すればよい。この手法では、火力発電所1における新たな設備の増設が必要ないため、二酸化炭素の吸収に伴うコストをさらに抑制できる。
【0048】
上記実施の形態2では、粒状体としてペレットを製造していたが、本発明はこれに限られない。粒状体は、例えば、押出造粒法以外の造粒法、例えば、転動造粒法や攪拌造粒法を用いて製造してもよい。
【0049】
上記実施の形態では、二酸化炭素吸収方法においてバイオマス焼却灰を含むスラリーを吸収塔11内に放出させる工程からスタートしていたが、本発明はこれに限られない。例えば、二酸化炭素吸収方法は、バイオマスを燃焼させて発電するバイオマス火力発電所にて排出されたバイオマス燃焼灰から二酸化炭素吸収剤を生成する工程(生成工程)を含んでいてもよい。また、二酸化炭素吸収方法は、当該生成工程の前に、バイオマス火力発電所にてバイオマスを燃焼させて発電する工程(発電工程)を含んでいてもよい。バイオマス火力発電では、燃料の全部又は一部にバイオマスを含んでおり、化石燃料を用いる火力発電と同じ原理でバイオマスを含む燃料を燃焼させて発電を行う。
【0050】
上記実施の形態では、二酸化炭素吸収剤による二酸化炭素の吸収後に生成された炭酸カルシウムを工業生産された炭酸カルシウムと同様の用途に有効利用していたが、本発明はこれに限られない。例えば、二酸化炭素の吸収後に生成された炭酸カルシウムにフライアッシュ及び硫酸カルシウムを混合して藻礁を作成し、この藻礁を水中に設置して海藻や海草を付着させることで、海藻や海草による二酸化炭素の固定を実現してもよい。
【0051】
上記実施の形態では、火力発電所に二酸化炭素吸収設備を適用していたが、本発明はこれに限られない。二酸化炭素を排出する他の設備、例えば、製鉄所、製油所、清掃工場に適用してもよい。
【0052】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例)
実施例では、バイオマス燃焼灰により二酸化炭素が吸収されるかどうかを実証する試験を実施した。バイオマス燃焼灰は、鶏糞を1100℃で1時間燃焼することで生成した鶏糞灰である。鶏糞灰の灰分は、強熱減量から算出すると約20%であった。また、鶏糞灰の55%(重量比)は酸化カルシウムであった。バイオマス燃焼灰に同じ重量の水を加え、よく攪拌することでスラリーを生成した。このスラリーに実験装置を用いて二酸化炭素を通気し、二酸化炭素の通気前後におけるスラリーの化学組成を蛍光X線分析装置及びX線回折装置を用いて分析した。
【0055】
以下に蛍光X線測定の結果を示す。
図5に示すように、二酸化炭素の通気前では、スラリーにおける炭素及び酸素の元素重量%はそれぞれ1.5%、39.8%であったのに対し、二酸化炭素の通気後では、それぞれ2.5%、45.6%に増加していた。これは、スラリー中の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、炭素原子及び酸素原子を含む炭酸カルシウムが生成されたためと考えられる。
【0056】
次に、回線X線測定の結果を示す。
図6の上側の波形は、鶏糞灰の測定データを示し、下側の波形は、鶏糞灰に水を添加して二酸化炭素を通気したものの測定データを示す。
図6で示すように、二酸化炭素の通気前では、酸化カルシウムのピーク及びアパタイトのピークが存在していたのに対し、二酸化炭素の通気後では、炭酸カルシウムのピークが発生していた。このことは、燃焼灰の酸化カルシウムが二酸化炭素を吸収した結果として炭酸カルシウムが形成されたことを意味している。以上から、バイオマス燃焼灰により二酸化炭素が吸収されることが確認できた。
【符号の説明】
【0057】
1 火力発電所
10,20 二酸化炭素吸収設備
11,21 吸収塔
12,22 ガス供給管路
13,23 ガス排出管路