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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123789
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】歯科用セメントキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/15 20200101AFI20230829BHJP
   A61K 6/25 20200101ALI20230829BHJP
   A61K 6/40 20200101ALI20230829BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20230829BHJP
   A61K 6/77 20200101ALI20230829BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20230829BHJP
【FI】
A61K6/15
A61K6/25
A61K6/40
A61K6/60
A61K6/77
A61K6/831
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109647
(22)【出願日】2023-07-03
(62)【分割の表示】P 2018175604の分割
【原出願日】2018-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】北田 直也
(72)【発明者】
【氏名】山本 健蔵
(72)【発明者】
【氏名】西野 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】上月 礼亨
(57)【要約】      (修正有)
【課題】補綴装置を装着または試適する際、簡便に周辺歯質との高い色調適合性を得るための歯科用セメントまたは試適材料を選択する方法およびセメントセットを提供する。
【解決手段】3からn色の色調を含む複数の歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを試適材料にて試適した後に、3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から歯科用セメントを選択して用いる為の3からn色の色調を含む歯科用セメントセットであって、主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセット。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3からn色の色調を含む複数の歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを試適材料にて試適した後に、3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から歯科用セメントを選択して用いる為の3からn色の色調を含む歯科用セメントセットであって、
3からn色の複数の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、
L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセット。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【請求項2】
前記主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが1.5未満であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用セメントセット。
【請求項3】
請求項1記載の歯科用セメントセット及び各歯科用セメントの色調に対応した試適材料セットを含む歯科用セメント試適材料キットであって、
L*a*b*空間における各歯科用セメントの色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)に対して各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす歯科用セメント試適材料キット。
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【請求項4】
3からn色の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットと、
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
各歯科用セメントに対応した各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす試適材料セットとを含む歯科用セメントと試適材料キットを用いて、
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを3からn色の色調を含む試適材料にて試適した後に、対応する歯科用セメントを選択する歯科用セメント選択方法。
【請求項5】
3からn色の色調を含む複数の歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを試適材料にて試適した後に、3からn色の色調を有する歯科用セメントの中から歯科用セメントを選択して用いる為の3からn色の色調を有する歯科用セメントセットであって
3からn色の複数の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、
L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセット
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【請求項6】
前記主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが1.5未満であることを特徴とする請求項5に記載の歯科用セメントセット。
【請求項7】
請求項5記載の歯科用セメントセット及び各歯科用セメントの色調に対応した試適材料セットを有する歯科用セメント試適材料キットであって、
L*a*b*空間における各歯科用セメントの色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)に対して各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす歯科用セメント試適材料キット。
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【請求項8】
3からn色の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットと、
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
各歯科用セメントに対応した各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす試適材料セットとを含む歯科用セメントと試適材料キットを用いて、
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを3からn色の色調を含む試適材料にて試適した後に、対応する歯科用セメントを選択する歯科用セメント選択方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科治療の分野において、3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを3からn色の色調を含む試適材料にて試適した後に、対応する歯科用セメントを選択する歯科用セメント選択方法、その歯科用セメントセット、試適材料セット並びにそのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、補綴修復の中心は金属を主材料とする金属補綴修復からセラミックスあるいはハイブリッドセラミックス材料の補綴装置を用いた審美性補綴修復へと変遷している。
審美性補綴修復とは咬合等の機能性の回復だけではなく、天然歯同様の色調、光学特性(オパール効果、蛍光性、透明性等)を有する補綴装置を歯牙に装着し、隣在歯や残存歯質といった周辺歯質との色調を適合させることにより審美性の回復も期待できる修復方法である。
【0003】
一般的な審美性補綴修復の流れを説明する。齲蝕除去や捻転等により審美性・機能性の回復を必要とする部位の印象を採取し、その印象体を用いて歯科技工士が模型を作製し、周辺歯質の色調を考慮しつつその模型に適合した補綴装置を作製する。次いで、歯科医師が補綴装置を歯牙に試適することにより、形態・色調が適合していることを確認する。試適とは歯牙から容易に除去でき且つ歯科用セメントの硬化後の色調を再現できる歯科用色調適合確認材料(以下、試適材料)を歯科用セメントの代わりに用いて、形態・色調の適合性を確認する作業を指す。形態・色調の適合性を確認した後、試適材料と同色調の歯科用セメントを用い、歯牙に装着することにより機能性だけでなく、審美性も回復させることができる。
【0004】
補綴装置を作製する時、歯科技工士は周辺歯質の明度(L*a*b*表記におけるL*値)、彩度(L*a*b*表記におけるa*値及びb*値)、表面構造を考慮しつつ補綴装置に立体的な色調を付与し天然歯同様の審美性を再現する必要がある。
しかしながら、歯科医師が撮影した口腔内写真あるいは歯科医師が目視で判定したシェード(色調)情報をもとに補綴装置の色調調整を行うため、実際に作製した補綴装置を口腔内に装着または試適すると修復部分と周辺歯質との間に微妙な色差が生じることがある。周辺歯質と補綴装置の色調適合性が明らかに異なる場合は補綴装置の再作製や色調調整を行う必要があるものの、周辺歯質と補綴装置の色調の差異が軽微である場合は歯科用セメントまたは試適材料の色調によって補正することが可能である。例えば修復部位が周辺歯質に比べ暗い場合は周辺歯質より明度の高い歯科用セメントまたは試適材料を用いることにより、周辺歯質の色調との適合性を向上させることが可能である。同様に彩度についても歯科用セメントまたは試適材料によって補正が可能であり、例えば修復部位の赤みが周辺歯質に比べ不足している場合は周辺歯質より赤みの強い歯科用セメントまたは試適材料を用いることにより、周辺歯質の色調との適合性を向上させることが可能である。
しかしながら、従前の歯科用セメントまたは試適材料では修復部位の色調の調整が困難であった。これはL*a*b*空間において、各色調間の色差(L*a*b*空間の各色調間の距離)が一定間隔ではないことや各色調が分散していることに起因し、歯科医師は歯科用セメントの色見本・シェードガイドを頼りに試適作業を繰り返すか経験則に基づき色調を選択する必要があり、周辺歯質との高い色調適合性を得ることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】パナビア V5 トライイン ペースト(クラレノリタケデンタル株式会社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
補綴装置を装着または試適する際、簡便に周辺歯質との高い色調適合性を得るための歯科用セメントまたは試適材料を選択することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、3からn色の色調を含む複数の歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを試適材料にて試適した後に、3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から歯科用セメントを選択して用いる為の3からn色の色調を含む歯科用セメントセットであって、
3からn色の複数の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、
L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットである。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【0008】
本発明は、前記主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが1.5未満である歯科用セメントセットである。
【0009】
本発明は、歯科用セメントセット及び各歯科用セメントの色調に対応した試適材料セットを含む歯科用セメント試適材料キットであって、
L*a*b*空間における各歯科用セメントの色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)に対して各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす歯科用セメント試適材料キットである。
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【0010】
本発明は、3からn色の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットと、
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
各歯科用セメントに対応した各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす試適材料セットとを含む歯科用セメントと試適材料キットを用いて、
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを3からn色の色調を含む試適材料にて試適した後に、対応する歯科用セメントを選択する歯科用セメント選択方法である。
【0011】
本発明は、3からn色の色調を含む複数の歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを試適材料にて試適した後に、3からn色の色調を有する歯科用セメントの中から歯科用セメントを選択して用いる為の3からn色の色調を有する歯科用セメントセットであって、
3からn色の複数の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、
L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットである。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【0012】
本発明は、前記主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが1.5未満であることを特徴とする請求項5に記載の歯科用セメントセットである。
【0013】
本発明は、歯科用セメントセット及び各歯科用セメントの色調に対応した試適材料セットを有する歯科用セメント試適材料キットであって、
L*a*b*空間における各歯科用セメントの色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)に対して各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす歯科用セメント試適材料キットである。
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
【0014】
本発明は、3からn色の歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)が、L*a*b*空間上において最も離れた2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定め、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nが2未満であり、且つ下記式1を満たす歯科用セメントセットと、
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
各歯科用セメントに対応した各試適材料の色調T1(TL*1、Ta*1、Tb*1)、T2(TL*2、Ta*2、Tb*2)・・・Tn-1(TL*n-1、Ta*n-1、Tb*n-1)、Tn(TL*n、Ta*n、Tb*n)が下記式2を満たす試適材料セットとを含む歯科用セメントと試適材料キットを用いて、
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2
(ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す)
3からn色の色調を含む歯科用セメントの中から、いずれの歯科用セメントを用いるかを3からn色の色調を含む試適材料にて試適した後に、対応する歯科用セメントを選択する歯科用セメント選択方法である。
【発明の効果】
【0015】
補綴装置を装着または試適する際、簡便に周辺歯質との高い色調適合性を得るための歯科用セメントまたは試適材料を選択することができる。
本発明の試適材料を用いて、適した色調に変更を求めL*a*b*空間上で隣り合う試適材料を用いた結果、さらに同色調方向に変更する場合、更に隣り合う試適材料を用いることで目視による色調変化の感覚と同様の変化を感覚で適した色調に近づけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記課題は修復部位の色調を補正する際、各歯科用セメントおよび各試適材料の各色調が適切な関係ではないことに起因していることを見出した。
そこで鋭意検討を行った結果、L*a*b*空間において、各色調間の色差が一定間隔であり且つ各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが2未満である場合、言い換えるとL*a*b*空間において歯科用セメントおよび試適材料の各色調が線形的に存在し且つ各色調が一定間隔に位置する場合、補綴装置を装着または試適する際に同系統色を維持でき、且つ色差を認識できる程度に色調が異なるため、明度及び彩度の微調整が可能となり、簡便に周辺歯質との高い色調適合性が得られることを見出した。
即ち、少なくとも3色以上のn色の色調を有する歯科用セメントセットであって、各歯科用セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)をL*a*b*空間に表記し、L*a*b*空間上の距離が最も大きくなる2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)、C3(CL*3、Ca*3、Cb*3)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定義するとき、各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが2未満であり、且つ式1を満たす様に着色されている歯科用セメントキットである。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す。
【0017】
L*a*b*空間はJIS Z8729に準拠するCIELab表記系を3次元的に表示した空間を指す。明度をL*、色相と彩度を示す色度をa*、b*で表し、L*は100に近くなるほど明るく、0に近くなるほど暗いことを示し、a*は+方向が赤、-方向が緑、b*は+方向が黄、-方向が青を示し、a*とb*は絶対値が大きいほど彩度が高く色鮮やかになる。
【0018】
本発明の実施形態である歯科用セメントキットの色調はJIS Z 8729に従い測定する。歯科用セメントの硬化試験体(厚さ0.5mm)を白背景の下、SCI方式で測色しL*、a*、b*を得る。また、試適材料も同様に試験体(厚さ0.5mm)を白背景の下、SCI方式で測色しL*、a*、b*を得る。本発明においては測定したL*、a*、b*はL*a*b*空間での各色調の座標C(CL*、Ca*、Cb*)又はT(TL*、Ta*、Tb*)に相当する。
このとき、L*a*b*空間において最も離れた2色調つまり色差の大きい2色調のうち、L*値が高い色調をC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)と定め、C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)から距離が近い順にC2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)と定義する。
ただし、本発明には、金属色を遮蔽するオペークを代表とするマスキング色など色調をもった歯科用セメントや試適材料を含むことがある。これらは前記法則に従わないことがある。
【0019】
本発明における歯科用セメントC(CL*、Ca*、Cb*)及び試適材料T(TL*、Ta*、Tb*)の色調は天然歯から変色歯やホワイトニング後の歯牙等の幅広い色調に類似するために、L*値は50~99が好ましく、より好ましくは60~98であり、a*値は-5~5が好ましく、より好ましくは-4~4であり、b*値は-1~22が好ましく、より好ましくは0~20であり、前述の範囲内から選択される。
【0020】
本発明においてCp-1(CL*p-1、Ca*p-1、Cb*p-1)とCp(CL*p、Ca*p、Cb*p)のL*a*b*空間上の距離(pは2≦p≦nの任意の整数を示す。)つまりCp-1(CL*p-1、Ca*p-1、Cb*p-1)とCp(CL*p、Ca*p、Cb*p)の色差については、補綴装置を装着又は試適時に同系統の色調と認識でき且つ、色差を認識できる程度に一定の色差を有する必要がある。
Cp-1(CL*p-1、Ca*p-1、Cb*p-1)とCp(CL*p、Ca*p、Cb*p)間の色差が2未満の場合は補綴装置を装着または試適した際、各色調間の色差を視認することが困難となり同一色であるように認識する。一方、色差が8を超える場合は明らかに系統の異なる色調であると視認するため、Cp-1(CL*p-1、Ca*p-1、Cb*p-1)とCp(CL*p、Ca*p、Cb*p)間の色差は2以上8未満(式1)であることが好ましい。さらに補綴装置を装着または試適した場合の色差をより認識でき且つ近似した色調系統を維持するためにはCp-1(CL*p-1、Ca*p-1、Cb*p-1)とCp(CL*p、Ca*p、Cb*p)間の色差は3以上7未満(式1a)がより好ましい。
式1:2≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<8
ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す。
式1a:3≦〔(CL*p-1-CL*p2+(Ca*p-1-Ca*p2+(Cb*p-1-Cb*p21/2<7
ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す。
【0021】
また、3からn色の歯科用セメントの隣り合う色調の差の絶対値の最大値が、3以内であることが好ましい。目視による適合感覚と更に一致しやすくなる。3からn色の歯科用セメントの隣り合う色調の差にバラツキが大きいと、目視による適合感覚とずれることがある。
【0022】
L*a*b*空間での歯科用セメントの各色調C1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)の主成分分析について説明する。主成分分析とは多変量解析法であり、N個の変数が持つ情報をより少ないm個の総合特性値、つまり主成分(Z1、Z2、Z3・・・Zm)に要約することである(N≧m)。
【0023】
【数1】
【0024】
L*a*b*空間上での各色調と第一主成分に対する各色調の情報損失量P1nの関係について説明する。図1に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(1))は第一主成分軸が明度軸に近似しているため、主にL*の調整を可能とする歯科用セメントのキットである。また、第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=0.73)は十分小さく、線形性を有していることを示し色調の系統が維持されていることを示す。図2に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(4))は第一主成分軸がL*とb*に関連しているため、L*とb*を同時に調整することが可能である。また、図1と同様に第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=1.81)は小さく、線形性を有していることを示し色調の系統が維持されていることを示す。一方、図3に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(9))は第一主成分軸がL*とb*に関連しているものの、第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=3.23)が大きいため、線形性を有していない、つまりL*とb*がバラバラであり、色調の系統が維持されていないことを示す。
【0025】
本発明のC1(CL*1、Ca*1、Cb*1)、C2(CL*2、Ca*2、Cb*2)・・・Cn-1(CL*n-1、Ca*n-1、Cb*n-1)、Cn(CL*n、Ca*n、Cb*n)から成る各色調はL*a*b*空間で線形性を有していることが好ましい。具体的には各色調の主成分分析により決定した第一主成分に対する情報損失量P1nが2未満であることが好ましく、さらに好ましくは1.5未満である。情報損失量P1nが2以上の場合、L*a*b*空間で各色調が分散しており、補綴装置を装着または試適する際に明度及び彩度の微調整が困難となるため、情報損失量P1nが2未満の場合は線形性が維持され明度及び彩度の微調整が容易となる。
【0026】
本発明の歯科用セメントの性状、形態は特に指定なく使用でき、ペーストタイプでも粉液タイプでも良く、ペーストタイプのセメントに関しては1ペーストタイプでも2ペーストタイプでも構わない。
【0027】
本発明のキットには歯科用セメントに加えて試適材料を含むことができる。試適材料は歯科用セメントを用いて補綴装置を装着した修復部位あるいは修復歯牙の色調を再現するために硬化後の歯科用セメントの色調に近似していなければならない。そのため、各セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)とそれらに対応する試適材料の色調T(TL*、Ta*、Tb*)の色差が2未満(式2)であることが好ましく、より好ましくは1.5未満(式2a)である。各セメントの色調C(CL*、Ca*、Cb*)と試適材料の色調T(TL*、Ta*、Tb*)の色差が2以上である場合、試適材料と歯科用セメントの色調に差異が認められ、試適時に補綴装置装着後の色調を再現することが困難である。
式2:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦2、且つ0≦〔(CL*1-TL*12+(Ca*1-Ta*12+(Cb*1-Tb*121/2≦2
式2a:0≦〔(CL*p-TL*p2+(Ca*p-Ta*p2+(Cb*p-Tb*p21/2≦1.5、且つ0≦〔(CL*1-TL*12+(Ca*1-Ta*12+(Cb*1-Tb*121/2≦1.5
ただし、pは2≦p≦nの任意の整数を示す。
【0028】
本発明の歯科用セメントのキットには歯科用セメント、試適材料の他に歯科用プライマー、歯科用象牙質接着材、歯科用エッチング材、シェードガイド、酸素遮断材料等を含むことが出来る。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例0029】
歯科用セメントの色調測定:
ガラス板(厚さ0.15±0.02mm)上にポリアセタール製の型(直径15mm、高さ0.5mm孔)を置き歯科用セメントを填入後、上部をガラス板(厚さ0.15±0.02mm)で圧接し気泡混入がないことを確認し、LED照射器(ブルーショット ハイモード:松風)で20秒間×9回、両面を光照射する。光照射後、ガラス板と歯科用セメント材料の表面が剥離していないことを確認し測色機(CM-3500d:コニカミノルタ社製)を用いて白背景の下、SCI方式で測色した。
試適材料の色調測定:
ガラス板(厚さ0.15±0.02mm)上にポリアセタール製の型(直径15mm、高さ0.5mm孔)を置き試適材料を填入後、上部をガラス板(厚さ0.15±0.02mm)で圧接し気泡混入がないことを確認して測色機(CM-3500d:コニカミノルタ社製)を用いて白背景の下、SCI方式で測色した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
色調調整性の評価方法:
シェードガイド(VITAPANClassical A1、A2又はA3:VITA社製)を印象材(ジルデフィット:松風社製)で印象体を採取後、シェードガイドのエナメル層を研削材で除去した。除去後の表面を耐水研磨紙600番、2000番の順で研磨し支台歯模型を作製した。次いで支台歯模型に厚さ50μmの耐熱フィルムを張り付けた後、エナメル層に相当する部分にコンポジットレジン(ビューティフィルフロープラスF03 A1及びA3色:松風社製)を積層して、唇面側から印象体を圧接した後、光照射してラミネートベニア模型を作製した。
ラミネートベニア模型上に歯科用セメントを少量塗布して支台歯模型上に圧接後、LED照射器(ブルーショット ハイモード:松風)で20秒間光照射し修復模型を作製した。歯科用セメントのそれぞれの色調を用いた修復模型を作製し、目視によるシェードガイドとの比色によって歯科用セメントの色調調整性を評価した。
◎:修復部位の色調が調整しやすく、容易にシェードガイドとの高い色調適合性を得ることが出来る。
○:修復部位の色調が調整しやすく、シェードガイドとの高い色調適合性を得ることが出来る。
×a:色調間の色差が大きく修復部位の色調が調整できない。
×b:色調間の色差が視認できないため、修復部位の色調が調整できない。
×c:修復部位の色調の系統が極端に異なるため、修復部位の色調が調整できない。
【0035】
【表5】
【0036】
歯科用セメントキット(1)、(2)、(5)、(6)は各色調間の色差が適度に感じられ且つ同系統の色調であるため、明度及び彩度の微調整が可能であり簡便に周辺歯質との高い色調適合性が得ることが可能であった。歯科用セメントキット(3)、(4)は各色調間の色差が適度に感じられ且つほぼ同系統の色調であるため、明度及び彩度の微調整が可能であり周辺歯質との高い色調適合性を得ることが可能であった。一方、歯科用セメントキット(7)は各色調間の色差が分散しており、明度及び彩度の微調整が困難であった。歯科用セメントキット(8)は各色調間の色差が分散していることに加え、各色調の色系統が大きく異なるため、周辺歯質との色調適合性を得ることが困難であった。歯科用セメントキット(9)、(11)は各色調間の色差を適度に認識できるものの、各色調の色系統が異なるため、周辺歯質との色調適合性を得ることが困難であった。歯科用セメントキット(10)は各色調が近似しており色差を認識することができず、明度及び彩度の微調整が不可能であった。
以上のように各色調間の色差が適度であり且つ、各色調から決定される第一主成分の軸と各色調の情報損失量が小さいとき、明度及び彩度の微調整が可能であり周辺歯質との高い色調適合性を得ることが可能である。
【0037】
歯科用セメントと試適材料の色調同一性:
ラミネートベニア模型上に試適材料を少量塗布して支台歯模型上に圧接して試適模型を作製した。それぞれの色調を対応した修復模型と試適模型を目視によって色調同一性を評価した。
○: 修復模型と試適模型に色差が認められず、同一色と認識できる。
△:修復模型と試適模型にわずかな色差が認められるものの、ほぼ同一色と認識できる。
×:修復模型と試適模型に色差が認められ、異なる色調と認識する。
【0038】
【表6】
【0039】
試適材料キット(1)と歯科用セメントキット(1)をそれぞれ用いた修復模型と試適模型は目視による色差を認識できず同一色調であると判定した。試適材料キット(2)と歯科用セメントキット(1)をそれぞれ用いた修復模型と試適模型はC3-T3及びC4-T4については同一色と認識できたが、C1-T1、C2-T2は僅かに色差が認められるものの、ほぼ同一の色調であると認識できた。試適材料キット(3)と歯科用セメントキット(1)をそれぞれ用いた修復模型と試適模型はいずれも色差が認められ、同一の色調とは認識できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(1))は第一主成分軸が明度軸に近似しているため、主にL*の調整を可能とする歯科用セメントのキットである。また、第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=0.73)は十分小さく、線形性を有していることを示し色調の系統が維持されていることを示す。
図2図2に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(4))は第一主成分軸がL*とb*に関連しているため、L*とb*を同時に調整することが可能である。また、図1と同様に第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=1.81)は小さく、線形性を有していることを示し色調の系統が維持されていることを示す。
図3図3に示す色調(具体例として記載している歯科用セメントキット(9))は第一主成分軸がL*とb*に関連しているものの、第一主成分軸からの各色調の分散(情報損失量:P1n=3.23)が大きいため、線形性を有していない、つまりL*とb*がバラバラであり、色調の系統が維持されていないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
歯科分野において、セメントおよび試適材料の産業に利用可能である。

図1
図2
図3