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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124300
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/03 20060101AFI20230830BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20230830BHJP
   B43K 8/00 20060101ALI20230830BHJP
   B43K 23/08 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B43K8/03
C09D11/16
B43K8/00 100
B43K23/08 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027978
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】万田 純裕
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350KC03
2C350KF05
2C350NC04
2C350NC05
2C350NC19
2C350NC42
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD20
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039GA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】インク収容容器に紙基材を含む材料とすることで、脱プラスチックによる環境保護に貢献できる筆記具を提供する。
【解決手段】筆記具1は、インクを収容する容器本体2と、容器本体の口部29に配置された筆記部62と、筆記部を覆う着脱可能なキャップ部材68とを有し、容器本体内のインクを筆記部から滲出させることにより、被筆記面Wに対して筆記を可能にする。容器本体2は、紙を基材として容器最内層となる面にシーラント層3fを有する積層材3により成形され、シーラント層が貼り合わされて容器本体2を構成している。筆記部62は、容器本体の口部29において、着脱可能に取り付けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容する容器本体と、前記容器本体の口部に配置された筆記部と、前記筆記部を覆う着脱可能なキャップ部材とを有し、前記容器本体内のインクを前記筆記部から滲出させることにより、被筆記面に対して筆記を可能にする筆記具であって、
前記容器本体は、紙を基材として容器最内層となる面にシーラント層を有する積層材により成形され、前記シーラント層が貼り合わされて容器本体を構成していることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記筆記部は、前記容器本体の口部において、着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記容器本体の口部には、前記筆記部を支持するホルダーが配置され、前記筆記部は前記ホルダーに対して螺合により装着されることを特徴とする請求項2に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙基材によるインク収容容器を用いることで、環境への影響を低減させた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
容器内に塗料や絵の具、インクなどの液体を収容し、容器の口部に取り付けられた例えば合成樹脂多孔質体による筆記部に、前記したインクなどの液体を供給する筆記具が提供されている。
この筆記具によると、筆記部は比較的広い面積を有しており、容器内のインクなどの液体を多孔質体の筆記部に滲出させることで、被筆記面(紙面等)に対して塗布もしくは描画を施すことができる。
【0003】
この種の筆記具においては、一般に筆記部による描線幅が太くされ、比較的多量のインクが消費されることから、例えば特許文献1に開示されているように、比較的容量の大きなボトル型のインク収容容器が用いられる例が多い。したがって、この筆記具に用いられるインク収容容器は、例えばポリプロピレン(PP)樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などのプラスチック素材により成形したものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-123305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年においては海洋に流出するマイクロプラスチックの問題が注目されており、使い捨てを前提としたプラスチックの使用を控えるなど、地球環境問題に対する取り組みの機運が高まっている。
そこで、筆記具を構成する一部の部材に関しても、脱プラスチックに着目されており、本出願人は先に軸筒内に収容されて、前端部に筆記チップを装着したインク収容管について、紙基材を含む複合材により成形することで、低公害化を実現し得る筆記具用リフィールについての提案をしている。
【0006】
この発明は、これをさらに発展させて、前記したPP樹脂などのプラスチックにより成形した筆記具の把持部(軸筒)を兼ねる比較的大容量のインク収容容器に着目し、紙基材を含む材料に置き換えようとするものである。
これにより、脱プラスチックによる環境保護に貢献する筆記具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る筆記具は、インクを収容する容器本体と、前記容器本体の口部に配置された筆記部と、前記筆記部を覆う着脱可能なキャップ部材とを有し、前記容器本体内のインクを前記筆記部から滲出させることにより、被筆記面に対して筆記を可能にする筆記具であって、前記容器本体は、紙を基材として容器最内層となる面にシーラント層を有する積層材により成形され、前記シーラント層が貼り合わされて容器本体を構成していることを特徴とする。
【0008】
そして、前記筆記部は、前記容器本体の口部において、着脱可能に取り付けられることが望ましい。
この場合、好ましくは前記容器本体の口部には、前記筆記部を支持するホルダーが配置され、前記筆記部は前記ホルダーに対して螺合により装着される構成が採用される。
【発明の効果】
【0009】
前記したこの発明に係る筆記具によると、インクが収容される比較的容積が大きな容器本体は、紙を基材とした積層材により成形されるので、脱プラスチックによる環境保護に貢献することができる。
加えて、前記積層材における容器最内層となる面に施されたシーラント層を貼り合わせることで容器本体を構成するので、容器の密封性に優れた壊れ難いインク収容容器を提供することができる。
【0010】
また、紙を基材とした積層材により成形された容器本体は、PPなどのプラスチック素材による容器に比較して、容器全体に柔軟性を与えることができる。したがって、容器本体を適度に反復変形させることで、着色剤として前記した酸化チタンなどを含む容器内のインクに対して効果的に攪拌作用を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明に係る筆記具全体の外観構成を示し、(A)は筆記部にキャップ部材を装着した状態の斜視図、(B)はキャップ部材を外した状態の斜視図、(C)はさらに筆記部を外した状態の斜視図である。
図2図1に示す筆記具によって水平な被筆記面上に描線を描く状態を示した正面図である。
図3図1に示す筆記具の容器本体を形成する積層材の展開図である。
図4】同じく積層材の層構成を示す断面図である。
図5】筆記ユニットの全体構成を示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図、(D)は上面図、(E)は底面図である。
図6】筆記ユニットの拡大断面図であり、(A)は正面断面図、(B)は側面断面図である。
図7】筆記部を支持するホルダーの単品構成を示し、(A)は上部側から見た斜視図、(B)は底部側から見た斜視図、(C)は上面図、(D)は正面図、(E)は側面図、(F)は正面断面図である。
図8】筆記部の外観構成を示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図、(D)は上面図、(E)は底面図である。
図9】同じく筆記部の拡大断面図であり、(A)は正面断面図、(B)は側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明に係る筆記具について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
図1および図2は、この発明に係る筆記具の全体構成を示しており、この筆記具1は筆記インク(図示せず)を収容する容器本体2と、この容器本体2に形成した後述する口部29に配置された筆記部62と、前記筆記部62を覆う着脱可能なキャップ部材68とを有する。
これにより、容器本体2内のインクを、前記筆記部62の筆記体65に滲出させて、被筆記面Wに対して描線を描くことができる。
【0013】
容器本体2は、紙を基材とした積層材3(図3図4)により成形されており、図示例においては、胴部4が角柱状に成形されて、天面Tに形成された前記口部29に、筆記部62およびキャップ部材68等を含む筆記ユニット61が装着されている。
前記天面Tは、容器本体2の背面側から正面側に向かって、僅かに低くなる傾斜面になされ、この傾斜面に直交する方向に前記筆記部62が突出した状態で取り付けられている。したがって、図2に示すように筆記部62を下向きにして、水平の被筆記面Wに筆記部62を当接させた場合、容器本体2の胴部4は鉛直方向に対して、僅かに傾斜した姿勢をとることになる。
なお、容器本体2の底面Bは、胴部4の長手方向に直交して略正方形状に成形されており、この底面Bを水平面上に載置することで、筆記具1の容器本体2は鉛直方向に直立した状態で保管できるように構成されている。
【0014】
図3に、容器本体2を形成する積層材3を、展開した状態で示している。
この積層材3は、四角の筒状胴部4を形成するところの胴部縦折線5,6,7,8を介して、中央に胴部正面パネル9、その両側に胴部左右側面パネル10,11、さらにその両側に一対の胴部背面パネル12,13が連接して形成されている。なお、この例においては、一方の胴部背面パネル12には、端部に沿って貼付け代12aが形成されている。
また、容器本体2の天面Tを形成するところの胴部正面パネル9および胴部背面パネル12,13に、第1頂部横折線14を介して連接する天面パネル15,16と、胴部左右側面パネル10,11に第2頂部横折線17を介して連接する側面パネル18,19とを有する。
【0015】
前記した天面パネル15,16に第1トップシール横折線20を介して連接する第1トップシールパネル21,22と、一対の側面パネル18,19に第2トップシール横折線23を介して連接する一対の第2トップシールパネル24,25とを有する。
一対の側面パネル18,19には第2トップシールパネル横折線23の中点から第2頂部横折線17の両端を結ぶ傾斜罫線26,27が形成され、第2トップシールパネル24,25には第2トップシールパネル24,25の上端から垂下して第2トップシールパネル横折線23の中点に至る側面トップシール縦折線28が形成されている。
【0016】
なお、胴部正面パネル9に第1頂部横折線14を介して連接する天面パネル15には、筆記ユニット61が装着される円形状の口部29が、例えば打ち抜き加工により形成されている。
さらに、この実施形態においては、一対の側面パネル18,19および一対の側面パネル18,19が連接する胴部左右側面パネル10,11には、第2頂部横折線17を跨いで、胴部左右側面パネル10,11の中央部に、それぞれ折り曲げ誘導罫線30,31が設けられている。
【0017】
一方、容器本体2の底面Bを形成するところの胴部正面パネル9および胴部背面パネル12,13に、第1底部横折線34を介して連接する底面パネル35,36と、胴部左右側面パネル10,11に第2底部横折線37を介して連接する側面パネル38,39とを有する。
【0018】
前記した底面パネル35,36に第1ボトムシール横折線40を介して連接する第1ボトムシールパネル41,42と、一対の側面パネル38,39に第2ボトムシール横折線43を介して連接する一対の第2ボトムシールパネル44,45とを有する。
一対の側面パネル38,39には第2ボトムシールパネル横折線43の中点から第2底部横折線37の両端を結ぶ傾斜罫線46,47が形成され、第2ボトムシールパネル44,45には第2ボトムシールパネル44,45の下端から第2ボトムシールパネル横折線43の中点に至る側面トップシール縦折線48が形成されている。
【0019】
図4は、前記した容器本体2を形成する積層材3の層構造の一例を示ししている。
この積層材3は、容器本体2の外側から内側に向かって、第1の紙基材を構成する第1紙基材層3a、この第1紙基材層3aの内側に形成され、金属層またはシリカ蒸着層である中間層3c、前記中間層3cの内側に形成された第2の紙基材を構成する第2紙基材層3eを有する。そして、前記第1紙基材層3aと中間層3cとの間に両者を接合する第1接着層3b、前記中間層3cと第2紙基材層3eとの間に両者を接合する第2接着層3dを備えた層構造を形成している。
さらに、第2紙基材層3eの内側には超音波シールなどにより接着加工される熱可塑性樹脂によるシーラント層3fが形成される。また、第1紙基材層3aの外側には、必要に応じて筆記具1の商品名やロゴなどを記載した印刷層3gが形成される。
【0020】
前記第1紙基材層3aと、第2紙基材層3eを構成する紙基材には、同一の素材を用いることができ、上質紙、中質紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、板紙、白板紙、ライナー、微塗工紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、グラシン紙、パーチメント紙、およびバルカナイズドファイバー等の各種公知のものが使用可能である。これらの紙基材の密度は0.8g/cm以上であることが好ましい。密度0.8g/cm以上の紙基材を使用することにより、充分な耐水性や耐油性を付与することができる。
第1紙基材層3aおよび第2紙基材層3eを構成する紙基材は、特にグラシン紙、パーチメント紙またはバルカナイズドファイバーでかつ、密度0.8g/cm以上であるものがより好ましい。
【0021】
グラシン紙は、高密度で透明性の高い紙であり、バージンパルプを高度に叩解して比表面積を大きくして抄紙し、抄紙した紙をスーパーキャレンダーで処理し、緻密化すると共にセルロース繊維同士の結合を強化したものである。本発明では、坪量が20~50g/mのグラシン紙が用いられる。グラシン紙を第1紙基材層3aおよび第2紙基材層3eに用いることにより、耐水性や耐油性を付与することが容易となる。また、坪量が20~50g/mのグラシン紙を基紙としてその片面または両面に、ポリビニルアルコール水溶液等の塗工液を塗工したものを用いてもよい。グラシン紙の厚さは、通常20~50μm、好ましくは20~30μmである。
【0022】
パーチメント紙およびバルカナイズドファイバーは、製造過程における濃硫酸や塩化亜鉛溶液による処理により、セルロース繊維同士の直接的な結合を強化したもの、すなわち、セルロース繊維の間のセルロースの水素結合の密度を増加したものである。このため、パーチメント紙およびバルカナイズドファイバーを、第1紙基材層3aおよび第2紙基材層3eを構成する紙基材として用いれば、紙粉の発生を効果的に抑えることができる。
【0023】
パーチメント紙には、例えば、坪量が20~100g/mのものを用い、好ましくは、紙および板紙の吸水度試験方法(コッブ法)に準拠して水に替えて鉱物油を使用した場合の吸油度が13g/m以下となるように耐油性を高めたものを用いる。パーチメント紙の厚さは、通常20~100μm、好ましくは20~60μmである。
【0024】
バルカナイズドファイバーは、製造過程における反応性の違いから、パーチメント紙に比べて厚手にすることが容易である。したがって、紙基材として厚紙が必要な場合に適している。バルカナイズドファイバーの厚さは、製造時の扱い易さを考慮すると、通常0.08~1mm、好ましくは0.1~0.5mmである。また、バルカナイズドファイバーの密度は、通常0.8~1.4g/cmであり、入手しやすさを考慮すると、0.8~1.3g/cmが好ましい。
【0025】
また、パーチメント紙およびバルカナイズドファイバーには、樹脂含浸処理またはガラスコーティング処理を施してもよい。前記処理を施すことによって、セルロース繊維同士の結合がより強化され、これらの紙を、第1紙基材層3aおよび第2紙基材層3eを構成する紙基材として用いた場合にも、紙粉の発生を抑えることができる。
【0026】
前記した中間層3cは金属層またはシリカ蒸着層である。金属層は、紙基材の片面に、アルミニウム箔等の金属箔を、ポリオレフィン樹脂を含む接着剤で接着してもよいし、アルミニウム、または、アルミニウムおよび亜鉛の合金等を真空下に電子ビーム蒸着して設けてもよい。
【0027】
次に、第1紙基材層3aと中間層3cとを接合する第1接着層3b、中間層3cと第2紙基材層3eとの間を接合する第2接着層3dとなる接着剤について説明する。
ここで使用される接着剤は、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂からなる接着剤であってもよいし、該ポリオレフィン樹脂とその他の樹脂とを混合した接着剤であってもよい。
【0028】
ポリオレフィン樹脂は、具体的には、ポリエチレン系アイオノマー、ポリプロピレンアイオノマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンなどの他に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの変性ポリオレフィン樹脂も含む。これらのうち、ポリプロピレンアイオノマーおよび無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどが好ましい。
【0029】
その他の樹脂には、具体的には、アクリル酸共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エポキシ樹脂、カルボジイミド架橋剤、エチレン・酢酸ビニル共重合体またはポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂とその他の樹脂とを混合する場合、接着剤全量中、ポリオレフィン樹脂の割合は60~97重量%程度、好ましくは90~97重量%である。また、ポリオレフィン樹脂とその他の樹脂との合計中、ポリオレフィン樹脂の割合は68~98重量%程度、好ましくは93~98重量%とする。
【0031】
ポリオレフィン樹脂を含む接着剤は、ポリオレフィン樹脂、または、ポリオレフィン樹脂およびその他の樹脂の混合物をベースポリマーとする、ディスパージョン型またはエマルション型の樹脂液の形態で使用される。前記樹脂液には、必要に応じて、シランカップリング剤などの添加剤を添加してもよい。これらのうち、接着性および取扱い性に優れる点から、ポリプロピレンアイオノマーおよび無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどのディスパージョン型接着剤が好ましい。
【0032】
紙材に対して優れた接着力およびインク耐性を有するポリオレフィン樹脂を含む接着剤を塗布することで、第1紙基材層3a、中間層3cおよび第2紙基材層3eの層間が密着し、インクが漏出するのを防止することができる。インク耐性とは、インクへの接着剤樹脂成分の溶出を抑制できる程度を表すものである。ポリオレフィン樹脂を含む接着剤を使用した場合、インクとの相溶性が低いため、インク中にポリオレフィン樹脂が溶け出すことがなく、これらのインク耐性への効果に期待することができる。
【0033】
一方、第2紙基材層3eの内側に設けられるシーラント層3fについては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)などの熱可塑性樹脂を、好適に用いることができる。
【0034】
図3および図4に示す積層材3を用いて容器本体2を形成するには、一方の折り曲げ誘導罫線30を山折して、胴部左側面パネル10の外側半部と、これに連接する胴部背面パネル12を背面側に折り曲げ、また他方の折り曲げ誘導罫線31を山折して、胴部右側面パネル11の外側半部と、これに連接する胴部背面パネル13を背面側に折り曲げる。
これにより、胴部背面パネル12の貼付け代12aは、胴部背面パネル13の縁部に沿って対向する。また第1トップシールパネル21と22、および第2トップシールパネル24と25が対向すると共に、第1ボトムシールパネル41と42、および第2ボトムシールパネル44と45が対向する。
【0035】
前記した対向部分における前記シーラント層3eに、例えば超音波を当てて対向する面を貼り合わせることで、積層材3は背面の貼付け代12a部分と、上下が封止された状態の袋状に成形される。
この袋状の貼合わせ体における天面T側を形成する傾斜罫線26,27を山折りして、側面パネル18,19から略三角形状のフラップ32,33をそれぞれ左右に形成(図1図2参照)し、前記フラップ32,33を筒状胴部4の左右の側面となる胴部左右側面パネル10,11にそれぞれ折り重ねることで、前面に向かって傾斜した平坦な天面Tを形成することができる。
【0036】
同様に、袋状の貼合わせ体における底面B側を形成する傾斜罫線46,47を山折りして、側面パネル38,39から略三角形状のフラップ49,50をそれぞれ左右に形成し、前記フラップ49,50を底面パネル35,36にそれぞれ折り重ねることで、平坦な底面Bを形成することができる。
これにより、積層材3に施された胴部縦折線5,6,7,8によって、図1および図2に示すように胴部4が角柱状に成形された容器本体2を得ることができる。
そして、容器本体2の天面Tに形成された口部29に、筆記ユニット61を、接着等を用いて取り付けることで、図1および図2に示す筆記具1が形成される。
【0037】
図5および図6は、筆記部62を支持するホルダー67と、筆記部62を覆うキャップ部材68とからなる筆記ユニット61を示している。この筆記ユニット61はホルダー67内に筆記部62が収容されて取り付けられ、またホルダー67に対してキャップ部材68が螺合により着脱可能に取り付けられる。そして、前記ホルダー67が容器本体2の口部29において、容器本体2の前記した天面Tに沿って取り付けられて、筆記具1が構成される。
【0038】
前記キャップ部材68は、短小な円筒部68aの一端部に平坦な閉塞端面68bが、樹脂素材により一体成形されており、円筒部68aの内周面には雌ねじ68cが形成されて、前記ホルダー67に対して螺合により、着脱可能に取り付けられる。
【0039】
前記ホルダー67の単品構成が、図7に示されており、このホルダー67は平板状のフランジ67aの両面に、第1円筒部67bと第2円筒部67cが一体に樹脂成形されており、第1円筒部67bの外周面には、雄ねじ67dが施されている。
この雄ねじ67dは、前記したキャップ部材68の内周面に施された雌ねじ68cが螺合されることで、ホルダー67に対してキャップ部材68が取り付けられる。
【0040】
また、前記第1円筒部67bと第2円筒部67cの内周面は、同軸状に形成されて同一内径を有しており、この内周面には雌ねじ67eが形成されている。この雌ねじ67eには、後で説明する筆記部62が螺合により着脱可能に取り付けられるものとなる。
なお、前記した第2円筒部67cは、容器本体2の天面Tに形成された口部29に挿入されて位置決めされ、平板状のフランジ67aが、例えば接着剤によって天面Tに貼着されて取り付けられる。
【0041】
図8および図9は筆記部62を示しており、この筆記部62は、円筒状にして前面部に弁口63aを備え、周側面に雄ねじ63bが施された弁座部材63と、弁座部材63内に収容され、リング部材64aから立ち上がって、螺旋状に成形された複数のスプリング体64bにより付勢力が与えられる弁体64cを有する弁体部材64と、弁体部材64の前面側に取り付けられたシート状の筆記体65と、この筆記体65の周縁部を前記弁座部材63に対して取り付ける筆記体65の支持リング66より構成されている。
なお、前記した弁体部材64を構成するリング部材64a、複数のスプリング体64b、弁体64cは弾性を有する樹脂素材により、一体成形されている。
【0042】
前記シート状の筆記体65は、柔軟な発泡シート材料を用いて成形される。この筆記体65には、前記した発泡シート材料を円形に切断した素材が用いられ、前記した弁座部材63の前面側の形状に合わせて、中央部に球面状の凸部65a(図9参照)が成形される。
なお、この筆記体65の中央部に球面状の凸部65aを形成する部分は、前記した発泡シート材料の厚さをそのまま残し、その周縁部は、球面状の凸部65aに対して薄くなるように、例えばプレス加工により成形される。
【0043】
筆記体65の支持リング66は、前記した弁座部材63の前面に装着された筆記体65の周縁部を、弁座部材63の前面側周縁部に沿って押さえることで、面状の筆記体65を周縁部に沿って支持するものとなる。
この支持リング66は、樹脂素材により成形され、弁座部材63の前面側の周面に沿って溶着されることで取り付けられる。
【0044】
前記した筆記部62は、円筒状の弁座部材63の周面に雄ねじ63bが施されており、この雄ねじ63bを利用して、前記ホルダー67の内周面に施された雌ねじ67eに対して、着脱可能に装着されている。
したがって、筆記部62の筆記体65が摩耗した場合には交換が可能であり、筆記部62を取り外して容器本体2にインクを充填することで、容器本体2を再利用することもできる。
【0045】
容器本体2内に収容される好ましい筆記用インクとしては、顔料と、アセチレン結合を有する界面活性剤と、βプロピオラクトン化合物と、溶媒とを含んでなり、前記アセチレン結合を有する界面活性剤が6~15のHLB値を有し、前記βプロピオラクトン化合物が炭素数14~20の脂肪酸を構成原料としたアルキルケテンダイマーを含んだものが好適である。
【0046】
実施形態において、着色剤は従来知られている顔料、染料から任意に選択することができる。顔料としては、金属酸化物または金属塩などの無機顔料、有機色素顔料またはレーキ顔料などの有機顔料、ならびにアルミニウム顔料などの、光沢のある光輝性顔料が挙げられ、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。その中でも、特に酸化チタンを用いることが好ましく、後述する補色顔料などと組み合わせることで、多様な色彩を実現できるためである。
実施形態の筆記用インクにおいて、顔料は、被覆材により表面処理されていることが好ましく、該被覆材の材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛等の無機酸化物や、モリブデン等の金属、またはリン酸塩などが好ましい。これは、顔料を上記被覆材で表面処理することにより、インク中で顔料同士の凝集が抑制されて顔料の分散が安定し、また、顔料と水との反応が抑制されて気泡発生を抑えることができるからである。さらには、金属を含む顔料がインク製造時にミキサーなどから剪断力を受けた際、顔料が変形、損傷して、金属イオンが溶出することが抑制されるため、インクの経時安定性を向上させることが可能になるのである。上記の、インク中での分散安定性を考慮すれば、顔料の被覆材は、シリカまたはアルミナ、を含む無機酸化物であることがより好ましい。顔料について、被覆材により表面処理された顔料の被覆量は、被覆材により表面処理された後の顔料質量100質量部に対する被覆材の質量の割合は、0.01%質量部~20%質量部であることが好ましい。被覆量が上記数値範囲内であれば、インクの分散や金属の溶出抑制を容易とすることができる。
【0047】
実施形態において、無機酸化物で表面処理された顔料を用いる場合は、インク中での分散安定性を考慮すれば、インクにおいて、無機酸化物で表面処理された顔料は正の値または負の値の表面電荷を有することが好ましく、特にシリカを含む無機酸化物で処理された顔料を用いる場合は、負の値の表面電荷を有することが好ましく、アルミナを含む無機酸化物で処理された顔料を用いる場合は正の値を有することが好ましい。そのような顔料は、組成物において良好な分散性を呈するが、後述する顔料分散剤と組み合わせることによって、分散性や再分散性をさらに高めることができる。表面処理された顔料が上記の表面電荷を有する場合は、インク中での分散安定性を考慮すると、表面処理された顔料は酸化チタンであることが好ましい。顔料の平均粒子径は、0.01μm~30μmの体積基準であることが好ましい。顔料の平均粒子径が上記数値範囲内であれば、紙、布等の繊維間の隙間が大きい被筆記体に筆記した際においても、顔料が前記繊維間の隙間に入り込みづらく、鮮明な発色性が得られやすいためである。また、平均粒子径が上記数値範囲内の顔料を含むインクをマーカーなどの筆記用具に使用した場合、インク吐出性を向上させることができる。なお、本明細書中の平均粒子径は、一部の特記を除き、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)等を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。インクにおける顔料の含有量は、インクの総質量を基準として、1質量%~40質量%であることが好ましい。顔料の含有量が上記数値範囲内であれば、インク吐出性の低下を防止することができるとともに、インク、およびそれを用いて形成させた筆跡の鮮明性や隠蔽性を維持することができる。
【0048】
実施形態の筆記用インクは、顔料分散剤を含むことが好ましい。顔料分散剤と顔料とを組み合せることによって、顔料同士が凝集することを抑制し、インクの安定性を高めることが可能である。実施形態に用いられる顔料分散剤は、顔料の分散性を高める効果を奏するものであれば特に限定されないが、無機酸化物で表面処理された顔料を用いる場合は、顔料の分散安定性を考慮すると、アニオン性吸着基またはカチオン性吸着基を有する顔料分散剤を用いることが好ましい。実施形態の組成物にシリカを含む無機酸化物で表面処理された顔料を用いる場合は、顔料分散剤はカチオン性吸着基を有するものが好ましい。インク組成物の安定性や安全性を考慮すると、酸塩基性は中性付近であることが好ましいが、この液性においてインク組成物中の上記顔料は負の値の表面電荷を有するため、カチオン性吸着基が電気的引力によって顔料に吸着し易く、分散を容易とすることができる。顔料分散剤は、1種または複数種を用いることが可能である。また、組成物にアルミナを含む無機酸化物で表面処理された顔料を用いる場合は、顔料分散剤はアニオン性吸着基を有することが好ましい。前記酸塩基性において、上記顔料は正の値の表面電荷を有するため、アニオン性吸着基が電気的引力によって顔料に吸着し易く、分散を容易とすることができる。実施形態における顔料分散剤の含有量は、有効成分の固形分換算で、0.01質量%~5質量%であることが好ましい。また、前記着色剤のインク組成物全量に対する総含有量をA、顔料分散剤のインク組成物全量に対する総含有量をBとすると、B/Aは、0.005≦B/A≦0.5であることが好ましい。顔料分散剤の含有量および、顔料分散剤の含有量と着色剤の含有量との比が上記数値範囲内であると、顔料の分散性が良好となり、インク組成物の粘度が過度に高くなることを抑制することができる。
【0049】
実施形態の筆記用インクは、浸透剤を含んでなる。前記浸透剤は、ぬれ性の改善効果やインク組成物への溶解安定性を考慮すると、4~18のHLB値を有する界面活性剤であることが好ましい。ここで、界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記の式(1)によって算出される値をいう。グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲内の値を示し、数値が大きい程、化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量) ・・・(1)
浸透剤としては、構造中にアセチレン結合を有する界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、およびコハク酸系界面活性剤の中から、1種以上選択して用いることが好ましい。インクに上記のような界面活性剤を含有させることで、表面張力を下げて、フィルムなど非浸透性の記録媒体に対するインクのぬれ性を改善し、該非浸透性の記録媒体に対する筆跡カスレ・中抜けなどを良好として、筆記性を向上させることができる。前記浸透剤の中でも、アセチレン結合を有する界面活性剤は非常に安定性が高く、ぬれ性の改善効果を持続的に発揮することができ、該非浸透性の記録媒体に対する筆跡カスレ・中抜けなどを良好として、筆記性を向上させることができる。好ましい浸透剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤であり、気泡発生を抑制することに優れ、筆記の際の筆跡の泡立ちを抑えて、筆跡表面を平滑にする効果を奏しやすい。また、アセチレン結合を有する界面活性剤の含有量は、0.001質量%~1.5質量%であることが好ましい。含有量が上記数値範囲内であると、筆跡の泡立ち抑制性と、ぬれ性の向上とを両立させることができる。
【0050】
実施形態によるインクは、βプロピオラクトン化合物を含んでなることが好ましい。実施形態におけるβプロピオラクトン化合物は、βプロピオラクトン環を有する化合物であり、インク組成物において着色剤粒子や後述するポリオレフィン粒子や補色顔料と吸着し、着色剤の嵩高い凝集体を形成することにより、紙、布等の、繊維間に大きな隙間を有する被筆記体へ筆記した際、着色剤が前記繊維間の隙間を通って被筆記体内部へ浸透することを防ぎ、被筆記体の表面において着色剤を繊維に付着し易くして、筆跡の発色性を良好とするものである。また、非浸透面へ筆記した際は被筆記面へ吸着して、筆跡の定着性を向上させることができる。また、βプロピオラクトン化合物は滑り止め効果を有するので、組成物により形成された筆跡上に筆記する際、筆跡上に手脂等の潤滑性物質が付着している場合においても、筆記体のインク吐出部がスリップすることが抑制されるため、βプロピオラクトン化合物は、筆記の際に、筆跡が途切れることを抑制する効果をも有する。実施形態では、前記浸透剤と、βプロピオラクトン化合物を併用して用いることで、該非浸透性の記録媒体に対して、筆記性が向上するだけでなく、筆跡の定着性が向上すると同時に、紙、布等の繊維間の隙間が大きい被筆記体においても、優れた発色性や筆跡の高い定着性を奏する筆記具用インク組成物とすることができ、該非浸透面や浸透面のどちらにも良好に筆記することが可能である。実施形態においてβプロピオラクトン化合物は、上記効果を奏するものであれば特に限定されないが、炭素数10~24の脂肪酸を構成原料とした、アルキルケテンダイマーであることが好ましい。脂肪酸の炭素数が上記数値範囲内であると、βプロピオラクトン化合物は着色剤と吸着して嵩高い凝集体を形成し易く、また、インク組成物において安定に分散することが可能である。さらに、安定に分散することを考慮すれば、炭素数14~20の脂肪酸を構成原料とした、アルキルケテンダイマーであることがより好ましい。また、アルキルケテンダイマーは、構成原料である脂肪酸の炭素数が上記範囲を満たせば、炭素数が異なる、複数種の脂肪酸を構成原料としても良い。実施形態に用いられるβプロピオラクトン化合物は、嵩高い凝集体の形成性と分散性をより考慮すれば、炭素数18の脂肪酸を構成原料に含むアルキルケテンダイマーであることが特に好ましい。また、そのようなアルキルケテンダイマーは、平均粒子径0.1μm~2.0μmを有することが好ましい。平均粒子径が該数値範囲内であれば、アルキルケテンダイマーは、着色剤等と共に嵩高い凝集体を形成し易く、また、良好なインク吐出性を奏しやすい。上記のアルキルケテンダイマーはエマルションとして用いられることが好ましく、高い経時安定性を維持することが可能である。βプロピオラクトン化合物の含有量は、インク組成物全量に対して0.1質量%~4質量%とすることが好ましい。含有量が上記数値範囲内であると、インク粘度が高くなりすぎること、ならびに筆記する際のインク吐出性の低下を防止することができる。前記着色剤のインク組成物全量に対する総含有量と、後述する補色顔料のインク組成物全量に対する総含有量との和をA、βプロピオラクトン化合物のインク組成物全量に対する総含有量をBとした場合、0.005≦B/A≦0.5の範囲であることが好ましい。これは、上記数値範囲内であれば、着色剤が被筆記面の表面に、より定着し易くなり、発色性を良好とすると共に、インク組成物の粘度が高くなりすぎず、インク吐出性を良好とし、優れた筆記性としやすいためである。
【0051】
実施形態によるインクは、難水溶性樹脂を含んでなることが好ましい。難水溶性樹脂とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満である樹脂であり、インク組成物において、前記の、嵩高い凝集体、着色剤、および後述するポリオレフィン粒子に対して結合し、筆記の際、被筆記面へ接着することで、筆跡の、定着性や耐擦性を向上させ、筆跡の発色性を向上させるものである。そのため、実施形態の筆記用インクにおいては、βプロピオラクトン化合物と、難水溶性樹脂とを併用することで、より筆跡の定着性と発色性が向上するため、両者を併用することが好ましい。実施形態において難水溶性樹脂は、エマルション、またはディスパーションとして用いることが好ましく、これによって難水溶性樹脂は安定した分散状態をとることができる。筆跡の発色性や筆跡の定着性、耐擦性の向上を考慮すれば、実施形態の組成物はポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、およびポリエステル樹脂から1種以上を選択して含むことがより好ましい。ポリオレフィン樹脂またはアクリル樹脂を含むことにより、良好な発色性と、高い、筆跡の定着性および耐擦性を両立することができ、このような効果は、βプロピオラクトン化合物と上記難水溶性樹脂を併用することにより効果的に発現する。インクの発色性や定着性をより考慮すれば、インク組成物に用いられるポリオレフィン樹脂としては、エチレンとアクリル酸との共重合物がより好ましく、さらには、エチレンとアクリル酸との共重合物を変性し、自己乳化型としたものが特に好ましい。また、実施形態に用いられるアクリル樹脂は、繰り返し単位にアクリル酸またはメタクリル酸を含むポリマーであり、単独あるいは複数種のアクリル樹脂を用いることが可能である。より筆跡の定着性、耐擦性を向上させることを考慮すれば、アクリルスチレン樹脂が好ましく、さらに好ましくは、自己架橋型のアクリルスチレン共重合樹脂が好ましい。上記アクリル樹脂の分子量は特に限定されないが、一般に質量平均分子量で1,000~1,000,000のものが用いられる。また、実施形態に用いられるナイロン樹脂やポリエステル樹脂は、インク組成物の発色性や筆跡の定着性、及び耐擦性、の向上の効果を奏するものであれば特に限定されない。難水溶性樹脂の含有量は、インク組成物全量に対して0.1質量%~10質量%とすることが好ましい。また、前記、βプロピオラクトン化合物の、インク組成物全量に対する総含有量をA、前記難水溶性樹脂のインク組成物全量に対する総含有量をBとした場合、0.1≦B/A≦5の範囲であることが好ましい。難水溶性樹脂の含有量や、難水溶性樹脂の含有量とβプロピオラクトン化合物の含有量との比が上記数値範囲内であれば、より着色剤の被筆記面への定着性が高まると共に、優れた筆記性としやすいためである。
【0052】
溶媒としては、水、および水と有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水としては、イオン交換水、蒸留水および水道水などの慣用の水を用いることができる。また、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、有機溶剤としては、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどを用いることができる。グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの比較的沸点の高いジオール類またはトリオール類を用いることができるが、その配合量は少ないことが好ましい。なお、有機溶媒の含有率は、溶媒の総質量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましい。有機溶媒の含有率が溶媒の総質量に対して上記数値範囲内であれば、良好な、ドライアップ性能と筆跡乾燥性を両立させることができる。
インクにおける溶媒の含有量は、組成物の総質量を基準として、20質量%~90質量%であることが好ましい。溶媒の含有量は、上記数値範囲内であれば、各成分を安定的に溶解または分散することができ、インク中で再分散性が容易な嵩高い凝集体を作ることができる。
【0053】
また、実施形態の筆記用インク組成物はポリオレフィン樹脂粒子を用いることによって、筆跡により高い、定着性や耐擦性を付与することができる。ポリオレフィン樹脂粒子とは、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ならびにそれらの混合物から成る、表面潤滑性を有する微粒子であり、筆跡が擦過等の外力を受けた際、筆跡に過剰な力が加わることを抑制するものであって、上述の難水溶性樹脂とは異なる種類のポリオレフィン樹脂である。これらのポリオレフィンの分子量は特に限定されないが、例えば質量平均分子量が500~100,000であるポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子の質量平均分子量が上記数値範囲内であれば、このインクをマーカーなどの筆記具に用いて筆記を行った場合に、形成される筆記線に対し、より高い滑性と、それに伴う高い耐擦性を付与することができ、良好な筆跡を得ることができる。ポリオレフィン樹脂粒子は、必要に応じてポリオレフィン以外の材料を含んでいてもよい。そのため、前記難水溶性樹脂とポリオレフィン樹脂を併用して用いることで、筆跡の発色性や筆跡の定着性、耐擦性のより向上しやすいため、好ましく、特に、非浸透性の記録媒体に筆記する場合も、良好に筆記しやすい。ポリオレフィン樹脂粒子の形状は、特に限定されず、不定形、球状、針状、板状、方形など任意の形状をとることができる。ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径は、0.1μm~35μmであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径が上記数値範囲内であれば、このインクをマーカーなどの筆記具に用いて筆記を行った場合に、形成される筆記線に対し、より高い滑性と、それに伴う高い耐擦性を付与することができ、良好な筆跡を得ることができる。また、高い耐擦性を付与するという観点からは、0.1μm~25μmであることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により測定することができる。インクにおけるポリオレフィン樹脂粒子の含有量は、インクの総質量を基準として、0.01質量%~10質量%であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子の含有量が上記数値範囲内であれば、インク吐出性を維持することができるとともに、筆記線に対し、より高い滑性を付与することができる。
【0054】
実施形態によるインクは、得られる筆記線の色彩を調整するため、補色顔料を含んでいてもよい。特に、主たる顔料粒子として白色の酸化チタンを選択した場合、補色顔料との組み合わせにより種々の発色を実現できる。補色顔料は、特に限定されず、赤、青、黄、緑、白、黒など様々な色の顔料を用いることができ、また、該顔料を溶媒に分散させ、顔料分散体としたものを用いることが可能である。インクにおける補色顔料の含有量は、インクの総質量を基準として、0.01質量%~15質量%であることが好ましい。
【0055】
また、インクは、必要に応じて、体質材、防腐剤、消泡剤、防錆剤、pH調整剤、気泡抑制剤、気泡吸収剤、剪断減粘性付与剤および粘度調整剤などを含んでいてもよい。
【0056】
実施形態によるインクの粘度は低いことが好ましい。組成物の粘度の測定はE型回転粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて行うことができる。具体的には、20℃におけるインクの粘度は、回転数が100rpm(剪断速度380sec-1)の条件で測定した場合、1~100mPa・sであることが好ましい。また、回転数が10rpm(剪断速度38sec-1)の条件で測定した場合、1~600mPa・sであることが好ましい。回転数が1rpm(剪断速度3.8sec-1)においては、1~3000mPa・sであることが好ましい。インクの粘度が上記数値範囲内であれば、インク吐出性を向上させることができ、またフィルムなど非浸透性の記録媒体への筆記性が向上する。
インクの表面張力は、20℃環境下において、10~35mN/mが好ましい。表面張力が上記数値範囲内であれば、筆記線の滲みや、紙への裏抜けを防ぐことができる傾向にあると共に、インクのぬれ性を改善し、該非浸透性の記録媒体に対する筆跡カスレ・中抜けなどを良好として、筆記性を向上させることができる。特に、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、インクの表面張力の調整に好適である。なお、表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。インクのpHは、6~10であることが好ましい。インクのpHが上記数値範囲内であれば、インク組成物の変色や過度な高粘度化を抑制することが可能であり、また、インク組成物に、シリカまたはアルミナ、を有する無機酸化物で処理された顔料を用いる場合、前記顔料分散剤をさらに用いることによって、顔料の分散性をより向上させることができる。実施形態において、pHの値は、例えばIM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)により20℃にて測定することができる。実施形態によるインクは、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0057】
また、従来の着色剤を再分散させるためにインク収容容器内に収容される攪拌ボールを備えないことで、製造コストの低減と容器のリサイクルを容易にさせた筆記具を提供することができる。
【0058】
この実施の形態による筆記具1の筆記部62には、弁座部材63の弁口63aと弁体部材64の弁体64cによる中栓(バルブ弁)が搭載されている。
したがって、図2に示すように被筆記面Wに、筆記部62の筆記体65を押し当てることで、筆記体65を介して弁体部材64cを、スプリング体64bの付勢力に抗して後退させることができる。これにより、弁口63aに対する弁体64cの封止が解かれて、容器本体2内のインクは筆記体65に供給されて吸収される。
そして、筆記体65からインクが球面状凸部65aに向かって滲出することで、被筆記面Wに対して筆記が成される。
【0059】
なお、前記した実施の形態においては、容器本体2の口部29に装着される筆記部62には、弁口63aと弁体64cを含む中栓(バルブ弁)を備えた構成が採用されているが、この発明に係る筆記具1は、前記した中栓は必ずしも必要ではなく、容器本体2内のインクが、直接筆記体65に浸透する直液式の筆記具にも採用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 筆記具
2 容器本体
3 積層材
3a 第1紙基材層
3b 第1接着層
3c 中間層
3d 第2接着層
3e 第2紙基材層
3f シーラント層
3g 印刷層
4 胴部
29 口部
61 筆記ユニット
62 筆記部
65 筆記体
67 ホルダー
68 キャップ部材
T 天面
B 底面
W 被筆記面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9