(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124000
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
H01B 3/44 20060101AFI20230830BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230830BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20230830BHJP
C08F 255/02 20060101ALI20230830BHJP
H01B 9/00 20060101ALI20230830BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20230830BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H01B3/44 F
C08K5/14
C08L51/00
C08F255/02
H01B9/00 C
C08L23/06
H01B17/56 A
H01B17/56 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027524
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000230331
【氏名又は名称】株式会社ENEOS NUC
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(72)【発明者】
【氏名】本名 陽平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順也
(72)【発明者】
【氏名】永野 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】安田 陽平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
5G305
5G333
【Fターム(参考)】
4J002BB031
4J002BB202
4J002EK036
4J002GQ01
4J026AA12
4J026BA32
4J026DB07
4J026DB13
4J026DB24
4J026DB25
4J026DB38
4J026GA09
5G305AA02
5G305AB01
5G305BA11
5G305CA01
5G333AB14
5G333BA01
5G333DA14
(57)【要約】
【課題】有害性の低い変性モノマーによる変性ポリエチレンを含有し、直流電圧に対する絶縁性に優れた樹脂架橋体を得ることができる絶縁性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】パルス静電応力法(PEA法)による空間電荷特性評価として測定される空間電荷変化率が10未満の樹脂組成物である。この樹脂組成物において、二重結合を末端に有する変性モノマーがポリエチレンにグラフトされた変性ポリエチレンを含有し、前記変性ポリエチレンは、前記変性モノマーによって導入され、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基を有していることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス静電応力法(PEA法)による空間電荷特性評価として測定される空間電荷変化率が10未満である直流電カケーブル用絶緑性樹脂組成物。
【請求項2】
二重結合を末端に有する変性モノマーがポリエチレンにグラフトされた変性ポリエチレンを含有する前記樹脂組成物であって、
前記変性ポリエチレンは、前記変性モノマーによって導入され、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基を有している請求項1に記載の直流電カケーブル用絶緑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性モノマーが、分子中に2個以上の窒素原子を含む窒素原子含有(メタ)アクリル酸誘導体である請求項2に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
前記窒素原子含有(メタ)アクリル酸誘導体が一般式:H2 C=C(R1 )CONR2 R3 (式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は水素原子またはアルキル基、R3 は、少なくとも1個の窒素原子を含む1価の有機基である)で示される(メタ)アクリルアミドである請求項3に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性モノマーがジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)であることを特徴とする請求項2に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリエチレンと、
(B)前記変性ポリエチレンと、
(C)酸化防止剤とを有する請求項2~5の何れかに記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
(D)有機過酸化物を更に含有する請求項6に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項8】
(A)ポリエチレン100質量部に対して(B)前記変性ポリエチレンを5質量部以上含有する請求項6または7に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項9】
前記変性モノマーにより導入された前記極性基の濃度が2μmol/g以上である請求項6~8の何れかに記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項10】
(A)ポリエチレン100質量部と、
(B)前記変性ポリエチレン5~18質量部と、
(C)酸化防止剤0.01~0.8質量部と、
(D)有機過酸化物0.1~5質量部とを有し、
前記変性モノマーにより導入された前記極性基の濃度が2~8μmol/gである請求項5に記載の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れかに記載の樹脂組成物を架橋して得られる樹脂架橋体。
【請求項12】
導電部材の表面に、内部半導電層と、請求項11に記載の樹脂架橋体からなる絶縁層とが積層されてなることを特徴とする直流電力ケーブル。
【請求項13】
直流電力ケーブルどうしを接続するにあたり、直流電力ケーブルの導電部材の接続部を含む前記導電部材の露出部分を被覆している接続部内部半電導層上に巻回され、架橋により前記接続部内部半電導層上に補強絶縁層を形成するための補修用のテープ状部材であって、請求項1~10の何れかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする直流電力ケーブル接続部の補強絶縁層形成用部材。
【請求項14】
直流電力ケーブルどうしが接続されてなり、直流電力ケーブルの導電部材の接続部を含む前記導電部材の露出部分を被覆している接続部内部半導電層上に、請求項11に記載の樹脂架橋体からなる補強絶縁層が形成されてなることを特徴とする直流電力ケーブル接続部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物に関し、また、この樹脂組成物を架橋して得られる樹脂架橋体、この樹脂架橋体からなる絶縁層を備えた直流電力ケーブル、直流電力ケーブルどうしを接続するにあたり使用する直流電力ケーブル接続部の補強絶縁層形成用部材、樹脂架橋体からなる補強絶縁層が形成されてなる直流電力ケーブル接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メンテナンスが容易で、油漏えいの危険性がない直流電力ケーブルとして、絶縁性樹脂組成物によって形成される絶縁層を備えた直流電力ケーブルが紹介されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
また、押出加工する際のトルクが適正で押出加工性に優れ、押出成形体において、ケーブル絶縁体の真円率の低下を招くサグが生じにくく、耐スコーチ性が良好であるとともに、ケーブルどうしを接続する際の再加熱時に発生する二次分解水量が少なく、良好な直流電気特性を安定して発揮する絶縁層を形成することができるとともに、押出加工する際の樹脂圧力が安定していて、押出安定性に優れ、厚みのバラツキが小さい絶縁層を形成することができる直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物として、(A)130℃、周波数100rad/sにおける複素粘度η*
100 が600~1300Pa・sであり、かつ130℃、周波数0.1rad/sにおける複素粘度η*
0.1 と、複素粘度η*
100 との比(η*
0.1 /η*
100 )が4以上である低密度ポリエチレン100質量部と、(B)不飽和有機酸およびその誘導体から選ばれた少なくとも1種の変性モノマーがポリエチレンにグラフトされた変性ポリエチレン5~12質量部と、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤40~60重量%とチオエーテル系酸化防止剤60~40重量%との混合物からなる安定剤0.01~0.8質量部とを有する樹脂組成物であって、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量に対する、(B)成分により樹脂組成物中に導入されたカルボニル基の量が7~13μmol/gである樹脂組成物が、本出願人により紹介されている(下記特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載の樹脂組成物において、(B)成分を得るための好適な変性モノマーとして無水マレイン酸(MAH)が記載されている。
無水マレイン酸により変性された変性ポリエチレンを含有させて樹脂組成物を製造することにより、これを架橋して得られる樹脂架橋体は、直流電圧下において空間電荷が蓄積されにくくなり、直流電圧に対して優れた絶縁性を発揮することができる。
樹脂組成物を架橋するための架橋剤としては、有機過酸化物が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-7653号公報
【特許文献2】特許第6205032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無水マレイン酸は劇物であり、変性ポリエチレンの調製時において人体への有害性が懸念される。
また、先行技術においてはケーブルによる空間電荷特性測定が必要であったが、絶縁材の評価においては、ケーブルを作製する必要のない、簡易的な方法が求められている。
【0007】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、有害性の低い変性モノマーにより変性された変性ポリエチレンを含有し、直流電圧に対する絶縁性に優れた(無水マレイン酸により変性した変性ポリエチレンを含有する樹脂組成物の架橋体と同等以上の絶縁性を具備する)樹脂架橋体を得ることができる直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、直流電圧に対する絶縁性に優れた絶縁材であるか否かを簡易的に評価する方法を確立するとともに、当該方法により直流電圧に対する絶縁性に優れていると評価された直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明者が鋭意研究を重ねたところ、特許文献2に記載の無水マレイン酸により変性した変性ポリエチレンを含有する樹脂組成物の架橋体と同等以上の絶縁性を具備することを簡易的に評価する方法を見出すとともに、有機過酸化物架橋剤の分解残渣であるアセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンに対する結合エネルギーが高い極性基が導入(グラフト)された変性ポリエチレンを含有させることにより、得られる樹脂組成物の架橋体における空間電荷の移動が抑制されてその蓄積が抑制されることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
(1)すなわち、本発明の直流電力ケーブル用絶縁性樹脂組成物は、パルス静電応力法(PEA法)による空間電荷特性評価として測定される空間電荷変化率が10未満であることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の樹脂組成物において、二重結合を末端に有する変性モノマーがポリエチレンにグラフトされた変性ポリエチレンを含有し、
前記変性ポリエチレンは、前記変性モノマーによって導入され、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基を有していることが好ましい。
以下、上記のような極性基を導入可能な前記変性モノマーを「特定の変性モノマー」という。
【0011】
本発明者の検討によれば、前記正イオンとの結合エネルギーと、電荷移動の指標である電荷変化率(後述)とは相関関係があり、前記正イオンとの結合エネルギーが高いほど、電荷変化率は小さくなる(電荷移動が抑制される)。
そして、前記正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基を有する変性ポリエチレンを含有して樹脂組成物を製造し、これを架橋して得られる樹脂架橋体は、有機過酸化物の分解残渣であるアセトフェノンなどの電荷キャリアが捕捉されて、電荷の移動を抑制することができ、これにより、電荷の蓄積量を抑制することができ、延いては、直流電圧に対する優れた絶縁性を発揮することができる。
【0012】
(3)上記(2)の樹脂組成物において、特定の変性モノマーが、分子中に2個以上の窒素原子を含む窒素原子含有(メタ)アクリル酸誘導体であることが好ましい。
【0013】
(4)上記(3)の樹脂組成物において、前記窒素原子含有(メタ)アクリル酸誘導体が一般式:H2 C=C(R1 )CONR2 R3 (式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は水素原子またはアルキル基、R3 は、少なくとも1個の窒素原子を含む1価の有機基である)で示される(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0014】
(5)上記(2)の樹脂組成物において、特定の変性モノマーがジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)であることが特に好ましい。
【0015】
(6)上記(2)~(5)の樹脂組成物において、(A)ポリエチレンと、(B)前記変性ポリエチレンと、(C)酸化防止剤とを有することが好ましい。
【0016】
(7)上記(6)の樹脂組成物において、(D)有機過酸化物を更に含有することが好ましい。
【0017】
(8)上記(6)または(7)の樹脂組成物において、(A)ポリエチレン100質量部に対して(B)変性ポリエチレンを5質量部以上含有することが好ましい。
【0018】
(9)上記(6)~(8)の樹脂組成物において、特定の変性モノマーにより導入された前記極性基の濃度が2μmol/g以上であることが好ましい。
【0019】
(10)上記(5)の樹脂組成物において、 (A)ポリエチレン100質量部と、
(B)前記変性ポリエチレン5~18質量部と、
(C)酸化防止剤0.01~0.8質量部と、
(D)有機過酸化物0.1~5質量部とを有し、
特定の変性モノマーにより導入された前記極性基の濃度が2~8μmol/gであることが好ましい。
【0020】
(11)本発明の樹脂架橋体は、本発明の樹脂組成物を架橋して得られることを特徴とする。
【0021】
(12)本発明の直流電力ケーブルは、導電部材の表面に、内部半導電層と、本発明の樹脂架橋体からなる絶縁層とが積層されてなることを特徴とする。
【0022】
(13)本発明の補強絶縁層形成用部材は、直流電力ケーブルどうしを接続するにあたり、直流電力ケーブルの導電部材の接続部を含む前記導電部材の露出部分を被覆している接続部内部半電導層上に巻回され、架橋により前記接続部内部半電導層上に補強絶縁層を形成するための補修用のテープ状部材であって、本発明の樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0023】
(14)本発明の直流電力ケーブル接続部は、直流電力ケーブルどうしが接続されてなり、直流電力ケーブルの導電部材の接続部を含む前記導電部材の露出部分を被覆している接続部内部半導電層上に、本発明の樹脂架橋体からなる補強絶縁層が形成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の樹脂組成物によれば、無水マレイン酸により変性した変性ポリエチレンを含有する樹脂組成物の架橋体と同等以上の、直流電圧に対する優れた絶縁性を有する樹脂架橋体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の直流電力ケーブルの一例を示す横断面図である。
【
図2】本発明の直流電力ケーブル接続部の一例を示す縦断面図である。
【
図3】結合エネルギーの平均値<E>を計算する手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の樹脂組成物は、ポリエチレンからなる(A)成分と、変性ポリエチレンからなる(B)成分と、酸化防止剤からなる(C)成分と、有機過酸化物からなる(D)成分とを含有する。
【0027】
<(A)成分>
本発明の樹脂組成物の(A)成分であるポリエチレンとしては特に限定されるものではなく、従来公知の高圧法低密度ポリエチレンなどを好適に使用することができる。
(A)成分の市販品としては、「NUC-8160」(株式会社 ENEOS NUC製)などを挙げることができる。
【0028】
<(B)成分>
本発明の樹脂組成物を構成する(B)成分は、下記式で示されるアセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基を有している変性ポリエチレンである。
【0029】
【0030】
なお、「アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオン」は、(B)成分の有する前記極性基との結合エネルギーを求めるための正イオンであって、本発明の樹脂組成物の必須の構成成分ではない。但し、この正イオンは、(D)成分の分解残渣(電荷キャリア)として、本発明の樹脂組成物の架橋体中に不可避的に存在する。
【0031】
変性ポリエチレンの有する前記極性基(変性モノマーに由来する極性基)と、前記正イオンとの結合エネルギーは計算により求めることができる。
【0032】
変性ポリエチレン内における電荷キャリアの拡散によって空間電荷変化率が増加すると仮定すると、変性ポリエチレンの有する前記極性基に対する電荷キャリアの結合の強さが大きければ電荷キャリアが拡散しにくくなるので、空間電荷変化率を低く抑えることができる。
本発明では、変性ポリエチレンの有する前記極性基と、電荷キャリアである前記正イオンとの結合の強さを結合エネルギーにより数値化し、分子シミュレーションでこれを算出する。
【0033】
具体例を示すと、ポリエチレン主鎖に無水マレイン酸がグラフトした変性ポリエチレンについて、無水マレイン酸に由来の極性基と、前記正イオンとの結合エネルギーは、当該変性ポリエチレン分子の周辺に前記正イオンをランダムに配置してその分子間力を求めることによって得ることができる。
その際に分子シミュレーションを用いて十分な配座探索(100以上、可能であれば1000以上の配置)により、各構造(配置)ごとに全エネルギーを計算することで、すべての構造についての全エネルギーの分布を得ることができる。
得られた全エネルギーの分布から、変性ポリエチレンおよび前記正イオンの孤立分子のエネルギーを差し引くことで結合エネルギーの分布が得られる。
この結合エネルギーの分布は低エネルギーから高エネルギーの状態までを含む。実際の実験環境では、例えば室温である場合、その温度に対応した高エネルギー状態を取ることが可能で、その状態はボルツマン分布に従う。従って、結合エネルギーの平均値<E>は下記の数式で与えられる。
【0034】
【0035】
上記数式において、E(x)は、任意の構造xにおける結合エネルギー、kB はボルツマン定数、Tは絶対温度、Nは規格化定数である。
【0036】
本発明(請求項2)において規定する「結合エネルギー」とは、結合エネルギーの分布から上記数式で算出される「結合エネルギーの平均値<E>」のことである。
【0037】
結合エネルギーの平均値<E>を計算する手順の一例を示すフローチャートを
図3に示す。但し、計算手順はこれに限定されるものではない。
【0038】
以下に、ポリエチレン主鎖に下記の化合物をグラフトさせた変性ポリエチレンの各々について、当該化合物に由来の極性基と、前記正イオンとの結合エネルギー(上記の方法により算出した結合エネルギーの平均値<E>)を示す。
【0039】
・ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(0.46eV)
・N-メチル-N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド(0.46eV)
・無水マレイン酸(0.46eV)
・2-(2-エトキシ)エトキシエチルアクリレート(0.42eV)
・2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(0.42eV)
・2-アリルマロン酸(0.40eV)
・ジメチルアミノエチルアクリルアミド(0.40eV)
・ジエチルアミノエチルアクリルアミド(0.38eV)
・2-エチルヘキシルアクリレート(0.32eV)
・トリアリルイソシアヌレート(0.32eV)
・アジピン酸ジアリル(0.30eV)
・アミノプロピルアクリルアミド(0.30eV)
・N-アリルオキシフタルイミド(0.30eV)
・ヒドロキシメチルアクリルアミド(0.28eV)
参考までに、グラフトさせていないポリエチレンと前記正イオンとの結合エネルギーは0.22eVであった。
【0040】
正イオンとの結合エネルギーが0.44eV以上である極性基は、特定の変性モノマーにより導入される(このような極性基を導入することができて、末端に二重結合を有する変性モノマーが特定の変性モノマーである)。
【0041】
特定の変性モノマーでポリエチレンを変性して前記極性基を導入した変性ポリエチレンである(B)成分を調製し、得られた(B)成分を所定の割合で含有させることにより、後述する(D)成分の残渣であるアセトフェノンなどの電荷キャリアが捕捉されて、電荷の移動を抑制することができる。
【0042】
特定の変性モノマーは、その分子末端に二重結合を有している。
これにより、無水マレイン酸のような分子末端に二重結合を有してないモノマーよりも変性時(グラフト反応)の反応性が高い点で有利となる。
反応性が高い特定の変性モノマーを使用することにより、副反応によるポリエチレンの架橋反応に由来する高分子量ゲルの生成を抑制することが期待される。
特定の変性モノマーの具体例としては、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドなど、分子中に窒素原子を2個以上含む窒素原子含有(メタ)アクリル酸誘導体を挙げることができる。
これらのうち、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが特に好ましい。
【0043】
(B)成分の含有割合としては、(A)成分100質量部に対して通常5質量部以上とされ、好ましくは5~18質量部とされる。
(B)成分の含有割合が5質量部未満であると、(A)成分に対して(B)成分を均一分散させることが困難となる。この結果、得られる樹脂組成物の架橋体において空間電荷の移動を十分に抑制することができず、直流電荷の印加によって蓄積する空間電荷により、直流電力ケーブルの絶縁材料として十分な性能を発揮することができない(後述する比較例2参照)。
他方、(B)成分の含有割合が18質量部を超えて配合しても、配合量の増加に見合う効果の向上が得られない。
【0044】
(B)成分の調製方法としては、ポリエチレン、特定の変性モノマー、酸化防止剤および有機過酸化物を押出機内で混合して加熱することにより反応させ、ペレット状もしくは顆粒状に造粒する方法を挙げることができる。
なお、(B)成分を調製する際に使用される酸化防止剤は、(B)成分の合成とともに失活し、樹脂組成物中において(C)成分を構成するものとはならない。
【0045】
<(C)成分>
本発明の樹脂組成物を構成する(C)成分としても特に限定されるものではなく、電力ケーブル用の絶縁性樹脂組成物に使用されている従来公知の酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤など)を挙げることができる。
(C)成分の含有割合としては、(A)成分100質量部に対して0.01~0.8質量部とされ、好ましくは0.2~0.6質量部とされる。
(C)成分の含有割合が0.01質量部未満であると、得られる樹脂組成物の耐スコーチ性が劣り、当該樹脂組成物を架橋して得られる樹脂架橋体の耐熱性が劣る。
他方、(C)成分の含有割合が0.8質量部を超えると、得られる樹脂組成物によって二次分解水量が少ない樹脂架橋体を形成することができず、得られる樹脂架橋体からのブリードも増加する。
【0046】
<(D)成分> 本発明の樹脂組成物を構成する(D)成分である有機過酸化物は架橋剤として作用する。
(D)成分の具体例としては、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(日油社製パーヘキシルD)、ジクミルパーオキサイド(日油社製パークミルD)、2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製パーヘキサ25B)、α, α' -ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日油社製パーブチルP )、t-ブチルクミルパーオキサイド(日油社製パーブチルC)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(日油社製パーブチルD)等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、ジクミルパーオキサイドが好ましい。
(D)成分の含有割合は、(A)成分100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.5~3質量部である。
配合量が過少であると架橋が十分に行われず、得られる架橋体の機械特性および耐熱性が低下する。他方、配合量が過剰であると、得られる樹脂組成物を押出成形する際にスコーチが発生し、電気特性が低下する。
【0047】
<特定の変性モノマーにより導入された極性基の濃度>
本発明の樹脂組成物において、特定の変性モノマーにより導入された極性基の濃度(グラフト量)は、通常2μmol/g以上とされ、好ましくは2~8μmol/g、好適な一例を示せば4μmol/gである。
この極性基の濃度が2μmol/g未満である樹脂組成物によって得られる樹脂架橋体は、空間電荷の移動を十分に抑制することができず、直流電力ケーブルの絶縁材料として十分な性能を発揮することができない(後述する比較例2参照)。
【0048】
ここに、「極性基の濃度」とは、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量に対する、特定の変性モノマーにより導入された(B)成分の極性基のモル数をいう。
変性モノマーにより導入された極性基の濃度(グラフト量)は、後述するように測定値である。
【0049】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(A)~(C)成分を含有し、これを架橋する(樹脂架橋体を得る)ときに、(D)成分を含有する。
また、本発明の効果が損なわれない範囲で、各種の安定剤およびその他の添加剤が含有されていてもよい。ここに、安定剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤などを挙げることができる。また、その他の添加剤としては、無機フィラー、有機フィラー、滑剤、分散剤などを挙げることができる。
【0050】
<樹脂架橋体>
本発明の樹脂組成物は(D)成分である有機過酸化物で架橋することができる。
本発明の樹脂架橋体は、本発明の樹脂組成物を、(D)成分である有機過酸化物で架橋するこにより得られる。
【0051】
本発明の樹脂架橋体からなるシートの電荷変化率は10%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下とされる。
直流高電圧印加によって空間電荷がケーブル絶縁体中に蓄積した場合、逆極性のインパルスの印加や極性反転がなされると絶縁特性が著しく低下する。
そこで、樹脂架橋体における電荷変化率が10%以下であることにより、良好な直流電気特性を安定して発揮する直流電力ケーブルを得ることができる。
特定の変性モノマーにより導入された前記極性基の濃度(グラフト量)が2μmol/g以上である本発明の樹脂組成物を架橋することにより、得られる架橋体における電荷変化率を10%以下とすることができる。
【0052】
<直流電力ケーブル>
本発明の直流電力ケーブルは、導電部材の表面に、内部半導電層と、本発明の樹脂架橋体からなる絶縁層とが積層されてなる。
図1は、本発明の直流電力ケーブルの一例を示す横断面図である。
図1に示す直流電力ケーブル10は、導体11の外周面に、内部半導電層12と、本発明の樹脂架橋体からなる絶縁層13と、外部半導電層14とが積層形成され、更に、外部半導電層14の外周面に、金属遮蔽層15と、シース16とが積層配置されている。
【0053】
図1に示す本発明の直流電力ケーブル10は、導体11を被覆する内部半導電層12とともに本発明の樹脂組成物を押出成形し(この際、外部半導電層14を同時に押出成形してもよい)、当該樹脂組成物を架橋処理して樹脂架橋体からなる絶縁層13を形成し、次いで、常法に従って、金属遮蔽層15およびシース16を設けることにより製造することができる。
【0054】
絶縁層13(樹脂架橋体)を形成するための架橋処理方法としては特に限定されるものではないが、通常、加圧加熱処理等が使用される。
一例として、窒素雰囲気下で、圧力10kg/cm2 、温度280℃の加圧加熱を行い、(D)成分を開始剤とするラジカル反応により樹脂組成物の架橋を進行させる。
【0055】
本発明の直流電力ケーブル10は、良好な直流電気特性を発揮し、絶縁層13の破壊が生じにくい。
【0056】
<直流電力ケーブル接続部>
本発明の直流電力ケーブル接続部は、直流電力ケーブルの導電部材の接続部を含む当該導電部材の露出部分を被覆している接続部内部半導電層上に、本発明の樹脂架橋体からなる補強絶縁層が形成されてなる。
【0057】
図2は、本発明の直流電力ケーブル接続部の一例を示す縦断面図である。
図2に示す直流電力ケーブル接続部20は、2本の直流電力ケーブル10A,10Bが接続されてなり、直流電力ケーブル10Aの導体11Aと直流電力ケーブル10Bの導体11Bとの接続部17を含む導体の露出部分を被覆している接続部内部半導電層22上に、本発明の樹脂架橋体からなる補強絶縁層23と、接続部外部半導電層24とが積層形成されてなる。
【0058】
同図において、13Aは直流電力ケーブル10Aの絶縁層、13Bは直流電力ケーブル10Bの絶縁層であり、絶縁層13Aおよび13Bは、本発明の樹脂架橋体からなる。
また、12A,14A,15Aおよび16Aは、それぞれ、直流電力ケーブル10Aの内部半導電層、外部半導電層、金属遮蔽層およびシースである。
また、12B,14B,15Bおよび16Bは、それぞれ、直流電力ケーブル10Bの内部半導電層、外部半導電層、金属遮蔽層およびシースである。
【0059】
直流電力ケーブル10Aと直流電力ケーブル10Bとを接続して、
図2に示したような直流電力ケーブル接続部20を形成する際には、導体11Aと導体11Bとの接続部17を含む導体の露出部分を被覆している接続部内部半電導層22上に、本発明の樹脂組成物により作製されたテープ状部材(本発明の補強絶縁層形成用部材)を巻きつけてなるものを加熱処理して架橋させることにより、本発明の樹脂架橋体からなる補強絶縁層23を形成する。
【0060】
本発明の補強絶縁層形成用部材を加熱処理して補強絶縁層23を形成する際には、直流電力ケーブル10Aの絶縁層13Aおよび直流電力ケーブル10Bの絶縁層13Bも加熱されるが、絶縁層13A,13Bが本発明の樹脂架橋体からなることにより、当該絶縁層13A,13Bから発生する二次分解水量を少なくすることができる。
また、形成される補強絶縁層23における空間電荷の蓄積も抑制することができる。
【0061】
ケーブル接続部の製造方法としては、電圧階級、用途、施工環境などに応じて、種々の方法を採用することができ、例えば、テープモールドジョイント(TMJ)、押出モールドジョイント(EMJ)、ブロックモールドジョイント(BMJ)などを例示することができる。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0063】
<分析方法>
(1)MFR:JIS K 7210に従い、測定温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定した。
【0064】
(2)密度:JIS K 7112に従い測定した。
【0065】
(3)変性モノマーにより導入された極性基の濃度測定:
(3-1)試料の作製
120℃、1MPa、5分間にわたり予熱された樹脂組成物を、180℃、15MPa、15分間にわたりプレス機で加熱することにより、厚み約0.2mmの架橋シート(シート状の樹脂架橋体)を作製した。この架橋シートをクロロホルムに浸漬させ、未反応の変性モノマーを取り除いた。
【0066】
(3-2)赤外吸収スペクトルの測定:
赤外分光光度計「FT/IR-4200」(日本分光(株)製)を用いて積算回数16回、分解能4cm-1の条件で500cm-1~4000cm-1までの波数範囲で測定し、1650~1750cm-1付近の変性モノマーに特徴的な吸収ピークの吸光度(ベースライン1600~1840cm-1)と、2020cm-1付近のポリエチレンに特徴的な吸収ピークの吸光度(ベースライン1980~2110cm-1)の比率を記録した。
【0067】
(3-3)極性基の濃度の算出:
濃度既知の試料により作製した検量線を用いて、上記の変性モノマー/ポリエチレン比率から変性モノマーにより導入された極性基の濃度を算出した。
【0068】
<極性基と正イオンとの結合エネルギーの計算条件>
(1)使用したソフトウエア:
・クラウドサービスMatlantis(PFP version 1.1.0,Grimme D3 分散力補正)
【0069】
(2)参考文献:
So Takamoto, Chikashi Shinagawa, Daisuke Motoki, Kosuke Nakago, Wenwen Li, Iori Kurata, Taku Watanabe, Yoshihiro Yayama, Hiroki Iriguchi, Yusuke Asano, Tasuku Onodera, Takafumi Ishii, Takao Kudo, Hideki Ono, Ryohto Sawada, Ryuichiro Ishitani, Marc Ong, Taiki Yamaguchi, Toshiki Kataoka, Akihide Hayashi, and Takeshi Ibuka, PFP: Universal Neural Network Potential for Material Discovery. arXiv:2106.14583v1 Condensed Matter
【0070】
(3)構造最適化計算:
・最適化アルゴリズム:FIRE(原子座標)、Exp Cell Filter(周期構造)
・計算収束条件:0.05eV/Å以下
・PE周期構造:C12H24、a=15.2533Å、b=20.0Å、c=20.0Å、直方体
【0071】
(4)結合エネルギーサンプリング:
状態数:2000
ボルツマン分布:300Kelvin
【0072】
<ポリエチレンの準備>
高圧法チューブラー法によって得られ、MFR=2.0~3.0g/10min、密度=0.92g/cm3 である低密度ポリエチレン(A1)を準備した。
【0073】
<変性ポリエチレンの調製>
(1)調製例B1(本発明用):
低密度ポリエチレン(A1)100質量部に対して、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド1.1質量部およびヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1010」(BASF社製)0.05質量部を添加し、有機過酸化物である2, 5-ジメチル-2, 5-ビス(ターシャルブチルパーオキシ)ヘキシン-3「パーヘキシン25B」(日本油脂社製)0.05質量部を用いて押出機内で混合して加熱することにより反応させることにより、グラフト共重合体からなる変性ポリエチレン(B1)を得た。
ここに、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドにより導入された変性ポリエチレン(B1)の極性基と、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギー(算出された結合エネルギーの平均値<E>)は0.46eVである。
【0074】
(2)調製例B2(比較用):
ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに代えてヒドロキシメチルアクリルアミド0.7質量部を使用したこと以外は調製例B1と同様にしてグラフト共重合体からなる変性ポリエチレン(B2)を得た。
ここに、ヒドロキシメチルアクリルアミドにより導入された変性ポリエチレン(B2)の極性基と、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギー(算出された結合エネルギーの平均値<E>)は0.28eVである。
【0075】
(3)調製例B3(比較用):
ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに代えて2-エチルヘキシルアクリレート1.2質量部を使用したこと以外は調製例B1と同様にしてグラフト共重合体からなる変性ポリエチレン(B3)を得た。
ここに、2-エチルヘキシルアクリレートにより導入された変性ポリエチレン(B3)の極性基と、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギー(算出された結合エネルギーの平均値<E>)は0.32eVである。
【0076】
(4)調製例B4(比較用):
ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに代えて2-(2-エトキシ)エトキシエチルアクリレート1.1質量部を使用したこと以外は調製例B1と同様にしてグラフト共重合体からなる変性ポリエチレン(B4)を得た。
ここに、2-(2-エトキシ)エトキシエチルアクリレートにより導入された変性ポリエチレン(B4)の極性基と、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギー(算出された結合エネルギーの平均値<E>)は0.42eVである。
【0077】
(5)調製例B5(参考用):
ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに代えて、二重結合を末端に有していない変性モノマーである無水マレイン酸0.7質量部を使用したこと以外は調製例B1と同様にしてグラフト共重合体からなる変性ポリエチレン(B5)を得た。
ここに、無水マレイン酸により導入された変性ポリエチレン(B5)の極性基と、アセトフェノンに水素イオンが結合された正イオンとの結合エネルギー(算出された結合エネルギーの平均値<E>)は0.46eVである。
【0078】
<酸化防止剤の準備>
(C)成分として、チオエーテル系酸化防止剤「シーノックスBCS」(シプロ化成製)を準備した。
【0079】
<有機過酸化物の準備>
(D)成分として、ジクミルパーオキサイドからなる架橋剤を準備した。
【0080】
<実施例1~3>
低密度ポリエチレン(A1)100質量部と、下記表1に示す配合量の変性ポリエチレン(B1)と、(C)成分0.2質量部と、(D)成分1.5質量部とを混合することにより本発明の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の各々について測定した変性モノマーによって導入された極性基の濃度を併せて表1に示す。
【0081】
<比較例1>
下記表1に示す処方に従って、(B)成分を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。
【0082】
<比較例2>
下記表1に示す処方に従って、変性ポリエチレン(B1)の使用量を3質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における変性モノマーにより導入された極性基の濃度は1μmol/gであった。
【0083】
<比較例3>
下記表1に示す処方に従って、変性ポリエチレン(B1)に代えて変性ポリエチレン(B2)18質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における変性モノマーにより導入された極性基の濃度は8μmol/gであった。
【0084】
<比較例4>
下記表1に示す処方に従って、変性ポリエチレン(B1)に代えて変性ポリエチレン(B3)18質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における変性モノマーにより導入された極性基の濃度は8μmol/gであった。
【0085】
<比較例5>
下記表1に示す処方に従って、変性ポリエチレン(B1)に代えて変性ポリエチレン(B4)18質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における変性モノマーにより導入された極性基の濃度は8μmol/gであった。
【0086】
<参考例1>
下記表1に示す処方に従って、変性ポリエチレン(B1)に代えて変性ポリエチレン(B5)15質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして参考用の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における変性モノマーにより導入された極性基の濃度は7μmol/gであった。
【0087】
<評価>
上記の実施例、比較例および参考例で得られた樹脂組成物の各々について、樹脂組成物により得られる樹脂架橋体の空間電荷特性の評価(電荷変化率の測定)を行った。測定方法、評価方法、評価基準は下記のとおりである。結果を併せて下記表1に示す。
【0088】
(1)空間電荷変化率の測定(空間電荷特性の評価):
実施例1~3、比較例1~5および参考例1により得られた樹脂組成物の各々を、温度120℃、圧力1MPaで5分間プレスしてシート状に成型した後、温度180℃、圧力15MPaで15分間プレスすることにより、厚み0.2mmの架橋シート(樹脂架橋体)を得た。
得られた架橋シートの各々について、パルス静電応力法(PEA法)による空間電荷特性評価として空間電荷変化率を測定した。
具体的には、温度23℃の温度条件下、負極性40kV/mmの直流電界を30分間にわたり連続して架橋シートに印加し、印加開始時における最大電荷密度(単位C/m3 )の値(C0 )および印加終了時における最大電荷密度の値(C30)から、式〔(C0 -C30)/C0 〕×100で算出される空間電荷変化率を測定した。
この空間電荷変化率が小さいほど、直流高電圧課電時の空間電荷の移動・蓄積が低く、空間電荷特性に優れているといえる。
評価基準としては、電荷変化率が10%以下である場合を「合格」とし、10%を超える場合を「不合格」とした。
【0089】
表1の実施例1~3および比較例2の結果から、架橋シートの空間電荷変化率は、使用したジメチルアミノプロピルアクリルアミドにより導入された極性基の濃度に依存し、2μmol/g以上の濃度のときに空間電荷変化率が10%未満となることが分かる。また、このモノマー濃度が4μmol/g以上になると、架橋シートの空間電荷変化率にほとんど変化がなく、空間電荷特性改良効果が飽和していることも分かる。
これに対して、比較例3~4の結果から、使用した変性モノマーにより導入された極性基の濃度が8μmol/gであっても空間電荷特性改良効果が不十分であることが分かる。
【0090】