(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124040
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】重金属吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/16 20060101AFI20230830BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230830BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20230830BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20230830BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230830BHJP
【FI】
B01J20/16
B01J20/28 Z
B01J20/06 A
B01J20/18 E
C02F1/28 B
C02F1/28 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027588
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】391031764
【氏名又は名称】株式会社シナネンゼオミック
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】谷口 明男
(72)【発明者】
【氏名】井上 直幸
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA02
4D624AB16
4D624AB17
4D624BA07
4D624BA14
4D624BB01
4D624BC04
4G066AA23B
4G066AA30B
4G066AA61B
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA46
4G066CA47
4G066DA07
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】pHが8以上の水から鉛を吸着できる材料を提供する。
【解決手段】0.4g/cm3以下の嵩比重を有するチタン含有化合物の多孔質体を吸着剤として用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有化合物の多孔質体を含み、
前記多孔質体が0.4g/cm3以下の嵩比重を有する
ことを特徴とする、重金属吸着剤。
【請求項2】
多孔質体において、2~10nmの孔径を有する細孔の容積が0.02cm3/g以上である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
多孔質体が50m2/g以上のBET比表面積を有する、請求項1又は2に記載の吸着剤。
【請求項4】
多孔質体のチタン含量が5質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項5】
多孔質体が、アルカリ土類金属のケイ酸塩と水溶性チタン塩との反応生成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項6】
鉛吸着剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項7】
追加の重金属吸着物質を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項8】
追加の重金属吸着物質がゼオライト又は非晶質チタノシリケート(但し、0.4g/cm3以下の嵩比重を有する非晶質チタノシリケートの多孔質体は除く)である、請求項7に記載の吸着剤。
【請求項9】
pHが8以上の水用の吸着剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項10】
浄水器用の吸着剤である、請求項1~9のいずれか一項に記載の吸着剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の吸着剤を含む、浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重金属吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水中の鉛濃度は、鉛は健康への影響が懸念されるため、我が国における水質基準の一つになっている。水道水に含まれる鉛は、1900年代前半まで水道管として使用されていた鉛管に由来するとされている。
水に含まれる鉛等の重金属を吸着できるゼオライト(アルミノケイ酸塩系無機イオン交換体)は、浄水器用の吸着剤として使用されている(特許文献1)。非晶質チタノシリケートも、浄水器用の吸着剤として使用されている(特許文献2)。
水中に存在する鉛は、当該水のpHに依存してその存在形態が変化することが知られている(非特許文献1)。水のpHが8未満であるとき、鉛は水に溶解して鉛イオンとして存在する傾向が高い。水のpHが8以上であると、鉛イオンの一部は水酸化物のコロイド(コロイド状の水酸化鉛)に変化するため、鉛イオンとコロイド状水酸化鉛とが共存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-99284号公報
【特許文献2】特許第3199733号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】NSF/ANSI 53-2018 Drinking water treatment units
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼオライトや非晶質チタノシリケートは、pHが8未満の水では鉛を吸着できるものの、pHが8以上の水では鉛を十分に吸着できないことを本発明者は見いだした。そこで、pHが8以上の水からでも鉛を吸着できる手段の提供を課題として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を鋭意検討した結果、本発明者は、特定範囲の嵩比重を有するチタン含有化合物の多孔質体が、pHが8以上の水中の鉛を吸着できることを見いだした。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔11〕に関するものである。
〔1〕チタン含有化合物の多孔質体を含み、
前記多孔質体が0.4g/cm3以下の嵩比重を有する
ことを特徴とする、重金属吸着剤。
〔2〕多孔質体において、2~10nmの孔径を有する細孔の容積が0.02cm3/g以上である、前記〔1〕に記載の吸着剤。
〔3〕多孔質体が50m2/g以上のBET比表面積を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の吸着剤。
〔4〕多孔質体のチタン含量が5質量%以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔5〕多孔質体が、アルカリ土類金属のケイ酸塩と水溶性チタン塩との反応生成物である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔6〕鉛吸着剤である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔7〕追加の重金属吸着物質を更に含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔8〕追加の重金属吸着物質がゼオライト又は非晶質チタノシリケート(但し、0.4g/cm3以下の嵩比重を有する非晶質チタノシリケートの多孔質体は除く)である、前記〔7〕に記載の吸着剤。
〔9〕pHが8以上の水用の吸着剤である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔10〕浄水器用の吸着剤である、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の吸着剤。
〔11〕前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の吸着剤を含む、浄水器。
【発明の効果】
【0008】
後述の実施例で示されるように、本発明に従うとpHが8以上の水中の鉛を吸着できる。したがって、本発明は、従来製品にはない商品価値を有する重金属吸着剤やこれを利用した浄水器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重金属吸着剤(以下、「吸着剤」ともいう)は、チタン含有化合物の多孔質体を必須成分として含有する。
【0010】
〔チタン含有化合物の多孔質体(以下、「多孔質体」ともいう)〕
多孔質体は重金属を吸着するために用いる。
多孔質体は、チタン含有化合物から構成される。チタン含有化合物の総質量に対するチタンの含量は、例えば3~60質量%、好ましくは5~50質量%、より好ましくは8~30質量%である。
チタン含有化合物は、チタン以外の元素を含んでいてもよい。チタン以外の元素としては、ケイ素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム及び硫黄からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
チタン含有化合物の総質量に対するケイ素の含量は、例えば0~60質量%、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%である。
チタン含有化合物の総質量に対するアルミニウムの含量は、例えば0~60質量%、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%である。
チタン含有化合物の総質量に対するカルシウムの含量は、例えば0~60質量%、好ましくは3~50質量%、より好ましくは5~40質量%である。
チタン含有化合物の総質量に対するマグネシウムの含量は、例えば0~60質量%、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%である。
チタン含有化合物の総質量に対するナトリウムの含量は、例えば0~30質量%、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
チタン含有化合物の総質量に対する硫黄の含量は、例えば0~20質量%、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0011】
多孔質体の嵩比重は、0.4g/cm3以下、好ましくは0.3g/cm3以下、より好ましくは0.25g/cm3以下である。
嵩比重は、JIS K 5101-12-1 第12部:見掛け密度又は見掛け比容―第1節:静置法に記載の方法に従い測定できる。
【0012】
多孔質体における、2~10nmの孔径を有する細孔の容積(以下、「細孔容積」ともいう)は、好ましくは0.02cm3/g以上、より好ましくは0.03cm3/g以上、特に好ましくは0.05cm3/g以上である。細孔容積が0.02cm3/g以上であると重金属吸着能をより向上させることができる。
細孔容積は、以下に記載の方法に従い測定できる。
全自動ガス吸着量測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ社製:AutosorbiQ)を用いて測定する。詳細には、アルゴン吸着法にて測定を行い、吸着量のデータからDFT法により該当細孔径における細孔容積を求める。また試料の前処理として200℃で6時間の真空脱気を行う。
【0013】
多孔質体のBET比表面積は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上である。BET比表面積が50m2/g以上であると重金属吸着能を更に向上させることができる。
BET比表面積は、以下に記載の方法に従い測定できる。
全自動ガス吸着量測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ社製:AutosorbiQ)を用いて測定する。詳細には、アルゴン吸着法にて測定を行い、BET多点法による解析で比表面積を求める。また試料の前処理として200℃で6時間の真空脱気を行う。
【0014】
多孔質体のメジアン径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは10~1000μm、特に好ましくは10~50μmである。メジアン径が10μm以上であると、吸着剤を浄水器に用いた際の浄水器フィルターからの吸着剤の流出や、吸着剤による浄水器フィルターの目詰まりを軽減できる。
メジアン径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法に従い測定できる。
【0015】
多孔質体は、以下の(A)又は(B)の反応を利用して調製できる。
(A)アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物又はケイ酸塩と水溶性チタン塩との反応
(B)酸化チタン、水酸化チタン又はメタチタン酸とアルカリとの反応
【0016】
〔反応(A)〕
アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物又はケイ酸塩の例としては、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウムや、酸化マグネシウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物又はケイ酸塩のなかでは、前述の嵩比重、細孔容積及びBET値を有する多孔質体の調製の容易さの観点からケイ酸塩が好ましく、ケイ酸マグネシウムとケイ酸カルシウムがより好ましく、ケイ酸カルシウムが特に好ましい。
水溶性チタン塩の例としては硫酸チタニル、硫酸チタンや、塩化チタン等が挙げられる。
反応(A)を利用する方法の例は以下の通りである。
ケイ酸カルシウムの水懸濁液(例えば、濃度1~50質量%)へ、硫酸チタニルの水溶液(例えば、濃度5~40質量%)を室温下で所定時間(例えば、1~300分間)かけて滴下し、次いで室温下で所定時間(例えば、1~72時間)攪拌する。生成した沈殿物を濾過、洗浄及び乾燥(例えば50~300℃で1~72時間)に供し、得られた固体を粉砕して前記チタン含有化合物を得る。
前記の調製法において、多孔質体の嵩比重、細孔容積、BET比表面積及びチタン含量の制御は、原料(アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物又はケイ酸塩)の種類、水溶性チタン塩の量及び滴下速度や、乾燥温度を変更することで実施できる。
【0017】
〔反応(B)〕
アルカリの例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水やケイ酸ナトリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
反応(B)を利用する方法の例は以下の通りである。
水酸化ナトリウム溶液(例えば濃度1~10M)へ、酸化チタン(TiO2)を添加した後、攪拌しながら加熱処理(例えば、50~200℃で1~72時間)に供する。生成した沈殿物を濾過、洗浄及び乾燥(例えば50~300℃で1~72時間)に供し、得られた固体を粉砕してチタン含有化合物を得る。
前記の調製法において、多孔質体の嵩比重、細孔容積、BET比表面積及びチタン含量の制御は、チタン原料(酸化チタン等)の粒子径、アルカリの濃度、加熱温度や反応時間を変更することで実施できる。
【0018】
多孔質体は単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
【0019】
多孔質体の含量は、吸着剤の総質量に対して、好ましくは5~70質量%、より好ましくは10~60質量%、特に好ましくは20~50質量%である。なお、後述する任意成分(追加の重金属吸着物質等)を含む態様では、任意成分の質量を「吸着剤の総質量」に含める。
【0020】
本発明は特定の理論によって限定されるものではないが、本発明に従うことでpHが8以上の水から鉛を吸着できる理由は以下の通りであると考えられる。
水のpHが8未満であるとき、鉛は水に溶解して鉛イオンとして存在する傾向が高いが、水のpHが8以上であるとき、鉛イオンの一部は水酸化物のコロイド(コロイド状の水酸化鉛)へと変化し、鉛イオンとコロイド状水酸化鉛とが共存する(非特許文献1)。
ゼオライトや非晶質チタノシリケートは、pHが8未満の水からは鉛を吸着できるものの、pHが8以上の水からは鉛を十分に吸着できない(後述の参考例)。したがって、ゼオライトや非晶質チタノシリケートが吸着しているのは鉛イオンであると考えられる。
一方、本発明に従う多孔質体は、pHが8以上の水から鉛を十分に吸着できる(後述の実施例)。したがって、本発明に従う多孔質体は、コロイド状水酸化鉛を吸着することで、pHが8以上の水から鉛を除去していると考えられる。
【0021】
〔任意成分〕
吸着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、下記の任意成分を含んでいてもよい。
【0022】
〔追加の重金属吸着物質〕
前述の「チタン含有化合物の多孔質体」以外の「追加の重金属吸着物質」を更に配合すると、吸着剤の重金属除去能力を高めることができる。
追加の重金属吸着物質は、単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
追加の重金属吸着物質としては、重金属吸着能を有する公知物質を特に制限なく使用できるが、ゼオライトと非晶質チタノシリケートが好ましい。
ゼオライトと非晶質チタノシリケートは水中の鉛イオンを吸着するので、水中のコロイド状水酸化鉛を吸着すると考えられる「チタン含有化合物の多孔質体」と組み合わせることで、吸着剤の鉛除去能をより高めることができる。
前記の組み合わせにおける配合比は水のpHに基づき調節できる。例えば、鉛イオンの存在比が高いpHが8未満の水に対してはゼオライトや非晶質チタノシリケートの配合量を多くし、コロイド状水酸化鉛の存在比が高くなるpHが8以上の水に対しては「チタン含有化合物の多孔質体」の配合量を多くすることで、吸着剤全体としての鉛除去能をより高めることができる。
【0023】
〔ゼオライト(アルミノケイ酸塩)〕
本発明では、重金属を吸着するゼオライトを特に制限なく使用できる。
ゼオライトは、合成ゼオライト及び天然ゼオライトのいずれでもよいが、合成ゼオライトが好ましい。
合成ゼオライトの例としては、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、P型ゼオライト、T型ゼオライト、L型ゼオライトや、β型ゼオライト等が挙げられる。なかでもA型、X型、Y型又はP型のゼオライトが好ましい。
天然ゼオライトの例としては、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チャバサイトや、エリオナイト等が挙げられる。
【0024】
ゼオライトのメジアン径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは10~1000μm、特に好ましくは20~50μmである。メジアン径が10μm以上であると、吸着剤を浄水器に用いた際の浄水器フィルターからの吸着剤の流出や、吸着剤による浄水器フィルターの目詰まりを軽減できる。
メジアン径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法に従い測定できる。
【0025】
ゼオライトの含量は、水のpHに応じて適宜設定できるが、吸着剤の総質量に対して、好ましくは30~95質量%、より好ましくは40~90質量%、特に好ましくは50~80質量%である。
【0026】
ゼオライトは公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。市販品としては、株式会社シナネンゼオミック製の「ゼオミック」が挙げられる。
ゼオライトは、単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
【0027】
〔非晶質チタノシリケート〕
本発明では、重金属を吸着する非晶質チタノシリケートを特に制限なく使用できる。但し、0.4g/cm3以下の嵩比重を有する非晶質チタノシリケートの多孔質体は除く。換言すれば、非晶質チタノシリケートの多孔質体は、本発明の必須成分である「チタン含有化合物の多孔質体」には該当しない。
【0028】
非晶質チタノシリケートのメジアン径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは10~1000μm、特に好ましくは20~50μmである。メジアン径が10μm以上であると、吸着剤を浄水器に用いた際の浄水器フィルターからの吸着剤の流出や、吸着剤による浄水器フィルターの目詰まりを軽減できる
メジアン径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法に従い測定できる。
【0029】
非晶質チタノシリケートの含量は、水のpHに応じて適宜設定できるが、吸着剤の総質量に対して、好ましくは30~95質量%、より好ましくは40~90質量%、特に好ましくは50~80質量%である。
【0030】
非晶質チタノシリケートは公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。市販品としては、BASF製の「ATS」が挙げられる。
非晶質チタノシリケートは、単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
【0031】
〔活性炭〕
本発明の吸着剤は活性炭と組み合わせて使用することが好ましい。
活性炭は、水中に含まれる有害性有機化合物(例えばトリハロメタンやホルムアルデヒド)や、塩素臭やカビ臭を除去するために配合する。
活性炭の形状は、粉末状、粒子状、繊維状の何れでもよい。
活性炭は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。
活性炭は単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
活性炭の含量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、本発明の吸着剤の総質量に対して、好ましくは100~2000質量%、更に好ましくは500~1500質量%である。
【0032】
〔吸着剤の製法〕
吸着剤は、例えば、所定量のチタン含有化合物の多孔質体と追加の重金属吸着物質(ゼオライトや非晶質チタノシリケート等)とを粉末状態(例えば、粒子径:100μm以下の粉末)で混合機へ投入し、均一になるまで混合(例えば、数分から数時間)することで製造できる。
混合機は特に限定されないが、工業的にはロッキングミキサー、リボンミキサーや、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
前記の製法とは別に、吸着剤は、チタン含有化合物の多孔質体と追加の重金属吸着物質(ゼオライトや非晶質チタノシリケート等)とを水へ投入し、プロペラ攪拌機等で攪拌して両成分が均一に分散したスラリーを作成し、これを固液分離及び乾燥に供することでも製造できる。
吸着剤と活性炭とを組み合わせてなる浄水器用活性炭フィルター(カーボンブロック等)は、例えば、活性炭と多孔質体、又は活性炭と多孔質体と追加の重金属吸着物質に所定量のバインダー(ポリエチレン粉末、フィブリル化繊維等)を添加し混合した後、成型工程に供することで製造できる。
【0033】
〔吸着対象となる重金属〕
吸着する重金属の種類は特に制限されない。重金属の例としては鉛や水銀が挙げられる。本発明は、鉛の除去に特に適している。
【0034】
〔吸着剤の用途〕
吸着剤は、水(特に水道水)から重金属を除去するために使用できる。なかでも、水道水から鉛を除去する浄水器用の吸着剤として好適に使用できる。
本発明は、従来の重金属吸着剤(ゼオライトや非晶質チタノシリケート)では重金属除去効果が十分に得られなかったpHが8以上の水からの重金属除去に適している。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
〔チタン含有化合物の多孔質体〕
以下のチタン含有化合物A~Hの多孔質体を使用した。
【0037】
〔チタン含有化合物Aの多孔質体〕
30gのケイ酸マグネシウムを200mlの水に懸濁させて、ケイ酸マグネシウム濃度が約13.0質量%の水懸濁液を作成した。
24gの硫酸チタニルを200mlの水に溶解させて、硫酸チタニル濃度が約10.7質量%の水溶液を作成した。
ケイ酸マグネシウムの水懸濁液へ、硫酸チタニルの水溶液を、室温下で1時間かけて滴下し、次いで室温で18時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過し、水洗し、100℃で24時間乾燥させた。得られた固体を小型粉砕機で粉砕してチタン含有化合物Aの多孔質体を得た。
【0038】
〔チタン含有化合物Bの多孔質体〕
30gのケイ酸カルシウムを300mlの水に懸濁させて、ケイ酸カルシウム濃度が約9.1質量%の水懸濁液を作成した。
12gの硫酸チタニルを200mlの水に溶解させて、硫酸チタニル濃度が約5.7質量%の水溶液を作成した。
ケイ酸カルシウムの水懸濁液へ、硫酸チタニルの水溶液を、室温下で30分間かけて滴下し、次いで室温で18時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過し、水洗し、100℃で24時間乾燥させた。得られた固体を小型粉砕機で粉砕してチタン含有化合物Bの多孔質体を得た。
【0039】
〔チタン含有化合物Cの多孔質体〕
硫酸チタニルの使用量を24gへ変更したことを除き、チタン含有化合物Bと同じ製法にしたがって、チタン含有化合物Cの多孔質体を得た。
【0040】
〔チタン含有化合物Dの多孔質体〕
硫酸チタニルの使用量を36gへ変更したことを除き、チタン含有化合物Bと同じ製法にしたがって、チタン含有化合物Dの多孔質体を得た。
【0041】
〔チタン含有化合物Eの多孔質体〕
100mlの水酸化ナトリウム溶液(濃度:7M)へ5gの酸化チタンを添加した後、攪拌しながら100℃で24時間加熱処理した。その後、生成した沈殿物を濾過し、水洗し、100℃で24時間乾燥させた。得られた固体を小型粉砕機で粉砕してチタン化合物Eの多孔質体を得た。
【0042】
〔チタン含有化合物Fの多孔質体〕
ケイ酸カルシウムをケイ酸アルミニウムに変更したことを除き、チタン含有化合物Bと同じ製法にしたがって、チタン含有化合物Fの多孔質体を得た。
【0043】
〔チタン含有化合物Gの多孔質体〕
ケイ酸カルシウムをウォラストナイト(天然のケイ酸カルシウム)に変更したことを除き、チタン含有化合物Cと同じ製法にしたがって、チタン含有化合物Gの多孔質体を得た。
【0044】
〔チタン含有化合物Hの多孔質体〕
硫酸チタニルの使用量を36gへ変更したことを除き、チタン含有化合物Aと同じ製法にしたがって、チタン含有化合物Hの多孔質体を得た。
【0045】
〔非チタン含有化合物の多孔質体〕
市販のケイ酸マグネシウムの多孔質体(富田製薬製。商品名:AD600)を用いた。
【0046】
前述した測定法に従い、各多孔質体の「嵩比重」、「2~10nmの孔径を有する細孔の容積」及び「BET比表面積」を測定した。結果を表1に示す。
各多孔質体を構成する化合物の元素組成を、蛍光X線装置(株式会社リガク:ZSXPrimusII)を用いたオーダー分析により測定した。測定用試料として、各化合物を35mmφの塩ビリングに入れ、ダイスで挟み込んでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化したものを用いた。結果を表2に示す。表2に示す各元素の値は、化合物の総質量に対する含量(質量%)である。
【0047】
〔追加の重金属吸着物質〕
【0048】
〔ゼオライト〕
市販のX型ゼオライト(株式会社シナネンゼオミック。商品名:ゼオミック)を用いた。
ゼオライトはチタンを含有せず、嵩比重は0.651g/cm3であった。
【0049】
〔非晶質チタノシリケート〕
市販の非晶質チタノシリケート(BASF製。商品名:ATS)を用いた。
この非晶質チタノシリケートのチタン含量は32.2質量%、ケイ素含量は15.4質量%、ナトリウム含量は6.1質量であった。また、この非晶質チタノシリケートの「嵩比重」は0.876g/cm3、「2~10nmの孔径を有する細孔の容積」は0.090cm3/g、「BET比表面積」は192m2/gであった。
【0050】
〔鉛の吸着試験〕
〔試験水の調製〕
所定量の硝酸鉛を蒸留水に溶解させて、鉛濃度が300ppmの鉛溶液を作成した。
8mlの鉛溶液を、7992mlの模擬水道水(JIS S3200-7に規定される浸出液:pH7.0±0.1、硬度45±5mg/L、アルカリ度35±5mg/L、残留塩素0.3mg±0.1mg/L)へ添加し、1N水酸化ナトリウムでpHを8.9に調整して、鉛濃度が300ppbの試験水を得た。
【0051】
〔吸着試験〕
8000mlの試験水に、チタン含有化合物の多孔質体及び/又は追加の重金属吸着物質を表1記載の量で添加し、攪拌(100rpm)しながら24時間攪拌した。その後、0.8μmメンブランフィルターで固液分離を行い、濾液中の残留鉛濃度(ppb)をグラファイトファーネス原子光度法((株)日立ハイテクサイエンス:ZA3000)にて測定した。結果を表1に示す。
なお、固液分離(吸着剤と試験水との分離)に使用したメンブランフィルターは、試験水から鉛を分離するものではない(後述の参考例)。
pHが8.9の試験水において、従来の吸着剤(比較例1~3)と比較して、本発明の吸着剤(実施例7)は優れた鉛吸着能を示した。また、鉛吸着能は、本発明の吸着剤と追加の重金属吸着物質とを組み合わせることで向上した(実施例6及び7)。
【0052】
〔水銀の吸着試験〕
〔試験水の調製〕
所定量の塩化水銀を蒸留水に溶解させて、水銀濃度が25ppmの水銀溶液を作成した。
1mlの水銀溶液を、499mlの水道水へ添加して、水銀濃度が50ppbの試験水を得た。試験水のpHは6.8であった。なお、pHが4以上の水中で、水銀は殆どがコロイド状の水酸化水銀として存在する(Adsorption Processing for the Removal of Toxic Hg(II) from Liquid Effluents:Metals 2020, 10(3), 412;)。
【0053】
500mlの試験水に、チタン含有化合物の多孔質体及び/又は追加の重金属吸着物質を表3記載の量で添加し、攪拌(100rpm)しながら24時間攪拌した。その後、0.8μmメンブランフィルターで固液分離を行い、濾液中の残留水銀濃度(ppb)を還元気化原子吸光法(日本インスツルメンツ(株):マーキュリー RA-3にて測定した。結果を表3に示す。
従来の吸着剤(比較例9)と比較して、本発明の吸着剤(実施例8~9)は水銀に対しても優れた吸着能を示した。
【0054】
〔参考例:追加の重金属吸着物質の鉛吸着能〕
〔試験水の調製〕
所定量の硝酸鉛を蒸留水に溶解させて、鉛濃度が300ppmの鉛溶液を作成した。
8mlの鉛溶液を、7992mlの模擬水道水(JIS S3200-7に規定される浸出液:pH7.0±0.1、硬度45±5mg/L、アルカリ度35±5mg/L、残留塩素0.3mg±0.1mg/L)へ添加し、1N塩酸又は1N水酸化ナトリウムでpHを6.7又は8.9に調整して、鉛濃度が300ppbの試験水を得た。
【0055】
〔吸着試験〕
8000mlの試験水に、追加の重金属吸着物質を表4記載の量で添加し、攪拌(100rpm)しながら24時間攪拌した。その後、0.8μmメンブランフィルターで固液分離を行い、濾液中の残留鉛濃度(ppb)をグラファイトファーネス原子光度法((株)日立ハイテクサイエンス:ZA3000)にて測定した。結果を表4に示す。
いずれの重金属吸着物質も、pH6.7の試験液からはほぼ全ての鉛を吸着したが、pH8.9の試験液では鉛が残留した。
ここで、pHが6.7の水中で鉛は鉛イオンとして存在する傾向が高く、pHが8.9の水中では鉛イオンとコロイド状水酸化鉛とが共存する(非特許文献1)。
したがって、pH8.9の試験液から吸着されずに残留した鉛はコロイド状の水酸化鉛であり、追加の重金属吸着物質は水中の鉛イオンを吸着する物質であると考えられる。
また、追加の重金属吸着物質を投入しなかった対照試験において、0.8μmメンブランフィルターによる濾過後の試験水中の鉛濃度は試験前(300ppb)と殆ど変化しなかったことから、固液分離に使用したメンブランフィルターは、試験水から鉛(鉛イオン及びコロイド状水酸化鉛)を分離するものではないと考えられる。