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特開2023-123780非プロトン性双性イオンを用いた未分化促進剤及び凍結保護剤
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  • 特開-非プロトン性双性イオンを用いた未分化促進剤及び凍結保護剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123780
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】非プロトン性双性イオンを用いた未分化促進剤及び凍結保護剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230829BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230829BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230829BHJP
【FI】
C12N5/00
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/18
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109079
(22)【出願日】2023-07-03
(62)【分割の表示】P 2021519409の分割
【原出願日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019090509
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (公開1) 刊行物名 :第10回イオン液体討論会 要旨集 発行日 :令和元年11月21日 (公開2) 刊行物名 :第10回イオン液体討論会 要旨集(ポスター) 発行日 :令和元年11月21日
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】平田 英周
(57)【要約】      (修正有)
【課題】DMSO等と同様に薬剤を溶解するが、培地に添加しても細胞の分化を誘導せず、未分化を促進することが可能な未分化促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の未分化促進剤は、下記式(1)

(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)で表される非プロトン性双性イオンを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性双性イオンを含む未分化促進剤。
【請求項2】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである請求項1に記載の未分化促進剤。
【請求項3】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンである請求項1に記載の未分化促進剤。
【請求項4】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有する請求項1~3のいずれか1項に記載の未分化促進剤。
【請求項5】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される請求項1~4のいずれか1項に記載の未分化促進剤。
【請求項6】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化1】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される請求項1に記載の未分化促進剤。
【請求項7】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化2】
【化3】
(式中、R及びRは、請求項6で定義したとおりである。)
で表される請求項6に記載の未分化促進剤。
【請求項8】
非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤。
【請求項9】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項10】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンである請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項11】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有する請求項8~10のいずれか1項に記載の凍結保護剤。
【請求項12】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される請求項8~11のいずれか1項に記載の凍結保護剤。
【請求項13】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化4】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項14】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化5】
【化6】
(式中、R及びRは、請求項13で定義したとおりである。)
で表される請求項13に記載の凍結保護剤。
【請求項15】
一般式(4)で表される非プロトン性双性イオンを含む凍結保存用培地。
-X-R-A (4)
(式中、Rは炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Xは双性イオンのカチオン部であり、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを表し、Aはアニオン部を表し、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンを表し、Rは、炭素数1~5個の置換基を有していても良いアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
【請求項16】
一般式(4)において、Xは、窒素原子1個又は2個以上含む炭素数1~6個の環状構造を有し、窒素原子上には1個又は2個以上の置換基を有し、Aはカルボキシル基又はスルホン酸基であり、カチオンは窒素上に存在するか又はX全体に非局在化しており、アニオンはカルボキシル基又はスルホン酸基上に存在する、請求項15に記載の凍結保存用培地。
【請求項17】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化7】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される請求項15又は16に記載の凍結保存用培地。
【請求項18】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化8】
【化9】
(式中、R及びRは、請求項17で定義したとおりである。)
で表される請求項15~17のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【請求項19】
前記R又はRが炭素数1~7個のアルケニル基である請求項15~18のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未分化促進剤及び凍結保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を用いたアッセイにおいて疎水性薬剤を培地に添加する場合には、その疎水性薬剤をジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に溶解してから培地に分散させている。しかし、DMSOには、幹細胞の分化を誘導させる虞があることが知られている(非特許文献1~3)。これに対し、未分化状態を維持する培地として、タカラバイオ社製「Cellartis(登録商標)DEF-CS 500 Culture System」等が提供されているが、さらなる改良の余地があった。
【0003】
また、DMSOやグリセロールは、細胞を凍結保存する際の凍結保護剤としても広く用いられており、細胞や細胞小器官を保護するための最も効果的な試薬であることが示されている。凍結保護剤は、細胞凍結時に細胞内に形成される氷の結晶の成長を抑えるものである。DMSO等は細胞膜透過性であり、細胞の内外で氷晶の成長速度を遅らせ氷晶形成を阻害する。しかし、DMSO及びグリセロールは生理的に毒性であり、細胞とともにレシピエントに輸液されるか、または担当者の取り扱いにより、高血圧、吐き気及び嘔吐を引き起こすことが知られている。
【0004】
さらに、DMSO等の凍結保護剤は、細胞の生存率を上げるため、さらにウシ血清アルブミン等のタンパク質と混合して用いることが多い。しかしながら、血清は、ウイルス等に汚染されるリスクがあり、また、ロットにより生物活性が異なるので、優良なロットの選定に多大な労力がかかる(特許文献1)。さらに、異種動物由来のタンパク質を用いることにより、再生医療における拒絶反応が懸念される。
【0005】
一方、畜産業においては、精子の冷凍保存は重要な問題であるとされているが、精子の運動性を維持するためにグリセリンなどの冷凍保存剤に変えてベタインやカルニチンを用いることが提案されているが、いずれも培地に卵黄などの異種動物由来のタンパク質が用いられている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-105585号公報(段落0002)
【特許文献2】特開平2-422号公報
【特許文献3】特開2013-78272号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jiang, G., et al., Int. Immunopharmacol., 6 (7), 1204-1213 (2006).
【非特許文献2】Young, D. A., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 322 (3), 759-765 (2004).
【非特許文献3】Katkov, I. I., et al., Cryobiology, 53 (2), 194-205 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、DMSO等と同様に薬剤を溶解するが、培地に添加しても細胞の分化を誘導せず、未分化を促進することが可能な未分化促進剤を提供することを目的とする。なお、本発明における「未分化促進剤」は、未分化マーカーを増幅させ、未分化を積極的に促進する薬剤の他、分化を誘導せず、未分化状態を維持する薬剤をも意味する。
【0009】
また、本発明は、従来のDMSO等を含む凍結保護剤に代わり、毒性が低く、凍結・解凍後の細胞の生存率が高い新規な凍結保護剤を提供することを目的とする。さらに、血清から精製したタンパク質等と併用する必要がなく、それゆえウイルス等の汚染リスクが少なく、品質が一定であり、再生医療における拒絶反応を回避可能な凍結保護剤を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記従来の状況に鑑み、DMSO等と同様に薬剤を溶解するが、毒性が少なく培地に添加しても細胞周期や細胞の機能に影響が少ない添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、1分子内に正電荷と負電荷の両方を有する非プロトン性双性イオン(zwitterion)が、種々の疎水性薬剤を良好に溶解可能であると同時に、細胞の未分化を促進し、又は未分化状態を維持することを見出し発明を完成した。
【0012】
また、本発明者らは、上記の非プロトン性双性イオンが、細胞に対して低毒性であり、それ単独で凍結保護剤として機能することを見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1)非プロトン性双性イオンを含む未分化促進剤。
(2)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである上記(1)に記載の未分化促進剤。
(3)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンである上記(1)に記載の未分化促進剤。
(4)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有する上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の未分化促進剤。
(5)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の未分化促進剤。
(6)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化1】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される上記(1)に記載の未分化促進剤。
(7)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化2】
【化3】
(式中、R及びRは、上記(6)で定義したとおりである。)
で表される上記(6)に記載の未分化促進剤。
(8)非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤。
(9)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである上記(8)に記載の凍結保護剤。
(10)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンである上記(8)に記載の凍結保護剤。
(11)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有する上記(8)~(10)のいずれか1つに記載の凍結保護剤。
(12)前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される上記(8)~(11)のいずれか1つに記載の凍結保護剤。
(13)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化4】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される上記(8)に記載の凍結保護剤。
(14)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化5】
【化6】
(式中、R及びRは、上記(13)で定義したとおりである。)
で表される上記(13)に記載の凍結保護剤。
(15)一般式(4)で表される非プロトン性双性イオンを含む凍結保存用培地。
-X-R-A (4)
(式中、Rは炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Xは双性イオンのカチオン部であり、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを表し、Aはアニオン部を表し、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンを表し、Rは、炭素数1~5個の置換基を有していても良いアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
(16)一般式(4)において、Xは、窒素原子1個又は2個以上含む炭素数1~6個の環状構造を有し、窒素原子上には1個又は2個以上の置換基を有し、Aはカルボキシル基又はスルホン酸基であり、カチオンは窒素上に存在するか又はX全体に非局在化しており、アニオンはカルボキシル基又はスルホン酸基上に存在する、上記(15)に記載の凍結保存用培地。
(17)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化7】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される上記(15)又は(16)に記載の凍結保存用培地。
(18)前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化8】
【化9】
(式中、R及びRは、上記(17)で定義したとおりである。)
で表される上記(15)~(17)のいずれか1つに記載の凍結保存用培地。
(19)R又はRが炭素数1~7個のアルケニル基である上記(15)~(18)のいずれか1つに記載の凍結保存用培地。
(20)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンと水のみからなる凍結保存用培地。
(21)上記(20)に記載の凍結保存用培地に、1種以上の細胞内浸透性物質からなる添加剤が加えられた凍結保存用培地。
(22)細胞内浸透性物質がグリセリン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種である上記(20)に記載の凍結保存用培地。
(23)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む細胞、組織又は個体の未分化促進剤。
(24)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む細胞、組織又は個体の冷凍保存剤。
(25)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む氷結晶形成抑制剤。
(26)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む未分化維持剤。
(27)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含むガラス化剤。
(28)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む凍結乾燥剤。
(29)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む細胞、組織又は個体の脱水剤。
(30)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む細胞、組織又は個体の低温(常温以下)保存剤。
(31)上記(15)~(19)のいずれか1つに記載の非プロトン性双性イオンを含む細胞、組織又は個体の低温(常温以下)輸送用溶液。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非プロトン性双性イオンを含む未分化促進剤は、DMSO等と同様に疎水性薬剤を溶解すると同時に、細胞の分化を誘導せず、未分化マーカーを増幅させ、未分化を促進することができる。
【0015】
また、本発明の非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤は、毒性が低く、凍結・解凍後の細胞の生存率を高く維持することができる。また、この凍結保護剤は、血清もしくは血清から精製したタンパク質あるいはペプチド等と混合する必要なく、単独で用いることができるため、ウイルス等の汚染リスクがなく、再生医療における拒絶反応を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】未分化特異的遺伝子発現解析(フィーダー細胞有り)の結果を示すグラフである。
図2】未分化特異的遺伝子発現解析(フィーダー細胞無し)の結果を示すグラフである。
図3】緩慢凍結法による生細胞数(ヒト皮膚線維芽細胞)を示すグラフである。
図4】緩慢凍結法による生細胞数(マウス線維芽細胞)を示すグラフである。
図5】緩慢凍結法による培養開始24時間後の細胞状態を示す顕微鏡画像である。
図6】緩慢凍結法による生細胞数(ヒト皮膚線維芽細胞)を示すグラフである。
図7】急速凍結法による解凍後の生細胞数(ヒト皮膚線維芽細胞)を示すグラフである。
図8】急速凍結法による解凍後の生細胞数(マウス線維芽細胞)を示すグラフである。
図9】急速凍結法による培養開始24時間後の生細胞数(ヒト皮膚線維芽細胞)を示すグラフである。
図10】急速凍結法による培養開始24時間後の生細胞数(マウス線維芽細胞)を示すグラフである。
図11】本発明の培地添加剤の細胞周期に与える影響を示すグラフである。
図12】本発明の培地添加剤のゼブラフィッシュの発生に対する影響に対する画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
(未分化促進剤)
まず、本発明に係る未分化促進剤について説明する。本発明の一実施形態に係る未分化促進剤は、非プロトン性双性イオンを含む。なお、プロトン性双性イオンとは、プロトンの移動を介して分子内に電荷が無くなることが原理的に可能な双性イオンのことを指し、アミノ酸等の天然の双性イオンのほとんどすべてはこれに当てはまる。それに対して、通常の温和な条件下において分子内のアニオンとカチオンの間で移動可能なプロトンを有さない双性イオンを非プロトン性双性イオンと定義し、天然にはほとんど存在しない。このような非プロトン性双性イオンとしては、イオン液体様のカチオン部位とイオン液体様のアニオン部位とが共有結合により連結された物質を挙げることができる。好ましくは、非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間は、分鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される。ここで、ヘテロ原子の例としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。アルキレン基の炭素数を1~5個にすることで、非プロトン性双性イオンの細胞に対する毒性をより弱めることができる。
【0018】
一般に、有機イオン、特にイオン液体と認識されている有機イオン(イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン等をカチオンとする有機塩)は、カチオンのアルキル鎖(ヘテロ元素を含み得る)が細胞膜へ挿入されることで毒性を示すことが知られている(Lim, G. S., Zidar, J., Cheong, D. W., Jaenicke, S. &Klahn, M. Impact of ionic liquids in aqueous solution on bacterial plasma membranes studied with molecular dynamics simulations. J. Phys. Chem. B 118, 10444-10459 (2014).)。その過程は以下の2段階からなる。
(1)有機塩のカチオンと脂質二重膜(細胞膜)のリン酸が静電相互作用によって接近する。
(2)有機塩のカチオンのアルキル鎖と脂質二重膜の脂質部位が疎水性相互作用することでカチオンのアルキル鎖が脂質二重膜へ挿入され、細胞膜が破壊される。
【0019】
本発明者らは、カチオンのアルキル鎖の末端に、極性の高いアニオンを導入し非プロトン性双性イオンにすることで、毒性を抑えることが可能であることを見い出した。具体的には、アニオンを導入することでリン酸とアニオン間の静電反発が起こり、上記(1)を阻害することができる。また、アニオンを導入することで極性が高くなり、上記(2)の疎水性相互作用も抑制することができる。そのため、イミダゾリウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム等をカチオンとする有機塩の毒性を大きく下げることができる。
【0020】
本実施形態において、非プロトン性双性イオンのイオン液体様カチオンの例としては、1個以上の置換基を有するイミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオン等が挙げられる。その中でも置換基を有するイミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンが好ましく用いられる。また、各置換基は互いに同一でも異なっていても良く、例えば、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~18個のアルキル基及び炭素数1~18個のアルコキシ基等から適宜選択することができる。特に、置換基は、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有することが好ましい。アルキル鎖の炭素数を1~8個とすることで、細胞に対する毒性をより弱めることができる。ここでヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。
【0021】
また、非プロトン性双性イオンのイオン液体様アニオンの例としては、スルホン酸イオン-SO 、カルボン酸イオン-COO、リン酸イオン-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O、-OP=O(OR)O(ここで、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0022】
特に、未分化促進剤に含まれる非プロトン性双性イオンとして、下記式(1)
【化10】
で表される非プロトン性双性イオンは好ましく用いられる。式(1)中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンである(ここで、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)。なお、上記ヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。また、Rであるアルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、プロピル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。すなわち、本実施形態に係る未分化促進剤に含まれる非プロトン性双性イオンとして、下記の式(2)及び式(3)で表される双性イオンが包含される。
【化11】
【化12】
【0023】
また、式(1)~(3)において、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基である。Rの具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、CHOCHCH-、CHOCHCHOCHCH-等が挙げられる。また、Rの具体例として、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
特に、未分化促進剤として、以下の非プロトン性双性イオンは、細胞毒性が低いため好適に用いられる。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【0025】
以上のような非プロトン性双性イオンを合成するに当たっては、当業者にとって一般的な有機合成法を適宜採用して行うことができる。すなわち、上記式(1)で表されるカチオンがイミダゾリウムイオンである非プロトン性双性イオンは、例えば、1-アルキルイミダゾールとエチルブロモアルキレートをアセトニトリル中で還流し、これをアニオン交換樹脂と混合した後、溶媒を減圧留去することでイミダゾリウムとカルボン酸からなる非プロトン性双性イオンを得ることができる。イミダゾールのアルキル基は、1個以上のヘテロ原子、例えば1又は2個の酸素原子を含んでいても良い。また、1-アルキルイミダゾールを、トリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等に変えることでカチオンがイミダゾリウムカチオン以外である非プロトン性双性イオンを合成することができる。また、NaHをテトラヒドロフランと混合し、イミダゾール及び1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンを添加することでオリゴエーテル鎖が導入されたイミダゾールを得ることができる。同様に様々な官能基を持つアルキルイミダゾールやトリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等を得ることができるので、これらをアニオン部分の試薬と反応させることで所望の非プロトン性双性イオンを得ることができる。
【0026】
本実施形態の未分化促進剤は、細胞そのものあるいは細胞を含む媒体、例えば、リン酸バッファー、水、各種培地等に添加して使用することができ、これによって細胞の未分化を促進し、又は未分化状態を維持することができる。未分化促進剤を添加する培地は、従来知られた種々の培地が適用可能であり、培養する細胞の種類等に応じて適宜選択される。合成培地、半合成培地及び天然培地のいずれでも良く、また、液体培地及び固体培地の両方が適用可能である。具体的には、YM培地、コーンミール培地、グルコース-ブイヨン培地、肉汁培地、SIM培地等の細菌用培地、オートミール培地、麦芽汁、発酵試験培地、デンプン生成培地、酵母エキス等の真菌用培地、LB培地、Davis培地、MS培地、TG培地、DMEM培地等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本実施形態の未分化促進剤は、各種アッセイ等を行うため各種薬剤とともに培地等に添加することができる。薬剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、抗腫瘍剤、抗生物質、抗高脂血症剤、抗菌剤、アレルギー性疾患治療剤、高血圧治療剤、動脈硬化治療剤、血行促進剤、ホルモン剤、脂溶性ビタミン剤、糖尿病治療剤、抗アンドロゲン剤、強心用薬剤、不整脈用薬剤、消炎剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、消化器系疾患治療剤、利尿用薬剤、局所麻酔剤、抗凝固剤、抗ヒスタミン剤、抗ムスカリン剤、抗マイコバクテリア剤、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス剤、不安緩和性鎮静薬、収れん薬、β-アドレナリン受容体遮断薬、心筋変力作用剤、造影剤、コルチコステロイド、咳抑制剤、診断剤、診断用イメージング剤、利尿剤、ドパミン作用剤、脂質調整剤、筋肉弛緩薬、副交感神経作用薬、甲状腺カルシトニン、プロスタグラジン、放射性医薬、性ホルモン、刺激剤、食欲抑制剤、交感神経作用薬、甲状腺剤、血管拡張剤、イソフラボン、キサンテン等を挙げることができる。
【0028】
培地に添加される非プロトン性双性イオンの濃度は、培地で培養される細胞の種類等に応じて適宜設定することができるが、本実施形態に係る非プロトン性双性イオンを含む未分化促進剤は、細胞に対する毒性が低く、そのため必要に応じて高い濃度で添加することが可能である。具体的には、培地中、終濃度が0.001~100重量体積%、好ましくは0.01~90重量体積%の濃度になるよう添加することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0029】
培地で培養し得る細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞が適用可能である。例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌、細菌等の細胞が挙げられる。また、動物細胞としては、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ等の細胞が挙げられる。さらに、細菌としては、乳酸菌、大腸菌、枯草菌、シアノバクテリア等が挙げられる。
【0030】
また、細胞の種類も特に限定されず、例えば、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞及び生殖細胞からなる群から適宜選択される。ここで「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称であり、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。
【0031】
また、「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味し、例えば、骨髄中の造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等が挙げられる。
【0032】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞をいう。好ましくは、破骨細胞、線維芽細胞、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ等が挙げられる。
【0033】
「生殖細胞」としては、有性生殖のための配偶子、すなわち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子等が挙げられる。
【0034】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択しても良い。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌であり、軟部肉腫、悪性骨腫瘍等を含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」は、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもち、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。この例として、PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL-60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)等が挙げられる。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換は、従来知られた方法を用いて行われる。
【0035】
また、ES細胞やiPS細胞を培養する際に、細胞の増殖や分化に必要な環境を整えるために補助的に用いられるフィーダー細胞を必要に応じて含んでいても良い。フィーダー細胞としては、マウスの線維芽細胞等が挙げられる。これらのフィーダー細胞は、予めガンマ線照射や抗生物質によって増殖しないように処理することができる。
【0036】
(凍結保護剤)
次に、本発明に係る凍結保護剤について説明する。本発明の一実施形態に係る凍結保護剤は、非プロトン性双性イオンを含む。なお、プロトン性双性イオンとは、プロトンの移動を介して分子内に電荷が無くなることが原理的に可能な双性イオンのことを指し、アミノ酸等の天然の双性イオンのほとんどすべてはこれに当てはまる。それに対して、通常の温和な条件下において分子内のアニオンとカチオンの間で移動可能なプロトンを有さない双性イオンを非プロトン性双性イオンと定義し、天然にはほとんど存在しない。このような非プロトン性双性イオンとしては、イオン液体様のカチオン部位とイオン液体様のアニオン部位とが共有結合により連結された物質を挙げることができる。好ましくは、非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間は、分鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される。ここで、ヘテロ原子の例としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。アルキレン基の炭素数を1~5個にすることで、双性イオンの細胞に対する毒性をより弱めることができる。
【0037】
一般に、有機イオン、特にイオン液体と認識されている有機イオン(イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン等をカチオンとする有機塩)は、カチオンのアルキル鎖(ヘテロ元素を含み得る)が細胞膜へ挿入されることで毒性を示すことが知られている(Lim, G. S., Zidar, J., Cheong, D. W., Jaenicke, S. &Klahn, M. Impact of ionic liquids in aqueous solution on bacterial plasma membranes studied with molecular dynamics simulations. J. Phys. Chem. B 118, 10444-10459 (2014).)。その過程は以下の2段階からなる。
(1)有機塩のカチオンと脂質二重膜(細胞膜)のリン酸が静電相互作用によって接近する。
(2)有機塩のカチオンのアルキル鎖と脂質二重膜の脂質部位が疎水性相互作用することでカチオンのアルキル鎖が脂質二重膜へ挿入され、細胞膜が破壊される。
【0038】
本発明者らは、カチオンのアルキル鎖の末端に、非常に極性の高いアニオンを導入し非プロトン性双性イオンにすることで、毒性を抑えることが可能であることを見い出した。具体的には、アニオンを導入することでリン酸とアニオン間の静電反発が起こり、上記(1)を阻害することができる。また、アニオンを導入することで極性が非常に高くなり、上記(2)の疎水性相互作用も抑制することができる。そのため、イミダゾリウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム等をカチオンとする有機塩の毒性を大きく下げることができる。
【0039】
本実施形態において、非プロトン性双性イオンのイオン液体様カチオンの例としては、1個以上の置換基を有するイミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオン等が挙げられる。その中でも置換基を有するイミダゾリウムカチオン及びホスホニウムカチオンが好ましく用いられる。また、各置換基は互いに同一でも異なっていても良く、例えば、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~18個のアルキル基及び炭素数1~18個のアルコキシ基等から適宜選択することができる。特に、置換基は、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有することが好ましい。アルキル鎖の炭素数を1~8個とすることで、細胞に対する毒性をより弱めることができる。ここでヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。
【0040】
また、非プロトン性双性イオンのイオン液体様アニオンの例としては、スルホン酸イオン-SO 、カルボン酸イオン-COO、リン酸イオン-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O、-OP=O(OR)O(ここで、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
特に、凍結保護剤に含まれる非プロトン性双性イオンとして、下記式(1)
【化22】
で表される非プロトン性双性イオンは好ましく用いられる。式(1)中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンである(ここで、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)。なお、上記ヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。また、Rであるアルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、プロピル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。すなわち、本実施形態に係る凍結保護剤に含まれる非プロトン性双性イオンとして、下記の式(2)及び式(3)で表される双性イオンが包含される。
【化23】
【化24】
【0042】
また、式(1)~(3)において、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基である。Rの具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、CHOCHCH-、CHOCHCHOCHCH-等が挙げられる。また、Rの具体例として、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0043】
特に、凍結保護剤として、以下の非プロトン性双性イオンは、細胞毒性が低いため好適に用いられる。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【0044】
以上のような非プロトン性双性イオンを合成するに当たっては、当業者にとって一般的な有機合成法を適宜採用して行うことができる。すなわち、上記式(1)で表されるカチオンがイミダゾリウムイオンである非プロトン性双性イオンは、例えば、1-アルキルイミダゾールとエチルブロモアルキレートをアセトニトリル中で還流し、これをアニオン交換樹脂と混合した後、溶媒を減圧留去することでイミダゾリウムとカルボン酸からなる非プロトン性双性イオンを得ることができる。イミダゾールのアルキル基は、1個以上のヘテロ原子、例えば1又は2個の酸素原子を含んでいても良い。また、1-アルキルイミダゾールを、トリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等に変えることでカチオンがイミダゾリウムカチオン以外である非プロトン性双性イオンを合成することができる。また、NaHをテトラヒドロフランと混合し、イミダゾール及び1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンを添加することでオリゴエーテル鎖が導入されたイミダゾールを得ることができる。同様に様々な官能基を持つアルキルイミダゾールやトリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等を得ることができるので、これらをアニオン部分の試薬と反応させることで所望の非プロトン性双性イオンを得ることができる。
【0045】
以上の非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤は、DMSOやグリセロール等の従来の凍結保護剤に代替するものとして利用することができる。すなわち、細胞懸濁液もしくは遠心分離によって回収した細胞に本実施形態の凍結保護剤を添加し、フリーザー中で凍結することができる(緩慢凍結法)。本実施形態の凍結保護剤は、細胞バンクにおける株化細胞等の凍結保存、畜産分野における種の保存、家畜増産のための精子・卵・受精卵の凍結保存、生殖医療における生殖細胞の凍結保存等、種々の分野における細胞の凍結保存に用いることができ、解凍後に高い生存率を維持することができる。緩慢凍結法において、細胞懸濁液もしくは遠心分離によって回収した細胞に添加される非プロトン性双性イオンの濃度は、細胞の種類等に応じて適宜設定することができるが、本実施形態に係る非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤は、DMSO等に比べて細胞に対する毒性が低く、そのため必要に応じて高い濃度で添加することが可能である。具体的には、細胞懸濁中、非プロトン性双性イオンが0.1~90重量%の濃度になるよう添加することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0046】
緩慢凍結法において、本実施形態の凍結保護剤には、必要に応じてDMSO、グリセロール、スクロース、トレハロース、プロピレングリコール、アセトアミド等の従来の凍結保護用の化合物を混合して用いることができる。本実施形態の凍結保護剤における、これら化合物の含有量は、多過ぎると細胞に対する毒性が高くなるため、例えば30重量%未満とすることが好ましい。また、本実施形態の凍結保護剤には、必要に応じて、細胞の生存率を高めるため、血清や、あるいは血清から精製したタンパク質又はペプチドを適宜混合することができる。このようなタンパク質又はペプチドとしては、ウシ血清アルブミン、カルボキシル化ポリリジン、あるいは、昆虫や植物、魚類等に存在するような不凍タンパク質もしくは不凍糖タンパク質等から選択される一種以上を挙げることができる。本実施形態の凍結保護剤における、これらタンパク質又はペプチドの含有量は、そのタンパク質又はペプチドの種類によって異なるが、例えば20重量%未満とすることができる。しかし、本実施形態における非プロトン性双性イオンは、タンパク質又はペプチドと併用せずに、それ単独で細胞の生存率が高い凍結保護剤として使用できるため、ウイルス等の汚染リスクがなく、再生医療における拒絶反応を回避することができる。
【0047】
緩慢凍結法における細胞の凍結条件は、従来の条件に準じて適宜設定することができる。具体的には、細胞懸濁液における非プロトン性双性イオンの濃度等によって異なるが、例えば、-0.1~-15℃/分の冷却速度で、0~-200℃まで冷却することができる。
【0048】
また、ヒトES細胞やiPS細胞、受精卵等のように、凍結の際の細胞内外の氷晶形成による影響が大きい場合は、緩慢凍結法に代えて、急速凍結法(ガラス化法)により細胞を凍結することができる。急速凍結法では、細胞懸濁液における本実施形態の凍結保護剤の濃度を高くし、冷却速度を大きくする。具体的には、細胞懸濁液における凍結保護剤の濃度を0.5~90重量%、冷却速度を-15~-20000℃/分、冷却温度を0~-200℃の範囲として行うことが好ましい。一般に、凍結保護剤の濃度が高くなるほどガラス化し易くなるが、一方で浸透圧が高くなり、細胞への毒性も高くなる。本実施形態における非プロトン性双性イオンは毒性が比較的低いため濃度を高くすることができ、急速凍結法に用いる凍結保護剤として適している。
【0049】
凍結する細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞が適用可能である。例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌、細菌等の細胞が挙げられる。また、動物細胞としては、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ等の細胞が挙げられる。さらに、細菌としては、乳酸菌、大腸菌、枯草菌、シアノバクテリア等が挙げられる。
【0050】
また、細胞の種類も特に限定されず、例えば、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞及び生殖細胞からなる群から適宜選択される。ここで「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称であり、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。
【0051】
また、「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味し、例えば、骨髄中の造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等が挙げられる。
【0052】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞をいう。好ましくは、破骨細胞、線維芽細胞、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ等が挙げられる。
【0053】
「生殖細胞」としては、有性生殖のための配偶子、すなわち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子等が挙げられる。
【0054】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択しても良い。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌であり、軟部肉腫、悪性骨腫瘍等を含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」は、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもち、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。この例として、PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL-60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)等が挙げられる。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換は、従来知られた方法を用いて行われる。
【0055】
(凍結保存用培地)
本発明に係る凍結保存用培地について説明する。本発明に係る凍結保存用培地は、一般式(4)で表される非プロトン性双性イオンを含む。
-X-R-A (4)
式中、Rは炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Xは双性イオンのカチオン部であり、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを表し、Aはアニオン部を表し、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンを表し、Rは、炭素数1~5個の置換基を有していても良いアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。上記「エーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基」は、分子鎖中に1個又は複数個(例えば1又は2個)の酸素原子を含む炭素数1~7個のアルキル基を意味する。
【0056】
上記一般式(4)において、Xは、窒素原子1個又は2個以上含む炭素数1~6個の環状構造を有し、窒素原子上には1個又は2個以上の置換基を有し、Aはカルボキシル基又はスルホン酸基であり、カチオンは窒素上に存在するか又はX全体に非局在化しており、アニオンはカルボキシル基又はスルホン酸基上に存在することが好ましい。
【0057】
本実施形態の凍結保存用培地は、非プロトン性双性イオンが下記式(1)
【化34】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される。
【0058】
さらに、本実施形態の凍結保存用培地は、非プロトン性双性イオンが下記式(2)又は式(3)
【化35】
【化36】
(式中、R及びRは、上記式(1)で定義したとおりである。)
で表される。
【0059】
さらに、R又はRが炭素数1~7個のアルケニル基であることが好ましい。
【0060】
このような非プロトン性双性イオンとしては、以下のようなものを挙げることができる。特に、未分化促進剤として、以下の非プロトン性双性イオンは、細胞毒性が低いため好適に用いられる。
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0061】
本発明の別の実施形態の凍結保存用培地は、一般式(5)で表される非プロトン性双性イオンを含む。
4’-X’-R2’-A’ (5)
(式中、
4’は、炭素数1~10個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又は分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、
X’は、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを表し、
A’は、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR3‘)Oからなる群から選択されるアニオンを表し、
2’は、炭素数1~5個の置換基を有していても良いアルキレン基であり、
3’は、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
【0062】
本発明の別の実施形態の凍結保存用培地において、一般式(5)で表される非プロトン性双性イオンとしては、以下のようなものを挙げることができる。本実施形態の凍結保存用培地は、非プロトン性双性イオンとして以下から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【化46】
【0063】
以上のような非プロトン性双性イオンを合成するに当たっては、上記で述べたように、当業者にとって一般的な有機合成法を適宜採用して行うことができる。
【0064】
上記式(4)又は式(5)で表される非プロトン性双性イオンは、水と併用して凍結保存用培地として用いることができる。例えば上記非プロトン性双性イオンは、非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物、又は非プロトン性双性イオンと水からなる組成物を凍結保存用培地として用いることができる。上記非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物は、1種以上の細胞内浸透性物質、例えばグリセリン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、及びプロピレングリコールを含んでいても良い。また、上記非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物は、栄養素(例えば細胞を増殖するための糖類等)、ペプチドやたんぱく質(例えば血清もしくは血清から精製したタンパク質あるいはペプチド等)を含まなくともよい。特に、上記非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物は、当該組成物が冷凍保存剤として作用する場合、上記栄養素、ペプチドやたんぱく質を含まなくとも良い。
【0065】
したがって、本発明は、上記式(4)又は式(5)で表される非プロトン性双性イオン及び水を含む凍結保存用培地、式(4)又は式(5)で表される非プロトン性双性イオンと水とからなる凍結保存用培地に関する。さらには、本発明は、上記式(4)又は式(5)で表される非プロトン性双性イオンを含む凍結保存剤にも関する。
【0066】
本発明に係る非プロトン性双性イオンは、非プロトン性双性イオンと水とのみからなる組成物を凍結保存用培地として用いることもできる。凍結保存用培地は、細胞、組織及び個体のいずれのレベルでも用いることが可能である。本発明に係る凍結保存剤は、さらに、ペプチドやたんぱく質などを添加しなくても凍結保存用培地として用いることができる。
【0067】
このような本発明に係る非プロトン性双性イオンと水とのみからなる凍結保存用培地に、従来の細胞浸透性物質を添加剤として添加しても良い。ここで細胞浸透性物質は、従来の凍結保存剤として培地への添加剤として用いられているものであれば添加剤として使用することができる。そのような物質としては、より具体的には、グリセリン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0068】
このように、本発明に係る凍結保存用培地又は凍結保存剤には、血清もしくは血清から精製したタンパク質あるいはペプチド等と混合する必要がなく、単独で用いることができるため、ウイルス等の汚染リスクがなく、再生医療における拒絶反応を回避することができる。また、細胞増殖に必要な糖類などの栄養素を添加する必要もないので、微生物の影響を少なくすることが可能である。
【0069】
上記非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物、又は非プロトン性双性イオンと水からなる組成物を凍結保存用培地として用いる場合、非プロトン性双性イオンは、組成物に対して、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上として用いられ、上限は、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、好ましくは15重量%以下で用いられる。
【0070】
また、凍結保存用培地としての、非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物、又は非プロトン性双性イオンと水からなる組成物(非プロトン性双性イオン水溶液ともいう)100重量部に対して、細胞浸透性物質を添加剤として追加して用いることができる。細胞浸透性物質は、非プロトン性双性イオン水溶液100重量部に対して、通常は少なくとも1重量部、好ましくは10重量部以上、上限は、通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下を添加して用いることができる。なお、本明細書において、非プロトン性双性イオンの水溶液100重量部に対して1重量部添加した場合を、非プロトン性イオンの水溶液に対して1%と記載する場合がある。
【0071】
本発明は、上記式(4)又は式(5)で表される非プロトン性双性イオンを含む:細胞、組織又は個体の未分化促進剤;細胞、組織又は個体の冷凍保存剤;氷結晶形成抑制剤;未分化維持剤;ガラス化剤;凍結乾燥剤;細胞、組織又は個体の脱水剤;細胞、組織又は個体の低温(常温以下)保存剤;細胞、組織又は個体の低温(常温以下)輸送用溶液にも関する。
【0072】
本発明にて用いる非プロトン性双性イオンの種類は、保存する細胞の由来や、種類に応じて適宜に選択することができる。当業者は、例えば以下のような観点から、非プロトン性双性イオンの種類やその濃度等を適宜選択することができる。非プロトン性双性イオンCimCC、CimCC、CimCCなどは、マウス上皮線維芽細胞由来細胞及びヒト腎由来細胞に対してほぼ同様に使用ができると考えられる。CimCC、CimCCに対する毒性は、ヒト腎由来細胞の方が濃度に対する感受性が異なるようである。また、VimCC、VimCS、VimC、VimCS、AimCC、AimCS、AimCSなどはOEimCCに対する相対的な評価では、ヒト腎細胞由来細胞の方が大きな効果をもたらすことが期待される。
【0073】
本発明にて用いる非プロトン性双性イオンを含む培地は、細胞機能への影響が非常に少ない。例えば、細胞周期に対し従来から添加剤として用いられているDMSOは細胞周期に与える影響が大きいが、本発明にて用いる非プロトン性双性イオンは細胞周期にほとんど影響を与えない。また、上記非プロトン性双性イオンを受精卵の培地に用いる場合、従来から用いられるDMSOを添加した場合と異なり、正常に発生することが示されている。理論に拘束されるものではないが、本発明にて用いる非プロトン性双性イオンを培地に添加した場合にiPS細胞が未分化マーカーを放出し続ける理由の一つとして、当該非プロトン性双性イオンがiPS細胞の機能に影響を与えないことが考えられる。
【0074】
上記非プロトン性双性イオン水溶液、すなわち非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物、又は非プロトン性双性イオンと水からなる組成物のガラス転移点(Tg)は、-70℃以下、好ましくは-75℃以下、さらに好ましくは-80℃である(特に10重量%の非プロトン性双性イオン水溶液として)。本発明にて用いる非プロトン性双性イオンを凍結保存用培地又は凍結保存剤に用いる場合、冷凍保存される材料によっても好ましいTgは異なり、一般に、融点以下の温度においてなるべく結晶が育たない過冷却状態でガラス転移点まで到達し、それ以下の温度においてもガラス状態で保存される状態が良い。保存試料自身のTg及び保存温度との関係で適切なTgを有する非プロトン性双性イオンを含む培地を選ぶことができる。このように適切な培地を選ぶことにより保存の質を改変することができる。
【0075】
理論に拘束されるものではないが、従来から用いられているDMSO系の培地と本発明にて用いる非プロトン性双性イオンとの違いは、細胞浸透性の違いによる影響が考えられる(例えば、Golan, M. etal. Afm monitoring the influence of selected cryoprotectants on regeneration of cryopreserved cells mechanical properties. Front Physiol 9, 804 (2018))。すなわち、DMSOやグリセリンは細胞内に侵入するが本発明にて用いる非プロトン性双性イオンは細胞内には侵入しないことが考えられる。また、細胞膜透過をするかどうかについてはコンピュータシミュレーションで示すことができる。本発明により細胞機能に影響せずに保存ができる要因の一つとして、非プロトン性双性イオンの細胞透過性が従来用いられていた保存用の添加剤と異なることが挙げられる。理論に拘束されるものではないが、本発明の非プロトン性双性イオンが冷凍保存に適し、また培地として用いても細胞機能に影響を与えないことの理由として、例えば、非プロトン性双性イオンが細胞膜を透過しないことにより:細胞外が高張液となって細胞内から自由水が排出され、細胞内における自由水による氷晶の生成が最低限に抑えられていること;細胞外にあっては、非プロトン性双性イオンの静電的な効果で細胞外の水の構造化が促進され、やはり大きな氷晶の生成が防止されていることが考えられる。
【0076】
本発明に係る非プロトン性双性イオンに従来から用いられているグリセリンやジメチルスルホキシドを添加しても市販品と同等の保存性を示すことができる。
【実施例0077】
次に、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
(細胞)
ヒト線維芽細胞-1(hNF-1)(Human Normal Fibroblast 1)は、倉敷紡績株式会社より購入した。ヒト線維芽細胞-2(hNF-2)(Human Normal Fibroblast 2)は、ヒト肺がん細胞MDA-MB-231(英国フランシスクリック研究所Erik Sahai教授より入手)より樹立したものを用いた。マウス線維芽細胞(mNF)(Mouse Normal Fibroblaast)は、C57BL/6-EGFPマウスより樹立したものを用いた。ヒト腎細胞は、英国フランシスクリック研究所Erik Sahai教授より入手した。
【0079】
(評価物質)
本発明に用いられる非プロトン性双性イオンは、J. Am. Chem. Soc. 139, 16052-16055 (2017)を参考にして製造することができる。
【0080】
(合成例1)OEimC
【化47】
15.7g(656mmol)のNaH(関東化学株式会社)を50mLのテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社)に懸濁させ、13.8g(202mmol)のイミダゾール(東京化成工業株式会社)を添加し、室温で24時間撹拌した。37.0g(202mmol)の1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社)を加え、70℃で6時間撹拌した。白色の析出物を濾別し、ろ液を濃縮後、蒸留(125℃、1mmHg)により1-(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)イミダゾールを得た。これを250mLのアセトニトリルに溶解し、29g(150mmol)のエチル4-ブロモブチレートを加え、80℃で16時間還流した。ジエチルエーテルで洗浄後、アニオン交換樹脂(Amberlite IRN 78A)のカラムに付した。溶出液を減圧留去することでOEimCCを得た。
NMRデータ:δ=2.13-2.27 (4H, m, CH2CO and CH2CH2CO), 3.37 (3H, s, CH3O), 3.51-3.65 (4H,m, CH3OCH2CH2), 3.86 (2H, t, J = 3.6Hz, OCH2CH2N), 4.40 (2H, t, J=6.7Hz, NCH2CH2CH2COO), 4.66 (2H, t, J=3.7Hz, OCH2CH2N), 7.29 and 7.49 (2H, t, J= both 1.6 Hz, NCHCHN), 11.00 (1H, s, NCHN). 13C NMR (100 MHz; CDCl3; Me4Si) δ = 27.20 and 34.30 (NCH2CH2CH2COO), 48.94 (OCH2CH2N), 49.47 (NCH2CH2CH2COO), 58.65 (CH3O),69.19 (OCH2CH2N), 69.93 and 71.29 (OCH2CH2O), 121.22 and 122.58 (NCHCHN), 138.73(NCHN), 176.63 (CH2COO). Elemental analysis: OE2imC3C・2.5H2O (Found: C, 48.0; H, 8.4; N,9.3. Calc. for C12H25N2O6.5: C, 47.8; H, 8.4; N, 9.3%).
【0081】
(合成例2)OEimC
【化48】
合成例1において、エチル4-ブロモブチレートの代わりにエチル6-ブロモヘキサノエートに替えた以外は、合成例1と同様の手順により、非プロトン性双性イオンOEimCCを合成した。
【0082】
(合成例3)OEimC
【化49】
合成例1において、1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンの代わりに1-ブロモー(2-メトキシ)エタンを用いた以外は合成例1と同様の手順により、非プロトン性双性イオンOEimCCを合成した。
【0083】
(合成例4)CimC
【化50】
22.2g(270mmol)の1-メチルイミダゾールと(53.7g:270mmol)のエチル4-ブロモブチレートを、20mLのアセトニトリルに溶解させ、50℃で5hr撹拌した。析出物を除去後、減圧乾燥し、ジエチルエーテルで3回洗浄し、減圧乾燥した。残渣を陰イオン交換樹脂に付しCimCCを得た。1H NMR (400 MHz; DMSO-d6; Me4Si) δ = 1.77 (2H, t, J = 6.4 Hz, CH2CO), 1.86 (2H, J = 7.3 Hz, quin, CH2CH2CO), 3.82 (3H, s, CH3N), 4.13 (2H, t, J = 6.8 Hz, NCH2CH2), 7.66 and 7.76 (2H, t, J = both 1.6 Hz, NCHCHN), 9.50 (1H, s, NCHN). 13C NMR (100 MHz; DMSO-d6; Me4Si) δ = 27.80 (CH2CH2CO), 35.36 (CH2CO), 36.10 (CH3N), 49.61 (NCH2CH2), 122.91 and 123.89 (NCHCHN), 137.700 (NCHN), 174.02 (CH2COO).
【0084】
(合成例5)CimC
【化51】
合成例4で、エチル4―ブロモブチレートの代わりに、(β-プロピオラクトン)(富士フイルム和光純薬株式会社)を用い、水中で80℃で16時間撹拌した。減圧乾燥し、ジエチルエーテルで3回洗浄し、アルミナで副生成物を除いた後に減圧乾燥することでCimCCを得た。
【0085】
(合成例6)CimC
【化52】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりに4-ブチルイミダゾールを用いて、合成例4と同様の操作を行い、CimCCを合成した。
【0086】
(合成例7)CimC
【化53】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりに4-オクチルイミダゾール(東京化成工業株式会社)を用いて、合成例4と同様の操作を行い、CimCCを合成した。
【0087】
(合成例8)CimC
【化54】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりに4-ブチルイミダゾールを用い、エチル4-ブロモブチレートの代わりに、エチル6-ブロモヘキシレート(東京化成工業株式会社)を用いた以外は合成例4と同様の操作を行い、CimCCを得た。
【0088】
(合成例9)VimC
【化55】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりに、ビニルイミダゾール(東京化成工業株式会社)を用いた以外は、合成例4と同様の操作を行いVimCCを得た。
【0089】
(合成例10)AimC
【化56】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりに、アリルイミダゾール(東京化成工業株式会社)を用いた以外は合成例4と同様な操作を行い、AimCCを得た。
【0090】
(合成例11)OEimC
【化57】
合成例1において、エチル4-ブロモブチレートの代わりにエチル4-ブロモブチレートを1,3-プロパンスルトンを用いた以外は、合成例1と同様の手順により、非プロトン性双性イオンOEimCSを得た。
【0091】
(合成例12)CimC
【化58】
合成例11において、1-(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)イミダゾールの代わりに1-メチルイミダゾールを用いた以外は、合成例1と同様の手順により、非プロトン性双性イオンCimCSを合成した。
【0092】
(合成例13)VimC
【化59】
合成例12において、1-メチルイミダゾールの代わりに、1-ビニルイミダゾールを用いたい以外は、合成例12と同様の操作を行い、VimCSを得た。
【0093】
(合成例14)VimC
【化60】
合成例12において、1-メチルイミダゾールの代わりに1-ビニルイミダゾール(東京化成工業株式会社)を用い、1,3-プロパンスルトンの代わりに、1,4-ブタンスルトン(東京化成工業株式会社)を用いた以外は合成例12と同様の操作を行い、VimCSを得た。
【0094】
(合成例15)AimC
【化61】
合成例12において、1-メチルイミダゾールの代わりに1-アリルイミダゾールを用いた以外は合成例12と同様な操作を行い、AimCSを得た。
【0095】
(合成例16)AimC
【化62】
合成例14において、1-メチルイミダゾールの代わりに1-アリルイミダゾールを用いた以外は合成例14と同様な操作を行い、AimCSを得た。
【0096】
(合成例17)CimC
【化63】
合成例14において、1-メチルイミダゾールの代わりに1-オクチルイミダゾールを用いた以外は合成例14と同様な操作を行い、CimCSを得た。
【0097】
(合成例18)PyC3C
【化64】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりにピリジン(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた以外は合成例4と同様な操作を行い、PyC3Cを得た。
【0098】
(合成例19)PyrrC
【化65】
合成例4において、1-メチルイミダゾールの代わりにピロリジン(東京化成工業株式会社)を用いた以外は合成例4と同様な操作を行い、PyrrCCを得た。
【0099】
(合成例20)N2,2,OE2,C3C
【化66】
15.7g(656mmol)のNaH(関東化学株式会社)を50mLのテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社)に懸濁させ、14.6g(200mmol)のジエチルアミン(東京化成工業株式会社)を添加し、室温で24時間撹拌した。36.6g(200mmol)の1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社)を加え、70℃で6時間撹拌した。白色の析出物を濾別し、ろ液を濃縮後、蒸留(125℃、1mmHg)により1-(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)イミダゾールを得た。これを250mLのアセトニトリルに溶解し、29g(150mmol)のエチル4-ブロモブチレートを加え、80℃で16時間還流した。ジエチルエーテルで洗浄後、アニオン交換樹脂(Amberlite IRN 78A)のカラムに付した。溶出液を減圧留去することでN2,2,OE2,C3Cを得た。
【0100】
1.未分化促進剤
(実施例1)
【0101】
(1)非プロトン性双性イオンOEimCC(被験物質)の合成
(2)未分化特異的遺伝子発現解析
1) ヒトiPS細胞培養
1-1) ヒトiPS細胞前培養
ヒトiPS細胞(RIKEN BRC)は、SNLフィーダー細胞(セルバイオラボ社製)上に起眠し、COインキュベーター(5%CO、37℃、湿潤)内で培養した。翌日、培地交換し、80%コンフルエントになるまで、毎日培地交換を行った。80%コンフルエントに到達した時点で細胞を回収して継代した。細胞の継代方法は以下の通りである。細胞をDPBS(-)(no calcium, no magnesium, Thermo Fisher Scientific Inc.)で洗浄後、CTK溶液((0.25% trypsin + 1mg/ml collagenase IV + 1 mM CaCl2 + 20% KSR in DPBS (-)))で処理した。CTK溶液除去し、DPBS(-)で2回洗浄した。培地を加えて、細胞をスクレーパーで回収し、ピペッティングにより50~200μm程度に細胞塊に砕いた後、SNLフィーダー細胞上へ適切な割合で細胞を播種した。
【0102】
1-2) ヒトiPS細胞分散培養
上記継代方法におけるCTK溶液処理後、DPBS(-)で1回洗浄し、0.5x TrypLE(商標) Select(ThermoFIsher製)でシングルセルにし、ROCK阻害剤Y-27632(三菱ウェルファーマ社製)を含むiPS細胞培地9mlを入れた15ml遠心管に回収した。遠心(室温、180xg、5分)後、上清を除き、新たにROCK阻害剤Y-27632を含むiPS細胞培地で懸濁し、生細胞数のカウントを行った。ROCK阻害剤Y-27632を含むヒトiPS細胞培地を用いて、目的の細胞濃度に調製し、試験に使用する培養器に播種した。
【0103】
2) 本試験
2-1) 被験物質による処理(フィーダー細胞有り)
ROCK阻害剤Y-27632を含むヒトiPS細胞培地で5×10細胞/0.1ml/ウェルとなるように、96ウェルプレート(前日にSNLフィーダーを播種)に播種し、COインキュベーター内(5%CO、37℃、湿潤)で1日培養した。翌日、被験物質(3段階濃度:0.4、1.0及び2.0%(w/v))添加ヒトiPS細胞培地、並びに無添加ヒトiPS細胞培地に置換した。その後、80%コンフルエントになるまで再培養し、発現解析に用いた。
【0104】
2-2) 被験物質による処理(フィーダー細胞無し)
ROCK阻害剤Y-27632を含むヒトiPS細胞培地で5×10細胞/0.1ml/ウェルとなるように、iMatrix-511 silk(マトリクソーム社製)でコートした96ウェルプレートに播種し、COインキュベーター内(5%CO、37℃、湿潤)で1日培養した。翌日、被験物質(2段階濃度:1.0及び2.0%(w/v))添加SNL-conditioned培地(フィーダー細胞を培養後、フィーダー細胞を除いた培地。ただしフィーダー細胞由来の栄養が含まれる。)及び無添加SNL-conditioned培地に置換した。その後、80%コンフルエントになるまで再培養し、発現解析に用いた。
【0105】
3) 遺伝子発現解析
続いて、未分化特異的遺伝子Nanog、Oct3/4の発現量を測定した。なお、Nanog及びOct3/4は、自己複製能の促進と未分化状態の維持に関わる転写因子であり、ヒトES/iPS細胞において高いレベルで発現しているため、ヒトES/iPS細胞の未分化マーカーとして広く使用されている。以下の方法によって、未分化マーカーの発現量を定量した。
【0106】
3-1) FastLaneライセート(RNA)抽出
FastLane Cell cDNA kit(Qiagen社製)を用いFastLaneライセート(RNA)を抽出した。
【0107】
3-2) cDNA合成
FastLaneライセート(RNA)から、QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen社製)を用いてRT-PCR反応を行い、cDNAを合成した。
【0108】
3-3) 定量PCR
SYBR Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ社製)を用いて、95℃、30秒;(95℃、5秒;60℃、30秒)×40;Dissociationの条件でOCT3/4とNANOGの定量PCRを実施した。遺伝子の発現量は、GAPDHの発現量で補正した値で表し、陰性対照区(無添加)の発現量を1として算出した。実験はN=3で行い、陽性対照区と比較し、Student’s T-test(両側検定、対応無し)においてp値が0.05未満のものを有意と判定した。
【0109】
(3)解析結果
OEimCCを添加しない場合に対するNanog及びOct3/4の相対的な発現量の測定結果を図1(フィーダー細胞有り)及び図2(フィーダー細胞無し)にそれぞれ示す(N=3)。
図1及び図2に示すように、フィーダー細胞を含む場合、含まない場合のいずれも、双性イオンOEimCCを添加することにより、未分化マーカーを増幅させ、細胞の未分化を促進することが分かった。
【0110】
2.凍結保護剤
(実施例2)
(1)細胞凍結実験1(緩慢凍結法)
(a)非プロトン性双性イオンOEimCCの合成
合成例1により、非プロトン性双性イオンOEimCCを合成した。
(b)凍結保存液の調製
以下の組成を有する4種類の凍結保存液を準備した。
・CultureSure(登録商標)凍結保存溶液(富士フィルム和光純薬社製)(以下、「FM」)
・H
・5重量%DMSO/H
・5重量%OEimCC/H
(c)細胞の凍結保存
凍結対象とする細胞(2種類)をトリプシン処理にて遠沈回収し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて希釈して細胞濃度をそれぞれ計測した。細胞の種類と細胞濃度は以下のとおりである。
・ヒト皮膚線維芽細胞 5.0×10細胞/100μl
・マウス線維芽細胞C57BL/6-GFP 5.0×10細胞/100μl
続いて、1.5mlチューブに1mlずつ分注して遠沈し、100μlの上記凍結保存液にそれぞれ懸濁し、細胞凍結容器Mr.Frosty(登録商標)を用いて、冷却速度-1℃/分、冷却温度-80℃で凍結した。
(d)細胞の解凍と生細胞数の計測
凍結保存バイアルに1mlの培地を加えて融解し、遠沈して上清を除いた。続いて、遠沈により得られた細胞を培地に再懸濁し、生細胞数を計測した。その結果を図3及び図4に示す。その後、6ウェルプレートにて培養を開始した。
(e)24時間後の細胞状態の確認
培養開始から24時間後に4%パラホルムアルデヒド(PFA)にてサンプルを固定し、顕微鏡観察を行った。その結果を図5に示す。
(f)実験結果
図3及び図4に示すように、非プロトン性双性イオンOEimCCを含む凍結保存剤を用いた場合は、従来のDMSOより解凍後の細胞の生細胞数が多かった。このことから、非プロトン性双性イオンOEimCCは凍結保護剤として有効であることが分かった。特に、ヒト皮膚線維芽細胞を凍結・解凍した場合(図3)は、非プロトン性双性イオンOEimCCは市販の凍結保存液(FM)よりも優れていた。
また、図5に示すように、非プロトン性双性イオンOEimCCを用いて凍結保存した細胞は、市販品(FM)と同様に、細胞がディッシュ底面に接着していることが確認され、細胞の機能が保たれていることが分かった。
【0111】
(実施例3)
(2)細胞凍結実験2(緩慢凍結法)
(a)5種類の非プロトン性双性イオンの合成
実験に用いた非プロトン性双性イオンは上記合成例により基づいて合成した。
(b)凍結保存液の調製
以下の組成を有する6種類の凍結保存液を準備した。
・5重量%OEimCC/H
・5重量%CimCC/H
・5重量%OEimCC/H
・5重量%CimCS/H
・5重量%N2,2,OE2,C3C/H
・CultureSure(登録商標)凍結保存溶液(富士フィルム和光純薬社製)(以下、「FM」)
(c)細胞の凍結保存
凍結対象とする細胞をトリプシン処理にて遠沈回収し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて希釈して細胞濃度をそれぞれ計測した。細胞の種類と細胞濃度は以下のとおりである。
・ヒト皮膚線維芽細胞 5.0×10細胞/100μl
続いて、1.5mlチューブに1mlずつ分注して遠沈し、100μlの上記凍結保存液にそれぞれ懸濁し、細胞凍結容器Mr.Frosty(登録商標)を用いて、冷却速度-1℃/分、冷却温度-80℃で凍結した。
(d)細胞の解凍と生細胞数の計測
凍結保存バイアルに1mlの培地を加えて融解し、遠沈して上清を除いた。続いて、遠沈により得られた細胞を培地に再懸濁し、生細胞数を計測した。その結果を図6に示す。
(e)実験結果
図6に示すように、本発明の非プロトン性双性イオンはいずれも、十分に高い細胞生存率を維持することができ、凍結保護剤として有効であることが分かった。特に、カチオン部位がイミダゾリウムカチオンである非プロトン性双性イオンは、市販の凍結保存液(FM)と同等以上の性能を発揮することが明らかとなった。
【0112】
(3)細胞凍結実験3(急速凍結法)
(実施例4)
(a)非プロトン性双性イオンOEimCCの合成
上記1(1)と同様の手順により、非プロトン性双性イオンOEimCCを合成した。
(b)凍結保存液の調製
以下の組成を有する4種類の凍結保存液を準備した。
・ヒトES細胞、ヒトiPS細胞凍結保存液DAP213(リプロセル社製)
・75重量%OEimCC/H
・50重量%OEimCC/H
・25重量%OEimCC/H
(c)細胞の凍結保存
凍結対象とする細胞(2種類)をトリプシン処理にて遠沈回収し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて希釈して細胞濃度をそれぞれ計測した。細胞の種類と細胞濃度は以下のとおりである。
・ヒト皮膚線維芽細胞 8.2×10細胞/100μl(N=3)
・マウス線維芽細胞C57BL/6-GFP 1.2×10細胞/100μl(N=3)
続いて、1.5mlチューブに1mlずつ分注して遠沈し、100μlの上記凍結保存液にそれぞれ懸濁し、直後に液体窒素にて10~15秒以内に急速凍結した。その後、液体窒素タンクにて3日間保存した。
(d)細胞の解凍と生細胞数の計測
凍結保存バイアルを1mlの培地にて急速融解し、遠沈して上清を除いた。続いて、遠沈により得られた細胞を培地に再懸濁し、生細胞数を計測した。その結果を図7及び図8に示す。その後、6ウェルプレートにて培養を開始した。
(e)24時間後の生細胞数の計測
培養開始から24時間後の生細胞数を計測した。その結果を図9及び図10に示す。
(f)実験結果
図7及び図8に示すように、非プロトン性双性イオンOEimCCを含む凍結保存剤を用いて急速凍結を行った場合の解凍後の生細胞数は、市販の凍結保存液DAP213に匹敵する値であった。凍結保存液中の非プロトン性双性イオンOEimCCの濃度は、低い濃度(25重量%)とした方が細胞の生存率が高かった。
また、図9及び図10に示すように、非プロトン性双性イオンOEimCCを含む凍結保存剤を用いて急速凍結を行い、24時間培養した後の生細胞数についても、市販の凍結保存液DAP213には劣るものの、同様に高い値が得られた。
【0113】
(4)細胞凍結実験4(緩慢凍結法)
(実施例5)~(実施例28)
(a)非プロトン性双性イオンの合成
実験に用いた非プロトン性双性イオンは上記合成例により基づいて合成した。
(b)凍結保存液の調製
凍結保存液は、各例の非プロトン性双性イオンに精製水を加えて溶かし、5重量%、10重量%の試験液を調整した。
(c)細胞の凍結保存
凍結対象とする細胞をトリプシン処理にて遠沈回収し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて希釈して細胞濃度をそれぞれ計測した。細胞の種類と細胞濃度は以下のとおりである。
・マウス皮膚線維芽細胞 5.0×10細胞/100μl
・ヒト腎脂肪細胞 5.0×10細胞/100μl
続いて、1.5mlチューブに1mlずつ分注して遠沈し、100μlの上記凍結保存液にそれぞれ懸濁し、細胞凍結容器Mr.Frosty(登録商標)を用いて、冷却速度-1℃/分、冷却温度-80℃で凍結した。
(d)細胞の解凍と生細胞数の計測
凍結保存バイアルに1mlの培地を加えて融解し、遠沈して上清を除いた。続いて、遠沈により得られた細胞を培地に再懸濁し、生細胞数を計測した。
結果は、OEimCCの生細胞数に対する比率で表した。
(e)ガラス転移点、熱量
ガラス転移点及び熱量は、示差走査熱量測(DSC)により求めた。冷却速度を-1℃とし、加熱速度を5℃として測定を行った。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0114】
いずれの双性イオンも-70℃以下のガラス転移点を観測した。マウス由来細胞とヒト由来細胞では、双性イオンごとに異なる傾向を示した。
【0115】
(5)細胞周期に与える影響
(実施例29)
細胞はヒト線維芽細胞を用いた。
試験区は、コントロールに対してDMSO及びHLS(OEimCC)を1%添加区、2%添加区とした。
細胞周期分析は、5-ethynyl-2´-deoxyuridine(EdU)を用いたClick-iT(登録商標)Plus EdU細胞増殖アッセイ(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いメーカーのプロトコールに従い行った。細胞を10μM EdUで1hrインキュベーションし、トリプシン処理後、4%PFAで固定し、Alexa Fluor 647 picolyl azideでラベルした。細胞を4’,6-diamidino-2-phenylindole (DAPI)で染色し、BD FACSAria(商標) III (BD Biosciences)で分析した。結果を図11に示す。DMSO添加2%では、G0/G1期が延長されS期が大幅に短縮したのに対して、HLS(OEimCC)2%に対しても、無添加の場合と比べてほとんど影響はなかった。
【0116】
(6)ゼブラフィッシュの発生に与える影響
(実施例30)
すべての実験は金沢大学動物実験委員会により承認されたプロトコールに基づいて行った。野生種のゼブラフィッシュAB*を、循環水システム中、28.5℃、明14hr/暗10hrのサイクルで生育させた。培地はE3培地(5 mM NaCl, 0.17 mM KCl, 0.33 mM CaCl2, 0.33 mM MgSO4)を用い、培地にDMSO又はHLS(OEimCC)を1%、2%、5%、10%を添加した。それぞれの試験区において受精後、1.5~24時間培養した。培養後、胚はE3培地で2度洗浄し、色素沈着を防止するために1-phenyl-2-thiourea(富士フイルム和光純薬)で処理をした。0.6mg/mLの o-dianisidine(東京化成)で15分間染色し、4%パラホルムアルデヒド(富士フイルム和光純薬)で固定した。胚は、0.1%Tween(Sigma-Aldrich)リン酸緩衝生理食塩液で2回洗浄した。結果を表5及び図12に示す。2%添加区において、DMSOとHLS(OEimCC)の2%添加区までの生存率は両者とも同様であったが、5%添加区では生存率に大きな差が出た。また、5%DMSOで生存していた受精卵は正常な発生をしなかった。
【表5】
【0117】
(7)培地用添加剤としての使用
(実施例31~61)
(a)5種類の非プロトン性双性イオンの合成
実験に用いた非プロトン性双性イオンは上記合成例により基づいて合成した。
天然の非プロトン性双性イオンとして、クレアチン、ベタインを用いた。
(b)凍結保存液の調製
凍結保存液は、検体である非プロトン性双性イオン5g又は10gを培地基剤である精製水に溶かして100gとし、凍結保存液とした。
調製した保存液100重量部に対して、添加剤を5重量部及び10重量部を添加して、サンプルとした。
(c)細胞の凍結保存
凍結対象とする細胞をトリプシン処理にて遠沈回収し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて希釈して細胞濃度をそれぞれ計測した。細胞の種類と細胞濃度は以下のとおりである。
・マウス皮膚線維芽細胞 5.0×10細胞/100μl
・ヒト腎脂肪細胞 5.0×10細胞/100μl
・K562 5.0×10細胞/100μl
続いて、1.5mlチューブに1mlずつ分注して遠沈し、100μlの上記凍結保存液にそれぞれ懸濁し、細胞凍結容器Mr.Frosty(登録商標)を用いて、冷却速度-1℃/分、冷却温度-80℃で凍結した。
(d)細胞の解凍と生細胞数の計測
凍結保存バイアルに1mlの培地を加えて融解し、遠沈して上清を除いた。続いて、遠沈により得られた細胞を培地に再懸濁し、生細胞数を計測した。
結果は、CultureSure(富士フイルム和光純薬)の細胞生存数に対する比率で表した。
【表6】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(4)で表される非プロトン性双性イオンを含む凍結保存用培地。
-X-R-A (4)
(式中、Rは炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Xは双性イオンのカチオン部であり、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを表し、Aはアニオン部を表し、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンを表し、Rは、炭素数1~5個の置換基を有していても良いアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
【請求項2】
一般式(4)において、Xは、窒素原子1個又は2個以上含む炭素数1~6個の環状構造を有し、窒素原子上には1個又は2個以上の置換基を有し、Aはカルボキシル基又はスルホン酸基であり、カチオンは窒素上に存在するか又はX全体に非局在化しており、アニオンはカルボキシル基又はスルホン酸基上に存在する、請求項1に記載の凍結保存用培地。
【請求項3】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化1】

(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、炭素数1~7個のアルキル基、炭素数1~7個のアルケニル基、又はエーテル結合を含む炭素数1~7個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される請求項1又は2に記載の凍結保存用培地。
【請求項4】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化2】

【化3】

(式中、R及びRは、請求項3で定義したとおりである。)
で表される請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【請求項5】
前記R又はRが炭素数1~7個のアルケニル基である請求項1~4のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【請求項6】
前記凍結保存用培地が、非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物からなり、前記非プロトン性双性イオンの濃度が、前記組成物に対して1~30重量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【請求項7】
前記凍結保存用培地が、非プロトン性双性イオンと水とを含む組成物からなり、さらに前記組成物100重量部に対して、1~30重量部の細胞浸透性物質を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の凍結保存用培地。
【請求項8】
非プロトン性双性イオンを含む凍結保護剤。
【請求項9】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項10】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンである請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項11】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~8個のアルキル基を1個以上有する請求項8~10のいずれか1項に記載の凍結保護剤。
【請求項12】
前記非プロトン性双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される請求項8~11のいずれか1項に記載の凍結保護剤。
【請求項13】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(1)
【化4】

(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~8個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、水素もしくは分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される請求項8に記載の凍結保護剤。
【請求項14】
前記非プロトン性双性イオンが、下記式(2)又は式(3)
【化5】

【化6】

(式中、R及びRは、請求項13で定義したとおりである。)
で表される請求項13に記載の凍結保護剤。