(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124231
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20230830BHJP
H03H 9/58 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H03H9/17 G
H03H9/58 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027876
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA01
5J108AA07
5J108BB03
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD06
5J108EE03
5J108FF02
(57)【要約】
【課題】不要波を抑制することができる弾性波デバイス。
【解決手段】弾性波デバイスは、回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、第1厚さTbを有する第1圧電層14bと、回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、第1圧電層14bに積層され、第1厚さTbより小さい第2厚さTaを有し、第1圧電層14bの自発分極の方向と略反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層14aと、第1圧電層14bの第2圧電層14aに対し反対の面に設けられた第1電極と、第2圧電層14aの第1圧電層14bに対し反対の面に設けられ、第1電極とで第1圧電層14bの少なくとも一部および第2圧電層14aの少なくとも一部を挟む第2電極とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、第1厚さを有する第1圧電層と、
回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、前記第1圧電層に積層され、前記第1厚さより小さい第2厚さを有し、前記第1圧電層の自発分極の方向と略反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、
前記第1圧電層の前記第2圧電層に対し反対の面に設けられた第1電極と、
前記第2圧電層の前記第1圧電層に対し反対の面に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、
前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、
前記第2厚さは前記第1厚さの0.5倍以上である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第2厚さは前記第1厚さの0.56倍以上かつ0.92倍以下である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第2厚さは前記第1厚さの0.68倍以上かつ0.78倍以下である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1圧電層における回転Yカットタンタル酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、前記第1圧電層における回転Yカットニオブ酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下である請求項2から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1圧電層と前記第2圧電層とは直接接合されている請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
支持基板を備え、
前記第1圧電層は前記支持基板と前記第2圧電層との間に設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
支持基板を備え、
前記第2圧電層は前記支持基板と前記第1圧電層との間に設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば、共振器を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)およびSMR(Solid Mounted Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器が用いられている。BAW共振器は圧電薄膜共振器とよばれている。圧電薄膜共振器は、圧電層を挟み一対の電極を設ける構造を有し、圧電層の少なくとも一部を挟み一対の電極が対向する共振領域は弾性波が共振する領域である。圧電層として、自発分極が反対方向である2つの圧電層を積層することが知られている(例えば特許文献1~5)。積層する2つの圧電層を単結晶ニオブ酸リチウム基板と単結晶タンタル酸リチウム基板とすることが知られている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64-71207号公報
【特許文献2】特開昭49-25883号公報
【特許文献3】特開平3-123214号公報
【特許文献4】特開平10-51262号公報
【特許文献5】特開平7-254836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自発分極の方向が互いに逆方向の圧電層を積層することで、第2高調波の弾性波を励振させることができる。第2高調波の弾性波を主モードとして用いる場合、基本波は不要波となる。積層された圧電層の一方を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とし、他方を回転Yカットタンタル酸リチウム基板とする場合、不要波である基本波の励振を抑制することが求められる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、不要波を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、第1厚さを有する第1圧電層と、回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、前記第1圧電層に積層され、前記第1厚さより小さい第2厚さを有し、前記第1圧電層の自発分極の方向と略反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、前記第1圧電層の前記第2圧電層に対し反対の面に設けられた第1電極と、前記第2圧電層の前記第1圧電層に対し反対の面に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第1圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、前記第2厚さは前記第1厚さの0.5倍以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第2厚さは前記第1厚さの0.56倍以上かつ0.92倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2厚さは前記第1厚さの0.68倍以上かつ0.78倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1圧電層における回転Yカットタンタル酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、前記第1圧電層における回転Yカットニオブ酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1圧電層と前記第2圧電層とは直接接合されている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、支持基板を備え、前記第1圧電層は前記支持基板と前記第2圧電層との間に設けられている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、支持基板を備え、前記第2圧電層は前記支持基板と前記第1圧電層との間に設けられている構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電気機械結合係数を調整可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、比較例1および実施例1における圧電薄膜共振器の動作を説明する図である。
【
図3】
図3は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例2における周波数に対する|Y|を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1における周波数に対する|Y|を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、Ta/Tbに対する基本波のk
2を示す図、
図6(b)は、Ta/Tbに対する基本波のΔk
2を示す図である。
【
図7】
図7は、Ta/Tbに対する基本波のk
2を示す図である。
【
図8】
図8は、Ta/Tbに対するk
2およびk
2/k
2(Ta/Tb=1)を示す図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、θに対するTa/Tbを示す図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図11】
図11は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図12】
図12(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図12(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0019】
弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。圧電層14aおよび14bの積層方向をZ方向、下部電極12の引き出し方向をX方向、X方向およびZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に圧電層14が設けられている。圧電層14は、積層された圧電層14aおよび14bを備える。圧電層14aおよび14bの厚さはそれぞれTaおよびTbである。圧電層14の厚さはTである。圧電層14aは回転Yカットニオブ酸リチウム(LiNbO
3)基板であり、圧電層14bは回転Yカットタンタル酸リチウム(LiTaO
3)基板である。圧電層14aの分極方向52aは下向きである。圧電層14bの分極方向52bは上向きであり、圧電層14aと14bとは例えば表面活性化法により直接接合されている。圧電層14aと14bとが表面活性化法により接合されている場合、圧電層14aと14bとの間にアモルファス層が形成される場合がある。この場合、アモルファス層の厚さは圧電層14aおよび14bの厚さに比べ十分小さいため、圧電層14aと14bとは直接接合されているとみなせる。
【0021】
圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12がそれぞれ設けられている。圧電層14aの少なくとも一部および圧電層14bの少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域は共振領域50である。基板10と下部電極12との間に空隙34が設けられている。下部電極12と空隙34との界面において弾性波が反射する。平面視において、空隙34は共振領域50に重なり、空隙34は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。
【0022】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの膜を積層した積層膜である。
【0023】
図2(a)および
図2(b)は、比較例1および実施例1における圧電薄膜共振器の動作を説明する図である。
図2(a)および
図2(b)では、下部電極12、圧電層14および上部電極16を示す。右側の図は、Z方向の位置に対する弾性波の変位を示す図である。なお、
図2(b)において、説明を簡単にするため厚さTaとTbとを同じとして図示している。
【0024】
図2(a)に示すように、比較例1では、圧電層14は分極方向52が1方向の1つの圧電層である。この場合、右図のように、基本波では圧電層14の上面の変位が0のとき、圧電層14の下面の変位がEとなる。これにより、基本波では、下部電極12と上部電極16との電位が異なり、下部電極12と上部電極16との間に所定の周波数の交流信号を加えると圧電層14に基本波が励振する。一方、第2高調波では下部電極12と上部電極16との電位がほぼ同じとなる。よって、圧電層14に第2高調波はほとんど励振されない。圧電層14の厚さTは基本波の波長のほぼ1/2となる。共振周波数の高い圧電薄膜共振器を作製するためには、圧電層14の厚さTを薄くすることになる。しかし、圧電層14と支持基板との間に空隙34が存在するため、圧電層14を薄くすると、圧電層14が破壊されやすくなる。また、圧電層14の厚さTの製造ばらつきにより、共振周波数等の特性がばらつきやすくなる。
【0025】
図2(b)に示すように、実施例1では、圧電層14aの分極方向52aは下向き、圧電層14bの分極方向52bは上向きである。右図のように、第2高調波では圧電層14の上面の変位が0のとき、圧電層14の下面の変位が0である。圧電層14のZ方向のほぼ中央付近の変位はEである。圧電層14aの分極方向52aと圧電層14bの分極方向52bとは逆方向のため、第2高調波では下部電極12と上部電極16との電位が異なる、下部電極12と上部電極16との間に所定の周波数の交流信号を加えると第2高調波が励振する。一方、基本波では下部電極12と上部電極16との電位がほぼ同じとなる。よって、圧電層14に基本波はほとんど励振されない。厚さTはほぼ第2高調波の波長となる。このため、同じ共振周波数を有する圧電薄膜共振器を作製する場合に、実施例1では、比較例1に対し、圧電層14の厚さTを約2倍にできる。これにより、圧電層14の破損を抑制できる。また、共振周波数等の特性のばらつきを抑制できる。
【0026】
圧電層14aおよび14bに回転カット角が163°のタンタル酸リチウム基板また回転カット角が163°のニオブ酸リチウム基板を用いると、圧電層14に厚みすべり振動が励起される。厚みすべりの振動方向はY方向となる。また、圧電層14には厚み縦振動はほとんど励振されない。このことから、厚みすべり振動を主モードとする場合、回転カット角が163°とすることが好ましい。
【0027】
圧電層14aと14bを同じ材料とする場合、圧電特性は材料により決まってしまう。そこで、圧電層14aをタンタル酸リチウム基板とし、圧電層14bをニオブ酸リチウム基板とすることで、電気機械結合係数k2等の圧電特性を、圧電層14aと14bをタンタル酸リチウム基板とした場合の圧電特性と、圧電層14aと14bをニオブ酸リチウム基板とした場合の圧電特性と、の間にすることができる。
【0028】
図3は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す図である。なお、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は結晶方位の軸方向であり、X方向、Y方向およびZ方向は、
図1(a)および
図1(b)に示した方向である。圧電層14aとして、163°回転Yカットニオブ酸リチウム基板を用い、圧電層14bとして、163°回転Yカットタンタル酸リチウム基板を用いている。
【0029】
図3に示すように、圧電層14aの結晶方位の+X軸方向と圧電層14bの結晶方位の+X軸方向とはほぼ同じ方向であり、X方向である。圧電層14aでは、+Y軸方向および+Z軸方向を破線矢印のように、それぞれ-Z方向および+Y方向とする。X軸を中心に、Y軸およびZ軸を+Z軸方向から+Y軸方向の方にθ=163°回転させる。タンタル酸リチウム基板およびニオブ酸リチウム基板は、三方晶系イルメナイトに類似の結晶構造を有し、+Z軸方向が結晶方位のc軸方向に対応する。+Z軸方向が自発分極の方向となる。このとき、圧電層14aの上面および下面はそれぞれ-面および+面と称し、分極方向52aを下向きに図示する。
【0030】
圧電層14bでは、+Y軸方向および+Z軸方向を破線矢印のように、それぞれ+Z方向および-Y方向とする。X軸を中心に、Y軸およびZ軸を+Z軸方向から+Y軸方向の方にθ=163°回転させる。このときの+Z軸方向が結晶方位のc軸方向に対応する。+Z軸方向が自発分極の方向となる。このとき、圧電層14bの上面および下面はそれぞれ+面および-面と称し、分極方向52bを上向きに図示する。圧電層14aおよび14bの自発分極の方向は、X線回折法を用い、Z軸方向を同定することで、確認できる。
【0031】
自発分極は電界が加わらない状態で分極している状態である。タンタル酸リチウムは、LiおよびTaが陽イオンとなり、Oが陰イオンとなる。Li、TaおよびOの原子が電荷を打ち消すように位置していれば、自発分極は生じない。これらの原子が電荷を打ち消す位置よりずれているため、自発分極が生じる。ニオブ酸リチウムにおいても同様に自発分極が生じる。
【0032】
圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bの+X軸方向とを略同じ方向とすることで、圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸方向)は、略反対方向となる。例えば、圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bのX軸方向とが異なると、圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸方向)は、反対方向とはならない。圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸の方向)とが略反対方向とは、圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bの+X軸方向とのなす角度が5°以下の範囲内である程度を許容する。
【0033】
[シミュレーション]
圧電薄膜共振器の周波数特性を有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
圧電層14の厚さT:300nm
下部電極12:厚さが30nmのアルミニウム膜
上部電極16:厚さが30nmのアルミニウム膜
圧電層14bの厚さTbに対する圧電層14aの厚さTaをTa/Tbとした。Ta/Tb=1のとき、圧電層14aおよび14bの厚さTaおよびTbはいずれも150nmである。
【0034】
比較例2として、圧電層14aおよび14bをともに163°回転Yカットニオブ酸リチウム基板を用いた場合における周波数特性をシミュレーションした。圧電層14aと圧電層14bとは、分極方向が互いに反対方向となるように接合されている。
図4は、比較例2における周波数に対する|Y|を示す図である。|Y|はアドミッタンスの絶対値である。
図4に示すように、Ta/Tb=1のとき、第2高調波による弾性波の応答として、共振周波数fr2および反共振周波数fa2が観察される。基本波の応答は観測されない。Ta/Tb=0.9048のとき、第2高調波による弾性波の応答として、共振周波数fr2および反共振周波数fa2が観察され、かつ基本波の弾性波の応答として、共振周波数fr1および反共振周波数fa1が観察される。
【0035】
比較例2のように、圧電層14aと14bとを同じ材料とした場合、Ta/Tb=1とすることで、不要波である基本波はほとんど励振されない。一方、Ta/Tbを1から異ならせると、不要波である基本波が励振される。
【0036】
実施例1として、圧電層14aに163°回転Yカットニオブ酸リチウム基板を用い、圧電層14bに163°回転Yカットタンタル酸リチウム基板を用いた場合における周波数特性をシミュレーションした。圧電層14aと圧電層14bとは、分極方向が互いに反対方向となるように接合されている。
図5は、実施例1における周波数に対する|Y|を示す図である。|Y|はアドミッタンスの絶対値である。
図5に示すように、Ta/Tb=1のとき、第2高調波による弾性波の応答として、共振周波数fr2および反共振周波数fa2が観察されかつ基本波の弾性波の応答として、共振周波数fr1および反共振周波数fa1が観察される。Ta/Tb=0.7178のとき、第2高調波による弾性波の応答として、共振周波数fr2および反共振周波数fa2が観察され、基本波の応答は観測されない。
【0037】
このように、圧電層14aに回転Yカットニオブ酸リチウム基板を用い、圧電層14bに回転Yカットタンタル酸リチウム基板を用いた場合、厚さTaを厚さTbより小さくすることで基本波を抑制することができる。そこで、Ta/Tbを変え、基本波の電気機械結合係数k2をシミュレーションした。
【0038】
図6(a)は、Ta/Tbに対する基本波のk
2を示す図、
図6(b)は、Ta/Tbに対する基本波のΔk
2を示す図である。
図6(a)において、黒丸はシミュレーションした点を示し、曲線は黒丸をつなぐ線である。
図6(b)において、Δk
2は、Ta/Tbに対するk
2の変化率であり、
図6(a)の隣接する黒丸間の傾きに相当する。
【0039】
図6(a)および
図6(b)に示すように、基本波の電気機械結合係数k
2はTa/Tbが0.70~0.75において0.06程度となる。Ta/Tbが0.7以下ではTa/Tbが小さくなるとk
2が大きくなり、Ta/Tbが0.75以上ではTa/Tbが大きくなるとk
2が大きくなる。
【0040】
θを158°、163°および168°に設定し、Ta/Tbを変え、基本波のk
2をシミュレーションした。
図7は、Ta/Tbに対する基本波のk
2を示す図である。
図7に示すように、θが158°、163°および168°のいずれにおいても基本波のk
2は0.70~0.75において最小となる。範囲R1~R3は、θがそれぞれ158°、163°および168°のときに、基本波のk
2がTa/Tb=1のときのk
2(Ta/Tb=1)より小さくなる範囲である。Ta/Tbが範囲R1~R3内であれば、基本波のk
2は、Ta/Tb=1のときのk
2(Ta/Tb=1)以下となる。
【0041】
図8は、Ta/Tbに対するk
2およびk
2/k
2(Ta/Tb=1)を示す図である。θが158°、163°および168°において、k
2/k
2(Ta/Tb=1)が1.0、0.8、0.6、0.5、0.4および0.2となるTa/Tbと、k
2が0.1%となるTa/Tbを示している。
【0042】
図9(a)および
図9(b)は、θに対するTa/Tbを示す図である。
図9(a)は、k
2/k
2(Ta/Tb=1)が0.5より小さくなるTa/Tbの範囲を示し、
図9(b)は、基本波のk
2が0.1%以下となる範囲を示している。
図9(a)および
図9(b)において、黒丸はシミュレーション点を示し、直線は黒丸の近似直線、ハッチは直線間の範囲を示している。
【0043】
図9(a)および
図9(b)に示すように、k
2/k
2(Ta/Tb=1)が0.5より小さくなるTa/Tbの範囲、および基本波のk
2が0.1%以下となるTa/Tbの範囲は、θにあまり依存しない。
【0044】
実施例1によれば、
図1(a)および
図1(b)のように、圧電層14b(第1圧電層)と圧電層14a(第2圧電層)は積層されている。圧電層14bは、回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、厚さTb(第1厚さ)を有する。圧電層14aは、回転Yカットニオブ酸リチウム基板であり、厚さTa(第2厚さ)を有し、圧電層14bの自発分極の方向と略反対方向の自発分極の方向を有する。下部電極12(第1電極)は、圧電層14bの圧電層14aに対し反対の面に設けられている。上部電極16(第2電極)は、圧電層14aの圧電層14bに対し反対の面に設けられ、下部電極12とで圧電層14bの少なくとも一部および圧電層14aの少なくとも一部を挟む。このような構造において、厚さTaを厚さTbより小さくする。これにより、基本波のk
2を小さくすることができ、不要波を抑制できる。なお、圧電層14aと14bとの自発分極の方向が略反対方向とは、基本波を抑制できる程度に反対方向であればよい。圧電層14aと14bとの自発分極の方向のなす角度は、175°以上かつ185°以下であることが好ましく、177°以上かつ183°以下であることがより好ましく、178°以上かつ182°以下であることがさらに好ましい。
【0045】
図8から
図9(b)より、基本波の大きさはθにあまり依存しない。このことから、圧電層14bは、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板であり、圧電層14aは、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板であれば、
図8から
図9(b)と同様の結果が得られると考えられる。
図8より、厚さTaは厚さTbの0.5倍以上であれば、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を1より小さくできる。厚みすべり振動の弾性波を励振させ、厚み縦振動の弾性波を励振させないため、圧電層14bおよび14aのθは、160°以上かつ166°以下が好ましく、161°以上かつ165°以下がより好ましい。
【0046】
図8より、Ta/Tbが0.52以上かつ0.97以下のとき、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を0.8以下にできる。Ta/Tbが0.55以上かつ0.94以下のとき、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を0.6以下にできる。Ta/Tbが0.56以上かつ0.92以下のとき、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を0.5以下にできる。Ta/Tbが0.58以上かつ0.90以下のとき、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を0.4以下にできる。Ta/Tbが0.62以上かつ0.85以下のとき、k
2/k
2(Ta/Tb=1)を0.2以下にできる。Ta/Tbが0.68以上かつ0.78以下のとき、k
2を0.1%以下にできる。
【0047】
圧電層14aの自発分極の方向と圧電層14bの自発分極の方向とを略反対方向とするため、圧電層14aにおけるタンタル酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、圧電層14bにおけるニオブ酸リチウム基板の結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下であることが好ましく、2°以下であることがより好ましい。
【0048】
圧電層14aと14bとは直接接合され、圧電層14aと14bとの界面は平坦面(例えば算術表面粗さRaは10nm以下)である。これにより、圧電層14に第2高調波が励振できる。
【0049】
[実施例1の変形例1]
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)に示すように、実施例1の変形例1では、圧電層14aの分極方向52aが上方向であり、圧電層14bの分極方向52bが下方向である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0050】
[実施例1の変形例2]
図10(b)に示すように、実施例1の変形例2では、圧電層14aの上面と圧電層14bの下面が接合されており、圧電層14aの下面に下部電極12が設けられ、圧電層14bの上面に上部電極16が設けられている。圧電層14aの分極方向52aは上方向であり、圧電層14bの分極方向52bは下方向である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0051】
[実施例1の変形例3]
図10(c)に示すように、実施例1の変形例3では、圧電層14aの分極方向52aは下方向であり、圧電層14bの分極方向52bは上方向である。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0052】
実施例1およびその変形例1のように、圧電層14bは基板10(支持基板)と圧電層14aとの間に設けられていてもよい。実施例1の変形例2および3のように、圧電層14aは基板10と圧電層14bとの間に設けられていてもよい。基本波を抑制するTa/Tbは、基本波が励振したときに、自発分極によって発生する電荷量で決まる。このため、上記シミュレーションによって得られたTa/Tbの好ましい範囲は、実施例1の変形例1から3にも適用できる。また、好ましいTa/Tbの範囲は、圧電薄膜共振器の共振周波数等の周波数、下部電極12および上部電極16の材料、並びに圧電層14a、14b、下部電極12および上部電極16に依存せず適用できる。
【0053】
[実施例1の変形例4]
図11は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11に示すように、実施例1の変形例4では、空隙34の代わりに、基板10と下部電極12との間に音響反射膜30が設けられている。音響反射膜30は、音響インピーダンスの低い膜31と音響インピーダンスの高い膜32とが交互に設けられている。膜31および32の膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜30は弾性波を反射する。膜31と膜32の積層数は任意に設定できる。音響反射膜30は共振領域50に重なり、音響反射膜30は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。音響反射膜30の膜31は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン等である。膜32は、例えばタングステン、タンタル、モリブデン、ルテニウム等である。
【0054】
実施例1およびその変形例1から3のように、圧電薄膜共振器は、空隙34が弾性波を反射するFBARでもよい。実施例1の変形例4のように、圧電薄膜共振器は音響反射膜30が弾性波を反射するSMRでもよい。共振領域50の平面形状が矩形の例を説明したが、共振領域50は、楕円形状または五角形状等の多角形状でもよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。