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特開2023-123757トランスフェリン受容体結合タンパク質を使用するための、親和性に基づく方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123757
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】トランスフェリン受容体結合タンパク質を使用するための、親和性に基づく方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230829BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230829BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230829BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230829BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20230829BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K47/64
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
C12N9/99
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107814
(22)【出願日】2023-06-30
(62)【分割の表示】P 2020507090の分割
【原出願日】2018-08-10
(31)【優先権主張番号】62/543,658
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/583,314
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2018/018371
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518086619
【氏名又は名称】デナリ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Denali Therapeutics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デニス マーク エス.
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン アダム ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ ロバート シー.
(72)【発明者】
【氏名】ズチェロ ジョイ ユ
(72)【発明者】
【氏名】カリオリス ミハリス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】血液脳関門を通過して作用物質を輸送するための方法を提供する。
【解決手段】治療標的に結合する作用物質を、哺乳動物の血液脳関門(BBB)を通過して輸送するための方法であって、約400nM~約2μMの親和性でトランスフェリン受容体(TfR)に結合するタンパク質にBBBを曝露することを含み、前記タンパク質が、作用物質に連結されており、かつ、連結された作用物質を、BBBを通過して輸送する、前記方法とする。いくつかの実施形態では、前記作用物質は、神経変性疾患を治療するための治療標的に結合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療標的に結合する作用物質を、哺乳動物の血液脳関門(BBB)を通過して輸送するための方法であって、
約400nM~約2μMの親和性でトランスフェリン受容体(TfR)に結合するタンパク質に前記BBBを曝露することを含み、前記タンパク質が、前記作用物質に連結されており、かつ、連結された前記作用物質を、前記BBBを通過して輸送する、前記方法。
【請求項2】
前記作用物質への脳曝露時間が延長される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療標的が神経変性疾患に関与している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
約400nM~約2μMの親和性でTfRに結合するタンパク質を哺乳動物に投与することを含み、前記タンパク質が、神経変性疾患に関与している治療標的に結合する作用物質に連結されており、それにより前記作用物質への前記哺乳動物の脳の曝露時間が延長される、前記神経変性疾患を治療するための方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、より強い親和性で前記TfRに結合する参照タンパク質に連結された作用物質と比較して前記作用物質への脳曝露時間を延長する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
脳曝露が、時間に対する前記作用物質の脳中濃度のプロットの曲線下面積(AUC)を測定することによって判定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質が、より強い親和性で前記TfRに結合する参照タンパク質に連結された作用物質と比較して、前記哺乳動物における治療有効濃度での前記作用物質への脳曝露時間を延長する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記参照タンパク質が、約50nMの親和性またはこれよりも強い親和性で前記TfRに結合する、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記TfRが霊長類TfRである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記霊長類TfRがヒトTfRである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質が前記TfRアピカルドメインに結合する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が、約420nM~約1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が、約600nM~約1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記作用物質の治療有効濃度が、前記哺乳動物における神経変性疾患の1つ以上の症状を治療する濃度である、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記作用物質が抗体可変領域を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記作用物質が抗体フラグメントを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記作用物質がFabまたはscFVを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質が、TfRに結合することができる非天然結合部位を含む改変Fcポリペプチドである、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質が、TfRに特異的に結合する抗体可変領域を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質が抗体フラグメントを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質がFabまたはscFVを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記治療標的が、β-セクレターゼ1(BACE1)タンパク質、タウタンパク質、骨髄細胞で発現する誘発受容体2(triggering receptor expressed on myeloid cells 2:TREM2)タンパク質、及びα-シヌクレインタンパク質からなる群から選択される、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記治療標的がBACE1であり、かつ、前記タンパク質に連結された場合の前記作用物質が、前記参照タンパク質に連結された場合と比較して、前記哺乳動物の脳内に存在するアミロイドβタンパク質(Aβ)の量をより長時間にわたって減少させる、請求項5~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記作用物質に連結された前記タンパク質が、薬学的に許容される担体の一部として投与される、請求項4~24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年2月15日出願の国際特許出願番号PCT/US2018/018371、2017年11月8日出願の米国特許仮出願第62/583,314号、及び2017年8月10日出願の米国特許仮出願第62/543,658号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の開示内容をあらゆる目的でそれらの全容にわたって本明細書に参照により援用するものである。
【発明の概要】
【0002】
[本発明1001]
治療標的に結合する作用物質を、哺乳動物の血液脳関門(BBB)を通過して輸送するための方法であって、
約400nM~約2μMの親和性でトランスフェリン受容体(TfR)に結合するタンパク質に前記BBBを曝露することを含み、前記タンパク質が、前記作用物質に連結されており、かつ、連結された前記作用物質を、前記BBBを通過して輸送する、前記方法。
[本発明1002]
前記作用物質への脳曝露時間が延長される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記治療標的が神経変性疾患に関与している、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
約400nM~約2μMの親和性でTfRに結合するタンパク質を哺乳動物に投与することを含み、前記タンパク質が、神経変性疾患に関与している治療標的に結合する作用物質に連結されており、それにより前記作用物質への前記哺乳動物の脳の曝露時間が延長される、前記神経変性疾患を治療するための方法。
[本発明1005]
前記タンパク質が、より強い親和性で前記TfRに結合する参照タンパク質に連結された作用物質と比較して前記作用物質への脳曝露時間を延長する、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
脳曝露が、時間に対する前記作用物質の脳中濃度のプロットの曲線下面積(AUC)を測定することによって判定される、本発明1005の方法。
[本発明1007]
前記タンパク質が、より強い親和性で前記TfRに結合する参照タンパク質に連結された作用物質と比較して、前記哺乳動物における治療有効濃度での前記作用物質への脳曝露時間を延長する、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記参照タンパク質が、約50nMの親和性またはこれよりも強い親和性で前記TfRに結合する、本発明1005~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記TfRが霊長類TfRである、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記霊長類TfRがヒトTfRである、本発明1009の方法。
[本発明1011]
前記タンパク質が前記TfRアピカルドメインに結合する、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記タンパク質が、約420nM~約1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記タンパク質が、約600nM~約1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記作用物質の治療有効濃度が、前記哺乳動物における神経変性疾患の1つ以上の症状を治療する濃度である、本発明1007~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1003~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記作用物質が抗体可変領域を含む、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記作用物質が抗体フラグメントを含む、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記作用物質がFabまたはscFVを含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記タンパク質が、TfRに結合することができる非天然結合部位を含む改変Fcポリペプチドである、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記タンパク質が、TfRに特異的に結合する抗体可変領域を含む、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1021]
前記タンパク質が抗体フラグメントを含む、本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記タンパク質がFabまたはscFVを含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記治療標的が、β-セクレターゼ1(BACE1)タンパク質、タウタンパク質、骨髄細胞で発現する誘発受容体2(triggering receptor expressed on myeloid cells 2:TREM2)タンパク質、及びα-シヌクレインタンパク質からなる群から選択される、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記治療標的がBACE1であり、かつ、前記タンパク質に連結された場合の前記作用物質が、前記参照タンパク質に連結された場合と比較して、前記哺乳動物の脳内に存在するアミロイドβタンパク質(Aβ)の量をより長時間にわたって減少させる、本発明1005~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記作用物質に連結された前記タンパク質が、薬学的に許容される担体の一部として投与される、本発明1004~1024のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】野生型マウスにおけるCH3Cポリペプチドの薬物動態学(PK)分析を示す。すべてのポリペプチド-Fab融合体は、より速いクリアランスを示したCH3C.3.2-5を除き、野生型Fc-Fab融合体(すなわち、抗RSV抗体であるAb122、及び抗BACE1抗体であるAb153)と同等のクリアランスを示した。
図2】マウスの脳組織における薬物動態学/薬力学(PK/PD)データを示す。キメラhuTfRヘテロ接合体マウス(n=4/群)に42mg/kgのAb153または一価CH3C.35.N163(「CH3C.35.N163_mono」として示される)のいずれかを静脈内投与し、野生型マウス(n=3)に50mg/kgのコントロールヒトIgG1(「huIgG1」として示される)を静脈内投与した。棒グラフは平均±SDを表す。
図3A】抗BACE1_Ab153、CH3C35.21:Ab153、CH3C35.20:Ab153、またはCH3C35:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+ノックイン(KI)マウスの血漿中のhuIgG1濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図3B】抗BACE1_Ab153、CH3C35.21:Ab153、CH3C35.20:Ab153、またはCH3C35:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+ノックイン(KI)マウスの脳ライセート中のhuIgG1濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図3C】抗BACE1_Ab153、CH3C35.21:Ab153、CH3C35.20:Ab153、またはCH3C35:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの脳ライセート中の内因性マウスAβの濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図3D】抗BACE1_Ab153、CH3C35.21:Ab153、CH3C35.20:Ab153、またはCH3C35:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの脳ライセート中のアクチンに対して正規化した脳TfRタンパク質のウェスタンブロットによる定量化を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図4A】抗BACE1_Ab153、CH3C.35.23:Ab153、またはCH3C.35.23.3:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの血漿中のhuIgG1濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図4B】抗BACE1_Ab153、CH3C.35.23:Ab153、またはCH3C.35.23.3:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの脳ライセート中のhuIgG1濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図4C】抗BACE1_Ab153、CH3C.35.23:Ab153、またはCH3C.35.23.3:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの脳ライセート中の内因性マウスAβの濃度を示す(平均±SEM、n=5/群)。
図4D】抗BACE1_Ab153、CH3C.35.23:Ab153、またはCH3C.35.23.3:Ab153ポリペプチド融合体の単回の50mg/kgの全身注射後のhTfRアピカル+/+KIマウスの脳ライセート中のアクチンに対して正規化した脳TfRタンパク質のウェスタンブロットによる定量化を示す(平均±SEM、n=4/群)。
図5】hTfRアピカル+/+KIマウスにおける操作されたTfR結合ポリペプチドのhTfR親和性と、経時的な脳曝露との間の関係を示す。ドットは、hTfRアピカル+/+KIマウスにおける50mg/kgの単回投与後の異なるATV親和性バリアントの累積経時的脳曝露(AUC)を示す。ポリペプチドの脳濃度(huIgG1により測定される)を、投与後の様々な日(1~10日の範囲)で計算した。データは、各実験で各群n=4~5匹のマウスを用いた3つの独立した試験の要約を示している。
図6】hTfRアピカル+/+KIマウスにおける操作されたTfR結合ポリペプチドのhTfR親和性と、最大脳中濃度との間の関係を示す。ドットは、50mg/kgの単回投与後の投与1日後に測定した異なるポリペプチド親和性バリアントの最大脳中濃度を示す。データは、各試験で各群n=4~5匹のマウスを用いた3つの独立した実験の要約を示している。
図7】hTfRアピカル+/+KIマウスにおける操作されたTfR結合ポリペプチドのhTfR親和性と、ポリペプチドの血漿中濃度に対する脳中濃度の比との間の関係を示す。ドットは、50mg/kgの単回投与後の投与1日後に測定した異なるポリペプチド親和性バリアントの血漿中濃度に対する最大脳中濃度の比を示す。データは、各実験で各群n=4~5匹のマウスを用いた3つの独立した試験の要約を示している。
【発明を実施するための形態】
【0004】
詳細な説明
I.序論
本発明は、疾患の治療のために、TfR結合ポリペプチド及びタンパク質に連結された治療用物質を、血液脳関門(BBB)を通過して輸送することに関する。本発明は、BBBを通過して治療用物質を輸送するうえで望ましいTfR結合親和性が、治療用物質の標的と、及び疾患の治療における有効性をもたらす作用機序とに依存するという発見に一部基づくものである。詳細には、比較的低いTfR親和性を有するポリペプチド及びタンパク質では、Cmaxは低くなるがクリアランスは遅くなり、そのため、曝露時間が長くなることが見出された。
【0005】
抗BACE1物質及び抗タウ物質(例えば、アルツハイマー病の治療用)及び抗αシヌクレイン物質(例えば、パーキンソン病の治療用)ならびに他のものなどの阻害抗体をはじめとする阻害物質を含む、いくつかの療法では、投与ウインドウにわたって治療用物質への長期的又は持続的な脳曝露を実現することは、半減期が短くかつ/またはターンオーバーが速い(例えば、タウ、αシヌクレイン)標的を含む標的を完全に嵌入するために望ましく、かつAβ(やはり短い半減期を有する)の産生を低減させるためにBACE1活性の阻害を持続させることが望ましい。治療用物質への長期的又は持続的な脳曝露を実現するのに、400~2,000nMの範囲のTfR親和性を有するポリペプチド及びタンパク質を使用することが特に有用である。
【0006】
II.定義
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には、内容によってそうでない旨が明確に示されない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「ポリペプチド」と言った場合、2つ以上のそのような分子を含み得る、といった具合である。
【0007】
本明細書で使用する場合、「約」及び「およそ」なる用語は、数値または範囲において特定される量を修飾して用いられる場合、その数値、及び例えば±20%、±10%、または±5%といった、当業者には周知のその値からの妥当な偏差が、記載される値の想定される意味の範囲内にあることを示す。
【0008】
本発明に関連して使用する場合の「トランスフェリン受容体」または「TfR」とは、トランスフェリン受容体タンパク質1のことを指す。ヒトトランスフェリン受容体1のポリペプチド配列は、配列番号6に記載されている。他の種由来のトランスフェリン受容体タンパク質1の配列も知られている(例えば、チンパンジー、アクセッション番号XP_003310238.1;アカゲザル、NP_001244232.1;イヌ、NP_001003111.1;ウシ、NP_001193506.1;マウス、NP_035768.1;ラット、NP_073203.1;及びニワトリ、NP_990587.1)。「トランスフェリン受容体」なる用語には、トランスフェリン受容体タンパク質1の染色体座の遺伝子によってコードされる例示的な参照配列、例えばヒト配列の対立遺伝子バリアントも包含される。完全長のトランスフェリン受容体タンパク質は、短いN末端細胞内領域、膜貫通領域、及び大きな細胞外ドメインを含んでいる。細胞外ドメインは、プロテアーゼ様ドメイン、螺旋状ドメイン、及びアピカルドメインの3つのドメインによって特徴付けられる。ヒトトランスフェリン受容体1のアピカルドメイン配列は配列番号4に記載されている。
【0009】
本明細書で使用する場合、「Fcポリペプチド」なる用語は、構造ドメインとしてIgフォールドを特徴とする、天然に存在する免疫グロブリンの重鎖ポリペプチドのC末端領域を指す。Fcポリペプチドは、少なくともCH2ドメイン及び/またはCH3ドメインを含む定常領域配列を含み、ヒンジ領域の少なくとも一部を含むことができる。一般に、Fcポリペプチドは可変領域を含まない。
【0010】
「改変Fcポリペプチド」とは、野生型の免疫グロブリン重鎖Fcポリペプチド配列と比較して少なくとも1つの変異、例えば置換、欠失、または挿入を有するが、天然のFcポリペプチドの全体のIgフォールドまたは構造を保持している、Fcポリペプチドを指す。
【0011】
本明細書で使用する場合の「CH3ドメイン」及び「CH2ドメイン」なる用語は、免疫グロブリンの定常領域ドメインポリペプチドのことを指す。IgG抗体に関連して、CH3ドメインポリペプチドとは、EU番号付けスキームに従って番号付けした場合に約341位~約447位のアミノ酸のセグメントのことを指し、CH2ドメインポリペプチドとは、EU番号付けスキームに従って番号付けした場合に約231位~約340位のアミノ酸のセグメントのことを指す。CH2及びCH3ドメインポリペプチドは、IMGT(ImMunoGeneTics)番号付けスキームによって番号付けすることもでき、その場合、IMGT Scientific chartの番号付け(IMGTウェブサイト)に従えば、CH2ドメインの番号付けは1~110であり、CH3ドメインの番号付けは1~107である。CH2及びCH3ドメインは、免疫グロブリンのFc領域の一部である。IgG抗体に関連して、Fc領域とは、EU番号付けスキームに従って番号付けした場合に、約231位~約447位までのアミノ酸のセグメントのことを指す。本明細書で使用する場合、「Fc領域」なる用語は、抗体のヒンジ領域の少なくとも一部も含み得る。例示的なヒンジ領域配列は、配列番号5に記載されている。
【0012】
「可変領域」なる用語は、生殖細胞系列の可変(V)遺伝子、多様性(D)遺伝子、または連結(J)遺伝子から誘導され(定常(Cμ及びCδ)遺伝子セグメントからは誘導されない)、抗体に抗原と結合するためのその特異性を与える抗体重鎖または軽鎖内のドメインのことを指す。一般的に抗体可変領域は、3個の超可変「相補性決定領域」を間に挟んだ4個の保存された「フレームワーク」領域で構成されている。
【0013】
CH3及びCH2ドメインに関して「野生型」、「天然」、及び「天然に存在する」なる用語は、本明細書では、天然に存在する配列を有するドメインのことを指して用いられる。
【0014】
本発明に関連して、突然変異体ポリペプチドまたは突然変異体ポリヌクレオチドに関して「突然変異体」なる用語は、「バリアント」と互換的に用いられる。所定の野生型(例えば、CH3またはCH2ドメイン)参照配列に関するバリアントは、天然に存在する対立遺伝子バリアントを含むことができる。「天然に存在しない」(例えばCH3またはCH2)ドメインとは、自然界で細胞内に存在せず、かつ、天然ドメイン(例えば、CH3ドメインまたはCH2ドメイン)のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの遺伝子改変によって、例えば遺伝子操作技術または突然変異導入法を用いて生成される、バリアントドメインまたは突然変異体ドメインのことを指す。「バリアント」は、野生型に対して少なくとも1つのアミノ酸変異を含むあらゆるドメインを含む。突然変異は、置換、挿入、及び欠失を含み得る。
【0015】
本明細書で使用する場合の「結合親和性」なる用語は、2個の分子間、例えばポリペプチドの1個の結合部位とポリペプチドが結合する標的、例えばTfRとの間の非共有結合相互作用の強さのことを指す。したがって、例えば、この用語は、特に示されるかまたは文脈から明らかでない限り、ポリペプチドとその標的との間の1:1の相互作用のことを指す場合がある。結合親和性は、解離速度定数(k、時間-1)を結合速度定数(k、時間-1-1)で割ったもののことを指す平衡解離定数(K)を測定することにより定量化することができる。Kは、例えば、Biacore(商標)システムなどの表面プラズモン共鳴(SPR)法(例えば、下記実施例3に述べる方法を用いる);KinExA(登録商標)などのカイネティック排除アッセイ;及びバイオレイヤー干渉法(例えば、ForteBio(登録商標) Octet(登録商標)プラットフォームを使用)を使用して、複合体形成及び解離の速度論を測定することによって求めることができる。本明細書で使用する場合、「結合親和性」には、ポリペプチドとその標的と間の1:1の相互作用を反映したもののように正式な結合親和性だけでなく、強い結合を反映しうるKが計算された見かけ上の親和性も含まれる。
【0016】
本明細書で使用する場合、本明細書に記載される操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体について言及する際、標的に、例えばTfRに「特異的に結合する」または「選択的に結合する」なる用語は、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体が、構造的に異なる標的に結合するよりも、より強いアフィニティー、より強いアビディティー、及び/またはより長い持続時間で標的に結合する結合反応のことを指す。典型的な実施形態では、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体は、同じ親和性アッセイ条件下でアッセイした場合に無関係の標的と比較して特定の標的、例えばTfRに対して少なくとも5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、25倍、50倍、100倍、1,000倍、10,000倍、またはそれよりも高い親和性を有する。本明細書で使用する場合の特定の標的(例えば、TfR)「特異的結合」、「に特異的に結合する」、または「に対して特異的である」なる用語は、例えば、結合する標的に対する平衡解離定数Kが例えば、10-4M以下、例えば、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、または10-12Mである分子によって示されうる。いくつかの実施形態では、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体は、種間で保存されている(例えば、種間で構造的に保存されている)、例えば、非ヒト霊長類とヒトとの間で保存されている(例えば、非ヒト霊長類とヒトとの間で構造的に保存されている)TfRのエピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体は、ヒトTfRにだけ結合することができる。
【0017】
「アミノ酸」なる用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体のことを指す。
【0018】
天然に存在するアミノ酸とは、遺伝子コードによってコードされるもの、及び、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリンなどの後で修飾されたアミノ酸である。「アミノ酸類似体」とは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα炭素を有する、化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。かかる類似体は、修飾されたR基(例えばノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物のことを指す。
【0019】
天然に存在するα-アミノ酸としては、これらに限定されるものではないが、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、フェニルアラニン(Phe)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、アスパラギン(Asn)、プロリン(Pro)、グルタミン(Gln)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。天然に存在するα-アミノ酸の立体異性体としては、これらに限定されるものではないが、D-アラニン(D-Ala)、D-システイン(D-Cys)、D-アスパラギン酸(D-Asp)、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-フェニルアラニン(D-Phe)、D-ヒスチジン(D-His)、D-イソロイシン(D-Ile)、D-アルギニン(D-Arg)、D-リシン(D-Lys)、D-ロイシン(D-Leu)、D-メチオニン(D-Met)、D-アスパラギン(D-Asn)、D-プロリン(D-Pro)、D-グルタミン(D-Gln)、D-セリン(D-Ser)、D-スレオニン(D-Thr)、D-バリン(D-Val)、D-トリプトファン(D-Trp)、D-チロシン(D-Tyr)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
本明細書では、アミノ酸は、それらの一般的に知られる3文字記号によるか、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会により推奨される1文字記号で呼称される。
【0021】
「ポリペプチド」及び「ペプチド」なる用語は、本明細書では一本鎖中のアミノ酸残基のポリマーを呼称するうえで互換的に使用される。かかる用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるようなアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸ポリマーは、全体がL-アミノ酸から構成されてもよいか、全体がD-アミノ酸から構成されてもよいか、またはLアミノ酸とDアミノ酸との混合物から構成されてもよい。
【0022】
本明細書で使用する場合の「タンパク質」とは、ポリペプチド、または一本鎖ポリペプチドの二量体(すなわち2個)もしくは多量体(すなわち3個以上)のことを指す。タンパク質の一本鎖ポリペプチド同士は、例えばジスルフィド結合のような共有結合、または非共有結合性相互作用によって結合することができる。
【0023】
「保存的置換」、「保存的変異」、または「保存的に改変されたバリアント」なる用語は、あるアミノ酸の、類似の特性を有するものとして分類され得る別のアミノ酸による置換をもたらす変化のことを指す。このようにして定義される保存的アミノ酸のグループのカテゴリーの例としては、Glu(グルタミン酸またはE)、Asp(アスパラギン酸またはD)、Asn(アスパラギンまたはN)、Gln(グルタミンまたはQ)、Lys(リシンまたはK)、Arg(アルギニンまたはR)、及びHis(ヒスチジンまたはH)を含む「荷電/極性基」;Phe(フェニルアラニンまたはF)、Tyr(チロシンまたはY)、Trp(トリプトファンまたはW)、及び(ヒスチジンまたはH)を含む「芳香族基」;ならびに、Gly(グリシンまたはG)、Ala(アラニンまたはA)、Val(バリンまたはV)、Leu(ロイシンまたはL)、Ile(イソロイシンまたはI)、Met(メチオニンまたはM)、Ser(セリンまたはS)、Thr(スレオニンまたはT)、及びCys(システインまたはC)を含む「脂肪族基」を挙げることができる。各グループ内にサブグループを特定することもできる。例えば、荷電または極性アミノ酸のグループは、Lys、Arg、及びHisからなる「正に荷電したサブグループ」、Glu及びAspからなる「負に荷電したサブグループ」、ならびにAsn及びGlnからなる「極性サブグループ」を含むサブグループに更に分割することができる。別の例では、芳香族または環状基を、Pro、His、及びTrpからなる「窒素環サブグループ」、ならびにPhe及びTyrからなる「フェニルサブグループ」を含むサブグループに更に分割することができる。更に別の例では、脂肪族基を、例えば、Val、Leu、Gly、及びAlaからなる「脂肪族非極性サブグループ」、ならびにMet、Ser、Thr、及びCysからなる「脂肪族弱極性サブグループ」などのサブグループに更に分割することができる。保存的変異のカテゴリーの例としては、上記のサブグループ内のアミノ酸のアミノ酸置換、例えば、これらに限定されるものではないが、正電荷を維持できるようにLysをArgに、またはその逆;負電荷を維持できるようにGluをAspに、またはその逆;遊離-OHを維持できるようにSerをThrに、またはその逆;遊離-NHを維持できるようにGlnをAsnに、またはその逆が挙げられる。いくつかの実施形態では、例えば活性部位において疎水性アミノ酸を天然に存在する疎水性アミノ酸に置換することで疎水性が保たれる。
【0024】
2個以上のポリペプチド配列に関連した「同一」または「同一性」%なる用語は、配列比較アルゴリズムを用いて、またはマニュアルアラインメント及び目視による検査により測定した場合に比較ウインドウ、または指定された領域にわたって最大の一致となるように比較及びアラインした場合に特定の領域にわたって同じであるか、または例えば、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%もしくはそれ以上一致しているアミノ酸残基の特定の割合(%)を有する2個以上の配列またはサブ配列のことを指す。
【0025】
ポリペプチドの配列比較では、一般的に1つのアミノ酸配列が、候補配列を比較する参照配列の役割を果たす。例えば、視覚的アラインメントまたは既知のアルゴリズムを用いた公開されているソフトウェアを使用するなど、当業者に利用可能な様々な方法を用いてアラインメントを行って最大のアラインメントを得ることができる。かかるプログラムとしては、BLASTプログラム、ALIGN、ALIGN-2(Genentech,South San Francisco,Calif.)、またはMegalign(DNASTAR)が挙げられる。最大のアラインメントを得るためにアラインメントで用いられるパラメータは、当業者によって決めることができる。本出願の目的におけるポリペプチド配列の配列比較では、デフォルトのパラメータを用いて2個のタンパク質配列をアラインするためのBLASTPアルゴリズムの標準タンパク質BLASTを用いる。
【0026】
あるポリペプチド配列中の所定のアミノ酸残基の特定に関連して使用される場合、「~に対応する」、「~を基準として決められる」、または「~を基準として番号付けされる」なる用語は、所定のアミノ酸配列を特定の参照配列と最大限アラインして比較した場合にその参照配列の残基の位置を指す。したがって、例えば、改変されたFcポリペプチド中のアミノ酸残基は、その残基が、配列番号1と最適にアラインされた場合に配列番号1中のそのアミノ酸とアラインする際に配列番号1のアミノ酸に「対応する」。参照配列とアラインされるポリペプチドは、参照配列と同じ長さである必要はない。
【0027】
本明細書で互換的に使用される「対象」、「個人」、及び「患者」なる用語は、これらに限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、及びモルモット)、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、及び他の哺乳動物種を含む哺乳動物のことを指す。一実施形態では、患者はヒトである。
【0028】
「治療」、「治療する」、及びこれに類する用語は、本明細書では、所望の薬理学的及び/または生理学的作用を得ることを一般的に意味して用いられる。「治療する」または「治療」は、軽減、寛解、患者の生存率の改善、生存期間もしくは生存率の増大、症状の消失または傷害、疾患、もしくは状態を患者にとってより耐容できるものとすること、変性もしくは低下の速度の遅延、または患者の物理的もしくは精神的な健康の改善などのあらゆる客観的もしくは主観的なパラメータを含む、傷害、疾患、または状態の治療もしくは改善における奏功のあらゆる兆候のことを指す場合がある。症状の治療または改善は、客観的または主観的なパラメータに基づいたものであってよい。治療の効果は、治療を受けていない個人または個人の集団と、または治療前もしくは治療期間の異なる時点において同じ患者と比較することができる。
【0029】
「薬学的に許容される賦形剤」とは、これらに限定されないが、バッファー、担体、または防腐剤などの、ヒトまたは動物における使用に生物学的または薬理学的に適合した非活性医薬成分のことを指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、作用物質の「治療量」、「治療有効量」、または「治療有効濃度」とは、対象における疾患の徴候または症状を治療する作用物質の量または濃度である。
【0031】
「投与する」なる用語は、作用物質、化合物、または組成物を生物学的作用が望ましい部位に送達する方法のことを指す。これらの方法は、これらに限定されるものではないが、局所投与、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、結腸投与、直腸投与、または腹腔内投与が挙げられる。一実施形態では、本明細書に記載される組成物は静脈内投与される。
【0032】
III. 治療方法
A.神経変性疾患の治療のための方法
一態様では、本発明は、治療標的(例えば、神経変性疾患に関与している治療標的)に結合する(例えば、特異的に結合する)作用物質(例えば、治療用物質)を、哺乳動物の血液脳関門(BBB)を通過して輸送するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、約400nM~約2μMの親和性でトランスフェリン受容体(TfR)に結合する(例えば、特異的に結合する)ポリペプチドまたはタンパク質にBBBを曝露することを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は作用物質に連結されており、かつ、連結された作用物質を、BBBを通過して輸送する。いくつかの実施形態では、作用物質への脳曝露時間が延長される(例えば、参照物質と比較して)。
【0033】
別の態様では、本発明は、神経変性疾患を治療するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、約400nM~約2μMの親和性でTfRに結合する(例えば、特異的に結合する)ポリペプチドまたはタンパク質を哺乳動物に投与することを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、神経変性疾患に関与している治療標的に結合する(例えば、特異的に結合する)作用物質(例えば、治療用物質)に連結されており、それにより作用物質への哺乳動物の脳の曝露時間が延長される。適している神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、1.1μM、1.2μM、1.3μM、1.4μM、1.5μM、1.6μM、1.7μM、1.8μM、1.9μM、または2μMの親和性でTfRに結合(例えば、特異的に結合)する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約420nM~約1.5μMまたは600nM~1.5μMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約420nMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約620nMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約750nMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約820nMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約1,100nMの親和性でTfRに結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、約1,440nMの親和性でTfRに結合する。
【0035】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはペプチド(例えば、作用物質に連結されたもの)は、より強い親和性でTfRに結合する(例えば、特異的に結合する)参照ポリペプチドまたはタンパク質に連結された作用物質と比較して、哺乳動物において治療有効濃度(例えば、神経変性疾患の1つ以上の徴候または症状を治療するうえで充分な濃度)の作用物質への脳曝露時間を延長する。
【0036】
いくつかの実施形態では、脳曝露時間(例えば、作用物質への)は、参照と比較して、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.75倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、またはそれ以上延長される。
【0037】
いくつかの実施形態では、脳曝露は、脳曝露(例えば、脳内の作用物質の濃度)を時間の関数として、曲線下面積(AUC)を計算することによって定量化される。増加したAUCは、脳曝露が増大または延長されたことを示しうる。いくつかの実施形態では、治療有効濃度の作用物質への脳曝露の持続時間が延長される。
【0038】
いくつかの実施形態では、参照ポリペプチドまたはペプチドは、約400nM、約350nM、約300nM、約250nM、約200nM、約150nM、約100nM、もしくは約50nMの親和性、またはそれよりも強い親和性でTfRに結合する(例えば、特異的に結合する)。いくつかの実施形態では、参照ポリペプチドまたはタンパク質は、約50nMの親和性またはそれよりも強い親和性でTfRに結合する。
【0039】
非限定的な例として、治療標的は、β-セクレターゼ1(BACE1)タンパク質、タウタンパク質、骨髄細胞で発現する誘発受容体2(triggering receptor expressed on myeloid cells 2:TREM2)タンパク質、またはα-シヌクレインタンパク質とすることができる。いくつかの実施形態では、治療標的はBACE1であり、かつ、このタンパク質に連結された場合の作用物質(例えば、治療用物質)は、参照タンパク質に連結された場合と比較して、哺乳動物の脳内に存在するアミロイドβタンパク質(Aβ)の量をより長時間にわたって減少させる。
【0040】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は霊長類(例えば、ヒト)である。いくつかの実施形態では、ヒトは、神経疾患(例えば、神経変性疾患)の治療を要する患者である。いくつかの実施形態では、患者は神経疾患の1つ以上の徴候または症状を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、霊長類TfRに結合する(例えば、特異的に結合する)。いくつかの実施形態では、霊長類TfRはヒトTfRである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、TfRアピカルドメインに結合する。
【0042】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)は、操作されたTfR結合ポリペプチドに連結される。いくつかの実施形態では、操作されたTfR結合ポリペプチドは、ポリペプチドがトランスフェリン受容体に特異的に結合することを可能とする改変を有するCH3またはCH2ドメインを含む。適切な操作されたTfR結合ポリペプチドの非限定的な例を、下記セクションIVに記載する。いくつかの実施形態では、作用物質は、表1または表2に記載される操作されたTfR結合ポリペプチドに連結される。いくつかの実施形態では、作用物質は、CH3C.35.23、CH3C.35.23.1.1、CH3C.35.23.3、及びCH3C.35.23.4からなる群から選択される操作されたTfR結合ポリペプチドに連結される。
【0043】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)は、TfR結合ペプチドに連結される。いくつかの実施形態では、TfR結合ポリペプチドは、アミノ酸約5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個の長さを有する短鎖ペプチドである。適切なペプチド(すなわち、望ましい範囲内の親和性でTfRに結合するもの)を作製、スクリーニング、及び同定するための方法は、当該技術分野では周知のものである。例えば、負の選択と正の選択の交互のラウンドを用いるファージディスプレイ手法を用いて適切なペプチドを同定することができる。この手法は、例えば、その全容をあらゆる目的で本明細書によって援用さるLee et al.,Eur.J.Biochem.(2001)268:2004-2012に記載されている。
【0044】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)は、TfR結合抗体に連結される。適切なTfR結合ポリペプチドの非限定的な例は、約480nMの親和性を有する、中国特許出願公報番号CN101245107Aに開示されるH67抗体である。
【0045】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、TfRに特異的に結合する抗体可変領域を含む。いくつかの例では、タンパク質は抗体フラグメントを含む。いくつかの例では、タンパク質はFabまたはscFvを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)は、抗体可変領域を含む。いくつかの実施形態では、作用物質は抗体フラグメントを含む。いくつかの実施形態では、作用物質はFabまたはscFVを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)はFabを含み、ポリペプチドはFc形式であり(ヒンジまたは部分的ヒンジ領域を含みうる)、したがって、トランスフェリン受容体結合Fc-Fab融合体を生成する。いくつかの実施形態では、Fc-Fab融合体(例えば、改変CH2またはCH3ドメインポリペプチドを含む)は二量体のサブユニットである。いくつかの実施形態では、二量体はヘテロ二量体である。いくつかの実施形態では、二量体はホモ二量体である。いくつかの実施形態では、二量体は、トランスフェリン受容体に結合する1個のポリペプチドを含む(すなわち、トランスフェリン受容体との結合について一価である)。いくつかの実施形態では、二量体は、トランスフェリン受容体に結合する第2のポリペプチドを含む。第2のポリペプチドは、Fc-Fab融合体中に存在する同じ改変CH3ドメインポリペプチド(または改変CH2ドメインポリペプチド)を含むことにより二価の結合ホモ二量体を与えてもよいか、または第2の改変CH3ドメインポリペプチド(または改変CH2ドメインポリペプチド)が第2のトランスフェリン受容体結合部位を与えてもよい。いくつかの実施形態では、二量体は、改変CH3ドメインポリペプチドまたは改変CH2ドメインポリペプチドを含む第1のサブユニットと、どちらもトランスフェリン受容体に結合しないCH2及びCH3ドメインを含む第2のサブユニットとを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、Fabフラグメント)は、ポリペプチドまたはタンパク質に連結されており、かつタウタンパク質(例えば、ヒトタウタンパク質)またはそのフラグメントに結合する。いくつかの実施形態では、作用物質は、リン酸化タウタンパク質、非リン酸化タウタンパク質、タウタンパク質のスプライスアイソフォーム、N末端が切断されたタウタンパク質、C末端が切断されたタウタンパク質、及び/またはそれらのフラグメントに結合することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、Fabフラグメント)は、ポリペプチドまたはタンパク質に連結されており、かつβ-セクレターゼ1(BACE1)タンパク質(例えば、ヒトBACE1タンパク質)またはそのフラグメントに結合する。いくつかの実施形態では、作用物質は、BACE1タンパク質の1つ以上のスプライスアイソフォームまたはそのフラグメントに結合することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、Fabフラグメント)は、ポリペプチドまたはタンパク質に連結されており、かつ骨髄細胞で発現する誘発受容体2(TREM2)タンパク質(例えば、ヒトTREM2タンパク質)またはそのフラグメントに結合する。
【0051】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、Fabフラグメント)は、ポリペプチドまたはタンパク質に連結されており、かつα-シヌクレインタンパク質(例えば、ヒトα-シヌクレインタンパク質)またはそのフラグメントに結合する。いくつかの実施形態では、作用物質は、モノマー性α-シヌクレイン、オリゴマー性α-シヌクレイン、α-シヌクレインフィブリル、可溶性α-シヌクレイン、及び/またはこれらのフラグメントに結合することができる。
【0052】
B.更なる実施形態及びリンカー
ポリペプチド(例えば、下記で更に説明する改変CH3またはCH2ドメインポリペプチド)は、Fc領域の別のドメインと連結することができる。いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドをCH2ドメインと連結することができるが、これは、天然に存在するCH2ドメイン、または通常はCH2ドメインのC末端にあるバリアントCH2ドメインであってよい。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドをCH3ドメインと連結することができるが、これは、天然に存在するCH3ドメイン、または通常はCH3ドメインのN末端にあるバリアントCH3ドメインであってよい。いくつかの実施形態では、CH3ドメインに連結された改変CH2ドメインを含むポリペプチド、またはCH2ドメインに連結された改変CH3ドメインを含むポリペプチドは、抗体の部分的または完全なヒンジ領域を更に含むことにより、改変CH3ドメインポリペプチドまたは改変CH2ドメインポリペプチドが、部分的または完全なヒンジ領域を有するFc領域の一部となるような形式をもたらす。ヒンジ領域は、いずれの免疫グロブリンサブクラスまたはアイソタイプからのものであってもよい。例示的な免疫グロブリンのヒンジの1つとして、IgGヒンジ領域、例えば、IgG1ヒンジ領域、例えば、ヒトIgG1ヒンジアミノ酸配列
がある。
【0053】
尚も他の実施形態では、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体は、タンパク質の精製に有用なペプチドまたはタンパク質、例えば、ポリヒスチジン、エピトープタグ、例えばFLAG、c-Myc、ヘマグルチニンタグなど、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン、protein A、protein G、またはマルトース結合タンパク質(MBP)と融合させることができる。場合により、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体と融合されたペプチドまたはタンパク質は、第Xa因子またはトロンビンの切断部位のようなプロテアーゼ切断部位を含むことができる。
【0054】
本発明の方法では、作用物質(例えば、治療用物質)は、ポリペプチドまたはタンパク質(例えば、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体)に連結される。リンカーは、ポリペプチドまたはタンパク質に作用物質を連結するのに適したいずれのリンカーであってもよい。いくつかの実施形態では、連結は酵素によって切断可能なものである。特定の実施形態では、連結は中枢神経系に存在する酵素によって切断可能なものである。
【0055】
いくつかの実施形態では、リンカーはペプチドリンカーである。ペプチドリンカーは、作用物質(例えば治療用物質)とポリペプチドまたはタンパク質との互いに対する回転を可能とし、かつ/またはプロテアーゼによる消化に対して耐性を有するように構成することができる。いくつかの実施形態では、リンカーは、例えば、Gly、Asn、Ser、Thr、Alaなどのアミノ酸を含む柔軟なリンカーであってよい。かかるリンカーは、周知のパラメータを用いて設計することができる。例えば、リンカーは、Gly-Serリピートのような繰り返し配列を有することができる。
【0056】
異なる実施形態において、作用物質(例えば、治療用物質)のポリペプチドまたはタンパク質(例えば、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体)への連結は、周知の化学架橋試薬及びプロトコールを用いて実現することができる。例えば、当業者には周知の、ポリペプチドまたはタンパク質を対象となる作用物質と架橋するうえで有用な多くの化学架橋剤が存在する。例えば、架橋剤は、分子を段階的に連結するために使用することができるヘテロ二官能性架橋剤である。ヘテロ二官能性架橋剤は、タンパク質を結合するためのより特異的な連結方法の設計を可能とし、それにより、ホモタンパク質ポリマーのような不要な副反応の発生を低減するものである。
【0057】
前記作用物質(例えば、治療用物質)は、トランスフェリン受容体に対するポリペプチドまたはタンパク質の結合を作用物質が妨げない限り、ポリペプチドまたはタンパク質のN末端またはC末端領域に連結することができ、ポリペプチドまたはタンパク質(例えば、操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体)の任意の領域に結合させることができる。
【0058】
C.結合親和性、脳中濃度、及び脳曝露の測定
いくつかの実施形態では、TfR結合ポリペプチドの親和性は一価の形式で測定することができる。他の実施形態では、親和性は、例えば、ポリペプチド-Fab融合タンパク質を含む二量体として、二価の形式で測定することができる。
【0059】
結合親和性、結合速度論、及び交差反応性を分析するための方法は当該技術分野では周知のものである。これらの方法としては、これらに限定されるものではないが、固相結合アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore(商標)(GE Healthcare,Piscataway,NJ))、速度論的排除アッセイ(kinetic exclusion assay)(例えば、KinExA(登録商標))、フローサイトメトリー、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、バイオレイヤー干渉法(例えば、Octet(登録商標)(ForteBio,Inc.,Menlo Park,CA))、及びウェスタンブロット分析が挙げられる。いくつかの実施形態では、結合親和性及び/または交差反応性を調べるためにELISAが用いられる。いくつかの実施形態では、結合親和性、結合速度論、及び/または交差反応性を調べるために表面プラズモン共鳴(SPR)が用いられる。いくつかの実施形態では、結合親和性、結合速度論、及び/または交差反応性を調べるために速度論的排除アッセイが用いられる。いくつかの実施形態では、結合親和性、結合速度論、及び/または交差反応性を調べるためにバイオレイヤー干渉法が用いられる。
【0060】
結合親和性(例えば、TfRに対する)を決定するための方法の非限定的な1つの例を下記実施例3で述べるが、この実施例ではBicaore(商標)器具を使用した表面プラズモン共鳴によって親和性を測定している。この方法では、対象とする操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体をセンサーチップ上に捕捉し、TfRの連続希釈液をセンサーチップ上に特定の流速(例えば、30μL/分)及び温度(例えば、室温)で注入する。指定の会合時間及び解離時間(例えば、それぞれ45秒及び180秒)を用いて分析した後、センサーチップを再生する。コントロール(例えば、無関係なIgGを同様の濃度で用いる)から測定された反応を減じることによって結合反応を補正し、ソフトウェアを使用して平衡反応を濃度に対してフィッティングすることによって安定状態の親和性を求めることができる。
【0061】
脳内及び/または血漿中の作用物質(例えば、操作されたTfR結合ポリペプチドに、TfR結合ペプチドに、またはTfR結合抗体に連結されたもの)の濃度は、例えば、ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)ノックインマウスモデルを用いて測定することができる。かかるモデルを用いることで、例えば、最大脳中濃度(Cmax)及び/または脳曝露を測定及び/または比較して、例えばCmaxが増大するかどうか、及び/または脳曝露時間が延長されるかどうかを判定することができる。ヒトアピカルTfR(hTfRアピカル+/+)マウスノックインモデルの作出については、下記実施例2で述べる。適切なモデルを作出するため、CRISPR/Cas9系を使用してマウスTfrc遺伝子(例えば、インビボの発現が内因性プロモーターの制御下にある)内でヒトTfrcアピカルドメインを発現するマウスを作製することができる。詳細には、Cas9、シングルガイドRNA、及びドナーDNA(例えば、マウスで発現させるためにコドン最適化されたヒトアピカルドメインのコーディング配列)をマウス胚に(例えば、前核注入により)導入することができる。次に、胚を偽妊娠雌に移植することができる。胚を移植した雌の子孫からのファウンダー雄を野生型の雌と交配してF1ヘテロ接合体マウスを作出することができる。次に、F1世代のヘテロ接合体マウスの交配によってホモ接合体マウスを作出することができる。
【0062】
作用物質(例えば、操作されたTfR結合ポリペプチドに、TfR結合ペプチドに、またはTfR結合抗体に連結されたもの)の脳及び/または血漿中濃度または曝露の評価のために、連結された作用物質をマウスモデル(例えば、hTfRアピカル+/+)に投与することができる。適切な時間の後にマウスから血漿試料を得た後、血管系を適切な溶液で灌流することができる。灌流後、脳(またはその一部)を抽出し、ホモジナイズしてから溶解することができる。血漿及び/または脳ライセート中の作用物質濃度を当業者には周知の常法を用いて測定することができる。ノックインマウスモデルに所定範囲の用量を投与することにより、標準曲線を作成することができる。ノックインマウスモデルに、異なる操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体(例えば、異なるTfR親和性を有するもの)に連結された作用物質、または参照ポリペプチドもしくはタンパク質(例えば、対象とするポリペプチドまたはタンパク質よりも強いTfRに対する親和性を有するもの)に連結された作用物質を投与することにより、作用物質への脳曝露及び/または脳内の作用物質のCmax値に対する操作されたTfR結合ポリペプチド、TfR結合ペプチド、またはTfR結合抗体の効果に関する比較を行うことができる。
【0063】
D.医薬組成物
本発明で使用するための製剤を調製するためのガイダンスは、当業者には周知の医薬品及び製剤用の任意の数のハンドブックにみることができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、作用物質(例えば、治療用物質)に連結されたポリペプチドまたはタンパク質を薬学的に許容される担体または賦形剤の一部として投与する。薬学的に許容される担体には、生理学的適合性を有し、活性剤の活性を好ましくは妨げない、または他の形で阻害しないあらゆる溶媒、分散媒、またはコーティングが含まれる。様々な薬学的に許容される賦形剤が周知である。
【0065】
いくつかの実施形態では、担体は、静脈内、髄腔内、脳室内、筋肉内、経口、腹腔内、経皮、局所、または皮下投与に適したものである。薬学的に許容される担体は、例えば組成物を安定させるかまたはポリペプチドの吸収を増大もしくは減少させる作用を有する1つ以上の生理学的に許容される化合物を含むことができる。生理学的に許容される化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、またはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンなどの酸化防止剤、キレート剤、低分子量タンパク質、活性剤のクリアランスもしくは加水分解を低減する組成物、または賦形剤もしくは他の安定化剤及び/または緩衝剤を挙げることができる。他の薬学的に許容される担体及びそれらの製剤も当該技術分野で利用可能である。
【0066】
本明細書に記載される医薬組成物は、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥プロセスにより、当業者には周知の方法で製造することができる。以下の方法及び賦形剤はあくまで例示的なものであり、いかなる意味でも限定的なものではない。
【0067】
経口投与のために、作用物質(例えば、治療用物質)に連結されたポリペプチドまたはタンパク質を、当該技術分野では周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって製剤化することができる。かかる担体は、化合物を、治療される患者によって経口摂取される、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、エマルション、親油性及び親水性懸濁液、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー剤、及び懸濁液などとして製剤化することを可能とする。経口用の医薬製剤は、ポリペプチドを、固体賦形剤と混合し、得られた混合物を場合に応じて粉砕し、必要に応じて適切な助剤を加えた後、顆粒の混合物を処理して錠剤または糖衣コアを得ることによって得ることができる。適切な賦形剤としては、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖類などの充填剤;例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/またはポリビニルピロリドンなどのセルロース調製物が挙げられる。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸、もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を加えることができる。
【0068】
作用物質(例えば、治療用物質)に連結されたポリペプチドまたはタンパク質は、注射により、例えばボーラス注射または連続注入により非経口投与されるように製剤化することができる。注射用には、ポリペプチドを植物油または同様の油類、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルなどの水性または非水性溶媒中に、必要に応じて、可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び防腐剤などの従来の添加剤と共に、溶解、懸濁、または乳化することによってポリペプチドを製剤として配合することができる。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理学的食塩水のような生理学的適合性を有するバッファー中に配合することができる。注射用の製剤は、単位剤形、例えば、防腐剤が添加されたアンプル中、または複数用量容器中で与えることができる。組成物は、油性または水性溶媒中の懸濁液、溶液、またはエマルションの形態を取ることができ、懸濁化剤、安定化剤、及び/または分散剤などの配合剤を含むことができる。
【0069】
一般的に、インビボ投与に使用される医薬組成物は無菌である。滅菌処理は、例えば、熱滅菌、蒸気滅菌、滅菌濾過、または放射線照射などの当該技術分野では周知の方法によって行うことができる。
【0070】
IV.操作されたトランスフェリン受容体結合ポリペプチド
このセクションでは、トランスフェリン受容体に結合し、かつ血液脳関門(BBB)を通過して輸送されることが可能である、操作されたポリペプチドの非限定的な例について述べる。
【0071】
いくつかの実施形態では、操作されたポリペプチドは、ポリペプチドがトランスフェリン受容体に特異的に結合することを可能とするような改変を有するCH3またはCH2ドメインを含む。かかる改変は、CH3またはCH2ドメインの表面に存在するアミノ酸の特定のセットに導入される。いくつかの実施形態では、改変CH3またはCH2ドメインを含むポリペプチドは、トランスフェリン受容体のアピカルドメイン内のエピトープに特異的に結合する。
【0072】
当業者には、例えばIgM、IgA、IgE、IgDなどの他の免疫グロブリンアイソタイプのCH2及びCH3ドメインを、これらのドメイン内で上記に述べたセット(i)~(vi)に対応するアミノ酸を特定することにより同様に改変することができることが理解される。改変は、例えば、非ヒト霊長類、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ニワトリなどの他の種に由来する免疫グロブリンからの対応するドメインに行うこともできる。
【0073】
CH3トランスフェリン受容体結合ポリペプチド
いくつかの実施形態では、改変されるドメインはIgGのCH3ドメインのようなヒトIgのCH3ドメインである。CH3ドメインは、いずれのIgGのサブタイプ、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から得られるものであってもよい。IgG抗体に関連して、CH3ドメインとは、EU番号付けスキームに従って番号付けした場合に、約341位~約447位までのアミノ酸のセグメントのことを指す。トランスフェリン受容体結合のためのアミノ酸位置の対応するセットを特定する目的でのCH3ドメイン内の位置は、特に指定されない限り、配列番号3を基準として決められるか、または配列番号1のアミノ酸114~220を基準として決められる。置換もまた、配列番号1を基準として決められ、すなわち、あるアミノ酸は、配列番号1の対応する位置のアミノ酸に対して置換であるとみなされる。配列番号1は、部分的なヒンジ領域の配列であるPCPをアミノ酸1~3として含んでいる。配列番号1を基準としたCH3ドメイン内の位置の番号付けは、これらの最初の3個のアミノ酸を含む。
【0074】
上記に述べたように、改変することができるCH3ドメインの残基のセットは、本明細書では配列番号1を基準として番号付けされる。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のCH3ドメインなどの任意のCH3ドメインは、配列番号1の記載される位置の残基に対応する残基の1つ以上のセットにおいて、改変、例えばアミノ酸置換を有することができる。配列番号1の任意の特定の位置に対応するIgG2、IgG3、及びIgG4の配列のそれぞれの位置は容易に決めることができる。
【0075】
一実施形態では、トランスフェリン受容体に特異的に結合する改変CH3ドメインポリペプチドは、トランスフェリン受容体のアピカルドメインと、完全長のヒトトランスフェリン受容体配列(配列番号6)の208位を含むエピトープにおいて結合するが、この位置は、配列番号4に記載されるヒトトランスフェリン受容体アピカルドメイン配列の11位に対応している。配列番号4は、ヒトトランスフェリン受容体1のユニプロテイン(uniprotein)配列P02786(配列番号6)のアミノ酸198~378に対応している。いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、トランスフェリン受容体のアピカルドメインと、完全長のヒトトランスフェリン受容体配列(配列番号6)の158、188、199、207、208、209、210、211、212、213、214、215、及び/または294位を含むエピトープにおいて結合する。改変CH3ドメインポリペプチドは、受容体に対するトランスフェリンの結合をブロックまたは他の形で阻害することなくトランスフェリン受容体に結合し得る。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、実質的に阻害されない。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、約50%未満(例えば、約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満)阻害される。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、約20%未満(例えば、約19%未満、約18%未満、約17%未満、約16%未満、約15%未満、約14%未満、約13%未満、約12%未満、約11%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満)阻害される。このような結合特異性を示す例示的なCH3ドメインポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸114~220を基準として決めた場合に153、157、159、160、161、162、163、186、188、189、及び194位にアミノ酸置換を有するポリペプチドを含む。
【0076】
CH3トランスフェリン受容体結合セット(i):153、157、159、160、161、162、163、186、188、189、及び194
いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、153位、157位、159位、160位、161位、162位、163位、186位、188位、189位、及び194位を含むアミノ酸位置の1セット(セットi)において1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、または11個の置換を含む。これらの位置に導入することができる例示的な置換を表1及び表2に示す。
【0077】
いくつかの実施形態では、トランスフェリン受容体に特異的に結合する改変CH3ドメインポリペプチドは、以下のような配列番号1に対する置換を有する少なくとも1つの位置を含む。すなわち、153位のGlu、Leu、Ser、Val、Trp、Tyr、またはGln、157位のLeu、Tyr、Phe、Trp、Met、Pro、またはVal、159位のLeu、Thr、His、Pro、Asn、Val、またはPhe、160位のVal、Pro、Ile、または酸性アミノ酸、161位のTrp、162位の脂肪族アミノ酸、Gly、Ser、Thr、またはAsn、163位のGly、His、Gln、Leu、Lys、Val、Phe、Ser、Ala、Asp、Glu、Asn、Arg、またはThr、186位の酸性アミノ酸、Ala、Ser、Leu、Thr、Pro、Ile、またはHis、188位のGlu、Ser、Asp、Gly、Thr、Pro、Gln、またはArg、189位のThr、Arg、Asn、または酸性アミノ酸、及び/または、194位の芳香族アミノ酸、His、またはLys。いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含む。したがって、例えば、Ileが157位、159位、及び/または186位に存在してよい。いくつかの実施形態では、160位、186位、及び189位のうちの1つ、2つ、またはそれぞれにおける酸性アミノ酸はGluである。他の実施形態では、160位、186位、及び189位のうちの1つ、2つ、またはそれぞれにおける酸性アミノ酸はAspである。
【0078】
いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、164位及び165位を含む位置に1個または2個の置換を更に含む。いくつかの実施形態では、164位にSer、Thr、Gln、またはPheが存在してよい。いくつかの実施形態では、165位にGln、Phe、またはHisが存在してよい。
【0079】
更なる実施形態では、改変CH3ドメインは以下、すなわち、187位がLys、Arg、Gly、またはPro、197位がSer、Thr、Glu、またはLys、及び199位がSer、Trp、またはGly、から選択される1つ、2つ、または3つの位置を更に含む。
【0080】
CH3トランスフェリン受容体結合セット(ii):118、119、120、122、210、211、212、及び213
いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、118位、119位、120位、122位、210位、211位、212位、及び213位からなるアミノ酸位置の1セット(セットii)において少なくとも3個または少なくとも4個、一般的には5個、6個、7個、または8個の置換を含む。いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、210位にGlyを、211位にPheを、かつ/または213位にAspを含む。いくつかの実施形態では、213位にGluが存在してよい。特定の実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、以下の位置に少なくとも1つの置換を含む。すなわち、118位にPheまたはIle、119位にAsp、Glu、Gly、Ala、またはLys、120位にTyr、Met、Leu、Ile、またはAsp、122位にThr またはAla、210位にGly、211位にPhe、212位にHis、Tyr、Ser、またはPhe、または213位にAsp。いくつかの実施形態では、118位、119位、120位、122位、210位、211位、212位、及び213位のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つすべてがこのパラグラフで指定される置換を有する。いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含んでもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、改変CH3ドメインポリペプチドは、同一性%が118位、119位、120位、122位、210位、211位、212位、及び213位のセットを含まないことを条件として、配列番号1のアミノ酸114~220と少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有する。
【0082】
CH2トランスフェリン受容体結合ポリペプチド
いくつかの実施形態では、改変されるドメインはIgGのCH2ドメインのようなヒトIgのCH2ドメインである。CH2ドメインは、いずれのIgGのサブタイプ、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から得られるものであってもよい。IgG抗体に関連して、CH2ドメインとは、EU番号付けスキームに従って番号付けした場合に、約231位~約340位までのアミノ酸のセグメントのことを指す。トランスフェリン受容体結合のためのアミノ酸位置の対応するセットを特定する目的でのCH2ドメイン内の位置は、配列番号2を基準として決められるか、または配列番号1のアミノ酸4~113を基準として決められる。置換もまた、配列番号1を基準として決められ、すなわち、あるアミノ酸は、配列番号1の対応する位置のアミノ酸に対して置換であるとみなされる。配列番号1は、部分的なヒンジ領域の配列であるPCPをアミノ酸1~3として含んでいる。これら3個の残基はFc領域の一部ではないが、配列番号1を基準としたCH2ドメイン内の位置の番号付けは、これらの最初の3個のアミノ酸を含む。
【0083】
上記に述べたように、改変することができるCH2ドメインの残基のセットは、本明細書では配列番号1を基準として番号付けされる。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のCH2ドメインなどの任意のCH2ドメインは、配列番号1の記載される位置の残基に対応する残基の1つ以上のセットにおいて、改変、例えばアミノ酸置換を有することができる。配列番号1の任意の特定の位置に対応するIgG2、IgG3、及びIgG4の配列のそれぞれの位置は容易に決定することができる。
【0084】
一実施形態では、トランスフェリン受容体に特異的に結合する改変CH2ドメインポリペプチドは、トランスフェリン受容体のアピカルドメイン内のエピトープに結合する。ヒトトランスフェリン受容体アピカルドメイン配列は、配列番号4に記載されており、これはヒトトランスフェリン受容体1のユニプロテイン配列P02786のアミノ酸198~378に対応している。改変CH2ドメインポリペプチドは、受容体に対するトランスフェリンの結合をブロックまたは他の形で阻害することなくトランスフェリン受容体に結合しうる。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、実質的に阻害されない。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、約50%未満(例えば、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、または約5%未満)阻害される。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRに対する結合は、約20%未満(例えば、約19%未満、約18%未満、約17%未満、約16%未満、約15%未満、約14%未満、約13%未満、約12%未満、約11%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満)阻害される。
【0085】
CH2トランスフェリン受容体結合セット(iii):47、49、56、58、59、60、61、62、及び63
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、47位、49位、56位、58位、59位、60位、61位、62位、及び63位を含むアミノ酸位置の1セット(セットiii)において少なくとも3個または少なくとも4個、一般的には5個、6個、7個、8個、または9個の置換を含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、60位にGluを、かつ/または61位にTrpを含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、以下の位置の少なくとも1つの置換、すなわち、47位にGlu、Gly、Gln、Ser、Ala、Asn、Tyr、またはTrp、49位にIle、Val、Asp、Glu、Thr、Ala、またはTyr、56位にAsp、Pro、Met、Leu、Ala、Asn、またはPhe、58位にArg、Ser、Ala、またはGly、59位にTyr、Trp、Arg、またはVal、60位にGlu、61位にTrpまたはTyr、62位にGln、Tyr、His、Ile、Phe、Val、またはAsp、または、63位にLeu、Trp、Arg、Asn、Tyr、またはValを含む。いくつかの実施形態では、47位、49位、56位、58位、59位、60位、61位、62位、及び63位のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、または9つすべてがこのパラグラフで指定される置換を有する。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含んでもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、同一性%が47位、49位、56位、58位、59位、60位、61位、62位、及び63位のセットを含まないことを条件として、配列番号1のアミノ酸4~113と少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有する。
【0087】
CH2トランスフェリン受容体結合セット(iv):39、40、41、42、43、44、68、70、71、及び72
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、39位、40位、41位、42位、43位、44位、68位、70位、71位、及び72位を含むアミノ酸位置の1セット(セットiv)において少なくとも3個または少なくとも4個、一般的には5個、6個、7個、8個、9個、または10個の置換を含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、43位にProを、68位にGluを、かつ/または70位にTyrを含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、以下の位置の少なくとも1つの置換、すなわち、39位のPro、Phe、Ala、Met、またはAsp、40位のGln、Pro、Arg、Lys、Ala、Ile、Leu、Glu、Asp、またはTyr、41位のThr、Ser、Gly、Met、Val、Phe、Trp、またはLeu、42位のPro、Val、Ala、Thr、またはAsp、43位のPro、Val、またはPhe、44位のTrp、Gln、Thr、またはGlu、68位のGlu、Val、Thr、Leu、またはTrp、70位のTyr、His、Val、またはAsp、71位のThr、His、Gln、Arg、Asn、またはVal、及び、72位のTyr、Asn、Asp、Ser、またはProを含む。いくつかの実施形態では、39位、40位、41位、42位、43位、44位、68位、70位、71位、及び72位のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10個すべてがこのパラグラフで指定される置換を有する。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含んでもよい。
【0088】
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、同一性%が39位、40位、41位、42位、43位、44位、68位、70位、71位、及び72位のセットを含まないことを条件として、配列番号1のアミノ酸4~113と少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有する。
【0089】
CH2トランスフェリン受容体結合セット(v):41、42、43、44、45、65、66、67、69、及び73
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、41位、42位、43位、44位、45位、65位、66位、67位、69位、及び73位を含むアミノ酸位置の1セット(セットv)において少なくとも3個または少なくとも4個、一般的には5個、6個、7個、8個、9個、または10個の置換を含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、以下の位置の少なくとも1つの置換、すなわち、41位のValまたはAsp、42位のPro、Met、またはAsp、43位のPro またはTrp、44位のArg、Trp、Glu、またはThr、45位のMet、Tyr、またはTrp、65位のLeuまたはTrp、66位のThr、Val、Ile、またはLys、67位のSer、Lys、Ala、またはLeu、69位のHis、Leu、またはPro、または、73位のValまたはTrpを含む。いくつかの実施形態では、41位、42位、43位、44位、45位、65位、66位、67位、69位、及び73位のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10個すべてがこのパラグラフで指定される置換を有する。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含んでもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、同一性%が41位、42位、43位、44位、45位、65位、66位、67位、69位、及び73位のセットを含まないことを条件として、配列番号1のアミノ酸4~113と少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有する。
【0091】
CH2トランスフェリン受容体結合セット(vi):45、47、49、95、97、99、102、103、及び104
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、45位、47位、49位、95位、97位、99位、102位、103位、及び104位を含むアミノ酸位置の1セット(セットvi)において少なくとも3個または少なくとも4個、一般的には5個、6個、7個、8個、または9個の置換を含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインは、103位にTrpを含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、以下の位置の少なくとも1つの置換、すなわち、45位のTrp、Val、Ile、またはAla;47位のTrpまたはGly;49位のTyr、Arg、またはGlu;95位のSer、Arg、またはGln;97位のVal、Ser、またはPhe;99位のIle、Ser、またはTrp;102位のTrp、Thr、Ser、Arg、またはAsp;103位のTrp;及び、104位のSer、Lys、Arg、またはValを含む。いくつかの実施形態では、45位、47位、49位、95位、97位、99位、102位、103位、及び104位のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、または9つすべてがこのパラグラフで指定される置換を有する。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、上記のセット中の位置の1つ以上において特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ電荷に基づくグループ、疎水性に基づくグループ、側鎖の環構造に基づくグループ(例えば、芳香族アミノ酸)、またはサイズに基づくグループ、及び/または極性かまたは非極性かによるグループの中のアミノ酸を含んでもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、改変CH2ドメインポリペプチドは、同一性%が45位、47位、49位、95位、97位、99位、102位、103位、及び104位のセットを含まないことを条件として、配列番号1のアミノ酸4~113と少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有する。
【0093】
V.Fc領域内の更なる変異
本発明の方法で使用される作用物質に連結されたポリペプチド(例えば、トランスフェリン受容体に結合するように改変され、かつBBBを通る輸送を開始することができる)はまた、例えば、血清安定性を高めるため、エフェクター機能を調節するため、グリコシル化に影響を及ぼすため、ヒトにおける免疫原性を低下させるため、及び/または、ポリペプチドのノブ・アンド・ホール型のヘテロ二量化を可能とするためなど、更なる変異を含んでもよい。
【0094】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、対応する野生型Fc領域(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)と少なくとも約75%、少なくとも約76%、少なくとも約77%、少なくとも約78%、少なくとも約79%、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列の同一性を有する。
【0095】
ポリペプチドは、例えば、グリコシル化に影響を及ぼすため、血清半減期を長くするため、またはCH3ドメインについては、改変CH3ドメインを含むポリペプチドのノブ・アンド・ホール型のヘテロ二量化を可能とするためなど、アミノ酸の指定されたセットの外側に導入される他の変異を有してもよい。一般的に、この方法では、第1のポリペプチドの界面に突起(「ノブ」)を、第2のポリペプチドの界面に対応した穴(「ホール」)を導入することで、突起が穴の中に位置してヘテロ二量体の形成を促し、ホモ二量体の形成を妨げることができることを伴う。突起は、第1のポリペプチドの界面の小さなアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)に置換することによって形成される。突起と同じ、または同様の大きさの相補的な穴が、大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えば、アラニンまたはスレオニン)に置換することによって第2のポリペプチドの界面に形成される。このような更なる変異は、トランスフェリン受容体に対する改変CH3またはCH2ドメインの結合に負の影響を及ぼさないポリペプチド内の位置に導入される。
【0096】
二量体化のためのノブ・アンド・ホール型のアプローチの例示的な一実施形態では、二量体化しようとする第1のFcポリペプチドサブユニットの、配列番号1の139位に対応する位置が、天然のスレオニンの代わりにトリプトファンを有し、二量体の第2のFcポリペプチドサブユニットが、配列番号1の180位に対応する位置に天然のチロシンの代わりにバリンを有する。Fcポリペプチドの第2のサブユニットは、配列番号1の139位に対応する位置の天然のスレオニンがセリンに置換され、配列番号1の141位に対応する位置の天然のロイシンがアラニンに置換される置換を更に含んでもよい。
【0097】
ポリペプチドは、ヘテロ二量体化のための他の改変、例えば、自然に帯電しているCH3-CH3界面内の接触残基の静電的操作、または疎水性パッチ改変を含むように操作することもできる。
【0098】
いくつかの実施形態では、血清半減期を延長するための改変を導入することができる。例えば、いくつかの実施形態では、Fc領域は、配列番号1の25位に対応する位置にTyrを、配列番号1の27位に対応する位置にThrを、配列番号1の29位に対応する位置にGluを含むCH2ドメインを含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、変異、例えば置換を、配列番号1を基準として決めた場合の17~30位、52~57位、80~90位、156~163位、及び201~208位のうちの1つ以上に導入する。いくつかの実施形態では、配列番号1を基準として決めた場合の24位、25位、27位、28位、29位、80位、81位、82位、84位、85位、87位、158位、159位、160位、162位、201位、206位、207位、または209位に1つ以上の変異を導入する。いくつかの実施形態では、配列番号1を基準として決めた場合の25位、27位、及び29位のうちの1つ、2つ、または3つに変異を導入する。いくつかの実施形態では、変異は、配列番号1を基準として番号付けした場合のM25Y、S27T、及びT29Eである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、変異M25Y、S27T、及びT29Eを更に含む。いくつかの実施形態では、配列番号1を基準として決めた場合の201位及び207位の1つまたは2つに変異を導入する。いくつかの実施形態では、変異は、配列番号1を基準として番号付けした場合のM201L及びN207Sである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、M201Lを伴うかまたは伴わずに変異N207Sを更に含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、配列番号1を基準として番号付けした場合のT80位、E153位、及びN207位の1つ、2つ、または3つすべてに置換を含む。いくつかの実施形態では、変異はT80Q及びN207Aである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、変異T80A、E153A、及びN207Aを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、配列番号1を基準として番号付けした場合のT23位及びM201位に置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、変異T23Q及びM201Lを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、配列番号1を基準として番号付けした場合のM201位及びN207位に置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、置換M201L及びN207Sを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、N207SまたはN207Aの置換を含む。
【0100】
Fcエフェクター機能
いくつかの実施形態では、Fc領域(例えば、改変CH2またはCH3ドメインを含む)はエフェクター機能を有する(すなわち、Fc領域は、エフェクター機能を媒介するエフェクター細胞で発現するFc受容体に結合する際にある特定の生物学的機能を誘導する能力を有する)。エフェクター細胞としては、これらに限定されるものではないが、単核球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及び細胞傷害性T細胞が挙げられる。
【0101】
抗体エフェクター機能の例としては、これらに限定されるものではないが、C1q結合及び補体依存性細胞傷害活性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞障害活性(ADCC)、抗体依存性細胞介在性食作用(ADCP)、細胞表面受容体のダウンレギュレーション(例えば、B細胞受容体)、及びB細胞活性化が挙げられる。エフェクター機能は抗体クラスによって異なり得る。例えば、天然のヒトIgG1及びIgG3抗体は、免疫系細胞上に存在する適切なFc受容体に結合する際にADCC及びCDC活性を誘発することができ、天然のヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4は、免疫細胞上に存在する適切なFc受容体に結合する際にADCP機能を誘発することができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、エフェクター機能を低下させる更なる改変を含むことができる。あるいは、いくつかの実施形態では、ポリペプチド(例えば、改変CH2またはCH3ドメインを含む)は、エフェクター機能を高める更なる改変を含むことができる。
【0103】
エフェクター機能を調節する例示的なFcポリペプチド変異としては、これらに限定されるものではないが、CH2ドメイン内の置換、例えば、配列番号1の7及び8位に対応する位置における置換が挙げられる。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメイン内の置換は、配列番号1の7及び8位のAlaを含む。いくつかの実施形態では、改変CH2ドメイン内の置換は、配列番号1の7及び8位のAla、ならびに102位のGlyを含む。
【0104】
エフェクター機能を調節する更なるFcポリペプチド変異としては、これらに限定されるものではないが、238、265、269、270、297、327及び329位における1つ以上の置換を含む(EU番号付けスキームでは、配列番号1を基準として番号付けした場合に11、38、42、43、70、100、及び102位に相当する)。例示的な置換(EU番号付けスキームで番号付けした場合)には以下のものが含まれる。すなわち、329位は、プロリンがグリシンもしくはアルギニンに置換されたまたはFcのプロリン329とFcγRIIIのトリプトファン残基Trp87及びTrp110との間に形成されるFc/Fcγ受容体界面を壊すだけの充分な大きさを有するアミノ酸残基に置換された変異を有することができる。更なる例示的な置換は、S228P、E233P、L235E、N297A、N297D、及びP331Sを含む。複数の置換が存在してもよく、例えば、ヒトIgG1のFc領域のL234A及びL235A、ヒトIgG1のFc領域のL234A、L235A、及びP329G、ヒトIgG4のFc領域のS228P及びL235E、ヒトIgG1のFc領域のL234A及びG237A、ヒトIgG1のFc領域のL234A、L235A、及びG237A、ヒトIgG2のFc領域のV234A及びG237A、ヒトIgG4のFc領域のL235A、G237A、及びE318A、ならびにヒトIgG4のFc領域のS228P及びL236Eが挙げられる。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、ADCCを調節する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、EU番号付けスキームに従う、Fc領域の298、333、及び/または334位の置換を有することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリペプチドは、ADCCを増大または減少させる1つ以上のアミノ酸置換を有してもよいか、またはC1q結合及び/またはCDCを変化させる変異を有してもよい。
【0106】
更なる変異を含む例示的なポリペプチド
ポリペプチドは、ノブ変異(例えば、配列番号1を基準として番号付けした場合のT139W)、ホール変異(例えば、配列番号1を基準として番号付けした場合のT139S、L141A、及びY180V)、エフェクター機能を調節する変異(例えば、配列番号1を基準として番号付けした場合のL7A、L8A、及び/またはP102G(例えば、L7A及びL8A))、及び/または血清安定性を高める変異(例えば、(i)配列番号1を基準として番号付けした場合のM25Y、S27T、及びT29E、または(ii)配列番号1を基準として番号付けした場合の、M201Lを伴うかまたは伴わないN207S)を含む更なる変異を含むことができる。
【実施例0107】
VI.実施例
本発明を、特定の実施例によってより詳細に説明する。以下の実施例はあくまで例示の目的で示されるものにすぎず、本発明をいかなる形でも限定しようとするものではない。当業者には、実質的に同じ結果が得られるように変更または改変することができる様々な重要でないパラメータが容易に認識されよう。用いられる数値(例えば、量、温度など)に関して精度を確実とするべく努力に努めてはいるが、ある程度の実験的誤差及び偏差は存在し得る。本発明の実施では、特に断らない限りは、当該技術分野の技術の範囲内で、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術、及び薬理学の従来の方法を用いている。かかる技術は文献に充分な説明がなされている。更に、当業者には、特定のライブラリーに適用される操作のための方法は、本明細書に記載される他のライブラリーにも適用できることが明らかなはずである。
【0108】
実施例1 CH3Cバリアントの薬物動態学的/薬力学的特性分析
本実施例では、マウスの血漿中及び脳組織中でのCH3Cバリアントポリペプチドの薬物動態学的/薬力学的(PK/PD)特性分析について述べる。詳細には、抗BACE1物質は、脳内でより低いCmax値を示したが、TfRに対する親和性が弱いポリペプチドに連結された場合に、TfRに対する親和性がより強いポリペプチドと比較して時間の経過とともにより高い脳中濃度を示しかつ時間の経過とともにより高いAβの阻害を示したことが、本実施例によって示される(例えば、図3B、3C、4B、及び4Cを参照)。
【0109】
野生型マウス血漿中でのCH3Cバリアントの薬物動態
ポリペプチド-Fab融合体はヒトTfRにのみ結合しマウスTfRには結合しないことから、TfR介在性クリアランスを有さないモデルにおけるインビボ安定性を示すために野生型マウスでいくつかのCH3Cバリアントの薬物動態学(PK)が試験された。実験計画を下記表3に示す。6~8週齢のC57Bl6マウスに静脈内投与し、表3に示される時点において顎下瀉血により生存中瀉血が行われた。血液をEDTA血漿チューブに採取し、14,000rpmで5分間遠心した後、血漿を後の分析用に単離した。
【0110】
(表3)PK実験計画
【0111】
マウスにおいてAb122は正常なPKを有する抗RSVコントロールとして使用した。マウスにおいてAb153は正常なPKを有する抗BACE1コントロールとして使用した。この実験では、Ab153のFabアームを各ポリペプチドに融合した。
【0112】
マウス血漿中のポリペプチド濃度を、ジェネリックのヒトIgGアッセイ(MSD(登録商標)ヒトIgGキット#K150JLD-4)を製造者の指示に従って使用して定量した。要約すると、予めコーティングしたプレートをMSD(登録商標)Blocker Aで30分間ブロッキングした。血漿試料を、Hamilton(登録商標)NIMBUSリキッドハンドリング装置を使用して1:2,500で希釈し、ブロッキングしたプレートに2つ組で加えた。投与溶液も同じプレート上で分析して適正な用量を確認した。標準曲線として0.78~200ng/mLのIgGを、4パラメータロジスティック回帰を用いてフィッティングした。図1及び表4は、これらのデータの分析結果を示す。大幅に速いクリアランス及び短い半減期を有していたCH3C.3.2-5を除き、CH3Cポリペプチドバリアントのすべてが、標準Ab122と同等のクリアランス及び半減期値を有していた。興味深い点として、このバリアントはCH3C.3.2-19(N163D)の点変異体であり、後者は正常なPKプロファイルを有していた。
【0113】
(表4)CH3Cポリペプチド-Fab融合体のPKパラメータ
【0114】
野生型マウス脳組織における一価CH3C.35.N163のPK/PDの評価
マウスTfrc遺伝子内でヒトTfrcアピカルドメインを発現するトランスジェニックマウスを、CRISPR/Cas9技術を用いて作製した。得られたキメラTfRを内因性プロモーターの制御下にて、インビボで発現させた。
【0115】
キメラhTfRアピカル+/+ヘテロ接合体マウス(n=4/群)に42mg/kgのAb153または一価CH3C.35.N163のいずれかを静脈内投与し、野生型マウス(n=3)に50mg/kgのコントロールヒトIgG1を静脈内投与した。マウスにおいてAb153は正常なPKを有するコントロールとして使用した。すべてのマウスを投与24時間後にPBSで灌流した。灌流に先立ち、血液をEDTA血漿チューブ中に心穿刺により採取し、14,000rpmで5分間遠心した。次いで、後のPK及びPD分析用に血漿を単離した。灌流後の脳を摘出し、脳半球を分離して組織重量の10倍のPBS中、1%NP-40(PK用)または5M GuHCl(PD用)中でホモジナイズした。
【0116】
図2は、脳のPK実験の結果を示す。取り込みは、一価CH3C.35.N163のグループで、Ab153及びコントロールヒトIgG1グループよりも大きかった。
【0117】
hTfR アピカル+/+ マウスにおけるポリペプチド-Fab融合体の脳及び血漿のPKPD:CH3C.35.21、CH3C.35.20、CH3C.35、CH3C.35.23、CH3C.35.23.3
PK及び脳での取り込みに対するTfR結合親和性の影響を評価するため、Biacoreによって測定されるアピカルヒトTfRに対する結合親和性の異なる抗BACE1 Ab153及び操作されたTfR結合ポリペプチド融合体(CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、CH3C.35:Ab153融合体)を作製した。ヒトTfRに対するCH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、CH3C.35:Ab153融合体の結合親和性はそれぞれ、100nM、170nM、及び620nMである。hTfRアピカル+/+マウスノックインマウスに、50mg/kgのAb153または各ポリペプチド-Fab融合体を全身投与し、血漿PK及び脳PKPDを投与の1、3、及び7日後に評価した。脳及び血漿PKPD分析を上記のセクションで述べたようにして行った。末梢組織でのTfRの発現により、CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、及びCH3C.35:Ab153融合体は、Ab153単独と比較して血漿中のより速やかなクリアランスを示したが、これは、標的介在性のクリアランスと一致し、インビボでのTfR結合を示すものである(図3A)。印象的な点として、CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、及びCH3C.35:Ab153融合体の脳中濃度は、Ab153と比較して有意に増大し、同じ時点におけるAb153がわずかに約3nMであったのと比較して投与後1日目に30nmよりも高い最大脳中濃度が得られた(図3B)。CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、及びCH3C.35:Ab153融合体の脳曝露の増大は、Ab153を投与したマウスにおけるAβレベルと比較して、マウスの脳で約55~60%低い内因性のマウスAβレベルをもたらした(図3C)。CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、及びCH3C.35:Ab153融合体の濃度が脳で高い状態に保たれた一方でより低い脳Aβレベルは維持され、7日目までに曝露が低減された場合のAb153で処置したマウスと同様のレベルに戻った。経時的な脳曝露の低下は、CH3C.35.21:Ab153、CH3C.35.20:Ab153、及びCH3C.35:Ab153融合体の末梢曝露の低下と相関しており、インビボでの明確なPK/PDの関係を示した(図3Aと3Cとを比較)。更に、全体の脳のTfRレベルは、この単回の高用量の投与後にAb153処理マウスとポリペプチド-Fab融合体処理マウスとで同等であり、脳におけるTfR発現に対して、ポリペプチド-Fab融合体の脳曝露の増大が有意な影響を及ぼさないことを示している(図3D)。
【0118】
操作されたTfR結合ポリペプチド-Fab融合体のより広い親和性範囲でのPKと脳での取り込みとの関係を更に評価するため、hTfRとの結合についてより広い親和性範囲を有する更なる融合体を作製した。ヒトTfRに対するCH3C.35.23:Ab153及びCH3C.35.23.3:Ab153融合体の結合親和性は、それぞれ420nM及び1440nMである。hTfRアピカル+/+ノックインマウスに上記に述べたように投与を行った。血漿のPK及び脳のPKPDを投与の1、4、7、及び10日後に評価した。ポリペプチド-Fab融合体の末梢でのPKはhTfR親和性に依存しており、より親和性の高いCH3C.35.23:Ab153融合体は、大幅に低い親和性を有するCH3C.35.23.3:Ab153融合体と比較してより速やかなクリアランスを示した(図4A)。CH3C.35.23:Ab153及びCH3C.35.23.3:Ab153融合体はいずれも、Ab153単独と比較して有意に高い脳曝露を有し、CH3C.35.23:Ab153は投与後1日目に脳内で約36nMに達した(図4B)。血漿中濃度が同様であったにもかかわらず、CH3C.35.23.3:Ab153融合体のこの最大の脳での取り込みは、CH3.35.23:Ab153融合体の脳での取り込みよりも低く、これは恐らくは後者の融合体のhTfRに対する親和性が約3.5倍低いことによるものと考えられる。興味深い点として、親和性のより低い融合体が10日目までにより持続した末梢曝露を与えたことから、その脳曝露も親和性のより高いCH3C.35.23:Ab153融合体よりも高かった。このことは、親和性のより低い操作されたTfR結合ポリペプチド-Fab融合体では脳Cmaxはより低いがPKは経時的により持続するというトレードオフを示している。抗BACE1単独と比較して、Aβ40の有意に低い濃度が、抗BACE1ポリペプチド融合体を投与したマウスの脳で観察された(図4C)。このAβ40低下の持続時間は、脳におけるhuIgG1曝露の経時的なレベルと一致していた(図4B)。印象的な点として、CH3C.35:Ab153融合体を投与したマウスは、単回投与の7~10日後まで持続的な脳のAβ40の低下を示した。全体的な脳のTfRレベルは、CH3C.35:Ab153融合体に対してAb153を投与したマウス間で投与後1日目に同等であった(図4D)。これらのデータは共に、操作されたTfR結合ポリペプチド融合体が抗BACE1の脳曝露を増大させることにより単回投与後に脳のAβ40を有意に低下させ得ることを示すものである。
【0119】
実施例2 TfR結合ポリペプチド親和性の選択
本実施例では、トランスフェリン受容体(TfR)に対するTfR結合ポリペプチドの親和性と、もたらされる、TfR結合ポリペプチドに連結された治療用物質への脳曝露との間の関係について述べる。
【0120】
図5は、治療用物質への脳曝露(時間に対する脳濃度の曲線下面積(AUC)により評価される)は、治療用物質をTfRに対する親和性が比較的低いポリペプチドに連結した場合に最大であったことを示している。詳細には、脳曝露は、治療用物質をTfRに対する親和性が約250nMよりも弱いポリペプチドに連結した場合に大幅に延びた。
【0121】
図6に示されるように、脳内のより低い最高血中濃度(Cmax)が、治療用物質をTfRに対する親和性が比較的弱いポリペプチドに連結した場合に観察された。詳細には、脳のCmax値は、TfR結合ポリペプチドが約250nMよりも低い親和性を有する場合に有意に低かった。
【0122】
図7は、TfRに対して一連の親和性を有するポリペプチドに連結された場合の治療用物質の血漿中濃度に対する脳中Cmaxの比を示す。
【0123】
方法
hTfRアピカル+/+KIの作製
ノックイン/ノックアウトマウスの作製のための方法は文献に公開されており、当業者には周知のものである。要約すると、CRISPR/Cas9技術を用いてマウスTfrc遺伝子内でヒトTfrcアピカルドメインを発現するhTfRアピカル+/+KIマウスを作製し、得られたキメラTfRを内因性プロモーターの制御下にてインビボで発現させた。本明細書においてその全容を参照により援用される国際出願番号PCT/US2018/018302に記載されるように、C57Bl6マウスを使用して単一細胞胚に前核マイクロインジェクションした後、偽妊娠雌に胚移植することにより、ヒトアピカルTfRマウス系統のノックインを作製した。詳細には、Cas9、シングルガイドRNA、及びドナーDNAを胚に導入した。ドナーDNAは、マウスで発現させるためにコドン最適化されたヒトアピカルドメインコーディング配列を含んだ。アピカルドメインコーディング配列には、左側及び右側のホモロジーアームを隣接させた。ドナー配列は、アピカルドメインが4番目のマウスエクソンの後に挿入され、3末端に9番目のエクソンが直接隣接するように設計した。胚を移植した雌の子孫からのファウンダー雄を野生型の雌と交配してF1ヘテロ接合体マウスを作出した。次に、F1世代のヘテロ接合体マウスの交配によってホモ接合体マウスを作出した。
【0124】
マウスPKPD
PK/PDの評価のために、hTfRアピカル+/+ KIマウスに50mg/kgで尾静脈注射により1回全身投与した。灌流に先立ち、血液をEDTA血漿チューブに心穿刺により採取し、14,000rpmで5分間遠心した。次いで、後のPK/PD分析用に血漿を単離した。灌流後の脳を摘出し、脳半球を分離して組織重量の10倍のPBS中、1%NP-40(PK用)または5M GuHCl(PD用)中でホモジナイズした。
【0125】
マウス血漿及び脳ライセート中の抗体濃度を、ジェネリックのヒトIgGアッセイ(MSD ヒトIgGキット#K150JLD)を製造者の指示にしたがって使用して定量した。要約すると、プレコートしたプレートをMSD Blocker Aで30分間ブロッキングした。血漿試料を、Hamilton Nimbusリキッドハンドリング装置を使用して1:10,000で希釈し、ブロッキングしたプレートに2つ組で加えた。脳試料を1%NP-40溶解バッファー中でホモジナイズし、ライセートをPK分析用に1:10に希釈した。投与溶液も同じプレート上で分析して適正な用量を確認した。標準曲線として0.78~200ng/mLのIgGを、4パラメータロジスティック回帰を用いてフィッティングした。
【0126】
実施例3 Biacore(商標)を用いたCH3Cバリアントの結合の特性分析
組換えTfRアピカルドメインのクローンバリアントの親和性をBiacore(商標)T200装置を使用して表面プラズモン共鳴により測定した。Biacore(商標)シリーズS CM5のセンサーチップを抗ヒトFabとともに固定化した(GE Healthcareより販売されるヒトFab捕捉キット)。5μg/mLのポリペプチド-Fab融合体を各フローセル上に1分間捕捉させ、ヒトまたはカニクイザルアピカルドメインの連続3倍希釈液を流速30μL/分で室温において注入した。各試料を45秒間の結合及び3分間の解離により分析した。それぞれの注入後、10mMグリシン-HCl(pH2.1)を用いてチップを再生した。結合応答を、無関連のIgGを同様の密度で捕捉させたフローセルからのRUを引くことによって補正した。Biacore(商標)T200 Evaluation Software v3.1.を用いて平衡状態の応答を濃度に対してフィッティングすることによって、安定状態の親和性を得た。
【0127】
組換えTfR細胞外ドメイン(ECD)のクローンバリアントの親和性を求めるため、Biacore(商標)シリーズS CM5センサーチップをストレプトアビジンとともに固定化した。ビオチン化したヒトまたはカニクイザルTfRのECDを各フローセル上に1分間捕捉させ、各クローンバリアントの連続3倍希釈液を流速30μL/分で室温において注入した。各試料を45秒間の結合及び3分間の解離により分析した。結合応答を、同様の密度でTfR ECDを有さないフローセルからのRUを引くことによって補正した。Biacore(商標)T200 Evaluation Software v3.1.を用いて平衡状態の応答を濃度に対してフィッティングすることによって、安定状態の親和性を得た。
【0128】
結合親和性を表5に要約する。親和性は安定状態のフィッティングにより得た。
【0129】
(表5)更なるCH3Cバリアントの結合親和性
【0130】
更なるCH3CバリアントのCH3C.35.20.1.1、CH3C.35.23.2.1、CH3C.35.23.1.1、CH3C.35.S413、CH3C.35.23.3.1、CH3C.35.N390.1、及びCH3C.35.23.6.1を作製し、ヒトTfRに対するそれらの結合親和性を上記に述べたものと同じプロトコールにしたがって測定した。CH3C.35.20.1.1、CH3C.35.23.2.1、CH3C.35.23.1.1、CH3C.35.S413、CH3C.35.23.3.1、CH3C.35.N390.1、及びCH3C.35.23.6.1の結合親和性は、それぞれ620nM、690nM、750nM、1700nM、1900nM、2000nM、及び2100nMである。
【0131】
本明細書に述べられる実施例及び実施形態はあくまで例示的な目的のものに過ぎず、これらを考慮することでさまざまな改変または変更が当業者に示唆され、かかる改変及び変更は本出願の趣旨及び範囲、ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるものであることが理解されよう。本明細書に引用される配列アクセッション番号の配列をここに参照によって援用する。
【0132】
(表1)CH3Cレジスターの位置及び変異
【0133】
(表2)CH3C.35.21に関するレジスター内の許容される多様性の探索及びホットスポット位置
【0134】
非公式の配列一覧表
【0135】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> DENALI THERAPEUTICS INC.
<120> AFFINITY-BASED METHODS FOR USING TRANSFERRIN RECEPTOR-BINDING
PROTEINS
<150> PCT/US2018/018371
<151> 2018-02-15
<150> US 62/583,314
<151> 2017-11-08
<150> US 62/543,658
<151> 2017-08-10
<160> 6
<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 220
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 1
Pro Cys Pro Ala Pro Glu Leu Leu Gly Gly Pro Ser Val Phe Leu Phe
1 5 10 15
Pro Pro Lys Pro Lys Asp Thr Leu Met Ile Ser Arg Thr Pro Glu Val
20 25 30
Thr Cys Val Val Val Asp Val Ser His Glu Asp Pro Glu Val Lys Phe
35 40 45
Asn Trp Tyr Val Asp Gly Val Glu Val His Asn Ala Lys Thr Lys Pro
50 55 60
Arg Glu Glu Gln Tyr Asn Ser Thr Tyr Arg Val Val Ser Val Leu Thr
65 70 75 80
Val Leu His Gln Asp Trp Leu Asn Gly Lys Glu Tyr Lys Cys Lys Val
85 90 95
Ser Asn Lys Ala Leu Pro Ala Pro Ile Glu Lys Thr Ile Ser Lys Ala
100 105 110
Lys Gly Gln Pro Arg Glu Pro Gln Val Tyr Thr Leu Pro Pro Ser Arg
115 120 125
Asp Glu Leu Thr Lys Asn Gln Val Ser Leu Thr Cys Leu Val Lys Gly
130 135 140
Phe Tyr Pro Ser Asp Ile Ala Val Glu Trp Glu Ser Asn Gly Gln Pro
145 150 155 160
Glu Asn Asn Tyr Lys Thr Thr Pro Pro Val Leu Asp Ser Asp Gly Ser
165 170 175
Phe Phe Leu Tyr Ser Lys Leu Thr Val Asp Lys Ser Arg Trp Gln Gln
180 185 190
Gly Asn Val Phe Ser Cys Ser Val Met His Glu Ala Leu His Asn His
195 200 205
Tyr Thr Gln Lys Ser Leu Ser Leu Ser Pro Gly Lys
210 215 220

<210> 2
<211> 113
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 2
Pro Cys Pro Ala Pro Glu Leu Leu Gly Gly Pro Ser Val Phe Leu Phe
1 5 10 15
Pro Pro Lys Pro Lys Asp Thr Leu Met Ile Ser Arg Thr Pro Glu Val
20 25 30
Thr Cys Val Val Val Asp Val Ser His Glu Asp Pro Glu Val Lys Phe
35 40 45
Asn Trp Tyr Val Asp Gly Val Glu Val His Asn Ala Lys Thr Lys Pro
50 55 60
Arg Glu Glu Gln Tyr Asn Ser Thr Tyr Arg Val Val Ser Val Leu Thr
65 70 75 80
Val Leu His Gln Asp Trp Leu Asn Gly Lys Glu Tyr Lys Cys Lys Val
85 90 95
Ser Asn Lys Ala Leu Pro Ala Pro Ile Glu Lys Thr Ile Ser Lys Ala
100 105 110
Lys

<210> 3
<211> 107
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 3
Gly Gln Pro Arg Glu Pro Gln Val Tyr Thr Leu Pro Pro Ser Arg Asp
1 5 10 15
Glu Leu Thr Lys Asn Gln Val Ser Leu Thr Cys Leu Val Lys Gly Phe
20 25 30
Tyr Pro Ser Asp Ile Ala Val Glu Trp Glu Ser Asn Gly Gln Pro Glu
35 40 45
Asn Asn Tyr Lys Thr Thr Pro Pro Val Leu Asp Ser Asp Gly Ser Phe
50 55 60
Phe Leu Tyr Ser Lys Leu Thr Val Asp Lys Ser Arg Trp Gln Gln Gly
65 70 75 80
Asn Val Phe Ser Cys Ser Val Met His Glu Ala Leu His Asn His Tyr
85 90 95
Thr Gln Lys Ser Leu Ser Leu Ser Pro Gly Lys
100 105

<210> 4
<211> 181
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 4
Asn Ser Val Ile Ile Val Asp Lys Asn Gly Arg Leu Val Tyr Leu Val
1 5 10 15
Glu Asn Pro Gly Gly Tyr Val Ala Tyr Ser Lys Ala Ala Thr Val Thr
20 25 30
Gly Lys Leu Val His Ala Asn Phe Gly Thr Lys Lys Asp Phe Glu Asp
35 40 45
Leu Tyr Thr Pro Val Asn Gly Ser Ile Val Ile Val Arg Ala Gly Lys
50 55 60
Ile Thr Phe Ala Glu Lys Val Ala Asn Ala Glu Ser Leu Asn Ala Ile
65 70 75 80
Gly Val Leu Ile Tyr Met Asp Gln Thr Lys Phe Pro Ile Val Asn Ala
85 90 95
Glu Leu Ser Phe Phe Gly His Ala His Leu Gly Thr Gly Asp Pro Tyr
100 105 110
Thr Pro Gly Phe Pro Ser Phe Asn His Thr Gln Phe Pro Pro Ser Arg
115 120 125
Ser Ser Gly Leu Pro Asn Ile Pro Val Gln Thr Ile Ser Arg Ala Ala
130 135 140
Ala Glu Lys Leu Phe Gly Asn Met Glu Gly Asp Cys Pro Ser Asp Trp
145 150 155 160
Lys Thr Asp Ser Thr Cys Arg Met Val Thr Ser Glu Ser Lys Asn Val
165 170 175
Lys Leu Thr Val Ser
180

<210> 5
<211> 15
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 5
Glu Pro Lys Ser Cys Asp Lys Thr His Thr Cys Pro Pro Cys Pro
1 5 10 15

<210> 6
<211> 760
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 6
Met Met Asp Gln Ala Arg Ser Ala Phe Ser Asn Leu Phe Gly Gly Glu
1 5 10 15
Pro Leu Ser Tyr Thr Arg Phe Ser Leu Ala Arg Gln Val Asp Gly Asp
20 25 30
Asn Ser His Val Glu Met Lys Leu Ala Val Asp Glu Glu Glu Asn Ala
35 40 45
Asp Asn Asn Thr Lys Ala Asn Val Thr Lys Pro Lys Arg Cys Ser Gly
50 55 60
Ser Ile Cys Tyr Gly Thr Ile Ala Val Ile Val Phe Phe Leu Ile Gly
65 70 75 80
Phe Met Ile Gly Tyr Leu Gly Tyr Cys Lys Gly Val Glu Pro Lys Thr
85 90 95
Glu Cys Glu Arg Leu Ala Gly Thr Glu Ser Pro Val Arg Glu Glu Pro
100 105 110
Gly Glu Asp Phe Pro Ala Ala Arg Arg Leu Tyr Trp Asp Asp Leu Lys
115 120 125
Arg Lys Leu Ser Glu Lys Leu Asp Ser Thr Asp Phe Thr Gly Thr Ile
130 135 140
Lys Leu Leu Asn Glu Asn Ser Tyr Val Pro Arg Glu Ala Gly Ser Gln
145 150 155 160
Lys Asp Glu Asn Leu Ala Leu Tyr Val Glu Asn Gln Phe Arg Glu Phe
165 170 175
Lys Leu Ser Lys Val Trp Arg Asp Gln His Phe Val Lys Ile Gln Val
180 185 190
Lys Asp Ser Ala Gln Asn Ser Val Ile Ile Val Asp Lys Asn Gly Arg
195 200 205
Leu Val Tyr Leu Val Glu Asn Pro Gly Gly Tyr Val Ala Tyr Ser Lys
210 215 220
Ala Ala Thr Val Thr Gly Lys Leu Val His Ala Asn Phe Gly Thr Lys
225 230 235 240
Lys Asp Phe Glu Asp Leu Tyr Thr Pro Val Asn Gly Ser Ile Val Ile
245 250 255
Val Arg Ala Gly Lys Ile Thr Phe Ala Glu Lys Val Ala Asn Ala Glu
260 265 270
Ser Leu Asn Ala Ile Gly Val Leu Ile Tyr Met Asp Gln Thr Lys Phe
275 280 285
Pro Ile Val Asn Ala Glu Leu Ser Phe Phe Gly His Ala His Leu Gly
290 295 300
Thr Gly Asp Pro Tyr Thr Pro Gly Phe Pro Ser Phe Asn His Thr Gln
305 310 315 320
Phe Pro Pro Ser Arg Ser Ser Gly Leu Pro Asn Ile Pro Val Gln Thr
325 330 335
Ile Ser Arg Ala Ala Ala Glu Lys Leu Phe Gly Asn Met Glu Gly Asp
340 345 350
Cys Pro Ser Asp Trp Lys Thr Asp Ser Thr Cys Arg Met Val Thr Ser
355 360 365
Glu Ser Lys Asn Val Lys Leu Thr Val Ser Asn Val Leu Lys Glu Ile
370 375 380
Lys Ile Leu Asn Ile Phe Gly Val Ile Lys Gly Phe Val Glu Pro Asp
385 390 395 400
His Tyr Val Val Val Gly Ala Gln Arg Asp Ala Trp Gly Pro Gly Ala
405 410 415
Ala Lys Ser Gly Val Gly Thr Ala Leu Leu Leu Lys Leu Ala Gln Met
420 425 430
Phe Ser Asp Met Val Leu Lys Asp Gly Phe Gln Pro Ser Arg Ser Ile
435 440 445
Ile Phe Ala Ser Trp Ser Ala Gly Asp Phe Gly Ser Val Gly Ala Thr
450 455 460
Glu Trp Leu Glu Gly Tyr Leu Ser Ser Leu His Leu Lys Ala Phe Thr
465 470 475 480
Tyr Ile Asn Leu Asp Lys Ala Val Leu Gly Thr Ser Asn Phe Lys Val
485 490 495
Ser Ala Ser Pro Leu Leu Tyr Thr Leu Ile Glu Lys Thr Met Gln Asn
500 505 510
Val Lys His Pro Val Thr Gly Gln Phe Leu Tyr Gln Asp Ser Asn Trp
515 520 525
Ala Ser Lys Val Glu Lys Leu Thr Leu Asp Asn Ala Ala Phe Pro Phe
530 535 540
Leu Ala Tyr Ser Gly Ile Pro Ala Val Ser Phe Cys Phe Cys Glu Asp
545 550 555 560
Thr Asp Tyr Pro Tyr Leu Gly Thr Thr Met Asp Thr Tyr Lys Glu Leu
565 570 575
Ile Glu Arg Ile Pro Glu Leu Asn Lys Val Ala Arg Ala Ala Ala Glu
580 585 590
Val Ala Gly Gln Phe Val Ile Lys Leu Thr His Asp Val Glu Leu Asn
595 600 605
Leu Asp Tyr Glu Arg Tyr Asn Ser Gln Leu Leu Ser Phe Val Arg Asp
610 615 620
Leu Asn Gln Tyr Arg Ala Asp Ile Lys Glu Met Gly Leu Ser Leu Gln
625 630 635 640
Trp Leu Tyr Ser Ala Arg Gly Asp Phe Phe Arg Ala Thr Ser Arg Leu
645 650 655
Thr Thr Asp Phe Gly Asn Ala Glu Lys Thr Asp Arg Phe Val Met Lys
660 665 670
Lys Leu Asn Asp Arg Val Met Arg Val Glu Tyr His Phe Leu Ser Pro
675 680 685
Tyr Val Ser Pro Lys Glu Ser Pro Phe Arg His Val Phe Trp Gly Ser
690 695 700
Gly Ser His Thr Leu Pro Ala Leu Leu Glu Asn Leu Lys Leu Arg Lys
705 710 715 720
Gln Asn Asn Gly Ala Phe Asn Glu Thr Leu Phe Arg Asn Gln Leu Ala
725 730 735
Leu Ala Thr Trp Thr Ile Gln Gly Ala Ala Asn Ala Leu Ser Gly Asp
740 745 750
Val Trp Asp Ile Asp Asn Glu Phe
755 760
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
【配列表】
2023123757000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-07-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非天然TfR結合部位を含むCH3ドメインを含む操作されたトランスフェリン受容体(TfR)結合ポリペプチドであって、ここで、該ポリペプチドは400nM~2μMの親和性で該TfRに結合し、さらにここで、該ポリペプチドは、TfRアピカルドメインと、完全長のヒトTfR配列の208位を含むエピトープにおいて結合する、前記ポリペプチド。
【請求項2】
非天然TfR結合部位を含むCH3ドメインを含む改変Fcポリペプチドである、請求項1に記載のポリペプチド
【請求項3】
脳内の治療標的に結合する作用物質に連結されている、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記治療標的が神経変性疾患に関与している、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
より強い親和性で前記TfRに結合する参照ポリペプチドに連結された作用物質と比較して、作用物質への脳曝露を延長する、請求項3~5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
より強い親和性で前記TfRに結合する参照ポリペプチドに連結された作用物質と比較して、哺乳動物における治療有効濃度での前記作用物質への脳曝露を延長する、請求項3~5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
脳曝露が、時間に対する前記作用物質の脳中濃度のプロットの曲線下面積(AUC)を測定することによって判定される、請求項6または7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
750nM~1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
1,100nM~1.5μMの親和性で前記TfRに結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、哺乳動物の血液脳関門(BBB)を通過して治療標的に結合する作用物質を輸送するための医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、哺乳動物における神経変性疾患を治療するための医薬組成物。