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特開2023-124038パイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124038
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】パイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 41/04 20060101AFI20230830BHJP
   B21D 22/28 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B21D41/04 C
B21D22/28 A
B21D22/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027586
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000142115
【氏名又は名称】株式会社協豊製作所
(71)【出願人】
【識別番号】510245256
【氏名又は名称】中部スリッター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 英紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 錦樹
(72)【発明者】
【氏名】平田 紀生
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA15
4E137AA26
4E137BB03
4E137CA09
4E137EA01
4E137EA22
4E137GA12
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】パイプ材の端部に目標とする形状の偏心縮管部を成形することができるパイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置を提供する。
【解決手段】パイプ材の偏心縮管方法においては、パイプ材8の端部80をダイス3の成形穴30によって加工して、パイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形する。パイプ材の偏心縮管方法においては、成形穴30に、手前側逃がし部31、奥側逃がし部33及び成形部32を有するダイス3を用いる。手前側逃がし部31及び奥側逃がし部33は、成形穴30の軸方向Lの穴端部において、パイプ材8から退避する内径に形成されている。成形部32は、成形穴30の、手前側逃がし部31と奥側逃がし部33との軸方向Lの間において、パイプ材8の端部80を偏心する状態で縮径させる形状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ材の端部をダイスの成形穴によって加工して、前記パイプ材の端部に、特定の径方向に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部を成形するパイプ材の偏心縮管方法であって、
前記成形穴は、前記パイプ材の端部が挿入される軸方向の手前側の穴端部に、前記パイプ材から退避する内径に形成された手前側逃がし部を有するとともに、前記手前側とは反対側に位置する前記軸方向の奥側の穴端部に、前記パイプ材から退避する内径に形成された奥側逃がし部を有し、かつ、前記手前側逃がし部と前記奥側逃がし部との前記軸方向の間に、前記パイプ材の端部を偏心する状態で縮径させる成形部を有する、パイプ材の偏心縮管方法。
【請求項2】
前記成形部は、前記成形穴の周方向における前記特定の径方向の対応位置においては、前記軸方向に沿った直線形状を有するとともに、前記周方向における前記特定の径方向の対応位置を除く位置においては、前記軸方向の手前側から前記軸方向の奥側に向かって内径が縮小するテーパ形状を有する、請求項1に記載のパイプ材の偏心縮管方法。
【請求項3】
前記ダイスは、前記成形穴における前記成形部の内径が最も縮小した部位を最縮径部分としたとき、前記最縮径部分の内径が異なる複数種類のものを用い、
前記パイプ材の端部の加工に用いる前記ダイスの前記最縮径部分の内径が段階的に小さくなるよう、前記パイプ材の端部を複数種類の前記ダイスの前記成形穴に順次挿入し、
複数種類の前記ダイスの前記最縮径部分によって前記パイプ材の端部を段階的に縮径させる成形量は、1段階目の前記ダイスの前記最縮径部分による成形量を最も大きくする、請求項1又は2に記載のパイプ材の偏心縮管方法。
【請求項4】
複数種類の前記ダイスについて、前記パイプ材の端部の最終段階の加工に用いる前記ダイスの前記成形穴は、前記特定の径方向を含む内径が最も大きい楕円形状を有しており、前記パイプ材の端部の他の段階の加工に用いる前記ダイスの前記成形穴は、真円形状を有している、請求項1~3のいずれか1項に記載のパイプ材の偏心縮管方法。
【請求項5】
前記ダイスが配置された下型プレートに対して上型プレートが縦方向に接近するときに、前記ダイスが前記縦方向に交差する横方向に移動して、前記横方向に沿って配置された前記パイプ材の端部を加工する偏心縮管装置を用い、
前記上型プレートは、前記パイプ材を押圧用部材の押圧力によって押さえる押圧部を有しており、
前記押圧部には、前記ダイスが前記押圧部に接近したとき、前記ダイスの前記成形穴から成形後の前記パイプ材の端部を抜き出すための抜き出し力を生じさせる抜出用部材が設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載のパイプ材の偏心縮管方法。
【請求項6】
パイプ材が横方向に沿って配置される下型プレートと、
前記下型プレートに配置され、前記パイプ材の端部を加工する成形穴を有するダイスと、
前記下型プレートに対して、前記横方向に直交する縦方向に下降可能な上型プレートと、を備え、
前記下型プレートに対して前記上型プレートが前記縦方向に接近するときに、前記ダイスが前記横方向に移動し、前記ダイスの前記成形穴によって、前記パイプ材の端部に、特定の径方向に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部を成形する偏心縮管装置であって、
前記成形穴は、
前記パイプ材の端部が挿入される軸方向の手前側の穴端部において、前記パイプ材から退避する内径に形成された手前側逃がし部と、
前記手前側とは反対側に位置する前記軸方向の奥側の穴端部において、前記パイプ材から退避する内径に形成された奥側逃がし部と、
前記手前側逃がし部と前記奥側逃がし部との前記軸方向の間において、前記パイプ材の端部を偏心する状態で縮径させる成形部と、を有する、偏心縮管装置。
【請求項7】
前記上型プレートは、前記パイプ材を押圧用部材の押圧力によって押さえる押圧部を有しており、
前記押圧部には、前記ダイスが前記押圧部に接近したとき、前記ダイスの前記成形穴から成形後の前記パイプ材の端部を抜き出すための抜き出し力を生じさせる抜出用部材が設けられている、請求項6に記載の偏心縮管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプ材は、種々の用途で用いられる。パイプ材の用途によっては、その端部に、特定の径方向に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部を成形することがある。パイプ材に加工をする方法としては、例えば、油圧、水圧等の静水圧をパイプ材の内側に作用させて加工するバルジ加工(ハイドロ成形)、回転するパイプ材に対して工具を当てて加工するスピニング加工(ヘラ絞り)等がある。一方、バルジ加工及びスピニング加工の、大掛かりな装置を必要とする欠点や、加工時間が長いといった欠点を解消するために、パイプ材の端部にダイスを用いたプレス加工を行うこともある。
【0003】
プレス加工によってパイプ材の端部に偏心絞りを行う方法としては、例えば、特許文献1に記載されたパイプの偏心絞り加工方法がある。この偏心絞り加工方法においては、パイプの端部に偏心絞り加工を行って絞り部を成形するに当たり、絞り部の直径を段階的に減少させるとともに、絞り部の中心軸線をパイプの中心軸線に対して段階的に偏心させる複数のダイスを用いる。これにより、簡単な装置によって、パイプの端部に偏心絞り加工を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-187119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、パイプ材の硬度がより高く、かつ直径がより大きい場合等には、特許文献1等の従来の加工方法によっては、パイプ材の端部に、偏心縮管部(偏心絞り部)を成形することが困難であることが判明した。この場合には、パイプ材の端部に座屈等が生じ、目標とする形状に成形できないことがある。従って、種々のパイプ材の端部の加工を可能にするためには、ダイスの成形穴に更なる工夫が必要であることが分かった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、パイプ材の端部に目標とする形状の偏心縮管部を成形することができるパイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
パイプ材の端部をダイスの成形穴によって加工して、前記パイプ材の端部に、特定の径方向に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部を成形するパイプ材の偏心縮管方法であって、
前記成形穴は、前記パイプ材の端部が挿入される軸方向の手前側の穴端部に、前記パイプ材から退避する内径に形成された手前側逃がし部を有するとともに、前記手前側とは反対側に位置する前記軸方向の奥側の穴端部に、前記パイプ材から退避する内径に形成された奥側逃がし部を有し、かつ、前記手前側逃がし部と前記奥側逃がし部との前記軸方向の間に、前記パイプ材の端部を偏心する状態で縮径させる成形部を有する、パイプ材の偏心縮管方法にある。
【0008】
本発明の他の態様は、
パイプ材が横方向に沿って配置される下型プレートと、
前記下型プレートに配置され、前記パイプ材の端部を加工する成形穴を有するダイスと、
前記下型プレートに対して、前記横方向に直交する縦方向に下降可能な上型プレートと、を備え、
前記下型プレートに対して前記上型プレートが前記縦方向に接近するときに、前記ダイスが前記横方向に移動し、前記ダイスの前記成形穴によって、前記パイプ材の端部に、特定の径方向に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部を成形するパイプ材の偏心縮管装置であって、
前記成形穴は、
前記パイプ材の端部が挿入される軸方向の手前側の穴端部において、前記パイプ材から退避する内径に形成された手前側逃がし部と、
前記手前側とは反対側に位置する前記軸方向の奥側の穴端部において、前記パイプ材から退避する内径に形成された奥側逃がし部と、
前記手前側逃がし部と前記奥側逃がし部との前記軸方向の間において、前記パイプ材の端部を偏心する状態で縮径させる成形部と、を有する、パイプ材の偏心縮管装置にある。
【発明の効果】
【0009】
(一態様のパイプ材の偏心縮管方法)
前記一態様のパイプ材の偏心縮管方法においては、成形穴に、成形部以外に、手前側逃がし部及び奥側逃がし部が形成されたダイスを用いる。手前側逃がし部及び奥側逃がし部は、ダイスの成形穴の成形部によってパイプ材の端部を偏心する状態で縮径させるときに、成形穴の一部が、パイプ材の端部の外周に接触しないようにしたものである。
【0010】
パイプ材の端部を偏心する状態で縮径させるときには、パイプ材の端部の周方向における、特定の径方向に近い位置は、ほとんど加工されない一方、パイプ材の端部の周方向における、特定の径方向とは反対側に近い位置は、大きく加工される。そのため、パイプ材の端部の加工時には、その周方向において、この端部に発生する応力に分布が生じる。
【0011】
このとき、ダイスの成形穴に手前側逃がし部及び奥側逃がし部が形成されていることにより、パイプ材の端部に生じる応力が適切に解放される。これにより、周方向に応力の分布が生じたとしても、パイプ材の端部に座屈等が生じないようにすることができる。また、パイプ材の硬度がより高い場合、パイプ材の直径がより大きい場合等においても、パイプ材の端部に座屈等が生じないようにすることができる。
【0012】
それ故、前記一態様のパイプ材の偏心縮管方法によれば、種々の場合においても、パイプ材の端部に目標とする形状の偏心縮管部を成形することができる。
【0013】
(他の態様のパイプ材の偏心縮管装置)
前記他の態様のパイプ材の偏心縮管装置においては、下型プレートに対して上型プレートが縦方向に接近する動作を、ダイスが横方向に移動する動作に変換して、ダイスの成形穴によって、パイプ材の端部に偏心縮管部を成形する。これにより、例えば、パイプ材の長さがより長い場合でも、大きな高さを有する装置を用いなくても、パイプ材の端部に加工を行うことができる。
【0014】
それ故、前記他の態様のパイプ材の偏心縮管装置によれば、簡単な装置で、パイプ材の端部に目標とする形状の偏心縮管部を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかる、1段階目の加工を行うダイスを、パイプ材の特定の径方向に沿った断面によって示す説明図。
図2】実施形態にかかる、1段階目の加工を行うダイスを、パイプ材の軸方向に直交する断面によって示す説明図。
図3】実施形態にかかる、最終段階の加工を行うダイスを、パイプ材の特定の径方向に沿った断面によって示す説明図。
図4】実施形態にかかる、最終段階の加工を行うダイスを、パイプ材の軸方向に直交する断面によって示す説明図。
図5】実施形態にかかる、パイプ材の端部の周辺を、特定の径方向に沿った断面によって示す説明図。
図6】実施形態にかかる、上型プレートが上死点にある状態のパイプ材の偏心縮管装置を示す説明図。
図7】実施形態にかかる、上型プレートが下降途中にある状態のパイプ材の偏心縮管装置を示す説明図。
図8】実施形態にかかる、上型プレートが下死点にある状態のパイプ材の偏心縮管装置を示す説明図。
図9】実施形態にかかる、上型プレートが下死点にある状態のパイプ材の偏心縮管装置を、パイプ材の軸方向に直交する断面によって示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述したパイプ材の偏心縮管方法及び偏心縮管装置にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態>
本形態のパイプ材8の偏心縮管方法においては、図1図5に示すように、パイプ材8の端部80をダイス3の成形穴30によって加工して、パイプ材8の端部80に、特定の径方向R0に向けて偏心した状態で縮径する偏心縮管部82を成形する。パイプ材8の偏心縮管方法においては、成形穴30に、手前側逃がし部31、奥側逃がし部33及び成形部32を有するダイス3を用いる。詳細は後述するが、図1及び図2には、1段階目の加工を行うダイス3Aを示し、図3及び図4には、最終段階の加工を行うダイス3Bを示す。
【0017】
手前側逃がし部31は、パイプ材8の端部80が挿入される、成形穴30の軸方向Lの手前側の穴端部において、パイプ材8から退避する内径に形成されている。奥側逃がし部33は、手前側とは反対側に位置する、成形穴30の軸方向Lの奥側の穴端部において、パイプ材8から退避する内径に形成されている。成形部32は、成形穴30の、手前側逃がし部31と奥側逃がし部33との軸方向Lの間において、パイプ材8の端部80を偏心する状態で縮径させる形状に形成されている。
【0018】
以下に、本形態のパイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1について詳説する。
(パイプ材8)
図5は、パイプ材8の端部80の周辺を、特定の径方向R0に沿って切断した断面を示す。図5に示すように、パイプ材8の偏心縮管方法によって製造するパイプ材8の製品は、円筒形状の本体管部81と、本体管部81の一方の端部に成形された偏心縮管部82とを有する。偏心縮管部82は、本体管部81の両端部に成形してもよい。偏心縮管部82は、パイプ材8の最先端部に成形された、軸方向Lに平行な円筒形状の縮管部分821と、本体管部81と縮管部分821との間において、偏心する傾斜状に成形された傾斜管部分822とを有する。図5においては、パイプ材8及び本体管部81の中心軸線を符号O1によって示し、偏心縮管部82の中心軸線を符号O2によって示す。
【0019】
傾斜管部分822は、特定の径方向R0から、周方向Cに向かって特定の径方向R0の反対側(180°位相が異なる側)へ行くほど、軸方向Lに対する傾斜内周面823の傾斜角度θが大きくなる外周形状に成形される。偏心縮管部82は、特定の径方向R0の位置においては、本体管部81から内周側に偏心していない。偏心縮管部82の特定の径方向R0の位置は、本体管部81から連続する軸方向Lに平行な直線形状を有する。
【0020】
本形態のパイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1は、φ50mm~φ70mmの太い外径を有するパイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形できるものである。また、本形態のパイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1は、引張強さが290N/mm2~490N/mm2の強度を有するパイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形できるものである。なお、パイプ材8の外径及び引張強さは、これらの数値を外れるものであってもよい。
【0021】
(偏心縮管装置1)
図6図9に示すように、パイプ材8の偏心縮管方法においては、下型プレート2、ダイス3及び上型プレート5を備えるパイプ材8の偏心縮管装置1を用いて、パイプ材8の端部80に加工を行う。図6は、上型プレート5が上死点にある状態101の偏心縮管装置1を示し、図7は、上型プレート5が下降途中にある状態の偏心縮管装置1を示し、図8は、上型プレート5が下死点にある状態102の偏心縮管装置1を示す。図9は、上型プレート5が下死点にある状態102の偏心縮管装置1を、パイプ材8の軸方向Lに直交する断面によって示す。
【0022】
偏心縮管装置1は、下型プレート2に対して上型プレート5が縦方向Hに接近するときに、下型プレート2におけるダイス3が縦方向Hに交差する横方向Wに移動して、横方向Wに沿って配置されたパイプ材8の端部80を加工するものである。パイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1は、いわゆるプレス成形によってパイプ材8の端部80に加工を行う。
【0023】
本形態の偏心縮管装置1においては、水平方向に平行であって、パイプ材8の軸線方向が向けられた方向を横方向Wといい、鉛直方向に平行であって、横方向Wに直交する方向を縦方向Hという。
【0024】
パイプ材8の軸方向Lとは、パイプ材8の中心軸線O1が通る方向のことをいい、パイプ材8の軸方向Lと成形穴30の軸方向Lとは同じ方向とする。パイプ材8の周方向Cとは、パイプ材8の中心軸線O1の周りの方向のことをいい、パイプ材8の周方向Cと成形穴30の周方向Cとは同じ方向とする。パイプ材8の径方向Rとは、パイプ材8の中心軸線O1を中心とする放射状の方向のことをいい、パイプ材8の径方向Rと成形穴30の径方向Rとは同じ方向とする。
【0025】
図6図8及び図9に示すように、下型プレート2の上面には、パイプ材8が横方向Wに沿って配置されるパイプ材受部4が配置されている。パイプ材受部4の上面には、パイプ材8の外周を保持する半円状の受け面41が形成されている。パイプ材8の端部80は、パイプ材受部4の端面から横方向Wに突出する状態で配置される。下型プレート2の上面には、パイプ材8の端部80を加工するためのダイス3が配置されている。
【0026】
ダイス3は、下型プレート2のパイプ材受部4の側方において、下型プレート2に対してスライド可能に配置されており、パイプ材受部4のパイプ材8に対して進退可能である。ダイス3には、バネ等の戻し部材34によって、パイプ材受部4から離れる方向に戻し力が付与されている。また、下型プレート2には、パイプ材8の、偏心縮管部82を成形する端部80とは反対側の端面に接触して、ダイス3によって横方向Wに押されるパイプ材8を受け止めるストッパ43が設けられている。
【0027】
偏心縮管装置1は、上型プレート5をプレス設備のボルスターに設置し、下型プレート2をプレス設備のテーブルに設置して用いることができる。上型プレート5は、プレス設備等によって下型プレート2に対して縦方向Hに昇降可能である。上型プレート5の下面には、上型プレート5が下型プレート2に向けて下降するときに、下型プレート2上のダイス3に当接して、ダイス3を横方向Wにスライドさせるカム51が配置されている。ダイス3には、カム51の傾斜面511に当接する当接面351を有するカム受部35が設けられている。
【0028】
図6図8及び図9に示すように、上型プレート5の下面には、パイプ材8を押圧用部材61の押圧力(弾性力)によって押さえる押圧部6が配置されている。押圧部6は、図示しないガイド等によって上型プレート5の縦方向Hにスライド可能であり、押圧用部材61を弾性変形させながら上型プレート5の下面に近づくようスライド可能である。押圧用部材61は、バネ等によって構成されており、上型プレート5の下面と押圧部6との間に配置されている。
【0029】
押圧部6の下面には、パイプ材8の外周を保持する半円状の押さえ面63が形成されている。パイプ材8における、端部を除く部分は、下型プレート2に対して上型プレート5が最も接近したとき(上型プレート5が下死点に到達したとき)には、下型プレート2のパイプ材受部4の受け面41と押圧部6の押さえ面63とによって全周が保持される。
【0030】
押圧部6には、ダイス3が押圧部6に接近したとき、ダイス3の成形穴30から成形後のパイプ材8の端部80を抜き出すための抜き出し力を生じさせる上部抜出用部材62が設けられている。上部抜出用部材62は、ガスクッション、バネ等によって構成されている。上部抜出用部材62の少なくとも一部は、押圧部6の横方向Wの側面から、横方向Wのダイス3の側に向けて突出する状態で配置されている。
【0031】
また、下型プレート2のパイプ材受部4には、下部抜出用部材42が設けられている。パイプ材受部4の下部抜出用部材42の少なくとも一部は、パイプ材受部4の横方向Wの側面から、横方向Wのダイス3の側に向けて突出する状態で配置されている。ダイス3がパイプ材受部4に接近したときには、ダイス3の成形穴30から成形後のパイプ材8の端部80を抜き出すための抜き出し力が、パイプ材受部4の下部抜出用部材42によっても生じる。
【0032】
本形態のパイプ材の偏心縮管装置1は、油圧シリンダによって上型プレート5を昇降駆動する油圧式のものである。偏心縮管装置1は、上型プレート5が下型プレート2に対して下死点まで下降したときには、所定時間、下死点に維持して、加圧状態を検出するよう構成されている。なお、偏心縮管装置1は、サーボモータによって上型プレート5を昇降駆動する機械式のものとしてもよい。
【0033】
(ダイス3)
図1及び図2に示すように、ダイス3の成形穴30は、パイプ材受部4に対向する横方向Wに向けて開口されている。成形穴30は、パイプ材8の端部80が挿入されるときに、パイプ材8の端部80を偏心する状態で絞る形状に形成されている。成形穴30の手前側逃がし部31は、パイプ材8の端部80が挿入される軸方向Lの手前側の穴端部において、成形穴30の軸方向Lに平行な手前側平行部分311と、軸方向Lの奥側に行くほど縮径する手前側傾斜部分312とを有する。手前側平行部分311は、パイプ材8の端部80の外周に接触しない内径に形成されており、手前側傾斜部分312は、手前側平行部分311と成形部32とを繋ぐ傾斜面として形成されている。
【0034】
成形穴30の奥側逃がし部33は、手前側とは反対側に位置する軸方向Lの奥側の穴端部において、成形穴30の軸方向Lに平行な奥側平行部分331と、軸方向Lの奥側に行くほど縮径する奥側傾斜部分332とを有する。奥側平行部分331は、パイプ材8の端部80の外周に接触しない内径に形成されており、奥側傾斜部分332は、奥側平行部分331と成形部32とを繋ぐ傾斜面として形成されている。
【0035】
成形穴30の成形部32は、成形穴30の軸方向Lにおける、手前側逃がし部31の手前側傾斜部分312と奥側逃がし部33の奥側傾斜部分332との間に形成されている。成形部32は、成形穴30の周方向Cにおける特定の径方向R0の位置においては、軸方向Lに沿った直線形状を有するとともに、周方向Cにおける特定の径方向R0の位置を除く位置においては、軸方向Lの手前側から軸方向Lの奥側に向かって内径が縮小するテーパ形状を有する。
【0036】
換言すれば、成形部32は、軸方向Lに平行に形成されてパイプ材8の端部80の外周に接触する接触平行部分321と、接触平行部分321の軸方向Lの奥側においてパイプ材8の端部80の外周に接触し、特定の径方向R0の位置を除いて奥側に行くほど内径が縮径する接触傾斜部分322と、接触傾斜部分322の軸方向Lの奥側に繋がる、軸方向Lに平行に形成された最縮径部分323とを有する。最縮径部分323は、成形穴30における成形部32の内径が最も縮小した部位となる。接触傾斜部分322は、特定の径方向R0から、周方向Cに向かって特定の径方向R0の反対側(180°位相が異なる側)へ行くほど、軸方向Lに対する傾斜内周面の傾斜角度θ1が大きくなる内周形状に形成されている。
【0037】
図1及び図3に示すように、接触平行部分321と接触傾斜部分322との間の角部には、R形状(曲面形状)が形成されている。最縮径部分323の軸方向Lの奥側の端部は、奥側逃がし部33の奥側傾斜部分332に繋がっている。特定の径方向R0の位置を除いて、成形部32の接触傾斜部分322及び最縮径部分323と奥側逃がし部33の奥側傾斜部分332とによって、山状の傾斜内周面が形成されている。
【0038】
偏心縮管方法及び偏心縮管装置1においては、複数種類のダイス3の成形穴30に、パイプ材8の端部80を複数回挿入して、パイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形する。図1及び図2には、1段階目の加工を行うダイス3Aを示し、図3及び図4には、最終段階の加工を行うダイス3Bを示す。1段階目のダイス3A及び最終段階のダイス3Bの他のダイス3の記載は省略する。
【0039】
ダイス3は、成形穴30における成形部32の内径が最も縮小した位置を最縮径部分323としたとき、最縮径部分323の内径が異なる複数種類のものを用いる。偏心縮管装置1においては、下型プレート2に配置するダイス3を、最縮径部分323の内径が大きなものから小さなものへ段階的に変わるよう交換すればよい。
【0040】
偏心縮管方法及び偏心縮管装置1においては、パイプ材8の端部80の加工に用いるダイス3の最縮径部分323の内径が段階的に小さくなるよう、パイプ材8の端部80が複数種類のダイス3の成形穴30に順次挿入される。また、複数種類のダイス3の最縮径部分323によってパイプ材8の端部80を段階的に縮径させる成形量は、1段階目のダイス3Aの最縮径部分323による成形量を最も大きくする。成形量は、最縮径部分323によってパイプ材8の端部80の外径を小さくする量として示される。また、2段階目のダイス3の最縮径部分323の内径と1段階目のダイス3Aの最縮径部分323の内径との差は、2段目以降の連続する段階同士における最縮径部分323の内径同士の差よりも大きい。
【0041】
パイプ材8の端部80を加工するときには、加工の初期において、加工硬化がより強く生じやすい。1段階目のダイス3Aの最縮径部分323による成形量を、2段目以降のダイス3の最縮径部分323による成形量よりも大きくすることにより、パイプ材8の端部80が加工硬化する前に、パイプ材8の端部80を目標とする形状に効果的に加工することができる。
【0042】
パイプ材8の端部80は、偏心した縮径形状に加工するために、特に、内周面が真円形状から楕円形状に若干変形する。具体的には、ダイス3の成形穴30が真円形状に形成されている場合には、パイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形するときには、パイプ材8の端部80においては、特定の径方向R0を含む周方向Cの位置の内径が、特定の径方向R0に対して90°位相が異なる周方向Cの位置の内径に比べて小さくなろうとする。換言すれば、ダイス3の成形穴30が真円形状に形成されている場合には、パイプ材8の端部80には、特定の径方向R0を含む周方向Cの位置の内径が短径部となる楕円形状の内周面が形成される。
【0043】
そこで、本形態においては、複数種類のダイス3について、パイプ材8の端部80の最終段階の加工に用いるダイス3Bの成形穴30の形状を、パイプ材8の端部80の楕円形状の内周面を真円形状に近い内周面となるようにする。具体的には、図4に示すように、パイプ材8の端部80の最終段階の加工に用いるダイス3Bの成形穴30の成形部32は、特定の径方向R0を含む内径が最も大きい楕円形状に形成する。図4においては、楕円形状を誇張して示す。
【0044】
つまり、最終段階のダイス3Bの成形穴30の成形部32は、特定の径方向R0を含む周方向Cの位置(図4においては上下方向で示す位置)の内径が、特定の径方向R0に対して90°位相が異なる周方向Cの位置の内径に比べて大きい楕円形状とする。換言すれば、最終段階のダイス3Bの成形穴30の成形部32は、特定の径方向R0を含む周方向Cの位置の内径が長径部となる楕円形状の内周面とする。
【0045】
最終段階のダイス3Bを除く残りのダイス3の成形穴30は、真円形状の内周面に形成されている。最終段階のダイス3Bの成形穴30の形状の工夫により、パイプ材8の端部80に成形する偏心縮管部82の内周面の形状を真円形状に近い形状にすることができる。
【0046】
(縮管成形方法)
縮管成形方法においては、下型プレート2に対して上型プレート5が下降して、ダイス3の成形穴30によってパイプ材8の端部80が加工される下降工程と、下型プレート2に対して上型プレート5が上昇して、ダイス3の成形穴30からパイプ材8の端部80が抜き出される上昇工程とが行われる。また、下降工程を行う前には、準備工程として、成形後のパイプ材8の端部80がダイス3の成形穴30から抜けやすくするために、ダイス3の成形穴30とパイプ材8の端部80とに潤滑油を塗布する。
【0047】
図6及び図7に示すように、下降工程において、下型プレート2に対して上型プレート5が下降するときには、上型プレート5のカム51の傾斜面511が下型プレート2のダイス3のカム受部35の当接面351に当接する。このとき、ダイス3が戻し部材34の戻し力に対抗してパイプ材受部4に接近して、パイプ材8の端部80がダイス3の成形穴30に挿入されるとともに、押圧部6が押圧用部材61の押圧力に対抗して、パイプ材8の外周に当接する。
【0048】
そして、図8に示すように、カム51によってダイス3がパイプ材受部4に更に接近して、パイプ材8の端部80が、ダイス3の成形穴30の手前側逃がし部31から成形部32へと挿入され、成形部32によってパイプ材8の端部80が加工される。このとき、手前側逃がし部31が形成されていることによって、パイプ材8の端部80における、成形部32に加工される部分よりも手前側の部分に生じる応力が解放される。また、このとき、奥側逃がし部33が形成されていることによって、パイプ材8の端部80における、成形部32に加工される部分よりも奥側の部分に生じる応力も解放される。つまり、成形部32によってパイプ材8の端部80が加工されるときに、パイプ材8の端部80に生じる応力が適切に解放され、パイプ材8の端部80に座屈等の不具合が生じにくくなる。
【0049】
ダイス3の成形穴30の成形部32によってパイプ材8の端部80が加工されるときには、上型プレート5の押圧部6に設けられた上部抜出用部材62、及び下型プレート2のパイプ材受部4に設けられた下部抜出用部材42がダイス3に接触する。また、上型プレート5が下型プレート2に対して下死点まで下降したときには、上型プレート5が下死点にある状態を所定時間維持する。
【0050】
次いで、上昇工程においては、上型プレート5を下型プレート2に対して上昇させる。そして、ダイス3が戻し部材34によって、横方向Wのパイプ材8から離れる側へ移動しようとする。このとき、パイプ材8は、パイプ材受部4の受け面41と押圧用部材61による押圧力を受けた押圧部6の押さえ面63とによって位置ずれしないように保持されている。また、押圧部6の上部抜出用部材62による抜き出し力、及びパイプ材受部4の下部抜出用部材42による抜き出し力が、パイプ材8の端部80からダイス3が横方向Wに離れるように作用する。さらに、ダイス3の成形穴30とパイプ材8の端部80とに塗布された潤滑油によって、パイプ材8の端部80が成形穴30から抜けやすくなっている。これらの構成により、ダイス3がパイプ材受部4から離れるときには、ダイス3の成形穴30からパイプ材8の端部80が円滑に抜き出され、戻し部材34によってダイス3がパイプ材受部4から離れた元の位置に戻る。
【0051】
次いで、偏心縮管部82の1段階目の加工が行われたパイプ材8を、2段階目の加工を行うダイス3に対向するパイプ材受部4の受け面41に保持させる。そして、下降工程において、上型プレート5が下型プレート2に対して下降するときに、1段階目の加工が行われたパイプ材8の端部80に、2段階目の加工を行うダイス3の成形穴30によって2段階目の加工が行われる。次いで、上昇工程において、上型プレート5が下型プレート2から上昇し、2段階目の加工が行われたパイプ材8の端部80が、ダイス3の成形穴30から抜き出される。
【0052】
その後、最終段階の加工を行うダイス3Bの成形穴30によってパイプ材8の端部80が加工されるまで、下降工程及び上昇工程が繰り返される。そして、パイプ材8の端部80に偏心縮管部82が成形され、偏心縮管部82が成形穴30から抜き出される。
【0053】
(作用効果)
本形態のパイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1においては、成形穴30に、成形部32以外に、手前側逃がし部31及び奥側逃がし部33が形成されたダイス3を用いる。手前側逃がし部31及び奥側逃がし部33は、ダイス3の成形穴30の成形部32によってパイプ材8の端部80を偏心する状態で縮径させるときに、成形穴30の一部が、パイプ材8の端部80の外周に接触しないようにしたものである。また、下型プレート2に対して上型プレート5が縦方向Hに接近する動作を、ダイス3が横方向Wに移動する動作に変換して、ダイス3の成形穴30によって、パイプ材8の端部80に偏心縮管部82を成形する。
【0054】
パイプ材8の端部80を偏心する状態で縮径させるときには、パイプ材8の端部80の周方向Cにおける、特定の径方向R0に近い位置は、ほとんど加工されない一方、パイプ材8の端部80の周方向Cにおける、特定の径方向R0とは反対側に近い位置は、大きく加工される。そのため、パイプ材8の端部80の加工時には、その周方向Cにおいて、この端部80に発生する応力に分布が生じる。
【0055】
このとき、ダイス3の成形穴30に手前側逃がし部31及び奥側逃がし部33が形成されていることにより、パイプ材8の端部80に生じる応力が適切に解放される。これにより、周方向Cに応力の分布が生じたとしても、パイプ材8の端部80に座屈等が生じないようにすることができる。また、パイプ材8の硬度がより高い場合、パイプ材8の直径がより大きい場合等においても、パイプ材8の端部80に座屈等が生じないようにすることができる。
【0056】
それ故、本形態のパイプ材8の偏心縮管方法及び偏心縮管装置1によれば、種々の場合においても、パイプ材8の端部80に目標とする形状の偏心縮管部82を成形することができる。
【0057】
本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。
【符号の説明】
【0058】
1 パイプ材の偏心縮管装置
2 下型プレート
3 ダイス
30 成形穴
31 手前側逃がし部
311 手前側平行部分
312 手前側傾斜部分
32 成形部
321 接触平行部分
322 接触傾斜部分
323 最縮径部分
33 奥側逃がし部
331 奥側平行部分
332 奥側傾斜部分
34 戻し部材
35 カム受部
4 パイプ材受部
41 受け面
42 下部抜出用部材
43 ストッパ
5 上型プレート
51 カム
6 押圧部
61 押圧用部材
62 上部抜出用部材
63 押さえ面
8 パイプ材
80 端部
81 本体管部
82 偏心縮管部
821 縮管部分
822 傾斜管部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9