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  • 特開-遊離硫黄の定量方法 図1
  • 特開-遊離硫黄の定量方法 図2
  • 特開-遊離硫黄の定量方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124354
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】遊離硫黄の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/06 20060101AFI20230830BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230830BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G01N30/06 Z
G01N30/88 H
G01N30/74 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028078
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐美
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物中に含まれる遊離硫黄の量を精度良く測定できる遊離硫黄の定量方法を提供する。
【解決手段】ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含むことを特徴とする遊離硫黄の定量方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、
トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含むことを特徴とする遊離硫黄の定量方法。
【請求項2】
クロマトグラフィーを用いて遊離硫黄を定量する請求項1記載の遊離硫黄の定量方法。
【請求項3】
紫外可視検出器を用い、測定波長280~330nmで遊離硫黄を検出する請求項1又は2記載の遊離硫黄の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遊離硫黄の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム中には、ゴムの架橋反応に寄与していない未反応の硫黄、すなわち遊離硫黄が含まれており、例えば、非特許文献1には、THFに浸漬し、得られた抽出液を分析する遊離硫黄の定量方法が開示されている。しかし、従来の方法では、得られる遊離硫黄の量のデータがばらつき、精度の高い定量方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ゴム協会誌第81巻第2号(2008)「HPLC法を用いた加硫ゴム中の遊離硫黄の定量」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、ゴム組成物中に含まれる遊離硫黄の量を精度良く測定できる遊離硫黄の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含むことを特徴とする遊離硫黄の定量方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含むことを特徴とする遊離硫黄の定量方法であるので、ゴム組成物中に含まれる遊離硫黄の量を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ゴム組成物のトルエン抽出液をHPLCに供し、UV-VIS検出器で得られたクロマトグラムの一例(測定波長264nm)
図2】ゴム組成物のトルエン抽出液をHPLCに供し、UV-VIS検出器で得られたクロマトグラムの一例(測定波長300nm)
図3】比較例、実施例の定量方法で分析された遊離硫黄量を示す図の一例
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含む。
【0009】
本発明者らは、先ず、ゴム組成物をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬して得られた抽出液を、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で分離し、測定波長264nmの紫外可視検出器で検出したクロマトグラムのピーク強度やピーク面積値を用いて遊離硫黄を定量すると、特に不溶性硫黄を含むゴム組成物(サンプル)中の遊離硫黄の測定値がばらつくという課題があることを見出した。
そしてその原因を検討し、THFに浸漬すると、サンプル中の不溶性硫黄が可溶性硫黄に転移するため、遊離硫黄の量が高く算出(測定)されていると推測された。
一方、本開示は、遊離硫黄の抽出にトルエンを用いる方法で、トルエン抽出では不溶性硫黄から可溶性硫黄への転移が防止されるため、精度良く遊離硫黄を測定できる。
【0010】
なお、トルエン抽出を用いると、トルエンに帰属されるUVピークと遊離硫黄に帰属されるUVピークとを分離できないという懸念が考えられるが、例えば、UV検出波長を264nmから280~330nmに変更することで、トルエンのUVピークの検出が抑えられ、より精度の良い遊離硫黄の定量が可能となる。
【0011】
本開示の遊離硫黄の定量方法は、トルエンを用いてゴム組成物(硫黄を含むゴム組成物)中の遊離硫黄を抽出する工程を含む。
【0012】
本開示において、「遊離硫黄」とは、ゴム組成物(サンプル)中に含まれる、架橋反応に寄与していない硫黄分を意味する。
【0013】
本開示に供されるゴム組成物(サンプル)は、少なくともゴム成分及び硫黄を含む。
使用可能なゴム成分は特に限定されず、例えば、ジエン系ゴムなどを使用できる。ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。また、ブチル系ゴム、フッ素ゴムなども挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
使用可能な硫黄は特に限定されず、ゴム工業において一般的に架橋剤として用いられる材料を使用でき、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。特に、本開示は、不溶性硫黄から可溶性硫黄への転移が懸念される不溶性硫黄を含むゴム組成物(サンプル)でも好適に適用できる。硫黄の市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記ゴム組成物(サンプル)において、硫黄の含有量は特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2.0質量部以上であり、また、好ましくは3.5質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.8質量部以下である。上記範囲内であると、精度良く遊離硫黄を測定できる傾向がある。
【0016】
前記ゴム組成物(サンプル)は、他の成分を含んでもよい。
他の成分は特に限定されず、ゴム分野で公知の材料が挙げられ、例えば、フィラー(シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどの無機フィラーなど)、シランカップリング剤、可塑剤(オイル、液状樹脂、固体樹脂など)、老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫促進剤などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本開示の定量方法は、未加硫のゴム組成物、加硫後のゴム組成物のいずれも適用可能である。本開示は、THFに代えてトルエンを用いることで不溶性硫黄から可溶性硫黄への転移を防止できる方法であるため、未加硫のゴム組成物、特に不溶性硫黄を含む未加硫のゴム組成物に好適に適用でき、サンプル中の遊離硫黄量を精度良く測定できる。
【0018】
前記ゴム組成物(サンプル)は、例えば、上述の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練することで、未加硫のゴム組成物を作製でき、またその後、加硫することで、加硫後のゴム組成物を作製できる。
【0019】
本開示では、トルエンを用い、前記ゴム組成物(サンプル)中の遊離硫黄を抽出する工程を行う。供されるゴム組成物(サンプル)は、抽出効率を上げる観点から、細かく裁断し、重量を精秤したものであることが望ましい。裁断した各サンプルのサイズは、好ましくは1~50mm、より好ましくは3~30mmである。
【0020】
前記工程において、抽出方法としては既知の種々の方法を用いることができ、例えば、浸漬抽出法、ソックスレー抽出法などが挙げられる。
【0021】
浸漬抽出法は、既知の手法を採用でき、例えば、ゴム組成物(サンプル)を15~60℃の条件下でトルエンに浸漬することにより実施できる。浸漬時間は、特に制限はなく、例えば、2~72時間とできる。浸漬中、必要に応じて撹拌機で撹拌してもよい。
【0022】
ソックスレー抽出法は、既知の手法を採用でき、例えば、加温されたトルエンが一旦気化した後に再度液化して抽出溶媒として作用することから、トルエンの沸点以上の温度で加温を行うことが好ましい。抽出時間は、特に制限はなく、例えば、2~72時間とできる。
【0023】
前記工程で抽出することで、遊離硫黄を含む抽出液が得られる。
得られた抽出液は、分析用試料としてそのまま機器分析装置に供することもできるし、また、有機溶剤で適宜希釈して遊離硫黄の濃度を調整して分析用試料とすることもできる。
【0024】
得られた抽出液に含まれる複数の成分の中から、遊離硫黄を分離するためにはクロマトグラフィーを用いることが望ましい。
クロマトグラフィーとしては、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどが挙げられるが、液体クロマトグラフィーが望ましい。液体クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が好ましい。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が望ましい。
【0025】
液体クロマトグラフィーとして、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィーなどが例示される。
【0026】
このようにして抽出液に含まれる複数の成分の中から分離された遊離硫黄は、各種検出装置で検出できる。検出装置としては、紫外可視検出器(UV-VIS検出器)、フォトダイオードアレイ検出器(PDA検出器)、示差屈折率検出器(RI検出器)、蛍光検出器(FL検出器)、蒸発光散乱検出器(ELSD検出器)など、一般的に用いられる検出器を広く使用できる。なかでも、精度良く測定できる観点から、UV-VIS検出器、PDA検出器が望ましい。
【0027】
定量は、抽出液をクロマトグラフィーに供し、検出装置で検出し、横軸がカラムのリテンションタイム、縦軸がピーク強度として出力されるピークの内、遊離硫黄に帰属されるピークの強度又は面積値を読み取ることによって実施できる。なお、種々の濃度の溶液(標準試料溶液)を機器分析装置に供し、検量線を作成することで、未知分析試料のピーク強度又は面積値から遊離硫黄量を算出できる。
【0028】
本開示の定量方法は、精度良く測定できる観点から、UV-VIS検出器又はPDA検出器を用い、測定波長280~330nmで遊離硫黄を検出することが望ましい。
図1、2は、ゴム組成物(サンプル)のトルエン抽出液をHPLCに供し、UV-VIS検出器又はPDA検出器で得られたクロマトグラムであり、図1は測定波長264nm、図2は測定波長300nmの場合を示している。
【0029】
測定波長264nmの図1では、トルエンに帰属されるピークも検出され、これと遊離硫黄に帰属されるピークとが重複している。一方、測定波長300nmの図2では、トルエンに帰属されるピークが抑えられ、遊離硫黄に帰属されるピークとの重複が抑えられている。
このように、測定波長を280~330nmとすることで、トルエンと遊離硫黄のピークの重複が抑えられ、より精度良く測定することが可能となる。
【0030】
以上のような定量方法により、未加硫のゴム組成物、加硫後のゴム組成物のいずれの場合もゴム組成物中の遊離硫黄量を精度良く測定でき、特に不溶性硫黄から可溶性硫黄への転移が測定精度に影響を及ぼすと考えられる不溶性硫黄を含む未加硫のゴム組成物の場合でも、精度良く測定することが可能である。
【0031】
また、本開示を用いて遊離硫黄を定量することで、隣接部材との接着不良への対策が可能となる。更にコードとゴムの接着には、多量の硫黄が必要となるが、遊離硫黄となってブルーミングすると、ゴム内部の硫黄量が減少し、接着不良になる懸念が考えられるが、本開示を用いて遊離硫黄量を調整することで、このような接着不良への対策も可能となる。
【実施例0032】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0033】
以下で用いた材料は、以下のとおりである。
IR:JSR(株)製イソプレンゴム(IR2200)
不溶性硫黄:日本乾留工業(株)製のM95
可溶性硫黄:鶴見化学(株)製粉末硫黄
THF:和光純薬(株)製テトラヒドロフラン
トルエン:関東化学(株)製特級トルエン
【0034】
<サンプル作製>
表1に示す配合に従い、IR、不溶性硫黄、可溶性硫黄をロール練りし、未加硫ゴム組成物を得て裁断し、裁断したサンプル(サイズ:2×2×2mm~3×3×3mm)を作製した(サンプルA、B)。
【0035】
【表1】
【0036】
<比較例>
サンプルA又はBをTHFに24時間浸漬して静置し、抽出液を得た(温度23℃、サンプル10mg/mL)。
下記装置、検出器を用い、下記測定条件下において、抽出液をGPCで分離してクロマトグラムを得、遊離硫黄に帰属されるピーク面積に基づいて遊離硫黄を定量した(測定波長264nm)。
【0037】
<実施例>
サンプルA又はBをトルエンに24時間浸漬して静置し、抽出液を得た(温度23℃、サンプル10mg/mL)。
下記装置、検出器を用い、下記測定条件下において、抽出液をGPCで分離してクロマトグラムを得、遊離硫黄に帰属されるピーク面積に基づいて遊離硫黄を定量した(測定波長300nm)。
【0038】
なお、遊離硫黄の定量は、別途、硫黄をTHF又はトルエンに溶解した液(標準試料溶液)を用いて作製した検量線を用いて行った。
【0039】
装置:島津製作所社製GPC
検出器:島津製作所社製PDA検出器
(測定条件)
カラム:SHODEX LF-804×2
移動相:THF
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
PDA検出波長:264nm、300nm
【0040】
上記で得られた比較例の定量方法によるサンプルA(THF抽出)及びサンプルB(THF抽出)の遊離硫黄量、実施例の定量方法によるサンプルA(トルエン抽出)及びサンプルB(トルエン抽出)の遊離硫黄量について、比較例の定量方法によるサンプルA(THF抽出)の抽出液中の遊離硫黄を100とし、指数表示した図を図3に示した。指数が大きいほど、遊離硫黄量が多量であると分析されたことを示す。
【0041】
比較例の定量方法(THF抽出)により不溶性硫黄を含むサンプルBの遊離硫黄を検出した場合、不溶性硫黄が遊離硫黄として検出され、精度が悪かった。この場合、不溶性硫黄が可溶性硫黄に転移したものと推察された。
一方、実施例の定量方法(トルエン抽出)により不溶性硫黄を含むサンプルBの遊離硫黄を検出した場合は、不溶性硫黄は遊離硫黄としてほとんど検出されず、精度良く、遊離硫黄を測定できた。この場合、不溶性硫黄から可溶性硫黄への転移が十分に抑制されたものと推察された。
【0042】
本開示(1)は、ゴム組成物中の遊離硫黄の定量方法であって、トルエンを用いて前記ゴム組成物中の遊離硫黄を抽出する工程を含むことを特徴とする遊離硫黄の定量方法である。
【0043】
本開示(2)は、クロマトグラフィーを用いて遊離硫黄を定量する本開示(1)記載の遊離硫黄の定量方法である。
【0044】
本開示(3)は、紫外可視検出器を用い、測定波長280~330nmで遊離硫黄を検出する本開示(1)又は(2)記載の遊離硫黄の定量方法である。

図1
図2
図3