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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124184
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】水底地盤の圧密沈下工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/10 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
E02D3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027802
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599090062
【氏名又は名称】株式会社アサヒテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】白川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 順司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂吉
(72)【発明者】
【氏名】山根 隆行
(72)【発明者】
【氏名】兵動 正幸
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043CA03
(57)【要約】
【課題】航路や泊地において必要な水深を確保できるとともに、その際にかかるコストや手間を軽減する。
【解決手段】水底地盤Gに、下端部にストレーナ部を有する複数のストレーナ管11と送排気管14とを埋設し、複数のストレーナ管11からストレーナ部を介して地中の水を吸引することで地下水位を低下させ、複数のストレーナ管11の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成し、不飽和ゾーンの空気を、送排気管14を通じて真空吸引することで、複数のストレーナ管11の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成し、その後、当該負圧化ゾーンに送排気管14を通じて空気を送ることで、水底地盤G中における無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることにより水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させ、無数の土粒子間の間隙から水分を取り除き、水圧及び大気圧によって水底地盤Gを圧密沈下させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤中における無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることにより前記水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させ、前記無数の土粒子間の間隙から前記水分を取り除き、水圧及び大気圧によって前記水底地盤を圧密沈下させる水底地盤の圧密沈下工法であって、
前記水底地盤に、下端部にストレーナ部を有する複数のストレーナ管と送排気管とを埋設し、
前記複数のストレーナ管から前記ストレーナ部を介して地中の水を吸引することで地下水位を低下させ、前記複数のストレーナ管の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成し、
前記不飽和ゾーンの空気を、前記送排気管を通じて真空吸引することで、前記複数のストレーナ管の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成し、その後、当該負圧化ゾーンに前記送排気管を通じて空気を送ることで、前記土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることを特徴とする水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項2】
前記水底地盤の地中に埋設された前記複数のストレーナ管におけるストレーナ部の周囲を、当該ストレーナ部に近いほど透水係数が高い状態にしておくことを特徴とする請求項1に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項3】
前記水底地盤の地中に埋設された前記複数のストレーナ管の周囲のうち、想定される前記水底地盤の圧密沈下レベル付近の高さ位置に、水中からの水の流入を抑制する止水キャップ層を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項4】
水上から前記水底地盤に向かって前記ストレーナ管の埋設を行う工程において、前記ストレーナ管の上端部に補助鋼管を連結し、当該補助鋼管の上端部を水面よりも上方に位置させておき、
前記ストレーナ管の埋設後に前記補助鋼管を取り外し、前記ストレーナ管の上端部に、排水口付きの上蓋を取り付けて前記地中の水の排水を可能とし、
前記複数のストレーナ管と共に埋設された前記送排気管と、真空ポンプを含むキャビテーション発生装置とを接続管によって接続することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項5】
前記送排気管に接続された真空ポンプを含むキャビテーション発生装置を地上に設置して前記キャビテーションの発生を管理することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項6】
前記水底地盤の水底を構成する上層の下に位置する下層が透水層の場合には、前記ストレーナ管における前記ストレーナ部を、当該透水層である前記下層に位置させ、前記下層が不透水層の場合には、前記ストレーナ部を、当該不透水層である前記上層の底部に位置させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項7】
前記水底地盤のうち前記送排気管が埋設された箇所と前記送排気管を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所との間に、前記送排気管を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断する圧力影響遮断孔を形成することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項8】
前記複数のストレーナ管の本数及び間隔は、目標とする圧密沈下量と、前記水底地盤の水底を構成する上層の物性と、前記上層の層厚と、前記上層の圧密特性と、前記上層の下に位置する下層の透水性と、前記下層の被圧状態と、から導き出すことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項9】
沿岸に構築される構造物の施工前に、前記水底地盤を圧密沈下させることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項10】
前記複数のストレーナ管及び前記送排気管の埋設を作業台船上から行うことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項11】
錘を前記水底地盤の水底に落下させて前記水底地盤の締固めを行う動圧密工法を併用することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【請求項12】
測距センサーを用いて前記水底地盤の圧密沈下量の測定を行うことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底地盤の圧密沈下工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や港湾等において航路や泊地を確保するために、グラブ船やポンプ船等の浚渫船による浚渫工事が行われていた(例えば特許文献1参照)。
例えばグラブ船では、船体に搭載されたクレーンから吊り下げたグラブバケットを海底に下ろし、海底の土砂を掴み上げ、グラブ船の横に接舷した土運船にその土砂を積載する浚渫作業が行われる。また、土運船に積載された土砂は、土砂処分用地(埋立地)まで運搬されて陸揚げされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-181682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、浚渫工事で発生した土砂は、上記のように土運船によって土砂処分用地に運搬されるが、土砂処分用地がない場合や土砂処分用地の新規造成が困難な場合も多く、そのような場合には、費用を掛けて土砂を改良し、再生利用される。
また、浚渫工事が行われる際は、広い範囲での航路規制が必要な場合や、汚濁による環境負荷低減対策が必要になる場合もあり、多大なコストが掛かる問題があった。
さらに、浚渫工事では、計画浚渫高さや法線に対して施工誤差が生じるため、余掘り作業の必要があり、純土量に対して余分な土砂を浚渫しなければならない手間があった。しかも、薄層浚渫の場合においては、余掘り土量が純土量を上回る場合もしばしばであり、コストに大きな影響を与えていた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、航路や泊地において必要な水深を確保できるとともに、その際にかかるコストや手間を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、水底地盤中における無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることにより前記水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させ、前記無数の土粒子間の間隙から前記水分を取り除き、水圧及び大気圧によって前記水底地盤を圧密沈下させる水底地盤の圧密沈下工法であって、
前記水底地盤に、下端部にストレーナ部を有する複数のストレーナ管と送排気管とを埋設し、
前記複数のストレーナ管から前記ストレーナ部を介して地中の水を吸引することで地下水位を低下させ、前記複数のストレーナ管の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成し、
前記不飽和ゾーンの空気を、前記送排気管を通じて真空吸引することで、前記複数のストレーナ管の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成し、その後、当該負圧化ゾーンに前記送排気管を通じて空気を送ることで、前記土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記水底地盤の地中に埋設された前記複数のストレーナ管におけるストレーナ部の周囲を、当該ストレーナ部に近いほど透水係数が高い状態にしておくことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記水底地盤の地中に埋設された前記複数のストレーナ管の周囲のうち、想定される前記水底地盤の圧密沈下レベル付近の高さ位置に、水中からの水の流入を抑制する止水キャップ層を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
水上から前記水底地盤に向かって前記ストレーナ管の埋設を行う工程において、前記ストレーナ管の上端部に補助鋼管を連結し、当該補助鋼管の上端部を水面よりも上方に位置させておき、
前記ストレーナ管の埋設後に前記補助鋼管を取り外し、前記ストレーナ管の上端部に、排水口付きの上蓋を取り付けて前記地中の水の排水を可能とし、
前記複数のストレーナ管と共に埋設された前記送排気管と、真空ポンプを含むキャビテーション発生装置とを接続管によって接続することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記送排気管に接続された真空ポンプを含むキャビテーション発生装置を地上に設置して前記キャビテーションの発生を管理することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記水底地盤の水底を構成する上層の下に位置する下層が透水層の場合には、前記ストレーナ管における前記ストレーナ部を、当該透水層である前記下層に位置させ、前記下層が不透水層の場合には、前記ストレーナ部を、当該不透水層である前記上層の底部に位置させることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記水底地盤のうち前記送排気管が埋設された箇所と前記送排気管を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所との間に、前記送排気管を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断する圧力影響遮断孔を形成することを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記複数のストレーナ管の本数及び間隔は、目標とする圧密沈下量と、前記水底地盤の水底を構成する上層の物性と、前記上層の層厚と、前記上層の圧密特性と、前記上層の下に位置する下層の透水性と、前記下層の被圧状態と、から導き出すことを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
沿岸に構築される構造物の施工前に、前記水底地盤を圧密沈下させることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
前記複数のストレーナ管及び前記送排気管の埋設を作業台船上から行うことを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項1から10のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
錘を前記水底地盤の水底に落下させて前記水底地盤の締固めを行う動圧密工法を併用することを特徴とする。
【0017】
請求項12に記載の発明は、請求項1から11のいずれか一項に記載の水底地盤の圧密沈下工法において、
測距センサーを用いて前記水底地盤の圧密沈下量の測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、航路や泊地において必要な水深を確保できるとともに、その際にかかるコストや手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】SEP船を使用した水底地盤の掘削方法の例を示す斜視図である。
図2】水底地盤の圧密沈下に用いられる井戸の建て込み状態を示す概要図である。
図3】水底地盤の圧密沈下工法の例を示す概要図である。
図4】水底地盤の圧密沈下の具体例を説明するための概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0021】
図2図4において、符号Wは海中(水中)、符号Bは海底(水底)、符号Gは海底地盤(水底地盤)、符号G1は海底地盤Gのうちの上層、符号G2は海底地盤Gのうちの下層、符号Sは船舶、符号10は地盤沈下装置である。
本実施形態においては、地盤沈下装置10によって海底地盤Gを圧密沈下させて、航路や泊地において必要な所定の水深を確保する。
なお、圧密沈下させる水底地盤として、本実施形態においては海の地盤を例に挙げて説明するが、これに限られるものではなく、河川や湖沼の地盤を圧密沈下の対象としてもよい。
【0022】
海底地盤Gを圧密沈下させる場合、まずは、後述するストレーナ管11を埋設するためのケーシング5(ガイド管と称してもよい)が海底地盤Gに貫入される。ケーシング5の貫入は、例えば図1に示すような作業台を備えた作業台船1を用いて行われる。
図1に示す作業台船1は、SEP(Self-Elevating Platform)台船であり、複数の脚部2を海底地盤Gに着床させ、船体をジャッキアップして水面から浮上させて自立させることができる。
なお、本実施形態においては、SEP台船を用いるものとしたが、これに限られるものではなく、起重機船や通常の台船を用いてもよい。また、使用される作業台船1は、1隻でもよいし、2隻以上でもよい。
【0023】
作業台船1の縁には、当該縁から水上に張り出す張出ステー3が設けられ、張出ステー3にはケーシングドライバー4が設置されている。なお、作業台に開口部を形成し、この開口部が形成された部分にケーシングドライバー4を設置してもよい。
ケーシングドライバー4は、地盤掘削用のケーシング5を保持するとともにケーシング5を回転させて海底地盤Gに貫入させる装置である。
なお、作業台船1が2隻使用される場合、ケーシングドライバー4は、2隻の作業台船1間に跨って設けられた張出ステー3に設置される。
【0024】
ケーシング5は、作業台船1の作業台上に載せられたクローラークレーン6によってケーシングドライバー4にセットされる。そして、ケーシング5は、ケーシングドライバー4によって海底地盤Gに対して所定の深さまで貫入させられる。また、ケーシング5の上端部は、海面(ケーシングドライバー4)よりも上方に突出しており、海水が直接入らないようになっている。
【0025】
ケーシング5が貫入される深さは、本実施形態においては、海底地盤Gの上層G1である粘土層と下層G2との境界までとされているが、これに限られるものではなく、場合によっては上層G1の途中部分まででもよいし、下層G2まで貫入されてもよい。なお、海底地盤Gの下層G2は、砂層、礫層、岩層等が挙げられる。
なお、このケーシング5が貫入される深さは、ストレーナ管11が埋設される深さでもあり、その深さは、海底地盤Gの下層G2が透水層であるか不透水層であるか、といった条件や、海底地盤Gの上層G1の層厚といった条件等に基づいて決定される。海底地盤Gの下層G2が透水層であれば、ケーシング5の貫入深さ(ストレーナ管11の埋設深さ)を下層G2に達するように設定し、海底地盤Gの下層G2が不透水層であれば、ケーシング5の貫入深さ(ストレーナ管11の埋設深さ)を上層G1の底部までとする。
【0026】
海底地盤Gの所定の深さまで貫入されたケーシング5内の土砂は、クローラークレーン6によって吊り下げられたハンマーグラブ7によって掘削されて排土される。排土は、土運船によって土砂処分用地(埋立地)まで運搬されて陸揚げされる。
【0027】
海底地盤Gにケーシング5が貫入されて土砂が排出されると、圧密沈下の対象となる海底地盤Gを中心にして地盤沈下装置10が設置される。
地盤沈下装置10は、複数のストレーナ管11と、排水ポンプ12と、排水管13と、送排気管14と、キャビテーション発生装置15と、を備える。
また、ケーシング5は、地盤沈下装置10の設置後に海底地盤Gから抜去される。
【0028】
ストレーナ管11は、排水ポンプ12及び排水管13が収納される管体であって、下端に透水性のストレーナ部を有しており、土砂が排出されたケーシング5の内部に挿入される。ストレーナ部の外周にはフィルター11aが設けられている。
なお、図2においては、ストレーナ管11及びフィルター11aを部分的に切り欠いて表し、ストレーナ管11及びフィルター11aの内部(排水ポンプ12、排水管13、ストレーナ部の構造)を露出させて示している。
【0029】
ストレーナ管11は、上端部に補助鋼管110を連結させながら作業台船1からケーシング5内部への挿入作業が行われる。補助鋼管110は必要に応じて継ぎ足され、ケーシング5の抜去前の段階においては、ストレーナ管11の下端部はケーシング5の下端部の高さに配置され、ストレーナ管11の上端部に連結された上端部は、ケーシング5の上端部の高さに配置されて海面よりも上方に突出している。すなわち、ケーシング5の抜去前の段階において、ストレーナ管11の内部には、海水が直接入らないようになっている。
なお、補助鋼管110とストレーナ管11との連結及び複数の補助鋼管110同士の連結は、フランジ継手によって行われている。
また、複数のストレーナ管11の埋設が完了し、圧密沈下作業が行われる直前の段階においてはケーシング5も抜去されており、ストレーナ管11の上端部から補助鋼管110も取り外される。このときのストレーナ管11の上端部は、海底Bの高さに配置されている。
【0030】
排水ポンプ12は、ストレーナ管11のうちストレーナ部の内部側に配置され、排水管13は、ストレーナ管11の内部に配置されている。そして、排水管13の下端部は排水ポンプ12に接続され、上端部は海底Bの高さに配置される。したがって、圧密沈下作業時には、フィルター11aを抜けてストレーナ部の内側に浸入した海底地盤G中の地下水は排水ポンプ12によって吸引され、排水管13を通じて海中Wに、排水Dとして排出されることになる(図3参照)。
【0031】
送排気管14は、ストレーナ管11と共にケーシング5の内部に挿入される。つまり、ストレーナ管11の外周面とケーシング5の内周面との間に配置されることとなる。本実施形態においては、複数(一対)の送排気管14がケーシング5の内部に挿入される。
この送排気管14は、下端部がストレーナ管11におけるフィルター11aの下端の高さに配置され、上端部が海底Bの高さに配置されている。
さらに、送排気管14の上端部には、この送排気管14とキャビテーション発生装置15とを接続する接続管14aが接続される。
【0032】
ストレーナ管11の外周面とケーシング5の内周面との間に形成される隙間のうち、想定される海底地盤Gの圧密沈下レベルEの付近の高さ位置(圧密沈下レベルEよりも若干下方)には、ベントナイトペレットや硬化剤、硬化促進剤等からなる止水キャップ層16が形成されている。
すなわち、海底地盤Gの海底Bが圧密沈下作業によって沈下することを考慮し、想定される圧密沈下レベルE(圧密沈下作業後の海底Bの高さ位置)の付近の高さ位置に、ストレーナ管11の外周面とケーシング5の内周面との間に形成される隙間への海水の流入を抑制するための止水キャップ層16が形成されている。より具体的には、圧密沈下量を考慮して、海底Bよりも下方に間隔を空けた位置にベントナイトペレット、その直下に硬化剤等の薬剤が充填されて止水キャップ層16が形成されている。
【0033】
また、ストレーナ管11の外周面とケーシング5の内周面との間に形成される隙間のうち、止水キャップ層16が形成されていない隙間には、フィルター材(例えば豆砂利)が充填されている。すなわち、止水キャップ層16の上方にも下方にもフィルター材が充填されている。
送排気管14は、ストレーナ管11の外周面とケーシング5の内周面との間に充填された止水キャップ層16及びフィルター材によって保持されることとなる。
【0034】
ストレーナ管11におけるストレーナ部の周囲には、止水キャップ層16よりも下方に位置するフィルター材を含む透水係数の高い(目の粗い)領域が形成されている。当該領域は、ストレーナ部に近いほど見掛けの透水係数が高い状態になっており、ストレーナ部(フィルター11a)が目詰まりの発生しにくい状態になり、ストレーナ部に近いほど速く、かつ確実に水を吸引することができるようになる。
このような状態にするためには、ストレーナ部の周囲に大量の水を圧送するとともに大量の空気を送り、それと同時又は交互にその水と空気を吸引する作業を繰り返すと、ストレーナ部の近傍が撹拌されて、ストレーナ部に近いほど粗い粒子が集まるようになる。このような作業は、ケーシング5の抜去前でも抜去後でも行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態において、ケーシング5は、当該ケーシング5の内部に止水キャップ層16が形成されてから抜去されるものとするが、ケーシング5が抜去されてから止水キャップ層16が形成されてもよい。
ケーシング5が抜去されることで、ストレーナ管11及び送排気管14が海底地盤Gに埋設された状態となる。
【0036】
ストレーナ管11及び送排気管14が海底地盤Gに埋設された状態となったら、補助鋼管110をストレーナ管11の上端部から取り外す。このような作業は、潜水士によって海中で行われることになる。
また、補助鋼管110を取り外したら、ストレーナ管11の上端部に、排水口付きの上蓋(図示省略)を取り付けて地中の水の排水を可能な状態とする。すなわち、上蓋の排水口は上記の排水管13と接続されることとなる。なお、排水口には、電磁流量計が付属しており、排水Dの管理を行うことができる。
さらに、複数のストレーナ管11と共に埋設された送排気管14と、真空ポンプを含むキャビテーション発生装置15とを接続管14aによって接続する。
【0037】
キャビテーション発生装置15は、空気圧の調整によって水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させるキャビテーション現象を、海底地盤G中の水分に対して起こすための装置であり、送排気管14に接続された接続管14aが接続されている。
このようなキャビテーション現象を起こすことを可能とする構成として、キャビテーション発生装置15は、図示はしないが、調整タンクと、真空ポンプと、冷却用水槽と、空気流入弁と、制御部と、を有する。
【0038】
調整タンクは、空洞状に形成されており、通常時には空気のみが入っている状態となっている。タンク壁には、内部と外部とを連通する管状の吸引部が一体に設けられており、当該吸引部には、真空ポンプの吸引管が接続される。
このような調整タンクは、キャビテーション現象の発生時には真空状態又は真空に近い状態となるため、少なくとも大気圧に耐え得る強度と、高い密閉性を有するものとする。
そして、調整タンクには、送排気管14から繋がる接続管14aが接続されている。
【0039】
真空ポンプは、本実施形態においては水封式エルモ型真空ポンプが採用される。水封式エルモ型真空ポンプは、ケーシング(筐体)にファンを内蔵したもので、ケーシングに吸引口及び吐出口が備えられている。円柱型のファンは、そのファン中心を、円筒型のケーシングに対してケーシング中心に対し20~30mm程度偏心させて組み込まれており、吸引口に吸引管が接続されている。この吸引管は、調整タンクの吸引部に接続されている。
そして、このような水封式エルモ型真空ポンプは、ケーシングに対するファンの偏心ローリング回転によって、調整タンクの内部から空気(あるいは水蒸気)を、吸引管を介して吸引口よりケーシング内に真空吸引して、吐出口から吐出する。
さらに、ケーシングの内部には水が封入されている。すなわち、ケーシングの底部に循環水路が接続されて、この循環水路の先端は、大容量で放熱性に優れる上記の冷却用水槽に満たされた循環水の内部に導入されている。したがって、ケーシングに対するファンの偏心ローリング回転によって、冷却用水槽の循環水は、循環水路から真空吸引されて、吐出口から空気中の水分が吐出されるようになっている。
なお、真空ポンプの種類は、水封式エルモ型真空ポンプに限られるものではなく、他の真空ポンプであってもよい。
【0040】
空気流入弁は、上記の調整タンクの内部に空気を送り込むための電磁弁(電子バルブともいう)であり、調整タンクのタンク壁に一体に設けられている。
そして、調整タンクの内部と外部とを連通して空気を流入させる管状の流入口と、当該流入口を開閉する弁体と、を備える。
【0041】
制御部は、空気流入弁と通信可能に接続されており、空気流入弁における弁体の開閉動作を制御する制御信号を、予め設定されたタイミングで送信可能となっている。弁体の開閉動作を制御し、弁体を動作さて流入口を開放することで外部の空気が調整タンクの内部に送り込まれ、弁体を動作させて流入口を閉塞することで調整タンクの内部に空気が流入しないようにすることができる。
このような制御部の制御によって、真空ポンプによって真空吸引される調整タンク内部の真空度の強弱を調整したり、大気に開放したりすることができる。
弁体の開閉動作を制御するタイミングは、様々な種類のパターンに設定することが可能となっており、本実施形態においては、所定の時間が経過した時に弁体を動作させて流入口を開放し、更に所定の時間が経過した時に弁体を動作させて流入口を閉塞する動作を繰り返すパターンが採用されている。
より具体的には、数分間(本実施形態においては30分)は真空ポンプによって高真空で調整タンクの内部を真空吸引し、その後、数分間(本実施形態においては5分)は空気流入弁の弁体を開放し、その数分が経過した後は弁体を閉塞する、といったタイミングで弁体を開閉制御するものとする。そして、このような工程を所定期間(本実施形態においては数か月)の間、繰り返して行うものとする。ただし、弁体の開閉動作を制御するタイミングは、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
なお、本実施形態においては、真空ポンプによるバキューム圧を、空気流入弁の弁体を閉塞して高真空とするときには、-0.08MPaとする。ただし、バキューム圧は、これに限られるものではなく、真空ポンプの能力の範囲内で適宜変更である。すなわち、バキューム圧は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更である。
【0042】
なお、真空ポンプや制御部は個別に動作するものとしてもよいが、これらを統合制御装置(図示省略)に接続し、真空ポンプや制御部を総合的に制御できるようにしてもよい。例えば、制御部は、上記のように予め設定されたタイミングで空気流入弁における弁体の開閉動作を制御するが、真空ポンプの動作とずれてしまうと、効果的な真空吸引を行うことができない。そこで、統合制御装置によって真空ポンプや制御部を総合的に制御できれば、真空ポンプの動作と、制御部による空気流入弁の制御をタイミングよく行うことができる。すなわち、統合制御装置は、キャビテーション発生装置15におけるコントローラーとして機能することになる。
【0043】
このような統合制御装置は、CPU、ROM、RAMなどを備えた汎用のコンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末等)により構成され、キャビテーション発生装置15と通信可能に接続されている。
より具体的には、真空ポンプは、統合制御装置によってON・OFFスイッチが制御され、制御部は、制御信号の送信が制御される。
【0044】
以上のように構成されたキャビテーション発生装置15は、水封式エルモ型の真空ポンプにより高真空(P=-0.85~-0.95MPa位)で調整タンクの内部を真空吸引し、送排気管14及び接続管14aを通じて海底地盤G中の水分を1700倍の低温水蒸気に膨張させることができる。また、真空ポンプの内部に封入された水を循環水として冷却して使用するため、低温高スチーム(雲)で吸引しても、Q=50(l/min)位までは真空可能で凍結せず、かつ、加熱の必要がない。
すなわち、調整タンクに水封式エルモ型の真空ポンプを接続し、その真空ポンプに循環水路を介して冷却用水槽内の循環水を接続したため、真空ポンプの駆動により調整タンク内部を常温で真空吸引することで、対象部位の水分を低温水蒸気で吸引できる。
【0045】
キャビテーション発生装置15は、圧密沈下が行われる海底地盤G近傍の陸地(沿岸)に設置されており、圧密沈下工を地上で管理できるようになっている。接続管14aは、このような地上設備(キャビテーション発生装置15)から、ケーシング5の抜去後における送排気管14に接続される。
【0046】
なお、キャビテーション発生装置15によって、海底地盤G中における無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせると、海底地盤Gが圧密沈下して海底Bが下がることになるが、例えば既設の岸壁(例えば港湾の埠頭における係留施設のような構造物を指す)にはその影響を及ぼしたくない。そのため、海底地盤Gのうち送排気管14が埋設された箇所と送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所との間に、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断する圧力影響遮断孔17を形成するようにする。
すなわち、海底地盤Gのうち送排気管14が埋設された箇所と送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所との間に、送気管を設けるなどして空気孔を形成し、図示しないコンプレッサーの圧気圧により、圧力影響遮断孔17の周囲にエアカーテンを形成して不飽和ゾーンにし、止水性の高いエリアを形成する。これにより、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所への影響を遮断できる。
【0047】
地盤沈下装置10によって海底地盤Gの圧密沈下を行う場合は、まず、図3に示すように、複数の補助鋼管110をストレーナ管11の上端部から取り外し、ストレーナ管11の上端部に、排水口付きの上蓋を取り付けて、ストレーナ管11内部の排水管13からの排水を可能な状態とする。
さらに、送排気管14の上端部にも接続管14aを接続し、地上設備であるキャビテーション発生装置15と送排気管14とを接続する。
また、圧力影響遮断孔17の周囲にエアカーテンを形成して、複数のストレーナ管11及び送排気管14と、地上設備であるキャビテーション発生装置15が設置された沿岸の陸地との間に止水性の高いエリアを形成する。
【0048】
そして、排水口付きの上蓋を取り付けて閉塞された複数のストレーナ管11からストレーナ部を介して地中の水を吸引する。これにより、海底地盤Gの地下水位を低下させ、複数のストレーナ管11の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成する。
なお、ストレーナ管11及び送排気管14の周囲のうち、海底Bに近い方は止水キャップ層16によって閉塞されているため、ストレーナ管11及び送排気管14の周囲には海水が浸入しにくい。さらに、海底Bから地中に浸み込む水も複数のストレーナ管11によって吸引されて海中Wに排出されるので、海底地盤G中に不飽和ゾーンが形成された状態を維持しやすい。
【0049】
地中に不飽和ゾーンが形成されたら、不飽和ゾーンの空気を、送排気管14を通じて真空吸引することで、複数のストレーナ管11の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成する。
その後、当該負圧化ゾーンに送排気管14を通じて空気を送ることで、海底地盤G中における無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせる。
すなわち、地中を真空状態にすると水分は沸騰して蒸気になるが、その際にキャビティ(気泡)が発生する。その時に、真空状態の外部から空気を入れることで気泡圧壊、すなわちキャビテーションが起きる。つまり、負圧化ゾーンに送排気管14を通じて空気を送ることでキャビテーションが起きることとなる。キャビテーションとは、気泡が爆縮した直後に崩壊して外側に向かって衝撃波を発生する現象を指しており、衝撃波は、水の場合、1ミクロンあたり1000~10000気圧もの圧力に匹敵し、金属であっても壊食(エロージョン)を引き起こすことができる。
海底地盤Gを構成する土の土粒子間には空気やガス、水が入り込む間隙が存在し、そのような構造(土粒子骨格)は、単粒構造やハチの巣構造、綿毛構造などと呼ばれている。土粒子間の間隙から水分を抜く際に、従来は、真空ポンプや揚水ポンプを利用したり、コンプレッサーを利用して地中に空気を送り、真空ポンプによる吸い上げを補助したりして地下水位をコントロールしていたが、本実施形態においては、その工程の中でキャビテーションを起こさせて、真空吸引の効果をより促進できるようになっている。さらに、衝撃波により地盤の締め固め効果を発揮し、地盤の強化も可能となっている。
要するに、真空ポンプによって海底地盤Gを真空状態にし、その状態から、空気を送り込む方法を繰り返すことでキャビテーションを起こさせ、海底地盤G中における無数の土粒子間の間隙から水分を取り除き、効果的に海底地盤Gを乾燥(脱水)させて地盤改良を行うことができる。
【0050】
以上のような、送排気管14を通じて真空吸引することで、複数のストレーナ管11の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成する工程と、その後に負圧化ゾーンに送排気管14を通じて空気を送る工程は、所定期間に亘って繰り返し行われる。
ここで、所定期間とは、具体的な数を限定しないものの、例えば「数ヶ月程度」を指しているものとする。なお、「数ヶ月」とは、数日や数週間よりも長く、かつ数年よりも短い時間感覚を表している。実用日本語表現辞典において「数ヶ月」とは、「いくらかの、ある程度の月日。何ヶ月か。おおよそ4~6ヶ月前後程度を指す事が多い。」とされている。
【0051】
これらの工程を所定期間に亘って繰り返し行うと、水圧及び大気圧によって海底地盤Gが圧密沈下していき、海底Bの位置を下げることができる。すなわち、水深が深くなるので、航路や泊地において必要な水深を確保できる。
海底地盤Gの圧密沈下量の測定は、船舶Sの航行を妨げないように、例えば音響測深機や水中レーザー等のようなセンシング技術を用いた測距センサーによって行われる。
また、水圧及び大気圧によって海底地盤Gの圧密沈下は可能であるが、より確実に圧密沈下させるために、錘を海底地盤Gの海底Bに落下させて海底地盤Gの締固めを行う動圧密工法を併用してもよい。錘の落下は、例えば作業台船1から行われるものとする。
【0052】
圧密沈下によって海底B(地表面)が圧密沈下レベルEまで下がると、その分、ストレーナ管11及び送排気管14が、下がった海底B(地表面)から突き出した状態となる。突き出したストレーナ管11及び送排気管14は、船舶Sの航行を妨げる場合があるため、ストレーナ管11及び送排気管14の処理が必要となる。
ストレーナ管11及び送排気管14の処理方法としては、ストレーナ管11及び送排気管14を完全に引き抜く方法と、ストレーナ管11及び送排気管14を残置して埋め殺す場合に、海底B(地表面)から突き出した部分のみ切断する方法とが挙げられる。なお、ストレーナ管11及び送排気管14を残置する場合は、海底B(地表面)から突き出した部分を切断したうえで蓋をしてもよい。
【0053】
なお、沿岸の陸地に岸壁等の構造物を建造する必要がある場合は、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響が出ないように、当該構造物の施工前に海底地盤Gの圧密沈下を行うようにすることが好ましい。
構造物の施工後に海底地盤Gの圧密沈下を行わなければならない場合は、圧力影響遮断孔17によって、当該構造物と複数のストレーナ管11及び送排気管14との間に止水性の高いエリアを確実に形成し、構造物に、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響が出ないようにする。
【0054】
また、海底地盤Gを圧密沈下させて航路や泊地において必要な水深を確保した後は、その水深を維持するために、定期的に浚渫工事を行うようにする。
【0055】
〔実施例〕
図4は、水底地盤の圧密沈下の具体例を説明するための概要図であり、海底地盤Gの下層G2は岩層とされ、上層G1は層厚30メートルの粘土層であり、圧密沈下前の水深は9.5メートルとされている。なお、ストレーナ管11は、下層G2には埋設されないものとする。
このような海底地盤Gに埋設される複数のストレーナ管11の本数及び間隔は、目標とする圧密沈下量と、海底地盤Gの海底Bを構成する上層G1の物性と、上層G1の層厚と、上層G1の圧密特性と、上層G1の下に位置する下層G2の透水性と、下層G2の被圧状態と、から導き出される。
上層G1の物性、上層G1の層厚、上層G1の圧密特性、下層G2の透水性、下層G2の被圧状態は、ボーリング調査によって判明させることができる。
目標とする圧密沈下量は、圧密沈下の対象箇所をどれだけ圧密沈下させることができるか、その数値を計算することによって適宜決定するものとする。
【0056】
圧密沈下の対象箇所をどれだけ圧密沈下させることができるか、その数値を算出する場合は、例えば一般的な粘土層(上層G1)の液性限界の場合であると、以下のように計算される。
<粘土層の液性限界>
WL(液性限界)=100%,80%と仮定し、
Cc(圧縮指数)=0.009(WL-10)より、
Cc=0.81,0.72とする。
<粘土層中央の間隙比>
=1.50と仮定する。
<粘土層の有効応力>
粘土の単位体積重量γsat=15.0KN/mと仮定すると、粘土層中央の有効応力は、P=(15.0-10.0)×15=75KN/mと計算される。
ストレーナ管11及び送排気管14による負圧-85KN/m負荷による粘土層の有効応力は、P=75+85=160KN/mと計算される。
以上のような前提条件のもと、Cc=0.81の時、圧密沈下量は、次式(数1)のように計算される。
【0057】
【数1】
【0058】
また、Cc=0.72の時、圧密沈下量は、次式(数2)のように計算される。
【0059】
【数2】
【0060】
すなわち、Cc=0.81の時の圧密沈下量は、3.18メートルとされ、Cc=0.72の時の圧密沈下量は、2.82メートルとされる。したがって、Cc=0.81の時は、上層G1の層厚が26.82メートル、水深が12.68メートルとなる。また、Cc=0.72の時は、上層G1の層厚が27.18メートル、水深が12.32メートルとなる。
これにより、圧密沈下の対象箇所をどれだけ圧密沈下させることができるかが判明するので、これを基に、目標とする圧密沈下量が決定することができる。
以上のことから、海底地盤Gに埋設される複数のストレーナ管11の本数及び間隔を導き出すことができる。
【0061】
本実施の形態によれば、海底地盤Gに埋設された複数のストレーナ管11からストレーナ部を介して地中の水を吸引することで地下水位を低下させ、複数のストレーナ管11の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成し、不飽和ゾーンの空気を、海底地盤Gに埋設された送排気管14を通じて真空吸引することで、複数のストレーナ管11の周囲の地中に負圧化ゾーンを形成し、その後、当該負圧化ゾーンに送排気管14を通じて空気を送ることで、海底地盤Gにおける無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせるので、キャビテーションによる衝撃力を作用させて土粒子間の間隙から水分を抜き、海底地盤Gを、短時間かつ確実に脱水・乾燥させることができる。このような海底地盤Gは、水圧及び大気圧によって圧密沈下していくことになるので、海底Bの位置を下げることができ、これにより、水深が深くなるので、航路や泊地において必要な水深を確保できる。さらに、キャビテーションによる衝撃力が作用することで海底地盤Gの締め固め効果を発揮し、海底地盤Gの強化も可能となっている。そして、従来のような浚渫工事を行わずに海底地盤Gの圧密沈下が可能となるので、余掘り土を含む土砂の処理や周辺海域での航路規制、汚濁による環境負荷低減対策等にかかるコストや手間を軽減することができる。
【0062】
また、海底地盤Gの地中に埋設された複数のストレーナ管11におけるストレーナ部の周囲を、当該ストレーナ部に近いほど透水係数が高い状態にしておくので、ストレーナ部(フィルター11a)が目詰まりの発生しにくい状態になり、ストレーナ部に近いほど速く、かつ確実に水を吸引することができるようになる。
【0063】
また、海底地盤Gの地中に埋設された複数のストレーナ管11の周囲のうち、想定される海底地盤Gの圧密沈下レベルE付近の高さ位置に、海中Wからの水の流入を抑制する止水キャップ層16を形成するので、複数のストレーナ管11の周囲には海水が浸入しにくくなる。さらに、海底Bから地中に浸み込む水も複数のストレーナ管11によって吸引されて海中Wに排出されるので、海底地盤G中に不飽和ゾーンが形成された状態を維持しやすい。
【0064】
また、海面上から海底地盤Gに向かってストレーナ管11の埋設を行う工程において、ストレーナ管11の上端部に補助鋼管110を連結し、当該補助鋼管110の上端部を海面よりも上方に位置させておくので、ストレーナ管11の内部には、海水が直接入らないようになっている。そのため、ストレーナ管11の内部に排水ポンプ12や排水管13を配置する作業を容易に行うことができる。
さらに、ストレーナ管11の埋設後に補助鋼管110を取り外し、ストレーナ管11の上端部に、排水口付きの上蓋を取り付けて地中の水の排水を可能とするので、ストレーナ管11の周囲の地中に不飽和ゾーンを形成することが可能となる。
その上、複数のストレーナ管11と共に埋設された送排気管14と、真空ポンプを含むキャビテーション発生装置15とを接続管によって接続するので、海底地盤Gにおける無数の土粒子間の間隙に存在する水分に対してキャビテーションを起こさせることが可能となる。
【0065】
また、送排気管14に接続された真空ポンプを含むキャビテーション発生装置15を地上に設置してキャビテーションの発生を管理するので、海底Bでキャビテーションの発生を行う場合に比して格段にキャビテーションの発生を管理しやすい。
【0066】
また、海底地盤Gの海底Bを構成する上層G1の下に位置する下層G2が透水層の場合には、ストレーナ管11におけるストレーナ部を、当該透水層である下層G2に位置させ、下層G2が不透水層の場合には、ストレーナ部を、当該不透水層である上層G1の底部に位置させるので、下層G2が透水層か不透水層であるかに応じて、ストレーナ管11が埋設される深さを決定することができ、圧密沈下させる海底地盤Gの深さを状況に応じて変えることができる。
【0067】
また、海底地盤Gのうち送排気管14が埋設された箇所と送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所(例えばキャビテーション発生装置15が設置された場所)との間に、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断する圧力影響遮断孔17を形成するので、圧力影響遮断孔17の周囲にエアカーテンを形成して不飽和ゾーンにし、止水性の高いエリアを形成でき、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響を遮断したい箇所への影響を遮断できる。
【0068】
また、複数のストレーナ管11の本数及び間隔は、目標とする圧密沈下量と、海底地盤Gの海底Bを構成する上層G1の物性と、上層G1の層厚と、上層G1の圧密特性と、上層G1の下に位置する下層G2の透水性と、下層G2の被圧状態と、から導き出すので、複数のストレーナ管11が埋設される海底地盤Gの状態や船舶Sの航行や泊地としての利用を考慮した数値を算出し、それに基づいて海底地盤Gを圧密沈下させることができる。
【0069】
また、沿岸の陸地に岸壁等の構造物を建造する必要がある場合は、その構造物の施工前に、海底地盤Gを圧密沈下させるので、沿岸の陸地に建造される構造物に対し、送排気管14を通じた真空吸引による圧力の影響が出ないようにすることができる。
【0070】
また、複数のストレーナ管11及び送排気管14の埋設を作業台船1上から行うので、複数のストレーナ管11及び送排気管14の埋設を行うための施設を海上に建造するようなコストや手間を省略することができる。
【0071】
また、錘を海底地盤Gの海底Bに落下させて海底地盤Gの締固めを行う動圧密工法を併用するので、海底地盤Gの締固め効果を増大させることができ、海底地盤Gをより確実に圧密沈下させることができる。
【0072】
また、測距センサーを用いて海底地盤Gの圧密沈下量の測定を行うので、例えば沈下板のような測距用の物体を用いて圧密沈下量の測定を行う場合とは異なり、船舶Sの航行を妨げずに、海底地盤Gの圧密沈下作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
W 水中(海中)
B 水底(海底)
G 水底地盤(海底地盤)
G1 上層(粘土層)
G2 下層(砂層、礫層、岩層)
S 船舶
D 排水
E 圧密沈下レベル
1 作業台船
2 脚部
3 張出ステー
4 ケーシングドライバー
5 ケーシング
6 クローラークレーン
7 ハンマーグラブ
10 地盤沈下装置
11 ストレーナ管
11a フィルター
110 補助鋼管
12 排水ポンプ
13 排水管
14 送排気管
14a 接続管
15 キャビテーション発生装置
16 止水キャップ層
17 圧力影響遮断孔
図1
図2
図3
図4