(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124055
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】自律走行装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230830BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G01C21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027618
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇人
【テーマコード(参考)】
2F129
5H301
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB20
2F129CC16
2F129DD53
2F129DD62
2F129EE52
2F129GG18
5H301BB05
5H301BB14
5H301CC10
5H301GG00
(57)【要約】
【課題】適切な地図情報を使用して走行経路を選択することができる走行装置を提供すること。
【解決手段】運搬対象を運搬する走行装置であって、地図情報に基づいて走行経路を決定する経路決定部と、前記走行経路を走行する走行部と、前記走行部に搭載されて前記運搬対象の振動を抑制する制振部と、前記運搬対象の振動抑制のために前記制振部に与えられた情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記情報に基づいて、前記地図情報を更新する更新部と、を備え、前記経路決定部は、前記更新部により更新された地図情報に基づいて、前記走行経路を決定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬対象を運搬する走行装置であって、
地図情報に基づいて走行経路を決定する経路決定部と、
前記走行経路を走行する走行部と、
前記走行部に搭載されて前記運搬対象の振動を抑制する制振部と、
前記運搬対象の振動抑制のために前記制振部に与えられた情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記情報に基づいて、前記地図情報を更新する更新部と、を備え、
前記経路決定部は、前記更新部により更新された地図情報に基づいて、前記走行経路を決定する走行装置。
【請求項2】
前記制振部は、前記情報を生成する制振制御部と、前記情報に基づいて制振動作を行う制振駆動部とを有する請求項1に記載の走行装置。
【請求項3】
前記制振制御部が生成する前記情報は、前記制振駆動部に供給される駆動トルク値または電流値である請求項2に記載の走行装置。
【請求項4】
前記走行装置は、前記運搬対象の振動を検出する振動センサをさらに備え、
前記制振制御部が生成する前記情報は、前記振動センサの検出値である請求項2に記載の走行装置。
【請求項5】
前記更新部は、前記取得部が前記情報を取得する毎に、前記地図情報を更新する請求項1~4のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項6】
前記更新部は、前記走行装置の走行中に、前記地図情報を更新する請求項1~5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項7】
前記更新部は、前記制振部に与えられた情報を用いて走行負荷を取得し、
前記経路決定部は、前記走行装置の走行距離と前記走行負荷が最小となる走行経路を選択する請求項1~6のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項8】
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、当該走行経路の屈曲回数に基づいて、前記走行経路を選択する請求項7に記載の走行装置。
【請求項9】
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、前記制振部の消費電力に基づいて、前記走行経路を選択する請求項7に記載の走行装置。
【請求項10】
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、前記運搬対象の中身に基づいて、前記走行経路を選択する請求項7に記載の走行装置。
【請求項11】
前記走行装置は、前記地図情報を記憶する記憶部をさらに備える請求項1~10のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項12】
運搬対象を運搬する走行装置の制御方法であって、
地図情報に基づいて走行経路を決定するステップと、
前記走行経路に沿って前記走行装置を走行させるステップと、
前記走行装置に搭載された制振部により、前記運搬対象の振動を抑制するステップと、
前記運搬対象の振動抑制のために前記制振部に与えられた情報を取得するステップと、
取得した前記情報に基づいて、前記地図情報を更新するステップと、を有し、
前記走行経路を決定するステップは、更新された地図情報に基づいて、前記走行経路を決定する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場などの建物の室内で搬送物を搭載して、地図情報に基づいて自動で搬送物を運搬する自律走行装置が知られている。また、自律走行装置の適用分野が広がるのに伴い、搬送物の振動を抑制する制振装置を搭載した自律走行装置も知られている。
【0003】
特許文献1には、加振手段で補助質量を振動させることにより制振対象の振動を低減する制振装置を備えた走行装置が開示されている。特許文献1の走行装置は、振動検出部により検出した加速度に基づいて、適応制御とマッピング制御を切り替えている。よって、特許文献1は、走行環境に対応する情報に基づいて、マッピング制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のマッピング制御は、与えられたマッピングデータ(地図情報)を使用して実行される。つまり、与えられた地図情報が走行装置にとって適切な地図情報でない場合であっても、与えられた地図情報を使用して、マッピング制御を実行している。
そこで、本発明の1つの目的は、適切な地図情報を使用して走行経路を選択することができる走行装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様によれば、運搬対象を運搬する走行装置であって、地図情報に基づいて走行経路を決定する経路決定部と、前記走行経路を走行する走行部と、前記走行部に搭載されて前記運搬対象の振動を抑制する制振部と、前記運搬対象の振動抑制のために前記制振部に与えられた情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記情報に基づいて、前記地図情報を更新する更新部と、を備え、前記経路決定部は、前記更新部により更新された地図情報に基づいて、前記走行経路を決定する走行装置が提供される。
【0007】
前記制振部は、前記情報を生成する制振制御部と、前記情報に基づいて制振動作を行う制振駆動部とを有してもよい。
前記制振制御部が生成する前記情報は、前記制振駆動部に供給される駆動トルク値または電流値であってよい。
前記走行装置は、前記運搬対象の振動を検出する振動センサをさらに備えてよい。また、前記制振制御部が生成する前記情報は、前記振動センサの検出値であってよい。
前記更新部は、前記取得部が前記情報を取得する毎に、前記地図情報を更新してよい。また、前記更新部は、前記走行装置の走行中に、前記地図情報を更新してよい。
前記更新部は、前記制振部に与えられた情報を用いて走行負荷を取得してよい。また、前記経路決定部は、前記走行装置の走行距離と前記走行負荷が最小となる走行経路を選択してよい。
【0008】
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、当該走行経路の屈曲回数に基づいて、前記走行経路を選択してよい。
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、前記制振部の消費電力に基づいて、前記走行経路を選択してもよい。
1つの走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷が他の走行経路の前記走行距離及び前記走行負荷に等しい場合、前記経路決定部は、前記運搬対象の中身に基づいて、前記走行経路を選択してもよい。
前記走行装置は、前記地図情報を記憶する記憶部を備えてよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適切な地図情報を使用して走行経路を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の自律走行装置を示す概略図である。
【
図4】走行コストと制振強度情報の関係を示す図である。
【
図6】変形例における地図情報と経路選択を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更及び修正等をすることが可能である。また、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0012】
<自律走行装置の概略構成>
図1は、本発明の自律走行装置100の一実施形態を示す概略構成図である。自律走行装置100は、積載する運搬対象(搬送物)200の振動を抑制しながら運搬対象200を運搬(搬送)する装置である。自律走行装置100は、自律走行ロボットと称してもよい。自律走行装置100は、屋内または屋外の路面またや床面を走行する。
【0013】
自律走行装置100は、走行部110と、走行部110に搭載された制振部120とを備えている。走行部110と制振部120は、有線または無線で接続されており、相互にデータ等を送信及び受信することができる。搬送対象200は、制振部120の上に載置される。
【0014】
自律走行装置100は、運搬対象200を運搬する装置であり、運搬対象200は自律走行装置100の使用目的や設計に応じた物(例えば、液体物)である。なお、
図1の紙面に垂直な方向をX方向と称し、
図1の左右方向をY方向と称し、
図1の上下方向をZ方向と称する。
図1のX方向は自律走行装置100の幅方向であり、Y方向は自律走行装置100の長手方向であり、Z方向は自律走行装置100の高さ方向である。走行部110は、X方向に所定間隔をおいて設けられた2つの駆動輪110aを有する(
図1には、そのうちの1つが示されている)。2つの駆動輪110aは独立に駆動することができる。つまり、自律走行装置100は左右独立駆動形式の走行装置である。また、走行部110は、X方向に所定間隔をおいて設けられた2つの従動110bを有する(
図1には、そのうちの1つが示されている)。液体物は、例えば、液体入りシャーレ、コップに入ったジュース、容器に入った氷入り液体などである。
【0015】
自律走行装置100は、いわゆるAGV(Automatic Guided Vehicle)やAMR(Autonomous Mobile Robot)であってもよいし、医療用ロボットであってもよいし、自動運転車であってもよい。
走行部110は、地図情報に基づいて自律的に走行する機能を担う。走行部110は、制振部120と通信するための通信機能を有する。
制振部120は、走行部110の走行に伴う運搬対象200の振動を抑制する。制振部120は、走行部110と通信するための通信機能を有する。
【0016】
<制振部の概略構成>
図2は、制振部120の概念的な構成を示す図である。
制振部120は、XYZ方向の全部についてアクティブ制御可能であり、複数の縦駆動部121と、複数の横駆動部122と、コントローラ124とを備えている。符号123は積載台であり、
図1に示した運搬対象200が積載台123の上に載置される。
【0017】
縦駆動部121はコントローラ124の制御に従って駆動するアクチュエータであり、複数の縦駆動部121により、積載台123上の運搬対象200について鉛直方向(Z方向)の振動抑制や傾き調整などが行われる。具体的には、運搬対象200に生ずるZ方向の振動加速度を打ち消すように、縦駆動部121が積載台123を動かす。縦駆動部121がアクティブ質量を有する場合、コントローラ124からの制御信号に基づいてアクティブ質量の動作が制御されることにより、積載台123のZ方向の振動が吸収されることになる。尚、複数の縦駆動部121は個別に制御可能であってよい。縦駆動部121の個別制御により、積載台123の傾きを調整することができる。
横駆動部122もコントローラ124の制御に従って駆動するアクチュエータであり、横駆動部122により、積載台123上の運搬対象200について水平方向の振動抑制や衝撃抑制などが行われる。具体的には、運搬対象200に生ずる水平方向の振動加速度を打ち消すように、横駆動部122が積載台123を動かす。制振部120は、アクチュエータ(121、122)による制振を行うので、アクティブ制振を行う制振部である。尚、横駆動部122による水平方向の制振は、XY方向で規定される水平方向の制振である。
【0018】
制振部120のコントローラ124は、予め定められた制御形態(例えば、制振の強度が高い制振形態または制振の強度が低い制振形態)で縦駆動部121および横駆動部122を制御する。なお、コントローラ124は、複数の制振モードから選択された制振モードに応じた制御形態で縦駆動部121および横駆動部122を制御してもよい。制振モードとは、例えば、アクチュエータ(121、122)の制御形態である。
【0019】
<自律走行装置の機能構成>
図3は、自律走行装置100の機能ブロック図である。
自律走行装置100は、上述したように走行部110と制振部120を備えている。走行部110は、コントローラ111と、記憶部112と、駆動部113と、位置センサ114とを備えている。走行部110のコントローラ111は、制振強度コスト演算部116と、自己位置演算部117と、走行指令演算部118と、駆動制御部119とを有する。制振部120は、コントローラ124と、駆動部125と、振動センサ126とを備えている。制振部120のコントローラ124は、制振強度情報送信部130と、制振制御部132とを有する。
【0020】
<走行部の機能構成>
走行部110の駆動部113は、モータ、車輪及び電源などを含んだ走行用の機能部分である。モータは、例えば、サーボモータである。走行部110のコントローラ111は、位置センサ114から供給される位置情報と地図情報112aとに基づいて駆動部113の制御を行う。つまり、コントローラ111は、自律走行装置100の走行経路を選択(決定)する演算を行い、走行部110による自律走行を制御する。また、コントローラ111は、制振部120から供給される制振強度情報に基づいて、記憶部112の地図情報112aの更新を行う。よって、コントローラ111は、自律走行装置100の位置と、更新された地図情報112aとに基づいて、駆動部113への駆動指令を生成し、当該駆動指令を駆動部113に送信する。コントローラ111は、地図情報112aを更新する更新部であると言える。
【0021】
走行部110の記憶部112は、地図情報112aを記憶する。地図情報112aには、例えば、
図5(a)に示すような通路X1、X2、Y1及びY2の情報が含まれている。
走行部110の位置センサ114は、自律走行装置100の位置や向きを検出するための機能部分である。自律走行装置100の向きは、例えば、駆動輪110aの向き(車輪角度)である。また、本実施形態の位置センサ114は、非接触で物体との距離を測定することもできる。例えば、自律走行装置100の前方に障害物がある場合、位置センサ114は当該障害物の存在を検知することができる。位置センサ114が障害物を検知した場合、自律走行装置100は、例えば、今まで進んできた経路(通路)に沿って、所定位置(例えば、スタート地点)まで戻る。
位置センサ114による位置検出は、自律走行装置100が屋外を走行している場合には、GPSを利用して行ってもよい。自律走行装置100が屋内を走行している場合は、位置センサ114は、例えば、レーザ、音波、赤外線等を利用して、自律走行装置100の位置を検出する。この場合、位置センサ114は、レーザセンサ、音波センサ、赤外線センサなどの非接触センサを有することになる。また、位置センサ114が非接触センサを使用しない場合、位置センサ114は駆動輪110aの回転速度センサの検出値に基づいて、自律走行装置100の位置を演算してもよい。その際、地図情報を利用してもよい。尚、位置センサ114は複数のセンサ(非接触センサ、接触センサ)を併用して自律走行装置100の位置を検出・決定してもよい。
【0022】
次に、走行部110のコントローラ111の機能の詳細について説明する。
自己位置演算部117は、位置センサ114によって検出された自律走行装置100の位置や向きと記憶部112の地図情報112aとに基づいて、地図上での自律走行装置100の位置や向きを演算する。当該演算は、例えば、壁などの変動確率が小さいものの地図情報とセンサで検出した情報とを比較することにより行う。
【0023】
走行指令演算部118は、自己位置演算部117で演算された自律走行装置100の位置や向きと地図情報112aとに基づいて、目標地点(目的地点)へと向かうための走行指令を演算する。つまり、走行指令演算部118は、地図情報112a等に基づいて、走行経路を決定する経路決定部である。
駆動制御部119は、走行指令演算部118で演算された走行指令に従って駆動部113を制御し、自律走行装置100を目標地点へと向かわせる。走行指令演算部118は、目標地点までの走行距離が最短となる経路であって、後述する走行コストが低い経路を選択する。
【0024】
制振強度コスト演算部116は、自己位置演算部117で演算された自律走行装置100の位置(および向き)と、制振部120(より詳しくは、制振強度情報送出部130)から受信した制振強度情報とに基づいて、当該位置における走行コスト情報を導出(生成)する。制振強度コスト演算部116は、演算したコスト値(走行コスト情報)を、自己位置と共に、地図情報112aに記録する。制振強度コスト演算部116は、運搬対象200の振動抑制のために制振部120に与えられた指示(制振強度情報)を取得する取得部であると言える。制振強度コスト演算部116は、制振強度情報を取得する毎に、地図情報112aを更新する。
制振強度情報は、例えば、制振制御部132から駆動部125に送信される指令(駆動トルク値、電流値)を表す情報である。つまり、制振強度は、駆動部125への指令値(例えば、駆動電流値の大きさ)の大きさを示す。制振強度が高ければ、駆動電流値が大きいということになる(大きな制振力が必要になる)ので、以下に説明する走行コストも高くなる。走行コストは、当該経路を走行することにより発生する振動を示す数値であり、走行した際に大きな振動が発生すれば、走行コストは大きくなる。よって、制振強度が高ければ、走行コストも高くなる。なお、制振強度情報は、駆動部センサ126の検出値でもよい。走行コストは、自律走行装置100が走行する際の走行負荷を示すと言える。
【0025】
<制振強度と走行コストの関係>
図4は、制振強度と走行コストの関係の一例を示す図である。「走行コストが0」は、自律走行装置100が走行した際に運搬対象200に振動が発生しない場合を示す。つまり、走行路面(床面)に凸凹等がない場合を示す。「走行コストが100」は、自律走行装置100が走行した際に、非常に大きな振動が運搬対象200に発生する場合を示す。「走行コストが50」は、例えば、走行した際に中程度の振動が運搬対象200に発生する場合を示す。
図4に示した制振強度と走行コストの関係では、制振強度が0から所定の値Pに達するまで走行コストは0のままである。これは制振強度が0から値Pまでの範囲は、「許容範囲」として、制振強度を走行コストに反映させる必要がないと考えたからである。所定の値Pは、自律走行装置100の駆動輪110a及び従動輪110bのサスペンション等により決められる。
【0026】
尚、自律走行装置100は、入力部(図示せず)を備えていてもよい。自律走行装置100が入力部を備えている場合、自律走行装置100のユーザは、自律走行装置100の走行経路のスタート地点S(
図5(a))及び目標地点F(
図5(b))を、入力部を介して指定・入力することができる。
【0027】
<制振部の機能構成>
次に、制振部120について説明する。
制振部120の駆動部125は、
図2に示す複数の縦駆動部121および複数の横駆動部122を意味する。
制振部120の振動センサ126は、制振に必要な情報(例えば、自律走行装置100のXYZ方向の加速度、旋回方向の加速度)を測定する。より具体的には、振動センサ126は、例えば、
図2に示した積載台123に取り付けられ、積載台123の振動や加速度などを検出する。なお、振動センサ126は、
図1に示した運搬対象200に取り付けられてもよい。振動センサ126は検出値を制振制御部132に送信する。
【0028】
制振制御部132は、振動センサ126の検出値に基づいて、制振強度情報を生成する(走行負荷を取得する)。また、制振制御部132は、振動センサ126の検出値に基づいて、制振制御演算を行い、演算結果に応じた指示(制御信号)を駆動部125に送信する。つまり、制振制御部132は、振動センサ126の検出値に基づいて、駆動部125の動作を制御する(この制御により、運搬対象200に生ずる振動加速度を打ち消すように、縦駆動部121及び横駆動部122が積載台123を動かす)。駆動部125は、制振制御部132により生成された情報(制御信号)に基づいて制振動作を行う制振駆動部であると言える。
制振強度情報送出部130は、自律走行装置100の走行中に、逐次通信により(つまり、走行部110からの要求に応じて)で、最新の制振強度情報を走行部110に送信する。
【0029】
以下、本実形態の自律走行装置100の経路選択(経路決定)について、
図5を参照して説明する。
図5(a)は、走行部110の記憶部112に記憶されている地図情報112aを示す。地図情報112aには、横方向に延びる通路X1とX2が示され、且つ、縦方向に延びる通路Y1とY2が示されている。通路X1、X2、Y1、Y2は、例えば、屋内の通路(床面)である。
図5(a)の破線の四角形は、通路X1、X2、Y1、Y2を所定サイズに分割した仮想領域である。各領域の走行コストが各領域内に数字で示されている。
図5(a)の地図情報では、全ての領域で走行コストが0である。
【0030】
以下の記載では、自律走行装置100がスタート地点Sから目標地点Fまで走行する場合の走行経路選択を説明する。スタート地点Sは、通路X1と通路Y1の交差点である。目標地点Fは通路X2と通路Y2の交差点である。経路1は、
図5(b)に示すように、スタート地点Sから通路Y1を通って、その後、通路X2との交差点で右折し、通路X2を通って目標地点Fに到達する経路である。経路2は、スタート地点Sから通路X1を通って、その後、通路Y2との交差点で左折し、通路Y2を通って目標地点Fに到達する経路である。本実施形態では、
図5(b)に示すように、現在の地図情報(
図5(a))に掲載されていない凸凹部Vが、実際には通路X1に存在しているとする。凹凸部Vは、自律走行装置100が走行した際に非常に大きな振動を自律走行装置100に発生させるとする。経路1には、凸凹部が存在していない。スタート地点S及び目標地点Fは、例えば、自律走行装置100のユーザが指定する。経路1を走行した場合の走行距離と、経路2を走行した場合の走行距離は等しい。
【0031】
図5(a)の地図情報は、スタート地点Sから目標地点Fまでの経路1及び経路2において、凸凹部が無いという地図情報である。よって、走行コストは、経路1及び経路2の全ての区域で0である。本実施形態では、まず、
図5(a)の地図情報に基づいて、自律走行装置100が、経路2を選択したとする。すると、自律走行装置100は、スタート地点Sから通路X1に沿って進むことになる。
しかし、実際には通路X1には凸凹部Vがあるので、自律走行装置100が凸凹部Vを通過すると、振動センサ126は非常に大きな振動を検出する。当該振動の検出値は、振動センサ126から制振制御部132に入力され、制振制御部132は、制振のための指示を駆動部125に入力する。また、制振制御部132は、振動センサ126の検出値に基づいて、制振強度情報を生成し、当該制振強度情報を制振強度情報送信部130に入力する。そして、制振強度情報送信部130は、制振強度情報を走行部111の制振強度コスト演算部116に送信(入力)する。
【0032】
制振強度コスト演算部116は、制振強度情報送信部130から受信した制振強度情報と
図4のグラフを用いて、走行コストを取得する。本実施形態では、通路X1の凸凹部Vは非常に大きな振動を発生させる部分なので、自律走行装置100の現在位置(領域)における走行コストは100になる。制振強度コスト演算部116は、制振強度コスト演算部116が取得した走行コスト(100)と、自己位置演算部117から受信した自律走行装置100の現在位置情報とを、記憶部112に入力し、地図情報112aに反映させる(地図情報112aを更新する)。つまり、コントローラ111は、最新の制振制御情報に基づいて、地図情報112aを更新する。
【0033】
図5(c)は更新された地図情報を示す。次に、地図情報の更新がされた後の経路選択について説明する。
走行指令演算部118は、更新された地図情報に基づいて、経路選択を行う。
図5(c)に示すように、経路2の通路X1には走行コスト100の領域がある。よって、経路2について、スタート地点Sから目標地点Fまでの走行コストを加算すると、合計走行コストは100になる。この加算は走行指令演算部118が行う。一方、経路1について、スタート地点Sから目標地点Fまでの走行コストを加算すると、合計走行コストは0になる。よって、走行指令演算部118は、合計走行コストが小さい方の経路1を選択する。
自律走行装置100は制振部120を備えているので、制振部120を使用すれば、積載台123に加わる振動を小さくすることができる。しかし、経路1を走行した方が、経路2を走行するより、積載台123に加わる振動が小さい。本実施形態では、できるだけ制振部120を使用せずに目標地点Fに到達できる経路である経路1を選択している。このように、自律走行装置100は、経路1を選択し、経路1に沿って目標地点Fに到達する。
【0034】
本実施形態では、制振部120から走行部110に対し、走行中に逐次、制振するために必要となった制振強度情報を送信し、地図情報112aに制振強度情報を反映させる(フィードバックする)。このフィードバック(地図情報更新)により、地図情報更新以降に自律走行装置100が自律走行する際、できるだけ制振する必要のない経路、つまり振動が発生しない経路を選択することができる。本実施形態では、制振部120をできるだけ使用しない経路を選択するので、制振部120のアクチュエータ(121、122)の駆動に要する電力が低減される。つまり、制振部120の電力消費を抑制することができる。
【0035】
図5(a)に示すように、地図情報の通路が複数の領域に区分されている場合、自律走行装置100は、走行中、逐次、制振部120に対し、制振強度情報を要求してよい。「逐次」とは、例えば、通路の各領域を自律走行装置100が通過した毎にという意味である。このような構成にすると、制振部120は当該要求に対し、当該要求を受け取ったタイミングで制振するために必要となった制振強度情報を走行部110に送信する。
走行部110は、制振部120から受信した制振強度情報を、制振が必要だった領域(つまり、地図上で、できるだけ避けるべき場所)として、地図上に走行コスト(負荷情報)を記録する。自律走行装置100は、走行距離と走行コストが最小となる経路を選択することになる。このような経路選択により、同じ走行距離で複数の経路が選択できる場合に、走行コストが少ないほうの経路が選択される。
【0036】
上記したように、本実施形態によれば、地図情報が適宜更新され、更新された地図情報に基づいて経路選択が行われる。
通路X1、X2、Y1、Y2の床面は滑らかであっても、床面上に配線コードなどが設置されることもある。あるいは、通路の床面は、人や荷物等の往来によって傷んだ場所が発生する可能性もある。記憶部112に記憶されている地図情報を更新することにより、床面の実際の状況に適合した経路選択を行うことができる。
【0037】
<変形例1>
上記した実施形態の変形例を、
図6に基づいて説明する。
図6は、地図情報に通路X1、X2、X3と通路Y1、Y2が含まれている場合を示す。目標地点Fは、通路X3と通路Y2の交差点である。この場合、合計走行コストが0の経路は2つある。1つは、スタート地点Sから通路Y1を通って、その後、通路X3との交差点を右折して、通路X3を通って目標地点Fに到達する経路である。もう1つは、スタート地点Sから通路Y1を通って、その後、通路X2との交差点を右折して、通路X2を通り、その後、通路Y2との交差点を左折して、通路Y2を通って目標地点Fに到達する経路である。この2つの経路は、それぞれ、合計走行コストが0であり、走行距離も最短である。
図6のような場合、自律走行装置100は、経路の屈曲回数が少ない矢印3で示した経路を選択してよい。矢印3の経路の屈曲回数は、通路Y1と通路X3の交差点の1回のみである。もう1つの経路の屈曲回数は2回である(通路Y1と通路X2の交差点と、通路X2と通路Y2の交差点)。
このように、合計走行コストが等しく且つ最短距離も等しい経路が複数ある場合は、経路の屈曲回数に基づいて経路選択を行ってよい。
【0038】
<変形例2>
図5の例では、経路1の走行コストは全領域で0であり且つ経路2に走行コスト100の領域が1つある場合を説明したが、経路1に走行コスト50の領域が2つあり且つ経路2に走行コスト100の領域が1つある場合も考えられる。このような経路1と経路2は、それぞれ、合計走行コストが100であり、走行距離も最短である。このような場合、自律走行装置100は、経路2を選択してよい。経路2を選択した場合、制振部120の駆動回数は1回でよいが、経路1を選択すると、制振部120の駆動回数が2回になるからである。制振部120の駆動回数が少ない方が、制振部120の駆動電力を低減できる。つまり、合計走行コストが等しく且つ最短距離も等しい経路が複数ある場合は、制振部120の消費電力に基づいて経路選択を行ってよい。なお、運搬対象200によっては、走行コスト100の領域を通過すべきではないという判断をすることも有り得る。従って、運搬対象200の中身によっては、経路2ではなく経路1を選択すべき場合もある。つまり、合計走行コストが等しく且つ最短距離も等しい経路が複数ある場合は、運搬対象200の中身に基づいて経路選択を行ってよい。例えば、搬送対象200の中身が液体である場合を考えると、走行コスト50の領域を通過しても液体がこぼれないが、走行コスト100の領域を通過すると液体がこぼれる場合が有り得る。このような場合、液体がこぼれない経路(つまり、走行コスト100を含まない経路1)を選択する。
【0039】
<効果>
以上、説明したように、本実施形態の自律走行装置100は、ユーザが設定した目標位置Fに向かって走行経路を自律的に選択しながら走行を行う走行装置であり、積載する搬送物200の振動を適宜抑制することができる。
本実施形態の自律走行装置100によれば、自律走行中に得られた制振強度情報を地図情報にフィードバックし、これを自律走行における経路選択に活用することで、次回以降の経路選択で、能動的に振動の少ない経路を選択することができる。
本実施形態によれば、制振部120から走行部110に対し、走行中に逐次、制振するために必要となった制振強度情報を伝達し、地図情報112aにこれをフィードバックすることで、以降、自律走行する際に、できるだけ制振する必要のない経路(つまり振動が発生しない経路)である経路1を選択することができる。
【0040】
なお、本発明は上記した実施形態及び変形例に限定されない。
上記した実施形態では、走行指令演算部118が走行部110に含まれているが、走行指令演算部118は走行部110の外部に設けてもよい。また、記憶部112及び位置センサ114は走行部110に含まれているが、記憶部112及び(または)位置センサ114は、走行部110の外部に設けてもよい。さらに、地図情報112aは、記憶部112以外の記憶装置に記憶されてもよい。例えば、地図情報112aは、自律走行装置100の外部に設けられたサーバ等に記憶されていてもよい。
上記した実施形態では、走行部110は、コントローラ111と駆動部113を含むとしたが、コントローラ111は走行部110の外部に設けてもよい。
【0041】
上記した実施形態では、自律走行装置100は左右独立駆動形式の走行装置(2輪駆動の走行装置)であるとしたが、自律走行装置100は4輪駆動形式の走行装置であってもよい(
図1の従動輪110bも駆動輪になる)。あるいは、自律走行装置100は、1輪駆動1ステアリング形式の走行装置であってもよい。あるいは、自律走行装置100は、オムニホイールなどを備える全方向移動形式の走行装置であってもよい。
上記した実施形態では、制振強度情報送出部130は、自律走行装置100の走行中に、走行部110からの要求に応じて、制振強度情報を走行部110に送信するとしたが、所定周期で制振強度情報を走行部110に送信してもよい。
上記した実施形態では、制振制御部132に検出値を入力するのは振動センサ126のみであるとしたが、振動センサ126以外のセンサの検出値を制振制御部132に入力してもよい。また、振動センサ126の代わりIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を採用してもよい。IMUは、XYZ方向の加速度および回転方向の加速度を計測することができる。制振制御部132は、1つまたは複数のセンサ・計測装置から入力された情報(検出値、計測値)に基づいて、制振強度情報を生成することになる。
【0042】
なお、運搬対象200は人物、動物、盛り付けられた料理、粉体、割れ物(ワイングラス等のガラス製品を含む)、積み重ねた物等でもよい。また、制振部120は、アクチュエータを有して、アクティブ制振を行うとしたが、ばねやダンパなどのパッシブ要素を備えたものであってもよい。
【0043】
上記した実施形態では、制振部120はXYZ方向の振動を制振するとしたが、走行部110のロール角およびピッチ角を駆動制御するジンバル機構を利用した制振部であってもよい。例えば、運搬対象200が液体物である場合、ジンバル機構を利用した制振部は、走行により生ずる加速度によって液面が揺れること(液体がこぼれること)を防止できる。
【符号の説明】
【0044】
100…自律走行装置、110…走行部、111…コントローラ、112…記憶部、112a…地図情報、113…駆動部、114…位置センサ、116…制振強度コスト演算部、117…自己位置演算部、118…走行指令演算部、119…駆動制御部、120…制振部、121…縦駆動部、122…横駆動部、123…積載台、124…コントローラ、125…駆動部、126…振動センサ、130…制振強度情報送出部、132…制振制御部、200…運搬対象