IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 聖マリアンナ医科大学の特許一覧

特開2023-124052中枢神経領域の疾患または病態の検出方法
<>
  • 特開-中枢神経領域の疾患または病態の検出方法 図1
  • 特開-中枢神経領域の疾患または病態の検出方法 図2
  • 特開-中枢神経領域の疾患または病態の検出方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124052
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】中枢神経領域の疾患または病態の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230830BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20230830BHJP
   A61P 31/14 20060101ALN20230830BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
G01N33/53 P
A61P25/00
A61P31/14
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027612
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】山野 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】伊佐早 健司
(72)【発明者】
【氏名】水上 平祐
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 謙三
(72)【発明者】
【氏名】飯島 直樹
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
(57)【要約】
【課題】中枢神経領域の疾患または病態の新規な検出方法および疾患活動性の判定方法ならびに中枢神経領域の疾患または病態に対する治療効果の新規な判定方法の提供。
【解決手段】本発明によれば、対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含む、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出方法および疾患活動性の判定方法ならびに神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の判定方法が提供される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出方法。
【請求項2】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を判定する工程をさらに含む、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度と参照値とを比較する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
参照値が、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していない対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度に基づいて設定された値である、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIT抗体および抗KIR抗体からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブまたはニボルマブである、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性の判定方法。
【請求項8】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性を評価する工程をさらに含む、請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の判定方法。
【請求項10】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の程度を評価する工程をさらに含む、請求項9に記載の判定方法。
【請求項11】
対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度と参照値とを比較する工程をさらに含む、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項12】
参照値が、治療前の対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度に基づいて設定された値である、請求項11に記載の判定方法。
【請求項13】
神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断マーカーとしての、CXCL10の使用。
【請求項14】
脳脊髄液試料中のCXCL10の定量手段を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経領域の疾患または病態の検出方法および疾患活動性の判定方法に関する。本発明はまた、中枢神経領域の疾患または病態に対する治療効果の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経領域の疾患および病態の中には、指標となるバイオマーカーが十分には確立されておらず、診断や病勢の判断を行う上で難渋するものも多い。これらの疾患のうち、神経サルコイドーシスは、サルコイドーシス患者のうち最大10%程度で発症するが、臨床症状も均一ではないことが知られている(非特許文献1)。また、神経サルコイドーシスの診断を行う上で、脳や脊髄の生検組織診断には侵襲性を伴うため患者負担も大きい。このため、生検組織診断以外の診断マーカーの必要性が高いものであった。
【0003】
また、自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは、近年報告された抗GFAP抗体が陽性となる新たな中枢神経領域の炎症疾患として注目されている(非特許文献2)。この疾患では、抗GFAP抗体がバイオマーカーとして診断には有用ではあるが、治療強度を決定する上で病勢を評価するには十分といえるものではなかった。
【0004】
さらに、近年は免疫チェックポイント阻害薬の普及に伴い、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する免疫関連副作用(irAE)が問題となっている。中枢神経領域で生じるirAEはその実態が解明されておらず診断に苦慮することも少なくないが、バイオマーカーも確立されていない状況にあった(非特許文献3)。
【0005】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症あるいは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチン接種に起因して中枢神経系の症状をきたす場合があるが、SARS-CoV-2に関連する中枢神経系の症状の指標となるバイオマーカーは確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Voortman M, et al., Curr Opin Neurol. 2019 Jun;32(3):475-483.
【非特許文献2】Shan F, et al., Front Immunol. 2018.
【非特許文献3】Reynolds KL, et al., Oncologist. 2019 Apr;24(4):435-443.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、中枢神経領域の疾患または病態の新規な検出方法および疾患活動性の判定方法を提供することを目的とする。本発明はまた、中枢神経領域の疾患または病態に対する治療効果の新規な判定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは今般、中枢神経領域の疾患または病態のうち、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎(本明細書中、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)およびSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を包括して「本発明における疾患等」という場合がある。)を発症している対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が、本発明における疾患等を発症していない対象の脳脊髄液中の量または濃度とは異なることを見出した。本発明者らはまた、脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が本発明における疾患等における病態の程度と相関することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出方法。
[2]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を判定する工程をさらに含む、上記[1]に記載の検出方法。
[3]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度と参照値とを比較する工程をさらに含む、上記[1]または[2]に記載の検出方法。
[4]参照値が、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していない対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度に基づいて設定された値である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の検出方法。
[5]免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIT抗体および抗KIR抗体からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の検出方法。
[6]抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブまたはニボルマブである、上記[5]に記載の検出方法。
[7]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性の判定方法。
[8]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性を評価する工程をさらに含む、上記[7]に記載の判定方法。
[9]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の判定方法。
[10]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度を指標にして、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の程度を評価する工程をさらに含む、上記[9]に記載の判定方法。
[11]対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度と参照値とを比較する工程をさらに含む、上記[9]または[10]に記載の判定方法。
[12]参照値が、治療前の対象の脳脊髄液試料中のCXCL10の量または濃度に基づいて設定された値である、上記[11]に記載の判定方法。
[13]神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断マーカーとしての、CXCL10の使用。
[14]脳脊髄液試料中のCXCL10の定量手段を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断キット。
【0010】
本発明によれば、対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定することで神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を簡便に検出できるとともに、本発明における疾患等の疾患活動性および治療効果を簡便に判定できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、非炎症性神経疾患に対する、本発明における疾患等(図1A:神経サルコイドーシス、図1B:GFAPアストロサイトパチー、図1C:中枢神経症状を伴うiRAE、図1D:SARS-CoV-2関連脳脊髄炎)および多発性硬化症のダネット(Dunnett)の多重比較検定(パラメトリック検定)の結果を示す(本発明における疾患等:n=3、多発性硬化症:n=13、非炎症性神経疾患:n=6)。水平線は平均値を、エラーバーは標準偏差をそれぞれ示す。
図2図2は、非炎症性神経疾患に対する、本発明における疾患等(図2A:神経サルコイドーシス、図2B:GFAPアストロサイトパチー、図2C:中枢神経症状を伴うiRAE、図2D:SARS-CoV-2関連脳脊髄炎)および多発性硬化症のダン(Dunn)の多重比較検定(ノンパラメトリック検定)の結果を示す(本発明における疾患等:n=3、多発性硬化症:n=13、非炎症性神経疾患:n=6)。水平線は平均値を、エラーバーは標準偏差をそれぞれ示す。
図3図3は、多発性硬化症に対する、本発明における疾患等(図3A:神経サルコイドーシス、図3B:GFAPアストロサイトパチー、図3C:中枢神経症状を伴うiRAE、図3D:SARS-CoV-2関連脳脊髄炎)のスチューデントのt検定の結果を示す(本発明における疾患等:n=3、多発性硬化症:n=13)。水平線は平均値を、エラーバーは標準偏差をそれぞれ示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
<<定義>>
サルコイドーシスは、様々な臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する全身性の疾患であり、このうち神経組織を障害するものを「神経サルコイドーシス」という。神経サルコイドーシスでは、実質内肉芽腫性病変(限局性腫瘤病変、びまん性散在性肉芽腫性病変、脊髄病変)、髄膜病変(髄膜炎、髄膜脳炎、肥厚性肉芽腫性硬膜炎)、水頭症、血管病変、脳症等が見られる(サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き-2006、日本サルコイドーシス肉芽腫性疾患学会、日本呼吸器学会、日本心臓病学会、日本眼科学会、日本皮膚科学会、日本神経学会、厚生労働科学研究-難治性疾患克服研究事業-びまん性肺疾患に関する調査研究班、日呼吸会誌46(9)、2008)。
【0013】
「自己免疫性GFAPアストロサイトパチー」は抗GFAP抗体が陽性となる新たな中枢神経領域の炎症疾患として2016年に提唱され、その特徴として次のようなものがある。
・抗GFAP抗体自体は病理学的変化を誘発しない。
・ヒトにおける病理は不均一であり、一般的に40歳以上の個人で診断され、急性発症の髄膜脳炎や脊髄炎を生じることが多い。
・臨床症状には、発熱、頭痛、脳症、不随意運動、脊髄炎、および異常な視力が含まれ、病変には、皮質下白質、大脳基底核、視床下部、脳幹、小脳、および脊髄が含まれる。
・核磁気共鳴画像法(MRI)の特徴として、脳室に垂直な白質において線形血管周囲放射状ガドリニウム増強を示す。
・現時点では、統一された診断基準はなく、標準的な治療法は開発されていないが、ステロイド療法が奏功することが多い。
【0014】
免疫チェックポイント阻害薬の一種である抗PD-1抗体は、癌細胞のPD-1分子を阻害することで癌細胞に対する免疫を増強させて治療効果を発揮する。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬は、癌細胞に対する免疫だけを選択的に増強することはできず、免疫全般を過剰に活性化してしまう結果、免疫が自身を攻撃してしまう様々な免疫関連副作用(irAE(Immune-Related Adverse Events of Immune Checkpoint Inhibitors);「免疫関連有害事象」ともいう。)を引き起こす。irAEは全身のあらゆる臓器に生じるが、中枢神経領域では、例えば、脳炎やACTH単独欠損症がある(本明細書中、「免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)」を「中枢神経領域におけるirAE」あるいは「中枢神経症状を伴うirAE」ということがある。)。irAEを引き起こす免疫チェックポイント阻害薬としては、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIT抗体および抗KIR抗体等が挙げられる。また、抗PD-1抗体としては、例えば、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、スパルダルシズマブおよびセミプリマブが挙げられ、抗CTLA-4抗体としては、例えば、イピリツマブが挙げられ、抗PD-L1抗体としては、例えば、アベルマブ、アテゾリズマブおよびデュルバルマブが挙げられる。
【0015】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の発症あるいはSARS-CoV-2ワクチンの接種に起因して、神経障害が観察される場合があるが、このうち中枢神経系の症状としては、頭痛、めまい、運動麻痺、感覚異常、運動失調脳炎、脳卒中、けいれん発作等が挙げられ(Lahiri D, et al., Cureus. 2020 Apr 29;12(4):e7889.)、本明細書ではこれらの中枢神経系の症状を「SARS-CoV-2関連脳脊髄炎」という。
【0016】
本発明における「対象」は、ヒトのみならず、ヒト以外の哺乳動物を含む意味で用いられる。
【0017】
一般的な炎症において、ケモカインは、炎症細胞の遊走に重要な役割を果たしていることが知られており、ケモカインの一種であるCXCL10はCXCケモカインに分類され、別名はインターフェロン誘導タンパク質10(IP-10)ともいい、本発明において「CXCL10」はこの意味で用いる。
【0018】
<<検出方法>>
本発明の第一の側面によれば、対象の神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出方法が提供される。本発明の検出方法によれば、対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を指標にして、本発明における疾患等を検出することができる。すなわち、本発明の検出方法は、対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を被験対象における神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無と関連づけることを特徴とする。
【0019】
本発明の検出方法では、まず、(A)対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を実施する。CXCL10の量または濃度の測定は、公知の方法(例えば、サイトメトリックビーズアレイ(CBA;Cytometric Bead Array)法や質量分析法を用いた方法、ELISA等)により実施することができる。
【0020】
本発明の検出方法では、(B)工程(A)で測定されたCXCL10の量または濃度を指標にして、脳脊髄液を採取した対象における神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を判定または評価する工程をさらに含むことができる。工程(B)は、(B-1)脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度とあらかじめ定めた参照値とを比較する工程と、(B-2)脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が参照値以上であるか、または参照値よりも高い場合に、被験対象が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していると判定する工程により実施することができる。ここで、「発症している」とは、本発明における疾患等を発症していることに加え、発症している可能性がある場合も含む意味で用いられるものとする。
【0021】
本発明の検出方法において、「参照値」は、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していない対象(正常対象)の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。このような正常対象は、治療中の疾患がない健康な対象が好ましいが、本発明における疾患等以外の疾患を有する対象であってもよい。上記の参照値の決定方法においては、正常対象群の平均値、パーセンタイル値、最大値または最小値を使用することができる。パーセンタイル値は任意の値を選択することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90または95とすることができる。参照値を算出する際の対象数は複数例が好ましく、例えば、2例以上、5例以上、10例以上、20例以上または50例以上とすることができる。なお、参照値は本発明の検出方法を実施する上で神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を区別する数値であり、この意味においてカットオフ値または境界値といい得る。
【0022】
本発明の検出方法において、「参照値」は、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していない対象(正常対象)を比較対象とし、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症している対象(発症対象)の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度から算出することもできる。例えば、正常対象群と、発症対象群について、脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定し、得られた測定値を用いてROC解析等の統計解析を行うことによりカットオフ値を設定することができる。ROC曲線(受信者動作特性曲線(ROC;Receiver Operatorating Charasteristic curve))の作成とROC曲線に基づくカットオフ値の設定は周知であり、感度や特異度の観点から当業者が適宜設定することができる。
【0023】
本発明の検出方法では、対象の脳脊髄液について測定したCXCL10の濃度が、例えば、200pg/mL以上、320pg/mL以上、500pg/mL以上、750pg/mL以上、1000pg/mL以上、1250pg/mL以上、1500pg/mL以上、1750pg/mL以上、2000pg/mL以上、2500pg/mL以上、3000pg/mL以上、4400pg/mL以上、5000pg/mL以上、7500pg/mL以上、10000pg/mL以上の場合に、対象が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していると決定することができる。また、本発明の検出方法では、本発明における疾患等と他の中枢神経領域の疾患(例えば、多発性硬化症)とを区別する観点から、髄液CXCL10の濃度として840pg/mL以上(好ましくは1000pg/mL以上)を指標とすることができ、本発明における疾患等と非炎症性神経疾患(例えば、ミトコンドリア脳筋症、遺伝性脊髄小脳変性症、孤発性脊髄小脳変性症、てんかん、脳梗塞、特発性滑車神経麻痺)と区別する観点から、髄液CXCL10の濃度として320pg/mL以上を指標とすることができる。
【0024】
本発明の検出方法によれば、対象が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していることを検出することができる。したがって、本発明の検出方法は、対象が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症しているか否かの診断に補助的に用いることができ、対象が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。すなわち、本発明の検出方法は診断を補助する方法と言い換えることができる。
【0025】
本発明の検出方法において、神経サルコイドーシスの検出は、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。組み合わせる臨床変数としては、例えば、血清アンギオテンシン変換酵素(ACE)、血清可溶性IL2-レセプター(slL2R)およびリゾチームが挙げられる。
【0026】
本発明の検出方法において、自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの検出は、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。組み合わせる臨床変数としては、例えば、髄液細胞数、髄液タンパク、および抗GFAPα抗体が挙げられる。
【0027】
本発明の検出方法において、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)の検出は、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。組み合わせる臨床変数としては、例えば、髄液細胞数および髄液タンパクが挙げられる。
【0028】
本発明の検出方法において、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出は、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。組み合わせる臨床変数としては、例えば、COVID19感染の経過、意識障害、頭痛、めまい、運動麻痺、感覚異常、運動失調、脳卒中、けいれん発作、脳脊髄障害を示唆する神経症候、髄液検査での細胞数、タンパク上昇、脳脊髄MRIでの異常信号等が挙げられる。
【0029】
本発明の検出方法の「対象」には、正常な対象(健常者)も含まれるが、好ましくは中枢神経領域の疾患または病態を発症していると疑われる対象、より好ましくは神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していると疑われる対象を含むものである。
【0030】
本発明の検出方法によれば、対象から採取した脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度に基づいて、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を定量的に検出または評価することができる。このため本発明の検出方法は、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を検出または評価するための生体試料分析方法(好ましくは脳脊髄液試料分析方法)と言い換えることができる。本発明の検出方法は、簡便かつ的確に神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無を検出できる点で有利である。
【0031】
<<疾患活動性の判定方法>>
本発明の第二の側面によれば、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性の判定方法が提供される。本発明の疾患活動性の判定方法によれば、対象の脳脊髄液中のCXCL10を指標にして本発明における疾患等の疾患活動性を判定することができる。すなわち、本発明の疾患活動性の判定方法は、対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を指標にして、対象における神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性と関連づけることを特徴とする。ここで、本発明において「疾患活動性」とは、対象の本発明における疾患等の病気の勢いの程度(例えば、対象における炎症状態の程度)を意味し、該疾患等の進行の速度の指標となる場合もある。
【0032】
本発明の疾患活動性の判定方法において、「疾患活動性」は、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の病気の勢いの程度が、「高」、「中」、「低」、「なし(寛解)」といった段階別に決定することができる。
【0033】
本発明の疾患活動性の判定方法では、本発明の検出方法と同様に、(C)対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を実施する。CXCL10の量または濃度の測定は、本発明の検出方法と同様に行うことができる。
【0034】
本発明の疾患活動性の判定方法では、(D)対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を指標にして、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、前記免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性を評価する工程をさらに含むことができる。工程(D)は、(D-1)脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度とあらかじめ定めた参照値とを比較する工程と、(D-2)脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度と参照値との差の程度に応じて該対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性を決定する工程により実施することができる。
【0035】
本発明の疾患活動性の判定方法の工程(D-2)は、例えば、脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を、その対象について以前に測定した脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度と比較して、その差の程度に応じて該対象の疾患活動性を「高」、「中」、「低」または「なし(寛解)」と決定する工程とすることができ、あるいは、脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を、本発明における疾患等を発症していない対象(正常対象)の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度の平均値と比較して、その差の程度に応じて該対象の疾患活動性を「高」、「中」、「低」または「なし(寛解)」と決定する工程、とすることができる。ここで、本発明の疾患活動性の判定方法を実施する前の同一対象についての脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度の測定は、例えば、該対象について本発明における疾患等の診断時(診断の疑いのある時期を含む)や治療開始前、治療期間中、経過観察中等の時期に実施することができる。
【0036】
本発明の疾患活動性の判定方法において、「参照値」は、脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度をあらかじめ測定した被験者を本発明における疾患等の疾患活動性に応じて層別化し、「高」、「中」、「低」、「なし(寛解)」の各群の前記CXCL10の量または濃度の平均値をもとにして決定することができる。また、前記参照値は、本発明の検出方法と同様に、ROC解析等の統計解析を行うことによりカットオフ値を設定することにより決定することもできる。
【0037】
本発明の疾患活動性の判定方法の「対象」は、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)もしくはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症しているまたは発症していると疑われる対象とすることができ、好ましくは医師または獣医師によりこれらの疾患または病態を発症しているとの診断を受けた対象とすることができる。
【0038】
本発明の疾患活動性の判定方法は、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性の診断に補助的に用いることができ、疾患活動性の診断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。すなわち、本発明の疾患活動性の判定方法は疾患活動性の判定を補助する方法と言い換えることができる。
【0039】
本発明の疾患活動性の判定方法によれば、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性を判定することができる。したがって、本発明の疾患活動性の判定方法は、その疾患活動性に応じて該対象の治療方法の選択や治療計画を立てる際の判断に補助的に用いることができ、これらの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。本発明の疾患活動性の判定方法はまた、無駄な投薬を抑制することができ、ひいては医療費削減や患者負担軽減に資することができる点で有利である。
【0040】
本発明の疾患活動性の判定方法において、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の疾患活動性の判定は、本発明の検出方法と同様に、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。
【0041】
<<治療効果の判定方法>>
本発明の第三の側面によれば、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の判定方法が提供される。本発明の治療効果の判定方法によれば、脳脊髄液中のCXCL10を指標にして当該対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果を判定することができる。すなわち、本発明の治療効果の判定方法は、脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果と関連づけることを特徴とする。
【0042】
本発明の治療効果の判定方法では、本発明の検出方法と同様に、(E)脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定する工程を実施する。CXCL10の量または濃度の測定は、本発明の検出方法と同様に行うことができる。
【0043】
本発明の治療効果の判定方法は治療効果を判定するものであるため、対象は治療後の、あるいは治療中の被験対象とすることができる。
【0044】
本発明の治療効果の判定方法によって治療効果を判定できる神経サルコイドーシスに対する治療としては薬物療法が挙げられ、神経サルコイドーシスの治療薬の例としては、ステロイド剤(プレドニゾロン)、免疫抑制剤(メトトレキサート、シクロスポリン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、ヒドロキシクロロキン/クロロキン)、シクロフォスファミド、抗TNF-α薬(インフリキシマブ、サリドマイド)、抗生剤等の医薬品が挙げられる。
【0045】
本発明の治療効果の判定方法によって治療効果を判定できる自己免疫性GFAPアストロサイトパチーに対する治療としては、例えば、薬物療法や血液浄化療法が挙げられる。薬物療法としては、自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの治療薬による治療が挙げられ、そのような治療薬の例としては、ステロイド薬(プレドニゾロン、デキサメタゾン)、免疫抑制剤(アザチオプリン)、免疫グロブリン療法等の医薬品が挙げられる。
【0046】
本発明の治療効果の判定方法によって治療効果を判定できる免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)に対する治療としては、例えば、薬物療法や抗体療法、血液浄化療法が挙げられる。薬物療法としては、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)の治療薬による治療が挙げられ、そのような治療薬の例としては、ステロイド薬(プレドニゾロン、デキサメタゾン)、免疫抑制剤(タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル)、抗TNF-α阻害薬(インフリキシマブ)等の医薬品が挙げられる。
【0047】
本発明の治療効果の判定方法によって治療効果を判定できるSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療としては、例えば、薬物療法が挙げられる。薬物療法としては、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の治療薬による治療が挙げられ、そのような治療薬の例としては、ステロイド等の医薬品が挙げられる。
【0048】
本発明の治療効果の判定方法においては、(F)工程(E)で測定されたCXCL10の量または濃度に基づいて、治療を受けた対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療効果の程度を決定する工程をさらに含むことができる。工程(F)は、(F-1)脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度とあらかじめ定めた参照値とを比較する工程と、(F-2)脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が参照値以下であるか、または参照値よりも低い場合に、治療効果があると決定する工程により実施することができる。なお、「治療効果がある」とは、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の完全治癒に加えて、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の病態もしくは症状の改善または緩和も含む。
【0049】
本発明の治療効果の判定方法の工程(F-2)は、例えば、脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症していない対象(正常対象)の脳脊髄液中の当該CXCL10の量または濃度の平均値と比較して約1.3倍以下、約1.2倍以下、約1.1倍以下または約1.05倍以下であるか、あるいは、該平均値以下である場合に、治療効果がある(例えば、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎が完全に治癒した可能性がある)と決定する工程とすることができる。
【0050】
本発明の治療効果の判定方法において使用する参照値は、本発明の検出方法と同様に設定することができるが、本発明の治療効果の判定方法ではこれに加えて被験対象の治療前の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度の測定値を参照値として使用することができる。この場合、本発明の治療効果の判定方法は、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療を開始する前に、あるいは開始後(好ましくは開始後すみやかに、例えば、1~2時間以内に、数時間以内に、または1日以内に)、被験対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度を測定する工程をさらに含んでいてもよい。また、工程(F-2)では、脳脊髄液を採取した対象の脳脊髄液中のCXCL10の量または濃度が治療前の測定値以下であるか、または治療前の測定値よりも低い場合に、治療効果がある(対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の病態もしくは症状の改善または緩和傾向にある)と決定することができる。
【0051】
本発明の治療効果の判定方法において治療を受ける「対象」は、好ましくは神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)もしくはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎を発症しているまたは発症していると疑われる対象とすることができ、より好ましくは医師または獣医師によりこれらの疾患または病態を発症しているとの診断を受けた対象とすることができる。
【0052】
本発明の治療効果の判定方法は、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療の有効性の判断に補助的に用いることができ、治療が有効か否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。すなわち、本発明の治療効果の判定方法は治療効果の判定を補助する方法と言い換えることができる。
【0053】
本発明の治療効果の判定方法によれば、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療を受けた対象において、当該治療効果を判定することができるため、被験対象に対して行った本発明における疾患等に対する治療の有効性を検証することができる。そして、治療効果が認められない場合にはその治療を中止し、別の治療計画を立てることができる。したがって、本発明の治療効果の判定方法は、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療の有効性の判断に補助的に用いることができ、治療が有効か否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。本発明の治療効果の判定方法はまた、無駄な投薬を抑制することができ、ひいては医療費削減や患者負担軽減に資することができる点で有利である。
【0054】
本発明の治療効果の判定方法において、対象が発症している神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の治療効果の判定は、本発明の検出方法と同様に、脳脊髄液中のCXCL10の測定に、他の臨床変数の測定を組み合わせて実施することができる。
【0055】
<<診断マーカー>>
本発明の第四の側面によれば、対象の脳脊髄液中のCXCL10を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断または検出に用いるためのマーカーと、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断または検出マーカーとしての脳脊髄液中のCXCL10の使用が提供される。本発明において「診断または検出マーカー」は、その存在および量が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の発症の有無や本発明における疾患等の疾患活動性の指標となる物質をいい、本発明における疾患等の検出や識別、疾患活動性の判定、治療効果の判定等のためのマーカーとして用いることができるものである。すなわち、本発明の診断マーカーによれば、CXCL10を神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断または検出マーカーとして使用することができる。
【0056】
本発明の診断マーカーは、上記に加えて、本発明の検出方法、疾患活動性の判定方法および治療効果の判定方法の記載に従って実施することができる。
【0057】
<<診断キット>>
本発明の第五の側面によれば、脳脊髄液中のCXCL10の定量手段を含んでなる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断または検出キットが提供される。本発明のキットは、典型的には、本発明の検出方法または疾患活動性の判定方法に従ってなされる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の検出または本発明における疾患等の疾患活動性の判定のために用いられるキットである。本発明のキットはまた、本発明の治療効果の判定方法に従ってなされる、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)またはSARS-CoV-2関連脳脊髄炎に対する治療の有効性の判定のために用いられるキットである。CXCL10の定量手段としては、例えば、CXCL10に特異的に結合する物質が挙げられ、典型的にはCXCL10に対する抗体である。本発明の診断キットでは、CXCL10の定量が可能な手段であればよく、抗体以外には質量分析法に使用する質量分析計等が挙げられる。
【0058】
本発明の診断キットは、上記に加えて、本発明の検出方法、疾患活動性の判定方法および治療効果の判定方法の記載に従って実施することができる。
【実施例0059】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
例1:神経サルコイドーシスの診断マーカーの検討(1)
例1では、神経サルコイドーシス患者から採取した血液検体を用いて、この疾患の病態を反映する診断マーカーについて検討した。
【0061】
聖マリアンナ医科大学病院において神経サルコイドーシスと臨床的に診断された患者12名から採取した血液検体を使用して、血清カルシウム、血清アンギオテンシン転換酵素(ACE)、血清リゾチーム、血清可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)および血清クレアチンキナーゼ(CK)を測定した。そして、これらの測定値が基準値に対して高い数値を示す場合を陽性として、各血清成分の神経サルコイドーシスの陽性率を検証した。
【0062】
結果は、表1の通りであった。各血清成分の基準値を超える場合を陽性に分類した結果、その陽性率は8.3~58.3%であり、神経サルコイドーシスの診断マーカーとしては十分ではないことが確認された。
【0063】
【表1】
【0064】
例2:神経サルコイドーシスの診断マーカーの検討(2)
例2では、神経サルコイドーシス患者から採取した脳脊髄液の検体(本明細書中、「髄液検体」ということがある。)を用いて、この疾患の病態を反映する診断マーカーについて検討した。
【0065】
聖マリアンナ医科大学病院において神経サルコイドーシスと臨床的に診断された患者3名から採取した髄液検体を使用して、脳脊髄液中のCXCL10の濃度(髄液CXCL10)をサイトメトリービーズアレイ(BD Biosciences社)により測定した。なお、後記例3~8においても同様に、髄液CXCL10はサイトメトリービーズアレイにより測定した
【0066】
結果は、表2の通りであった。髄液CXCL10の正常値(200pg/mL未満)に対し、いずれの患者においても顕著に高い数値を示した。この結果から髄液CXCL10の神経サルコイドーシスの診断マーカーとなり得ることが示された。
【0067】
【表2】
【0068】
例3:神経サルコイドーシスの治療経過と髄液CXCL10との相関
例3では、神経サルコイドーシスの治療経過と髄液中のCXCL10との相関について検討した。
【0069】
聖マリアンナ医科大学病院において神経サルコイドーシスと臨床的に診断された患者1名について、治療開始から定期的に採取した髄液検体を使用して、髄液CXCL10を測定した。
【0070】
結果は、表3に示す通りであった。患者Aについて、治療経過とともに、プレドニゾロン(PSL)およびシクロスファミドの投与による治療を行った結果、髄液CXCL10の数値が低下するとともに、臨床症状の改善が確認された。その後、髄液CXCL10の数値の上昇とともに症状が再び悪化し再燃が認められた。これらの結果から、髄液CXCL10が神経サルコイドーシスの臨床症状と相関し、この疾患の症状の程度の指標となり得ることが示された。
【0071】
【表3】
【0072】
例4:自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの診断マーカーおよび治療効果の検討
例4では、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー患者から採取した髄液検体を用いて、この疾患の病態を反映する診断マーカーについて検討した。
【0073】
聖マリアンナ医科大学病院において自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと臨床的に診断された患者3名について、入院後に定期的に採取した髄液検体を使用して、髄液CXCL10、髄液タンパク、オリゴクローナルバンド(OCB)、ミエリン塩基性タンパク(MBP)を測定した。
【0074】
結果は表4~6に示す通りであった。いずれの患者においても、治療開始前の時点では髄液CXCL10が正常値(200pg/mL未満)に対して顕著に高い数値を示すことが確認された(表4~6)。また、頭部MRIは、患者Bでは脳幹周囲に高信号病変が認められ、患者CおよびDでは脳室壁に垂直に線状高信号がそれぞれ認められた。これらの結果から、髄液CXCL10が自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの診断マーカーとなり得ることが示された。
【0075】
また、患者BおよびCにステロイドパルス療法(IVMP)、プレドニゾロン(PSL)投与および血漿交換療法(PEX)による治療をそれぞれ行った結果、髄液CXCL10の数値が低下するとともに(表4および5)、臨床症状および頭部MRIにおける炎症状態の改善が認められた。これらの結果から、髄液CXCL10が自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの臨床症状と相関し、この疾患の症状の程度の指標となり得ることが示された。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
例5:中枢神経領域の免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)の診断マーカーと治療効果の検討
例5では、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)に起因する中枢神経症状を呈する患者から採取した髄液検体を用いて、この病態を反映する診断マーカーについて検討した。
【0080】
聖マリアンナ医科大学病院において免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)に起因する中枢神経症状を呈する患者3名について(各患者の患者背景を表7に示す)、入院後に定期的に採取した髄液検体を使用して、髄液CXCL10を測定した。
【0081】
結果は表8~10に示す通りであった。いずれの患者においても、irAE)に起因する中枢神経症状を呈した時点では髄液CXCL10が正常値(200pg/mL未満)に対して顕著に高い数値を示すことが確認された。そして、プレドニゾロン(PSL)投与による治療を行った結果、髄液CXCL10の数値が低下するとともに、臨床症状の改善が確認された。これらの結果から、髄液CXCL10がirAEに起因する中枢神経症状と相関し、髄液CXCL10がこの中枢神経症状の病態を反映する診断マーカーとなり得ることが示された。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
例6:SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断マーカーの検討
例6では、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎患者から採取した髄液検体を用いて、この疾患の病態を反映する診断マーカーについて検討した。
【0087】
聖マリアンナ医科大学病院においてSARS-CoV-2関連脳脊髄炎患者3名について(各患者の患者背景および治療経過を表11に示す)、髄液検体を使用して、髄液CXCL10を測定した。
【0088】
結果は、表12~14に示す通りであった。髄液CXCL10の正常値(200pg/mL未満)に対し、いずれの患者においても顕著に高い数値を示した。この結果から髄液CXCL10のSARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断マーカーとなり得ることが示された。
【0089】
【表11】
【0090】
【表12】
【0091】
【表13】
【0092】
【表14】
【0093】
例7:多発性硬化症の診断マーカーの検討
例7では、多発性硬化症の患者から採取した髄液検体を用いて、髄液CXCL10が病態を反映する診断マーカーとなり得るかどうか検討した。
【0094】
聖マリアンナ医科大学病院において多発性硬化症と臨床的に診断された患者13名から採取した髄液検体を使用して、髄液中のCXCL10の濃度を測定した。
【0095】
結果は、表15の通りであった。髄液CXCL10の正常値(200pg/mL未満)を示す患者がいる一方で、正常値よりも高い数値を示す患者もいることが確認された。また、多発性硬化症の患者には、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチーおよび免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE)に起因する中枢神経症状を呈する患者が示すような顕著に高い値(840pg/mL以上)の患者はいないことも確認された。この結果からは、髄液CXCL10が多発性硬化症の病態を反映する診断マーカーとするには十分ではないことが示された。
【0096】
【表15】
【0097】
例8:各疾患等における髄液CXCL10の比較検討
例8では、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎および多発性硬化症のそれぞれの治療開始前の各患者の髄液CXCL10について(本発明における疾患等は各n=3、多発性硬化症はn=13)、非炎症性神経疾患(n=6)の髄液CXCL10を対照として比較検討した。ここで、非炎症性神経疾患の患者6名は、遺伝性脊髄小脳変性症、特発性脊髄小脳変性症、てんかん、正常圧水頭症、脳梗塞、症候性てんかんと診断された患者であった。また、本発明における疾患等(各n=3)と多発性硬化症(n=13)とのそれぞれの治療開始前の各患者の髄液CXCL10についても比較検討した。
【0098】
結果は、図1図3に示す通りであった。図1のダネット(Dunnett)の多重比較検定(パラメトリック検定)および図2のダン(Dunn)の多重比較検定(ノンパラメトリック検定)の結果、いずれの検定においても、対照(非炎症性神経疾患)に対して、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の髄液CXCL10の数値は有意に高いことが確認された一方で、多発性硬化症の髄液CXCL10の数値に有意な違いは確認されなかった。また、図3のスチューデントのt検定の結果、多発性硬化症に対して、神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の髄液CXCL10の数値は有意に高いことが確認された。
【0099】
これらの結果から、髄液CXCL10が神経サルコイドーシス、自己免疫性GFAPアストロサイトパチー、免疫チェックポイント阻害薬の投与に起因する、中枢神経領域における免疫関連副作用(irAE)、SARS-CoV-2関連脳脊髄炎の診断マーカーとなり得ることが示された。

図1
図2
図3