IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧 ▶ サクラ工業株式会社の特許一覧

特開2023-123886排ガス浄化装置、鞍乗型車両および排ガス浄化装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123886
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置、鞍乗型車両および排ガス浄化装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20230830BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20230830BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B01D53/94 222
F01N3/28 301P
B01J35/04 301P
B01J35/04 321A
B01J35/04 301A
B01J35/04 321Z
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125557
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500573761
【氏名又は名称】サクラ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】野村 京介
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】中島 智之
(72)【発明者】
【氏名】茂木 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】布施 隆行
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB03
3G091BA01
3G091GA08
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA18
4D148BA03Y
4D148BA08Y
4D148BA19Y
4D148BA30Y
4D148BA31Y
4D148BA32Y
4D148BA33Y
4D148BA34Y
4D148BA39Y
4D148BA41Y
4D148BA42Y
4D148BB02
4D148BB05
4D148BB13
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA17
4G169CA02
4G169CA03
4G169DA06
4G169EA08
4G169EA21
4G169EA24
4G169EB07
4G169EB12X
4G169EB12Y
4G169EB14X
4G169EB14Y
4G169FA01
4G169FB66
4G169FB69
(57)【要約】
【課題】メタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の浄化性能を好適に向上させる。
【解決手段】排ガス浄化装置(10)は、複数のセル(3)を含む金属製のメタルハニカム構造体(1)を有する。メタルハニカム構造体は、積層されて巻き回された平箔(4)および波箔(5)と、メタルハニカム構造体の中心に位置しメタルハニカム構造体を貫通する中心孔(1a)とを有する。中心孔の面積は、複数のセルの平均面積の170%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを含む金属製のメタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置であって、
前記メタルハニカム構造体は、積層されて巻き回された平箔および波箔と、前記メタルハニカム構造体の中心に位置し前記メタルハニカム構造体を貫通する中心孔とを有し、
前記中心孔の面積は、前記複数のセルの平均面積の170%以下である、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記中心孔の面積は、前記複数のセルの平均面積の120%以下である、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記平箔および前記波箔のそれぞれは、複数の開口部を有する、請求項1または2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記複数のセルのセル密度は300cpsi以上である、請求項1から3のいずれかに記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の排ガス浄化装置を備えた鞍乗型車両。
【請求項6】
複数のセルを含む金属製のメタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の製造方法であって、
平箔および波箔を積層して巻き軸を中心として巻き回すことによって前記メタルハニカム構造体を形成する工程(a)と、
前記工程(a)の後、前記メタルハニカム構造体の中心に位置する中心孔の面積を小さくする工程(b)と、
を包含する排ガス浄化装置の製造方法。
【請求項7】
前記メタルハニカム構造体は、前記中心孔を一対有し、
前記工程(b)は、前記一対の中心孔に一対の棒状部材を挿通した後、前記一対の棒状部材に対して前記メタルハニカム構造体を回転させることによって行われる請求項6に記載の排ガス浄化装置の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、前記中心孔の面積が前記複数のセルの平均面積の170%以下となるように行われる請求項6または7に記載の排ガス浄化装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置、鞍乗型車両および排ガス浄化装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、内燃機関(エンジン)を備えた自動車両が広く普及している。エンジンから排出される排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。そこで、これらの有害成分を浄化して無害化する三元触媒を用いた排ガス浄化装置が用いられている。
【0003】
排ガス浄化装置の中には、金属製触媒担体を備えたものが存在する。金属製触媒担体として、金属製の平箔と波箔とを積層して巻き回すことによって形成されたメタルハニカム構造体が知られている。メタルハニカム構造体の表面上に、三元触媒を含む触媒層が形成される。
【0004】
特許文献1は、浄化性能のさらなる向上を目的として、メタルハニカム構造体の中心孔に、ガスの流通を阻害する挿入物(具体的には金属製プラグ)を配置することを開示している。特許文献1には、このような構成を採用することにより、メタルハニカム構造体のガス出口全体にわたって浄化性能に差異が生じないようにすることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-281118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているようにメタルハニカム構造体の中心孔に挿入物を配置すると、挿入物が有する熱容量に起因して浄化性能が低下するおそれがある。また、挿入物が外れてしまうことや圧力損失が大きくなってしまうことも懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、メタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の浄化性能を好適に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願明細書は、以下の項目に記載の排ガス浄化装置および排ガス浄化装置の製造方法を開示している。
【0009】
[項目1]
複数のセルを含む金属製のメタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置であって、
前記メタルハニカム構造体は、積層されて巻き回された平箔および波箔と、前記メタルハニカム構造体の中心に位置し前記メタルハニカム構造体を貫通する中心孔とを有し、
前記中心孔の面積は、前記複数のセルの平均面積の170%以下である、排ガス浄化装置。
【0010】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置では、メタルハニカム構造体の中心孔の面積が、メタルハニカム構造体の複数のセルの平均面積の170%以下である。つまり、中心孔の面積と、セルの平均面積との差が比較的小さい。そのため、メタルハニカム構造体の中心孔に起因する浄化性能の低下が抑制される。
【0011】
[項目2]
前記中心孔の面積は、前記複数のセルの平均面積の120%以下である、項目1に記載の排ガス浄化装置。
【0012】
中心孔に起因する浄化性能の低下をいっそう抑制する観点からは、中心孔の面積は、複数のセルの平均面積の120%以下であることが好ましい。
【0013】
[項目3]
前記平箔および前記波箔のそれぞれは、複数の開口部を有する、項目1または2に記載の排ガス浄化装置。
【0014】
平箔および波箔のそれぞれが複数の開口部を有していると、排ガスと触媒層中の貴金属との接触機会が増えるので、浄化性能を向上させることができる。
【0015】
[項目4]
前記複数のセルのセル密度は300cpsi以上である、項目1から3のいずれかに記載の排ガス浄化装置。
【0016】
本発明の実施形態は、セル密度が比較的高い場合、具体的には、300cpsi以上である場合に用いる意義が大きい。また、本発明の実施形態は、排ガス浄化装置の外径が小さいほどより効果が高い。
【0017】
[項目5]
項目1から4のいずれかに記載の排ガス浄化装置を備えた鞍乗型車両。
【0018】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置は、各種の鞍乗型車両に好適に用いられる。
【0019】
[項目6]
複数のセルを含む金属製のメタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の製造方法であって、
平箔および波箔を積層して巻き軸を中心として巻き回すことによって前記メタルハニカム構造体を形成する工程(a)と、
前記工程(a)の後、前記メタルハニカム構造体の中心に位置する中心孔の面積を小さくする工程(b)と、
を包含する排ガス浄化装置の製造方法。
【0020】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置の製造方法によれば、メタルハニカム構造体を形成する工程(a)の後に、メタルハニカム構造体の中心孔の面積を小さくする工程(b)が行われるので、中心孔の面積と、複数のセルの平均面積との差を小さくすることができる。そのため、本発明の実施形態による製造方法により製造された排ガス浄化装置では、メタルハニカム構造体の中心孔に起因する浄化性能の低下を抑制できる。
【0021】
[項目7]
前記メタルハニカム構造体は、前記中心孔を一対有し、
前記工程(b)は、前記一対の中心孔に一対の棒状部材を挿通した後、前記一対の棒状部材に対して前記メタルハニカム構造体を回転させることによって行われる項目6に記載の排ガス浄化装置の製造方法。
【0022】
中心孔の面積を小さくする工程(b)は、例えば、一対の中心孔に一対の棒状部材を挿通した後、一対の棒状部材に対してメタルハニカム構造体を回転させることによって簡便に行うことができる。
【0023】
[項目8]
前記工程(b)は、前記中心孔の面積が前記複数のセルの平均面積の170%以下となるように行われる項目6または7に記載の排ガス浄化装置の製造方法。
【0024】
中心孔の面積を小さくする工程(b)が、中心孔の面積が複数のセルの平均面積の170%以下となるように行われると、浄化性能の低下を十分に抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施形態によると、メタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の浄化性能を好適に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態による排ガス浄化装置10を模式的に示す正面図である。
図2A】排ガス浄化装置10を製造する際に用意される平箔4を模式的に示す斜視図である。
図2B】排ガス浄化装置10を製造する際に用意される波箔5を模式的に示す斜視図である。
図2C】排ガス浄化装置10を製造する際に用意される巻き軸11を模式的に示す斜視図である。
図3】平箔4および波箔5を積層して巻き回すことによって、メタルハニカム構造体1を形成する様子を模式的に示す図である。
図4】メタルハニカム構造体1が外筒2に収容された状態を模式的に示す図である。
図5】メタルハニカム構造体1の中心孔1aを小さくする工程の例を示す図である。
図6A】複数の開口部4aを有する平箔4の例を示す平面図である。
図6B】複数の開口部4aを有する平箔4の例を示す平面図である。
図7A】複数の開口部4aを有する平箔4の例を示す平面図である。
図7B】複数の開口部4aを有する平箔4の例を示す平面図である。
図7C】複数の開口部4aを有する平箔4の例を示す平面図である。
図8】実施例1~4および比較例1、2について、NOx排出量、CO排出量およびTHC排出量の計測結果を示すグラフである。
図9A】実施例1、2および比較例1について、圧力損失値の計測結果(体積流量と圧力損失比との関係)を示すグラフである。
図9B】実施例3、4および比較例2について、圧力損失値の計測結果(体積流量と圧力損失比との関係)を示すグラフである。
図10】実施例1~4および比較例1について、加熱冷却加振試験の結果(試験サイクル比)を示すグラフである。
図11】排ガス浄化装置10を備えた自動二輪車100の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1を参照しながら、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10を説明する。排ガス浄化装置10は、図1に示すように、メタルハニカム構造体1と、外筒2とを有する。
【0029】
メタルハニカム構造体1は、金属製(例えばステンレス鋼製)である。メタルハニカム構造体1は、複数のセル3を含む。複数のセル3の平均面積は、例えば1.0mm~2.5mmである。
【0030】
外筒2は、メタルハニカム構造体1を収容する。外筒2は、円筒状である。外筒2は、金属製(例えばステンレス鋼製)である。
【0031】
メタルハニカム構造体1は、積層されて巻き回された平箔4および波箔5と、メタルハニカム構造体1の中心に位置する一対の中心孔1aとを有する。一対の中心孔1aは、互いに隣接しており、それぞれメタルハニカム構造体1を貫通している。ここでは図示していないが、メタルハニカム構造体1の表面(つまり平箔4および波箔5の表面)には、三元触媒を含む触媒層が設けられている。
【0032】
本実施形態では、一対の中心孔1aは、その面積が複数のセル3の平均面積に対して所定の範囲内となるように形成されている。具体的には、一対の中心孔1aのそれぞれの面積は、複数のセル3の平均面積の170%以下である。なお、ここでいう中心孔1aの「面積」は、中心孔1aをその中心軸方向から見たときの面積である。同様に、セル3の平均面積も、セル3を中心孔1aの中心軸方向から見たときの面積の算術平均値である。
【0033】
従来の排ガス浄化装置では、メタルハニカム構造体の中心孔の面積は、セルの平均面積に比べてかなり大きかった。例えばセル密度が300cpsi以上の場合、一般的には、中心孔の面積は、セルの平均面積の450%以上である。つまり、中心孔の面積とセルの平均面積との差異が比較的大きい。そのため、中心孔を通るガスが、セルを通るガスに比べて浄化率が低い状態で排出されてしまうおそれがある。このように、従来の排ガス浄化装置では、中心孔がセルに比べて大きいことに起因した浄化性能の低下が生じていた。
【0034】
これに対し、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10では、メタルハニカム構造体1の中心孔1aの面積が、メタルハニカム構造体1の複数のセル3の平均面積の170%以下である。つまり、中心孔1aの面積と、セル3の平均面積との差が比較的小さい。そのため、メタルハニカム構造体1の中心孔1aに起因する浄化性能の低下が抑制される。
【0035】
中心孔1aに起因する浄化性能の低下をいっそう抑制する観点からは、中心孔1aの面積は、複数のセル3の平均面積の120%以下であることが好ましい。
【0036】
平箔4および波箔5のそれぞれは、複数の開口部を有していてもよい。平箔4および波箔5のそれぞれが複数の開口部を有していると、メタルハニカム構造体1の表面積が増加するので、浄化性能をいっそう向上させることができる。
【0037】
従来の製造方法により製造された排ガス浄化装置では、セル密度が高くなるほど、中心孔の面積とセルの平均面積との差が大きくなる。つまり、セル密度が高くなるほど、中心孔に起因した浄化性能の低下が顕著に生じるといえる。そのため、本発明の実施形態は、セル密度が比較的高い場合に用いる意義が大きく、具体的には、300cpsi以上である場合に用いる意義が大きい。また、本発明の実施形態は、排ガス浄化装置10の外径が小さいほどより効果が高い。
【0038】
上述したように、本発明の実施形態によると、メタルハニカム構造体1を有する排ガス浄化装置10の浄化性能を好適に向上させることができる。本発明の実施形態による排ガス浄化装置10は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0039】
まず、図2Aに示すような平箔4および図2Bに示すような波箔5を用意する。平箔4および波箔5は、それぞれ金属材料(例えばステンレス鋼)から形成されている。波箔5は、金属製の箔に例えばコルゲート加工を施すことによって得ることができる。平箔4および波箔5の厚さは、例えば30μm以上50μm以下である。
【0040】
また、平箔4および波箔5を用意するのとは別途に、図2Cに示すような巻き軸11を用意する。巻き軸11は、金属材料から形成されており、略円柱状である。メタルハニカム構造体1の形成の際に必要な剛性を確保する観点からは、巻き軸11の直径は、例えば5mm以上である。巻き軸11は、第1部材11aおよび第2部材11bから構成される。第1部材11aおよび第2部材11bは、それぞれ半円柱状である。
【0041】
次に、図3に示すように、平箔4および波箔5を積層し、巻き軸11を中心として巻き回すことによって、メタルハニカム構造体1を形成する。この工程において、巻き軸11の第1部材11aと第2部材11bとの間に平箔4および波箔5の一部が挟み込まれた状態で、巻き軸11を回転させる。そのため、メタルハニカム構造体1の中心には、巻き軸11の第1部材11aおよび第2部材11bに対応した一対の中心孔1aが形成される。また、この工程において、平箔4と波箔5とは、例えばろう付けによって接合される。
【0042】
続いて、図4に示すように、メタルハニカム構造体1を外筒2に収容する。このとき、メタルハニカム構造体1は、例えばろう付けによって外筒2に接合される。
【0043】
続いて、メタルハニカム構造体1の中心に位置する中心孔1aの面積を小さくする。具体的には、図5に示すように、一対の中心孔1aに、一対の棒状部材12を挿通する。一対の棒状部材12のそれぞれは、巻き軸11の第1の部材11aおよび第2の部材11bよりも細く、例えば直径約1mmのピンである。また、このとき、一対の中心孔1aを隔てる箔が一対の棒状部材12に挟み込まれる。その後、一対の棒状部材12に対してメタルハニカム構造体1を回転させる。これにより、メタルハニカム構造体1の中心孔1a近傍を巻き締めることができるので、中心孔1aの面積を小さくすることができる。
【0044】
その後、メタルハニカム構造体1の表面に触媒層を形成する。触媒層の形成には、例えば、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Au、AgおよびOsからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属と、耐熱性アルミナ、セリア-ジルコニア複合酸化物、バインダー、粘度調整剤および水からなるスラリーが用いられる。このようなスラリーが、メタルハニカム構造体1の表面上に直接塗布され、その後乾燥および焼成される。次いで、この焼成物上に上述したスラリーと同じまたは組成比率の異なるスラリーが塗布され、その後乾燥および焼成されることにより、少なくとも1層の触媒層が形成される。
【0045】
上述した製造方法によれば、メタルハニカム構造体1を形成する工程の後に、メタルハニカム構造体1の中心孔1aの面積を小さくする工程が行われるので、中心孔1aの面積と、複数のセル3の平均面積との差を小さくすることができる。そのため、上述した製造方法により製造された排ガス浄化装置10では、メタルハニカム構造体1の中心孔1aに起因する浄化性能の低下を抑制できる。
【0046】
中心孔1aの面積を小さくする工程は、例示したように、一対の中心孔1aに一対の棒状部材12を挿通した後、一対の棒状部材12に対してメタルハニカム構造体1を回転させることによって簡便に行うことができる。
【0047】
浄化性能の低下を十分に抑制する観点からは、中心孔1aの面積を小さくする工程は、中心孔1aの面積が複数のセル3の平均面積の170%以下となるように行われることが好ましく、120%以下となるように行われることがより好ましい。なお、中心孔1aの面積は、セル3の平均面積よりも小さくてもよい。ただし、中心孔1aの面積を小さくしすぎると、排ガスが通過しにくくなるおそれがある。そのため、中心孔1aの面積はセル3の平均面積の90%以上であることが好ましいといえる。
【0048】
用意される平箔4は、図6A図6B図7A図7Bおよび図7Cに示すように、複数の開口部4aを有していてもよい。開口部4aは、例えば略円形であるが、これに限定されない。平箔4が複数の開口部4aを有していると、排ガスと貴金属との接触機会が増えるので、浄化性能を向上させることができる。図6A図6B図7Aおよび図7Bには、平箔4の一部のみに開口部4aが形成されている構成を例示している。図7Cには、平箔4のほぼ全面に開口部4aが形成された構成を例示している。開口部の直径は、例えば約0.9mmである。開口率(箔において開口部が占める面積の割合)は、例えば18%~36%である。図6A図6B図7A図7Bおよび図7Cに例示した構成では、開口率はそれぞれ18%、22%、27%、31%および36%である。
【0049】
同様に、用意される波箔5は、複数の開口部を有していてもよい。開口部は、例えば略円形であるが、これに限定されない。波箔5が複数の開口部を有していると、排ガスと貴金属との接触機会が増えるので、浄化性能を向上させることができる。また、平箔4と同様、波箔5のほぼ全面に開口部が形成されていてもよいし、波箔5の一部のみに開口部が形成されていてもよい。
【0050】
ここで、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10を試作し、その効果を検証した結果を説明する。効果の検証は、実施例1~4および比較例1、2の排ガス浄化装置について、NOx(窒素酸化物)排出量、CO(一酸化炭素)排出量およびTHC(全炭化水素)排出量を計測することにより行った。実施例1~4および比較例1、2における中心孔の面積は、下記表1に示す通りである。表1には、平箔および波箔における開口部の有無を併せて示している。また、表1には直接示していないが、実施例1~4および比較例1、2のいずれについても、セルの平均面積は1.2mmである。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、比較例1および2では、中心孔の面積は、7.2mmであり、セルの平均面積の600%である。これに対し、実施例1および3では、中心孔の面積は、1.2mmであり、セルの平均面積の100%である。また、実施例2および4では、中心孔の面積は、1.8mmであり、セルの平均面積の150%である。また、表1に示すように、比較例1、実施例1および2では、平箔および波箔は開口部を有していない。これに対し、比較例2、実施例3および4では、平箔および波箔は開口部を有しており、開口率(箔において開口部が占める面積の割合)は21%である。
【0053】
図8に、実施例1~4および比較例1、2について、NOx排出量、CO排出量およびTHC排出量の計測結果を示す。図8では、比較例1のNOx排出量、CO排出量およびTHC排出量をそれぞれ1とした相対値を示している。図8に示すように、実施例1、2は、比較例1よりもNOx排出量、CO排出量およびTHC排出量が少なくなっている。また、実施例3、4は、比較例2よりもNOx排出量、CO排出量およびTHC排出量が少なくなっている。これらのことから、中心孔の面積を小さくする(つまり中心孔の面積とセルの平均面積との差を小さくする)ことにより、浄化性能が向上することが確認された。
【0054】
また、実施例1は実施例2よりも浄化性能に優れ、実施例3は実施例4よりも浄化性能に優れていた。これらのことから、中心孔の面積が小さくなるほど(つまり中心孔の面積とセルの平均面積との差が小さくなるほど)浄化性能がより向上することが確認された。
【0055】
さらに、実施例1と実施例3との比較、および、実施例2と実施例4との比較からは、中心孔の面積が同じである場合には、平箔および波箔が開口部を有している構成の方が、有していない構成よりも浄化性能が高いことがわかる。
【0056】
上述した検証結果からも確認されたように、中心孔1aの面積がセルの平均面積の170%以下であることにより、中心孔に起因する浄化性能の低下が抑制される。また、浄化性能の向上の観点からは、中心孔1aの面積がセルの平均面積の120%以下であることが好ましい。さらに、平箔4および波箔5がそれぞれ複数の開口部を有することにより、浄化性能がいっそう向上する。なお、平箔4および波箔5に複数の開口部を形成することは製造コストの上昇を伴うので、平箔4および波箔5が開口部を有しない構成は、製造コストの点では優位であるといえる。
【0057】
続いて、中心孔を小さくすることによる、浄化性能以外の性能への影響について検証した結果を説明する。まず、圧力損失への影響を検証した結果を説明する。圧力損失が大きくなると排ガスの抜けが悪くなるので、出力性能の低下につながる。図9Aに、実施例1、2および比較例1について、圧力損失値を計測した結果を示し、図9Bに、実施例3、4および比較例2について、圧力損失値を計測した結果を示す。図9AおよびBでは、体積流量が0.5m/minのときの圧力損失値を1とした相対値(圧力損失比)を示している。
【0058】
図9Aに示すように、比較例1と実施例1、2とで圧力損失比にほとんど差はなかった。また、図9Bに示すように、比較例2と実施例3、4とでも圧力損失比にほとんど差はなかった。これらのことから、中心孔を小さくすることによる圧力損失はほとんどないことが確認された。
【0059】
次に、強度への影響を検証した結果を説明する。強度への影響の検証として、加熱冷却加振試験を行った。この試験は、振動を加えながらの加熱・冷却を1サイクルとした触媒担体の評価試験である。図10に、実施例1~4および比較例1について、加熱冷却加振試験の結果を示す。図10では、比較例1の試験サイクル数を100%とした相対値(試験サイクル比)を示している。
【0060】
図10に示すように、実施例1~4では、比較例1に比べて試験サイクル比が低下していない。このことから、中心孔を小さくしても、そのことによる強度の実質的な低下がないことが確認された。
【0061】
上述したように、本発明の実施形態によると、メタルハニカム構造体1を有する排ガス浄化装置10の浄化性能を好適に向上させることができる。本発明の実施形態による排ガス浄化装置10は、各種の鞍乗型車両に好適に用いられる。図11に、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10を備えた自動二輪車100の例を示す。
【0062】
図11に示す自動二輪車100は、エンジン(内燃機関)21と、排気管22と、消音器23とを備える。排気管22は、エンジン21の排気ポートに接続されている。消音器23は、排気管22に接続されている。排気管22や消音器23内に、排ガス浄化装置10(図11では不図示)が配置されている。排気管22内には、二次空気を導入するための二次空気導入装置(不図示)も配置されている。
【0063】
なお、ここでは自動二輪車100を例示したが、排ガス浄化装置10を備える鞍乗型車両は、自動二輪車100に限定されない。鞍乗型車両は、例えば、ATV(All Terrain Vehicle)、スノーモービル、自動三輪車などであってもよい。また、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10は、鞍乗型車両以外にも好適に用いることができ、例えば、発電機や農機具などにも好適に用いることができる。
【0064】
上述したように、本発明の実施形態による排ガス浄化装置10は、複数のセル3を含む金属製のメタルハニカム構造体1を有する排ガス浄化装置10であって、前記メタルハニカム構造体1は、積層されて巻き回された平箔4および波箔5と、前記メタルハニカム構造体1の中心に位置し前記メタルハニカム構造体1を貫通する中心孔1aとを有し、前記中心孔1aの面積は、前記複数のセル3の平均面積の170%以下である。
【0065】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置10では、メタルハニカム構造体1の中心孔1aの面積が、メタルハニカム構造体1の複数のセル3の平均面積の170%以下である。つまり、中心孔1aの面積と、セル3の平均面積との差が比較的小さい。そのため、メタルハニカム構造体1の中心孔1aに起因する浄化性能の低下が抑制される。
【0066】
ある実施形態において、前記中心孔1aの面積は、前記複数のセル3の平均面積の120%以下である。
【0067】
中心孔1aに起因する浄化性能の低下をいっそう抑制する観点からは、中心孔1aの面積は、複数のセル3の平均面積の120%以下であることが好ましい。
【0068】
ある実施形態において、前記平箔4および前記波箔5のそれぞれは、複数の開口部4aを有する。
【0069】
平箔4および波箔5のそれぞれが複数の開口部4aを有していると、排ガスと触媒層中の貴金属との接触機会が増えるので、浄化性能を向上させることができる。
【0070】
ある実施形態において、前記複数のセル3のセル密度は300cpsi以上である。
【0071】
本発明の実施形態は、セル密度が比較的高い場合、具体的には、300cpsi以上である場合に用いる意義が大きい。また、本発明の実施形態は、排ガス浄化装置10の外径が小さいほどより効果が高い。
【0072】
本発明の実施形態による鞍乗型車両は、上述したいずれかの構成を有する排ガス浄化装置10を備える。
【0073】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置10は、各種の鞍乗型車両に好適に用いられる。
【0074】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置10の製造方法は、複数のセル3を含む金属製のメタルハニカム構造体1を有する排ガス浄化装置10の製造方法であって、平箔4および波箔5を積層して巻き軸11を中心として巻き回すことによって前記メタルハニカム構造体1を形成する工程(a)と、前記工程(a)の後、前記メタルハニカム構造体1の中心に位置する中心孔1aの面積を小さくする工程(b)と、を包含する。
【0075】
本発明の実施形態による排ガス浄化装置10の製造方法によれば、メタルハニカム構造体1を形成する工程(a)の後に、メタルハニカム構造体1の中心孔1aの面積を小さくする工程(b)が行われるので、中心孔1aの面積と、複数のセル3の平均面積との差を小さくすることができる。そのため、本発明の実施形態による製造方法により製造された排ガス浄化装置10では、メタルハニカム構造体1の中心孔1aに起因する浄化性能の低下を抑制できる。
【0076】
ある実施形態において、前記メタルハニカム構造体1は、前記中心孔1aを一対有し、前記工程(b)は、前記一対の中心孔1aに一対の棒状部材12を挿通した後、前記一対の棒状部材12に対して前記メタルハニカム構造体1を回転させることによって行われる。
【0077】
中心孔1aの面積を小さくする工程(b)は、例えば、一対の中心孔1aに一対の棒状部材12を挿通した後、一対の棒状部材12aに対してメタルハニカム構造体1を回転させることによって簡便に行うことができる。
【0078】
ある実施形態において、前記工程(b)は、前記中心孔1aの面積が前記複数のセル3の平均面積の170%以下となるように行われる。
【0079】
中心孔1aの面積を小さくする工程(b)が、中心孔1aの面積が複数のセル3の平均面積の170%以下となるように行われると、浄化性能の低下を十分に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の実施形態によると、メタルハニカム構造体を有する排ガス浄化装置の浄化性能を好適に向上させることができる。本発明の実施形態による排ガス浄化装置は、各種の鞍乗型車両、発電機、農機具などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0081】
1 メタルハニカム構造体
1a 中心孔
2 外筒
3 セル
4 平箔
4a 開口部
5 波箔
10 排ガス浄化装置
11 巻き軸
12 棒状部材
100 自動二輪車
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図10
図11