(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124203
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】移動体の制御管理装置、制御管理方法、及び制御システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230830BHJP
【FI】
G05D1/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027831
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲平
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301BB02
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301DD07
5H301KK03
5H301KK08
5H301LL01
5H301LL06
(57)【要約】
【課題】モデル予測制御の評価関数を移動体の作業環境に応じて調整する必要がなく、移動体のデッドロックを回避できる制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムを提供する。
【解決手段】本発明による制御管理装置は、少なくとも1台の移動体3の移動目標地点4までの経路を生成する経路計画制御装置と接続可能であり、移動体3の移動目標地点4を設定する目標設定部7aと、移動体3の作業領域1の地図情報を保持する地図情報管理部7cと、移動体3の位置についての情報を含む移動体3の個体情報を保持する移動体情報管理部7bと、デッドロック回避部7dを備える。デッドロック回避部7dは、移動目標地点4の位置と地図情報と個体情報とに基づいて、移動体3が移動目標地点4に到達できない移動リスクを評価し、移動リスクに応じて、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するためのデッドロック回避情報を求める。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1台の移動体の移動目標地点までの経路を生成する経路計画制御装置と接続可能であり、
前記移動体の前記移動目標地点を設定する目標設定部と、
前記移動体が移動する作業領域の地図情報を保持する地図情報管理部と、
前記移動体の位置についての情報を含む前記移動体の個体情報を保持する移動体情報管理部と、
デッドロック回避部と、
を備え、
前記デッドロック回避部は、前記移動目標地点の位置と前記地図情報と前記個体情報とに基づいて、前記移動体が前記移動目標地点に到達できない移動リスクを評価し、
前記デッドロック回避部は、前記移動リスクに応じて、前記移動体がデッドロックを回避して前記移動目標地点に到達するためのデッドロック回避情報を求める、
ことを特徴とする、移動体の制御管理装置。
【請求項2】
前記デッドロック回避情報は、前記移動体の移動の経由地点である中継移動目標地点と、デッドロックの発生予想地点が追加された前記作業領域の地図のうち、少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の制御管理装置。
【請求項3】
前記デッドロック回避情報は、前記中継移動目標地点であり、
前記デッドロック回避部は、求めた前記中継移動目標地点の位置を前記移動体の新たな初期位置とする、
請求項2に記載の制御管理装置。
【請求項4】
前記デッドロック回避情報は、前記中継移動目標地点であり、
前記地図情報は、前記作業領域の内部に存在する障害物の位置についての情報を含み、
前記デッドロック回避部は、前記移動体の位置と前記移動目標地点を結んだ直線上に障害物が存在し、かつ、前記移動目標地点の周囲の一部に前記障害物が存在する場合には、前記移動リスクを高に設定し、
前記デッドロック回避部は、前記移動リスクが高の場合には、前記移動目標地点から見て、前記移動目標地点の周囲に前記障害物が存在しない向きにある任意の位置を、前記中継移動目標地点とする、
請求項2に記載の制御管理装置。
【請求項5】
前記デッドロック回避情報は、前記中継移動目標地点であり、
前記地図情報は、前記作業領域の内部に存在する障害物の位置についての情報を含み、
前記デッドロック回避部は、前記移動体の位置と前記移動目標地点を結んだ直線上に障害物が存在する場合には、前記移動リスクを高に設定し、
前記デッドロック回避部は、前記移動リスクが高の場合には、前記移動体の位置の座標に乱数を加えた座標で表される位置を、前記中継移動目標地点とする、
請求項2に記載の制御管理装置。
【請求項6】
前記デッドロック回避情報は、デッドロックの前記発生予想地点が追加された前記作業領域の地図であり、
前記地図情報は、前記作業領域の内部に存在する障害物の位置についての情報を含み、
前記デッドロック回避部は、前記移動体の位置と前記移動目標地点を結んだ直線上に障害物が存在する場合には、前記移動リスクを高に設定し、
前記デッドロック回避部は、前記移動リスクが高の場合には、前記移動目標地点の位置と前記地図情報と前記個体情報とに基づいて、前記移動体についてのデッドロックの前記発生予想地点を前記障害物として求め、求めた前記発生予想地点を前記地図情報に追加して前記地図を生成する、
請求項2に記載の制御管理装置。
【請求項7】
前記移動体情報管理部は、前記個体情報として、前記移動体にデッドロックが発生した位置の情報を保存し、
前記デッドロック回避部は、前記移動体情報管理部から前記個体情報を取得して、前記移動体にデッドロックが発生した位置を記録し、
前記デッドロック回避部は、前記移動リスクが高の場合には、記録した、前記移動体にデッドロックが発生した位置をデッドロックの前記発生予想地点として求める、
請求項6に記載の制御管理装置。
【請求項8】
制御管理装置と、
前記制御管理装置に接続された経路計画制御装置と、
を備え、
前記制御管理装置は、請求項1に記載の、移動体の制御管理装置であり、
前記経路計画制御装置は、前記移動目標地点と前記地図情報と前記個体情報と前記デッドロック回避情報を基に、少なくとも1台の前記移動体の前記移動目標地点までの経路を生成する、
ことを特徴とする、移動体の制御システム。
【請求項9】
移動体の制御管理装置に実行され、
前記制御管理装置が、少なくとも1台の前記移動体の移動目標地点の位置と、前記移動体が移動する作業領域の地図情報と、前記移動体の位置についての情報を含む前記移動体の個体情報とに基づいて、前記移動体が前記移動目標地点に到達できない移動リスクを評価する第1のステップと、
前記制御管理装置が、前記移動リスクに応じて、前記移動体がデッドロックを回避して前記移動目標地点に到達するためのデッドロック回避情報を求める第2のステップと、
を有することを特徴とする、移動体の制御管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を制御する制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両やロボットなどの移動体(自律移動体を含む)は、作業領域(例えば、物流倉庫の内部、建設現場、及び鉱山など)を移動し、搬送作業などを実施する。作業領域の内部には、移動体の移動を妨げる障害物が存在することがある。また、作業領域に複数の移動体が存在する場合には、例えば移動経路が互いに重なって、移動体が互いの移動を妨げることがある。移動体が目的地へ移動するときに、障害物や他の移動体などの物体によって目的地に向かって移動できず、目的地に到達できなくなることを、デッドロックと呼ぶ。
【0003】
移動体の制御においては、デッドロックによる生産性の低下を防ぐために、デッドロックを起こさずに移動体を目的地に効率的に移動させることが求められる。デッドロックを回避する制御方法の例には、移動体の走行領域を排他制御し、移動体が閉塞区間に進入できないようにする閉塞制御がある。しかし、閉塞制御では、移動体が閉塞区間を走行できないため、特に複数の移動体を移動させる場合には、移動体を効率よく移動させることが困難である。
【0004】
特許文献1には、モデル予測制御(MPC)の考え方を利用することで、排他制御を必要とせずに、複数の移動体(ビークル)の効率的な移動経路を算出できる移動制御方法が記載されている。特許文献1に記載の制御方法では、評価関数を用いて、複数の移動体の全体の移動を最適化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された制御方法などの、評価関数を用いて移動体の移動を最適化する従来の技術では、使用する評価関数によってはデッドロックを回避することが困難である。例えば、目的地までの距離を最小化するための評価関数(例えば、距離が短いほど値が大きい評価関数)を用いると、移動体は、目的地までの距離が増加する経路を取ることができず、障害物や他の移動体を避けることが困難となりデッドロックが発生することがある。
【0007】
移動体の作業環境(例えば、作業領域の地図、移動体の種類、及び移動体の数など)に合わせて評価関数を適切に調整すると、デッドロックを回避できる可能性がある。しかし、評価関数を適切に調整するにはモデル予測制御などについての専門知識が必要であり、このような専門知識を用いると人的コストや導入工数コストが増加する。コスト低減のためには、移動体の作業環境に応じて評価関数を調整しなくてもよく、評価関数によらずに移動体のデッドロックを回避できることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、モデル予測制御の評価関数を移動体の作業環境に応じて調整する必要がなく、移動体のデッドロックを回避できる制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による、移動体の制御管理装置は、少なくとも1台の移動体の移動目標地点までの経路を生成する経路計画制御装置と接続可能であり、前記移動体の前記移動目標地点を設定する目標設定部と、前記移動体が移動する作業領域の地図情報を保持する地図情報管理部と、前記移動体の位置についての情報を含む前記移動体の個体情報を保持する移動体情報管理部と、デッドロック回避部とを備える。前記デッドロック回避部は、前記移動目標地点の位置と前記地図情報と前記個体情報とに基づいて、前記移動体が前記移動目標地点に到達できない移動リスクを評価する。前記デッドロック回避部は、前記移動リスクに応じて、前記移動体がデッドロックを回避して前記移動目標地点に到達するためのデッドロック回避情報を求める。
【0010】
本発明による、移動体の制御システムは、制御管理装置と、前記制御管理装置に接続された経路計画制御装置とを備える。前記制御管理装置は、本発明による、移動体の制御管理装置である。前記経路計画制御装置は、前記移動目標地点と前記地図情報と前記個体情報と前記デッドロック回避情報を基に、少なくとも1台の前記移動体の前記移動目標地点までの経路を生成する。
【0011】
本発明による、移動体の制御管理方法は、移動体の制御管理装置に実行され、前記制御管理装置が、少なくとも1台の前記移動体の移動目標地点の位置と、前記移動体が移動する作業領域の地図情報と、前記移動体の位置についての情報を含む前記移動体の個体情報とに基づいて、前記移動体が前記移動目標地点に到達できない移動リスクを評価する第1のステップと、前記制御管理装置が、前記移動リスクに応じて、前記移動体がデッドロックを回避して前記移動目標地点に到達するためのデッドロック回避情報を求める第2のステップとを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、モデル予測制御の評価関数を移動体の作業環境に応じて調整する必要がなく、移動体のデッドロックを回避できる制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1において、移動体が作業を実施する作業領域の概略を示す図である。
【
図2】実施例1による、移動体の制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例1において、制御管理装置のデッドロック回避部の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施例1において、デッドロック回避部の移動体配置評価部と局所回避位置変更部の処理を示すフローチャートの例である。
【
図5】実施例1において、移動体の制御システムが生成した、移動体の移動目標地点までの移動経路の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2において、移動体が作業を実施する作業領域の概略を示す図である。
【
図7】実施例2において、デッドロック回避部の移動体配置評価部と局所回避位置変更部の処理を示すフローチャートの例である。
【
図8】実施例2において、移動体の移動目標地点までの移動経路の例を示す図である。
【
図9】実施例2において、2台の移動体が作業を実施する作業領域の概略を示す図である。
【
図10】実施例2において、デッドロック回避部の移動体配置評価部と局所回避位置変更部の処理を示すフローチャートの例である。
【
図11】実施例2において、2台の移動体の移動目標地点までの移動経路の例を示す図である。
【
図12】本発明の実施例3において、制御管理装置のデッドロック回避部の構成を示すブロック図である。
【
図13】実施例3において、デッドロック回避部の移動体配置評価部と移動リスク地図生成部の処理を示すフローチャートの例である。
【
図14A】実施例3による、移動体の制御システムが生成した、移動体の移動目標地点までの移動経路の例を示す図である。
【
図14B】実施例3による、移動体の制御システムが生成した、移動体の移動目標地点までの移動経路の例を示す図である。
【
図15】本発明の実施例4において、制御管理装置のデッドロック回避部の構成を示すブロック図である。
【
図16】本発明の実施例5において、移動体が作業を実施する作業領域の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による、移動体の制御管理装置と制御管理方法は、移動体が移動目標地点に到達できない移動リスクに応じて、移動体がデッドロックを回避して移動目標地点に到達するためのデッドロック回避情報を求める。本発明による、移動体の制御システムは、本発明による制御管理装置を備え、デッドロック回避情報が考慮された移動体の移動経路を求めることができる。移動体は、デッドロック回避情報が考慮された経路を移動することで、デッドロックを回避して移動目標地点に到達できる。
【0015】
本発明によると、モデル予測制御の評価関数を移動体の作業環境(例えば、作業領域の地図、移動体の種類、及び移動体の数など)に応じて調整しなくてもよく、評価関数によらずに移動体のデッドロックを回避することができる。本発明では、移動体の作業環境に応じて評価関数を調整しなくてもよいので、生産性を向上させることができるとともに、評価関数の調整に必要な人的コストや導入工数コストを削減できる。
【0016】
以下、本発明による、移動体の制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムについて、図面を参照しながら説明する。本発明において、移動体は、自律移動体も含み、例えば車両やロボットである。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0017】
本発明の実施例1による、移動体の制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムについて説明する。
【0018】
図1は、本実施例において、移動体3が作業を実施する作業領域1の概略を示す図である。移動体3は、本実施例による制御システム6に制御され、
図1に示す位置を現在位置(初期位置)として移動し、作業を実施する。移動体3は、作業領域1の内部で、現在位置から目的地である移動目標地点4に向かって移動する。作業領域1の内部には、1つまたは複数の障害物2が存在する。障害物2は、移動体3の移動を妨げる物体である。移動体3は、障害物2が存在する箇所を通行できないので、障害物2を避けて移動目標地点4へ移動する。
【0019】
図1に示した例では、移動目標地点4の周囲の一部に障害物2が存在する。すなわち、移動目標地点4は、周囲の3つの向き(
図1において移動目標地点4から上向きと左向きと右向き)に障害物2が存在する。この3つの向きとは、水平面内で互いに直交する2つの方向(
図1の上下方向と左右方向)で示される4つの向き(上向きと下向きと左向きと右向き)のうち、任意の3つの向きである。移動目標地点4は、この3つの向き以外の残りの1つの向き(
図1において移動目標地点4から下向き)の周囲には障害物2が存在しない。移動体3は、この1つの向きを利用することで(この1つの向きを逆に下から上に向かって移動することで)移動目標地点4へ到達することができる。
【0020】
移動体3は、移動目標地点4までを直線で結ぶ移動経路11を通ると、移動目標地点4までの距離が最小となる。しかし、移動体3は、移動経路11を通ると、位置5に到達すると障害物2に遮られて移動することができず、移動目標地点4へ移動することができない。
【0021】
なお、
図1には、作業領域1の内部で1台の移動体3が作業を実施する例を示しているが、複数の移動体3が作業領域1の内部で作業を実施してもよい。
【0022】
図2は、本実施例による、移動体の制御システム6の構成を示すブロック図である。本実施例による制御システム6は、制御管理装置7と、経路計画制御装置8を備える。
【0023】
制御管理装置7は、コンピュータで構成でき、本実施例による、移動体の制御管理装置であり、目標設定部7aと、移動体情報管理部7bと、地図情報管理部7cと、デッドロック回避部7dを備える。制御管理装置7は、目標設定部7aと移動体情報管理部7bと地図情報管理部7cにより、
図1に示すような、作業領域1における移動目標地点4と移動体3と障害物2の位置を把握でき、デッドロック回避部7dにより、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための情報(デッドロック回避情報)を求める。
【0024】
本実施例では、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための情報(デッドロック回避情報)として、移動体3の移動の経由地点である中継移動目標地点を求める。
【0025】
目標設定部7aは、移動体3の移動目標地点4を設定する。移動体3の移動目標地点4は、例えば、制御システム6のユーザや、制御システム6の上位のシステムから与えられる。制御管理装置7は、目標設定部7aにより、移動体3の移動目標地点4の位置を把握できる。
【0026】
移動体情報管理部7bは、移動体3の個体情報を保持する。移動体3の個体情報は、それぞれの移動体3についての情報であり、少なくとも、移動体3の数と、移動体3を識別する番号と、移動体3の位置についての情報を含む。制御管理装置7は、この個体情報により、移動体3の位置を把握できる。
【0027】
地図情報管理部7cは、作業領域1の地図情報を保持する。この地図情報は、移動体3が移動して作業を実施する作業領域1の地図についての情報であり、少なくとも、作業領域1の形状についての情報と、作業領域1の内部に存在する障害物2の位置についての情報を含む。制御管理装置7は、この地図情報により、障害物2の位置を把握できる。
【0028】
デッドロック回避部7dは、移動体3の移動目標地点4と移動体3の個体情報と作業領域1の地図情報を、それぞれ目標設定部7aと移動体情報管理部7bと地図情報管理部7cから入力する。そして、デッドロック回避部7dは、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための情報(デッドロック回避情報)を求め、求めたデッドロック回避情報と入力した情報を経路計画制御装置8に出力する。デッドロック回避部7dの詳細については、後述する。
【0029】
経路計画制御装置8は、コンピュータで構成でき、主目的達成評価部8aと、経路計画計算部8bと、行動計画伝達部8cを備える。経路計画制御装置8は、移動体3の移動目標地点4と移動体3の個体情報と作業領域1の地図情報とデッドロック回避情報を基に、少なくとも1台の移動体3について、モデル予測制御の手法を用いて、移動体3の現在位置から移動目標地点4までの経路を生成する。経路計画制御装置8は、既存の方法を用いて移動体3の移動経路を生成することができる。移動体3は、この経路を移動することで移動目標地点4へ到達できる。
【0030】
以下では、主目的達成評価部8aと経路計画計算部8bと行動計画伝達部8cについて簡単に説明する。
【0031】
主目的達成評価部8aは、制御管理装置7からの情報を利用して、モデル予測制御の評価関数の値(評価値)を演算する。例えば、主目的達成評価部8aは、現時刻から任意のステップだけ後の移動体3の位置と、移動目標地点4や後述する中継移動目標地点との間の距離に応じた評価値を求める。
【0032】
経路計画計算部8bは、主目的達成評価部8aが既に求めた評価値よりも評価値が向上するような、移動体3の経路を算出する。評価値が向上する経路とは、評価関数に与えた条件によって異なるが、例えば、より短時間またはより短距離で移動体3が移動目標地点4に到達できる経路である。なお、評価値は、評価関数によって、向上すると大きくなる場合と小さくなる場合がある。
【0033】
行動計画伝達部8cは、経路計画計算部8bが算出した経路を、移動体3に伝達する。
【0034】
図3は、制御管理装置7のデッドロック回避部7dの構成を示すブロック図である。デッドロック回避部7dは、移動体配置評価部10aと、局所回避位置変更部10bを備える。
【0035】
移動体配置評価部10aは、目標設定部7aから得られた移動体3の移動目標地点4の位置と、個体情報から得られた移動体3の位置と、地図情報から得られた障害物2の位置に基づいて、移動体3が移動目標地点4に到達できない移動リスクを評価する。
【0036】
局所回避位置変更部10bは、移動体配置評価部10aが評価した移動リスクに応じて、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための情報(デッドロック回避情報)を求める。そして、局所回避位置変更部10bは、求めたデッドロック回避情報を経路計画制御装置8の主目的達成評価部8aに出力する。本実施例では、局所回避位置変更部10bは、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための経由地点である中継移動目標地点を、デッドロック回避情報として演算して求める。
【0037】
図4は、本実施例において、デッドロック回避部7dの移動体配置評価部10aと局所回避位置変更部10bの処理を示すフローチャートの例である。ステップS1からステップS4までは、移動体配置評価部10aが実行する処理であり、ステップS5からステップS6までは、局所回避位置変更部10bが実行する処理である。
【0038】
図5は、
図1に示した作業領域1において、本実施例による、移動体の制御システム6が生成した、移動体3の移動目標地点4までの移動経路の例を示す図である。
図5には、局所回避位置変更部10bが、移動体3が移動目標地点4に到達するためのデッドロック回避情報として求めた中継移動目標地点15の例を示している。
【0039】
中継移動目標地点15は、移動体3がデッドロックを回避して移動目標地点4に到達するための経由地点である。移動体3は、まず中継移動目標地点15を移動目標地点として現在位置(初期位置)から中継移動目標地点15へ移動し、次に中継移動目標地点15から移動目標地点4へ移動する。移動体3は、中継移動目標地点15を経由すると、障害物2を迂回して移動目標地点4に到達できる。
【0040】
移動体3は、現在位置(初期位置)から中継移動目標地点15を経由して移動目標地点4へ移動する。移動体3の、初期位置から中継移動目標地点15までの移動経路16と、中継移動目標地点15から移動目標地点4までの移動経路17は、経路計画制御装置8が既存の方法を用いて生成する。
【0041】
以下では、
図4と
図5を用いて、移動体配置評価部10aと局所回避位置変更部10bについて説明する。
【0042】
ステップS1で、移動体配置評価部10aは、移動体3の位置(現在位置)と移動体3の移動目標地点4の位置と障害物2の位置に基づいて、移動体3の位置と移動目標地点4を結んだ直線上に障害物2が存在するか否かを判断する。この直線上に障害物2が存在する場合は、ステップS2の処理を実施し、存在しない場合は、ステップS4の処理を実施する。
【0043】
図1と
図5に示した例では、移動体3の位置と移動目標地点4を結んだ直線上に障害物2が存在する。
【0044】
ステップS2で、移動体配置評価部10aは、移動体3の移動目標地点4の位置と障害物2の位置に基づいて、移動目標地点4の周囲の一部に障害物2が存在するか否かを判定する。移動目標地点4の周囲の一部に障害物2が存在する場合は、ステップS3の処理を実施し、存在しない場合は、ステップS4の処理を実施する。
【0045】
図1と
図5に示した例では、移動目標地点4の周囲の一部に、すなわち移動目標地点4の周囲の3つの向き(
図5において移動目標地点4から上向きと左向きと右向き)に、障害物2が存在する。
【0046】
ステップS3で、移動体配置評価部10aは、移動体3の移動リスクが高いと評価し、移動リスクを「高」に設定する。
【0047】
ステップS4で、移動体配置評価部10aは、移動体3の移動リスクが低いと評価し、移動リスクを「低」に設定する。
【0048】
ステップS5で、局所回避位置変更部10bは、移動体配置評価部10aが設定した移動リスクが「高」であるか否かを判断する。移動リスクが「高」である場合は、ステップS6の処理を実施する。
【0049】
図1と
図5に示した例では、移動リスクが「高」に設定されるので、ステップS6の処理が実施される。
【0050】
ステップS6で、局所回避位置変更部10bは、移動体3が障害物2を回避して移動目標地点4に到達するための経由地点である中継移動目標地点15(
図5)を設定する。
【0051】
初めに、局所回避位置変更部10bは、移動体3の移動目標地点4の位置と障害物2の位置に基づいて、移動目標地点4から見て、移動目標地点4の周囲に障害物2が存在しない向きを求める。この向きを、デッドロック回避方位14と呼ぶ。
図5に示した例では、デッドロック回避方位14は、移動目標地点4の周囲の3つの向き以外の1つの向き(
図5において移動目標地点4から下向き)である。
【0052】
次に、局所回避位置変更部10bは、移動目標地点4から見て、デッドロック回避方位14の向きにある任意の位置を、中継移動目標地点15とする。中継移動目標地点15は、その周囲に障害物2が存在しない位置であるのが好ましい。局所回避位置変更部10bは、求めた中継移動目標地点15の位置を、移動体3の新たな初期位置とすることができる。
【0053】
上述したように、経路計画制御装置8は、移動体3の、中継移動目標地点15までの移動経路16と、中継移動目標地点15から移動目標地点4までの移動経路17を、既存の方法を用いて生成する。
【0054】
従来の技術では、例えば、モデル予測制御(MPC)の評価関数として移動目標地点4までの距離を最小化するための評価関数を用いると、移動体3が移動目標地点4へ移動する経路は、
図1に示した移動経路11が最適となる。しかし、移動体3は、移動経路11を通って位置5に到達すると、障害物2に遮られて移動することができず、また移動目標地点4までの距離が増加するので障害物2を避ける経路を移動することもできない。すなわち、移動体3は、位置5でデッドロックが発生する可能性がある。
【0055】
本実施例による制御システム6では、制御管理装置7のデッドロック回避部7dが局所回避位置変更部10bを備え、局所回避位置変更部10bが
図5に示したように中継移動目標地点15を設定することで、移動体3は、障害物2を迂回して移動目標地点4に到達でき、デッドロックを回避することができる。本実施例では、モデル予測制御の評価関数は、移動体3の作業環境(例えば、作業領域の地図、移動体3の種類、及び移動体3の数など)に応じて調整する必要がない。本実施例では、例えば、移動目標地点4の周囲の一部が壁などの障害物2に囲まれていても、移動体3は、デッドロックを回避して移動目標地点4に容易に到達することができる。
本発明の実施例2による、移動体の制御管理装置、制御管理方法、及び制御システムについて説明する。以下では、本実施例について、実施例1と異なる点を主に説明する。
移動体3は、移動目標地点4までを直線で結ぶ移動経路11を通ると、移動目標地点4までの距離が最小となる。しかし、移動体3は、障害物2が存在するために、移動経路11を通って移動目標地点4へ移動することができない。
以上に説明したように、移動体3に乱数を用いて中継移動目標地点15を設定することで、移動体3のデッドロックを回避できる。移動体3は、初期位置が乱数を用いて得られた中継移動目標地点15に変わることにより、移動経路が変わる。このため、移動体3は、障害物2を避ける移動経路17を通って移動目標地点4へ移動できるので、デッドロックを回避することができる。
次に、本実施例において、作業領域1の内部で複数の移動体3が作業を実施する例について説明する。作業領域1の内部で複数の移動体3が作業を実施する場合には、次に説明する構成によりデッドロックを回避することもできる。以下では、一例として、作業領域1の内部で2台の移動体3がそれぞれの移動目標地点4へ移動する例を説明する。
作業領域1の内部では、移動体3a、3bと移動目標地点4a、4bと障害物2についての相対的な位置関係が、移動体3aと移動体3bとの間で同じであるとする。すなわち、作業領域1の内部で、移動体3aと移動目標地点4aと障害物2についての相対的な位置関係と、移動体3bと移動目標地点4bと障害物2についての相対的な位置関係が、互いに同じであるとする。
このような場合にも、乱数を用いて中継移動目標地点15を設定して移動体3a、3bの初期位置を変えることにより、移動体3a、3bのデッドロックを回避することができる。
ステップS7で、移動体配置評価部10aは、移動体情報管理部7bが持つ移動体3の個体情報に基づき、作業領域1の内部に複数の移動体3が存在するか否かを判定する。作業領域1の内部に複数の移動体3が存在する場合は、ステップS8の処理を実施する。
ステップS8で、移動体配置評価部10aは、移動体3a、3bの現在位置(初期位置)と移動体3a、3bの移動目標地点4a、4bの位置と障害物2の位置に基づいて、移動体3、3bと移動目標地点4a、4bと障害物2についての相対的な位置関係が、移動体3aと移動体3bとの間で同じか否かを判断する。すなわち、移動体配置評価部10aは、移動体3aと移動目標地点4aと障害物2についての相対的な位置関係と、移動体3bと移動目標地点4bと障害物2についての相対的な位置関係が、互いに同じか否かを判断する。移動体3aと移動体3bとの間でこの相対的な位置関係が同じ場合は、ステップS3の処理を実施し、同じでない場合は、ステップS4の処理を実施する。
なお、局所回避位置変更部10bは、複数の移動体3のうち、全ての移動体3に中継移動目標地点15を設定しなくてもよく、少なくとも1台の移動体3に乱数を用いて中継移動目標地点15を設定すればよい。例えば、移動体3が3台ある場合には、2台の移動体3に乱数を用いて中継移動目標地点15を設定することができる。
なお、経路計画制御装置8は、移動体3aの、中継移動目標地点15aから移動目標地点4aまでの移動経路17aと、移動体3bの、中継移動目標地点15bから移動目標地点4bまでの移動経路17bを、既存の方法を用いて生成する。
以上説明したように、作業領域1の内部で複数の移動体3が移動する場合に、複数の移動体3の移動目標地点4までの移動経路11として、互いに重なる経路が得られる場合、または移動体3同士がすれ違うのが困難な程度に近接するような経路が得られる場合でも、少なくとも1台の移動体3に乱数を用いて中継移動目標地点15を設定することで、移動体3のデッドロックを回避できる。移動体3は、初期位置が乱数を用いて得られた中継移動目標地点15に変わることにより、移動経路が変わる。このため、移動体3は、経路の重なりや近接を防いで移動目標地点4へ移動できるので、デッドロックを回避することができる。
従来の技術では、例えばモデル予測制御の評価関数を調整することにより、複数の移動体3の経路が互いに重ならないようにし、複数の移動体3が近接した経路を互いの衝突を避けてすれ違えるように移動体3を慎重に移動させる制御が可能である。しかし、この制御では、移動体3は、互いの衝突を避けるために移動速度を落としてすれ違うため、移動距離が最短でも到着までの時間が増加する恐れがある。
本実施例では、移動体3の中継移動目標地点15を乱数を用いて求め、この中継移動目標地点15を移動体3の新たな初期位置とすることで、移動体3は、互いに重なったり近接したりする移動経路11を移動することがなく、移動速度を落とさずに移動目標地点4に到達できる。このため、移動体3は、移動距離が必ずしも最短でなくても、移動目標地点4への到着を従来よりも早めることができ、生産性を向上させることができる。