(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124339
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】ウエハの製造方法、弾性波デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20230830BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H03H3/02 C
H03H9/17 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028053
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】横田 英樹
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB03
5J108DD02
5J108FF01
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】電極が設けられた状態において圧電層の分極処理を行うことが可能なウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】基板10と基板10上に設けられた圧電層14と、圧電層14における基板10側の第1面14aの一部に設けられた第1電極と、を備える積層体を準備する工程と、圧電層14における第1面14aの反対の第2面14bに第2電極を形成する工程と、圧電層14の温度を上昇させた状態において、第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、圧電層14を挟み第1電極と第2電極とが圧電層14を挟む第1領域15aにおける圧電層14の分極方向を、第1領域15aにおける電圧を印加する前の圧電層14の分極方向および第1領域15a以外の第2領域15bにおける電圧を印加した後の圧電層14の分極方向より揃える分極処理を行う工程とを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層における前記基板側の第1面の一部に設けられた第1電極と、を備える積層体を準備する工程と、
前記圧電層における前記第1面の反対の第2面に第2電極を形成する工程と、
前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、前記圧電層を挟み前記第1電極と前記第2電極とが前記圧電層を挟む第1領域における前記圧電層の分極方向を、前記第1領域における前記電圧を印加する前の前記圧電層の分極方向および前記第1領域以外の第2領域における前記電圧を印加した後の前記圧電層の分極方向より揃える分極処理を行う工程と、
を含むウエハの製造方法。
【請求項2】
前記圧電層は単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である請求項1に記載のウエハの製造方法。
【請求項3】
圧電基板に前記第1面からイオンを注入することで圧電基板内にイオン注入層を形成する工程と、
前記イオン注入層を形成する工程の後に、前記第1面の一部に前記第1電極を形成する工程と、
前記第1電極を形成する工程の後に、前記基板と前記第1面とを接合する工程と、
前記接合する工程の後に、前記圧電基板を前記イオン注入層から剥離することで前記圧電層を形成する工程と、
を含む請求項1または2に記載のウエハの製造方法。
【請求項4】
前記第2電極を形成する工程は、前記第2面の一部に、前記第1電極および前記圧電層とで弾性波素子を形成する前記第2電極を形成する工程を含む請求項1から3のいずれか一項に記載のウエハの製造方法。
【請求項5】
前記第2電極を除去する工程を備える請求項1から3のいずれか一項に記載のウエハの製造方法。
【請求項6】
前記第2電極を除去した後に、前記第2面に前記第1電極とで前記圧電層を挟み、前記第1電極および前記圧電層とで弾性波素子を形成する第3電極を形成する工程を含む請求項5に記載のウエハの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のウエハの製造方法を含み、
前記ウエハは、
複数の弾性波素子がそれぞれ形成される複数のチップ領域と、前記複数のチップ領域の間に設けられた切断領域と、を有し、
前記分極処理を行う工程は、前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記切断領域に設けられた第1配線を介し前記第1電極に電気的に接続された第1パッドと、前記切断領域に設けられた第2配線を介し前記第2電極に電気的に接続された第2パッドと、の間に前記電圧を印加する工程を含み、
前記切断領域において前記ウエハを切断することで前記複数のチップ領域から複数のチップを形成する工程を含む弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記請求項6に記載のウエハの製造方法を含み、
前記ウエハは、
複数の前記弾性波素子がそれぞれ形成される複数のチップ領域と、前記複数のチップ領域の間に設けられた切断領域と、を有し、
前記分極処理を行う工程は、前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記切断領域に設けられた第1配線を介し前記第1電極に電気的に接続されたパッドと、前記第2電極と、の間に前記電圧を印加する工程を含み、
前記切断領域において前記ウエハを切断することで前記複数のチップ領域から複数のチップを形成する工程を含む弾性波デバイスの製造方法。
【請求項9】
基板と、
前記基板上に設けられ、積層方向から見て少なくとも一部が重なる第1電極および第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に少なくとも一部が挟まれ、前記第1電極と前記第2電極とに挟まれた第1領域における分極方向は前記第1領域以外の第2領域の少なくとも一部における分極方向より揃った圧電層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項10】
前記第1電極から前記基板の端まで設けられた第1配線と、
前記第2電極から前記基板の端まで設けられた第2配線と、
を備え、
前記第1領域における前記圧電層の分極方向は、前記第2領域における前記圧電層の分極方向より揃っている請求項9に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記第1電極を前記基板の端まで設けられた配線を備え、
前記第2領域のうち前記第1電極および前記配線のいずれかが設けられた第3領域における前記圧電層の分極方向は、前記第2領域のうち前記第3領域以外の第4領域における前記圧電層の分極方向より揃っている請求項9に記載の弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハの製造方法、弾性波デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサに用いられる弾性波デバイスには、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウム等の圧電層が用いられている。圧電層の形成方法としてイオン注入剥離法が知られている。イオン注入剥離法では圧電基板の一定の深さにイオンを注入しイオン注入層を形成する。イオンを注入した圧電基板の面を基板に接合する。イオン注入層に沿って圧電基板の一部を剥離し、基板に接合された圧電層を形成することが知られている(例えば特許文献1、2)。イオン注入剥離法により形成された基板に接合された圧電層を加熱し電界を加えることで分極処理することが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-109909号公報
【特許文献2】国際公開第2009/081651号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン注入剥離法では、イオン注入や熱処理等により圧電層内の一部の分極方向が乱れ、圧電性が低下することがある。特許文献1では、イオン注入層により形成された圧電層を分極処理することで、圧電層内の分極方向を揃え圧電性を向上させることができる。しかしながら、圧電層に電極が設けられている状態において分極処理を行うと、電極により圧電層に電界が加わらず分極処理を行うことが難しい。イオン注入剥離法以外においても、圧電層に電極が設けられた状態において分極処理を行うことが求められることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電極が設けられた状態において圧電層の分極処理を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層における前記基板側の第1面の一部に設けられた第1電極と、を備える積層体を準備する工程と、前記圧電層における前記第1面の反対の第2面に第2電極を形成する工程と、前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、前記圧電層を挟み前記第1電極と前記第2電極とが前記圧電層を挟む第1領域における前記圧電層の分極方向を、前記第1領域における前記電圧を印加する前の前記圧電層の分極方向および前記第1領域以外の第2領域における前記電圧を印加した後の前記圧電層の分極方向より揃える分極処理を行う工程と、を含むウエハの製造方法である。
【0007】
上記構成において、前記圧電層は単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、圧電基板に前記第1面からイオンを注入することで圧電基板内にイオン注入層を形成する工程と、前記イオン注入層を形成する工程の後に、前記第1面の一部に前記第1電極を形成する工程と、前記第1電極を形成する工程の後に、前記基板と前記第1面とを接合する工程と、前記接合する工程の後に、前記圧電基板を前記イオン注入層から剥離することで前記圧電層を形成する工程と、を含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2電極を形成する工程は、前記第2面の一部に、前記第1電極および前記圧電層とで弾性波素子を形成する前記第2電極を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2電極を除去する工程を備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2電極を除去した後に、前記第2面に前記第1電極とで前記圧電層を挟み、前記第1電極および前記圧電層とで弾性波素子を形成する第3電極を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記ウエハの製造方法を含み、前記ウエハは、複数の弾性波素子がそれぞれ形成される複数のチップ領域と、前記複数のチップ領域の間に設けられた切断領域と、を有し、前記分極処理を行う工程は、前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記切断領域に設けられた第1配線を介し前記第1電極に電気的に接続された第1パッドと、前記切断領域に設けられた第2配線を介し前記第2電極に電気的に接続された第2パッドと、の間に前記電圧を印加する工程を含み、前記切断領域において前記ウエハを切断することで前記複数のチップ領域から複数のチップを形成する工程を含む弾性波デバイスの製造方法である。
【0013】
本発明は、上記ウエハの製造方法を含み、前記ウエハは、複数の前記弾性波素子がそれぞれ形成される複数のチップ領域と、前記複数のチップ領域の間に設けられた切断領域と、を有し、前記分極処理を行う工程は、前記圧電層の温度を上昇させた状態において、前記切断領域に設けられた第1配線を介し前記第1電極に電気的に接続されたパッドと、前記第2電極と、の間に前記電圧を印加する工程を含み、前記切断領域において前記ウエハを切断することで前記複数のチップ領域から複数のチップを形成する工程を含む弾性波デバイスの製造方法である。
【0014】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、積層方向から見て少なくとも一部が重なる第1電極および第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に少なくとも一部が挟まれ、前記第1電極と前記第2電極とに挟まれた第1領域における分極方向は前記第1領域以外の第2領域の少なくとも一部における分極方向より揃った圧電層と、を備える弾性波デバイスである。
【0015】
上記構成において、前記第1電極から前記基板の端まで設けられた第1配線と、前記第2電極から前記基板の端まで設けられた第2配線と、を備え、前記第1領域における前記圧電層の分極方向は、前記第2領域における前記圧電層の分極方向より揃っている構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1電極を前記基板の端まで設けられた配線を備え、前記第2領域のうち前記第1電極および前記配線のいずれかが設けられた第3領域における前記圧電層の分極方向は、前記第2領域のうち前記第3領域以外の第4領域における前記圧電層の分極方向より揃っている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極が設けられた状態において圧電層の分極処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1におけるウエハの平面図である。
【
図7】
図7(a)は、実施例1におけるウエハの一部の平面図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1におけるフィルタの回路図である。
【
図9】
図9は、実施例1におけるチップ領域にフィルタが設けられた平面図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図12】
図12(a)から
図12(c)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図15】
図15は、実施例2におけるチップ領域にフィルタが設けられた平面図である。
【
図17】
図17は、実施例3の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
図1は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。圧電層14の厚さ方向から見た表面に対する法線方向をZ方向、圧電層14の平面方向のうち上部電極16の引き出し方向を+X方向、X方向に直交する方向をY方向とする。左側に設けられている圧電薄膜共振器は、例えばラダー型フィルタの直列共振器Sであり、右側に設けられている圧電薄膜共振器は、並列共振器Pである。
【0021】
図1に示すように、基板10上に圧電層14が設けられている。圧電層14の第1面14aに下部電極12(第1電極)が設けられている。圧電層14の第2面14bに上部電極16(第2電極)が設けられている。共振領域50は、圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域により定義される。共振領域50の平面形状は任意であり、例えば矩形状もしくは五角形状等の多角形状または楕円形状等でもよい。並列共振器Pにおいては下部電極12下および上部電極16上にそれぞれ付加膜20aおよび20bが設けられている。付加膜20aおよび20bを設けることで、並列共振器Pの共振周波数は直列共振器Sの共振周波数より低くなる。付加膜20aおよび20bは少なくとも一方が設けられていればよい。
【0022】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力を印加すると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は、例えば下部電極12、圧電層14および上部電極16の厚さの合計のほぼ2倍である。基板10と音響反射膜30との界面はほぼ平坦であり、圧電層14の上面および下面はほぼ平坦である。圧電層14のうち、共振領域50は分極方向が揃った領域15aであり、領域15a以外の領域15bは領域15aより分極方向が揃っていない領域である。
【0023】
基板10と下部電極12との間における共振領域50に、音響反射膜30が設けられている。音響反射膜30では、複数の低インピーダンス層31と、複数の高インピーダンス層32と、が交互に積層されている。高インピーダンス層32の音響インピーダンスは低インピーダンス層31の音響インピーダンスより高い。平面視において音響反射膜30は、共振領域50に重なりかつ大きい。低インピーダンス層31の個数および高インピーダンス層32の個数は適宜設定できる。共振領域50およびその近傍以外の領域には高インピーダンス層32は設けられておらず、低インピーダンス層31が設けられている。音響反射膜30の代わりに空隙が設けられていてもよい。
【0024】
共振領域50外において下部電極12下に金属層24が設けられている。圧電層14を貫通し金属層24に接触する金属層26が設けられている。なお、圧電層14に貫通孔を形成した後に金属層26を形成するため、金属層26の周縁部は圧電層14上に設けられるが、
図1では、簡略化して図示している。共振領域50外において上部電極16に接触する金属層28が設けられている。金属層26および28は、それぞれ下部電極12および上部電極16を外部と電気的に接続するためのパッドとして機能する。
【0025】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs(ガリウム砒素)基板等でもよい。圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板であり、分極方向を揃える分極処理を行うことが求められる圧電基板である。
【0026】
下部電極12および上部電極16は、例えばアルミニウム(Al)膜であり、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。付加膜20aおよび20bは、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜または酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜または酸化ニオブ膜等の絶縁膜でもよい。
【0027】
低インピーダンス層31は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン等の音響インピーダンスの小さい材料である。高インピーダンス層32は、例えばタングステン、タンタル、モリブデン、ルテニウム等の音響インピーダンスの大きい材料により形成される。金属層24は、例えばアルミニウム層、金層または銅層等の低抵抗層である。金属層26および28は例えば、金層、銅層またはアルミニウム層等の低抵抗層である。金属層24、26および28は、下部電極12または上部電極16と接触するチタン膜、クロム膜またはニッケル膜等の密着膜を含んでもよい。
【0028】
例えば、圧電層14に励振する弾性波が厚みすべり振動である例を説明する。圧電層14を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のYZ平面内の方向となる。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。また、X方向を結晶方位でX軸方向とし、Z方向を、結晶方位のYZ平面内においてX軸方向を中心にZ軸方向からY軸方向に105°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0029】
別の例として、圧電層14をXカットタンタル酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のX軸方向である。これにより、圧電層14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。また、Y方向を結晶方位の+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0030】
例えば、共振周波数を3.7GHzとする場合、圧電層14を厚さが440nmの回転Yカットニオブ酸リチウム基板とし、下部電極12および上部電極16を各々厚さが44nmのアルミニウム層とする。下部電極12および上部電極16の厚さは各々圧電層14の厚さの1%~20%である。共振領域50のX方向の幅は例えば10μm~500μmである。
【0031】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)から
図3(b)は、
図1とは上下を逆転しZ方向を下方向に図示し、
図3(c)から
図5(b)では、
図1と同様にZ方向を上方向に図示している。なお、金属層24、付加膜20aおよび20bの形成については説明を省略する。
【0032】
図2(a)に示すように、-Z側の面および+Z側の面が平坦面である圧電基板15を準備する。圧電基板15は、例えば単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板であり、分極処理は行っていてもよいし、行っていなくてもよい。分極処理とは、圧電基板15をキュリー点以上の温度に加熱した状態で電界を加える処理であり、例えばインゴットの状態で行われる。分極処理を行うことにより、圧電基板15内の分極方向がほぼ揃った状態となる。以後、インゴットの状態で分極処理が行われている圧電基板15を例に説明する。
【0033】
図2(b)に示すように、矢印52のように、圧電基板15に第1面14aからイオンを注入する。イオンが注入される深さはほぼ一定である。これにより、圧電基板15の第1面14aから一定の深さにイオン注入層56が形成される。イオンは例えばヘリウムイオンまたは水素イオンである。圧電基板15の第1面14aからイオン注入層56の深さは例えば100nm~1μmである。圧電基板15の第1面14aとイオン注入層56との間の領域15bはイオンが通過する。このため、領域15bでは、圧電基板15の結晶性が劣化し、分極方向が乱れる。
【0034】
図2(c)に示すように、ほぼ平坦面である圧電基板15の第1面14aに下部電極12を形成する。下部電極12の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い下部電極12を所望形状にパターニングする。
【0035】
図3(a)に示すように、下部電極12を覆うように、圧電基板15の第1面14a上に、低インピーダンス層31および高インピーダンス層32を形成する。低インピーダンス層31および高インピーダンス層32の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。高インピーダンス層32のパターニングにはフォトリソグラフィ法およびエッチング法、またはフォトリソグラフィ法およびリフトオフ法を用いる。
【0036】
図3(b)に示すように、低インピーダンス層31上面を平坦化する。低インピーダンス層31の平坦化には、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いる。これにより、高インピーダンス層32と低インピーダンス層31とが交互に積層された音響反射膜30が形成される。
【0037】
図3(c)に示すように、上下を逆転させ、低インピーダンス層31の下面を基板10の上面に接合させる。接合には例えば表面活性化法を用いる。基板10と低インピーダンス層31との間にはシリコン膜、酸化アルミニウム膜等の接合層を設けてもよい。
【0038】
図4(a)に示すように、圧電基板15から圧電層14を剥離する。例えば基板10および圧電基板15を加熱し、熱応力により、圧電層14を剥離する。圧電層14の第2面14bを、CMP法を用い平坦化してもよい。以上により、基板10、音響反射膜30、下部電極12および圧電層14を備える積層体11が形成される。
【0039】
図4(b)に示すように、圧電層14の第2面14bに上部電極16を形成する。上部電極16の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い上部電極16を所望形状にパターニングする。これにより、共振領域50が形成される。
【0040】
図4(c)に示すように、共振領域50外に圧電層14を貫通する貫通孔23を形成する。貫通孔23は下部電極12を貫通し金属層24に達する。貫通孔23の形成には例えばエッチング法を用いる。金属層24は貫通孔23を形成するときのエッチングストッパとして機能する。貫通孔23内に下部電極12おび金属層24に電気的に接続される金属層26を形成し、上部電極16に電気的に接続する金属層28を形成する。
【0041】
図5(a)に示すように、基板10および圧電層14等を加熱する。圧電層14の温度を上昇させた状態において、電圧源54を用い、下部電極12と上部電極16との間に直流の電圧Vを印加する。これにより、共振領域50内の圧電層14に対し分極処理が行われる。共振領域50内の圧電層14の領域15aは領域15bより分極方向が揃う。分極処理における圧電層14の温度は、圧電層14のキュリー点以上またはキュリー点近傍の温度である。タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウムのキュリー点は607℃および1160℃である。圧電層14に加わる電界は5kV/cm~100kV/cmである。
【0042】
図5(b)に示すように、矢印58のように切断領域44において基板10、低インピーダンス層31および圧電層14を切断する。切断方法としては、例えばダイシングブレードを用いたダイシング法を用いる。これにより、ウエハが個片化され、弾性波素子が形成されたチップ45が製造される。
【0043】
[分極処理]
実施例1における分極処理の方法について説明する。
図6は、実施例1におけるウエハの平面図である。パッド36および配線34を破線で示し、パッド38および配線35を実線で示す。
図6に示すように、ウエハ40内にチップ(ダイ)となるチップ領域42がマトリックス状に配列されている。チップ領域42を囲む切断領域44はウエハ40を切断する領域であり、例えばストリップラインである。切断領域44にX方向に延伸する配線34および35が設けられている。X方向に延伸する1個の切断領域44にX方向に延伸する配線34および35が設けられている。配線34はウエハ40の-X端部に設けられたパッド36に電気的に接続され、配線35はウエハ40の+X端部に設けられたパッド38に電気的に接続されている。分極処理を行うときには、ウエハ40を加熱し、パッド36と38との間に電圧源54を接続し、パッド36と38との間に電圧Vを印加する。
【0044】
図7(a)は、実施例1におけるウエハの一部の平面図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A断面図である。
図7(a)では、下部電極12に電気的に接続されたパッド36、配線13および34を破線で示し、上部電極16に電気的に接続されたパッド38、配線17および35を実線で示す。分極方向が揃った領域15aをクロスで示す。以下の平面図も同様である。
図7(a)および
図7(b)に示すように、チップ領域42がX方向に3個並んだ領域を示している。1個のチップ領域42内には複数の共振領域50(例えば共振器)が設けられている場合が多いが、チップ領域42内に1個の共振領域50が設けられる例を示している。
【0045】
ウエハ40の端部の圧電層14上にパッド36および38が設けられている。配線34は、チップ領域42の+Y側の切断領域44に設けられX方向に延伸し、パッド36に電気的に接続されている。配線35は、チップ領域42の-Y側の切断領域44に設けられX方向に延伸し、パッド38に電気的に接続されている。チップ領域42内の下部電極12は配線13を介し配線34に電気的に接続されている。チップ領域42内の上部電極16は配線17を介し配線35に電気的に接続されている。パッド36、38、配線13、17、34および35は圧電層14の第2面14bに設けられた金属層26および28等(
図1参照)により形成されていてもよい。配線13および34は、圧電層14の第1面14aの下部電極12および金属層24等(
図1参照)により形成されていてもよい。
【0046】
ウエハ40を加熱した状態において、パッド36と38との間に電圧Vを印加すると、パッド36に加えた電圧は、配線34および13を介し下部電極12に印加され、パッド38に加えた電圧Vは、配線35および17を介し上部電極16に印加される。圧電層14の抵抗率は配線13、17、34および35の抵抗率より非常に大きいため、パッド36と38との間の電圧降下はほとんど圧電層14において生じる。よって、下部電極12と上部電極16との間の電圧は、ほぼパッド36と38との間の電圧Vとなる。これにより、共振領域50内の圧電層14は、分極方向が揃った領域15aとなる。領域15aはほぼ共振領域50であり、共振領域50以外の領域は分極方向が乱れた領域15bである。なお、領域15aは、圧電層14の厚さの範囲で共振領域50より大きくなる、または小さくなることもある。
【0047】
[チップの例]
実施例1におけるチップ領域42にフィルタが設けられた例を説明する。
図8は、実施例1におけるフィルタの回路図である。
図8に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。すなわち、並列共振器P1~P3の一端は入力端子Tinと出力端子Toutとの間の経路に接続され、並列共振器P1~P3の他端はグランド端子Tg1およびTg2に接続されている。直列共振器S1~S4および並列共振器P1~P3の個数は適宜設定できる。
【0048】
図9は、実施例1におけるチップ領域42にフィルタが設けられた平面図である。
図9に示すように、チップ領域42内に直列共振器S1~S4、並列共振器P1~P3、入力端子Tin、出力端子Tout、グランド端子Tg1およびTg2が設けられている。入力端子Tinは直列共振器S1の上部電極16に接続され、出力端子Toutは直列共振器S4の上部電極16に接続されている。グランド端子Tg1は並列共振器P1およびP3の上部電極16に接続されている。グランド端子Tg2は並列共振器P2の下部電極12に接続されている。直列共振器S1、S2および並列共振器P1の下部電極12は共通に下部電極12aに接続されている。直列共振器S2、S3および並列共振器P2の上部電極16は共通に上部電極16a接続されている。直列共振器S3、S4および並列共振器P3の下部電極12は共通に下部電極12bに接続されている。
【0049】
グランド端子Tg2、下部電極12aおよび12bは、それぞれ異なる配線13a~13cを介し、切断領域44に設けられた配線34に電気的に接続されている。入力端子Tin、出力端子Tout、グランド端子Tg1、および16aは、それぞれ異なる配線17a~17dを介し、切断領域44に設けられた配線35に電気的に接続されている。これにより、加熱時に配線34と35との間に電圧Vが印加されると、共振領域50における圧電層14に電圧Vが加わる。よって、共振領域50における圧電層14の分極方向が揃い領域15aが形成される。
【0050】
図10は、実施例1におけるチップ45の平面図である。
図5(b)のように、切断領域44においてウエハ40が切断されると、
図9の配線34および35は除去され、チップ領域42は、チップ45となる。これにより、フィルタの動作時に異なる電圧が加わるグランド端子Tg2、下部電極12aおよび12bは電気的に分離され、入力端子Tin、出力端子Tout、グランド端子Tg1、および16aは電気的に分離される。よって、チップ45はフィルタとして動作できる。
【0051】
実施例1によれば、
図2(a)~
図4(a)のように、基板10と基板10上に設けられた圧電層14と、圧電層14における基板10側の第1面14aの一部に設けられた下部電極12(第1電極)と、を備える積層体11を準備する。
図4(b)のように、圧電層14における第1面14aの反対の第2面14bに上部電極16(第2電極)を形成する。
図5(a)のように、圧電層14の温度を上昇させた状態において、下部電極12と上部電極16との間に電圧を印加する。これにより、下部電極12と上部電極16とが圧電層14を挟む共振領域50における圧電層14の分極方向を、共振領域50における電圧を印加する前の圧電層14の分極方向および共振領域50以外の第2領域における圧電層14の分極方向より揃える分極処理を行う。これにより、基板10と圧電層14との間に電極(例えば下部電極12)が形成されていても、圧電層14の所定領域に対し分極処理を行うことができる。領域15aおよび15bにおける圧電層14内の分極状態は、圧電応答力顕微鏡(Piezoresponse Forde Microscope)を用い観察できる。
【0052】
分極処理を行う前におけるニオブ酸リチウム基板またはタンタル酸リチウム基板では、単結晶内に、自発分極の分極方向が第1方向の領域と第1方向と異なる方向(例えば反対の方向)である第2方向の領域とが混在している。分極処理を行うことで、単結晶内の自発分極の分極方向は第1方向にほとんど揃い、自発分極の分極方向が第2方向の領域はほとんど存在しない。圧電応答力顕微鏡を用いることで、圧電層14内の分極方向が第1方向にほとんど揃った状態と、分極方向が揃っていない状態とを判別することができる。
【0053】
図4(b)のように、圧電層14の第2面14bの一部に、下部電極12および圧電層14とで弾性波素子を形成する上部電極16を形成する。これにより、共振領域50のみを領域15aとすることができる。
【0054】
図6のように、ウエハ40は、弾性波素子がそれぞれ形成される複数のチップ領域42と、複数のチップ領域42の間に設けられた切断領域44とを有している。パッド36(第1パッド)は、切断領域44に設けられた配線34(第1配線)を介し下部電極12に電気的に接続されている。パッド38(第2パッド)は、切断領域44に設けられた配線35(第2配線)を介し上部電極16に電気的に接続されている。圧電層14の温度を上昇させた状態において、パッド36と38との間に電圧Vを印加する。
図5(b)のように、切断領域44においてウエハ40を切断することで複数のチップ領域42から複数のチップ45を形成する。これにより、配線34および35を介し、下部電極12と上部電極16との間に電圧Vを印加し分極処理を行った後に、配線34および35を除去できる。
【0055】
このように、製造された弾性波デバイスでは、
図1のように、下部電極12と上部電極16とは、基板10上に設けられ、積層方向から見て少なくとも一部が重なる。単結晶の圧電層14は、下部電極12および上部電極16に少なくとも一部が挟まれている。下部電極12と上部電極16とに挟まれた共振領域50(第1領域)における圧電層14の分極方向は共振領域50以外の領域(第2領域)の分極方向より揃っている。このように、共振領域50の分極方向を揃えることができる。
【0056】
また、
図10のように、下部電極12および上部電極16は各々複数設けられている。配線13(第1配線)は、複数の下部電極12から基板10の端まで設けられ、配線17(第2配線)は、複数の上部電極16から基板10の端まで設けられている。共振領域50(領域15a)の分極方向は、共振領域50以外の領域の分極方向より揃っている。
実施例1および2によれば、圧電層14は単結晶タンタル酸リチウム基板または単結晶ニオブ酸リチウム基板である。これにより、分極処理により分極方向を揃えることができる。
実施例1および2では、SMR(Solidly Mounted Resonator)等の圧電薄膜共振器を例に説明したが、ウエハの製造方法、弾性波デバイスおよびその製造方法は、圧電薄膜共振器以外にラム波デバイスに適用することもできる。また、実施例1および2におけるウエハの製造方法は、インクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical System)スイッチ、光ミラーのようなアクチュエータの製造方法、加速度センサ、ジャイロセンサ、エナジーハーベス等のセンサの製造方法、またはMEMS素子の製造方法に適用できる。