(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124187
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電波伝搬シミュレーションシステム、及び電波伝搬シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/391 20150101AFI20230830BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20230830BHJP
【FI】
H04B17/391
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027805
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000233491
【氏名又は名称】株式会社日立システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 正己
(72)【発明者】
【氏名】藤原 亮介
(72)【発明者】
【氏名】武井 健
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ04
5B146DJ11
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】電波伝搬解析シミュレータの解析結果を高速表示する。
【解決手段】電波伝搬シミュレーションシステムであって、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、前記演算装置が、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイを用いたレイトレーシング法によって電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬解析・表示部を有し、前記電波伝搬解析・表示部は、前記レイ及び前記受信点の少なくとも一方に定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を逐次表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波伝搬シミュレーションシステムであって、
所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、
前記演算装置が、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイを用いたレイトレーシング法によって電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬解析・表示部を有し、
前記電波伝搬解析・表示部は、前記レイ及び前記受信点の少なくとも一方に定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を逐次表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記電波伝搬解析・表示部は、前記レイの放射領域を分割し、前記分割された領域のレイに優先順位を定め、定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を逐次表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記電波伝搬解析・表示部は、前記受信点に優先順位を定め、定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を逐次表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項4】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記電波伝搬解析・表示部は、
前記レイの放射領域を分割し、前記分割された領域のレイに第1の優先順位を定め、
前記受信点に第2の優先順位を定め、
前記定められた第1の優先順位の順に、当該受信点での受信電力を前記定められた第2の優先順位の順に解析し、
前記解析の結果を逐次表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項5】
請求項2に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記優先順位は、レイの伝搬距離が短い順又は遅延時間が小さい順に定められることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項6】
請求項2に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記演算装置は、複数の演算処理を並列に実行可能であって、
前記優先順位が異なる複数のレイによって生じる前記受信点での受信電力を並列に計算することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項7】
請求項3に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記優先順位は、複数の前記受信点のうち、所定数間隔で選択された受信点を優先して計算するように定められることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項8】
請求項3に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記優先順位は、複数の前記受信点のうち、前記送信点からの距離が近い受信点を優先して計算するように定められることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項9】
電波伝搬シミュレーションシステムであって、
複数のプロセッサコアによって複数の演算処理を並列に実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、
前記演算装置が、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイを用いたレイトレーシング法によって電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬解析・表示部を有し、
前記電波伝搬解析・表示部は、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイに定められた優先順位の順に、前記優先順位が異なる複数のレイによって生じる受信点での受信電力を並列に解析し、前記解析の結果を表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項10】
電波伝搬シミュレーションシステムが、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイを用いたレイトレーシング法によって実行する電波伝搬シミュレーション方法であって、
前記電波伝搬シミュレーションシステムは、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、
前記電波伝搬シミュレーション方法は、
前記演算装置が、前記レイ及び受信点の少なくとも一方に定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を表示することを特徴とする電波伝搬シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬シミュレーションシステムに関し、特に解析結果を高速表示する偽技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、IoT、次世代5G・6G通信等の高周波無線通信装置を用いた無線通信システムにおいて最適な基地局配置を行うため基地局配置と様々な場所における受信電力の関係把握が必須となっている。これには各種測定機器を用いた実測が重要であるが、屋外等、広大な面積の測定となる領域では全領域の測定は困難である。このため、実際には基地局配置及び受信電力の把握に電波伝搬解析シミュレータが使用されている。電波伝搬解析シミュレータは、電磁波を多数のレイと等価し解析を行うレイトレーシング法が主となっており、マクスウェル方程式を解く電磁界解析手法に比べ、レイトレーシング法によって大幅な解析時間短縮が可能となっている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2004-193912号公報)には、観測領域内部に配置された受信点を複数の受信点ごとにグループ化し、規模の大きな受信点グループがより小規模の複数の受信点グループを内包する階層構造を事前に構築する。事前に規定した判定基準に従い、レイとの受信判定処理が必要な受信点を内包する受信点グループを規模の大きな受信点グループから規模のより小さな受信点グループへ逐次絞り込み、絞り込まれた受信点グループに内包される受信点に対してのみレイと受信点との最終的な受信判定を行うレイの受信判定方法が記載されている。
【0004】
図2に従来の電波伝搬シミュレーションシステムの処理を示す。電波伝搬解析が開始すると(20)、予め定められた各種設定値に基づいて送信点から複数のレイを発射し(21)、発射された各レイの伝搬経路と損失が計算され、受信点での電界強度が計算される(22)。その後、複数の受信点が定められている場合、定められた他の受信点に移動して(23)、送信点からレイの発射(21)から、発射された各レイの伝搬経路と損失の計算、受信点での電界強度の計算(22)を繰り返す。そして、全ての定められた受信点における計算が終了すれば(24でYes)、解析結果を表示し(25)、処理を終了する(26)。このように全ての受信点での解析が終了後に解析結果が表示されることから解析が終了するまで結果が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レイトレーシング法を用いた電波伝搬解析では、基地局アンテナから発射される多くの電磁波レイの電磁波の反射・透過・回折・散乱を行っており、多数の受信点における受信電力解析を行うには多くの時間が必要となる。解析結果は全ての受信点の解析終了後に表示されることから、解析開始から解析結果の表示までに長時間となる課題があった。
【0007】
そこで本発明は、電波伝搬解析シミュレータに用いられる解析手法及びその解析結果の高速表示する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、電波伝搬シミュレーションシステムであって、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、前記演算装置が、送信点から三次元空間中に発射され受信点で受信されるレイを用いたレイトレーシング法によって電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬解析・表示部を有し、前記電波伝搬解析・表示部は、前記レイ及び前記受信点の少なくとも一方に定められた優先順位の順に受信点での受信電力を解析し、前記解析の結果を逐次表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、電波伝搬解析シミュレータによる解析結果の高速表示できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電波伝搬解析・表示部の詳細な手順を示すフローチャートである。
【
図2】従来の電波伝搬解析における表示方式の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態1の電波伝搬シミュレーションシステムの論理ブロック図である。
【
図4A】本発明の第1実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【
図4B】本発明の第1実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【
図5A】本発明の第2実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【
図5B】本発明の第2実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【
図7】本発明の第4実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【
図8】本発明の第5実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【
図9】本発明の第6実施形態の優先順位選択実施装置の例を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態7の電波伝搬シミュレーションシステムの物理的な構成を示す図である。
【
図11A】計算用GPUで並列に計算する構成例を示す図である。
【
図11B】計算用GPUで並列に計算する構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)である電波伝搬解析における高速表示方式の特徴的な構成を説明する。また、各図において、同一の構成要素及び同様な構成要素には、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
<実施形態1>
【0012】
次に、レイトレース法を用いた電波伝搬シミュレーションにおいて、これまで以上に高速表示が可能とするための第1実施形態を説明する。
【0013】
図3は、本発明の実施形態1の電波伝搬シミュレーションシステムの論理ブロック図である。
【0014】
レイトレース解析を行う構造物のモデルが作成されていない場合、先ずLidar等の点群測定装置を使用し3Dスキャン(点群)データ31を取得する。その後取得した3Dスキャン(点群)データ31からノイズを除去し、点群数を最適化し、メッシュを作成する(32)。この作成されたメッシュをそのまま使用してもよいが、解析時間の短縮のため、構造物を構成する複数のオブジェクト毎にメッシュを統合し、大きなメッシュ面(サーフェス)を構成することで3Dモデルデータ33が完成する。作成された3Dモデルデータ33を電波伝搬・電磁界解析シミュレータ34に入力し、周波数、送信点、受信点などの様々な設定を行い解析を開始する。解析の終了後、テキストデータやヒートマップ等のユーザが必要な表示方法で解析結果を表示する(35)。
【0015】
図3の論理ブロック図に示す、電波伝搬・電磁界解析シミュレータ34および解析結果表示部35で構成された電波伝搬解析・表示部30において、解析開始から解析結果の表示までに長時間となる課題を解決する手順を説明する。
【0016】
図1は、電波伝搬解析・表示部30の詳細な手順を示すフローチャートである。
【0017】
電波伝搬解析が開始すると(10)、送信点から発射するレイに優先順位を定める(11)。なお、ステップ11で、レイの受信点に優先順位を定めてもよい。定められたレイの優先順位は後述するステップ15で使用される。そして定められ優先順位に従って送信点からレイを発射する(12)。次に、発射された各レイの伝搬経路と損失が計算され、受信点での電界強度が計算される(13)。以前のループにて優先順位が高い計算結果が存在する場合、前の優先順位の計算結果に加算される(14)。なお、前の優先順位の計算結果が無い場合は加算されない。その後、レイの解析結果を表示する(15)。例えば、受信点の計算に優先順位が定められている場合、高優先順位の解析結果から表示するとよい。次に、複数の受信点が定められている場合、定められた他の受信点に移り(16)、全ての定められた受信点における計算が終了しているかを判定する(17)。未計算の受信点があれば、ステップ12に戻り、優先順位に従って、送信点からレイの発射(12)から、解析結果の表示(15)を繰り返す。一方、全ての定められた受信点における計算が終了していれば、定められた次の優先順位のレイに移り(18)、全てのレイの計算が終了しており、優先順位最後のレイであるかを判定する(19)。未計算の受信点があれば、ステップ12に戻り、優先順位に従って、送信点からレイの発射(12)から、レイの移動(18)を繰り返す。
【0018】
なお、多数の受信点の計算を繰返しループで実行する場合、他の受信点への移動(16)と全受信点が終了したかの判定(17)が必要となるが、処理能力が高いGPU(Graphics Processing Unit)を使用した超並列高速計算を用いれば、多数の受信点のループ処理を用いた繰り返し計算が不要となり、多数の演算コアを有するGPUでの並列計算で実行でき、計算を高速化できる(
図11A、
図11B参照)。
【0019】
これらの方法によって電波伝搬解析・表示部30においての解析開始から解析結果の表示までに長時間となる課題を解決できる。
【0020】
図4A及び
図4Bは、本発明の第1実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【0021】
一般的に無線を使用した各種通信では、基地局の送信機に接続されたアンテナから周囲に電波を発射することによって、端末の受信機へ情報が伝達される。同様に、端末の送信機から周囲に電波を発射することによって、基地局の受信機へ情報が伝達される。これによって双方向で情報が伝達される。このように基地局と端末との間、端末と基地局との間で良好に情報を伝達する上で、電波伝搬状態を知ることは非常に重要である。この電波伝搬の状態は、送信機と受信機を実際に現地に持ち込み実測することで極めて高い精度で把握可能である。しかし、全領域における測定は時間的や各種制約等によって極めて困難である。そのため、レイトレース法を用いた電波伝搬シミュレーションによって、実際の現場での測定より極めて短時間でかつ安全に電波伝搬状態を知ることができるが、実際の解析には多くの時間が必要となっている。
【0022】
以下に、レイトレース法を用いた電波伝搬シミュレーションにおいて、従来より高速表示を可能とする第1実施形態を説明する。
【0023】
図4Aにおいて、送信点51には送信機が設けられ、受信点52には受信機が設けられる。
図4Aに示すように、送信点51からは8本の電磁波を光線に仮定したレイが発射されている。ちなみに、実際の計算には3次元的に数100万本又はそれ以上のレイを発射して計算されるが、ここでは説明を単純化するため平面上の8本のレイに簡易化している。
【0024】
送信点51から平面上に放射状に発射された8本のレイは、図示するように90度毎の四つのエリアArea1~4に分割される。送信点51から受信点52に向かう直接波の経路となるエリアがArea1、Area1から反時計方向に90度回転したエリアがArea2、Area1から時計方向に90度回転したエリアがArea3、Area1の後部のエリアをArea4としている。これらのエリアArea1~Area4に付された数字1~4は計算の優先順位を表しており、優先順位は1>2>3>4となっている。ここでの優先順位を決定する条件として、送信点51から受信点52まで到達するレイが描く軌跡の距離を用いており、受信点52までの最短距離のレイを有するArea1を最優先順位Areaと定め、次に反射波2を有するArea2が優先順位2と定め、同様に反射波3を有するArea3が優先順位3と定め、最後のエリアであるArea4が優先順位4と定められる。なお、各エリアにおいて送信点51から受信点52まで到達する複数のレイが存在する場合、最も距離が短いレイを用いて優先順位を決めるとよい。
【0025】
優先順位定められた送信点51から発射されるレイを用いて
図1のフローに従って電波伝搬解析計算を実施すれば、
図4Bに示すように、先ず送信点51から受信点52間でレイの距離が最短となるArea1の受信電力が計算される(解析1)。次に、Area2の受信電力が計算され、先に計算されたArea1の受信電力とベクトル加算される(解析2)。更に、Area3の受信電力が計算され、先に計算されたArea1+Area2の受信電力とベクトル加算される(解析3)。最後に、Area4の受信電力が計算され、先に計算されたArea1+Area2+Area3の受信電力とベクトル加算される(解析4)。これにより優先順位を持たせた各計算毎に解析精度が向上した計算結果が得られ、計算結果を順に表示することによって、解析精度が徐々に向上する表示ができる。これは、レイトレーシング法で計算されるレイで受信電力の中で最も支配的となる直接波電力を最優先に計算し、その後、受信電力が大きなレイを持つ領域を順に計算して、計算結果を逐次表示することによって、受信電力の概算値を早く知ることができる。勿論、全ての優先順位のエリアの計算終了を待つことで、高精度な受信電力値を得ることができる。また、第1実施形態では、遅延時間によって自動的にレイの優先順位ができ、人手によるレイの優先順位付けが不要となる。
【0026】
なお、第1実施形態では、レイの優先順位を定めなくても、
図11A、
図11Bで後述する計算用GPU105に全レイの伝搬解析演算を同時に投入して並列計算すれば、距離が近い受信点の解析結果を先に得ることができ、受信電力の概算値を早く知ることができる。
【0027】
<実施形態2>
次に、レイトレース法を用いた電波伝搬シミュレーションにおいて、これまで以上に高速表示が可能とする本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、第1実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0028】
図5A及び
図5Bは、本発明の第2実施形態においてレイに定められる優先順位の例を示す図である。
【0029】
図5Aにおいて、送信点51には送信機が設けられ、受信点52には受信機が設けられる。
図5Aに示すように、送信点51からは8本の電磁波を光線に仮定したレイが発射されている。ちなみに、実際の計算には3次元的に数100万本又はそれ以上のレイを発射して計算されるが、ここでは説明を単純化するため平面上の8本のレイに簡易化している。
【0030】
送信点51から平面上に放射状に発射された8本のレイは、図示するように90度毎の四つのエリアArea1~4に分割される。送信点51から受信点52に向かう直接波の経路となるエリアがArea1、Area1から反時計方向に90度回転したエリアがArea2、Area1から時計方向に90度回転したエリアがArea3、Area1の後部のエリアをArea4としている。これらのエリアArea1~Area4に付された数字1~4は計算の優先順位を表しており、優先順位は1>2>3>4となっている。ここでの優先順位を決定する条件として、送信点51から受信点52まで到達するレイが描く軌跡の時間遅延量を用いており、受信点52までの最短距離のレイを有するArea1を最優先順位Areaと定め、次に反射波2を有するArea2が優先順位2と定め、同様に反射波3を有するArea3が優先順位3と定め、最後のエリアであるArea4が優先順位4と定められる。なお、各エリアにおいて送信点51から受信点52まで到達する複数のレイが存在する場合、最も遅延時間が小さいレイを用いて優先順位を決めるとよい。
【0031】
優先順位が定められた送信点51から発射されるレイを用いて
図1のフローに従って電波伝搬解析計算を実施すれば、
図5Bに示すように、先ず送信点51から受信点52間でレイの遅延時間が最小となるArea1の受信電力が計算される(解析1)。次に、Area2の受信電力が計算され、先に計算されたArea1の受信電力とベクトル加算される(解析2)。更に、Area3の受信電力が計算され、先に計算されたArea1+Area2の受信電力とベクトル加算される(解析3)。最後に、Area4の受信電力が計算され、先に計算されたArea1+Area2+Area3の受信電力とベクトル加算される(解析4)。これにより優先順位を持たせた各計算毎に解析精度が向上した計算結果が得られ、計算結果を順に表示することによって、解析精度が徐々に向上する表示ができる。これは、レイトレーシング法で計算されるレイで受信電力の中で最も支配的となる直接波電力を最優先に計算し、その後、受信電力が大きなレイを持つ領域を順に計算して、計算結果を逐次表示することによって、受信電力の概算値を早く知ることができる。勿論、全ての優先順位のエリアの計算終了を待つことで、高精度な受信電力値を得ることができる。また、第2実施形態では、遅延時間によって自動的にレイの優先順位ができ、人手によるレイの優先順位付けが不要となる。また、送信点の設置位置を早い段階で決定できる。
【0032】
第1実施形態では距離、第2実施形態では遅延時間によってレイの優先順位を定めたが、レイの反射回数、透過回数、又は、反射回数と透過回数の合計値に従って優先順位を定めてもよい。
【0033】
<実施形態3>
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態は、第1又は第2実施形態において、送信点から多数の受信点へのレイトレーシング法による電波伝搬計算を行う上で、受信点の計算の優先順位を定めて、これまで以上に高速表示が可能とする例である。第3実施形態では、第1又は第2実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0034】
図6は、本発明の第3実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【0035】
図6において、送信点61には送信機が設けられ、受信点62には受信機が設けられる。通常は複数の受信点62において計算を行う場合、配列的管理がし易いように、受信点62の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算を進める方法が採用される。このような通常の計算表示において実施形態1又は実施形態2での解析方法を用いれば受信点62の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算することで、上部から表示される。これでは計算開始から短時間で複数ある受信点62全体の受信電力の概要を把握できない。
【0036】
このため本発明の第3実施形態では、複数ある受信点62の中で優先順位を設け、優先順位が高い受信点62から計算する。第3実施形態における優先順位は、
図6中に記載された規則的配列で配置された複数の受信点62のうち、1~N個間隔で選択された受信点64を最優先順位(優先順位1)として計算して、計算結果を逐次表示する。次に、受信点64の間に存在する受信点65を計算し、計算結果を表示する。これによって、計算開始から短時間で、全受信点をカバーする領域中の受信電力の概算値を得ることができる。
【0037】
<実施形態4>
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態は、第1又は第2実施形態において、受信点の計算の優先順位を定めて、これまで以上に高速表示が可能とする例である。第4実施形態では、第1又は第2実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0038】
図7は、本発明の第4実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【0039】
図7において、送信点71には送信機が設けられ、受信点72には受信機が設けられる。通常は複数の受信点72において計算を行う場合、配列的管理がし易いように、受信点72の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算を進める方法が採用される。このような通常の計算表示において実施形態1又は実施形態2での解析方法を用いれば受信点72の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算することで、上部から表示される。これでは計算開始から短時間で複数ある受信点72全体の受信電力の概要を把握できない。
【0040】
このため本発明の第4実施形態では、複数ある受信点72の中で優先順位を設け、優先順位が高い受信点72から計算する。第4実施形態における優先順位は、
図7中に記載された規則的配列で配置された複数の受信点72のうち、送信点71との距離が最短となるArea1に含まれる受信点72を最優先順位(優先順位1)とし計算し、計算結果を表示する。その後、送信点71からの距離をArea1より大きくしたArea2に含まれる受信点72を優先順位2として計算し、計算結果を表示する。同様に、送信点71からの距離を大きくした優先順位の受信点72を計算して、計算結果を逐次表示し、最終的に全体の受信点72の計算が終了すると、全領域の計算結果を表示する。全受信点が存在する領域中の送信点71近傍の受信点72から順次遠方にある受信点72に広がるように受信電力値を得ることができる。
【0041】
<実施形態5>
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態は、第1又は第2実施形態において、受信点の計算の優先順位を定めて、これまで以上に高速表示が可能とする例である。第5実施形態では、第1又は第2実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0042】
図8は、本発明の第5実施形態において受信点に定められる優先順位の例を示す図である。
【0043】
図8において、送信点81には送信機が設けられ、受信点72には受信機が設けられる。通常は複数の受信点82において計算を行う場合、配列的管理がし易いように、受信点82の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算を進める方法が採用される。このような通常の計算表示において実施形態1又は実施形態2での解析方法を用いれば受信点82の縦最上部左の受信点から右側に計算を進め横に受信点が存在しない場合には下段に移動し左の受信点から右側に計算することで、上部から表示される。これでは計算開始から短時間で複数ある受信点82全体の受信電力の概要を把握できない。
【0044】
このため本発明の第5実施形態では、複数ある受信点82の中で優先順位を設け、優先順位が高い受信点82から計算する。第5実施形態における優先順位は、
図8中に記載され規則的配列で配置された複数の受信点82のうち、送信アンテナ指向性パタンに従った係数を乗じた送信点81との距離が最短となるArea1に含まれる受信点82を最優先順位(優先順位1)とし計算し、計算結果を表示する。その後、アンテナ指向性エリアの相似形として送信点81からの距離をArea1より大きくしたArea2に含まれる受信点82を優先順位2として計算し、計算結果を表示する。同様に、送信点71からの距離を大きくした優先順位の受信点82を計算して、計算結果を逐次表示し、最終的に全体の受信点82の計算が終了すると、全領域の計算結果を表示する。送信アンテナの指向性に従って、全受信点が存在する領域中の送信点81近傍の受信点82から順次遠方にある受信点82に広がるように受信電力値を得ることができる。
【0045】
<実施形態6>
次に、本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態は、前述した各実施形態において、レイトレーシング法電波伝搬計算における多数の受信点の優先順位を選択するための優先順位選択実施装置90の例である。第6実施形態では、前述した各実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0046】
図9は、本発明の第6実施形態の優先順位選択実施装置90の例を示す図である。
図9で示す優先順位選択実施装置90には、デスクトップ型パーソナルコンピュータ91、スマートフォン92、ノート型パーソナルコンピュータ93等がある。ユーザは、これらの優先順位選択実施装置90を操作して優先順位を選択する。具体的には、優先順位選択実施装置90で動作するWEBブラウザに入力する、専用アプリケーションソフトウエアに入力する等がある。
【0047】
なお、
図10に示す電波伝搬シミュレーションシステムを、
図9に示す優先順位選択実施装置90に実装してもよい。
【0048】
<実施形態7>
次に、本発明の第7実施形態を説明する。第7実施形態は、前述した各実施形態における電波伝搬シミュレーションシステムの物理的な構成の例である。第7実施形態では、前述した各実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0049】
図10は、本発明の実施形態7の電波伝搬シミュレーションシステムの物理的な構成を示す図である。
【0050】
本実施形態の電波伝搬シミュレーションシステムは、プロセッサ(CPU)101、メモリ102、チップセット103、グラフィック用GPU104、計算用GPU105、光ディスクドライブ(OPT Drive)106、補助記憶装置(HDD、SSD)107、入出力インターフェース(USB)108及び通信インターフェース(LAN)109を有する計算機によって構成される。
【0051】
プロセッサ101は、メモリ102に格納されたプログラムを実行する演算装置である。プロセッサ101が、各種プログラムを実行することによって、電波伝搬シミュレーションシステムの各機能部(例えば、電波伝搬・電磁界解析シミュレータ34、解析結果表示部35など)が実現される。なお、プロセッサ101がプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、ASIC、FPGA等のハードウェア)で実行してもよい。
【0052】
メモリ102は、不揮発性の記憶素子であるROM及び揮発性の記憶素子であるRAMを含む。ROMは、不変のプログラム(例えば、BIOS)などを格納する。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような高速かつ揮発性の記憶素子であり、プロセッサ101が実行するプログラム及びプログラムの実行時に使用されるデータを一時的に格納する。
【0053】
チップセット103は、プロセッサ101、メモリ102等の計算機の構成を接続するバスを構成する回路である。グラフィック用GPU104及び計算用GPU105は、三次元グラフィックスなどの画像描写や、特定の計算処理に適したプロセッサである。光ディスクドライブ106は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray Disc)等の光ディスクのデータを入出力するための装置である(Blu-rayは登録商標)。
【0054】
補助記憶装置107は、例えば、磁気記憶装置(HDD)、フラッシュメモリ(SSD)等の大容量かつ不揮発性の記憶装置である。また、補助記憶装置107は、プロセッサ101がプログラムの実行時に使用するデータ(例えば、電波伝搬・電磁界解析シミュレータ34、解析結果表示部35など)、及びプロセッサ101が実行するプログラムを格納する。すなわち、プログラムは、補助記憶装置107から読み出されて、メモリ102にロードされて、プロセッサ101によって実行されることによって、電波伝搬シミュレーションシステムの各機能を実現する。
【0055】
入出力インターフェース108は、キーボードやマウスなどの入力装置及びディスプレイ装置やプリンタなどの出力装置が接続され、オペレータからの入力を受け、プログラムの実行結果をオペレータが視認可能な形式で出力するインターフェースである。なお、電波伝搬シミュレーションシステムにネットワークを介して接続されたユーザ端末が入力装置及び出力装置を提供してもよい。この場合、電波伝搬シミュレーションシステムがウェブサーバの機能を有し、ユーザ端末が電波伝搬シミュレーションシステムに所定のプロトコル(例えばhttp)でアクセスしてもよい。
【0056】
通信インターフェース109は、所定のプロトコルに従って、他の装置との通信を制御するネットワークインターフェース装置である。
【0057】
プロセッサ101や各種GPU104、105が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介して電波伝搬シミュレーションシステムに提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の補助記憶装置107に格納される。このため、電波伝搬シミュレーションシステムは、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェース(例えば、光ディスクドライブ106)を有するとよい。
【0058】
電波伝搬シミュレーションシステムは、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作してもよい。例えば、電波伝搬・電磁界解析シミュレータ34、解析結果表示部35は、各々別個の物理的又は論理的計算機上で動作するものでも、複数が組み合わされて一つの物理的又は論理的計算機上で動作するものでもよい。
【0059】
<実施形態8>
次に、本発明の第8実施形態を説明する。第8実施形態は、第7実施形態における計算用GPU105の構成の例である。第8実施形態では、前述した各実施形態との同一の処理及び機能の説明は省略し、主に差異点を説明する。
【0060】
図11A、
図11Bは、計算用GPU105で並列に計算する構成例を示す図である。例えば、
図11Aに示すように、複数の計算用GPUモジュール105を並列化してもよく、
図11Bに示すように、計算用GPU105に内蔵される複数のGPUコアを並列化してもよい。いずれの構成でも、計算用GPU105のプロセッサコアで並列計算に用いれば、多数の受信点のループ処理を用いたシーリズ計算を高速化できる。
【0061】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えてもよい。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えてもよい。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0062】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウエアで実現してもよい。
【0063】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0064】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0065】
30 電波伝搬解析表示部
31 3Dスキャン(点群)データ
32 メッシュ作成部
33 3Dモデルデータ
34 電波伝搬・電磁界解析シミュレータ
35 解析結果表示部
90 優先順位選択実施部
91 デスクトップ型パーソナルコンピュータ
92 スマートフォン
93 ノート型パーソナルコンピュータ