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特開2023-124226ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材
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  • 特開-ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材 図1
  • 特開-ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材 図2
  • 特開-ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124226
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20230830BHJP
   C08F 22/20 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F22/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027869
(22)【出願日】2022-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「分解・劣化・安定化の精密材料科学」、「力学的安定性と選択的分解性を兼備した循環型高分子微粒子材料の創成」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】森本 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】中薗 和子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL03R
4J100AL08P
4J100BA38H
4J100BA38P
4J100BC43H
4J100BC52H
4J100CA01
4J100CA05
(57)【要約】
【課題】架橋剤として用いたときに優れた機械的特性を示す架橋ポリマーが得られるロタキサン及びその製造方法、架橋剤として上記ロタキサンを用いた架橋ポリマー、上記架橋ポリマーからなる高分子微粒子、上記架橋ポリマーを用いて製造された高分子樹脂部材を提供する。
【解決手段】2以上の環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサンであって、上記環状分子が反応性官能基含有基を有し、上記軸分子が下記式(1)で表される分子である、ロタキサン。

式(1)中、Aは、ポリマー鎖を表す。複数存在するAは同一であっても異なっていてもよい。Xは、連結基を表す。Lは、単結合又は連結基を表す。Yは、封止基を表す。mは、1以上の整数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の環状分子と前記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサンであって、
前記環状分子が、反応性官能基含有基を有し、
前記軸分子が、下記式(1)で表される分子である、ロタキサン。
【化1】

式(1)中、Aは、ポリマー鎖を表す。複数存在するAは同一であっても異なっていてもよい。Xは、連結基を表す。Lは、単結合又は連結基を表す。複数存在するLは同一であっても異なっていてもよい。Yは、封止基を表す。複数存在するYは同一であっても異なっていてもよい。mは、1以上の整数を表す。mが2以上の整数である場合に複数存在するXは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記反応性官能基含有基の反応性官能基が、水酸基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のロタキサン。
【請求項3】
前記ポリマー鎖が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(メタ)アクリレート、ポリイソプレン及びポリブタジエンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のロタキサン。
【請求項4】
前記封止基が、tert-ブチル基、tert-ブチルフェニル基、ネオペンチル基、アダマンチル基、3,5-ジメチルフェニル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のロタキサン。
【請求項5】
架橋剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載のロタキサン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のロタキサンの製造方法であって、
前記ポリマー鎖をリビングラジカル重合によって得る、ロタキサンの製造方法。
【請求項7】
架橋剤として請求項1~5のいずれか1項に記載のロタキサンを用いた、架橋ポリマー。
【請求項8】
モノマーと請求項1~5のいずれか1項に記載のロタキサンとの共重合体であり、
前記モノマーに対する前記ロタキサンの割合が、0.001~10モル%である、請求項7に記載の架橋ポリマー。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の架橋ポリマーからなる、高分子微粒子。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の架橋ポリマーを用いて製造された、高分子樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋ポリマー、高分子微粒子及び高分子樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架橋剤としてロタキサン(ポリロタキサン)を用いた架橋ポリマーが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/095493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが特許文献1を参考に架橋剤としてロタキサンを用いた架橋ポリマーを合成したところ、機械的特性(特に、破断伸び、破断応力)のさらなる向上が望ましいことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、架橋剤として用いたときに優れた機械的特性(特に、破断伸び、破断応力)を示す架橋ポリマーが得られるロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋剤として上記ロタキサンを用いた架橋ポリマー、上記架橋ポリマーからなる高分子微粒子、及び、上記架橋ポリマーを用いて製造された高分子樹脂部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ロタキサンの軸分子を、連結基を介して結合された2以上のポリマー鎖とすることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 2以上の環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサンであって、
上記環状分子が、反応性官能基含有基を有し、
上記軸分子が、後述する式(1)で表される分子である、ロタキサン。
(2) 上記反応性官能基含有基の反応性官能基が、水酸基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)に記載のロタキサン。
(3) 上記ポリマー鎖が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(メタ)アクリレート、ポリイソプレン及びポリブタジエンからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)又は(2)に記載のロタキサン。
(4) 上記封止基が、tert-ブチル基、tert-ブチルフェニル基、ネオペンチル基、アダマンチル基、3,5-ジメチルフェニル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のロタキサン。
(5) 架橋剤である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のロタキサン。
(6) 上記(1)~(5)のいずれかに記載のロタキサンの製造方法であって、
上記ポリマー鎖をリビングラジカル重合によって得る、ロタキサンの製造方法。
(7) 架橋剤として上記(1)~(5)のいずれかに記載のロタキサンを用いた、架橋ポリマー。
(8) モノマーと上記(1)~(5)のいずれかに記載のロタキサンとの共重合体であり、
上記モノマーに対する上記ロタキサンの割合が、0.001~10モル%である、上記(7)に記載の架橋ポリマー。
(9) 上記(7)又は(8)に記載の架橋ポリマーからなる、高分子微粒子。
(10) 上記(7)又は(8)に記載の架橋ポリマーを用いて製造された、高分子樹脂部材。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、架橋剤として用いたときに優れた機械的特性(特に、破断伸び、破断応力)を示す架橋ポリマーが得られるロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋剤として上記ロタキサンを用いた架橋ポリマー、上記架橋ポリマーからなる高分子微粒子、及び、上記架橋ポリマーを用いて製造された高分子樹脂部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1-1のH NMRスペクトルである。
図2】2-1の前駆体(錯形成)のH NMRスペクトルである。
図3】2-1のH NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のロタキサン及びその製造方法、並びに、架橋剤として上記ロタキサンを用いた架橋ポリマー及び上記架橋ポリマーを用いて製造された高分子樹脂部材について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、各成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について量とは、特段の断りが無い限り、合計の量を指す。
また、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
また、本明細書において、「メチル基」を「Me」とも表す。
また、本明細書において、破断伸びが大きいことを破断伸びに優れるとも言い、破断応力が大きいことを破断応力に優れるとも言う。
また、本明細書において、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であっても、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、また、鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。
【0011】
[特定ロタキサン]
本発明のロタキサンは、2以上の環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサン(ポリロタキサン)であって、
上記環状分子が、反応性官能基含有基を有し、
上記軸分子が、後述する式(1)で表される分子である、ロタキサン(以下、「特定ロタキサン」とも言う)である。
【0012】
〔環状分子〕
上記環状分子は特に制限されないが、その具体例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記環状分子は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、1,2-ジヒドロキシプロピル基、シクロヘキシル基、ブチルカルバモイル基、ヘキシルカルバモイル基、フェニル基、ポリカプロラクトン基、アルコキシシラン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シンナモイル基、ポリマー鎖(ポリカプロラクトン基、ポリカーボネート基など)、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記環状分子は、本発明の効果がより優れる理由から、クラウンエーテル、又は、クラウンエーテルの誘導体であることが好ましい。
【0013】
<反応性官能基含有基>
上述のとおり、上記環状分子は、反応性官能基含有基を有する。
【0014】
上記反応性官能基含有基とは、反応性官能基、又は、反応性官能基を含有する基であり、-Z-P(ここで、Zは単結合又は2価の連結基を表し、Pは反応性官能基を表す)で表される基である。
【0015】
上記反応性官能基は架橋に寄与するものであれば特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、水酸基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
上記反応性官能基は、本発明の効果がより優れる理由から、重合性不飽和基であることが好ましい。
上記重合性不飽和基は特に制限されないが、その具体例としては、ビニル基、アクリル基(アクリロイル基)、メタクリル基(メタクリロイル基)、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0017】
上記-Z-P中のZが2価の連結基である場合の具体例としては、2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)、2価の芳香族炭化水素基、2価のヘテロ環基(特に芳香族複素環基)、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0018】
<環状分子の数>
特定ロタキサンが有する上記環状分子の数は、2以上であれば特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、2であることが好ましい。上記環状分子の上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0019】
〔軸分子〕
上記軸分子は、下記式(1)で表される分子である。
【0020】
【化1】
【0021】
式(1)中、Aは、ポリマー鎖を表す。複数存在するAは同一であっても異なっていてもよい。Xは、連結基を表す。Lは、単結合又は連結基を表す。複数存在するLは同一であっても異なっていてもよい。Yは、封止基を表す。複数存在するYは同一であっても異なっていてもよい。mは、1以上の整数を表す。mが2以上の整数である場合に複数存在するXは同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
<A>
上述のとおり、式(1)中、Aは、ポリマー鎖を表す。
上記ポリマー鎖は特に制限されないが、その具体例として、ポリアルキレンオキシド、ポリ(メタ)アクリレート、ジエン系重合体等が挙げられる。
上記ポリマー鎖は、本発明の効果がより優れる理由から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(メタ)アクリレート、ポリイソプレン及びポリブタジエンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
上記ポリマー鎖の数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、300~1,000,000であることが好ましく、400~10,000であることがより好ましく、500~1,000であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
【0024】
上記ポリマー鎖の重合度は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、3~10,000であることが好ましく、4~1,000であることがより好ましく、5~10であることがさらに好ましい。
【0025】
複数存在するAは同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
<X>
上述のとおり、式(1)中、Xは、連結基を表す。
上記連結基の具体例としては、2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)、2価の芳香族炭化水素基、2価のヘテロ環基(特に芳香族複素環基)、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0027】
式(1)中のmが2以上の整数である場合に複数存在するXは同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
<L>
上述のとおり、式(1)中、Lは、単結合又は連結基を表す。
上記Lが2価の連結基である場合の具体例としては、2価の脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)、2価の芳香族炭化水素基、2価のヘテロ環基(特に芳香族複素環基)、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-(R:水素原子又は置換基)、-CO-、-COO-、-CONR-(R:水素原子又は置換基)、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0029】
複数存在するLは同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
<Y>
上述のとおり、式(1)中、Yは、封止基を表す。
上記封止基は、環状分子が軸分子から脱離するのを防止するための嵩高い基であれば特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、tert-ブチル基、tert-ブチルフェニル基、ネオペンチル基、アダマンチル基、3,5-ジメチルフェニル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、3,5-ジメチルフェニル基であることがより好ましい。
【0031】
<m>
上述のとおり、式(1)中、mは、1以上の整数を表す。
上記mは、本発明の効果がより優れる理由から、1であることが好ましい。
上記mの上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100以下の整数であることが好ましく、10以下の整数であることがより好ましく、5以下の整数であることがさらに好ましく、3以下の整数であることが特に好ましい。
【0032】
〔製造方法〕
特定ロタキサンを製造する方法は特に制限されず、公知の方法を組み合わせた方法等が挙げられる。
特定ロタキサンを製造する方法は、得られる特定ロタキサンについて本発明の効果がより優れる理由から、軸分子の合成において、式(1)中のAで表されるポリマー鎖をリビング重合によって得る方法が好ましい。なお、以下、「得られる特定ロタキサンについて本発明の効果がより優れる」ことを、単に、「本発明の効果がより優れる」とも言う。
上記リビング重合としては、例えば、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、リビングラジカル重合等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、リビングラジカル重合であることが好ましい。
上記リビングラジカル重合としては、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加-開裂連鎖移動重合(RAFT)、ニトロキシドを介した重合(NMP)等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、原子移動ラジカル重合であることが好ましい。
【0033】
[架橋ポリマー]
本発明の架橋ポリマー(以下、「本発明のポリマー」とも言う)は、架橋剤として上述した特定ロタキサンを用いた架橋ポリマーである。
【0034】
〔好適な態様〕
本発明のポリマーは、本発明の効果がより優れる理由から、モノマーと特定ロタキサンとの共重合体であることが好ましい。
【0035】
<モノマー>
上記モノマーは、少なくとも一部のモノマーが上述した特定ポリシロキサンの反応性官能基と反応するものであれば特に制限されない。
上記モノマーは、本発明の効果がより優れる理由から、(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0036】
((メタ)アクリレート)
上記(メタ)アクリレートは特に制限されず、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシノニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ジシクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-モルホリノエチル(メタ)アクリレート、9-アントリル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トランス-1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
上記(メタ)アクリレートは、本発明の効果がより優れる理由から、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1~10のアルコールとのエステルであることが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1~5のアルコールとのエステルであることがより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1~3のアルコールとのエステルであることがより好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリレートとして1種を用いても2種以上を併用してもよいが、上記(メタ)アクリレートは、本発明の効果がより優れる理由から、少なくともメトキシエチル(メタ)アクリレートを含むのが好ましい。
【0039】
(その他のモノマー)
上記(メタ)アクリレート以外のモノマーを使用しても構わないが、全モノマー((メタ)アクリレート、その他のモノマー)に対する(メタ)アクリレートの割合は、本発明の効果がより優れる理由から、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。全モノマーに対する(メタ)アクリレートの割合の上限は特に制限されず、100モル%である。
【0040】
<特定ロタキサン/モノマー>
上述したモノマーに対する上述した特定ロタキサンの割合は、本発明の効果がより優れる理由から、0.001~10モル%であることが好ましく、0.01~1モル%であることがより好ましい。
【0041】
[高分子微粒子]
本発明の高分子微粒子は、上述した本発明のポリマーからなる高分子微粒子である。
【0042】
〔調和平均径〕
本発明の高分子微粒子の調和平均径は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、2000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。上記調和平均径の下限も特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
なお、上記調和平均径は、粒子径測定機(マルバーン社製ゼータサイザーナノS)を用いてキュムラント法によって測定されたDMF(ジメチルホルムアミド)中の調和平均径である。
【0043】
〔膨潤度〕
本発明の高分子微粒子の膨潤度は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、10以上であることが好ましく、18以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。上記膨潤度の上限は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100以下であることが好ましい。
なお、上記膨潤度は、下記式によって表されるパラメータである。
膨潤度=(D(DMF))/(D(水))
ここで、D(DMF)は、上述したDMF中の調和平均径を表す。また、D(水)は水中の調和平均径を表し、その測定方法は、DMFの代わりに水を用いる点以外上述したDMF中の調和平均径と同じである。
【0044】
〔用途〕
本発明の高分子微粒子は、例えば、ゴム組成物、接着剤組成物及び塗料組成物などにおける添加剤として有用である。
【0045】
[高分子樹脂部材]
本発明の高分子樹脂部材は、上述した本発明の架橋ポリマーを用いて製造された高分子樹脂部材(例えば、フィルム)である。
【実施例0046】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[ロタキサンの合成]
以下のとおり、ロタキサン(2-2)を合成した。
【0048】
〔1-3の合成〕
下記Scheme 1に従って、pMA(1-3)を合成した。
【0049】
<1-1の合成>
まず、臭化銅(0.17g,1.2mmol)を入れた二口フラスコをAr置換し、そこにアクリル酸メチル(4.3mL,48mmol)、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(0.25mL,1.2mmol)、2-ブロモイソ酪酸2-ヒドロキシエチル(0.70mL,4.8mmol)の順で入れ、80℃で3時間攪拌した。室温まで降温し、反応溶液をジクロロメタンで希釈した後、アルミナカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により銅触媒を取り除き、溶液を濃縮した(粗収量5.3g)。その後、ヘキサンで再沈殿を行うことで無色透明の粘性液体を収率89%(4.6g)で得た(1-1)。H NMR法(核磁気共鳴法)により分子量を約800と決定した(図1H NMRスペクトル)。
【0050】
<1-2の合成>
次に、得られた1-1(2.4g,3.0mmol)を入れた二口フラスコをAr置換し、脱水ジクロロメタン(30mL)に溶解させ、イソシアン酸3,5-ジメチルフェニル(0.63mL,4.5mmol)、ジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL)(0.18mL,0.30mmol)の順で入れ、室温で23時間攪拌した。反応溶液を濃縮し、メタノールを加え、ヘキサンで再沈殿を行い、白色固体を吸引ろ過により取り除いた。その後、複数回のろ過により、白色固体を完全に取り除き、無色透明の粘性液体を収率83%(2.4g)で得た(1-2)。
【0051】
<1-3の合成>
得られた1-2(2.4g,2.5mmol)と、アジ化ナトリウム(0.79g,12mmol)を入れた二口フラスコをAr置換し、そこにN,N-ジメチルホルムアミド(dry DMF)(30mL)を加え溶解させ、室温で24時間攪拌した。反応溶液に多量の水を加え、ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後ろ液を濃縮した。その後、ヘキサンで再沈殿を行うことにより、無色透明の粘性液体を収率95%(2.2g)で得た(1-3)。
【0052】
【化2】
【0053】
〔2-2の合成〕
次に、下記Scheme 2に従って、2-2を合成した。
【0054】
<2-1の合成>
まず、軸成分(後述する式(X1)で表される基となる成分)(240mg,0.35mmol)と後述のとおり合成した環状分子(636mg,1.0mmol)を入れたナスフラスコに、ジクロロメタン(3.0mL)を加え、超音波照射を行った(錯形成)(図2H NMRスペクトル)。そこに、ジクロロメタン(3.0mL)に溶かした、pMA(1-3)(1.2mg,1.3mmol)と、[Cu(CHCN)]PF(239mg,0.64mmol)を加え、40℃で、40時間攪拌した。反応溶液をジエチルエーテルで再沈殿させ、不溶部(銅触媒含む)と可溶部を分け、可溶部を濃縮し(0.32g)、そのH NMRスペクトルから、軸成分と環状分子の混合物であると判断した。10%塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加え、30分間攪拌し、その後分液操作を行い、有機層を乾燥させ、濃縮することで、無色の粘性液体を得た。その後、2回の分取GPC法により、粘性液体を回収し、真空乾燥させることにより、透明性のある薄黄色固体を390mg(収率30%)得た(2-1)(図3H NMRスペクトル)。
【0055】
(環状分子の合成)
ヒドロキシメチルジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(1.9g)の塩化メチレン(45mL)溶液に2-イソシアナートエチルメタクリレート(1.4mL)とジブチル錫ジラウレート(0.2mL)を0℃で加えて、室温で48時間攪拌した。得られた混合物を10mLに濃縮し、ヘキサン中に投入し沈殿物を得た。その沈殿物を酢酸エチル/ヘキサン混合溶液(2/3)に溶解させ、シリカカラムで生成した。目的の環状分子を2.5g得た。
【0056】
<2-2の合成>
次に、2-1(114mg,0.03mmol)を入れた二口フラスコをAr置換し、そこに、脱水テトラヒドロフラン(dry THF)(0.3mL)、無水酢酸(0.14mL,1.5mmol)、トリエチルアミン(TEA)(0.34mL,2.4mmol)を加え、40℃で、2日間攪拌した。反応溶液を濃縮し、酢酸エチルに溶解させ、洗浄(飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、brine)し、有機層を乾燥させ、濃縮することで、褐色の粘性液体を得た。その後、分取GPC法により、精製し、真空乾燥させることにより、粘性液体を収率87%(100mg,0.026mmol)で得た(2-2)。得られたロタキサン(2-2)を「RC」とも言う。
【0057】
【化3】
【0058】
RCは、2つの環状分子(クラウンエーテルの誘導体)と上記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサンであって、
上記環状分子が、メタクリロイル基(反応性官能基)を含有する基(反応性官能基含有基)を有し、
上記軸分子が上述した式(1)で表される分子(ただし、式(1)中、mは1であり、2つのAはいずれもポリアクリル酸メチル(ポリマー鎖)であり、Xは下記式(X1)で表される基(式(X1)中、*は結合位置を表す)(連結基)であり、2つのLはいずれも下記式(L1)で表される基(式(L1)中、*1はYとの結合位置を表し、*2はAとの結合位置を表す)(連結基)であり、2つのYはいずれも3,5-ジメチルフェニル基(封止基)である)であるロタキサンであるため、上述した特定ロタキサンに該当する。
【0059】
【化4】
【0060】
【化5】
【0061】
[高分子微粒子の合成]
下記表1に記載の割合[モル比]のモノマー及び架橋剤の混合溶液(水:36g、界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム):0.1g、ハイドロホーブ(ヘキサデカン):0.46g、総モノマー濃度:1600mM)を、超音波ホモジナイザーで超音波照射(375W、3分)してエマルジョン化した後、得られたエマルジョンに開始剤(過硫酸カリウム)(0.1g)を加えて、70℃で4時間重合反応させ(撹拌速度:200rpm(rotations per minute)、各高分子微粒子を得た。各高分子微粒子は、表1に記載の架橋剤を用いた架橋ポリマーからなる高分子微粒子である。
各高分子微粒子のD(水)及びD(DMF)を表1に示す。D(水)及びD(DMF)の測定方法は上述のとおりである。
【0062】
〔モノマー〕
下記表1中のモノマーの略称は以下のとおりである。
・EA:アクリル酸エチル
・MEA:2-メトキシエチルアクリレート
・MMA:メタクリル酸メチル
【0063】
〔架橋剤〕
下記表1中の架橋剤の略称は以下のとおりである。
・RC:上述のとおり合成したRC
・HDD:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(化学架橋剤)
・比較RC:ASM社製SM2450P-20(複数の環状分子と上記環状分子を貫通する軸分子とを有するロタキサンであって、上記環状分子が、メタクリロイル基を含有する基(反応性官能基含有基)を有し、上記軸分子が、上述した式(1)で表される分子以外の分子(Y-L-A-L-Yで表される分子、A:ポリマー鎖、L:単結合又は連結基、Y:封止基、分子量:2万)であるロタキサン)
【0064】
[評価]
得られた各高分子微粒子の分散液(5質量%、7mL)(遠心精製、透析済)を用いて5cm四方のフィルム(厚み:約0.4mm)を作製した。得られたフィルムから1cm×4cmのフィルムを4枚切り出して、長手方向中央にダイヤモンドカッターを使用して2mmの切り込みを入れた。このようにして、引張試験用の試験片を作製した。
得られた試験片について、テンシロン引張試験機を用いて引張試験(ロードセル:50N、伸長速度:10mm/分、試験温度:25℃)を行い、破断伸び及び破断応力を評価した。結果を表1に示す。破断伸び及び破断応力共に大きい方が好ましい。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から分かるように、比較例1~3と実施例2との対比(架橋剤の種類のみが異なる態様同士の対比)から、架橋剤として特定ロタキサン以外の架橋剤を用いた高分子微粒子である比較例1~3と比較して、架橋剤として特定ロタキサンを用いた高分子微粒子である実施例2は、優れた破断伸び及び破断応力を示した。同様に、比較例4~6と実施例5との対比(架橋剤の種類のみが異なる態様同士の対比)から、架橋剤として特定ロタキサン以外の架橋剤を用いた高分子微粒子である比較例4~6と比較して、架橋剤として特定ロタキサンを用いた高分子微粒子である実施例5は、優れた破断伸び及び破断応力を示した。架橋剤として特定ロタキサン以外の架橋剤を用いた高分子微粒子である比較例7~9と比較して、架橋剤として特定ロタキサンを用いた高分子微粒子である実施例8は、優れた破断伸び及び破断応力を示した。
実施例1~3の対比(架橋剤のモル比のみが異なる態様同士の対比)から、モノマーに対する特定ロタキサンの割合が0.07~0.17モル%である実施例2は、より優れた破断伸び及び破断応力を示した。同様に、実施例4~6の対比(架橋剤のモル比のみが異なる態様同士の対比)から、モノマーに対する特定ロタキサンの割合が0.07~0.17モル%である実施例5は、より優れた破断伸び及び破断応力を示した。同様に、実施例7~9の対比(架橋剤のモル比のみが異なる態様同士の対比)から、モノマーに対する特定ロタキサンの割合が0.07~0.17モル%である実施例8は、より優れた破断伸び及び破断応力を示した。
図1
図2
図3