IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソーラーフロンティア株式会社の特許一覧

特開2023-123572太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置
<>
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図1
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図2
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図3
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図4
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図5
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図6
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図7
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図8
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図9
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図10
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図11
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図12
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図13
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図14
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図15
  • 特開-太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123572
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20230829BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20230829BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20230829BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20230829BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20230829BHJP
   H01L 31/048 20140101ALI20230829BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20230829BHJP
【FI】
B09B5/00 C
B09B3/40 ZAB
B09B3/35
B09B3/70
B09B3/80
H01L31/04 560
B09B101:16
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097077
(22)【出願日】2023-06-13
(62)【分割の表示】P 2020514080の分割
【原出願日】2019-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018080716
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼取材日 平成30年2月26日 ▲2▼取材場所 ソーラーフロンティア株式会社 厚木リサーチセンター(神奈川県厚木市下川入123-1 ▲3▼公開された発明の内容 使用済みCISパネルのリサイクルについて [刊行物等] ▲1▼掲載日 平成30年3月2日 ▲2▼掲載場所 日刊工業新聞 ▲3▼掲載内容 太陽光パネル再利用について [刊行物等] ▲1▼掲載日 平成30年3月4日 ▲2▼掲載場所 https://newswitch.jp/p/12207 ▲3▼掲載内容のタイトル 化合物系太陽光パネル、ソーラーフロンティアが低コストで再利用 [刊行物等] ▲1▼掲載日 平成30年3月7日 ▲2▼掲載場所 http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/327680/030500007/ ▲3▼掲載内容のタイトル 使用済みCISパネルのリサイクルに道、低コスト・高収率で材料を分離・回収 [刊行物等] ▲1▼掲載日 平成30年3月16日 ▲2▼掲載場所 日経産業新聞 ▲3▼掲載内容 廃太陽光パネル低コストで処理について
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト/低コスト分解処理技術実証/合わせガラス型太陽電池の低コスト分解処理技術実証」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513009668
【氏名又は名称】ソーラーフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紀行
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コスト及び高収率で材料を回収可能なリサイクル技術を実現する。
【解決手段】リサイクル方法は、カバーガラス23と、電池層21Bと、これらを密着する封止材24と、を備える太陽電池モジュール20に適用される。リサイクル方法は、カバーガラス23と封止材24との界面を所定の温度範囲に加熱し、その界面が所定の温度範囲を維持した状態で太陽電池モジュール20の側面から封止材24に力を加えて、その界面から封止材24及び電池層21Bを引き剥がす。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備える太陽電池モジュールのリサイクル方法において、
前記カバーガラスと前記封止材との界面を所定の温度範囲に加熱し、
前記界面が前記所定の温度範囲を維持した状態で前記太陽電池モジュールの側面から前記封止材に力を加えて、前記界面から前記封止材及び前記電池層を引き剥がし、
前記力は、セパレータを前記側面から前記封止材に押し当てることで加えられ、
前記セパレータは、前記太陽電池モジュールの側面に最初に接触する第1の時点以外の第2の時点において、前記カバーガラスと前記封止材とが分離される境界部に接触しない
太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項2】
前記所定の温度範囲は、前記封止材の軟化温度以上、溶解温度以下である、
請求項1に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項3】
前記封止材は、EVAであり、
前記所定の温度範囲は、40℃以上、140℃以下である、
請求項2に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項4】
前記セパレータは、前記第2の時点において、前記封止材に接触する接触部を有し、
前記接触部の接線と前記カバーガラスの表面とのなす角度は、36°以上、51°以下である、
請求項1に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項5】
前記カバーガラスの表面に平行な方向において、前記太陽電池モジュールと前記セパレータとの相対速度を所定の速度範囲とし、かつ前記太陽電池モジュールの側面を前記セパレータに押し当てることで、前記力を発生させる、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項6】
前記セパレータの温度は、室温に維持される、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項7】
前記電池層は、CIS型の電池層である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項8】
前記封止材及び前記電池層を前記カバーガラスから引き剥がした後において、前記カバーガラスに残存する前記封止材の重量は、前記カバーガラスの重量の9%以下である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項9】
前記電池層が基板ガラス上に配置され、かつ前記カバーガラスと前記基板ガラスとの間に挟まれる構造の太陽電池モジュールである場合に、前記基板ガラスに力を加えて、前記基板ガラスを粉砕しながら、前記封止材、前記電池層、及び前記基板ガラスを前記カバーガラスから引き剥がす、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項10】
前記カバーガラスから引き剥がされた前記封止材、前記電池層、及び前記基板ガラスを溶解液に浸すことにより、前記電池層を溶解し、かつ前記基板ガラスと前記封止材とを分離し、
前記基板ガラスと前記封止材とを別々に回収する、
請求項9に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項11】
前記基板ガラス及び前記封止材は、前記溶解液中において両者の重量差を利用することにより別々に回収される、
請求項10に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項12】
前記溶解液は、硝酸溶液である、
請求項11に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項13】
前記電池層内に含まれる各材料は、前記溶解液から前記基板ガラスと前記封止材とを回収した後、前記溶解液から抽出することにより回収される、
請求項10乃至12のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項14】
カバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備える太陽電池モジュールのリサイクル装置において、
前記カバーガラスと前記封止材との界面を所定の温度範囲に加熱するヒータと、
前記太陽電池モジュールの側面から前記封止材に力を加えるセパレータと、
前記カバーガラスの表面に平行な方向において、前記太陽電池モジュールと前記セパレータとの間に相対速度を発生させる駆動部と、
前記ヒータ及び前記駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ヒータにより前記界面を前記所定の温度範囲に設定し、
前記界面が前記所定の温度範囲を維持した状態で、前記駆動部により前記太陽電池モジュールの側面から前記封止材に前記力を加えて、前記界面から前記封止材及び前記電池層を引き剥がし、
前記セパレータは、前記太陽電池モジュールの側面に最初に接触する第1の時点以外の第2の時点において、前記カバーガラスと前記封止材とが分離される境界部に接触しない
太陽電池モジュールのリサイクル装置。
【請求項15】
前記ヒータは、前記カバーガラス側から前記界面を前記所定の温度範囲に加熱する、
請求項14に記載の太陽電池モジュールのリサイクル装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールのリサイクル方法及びリサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は、再生可能エネルギーによる発電として注目される。これに伴い、今後、大量の太陽電池モジュールが各地に設置されることが予想される。そこで関心を集めているのが、使用済みの太陽電池モジュールをリサイクルするための仕組みや技術である。
【0003】
太陽電池モジュールのリサイクルにおいて重要な点は、如何に低コストでリサイクルを実現するか、及び如何に高収率で材料を回収できるか、にある。リサイクルの低コスト化は、コストペイバックタイムの短縮化を実現し、さらにはリサイクルコストを製品の販売価格に含めることを可能とする。また、太陽電池モジュールは、希少金属や有害物質を含む様々な材料を備える。従って、これらの材料を高収率で回収できれば、地球資源の有効活用、製品コストの低下、及び有害物質の非拡散に貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-203061号公報
【特許文献2】特許第5574750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、太陽電池モジュールのリサイクルにおいて、ブレード(刃)を用いてガラス基板と他の材料とを分離する技術を開示する。しかし、ガラス基板と他の材料との分離は、両者を密着する封止材をブレードにより切断することにより行われる。この場合、その分離後において、大量の封止材は、ガラス基板上に密着したまま残存する。従って、特許文献1の技術では、ガラス基板上に残存した封止材を除去する工程が必要となる。この工程は、例えば、封止材を高温で約13時間焼成し、かつ熱分解する工程であり、結果として、リサイクルコストが膨大となると共に、COの発生により環境負荷も大きくなる。
【0006】
また、特許文献2は、加熱により軟化した封止材にブレードを押し当て、ガラス基板から裏面保護材を分離する技術を開示する。しかし、この技術も、ブレードを用いて、ガラス基板と裏面保護材とを密着する封止材を切断する。この場合、特許文献1に開示される技術と同様に、その分離後において、大量の封止材は、ガラス基板上に密着したまま残存する。従って、特許文献2の技術でも、ガラス基板上に残存した封止材を除去するために、例えば、封止材を高温で長時間焼成し、かつ熱分解する工程が必要となる。
【0007】
本発明の実施形態は、低コスト及び高収率で材料を回収可能な太陽電池モジュールのリサイクル技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係わるリサイクル方法は、カバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備える太陽電池モジュールに適用される。前記リサイクル方法は、前記カバーガラスと前記封止材との界面を所定の温度範囲に加熱し、前記界面が前記所定の温度範囲を維持した状態で前記太陽電池モジュールの側面から前記封止材に力を加えて、前記界面から前記封止材及び前記電池層を引き剥がし、前記力は、セパレータを前記側面から前記封止材に押し当てることで加えられ、前記セパレータは、前記太陽電池モジュールの側面に最初に接触する第1の時点以外の第2の時点において、前記カバーガラスと前記封止材とが分離される境界部に接触しない。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、低コスト及び高収率で材料を回収可能な太陽電池モジュールのリサイクル技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リサイクル装置の第1の例を示す図。
図2】リサイクル装置の第2の例を示す図。
図3】分離装置の変形例を示す図。
図4】太陽電池モジュールの第1の例を示す図。
図5】電池層の例を示す図。
図6】太陽電池モジュールの第2の例を示す図。
図7】リサイクル方法の第1の例を示す図。
図8】リサイクル方法の比較例を示す図。
図9図7の方法の第1の時点での分離の様子を示す図。
図10】第1の時点での分離の様子を詳細に示す図。
図11図7の方法の第2の時点での分離の様子を示す図。
図12】第2の時点での分離の様子を詳細に示す図。
図13図8の方法の分離の様子を示す図。
図14】モジュール温度と封止材の密着力との関係を示す図。
図15】セパレータの接触角度と残存封止材との関係を示す図。
図16】リサイクル方法の第2の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
実施形態では、その説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造又は要素については、簡略化又は省略して説明する。また、図面において、同じ要素には、同じ符号を付すことにする。尚、図面において、各要素の厚さ、形状などは、模式的に示したもので、実際の厚さや形状などを示すものではない。
【0012】
<太陽電池モジュールのリサイクル装置>
まず、太陽電池モジュールのリサイクル装置の例を説明する。
【0013】
図1は、リサイクル装置の第1の例を示す。
太陽電池モジュールのリサイクル装置10は、加熱装置11と、分離装置12と、これらを制御する制御部13と、を備える。
【0014】
加熱装置(ヒータ)11は、リサイクルの対象としての太陽電池モジュールを所定の温度範囲に加熱する。例えば、太陽電池モジュールがカバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備える場合、加熱装置11は、後述するように、カバーガラスと封止材との界面を所定の温度範囲に加熱することを目的に設けられる。これは、後述するように、封止材を電池層と共にカバーガラスから引き剥がすためである。
【0015】
従って、加熱装置11は、カバーガラスと封止材との界面を局所的に加熱できる機能を有するのが望ましい。しかし、加熱装置11は、太陽電池モジュールを全体的に加熱するものであってもよい。この場合でも、太陽電池モジュールを所定の温度範囲に加熱し、かつ封止材にその側面から力を加えることで、封止材を電池層と共にカバーガラスから引き剥がすことができるからである。
【0016】
このようなことから、加熱装置11の種類は、特に限定されない。加熱装置11は、ランプ加熱タイプ、抵抗加熱タイプ、高周波加熱タイプ、誘導加熱タイプなどを利用可能である。
【0017】
分離装置12は、加熱装置11により所定の温度範囲に加熱された太陽電池モジュールに対して、封止材を切断することなく、封止材及び電池層をカバーガラスから引き剥がす機能を有する。分離装置12は、ステージ121と、駆動部122と、セパレータ123と、を備える。ステージ121は、太陽電池モジュールを設置又は搬送するためのものである。駆動部122は、カバーガラス又はステージ121の表面に平行な方向において、太陽電池モジュールとセパレータ123との相対速度を所定の速度範囲とし、かつ前記太陽電池モジュールの側面を前記セパレータに押し当てる。例えば、駆動部122は、ステージ121上の太陽電池モジュールを、セパレータ123に向かう方向に所定の速度範囲で送り出す。
【0018】
セパレータ123は、太陽電池モジュールの側面から封止材に力を加える。セパレータ123は、封止材に力を加えることが可能であれば、形状、固定/可動などに制限されることはない。例えば、同図では、セパレータ123は、曲面部を有する。この曲面部は、太陽電池モジュールの側面に印加される力を、封止材及び電池層をカバーガラスから引き剥がす力、即ち、カバーガラスの表面に垂直な力に有効に変換するために有効である。また、セパレータ123は、固定されていてもよいし、又はカバーガラスの表面に平行な方向、具体的には、太陽電池モジュールに向かう方向に可動であってもよい。
【0019】
制御部13は、コントローラ及びメモリを含む。コントローラは、例えば、CPU、MPUなどである。メモリは、例えば、RAM、ROMなどである。制御部13は、リサイクル装置10内に組み込まれたユニットでもよいし、又はパソコンなどの汎用装置を利用してもよい。
【0020】
制御部13は、封止材を電池層と共にカバーガラスから引き剥がすために、例えば、加熱装置11において太陽電池モジュールを加熱する所定の温度範囲、及び分離装置12において太陽電池モジュールを搬送する所定の速度範囲を制御する。例えば、制御部13は、所定の温度範囲を、40℃以上、140℃以下に設定する。また、制御部13は、所定の速度範囲を、24mm/秒以下(但し、0mm/秒を除く)に設定する。これらの温度範囲及び速度範囲に設定する根拠については、後述する。
【0021】
尚、セパレータ123の角度(後述するセパレータの接触角度に対応)が回転軸Oを中心に変更可能であり、かつセパレータ123の温度が変更可能である場合、制御部13は、セパレータ123の角度及び温度のうちの少なくとも1つを制御してもよい。例えば、制御部13は、セパレータ123の角度を制御することで、上述の封止材及び電池層をカバーガラスから引き剥がす力を制御可能となる。
【0022】
このようなリサイクル装置によれば、後述するリサイクル方法を実行することで、カバーガラスと封止材との界面から、封止材及び電池層を引き剥がすことが可能となる。即ち、太陽電池モジュールのリサイクルにおいて、カバーガラスは、粉砕されず、かつ封止材は、カバーガラス上にほとんど残らない。従って、ガラス材料が有効にリサイクル可能となると共に、カバーガラスをそのまま再利用することも可能となる。
【0023】
図2は、リサイクル装置の第2の例を示す。
本例のリサイクル装置10は、第1の例と比べると、加熱装置を省略し、かつ分離装置12内にヒータ124を設けた点に特徴を有する。それ以外の点については、第1の例と同じであるため、図1で使用した符号と同じ符号を図2でも使用することにより、その詳細な説明を省略する。
【0024】
ヒータ124は、ステージ121の直下に配置される。ヒータ124は、ステージ121の内部に組み込まれていてもよい。ヒータ124の種類は、特に限定されないが、小型化が可能な抵抗加熱タイプ、例えば、ホットプレートなどを利用するのが望ましい。
【0025】
リサイクルの対象としての太陽電池モジュールがカバーガラス側を下にしてステージ121上に配置される場合、ヒータ124は、カバーガラス側から太陽電池モジュールを加熱することができる。即ち、制御部13は、太陽電池モジュールのカバーガラスと封止材との界面を所定の温度範囲に設定することが容易となる。
【0026】
従って、本例のリサイクル装置を用いれば、カバーガラスと封止材との界面における密着力を弱めることが容易に可能となる。その結果、後述するリサイクル方法を実行することで、カバーガラスと封止材との界面から、封止材及び電池層を引き剥がすことが可能となる。
【0027】
図3は、分離装置の変形例を示す。
この変形例は、第1の例(図1)及び第2の例(図2)の双方に適用可能である。
【0028】
この変形例の特徴は、図1及び図2のステージ121に代えて、ローラー125を設けた点にある。ローラー125は、駆動部122による太陽電池モジュールの搬送を容易化する効果を有する。また、この変形例を第2の例に適用した場合、図2のヒータ124を図3のローラー125の間にそれぞれ設け、太陽電池モジュールの加熱効率を高めることも可能である。
【0029】
<太陽電池モジュール>
次に、太陽電池モジュールの例を説明する。
本実施形態の対象となり得る太陽電池モジュールの種類は、特に制限されない。リサイクルの対象としての太陽電池モジュールは、少なくともカバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備えていればよい。
【0030】
以下では、本実施形態の対象となり得る太陽電池モジュールの例として、化合物系太陽電池モジュールと、シリコン系太陽電池モジュールと、の2つを説明する。
【0031】
図4は、太陽電池モジュールの第1の例を示す。
第1の例は、化合物系太陽電池モジュールの例である。化合物系太陽電池モジュールは、シリコン系太陽電池モジュールに比べて、薄膜化及び低コスト化が可能であるという特徴を有する。
【0032】
太陽電池モジュール20は、電池セル部21と、バックシート22と、カバーガラス23と、封止材24と、を備える。電池セル部21は、基板ガラス21Aと、基板ガラス21A上の電池層21Bと、を備える。即ち、太陽電池モジュール20は、電池層21Bが2枚のガラス板(カバーガラス23と基板ガラス21A)に挟まれる構造を有する。
【0033】
但し、基板ガラス21Aは、樹脂基板、金属基板、柔軟性のあるフレキシブル基板、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、及び、酸化アルミニウムの積層構造を有するフレキシブル基板など、に変更可能である。また、基板ガラス21Aは、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を含んでもよい。
【0034】
電池層21Bは、光を電気に変換する機能を有する。光は、カバーガラス23側から電池層21Bに入射される。電池層21Bは、例えば、図5に示す構造を有する。
【0035】
図5において、電池層21Bは、基板ガラス21A上の第1の電極層211と、第1の電極層211上の光電変換層212と、光電変換層212上のバッファ層213と、バッファ層213上の第2の電極層214と、を備える。
【0036】
第1の電極層211は、例えば、金属電極層である。第1の電極層211は、光電変換層212との反応が発生し難い材料を備えるのが望ましい。第1の電極層211は、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などから選択可能である。第1の電極層211は、第2の電極層214内に含まれる材料と同じ材料を含んでもよい。第1の電極層211の厚さは、200nm以上、500nm以下に設定される。
【0037】
光電変換層212は、多結晶又は微結晶のp型化合物半導体層である。例えば、光電変換層212は、I族元素と、III族元素と、VI族元素(カルコゲン元素)としてセレン(Se)及び硫黄(S)と、を含むカルコパイライト構造の混晶化合物(I-III-(Se, S)2)を備える。I族元素は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などから選択可能である。III族元素は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)などから選択可能である。また、光電変換層212は、VI族元素として、セレン及び硫黄の他に、テルル(Te)などを含んでもよい。光電変換層212は、薄膜化され、その厚さは、1μm以上、1.5μm以下に設定される。
【0038】
バッファ層213は、例えば、n型又はi(intrinsic)型高抵抗導電層である。ここで言う「高抵抗」とは、第2の電極層214の抵抗値よりも高い抵抗値を有するという意味である。バッファ層213は、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)を含む化合物から選択可能である。亜鉛を含む化合物としては、例えば、ZnO、ZnS、Zn(OH)2、又は、これらの混晶であるZn(O, S)、Zn(O, S, OH)、さらには、ZnMgO、ZnSnOなど、がある。カドミウムを含む化合物としては、例えば、CdS、CdO、又は、これらの混晶であるCd(O, S)、Cd(O, S, OH)がある。インジウムを含む化合物としては、例えば、InS、InO、又は、これらの混晶であるIn(O, S)、In(O, S, OH)がある。また、バッファ層213は、これらの化合物の積層構造を有してもよい。バッファ層213の厚さは、10nm以上、100nm以下に設定される。
【0039】
バッファ層213は、光電変換率などの特性を向上させる効果を有するが、これを省略することも可能である。バッファ層213が省略される場合、第2の電極層214は、光電変換層212上に配置される。
【0040】
第2の電極層214は、例えば、n型導電層である。第2の電極層214は、例えば、禁制帯幅が広く、抵抗値が十分に低い材料を備えるのが望ましい。また、第2の電極層214は、太陽光などの光の通り道となるため、光電変換層212が吸収可能な波長の光を透過する性質を持つのが望ましい。この意味から、第2の電極層214は、透明電極層又は窓層と呼ばれる。
【0041】
第2の電極層214は、例えば、III族元素(B、Al、Ga、又は、In)がドーパントとして添加された酸化金属を備える。酸化金属の例としては、ZnO、又は、SnO2がある。第2の電極層214は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、ITiO(酸化インジウムチタン)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ZTO(酸化亜鉛スズ)、FTO(フッ素ドープト酸化スズ)、GZO(ガリウムドープト酸化亜鉛)など、から選択可能である。第2の電極層214の厚さは、0.5μm以上、2.5μm以下に設定される。
【0042】
図4の説明に戻る。
バックシート22は、基板ガラス21Aの裏面を覆う。ここで、基板ガラス21Aの裏面とは、基板ガラス21Aの2つの表面のうち、電池層21Bが設けられる表面とは反対側の表面のことを言うものとする。バックシート22は、例えば、PET(Poly Ethylene Terephthalate)、金属箔(例えば、アルミニウム箔)などを備える。
【0043】
封止材24は、電池層21Bとカバーガラス23との間に配置される。カバーガラス23は、例えば、白板強化ガラス、透明な樹脂板などである。封止材24は、例えば、EVA(Ethylene Vinyl Acetate)、PVB(Poly Vinyl Butyral)、シリコン樹脂など、の材料を備える。封止材24は、加圧及び加熱により、電池層21Bを封止すると共に、電池層21Bとカバーガラス23とを互いに密着する。
【0044】
図6は、太陽電池モジュールの第2の例を示す。
第2の例は、シリコン系太陽電池モジュールの例である。
【0045】
太陽電池モジュール20は、電池セル部21と、バックシート22と、カバーガラス23と、電池セル部21を封止する封止材24と、を備える。封止材24は、バックシート22及びカバーガラス23を互いに密着する。即ち、電池セル部21は、バックシート22とカバーガラス23との間に挟み込まれる。
【0046】
シリコン系太陽電池モジュールは、電池層として、シリコン基板からなる電池セル部21を備えている。電池セル部21は、第1の例に示した化合物系太陽電池モジュールにおける電池層と同様に、封止材24により封止される。
【0047】
尚、バックシート22、カバーガラス23、及び封止材24については、第1の例と同じであるため、ここでの説明を省略する。
【0048】
<太陽電池モジュールのリサイクル方法>
次に、太陽電池モジュールのリサイクル方法の例を説明する。
【0049】
・第1の例
第1の例は、太陽電池モジュールから基板ガラスを、封止材をほとんど残さず引き剥がす方法に関する。
【0050】
太陽電池モジュールのリサイクルにおける技術的な課題の一つは、カバーガラスから封止材を如何に効率的に引き剥がすかにある。例えば、EVAなどの封止材は、上述したように、カバーガラスと電池セル部との間を密着しながら埋め込むことで、電池セル部への水分や塵などの侵入を防ぐ役割を有する。即ち、より確実な封止を実現するほど、カバーガラスから封止材を引き剥がすことが難しくなる。
【0051】
そこで、本発明者らは、如何にしたらカバーガラス上に封止材をほとんど残すことなく、カバーガラスから封止材を引き剥がすことができるかを検討したところ、そのためには、太陽電池モジュールの温度、具体的には、カバーガラスと封止材との界面の温度と、封止材を引き剥がすときに太陽電池モジュールに加える力と、が重要であることを見出した。この温度と力との関係に基づき、封止材をカバーガラスから引き剥がすという思想は、従来、存在しなかったものである。
【0052】
図7は、太陽電池モジュールのリサイクル方法の第1の例を示す。
リサイクルの対象としての太陽電池モジュール20は、前提として、電池セル部21と、カバーガラス23と、これらを密着する封止材24と、を備えるものとする。
【0053】
同図に示すように、本例では、引き剥がしによるカバーガラス分離工程を実行し、太陽電池モジュール20を、カバーガラス23と、それ以外の電池セル部21及び封止材24と、に分離する。ここで、引き剥がしによるカバーガラス分離工程とは、カバーガラス23と封止材24との界面を所定の温度範囲に設定し、かつその界面が所定の温度範囲を維持した状態で太陽電池モジュール20の側面から電池セル部21に力を印加する工程のことである(ステップST01)。
【0054】
カバーガラス23と封止材24との界面を所定の温度範囲に設定するのは、カバーガラス23と封止材24との密着力を弱めるためである。但し、封止材24は、溶けるほどまでには加熱しない。本例では、封止材24は、軟化温度以上、溶解温度以下に設定される。また、電池セル部21に力を印加するのは、その力が印加された部分を起点にして、電池セル部21及び封止材24をカバーガラス23から引き剥がすためである。
【0055】
このように、第1の例の方法によれば、カバーガラス23と、それ以外の電池セル部21及び封止材24と、の分離を、簡易かつスムーズに行うことができる。また、この分離後において、カバーガラス23は、粉砕されず、かつ封止材24は、カバーガラス23上にほとんど残らない。即ち、封止材24は、カバーガラス23上に全く存在しないか、又はその縁部に少し残存する程度である。
【0056】
結果として、本例の方法によれば、太陽電池モジュール20から分解されたリサイクル用のカバーガラス23として、ガラス本体の重量に対する、ガラス本体に残存した封止材24の重量の比が9%以下のカバーガラス23を提供可能となる。但し、ガラス本体とは、封止材24が全く付着していないカバーガラス23のことである。従って、本例の方法によれば、カバーガラス23からガラス材料を有効にリサイクル可能となると共に、カバーガラス23をそのまま再利用することも可能となる。
【0057】
図8は、太陽電池モジュールのリサイクル方法の比較例を示す。
比較例は、カバーガラス23から封止材24を引き剥がすことが難しいことから、封止材24をブレードにより切断する技術に関する。尚、図8において、図7と同じ要素には同じ符号を付すことにより、両者の比較を容易化する。
【0058】
従来は、カバーガラス23から封止材24を引き剥がすということはせず、切断によるカバーガラス分離工程により、電池セル部21とカバーガラス23とを分離するのが一般的である。ここで、切断によるカバーガラス分離工程とは、ブレードにより封止材24を切断することで、電池セル部21とカバーガラス23とを分離する工程のことである(ステップST11)。
【0059】
しかし、この場合、封止材24は、カバーガラス23上に大量に残存する。しかも、カバーガラス23の表面は、太陽光を効率的に電池セル部21に導くために、微細な凹凸(エンボス)が多数設けられている。即ち、カバーガラス23の凹部内に残存した封止材24を物理的に取り除くことは、極めて困難である。従って、比較例では、切断によるカバーガラス分離工程により得られるカバーガラス23に対して、さらに、封止材除去工程を実行する必要がある(ステップST12)。
【0060】
封止材除去工程は、例えば、封止材24を高温で約13時間焼成し、かつ熱分解する工程であり、結果として、リサイクルコストが膨大となると共に、COの発生により環境負荷も大きくなる。
【0061】
以上、図7及び図8の比較から明らかなように、太陽電池モジュールのリサイクル方法の第1の例によれば、太陽電池モジュールの温度と、太陽電池モジュールに印加する力と、に基づき、カバーガラスから封止材及び電池セル部を引き剥がすことが可能となる。従って、本例によれば、低コスト及び高収率で材料を回収可能な太陽電池モジュールのリサイクル技術を実現できる。
【0062】
次に、図9乃至図13を参照しつつ、太陽電池モジュールのリサイクル方法の第1の例の詳細を説明する。尚、図9乃至図13において、既に説明した図1乃至図8に示す要素と同じ要素には同じ符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0063】
まず、例えば、図4又は図6に示す太陽電池モジュール20からバックシート22を除去する。この後、図1の加熱装置11又は図2のヒータ124を用いて、太陽電池モジュール20を所定の温度範囲、例えば、40℃以上、140℃以下の温度に設定する。これにより、予め、カバーガラス23と封止材24との間の結合力を弱めておく。
【0064】
この後、図9に示すように、セパレータ123を太陽電池モジュール20の側面に押し当てる。例えば、セパレータ123を静止させた状態で、太陽電池モジュール20をステージ121の上面に平行な方向に移動させることで、結果として、セパレータ123を太陽電池モジュール20の側面に押し当てる。この時点は、セパレータ123が太陽電池モジュール20の側面に最初に接触する第1の時点である。この時、電池セル部21、即ち、基板ガラス21A及び電池層21Bは、セパレータ123から力を受ける。
【0065】
例えば、図10に示すように、セパレータ123が曲面部を備える場合、その曲面部が電池セル部21に接触すると、電池セル部21は、セパレータ123から力Fを受ける。この力Fの一部は、電池セル部21を封止材24と共にカバーガラス23から引き剥がす力Fupとなる。従って、図11に示すように、電池セル部21及び封止材24は、セパレータ123と電池セル部21との接触部を起点に、カバーガラス23から引き剥がされていく。
【0066】
ここで、図11に示すように、電池セル部21は、粉砕されながら、カバーガラス23から引き剥がされる。従って、カバーガラス23から分離された電池セル部21及び封止材24は、図7に示すように、ガラスカレットとなる。このガラスカレットから電池セル部21内の材料、及び封止材24を回収する方法については、後述する。
【0067】
また、図11に示すように、セパレータ123が電池セル部21とカバーガラス23との間に入り込むと、セパレータ123と電池セル部21との接触部も変わる。この時点は、上述の第1の時点以外の第2の時点である。この時、図12に示すように、接触部Pにおいて、電池セル部21は、セパレータ123から力Fを受ける。また、接触部Pにおける接線Lとカバーガラス23の表面とのなす角度(接触角度)θは、例えば、36°以上、51°以下であるのが望ましい。その根拠については、後述する。
【0068】
また、第2の時点では、セパレータ123は、カバーガラス23と封止材24とが分離される境界部Xに接触しない。
【0069】
ここで、簡単に、図8の比較例での分離の様子を説明する。
図13に示すように、比較例では、ブレード(例えば、ホットナイフ)126を用いて、電池セル部21とカバーガラス23とを分離する。この分離は、ブレード126により封止材24を切断することにより行う。この時、ブレード126は、常に、カバーガラス23と封止材24とが分離される境界部Xに接触する。
【0070】
このように、カバーガラス23が下に向いた状態で太陽電池パネル20をセパレータ123に向かって送り出し、かつ太陽電池パネル20の側面をセパレータ123に押し当てることで、カバーガラス23のみがステージ121上に残ってそのまま流れ、それ以外の電池セル部21及び封止材24は、ガラスカレットとして、カバーガラス23から分離される。
【0071】
また、封止材24は、カバーガラス23上にほとんど残らないため、カバーガラス23の回収を短時間かつ低コストで行うことができる。また、カバーガラス23をそのまま再利用することも可能となる。
【0072】
尚、本例の方法を用いれば、従来よりもカバーガラス23上に残存する封止材24の量を減らすことができるという効果を得ることができる。但し、カバーガラス23上に残存する封止材24の量、即ち、本例の方法による効果の程度は、種々のパラメータ(モジュール温度、セパレータの接触角度、太陽電池モジュールの搬送速度、セパレータ温度など)により変わる。これについては、後述する。
【0073】
・実験例
次に、上述の第1の例に係る効果の程度を決めるパラメータの例を説明する。以下に説明するパラメータにおける数値限定は、実験結果に基づくものである。リサイクルの対象としての太陽電池モジュールは、化合物系太陽電池モジュールの代表例であるCIS系太陽電池モジュールとし、かつ図4に示す構造(但し、バックシート22が除去された状態のもの)を有するものとする。
【0074】
[モジュール温度]
図14は、モジュール温度と封止材の密着力との関係を示す。
封止材は、電池セル部への水分や塵などの侵入を防止するため、室温(RT)においてカバーガラスと電池セル部とを強固に密着させる役割を有する。従って、ここでは、室温、例えば、約20℃における封止材の密着力を100%とし、モジュール温度によってこの密着力がどのように変化するかを検証する。
【0075】
同図によれば、封止材の密着力、即ち、カバーガラスに対する密着力は、モジュール温度、即ち、カバーガラスと封止材との界面の温度が上昇するにつれて低下することが分かる。但し、封止材は、EVAとする。例えば、モジュール温度が40℃になると、封止材の密着力は、室温のときの密着力の約半分(約50%)に低下する。また、モジュール温度が60℃になると、封止材の密着力は、室温のときの密着力の約25%に低下し、モジュール温度が120℃になると、封止材の密着力は、室温のときの密着力の約10%に低下する。
【0076】
上述の引き剥がしによるカバーガラス分離工程において、封止材の密着力は、低ければ低いほど望ましいが、概ね、室温のときの密着力の50%以下にしておけば、後述するように、ガラス材料のリサイクルに支障のないカバーガラスを回収できる。ここで、ガラス材料のリサイクルに支障のないカバーガラスとは、残存封止材の重量比が9%以下のカバーガラスを意味する。また、残存封止材の重量比とは、カバーガラスの重量をAとし、カバーガラス上に残存する封止材の重量をBとした場合に、(B/A)×100「%」で定義されるものとする。
【0077】
従って、封止材がEVAの場合、カバーガラスの回収を概ね支障なく行うために、モジュール温度は、40℃以上であるのが望ましい。また、既に述べたように、封止材は、軟化温度以上、溶解温度以下であることが必要である。この点を考慮すると、EVAの場合、モジュール温度は、140℃以下であるのが望ましい。結果として、モジュール温度がT1の範囲内、即ち、40℃以上、140℃以下において、カバーガラスの回収を簡易に行うことができるという効果が得られる。
【0078】
また、封止材がEVAの場合、カバーガラスの回収をさらに支障なく行うために、モジュール温度は、T2の範囲内、即ち、60℃以上、140℃以下であるのが望ましい。さらに、後述するように、残存封止材の重量比が3%以下のカバーガラスを実現し、上述の引き剥がしによるカバーガラス分離工程による最大の効果を得るためには、モジュール温度は、T3の範囲内、即ち、120℃以上、140℃以下であるのが望ましい。
【0079】
次に、上述の第1の例に係る効果を表す指標としての残存封止材の重量比がモジュール温度以外の他のパラメータによってどのように変化するかを検証する。
【0080】
[セパレータの接触角度]
図15は、セパレータの接触角度と残存封止材との関係を示す。
セパレータの接触角度とは、セパレータと電池セル部との接触部における接線とカバーガラスの表面(又はステージの表面)とのなす角度のことである。例えば、図12に示すように、接触部Pにおける接線Lとカバーガラス23の表面とのなす角度θのことを、セパレータの接触角度と定義する。
【0081】
セパレータの接触角度は、セパレータの形状、特に、曲面部の形状を変えたり、又は太陽電池モジュールの側面をセパレータに押し当てるときのセパレータの角度を変えたりすることで、変化させることが可能である。また、太陽電池モジュールの側面をセパレータに押し当てるときのセパレータの角度は、例えば、図1に示すように、セパレータ123が回転軸Oを中心に回転可能である場合には、容易に変更可能となる。
【0082】
同図において、横軸は、モジュール温度[℃]を示し、縦軸は、残存封止材の重量比(B/A)×100[%]を示す。そして、上述の第1の例による効果が得られるモジュール温度の範囲T1(40℃≦T1≦140℃)内において、残存封止材の重量比を9%以下にするために必要なセパレータの接触角度を検証したのが同図である。
【0083】
セパレータの接触角度は、4種類(36°、41°、46°、51°)を用意した。同図によれば、セパレータの接触角度が36°以上、51°以下の範囲内において、残存封止材の重量比は、9%以下になることが分かる。また、同図によれば、モジュール温度が最も低い点(40℃)において、残存封止材の重量比が最も大きくなることが分かる。しかも、モジュール温度40℃において、残存封止材の重量比が最も大きくなるセパレータの接触角度は、36°(最小値)と51°(最大値)である。
【0084】
即ち、セパレータの接触角度が36°を下回るか、又は51°を超えると、モジュール温度がT1の範囲内において、残存封止材の重量比が9%を超える可能性があることが容易に予測される。従って、モジュール温度がT1の範囲内で残存封止材の重量比が9%以下になるという効果を得るためには、セパレータの接触角度は、36°以上、51°以下であるのが望ましい。
【0085】
また、モジュール温度は、図14で説明したように、120℃以上、140℃以下の範囲T3内において、封止材(EVA)の密着力を最も低くするという効果を奏する。そこで、図15において、この温度範囲T3内で、セパレータの接触角度により残存封止材の重量比がどのようになるかを見ると、セパレータの接触角度が36°以上、51°以下で、残存封止材の重量比を3%以下にできることが分かる。従って、モジュール温度がT3の範囲内で残存封止材の重量比が3%以下になるという効果を得るためには、セパレータの接触角度は、36°以上、51°以下であるのが望ましい。
【0086】
[その他のパラメータ]
上述の第1の例に係る効果の程度を決めるパラメータは、モジュール温度及びセパレータの接触角度以外に、太陽電池モジュールの搬送速度、セパレータ温度などがある。
【0087】
太陽電池モジュールのリサイクルにおいては、上述したように、カバーガラスの表面に平行な方向において、太陽電池モジュールとセパレータとの相対速度は、所定の速度範囲に設定され、かつ太陽電池モジュールの側面は、セパレータに押し当てられる。そこで、この所定の速度範囲、例えば、太陽電池モジュールの搬送速度(セパレータが停止している場合)と残存封止材の重量比との関係を検証した。その結果、モジュール温度がT1の範囲内で残存封止材の重量比が9%以下になるという効果を得るためには、太陽電池モジュールの搬送速度は、例えば24mm/s以下(但し、0mm/sを除く)とすることができる。
【0088】
即ち、太陽電池モジュールの搬送速度は、遅ければ遅いほど、言い換えれば、封止材をカバーガラスから剥がす速度は、ゆっくりであればあるほど、カバーガラス上に残存する封止材の量が減ることが判明した。しかし、太陽電池モジュールの搬送速度が遅いと、リサイクルにおけるスループットが悪くなる恐れが生じる。そこで、このスループットを考慮すると、太陽電池モジュールの搬送速度は、例えば3mm/s以上、24mm/s以下とすることができる。
【0089】
セパレータ温度も、残存封止材の重量比に影響を及ぼす。しかし、実験により検証したところ、セパレータ温度は、極端に大きくならない限り、残存封止材の重量比に影響を与えない。例えば、セパレータ温度は、約140℃を超えた時点から、封止材の剥離を悪化させる方向に作用し、約200℃を超えると、残存封止材の重量比を極端に増大させる。これは、セパレータ温度が約140℃を超えると、封止材(EVA)中の酢酸の離脱が発生することに一因があると考えられる。
【0090】
従って、セパレータ温度は、モジュール温度と同様に、140℃以下であるのが望ましい。これは、上述したように、モジュール温度が140℃以下のときに残存封止材の重量比を9%以下にできることに整合する。但し、セパレータの役割は、電池セル部を封止材と共にカバーガラスから引き剥がすことにあり、封止材の密着力の調整は、モジュール温度により行う。即ち、セパレータ温度は、室温に維持されていれば十分であり、かつそのほうがリサイクル方法の制御性及び本実施の形態による効果の面から望ましい。
【0091】
以上、説明したように、第1の例によれば、ガラス材料のリサイクルに支障のないカバーガラスを簡易に回収できる。即ち、第1の例によれば、低コスト及び高収率で材料を回収可能な太陽電池モジュールのリサイクル技術を実現できる。
【0092】
・第2の例
第2の例は、上述の第1の例に係る方法を含む太陽電池モジュールのリサイクル方法の全体フローに関する。第2の例は、リサイクルの対象としての太陽電池モジュールからそれらを構成する全ての材料を高収率、低コスト、かつ低環境負荷で回収する技術である。
【0093】
第2の例に係るリサイクル方法は、以下の3つの工程を有することを特徴とする。
1) カバーガラス分離工程(ステップST01)
2) リフトオフ工程(ステップST02)
3) 抽出工程(ステップST03)
【0094】
カバーガラス分離工程(ステップST01)は、図7及び図9図12で既に説明した引き剥がしによるカバーガラス分離工程である。この工程において、太陽電池モジュールは、カバーガラスと、それ以外のガラスカレット(電池セル部及び封止材)と、に分離される。また、リフトオフ工程(ステップST02)は、溶解液を用いて電池セル部のうち電池層を溶解することで、このガラスカレットから基板ガラスと封止材とを回収する工程である。さらに、抽出工程(ステップST03)は、溶解された電池層を含む溶解液から溶解液中に含まれる各種材料を抽出することで、溶解液中に含まれる各種材料を回収する工程である。
【0095】
リフトオフ工程(ステップST02)及び抽出工程(ステップST03)は、溶解液を用いる工程であることから、液相リサイクル工程と称される。
【0096】
以下、図16を参照しながら、第2の例に係る太陽電池モジュールのリサイクル方法を説明する。尚、リサイクルの対象としての太陽電池モジュールは、CIS系太陽電池モジュールとし、かつ図4に示す構造(但し、図示しないフレームを含む状態のもの)を有するものとする。
【0097】
まず、フレーム除去工程により、リサイクルの対象としての太陽電池モジュール20からフレームを取り外す。ここで、フレームは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などの材料を備える。続けて、バックシート除去工程により、太陽電池モジュール20からバックシートを引き剥がす。フレーム除去工程及びバックシート除去工程は、周知の方法により実行される。
【0098】
次に、カバーガラス分離工程(ステップST01)により、太陽電池モジュール20からカバーガラス23を引き剥がす。この工程により得られるカバーガラス23は、既に説明したように、例えば、ガラス本体の重量に対する、ガラス本体に残存した封止材24の重量の比が9%以下である。従って、カバーガラス23に残存する封止材は、微量であり、結果として、カバーガラス23からガラス材料を有効にリサイクル可能となると共に、カバーガラス23をそのまま再利用することも可能となる。
【0099】
一方、カバーガラス分離工程により得られるカバーガラス23以外のガラスカレットは、電池セル部21及び封止材24を含む。また、電池セル部21は、例えば、基板ガラス21Aと、電池層21Bと、を含む。電池層21Bは、例えば、図5に示すように、第1の電極層211と、光電変換層212と、バッファ層213と、第2の電極層214と、を含む。光電変換層212は、例えば、Cu(Inx, Ga1-x)(Sey, S1-y)2、但し、0≦x≦1、0<y<1を備える。電池層21Bの主要部である光電変換層212がCu、In、及びSeを含む場合、電池層21Bは、一般的に、CIS型と称される。
【0100】
このように、ガラスカレットは、割れた基板ガラス21Aと、電池層21Bと、封止材24と、が互いに密着した状態を有する。そこで、ガラスカレットは、リフトオフ工程(ステップST02)により、溶解液31を用いて電池層21Bを溶解することで、割れた基板ガラス21Aと、封止材24と、溶解された電池層21Bを含む溶解液31と、に分離される。
【0101】
例えば、溶解液31が硝酸溶液である場合、例えば、CIS型の電池層21Bは、硝酸溶液中に溶解される。一方、電池層21Bを挟み込んでいた基板ガラス21A及び封止材24は、硝酸溶液中に溶解されないため、互いに固体のまま分離される(リフトオフ工程)。また、基板ガラス21Aは、重量が重いので硝酸溶液の槽32の底部に沈んだ状態となり、かつ封止材24は、重量が軽いので硝酸溶液の槽32の上部に浮いた状態となる。
【0102】
従って、基板ガラス21A及び封止材24は、ガラスカレットを溶解液31中に浸すリフトオフ工程により、互いに分離され、かつ別々に回収される。また、このリフトオフ工程により、CIS型の電池層21Bは、溶解液31中に溶解された状態で回収される(液相リサイクル工程)。
【0103】
最後に、基板ガラス21A及び封止材24を取り除いた後の溶解液31から各種材料を回収するために、抽出工程(ステップST03)が実行される。この抽出工程により、CIS型の電池層21B内に含まれる銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)、ガリウム(Ga)、硫黄(S)、亜鉛(Zn)など、を順次回収する場合、それらの回収率は、90%以上を実現できる。
【0104】
従来、CIS型の電池層の回収は、例えば、電池層を研磨し、かつ粉体にすることにより行っていた(粉体回収工程)。この粉体回収工程による各種材料の回収率は、粉体という性質から純度の向上に限界があり、1%以下であった。このような実情を鑑みると、液相リサイクル工程は、電池層内に含まれる各種材料の回収率が各段に向上することから、非常に優れた技術と言うことができる。
【0105】
また、セレンは、有害物質であることから、液相リサイクル工程によりセレンを高い回収率で回収することは、有害物質の非拡散という観点からも望ましい。さらに、液相リサイクル工程は、溶解液31として、CIS型の電池層21Bを溶解する薬液、例えば、硝酸溶液を使用する。これは、例えば、EVAなどの封止材24を溶解するための有機溶剤を使用しなくてよいことを意味する。
【0106】
上述のカバーガラス分離工程、リフトオフ工程、及び抽出工程を用いた太陽電池モジュールのリサイクル方法によれば、各種材料を回収するまでに要するリサイクルコストは、40円/kg以下、具体的には、約34円/kgを実現できる。従来の手法(図8+粉体回収工程)の場合、各種材料を回収するまでに要するリサイクルコストは、約57円/kgであることからすれば、第2の例に係る方法は、リサイクルコストの面からも非常に有効である。
【0107】
尚、この約34円/kgという数値は、太陽電池モジュールの定格出力1W当たりのコストに換算すると、4.1円/Wに相当する。即ち、太陽電池パネルの定格出力1W当たりの製造コストが60~70円/Wであると仮定すると、リサイクルコストは、その製造コストの1割以下を実現できる。
【0108】
<むすび>
以上、説明したように、本発明の実施形態によれば、低コスト及び高収率で材料を回収可能な太陽電池モジュールのリサイクル技術を実現できる。
【0109】
即ち、カバーガラス分離工程によれば、低コスト及び高収率でカバーガラスを回収でき、かつ封止材の焼成/分解工程が不要なため、COの排出がなく、環境負荷も小さくできる。また、リフトオフ工程によれば、低コスト及び高収率で基板ガラスを回収でき、かつ有機溶剤を使用しないため、安全性も向上できる。また、リフトオフ工程によれば、封止材が分解されないため、封止材も回収可能となる。さらに、抽出工程によれば、溶解液中から各種材料を化学的に取り出すことで、電池層内に含まれる各種材料を低コスト及び高収率で回収でき、かつ有害物質の非拡散という効果も実現できる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。これら実施形態は、上述以外の様々な形態で実施することが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更など、を行える。これら実施形態及びその変形は、本発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物についても、本発明の範囲及び要旨に含まれる。
【0111】
本出願は2018年4月19日に出願した日本国特許出願2018-080716号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-080716号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0112】
10:太陽電池モジュールのリサイクル装置、11:加熱装置、12:分離装置、121:ステージ、122:駆動部、123:セパレータ、124:ヒータ、125:ローラー、126:ブレード、13:制御部、20:太陽電離モジュール、21:電池セル部、21A:基板ガラス、21B:電池層、211:第1の電極層、212:光電変換層、213:バッファ層、214:第2の電極層、22:バックシート、23:カバーガラス、24:封止材、31:溶解液、32:槽

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16