(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123938
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】抗老化作用を示すペプチド性食品・ペットフード用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/18 20160101AFI20230830BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20230830BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20230830BHJP
【FI】
A23L33/18
A23K20/147
A23K50/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027428
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】横山 壱成
(72)【発明者】
【氏名】莢 雅棋
(72)【発明者】
【氏名】有原 圭三
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
【Fターム(参考)】
2B005AA06
2B150AA06
2B150AB03
2B150DC23
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD20
4B018ME06
4B018ME10
4B018ME14
(57)【要約】
【課題】 抗酸化作用、抗糖化作用により、抗老化あるいは寿命延長をもたらす食品もしくはペットフード素材、食品、ペットフード、及びサプリメントを提供する。
【解決手段】 Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする抗酸化剤、抗糖化剤、及び抗老化剤、これらを含有する食品またはペットフード素材、食品、ペットフード、及びサプリメントを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗酸化剤。
【請求項2】
Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗糖化剤。
【請求項3】
Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗老化剤。
【請求項4】
請求項1に記載の抗酸化剤を含む、食品またはペットフード素材。
【請求項5】
請求項2に記載の抗糖化剤を含む、食品またはペットフード素材。
【請求項6】
請求項3に記載の抗老化剤を含む、寿命延長作用を備えた食品またはペットフード素材。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の食品またはペットフード素材を含む、食品、ペットフード、またはサプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは他の生物の老化を抑制し、寿命を延長させるための食品組成物に関する。より詳細には、本発明は、ヒトまたは他の生物に対し、抗酸化作用、抗糖化作用又は抗老化作用等を示すジペプチド、該ジペプチドを含む食品またはペットフード素材、及び食品またはペットフード素材を投与することによって、老化を抑制し、寿命を延長するための食品、ペットフード、及びサプリメントに関する。
【背景技術】
【0002】
生物は寿命を全うする過程において、加齢や老化を経験する。加齢は、生物が生まれてから死ぬまでの物理的な時間経過である。一方、老化は、生物が生殖年齢に達した後に、すべての個体に起こる加齢に伴う生理機能の低下である。低下する生理機能には、筋力や免疫機能など様々なものがあるが、その速度は個体ごとに異なる。老化に影響する要因のひとつとして、様々な疾病との関連が示されている活性酸素種が挙げられる(非特許文献1)。
【0003】
ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝の副産物として生じる活性酸素種は酸化反応をもたらし、生体内のタンパク質、脂質、DNAなどが損傷を受ける。一方、生体内で糖分子がタンパク質、脂質、DNAと非酵素的に結合し、最終糖化産物を形成する反応として、糖化反応がある。生体内における最終糖化産物量は、糖尿病や動脈硬化など加齢性の疾患に伴い増加することが知られている(非特許文献2)。また、活性酸素種と最終糖化産物は、互いの産生に影響し、老化や加齢性疾患の進行を促進する。したがって、酸化や糖化を抑制することにより、老化の進行を遅らせることが期待できる。
【0004】
また、カルノシンのような抗酸化ペプチドを老化防止剤とする提案も見られる(特許文献6)。しかし、抗酸化作用と抗糖化作用を兼ね備えるペプチドが生体内部で作用し、生物個体の老化を抑制したり、寿命を延長したりすることは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石井直明「人はなぜ老いるのか-個体老化・寿命のメカニズム-」 日本消化器病学会誌 103:143-148,2006
【非特許文献2】有原圭三(監修)「グリケーションの制御とメイラード反応の利用」 シーエムシー出版 2020
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-72132号公報
【特許文献2】W02020/149218号公報
【特許文献3】W02014/163416号公報
【特許文献4】W02019/026993号公報
【特許文献5】特開2017-128608号公報
【特許文献6】特開2003-267992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、経口摂取により、対象、特に、ヒト、愛玩動物等に対して抗老化あるいは寿命延長をもたらす抗酸化剤、抗糖化剤又は抗老化剤となり得るジペプチド、該ジペプチドを含む食品またはペットフート素材、又はこれらを含む食品、ペットフード、及びサプリメントを提供することを目的とする。
【0008】
この課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を進め、Leu-Lysのような抗酸化作用と抗糖化作用を有するジペプチドを見出し、これを経口投与することにより、抗老化あるいは寿命延長をもたらすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明は、Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗酸化剤である。
[2]本発明は、Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗糖化剤である。
[3]本発明は、Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする、抗老化剤である。
[4]本発明は、[1]に記載の抗酸化剤を含む、食品またはペットフード素材である。
[5]本発明は、[2]に記載の抗糖化剤を含む、食品またはペットフード素材である。
[6]本発明は、[3]に記載の抗老化剤を含む、寿命延長作用を備えた食品またはペットフード素材である。
[7]本発明は、[4]~[6]のいずれかに記載の食品またはペットフード素材を含む、食品、ペットフード、またはサプリメントである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の食品またはペットフート素材、又はこれらを含む、食品、ペットフード、またはサプリメントにより、あるいはこれらを日常的に摂取することにより、老化の抑制や寿命の延長をもたらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Leu-LysおよびLys-Leuの抗酸化活性を示すグラフである。
【
図2】Leu-LysおよびLys-Leuの抗糖化活性を示すグラフである。
【
図3】Leu-LysおよびLys-Leuの抗老化(寿命延長)作用を示すグラフである。
【
図4】Leu-Lysの濃度の違いが抗老化(寿命延長)作用に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図5】ペプチドによる抗老化(寿命延長)作用のメカニズムを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤、及び抗老化剤は、Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分とする。以下、「Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩」を単に「有効成分」ということがある。
【0013】
本発明の有効成分は、Leu-Lysのジペプチドの遊離型でも、塩の形態であってもよい。塩としては、生理学的に許容される塩が挙げられ、具体的には、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、パルミチン酸、硝酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属;トリエチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、t-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミンとの塩などが挙げられる。特に好ましくは、遊離型のジペプチドである。
【0014】
本発明の有効成分は、水または他の有機溶媒と複合体を形成し、水和物または溶媒和物を形成することがある。このような態様も本発明の範囲内である。
【0015】
本発明の有効成分において、Leu-Lysのジペプチドを構成するそれぞれのアミノ酸は、D体、L体のどちらでもよく、それらの組み合わせでも差し支えないが、特にいずれのアミノ酸もL体であるジペプチドが好ましい。
【0016】
本発明の食品またはペットフード素材は、Leu-Lysからなるジペプチドまたはその塩を有効成分として含有する、抗酸化剤、抗糖化剤、または抗老化剤を含む。
【0017】
さらに本発明の食品、ペットフード、及びサプリメントは、本発明の食品またはペットフード素材を含む。尚、本発明の食品またはペットフード素材、食品、ペットフード、及びサプリメントを総称して、「本発明の組成物」ということがある。
【0018】
本発明の組成物において、有効成分の含有量は、その効果を奏することが可能である限り限定されるものではないが、例えば、組成物全体に対して0.1~10重量%、0.1~5重量%、または0.1~1重量%とすることができる。
【0019】
本発明の組成物の摂取は、生体内に、抗酸化作用と抗糖化作用をもたらし、酸化や糖化によって引き起こされる様々な疾病の予防や健康状態の維持に有用である。尚、本発明において、抗酸化作用とは生体内で余剰に発生する活性酸素種(あるいはフリーラジカル)を除去する能力、あるいはそれらによる生体への悪影響を抑制させるものと定義することができる。一方、抗糖化作用とは生体内におけるタンパク質と還元糖の反応(糖化)を阻害する能力、あるいは糖化反応による生成物の作用を抑制するものと定義することができる。
【0020】
抗酸化作用と抗糖化作用によりもたらされる効果の一つに、老化の抑制や寿命の延長、すなわち抗老化、あるいは寿命延長作用がある。抗酸化作用と抗糖化作用によりもたらされる抗老化(寿命延長)作用のメカニズムは
図5に示した通りである。
【0021】
本発明の有効成分、すなわちLeu-Lysのジペプチドまたはその塩は、公知の方法で調製することができる。たとえば、畜肉や穀類といった食品タンパク質をプロテアーゼにより加水分解することにより得られる。また、化学合成法や発酵法によりアミノ酸を原料として調製することも可能である。さらに、市販のものを利用することもできる。
【0022】
本発明の組成物は、さらに、食品またはペットフード素材、食品、ペットフード、またはサプリメントとして許容される担体を含有してもよい。このような担体としては、従来公知の抗酸化剤、保存料、甘味料、着色料、香料など、これら組成物の製造過程で使用される食品添加物を使用することができる。また、穀類、野菜、果実、畜肉、魚肉、牛乳、鶏卵といった食品、ペットフード、サプリメントに広く用いられている原料と併用することもできる。
【0023】
さらに、本発明の抗酸化剤、抗糖化剤、抗老化剤、及び組成物は、Leu-Lys以外のアミノ酸、ペプチドを含有してもよい。
【0024】
本発明の組成物は、さらに、ビタミン(例えばB1、B2)、ミネラル(鉄、亜鉛)、アミノ酸、ハーブ等の従来公知の成分を含んでもよい。
【0025】
本発明の食品、ペットフード、またはサプリメントは、従来公知の方法により、錠剤、口腔内崩壊性錠、チュアブル錠、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、または経口液剤等の従来公知の形態に製剤化することができる。
【0026】
本発明の食品、ペットフード、またはサプリメントを錠剤、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、またはカプセルとする場合、結晶性セルロースのような賦形剤、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、その他の栄養素等の錠剤を形成するための各種添加剤を添加することができる。
【0027】
本発明の食品、ペットフード、またはサプリメントを経口液剤とする場合は、水、ジュース等に配合することもできる。
【0028】
本発明の組成物の摂取対象は、ヒトまたは愛玩動物(ペット)であり、愛玩動物としては、イヌ、ネコ等が挙げられ、好ましくは、ヒト、イヌ、ネコである。
【0029】
本発明は、さらに以下(1)及び(2)の態様を提供するものである。
(1)抗酸化活性および/または抗糖化活性を有する食品またはペットフート素材の調製における、Leu-Lysまたはその塩の使用。
(2)加齢に伴う生体内における酸化ストレスおよび/または糖化ストレスを抑制するための食品またはペットフート素材の調製における、Leu-Lysまたはその塩の使用。
【0030】
以下、本発明を実施例で説明する。以下の実施例は、本発明を説明するために挙げた例であり、これにより本発明を限定するものではない。
【実施例0031】
(実施例1)
(抗酸化活性の測定)
化学合成法により調製した2種のジペプチド(Leu-LysおよびLys-Leu)の抗酸化活性を測定した。抗酸化活性の測定には、スーパーオキサイドイオンを化学発光法によって定量する方法を用いた。測定試料(ペプチド)の存在下でヒポキサンチンにキサンチンオキシダーゼを反応させ、スーパーオキサイドイオンを生成させ、これに発光試薬である2-メチル-6-p-メトキシフェニルエチニルイミダゾピラノジン(MPEC、アトー株式会社)を反応させ、発光量をルミネッセンサーAB-2200(アトー株式会社)で測定した。以下の式により、抗酸化活性を算出した。
抗酸化活性(%)=(対照の測定値-試料の測定値)÷ 対照の測定値 × 100
【0032】
Leu-LysおよびLys-Leuの抗酸化活性を測定した結果を、
図1に示した。Leu-Lysでは約20%と比較的高い活性だったが、Lys-Leuでは約4%であった。
【0033】
(実施例2)
(抗糖化活性の測定)
実施例1で用いた2種のジペプチド(Leu-LysおよびLys-Leu)の抗糖化活性を測定した。抗糖化活性の測定には、牛血清アルブミン(BSA)とグルコースの存在下で生成する糖化産物の蛍光強度の抑制率から算出した。BSA、グルコースおよび測定試料(ペプチド)を溶解させ、40℃において7日間加温した。蛍光強度は、マイクロプレートリーダー Infinite 20c PRO(TECAN株式会社)で測定した。それぞれ、加温前の蛍光強度を基準として加温後1、3、5、7日目の蛍光強度について経時的に比較した。なお、正確なペプチドの示す抗糖化作用を検討するため、BSAでなく蒸留水を添加する群を設けた。これにより、ペプチド-グルコース間で生じる糖化反応を差し引いた値の算出が可能となる。7日目における抗糖化活性は以下の式により、算出した。
抗糖化活性(%)=(対照の測定値-(BSAあり試料の測定値-BSAなし試料の測定値)÷ 対照の測定値) × 100
【0034】
Leu-LysおよびLys-Leuの抗糖化活性を測定した結果を、
図2に示した。両者とも、ポジティブコントロールとして用いた塩酸アミノグアニジンに迫る40~50%の活性を示した。実施例1の結果と併せると、Leu-Lysは比較的強い抗酸化活性と抗糖化活性を有するペプチドと判断される。
【0035】
(実施例3)
(抗老化作用の測定)
実施例1および2で用いた2種のジペプチド(Leu-LysおよびLys-Leu)の抗老化作用(寿命延長作用)を測定した。抗老化作用(寿命延長作用)の測定には、老化研究のモデル生物として頻繁に用いられる線虫(C. elegans)の実験系を用いた。成長ステージを一定とした野生株の幼齢線虫に対し、液体培地および餌である大腸菌OP50株を添加し、20℃で4日間培養した。なお、大腸菌による試料(ペプチド)の異化作用を防ぐため、加熱処理を施した大腸菌を用いた。培養後、成虫となった線虫に対し、試料(ペプチド)を添加し、以降3日おきに生存線虫の数を測定した。各時点の生存率から、生存曲線を作成し、試料添加による線虫の平均寿命の比較を行った。対照群として蒸留水を添加した群を設定した。なお、実験方法の詳細は、文献(Yokoyamaら,Journal of Functional Foods,87:104750,2021)の記載に従った。
【0036】
2種のペプチドの線虫の寿命への影響を測定した結果を、
図3に示した。対照群(蒸留水)と比べて、Leu-LysとLys-Leuのいずれも、有意(p<0.01)に平均寿命を延長したが、Leu-Lysの効果が顕著であった。Leu-Lys添加量(濃度)を検討した結果(
図4)、1mg/mlの添加ではわずかな寿命延長(約1日)しか認められなかったが、10mg/mlの添加で大きな延長(約5日)が認められた。
【0037】
実施例1~3で得られた実験結果から、ジペプチドLeu-Lysは加齢に伴う生体内における酸化ストレスと糖化ストレスを抑制することにより、抗老化作用(寿命延長作用)を示すものと推定される。
本発明により、老化の抑制や寿命の延長をもたらす、抗酸化剤、抗糖化剤、抗老化剤、これらを含有する食品またはペットフード素材、食品、ペットフード、及びサプリメントを提供することが可能となる。