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特開2023-123914微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123914
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230830BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027387
(22)【出願日】2022-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業、地球規模課題対応国際科学技術プログラム(SATREPS)、「微細藻類の大量培養技術の確立による持続可能な熱帯水産資源生産システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀治
(72)【発明者】
【氏名】戸松 千秋
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA11
4B029BB04
4B029CC01
4B029DB19
4B029DF04
4B029GB03
4B029GB04
4B029GB07
4B029GB08
4B065AA83X
4B065BC05
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】この発明は、価値の高い微細藻類の大量生産を、環境保全と両立させながら培養することが可能な微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法を提供することを目的とする。
【解決手段】培養槽2と支持体3と動力源4とを備え、培養槽2は、水面60下で水面60の面方向に広さを有する培養部21と、培養部21と、気体収容部22とを備え、動力源4により、気体収容部22から遠い方の培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように揺動させ、第1状態から第2状態への移行で、気体収容部22内の気体が培養部21内へと移動し、第2状態から第1状態への移行で、培養部21内の気体が気体収容部22内に移動する微細藻類培養装置1とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養対象の微細藻類と培養液と培養に使用する気体とを収容する培養槽と、
前記培養槽の少なくとも一部が水面下に位置する状態で前記培養槽を揺動可能に支持する支持体と、
前記培養槽を揺動する動力源とを備え、
前記培養槽は、
水面下の前記一部を有し前記水面の面方向に広さを有して前記微細藻類と前記培養液を収容する培養部と、
前記培養部と連通して前記気体を収容する気体収容部とを備え、
前記動力源により、
前記気体収容部から遠い方の前記培養部の先端部が前記揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、前記培養部の前記先端部が前記揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように前記培養槽を揺動させ、
前記第1状態から前記第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記培養部内へと移動し、
前記第2状態から前記第1状態に移行する過程で、前記培養部内へ移動した気体が前記気体収容部内に移動することにより、
培養液の攪拌を行う微細藻類培養装置。
【請求項2】
気体収容部は、装置外部から気体を取り入れる外気取り入れ孔と、装置外部に気体を排出する気体排出孔を備える、請求項1記載の微細藻類培養装置。
【請求項3】
培養部と、気体収容部とを連通させる気体移動路を備え、
第1状態から第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記気体移動路を通って前記培養部内へと移動する
請求項1または2記載の微細藻類培養装置。
【請求項4】
気体移動路は、
いずれの状態においても気体収容部と水面上に位置する高さで接続されている
請求項3記載の微細藻類培養装置。
【請求項5】
動力源は、
培養槽の、第1状態と第2状態との間の揺動を制御するとともに、前記第1状態と第2状態との間に、培養槽を静止して培養部が略水平な状態に保たれる静止状態を構成する
請求項1~4のいずれか一項に記載の微細藻類培養装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の微細藻類培養装置と、
動力源を制御する制御手段と、
前記動力源に電力を供給する電力供給手段とを備えた、
微細藻類培養システム。
【請求項7】
複数の微細藻類培養装置を連結した、請求項6に記載の微細藻類培養システム。
【請求項8】
培養対象の微細藻類と培養液と培養に使用する気体とを収容する培養槽と、
前記培養槽の少なくとも一部が水面下に位置する状態で前記培養槽を揺動可能に支持する支持体と、
前記培養槽を揺動する動力源とを備え、
前記培養槽は、
水面下の前記一部を有し前記水面の面方向に広さを有して前記微細藻類と前記培養液を収容する培養部と、
前記培養部と連通して前記気体を収容する気体収容部とを備える微細藻類培養装置を用いた微細藻類培養方法であって、
前記動力源により、
前記気体収容部から遠い方の前記培養部の先端部が前記揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、前記培養部の前記先端部が前記揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように前記培養槽を揺動させ、
前記第1状態から前記第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記培養部内へと移動し、
前記第2状態から前記第1状態に移行する過程で、前記培養部内へ移動した気体が前記気体収容部内に移動することにより、
培養液の攪拌を行う微細藻類培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微細藻類の培養装置、培養システム、および培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細藻類の培養は、培養槽に、微細藻類と培養液と、二酸化炭素を含む気体とを収容して行われる。微細藻類の汚染を防ぐため、培養は閉鎖系で行うことが好ましい。その場合、時間経過にともなって微細藻類の光合成によって培養槽内に溶存酸素が蓄積し微細藻類の成長を阻害し、溶存二酸化炭素濃度が低くなるため培養効率が低下する。したがって、微細藻類を効率よく継続的に培養するためには、何らかの手段により溶存酸素を除去して溶存二酸化炭素を供給する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、横型の閉鎖式の生育容器を用いて、液体培地の撹拌及び酸素の除去を行うことができる微細藻類の培養方法が提案されている。
【0004】
また近年、養殖産業の急激な成長により、多量の汚泥や汚水が自然界に排出され生態系を破壊しているという問題が指摘されている。そのため、養殖由来の汚泥や汚水から栄養類を積極的に回収し、価値の高い微細藻類を大量生産することで、経済的インセンティブの獲得と環境保全を両立させる循環型システムの構築が熱望されている。養殖場のほとんどは熱帯の発展途上国に位置するため、微細藻類の大量生産を考える場合、培養に適した温度・光環境等を実現するための設備が必要となるが、当該途上国には設備投資の余力がないのが現実である。そこで、熱帯域においても、設備投資を抑えて、微細藻類の大量培養が可能な培養装置や方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6741284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、価値の高い微細藻類の大量生産を、環境保全と両立させながら培養することが可能な微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法を提供することを目的とする。より具体的には、この発明は、水面に浮遊する培養槽を揺動することにより、培養槽内の培養液を攪拌して、培養液に気体(二酸化炭素)を断続的に送り込みながら微細藻類の培養が可能な微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、培養対象の微細藻類と培養液と培養に使用する気体とを収容する培養槽と、前記培養槽の少なくとも一部が水面下に位置する状態で前記培養槽を揺動可能に支持する支持体と、前記培養槽を揺動する動力源とを備え、前記培養槽は、水面下の前記一部を有し前記水面の面方向に広さを有して前記微細藻類と前記培養液を収容する培養部と、前記培養部と連通して前記気体を収容する気体収容部とを備え、前記動力源により、前記気体収容部から遠い方の前記培養部の先端部が前記揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、前記培養部の前記先端部が前記揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように前記培養槽を揺動させ、前記第1状態から前記第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記培養部内へと移動し、前記第2状態から前記第1状態に移行する過程で、前記培養部内へ移動した気体が前記気体収容部内に移動することにより、培養液の攪拌を行う微細藻類培養装置である。尚、培養槽は、所定の時間間隔で揺動させてもよい。
この構成により、培養槽の揺動によって、培養に使用する気体(二酸化炭素)が気体収容部内から培養部内へ移動する。これにより、微細藻類培養装置は、揺動によって培養液および微細藻類を撹拌することに加えて、培養液中に気体を移動させることによって培養液に気体(二酸化炭素)を断続的に送り込みながら微細藻類の培養を行うことができ、微細藻類の成長を促進することができる。
【0008】
この発明の態様として、気体収容部は、装置外部から気体を取り入れる外気取り入れ孔と、装置外部に気体を排出する気体排出孔を備えることができる。
これにより、微細藻類の光合成により二酸化炭素が消費され、酸素を多く含んだ気体が排出され、二酸化炭素を多く含んだ外気を取り入れることができる。
【0009】
また、この発明の態様として、培養部と、気体収容部とを連通させる気体移動路を備え、第1状態から第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記気体移動路を通って前記培養部内へと移動する構成とすることができる。
この構成により、気体を気体収容部から培養部に効率的に移動させることができる。
【0010】
また、この発明において、気体移動路は、いずれの状態においても気体収容部と水面上に位置する高さで接続されている構成とすることができる。
この構成により、気体を気体収容部から培養部に効率的に移動させることができる。
【0011】
また、この発明において、動力源は、培養槽の、第1状態と第2状態との間の揺動を制御するとともに、前記第1状態と第2状態との間に、培養槽を静止して培養部が略水平な状態に保たれる静止状態を構成することができる。
この構成により、微細藻類の培養を促す静止状態と、微細藻類および培養液を撹拌して微細藻類に二酸化炭素を供給する揺動状態とを適切に切り替え、微細藻類を死滅させることなく効率よく培養することができる。
【0012】
また、この発明は、微細藻類培養装置と、動力源を制御する制御手段と、前記動力源に電力を供給する電力供給手段とを備えた、微細藻類培養システムに関する。
この構成により、気体が上端部および先端部間を、培養槽の揺動によって気体移動路を通って移動し、揺動によって培養液および微細藻類が確実に撹拌され、培養液および微細藻類に気体(二酸化炭素)を供給することが可能な微細藻類培養システムとすることができる。
【0013】
また、この発明において、複数の微細藻類培養装置を連結した、微細藻類培養システムとすることができる。
この構成により、海上といった広い面積を利用しながら、海中または海底に存在する多量の汚泥や汚水から栄養類を積極的に回収し、価値の高い微細藻類を大量生産することができる。
【0014】
また、この発明は、培養対象の微細藻類と培養液と培養に使用する気体とを収容する培養槽と、前記培養槽の少なくとも一部が水面下に位置する状態で前記培養槽を揺動可能に支持する支持体と、前記培養槽を揺動する動力源とを備え、前記培養槽は、水面下の前記一部を有し前記水面の面方向に広さを有して前記微細藻類と前記培養液を収容する培養部と、前記培養部と、気体移動路を介して上方位置の一部で連通して前記気体を収容する気体収容部とを備える微細藻類培養装置を用いた微細藻類培養方法であって、前記動力源により、前記気体収容部から遠い方の前記培養部の先端部が前記揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、前記培養部の前記先端部が前記揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように前記培養槽を揺動させ、前記第1状態から前記第2状態へ移行する過程で、前記気体収容部内の気体が前記気体移動路を通って前記培養部内へと移動し、前記第2状態から前記第1状態に移行する過程で、前記培養部内へ移動した気体が前記気体収容部内に移動することにより、培養液の攪拌を行う微細藻類培養方法に関する。
培養槽の揺動によって、培養に使用する気体(二酸化炭素)が気体移動路を通って気体収容部から培養部へ移動する。これにより、微細藻類培養装置は、揺動によって培養液および微細藻類を撹拌することに加えて、培養液中に気体を移動させることによって培養液に気体(二酸化炭素)を断続的に送り込みながら微細藻類の培養を行うことができ、微細藻類の成長を促進することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明により、価値の高い微細藻類の大量生産を、環境保全と両立させながら培養することが可能な微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】微細藻類培養システムの構成図。
図2】微細藻類培養装置の構成図。
図3】微細藻類培養装置の斜視図。
図4】培養槽の斜視図。
図5】培養槽の縦断面図。
図6a】静止状態の培養槽および培養液を示す縦断面図。
図6b】揺動中の培養槽および培養液を示す縦断面図。
図6c】揺動による一方への角度変化が最大となった状態(第2状態)の培養槽および培養液の縦断面図。
図6d】揺動による他方への角度変化が最大となった状態(第1状態)の培養槽および培養液の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、複数の微細藻類培養ユニット1を有する微細藻類培養システム10の構成を示す平面図であり、図2は、単体の微細藻類培養ユニット1および動力源4の構成を示す平面図である。
【0018】
図1に示すように、微細藻類培養システム10は、複数の微細藻類培養ユニット1と、動力源4と、各微細藻類培養ユニット1と動力源4とを接続するワイヤー5と、動力源4に電力を供給する電力供給装置12と、動力源4と電力供給装置12を制御する制御装置11(制御手段)と、各微細藻類培養ユニット1を水面付近に配置した水槽6と、各微細藻類培養ユニット1を囲うように配置されて各フレーム3の回転軸35(後述)を支持する支持外装13を備えている。なお、図2に示すように、1つの微細藻類培養ユニット1と、動力源4と、各微細藻類培養ユニット1と動力源4とを接続するワイヤー5により、1つの微細藻類培養装置100が構成される。
【0019】
電力供給装置12(図1参照)は、動力源4(本実施例におけるモータ41)に電力を供給する電力供給手段として機能する。電力供給装置12としては、例えば、ソーラーパネルを有する太陽光発電装置とすることができる。また、電力供給装置12を備えず、発電所等から供給される工業用電源または一般電源を用いて動力源4に電力を提供してもよい。
【0020】
制御装置11は、例えば、CPUとROMとRAM等で構成されて各種演算や制御動作を実行する制御部と、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成されて情報のリードライトを許容する記憶部と、LANボードやWiFiユニット等で構成されて有線または無線でインターネットに接続されてデータの送受信を行う通信部と、タッチパネル、キーボード、マウス、押下ボタン、又はこれらの複数で構成されて接触操作による入力を受け付ける入力部と、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等で構成されて文字や図等の画像を表示する表示部とを備えたコンピュータ端末である。制御装置11と、電力供給装置12および動力源4とは、有線または無線により接続される。電力供給装置12および動力源4は、制御装置11によって電力の出力や、モータ41の回転速度が制御される。すなわち、制御装置11は、動力源4および電力供給装置12を制御する制御手段として機能する。また、制御装置11は、「1時間に1回、5分間にわたってモータ41を駆動する」といったような、一定の時間間隔での周期的な動力源4の駆動(微細藻類培養ユニット1の揺動)の設定を外部から受け付け、電力供給装置12および動力源4を制御する。なお、制御装置11は、マイコンやタブレット端末等の他の制御装置によって構成してもよい。
【0021】
支持外装13(図1参照)は、各培養槽2および各フレーム3を囲うように配置され、各フレーム3の回転軸35(図2参照)を支持する(培養槽2およびフレーム3については後述する)。本実施例の支持外装13は、複数の骨組み連結部131と、骨組み連結部131間を接続する支持外装骨組み132によって形成されている。骨組み連結部131は、浮力体(フロート)であって、少なくとも2つ以上が設けられ、1つ以上が水槽6に固定されて、各培養槽2、各フレーム3、動力源4、および支持外装13の移動が制限されている。なお、骨組み連結部131は、例えば、柱のように水槽6の底面に固定されている柱であってもよい。また、水槽6に固定する方法は、例えば、アンカーによる固定としてもよい。支持外装骨組み132は、複数の骨組み連結部131の内、隣接する各骨組み連結部131を直線的に接続する長手形状であり、その中間付近で回転軸35(図2参照)が接続されている。本実施例では、骨組み連結部131を3列×5行の計15個設け、その内、中央の列の最も制御装置11に近い位置に動力源4を設けた。そして、8つの培養槽2およびフレーム3は、骨組み連結部131および支持外装骨組み132で囲まれた位置に1つずつ配置した。また、支持外装13は、各フレーム3と動力源4を接続するワイヤー5をローラー5aにより引く方向と緩める方向(繰り出し/収納方向)へ移動可能に支持している。
【0022】
図2に示すように、動力源4は、培養槽2を揺動するための動力を提供する。本実施例では、動力源4は、モータ41と、モータ41の駆動によって回転するウインチ42で構成される。ウインチ42には、それぞれワイヤー5の一端が接続される。なお、ウインチ42の回転方向は、幅方向を軸とした水平方向である。
【0023】
ワイヤー5は、一端が動力源4に接続され、他端がフレーム3に接続され、両端部がそれぞれの延長方向に引っ張られた状態である。また、ワイヤー5は、培養槽2の揺動によって破断することがない程度の強度を有し、かつ、伸縮しない素材を用いる。このような強度を確保するため、ワイヤー5は、例えば、金属や繊維によって形成することができる。本実施例では、ワイヤー5は、一端がウインチ42に接続され、他端が水平方向の一直線上に配置された各微細藻類培養ユニット1のフレーム3の動力源接続骨組み34に括り付けられて接続されている。したがって、モータ41が正逆回転して駆動するとウインチ42およびワイヤー5の接続点が水平方向回りに正逆回転し、ワイヤー5が往復運動(引く運動と緩める運動)をするため、ワイヤー5と接続されているすべての微細藻類培養ユニット1が回転軸35を軸に揺動する。
【0024】
水槽6(図2参照)は、上面が開放された箱型形状を有し、内部に十分な深さの水を収容している。各培養槽2(培養部21)および各フレーム3(下面骨組み31)は、水槽6の水面60付近に、培養部21が水面60と略平行となり、培養部21の全体または一部が水中に浸かるように配置される。すなわち、培養槽2およびフレーム3は、波などによる水面60の高さの変化がない限り、培養槽2の培養部21の少なくとも一部が常に水面60下(水中)にあるように配置されている。特に、培養部21が略水平状態となっている静止状態(揺動させていない通常状態)では、培養部21の底面全体が水面60下となる(水に接触する)ように配置されている。これにより、水槽6内の水の温度による温度安定効果が得られ、培養部21内の培養液24(培地)が直射日光や外気温等によって温度変化することを抑制することができる。
【0025】
また、培養槽2の揺動中は、気体収容部接続バルブ231が常に水面60より上(水上)で、かつ、培養液24の上面より上にあるように、言い換えると、気体移動路230と気体収容部22の内部空間との接続部が常に水面60より上(水上)、かつ、培養液24の上面より上にあるように配置されている。これにより、気体移動路230により気体収容部22から培養部21へ気体を効率的に移動させることができ、培養液24が気体収容部22から培養部21へ気体移動路230を通じて流入して気体を移動できないといったことを防止できる。また、水槽6およびその内部にある水または海水は、フレーム3が回転軸35を軸として十分に回動可能な程度の深さを有しており、好ましくは日光や外気温による水の温度変化をできるだけ少なくするために十分な水量を有している。
【0026】
なお、水槽6を設けず、各培養槽2および各フレーム3が、湖、池、または海の水面60付近に配置されてもよい。また、図2に示すように、水槽6の内側面に、フレーム3の回転軸35の軸方向の両端部が接続されていてもよい。
【0027】
図3は、微細藻類培養ユニット1に備えられた培養槽2、フレーム3、およびワイヤー5の斜視図であり、図4は、微細藻類培養ユニット1に備えられた培養槽2の斜視図であり、図5は、培養槽2を外気取り入れ孔222と気体排出孔223と培養液供給取り出し口224の位置で縦断して示す縦断面図である。
なお、本明細書においては、図3における上下方向(図2における手前/奥行き方向)を微細藻類培養ユニット1および微細藻類培養システム10の上下方向とし、図2における左右方向を微細藻類培養ユニット1の長手方向とし、長手方向と同一または平行な平面上で、かつ長手方向と直角である方向(図2の上下方向)を微細藻類培養ユニット1の幅方向とする。
【0028】
図3に示すように、培養槽2は、培養対象である微細藻類および培養液24を収容し、フレーム3(支持体)によって支持されている。
【0029】
培養槽2は、水平方向に広がる培養部21と、培養部21の水平方向の端部上面に接続されて上方に配置されている気体収容部22と、培養部21の内部空間21dと気体収容部22の内部空間22dとをつなぐ気体移動管23とで形成されている。なお、気体収容部22は、培養部21の一部分から上方向に伸びる構成であればよい。培養槽2の内部には、微細藻類、培養液24、および二酸化炭素を含有する気体が収容されている。微細藻類は、培養液24中に懸濁している状態で収容されている。
【0030】
培養部21は、2枚の長方形の平面のシートが周辺の3辺で隙間なく閉じられた形状であり、残りの一辺側に培養部開口部211が設けられている。この培養部21は、培養部開口部211からその反対の先端部21aまでの長手方向に長い2つの仕切り部21bにより幅方向(長手方向と直角の方向)が三等分されて3つの内部空間21dが設けられている。これにより、培養部21は、内部が中空の3つの袋状に形成されている。培養部21は、その厚み方向(上下方向)の長さよりも幅方向および長手方向の長さが長く形成されている。なお、内部空間21dは、3つに限らず、2以上の複数とすることができる。このように内部空間21dを複数設けることで、1つの広い内部空間で培養するよりも微細藻類が一方へ偏りにくくしている。
【0031】
本実施例における培養部21は、上面のシートと下面のシートを重ねた状態で3つの周辺と2つの仕切り部21b部分を熱溶着して形成されている。言い換えれば、培養部21は、培養部21の内部空間21dを形成する同一のプラスチックバッグが幅方向に3つ連結された構成となっている。これにより、培養部21は3つの内部空間21dを有する。
3つの内部空間21dは、それぞれ幅方向の長さよりも長手方向の長さが長く形成される。具体的には、幅方向の長さは、50mm~1000mmとすることができ、100mm~900mmであることが好ましく、200mm~600mmであることが好適である。3つの内部空間21dの長手方向の長さは、300mm~2000mmとすることができ、500mm~1500mmであることが好ましく、800~1200mmであることが好適である。
【0032】
培養部21は、各内部空間21dに対応して、長手方向の中心より培養部開口部211側の上面にそれぞれ培養部接続バルブ232が設けられている。培養部接続バルブ232は、気体移動管23の一端が接続されている。培養部接続バルブ232は、外部から気体や液体が内部空間21dに入り込まないように培養部21に密閉状態で装着されている。したがって、外部の水(水槽6の水や雨水など)や外気は、培養部接続バルブ232を通過して培養部21および気体移動管23の中に侵入しない。
【0033】
培養部21は、下から一部を支えると重力に従って自然に変形する程度の固さを有するシート状のプラスチック(可撓性の軟質樹脂)で形成されている。本実施例における培養部21は、ポリエチレン製であり、詳述すると、薄膜形状のポリエチレンと、エチレンビニルアルコールと、ポリエチレンがこの順で重ねられた三層構造のフィルムにより形成されている。これにより、培養部21は、肉厚が薄いプラスチックバッグとして機能する。
【0034】
気体収容部22は、内部が中空の箱型もしくは長楕円形で下面が開放されている。この下面部分は、全面が解放されて気体収容部開口部221が形成されている。気体収容部開口部221は、底面が全面開口されているとともに、培養部21側の1つの側面の底面側が開口されている形状である。
【0035】
気体収容部22は、外気取り入れ孔222と、気体排出孔223と、培養液供給取り出し口224が上面に形成されている。また、気体収容部22は、少なくとも内部空間22dの下部を幅方向に複数部に分割する仕切り225を内部に有している。気体収容部22は、培養部21の長手方向の培養部21側の側面上部(周面上部)に気体収容部接続バルブ231が設けられている。
【0036】
外気取り入れ孔222と気体排出孔223は、それぞれ、液体および大気中のエアロゾル等の培養汚染物質が通過せず気体が通過できるフィルターが孔全体を覆うようにして設けられている。ここでいう培養汚染物質とは、培養液24に混入すると微細藻類の培養を妨げる物質のことであり、例えば、大気中に含まれるエアロゾルである。このフィルターにより、気体は通過するが液体および固体は通過しないようにしている。また、外気取り入れ孔222と気体排出孔223は、気体収容部22の上面に限らず、周面の上端付近に設けるなど、揺動しても気体収容部22内の培養液24に接触しない適宜の位置に設けることができる。
【0037】
仕切り225は、気体収容部22の内部に設けられた2つの板状部材であり、気体収容部22の外装と同一素材により形成されている。2つの仕切り225は、気体収容部22内を幅方向に3等分する。2つの仕切り225は、培養部21の3つの内部空間21dと、仕切り225によって区切られた気体収容部22の3つの内部空間22dが、それぞれ1つずつ対応して連通するように配置されている。また、仕切り225は、気体収容部22の内部空間22dを完全に分断せず、外気取り入れ孔222および気体排出孔223付近において3つの内部空間22dがつながるように上部に隙間225a(図5参照)が設けられている。これにより、隙間225aを通じて3つの内部空間22d間を気体が移動できる。したがって、隙間225aの存在により、外気取り入れ孔222および気体排出孔223による気体の取り入れおよび排出が、3つの内部空間22dすべてに対して行われる。
【0038】
気体収容部接続バルブ231は、気体収容部22内の培養液24の上面より上方に配置され、気体移動管23の一端が接続されている。気体収容部接続バルブ231は、外部から気体や液体が内部空間21dに入り込まないように培養部21に密閉状態で装着されている。したがって、外部の水(水槽6の水や雨水など)や外気は、気体収容部接続バルブ231を通過して気体収容部22および気体移動管23の中に侵入しない。また、気体収容部接続バルブ231には、気体の移動方向が制限される弁が設けられていてもよい。詳細には、気体収容部接続バルブ231は、気体収容部22内(内部空間22d)の気体が気体移動管23内(気体移動路230)へ移動することを許容し、逆に気体移動管23内(気体移動路230)の気体が気体収容部22内(内部空間22d)へ移動することを許容しない構成となるよう弁が設けられていてもよい。
【0039】
気体収容部22は、耐候性を有する硬質プラスチックであるアクリル樹脂などで形成されている。なお、気体収容部22は、下から支えても重力によっては変形しない程度の固さを有するプラスチック(剛性の硬質樹脂)や、下から一部を支えると重力に従って自然に変形する程度の固さを有するシート状のプラスチック(可撓性の軟質樹脂)など、適宜の素材により形成することができる。
【0040】
このように構成された培養部21と気体収容部22は、互いに内部が連通するように接続されている。詳述すると、培養部21の培養部開口部211の周りの寸法(内径)は、気体収容部22と隙間なく連結できるよう、気体収容部22の底面と同じ寸法(周方向の外形サイズと同一)に形成され、培養部開口部211内に気体収容部22の下部が挿入された状態で隙間なく接続され、固定バンド212により固定されている。この実施例では、固定バンド212として、プラスチックバンドを使用している。なお、固定方法としては、プラスチックバンドやゴムバンドといったバンドを用いる、あるいは接着剤で接着するなど、収容された培養液24が漏れ出したり、揺動の衝撃によって固定が解除されたりしない適宜の方法とすることができる。また、培養部21における培養部開口部211の全周を気体収容部22に対してテープで固定するか接着する等の方法により、収容している培養液24および微細藻類が確実に漏れ出ない構成とすることが望ましい。
【0041】
気体移動管23は、円筒形状を湾曲させたホース状の管であり、内部に空洞の気体移動路230(図6a参照)を有している。気体移動管23は、一端が気体収容部22の上部側面の気体収容部接続バルブ231に略水平になるように接続され、他端が培養部21の上面の培養部接続バルブ232に略垂直になるように接続されている。気体移動管23は、気体移動路230によって気体収容部22の3つの内部空間22dと、対応する培養部21の3つの内部空間21dとをそれぞれ接続するように3つ設けられている。したがって、気体移動管23(気体移動路230)は、気体収容部22と培養部21における連通した部分の外側で、気体収容部22から培養部21への気体の移動を許容する。気体移動管23はフレキシブルな素材で形成されることが好ましい。本実施例では、気体移動管23は、人の手程度の軽い力で変形できる程度の固さを有するプラスチック(可撓性の樹脂)によって形成されている。
【0042】
本実施例においては、気体移動路230は、円筒形状としたが、気体が移動できるのであればどのような形状であってもよい。ただし、微細藻類培養ユニット1の揺動に伴って気体移動路230に侵入した培養液24および培養液24に含まれる微細藻類が詰まるなどして、気体の移動が妨げられることがない程度の形状および太さ(内径)に形成されることが好ましい。このような気体移動路230の太さ(内径)としては、2mm~50mmとすることができ、5mm~30mmとすることが好ましく、10mm~20mmとすることが好適である。本実施例では、気体移動路230の太さ(内径)を10mmとしている。
【0043】
フレーム3(支持体)は、人の手程度の軽い力では変形しない程度の硬さを有する硬質プラスチック(剛性の硬質プラスチック)によって形成されている。本実施例におけるフレーム3は、強度と耐久性を十分に有するポリ塩化ビニルによって形成されている。
【0044】
フレーム3は、平面視すると長方形の枠で培養槽2(培養部21)より一回り大きい下面骨組み31と、左側面視(培養部21から気体収容部22を見た方向)が培養槽2より一回り大きい側面骨組み32とを、全体が直角に配置されるよう互いの一辺を接続して背面視(図3の奥から手前方向)L字型に形成されている。
【0045】
下面骨組み31は、その外枠と同一平面上に、培養部21の長手方向(図3の左右方向)に長い棒状の下面内骨組み310が幅方向(図3の奥行方向)に2つ設けられている。そして、下面骨組み31の外枠における長手方向中間位置の上面にそれぞれ上下方向に長い棒状の中間骨組み33が設けられ、その上端部同士が幅方向に長い棒状の動力源接続骨組み34によって接続されている。この中間骨組み33の上下方向の高さは、側面骨組み32の上下方向の高さより少し高く構成されている。中間骨組み33と側面骨組み32は、長手方向に長い棒状の2つの接続骨組み37により接続されている。また、2つの中間骨組み33には、動力源接続骨組み34と平行に(幅方向に)長い棒状の回転軸35が設けられている。
【0046】
回転軸35は、中間骨組み33の高さの中心より下方に配置され、より好ましくは中間骨組み33の高さの下方1/4よりも下方に配置されている。これにより、回転軸35が培養部21の上方で、かつ、培養部21に近い位置となり、培養部21の揺動角度が大きくなる。すなわち、培養部21から回転軸35が上方へ離れるほど、培養部21は長手方向への揺動が大きくなり先端部21aの上下方向の揺動距離が短くなるところ、回転軸35をなるべく培養部21に近づけることで培養部21の先端部21aの上下方向の揺動距離を長くしている。
【0047】
また、中間骨組み33、動力源接続骨組み34、および回転軸35は、下面骨組み31の長手方向(図3の左右方向)の中央より側面骨組み32側に設けられている。この実施例では、下面骨組み31の長手方向の側面骨組み32側1/3程度の位置に設けられている。このように回転軸35を下面骨組み31の中央より側面骨組み32側、すなわち培養部21の長手方向中央より気体収容部22側とすることで、揺動により培養部21の先端部21aが上下動する距離が長くなり、同じ揺動角度でもより大きく培養部21が揺動する。
【0048】
側面骨組み32は、左側面視(培養部21から気体収容部22を見た方向)が長方形の枠であり、上下方向中間位置に幅方向に長い棒状の側面内骨組み321が設けられている。
なお、フレーム3の構成要素である棒状の素材は、円筒形、角筒形、円柱形、または四角柱形など、適宜の棒状の素材とすることができる。
【0049】
また、フレーム3には、培養槽2が固定されている。本実施例では、下面骨組み31と培養部21とが固定され、側面骨組み32と気体収容部22とが固定されている。本実施例では、下面骨組み31と培養部21は、ワイヤーにより固定されており、側面骨組み32と気体収容部22は、プラスチックバンドにより固定されている。詳述すると、培養部21を形成するプラスチックバッグの接着縁部分(のりしろ部分)である端部21c(図4参照)にハトメ21hが形成されており、このハトメ21hにワイヤーを通して下面骨組み31に括り付けられている。
【0050】
また、固定バンド212は、上下の2か所で、側面骨組み32と気体収容部22とを水平方向にまとめて巻き付けるように配置されている。そして、2つの固定バンド212のうち下方の1つは、培養部21と気体収容部22とを固定する固定バンド212と同一である。この下方の固定バンド212は、2周にわたって巻き付けられており、1周目で培養部21と気体収容部22を固定し、2周目で培養槽2とフレーム3を固定している。
【0051】
動力源接続骨組み34(図3参照)には、他端が動力源4と接続されたワイヤー5の一端が接続されている。なお、動力源接続骨組み34には、他端が培養部21の上面に接続されたワイヤーも接続されてもよい。
【0052】
回転軸35は、その両端が水槽6に備えられた軸受61(図2参照)に回動可能に支持され、水平方向および上下方向のスライド移動が制限される。また、回転軸35は、中間骨組み33を含むフレーム3と一体に回動するよう形成されている。したがって、フレーム3および培養槽2は、水平方向および上下方向のスライド移動ができないように規制され、回転軸35を軸として回動(揺動)する。
【0053】
続いて、培養槽2が揺動する微細藻類培養システム10の動作について説明する。
図6aは、図2の微細藻類培養装置100における静止状態の培養槽2および培養液24を示す縦断面図であり、図6bは、揺動中の培養槽2および培養液24を示す縦断面図であり、図6cは、揺動による角度変化が最大となった状態(第2状態)の培養槽2および培養液24の縦断面図であり、図6dは、揺動による他方への角度変化が最大となった状態(第1状態)の培養槽2および培養液24の縦断面図である。
【0054】
図6aに示すように、静止状態の培養槽2は、培養部21が水平方向に平行な角度でフレーム3およびワイヤー5により固定されている。ワイヤー5はウインチ42とフレーム3によって両端からそれぞれの延長方向側に引っ張られ、ワイヤー5、ウインチ42、フレーム3、および培養槽2は、引っ張る力が釣り合って静止している状態である。
このとき、培養液24は、水平状態の培養部21の内部空間21dを満たし、培養部21の内部空間21dには気体が存在しないか、10%以下のごくわずかな領域に気体が存在する。すなわち、培養部21は、培養槽2が静止状態であるときに、その内部空間21dに培養液24が充填されている部分に該当する。
そして、気体収容部22の内部空間22dの上部(培養槽2の上端部25の内部空間)が二酸化炭素を含有する気体で占められている。すなわち、気体収容部22は、培養槽2が静止状態であるときに、培養液24の上面側にある内部空間22dに気体(二酸化炭素)が充填されている部分に該当する。
この図6aの状態は、培養槽2が静止して培養が促進される静止状態であり、培養部21が略水平に保たれている。略水平とは、培養部21の広がっている面方向(高さである厚み方向と直行する平面)が、水平からプラスマイナス10度の範囲内であること指す。
【0055】
図6bに示すように、モータ41が駆動し、ウインチ42が正逆いずれか一方の方向に回転すると、ワイヤー5がフレーム3側に引っ張られて移動する。このとき、培養槽2はフレーム3によって固定され、フレーム3は回転軸35(および回転軸35と接続している水槽6)によって回動可能に固定され、水平方向、幅方向、および上下方向の移動が制限されている。したがって、フレーム3は、ワイヤー5を引っ張るようにして移動するが、水平方向の移動が制限されているため、回転軸35を軸として回動する。このとき、培養液24の嵩高は、培養槽2から見て、気体収容部22の内部空間22dにおける気体存在領域(上部空間)を狭くするように上昇し、それに伴って上部空間を満たしていた気体が培養液24の水圧で押し出されるように気体移動路230および気体排出孔223から排出される。ここで、気体排出孔223には、気体は通過するが液体および固体は通過しないフィルターが設けられているため、排出される気体がすべて気体排出孔223から外部へ排出されるといったことがなく、少なくとも一部の気体が確実に気体移動路230から培養部21内(内部空間21d)へ排出される。気体移動路230を通った気体は、接続先の培養部21内に排出され、培養液24内を通過して回動によって持ち上がった培養部21の先端部21aの内部空間21dに滞留する。
【0056】
図6cに示すように、モータ41が図6bからさらに駆動し、ウインチ42が図6bと同じ方向にさらに回転すると、培養槽2およびフレーム3は図6bの状態からさらに回動し、一方への角度変化が最大の状態(第2状態)となる。この第2状態のとき、培養部21は、水平状態より先端部21aが上方となるよう所定角度傾いている。このとき、培養液24の嵩高は、培養槽2から見て、気体収容部22の内部空間22dにおける気体存在領域をさらに狭くするように上昇し、それに伴って気体収容部22内(内部空間22d)を満たしていた気体が培養液24の水圧によって気体移動路230へさらに押し出されて培養部21内に移動する。
【0057】
その後、図6dに示すように、図6cの状態からモータ41が図6bおよび図6cのときとは逆方向に駆動し、ウインチ42が他方(一方とは逆方向)に回転すると、ワイヤー5がウインチ42側に引っ張られるように移動し、それに伴って培養槽2およびフレーム3が他方に回動し、静止状態の角度を通り越して他方への角度変化が最大の状態(第1状態)となる。この第1状態のとき、培養部21は、水平状態より先端部21aが下方となるよう所定角度傾いている。培養槽2が第2状態から第1状態へ遷移(回動、移動)する際に、培養部21に滞留した気体は、気体移動路230を通るか、培養部21の上面に沿って気体収容部22側に移動し、気体収容部22に再び滞留する。また、第2状態から第1状態に遷移する際に、少量の培養液24が、減圧状態の気体収容部22の内部空間22dに向かって吸い上げられるように気体移動路230内を移動する。また、新たな外気が外気取り入れ孔222から気体収容部22の内部空間22dに取り入れられる。
【0058】
その後、モータ41が一方および他方に繰り返し駆動し、モータ41の駆動に対応してウインチ42が一方および他方に繰り返し回転し、培養槽2が第1状態と第2状態との遷移を何度か繰り返すようにして回動(揺動)する。したがって、第1状態および第2状態は、培養槽2の回動可能な角度(揺動の範囲)がそれぞれの方向に最大となる状態である。また、第1状態では、培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も下方となり、第2状態では、培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も上方となる。最後に、第1状態と第2状態との遷移の途中で静止状態と同じ位置(角度)で培養槽2が静止し、静止状態に戻る(図6a参照)。
【0059】
このような動作により、収容した培養液24および微細藻類が、培養槽2の揺動と、培養液24を通過する気体によって撹拌される。また、微細藻類に気体が供給される。培養槽2の一連の揺動の際、気体収容部22の上端部25と培養部21の先端部21aは、常に培養液24によって分断され、気体がお互いを移動する経路が気体移動路230と培養部21の天井面付近となる。したがって、培養槽2は、第1状態から第2状態のどの状態であっても、常に培養液24および培養液24中の微細藻類が滞留する連結部27(図6a、図6b、および図6cに示した破線の範囲)を有する。連結部27は、気体移動路230よりも下方に存在する。言い換えれば、気体移動路230は、連結部27よりも上方に設けられる。
【0060】
また、培養槽2の揺動によって、気体収容部22の内部空間22dを満たしていた気体の一部が気体排出孔223から排出され、内部空間22dに外気取り入れ孔222から新たに外気を取り入れられる。この気体入れ換えの現象は、培養槽2の揺動によって自然に発生するため、エアレーションといった気体入れ換えのための装置などは必要としない。さらに、気体入れ換えの際に微細藻類と培養液24を一時的に保管するための調整槽も必要としない。
【0061】
制御装置11(図1参照)は、予め定められた所定の周期で、モータ41を停止させて培養槽2も静止している静止状態と、モータ41を回転させて培養槽2を揺動させることで培養槽2内の培養液24および微細藻類を撹拌する揺動状態とを交互に繰り返す。静止状態の時間は、揺動状態の時間より長いことが好ましく、揺動状態の時間の2倍以上とすることがより好ましく、揺動状態の時間の4倍以上とすることがさらに好ましい。このようにすることで、できるだけ静止して培養する時間を長く確保し、かつ、適切な撹拌をして二酸化炭素を微細藻類に供給することができる。
【0062】
以上の構成により、価値の高い微細藻類の大量生産を、環境保全と両立させながら培養することが可能な微細藻類培養装置、培養システム、および培養方法を提供することができる。
微細藻類培養装置100は、動力源4により、培養槽2を気体収容部22から遠い方の培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も下方となる第1状態と、培養部21の先端部21aが揺動の範囲で最も上方となる第2状態とを構成するように培養槽2を揺動させ、第1状態から第2状態へ移行する過程で、気体収容部22内の気体が培養部21内へと移動し、第2状態から第1状態に移行する過程で、培養部21内へ移動した気体が気体収容部22内に移動する構成である。この構成により、培養槽2の揺動によって、培養に使用する気体(二酸化炭素)は、気体収容部22内から培養部21内へ移動し、その後、培養部21内から気体収容部22内に移動する動作を繰り返す。これにより、微細藻類培養装置100は、揺動によって培養液24および微細藻類を撹拌することに加えて、培養液24中に気体を移動させることによって培養液24に気体(二酸化炭素)を断続的に送り込みながら微細藻類の培養を行うことができ、微細藻類の成長を促進することができる。また、本発明の微細藻類培養装置100は、環境に排出された二酸化炭素を吸収することで生物生産を行う、低炭素技術である。したがって、価値の高い微細藻類の大量生産を、環境保全と両立させながら培養することができる。
【0063】
また、静止状態の培養槽2は、略水平状態の培養部21の内部空間21dが微細藻類を含む培養液24によって満たされている。この構成により、微細藻類の光合成に必要な光を広範囲に受光することができ、培養の効率を向上させることができる。
【0064】
また、培養槽2およびフレーム3は、波などによる水面60の高さの変化がない限り、培養槽2の培養部21の少なくとも一部が、常に水面60下(水中)にあるように配置されている。この構成により、屋外に微細藻類培養ユニット1を設置した場合であっても、水槽6内の水温によって培養液24の液温が緩衝され、外気温によって培養液24の液温が過剰に高くなったり低くなったりせず、安定して微細藻類の培養を行うことができる。また、ため池や海上といった、広い面積を有し、かつ上物の無い場所を効率的に利用することができる。
【0065】
また、培養部21の内部空間21dのすべては、幅方向の長さが長手方向の長さより短い。この構成により、培養槽2が揺動した場合に、培養部21に収容された微細藻類および培養液24が幅方向にあまり偏ることなく、かつ揺動で撹拌されつつ培養槽2内を長い距離移動することができる。
【0066】
また、培養槽2は、気体収容部22の上端部25に、外気を内部空間22dに取り入れる外気取り入れ孔222と、内部空間22dに滞留する気体を排出する気体排出孔223を有する。この構成により、培養槽2の揺動による培養液24の移動によって、気体収容部22の上端部25内の気体が、押し出されるように気体排出孔223から排出され、吸入するように外気取り入れ孔222から外気を取り入れる。すなわち、微細藻類の光合成により二酸化炭素が消費された気体が排出され、二酸化炭素を多く含んだ外気が取り入れられる。そして、この一連の気体の入れ換えは、培養槽2の揺動によって自然に行われる。したがって、気体の入れ換えのためのエアレーションや、気体の入れ換えのために微細藻類と培養液24を一時的に保管する調整槽を必要とせず、微細藻類培養装置100および微細藻類培養システム10を小型化することができ、かつ安価にすることができる。
【0067】
また、培養槽2は、培養部21と、気体収容部22とを連通させる気体移動路230を備え、培養槽2が第1状態から第2状態へ移行する過程で、気体収容部22内の気体が気体移動路230を通って培養部21内へと移動する構成である。この構成により、気体を気体収容部22から培養部21に効率的に移動させることができる。
【0068】
また、気体移動路230は、培養槽2が第1状態から第2状態までのどの状態にあっても、気体収容部接続バルブ231を介して、気体収容部22と水面上に位置する高さで接続されている。この構成により、気体収容部22の内部空間において、気体収容部接続バルブ231が位置する高さには必ず気体存在領域が位置する。したがって、気体収容部22から効率的に気体を培養部21に移動させることができる。
【0069】
また、培養槽2の培養部21は、一部を下から支えると重力に従って自然に変形する程度の固さを有するシート状の軟質樹脂(可撓性の軟質樹脂)によって形成されている。これにより、強風による揺動での激しい動きによって培養槽2の培養部21が繰り返し水面60に叩きつけられた場合や、海上で漂流物等に接触した場合であっても、軟質樹脂特有の柔軟な変形によって培養部21が破損しづらく、培養槽2及び微細藻類培養ユニット1の耐久性を向上させることができる。また、気体収容部22も可撓性の軟質樹脂によって形成した場合には、気体収容部22も同じ効果を得られる。この構成により、また、微細藻類培養ユニット1の1台あたりの製造コストが硬質プラスチックを使用した場合と比較して安価となり、特に培養槽2を複数設ける微細藻類培養システム10および微細藻類培養装置100を安価に製造することができる。
【0070】
また、動力源4は、培養槽2の、第1状態と第2状態との間の揺動を制御するとともに、第1状態と第2状態との間に、培養槽2を静止して培養部21が略水平な状態に保たれる静止状態を構成する。この構成により、微細藻類の培養を促す静止状態と、微細藻類および培養液24を撹拌して微細藻類に二酸化炭素を供給する揺動状態とを適切に切り替え、微細藻類を効率よく培養することができる。
【0071】
また、微細藻類培養システム10は、複数の微細藻類培養装置100を連結して構成されている。この構成により、海上といった広い面積を利用しながら、海中または海底に存在する多量の汚泥や汚水から栄養類を積極的に回収し、価値の高い微細藻類を大量生産することができる。
【0072】
なお、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、本実施形態では、フレーム3に回転軸35を設け、回転軸35を軸に培養槽2を回動(揺動)させるが、回転軸35はフレーム3以外に設けられていてもよい。すなわち、回転軸35を軸として、培養槽2が揺動される構成であれば、回転軸35の位置は特に限定されない。
【0073】
また、本実施例の培養槽2は、水平方向に伸びる培養部21と、培養部21の端部から上方向に伸びる気体収容部22によって構成され、水平方向から見てL字または逆L字の形状を有するが、例えば、培養部21の中央付近から上方向に気体収容部22が伸びるように形成され、水平方向から見て凸の形状を有することもできる。この場合、気体収容部22の上方向の端部(上端部25)と、培養部21の水平方向の1端部(先端部21a)を接続するように設けられた第1の気体移動路230に加えて、培養部21の水平方向の他端部を第2の先端部21aとして、気体収容部22の上端部25と第2の先端部21a側の培養部21を接続する第2の気体移動路230を設けることができる。
【0074】
また、本実施例の培養槽2は、培養部21と気体収容部22が別部材によって構成されているが、培養部21と気体収容部22を一部材として一体となって培養槽2を形成していてもよい。このような場合、培養部21は、培養槽2が静止状態であるときに、その内部空間21dに培養液24が充填されている部分に該当する。そして、気体収容部22は、培養槽2が静止状態であるときに、培養液24の上面側にある内部空間22dに気体(二酸化炭素)が充填されている部分に該当する。また、培養部21と気体収容部22を一体成型とする場合は、軟質樹脂のような軟質素材で成形することが好ましい。培養部21と気体収容部22を軟質素材で一体形成すれば、特に培養槽2を複数設ける微細藻類培養システム10および微細藻類培養装置100をさらに安価に製造することができる。
【0075】
また、気体移動管23(気体移動路230)は、設けられていなくてもよい。この場合、気体収容部22は、気体収容部接続バルブ231が設けられず、培養部21の長手方向の培養部21側の側面が孔のない平面になる。また、培養部21は、培養部接続バルブ232が設けられず、培養部開口部211側の上面が孔の無い平面になる。また、この場合、培養部21を含む培養槽2内の培養液24の量を減らすと良い。具体的には、培養部21が略水平状態のときに培養液24の水面が培養部21の上面より少し高い程度、あるいは図6(a)の水面60と同程度とすると良い。
【0076】
この場合、培養部21が水平である静止状態(図6a)から第2状態(図6c)へ傾くと、気体収容部22が下方へ下がり、培養液24が連結部27を通じて気体収容部22へ重力によって移動し、その逆に気体収容部22内の気体が連結部27の上部を通って培養部21へ移動する。
【0077】
また、培養部21が第2状態(図6c)から水平である静止状態(図6a)へ戻るときは、この逆で培養液24が連結部27を通じて気体収容部22から培養部21へ重力によって移動し、培養部21内の気体が連結部27の上部を通って気体収容部22へ移動する。
【0078】
さらに、培養部21が水平である静止状態(図6a)から第1状態(図6d)へ傾くと、培養部21が下方へ下がり、培養液24が連結部27を通じて培養部21へ重力によって移動し、その逆に培養部21内に残っていた気体が連結部27の上部を通って気体収容部22へ移動する。
【0079】
このように、気体移動路230が設けられていない場合であっても、培養液24の量を調整しておくことで、実施例と同様の効果を得ることができる。
なお、このように気体移動路230が設けられていない場合、第1状態および第2状態の傾きをより傾斜させて、揺動角度を大きくすることが好ましい。これにより、培養部21と気体収容部22の間での培養液24および気体の移動をより確実に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明は、微細藻類を培養槽に収容して培養する培養装置の製造販売、および微細藻類の培養に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1…微細藻類培養ユニット
2…培養槽
21…培養部
21a…先端部
22…気体収容部
230…気体移動路
24…培養液
25…上端部
3…フレーム
35…回転軸
4…動力源
5…ワイヤー
6…水槽
10…微細藻類培養システム
11…制御装置
12…電力供給装置
13…支持外装
100…微細藻類培養装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d