(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124127
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電磁波吸収体及びセンシングシステム
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230830BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20230830BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230830BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230830BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B7/025
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027726
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】西山 碩芳
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】今井 美穂
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F100AA19
4F100AA21
4F100AA33
4F100AK01
4F100AK12
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4F100JD14C
4F100JG01
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4F100JG05
4F100JG05B
4F100JN06C
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB53
5E321BB57
5E321CC16
5E321GG11
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入させることなく、センシングを適切に行わせることができる電磁波吸収体及びセンシングシステムを提供する。
【解決手段】抵抗層10、誘電体層20及び反射層30をこの順に備え、特定の周波数帯の電磁波を吸収する干渉型の電磁波吸収体100であって、特定の周波数帯において電磁波の吸収量が最大となるときの抵抗層の表面抵抗値をR
0(Ω/□)とし、抵抗層の表面抵抗値をR
1(Ω/□)とした場合に、下記式(1)で定義される乖離率が30%以上である。
乖離率(%)=|{(R
1/R
0)-1}×100|・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗層、誘電体層及び反射層をこの順に備え、特定の周波数帯の電磁波を吸収する干渉型の電磁波吸収体であって、
前記周波数帯において前記電磁波の吸収量が最大となるときの前記抵抗層の表面抵抗値をR0(Ω/□)とし、前記抵抗層の表面抵抗値をR1(Ω/□)とした場合に、下記式(1)で定義される乖離率が30%以上である、電磁波吸収体。
乖離率(%)=|{(R1/R0)-1}×100|・・・(1)
【請求項2】
前記乖離率が200%以下である、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層の複素比誘電率の実部が10以上である、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁波吸収体と、
前記電磁波吸収体で吸収される前記周波数帯の電磁波を送信しかつ受信し、受信される電磁波を処理することが可能な電磁波送受信装置と、
を備えるセンシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波吸収体及びセンシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN(Local AreaNetwork)等、無線通信による情報伝送技術がオフィス、工場、倉庫等において利用されている。このようなオフィス等においては、外部、複数の通信装置間、又は通信装置と壁や床などの建物の一部との間の相互作用により電波妨害、干渉などの電波障害が発生する。こうした電波障害を防止するために、オフィス等においては、壁、天井又は床に電磁波吸収体が配設されることがある。
【0003】
電磁波吸収体は、干渉型と透過型に大別される。干渉型の電磁波吸収体は、入射する電磁波と反射する電磁波とを干渉により弱め合せて電磁波を低減するものである。透過型の電磁波吸収体は、電磁波吸収能を有する磁性体や誘電体を利用し、これらを含む層に電磁波を通過させることで電磁波を低減するものである。中でも、特定の周波数の電磁波を吸収する誘電体の材料設計が不要であり、誘電率に応じた厚さの調整で任意の周波数の電磁波を反射減衰させることができることから、干渉型の電磁波吸収体がよく用いられている。例えば下記特許文献1には、抵抗層、誘電体層及び反射層をこの順に備える干渉型の電磁波吸収体が開示されている。このような干渉型の電磁波吸収体は、抵抗層に用いる材料の表面抵抗値を最適化することで特定の周波数において、高い吸収量を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、社会課題である少子高齢化の進行や新型コロナウイルス感染症の拡大により、レーダー技術を用いた一人暮らし高齢者の安心見守りシステム、非接触・非対面でのセンシング技術の需要が急激に高まっている。中でも、ミリ波帯域のレーダーを応用し、転倒検知、在/不在モニタリング、人の呼吸や心拍等のセンシング技術が今大きな注目を集めている。こうした用途での使用を想定したセンシングシステムは、レーダーから送信される特定の帯域(例えば60-66GHz)を複数の周波数帯に分け、複数の周波数帯を使い分けることで位置情報などのセンシングを行っている。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の電磁波吸収体は、以下に示す課題を有していた。
すなわち、上記特許文献1に記載の電磁波吸収体は、抵抗層に用いる材料の表面抵抗値を最適化することで特定の周波数において高い吸収量を確保しているが、その一方で、特定の周波数からずれるにつれて吸収量は減少していく。このため、レーダーから送信される複数の周波数帯の電磁波が電磁波吸収体に入射されると、壁等に設置された電磁波吸収体において特定の周波数の電磁波が大きく吸収され、その周波数以外の電磁波は十分に吸収されなくなる。その結果、例えばレーダーから送信される周波数帯を構成する複数の周波数帯の電磁波の強度が一定である場合、レーダーで受信される電磁波においては、特定の周波数以外の電磁波の強度は大きくなっても、特定の周波数の電磁波の強度はかなり小さくなる。このため、センシングシステムにおいて、特定の周波数の電磁波については、S/N比がかなり小さくなり、信号として認識しにくくなるため、センシングを適切に行うことが困難となる。ここで、センシングシステムにおいて、プログラムを導入することで、特定の周波数の電磁波の強度を補正することも考えられるが、そのようなプログラムは、複雑なプログラミングを必要とするため、プログラムの開発に多大な時間とコストがかかることになる。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入させることなく、センシングを適切に行わせることができる電磁波吸収体及びセンシングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題が生じる原因について検討した。その結果、上記課題が生じる原因が、センシングシステムのレーダーから送信される特定の周波数帯において、特定の周波数の電磁波が大きく吸収され、その特定の周波数からずれた周波数の電磁波の吸収量が小さいため、その特定の周波数帯における電磁波の最大吸収量と最小吸収量との差が大きくなることにあるのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らは、センシングシステムのレーダーから送信される特定の周波数帯において、特定の周波数帯における電磁波の最大吸収量と最小吸収量との差を十分に小さくすることが上記課題を解決する上で重要であると考えた。そこで、本発明者らは、特定の周波数帯における電磁波の最大吸収量と最小吸収量との差を十分に小さくするべく鋭意検討を重ねた結果、電磁波吸収体の抵抗層の表面抵抗値を、電磁波吸収体において吸収量が最大となるときの抵抗層の表面抵抗値からあえてずらし、そのずれ量を乖離率で規定し、乖離率を特定の範囲にすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明者らは、以下の開示により上記課題を解決しうることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示は、抵抗層、誘電体層及び反射層をこの順に備え、特定の周波数帯の電磁波を吸収する干渉型の電磁波吸収体であって、前記周波数帯において前記電磁波の吸収量が最大となるときの前記抵抗層の表面抵抗値をR0とし、前記抵抗層の表面抵抗値をR1とした場合に、下記式(1)で定義される乖離率が30%以上である、電磁波吸収体である。
乖離率(%)=|{(R1/R0)-1}×100|・・・(1)
【0010】
この電磁波吸収体によれば、電磁波吸収体で吸収される周波数帯の電磁波を送信しかつ受信し、受信される電磁波を処理することが可能な電磁波送受信装置を備えるセンシングシステムにおいて、電磁波送受信装置から送信される特定の周波数帯の電磁波が抵抗層側から入射されると、電磁波は抵抗層、誘電体層を通過し、反射層で反射される。このとき、誘電体層において、入射される電磁波と反射される反射波とが互いに弱め合うことで電磁波が吸収されるため、特定の周波数の電磁波の吸収量が最大となる。但し、この場合でも、乖離率が30%以上であることで、乖離率が30%未満である場合に比べて、上記周波数帯において最大吸収量と最小吸収量との差を小さくすることができる。このため、電磁波送受信装置から送信される周波数帯の電磁波の強度が一定である場合、電磁波送受信装置で受信される電磁波においては、特定の周波数以外の電磁波の強度は大きくしたまま、特定の周波数の電磁波の強度の低下が十分に抑制される。このため、センシングシステムにおいて、特定の周波数の電磁波について、S/N比の低下が抑制され、信号として認識しやすくなるため、センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入させることなく、センシングを適切に行うことが可能となる。
【0011】
本開示の電磁波吸収体においては、前記乖離率が200%以下であることが好ましい。
【0012】
この場合、乖離率が200%以下であることで、特定の周波数帯における特定の周波数の電磁波がより十分に吸収されるため、電波障害を効果的に抑制することができる。
【0013】
上記電磁波吸収体においては、前記誘電体層の複素比誘電率の実部が10以上であることが好ましい。
【0014】
この場合、誘電体層の誘電率を大きくすることが可能となり、誘電体層の厚さを低減できるため、電磁波吸収体をより薄型化することができる。
【0015】
また、本開示は、上述した電磁波吸収体と、前記電磁波吸収体で吸収される前記周波数帯の電磁波を送信しかつ受信し、受信される電磁波を処理することが可能な電磁波送受信装置と、を備えるセンシングシステムである。
【0016】
このセンシングシステムによれば、電磁波送受信装置から送信される特定の周波数帯の電磁波が抵抗層側から入射されると、電磁波は抵抗層、誘電体層を通過し、反射層で反射される。このとき、誘電体層において、入射される電磁波と反射される反射波とが互いに弱め合うことで電磁波が吸収されるため、特定の周波数の電磁波の吸収量が最大となる。但し、この場合でも、乖離率が30%以上であることで、乖離率が30%未満である場合に比べて、上記周波数帯において最大吸収量と最小吸収量との差を小さくすることができる。このため、電磁波送受信装置から送信される周波数帯の電磁波の強度が一定である場合、電磁波送受信装置で受信される電磁波においては、特定の周波数以外の電磁波の強度は大きくしたまま、特定の周波数の電磁波の強度の低下が十分に抑制される。このため、センシングシステムにおいて、特定の周波数の電磁波について、S/N比の低下が抑制され、信号として認識しやすくなるため、センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入することなく、センシングを適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入させることなく、センシングを適切に行わせることができる電磁波吸収体及びセンシングシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の電磁波吸収体の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本開示の電磁波吸収体を用い、50~70GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図3】本開示の電磁波吸収体を用い、50~70GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図4】本開示の電磁波吸収体を用い、50~70GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図5】本開示の電磁波吸収体を用い、20~40GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図6】本開示の電磁波吸収体を用い、20~40GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図7】本開示の電磁波吸収体を用い、70~90GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図8】本開示の電磁波吸収体を用い、70~90GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図9】本開示の電磁波吸収体を用い、340~360GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図10】本開示の電磁波吸収体を用い、340~360GHzの周波数帯における周波数と反射減衰量(吸収量)との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。
【
図11】本開示のセンシングシステムの一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
<電磁波吸収体>
まず、本開示の電磁波吸収体の実施形態について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本開示の電磁波吸収体の一実施形態を示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、電磁波吸収体100は、特定の周波数帯の電磁波を吸収する干渉型の電磁波吸収体であり、抵抗層10、誘電体層20及び反射層30をこの順に備えている。なお、抵抗層10と誘電体層20は直接接着されていてもよいが、粘着剤層で接着されていてもよい。同様に、誘電体層20と反射層30も直接接着されていてもよいが、粘着剤層で接着されていてもよい。
【0022】
上記周波数帯において電磁波の吸収量が最大となるときの抵抗層10の表面抵抗値をR0とし、抵抗層10の表面抵抗値をR1とした場合に、下記式(1)で定義される乖離率が30%以上である。
乖離率(%)=|{(R1/R0)-1}×100|・・・(1)
【0023】
電磁波吸収体100によれば、センシングシステムにおいて、電磁波送受信装置から送信される特定の周波数帯の電磁波が抵抗層側から入射されると、電磁波は抵抗層、誘電体層を通過し、反射層で反射される。このとき、誘電体層において、入射される電磁波と反射される反射波とが互いに弱め合うことで電磁波が吸収されるため、特定の周波数の電磁波の吸収量が最大となる。但し、この場合でも、乖離率が30%以上であることで、乖離率が30%未満である場合に比べて、上記周波数帯において最大吸収量と最小吸収量との差を小さくすることができる。このため、電磁波送受信装置から送信される周波数帯の電磁波の強度が一定である場合、電磁波送受信装置で受信される電磁波においては、特定の周波数以外の電磁波の強度は大きくしたまま、特定の周波数の電磁波の強度の低下が十分に抑制される。このため、センシングシステムにおいて、特定の周波数の電磁波について、S/N比の低下が抑制され、信号として認識しやすくなるため、センシングシステムにおいて複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入させることなく、センシングを適切に行わせることが可能となる。
【0024】
以下、抵抗層10、誘電体層20及び反射層30について詳細に説明する。
【0025】
(抵抗層)
抵抗層10は外側から入射してきた電磁波を誘電体層20へと至らしめるための層である。抵抗層10は一般的にはインピーダンスマッチングを実現させるための層であるが、本開示では、インピーダンスマッチングを実現させないようにするための層として機能する。
【0026】
抵抗層10は、導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方で構成される層を含む。導電性無機材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボン、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-AuおよびNiからなる群から選択される1つ以上が挙げられる。導電性無機材料の形状は特に限定されず、例えば粒子状又はワイヤー状である。導電性有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体及びポリピロール誘導体が挙げられる。特に、導電性有機材料としては、柔軟性、成膜性、安定性、表面抵抗の観点から、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む導電性ポリマーが好ましい。抵抗層10は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(PEDOT/PSS)を含むものであってもよい。抵抗層10は、導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方で構成される層のみで構成されてもよいが、導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方からなる層を基材上に設けてなるものであってもよい。基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。特に柔軟性、成膜性、安定性、表面抵抗の観点から、抵抗層10は、PEDOTを含む導電性ポリマーからなる膜を形成してなるPETフィルムで構成されることが好ましい。
【0027】
周波数帯において電磁波の吸収量が最大となるときの抵抗層10の表面抵抗値R
0は、下記式(2)~(5)を用いて求めることができる。
【数1】
【0028】
上記式(2)~(5)において、Γは反射係数、ZLは、抵抗層10のうち反射層30と反対側の面から見込んだ入力インピーダンス(Ω/□)、Z0は、真空のインピーダンス(Ω/□)、Z´Lは、抵抗層10の反射層30側から反射層30を見込んだ入力インピーダンス(Ω/□)、Rは抵抗層10の表面抵抗値(Ω/□)、εrは、誘電体層20の複素比誘電率、dは誘電体層20の厚さ(μm)、λは、入射される電磁波の波長(μm)、RLは吸収性能(dB)を表す。式(5)のRLを最大にするには、反射係数Γを最小にする必要があり、反射係数Γを最小にするには、式(2)でZL=Z0=377Ω/□とする必要がある。一方、式(4)でZ0=377Ω/□、複素比誘電率εrを代入すると、d=λ/4であるから、Z´Lがλの関数として算出される。そして、式(3)において、算出されたZ´Lと、Z0=377Ω/□を代入し、λを指定すると、Rが表面抵抗値R0として算出される。
【0029】
抵抗層10の表面抵抗値R1は、例えば、導電性無機材料又は導電性有機材料の選定、抵抗層10の厚さの調節によって適宜設定することができる。抵抗層10の表面抵抗値は例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。抵抗層10は単一の層であってもよいし、複数層から成る積層体であってもよい。
【0030】
上記乖離率は30%以上であればよいが、乖離率は35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。但し、乖離率は200%以下であることが好ましい。この場合、乖離率が200%以下であることで、特定の周波数帯における特定の周波数の電磁波成分がより十分に吸収されるため、電波障害を効果的に抑制することができる。乖離率は150%以下であることが特に好ましい。
【0031】
抵抗層10の厚さ(膜厚)は、表面抵抗値R1に応じて適宜決定されるが、抵抗層10が無機材料で構成されるのであれば、0.1nm~100nmの範囲内とすることが好ましく、1nm~50nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1nm以上であると、均一な膜を形成しやすく、抵抗層10としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が100nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持することができ、製膜後に折り曲げ、引張などの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができ、かつ基材への熱による損傷や収縮を抑える傾向がある。抵抗層10が有機材料で構成されるのであれば、抵抗層10の厚さ(膜厚)は、0.1~2.0μmの範囲内とすることが好ましく、0.1~0.4μmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1μm以上であると、均一な膜を形成しやすく、抵抗層10としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が2.0μm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。
【0032】
(誘電体層)
誘電体層20は、特定の周波数の電磁波の入射波と反射波とを干渉により弱め合わせ、入射された電磁波を減衰させるための層である。誘電体層20は樹脂を含む。樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメチルメタアクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂(尿素樹脂)、ポリクロロプレン樹脂が挙げられる。中でも、成形性に優れることから、樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド又はこれらの2種以上の混合樹脂が好ましい。特に、樹脂の誘電率が高いと、誘電体粒子の添加量を低下させることが可能となり、(1)薄膜化、(2)成形性、(3)低コストの実現が可能になることから、樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂又はこれらの混合樹脂が好ましい。
【0033】
誘電体層20は、樹脂の比誘電率よりも大きい比誘電率を有する誘電体粒子をさらに含んでいてもよい。誘電体粒子としては、分散の安定性、及び、誘電体層20の高誘電率化の観点から、無機化合物が好ましい。無機化合物としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムが挙げられる。中でも、無機酸化物としては、使用する際の省スペース化やロールtoロールの加工性、曲げ剛性の観点から、チタン酸バリウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムが好ましい。
【0034】
誘電体層20の比誘電率は、特に制限されるものではないが、誘電体層20の薄型化の観点からは、大きいほど好ましい。具体的には、誘電体層20の比誘電率は、好ましくは10.0以上であり、より好ましくは15.0以上である。
【0035】
誘電体層20の複素比誘電率の実部は、特に制限されるものではないが、好ましくは10以上であり、より好ましくは15.0以上である。誘電体層20の複素比誘電率の実部が10以上であることで、誘電体層20の誘電率を大きくすることが可能となり、誘電体層20の厚さを低減できるため、電磁波吸収体100をより薄型化することができる。但し、誘電体層20の複素比誘電率の実部は、好ましくは30.0以下であり、より好ましくは20.0以下である。誘電体層20の複素比誘電率の実部が20.0以下であることで、誘電体層がより十分な強度を有することが可能となる。
【0036】
誘電体層20の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。誘電体層20の厚さを50μm以上とすることで、誘電体層20がより破れにくくなる。
【0037】
但し、誘電体層20の厚さは、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは400μm以下である。この場合、誘電体層20を抵抗層10や反射層30と積層した際に、シワ、トンネリング、デラミネーションなどの現象が起こりにくくなる。
【0038】
(反射層)
反射層30は誘電体層20から入射してきた電磁波を反射させ、誘電体層20へと至らしめるための層である。反射層30は、例えば導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方で構成される層を含む。導電性無機材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボン、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-AuおよびNiからなる群から選択される1つ以上が挙げられる。導電性無機材料の形状は特に限定されず、例えば粒子状又はワイヤー状である。導電性有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体及びポリピロール誘導体が挙げられる。反射層30は、導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方で構成される層のみで構成されてもよいが、導電性無機材料及び導電性有機材料の少なくとも一方からなる層を基材上に設けてなるものであってもよい。基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。特に柔軟性、成膜性、安定性、表面抵抗の観点から、反射層30は、アルミニウム蒸着膜を形成してなるPETフィルムで構成されることが好ましい。反射層30の表面抵抗は特に制限されるものではないが、100Ω/□以下であることが好ましい。反射層30は単一の層であってもよいし、複数層から成る積層体であってもよい。
【0039】
反射層30の厚さは特に制限されるものではないが、0.05~100μmであることが好ましく、12~80μmであることがより好ましい。膜厚が0.05μm以上であると、均一な膜を形成しやすく、反射層30としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が100μm以下であると、反射層30に十分なフレキシビリティを付与させることができ、電磁波吸収体100の折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、反射層30に亀裂が生じることをより抑制することができる傾向がある。
【0040】
(粘着層)
粘着層は、誘電体層20と抵抗層10,又は、誘電体層20と反射層30とを接着する層である。粘着剤層としては、例えば、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤を用いることができる。中でも、誘電体層20と抵抗層10,及び、誘電体層20と反射層30とを効果的に接着することが可能でありかつ安価であることから、ウレタン系粘着剤が好ましく用いられる。
【0041】
電磁波吸収体100は、誘電体層20に対して、抵抗層10及び反射層30をそれぞれドライラミネーション法又は熱ラミネーション法を用いて貼り付けることにより得ることができる。
【0042】
電磁波吸収体100で吸収される電磁波の特定の周波数帯は特に制限されるものではなく、通常は1~350GHzである。特定の周波数帯は、電磁波吸収体100の用途に応じて適宜決定することができる。ここで、特定の周波数帯においては、電磁波の吸収量が最大となる周波数が含まれるように設定される。電磁波の吸収量が最大となる周波数は、誘電体層20の厚さ及び誘電体層20の複素比誘電率の値を適宜調整することにより調整することができる。
【0043】
(検証)
次に、本開示の電磁波吸収体により、特定の周波数帯において最大吸収量と最小吸収量との差を小さくすることができるかどうかについて、シミュレーションにより検証を行った。このとき、電磁波吸収体を構成する抵抗層、誘電体層及び反射層として以下の層を用いると仮定した。なお、複素比誘電率は、JIS-C2138:2007に準拠して測定されるものである。具体的には、複素比誘電率は、空洞共振器法誘電率測定装置(アジレントテクノロジー株式会社社製、製品名「Agilent E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ」)を用いて、周波数1GHz、温度25℃、相対湿度50%の条件にて測定される値である。
(抵抗層)
・抵抗層A:東レ製PET(S-10、厚さ50μm)にHeraeus製PEDOT(Clevios PH1000)を塗工したもの。
・抵抗層B:東レ製PET(S-10、厚さ50μm)にITOターゲットを用いてスパッタリングしたもの。
・抵抗層C:東レ製PET(S-10、厚さ50μm)にモリブデン含有ターゲットを用いてスパッタリングしたもの。
(誘電体層)
・誘電体層A:信越化学工業製シリコーン粘着剤KR-3700を用いてなる塗工膜(複素比誘電率の実部:3.2、虚部:0.0)
・誘電体層B:サイデン化学製サイビノールOC3405に、堺化学工業製ペロブスカイトBT-01(チタン酸バリウム)を体積分率35%となるように配合してなる塗工膜(複素比誘電率の実部:10.6、虚部:1.0)
(反射層)
・尾池工業製テトライトSC(アルミニウム蒸着PET)
【0044】
(シミュレーションA1~A19)
反射層としては上記反射層を用い、抵抗層及び誘電体層としては、上記抵抗層及び誘電体層のうち表1に示す抵抗層及び誘電体層を用いて電磁波吸収体を構成することとした。また、抵抗層の表面抵抗値R
1、R
0及び乖離率については表1に示す値とし、62GHz付近で反射減衰量の絶対値が最大となるように誘電体層の厚さを調整し、周波数帯を表1に示すとおり50~70GHzに設定したときの、周波数と反射減衰量との関係をシミュレーションにより求めた。結果を
図2~
図4に示す。なお、
図2~
図4において、反射減衰量は、吸収量に-1を乗じた値である。
また、50~70GHzにおける最大反射減衰量と最小反射減衰量との差ΔAの値を表1に示す。
図2~
図4及び表1に示す結果より、乖離率が30%以上である電磁波吸収体は、乖離率が30%未満である電磁波吸収体に比べて、ΔAが十分に小さくなることが分かった。
【0045】
(シミュレーションB1~B12)
反射層としては上記反射層を用い、抵抗層及び誘電体層としては、上記抵抗層及び誘電体層のうち表2に示す抵抗層及び誘電体層を用いて電磁波吸収体を構成することとした。また、抵抗層の表面抵抗値R
1、R
0及び乖離率については表2に示す値とし、28GHz付近で反射減衰量の絶対値が最大となるように誘電体層の厚さを調整し、周波数帯を表2に示すとおり20~40GHzに設定したときの、周波数と反射減衰量との関係をシミュレーションにより求めた。結果を
図5及び
図6に示す。なお、
図5及び
図6において、反射減衰量は、吸収量に-1を乗じた値である。
また、20~40GHzにおける最大反射減衰量と最小反射減衰量との差ΔAの値を表2に示す。
図5、
図6及び表2に示す結果より、乖離率が30%以上である電磁波吸収体は、乖離率が30%未満である電磁波吸収体に比べて、ΔAが十分に小さくなることが分かった。
【0046】
(シミュレーションC1~C12)
反射層としては上記反射層を用い、抵抗層及び誘電体層としては、上記抵抗層及び誘電体層のうち表3に示す抵抗層及び誘電体層を用いて電磁波吸収体を構成することとした。また、抵抗層の表面抵抗値R
1、R
0及び乖離率については表3に示す値とし、80GHz付近で反射減衰量の絶対値が最大となるように誘電体層の厚さを調整し、周波数帯を表3に示すとおり70~90GHzに設定したときの、周波数と反射減衰量との関係をシミュレーションにより求めた。結果を
図7及び
図8に示す。なお、
図7及び
図8において、反射減衰量は、吸収量に-1を乗じた値である。
また、70~90GHzにおける最大反射減衰量と最小反射減衰量との差ΔAの値を表2に示す。
図7、
図8及び表3に示す結果より、乖離率が30%以上である電磁波吸収体は、乖離率が30%未満である電磁波吸収体に比べて、ΔAが十分に小さくなることが分かった。
【0047】
(シミュレーションD1~D12)
反射層としては上記反射層を用い、抵抗層及び誘電体層としては、上記抵抗層及び誘電体層のうち表4に示す抵抗層及び誘電体層を用いて電磁波吸収体を構成することとした。また、抵抗層の表面抵抗値R
1、R
0及び乖離率については表4に示す値とし、349GHz付近で反射減衰量の絶対値が最大となるように誘電体層の厚さを調整し、周波数帯を表4に示すとおり340~360GHzに設定したときの、周波数と反射減衰量との関係をシミュレーションにより求めた。結果を
図9及び
図10に示す。なお、
図9及び
図10において、反射減衰量は、吸収量に-1を乗じた値である。
また、340~360GHzにおける最大反射減衰量と最小反射減衰量との差ΔAの値を表4に示す。
図9、
図10及び表4に示す結果より、乖離率が30%以上である電磁波吸収体は、乖離率が30%未満である電磁波吸収体に比べて、ΔAが十分に小さくなることが分かった。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
<センシングシステム>
次に、本開示のセンシングシステムの実施形態について説明する。
図11は、本開示のセンシングシステムの一実施形態を示す断面図である。
【0053】
図11に示すように、センシングシステム200は、電磁波吸収体100と、電磁波吸収体100で吸収される周波数帯の電磁波を送信しかつ受信し、受信される電磁波を処理することが可能な電磁波送受信装置201とを空間S内に備える。
【0054】
センシングシステム200によれば、電磁波送受信装置201から送信される特定の周波数帯の電磁波が抵抗層10側から入射されると、電磁波は抵抗層10、誘電体層20を通過し、反射層30で反射される。このとき、誘電体層20において、入射される電磁波と反射される反射波とが互いに弱め合うことで電磁波が吸収されるため、特定の周波数の電磁波の吸収量が最大となる。但し、この場合でも、乖離率が30%以上であることで、乖離率が30%未満である場合に比べて、上記周波数帯において最大吸収量と最小吸収量との差を小さくすることができる。このため、電磁波送受信装置201から送信される周波数帯の電磁波の強度が一定である場合、電磁波送受信装置201で受信される電磁波においては、特定の周波数以外の電磁波の強度は大きくしたまま、特定の周波数の電磁波の強度の低下が十分に抑制される。このため、センシングシステム200において、特定の周波数の電磁波について、S/N比の低下が抑制され、信号として認識しやすくなるため、センシングシステム200において、複雑なプログラミングを必要とするプログラムを導入することなく、センシングを適切に行うことが可能となる。
【0055】
電磁波送受信装置201としては、例えばレーダー装置などが挙げられる。レーダー装置としては、パルスレーダー装置及びFM-CW(Frequency Modulation-Continuous Wave)レーダー装置が挙げられる。中でも、高い送信電力がなくても高いS/N比を実現できることから、FM-CWレーダー装置が好ましい。
【0056】
レーダー装置は、送信用アンテナ、受信用アンテナ、送信部、受信部及び信号処理部を有する。但し、レーダー装置が、送信と受信とを切り替えるデュプレクサを有する場合には、送信用アンテナは受信用アンテナを兼ねることができる。
【0057】
センシングシステム200としては、例えば高齢者などの動きを検知するシステムが挙げられる。
【符号の説明】
【0058】
10…抵抗層、20…誘電体層、30…反射層、100…電磁波吸収体、200…センシングシステム、201…電磁波送受信装置。