(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124276
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F01B 1/01 20060101AFI20230830BHJP
F01B 9/02 20060101ALI20230830BHJP
F02B 75/04 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
F01B1/01
F01B9/02
F02B75/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027947
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】592173434
【氏名又は名称】株式会社日本ビデオセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 忠美
(57)【要約】
【課題】コンロッド又はクランクアームの長さに制限されずボアとストロークを自在に設計することができるエンジンを提供する。
【解決手段】ピストンヘッド12を左右両端面に備えた略円柱体状のピストン11と、当該ピストンの周壁部中心に前記ピストンの径方向に沿って形成された所定の内径を有する貫通孔14の内壁に沿って形成された内歯車14aと、当該内歯車と噛合する歯車15と、当該歯車を軸支するクランクピン17を先端に有し、基端にクランク軸19を有する略棒体状のクランクアーム18と、前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローター16と、前記ピストンが挿嵌される円筒形状のシリンダー20aを備え、前記ピストンヘッドが対向する燃焼室21を前記シリンダー両端に連接してなるシリンダーケース20と、から構成されたエンジン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両端面にそれぞれピストンヘッドを備えた略円柱体状のピストンと、
当該ピストンの周壁部中心に、前記ピストンの径方向に沿って形成された所定の内径を有する貫通孔と、
当該貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記ピストンが挿嵌される円筒形状のシリンダーを備え、前記ピストンヘッドがそれぞれ対向する燃焼室を前記シリンダー両端にそれぞれ連接してなるシリンダーケースと、から構成され、
当該シリンダー内を、前記ピストンが左右方向へ往復運動するとき、
前記ピストンに従動して往復運動する前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記ピストンの直径を、左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの径に対して、前記周壁部中心近傍の径を細く形成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記ピストンの直径を、左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの径に対して、前記周壁部中心近傍の径を太く、又は当該ピストンスカートの反ピストンヘッド側から前記周壁部中心に向かって漸増させて当該周壁部中心近傍を略球体状に形成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの反ピストンヘッド側を切り欠いて、
前記ピストンの前記周壁部中心近傍に前記貫通孔を備えた平面部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項5】
前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項6】
前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項7】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口と前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設けたことを特徴とする請求項5若しくは請求項6に記載のエンジン。
【請求項8】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記シリンダーの所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記シリンダー内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブを設けたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のエンジン。
【請求項9】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
少なくとも前記クランク軸と前記クランクアームを内包した前記貫通孔を囲橈するようにクランクケースを設けて、
前記吸気ポートに、前記クランクケース内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するクランクケースリードバルブを設け、前記クランク軸を中心とした放射方向に沿った前記クランクケースの所定位置に前記吸気口を配置し、
前記排気口を前記シリンダーの側壁部の所定位置に配置し、
前記クランクケースと前記シリンダーを連通すると共に、前記排気口よりも反燃焼室側にシリンダー側開口端が配置されたバイパスポートを設けたことを特徴とする請求項5若しくは請求項6に記載のエンジン。
【請求項10】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
少なくとも前記クランク軸と前記クランクアームを内包した前記貫通孔を囲橈するようにクランクケースを設けて、
当該クランクケースの前記クランク軸の軸方向に沿った所定位置に前記吸気口を配置し、
当該吸気口は、ローター面周縁部の所定位置を弧状に切り欠いて形成した切欠部を備えた前記偏心フリーローターの前記ローター面周縁近傍と対向配置され、
前記吸気口は、前記偏心フリーローターの回転にしたがって、前記切欠部と重なり合ったとき開放され、前記周縁部と重なり合ったとき閉鎖されるように構成し、
前記排気口を前記シリンダーの側壁部の所定位置に配置し、
前記クランクケースと前記シリンダーを連通すると共に、前記排気口よりも反燃焼室側にシリンダー側開口端が配置されたバイパスポートを設けたことを特徴とする請求項5若しくは請求項6に記載のエンジン。
【請求項11】
一対の略円柱状の小径部と、当該小径部よりも大径の略円柱状で前記小径部に挟まれた大径部とからなり、前記小径部の反大径部側の端面にピストンヘッドと当該ピストンヘッドに連接するピストンスカートが形成され、前記大径部の中心部に所定の内径を有する貫通孔が径方向に沿って形成されたピストンと、
前記貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記小径部が挿嵌される一対の円筒形状のシリンダーと、当該シリンダーと連接し、前記大径部が嵌合されるハウジングを備え、前記シリンダーの反ハウジング側端部に前記ピストンヘッドが対向する燃焼室を有するシリンダーケースと、から構成され、
前記シリンダー内を、前記小径部が往復運動するとき、
当該小径部に従動して前記大径部が往復運動して、前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とするエンジン。
【請求項12】
前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする請求項11に記載のエンジン。
【請求項13】
前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする請求項11に記載のエンジン。
【請求項14】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口と前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設けたことを特徴とする請求項12若しくは請求項13に記載のエンジン。
【請求項15】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記シリンダーの所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記シリンダー内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブを設けたことを特徴とする請求項12若しくは請求項13に記載のエンジン。
【請求項16】
左右両端面にそれぞれピストンヘッドを備えた略円柱体状のピストンと、
当該ピストンの周壁部中心に、前記ピストンの径方向に沿って形成された所定の内径を有する貫通孔と、
当該貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記ピストンが挿嵌される円筒形状のシリンダーを備え、当該シリンダーの一端に一の前記ピストンヘッドが対向する燃焼室を連接し、前記シリンダーの他端に他の前記ピストンヘッドが対向する吸排気調圧室を連接してなるシリンダーケースと、
前記燃焼室と前記吸排気調圧室とを連通するバイパスポートと、から構成され、
当該シリンダー内を、前記ピストンが左右方向へ往復運動するとき、
前記ピストンに従動して往復運動する前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とするエンジン。
【請求項17】
前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする請求項16に記載のエンジン。
【請求項18】
前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする請求項16に記載のエンジン。
【請求項19】
前記可燃性混合気体又は前記空気を前記吸排気調圧室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記吸排気調圧室の所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記吸排気調圧室内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブと、当該ピストンリードバルブと前記吸排気調圧室との間に前記バイパスポートの吸排気調圧室側開口端とを設けたことを特徴とする請求項17若しくは請求項18に記載のエンジン。
【請求項20】
前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする請求項1、請求項11、若しくは請求項16のいずれかに記載のエンジン。
【請求項21】
前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする請求項1、請求項11、若しくは請求項16のいずれかに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンは、吸気、圧縮、爆発、排気の各工程によってピストンを動かし、当該ピストンに連結されているコンロッドの往復運動を所定のリンク機構でクランク軸の回転運動に変換して、回転動力を出力するように構成されている。
従来、ピストンはコンロッドの先端で回動自在に軸支され、ピストン及びコンロッド先端部の往復運動が、コンロッド基端部の回転運動に変換され、クランクピン、クランクアームからなるリンク機構を介してクランク軸の回転運動が伝達されている。
【0003】
また、特開2015-224745号に開示されているレシプロエンジンに於けるピストン運動の回転変換構造は、ピストンに固定したコンロッドと、直線運動を回転運動に変換する遊星歯車機構部と、その内歯車の中心位置で軸支される駆動軸と、から少なくとも構成し、遊星歯車機構部が、一対の内歯車と、各内歯車内で噛合すると共にそのピッチ円直径が内歯車の1/2である遊星歯車と、コンロッドとピンを介して軸支すると共に遊星歯車に固着した連結杆と、遊星歯車に固着すると共に駆動軸に固着した固定杆と、から成され、且つ、ピンの中心が常にコンロッドの軸心線上に位置するように配置されるように構成されている。これによって、ピストンの側圧がシリンダーに殆ど生じないものとなり、摩擦損失が軽減されると共に、エンジンの小型化や軽量化が可能なものとなり、更に振動や騒音の発生が減少するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のクランク構造の場合、コンロッドの基端側大径部がクランクアームの長さを半径とする円周に沿って回転している。そのため、コンロッドの上死点と下死点間の往復距離は、クランクアームの直径と等しい。これによって、往復距離を長くする、すなわち、ロングストローク化した場合、クランクアームを長くしなければならず、クランクケースが大型化する等の問題が生じるため、現状ではエンジンの設計段階でクランクアームの長さに制限がかかってしまうおそれがある。一方、往復距離を短くする、すなわち、ショートストローク化した場合、往復運動を回転運動へ返還するクランク機構を構成するクランクアームの長さとコンロッドの長さに制限がかかってしまうおそれがある。
【0006】
上記の問題に対して、上記の特開2016-075208号に開示されているピストン運動の回転変換構造は、クランクアームに替えて内歯車と遊星歯車機構からなる変換機構を設けて、従来のクランク構造におけるクランクアームの回転動作を、内歯車に内接して転動する遊星歯車の回転に変換し、ピストンを直線的に往復運動させると共に、当該往復運動にクランクアームの長さが影響しないように構成している。
しかしながら、上記の回転変換構造によれば、内歯車に内接している遊星歯車がピストンに加わる圧力によって内歯車からズレたり、滑ったりして正しく力を変換することができないおそれがある。また、回転返還構造に係る部品点数が多いことから、装置が複雑化して組立に手間暇及びコストがかかるおそれがある。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、コンロッド又はクランクアームの長さに制限されずボアとストロークを自在に設計することができるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のエンジンは、左右両端面にそれぞれピストンヘッドを備えた略円柱体状のピストンと、
当該ピストンの周壁部中心に、前記ピストンの径方向に沿って形成された所定の内径を有する貫通孔と、
当該貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記ピストンが挿嵌される円筒形状のシリンダーを備え、前記ピストンヘッドがそれぞれ対向する燃焼室を前記シリンダー両端にそれぞれ連接してなるシリンダーケースと、から構成され、
当該シリンダー内を、前記ピストンが左右方向へ往復運動するとき、
前記ピストンに従動して往復運動する前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、前記ピストンの直径を、左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの径に対して、前記周壁部中心近傍の径を細く形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、前記ピストンの直径を、左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの径に対して、前記周壁部中心近傍の径を太く、又は当該ピストンスカートの反ピストンヘッド側から前記周壁部中心に向かって漸増させて当該周壁部中心近傍を略球体状に形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、左右両端面の前記ピストンヘッドに連接形成したピストンスカートの反ピストンヘッド側を切り欠いて、
前記ピストンの前記周壁部中心近傍に前記貫通孔を備えた平面部を形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載のエンジンは、請求項1に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載のエンジンは、請求項5若しくは請求項6に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口と前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設けたことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載のエンジンは、請求項5若しくは請求項6に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記シリンダーの所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記シリンダー内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブを設けたことを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載のエンジンは、請求項5若しくは請求項6に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
少なくとも前記クランク軸と前記クランクアームを内包した前記貫通孔を囲橈するようにクランクケースを設けて、
前記吸気ポートに、前記クランクケース内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するクランクケースリードバルブを設け、前記クランク軸を中心とした放射方向に沿った前記クランクケースの所定位置に前記吸気口を配置し、
前記排気口を前記シリンダーの側壁部の所定位置に配置し、
前記クランクケースと前記シリンダーを連通すると共に、前記排気口よりも反燃焼室側にシリンダー側開口端が配置されたバイパスポートを設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載のエンジンは、請求項5若しくは請求項6に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
少なくとも前記クランク軸と前記クランクアームを内包した前記貫通孔を囲橈するようにクランクケースを設けて、
当該クランクケースの前記クランク軸の軸方向に沿った所定位置に前記吸気口を配置し、
当該吸気口は、ローター面周縁部の所定位置を弧状に切り欠いて形成した切欠部を備えた前記偏心フリーローターの前記ローター面周縁近傍と対向配置され、
前記吸気口は、前記偏心フリーローターの回転にしたがって、前記切欠部と重なり合ったとき開放され、前記周縁部と重なり合ったとき閉鎖されるように構成し、
前記排気口を前記シリンダーの側壁部の所定位置に配置し、
前記クランクケースと前記シリンダーを連通すると共に、前記排気口よりも反燃焼室側にシリンダー側開口端が配置されたバイパスポートを設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載のエンジンは、一対の略円柱状の小径部と、当該小径部よりも大径の略円柱状で前記小径部に挟まれた大径部とからなり、前記小径部の反大径部側の端面にピストンヘッドと当該ピストンヘッドに連接するピストンスカートが形成され、前記大径部の中心部に所定の内径を有する貫通孔が径方向に沿って形成されたピストンと、
前記貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記小径部が挿嵌される一対の円筒形状のシリンダーと、当該シリンダーと連接し、前記大径部が嵌合されるハウジングを備え、前記シリンダーの反ハウジング側端部に前記ピストンヘッドが対向する燃焼室を有するシリンダーケースと、から構成され、
前記シリンダー内を、前記小径部が往復運動するとき、
当該小径部に従動して前記大径部が往復運動して、前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載のエンジンは、請求項11に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載のエンジンは、請求項11に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする。
【0021】
請求項14に記載のエンジンは、請求項12に若しくは請求項13に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口と前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設けたことを特徴とする。
【0022】
請求項15に記載のエンジンは、請求項12若しくは請求項13に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記シリンダーの所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記シリンダー内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブを設けたことを特徴とする。
【0023】
請求項16に記載のエンジンは、左右両端面にそれぞれピストンヘッドを備えた略円柱体状のピストンと、
当該ピストンの周壁部中心に、前記ピストンの径方向に沿って形成された所定の内径を有する貫通孔と、
当該貫通孔の内壁に沿って形成された内歯車と、
当該内歯車と噛合する歯車と、
当該歯車を軸支するクランクピンを先端に有する略棒体状のクランクアームと、
当該クランクアームの基端に固定されたクランク軸と、
前記貫通孔の前記内径と略同径で、前記貫通孔内へ回動自在に嵌合され、前記歯車と共に前記クランクピンで軸支された円盤状の偏心フリーローターと、
前記ピストンが挿嵌される円筒形状のシリンダーを備え、当該シリンダーの一端に一の前記ピストンヘッドが対向する燃焼室を連接し、前記シリンダーの他端に他の前記ピストンヘッドが対向する吸排気調圧室を連接してなるシリンダーケースと、
前記燃焼室と前記吸排気調圧室とを連通するバイパスポートと、から構成され、
当該シリンダー内を、前記ピストンが左右方向へ往復運動するとき、
前記ピストンに従動して往復運動する前記内歯車に噛合された前記歯車が、前記貫通孔内を所定の方向へ回動し、
前記歯車を軸支する前記クランクピンを介して、前記クランクアームが前記クランク軸を所定の方向へ回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記貫通孔内を前記クランクアームの回転方向と相反する方向へ回動するようにしたことを特徴とする。
【0024】
請求項17に記載のエンジンは、請求項16に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される電極を備えた点火プラグを設け、
前記ピストンヘッドが空気と霧状にした燃料を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を前記燃焼室で圧縮したとき、当該可燃性混合気体が、前記電極から発生したスパークで点火されるようにしたことを特徴とする。
【0025】
請求項18に記載のエンジンは、請求項16に記載の発明において、前記燃焼室の所定位置に配置される噴霧口を備えた噴射装置を設け、
前記ピストンヘッドが前記燃焼室で空気を急激に圧縮して高温高圧空気を形成したとき、前記噴射装置が所定の燃料を前記噴霧口から霧状に噴霧して、当該燃料を前記高温高圧空気で燃焼させるようにしたことを特徴とする。
【0026】
請求項19に記載のエンジンは、請求項17若しくは請求項18に記載の発明において、前記可燃性混合気体又は前記空気を前記吸排気調圧室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、前記可燃性混合気体又は前記燃料が燃焼した後の排気ガスを前記燃焼室から排気する排気口を備えた排気ポートを設け、
前記吸気口を前記吸排気調圧室の所定位置に設け、前記排気口を前記燃焼室の所定位置に設け、
前記吸気ポートに、前記吸排気調圧室内に向かって前記可燃性混合気体又は前記空気が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブと、当該ピストンリードバルブと前記吸排気調圧室との間に前記バイパスポートの吸排気調圧室側開口端とを設けたことを特徴とする。
【0027】
請求項20に記載のエンジンは、請求項1、請求項11、若しくは請求項16のいずれかに記載の発明において、前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする。
【0028】
請求項21に記載のエンジンは、請求項1、請求項11、若しくは請求項16のいずれかに記載の発明において、前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るエンジンによれば、略円柱体のピストンの左右両端面にピストンヘッドを形成し、周壁部中心にピストンの径方向に沿って所定の内径を備えた貫通孔を設けた。そして、当該貫通孔に内歯車を形成して、当該内歯車と噛合する歯車と、貫通孔の内径と略同径の円盤状偏心フリーローターを歯車に重ね合わせて貫通孔内に配設した。さらに、歯車と偏心フリーローターを回動自在に軸支するクランクピンを先端に備え、基端にクランク軸を備えるクランクアームを設けた。
これによって、ピストンがシリンダー内を往復運動したとき、当該ピストンに従動する内歯車と噛合されている歯車を介して、クランク軸を回転させることができる。
ここで、従来のレシプロエンジンは、ピストンの上死点と下死点間の往復距離がコンロッドの大径部で描かれる円の直径に相当する。そのため、ピストンの往復距離は、当該大径部と接続されるクランクアームの先端で描かれる円の直径に制限されている。
一方、コンロッドの大径部による円の直径、すなわちピストンの往復距離を本発明に係るエンジンに当てはめた場合、内歯車の内径に相当する。このとき、本発明に係るエンジンが備えるクランクアームは、内歯車に噛合する歯車を軸支するクランクピンで描かれる円に沿って回転するように構成されている。したがって、従来のレシプロエンジンにおいてピストンが一往復する間に一回転するクランクアームの動作と同様に、本発明に係るエンジンにおいてピストンが一往復する間にクランクアームを一回転するように設定すると、内歯車の内径と歯車の直径の比は2対1とすることが好ましい。
これによって、ピストンの往復距離を一定にすると、従来のクランクアームの長さに対して、本発明に係るクランクアームの長さは、半分にすることができる。これと併せて、本発明に係るエンジンはコンロッドを有していないことから、大幅に軽量化することできるので、クランク軸の高回転化を容易に行うことができる。
また、本発明に係るクランクアームの長さを従来のクランクアームの長さと同じ長さにした場合は、従来のレシプロエンジンに対して本発明に係るエンジンは、2倍の利得を得ることができ、ピストンを大きく動かすことができる。そのため、ピストンのストローク距離を伸ばして容易にロングストローク化することができる。これによって、エンジンの燃焼効率を改善し、低速トルクを増大して燃費を改善することができる。
そして、本発明によれば、貫通孔内へ回動自在に嵌合された偏心フリーローターを設けた。当該偏心フリーローターは、ピストンの往復運動時にクランクアームの回転方向に対して、相反する方向へ回転するように構成されている。これによって、ピストンの往復運動によって貫通孔へ加わる応力を、偏心フリーローターで受けることができ、貫通孔の歪みを防止することができる。
さらに、貫通孔内に嵌合された偏心フリーローターが、ピストンヘッドから貫通孔へ伝導する衝撃を受け止めるので、内歯車上で歯車が滑ることを防止することができ、内歯車又は歯車の破損を防止することができる。加えて、歯車が内歯車に沿って一回転する間に偏心フリーローターを逆方向へ一回転させるため、クランクピンで軸支される偏心フリーローターの軸心の位置は、内歯車に対する歯車の軸の位置、すなわち、短径と長径の比が1対3となる位置とすることが好ましい。
そして、本発明に係るエンジンは、対向配置されたシリンダー内をピストンが直線的に往復運動するように構成されている。これによって、ピストンがシリンダー内壁に対して押圧することによるピストンの側圧を抑制することができるのでピストンの摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストンとシリンダーの接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。さらに、略円柱体のピストンの長さを調整することによって、ロングストロークからショートストロークまで自在に設計することができ、エンジンを備えた車両、船舶、飛行機、ポンプ、発電機、農機具等の用途に合わせて、燃費を向上させたエンジン、低速トルクを増大させたエンジン、又は高出力のエンジン等、最適なエンジンを提供することができる。
【0030】
また、本発明に係るエンジンによれば、略円柱体のピストンは左右両端面にピストンヘッドを有している。すなわち、従来の水平対向2気筒エンジンに似て、クランク軸を中心にして、左右両端にピストンヘッドと、当該ピストンヘッドに対向する燃焼室を備えたシリンダーを有するエンジンを構成することができる。
ここで、点火プラグが有する電極を燃焼室の所定の位置に設けた場合は、ピストンヘッドで燃焼室へ圧縮した可燃性混合気体へスパークを飛ばして点火爆発させる内燃機関を構成することができ、燃焼室の所定の位置に配置した噴霧口を備える噴射装置を設けた場合は、ピストンヘッドで燃焼室へ圧縮した高温高圧空気に噴霧口から燃料を霧状に噴霧して燃焼させる内燃機関を構成することができる。
また、それらの内燃機関において、可燃性混合気体又は空気を燃焼室へ供給する吸気口を備えた吸気ポートと、燃焼室から排気ガスを排気する排気口を備えた排気ポートを設けて、2ストロークエンジン又は4ストロークエンジンのタイプに合わせて、吸気口と排気口の位置を任意に設定することができる。
このとき、4ストロークエンジンの場合は、吸気口と排気口を燃焼室の所定位置に設ければよい。
一方、2ストロークエンジンの場合は、吸気口を設ける位置によって、エンジンの形式が異なる。たとえば、吸気口をシリンダーの所定位置に設けて、吸気ポート内へシリンダーに向かって気流が一方向で流れるように規制するピストンリードバルブを設けた場合は、ピストンリードバルブ型2ストロークエンジンが構成される。また、吸気口をクランクケースの所定位置に設けて、吸気ポート内にクランクケースに向かって気流が一方向に流れるように規制するクランクケースリードバルブを設けた場合は、クランクケースリードバルブ型2ストロークエンジンが構成される。さらにまた、吸気口をクランクケースの所定位置に設けると共にローター面の周縁部を弧状に切り欠いて形成した切欠部を備えた偏心フリーローターを設けて、吸気口を偏心フリーローターに対向配置し、当該偏心フリーローターの回転にしたがって、吸気口が切欠部と重なり合ったときは開放され、吸気口が周縁部と重なり合ったときは閉鎖されるようにした場合は、ロータリーディスクバルブ型の2ストロークエンジンを構成することができる。
上記のように、本発明に係るエンジンは、ロングストローク化又はショートストローク化を容易に行うことができると共に、4ストローク若しくは2ストロークを自在に選択することができる。これによって、本発明に諮るエンジンは、ストローク長を自在に設計することができ、燃費の効率改善又は高出力化等、エンジンに要求される性能に合わせて自在に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1実施例に係るエンジンの構成の概略を示す説明図である。
【
図2】第1実施例に係るエンジンが備えるピストンの構成の概略を示す説明図である。
【
図3】第1実施例に係るエンジンの構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図4】第1実施例に係るエンジンのピストンの動作例を示す説明図である。
【
図5】第1実施例に係るエンジンのピストンの他の構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図6】第1実施例に係るエンジンに基づいた水平対向4気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
【
図7】第1実施例に係るエンジンのピストンについて、他形状の構成の概略を示す説明図である。
【
図8】第1実施例に係るエンジンのピストンについて、他形状の構成の概略を示す説明図である。
【
図9】第1実施例に係るエンジンのピストンについて、他形状の構成の概略を示す説明図である。
【
図10】第2実施例に係るエンジンの構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図11】第2実施例に係るエンジンの他の構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図12】第2実施例に係るエンジンの他の構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図13】
図11に記載のエンジンに基づいた水平対向4気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
【
図14】第3実施例に係るエンジンのピストンの構成の概略を示す説明図である。
【
図15】第3実施例に係るエンジンの構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図16】第3実施例に係るエンジンに基づいた水平対向4気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
【
図17】第4実施例に係るエンジンの構成の概略を示すピストンの軸方向に沿った断面図である。
【
図18】第4実施例に係るエンジンに基づいた水平対向4気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
【実施例0032】
本発明に係るエンジンの実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。
図1は、本実施例に係るエンジンの構成の概略を示した説明図であり、
図2は、本実施例に係るエンジンが有するピストンの構成の概略を示した説明図である。
【0033】
エンジン10は、
図1に示すように、ピストン11と、シリンダーケース20を有している。
ピストン11は、
図2に示すように、略円柱体からなり、左右両端面にピストンヘッド12,12を有し、略円柱体の周壁部には、ピストンヘッド12に連接してピストンスカート13が形成されている。
そして、周壁部の中心には、略円柱体の径方向に沿って所定の内径を有する貫通孔14が形成されている。
【0034】
貫通孔14は、
図3に示すように、内歯車14aを有している。内歯車14aは、貫通孔14の軸方向に沿って刻まれた歯を、貫通孔14の内壁の周方向に沿って並設して構成されている。
また、貫通孔14内には、
図1~
図3に示すように、歯車15と偏心フリーローター16を有している。
歯車15は、軸方向に沿って歯が刻まれ、内歯車14aと噛合して転動可能に構成されている。歯車15の直径rと、内歯車14aの内径Rとの比は、1:2となるように構成されている。
偏心フリーローター16は、貫通孔14の内径と略同径の円盤状に形成され、滑動自在かつ回動自在に貫通孔14に嵌合されている。偏心フリーローター16の軸心は、当該偏心フリーローター16の直径を4等分し、短径と長径の比が1:3となる位置に設けられている。
歯車15と偏心フリーローター16は、クランクピン17で軸支されている。
【0035】
クランクアーム18は、先端にクランクピン17を有し、基端にクランク軸19を有している。
歯車15が内歯車14aに沿って一周したとき、クランクアーム18は、クランク軸19を一回転させるように構成されている。
ここで、歯車15の直径rと、内歯車14aの内径Rとの比は、1:2となるように構成されていることから、
図4に示すように、ピストン11が一往復したとき、歯車15は内歯車14a内を2回転して回転開始当初の初期位置に戻り、クランクアーム18を介してクランク軸19を一回転させる。
これによって、ピストン11の往復運動は、歯車15の周回運動を介してクランク軸19の回転運動へ変換することができる。
なお、本実施例に係るエンジン10では、クランクピン17が軸支している歯車15を、貫通孔14の内歯車14aと噛合させて転動させる構成としたが、これに限定されるものでは無く、内歯車14aと歯車15との間に1つ又は2つ以上の遊星歯車からなる遊星ギヤを噛ませて内歯車14aに対するクランクアーム18、クランク軸19のギヤ比を調整自在な構成としても良い。
【0036】
偏心フリーローター16は、
図3及び
図4に示すように、歯車15と共にクランクピン17で軸支されている。そして、歯車15が内歯車14aと噛合して貫通孔14内を転動する構成に対し、偏心フリーローター16は、偏心させた軸心が、歯車15の転動、すなわちクランクピン17の変位に伴って貫通孔14の軸を中心にして周回する。このとき、
図3及び
図4に示すように、クランクアーム18を回転させる歯車15の回転方向(矢印T)の方向を順方向としたとき、偏心フリーローター16の回転方向は、矢印Fで示した逆方向となる。また、図示したように、偏心フリーローター16は、歯車15と共にクランクピン17で軸支されていることから、偏心フリーローターの軸心は、偏心フリーローターの直径を4分割したとき、短径と長径との比が1:3となる位置となる。ここに偏心フリーローターの軸心を設けることによって、歯車が矢印T方向へ2回転する間に、偏心フリーローターを矢印F方向へ一回転させることができる。
【0037】
これによって、貫通孔14に嵌合された偏心フリーローター16は、ピストン11の往復運動に伴う歯車15の転動、すなわちクランクアーム18の回転を妨げることなく、貫通孔14内で回転することができる。そして、貫通孔14へ偏心フリーローター16を滑動自在かつ回動自在に嵌合したことによって、偏心フリーローター16は、ピストン11の往復運動によって貫通孔14に掛かる応力等を受け止めることができるので、当該貫通孔14及び当該貫通孔14の内壁に沿って形成された内歯車14aが歪むことを防止することができる。そのため、歯車15が内歯車14a上で滑ったり、歯が欠けたりすることを防止することができる。
【0038】
シリンダーケース20は、
図1から
図4に示すように、円筒状のシリンダー20aを有している。当該シリンダーの両端面には、所定形状の燃焼室21,21が連接形成されている。当該燃焼室21は、所定位置に点火プラグ22と、吸気ポートの吸気口23と、排気ポートの排気口24が形成されている。
【0039】
点火プラグ22は、キャブレター又はインジェクションから噴霧された燃料と空気を所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体が、燃焼室21内でピストン11によって圧縮されたとき、通電され点火して火花を飛ばすように構成されている。当該火花が燃焼室で可燃性混合気体を爆発燃焼させたとき、ピストンヘッド12に圧力がかかってシリンダー20内でピストン11が動作する。
なお、上記の可燃性混合気体は、空気中にガソリン又はアルコールを噴霧して形成されたものであるがこれに限定されたものでは無く、天然ガス、水素ガス或いはバイオマス等から抽出される可燃性ガスを爆発又は燃焼させる内燃機関であっても良い。
【0040】
また、点火プラグに替えて液体燃料を霧状にして噴霧する噴射装置(図示略)を設け、当該噴射装置と連通する噴霧口を燃焼室21に設けても良い。この場合は、ピストンヘッド12で圧縮された高温高圧の空気に軽油等の燃料を噴霧して燃焼させるディーゼル機関を構成することができる。
【0041】
吸気ポートが備える吸気口23は、可燃性混合気体を燃焼室21内へ吸気されるように構成され、当該吸気口23を吸気バルブ(図示略)が開閉可能に覆蓋している。
排気ポートが備える排気口24は、燃焼室21内に残留している爆発燃焼後の排気ガスを燃焼室21外へ排気するように構成され、当該排気口24を排気バルブ(図示略)が開閉可能に覆蓋している。
吸気バルブ又は排気バルブは、カム、ロッカーアーム等でクランク軸19の回転、すなわちピストン11の動作に従動して吸気口23又は排気口24を開閉するように構成されている。
これによって、シリンダー20の左右両端に設けた燃焼室21,21内へ可燃性混合気体を交互に供給して爆発燃焼させることによって、
図4に示すように、ピストン11を左右へ往復運動させることができ、クランク軸19を回転させることができる。
【0042】
上記の構成を備えたエンジン10は、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。
図4は、シリンダー20a内におけるピストン11の往復運動に伴い、内歯車14aに沿って歯車15が回転するときの両者の位置関係を示す説明図である。
【0043】
貫通孔14の内周に形成した内歯車14aの内径Rと、クランクピン17が軸支している歯車15の外径rの比は、2対1に構成されている。そのため、以下のように内歯車14a、すなわち貫通孔14を備えたピストン11の往復運動に対してクランクアーム18が回転する。ここで、
図4に示すように、ピストン11の右端側ピストンヘッド12の移動距離をLとし、右端側の始端、すなわち上死点の位置をL
0、左端側の終端、すなわち下死点の位置をL
1とする。
図4(a)は、内歯車14a左端と歯車15の左端が接し、ピストン11のピストンヘッドが上死点L0の位置にある場合を示している。これを歯車15の回転が始まる初期位置とする。ここから、歯車15は時計回りの矢印Tの向きに回転し、偏心フリーローター16は逆時計回りの矢印Fの向きに回転する。
図4(b)は、
図4(a)から歯車15が時計回りに半回転し、内歯車14aの下端に接している場合である。このとき、右側ピストンヘッド12の位置は往路途中でL/2の位置となる。
図4(c)は、
図4(a)から歯車15が時計回りに一回転し、内歯車14aの右端に接している場合である。このとき、右側ピストンヘッド12の位置は、下死点L
1の位置となり、ここからピストン11の往復運動は折り返しとなる。
図4(d)は、
図4(c)から歯車15が時計回りに半回転し、内歯車14aの上端に接している場合である。このとき、右側ピストンヘッド12の位置は、復路途中でL/2の位置となる。
さらに、
図4(d)から歯車15が半回転したとき、歯車15は、
図4(a)の初期位置へ帰還する。このとき、クランクアーム18が一回転してクランク軸19を一回転させ、右側ピストンヘッド12の位置は、上死点L
0へ帰還する。
上記の動作を繰り返すことによって、ピストン11の直線的な往復運動を、貫通孔14内の内歯車14aと噛合する歯車15の回転運動を介して、クランク軸19の回転運動へ変換することができる。
【0044】
偏心フリーローター16は、
図4に示すように、歯車15の回転軸、すなわちクランクピン17の変位にしたがって、クランク軸19からクランクピン17までのクランクアーム18の長さの位置で偏心フリーローター16の軸心が変位し、貫通孔14内を歯車15の回転方向とは逆方向(矢印F)の反時計回りに回転する。
これによって、ピストン11が往復運動するとき、貫通孔14に嵌合された偏心フリーローター16は、当該貫通孔14内で軸心を変位させながら滑動するので、燃焼爆発によってピストンヘッド12からピストン11が受ける力を偏心フリーローター16で受け、貫通孔14が歪むことを防止することができる。
【0045】
次に、
図4に示したように、シリンダー20a内でピストン11を往復運動させたとき、燃焼室21,21で行われる各工程について説明する。
図1~
図4に示したエンジン10は、4ストロークエンジンであって、吸気工程、圧縮工程、爆発工程、排気工程を繰り返すように構成されている。ここで、
図4に示したピストン11の右側ピストンヘッド12の動作について説明する。
吸気工程は、
図4(a)から
図4(b)を経て、
図4(c)のように、右側ピストンヘッド12が上死点L
0から下死点L
1に向かって移動するときに行われる工程である。これによって、燃焼室21及びシリンダー20内へ可燃性混合気体が吸気される。
圧縮工程は、
図4(c)から
図4(d)を経て、
図4(a)のように、右側ピストンヘッド12が下死点L
1から上死点L
0に向かって移動するときに行われる工程である。これによって、シリンダー20内に満たされた可燃性混合気体は、燃焼室21へ向かって圧縮される。
爆発工程は、
図4(a)から
図4(b)を経て、
図4(c)のように、右側ピストンヘッド12が上死点L
0から下死点L
1に向かって移動するときに行われる工程である。これによって、燃焼室21で圧縮された可燃性混合気体が、点火プラグで点火されて爆発燃焼が発生する。
排気工程は、
図4(c)から
図4(d)を経て、
図4(a)のように、右側ピストンヘッド12が下死点L
1から上死点L
0に向かって移動するときに行われる工程である。これによって、燃焼室21内で発生した爆発燃焼によって下死点L1まで押圧されたピストン11が上死点L0へ向かって運動して、ピストンヘッド12がシリンダー内に充満している排気ガスを押し出す。
そして、ピストン11の左側ピストンヘッド12においても同様に各工程が繰り返される。このとき、右側で吸気工程が行われているとき、左側では圧縮工程が行われ、右側で圧縮工程が行わているとき、左側では爆発工程が行われ、右側で爆発工程が行われているとき、左側では排気工程が行われ、右側で排気工程が行われているとき、左側では吸気工程が行われ、各工程が左右で互い違いに行われるように構成されている。
したがって、
図1から
図4に示したエンジン10は、左右で互い違いに各工程を行うように構成した水平対向2気筒エンジンである。
【0046】
また、
図5に示したエンジン10Aは、エンジン10と比べてピストン長を短くしたピストン11Aと、当該ピストン11Aにあわせてシリンダー長を短くしたシリンダーケース20Aとから構成されている。貫通孔14と、当該貫通孔14内の内歯車、歯車、クランクピン、クランクアームとクランク軸については、エンジン10と同様であるから説明を省略する。このように、本実施例に係るエンジン10,10Aでは、コンロッドを省いてピストン11,11Aがシリンダーケース20,20Aのシリンダー内で直線的に往復運動するように構成したことから、コンロッドの傾きによってピストンがピストンピンを中心に首を振ってボア壁面に衝突するピストンスラップの発生を極限まで抑え込むことができる。
そのため、
図5に示したピストン11Aのように、ピストンスカート長を最小限の長さで設計することができる。これによって、エンジン10Aは、ピストン11Aの全長を短く構成し、エンジン10Aをコンパクトに構成して、軽量化することができ、またピストン保護のためのオイル使用量も減らすことができる。
【0047】
本実施例に係るエンジン10によれば、ピストン11が直線的に往復運動するように構成した。これによって、従来のエンジンのようにピストンがコンロッドでクランクアームとリンクしている構成と比べて、コンロッドを省いたことによる当該コンロッドのモーメントによる揺動、振動を抑制することができる。さらに、ピストンの反対側に設けて、それらの振動を相殺するためのバランスウェイトを省いたり、又は軽量化したりすることができるので、コンロッドを省いたことと合わせてエンジン10を軽量化することができる。
さらに、ピストン11が略円柱体からなる簡略な構成としたことから、シリンダー内径、すなわち、ボアとピストン11のストローク量を自在に設計することができ、エンジン10の使用目的に合わせて、ショートストロークからロングストロークまで自在に設計することができる。
【0048】
また、本実施例に係るピストンの形状は、
図1~
図4及び
図5に示したピストン11,11Aに係る構成に限定されるものではなく、たとえば、
図6から
図8に示したような構成としても良い。
図6に示したピストン11Bは、当該ピストン11Bの直径が、ピストンスカート13,13の直径に対して、貫通孔14近傍の直径を細く構成して、ピストン11Bの貫通孔14近傍の周壁部中心を挟んでくびれた形状としたものである。
図7に示したピストン11Cは、当該ピストン11Cの直径が、ピストンスカート13,13から、貫通孔14近傍に向かって漸増させて、ピストン11Bの貫通孔14の周壁部中心が略球体状に膨らんだ形状としたものである。
このように、ピストンヘッド12,12に連接するピストンスカート13,13の直径に対して、貫通孔14近傍の径が異なるように構成することによって、たとえば、
図6の場合は、内歯車14と歯車15の大きさをそのままにボアを大きくしてショートストローク化することができ、
図7の場合は、内歯車14と歯車15の大きさをそのままにボアを小さくしてロングストローク化することができる。
また、
図8に示したピストン11Dは、貫通孔14の軸方向に沿って前後周壁部を切り欠いて、ピストンスカート13,13に連接する平板状の平面部11aに貫通孔14が開けられている形状にしたものである。これによって、略円柱体状のピストン11と比べて、切り欠いた分ピストン11Dを軽量化することができる。
【0049】
ここで、
図1に示したエンジン10は、上記したように、対向配置されたピストンヘッド12,12が交互に爆発を行う、いわば従来のエンジンでいうところのクランク位相角が180度(π)の水平対向2気筒エンジンであって、エンジン10全体としては左右連続して2回爆発工程を続けた後、爆発工程が左右で行われない工程が続く不等間隔爆発を行うように構成されている。この不等間隔爆発に伴う振動を抑制するためにエンジン10Bを構成した。
図9に示したエンジン10Bは、クランク軸19を延伸して、
図1に示したエンジン10を一ユニットとし、当該ユニットを2基並設して水平対向4気筒エンジンに構成したものである。各ユニットを第1ユニット30と、第2ユニット31と称する。それぞれのピストン11とシリンダーケース20の構成については、上記と同様であるから説明を省略する。
ここで、第1ユニット30のクランクアーム18に対して、第2ユニット31のクランクアーム18が成すクランクの位相角度は180度(π)となるように構成されている。これによって、第1ユニット30側のピストンと第2ユニット31側のピストンは互い違いに交互に往復運動を行うことができ、水平方向の振動を相殺することができる。また、一方のユニットで行われている不等間隔爆発と、他方のユニットで行われている不等間隔爆発を組み合わせることによって、エンジン10B全体では等間隔爆発を行うように構成することができる。当該等間隔爆発については、以下説明する。
【0050】
上記の構成を備えた水平対向4気筒エンジン10Bは、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。
水平対向4気筒エンジン10Cの第1クランクアーム13aと第2クランクアーム13bのクランク角の位相差が180度(π)である。
そのため、
図9に示すように、第1ユニット30側のピストン11の右側ピストンヘッド12Rが下死点L
1に位置し、左側ピストンヘッド12Lが上死点L
0に位置している場合に、第2ユニット31側のピストン11の右側ピストンヘッド12Rは上死点L
0に位置し、左側ピストンヘッドLは下死点L
1に位置している。このように、エンジン10Bは、第1ユニット30のピストン11と第2ユニット31のピストン11が互い違いに相反する方向へ入れ替わるように直線的な往復運動で動作する。
各ユニット30,31が有するピストンヘッド12,12の各工程における関係を下記の表1に表す。表中の矢印は第1ユニット30のクランクアーム18と、第2ユニット31のクランクアーム18の位相の向きを表し、たとえば、第1ユニット30で矢印が「→」の場合、位相差が180度(π)である第2ユニット31は反対方向の「←」へ進んでいるものとする。
【0051】
【0052】
エンジン10Bは、表1に示したように、項番1行目において、第1ユニット30の左側ピストンヘッド12Lが吸気工程を行っているとき、第1ユニット30のピストン11は、右側ピストンヘッド12Rの方へ向かって水平移動するので、右側ピストンヘッド12Rでは圧縮工程が行われる。このとき、位相差が180度(π)である第2ユニット31では、右側ピストンヘッド12Rで爆発工程が行われて、第2ユニット31のピストン11は左側ピストンヘッド12Lの方へ向かって水平移動し、左側ピストンヘッド12Lでは排気工程が行われる。
そして、項番1行目で第2ユニット31の右側ピストンヘッド12Rが行った爆発工程は、項番2行目では第1ユニット30の右側ピストンヘッド12R、項番3行目で同ユニット30の左側ピストンヘッド12L、項番4行目で第2ユニット31の左側ピストンヘッド12Lと順次行われる。
このように、爆発工程を4か所のピストンヘッドで順次行うように振り分けることによって、第1ユニット30と第2ユニット31の両端に設けた4気筒がそれぞれ実行する各工程において、いずれかの燃焼室21において常に爆発工程が行われるように構成することができる。そのため、エンジン10B全体としてみたとき、等間隔爆発を行うように構成することができる。
また、第1ユニット30と第2ユニット31に係るそれぞれのピストン11が、互いに相反する方向へ交互に直線的な往復運動を行うので、ピストン11の動作に起因する振動を相殺することができ、ピストンスカートがシリンダー20内壁を押圧して発生する側圧を抑制し、ピストンスカートがシリンダー内壁を摺動する際の摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストンとシリンダーの接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。
エンジン10C,10D,10Eに係るピストン11の構成は、第1実施例と同様であるから説明を省略する。また、シリンダーケースについても、円筒形状のシリンダー20aの両端に所定形状の燃焼室21,21が形成され、当該燃焼室21の所定位置に点火プラグ22が配置されている基本的な構成は第1実施例のシリンダーケース20と同一である。
第1実施例に係るエンジン10と第2実施例に係るエンジン10C,10D,10Eの相違点は、シリンダー20a周壁部の所定位置に設けた吸気ポートの吸気口と、排気ポートの排気口の位置である。
このように、第2実施例に係るエンジンによれば、シリンダーケース20の構成を変えることによって、4ストローク型から2ストローク型へ、又はその逆に容易に構成を組み替えることができる。
表2に示すように、項番1行目において、第3ユニット40の左側ピストンヘッド12Lが吸気・圧縮工程を行っているとき、同ユニット40のピストン11は、左側ピストンヘッド12Lの方へ向かって水平移動するので、右側ピストンヘッド12R側では燃焼・排気・掃気工程が行われる。このとき、第3ユニット40との位相差が180度(π)である第4ユニット41では、右側ピストンヘッド12Rで吸気・圧縮工程が行われて、同ユニット41のピストン11は右側ピストンヘッド12Rの方へ向かって水平移動し、左側ピストンヘッド12Lでは燃焼・排気・掃気工程が行われる。
そして、項番2行目では逆に、第3ユニット40の右側ピストンヘッド12Rと第4ユニット41の左側ピストンヘッド12Lで吸気・圧縮工程が行われ、第3ユニット40の左側ピストンヘッド12Lと第4ユニット41の右側ピストンヘッド12Rで燃焼・排気・掃気行程が行われる。
このように、エンジン10Fでは、第3ユニット40と第4ユニット41において、いずれかのシリンダー20内で常に爆発工程が行われるように構成することができる。そのため、エンジン10F全体で、等間隔爆発を行わせることができる。
また、第3ユニット40と第4ユニット41に係るそれぞれのピストン11が、互いに相反する方向へ交互に直線的な往復運動を行うので、ピストン11の動作に起因する振動を相殺することができ、ピストンスカート13がシリンダー20内壁を押圧して発生する側圧を抑制し、ピストンスカート13がシリンダー内壁を摺動する際の摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストン11とシリンダー20bの接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。
なお、説明を省略したが、上記のピストンリードバルブ型エンジン10C、ロータリーディスクバルブ型エンジン10Eに基づいて水平対向4気筒エンジンを構成した場合であっても、上記のクランクケースリードバルブ型と同様の効果を得ることができる。
また、上記では水平対向4気筒エンジンについて例示したが、水平対向エンジンに係る気筒数はこれらに限定されるものでは無く、エンジン10C,10D,10Eに係る基本構成の水平2気筒ユニットを増減して6気筒、8気筒、10気筒、12気筒、16気筒等の水平対向エンジンを構成するようにしても良い。この場合、各ユニット間の位相差を、たとえば、120度(4π/3)、72度(π/5)、60度(π/3)、45度(π/4)等、所定の角度、好ましくは各ユニットが備えるクランクアーム18がクランク軸19を中心に円周に対してバランスよく配置されるように設定することによって、一次振動、偶力振動、二次振動等の振動を各ユニット間で互いに相殺するようにすることができる。
そして、上記のいずれの場合であっても、クランク軸19にバランスウェイトを取り付けて振動を抑制するようにしても良い。
上記のように構成した各エンジンでは、クランク軸19を周回するクランクアーム18の長さを従来のエンジンが備えるクランクアームの長さよりも短くすることができるので、クランク軸19を周回する慣性モーメントを打ち消すバランスウェイトを軽量化させることができる。さらに、従来、先端が往復運動を行い、基端が回転運動を行うコンロッドには往復運動に因る振動と回転運動に因る振動が発生するが、当該コンロッドを省いた本実施例に係るエンジンによれば、コンロッドの動作を起因とする振動成分、振動原因を除去することができる。これによって、エンジンに生じる一次振動、偶力振動、二次振動等の振動のうち、コンロッドの動作を起因とする影響を除去することができる。