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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124125
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】振動計及び振動測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20230830BHJP
   G01B 9/02055 20220101ALI20230830BHJP
【FI】
G01H9/00 C
G01B9/02055
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027723
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 広太
【テーマコード(参考)】
2F064
2G064
【Fターム(参考)】
2F064AA04
2F064DD05
2F064FF01
2F064GG04
2F064GG12
2F064GG23
2F064GG38
2F064GG39
2F064GG53
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BC05
2G064BC32
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】照射距離がレーザー光源のスペクトル幅に依存せず、また、光ファイバに加わった外乱振動の影響を相殺する。
【解決手段】レーザー光源10は、連続光を生成し、連続光を、第1偏波保持光ファイバ30を伝搬させて光分配部40に送る。光分配部は、連続光の一部を参照光として光路長調整部60に送り、連続光の一部を測定光として測定対象物90に照射する。測定光が測定対象物で散乱して生じる散乱光は、光分配部を経て第1偏波保持光ファイバに送られる。光路長調整部は、第2偏波保持光ファイバを備える。光路長調整部に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバを伝播した後、光分配部を経て第1偏波保持光ファイバに送られる。参照光及び散乱光は、第1偏波保持光ファイバを伝搬して、干渉光学系20に送られる。干渉光学系は、参照光及び散乱光を干渉させて干渉光を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源、第1偏波保持光ファイバ、光分配部、干渉光学系、光路長調整部、及び、検出部を備え、
前記レーザー光源は、連続光を生成し、前記連続光を、前記第1偏波保持光ファイバを伝搬させて前記光分配部に送り、
前記光分配部は、前記連続光の一部を参照光として前記光路長調整部に送り、前記連続光の一部を測定光として測定対象物に照射し、
前記測定光が前記測定対象物で散乱して生じる散乱光は、前記光分配部を経て前記第1偏波保持光ファイバに送られ、
前記光路長調整部は、第2偏波保持光ファイバを備え、
前記光路長調整部に送られた参照光は、前記第2偏波保持光ファイバを伝播した後、前記光分配部を経て前記偏波保持光ファイバに送られ、
前記参照光及び前記散乱光は、前記第1偏波保持光ファイバを伝搬して、前記干渉光学系に送られ、
前記干渉光学系は、前記参照光及び前記散乱光を干渉させて干渉光を生成し、
前記検出部は、前記干渉光を電気信号である干渉信号に変換し、前記干渉信号から、前記測定対象物の振動の情報を取得する
ことを特徴とする振動計。
【請求項2】
前記参照光と、前記測定光及び前記散乱光との光路長の差の絶対値が、前記レーザー光源のコヒーレンス長より小さい
ことを特長とする請求項1に記載の振動計。
【請求項3】
前記参照光と、前記測定光及び前記散乱光との光路長の差の絶対値が、0である
ことを特長とする請求項1に記載の振動計。
【請求項4】
前記光分配部は、ビームスプリッタと、λ/4板を備え、
前記ビームスプリッタは、前記連続光を前記測定光と前記参照光に2分岐し、
前記測定光は、前記λ/4板で直線偏光から円偏光に変換された後、前記測定対象物に照射され、
前記散乱光は、前記λ/4板で円偏光から直線偏光に変換された後、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られ、
前記光路長調整部は、さらに、ミラーを備え、
前記光路長調整部に送られた参照光は、前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記ミラーで反射され、再び前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の振動計。
【請求項5】
前記光分配部は、ビームスプリッタを備え、
前記ビームスプリッタは、前記連続光を前記測定光と前記参照光に2分岐し、
前記測定光は、前記測定対象物に照射され、
前記散乱光は、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られ、
前記光路長調整部は、さらに、λ/4板及びミラーを備え、
前記光路長調整部に送られた参照光は、前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記λ/4板を経て前記ミラーで反射され、前記λ/4板を経て、再び前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の振動計。
【請求項6】
前記光分配部は、ビームスプリッタを備え、
前記ビームスプリッタは、前記連続光を前記測定光と前記参照光に2分岐し、
前記測定光は、前記測定対象物に照射され、
前記散乱光は、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られ、
前記光路長調整部は、さらに、ファラデーミラーを備え、
前記光路長調整部に送られた参照光は、前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記前記ファラデーミラーで反射され、再び前記第2偏波保持光ファイバを伝搬して、前記ビームスプリッタを経て前記第1偏波保持光ファイバに送られる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の振動計。
【請求項7】
前記干渉光学系は、偏光ビームスプリッタ、第1ビームスプリッタ、第2ビームスプリッタ、周波数シフタ、及び、λ/2板を備え、
前記偏光ビームスプリッタは、参照光を透過させて、前記第1ビームスプリッタに送り、前記散乱光を反射させて、第1光路を経て前記第2ビームスプリッタに送り、
前記第1ビームスプリッタに送られた参照光は、第2光路を経て前記第2ビームスプリッタに送られ、
前記周波数シフタは、前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられ、所定の周波数シフトを与え、
前記λ/2板は、前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられ、偏光の向きを90度回転させる
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の振動計。
【請求項8】
連続光を生成する過程と、
前記連続光を、第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、
前記連続光を参照光及び測定光に2分岐する過程と、
前記測定光を測定対象物に照射し、前記測定光が前記測定対象物で散乱して生じる散乱光を、前記第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、
前記参照光を、第2偏波保持光ファイバを伝搬させて往復させた後、前記第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、
前記参照光及び前記散乱光を干渉させて干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を電気信号である干渉信号に変換する過程と、
前記干渉信号から、前記測定対象物の振動の情報を取得する過程と
を備えることを特徴とする振動測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動計、例えば、レーザードップラー振動計と、振動測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動している物体に光を照射することにより散乱光を発生させると、散乱光にはドップラー効果による振動成分が重畳される。従って、振動している物体に光を照射した際に発生する散乱光を受光し、受光した散乱光を復調することによって、ドップラー効果由来の位相変動が検知され、物体の振動を測定できる。
【0003】
このように、光のドップラー効果を利用して非接触で振動を測定する振動計がレーザードップラー振動計である。
【0004】
従来、振動測定においては、接触型の振動計が広く用いられていた。接触型の振動計は、測定対象物が遠方にある場合の測定や、高温・高磁場下の測定が困難だった。また、接触型の振動計は、振動計自体が固有振動数を持つ。このため、kHzオーダー以上の振動を正確に測定できなかった。
【0005】
これに対し、レーザードップラー振動計は、非接触型の振動計であるため、遠方・高温・高磁場下での振動を測定できる。また、レーザードップラー振動計は、kHzオーダー以上の振動を正確に測定できる。
【0006】
非接触型の利点を活かせるレーザードップラー振動計は、工場やプラント内設備の予知保全用途や、インフラ・ストラクチャーの点検用途での活躍が、近年期待されている。
【0007】
図3を参照して、一般的なレーザードップラー振動計(例えば、特許文献1参照)の構成を説明する。図3は、一般的なレーザードップラー振動計の構成を説明するための模式図である。
【0008】
レーザー光源110は、中心周波数fで発振する直線偏光の連続光を生成して、その連続光を出射する。レーザー光源110から出射された連続光は、カプラ121に送られる。
【0009】
カプラ121は、連続光を2分岐する。2分岐された一方は、測定対象物190に照射するための測定光として用いられ、他方は、散乱光と干渉させるための参照光として用いられる。
【0010】
参照光は、周波数シフタ126において周波数シフトされた後、光位相検出回路122に送られる。測定光は、偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarizing Beam Splitter)124を透過後、λ/4板144に送られる。λ/4板144は、測定光を直線偏光から円偏光に変換する。円偏光に変換された測定光は、光ファイバ130を伝搬し、対物レンズ150によって空間に出射され、測定対象物190に照射される。
【0011】
測定対象物190に照射された測定光が、測定対象物190で散乱して生じた散乱光の一部は、対物レンズ150で捕捉される。対物レンズ150で捕捉された散乱光は、光ファイバ130を伝搬してλ/4板144に送られる。λ/4板144は、散乱光を円偏光から直線偏光に変換する。λ/4板144で直線偏光に変換された散乱光は、PBS12
4に送られる。
【0012】
PBS124に送られる、直線偏光である散乱光の偏光の向きは、PBS124に送られた、測定光の偏光の向きに対して直角である。従って、散乱光はPBS124で反射され、光位相検出回路122に送られる。光位相検出回路122への入射時の散乱光の複素信号は、以下の式(1)で与えられる。
【0013】
【数1】
【0014】
ここで、jは虚数単位である。また、ω(=2πf)はレーザー光源110で生成される連続光の中心角周波数である。また、tは、時間であり、φ(t)は測定対象物190の振動由来の光の位相変動成分である。
【0015】
一方、カプラ121で連続光が2分岐されて得られた参照光は、周波数シフタ126に送られる。図4は、周波数シフタ126の入出力光のスペクトルを示す模式図である。図4(A)は、周波数シフタ126に入力される参照光のスペクトルを示し、図4(B)は周波数シフタ126から出力される参照光のスペクトルを示す。周波数シフタ126は、入力される周波数fの参照光に周波数fshiftの周波数シフトを与える。周波数シフタ126において、周波数fshiftの周波数シフトを受けた参照光は、光位相検出回路122に送られる。光位相検出回路122への入射時の参照光の複素信号は、以下の式(2)で与えられる。
【0016】
【数2】
【0017】
ここで、ωshift(=2πfshift)は周波数シフタ126の角周波数シフト量である。
【0018】
光位相検出回路122に送られた、散乱光と参照光は、光位相検出回路122において干渉して干渉光を生成する。光位相検出回路122への入射時の干渉光の複素信号は、以下の式(3)で与えられる。
【0019】
【数3】
【0020】
干渉光は、受光器172に送られる。受光器172は、干渉光を光電変換して、干渉電気信号を生成する。干渉電気信号は、アナログ・ディジタル変換器(ADC:Analog to Digital Converter)174に送られる。干渉電気信号は、ADC174においてディジタル信号に変換された後、信号処理回路176に送られる。
信号処理回路176は、ディジタル信号から、測定対象物190の振動に由来する、散乱光の位相変動成分を算出し、振動の、周波数、変位、速度、加速度などの情報を得る。
【0021】
ここで、図3を参照して説明した、一般的なレーザードップラー振動計は、参照光と、測定光及び散乱光とが、異なる経路を経由する。このため、測定光及び散乱光がカプラ121から光位相検出回路122に到達するまでに、光ファイバ130に外乱振動が加わると、光ファイバ130の振動に由来する位相変動が干渉光に重畳され、本来の測定対象物190の振動測定が不正確になってしまう問題がある。
【0022】
この問題を解決するために、参照光と測定光を第1の光ファイバを伝搬させた後測定光を測定対象物に照射し、参照光と散乱光を第2の光ファイバを伝搬させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示されている技術では、第1の光ファイバを伝搬したレーザー光を、偏光軸が45度傾いた状態でPBSに入射し、互いに直交する参照光と測定光に分離する。参照光は、偏光軸が90度回転した後、PBSに入射され透過する。一方、測定光が測定対象物で散乱して生じた散乱光は、測定光に対して偏光軸が90度回転した状態で、PBSに入射され反射する。PBSを透過した参照光と、PBSで反射した散乱光は、第2の光ファイバを伝搬し、光位相検出回路に送られる。
【0023】
この特許文献2に開示されている技術では、第1の光ファイバや第2の光ファイバに外乱振動が加わったとしても、参照光と測定光には、同一の位相変動が生じ、参照光と散乱光にも、同一の位相変動が生じる。従って、測定対象物本来の振動を測定できる。
【0024】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されている技術では、第1の光ファイバと第2の光ファイバの2本の光ファイバが必要となるため、系が複雑になり、高価になってしまう。
【0025】
一方、参照光と測定光を、光ファイバを伝搬させた後測定光を測定対象物に照射し、参照光と散乱光を、同じ光ファイバを伝搬させる技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。図5を参照して、特許文献3に開示されている振動計を説明する。図5は、特許文献3に開示されている振動計を説明するための模式図である。
【0026】
この特許文献3に開示されている技術では、レーザー光を偏波保持光ファイバ230を伝搬させた後ハーフミラー242で分離する。ハーフミラー242で反射した成分が参照光となり、ハーフミラー242を透過した成分が測定光となる。測定光は、測定対象物290で散乱する。測定対象物290で生じた散乱光は、測定光及び参照光に対して偏光軸が90度回転した状態でハーフミラー242を通過する。この参照光及び散乱光は、レーザー光と同じ偏波保持光ファイバ230を伝搬して、光検出器260に送られる。
【0027】
この特許文献3に開示されている技術においても、光ファイバに外乱振動が加わったとしても、参照光と測定光には、同一の位相変動が生じ、参照光と散乱光にも、同一の位相変動が生じる。従って、測定対象物本来の振動を測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2001-159560号公報
【特許文献2】特開平4-218730号公報
【特許文献3】特開平4-249719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、上述の特許文献3に開示されている技術では、測定光と参照光の間、及び、散乱光と参照光の間に光路差が生じる。ハーフミラー242と測定対象物290の間の距離(以下、照射距離とも称する。)をdとすると、光路差の大きさは、2dである。
【0030】
一般的に、異なる光路を経由した光同士が干渉するためには、光路差が光のコヒーレンス長よりも小さいことが要求される。従って、上述の特許文献3に開示されている技術を用いて振動を測定するためには、以下の式(4)が満たされる必要がある。
【0031】
【数4】
【0032】
ここで、Lはレーザー光源210のコヒーレンス長、cは光速度、Δfは、レーザー光源210のスペクトル線幅である。上記の式(4)から、照射距離dは、レーザー光源210のスペクトル線幅Δfに依存し、レーザー光源210のスペクトル線幅Δfが大きい場合、照射距離dを小さくしなければならないことがわかる。
【0033】
例えば、レーザー光源210のスペクトル線幅Δfが10MHzのとき、照射距離dは15m以下に制限される。
【0034】
ここで、レーザードップラー振動計の特長として、遠方の対象物に対しても振動測定が可能である点が挙げられる。従って、照射距離dが制限されることは好ましくない。
【0035】
一方、照射距離dを大きくするには、レーザー光源210のスペクトル線幅Δfを小さくすればよいが、一般的に、レーザー光源210は、スペクトル線幅Δfが小さいほど高価となる。
【0036】
また、偏波保持光ファイバ230に外乱振動が加わっているときに、測定光と参照光の間、及び、散乱光と参照光の間に光路差が生じると、測定光と参照光の間、及び、散乱光と参照光の間に生じる位相差により、上記の式(4)を満たしている場合でも、外乱の影響を相殺することが困難になってしまう。
【0037】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、照射距離がレーザー光源のスペクトル幅に依存せず、また、光ファイバに加わった外乱振動の影響を相殺することが可能な、振動計及び振動測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
上述した目的を達成するために、この発明の振動計は、レーザー光源、第1偏波保持光ファイバ、光分配部、干渉光学系、光路長調整部、及び、検出部を備えて構成される。
【0039】
レーザー光源は、連続光を生成し、連続光を、第1偏波保持光ファイバを伝搬させて光分配部に送る。光分配部は、連続光の一部を参照光として光路長調整部に送り、連続光の一部を測定光として測定対象物に照射する。
【0040】
測定光が測定対象物で散乱して生じる散乱光は、光分配部を経て第1偏波保持光ファイバに送られる。
【0041】
光路長調整部は、第2偏波保持光ファイバを備える。光路長調整部に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバを伝播した後、光分配部を経て第1偏波保持光ファイバに送られる。参照光及び散乱光は、第1偏波保持光ファイバを伝搬して、干渉光学系に送られる。干渉光学系は、参照光及び散乱光を干渉させて干渉光を生成する。検出部は、干渉光を電気信号である干渉信号に変換し、干渉信号から、測定対象物の振動の情報を取得する。
【0042】
この発明の振動計の好適実施形態によれば、参照光と、測定光及び散乱光との光路長の差の絶対値が、レーザー光源のコヒーレンス長より小さい。また、この発明の振動計のさらなる好適実施形態によれば、参照光と、測定光及び散乱光との光路長の差の絶対値が、0である。
【0043】
この発明の振動計の好適実施形態によれば、光分配部は、ビームスプリッタと、λ/4板を備え、ビームスプリッタは、連続光を測定光と参照光に2分岐する。測定光は、λ/4板で直線偏光から円偏光に変換された後、測定対象物に照射される。散乱光は、λ/4板で円偏光から直線偏光に変換された後、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。また、光路長調整部は、さらに、ミラーを備える。光路長調整部に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバを伝搬して、ミラーで反射され、再び第2偏波保持光ファイバを伝搬して、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。
【0044】
また、この発明の振動計の他の好適実施形態によれば、光分配部は、ビームスプリッタを備え、ビームスプリッタは、連続光を測定光と参照光に2分岐する。測定光は、測定対象物に照射される。散乱光は、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。光路長調整部は、さらに、λ/4板及びミラーを備え、光路長調整部に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバを伝搬して、λ/4板を経てミラーで反射され、λ/4板を経て、再び第2偏波保持光ファイバを伝搬して、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。
【0045】
また、この発明の振動計の他の好適実施形態によれば、光分配部は、ビームスプリッタを備え、ビームスプリッタは、連続光を測定光と参照光に2分岐する。測定光は、測定対象物に照射される。散乱光は、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。光路長調整部は、さらに、ファラデーミラーを備え、光路長調整部に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバを伝搬して、ファラデーミラーで反射され、再び第2偏波保持光ファイバを伝搬して、ビームスプリッタを経て第1偏波保持光ファイバに送られる。
【0046】
また、この発明の振動測定方法は、連続光を生成する過程と、連続光を、第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、連続光を参照光及び測定光に2分岐する過程と、測定光を測定対象物に照射し、測定光が測定対象物で散乱して生じる散乱光を、第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、参照光を、第2偏波保持光ファイバを伝搬させて往復させた後、第1偏波保持光ファイバを伝搬させる過程と、参照光及び散乱光を干渉させて干渉光を生成する過程と、干渉光を電気信号である干渉信号に変換する過程と、干渉信号から、測定対象物の振動の情報を取得する過程とを備える。
【発明の効果】
【0047】
この発明の振動計及び振動測定方法によれば、参照光が伝搬する第2偏波保持光ファイバ62の長さを調整することで、レーザー光源のコヒーレンス長Lが小さい、すなわち、スペクトル幅Δfが大きい場合であっても、遠方の測定対象物の振動検知が可能になる。したがって、スペクトル線幅Δfが小さい、一般的には高価なレーザー光源を用いることなく、安価な構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】この発明の振動計を説明するための模式図である。
図2】他の構成例を説明するための模式図である。
図3】従来の振動計を説明するための模式図(1)である。
図4】周波数シフタの入出力光を説明するための模式図である。
図5】従来の振動計を説明するための模式図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。また、特許文献1~3などと共通の構成要素については、説明を省略することもある。
【0050】
図1を参照して、この発明の振動計の実施形態を説明する。図1は、この発明の振動計を説明するための模式図であり、レーザードップラー振動計の一構成例を示している。
【0051】
振動計は、レーザー光源10、第1偏波保持光ファイバ30、光分配部40、光路長調整部60、干渉光学系20、及び、検出部70を備えて構成される。
【0052】
光分配部40は、例えば、ビームスプリッタ(BS)42と、λ/4板44を備える。光分配部40は、連続光から参照光及び測定光を生成する。光路長調整部60は、例えば、第2偏波保持光ファイバ62と、ミラー64を備える。
【0053】
また、干渉光学系20は、偏光ビームスプリッタ(PBS)24、第1ビームスプリッタ(BS)21、第2ビームスプリッタ(BS)22、周波数シフタ26、及び、λ/2板28を備える。干渉光学系20は、参照光と散乱光を干渉させて干渉光を生成する。
【0054】
レーザー光源10は、中心周波数fで発振する直線偏光の連続光(レーザー光)を生成して、その連続光を出射する。
【0055】
レーザー光源10から出射された連続光は、干渉光学系20の第1BS21及びPBS24と、第1偏波保持光ファイバ30を順に経て、光分配部40のBS42に送られる。BS42は、連続光を2分岐する。BS42で2分岐された一方の光は、測定対象物90に照射される測定光として用いられる。一方、BS42で2分岐された他方の光は、測定対象物90で生じる散乱光と干渉させるための参照光として用いられる。
【0056】
測定光は、BS42からλ/4板44に送られる。λ/4板44は、測定光を直線偏光から円偏光に変換する。円偏光に変換された測定光は、対物レンズ50によって空間に出射され、測定対象物90に照射される。
【0057】
測定対象物90に照射された測定光が、測定対象物90で散乱して生じた散乱光の一部は、対物レンズ50で捕捉される。対物レンズ50で捕捉された散乱光は、λ/4板44に送られる。λ/4板44は、散乱光を円偏光から直線偏光に変換する。このλ/4板44で直線偏光に変換された散乱光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して直交している。λ/4板44で直線偏光に変換された散乱光は、BS42を経て第1偏波保持光ファイバ30に送られる。
【0058】
一方、参照光は、光路長調整部60に送られる。光路長調整部60に送られた参照光は、第2偏波保持光ファイバ62を伝搬し、ミラー64で反射される。ミラー64で反射された参照光は、再び、第2偏波保持光ファイバ62を伝搬して、光分配部40に送られる。光分配部40に送られた参照光は、BS42を経て第1偏波保持光ファイバ30に送られる。この参照光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して平行である。
【0059】
第1偏波保持光ファイバ30に送られた、参照光及び散乱光は、第1偏波保持光ファイバ30を伝搬して、干渉光学系20のPBS24に入射される。PBS24に入射した参照光の偏光方向が連続光と平行であり、PBS24に入射した散乱光の偏光方向が連続光と直交する。このため、PBS24に入射した参照光は、PBS24を透過し、第1BS21に送られる。一方、PBS24に入射した散乱光は、PBS24で反射され、λ/2板28に送られる。
【0060】
λ/2板28は、PBS24で反射された散乱光の、偏光の向きを90度回転させる。この結果、λ/2板28から出力される散乱光の偏光の向きは、連続光及び参照光の偏光の向きに平行になる。λ/2板28から出力される散乱光は、第2BS22を反射又は透過して、検出部70に送られる。
【0061】
第1BS21に送られた参照光は、第1BS21で反射された後、周波数シフタ26に送られる。周波数シフタ26は、入力される周波数fの参照光に周波数fshiftの周波数シフトを与える。周波数fshiftの周波数シフトを受けた参照光は、第2BS22に送られる。
【0062】
第2BS22に送られた参照光は、第2BS22を透過又は反射して、検出部70に送られる。第2BS22に送られた、散乱光及び参照光は、偏光の向きが、互いに平行である。従って、検出部70に入射される散乱光及び参照光は、干渉して、干渉光を生成する。
【0063】
ここで、PBS24から第2BS22までの光路のうち、散乱光の光路を第1光路と称し、参照光の光路を第2光路と称する。この例では、λ/2板28が第1光路に設けられる例を説明したが、λ/2板28は、第1光路及び第2光路のいずれに設けられてもよい。すなわち、参照光及び散乱光のいずれの偏光の向きを90度回転させてもよい。また、この例では、周波数シフタ26が第2光路に設けられる例を説明したが、周波数シフタ26は、第1光路及び第2光路のいずれに設けられてもよい。すなわち、参照光及び散乱光のいずれに周波数シフトを与えてもよい。
【0064】
検出部70は、光検出器72、アナログ・ディジタル変換器(ADC)74及び信号処理回路76を備えて構成される。光検出器72は、参照光と散乱光が干渉して得られる干渉光から電流信号を得る、任意好適な受光素子を用いて構成することができる。
【0065】
図3を参照して説明した、従来のレーザードップラー振動計では、干渉光は上記の式(3)で与えられる。これに対し、この実施形態のレーザードップラー振動計では、干渉光は、以下の式(5)で与えられる。
【0066】
【数5】
【0067】
ここで、Δdは、BS42から測定対象物90までの距離(照射距離)d1と、BS42からミラー64までの距離、すなわち、第2偏波保持光ファイバ62の長さd2との差、λはレーザー光源10の中心波長である。光検出器72で得られる電流信号は、ADC74に送られる。
【0068】
ADC74は、アナログ信号である電流信号を、所定の標本化周波数でサンプリングしてディジタル信号を得る。ADC74で生成されたディジタル信号は、信号処理回路76に送られる。
【0069】
信号処理回路76は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)で構成される。信号処理回路76は、ディジタル信号を処理する部分である。信号処理回路76では、例えば、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)がプログラムを実行することにより、所望の機能が実現される。
【0070】
信号処理回路76は、参照光と散乱光が干渉して得られる干渉光から得られるディジタル信号に信号処理を施す。測定対象物90が振動状態にあると、散乱光にはドップラー効果により測定対象物90の振動成分が付加される。信号処理回路76は、干渉光から得られるディジタル信号を復調することによって、干渉光の位相変化を取得し、この位相変化に基づいて測定対象物90の振動の周波数、変位、速度などの振動状態を算出することができる。
【0071】
ここで、上述の通り、参照光と散乱光が干渉するためには、2|Δd|<Lを満たす必要がある。2|Δd|は、参照光と測定光及び散乱光との光路長の差の絶対値であり、L(=c/Δf)はレーザー光源10のコヒーレンス長である。従って、2|Δd|<Lを満たすように、第2偏波保持光ファイバ62の長さを調整することで、レーザー光源10のコヒーレンス長Lが小さい、すなわち、スペクトル幅Δfが大きい場合であっても、振動検知が可能になる。したがって、スペクトル線幅Δfが小さい、一般的には高価なレーザー光源を用いることなく、安価な構成にすることができる。
【0072】
さらに、|Δd|=0、すなわち、d1=d2となるように、第2偏波保持光ファイバ62の長さを調整すれば、測定光と参照光の間、及び、散乱光と参照光の間の位相差を無視できる。この結果、第1偏波保持光ファイバ30に加わった外乱の影響を相殺できる。
【0073】
このように、この発明の振動計では、第2偏波保持光ファイバ62の長さを調整することによって、レーザー光源10のスペクトル線幅Δfに依存せずに照射距離dを任意に設定できるとともに、第1偏波保持光ファイバ30に加わった外乱の影響を相殺できる。
【0074】
(他の構成例)
この発明の振動計の構成は、図1を参照して説明した上述の構成に限定されない。図2を参照して、他の構成例を説明する。図2(A)及び(B)は、この発明の振動計の他の構成例を説明するための模式図である。図2(A)及び(B)は、光分配部及び光路長調整部を示している。
【0075】
(他の構成例1)
図2(A)に示す他の構成例1では、λ/4板66が、光分配部40aではなく、光路長調整部60aに設けられている点が図1を参照して説明した実施形態と異なっている。すなわち、他の構成例1では、光分配部40aは、BS42を備えて構成され、光路長調整部60aは、第2偏波保持光ファイバ62、λ/4板66、及び、ミラー64を備えて構成される。
【0076】
図1を参照して説明した実施形態では、測定光と散乱光がそれぞれλ/4板44を通過してBS42に送られる。このため、BS42に入射される散乱光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して直交している。これに対し、他の構成例1では、光路にλ/4板を備えないので、BS42に入射される散乱光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して平行である。
【0077】
また、図1を参照して説明した実施形態では、参照光が伝搬する光路にはλ/4板を備えないので、BS42に入射される参照光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して平行である。これに対し、他の構成例1では、参照光が伝播する光路にλ/4板66を備えるので、BS42に入射される参照光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して直交する。
【0078】
このように、他の構成例1においても、BS42に入射される参照光の偏光の向きと、散乱光の偏光の向きとが直交するので、図1を参照して説明した実施形態と同様に動作する。
【0079】
(他の構成例2)
図2(B)に示す他の構成例2では、λ/4板66が、光分配部40aに設けられておらず、光路長調整部60bが、ミラーに換えて、ファラデーミラー68を備える点が図1を参照して説明した実施形態と異なっている。すなわち、他の構成例2では、光分配部40aは、BS42を備えて構成され、光路長調整部60bは、第2偏波保持光ファイバ62、及び、ファラデーミラー68を備えて構成される。
【0080】
他の構成例2において、光分配部40aの構成は、他の構成例1と同様であり、BS42に入射される散乱光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して平行である。
【0081】
他の構成例2では、光路長調整部60bが、入射光の偏光の向きを90度回転させるファラデーミラー68を備えている。このため、BS42に入射される参照光の偏光の向きは、レーザー光源10で生成された連続光の偏光の向きに対して直交する。
【0082】
このように、他の構成例2においても、BS42に入射される参照光の偏光の向きと、散乱光の偏光の向きとが直交するので、図1を参照して説明した実施形態と同様に動作する。
【0083】
10、110、210 レーザー光源
20 干渉光学系
21、22、42 ビームスプリッタ(BS)
24、124、224 偏光ビームスプリッタ(PBS)
26、126、226 周波数シフタ
28、228 λ/2板
30 第1偏波保持光ファイバ
40 光分配部
44、66、144、244 λ/4板
50、150、250 対物レンズ
60 光路長調整部
62 第2偏波保持光ファイバ
64 ミラー
68 ファラデーミラー
70 検出部
72 光検出器
74、170、270 アナログ・ディジタル変換器(ADC)
76、180、280 信号処理回路
90、190、290 測定対象物
121 カプラ
122 光位相検出回路
130 光ファイバ
160、260 受光器
230 偏波保持光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5