(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124285
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】物質生成方法、及び物質生成装置
(51)【国際特許分類】
C01B 19/02 20060101AFI20230830BHJP
C12P 13/06 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C01B19/02 Z
C12P13/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027958
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】楠瀬 博明
(72)【発明者】
【氏名】大岩 陸人
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE04
4B064DA16
4B064DA20
(57)【要約】
【課題】カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる物質の鏡像異性体を作り分けることができる物質生成方法を提供すること。
【解決手段】物質生成方法は、1種類以上の第1物質から第2物質を生成させる物質生成ステップと、前記物質生成ステップによって前記1種類以上の第1物質から前記第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、前記1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加ステップと、を有し、前記第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、前記2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、前記2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成ステップと、
前記物質生成ステップによって前記1種類以上の第1物質から前記第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、前記1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加ステップと、
を有し、
前記第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、
前記2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、
前記2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、
前記第1場と前記第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、
前記第1場と前記第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である、
物質生成方法。
【請求項2】
前記1種類以上の第1物質は、予め決められた1種類の無機物質であり、
前記第2物質は、結晶化された前記無機物質であり、
前記物質生成ステップは、
前記無機物質を加熱して融解する融解ステップと、
前記融解ステップにより融解された前記無機物質を冷却して前記第2物質として結晶化させる結晶化ステップと、
を含み、
前記過程は、前記融解ステップによって前記無機物質が融解されてから、前記結晶化ステップによって前記無機物質が前記第2物質として結晶化されるまでの過程である、
請求項1に記載の物質生成方法。
【請求項3】
前記印加ステップは、前記結晶化ステップによって前記無機物質の温度が前記無機物質の融点よりも高い予め決められた温度になった場合に、前記無機物質への前記2つの場の印加を開始する、
請求項2に記載の物質生成方法。
【請求項4】
前記第2物質は、高分子化合物であり、
前記1種類以上の第1物質は、前記第2物質の生成に用いる1種類以上の物質であり、
前記物質生成ステップは、
前記1種類以上の第1物質を混合させる混合ステップと、
前記混合ステップによって混合された前記1種類以上の第1物質を前記第2物質として高分子化させる化学変化を起こさせる化学反応ステップと、
を含み、
前記過程は、前記混合ステップによって前記1種類以上の第1物質が混合されてから、前記化学反応ステップによって前記1種類以上の第1物質が前記第2物質として高分子化されるまでの過程である、
請求項1に記載の物質生成方法。
【請求項5】
前記第1場は、時間変動しない静的な電場であり、
前記第2場は、時間の経過に伴い強さが単調増加する動的な磁場であり、
前記第2場の方向は、前記第1場の方向と同じ方向、又は、前記第1場の方向と反対の方向である、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の物質生成方法。
【請求項6】
前記第1場は、時間の経過に伴い強さが単調増加する動的な電場であり、
前記第2場は、時間変動しない静的な磁場であり、
前記第2場の方向は、前記第1場の方向と同じ方向、又は、前記第1場の方向と反対の方向である、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の物質生成方法。
【請求項7】
1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成部と、
前記物質生成部によって前記1種類以上の第1物質から前記第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、前記1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加部と、
を備え、
前記第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、
前記2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、
前記2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、
前記第1場と前記第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、
前記第1場と前記第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である、
物質生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物質生成方法、及び物質生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生成する対象となる対象物質の鏡像異性体を作り分ける技術の研究、開発が行われている。
【0003】
これに関し、予め決められた種類の有機物質の鏡像異性体を作り分ける方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載されたような方法は、試行錯誤の結果として特定された方法である。すなわち、特許文献1に記載されたような方法は、有機物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて提案された方法ではない。そして、従来、有機物質の鏡像異性体を作り分ける原理は、知られていなかった。このため、特許文献1に記載されたような方法では、有機物質の鏡像異性体の作り分けの効率化を図ろうとしても、その効率化を実現する方法は、更なる試行錯誤の結果として得るよりほかなかった。このような問題は、無機物質の鏡像異性体の作り分けにおいても、同様に存在する問題である。
【0006】
そこで本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる物質の鏡像異性体を作り分けることができる物質生成方法、及び物質生成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様に係る物質生成方法は、1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成ステップと、前記物質生成ステップによって前記1種類以上の第1物質から前記第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、前記1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加ステップと、を有し、前記第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、前記2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、前記2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。
【0008】
また、上述した課題を解決するために、本発明の一態様に係る物質生成装置は、1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成部と、前記物質生成部によって前記1種類以上の第1物質から前記第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、前記1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加部と、を備え、前記第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、前記2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、前記2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、前記第1場と前記第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる物質の鏡像異性体を作り分けることができる物質生成方法、及び物質生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】物質生成装置1の構成の一例を示す図である。
【
図2】制御装置1Cのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】制御装置1Cの機能構成の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示した結晶において電気トロイダル双極子が誘起されている様子の一例を示す図である。
【
図7】
図6に示した結晶において電気トロイダル双極子が誘起されている様子の一例を示す図である。
【
図8】融解された第1テルルM1に外場を印加せずに冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
【
図9】極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が負の値となるように、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
【
図10】極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が正の値となるように、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
【
図11】物質生成装置1が第1テルルM1から第2テルルを生成する処理の流れの一例を示す図である。
【
図12】物質生成装置1がアスパラギン酸及び各種の酵素からL-アラニンを選択的に生成する処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、カイラリティを有する物質において誘起される電気トロイダル双極子と呼ばれるベクトル場と、当該物質において誘起される電気トロイダル単極子と呼ばれるスカラー場とが登場する。この電気トロイダル双極子及び電気トロイダル単極子について、例えば、以下の文献1~3の3つの文献に詳しい説明が記載されている。このため、本明細書では、電気トロイダル双極子及び電気トロイダル単極子の詳細について、必要だと判断される内容を除いて、説明を省略する。
【0012】
・文献1:"Microscopic Description of Electric and Magnetic Toroidal Multipoles in Hybrid Orbitals", Satoru Hayami and Hiroaki Kusunose, Journal of the Physical Society of Japan 87, 033709 (2018).
・文献2:"Classification of atomic-scale multipoles under crystallographic point groups and application to linear response tensors", Satoru Hayami, Megumi Yatsushiro, Yuki Yanagi, and Hiroaki Kusunose, PHYSICAL REVIEW B 98, 165110 (2018).
・文献3:「スピンと軌道の電子論」、楠瀬博明著、 講談社
【0013】
<物質生成方法の概要>
まず、実施形態に係る物質生成方法の概要について説明する。
【0014】
実施形態に係る物質生成方法は、物質生成ステップと、印加ステップを有する。物質生成ステップは、1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる。印加ステップは、物質生成ステップによって1種類以上の第1物質から第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、1種類以上の第1物質に2つの場を印加する。ここで、第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質である。2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場である。2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場である。第1場と第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場である。第1場と第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。これにより、物質生成方法は、カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる物質の鏡像異性体を作り分けることができる。なお、電気トロイダル双極子が誘起される物質は、3つ以上の粒子(例えば、原子、分子等)の結合によって構成される物質のことである。
【0015】
<物質生成方法を利用した物質生成装置の構成>
以下、
図1に示した物質生成装置1を例に挙げて、実施形態に係る物質生成方法を利用した物質生成装置の構成について説明する。そして、以下では、物質生成装置1の動作を説明することにより、実施形態に係る物質生成方法について詳しく説明する。なお、本実施形態において、ある物質の鏡像異性体は、左手系のカイラリティを有する当該物質と、右手系のカイラリティを有する当該物質とのそれぞれのことである。
【0016】
図1は、物質生成装置1の構成の一例を示す図である。物質生成装置1は、1種類以上の第1物質から第2物質を生成する装置である。ここで、第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であれば、如何なる種類の無機物質であってもよく、如何なる種類の有機物質であってもよい。以下では、一例として、第2物質が、結晶化されたテルルである場合について説明する。結晶化されたテルルは、電気トロイダル双極子が誘起される無機物質の一例である。この場合、物質生成装置1は、1種類以上の第1物質として、物質生成装置1による結晶化が行われる前のテルル(すなわち、他の装置等により結晶化されているテルルであってもよく、結晶化されていないテルルであってもよい)のみ用いて、結晶化されたテルルを第2物質として生成する。以下では、説明の便宜上、物質生成装置1による結晶化が行われる前のテルルを第1テルルと称し、物質生成装置1による結晶化が行われた後のテルルを第2テルルと称して説明する。すなわち、物質生成装置1は、第1テルルを加熱して融解し、その後、融解した第1テルルを冷却して第2テルルとして結晶化させる。このようにして、物質生成装置1は、第1テルルから第2テルルを生成する。この際、物質生成装置1は、第2テルルの鏡像異性体を作り分けることができる。すなわち、物質生成装置1は、ユーザーから受け付けた操作に応じて、第1テルルから、当該操作に応じたカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。なお、第1物質及び第2物質は、テルルに代えて、他の種類の無機物質であってもよい。また、物質生成装置1は、1種類以上の第1物質として、複数種類の無機物質を用いて、第2物質を生成する構成であってもよい。また、第1物質として用いる物質は、カイラリティを有する物質であってもよく、カイラリティを有さない物質であってもよい。
【0017】
図1に示した例では、第1テルルM1は、第1テルルの一例を示す。第1テルルM1は、融解される前後のテルルを収容する容器RS内に収容されている。容器RSは、テルルの融点よりも高い融点を有する耐熱容器であり、容器RSの外部から容器RSの内部の加熱及び冷却を行うことが可能な容器であれば、如何なる容器であってもよい。
【0018】
物質生成装置1は、物質生成部1Aと、印加部1Bと、制御装置1Cを備える。なお、物質生成装置1は、物質生成部1Aと、印加部1Bと、制御装置1Cとともに、容器RSを備える構成であってもよい。また、物質生成装置1は、制御装置1Cを備えない構成であってもよい。この場合、物質生成装置1には、制御装置1Cと同様の機能を有する制御装置が外部から通信可能に接続される。また、
図1では、物質生成部1Aと、印加部1Bと、制御装置1Cとのそれぞれは別体である。しかしながら、物質生成部1Aと、印加部1Bと、制御装置1Cとのうちの一部または全部は、一体に構成されてもよい。
【0019】
物質生成部1Aは、第1テルルM1から、生成する対象となる第2テルルを生成させる装置である。
【0020】
図1に示した例では、物質生成部1Aは、融解部HTと、結晶化部CLを備える。
【0021】
融解部HTは、第1テルルM1を加熱して融解する。
図1に示した例では、融解部HTは、容器RSに取り付けられており、容器RSの外部から容器RSの内部を加熱して、容器RS内に収容された第1テルルM1を融解する加熱装置である。
【0022】
結晶化部CLは、融解部HTにより融解された第1テルルM1を冷却して第2テルルとして結晶化させる。
図1に示した例では、結晶化部CLは、容器RSに取り付けられており、容器RSの外部から容器RSの内部の温度を予め決められた温度T1以下の温度にまで冷却する冷却装置である。温度T1は、テルルの融点よりも低い温度であれば、如何なる温度であってもよい。これにより、結晶化部CLは、容器RSの内部において融解された第1テルルM1を冷却して第2テルルとして結晶化させることができる。結晶化部CLは、制御装置1Cからの要求に応じて、容器RSの内部において単位時間あたりに温度が下がる速さの調整が可能な構成であってもよく、当該速さの調整が不可能な構成であってもよい。
【0023】
印加部1Bは、物質生成部1Aによって第1テルルM1から第2テルルが生成される対象過程の少なくとも一部を含む対象期間PDにおいて、第1テルルM1に2つの場を印加する装置である。このため、印加部1Bは、容器RS内に収容された第1テルルM1へ第1場F1を印加する第1場印加装置1B1と、容器RS内に収容された第1テルルM1へ第2場F2を印加する第2場印加装置1B2との2つの装置を有する。なお、
図1では、図を簡略化するため、第1場印加装置1B1と、第2場印加装置1B2との2つの装置を、1つの長方形状のブロックによってまとめて示している。
【0024】
第1場F1は、極性ベクトル場である。第2場F2は、軸性ベクトル場である。また、第1場F1と第2場F2とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、また、第1場F1と第2場F2とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。以下では、一例として、第1場F1が、時間変動しない静的な電場である場合について説明する。この場合、第2場F2は、例えば、時間の経過に伴い強さが単調増加する動的な磁場である。なお、第1場F1が、時間の経過とともに強さが単調増加する動的な電場であった場合、第2場F2は、例えば、時間変動しない静的な磁場である。なお、時間変動する動的な場は、時間の経過とともに強さが単調減少する場であってもよい。すなわち、時間変動する動的な場は、微係数の符号が一定な場であればよい。また、時間変動する動的な場は、時間の経過とともに増減を繰り返すが全体として減少する場等の時間変動する場であってもよい。
【0025】
対象過程は、融解部HTによって第1テルルM1が融解されてから、結晶化部CLによって第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されるまでの過程である。この場合、対象期間PDは、例えば、結晶化部CLによって第1テルルM1の温度がテルルの融点よりも高い予め決められた温度T0になってから、結晶化部CLによる容器RSの内部の冷却が終了されるまでの期間、すなわち、融かした第1テルルM1が第2テルルとして冷え固まるまでの間の期間である。なお、対象期間PDは、対象過程の少なくとも一部を含む他の期間であってもよい。また、温度T0は、テルルの融点よりも高い温度のうち、テルルの融点に近い温度であるほど望ましい温度である。これは、第1テルルの第2テルルとしての結晶が始まる直前において、第1場F1と第2場F2との2つの場の印加が開始されることにより、効率よくテルルの鏡像異性体の作り分けを行うことができるからである。
【0026】
印加部1Bは、対象期間PDが始まるタイミングにおいて、第1テルルM1への第1場F1と第2場F2との2つの場の印加を開始する。前述した通り、当該タイミングは、テルルの鏡像異性体の作り分けの効率化を図るためには、第1テルルの第2テルルとしての結晶が始まる直前のタイミングであることが望ましいが、他のタイミングであってもよい。なお、第1テルルの第2テルルとしての結晶が始まる直前のタイミングは、事前の実験等により特定することができる。
【0027】
ここで、第1場F1が電場であり、第2場F2が磁場である場合、第2場F2の方向は、第1場F1の方向と同じ方向、又は、第1場F1の方向と反対の方向である。物質生成装置1は、このような第1場F1の方向に対する第2場F2の方向に応じて、左手系のカイラリティを有する第2テルルと、右手系のカイラリティを有する第2テルルとのいずれかを選択的に生成することができる。すなわち、物質生成装置1は、対象期間PDにおいて、融解された第1テルルM1に第1場F1と第2場F2との2つの場を印加しながら、第1テルルM1を冷却して第2テルルとして結晶化させることにより、第2テルルの鏡像異性体を作り分けることができる。物質生成装置1による第2テルルの鏡像異性体の作り分けの原理については、後述する。
【0028】
制御装置1Cは、物質生成部1Aと、印加部1Bとのそれぞれを制御する。制御装置1Cは、例えば、ノートPC(Personal Computer)、デスクトップPC、ワークステーション、タブレットPC、多機能携帯電話端末(スマートフォン)、PDA(Personal Digital Assistant)等の情報処理装置であるが、これらに限られるわけではない。
【0029】
制御装置1Cは、無線又は有線によって、物質生成部1Aと印加部1Bとのそれぞれと通信可能に接続される。制御装置1Cと物質生成部1Aとの間の通信方式は、如何なる通信方式であってもよい。また、制御装置1Cと印加部1Bとの間の通信方式は、如何なる通信方式であってもよい。
【0030】
<制御装置のハードウェア構成>
以下、
図2を参照し、制御装置1Cのハードウェア構成について説明する。
図2は、制御装置1Cのハードウェア構成の一例を示す図である。
【0031】
制御装置1Cは、例えば、プロセッサー11と、記憶部12と、入力受付部13と、通信部14と、表示部15を備える。制御装置1Cが備えるこれらの機能部は、バスを介して相互に通信可能に接続されている。また、制御装置1Cは、通信部14を介して物質生成部1A、印加部1Bのそれぞれと通信を行う。
【0032】
プロセッサー11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。なお、プロセッサー11は、CPUに代えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の他のプロセッサーであってもよい。プロセッサー11は、記憶部12に格納された各種プログラムを実行する。
【0033】
記憶部12は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む記憶装置である。なお、記憶部12は、制御装置1Cに内蔵されるものに代えて、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部12は、制御装置1Cが処理する各種の情報、各種のプログラム等を記憶する。
【0034】
入力受付部13は、例えば、表示部15と一体に構成されたタッチパネルである。なお、入力受付部13は、キーボード、マウス、タッチパッド、その他の入力装置であってもよい。
【0035】
通信部14は、例えば、USB等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される通信装置である。
【0036】
表示部15は、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイパネル等を含む表示装置である。
【0037】
<制御装置の機能構成>
以下、
図3を参照し、制御装置1Cの機能構成について説明する。
図3は、制御装置1Cの機能構成の一例を示す図である。
【0038】
制御装置1Cは、記憶部12と、入力受付部13と、通信部14と、表示部15と、制御部16を備える。
【0039】
制御部16は、制御装置1Cの全体を制御する。これにより、制御部16は、物質生成装置1の全体を制御する。制御部16は、融解制御部161と、結晶化制御部162と、印加制御部163を備える。制御部16が備えるこれらの機能部は、例えば、プロセッサー11が、記憶部12に記憶された各種のプログラムを実行することにより実現される。また、当該機能部のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
【0040】
融解制御部161は、融解部HTを制御する。
【0041】
結晶化制御部162は、結晶化部CLを制御する。
【0042】
印加制御部163は、印加部1Bを制御する。
【0043】
<物質生成装置が第2物質の鏡像異性体を作り分ける原理>
以下、物質生成装置1が第2テルルの鏡像異性体を作り分ける原理を例に挙げて、物質生成装置1が第2物質の鏡像異性体を作り分ける原理について説明する。
【0044】
図4は、左手系のカイラリティを有するテルルの結晶の一例を示す図である。なお、
図4に示した三次元座標系TCは、三次元座標系TCが描かれた図における方向を示す三次元直交座標系である。以下では、説明の便宜上、
図4に示した三次元座標系TCのZ軸の正方向を第1方向と称して説明する。
図4に示した通り、テルルの結晶は、左巻の螺旋構造を有している。また、
図4に示した点線の矢印は、
図4に示したテルルの結晶が左巻の螺旋構造を有していることを明確に示すための補助線であり、この左巻の螺旋構造上に配置した仮想的な点が当該左巻の螺旋構造に沿って第1方向に向かって移動した場合の軌跡を示している。換言すると、当該矢印は、
図4に示した左手系のテルルの結晶と左ねじが進む方向との関係性を示している。
図4では、当該結晶は、当該結晶の螺旋構造の中心軸が三次元座標系TCにおけるZ軸と平行な軸となるように配置されている。テルルのようにカイラリティを有する無機物質の結晶には、前述の電気トロイダル双極子が誘起される。カイラリティを有する無機物質の結晶において誘起される電気トロイダル双極子は、当該結晶に含まれる各粒子上に誘起されるベクトル場である。当該結晶に含まれるある1つの粒子を第1粒子と称すると、当該結晶において、第1粒子には、第1粒子に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。例えば、
図4に示した粒子A1~粒子A3のそれぞれは、テルル原子の一例を示す。そして、粒子A1は、粒子A2と結合している。また、粒子A2は、粒子A3と結合している。
図4に示したテルルの結晶において、粒子A1上には、粒子A1に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。また、
図4に示したテルルの結晶において、粒子A2上には、粒子A2に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。また、
図4に示したテルルの結晶において、粒子A3上には、粒子A3に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。
【0045】
ここで、
図5は、
図4に示した結晶において電気トロイダル双極子が誘起されている様子の一例を示す図である。ただし、
図5は、三次元座標系TCにおけるZ軸の負方向に向かって当該結晶を見た場合の当該結晶を示す図である。このため、
図5では、
図4に示したテルルの結晶を構成する複数の粒子のうち、粒子A1、粒子A2、粒子A3の3つの粒子以外の粒子は、粒子A1、粒子A2、粒子A3のそれぞれの背後に隠れて見えていない。
図5に示した3つのベクトル場V1~V3のそれぞれは、
図4に示した結晶において誘起されている電気トロイダル双極子の一例を示す。ベクトル場V1は、粒子A1上に誘起されている電気トロイダル双極子である。ベクトル場V2は、粒子A2上に誘起されている電気トロイダル双極子である。ベクトル場V3は、粒子A3上に誘起されている電気トロイダル双極子である。なお、
図5では、
図4に示した結晶において誘起される電気トロイダル双極子(すなわち、ベクトル場V1~ベクトル場V3等)を、当該結晶の外側から内側へ向かう矢印ベクトルによって示している。しかしながら、実際の当該電気トロイダル双極子は、現段階においていずれの方向を向いて誘起されるのか測定することができておらず、当該矢印ベクトルが示す方向とすべて逆向きに誘起される場合があることを付記しておく。
【0046】
一方、
図6は、右手系のカイラリティを有するテルルの結晶の他の例を示す図である。以下では、説明の便宜上、
図6に示した三次元座標系TCのZ軸の正方向を第2方向と称して説明する。
図6に示した通り、テルルの結晶は、右巻の螺旋構造を有している。また、
図6に示した点線の矢印は、
図6に示したテルルの結晶が右巻の螺旋構造を有していることを明確に示すための補助線であり、この右巻の螺旋構造上に配置した仮想的な点が当該右巻の螺旋構造に沿って第2方向に向かって移動した場合の軌跡を示している。換言すると、当該矢印は、
図6に示した右手系のテルルの結晶と右ねじが進む方向との関係性を示している。
図6に示したテルルの結晶も、当該結晶の螺旋構造の中心軸が三次元座標系TCにおけるZ軸と平行な軸となるように配置されている。例えば、
図6に示した粒子A4~粒子A6のそれぞれは、テルル原子の一例を示す。そして、粒子A4は、粒子A5と結合している。また、粒子A5は、粒子A6と結合している。
図6に示したテルルの結晶において、粒子A4上には、粒子A4に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。また、
図6に示したテルルの結晶において、粒子A5上には、粒子A5に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。また、
図6に示したテルルの結晶において、粒子A6上には、粒子A6に応じた電気トロイダル双極子が誘起される。
【0047】
ここで、
図7は、
図6に示した結晶において電気トロイダル双極子が誘起されている様子の一例を示す図である。ただし、
図7は、三次元座標系TCにおけるZ軸の負方向に向かって当該結晶を見た場合の当該結晶を示す図である。このため、
図7では、
図6に示したテルルの結晶を構成する複数の粒子のうち、粒子A4、粒子A5、粒子A6の3つの粒子以外の粒子は、粒子A4、粒子A5、粒子A6のそれぞれの背後に隠れて見えていない。
図7に示した3つのベクトル場V4~V6のそれぞれは、
図6に示した結晶において誘起されている電気トロイダル双極子の一例を示す。ベクトル場V4は、粒子A4上に誘起されている電気トロイダル双極子である。ベクトル場V5は、粒子A5上に誘起されている電気トロイダル双極子である。ベクトル場V6は、粒子A6上に誘起されている電気トロイダル双極子である。なお、
図7では、
図6に示した結晶において誘起される電気トロイダル双極子(すなわち、ベクトル場V4~ベクトル場V6等)を、当該結晶の内側から外側へ向かう矢印ベクトルによって示している。しかしながら、実際の当該電気トロイダル双極子は、現段階においていずれの方向を向いて誘起されるのか測定することができておらず、当該矢印ベクトルが示す方向とすべて逆向きに誘起される場合があることを付記しておく。ただし、一般的に、左手系のカイラリティを有するテルルの結晶に含まれる各粒子(すなわち、テルル原子)上に誘起される電気トロイダル双極子の当該結晶に対する方向と、右手系のカイラリティを有するテルルの結晶に含まれる各粒子(すなわち、テルル原子)上に誘起される電気トロイダル双極子の当該結晶に対する方向とは、互いに異なる方向である。
【0048】
図4~
図7に示したように、ある無機物質のカイラリティは、当該無機物質の結晶に誘起されている電気トロイダル双極子の方向によって区別することができる。このため、
図5に示した左手系のカイラリティを有するテルルの結晶では、電気トロイダル双極子を、当該結晶の外側から内側へ向かう方向に向かって誘起されるように描いている。また、
図7に示した右手系のカイラリティを有するテルルの結晶では、電気トロイダル双極子は、当該結晶の内側から外側へ向かう方向に向かって誘起されるように描いている。
【0049】
なお、テルル以外の無機物質のカイラリティについても、電気トロイダル双極子の向きによって規定することができる。そして、以下において説明する鏡像異性体の作り分けの原理は、テルル以外の無機物質に対しても、適用可能である。
【0050】
また、電気トロイダル双極子が誘起される無機物質の結晶構造は、テルルの結晶のように必ずしも螺旋構造ではない。また、高分子化合物のような有機物質が第2物質である場合、第2物質の構造は、螺旋構造よりも複雑な構造を有している。しかしながら、これらの場合であっても、第2物質には、電気トロイダル双極子が誘起される。そして、第2物質のカイラリティは、第2物質において誘起された電気トロイダル双極子の向きによって規定することができる。すなわち、電気トロイダル双極子が誘起される物質であれば、如何なる物質であれ、電気トロイダル双極子の向きによってカイラリティを規定することができる。そして、以下において説明する鏡像異性体の作り分けの原理は、このような有機物質に対しても、適用可能である。
【0051】
以上のようにして第2物質に誘起される電気トロイダル双極子は、第2物質を構成する複数の粒子同士の相対的な位置を示す位置ベクトルとの内積によって、新たなスカラー場として定義し直すことができる。これはすなわち、カイラリティを有する物質には、電気トロイダル双極子に加えて、このような新たなスカラー場が誘起されることを意味する。以下では、説明の便宜上、この新たなスカラー場を、電気トロイダル単極子と称して説明する。例えば、あるカイラリティを有する結晶に含まれる粒子として、第1粒子、第2粒子、第3粒子の3つの粒子を例に挙げると、これら3つの粒子の重心位置からの第1粒子の相対的な位置を示す位置ベクトルと第1粒子に誘起された電気トロイダル双極子との内積と、当該重心位置からの第2粒子の相対的な位置を示す位置ベクトルと第2粒子に誘起された電気トロイダル双極子との内積と、当該重心位置からの第3粒子の相対的な位置を示す位置ベクトルと第3粒子に誘起された電気トロイダル双極子との内積の総和によって定義されるスカラー場が、当該結晶に誘起される電気トロイダル単極子である。そして、電気トロイダル単極子は、擬スカラー場である。
【0052】
ここで、電気トロイダル単極子が誘起される物質へ外場を印加した場合において、ハミルトニアンにおける電気トロイダル単極子との相互作用項の形は、群論による対称性の議論に基づいて特定することができる。そして、そのような相互作用項が示す相互作用に基づく自由エネルギーFは、結合定数をa、電気トロイダル単極子をG0、予め決められた方向をZ軸方向とした場合におけるZ軸方向に向かって第1物質に印加される極性ベクトル場をEz、当該Z軸周りの回転場として第1物質に印加される軸性ベクトル場をωzによって示すと、以下に示した式(1)のように表される。
【0053】
【0054】
なお、上記の式(1)において、自由エネルギーFは、時間反転に対して不変でなければならない。このため、極性ベクトル場Ezと、軸性ベクトル場ωzとのうちの一方が時間反転に対して符号を変える場である場合は、極性ベクトル場Ezと、軸性ベクトル場ωzとのうちの他方は、時間変動する動的な場(すなわち、単調増加する場、単調減少する場、時間の経過とともに増減を繰り返すが全体として減少する場等)でなければならない。
【0055】
上記の式(1)によって表される自由エネルギーFは、結合定数aの符号にかかわらず、負の値として算出される。これは、自然界の現象が自由エネルギーを減少させる方向へ進むためである。ここで、結合定数aは、物質に応じて決まる値である。以下では、一例として、結合定数aが正である場合について説明する。この場合、極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとの積が正の値となるように、融解された第1テルルM1に対して極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとを印加しながら、当該第1テルルM1を冷却して第2テルルとして結晶化させると、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子は、前述の相互作用の存在により、負の値となるように誘起される。ここで、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子の値の符号は、第2テルルのカイラリティと対応付けることができる。以下では、一例として、電気トロイダル単極子の値が負であることと、左手系の第2テルルとが対応付けられている場合について説明する。この場合、すなわち、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子の値が負の値になることは、容器RS内において、左手系のカイラリティを有する第2テルルが選択的に生成されることを意味する。なお、実際には、電気トロイダル単極子の値が負であることと、左手系の第2テルルとが必ず対応付いているとは限らない。これは、電気トロイダル単極子の値の符号に対応付けられるカイラリティがテルルの場合について現時点で測定されていないからである。このため、繰り返しになるが、電気トロイダル単極子の値が負であることと、左手系の第2テルルとが対応付けられている場合、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子の値が負の値になることは、容器RS内において、左手系のカイラリティを有する第2テルルが選択的に生成されることを意味する。以下では、説明の便宜上、極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとの積が正の値である場合において式(1)により算出される自由エネルギーFを、左手系の結晶の自由エネルギーと称して説明する。一方、極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとの積が負の値となるように、融解された第1テルルM1に対して極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとを印加しながら、当該第1テルルM1を冷却して第2テルルとして結晶化させると、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子は、前述の相互作用の存在により、正の値となるように誘起される。ここで、電気トロイダル単極子の値が負であることと、左手系の第2テルルとが対応付けられている場合、電気トロイダル単極子の値が正であることと、右手系の第2テルルとが対応付けられる。このため、当該場合、電気トロイダル単極子の値が正であることは、右手系のカイラリティを有する第2テルルが選択的に生成されることを意味する。なお、実際には、電気トロイダル単極子の値が正であることと、右手系の第2テルルとが必ず対応付いているとは限らない。これも、電気トロイダル単極子の値の符号に対応付けられるカイラリティが、現時点で測定されていないからである。このため、繰り返しになるが、電気トロイダル単極子の値が正であることと、右手系の第2テルルとが対応付けられている場合、第2テルルに誘起される電気トロイダル単極子の値が正の値になることは、容器RS内において、右手系のカイラリティを有する第2テルルが選択的に生成されることを意味する。以下では、極性ベクトル場Ezと軸性ベクトル場ωzとの積が負の値である場合において式(1)により算出される自由エネルギーFを、右手系の結晶の自由エネルギーと称して説明する。
【0056】
図8は、融解された第1テルルM1に外場を印加せずに冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
図8に示したグラフの縦軸は、第2テルルの結晶の自由エネルギーを示す。そして、
図8に示した鞍点ELは、左手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。また、
図8に示した鞍点ERは、右手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。
図8に示したように、これら2つの最小値は、互いに同じ値である。このような場合、融解された第1テルルが冷却されて結晶化された第2テルルには、左手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶と、右手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶とは、ほぼ同じ量含まれることになる。
【0057】
一方、
図9は、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が正の値となるように、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
図9に示したグラフの縦軸は、第2テルルの結晶の自由エネルギーを示す。そして、
図9に示した鞍点ELは、第2テルルの左手系の結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。また、
図9に示した鞍点ERは、第2テルルの右手系の結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。
図9に示したように、第2テルルの左手系の結晶の自由エネルギーの最小値は、第2テルルの右手系の結晶の自由エネルギーの最小値よりも小さい。このため、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が正の値となるように、第1場F1と第2場F2との2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合、結晶化された第2テルルには、左手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶が選択的に含まれることになる。
【0058】
また、
図10は、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が負の値となるように、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合における第2テルルの左手系及び右手系それぞれの結晶の自由エネルギーを比較する図である。
図10に示したグラフの縦軸は、第2テルルの結晶の自由エネルギーを示す。そして、
図10に示した鞍点ELは、第2テルルの左手系の結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。また、
図10に示した鞍点ERは、第2テルルの右手系の結晶の自由エネルギーの最小値の一例を示す。
図10に示したように、第2テルルの右手系の結晶の自由エネルギーの最小値は、第2テルルの左手系の結晶の自由エネルギーの最小値よりも小さい。このため、極性ベクトル場E
zと軸性ベクトル場ω
zとの積が負の値となるように、第1場F1と第2場F2との2つの場を、融解された第1テルルM1に印加しながら冷却させた場合、結晶化された第2テルルには、右手系のカイラリティを有する第2テルルの結晶が選択的に含まれることになる。
【0059】
ここで、物質生成装置1において、第1場F1は、上記の式(1)における極性ベクトル場Ezの一例である。また、物質生成装置1において、第2場F2は、上記の式(1)における軸性ベクトル場ωzの一例である。すなわち、物質生成装置1は、容器RS内に収容された第1テルルM1が融解されてから、融解された第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されるまでの過程の少なくとも一部において、第1場F1と第2場F2との2つの場の積が正の値となるようにこれら2つの場を印加することにより、左手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。また、物質生成装置1は、当該過程の少なくとも一部において、第1場F1と第2場F2との2つの場の積が負の値となるようにこれら2つの場を印加することにより、右手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。そして、第1場F1と第2場F2との2つの場の積の値の符号は、第1場F1の方向に対する第2場F2の方向によって決まる。すなわち、例えば、第1場F1が電場であり、第2場F2が時間の経過とともに強さが単調増加する磁場であり、第1場F1の方向と第2場F2の方向とが同じ方向である場合、第1場F1と第2場F2との2つの場の積が正の値となる。この場合、物質生成装置1は、当該過程の少なくとも一部において、第1場F1と第2場F2との2つの場を印加すると、左手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。また、例えば、第1場F1が電場であり、第2場F2が時間の経過とともに強さが単調増加する磁場であり、第1場F1の方向と第2場F2の方向とが反対の方向である場合、第1場F1と第2場F2との2つの場の積が負の値となる。この場合、物質生成装置1は、当該過程の少なくとも一部において、第1場F1と第2場F2との2つの場を印加すると、右手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。以上のような鏡像異性体の作り分けの原理は、テルルに限らず、電気トロイダル双極子が誘起される他の如何なる無機物質に対しても適用可能であり、且つ、電気トロイダル双極子が誘起される他の如何なる有機物質に対しても適用可能である。
【0060】
<物質生成装置が第1テルルから第2テルルを生成する処理>
以下、
図11を参照し、物質生成装置1が1種類以上の第1物質から第2物質を生成する処理の一例として、物質生成装置1が第1テルルM1から第2テルルを生成する処理について説明する。
図11は、物質生成装置1が第1テルルM1から第2テルルを生成する処理の流れの一例を示す図である。なお、以下では、一例として、物質生成装置1が第1テルルM1から左手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成する場合について説明する。このため、以下では、一例として、
図11に示したステップS110の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、第1場F1の方向と第2場F2の方向とが同じ方向となるように、第1場印加装置1B1と第2場印加装置1B2とのそれぞれが配置されている場合について説明する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、容器RS内に第1テルルM1が収容されている場合について説明する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、第1テルルM1から左手系のカイラリティを有する第2テルルを生成する処理を開始する操作を制御装置1Cが受け付けている場合について説明する。
【0061】
融解制御部161は、融解部HTを制御し、容器RSの内部を融解部HTに加熱させ、容器RS内に収容された第1テルルM1を融解する(ステップS110)。ここで、融解制御部161は、例えば、容器RS内の温度が、テルルの融点よりも高い所定の温度になるまで加熱することにより、容器RS内に収容された第1テルルM1を完全に融解する。この場合、例えば、容器RSには、温度センサーが設けられている。そして、この場合、融解制御部161は、この温度センサーからの出力に基づいて、容器RSの内部を融解部HTに加熱させ、容器RS内に収容された第1テルルM1を融解する。所定の温度は、事前の実験、熱力学に基づく理論計算等によって、容器RS内に収容された第1テルルM1が完全に融解する場合における容器RS内の温度として決められる。これにより、融解制御部161は、ステップS110において、容器RS内に収容された第1テルルM1を完全に融解することができる。なお、容器RS内に収容された第1テルルM1が完全に融解されていることは、容器RS内に収容された第1テルルM1がすべて融解されていることを意味する。また、融解制御部161は、ステップS110において、他の方法により、容器RS内に収容された第1テルルM1を完全に融解する構成であってもよい。
【0062】
次に、結晶化制御部162は、結晶化部CLを制御し、容器RS内を結晶化部CLに冷却させ始める(ステップS120)。
【0063】
次に、結晶化制御部162は、前述の温度センサーからの出力に基づいて、容器RS内の温度が温度T0に到達するまで待機する(ステップS130)。なお、結晶化制御部162は、ステップS130において、他の方法により、容器RS内の温度が温度T0に到達するまで待機する構成であってもよい。また、結晶化制御部162は、ステップS130において、第1テルルM1の温度が温度T0に到達するまで待機する構成であってもよい。
図11では、ステップS130の処理を「温度T0?」によって示している。
【0064】
印加制御部163は、容器RS内の温度が温度T0に到達したと結晶化制御部162が判定した場合(ステップS130-YES)、印加部1Bを制御し、第1場F1と第2場F2との2つの場の第1テルルM1への印加を印加部1Bに開始させる(ステップS140)。
【0065】
次に、結晶化制御部162は、第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されるまで待機する(ステップS150)。
図11では、ステップS150の処理を「結晶化?」によって示している。ここで、結晶化制御部162は、例えば、ステップS150において、前述の温度センサーからの出力に基づいて、容器RS内の温度が前述の温度T1以下であると判定した場合、第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されたと判定する。一方、結晶化制御部162は、例えば、ステップS150において、温度センサーからの出力に基づいて、容器RS内の温度が前述の温度T1より高いと判定した場合、第1テルルM1が第2テルルとして結晶化していないと判定する。なお、結晶化制御部162は、ステップS150において、他の方法により、第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されるまで待機する構成であってもよい。
【0066】
結晶化制御部162は、第1テルルM1が第2テルルとして結晶化されたと判定した場合(ステップS150-YES)、ステップS120において開始した冷却を終了させる。また、印加制御部163は、当該場合、ステップS140において開始した場の印加を終了させる(ステップS160)。そして、制御装置1Cは、
図11に示したフローチャートの処理を終了させる。
【0067】
以上のように、物質生成装置1は、第1場F1と第2場F2と電気トロイダル単極子との相互作用により、第1テルルM1から第2テルルの左手系を選択的に生成することができる。また、物質生成装置1は、ステップS140において印加する第2場F2の方向を反対の方向になるように第2場印加装置1B2を配置し直すことにより、第1テルルM1から右手系のカイラリティを有する第2テルルを選択的に生成することができる。すなわち、物質生成装置1は、カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる物質の鏡像異性体を作り分けることができる。
【0068】
以上のような無機物質の鏡像異性体の作り分けは、例えば、結晶のカイラリティに応じた特有の機能を持たせたデバイスの開発等に有用である。換言すると、物質生成装置1は、例えば、このような物質生成方法による無機物質の鏡像異性体の作り分けにより、結晶のカイラリティに応じた特有の機能を持たせたデバイスの開発を促進させることができる。
【0069】
なお、物質生成装置1は、前述した通り、融解された第1テルルの冷却の速さを調整可能な構成であってもよい。この場合、物質生成装置1は、融解された第1テルルの冷却の速さを調整する(例えば、当該速さを遅くする)ことにより、結晶化の効率を向上させることができる。
【0070】
<実施形態の変形例>
以下、実施形態の変形例について説明する。実施形態の変形例では、第2物質は、予め決められた種類の高分子化合物の一例であるアラニンである。また、実施形態の変形例では、1種類以上の第1物質は、アラニンの生成に用いる1種類以上の物質であり、例えば、アスパラギン酸と、アスパラギン酸の脱炭酸に必要な各種の酵素である。この場合、物質生成装置1の物質生成部1Aは、融解部HT及び結晶化部CLに代えて、混合部MXと、化学反応部CMを備える。また、この場合、物質生成装置1の制御装置1Cは、融解制御部161及び結晶化制御部162に代えて、混合制御部164、化学反応制御部165を備える。
【0071】
混合部MXは、容器RS内に収容された1種類以上の第1物質を混合させる装置である。
【0072】
化学反応部CMは、混合部MXによって混合された1種類以上の第1物質を第2物質として高分子化させる化学反応を起こさせる装置である。この一例において、化学反応部CMは、酵素を用いてアスパラギン酸の脱炭酸を起こさせてL-アラニンを生成させる装置である。
【0073】
混合制御部164は、混合部MXを制御する。
【0074】
化学反応制御部165は、化学反応部CMを制御する。
【0075】
<物質生成装置が1種類以上の第1物質から第2物質を生成する処理>
以下、
図12を参照し、物質生成装置1が1種類以上の第1物質から第2物質を生成する処理の一例として、物質生成装置1がアスパラギン酸及び各種の酵素から、左手系のカイラリティを有するアラニンであるL-アラニンを選択的に生成する処理について説明する。この場合、前述の対象過程は、混合部MXによってアスパラギン酸及び各種の酵素が混合されてから、化学反応部CMによってアスパラギン酸の脱炭酸が行われた結果としてアラニンが生成されるまでの過程である。
図12は、物質生成装置1がアスパラギン酸及び各種の酵素からL-アラニンを選択的に生成する処理の流れの一例を示す図である。なお、以下では、一例として、
図12に示したステップS210の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、第1場F1の方向と第2場F2の方向とが同じ方向となるように、第1場印加装置1B1と第2場印加装置1B2とのそれぞれが配置されている場合について説明する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、容器RS内にアスパラギン酸及び各種の酵素が収容されている場合について説明する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、物質生成装置1がアスパラギン酸及び各種の酵素から、L-アラニンを生成する処理を開始する操作を制御装置1Cが受け付けている場合について説明する。
【0076】
混合制御部164は、混合部MXを制御し、容器RSの内部を混合部MXに攪拌させ、容器RS内に収容されたアスパラギン酸及び各種の酵素を混合する(ステップS210)。ここで、混合制御部164は、例えば、ステップS110において、予め決められた時間が経過するまでの間、容器RSの内部を混合部MXに攪拌させる。予め決められた時間は、事前の実験等によって、容器RSの内部のアスパラギン酸及び各種の酵素が完全に混合するのに要する時間として決められる。
【0077】
次に、印加制御部163は、印加部1Bを制御し、第1場F1と第2場F2との2つの場のアスパラギン酸及び各種の酵素への印加を印加部1Bに開始させる(ステップS220)。
【0078】
次に、化学反応制御部165は、化学反応部CMを制御し、酵素を用いてアスパラギン酸の脱炭酸を起こさせてアラニンを生成させる化学反応を化学反応部CMに開始させる(ステップS230)。
【0079】
次に、化学反応制御部165は、ステップS230において開始した化学反応が終了するまで待機する(ステップS240)。化学反応制御部165は、例えば、ステップS230の処理を開始したタイミングから所定の待機時間が経過したと判定した場合、当該化学反応が終了したと判定する。一方、化学反応制御部165は、例えば、当該タイミングから所定の待機時間が経過していないと判定した場合、当該化学反応が終了していないと判定する。なお、化学反応制御部165は、ステップS240において、他の方法により、当該化学反応が終了するまで待機する構成であってもよい。
【0080】
制御装置1Cは、ステップS230において開始した化学反応が終了したと化学反応制御部165が判定した場合(ステップS240-YES)、
図12に示したフローチャートの処理を終了させる。
【0081】
以上のように、物質生成装置1は、第1場F1と第2場F2と電気トロイダル単極子との相互作用により、アスパラギン酸及び各種の酵素からL-アラニンを選択的に生成することができる。また、物質生成装置1は、ステップS220において印加する第2場F2の方向を反対の方向になるように第2場印加装置1B2を配置し直すことにより、アスパラギン酸及び各種の酵素から右手系のカイラリティを有するアラニンであるD-アラニンを選択的に生成することができる。すなわち、物質生成装置1は、カイラリティを有する物質の鏡像異性体を作り分ける原理に基づいて、生成する対象となる有機物質の鏡像異性体を作り分けることができる。
【0082】
以上のような有機物質の鏡像異性体の作り分けは、例えば、創薬の効率化等において有用である。換言すると、物質生成装置1は、例えば、このような物質生成方法による有機物質の鏡像異性体の作り分けにより、創薬の効率化を図ることができる。
【0083】
なお、上記において説明した事項は、物質生成装置1としての機能を損なわない限りにおいて、如何様に組み合わされてもよい。
【0084】
以上説明したように、実施形態に係る物質生成方法は、1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成ステップと、生成ステップによって1種類以上の第1物質から第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加ステップと、を有し、第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、第1場と第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、第1場と第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。これにより、物質生成方法は、生成する対象となる対象物質の左手系と右手系とを作り分ける原理に基づいて、対象物質の左手系と右手系とを作り分けることができる。ここで、上記において説明した例では、第1テルルM1は、1種類以上の第1物質の一例である。また、上記において説明した例では、アスパラギン酸及び各種の酵素は、当該1種類以上の第1物質の一例である。また、上記において説明した例では、第2テルル及びアラニンのそれぞれは、当該第2物質の一例である。また、上記において説明した例では、第1場F1は、当該第1場の一例である。また、上記において説明した例では、第2場F2は、当該第2場の一例である。また、上記において説明した例では、時間変動しない静的な電場は、当該時間変動しない静的な場の一例である。
【0085】
また、物質生成方法では、1種類以上の第1物質は、予め決められた1種類の無機物質であり、第2物質は、結晶化された無機物質であり、物質生成ステップは、無機物質を加熱して融解する融解ステップと、融解ステップにより融解された無機物質を冷却して第2物質として結晶化させる結晶化ステップと、を含み、生成ステップによって無機物質から第2物質が生成される過程は、融解ステップによって無機物質が融解されてから、結晶化ステップによって無機物質が第2物質として結晶化されるまでの過程である、構成が用いられてもよい。ここで、上記において説明した例では、第1テルルは、当該無機物質の一例である。また、上記において説明した例では、第2テルルは、当該第2物質の一例である。
【0086】
また、物質生成方法では、印加ステップは、結晶化ステップによって無機物質の温度が無機物質の融点よりも高い予め決められた温度になった場合に、無機物質への2つの場の印加を開始する、構成が用いられてもよい。ここで、上記において説明した例では、温度T0は、当該予め決められた温度の一例である。
【0087】
また、物質生成方法では、第2物質は、高分子化合物であり、1種類以上の第1物質は、第2物質の生成に用いる1種類以上の物質であり、物質生成ステップは、1種類以上の第1物質を混合させる混合ステップと、混合ステップによって混合された1種類以上の第1物質を第2物質として高分子化させる化学変化を起こさせる化学反応ステップと、を含み、生成ステップによって1種類以上の第1物質から第2物質が生成される過程は、混合ステップによって1種類以上の第1物質が混合されてから、化学反応ステップによって1種類以上の第1物質が第2物質として高分子化されるまでの過程である、構成が用いられてもよい。ここで、上記において説明した例では、L-アラニンは、当該第2物質の一例である。また、上記において説明した例では、アスパラギン酸及び各種の酵素は、当該1種類以上の第1物質の一例である。
【0088】
また、物質生成方法では、第1場は、時間変動しない静的な電場であり、第2場は、時間の経過に伴い強さが単調増加する動的な磁場であり、第2場の方向は、第1場の方向と同じ方向、又は、第1場の方向と反対の方向である、構成が用いられてもよい。
【0089】
また、物質生成方法では、第1場は、時間の経過に伴い強さが単調増加する動的な電場であり、第2場は、時間変動しない静的な磁場であり、第2場の方向は、第1場の方向と同じ方向、又は、第1場の方向と反対の方向である、構成が用いられてもよい。
【0090】
また、実施形態に係る物質生成装置は、1種類以上の第1物質から、生成する対象となる第2物質を生成させる物質生成部と、物質生成部によって1種類以上の第1物質から第2物質が生成される過程の少なくとも一部を含む期間において、1種類以上の第1物質に2つの場を印加する印加部と、を備え、第2物質は、電気トロイダル双極子が誘起される物質であり、2つの場のうちの一方の第1場は、極性ベクトル場であり、2つの場のうちの他方の第2場は、軸性ベクトル場であり、第1場と第2場とのうちの一方は、時間変動しない静的な場であり、第1場と第2場とのうちの他方は、時間変動する動的な場である。これにより、物質生成装置は、生成する対象となる対象物質の左手系と右手系とを作り分ける原理に基づいて、対象物質の左手系と右手系とを作り分けることができる。ここで、上記において説明した例では、物質生成部1Aは、当該物質生成部の一例である。また、上記において説明した例では、印加部1Bは、当該印加部の一例である。
【0091】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0092】
また、以上に説明した装置(例えば、物質生成装置1、制御装置1C)における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリー(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0093】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…物質生成装置、1A…物質生成部、1B…印加部、1B1…第1場印加装置、1B2…第2場印加装置、1C…制御装置、11…プロセッサー、12…記憶部、13…入力受付部、14…通信部、15…表示部、16…制御部、161…融解制御部、162…結晶化制御部、163…印加制御部、164…混合制御部、165…化学反応制御部、CL…結晶化部、CM…化学反応部、F1…第1場、F2…第2場、HT…融解部、M1…第1テルル、MX…混合部、RS…容器、TC…三次元座標系