(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124427
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】エンジンのノッキング判定装置および方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230830BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
F02B19/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028177
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】野口 知宏
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大育
(72)【発明者】
【氏名】柚木 晃広
【テーマコード(参考)】
3G023
3G384
【Fターム(参考)】
3G023AA06
3G023AD21
3G384DA55
3G384EB17
3G384ED07
3G384ED13
3G384FA29Z
3G384FA33Z
(57)【要約】
【課題】エンジンのノッキング判定装置および方法において、ノッキングの判定精度の向上を図る。
【解決手段】副室の火炎を主室に噴出して燃焼させる副室式エンジンにおいて、主室の圧力振幅を取得する圧力振幅取得部と、圧力振幅取得部が取得した圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する領域区画部と、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
副室の火炎を主室に噴出して燃焼させる副室式エンジンにおいて、
前記主室の圧力振幅を取得する圧力振幅取得部と、
前記圧力振幅取得部が取得した前記圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と前記筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する領域区画部と、
前記第1領域における前記圧力振幅の第1最大振幅と前記第2領域における前記圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する判定部と、
を備えるエンジンのノッキング判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第1最大振幅と前記第2最大振幅との比が予め設定された比判定値を超えるとノッキングが発生したと判定する、
請求項1に記載のエンジンのノッキング判定装置。
【請求項3】
前記第1領域または前記第2領域における前記第1最大振幅と前記第2最大振幅との比が前記振幅判定値以下であるとき、前記第1領域における最大筒内圧力に到達する時期と、前記第2領域における最大筒内圧力に到達する時期との時間差分が予め設定された時間差判定値より短いときに前記第1領域と前記第2領域を補正する領域補正部を有する、
請求項2に記載のエンジンのノッキング判定装置。
【請求項4】
前記時間差判定値は、前記第1領域および前記第2領域を合わせた領域にて、前記圧力振幅が最大になるときの最大筒内圧力と最小筒内圧力との各時期の時間差分の1/2として設定される、
請求項3に記載のエンジンのノッキング判定装置。
【請求項5】
前記領域補正部は、前記時間差判定値に基づいて前記第1領域と前記第2領域との境界位置を前記圧力振幅における圧力波形の1/4周期相当の時間差に基づいて補正する、
請求項3または請求項4に記載のエンジンのノッキング判定装置。
【請求項6】
副室の火炎を主室に噴出して燃焼させる副室式エンジンにおいて、
前記主室の圧力振幅を取得する工程と、
取得した前記圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と前記筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する工程と、
前記第1領域における前記圧力振幅の第1最大振幅と前記第2領域における前記圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する工程と、
を有するエンジンのノッキング判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンのノッキング判定装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火炎の伝播により燃焼するエンジンは、燃焼の進行につれて未燃ガスの圧力や温度が上昇し、火炎伝播の前に自己着火による燃焼、いわゆる、ノッキングが発生することがある。エンジンは、ノッキングの発生により燃焼室で圧力波が生じ、ピストンなどの燃焼室の構成部材が損傷するおそれがある。一方で、エンジンの熱効率を向上するためには、点火時期を進めることが効果的である。ところが、点火時期を進めるとノッキングが発生しやすくなり、点火時期の進角には限界がある。そのため、エンジンにおけるノッキングの発生を高精度に判定することが極めて重要となる。
【0003】
従来のエンジンのノッキング判定装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載されたノッキング判定装置は、検出した筒内圧力をフィルタ処理した後に圧力振幅(筒内圧力)を評価し、圧力振幅が既定値以上になるとノッキングが発生したと判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダヘッドに点火用の副室が設けられた副室式ガスエンジンが知られている。副室式エンジンは、主燃焼室に燃料と空気の混合気が供給されると共に、副室に燃料が供給される。そして、主燃焼室の混合気がピストンにより圧縮されるとき、副室の燃料が点火プラグにより点火され、火炎が主燃焼室へ噴出されることで、主燃焼室の混合気に点火されて火炎が伝播する。このような副室式のガスエンジンは、副室の火炎が主燃焼室へ噴出されるとき、トーチジェット噴出による圧力波が発生する。そのため、圧力振幅の大きさによりノッキングの発生を判定するとき、トーチジェット噴出による圧力波がノイズとして圧力振幅に影響を与え、ノッキングの発生を誤判定するおそれがある。
【0006】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、ノッキングの判定精度の向上を図るエンジンのノッキング判定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本開示のエンジンのノッキング判定装置は、副室の火炎を主室に噴出して燃焼させる副室式エンジンにおいて、前記主室の圧力振幅を取得する圧力振幅取得部と、前記圧力振幅取得部が取得した前記圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と前記筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する領域区画部と、前記第1領域における前記圧力振幅の第1最大振幅と前記第2領域における前記圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する判定部と、を備える。
【0008】
また、本開示のエンジンのノッキング判定方法は、副室の火炎を主室に噴出して燃焼させる副室式エンジンにおいて、前記主室の圧力振幅を取得する工程と、取得した前記圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と前記筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する工程と、前記第1領域における前記圧力振幅の第1最大振幅と前記第2領域における前記圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のエンジンのノッキング判定装置および方法によれば、ノッキングの判定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、副室式ガスエンジンの内部構成を表す概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のエンジンのノッキング判定装置を表す概略構成図である。
【
図3】
図3は、クランク角度に対する筒内圧力を表すグラフである。
【
図4】
図4は、エンジンのノッキング判定方法を表すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2実施形態のエンジンのノッキング判定装置を表す概略構成図である。
【
図6】
図6は、クランク角度に対する筒内圧力を表すグラフである。
【
図7】
図7は、エンジンのノッキング判定方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0012】
[第1実施形態]
<副室式ガスエンジン>
図1は、副室式ガスエンジンの内部構成を表す概略図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態のエンジンは、副室式ガスエンジン10である。第1実施形態では、エンジンを副室式ガスエンジン10としたが、主室と副室を有するものであれば、他の形式のエンジンであってもよい。副室式ガスエンジン10は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13とを備える。
【0014】
シリンダブロック11は、ブロック形状をなし、鉛直方向に沿って円柱形状をなす空間部が設けられ、空間部にシリンダライナ21が装着される。図示しないが、空間部は、シリンダブロック11の水平方向に間隔を空けて複数設けられる。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上部に配置され、複数のボルト(図示略)によりシリンダブロック11に締結される。
【0015】
ピストン13は、円柱形状をなし、シリンダブロック11のシリンダライナ21内に配置され、軸方向に沿って移動自在に支持される。シリンダブロック11は、図示しないが、下部にクランクシャフトが回転自在に支持され、ピストン14とクランクシャフトがコネクティングロッドを介して連結される。
【0016】
主燃焼室(主室)22は、シリンダブロック11におけるシリンダライナ21の内周面とシリンダヘッド12の下面とピストン13の頂面により区画される空間である。主燃焼室22は、シリンダヘッド12に設けられた吸気ポート23および排気ポート24の各端部が連通する。吸気ポート23は、吸気弁25の下端部が配置され、排気ポート24は、排気弁26の下端部が配置される。吸気弁25および排気弁26は、シリンダヘッド12に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、付勢部材(図示略)により吸気ポート23および排気ポート24を閉止する方向(
図1にて上方)に付勢される。吸気弁25および排気弁26は、図示しない吸気カムおよび排気カムが作用することで、吸気ポート23および排気ポート24を開放し、燃料ガスと空気の混合気が主燃焼室22に供給される。
【0017】
シリンダヘッド12は、主燃焼室22の上方に対向する下面に副室口金31が装着される。副室口金31は、主燃焼室22における径方向の中心部に位置すると共に、主燃焼室22側に突出する。副室口金31は、内部に副燃焼室(副室)32が設けられると共に、主燃焼室22側への突出部に複数の噴射口33が周方向に間隔を空けて形成される。副燃焼室32は、複数の噴射口33を介して主燃焼室22に連通する。
【0018】
また、シリンダヘッド12は、副室口金31の上方に副室ホルダ34が装着される。副室ホルダ34は、円筒形状をなし、副室ガス弁35が配置される。副室ガス弁35は、吸気行程中に開放されて副燃焼室32燃料ガスを供給することができる。シリンダヘッド12は、副室口金31と副室ホルダ34との間に点火プラグ36が装着される。点火プラグ36は、副燃焼室32に供給された燃料を含む混合気に着火することができる。
【0019】
副室式ガスエンジン10は、クランクシャフトが2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行する。このとき、吸気カムシャフトおよび排気カムシャフトが1回転し、吸気弁25および排気弁26が吸気ポート23および排気ポート24を開閉する。主燃焼室22に吸気ポート23から混合気が供給されると、ピストン13の上昇により混合気が圧縮される。
【0020】
一方、副室ガス弁35は、副燃焼室32に燃料ガスを供給する。そして、点火プラグ36は、副燃焼室32に供給された燃料ガスに着火する。すると、副燃焼室32で燃料ガスが燃焼することで燃焼ガスが発生する。副燃焼室32の燃焼ガスは、複数の噴射口33から主燃焼室22に火種(トーチ)として噴出される。主燃焼室22で圧縮された混合気は、副燃焼室32からの火種により燃焼する。ピストン13は、このときの燃焼によって発生した爆発荷重により押し下げられ、クランクシャフトを回転する。主燃焼室22で発生した燃焼ガスは、排ガスとして排気ポート24から排出される。
【0021】
<ノッキング判定装置>
図2は、第1実施形態のエンジンのノッキング判定装置を表す概略構成図である。
【0022】
図2に示すように、ノッキング判定装置40は、クランク角センサ41および筒内圧センサ42が接続される。クランク角センサ41は、クランクシャフトの回転角度(360度の位相)を検出し、ノッキング判定装置40に出力する。すなわち、クランク角センサ41は、クランクシャフトの回転角を、上死点を基準として検出する。例えば、クランクシャフトは、周方向に間隔を空けてスリットを有する円板が固定され、回転する円板を光学センサや電磁センサなどにより検出し、クランク位置(回転角)を出力する。筒内圧センサ42は、主燃焼室22(
図1参照)の圧力(以下、筒内圧力)を検出し、ノッキング判定装置40に出力する。筒内圧センサ42は、例えば、シリンダヘッドに装着された圧電式高温圧力センサである。
【0023】
また、ノッキング判定装置40は、エンジン制御部43に接続される。ノッキング判定装置40は、ノッキングの判定結果である副室式ガスエンジン10におけるノッキングの発生の有無をエンジン制御部43に出力する。エンジン制御部43は、ノッキングの判定結果に応じて副室式ガスエンジン10の進角時期などを制御する。
【0024】
ここで、ノッキング判定装置40およびエンジン制御部43は、制御装置である。ノッキング判定装置40およびエンジン制御部43としての制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。なお、ノッキング判定装置40とエンジン制御部43を一つの制御装置として構成してもよい。
【0025】
ノッキング判定装置40は、フィルタ処理部(圧力振幅取得部)51と、領域区画部52と、第1最大振幅算出部53と、第2最大振幅算出部54と、判定部55とを有する。
【0026】
フィルタ処理部51は、バンドパスフィルタであって、筒内圧センサ42が検出した筒内圧力から、一定の周波数により低周波成分および高周波成分を除去し、特定の周波数の圧力振幅を求める。すなわち、フィルタ処理部51は、クランク角度(時間)に対する主燃焼室22の圧力振幅の時間的な変化を取得する。
【0027】
領域区画部52は、フィルタ処理部51が取得したクランク角度に対する主燃焼室22の圧力振幅の変化を第1領域と第2領域に区画する。ここで、第1領域は、筒内圧最大値までの時間的な領域であり、第2領域は、筒内圧最大値以降の時間的な領域である。なお、第1領域の開始時期は、例えば、燃焼開始前であり、第2領域の終了時期は、燃焼終了後である。すなわち、第1領域は、燃焼開始前から筒内圧力が筒内圧最大値になるまでの期間であり、第2領域は、筒内圧力が筒内圧最大値になってから燃焼終了後までの期間である。
【0028】
第1最大振幅算出部53は、第1領域における圧力振幅の変化から第1最大振幅を算出する。すなわち、第1最大振幅算出部53は、第1領域における最大振幅になるときの最大筒内圧力と最小筒内圧力の差分を第1最大振幅として算出する。第2最大振幅算出部54は、第2領域における圧力振幅の変化から第2最大振幅を算出する。すなわち、第2最大振幅算出部54は、第2領域における最大振幅になるときの最大筒内圧力と最小筒内圧力の差分を第2最大振幅として算出する。なお、ここでいう振幅とは、圧力波形の隣り合う山と谷(または谷と山)の差分である。但し、振幅は、このような差分以外に、例えば、第1領域と第2領域の境界の位置での圧力とその前後の山または谷の差分も含むものである。
【0029】
判定部55は、第1領域における第1最大振幅と第2領域における第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する。すなわち、判定部55は、第1最大振幅に対する第2最大振幅との比が予め設定された比判定値を超えるとノッキングが発生したと判定する。
【0030】
<ノッキング判定方法>
図3は、クランク角度に対する筒内圧力を表すグラフ、
図4は、エンジンのノッキング判定方法を表すフローチャートである。
【0031】
第1実施形態のエンジンのノッキング判定方法は、主燃焼室22の圧力振幅を取得する工程と、取得した圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する工程と、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する工程とを有する。
【0032】
図3にて、上段の実線は、筒内圧センサ42が検出した筒内圧力であり、下段は、フィルタ処理部51が筒内圧力を処理した主燃焼室の圧力振幅である。
【0033】
筒内圧力は、時間(クランク角度)tpmaxで筒内圧最大値Pmaxになる。そのため、領域区画部52が区画した第1領域TW1は、燃焼開始前から時間tpmaxまでの期間であり、第2領域TW2は、時間tpmaxから燃焼終了後までの期間である。すなわち、筒内圧力が筒内圧最大値Pmaxに到達する時期を境として第1領域TW1と第2領域TW2を区画することで、第1領域TW1の圧力振幅は、ノッキングの影響を含まない振動となり、第2領域は、ノッキングが発生した場合はノッキングの影響が加わった振動となる。
【0034】
そして、第1領域では、時間(クランク角度)t1-maxで第1最大振幅P1となるときの最小筒内圧力Pt1-maxとなり、時間(クランク角度)t1+maxで第1最大振幅P1となるときの最大筒内圧力Pt1+maxとなる。そのため、第1最大振幅算出部53は、第1領域にて、最大筒内圧力Pt1+maxから最小筒内圧力Pt1-maxを減算することで、第1最大振幅P1を算出する。
【0035】
また、第2領域では、時間(クランク角度)t2+maxで第2最大振幅P2となるときの最大筒内圧力Pt2+maxとなり、時間(クランク角度)t2-maxで第2最大振幅P2となるときの最小筒内圧力Pt2-maxとなる。そのため、第2最大振幅算出部54は、第2領域にて、最大筒内圧力Pt2+maxから最小筒内圧力Pt2-maxを減算することで、第2最大振幅P2を算出する。
【0036】
判定部55は、第1領域TW1における第1最大振幅P1と第2領域TW2における第2最大振幅P2とを比較してノッキングの発生を判定する。すなわち、判定部55は、第1最大振幅P1と第2最大振幅P2と比P2/P1が比判定値Pjを超えるとノッキングが発生したと判定する。すなわち、第2領域における第2最大振幅P2が過大になることで、ノッキングが発生したと判定する。
【0037】
ノッキングの発生の判定方法を具体的に説明する。
図2および
図4に示すように、ステップS11にて、ノッキング判定装置40は、筒内圧センサ42が検出した筒内圧力を取り込む。ステップS12にて、フィルタ処理部51は、筒内圧力をフィルタ処理することで、クランク角度(時間)に対する主燃焼室22の圧力振幅を算出する。
【0038】
ステップS13にて、領域区画部52は、筒内圧最大値Pmaxになる時間(クランク角度)tpmaxを境界として、第1領域TW1と第2領域TW2を区画する。ステップS14にて、第1最大振幅算出部53は、第1領域にて、第1最大振幅P1となるときの最大筒内圧力Pt1+maxから第1最大振幅P1となるときの最小筒内圧力Pt1-maxを減算することで、第1最大振幅P1を算出する。ステップS15にて、第2最大振幅算出部54は、第2領域にて、第2最大振幅P2となるときの最大筒内圧力Pt2+maxから第2最大振幅P2となるときの最小筒内圧力Pt2-maxを減算することで、第2最大振幅P2を算出する。
【0039】
そして、ステップS16にて、判定部55は、第1領域TW1における第1最大振幅P1と第2領域TW2における第2最大振幅P2とを比較してノッキングの発生を判定する。すなわち、判定部55は、第1最大振幅P1に対する第2最大振幅P2の比P2/P1が比判定値Pj(例えば、1.3)を超えるか否かを判定する。判定部55は、第1最大振幅P1に対する第2最大振幅P2の比P2/P1が比判定値Pjを超えていると判定(Yes)すると、ステップS17にて、ノッキングが発生していると判定する。一方、判定部55は、第1最大振幅P1に対する第2最大振幅P2の比P2/P1が比判定値Pjを超えていないと判定(No)すると、ステップS18にて、ノッキングが発生していないと判定する。
【0040】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態のエンジンのノッキング判定装置を表す概略構成図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0041】
図1に示すように、副室式ガスエンジン10は、副燃焼室32の燃焼ガスが主燃焼室22に火種として噴出することで、主燃焼室22で圧縮された混合気が燃焼する。このとき、主燃焼室22では、火炎が広がる前に混合気が自己着火してノッキングが発生することがある。この場合、筒内圧力が最大値に到達する前に、ノッキングが発生するおそれがある。第2実施形態では、早期にノッキングが発生すると推定される場合、第1領域と第2領域の期間を補正することで、ノッキングの誤判定を抑制するものである。
【0042】
図5に示すように、ノッキング判定装置40Aは、フィルタ処理部51と、領域区画部52と、第1最大振幅算出部53と、第2最大振幅算出部54と、判定部55に加え、時間差算出部61と、誤判定評価部63と、領域補正部64とを有する。
【0043】
時間差算出部61は、第1領域における最大筒内圧力に到達する時期と、第2領域における最大筒内圧力に到達する時期との時間差分、つまり、時間差を算出する。
【0044】
誤判定評価部63は、判定部55によりノッキングが発生していないと判定されたとき、時間差の絶対値が時間差判定値より短いと判定したとき、ノッキングが発生していないとした判定は誤りの可能性があると評価する。このとき、領域補正部64は、第1領域と第2領域を補正する。
【0045】
この場合、誤判定評価部63は、第1領域および第2領域を合わせた領域にて、圧力振幅が最大になるときの最大筒内圧力と最小筒内圧力との各時期の時間差分の1/2から1を時間差判定値に設定する。すなわち、時間差判定値は、最大筒内圧力の時間から最小筒内圧力の時間を減算した絶対値の1/2から1の規定値である。つまり、時間差判定値は、圧力の1/4から1/2周期である。
【0046】
そして、領域補正部64は、時間差判定値(圧力波形の1/4から1/2周期の規定値)に基づいて第1領域と第2領域のそれぞれの区間の幅を変えずに両者の境界位置を補正する。なお、領域補正部64は、第1領域と第2領域との境界位置を、時間差判定値(圧力波形の1/4周期から1/2周期の規定値)だけ第1領域側にずらすことが好ましいが、この方法に限定されるものではない。領域補正部64は、第1領域と第2領域との境界位置を、圧力波形の1/4周期から圧力波形の1/2周期の間で第1領域側にずらせばよい。
【0047】
領域補正部64が第1領域と第2領域を補正すると、その後、再び、第1最大振幅算出部53、第2最大振幅算出部54、判定部55の処理を実行する。
【0048】
図6は、クランク角度に対する筒内圧力および熱発生率を表すグラフ、
図7は、エンジンのノッキング判定方法を表すフローチャートである。
【0049】
図6にて、上段の実線は、筒内圧センサ42が検出した筒内圧力であり、中段の実線は、筒内圧力から算出した主燃焼室の熱発生率であり、下段は、フィルタ処理部51が筒内圧力を処理した主燃焼室の圧力である。
【0050】
筒内圧力は、時間(クランク角度)tpmaxで筒内圧最大値Pmaxになるため、領域区画部52が区画した第1領域TW1は、燃焼開始前から時間tpmaxまでの期間であり、第2領域TW2は、時間tpmaxから燃焼終了後までの期間である。
【0051】
そして、早期にノッキングが発生する場合、第1領域TW1における最大筒内圧力Pt1+maxと、第2領域TW2における最大筒内圧力Pt2+maxとが同じになる。そのため、時間差算出部61は、第1領域における最大筒内圧力Pt1+maxに到達する時間tp1+maxと、第2領域における最大筒内圧力に到達する時間tp2+maxとの時間差分の絶対値(|tp2max+tp1+max|)、つまり、時間差tmを算出する。
【0052】
誤判定評価部63は、判定部55によりノッキングが発生していないと判定されたとき、時間差tmが時間差判定値tmjより短いと判定したとき、ノッキングが発生していないとした判定は誤りの可能性があると評価する。すなわち、時間差算出部61は、第1領域における最大筒内圧力Pt1+maxに到達する時間tp1+maxが第2領域における最大筒内圧力Pt2+maxに到達する時間tp2+maxと同時間であれば、時間差tm=0である。そのため、誤判定評価部63は、時間差tmが時間差判定値tmjより短いと判定し、ノッキングが発生していないとした判定は誤りの可能性があると評価する。
【0053】
この場合、誤判定評価部63は、第1領域TW1および第2領域TW2を合わせた領域にて、圧力振幅が最大になるときの最大筒内圧力Pt+maxと、最小筒内圧力Pt-maxとの各時間差分twmの1/2から1を時間差判定値tmjに設定する。そして、領域補正部64は、第1領域と第2領域との境界位置を、
図6に一点鎖線で示すように、時間差判定値(圧力の1/4周期から1/2周期の規定値)tmjだけ第1領域TW1側にずらす。
【0054】
ノッキングの発生の判定方法を具体的に説明する。
図2および
図7に示すように、ステップS11からステップS17までの処理は、第1実施形態と同様である。
【0055】
ステップS16にて、判定部55は、第1最大振幅P1に対する第2最大振幅P2の比P2/P1が比判定値Pjを超えていないと判定(No)すると、ステップS18にて、ノッキングが発生していないと判定する。但し、ここで、ノッキングが発生していないとした判定は誤りの可能性がある。そのため、ステップS21にて、時間差算出部61は、第1領域における最大筒内圧力Pt1+maxに到達する時間tp1+maxと、第2領域における最大筒内圧力Pt2+maxに到達する時間tp2+maxとの時間差分の絶対値、つまり、時間差tmを算出する。
【0056】
ステップS22にて、誤判定評価部63は、時間差tmが時間差判定値tmjより短いか否かを判定する。誤判定評価部63は、時間差tmが時間差判定値tmjより短くないと判定(No)すると、ノッキング発生の判定は正しいとしてルーチンを抜ける。一方、誤判定評価部63は、時間差tmが時間差判定値tmjより短いと判定(Yes)すると、ノッキング発生の判定は正しくないとしてステップS23に移行する。そして、ステップS23にて、領域補正部64は、第1領域と第2領域のそれぞれの区間の幅を変えずに両者の境界位置を、時間差判定値(圧力振幅の1/4周期から1/2周期の規定値)tmjだけ第1領域TW1側にずらす。
【0057】
ステップS23にて、領域補正部64が第1領域と第2領域を補正すると、ステップS14に戻り、ステップS14以降の処理を繰り返し実行する。
【0058】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係るエンジンのノッキング判定装置は、副燃焼室(副室)32の火炎を主燃焼室(主室)22に噴出して燃焼させる副室式ガスエンジン10において、主燃焼室22の圧力振幅を取得するフィルタ処理部(圧力振幅取得部)51と、フィルタ処理部51が取得した圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する領域区画部52と、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する判定部55とを備える。
【0059】
第1の態様に係るエンジンのノッキング判定装置によれば、領域区画部52は、筒内圧力が筒内圧最大値に到達する時期を境として第1領域と第2領域を区画する。第1領域の圧力振幅は、ノッキングの影響を含まない振動となり、第2領域は、ノッキングが発生した場合はノッキングの影響が加わった振動となる。判定部55は、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較することで、第1領域と第2領域のトーチジェットによる影響を排除してノッキングの発生を適切に判定することができる。その結果、ノッキングの判定精度の向上を図ることができる。
【0060】
第2の態様に係るエンジンのノッキング判定装置は、判定部55は、第1最大振幅と第2最大振幅との比が予め設定された比判定値を超えるとノッキングが発生したと判定する。これにより、ノッキングの発生を容易に判定することができる。
【0061】
第3の態様に係るエンジンのノッキング判定装置は、第1領域または第2領域における第1最大振幅と第2最大振幅との比が振幅判定値以下であるとき、第1領域における最大筒内圧力に到達する時期と、第2領域における最大筒内圧力に到達する時期との時間差分が予め設定された時間差判定値より短いときに第1領域と第2領域を補正する領域補正部64を有する。これにより、ノッキングが早期に発生するエンジン運転状態であっても、領域補正部64が第1領域と第2領域を補正することで、ノッキングの発生を高精度に判定することができる。
【0062】
第4の態様に係るエンジンのノッキング判定装置は、時間差判定値は、第1領域および第2領域を合わせた領域にて、圧力振幅が最大になるときの最大筒内圧力と最小筒内圧力との各時期の時間差分の1/2として設定される。これにより、ノッキングの発生を適切に判定することができる。
【0063】
第5の態様に係るエンジンのノッキング判定装置は、領域補正部64は、時間差判定値に基づいて第1領域と第2領域との境界位置を圧力振幅における圧力波形の1/4周期相当の時間差に基づいて補正する。これにより、第1領域と第2領域を適切に補正することができる。
【0064】
第6の態様に係るエンジンのノッキング判定方法は、主燃焼室22の圧力振幅を取得する工程と、取得した圧力振幅を筒内圧最大値までの第1領域と筒内圧最大値以降の第2領域とに区画する工程と、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較してノッキングの発生を判定する工程とを有する。第1領域の圧力振幅は、ノッキングの影響を含まない振動となり、第2領域は、ノッキングが発生した場合はノッキングの影響が加わった振動となる。判定部55は、第1領域における圧力振幅の第1最大振幅と第2領域における圧力振幅の第2最大振幅とを比較することで、第1領域と第2領域のトーチジェットによる影響を排除してノッキングの発生を適切に判定することができる。その結果、ノッキングの判定精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 副室式ガスエンジン
11 シリンダブロック
12 シリンダヘッド
13 ピストン
21 シリンダライナ
22 主燃焼室(主室)
23 吸気ポート
24 排気ポート
25 吸気弁
26 排気弁
31 副室口金
32 副燃焼室(副室)
33 噴射口
34 副室ホルダ
35 副室ガス弁
36 点火プラグ
40,40A ノッキング判定装置
41 クランク角センサ
42 筒内圧センサ
43 エンジン制御部
51 フィルタ処理部(圧力振幅取得部)
52 領域区画部
53 第1最大振幅算出部
54 第2最大振幅算出部
55 判定部
61 時間差算出部
63 誤判定評価部
64 領域補正部