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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123875
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20230829BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20230829BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20230829BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028
H01G9/145
H01G9/15
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113016
(22)【出願日】2023-07-10
(62)【分割の表示】P 2018247077の分割
【原出願日】2018-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 佳津代
(72)【発明者】
【氏名】青山 達治
(57)【要約】
【課題】高温環境下でも低ESRを維持し得る電解コンデンサを提供する。
【解決手段】表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に配された導電性高分子および液状成分とを有し、液状成分は、酸成分と、塩基成分と、芳香族添加剤とを含み、酸成分は、芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体を含み、芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体は、カルボキシ基を少なくとも2つ有し、かつ少なくとも1つの芳香環を含み、液状成分に含まれる塩基成分の含有量は1質量%以上であり、芳香族添加剤は、電子求引性基と電子供与性基とを有し、液状成分に含まれる芳香族添加剤の含有量は、導電性高分子100質量部に対して50質量部以上である、電解コンデンサ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層が形成された陽極体と、
陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に配された導電性高分子および液状成分と、を有し、
前記液状成分は、酸成分と、塩基成分と、芳香族添加剤と、を含み、
前記酸成分は、芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体を含み、前記芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体は、カルボキシ基を少なくとも2つ有し、
前記芳香族添加剤は、電子求引性基と電子供与性基とを有し、
前記液状成分に含まれる前記芳香族添加剤の含有量は、導電性高分子100質量部に対して50質量部以上である、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記液状成分に含まれる前記芳香族添加剤の含有量は、1質量%以上である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記液状成分は、高分子系溶媒を含む、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記液状成分に含まれる前記高分子系溶媒の含有量は、0.5質量%以上である、請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記芳香族カルボン酸は、フタル酸である、請求項1~4の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記芳香族カルボン酸誘導体は、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸およびボロジシュウ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~4の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記電子求引性基は、ニトロ基、カルボキシ基、フェニル基、アシル基、トシル基、ケト基、シアノ基、メチルスルホニル基およびハロゲン基よりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~6の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記電子供与性基は、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基およびエステル基よりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~7の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記芳香族添加剤は、(p-,m-,o-)ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、(p-,m-,o-)ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、(p-,m-,o-)アセチルフェノール、(p-,m-,o-)ベンゾイルフェノールおよび(p-,m-,o-)メチルスルホニルフェノールよりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~8の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記液状成分に含まれる前記芳香族添加剤の含有量は、導電性高分子100質量部に対して50質量部以上であり、ただし、前記芳香族添加剤の含有量が前記塩基成分の含有量よりも少ない場合を除く、請求項1~9の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記液状成分に含まれる前記塩基成分の含有量は、1.8質量%以上である、請求項1~10の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
前記液状成分に含まれる前記塩基成分の含有量は、10質量%以下である、請求項1~11の何れか1項に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子と液状成分とを有する電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で低ESRのコンデンサとして、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された導電性高分子と、液状成分とを具備する電解コンデンサが有望視されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、導電性高分子と導電性補助液とを含む電解コンデンサを教示している。特許文献1では、導電性補助液の導電率を低くすることが好ましいとされ、導電性補助液には沸点150℃以上の有機溶媒と、ヒドロキシル基を少なくとも1つ有する芳香族化合物とが含まれている。ヒドロキシル基を少なくとも1つ有する芳香族化合物は、導電性高分子の電子伝導を補助する能力を有するとされ、酸化防止作用により導電性高分子の劣化を抑制し得るとも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/94462号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電性高分子と液状成分とを有する電解コンデンサにおいて、液状成分に酸成分と塩基成分とを含ませることがある。酸成分は、例えば、導電性高分子の劣化を抑制する作用を有し、塩基成分は、例えば、酸成分の解離度を上昇させ、電解液の導電性を高める作用を有し、電解コンデンサの静電容量を高めることができると考えられている。
【0006】
一方、例えば125℃以上の高温環境下では、酸成分がエステル化反応により徐々に減少する傾向がある。さらに、塩基成分は導電性高分子の劣化を促進し得る。導電性高分子が劣化すると、電解コンデンサのESRを低く維持することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み、本開示の一側面は、表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に配された導電性高分子および液状成分と、を有し、前記液状成分は、酸成分と、塩基成分と、芳香族添加剤と、を含み、前記酸成分は、芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体を含み、前記芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体は、カルボキシ基を少なくとも2つ有し、かつ少なくとも1つの芳香環を含み、前記液状成分に含まれる前記塩基成分の含有量は1質量%以上であり、前記芳香族添加剤は、電子求引性基と電子供与性基とを有し、前記液状成分に含まれる前記芳香族添加剤の含有量は、導電性高分子100質量部に対して50質量部以上である、電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、静電容量を高め、且つ、高温環境下でも低ESRを維持し得る電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
図2】同実施形態に係るコンデンサ素子の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る電解コンデンサは、表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に配された導電性高分子および液状成分とを具備する。液状成分は、酸成分と、塩基成分と、芳香族添加剤とを含む。ここで、酸成分は、芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体を含む。芳香族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸誘導体は、カルボキシ基を少なくとも2つ有し、かつ少なくとも1つの芳香環を含む。液状成分に含まれる塩基成分の含有量は1質量%以上である。芳香族添加剤は、電子求引性基と電子供与性基とを有する。液状成分に含まれる芳香族添加剤の含有量は、導電性高分子100質量部に対して50質量部以上である。
【0011】
導電性高分子は、例えばπ共役系の導電性高分子であり、通常は導電性を向上させるためにドーパントがドープされている。液状成分が酸成分を含むことで、ドーパントの脱ドープが抑制されるため、導電性高分子の劣化もしくは導電性の低下が抑制されると考えられる。
【0012】
一方、塩基成分は、例えば、酸成分の解離度を高め、液状成分の導電率を高める役割を有すると考えられる。ただし、塩基成分には、導電性高分子からのドーパントの脱ドープを促進する作用もある。よって、塩基成分が過剰にならないように液状成分の組成を制御することが望まれる。
【0013】
酸成分の中では、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸誘導体(以下、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸誘導体をまとめて芳香族カルボン酸類と称する。)は、比較的安定である。中でもカルボキシル基を少なくとも2つ有し、かつ少なくとも1つの芳香環を含む芳香族カルボン酸類は、エステル化反応に対して比較的安定である。芳香族カルボン酸類は、液状成分の粘度上昇を抑制する観点から、C6のベンゼン環および/またはC10のナフチル環を1個または2個有することが望ましい。
【0014】
芳香族カルボン酸としては、より安定性の高い2価~4価のカルボン酸が好ましく、2以上のカルボキシル基は互いに芳香環のオルト位に直接結合していることが望ましい。具体的には、芳香族カルボン酸として、フタル酸、ピロメリット酸などを用い得る。中でもフタル酸が好ましく、o-フタル酸が特に好ましい。
【0015】
芳香族カルボン酸誘導体としては、カルボン酸と無機酸(例えばホウ酸、リン酸等)との縮合物が安定で好ましく、例えばカルボン酸とホウ酸との縮合物が好ましい。具体的には、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、ボロジシュウ酸などを用い得る。
【0016】
液状成分に含まれる芳香族カルボン酸類の含有量は、例えば1.0質量%以上であればよく、2.0質量%以上が好ましく、40質量%以下であればよく、20質量%以下が好ましい。
【0017】
なお、液状成分に含まれる酸成分の含有量は、塩基成分100質量部に対して、例えば100質量部以上であり、130質量部以上が好ましく、例えば700質量部以下であり、500質量部以下が好ましい。
【0018】
塩基成分は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。アミン成分(特に第1~3級アミン)を用いることで、ESRを長期的に安定化する効果が高められる。第4級アミンを用いてもよいが、副反応をできるだけ抑制する観点からは、適度な塩基性を示す第1~3級アミンが望ましい。各アミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどを用いることができるが、分子量72~102の脂肪族アミンが、解離度が高い点で好ましい。
【0019】
第1~3級アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、4-ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、トリエチルアミン、モノエチルジメチルアミンなどの第3級アミンが特に好ましい。
【0020】
芳香族カルボン酸の少なくとも一部は、塩基成分との塩に由来してもよい。すなわち、酸成分および塩基成分として、液状成分に芳香族カルボン酸と塩基成分との塩を含ませてもよい。
【0021】
上記のように比較的安定な芳香族カルボン酸類であっても、125℃程度の高温環境下では、エステル化反応が徐々に進行する。その結果、酸成分は徐々に減少する。一方、液状成分に含まれる塩基成分はエステル化反応では減少しない。その上、液状成分の導電率を十分に高め、静電容量を高めるには、液状成分に含まれる塩基成分の含有量を1質量%以上と高濃度にすることが望まれる。液状成分に含まれる塩基成分の含有量は、1.4質量%以上がより望ましく、1.8質量%以上が更に望ましい。そのため、芳香族添加剤を用いない場合には、導電性高分子からのドーパントの脱ドープが促進されることが懸念される。
【0022】
これに対し、芳香族添加剤を用いる場合には、高温環境下においても、導電性高分子からのドーパントの脱ドープが抑制される。芳香族添加剤は、電子求引性基と電子供与性基とを有するため、電子供与性基は酸性を呈し得る。一方、電子求引性基は、酸性を呈する電子供与性基を安定化させる作用を有する。その結果、導電性高分子に対して十分な量の芳香族添加剤が存在する場合、塩基成分による脱ドープの促進作用が緩和されるものと考えられる。しかも、芳香族添加剤の電子供与性基は、エステル化反応に対して比較的安定である。よって、芳香族添加剤の量が減少しにくく、高温環境下でも導電性高分子からのドーパントの脱ドープを抑制する作用(以下、脱ドープ抑制作用と称する。)が持続すると考えられる。
【0023】
ただし、液状成分に含まれる塩基成分の含有量が、例えば10.0質量%を超えると、脱ドープ抑制作用が有効に作用しない場合がある。よって、液状成分に含まれる塩基成分の含有量は、10.0質量%以下とすることが望ましい。
【0024】
ここで、導電性高分子に対して十分な量とは、液状成分に含まれる芳香族添加剤の含有量が導電性高分子100質量部に対して50質量部以上であることをいう。液状成分に含まれる芳香族化合物の含有量が導電性高分子100質量部に対して50質量部未満では、有効な脱ドープ抑制作用が得られない。芳香族添加剤は、安定かつ酸性を呈するものの、酸性度が弱いため、導電性高分子の質量に対して十分な量を液状成分に含ませることが必要である。液状成分に含まれる芳香族添加剤の含有量は、望ましくは、導電性高分子100質量部に対して100質量部以上であり、より望ましくは150質量部以上である。ただし、芳香族添加剤が過剰になると、液状成分の導電率が低下し、低温且つ低周波の容量特性が低下するため、芳香族添加剤の量は、導電性高分子100質量部に対して1000質量部以下、もしくは800質量部以下が望ましい。
【0025】
液状成分に含まれる芳香族添加剤の含有量は、例えば1質量%以上であればよく、2質量%以上が望ましい。
【0026】
芳香族添加剤において、芳香環に直接結合する電子求引性基の数は、例えば1~3個であればよい。電子求引性基としては、ニトロ基、カルボキシ基、フェニル基、アシル基、トシル基、ケト基、シアノ基、メチルスルホニル基、ハロゲン基などが挙げられる。芳香族添加剤が2以上の電子吸引性基を有する場合、2以上の電子吸引性基は互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0027】
芳香族添加剤において、芳香環に直接結合する電子供与性基の数は、例えば1~3個であればよい。電子供与性基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、エステル基などが挙げられる。芳香族添加剤が2以上の電子供与性基を有する場合、2以上の電子供与性基は互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0028】
芳香族添加剤の具体例としては、例えば、(p-,m-,o-)ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール酸、(p-,m-,o-)ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、(p-,m-,o-)アセチルフェノール、(p-,m-,o-)ベンゾイルフェノール、(p-,m-,o-)メチルスルホニルフェノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。芳香族添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
酸成分、塩基成分および芳香族添加剤と混合される溶媒は、特に限定されないが、電解コンデンサの耐熱性を向上させ得る点で、少なくとも高分子系溶媒を用いることが望ましい。高分子系溶媒としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ポリグリセリン類、もしくはこれらの末端をアルキル化したエーテル類が挙げられる。中でもポリエチレングリコールの分子量は、例えば190~400であればよく、200~300であってもよい。
【0030】
液状成分に含まれる高分子系溶媒の含有量は、例えば0.5質量%以上であればよく、1質量%以上でもよく、20質量%以上が好ましく、90質量%以下であってもよい。
【0031】
液状成分は、溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの低分子グリコール化合物や、グリセリンなどを含んでもよい。低分子グリコール化合物もしくはグリセリンには、導電性高分子の配向性を高め、導電性を向上させ、ESRを低減し得ると考えられる。中でもエチレングリコールは、比較的低粘度であり、熱伝導性が高く、放熱性にも優れている点で好ましい。
【0032】
液状成分に含まれるエチレングリコールの含有量は、例えば3.0質量%以上であればよく、10質量%以上が好ましく、90質量%以下であってもよい。
【0033】
液状成分は、溶媒として、上記高分子系溶媒および低分子グリコール化合物以外に、例えば、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物などを含み得る。スルホン化合物としては、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどを用い得る。ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを用い得る。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などを用い得る。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
液状成分は、より長期的に電解コンデンサのESRを低く維持する観点から、電子供与性基のみを有する芳香族化合物を含んでもよい。このような芳香族化合物としては、例えば、フェノール、ジブチルヒドロキシルトルエン、クレゾール、メトキシフェノール、オイゲノール、グアイアコール、チモール、カテコール、ピロガロールなどを用い得る。中でもフェノール性のヒドロキシル基を2個~4個有する2価~4価のフェノール性化合物が好ましい。具体的には、カテコールおよび/またはピロガロールを用い得る。
【0035】
液状成分に含まれる電子供与性基のみを有する芳香族化合物の含有量は、例えば、0.1~30質量%であればよく、2~25質量%であってもよい。
【0036】
液状成分のpHは6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3.8以下もしくは3.6以下であることが更に好ましい。液状成分のpHを4以下とすることで導電性高分子の劣化が更に顕著に抑制される。
【0037】
導電性高分子は、モノマー、ドーパントおよび酸化剤などを含有する溶液を誘電体層に付与し、その場で化学重合もしくは電解重合させる方法で合成してもよい。また、予め合成された導電性高分子を誘電体層に付与してもよい。この場合、例えば、導電性高分子と高分子ドーパントとを含む液状の高分子分散体を誘電体層に含浸させ、誘電体層の少なくとも一部を覆う導電性高分子の膜を形成すればよい。
【0038】
導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0039】
導電性高分子からの脱ドープを抑制する観点から、高分子ドーパントを用いることが望ましい。高分子ドーパントとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのアニオンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。中でもポリスチレンスルホン酸(PSS)が好ましい。高分子ドーパントの重量平均分子量は、特に限定されないが、均質な固体電解質層を形成しやすい点で、例えば1000~1000000であることが好ましい。
【0040】
以下、本発明を実施形態に基づいて、より具体的に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0041】
図1は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図であり、図2は、同電解コンデンサに係るコンデンサ素子の一部を展開した概略図である。
【0042】
図1に示す電解コンデンサは、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ封止部材12と、封止部材12を覆う座板13と、封止部材12から導出され、座板13を貫通するリード線14A、14Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ15A、15Bと、液状成分(図示せず)とを備える。有底ケース11の開口端は封止部材12にかしめるようにカール加工されている。
【0043】
コンデンサ素子10は、図2に示すような巻回体から作製される。巻回体とは、コンデンサ素子10の半製品であり、表面に誘電体層を有する陽極体21と陰極体22との間に導電性高分子が配置されていないものをいう。巻回体は、リードタブ15Aと接続された陽極体21と、リードタブ15Bと接続された陰極体22とを、セパレータ23を介して巻回したものである。巻回体の最外周は巻止めテープ24により固定される。なお、図2は、巻回体の最外周を固定する前の一部が展開された状態を示している。
【0044】
陽極体21は表面が粗面化された金属箔を具備し、粗面化された表面には誘電体層が形成されている。誘電体層の表面の少なくとも一部に導電性高分子を付着させることにより、コンデンサ素子10が形成される。コンデンサ素子10は、図示しない液状成分とともに外装ケースに収容されている。
【0045】
以下、電解コンデンサの製造方法の一例について説明する。
(i)誘電体層を有する陽極体21および陰極体22を準備する工程
陽極体21および陰極体22の原料には、弁作用金属で形成された金属箔が用いられる。陽極体21の場合、エッチング処理等により、金属箔の表面が粗面化され、金属箔の表面に複数の凹凸が形成される。次に、化成処理等により、粗面化された金属箔の表面に誘電体層が形成される。必要に応じて、陰極体22の表面を粗面化してもよい。
【0046】
(ii)巻回体の作製
陽極体21と陰極体22とをセパレータ23を介して巻回し、巻回体を作製する。セパレータ23には、合成セルロースなどを主成分とする不織布を用い得る。巻回体の最外層に位置する陰極体22の外表面に巻止めテープ24を配置し、陰極体22の端部を固定する。必要に応じて、巻回体に対し、更に化成処理が行われる。
【0047】
(iii)コンデンサ素子10を形成する工程
例えば液状の高分子分散体を誘電体層に含浸させ、誘電体層の少なくとも一部を覆う導電性高分子の膜を形成する。これにより、陽極体21と陰極体22との間に導電性高分子が配置されたコンデンサ素子10が得られる。高分子分散体を誘電体層の表面に付与する工程は2回以上繰り返してもよい。その後、コンデンサ素子10に液状成分を含浸させればよい。これにより、導電性高分子と液状成分とを具備する電解コンデンサが得られる。
【0048】
(iv)コンデンサ素子を封止する工程
リード線14A、14Bが有底ケース11の開口側に位置するようにコンデンサ素子10を液状成分とともに有底ケース11に収納する。次に、各リード線が貫通する封止部材12で有底ケース11の開口を塞ぎ、開口端を封止部材12にかしめてカール加工し、カール部分に座板13を配置すれば、図1に示すような電解コンデンサが完成する。
【0049】
上記の実施形態では、巻回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、陽極体として金属の焼結体を用いるチップ型の電解コンデンサや、金属板を陽極体として用いる積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【0050】
[実施例]
実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0051】
下記実施例では、定格電圧100V、定格静電容量15μFの巻回型の電解コンデンサ(Φ8.0mm×L(長さ)12.0mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0052】
(陽極体の準備)
厚さ100μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔の表面に化成処理により誘電体層を形成した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にアルミニウム箔を浸漬し、これに180Vの電圧を印加することにより行った。その後、アルミニウム箔を裁断して、陽極体を準備した。
【0053】
(陰極体の準備)
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔を陰極体を準備した。
【0054】
(巻回体の作製)
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、陽極体と陰極体とをリードタブを巻き込みながらセパレータを介して巻回した。巻回体から突出する各リードタブの端部には、陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。作製された巻回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体層を形成した。次に、巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定して巻回体を作製した。
【0055】
(高分子分散体の調製)
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、高分子ドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS、重量平均分子量10万)とを、イオン交換水に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながらイオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、約5質量%のPSSがドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体を得た。
【0056】
(固体電解質層の形成)
減圧雰囲気(40kPa)中で、所定容器に収容された高分子分散体に巻回体を5分間浸漬し、その後、高分子分散体から巻回体を引き上げた。次に、高分子分散体を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で20分間乾燥させ、誘電体層の少なくとも一部を被覆する導電性高分子層からなる固体電解質層を形成した。
【0057】
(液状成分の含浸)
酸成分、塩基成分、芳香族添加剤、電子供与性基のみを有する芳香族化合物、および各種溶媒を、表1~4に示す組成で含む液状成分を調製し、減圧雰囲気(40kPa)中で液状成分に巻回体を5分間浸漬した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
(コンデンサ素子の封止)
液状成分を含浸させたコンデンサ素子を封止して、図1に示すような電解コンデンサ(A1~A19およびB1~B6)を完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、130℃で2時間エージング処理を行った。電解コンデンサA1~A19は、それぞれ実施例1~19に対応し、電解コンデンサB1~B6は、比較例1~6に対応する。
【0063】
[評価]
得られた電解コンデンサについて、静電容量および初期ESRを測定した。
【0064】
次に、長期信頼性を評価するために、定格電圧を印加しながら145℃で2000時間保持し、ESRの増加率(ΔESR)を確認した。ΔESRは、初期値(X)に対する145℃保持後のESR(X)の比(X/X)で示した。評価結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、導電性高分子と液状成分とを有する電解コンデンサにおいて有用である。
【符号の説明】
【0067】
10:コンデンサ素子、11:有底ケース、12:封止部材、13:座板、14A,14B:リード線、15A,15B:リードタブ、21:陽極体、22:陰極体、23:セパレータ、24:巻止めテープ
図1
図2