(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123958
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】車両シート横揺れ防止装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20230830BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027468
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】外村 賢昭
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BA03
3B087BB07
3B087CD05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】走行中に自動車が横揺れしても車両シートに座っている乗員が受ける横揺れを低減して車酔いのない快適な乗り心地を実現する。
【解決手段】シート20は駆動機構25により車体に対し横方向に移動自在に配置されている。コントローラ50は、車体の横揺れによるシート20の横揺れ加速度を加速度センサ26で検出した場合に、駆動機構25によりシート20を車体の揺れ方向と逆方向に移動させることで逆向きの横揺れ加速度を発生させ、シート20の横揺れ加速度を相殺させることで、シート20に座っている乗員の横揺れを低減させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シートの横揺れを検出する横揺れ検出器と、
前記車両シートを車体床部に対し左右方向に移動させる駆動機構と、
前記横揺れ検出器で検出された前記車両シートの横揺れを相殺するように前記駆動機構を制御する制御部と、
が設けられたことを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両シート横揺れ防止装置に於いて、
前記横揺れ検出器として、前記車両シートに加わる横揺れ加速度を検出する加速度センサが設けられ、
前記制御部は前記加速度センサで検出された前記横揺れ加速度を相殺するように前記駆動機構により前記車両シートを横方向に移動制御させることを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両シート横揺れ防止装置に於いて、
前記制御部は、前記加速度センサにより右揺れ加速度又は左揺れ加速度を検出した場合は、前記右揺れ加速度又は前記左揺れ加速度を相殺するように前記駆動機構により前記車両シートを右揺れ又は左揺れ方向とは反対方向に移動制御させることを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両シート横揺れ防止装置に於いて、
前記制御部は、前記加速度センサにより検出された前記右揺れ加速度又は前記左揺れ加速度が所定の加速度判定条件を充足した場合に、前記駆動機構による前記車両シートの逆方向への移動を開始させ、その後、前記加速度センサにより検出された前記右揺れ加速度又は前記左揺れ加速度が前記加速度判定条件を充足しなくなった場合に、前記駆動機構による前記車両シートの逆方向への移動を停止して初期位置に戻させることを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【請求項5】
請求項1記載の車両シート横揺れ防止装置に於いて、
前記駆動機構は、
前記車両シートが横方向に移動自在に中立位置に保持された台車と、
シリンダ室に摺動自在に設けられたピストンから延在されたロッドが前記台車に連結されたピストンシリンダ機構と、
前記ピストンシリンダ機構の前記シリンダ室に対する液圧供給の切替えにより前記ピストンを移動させて前記台車を横方向に移動させる制御弁と、
が設けられたことを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【請求項6】
請求項5記載の車両シート横揺れ防止装置に於いて、
前記ピストンシリンダ機構を、前記ピストンの両側に形成されたシリンダ室に対する液圧供給により前記ピストンを往復移動させる複動型ピストンシリンダ機構とし、
前記制御弁を、前記両側のシリンダ室を連通させると共に液圧供給を遮断する中立切替位置、前記両側のシリンダ室の一方に液圧を供給すると共に前記両側のシリンダ室の他方をタンクに連通する第1切替位置、及び前記両側のシリンダ室の他方に液圧を供給すると共に前記両側のシリンダ室の一方をタンクに連通する第2切替位置の3位置切替えを行う3位置切替制御弁としたことを特徴とする車両シート横揺れ防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車が横揺れしても車両シートに座っている乗員が受ける横揺れを低減する車両シート横揺れ防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動ブレーキ等の先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)が開発と実用化が推し進められており、将来の自動車の姿として自動運転が目標とされ、様々な試みが行われている。
【0003】
自動車の自動運転が実現された暁には、現在の自動車運転は大幅に改善され、利用者は自動車に搭載された自動運転システムに目的地をセットして運転開始を指示すれば良く、その後は自動運転システムが目的地への経路を設定し、周囲の状況をリアルタイムで監視しながら目的地に向かって安全に走行し、運転者は運転操作から開放され、自動運転システムによる運転操作を確認するだけで済むことが期待され、更に、外部の道路交通管理システムと連携した自動運転により、渋滞の解消や最適経路の選択による目的地までの運転時間の短縮等が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-155903号公報
【特許文献2】特開2017-022880号公報
【特許文献3】特開2017-186010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近い将来実現されるであろう自動車の自動運転により運転者の負担が大幅に低減して高い安全性が得られるようになると、自動運転により走行している自動車内は、仕事場や家庭にいる場合と同様に、仕事や趣味等の時間を過ごすことが可能となる。
【0006】
しかしながら、自動運転であっても、自動車の走行中にシートに座っている乗員は常に自動車の走行に伴う揺れを受けており、その中で、仕事や趣味等に没頭していると、自動車に乗っているという感覚が薄れ、仕事場や家にいる普段とは違う揺れによって車酔いを誘発する可能性が高くなり、自動運転による快適性が損なわれる問題がある。
【0007】
このような自動車の横揺れ等による車酔いの問題は、現状にあっても、車に酔い易い人にとっては深刻な問題であり、その改善が強く望まれている。
【0008】
本発明は、車両シートに座っている乗員が受ける横揺れを低減して車酔いのない快適な乗り心地を実現する車両シート横揺れ防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(車両シート横揺れ防止装置)
本発明は、車両シート横揺れ防止装置であって、
車両シートの横揺れを検出する横揺れ検出器と、
車両シートを車体床部に対し左右方向に移動させる駆動機構と、
横揺れ検出器で検出された車両シートの横揺れを相殺するように駆動機構を制御する制御部と、
が設けられたことを特徴とする。
【0010】
(加速度センサを用いた横揺れ防止制御)
横揺れ検出器として、車両シートに加わる横揺れ加速度を検出する加速度センサが設けられ、
制御部は加速度センサで検出された横揺れ加速度を相殺するように駆動機構により車両シートを横方向に移動制御させる。
【0011】
(左右の横揺れ加速度を相殺する横揺れ防止制御)
制御部は、加速度センサにより右揺れ加速度又は左揺れ加速度を検出した場合は、右揺れ加速度又は左揺れ加速度を相殺するように駆動機構により車両シートを右揺れ又は左揺れ方向とは反対方向に移動制御させる。
【0012】
(閾値を超える横揺れ加速度を相殺する横揺れ防止制御)
制御部は、加速度センサにより検出された右揺れ加速度又は左揺れ加速度が所定の加速度判定条件を充足した場合に、駆動機構による車両シートの逆方向への移動を開始させ、その後、加速度センサにより検出された右揺れ加速度又は左揺れ加速度が加速度判定条件を充足しなくなった場合に、駆動機構による車両シートの逆方向への移動を停止して初期位置に戻させる。
【0013】
(駆動機構)
駆動機構は、
車両シートが横方向に移動自在に中立位置に保持された台車と、
シリンダ室に摺動自在に設けられたピストンから延在されたロッドが台車に連結されたピストンシリンダ機構と、
ピストンシリンダ機構のシリンダ室に対する液圧供給の切替えによりピストンを移動させて台車を横方向に移動させる制御弁と、
が設けられる。
【0014】
(複動型ピストンシリンダ機構と3位置切替制御弁)
ピストンシリンダ機構を、ピストンの両側に形成されたシリンダ室に対する液圧供給によりピストンを往復移動させる複動型ピストンシリンダ機構とし、
制御弁を、両側のシリンダ室を連通させると共に液圧供給を遮断する中立切替位置、両側のシリンダ室の一方に液圧を供給すると共に両側のシリンダ室の他方をタンクに連通する第1切替位置、及び両側のシリンダ室の他方に液圧を供給すると共に両側のシリンダ室の一方をタンクに連通する第2切替位置の3位置切替えを行う3位置切替制御弁とする。
【発明の効果】
【0015】
(基本的な効果)
本発明は、車両シート横揺れ防止装置に於いて、車両シートの横揺れを検出する横揺れ検出器と、車両シートを車体床部に対し左右方向に移動させる駆動機構と、横揺れ検出器で検出された車両シートの横揺れを相殺するように駆動機構を制御する制御部とが設けられたため、走行中に自動車が横揺れした場合、車両シートの横揺れが検出されて横揺れが相殺されるように車体に対し車両シートが駆動され、これにより車両シートに座っている乗員に加わる横揺れが大幅に低減し、自動車の横揺れに起因した車酔いが抑制され、車に酔い易い人であっても、車に酔うことのない快適な乗り心地を実現可能となる。
【0016】
特に、近い将来実現されるであろう自動車の自動運転において、車両シートの横揺れは防止により、自動運転により走行している自動車内で、仕事場や家庭にいる場合と同様に、車酔いを起すことなく仕事や趣味等の快適な時間を過ごすことが可能となる。
【0017】
(加速度センサを用いた横揺れ防止制御の効果)
また、横揺れ検出器として、車両シートに加わる横揺れ加速度を検出する加速度センサが設けられ、制御部は加速度センサで検出された横揺れ加速度を相殺するように駆動機構により車両シートを横方向に移動制御させるようにしたため、自動車の横揺れにより車両シートに座っている乗員が受ける横向きの加速度が低減されることで、横揺れを感ずることのない快適な乗り心地を実現可能とする。
【0018】
(左右の横揺れ加速度を相殺する横揺れ防止制御の効果)
また、制御部は、加速度センサにより右揺れ加速度又は左揺れ加速度を検出した場合は、右揺れ加速度又は左揺れ加速度を相殺するように駆動機構により車両シートを右揺れ又は左揺れ方向とは反対方向に移動制御させるようにしたため、自動車が右側に横揺れすると、これとは反対の左側に車両シートが車体に対し移動することで右揺れ加速度が相殺され、また、自動車が左側に横揺れすると、これとは反対の右側に車両シートが車体に対し移動することで左揺れ加速度が相殺され、車体が左右に横揺れしても車両シートは横揺れせず地面に対する横方向の位置を保ち続けるように座っている感覚を受けることとなり、自動車が横揺れしても車両シートに座っている乗員は殆ど横揺れを感ずることがない快適な乗り心地を実現可能とする。
【0019】
(閾値を超える横揺れ加速度を相殺する横揺れ防止制御の効果)
また、制御部は、加速度センサにより検出された右揺れ加速度又は左揺れ加速度が所定の加速度判定条件を充足した場合に、駆動機構による車両シートの逆方向への移動を開始させ、その後、加速度センサにより検出された右揺れ加速度又は左揺れ加速度が加速度判定条件を充足しなくなった場合に、駆動機構による車両シートの逆方向への移動を停止して初期位置に戻させるようにしたため、乗員に不快感を与える可能性のある所定の加速度判定条件を充足している間、例えば、所定の閾値以上又は閾値を超えている間、右揺れ又は左揺れの加速度を検出した場合に、横揺れ方向とは逆方向に車両シートを移動させて横揺れ加速度を低減することで、不快感を与えることのない小さな横揺れに対する制御負担を軽減し、不快感を与える大きめの横揺れを確実に低減し、車両シートに座っている乗員は殆ど横揺れを感じることのない快適な乗り心地を実現可能とする。
【0020】
(駆動機構の効果)
また、駆動機構は、車両シートが横方向に移動自在に中立位置に保持された台車と、シリンダ室に摺動自在に設けられたピストンから延在されたロッドが台車に連結されたピストンシリンダ機構と、ピストンシリンダ機構のシリンダ室に対する液圧供給の切替えによりピストンを移動させて台車を横方向に移動させる制御弁とが設けられたため、制御弁とピストンシリンダ機構により台車に搭載された車両シートを横揺れ加速度を低減する方向に簡単に移動して快適な乗り心地を実現可能とする。
【0021】
(複動型ピストンシリンダ機構と3位置切替制御弁による効果)
また、ピストンシリンダ機構を、ピストンの両側に形成されたシリンダ室に対する液圧供給によりピストンを往復移動させる複動型ピストンシリンダ機構とし、制御弁を、両側のシリンダ室を連通させると共に液圧供給を遮断する中立切替位置、両側のシリンダ室の一方に液圧を供給すると共に両側のシリンダ室の他方をタンクに連通する第1切替位置、及び両側のシリンダ室の他方に液圧を供給すると共に両側のシリンダ室の一方をタンクに連通する第2切替位置の3位置切替えを行う3位置切替制御弁としたため、電磁ソレノイド等の通電により動作する3位置切替制御弁による複動型ピストンシリンダ機構の液圧駆動により、確実に車両シートを横揺れ加速度を低減する方向に移動して快適な乗り心地を実現可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】車両シート横揺れ防止装置を搭載した自動車の概略を横断面で示した説明図である。
【
図2】車両シート横揺れ防止装置のシステム構成を示した説明図である。
【
図3】自動車が右揺れした場合の車両シート横揺れ防止動作を示した説明図である。
【
図4】自動車が右揺れした場合の横揺れ防止制御における加速度と制御弁の切替え制御を示したタイムチャートである。
【
図5】自動車が左揺れした場合の車両シート横揺れ防止動作を示した説明図である。
【
図6】自動車が左揺れした場合の横揺れ防止制御における加速度と制御弁の切替え制御を示したタイムチャートである。
【
図7】
図2のコントローラによる横揺れ防止制御を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る車両シート横揺れ防止装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0024】
[車両シート横揺れ防止装置]
図1は車両シート横揺れ防止装置を搭載した自動車の概略を横断面で示した説明図であり、例えばFF車の運転席側から後方の客室を見た断面で示している。
【0025】
ここで、
図1の説明では、X-Y方向が互いに直交する方向であり、具体的には、運転席側から車室後方を正面に見て、X方向を左右方向とし、Y方向を上下方向とする。また、X方向における+X側を右側、-X側を左側とし、Y方向における+Y側を上側、-Y側を下側とする。この点は本発明の実施形態となる
図2、
図3及び
図5においてもX-Y方向は同様となる。
【0026】
図1に示すように、自動車10は後輪のタイヤ16の車軸がサスペンション18によりシャーシ14に対し懸架されており、シャーシ14には車体12が搭載され、車体12の内部には、左右一組のシート20が配置されている。
【0027】
本実施形態にあっては、シート20と車体12の床の間には車両シート横揺れ防止装置24が配置されている。また、シート20の一方には加速度センサ26が組み込まれており、加速度センサ26はシート20の横揺れを検出する横揺れ検出器として機能する。
【0028】
車両シート横揺れ防止装置24は、加速度センサ26で検出されたシート20の横揺れを相殺するようにシート20を駆動し、これによりシート20に座っている乗員に加わる横揺れを低減して快適な乗り心地を実現可能とする。
【0029】
[車両シート横揺れ防止装置のシステム構成]
図2は車両シート横揺れ防止装置のシステム構成を示した説明図である。
図2に示すように、シート20が搭載されたシート架台28は、両側のシート20に対応して下側に配置された2台の台車31に搭載されており、台車31はローラ30を車体床部に固定される横向きのレール部材26に乗せることで、横方向に移動自在に設けられている。
【0030】
また、台車31の間には複動シリンダ32が車体床部側に固定して配置されており、複動シリンダ32内にはピストン34が摺動自在に設けられ、ピストン34の両側から取り出したロッド36を両側に位置する台車31に連結している。台車31の外側にはリターンバネ38が配置され、台車31を図示の初期位置(中立位置)に保持させている。
【0031】
ピストン34の両側にはシリンダ室32a,32bが形成されており、シリンダ室32a,32bに対する油圧供給を切り替えることにより、ピストン34を右方向又は左方向にストロークさせ、ロッド36を介して台車31を右方向又は左方向に移動させ、結果としてシート20を右方向又は左方向に移動させるようにしている。ここで、複動シリンダ32とピストン34により複動型ピストンシリンダ機構が構成されている。
【0032】
複動型ピストンシリンダ機構に対しては制御弁として機能する3位置切替制御弁40が設けられている。3位置切替制御弁40は、油圧ポンプ等の油圧源52が接続されたポートA、タンク54が接続されたポートB、複動シリンダ32のシリンダ室32aが接続されたポートC及び複動シリンダ32のシリンダ室32bが接続されたポートDを備え、両側に配置した電磁ソレノイド42a,42bに対する通電のオン、オフにより中立位置44、第1切替位置46又は第2切替位置48の3位置切替えを行う。
【0033】
3位置切替制御弁40の中立位置44は、両側のシリンダ室32a,32bをポートC,Dを介して連通させると共に、油圧源52からの油圧を受けるポートAとタンク54に排圧するポートBをポートA,Bから切り離す。
【0034】
3位置切替制御弁40の第1切替位置46は、電磁ソレノイド42aの通電オンによる切替位置であり、ポートA,BとポートC,Dのクロス切替えとなり、油圧源52からの圧油を複動シリンダ32のシリンダ室32aに供給すると共に複動シリンダ32のシリンダ室32bをタンク54に連通し、これによりピストン34を左方向にストロークし、台車31によりシート20を左方向に移動させる。
【0035】
3位置切替制御弁40の第2切替位置48は、電磁ソレノイド42bの通電オンによる切替位置であり、ポートA,BとポートC,Dのストレート切替となり、油圧源52からの圧油を複動シリンダ32のシリンダ室32bに供給すると共に複動シリンダ32のシリンダ室32aをタンク54に連通し、これによりピストン34を右方向にストロークし、台車31によりシート20を右方向に移動させる。
【0036】
コントローラ50は制御部として機能し、例えばCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路で構成され、CPUによるプログラムの実行により加速度センサ26からの検出加速度に基づきシート横揺れ防止制御を行う。
【0037】
加速度センサ26は、シート20に固定されたセンサ自体の加速度、即ち1秒当りの速度の変化を検出するものであり、バネ定数kのバネに支えられた質量mの重りを使用し、バネの変位量xに基づき加速度αを、α=kx/mとして検出する。実際にはMEMS(Micro Electric Mechanical Systems)の技術により小型化された加速度センサ26が使用される。
【0038】
また、本実施形態の加速度センサ26は横方向の加速度のみを検出する1軸の加速度センサとする。更に、加速度センサ26は、例えば右揺れ加速度でプラスの加速度検出信号を出力し、左揺れ加速度でマイナスの加速度検出信号を出力する1軸双方向の加速度センサであるが、1軸1方向の加速度センサの場合は、右揺れ加速度を検出する加速度センサと左揺れ加速度を検出する加速度センサを別々にシート20に設ける。
【0039】
コントローラ50によるシート横揺れ防止制御は、加速度センサ26により検出された右揺れ加速度+αの絶対値が所定の加速度判定条件を充足した場合、例えば所定の閾値αth以上の場合に、3位置切替制御弁40の電磁ソレノイド42aの通電をオンして第1切替位置46に切替え、複動シリンダ32のシリンダ室32aに圧油を供給すると共にシリンダ室32bをタンク54側に連通してピストン34を左方向にストロークさせ、これにより台車31に搭載したシート20を車体12の右揺れに対し反対となる左方向に移動させる。その後、加速度センサ26により検出された右揺れ加速度+αの絶対値が所定の加速度判定条件を充足しなくなった場合、例えば閾値αth以下となった場合に、電磁ソレノイド32aの通電をオフして中立位置44に戻し、これにより台車31に搭載したシート20をリターンバネ38により初期位置(中立位置)に戻す制御を行う。
【0040】
また、コントローラ50は、加速度センサ26により検出された左揺れ加速度-αの絶対値が所定の加速度判定条件を充足した場合、例えば所定の閾値αth以上の場合に、3位置切替制御弁40の電磁ソレノイド42bの通電をオンして第2切替位置48に切替え、複動シリンダ32のシリンダ室32bに圧油を供給すると共にシリンダ室32aをタンク54側に連通してピストン34を右方向にストロークさせ、これにより台車31に搭載したシート20を車体12の左揺れに対し反対となる右方向に移動させる。その後、加速度センサ26により検出された左揺れ加速度-αの絶対値が所定の加速度判定条件を充足しなくなった場合、例えば閾値αth未満に戻った場合に、電磁ソレノイド32bの通電をオフして中立位置44に戻し、これにより台車31に搭載したシート20をリターンバネ38により初期位置(中立位置)に戻す制御を行う。
【0041】
更に、コントローラ50に対しては横揺れ防止制御をオン、オフする操作スイッチを運転席の操作パネル等に設け、運転者の判断により横揺れ防止制御を行うか否か選択可能としている。
【0042】
[車両シート横揺れ防止動作]
(自動車が右揺れした場合の横揺れ防止動作)
図3は自動車が右揺れした場合の車両シート横揺れ防止動作を示した説明図であり、
図3(A)は横揺れ防止制御をオフした場合を示し、
図3(B)は横揺れ防止制御をオンした場合を示す。
図4は自動車が右揺れした場合の横揺れ防止制御における加速度と制御弁の切替え制御を示したタイムチャートであり、
図4(A)は加速度を示し、
図4(B)は3位置切替制御弁の第1切替位置への切替動作を示し、
図4(C)は3位置切替制御弁の第2切替位置への切替動作を示す。
【0043】
図3(A)に示すように、本実施形態による横揺れ防止制御をオフした状態で走行中に車体12が、右方向に横揺れした場合には、車体12の中心軸線a-aに対する矢印で示す右揺れ加速度R1が発生し、シート20は車体12に固定されていることから、シート20の中心軸線b-bに対し矢印で示す同じ大きさの右揺れ加速度R1が発生する。
【0044】
これに対し
図3(B)に示すように、本実施形態による横揺れ防止機能をオンした状態で走行中に車体12が右方向に横揺れした場合には、車体12に右揺れ加速度R1が発生するが、車両シート横揺れ防止装置24の制御によりシート20が右揺れとは反対の左方向に移動されることで左揺れ加速度L1が発生し、これによりシート20に加わる右揺れ加速度R1が相殺され、シート20に座っている乗員は車体12の右揺れを殆ど感じることがない。
【0045】
このように車体12の右揺れ対し反対の左側に車両シート20が移動して左揺れ加速度を発生することで右揺れ加速度を相殺させる動きは、車体12が右に横揺れして中心軸線a-aが動いても、シート20の中心軸線b-bは路面に対し動かずにその位置を保ち続けるような動きとなり、その結果、シート20に座っている乗員は車体12が右揺れしても、殆ど右揺れを感じることがなく、快適な乗り心地を実現可能とする。
【0046】
この場合、
図4(A)に示すように、車体12の右揺れにより、点線で示すプラス側となる車体加速度60が発生するが、車両シート横揺れ防止装置24の制御によりシート20には実線で示すマイナス側となるシート加速度62が発生し、その結果、シード20は、プラス側の車体加速度60とマイナス側のシート加速度62の合成により相殺された加速度64を受けることとなり、この加速度64が加速度センサ26の検出加速度となり、シート20に座っている乗員は車体12の右揺れを殆ど感じることが無い。
【0047】
また、
図4(B)に示すように、3位置切替制御弁40は、シート20に設けられた加速度センサ26による検出加速度64が時刻t1で所定の閾値αth以上となった時に、電磁ソレノイド42aに対する通電オンで第1切替位置46に切り替えられ、これによりシート20が右揺れとは反対の左方向に移動されて検出加速度64が抑制され、その後、検出加速度64が閾値αthを時刻t2で下回ると、電磁ソレノイド42aに対する通電オフで中立位置44に切り替わり、シート20はリターンバネ38の力で初期位置(中立位置)に戻されることになる。
【0048】
(自動車が左揺れした場合の横揺れ防止動作)
図5は自動車が左揺れした場合の車両シート横揺れ防止動作を示した説明図であり、
図5(A)は横揺れ防止制御をオフした場合を示し、
図5(B)は横揺れ防止制御をオンした場合を示す。
図6は自動車が左揺れした場合の横揺れ防止制御における加速度と制御弁の切替え制御を示したタイムチャートであり、
図6(A)は加速度を示し、
図6(B)は3位置切替制御弁の第1切替位置への切替動作を示し、
図6(C)は3位置切替制御弁の第2切替位置への切替動作を示す。
【0049】
図5(A)に示すように、本実施形態による横揺れ防止制御をオフした状態で走行中に車体12が、紙面に向かって左方向に横揺れした場合には、車体12の中心軸線a-aに対する矢印で示す左揺れ加速度L1が発生し、シート20は車体12に固定されていることから、シート20の中心軸線b-bに対し矢印で示す同じ左揺れ加速度L1が発生する。
【0050】
これに対し
図5(B)に示すように本実施形態による横揺れ防止制御をオンした状態で走行中に車体12が左方向に横揺れした場合には、車体12に左揺れ加速度L1が発生するが、車両シート横揺れ防止装置24の制御によりシート20が左揺れとは反対の右方向に移動されることで右揺れ加速度R1が発生し、これによりシート20に加わる左揺れ加速度L1が相殺され、シート20に座っている乗員は車体12の左揺れを殆ど感じることがない。
【0051】
このように車体12の左揺れ対し反対の右側に車両シート20が移動して右揺れ加速度を発生することで左揺れ加速度を相殺させる動きは、車体12が左に横揺れして中心軸線a-aが動いても、シート20の中心軸線b-bは路面に対し動かずにその位置を保ち続けるような動きとなり、その結果、シート20に座っている乗員は車体12が左揺れしても、殆ど左揺れを感じることがなく、快適な乗り心地を実現可能とする。
【0052】
この場合、
図6(A)に示すように、車体12の左揺れにより、点線で示すマイナス側となる車体加速度70が発生するが、車両シート横揺れ防止装置24の制御によりシート20には実線で示すプラス側となるシート加速度72が発生し、その結果、シート20は、マイナス側の車体加速度70とプライス側のシート加速度72の合成により相殺された加速度74を受けることとなり、この加速度74が加速度センサ26の検出加速度となり、シート20に座っている乗員は車体12の左揺れを殆ど感じることが無い。
【0053】
また、
図6(B)に示すように、3位置切替制御弁40は、シート20に設けられた加速度センサ26による検出加速度74が時刻t1で所定の閾値-αth以下となった時(即ち、検出加速度74の絶対値が閾値αth以上となった時)に、電磁ソレノイド42bに対する通電オンで第2切替位置48に切り替えられ、これによりシート20が左揺れとは反対の右方向に移動されて検出加速度74が抑制され、その後、時刻t2で検出加速度74が閾値-αthを上回ると(即ち、検出加速度74の絶対値が閾値αthを下回ると)、電磁ソレノイド42bに対する通電オフで中立位置44に切り替わり、シート20はリターンバネ38の力で初期位置(中立位置)に戻されることになる。
【0054】
[コントローラによる横揺れ防止制御]
図7は
図2のコントローラによる横揺れ防止制御を示したフローチャートである。
図7に示すように、コントローラ50はステップS1で加速度センサ26の検出加速度を読み込んでいる。なお、検出加速度の読込みは、制御中においても所定周期で連続的に読み込まれ、常に最新の検出加速度が得られている。
【0055】
続いてコントローラ50は、ステップS2で検出加速度がプラス側の場合は右揺れ加速度と判別してステップS3に進み、右揺れ加速度の絶対値が所定の閾値以上の場合はステップS4に進んで3位置切替制御弁40をクロスポート(第1切替位置46)に切替えてシート20を左方向に駆動し、シート20に加わる右揺れ加速度を左揺れ加速度の発生により相殺して低減し、その後、ステップS5で右揺れ加速度の絶対値が閾値未満となったことを判別するとステップS1に戻る。
【0056】
一方、コントローラ50は、ステップS2で検出加速度がマイナス側の場合は左揺れ加速度と判別してステップS6に進み、左揺れ加速度の絶対値が所定の閾値以上の場合はステップS7に進んで3位置切替制御弁40をストレートポート(第2切替位置48)に切替えてシート20を右方向に駆動し、シート20に加わる左揺れ加速度を右揺れ加速度の発生により相殺して低減し、その後、ステップS8で左揺れ加速度の絶対値が閾値未満となったことを判別するとステップS1に戻る。
【0057】
[本発明の変形例]
(シート移動速度の制御)
上記の実施形態は、シートの横揺れ防止制御を行う制御弁として3位置切替制御弁を設けたが、それに加え油圧源52からポートAに対する圧油供給経路に流量制御弁を設け、車体12側に設けた加速度センサによる検出加速度に応じた流量制御弁により供給流量を制御し、これにより複動シリンダ32のピストン34の移動速度、即ち台車31によるシート20の横揺れを相殺するための移動速度を調整するようにしても良い。例えば、車体の横揺れ加速度が大きい場合は供給流量を増やしてシートの移動速度を早くし、車体の横揺れ加速度が小さい場合は供給流量を減らしてシートの移動速度を遅くする制御を行う。
【0058】
(駆動機構)
上記の実施形態は、自動車前席のセパレートシートを例にとっているが、自動車後席のベンチシートについても同様に適用できる。また、シートを台車に搭載して複動型ピストンシリンダ機構により左右に移動させているが、この構造に限定されず、シートを横方向に駆動できる構造であれば適宜の構造を用いることができる。例えば、ねじシャフトをモータ駆動により正逆回転させることでシートを左右方向に移動させる構造としても良く、シャフトの形成したラックギアに噛み合うピニオンギアをモータ駆動により正逆転させることでシャフト左右方向に移動させる構造としても良い。
【0059】
(その他)
また本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0060】
10:自動車
12:車体
14:シャーシ
16:タイヤ
18:サスペンション
20:シート
24:車両シート横揺れ防止装置
25:駆動機構
26:加速度センサ
28:シート架台
30:ローラ
32:複動シリンダ
34:ピストン
36:ロッド
38:リターンバネ
40:3位置切替制御弁
42a,42b:電磁ソレノイド
44:中立位置
46:第1切替位置
48:第2切替位置
50:コントローラ
52:油圧源