(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124006
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電気刺激装置の作動方法及び電気刺激装置を用いる生体治療方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027532
(22)【出願日】2022-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月29日にオンライン学会である第126回日本解剖学会にてポスター発表 令和3年11月16日に第126回日本解剖学会の英文抄録集に掲載(掲載アドレス:https://www.anatomy.or.jp/file/pdf/meet/abstract_126.pdf) 令和3年9月14日にオンライン学会である第39回日本骨代謝学会学術集会のプログラム抄録集に掲載(掲載アドレス:https://www.ac-square.co.jp/member/jsbmr/img/users/r_10881726img20211008091215.pdf) 令和3年10月8日にオンライン学会である第39回日本骨代謝学会学術集会にて口頭で発表
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】大迫 正文
(72)【発明者】
【氏名】ソウ セツセイ
(72)【発明者】
【氏名】金子 卓樹
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】デトモド ティタポーン
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 健治
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ26
4C053JJ27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ベクトルポテンシャル発生装置による電気刺激が、種々の疾患、特に、関節軟骨に与える影響を明らかにし、この電気刺激装置の作動方法及び当該装置を用いる生体治療方法を提供する。
【解決手段】絶縁皮膜を有する芯線21と、芯線を巻軸として、芯線に対して隙間無く巻回された外線22とからなる基礎線材10を備え、基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部20を更に有し、芯線の一端が外線の一端と電気的に繋がれ、芯線の他方が外部回路8の一端に接続し、外線の他方が前記外部回路の他端に接続する電気刺激装置1の作動方法であって、筒部が、その内部に生体又は生体の一部を保持するステップと、生体又は生体の一部に電気刺激を与えるために、外部回路に治療上有効な時間、交流電流を発生させるステップと、を含むことを特徴とする電気刺激装置の作動方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁皮膜を有する芯線と、前記芯線を巻軸として、前記芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる基礎線材を備え、前記基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部を更に有し、前記芯線の一端が前記外線の一端と電気的に繋ぎ、前記芯線の他方が外部回路の一端に接続し、前記外線の他方が前記外部回路の他端に接続する電気刺激装置の作動方法であって、
前記筒部が、その内部に生体又は生体の一部を保持するステップと、
前記生体又は生体の一部に電気刺激を与えるために、前記外部回路に治療上有効な時間、交流電流を発生させるステップと、
を含むことを特徴とする電気刺激装置の作動方法。
【請求項2】
前記生体の一部が、幹細胞または被検者の骨、関節若しくは靭帯である請求項1に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項3】
前記生体の一部が、変形性膝関節症の治療を必要とする被検者の膝関節である請求項1又は2に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項4】
前記交流電流の周波数が、10~50kHzである請求項1~3のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項5】
前記交流電流の周波数が、20kHzである請求項1~4のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項6】
前記治療上有効な時間が、少なくとも30分/日である請求項1~5のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項7】
前記筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mとなるように、前記外部回路に交流電流を印加する請求項1~6のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項8】
前記筒部内の電場強度が0.22V/mとなるように、前記外部回路に交流電流を印加する請求項1~7のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【請求項9】
前記筒部が複数層を同心形状に形成されている請求項1~8のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激装置の作動方法及びこの電気刺激装置を用いる生体の治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変形性膝関節症に対して通電刺激を利用した療法が臨床現場で行われている。例えば、特許文献1には、部分的に絶縁されたスクリュを介して骨及び近接した軟組織に電流を印加することによって骨成長及び組織治癒を促進するための方法及び装置が開示されている。また、特許文献2には、小型の薄いコインサイズの埋め込み型電気鍼(EA)デバイス及びこれを動作させる際に採用する改善された電極等が開示されている。
【0003】
しかし、これらの療法に関しては、患者に対して手術を行うか、皮膚を通して患部まで鍼を挿入することで、患者に対して非常に衝撃的な刺激を与えてしまう。また、これらの衝撃的刺激により、患者の皮膚や筋肉が収縮してしまい、治療効果が落ちる可能性がある。
【0004】
また、経皮通電刺激による治療方法として、特許文献3には電気刺激を用いて、線維筋痛、並びに、中枢性疼痛、中枢性過敏、及び異常な脳の神経回路ネットワークの接続性を含む他の神経学的疾患を治療する方法及び装置が開示されている。経皮通電刺激は、皮膚や皮下脂肪や体液などの影響で、電流が患部の深層まで届けられなく、治療効果が理想的ではない。
【0005】
一方、磁場を発生させずにベクトルポテンシャルを発生させることで、直線状の電界を発生させ外部に仕事をしうる非接触空間電界発生装置が開示されている(例えば、特許文献4参照)。そして、この原理を用いて作製された、より治癒時間が短く、生体への負担が少なく、取り付け簡単な電気刺激装置により、骨折、骨粗しょう及びその他の人体損傷や、腫瘍などを治療しうることが報告されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2017-507751号公報
【特許文献2】特開2019-146976号公報
【特許文献3】特表2017-503612号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2015/099147パンフレット
【特許文献5】特開2020-58523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5に開示された電気刺激装置では、確かに、生体への負担が少なく取り付け簡単な装置により所定の人体部位、例えば骨部位などに電気刺激することも可能となり、骨折の回復を早め、骨粗しょう症などの進行を抑制することが示唆されているが、この電気刺激装置の具体的な作動方法及び治療対象となるその他の疾患については必ずしも明らかではない。
【0008】
そこで、本開示は、特許文献5に開示されたようなベクトルポテンシャル発生装置による電気刺激が、種々の疾患、特に、関節軟骨に与える影響を明らかにし、この電気刺激装置の作動方法及び当該装置を用いる生体治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、ベクトルポテンシャルの発生による電気刺激が、生体における様々な機能を改善すること、特に、関節軟骨に働きかけてその正常な構造と機能を維持しうることを見出した。すなわち、本開示は以下の実施形態を含む。
【0010】
[1]絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として、芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる基礎線材を備え、基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部を更に有し、芯線の一端が外線の一端と電気的に繋がれ、芯線の他方が外部回路の一端に接続し、外線の他方が前記外部回路の他端に接続する電気刺激装置の作動方法であって、筒部が、その内部に生体又は生体の一部を保持するステップと、生体又は生体の一部に電気刺激を与えるために、外部回路に治療上有効な時間、交流電流を発生させるステップと、を含むことを特徴とする電気刺激装置の作動方法。
[2]生体の一部が、幹細胞又は被検者の骨、関節若しくは靭帯である[1]に記載の電気刺激装置の作動方法。
[3]生体の一部が、変形性膝関節症の治療を必要とする被検者の膝関節である[1]又は[2]に記載の電気刺激装置の作動方法。
[4]交流電流の周波数が、10~50kHzである[1]~[3]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
[5]交流電流の周波数が、20kHzである[1]~[4]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
[6]治療上有効な時間が、少なくとも30分/日である[1]~[5]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
[7]筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する[1]~[6]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
[8]筒部内の電場強度が0.22V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する[1]~[7]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
[9]筒部が複数層を同心形状に形成されている[1]~[8]のいずれか一項に記載の電気刺激装置の作動方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベクトルポテンシャル発生装置を用いた電気刺激が、生体に衝撃的な刺激を与えず、電気刺激装置の筒部内に置かれた生体の深層まで電場刺激を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の方法に用いる電気刺激装置を構成する基礎線材を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した基礎線材を適用した電気刺激装置を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、実施例において用いた実験用ベクトルポテンシャル発生装置の模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット脛骨の、1、2又は3週間後の非脱灰樹脂包埋研磨標本をトルイジンブルー染色した後の光学顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、実施例1において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット脛骨の、1、2又は3週間後の非脱灰樹脂包埋研磨標本を用いて、関節軟骨の厚さを測定した結果である。
【
図7】
図7は、実施例1において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット脛骨の、1、2又は3週間後の脱灰パラフィン切片の免疫染色後の光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、実施例1において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット脛骨の、1、2又は3週間後の脱灰パラフィン切片のサフラニンO染色後の光学顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、実施例2において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット後肢の非脱灰樹脂包埋研磨標本のトルイジンブルー染色後の光学顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、実施例2において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット後肢の非脱灰樹脂包埋研磨標本のトルイジンブルー染色後の光学顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、実施例2において、後肢懸垂(HS群)、後肢懸垂とVP通電刺激(VP群)又は正常飼育(CO群)したラット関節軟骨深層の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本開示の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
<電気刺激装置>
本開示の方法において用いる電気刺激装置1は、絶縁皮膜を有する芯線21と、芯線21を巻軸として、芯線に対して隙間無く巻回された外線22とからなる基礎線材10を備え、この基礎線材10をループ状に巻回することにより形成された筒部20を更に有し、芯線21の一端が外線22の一端と電気的に繋がり、芯線21の他方が外部回路8の一端に接続し、前記外線22の他方が前記外部回路8の他端に接続されている。
【0015】
図1は、この電気刺激装置1を構成する基礎線材10の概略を示す。基礎線材10は、芯線21と、芯線21に螺旋状に巻回される外線22とにより構成されている。芯線21と外線22は別個の導線であって、それぞれの一方の端部p1、p2が、点Pにおいて接続されている。また、芯線21の端部p1と異なる側の端部p3、外線22の端部p2と異なる側の端部p4は、例えば、外部回路8と接続する第一引出線212、第二引出線222の端部である。外部回路8は、芯線21、外線22に入力される電気的な信号(例えば電流)を送るための回路であって、このような外部回路8は、電流を流す電源機器として機能する。電気刺激装置1は、基礎線材10が巻回されることによって構成される筒部20の内部に電場を形成する。また、芯線21と外線22は別個の導線に限らず、一本の導線からなり、点Pにおいて折り返されていることも可能である。
【0016】
図2は、
図1に示した基礎線材10を適用した電気刺激装置1を説明するための模式図である。基礎線材10は、電気刺激装置1の周りをループ状に1ターン以上巻回されており、その内部に生体又は生体の一部5(下肢又は膝関節)を保持する筒部20が形成されている。このとき、この筒部20においては、隣接している基礎線材10の外周面において、互いに隙間無く整列されていることが好ましい。筒部20内に人体の所定部位を保持し、外部回路8に接続された交流電源9から所定の周波数の電流を基礎線材10に流すことにより、筒部20内に磁場を発生させずに非接触で筒部20の軸方向に沿って電場が発生する。また、この電場内の位置に人体部位5、たとえば下肢又は膝関節などにおいて、上記電場の強場所から弱場合に向け、電流が流れている。こうすることにより、所定の人体部位5、例えば下肢又は膝関節などには、所定の電気刺激することも可能となる。
【0017】
図3は、他の実施形態(後述する実施例)において用いられるベクトルポテンシャル発生装置の模式図である。本実施形態では、筒部20を構成する基礎線材10は三層構造の基礎線材10a、10b及び10cからなる。それぞれの基礎線材は、芯線21と外線22とを有し、基礎線材10の一端で接続されている。他方の一端では、例えば、基礎線材10aの外線22と基礎線材10bの芯線21とが接続される。同様に、基礎線材10bと基礎線材10cとが接続され、基礎線材10aの戻り線と、基礎線材10cの外線22に交流電源9から所定の周波数の電流が印加される。
【0018】
ここで、筒部20に生じる電圧(電界強度)は、基礎線材10a、10b及び10cに印加する電流の微分値に基づいて計算することができる。この計算式は、基本的には、特許文献4に詳細に記載されているように、基礎線材の巻密度やコイル径などによって求めることができる。一例として、筒部20に生じる電圧は、特許文献4に記載された下記式(12)に基づいて求めることができる。なお、特許文献4に記載された内容はすべて、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0019】
【数1】
ここで、V
2はベクトルポテンシャルによる電界Eが累積された電圧、μ
0は、真空の透磁率、nは芯線の単位長あたりの外線の巻き数、N
1は、単位長あたりの基礎線材の巻き数であり、Sは基礎線材の断面積である、aは筒部の内側半径であり、Lは、基礎線材10a、10b及び10cの長さであり、I
mは電流の振幅であり、ωは周波数であり、tは時間である。従って、筒部20に生じる電圧は、電気刺激装置の構造、例えば、基礎線材をループ状に巻回したコイルの長さ、コイルの直径、巻き数など、並びに交流電源9から印加される電流の周波数及び振幅値を制御することによって所望の値に制御することができる。
【0020】
さらに、外部回路8は、一つの筒部20だけではなく、複数の患部に取り付けられた複数の筒部20に対して同時に同様な電流、または異なる電流を提供することもできる。また、外部回路8の小型化により、電池駆動するようなモジュールや装置にすることもできるため、携帯性が一層高くなる。
【0021】
また、外部回路8においては、筒部20の芯線21と外線22を流す電流の大きさ、時間、周波数などのパラメータを制御する制御部を備えることが望ましい。さらに、この制御部は同時に複数の筒部20を制御することもでき、他のセンサー、例えば体温センサーや、生体電流センサーなどからフィードしてきたデータを基づいて上記電流、周波数などのパラメータを変更する機能を更に備えることが好ましい。
【0022】
<電気刺激装置の作動方法>
本開示の1つの側面は、上記電気刺激装置の作動方法である。この方法は、筒部が、その内部に生体又は生体の一部を保持するステップと、この生体又は生体の一部に電気刺激を与えるために、外部回路に治療上有効な時間、交流電流を発生させるステップと、を含むことを特徴とする。ここで、「生体」とは、人体に限らず、動物などの生物一般を含む。また、「保持する」とは、筒部内において生体又はその一部の位置を保つことを意味する。治具等によって生体又はその一部を筒部内に固定することで位置を保つことのほか、例えば、凹状又は凹曲面状の面に生体又はその一部が収まることで筒部内においてその位置を保つことや、平面上に生体又はその一部が載ることで筒部内においてその位置を保つことも、ここでいう「保持する」の範疇である。好ましい実施形態では、筒部内に平面状の載置台等を備えてもよい。
また、載置台の材質に関して、電流が流れない絶縁材料が好ましい。また、ゴム、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料が更に好ましい。また、耐熱面からみると、セラミック等の材料も可能である。
【0023】
保持された生体又はその一部に電気刺激を与えるために、外部回路に発生させる電流は連続する交流電流でも良く、パルス状の交流電流でも良い。また、個人差や病状などに応じて、使用する周波数を数Hz~数kHzまでにすることもできる。例えば、関節軟骨の治療のためには、交流電流の周波数が、10~50kHzであることが好ましく、約20kHzであることがより好ましい。また、ベクトルポテンシャル発生装置の構造及び印加する電流を制御することで、筒部内に発生する電場強度を制御することができる。この電場強度は治療対象となる生体の部位や症状に応じて適宜調整することができ、限定されないが、好ましくは約0.1~1V/mであり、より好ましくは筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mであり、約0.22V/mの電場強度を有することがさらになお好ましい。このとき、筒部内に保持された生体に与える電気刺激の強度は、例えば、電気刺激装置に印加された電界強度と筒部内に保持された生体のインピーダンスから生体に流れる電流値として推定することができる。
【0024】
いくつかの例では、治療上有効な時間とは、本明細書に記載される疾病、疾患あるいは障害の1つ以上の徴候あるいは症状を減少させるか取り除くために、本実施形態の電気刺激装置を作動させる時間である。例えば、治療上有効な時間は1日あたり少なくとも30分間、60分間又は90分間であり、1日1回又は2~3回、毎日連続して又は非連続的に、好ましくは毎週5日以上、1~3週間以上作動させることが好ましい。この作動時間の例は制限的なものではない。追加の治療計画は、治療する対象の症状又はライフスタイルに基づいて、他の療法を含むことができる。
【0025】
<電気刺激装置を用いる治療方法>
本開示の他の側面では、上記電気刺激装置を用いて生体を治療する方法が提供され、以下の実施形態を含む。
【0026】
(1)電気刺激装置を用いて生体を治療する方法であって、この電気刺激装置は、絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として、前記芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる基礎線材を備え、前記基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部を更に有し、芯線の一端が外線の一端と電気的に繋ぎ、芯線の他方が外部回路の一端に接続し、外線の他方が外部回路の他端に接続しており、この筒部内に被検者の生体又は生体の一部を保持するステップと、この外部回路に治療上有効な時間、交流電流を発生させることにより、生体又は生体の一部に電気刺激を与えるステップと、を含むことを特徴とする治療方法。
(2)生体の一部が、幹細胞又は治療を必要とする被検者の関節若しくは靭帯である(1)に記載の治療方法。
(3)生体の一部が、変形性膝関節症の治療を必要とする被検者の膝関節である(1)に記載の治療方法。
(4)交流電流の周波数が、10~50kHzである(1)に記載の治療方法。
(5)交流電流の周波数が、20kHzである請求項(1)に記載の治療方法。
(6)治療上有効な時間が、少なくとも30分/日である(1)に記載の治療方法。
(7)筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する(1)に記載の治療方法。
(8)筒部内の電場強度が0.22V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する(1)に記載の治療方法。
(9)筒部が複数層を同心形状に形成されている(1)に記載の治療方法。
【0027】
本開示の治療方法において、治療対象となる疾患は特に限定されるものではないが、好ましい治療対象として、骨又は関節に関する疾患を挙げることができる。例えば、関節リウマチ、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、強直性脊椎炎、異所性骨化などの広範囲の過活動の又は不適切な骨成長を含む病状の治療に用いられ得る。いくつかの治療対象は、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、骨芽細胞腫、類骨骨腫などの腫瘍性の骨形成、又は骨の腫瘍を含む病状において、骨の塊の除去のために用いられ得る。
【0028】
同様に、慢性の変形性関節症、リウマチ性関節炎、反応性関節炎、腱板損傷、足底筋膜炎、脊椎症、及び/又は脊髄の狭窄の結果として、脚、肩、首、脊椎などに形成される骨棘(すなわち、「骨棘」)の除去に用いられ得る。
【0029】
別の好ましい治療対象としては、靭帯損傷が挙げられる。身体の関節は靭帯によって支持されている。靭帯とは、骨を別の骨と結合している結合組織の強靭な帯である。捻挫は、靭帯の単純な伸張または裂傷である。最も捻挫しやすい領域は、足首、膝および手首である。最も軽度の捻挫は、安静、氷冷、圧迫、拳上および運動ならびに/または理学療法によって治癒する。中程度の捻挫はまた、固定期間を必要とし得る。重度の捻挫では、裂傷した靭帯を修復するために手術が必要となる場合がある。
【0030】
その他の治療対象には、糖尿病、胃炎、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、過敏性大腸、痔疾;風邪、扁桃炎、副鼻腔炎、慢性気管支炎などを含む気管支喘息;静脈炎、動脈内膜炎、および静脈瘤などを含む心臓血管性疾病;鬱病、攻撃性、不安、およびストレスのような精神障害、さらにパーキンソン病、癲癇、偏頭痛、脳卒中、アルツハイマおよび他の退行性脳障害、また脳性麻痺、精神遅滞、活動過剰、学習不全などを含む脳および精神障害などが挙げられる。さらに、女性の月経不整、生殖不能、子宮内膜炎、及び子宮内膜症、並びに男性の睾丸炎、前立腺炎、及び精子過少症などの尿生殖器状態の治療にも用いられる。
【0031】
これらの作用効果のいくつかは、例えば、中枢神経系ではシナプスレベルでインパルスまたは命令の伝達に必要な神経化学物質を合成し、これらの細胞の電気活動を改善することによって、脳細胞の効率を向上させることができると考えられる。また、他の作用効果として、遺伝子を安定させ、細胞内に形成される酸素フリーラジカルの活動を防止する能力を有するので、加齢プロセスを遅延させるのに役立つと考えられる。また、関節軟骨における作用効果については、後述する実施例で詳細に説明する。
【0032】
また、手術前の予防治療として、上腹部のVP治療は、身体四肢への血液灌流を増加させ、損傷への炎症反応を軽減することができる。外科的部位の手術前措置も、治癒を加速することが示されている。さらに、術後回復の悪心、乗り物酔い、又は嘔吐のような他の形態の悪心症状を軽減又は緩和することができる。
【0033】
他の実施形態では、細胞移植、培養骨格、及び成長因子のうち少なくとも1つを含む他の治療への補助手段として、又は軟骨欠損の治療、及び腫瘍転移の予防として用いることもできる。
また、他の実施形態では、例えば骨髄由来の幹細胞から血管新生を行い、狭心症、心筋梗塞等の治療するための再生医療で、培養皿内で幹細胞等から目的とする細胞や臓器を増殖させ、人に移植するために幹細胞を人工的な環境下で効率良く大量培養できる細胞の保存・培養装置にも適用できる。
また、他の実施形態では、歯科用又は整形外科用インプラントを受けるための骨の調製時に骨密度を増加させることや、歯槽欠損部のような骨の間隙、歯槽骨の隣接部位又は手術、外傷若しくは疾患によって引き起こされた骨欠損部の治療における使用もできる。
【0034】
さらに他の実施形態では、ヒト以外の哺乳動物、例えば犬や猫などのコンパニオンアニマル、及び馬、特に、競走馬を含む獣医分野において、非ヒトにおける類似の目的のためにも用いられ得る。
【0035】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0036】
<実験用装置>
以下の実施例で用いたベクトルポテンシャル発生装置(以下、「VP装置」という。)の模式図を
図3に示す。
図3に示したように、3つの基礎線材(VP線材)10a、10b、10cが、筒部に巻回されている。また、この3つの基礎線材は225mmの同じ長さを有し、筒部の直径は、130mm、170mm及び210mmの異なるサイズであり、巻き数は97T、巻きつけ線の巻密度は950T/mで、最終的に同心円状に組み立てられている。また、このVP装置を構成する3つの基礎線材は、回路上直列されているため、実際に3層巻きのVP装置に相当する。装置の長さは約30cmであり、VPコイルに10.8Appの正弦波を印可することにより、長手方向において約0.22V/mの電場強度となり、筒部の両端に約67mVの電圧がかかる。
【0037】
(実施例1)後肢懸垂に伴うラット脛骨関節軟骨の構造変化に及ぼす通電刺激の影響
本実施例は、尾部懸垂したラットを用い、1~3週間の異なる期間VP通電刺激を与えたときの脛骨関節軟骨の構造変化を形態学的に比較、検討した。
【0038】
<実験方法及び材料>
7週齢のウィスター系雄性ラット72匹を用い、以下のように無作為に分類した。
・尾部懸垂群(HS群):1、2又は3週間尾部懸垂した。
・通電刺激群(VP群):1、2又は3週間尾部懸垂するとともに、ベクトルポテンシャル発生装置(VP装置)を用いて、上述した通電条件の交流(20kHz)にて、麻酔下で30分/日、5日/週通電した。このとき、VP装置の両端には約67mVの電圧が発生し、内部に保持したラットのインピーダンスを500Ωと仮定すると0.13mAの電流が流れると推定される。
・コントロール群(CO群):1、2又は3週間、ケージ内で正常飼育した。
いずれの群も実験期間終了後、安楽死させた後、脛骨を摘出して組織学的に観察した。
【0039】
<非脱灰樹脂包埋研磨標本の作成>
通電刺激実験終了後、炭酸ガス吸引によりラットを安楽死させ、皮を剥離して、軟組織を除去し、脛骨を摘出した。ダイヤモンドディスク(ジーシー社製、マイジンガー)を取り付けたハンドモーター(ヨシダ社製、ラボフォース)にて脛骨近位部を矢状割断し、速やかに一晩固定液に浸漬した。標本を水洗後、アルコール系列により脱水した。アセトンにより透徹した後、リゴラック樹脂に包埋して、恒温槽(ヤマト科学社製、DY300)にて加温重合した。ブロックをバンドソー(ホーザン社製、K-100)にてトリミングし、さらにモデルトリマー(ヨシダ社製)にてブロックを荒研磨した。3段階の砥石(粗砥、中砥石、仕上げ砥石)により厚さ約150μmまで研磨し、さらに専用フィルムにて丁寧に研磨して表面のキズを除去した。0.1M塩酸にて研磨面表面を酸でエッチングした後、加温した1%トルイジンブルー液にて染色した。撮影装置(オリンパス社製、DP73-SET-B)付き光学顕微鏡(オリンパス社製、BX53-33-FL-2)にて研磨標本を撮影した。
【0040】
その結果を
図4に示す。
図4は、各群の1、2または3週間後の脛骨近位骨端の弱各像である。例えば、CO1は、1週間後の、CO2は、2週間後のそれぞれコントロール群を意味する。また、VP1は、治療開始後1週間後の、VP2は、2週間後の通電刺激群を意味する。アスタリスクは骨端の海綿骨を示し、矢印は海綿骨を構成する骨梁を示している。図中のバーは500μmを表す。CO群の骨端海綿骨の骨梁は密に存在しているが、HS群では骨梁が細く、全体的に密度が低下した。このような両群の差は実験期間の進行に伴って顕著となっている。骨端表面に位置する関節軟骨に関しては、HS群ではCO群に比べ薄く、これは実験開始1週間後からみられ始め、3週間の実験期間を通して同様な状態が認められた。一方、VP群における骨端海綿骨の骨梁の太さならびに密度は実験期間を通して、CO群に近い状態あり、加重低減による減少が抑制された。関節軟骨に関しても、VP群はHS群と同様に、実験期間中、加重低減状態に置かれていたが、VP群の厚さはCO群に近い状態にあった。
【0041】
図5は、
図4で示した関節軟骨の拡大像で、骨端の前後的中央部の関節軟骨全体の厚さと石灰化層の厚さを比較したものである。図中のバーは50μmの長さであり、矢印はタイドマーク(トルイジンブルー色素で紺色に濃染する部分(石灰化層)の表面)の高さを示す。ACは、関節軟骨とその厚さを示す。脛骨と大腿骨が最も強く接する関節軟骨の前後的中央部で、軟骨全体の厚さを比較すると、HS群では実験開始1週間後からすでに減少した。それに対して、VP群は1週間後から関節軟骨の厚さが維持された。
【0042】
関節軟骨下部に、紺色に染まる石灰化層が位置する。いずれの時期においてもCO群およびVP群の石灰化層には白い軟骨細胞はほとんど見られない。しかし、
図5のHS1の矢頭が示すように、HS群では大型の白い軟骨細胞が多く存在する(
図5)。これは、尾部懸垂に伴う関節軟骨への加重低減の影響によって紺色の石灰化層が急速に上方に拡張したことによるもので、それによって関節軟骨上部の未石灰化層の細胞が石灰化層に埋入されたために生じたものである。この石灰化層の拡張によって、HS群では関節軟骨未石灰化層の厚さが減少する。しかし、VP群ではその石灰化が抑制されているために、関節軟骨の未石灰化層の厚さが維持されている。また、CO群では石灰化層の下部に、紫色に染まる骨が存在するが、HS群では加重低減によって骨が形成されず、関節軟骨石灰化層下部も吸収されている。しかし、VP群では関節軟骨下部の骨が維持され、関節軟骨及びその下部の骨がCO群に近い状態にあった。
【0043】
<関節軟骨の形態計測>
上記非脱灰樹脂包埋研磨標本の切片を用いて、連動手動計測システム(三谷商事、WinRoof)により、関節軟骨の厚さ、面積を計測した。その結果を
図6に示す。
図6に示したように、実験開始後、全ての期間でHS群の関節軟骨の厚さはCO群より有意に減少した。実験開始1週間後及び3週間後の標本では、VP群の関節軟骨の厚さはHS群に比べ有意(P<0.05)に厚く、維持された。なお、
図6においてTurkey testによる有意差検定の結果を、*:P<0.05、**:P<0.01及び***:P<0.001で示した。
【0044】
<脱灰パラフィン切片(免疫染色とサフラニンO染色)の作成>
非脱灰樹脂包埋研磨標本の作成と同様の方法でアルコール脱水した標本を、ベンゼンにより透徹した後、パラフィンに包埋してブロックを作製した。ブロックを小刀でトリミングし、木製台に取り付け、ミクロトーム(ヤマト光機工業社製、リトラトーム)により厚さ4ミクロンの切片を作製し、免疫染色およびサフラニンO染色を行った。撮影装置(オリンパス社製、DP73-SET-B)付き光学顕微鏡(オリンパス社製、BX53-33-FL-2)にて切片を撮影観察した。
【0045】
その結果を
図7及び
図8に示す。
図7は、各群3つの標本についてMMP-3による関節軟骨免疫染色の結果を比較したものである。図中のバーは、50μmの長さであり、矢印はMMP-3陽性反応の部位を示す。HS1及びHS2ではMMP3の反応が関節軟骨の表面に認められ、HS3では反応が関節軟骨の深部にまで拡がった。CO群とVP群には、すべての実験期間においてMMP3の反応が認められなかった。MMP3は軟骨の有機質を分解する酵素で、これらの結果からHS群では関節軟骨の破壊が進んだが、VP群では関節軟骨が維持された。
【0046】
図8は、各群3つの標本についての関節軟骨のサフラニンOの染色性を比較したものである。図中のバーは、50μmの長さである。関節軟骨のサフラニンOの染色性に関しては、HS群は実験開始1週間後からすでに減少し、その後もその状態が進行した。一方、VP2では染色性の低下がみられるが、VP1及びVP3では、それぞれCO1およびCO3と同様か、またはCOよりも高い染色性を示した。サフラニンは関節軟骨の有機質(プロテオグリカン)と親和性が高く、その染色性からHS群では有機質が減少しているが、VP群のそれは維持されている可能性が示唆された。
【0047】
(実施例2)加重低減に伴うラット脛骨関節軟骨の構造変化に及ぼす異なる介入時間の通電刺激の影響
本実施例では、後肢懸垂によって生じるラット脛骨関節軟骨の構造変化に対して、異なる介入時間の非接触性通電刺激がもたらす影響を形態学的に比較検討することを目的とした。
【0048】
<実験方法及び材料>
7週齢のウィスター系雄性ラット72匹を用い、以下のように無作為に分類した。
・コントロール群(CO群):3週間、ケージ内で正常飼育した。
・後肢懸垂群(HS群):3週間、後肢を懸垂した。
・通電刺激群(VP群):3週間、後肢を懸垂するとともに、VP装置を用いて、1日/15分、30分、60分及び90分、5日/週、3週間通電刺激を行なった。通電条件は実施例1と同じで、VP装置の両端には約67mVの電圧が発生し、内部に保持したラットのインピーダンスを500Ωと仮定すると0.13mAの電流が流れると推定される。
【0049】
<非脱灰樹脂包埋研磨標本の作成>
実施例1と同様の方法により非脱灰樹脂包埋研磨標本を作成し、トルイジンブルー染色を行った。その結果を
図9及び
図10に示す。
図9中のバーは、200μmの長さであり、Fは大腿骨、Tは脛骨、Mは半月板、矢頭は脛骨関節軟骨を示す。また、
図9の四角で囲んだ部分を拡大した
図10におけるバーは、50μmの長さであり、矢印はタイドマークの位置であり、ACは関節軟骨全体、Sは浅層、Mは中間層、Dは深層、Cは石灰化層を示す。
図9及び
図10において、VP15は、15分間の通電刺激標本を意味する。
図10の青色又は紫色に染まっている関節軟骨の断面の中で、多くの白い点状のものは軟骨細胞である。その細胞以外の部位を基質という。基質はコラーゲン線維とその間を埋めるプロテオグリカンで構成されている。基質の青色又は紫色の部分にプロテオグリカンが含まれており、HSに比べてVP30~90では関節軟骨中のプロテオグリカンの量が増えていることが分かる。
【0050】
<走査電子顕微鏡用標本の作製>
非脱灰樹脂包埋研磨標本の作成と同様の方法でアルコール脱水した標本を、t-ブチルに浸漬した後、冷蔵庫内で凍結し、真空凍結乾燥機(日立社製、ES-2030)にて乾燥した。試料台に装着して、試料台に非伝導性接着剤(ドータイト)を塗布した。カーボンコーター(真空デバイス社製、VC-100)およびイオンスパッタ(日立社製、E-1010)にて、標本表面にそれぞれカーボンとプラチナを真空蒸着し、走査電子顕微鏡(日立社製、S-3400)にて観察した。その結果を
図11に示す。
図11において、バーは、10μmの長さであり、矢印はタイドマークの位置であり、*は次亜塩素酸ナトリウム処理で基質線維が明瞭にみられた領域、Dは深層、Cは石灰化層を示す。
図11において、HSやVP15の「*」付近で、細いコラーゲン線維の存在が認められる。しかし、COやVP30~90では線維の存在が明瞭でない。これは線維間にプロテオグリカンが密に存在して、それが線維を被っているためである。これらの標本は、作製する際に、関節軟骨の断面に次亜塩素酸ナトリウムで有機質(プロテオグリカン)を軽く溶出しているにもかかわらず、COやVP30~90では有機質が多く残っていることから、元々、それらにはプロテオグリカンが豊富に存在したことを意味する。
【0051】
図9~11の結果より、関節軟骨は加重低減に伴ってプロテオグリカンとコラーゲン線維の減少の変化が認められるが、その変化はVP発生装置による30分間以上の通電刺激によって抑制されることが示唆された。