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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124433
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】評価システム及び評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230830BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20230830BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230830BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230830BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12N5/074
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028184
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 格郎
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 洸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美登里
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は、細胞の状態を評価するための新規の評価システム及び評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
細胞の培養上清に含まれる細胞外小胞に対してラマン分光分析をするためのラマン分光装置と、前記ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、前記細胞の状態を評価するための解析装置と、を有する評価システムを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の状態を評価するための評価システムであって、
前記細胞の培養上清に含まれる細胞外小胞に対してラマン分光分析をするためのラマン分光装置と、
前記ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、前記細胞の状態を評価するための解析装置と、
を有する評価システム。
【請求項2】
前記細胞は、多能性幹細胞、ドーパミン神経前駆細胞、外胚葉、又は中胚葉である、
請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記細胞の状態は、細胞の分化段階である、
請求項1または2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記細胞外小胞は、エクソソームである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項5】
前記ラマンスペクトルにおいて、713±10、830±10、858±10、885±10、895±10、919±10、942±10、997±10、1040±10、1065±10、1107±10、1133±10、1175±10、1299±10、1372±10、1420±10、1443±10、1739±10、2663±10、2730±10、2850±10、2887±10、2936±10、2964±10 cm-1からなる群から選択される少なくとも一つの範囲における測定結果に基づいて、前記細胞の状態が評価される
請求項1~4のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項6】
前記ラマンスペクトルと前記ラマンスペクトルに対応する前記細胞の状態のデータとの組からなる教師データにより生成された評価モデルを利用して、前記細胞の状態が評価される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項7】
表示装置をそなえる、請求項1~6のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の評価システムと前記細胞を培養するための自動培養装置を備える、自動培養システム。
【請求項9】
細胞の状態を評価するための評価方法であって、
前記細胞の培養上清から単離された細胞外小胞に対してラマン分光分析を行う工程と、
前記ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、前記細胞の状態を評価する工程と、
を含む、評価方法。
【請求項10】
前記ラマンスペクトルと前記ラマンスペクトルに対応する前記細胞の状態のデータとの組からなる教師データにより生成された評価モデルを利用して、前記細胞の状態が評価される、請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
前記細胞は、多能性幹細胞、ドーパミン神経前駆細胞、外胚葉、又は中胚葉である、
請求項9または10に記載の評価方法。
【請求項12】
前記細胞の状態は、細胞の分化段階である、
請求項9~11のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項13】
前記細胞外小胞は、エクソソームである、
請求項9~12のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項14】
前記ラマンスペクトルにおいて、713±10、830±10、858±10、885±10、895±10、919±10、942±10、997±10、1040±10、1065±10、1107±10、1133±10、1175±10、1299±10、1372±10、1420±10、1443±10、1739±10、2663±10、2730±10、2850±10、2887±10、2936±10、2964±10 cm-1からなる群から選択される少なくとも一つの範囲における測定結果に基づいて、前記細胞の状態が評価される
請求項9~13のいずれか1項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価システム及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、一般的に細胞加工施設(Cell Processing Center:CPC)というクリーンルームで、技術者の手技によって行われる。培養容器の開閉が多発する手技培養では生物学的汚染リスクがある為、培養環境の無菌性を担保した閉鎖系自動培養装置の開発が推進されている。
【0003】
細胞は継代数や細胞株、その他制御しきれていない培養工程におけるわずかな差に影響を受け、生育状況が変化する。従って、細胞状態をモニタリングし培養条件を逐次最適化することで、より良好な増殖率や分化誘導効率を達成できる可能性がある。
【0004】
一方、細胞状態の一般的な評価は、細胞を回収し、フローサイトメトリや定量RT-PCR等で特異的マーカーの発現量を計測することで行われる。本手法は、細胞の回収を伴うため、モニタリングに適用することが困難である。
【0005】
細胞が生きたまま細胞状態を評価する手法として、細胞培養系から回収することが可能な培養上清中の成分を測定する手法が提案されている。例えば、WO2015166845A1(特許文献1)では、「分化状態が未知の幹細胞あるいは幹細胞より分化誘導を行った細胞を被検細胞とし、該被検細胞の培養上清における所定物質の存在量に基づいて該被検細胞の分化状態を評価する」という記載がある。またUS2021-0301248(特許文献2)では、「培養上清中のエクソソームのマーカーの含有量が細胞の分化誘導過程に応じて3つのパターンで変化する」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2015166845A1
【特許文献2】US2021-0301248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞の状態を評価するための新規の評価システム及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、細胞の状態を評価するための評価システムであって、前記細胞の培養上清に含まれる細胞外小胞に対してラマン分光分析をするためのラマン分光装置と、前記ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、前記細胞の状態を評価するための解析装置と、を有する評価システムである。前記細胞は、多能性幹細胞、ドーパミン神経前駆細胞、外胚葉、又は中胚葉であってもよい。前記細胞の状態は、細胞の分化段階であってもよい。前記細胞外小胞は、エクソソームであってもよい。前記ラマンスペクトルにおいて、713±10、830±10、858±10、885±10、895±10、919±10、942±10、997±10、1040±10、1065±10、1107±10、1133±10、1175±10、1299±10、1372±10、1420±10、1443±10、1739±10、2663±10、2730±10、2850±10、2887±10、2936±10、2964±10 cm-1から
なる群から選択される少なくとも一つの範囲における測定結果に基づいて、前記細胞の状態が評価されてもよい。前記ラマンスペクトルと前記ラマンスペクトルに対応する前記細胞の状態のデータとの組からなる教師データにより生成された評価モデルを利用して、前記細胞の状態が評価されてもよい。表示装置をそなえてもよい。
本発明の他の実施形態は、上記いずれかの評価システムと前記細胞を培養するための自動培養装置を備える、自動培養システムである。
本発明のさらなる実施形態は、細胞の状態を評価するための評価方法であって、前記細胞の培養上清から単離された細胞外小胞に対してラマン分光分析を行う工程と、前記ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、前記細胞の状態を評価する工程と、を含む、評価方法である。前記ラマンスペクトルと前記ラマンスペクトルに対応する前記細胞の状態のデータとの組からなる教師データにより生成された評価モデルを利用して、前記細胞の状態が評価されてもよい。前記細胞は、多能性幹細胞、ドーパミン神経前駆細胞、外胚葉、又は中胚葉であってもよい。前記細胞の状態は、細胞の分化段階であってもよい。前記細胞外小胞は、エクソソームであってもよい。前記ラマンスペクトルにおいて、713±10、830±10、858±10、885±10、895±10、919±10、942±10、997±10、1040±10、1065±10、1107±10、1133±10、1175±10、1299±10、1372±10、1420±10、1443±10、1739±10、2663±10、2730±10、2850±10、2887±10、2936±10、2964±10 cm-1からなる群から選択される少なくとも一つの範囲における測定結果に基づいて、前記細胞の状態が評価されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞の状態を評価するための新規の評価システム及び評価方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態にて示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である評価システムの構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態である評価システムが有するディスプレイに表示されるユーザインターフェースを示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態における評価システムが有する解析装置による制御フローチャートである。
図4】本発明の一実施形態における自動培養装置を備えた自動培養システムの模式図である。
図5】本発明の一実施例において、iPS細胞の培養上清から単離した細胞外小胞画分の代表的なラマンスペクトルである。
図6】本発明の一実施例において、iPS細胞からドーパミン神経前駆細胞への分化培養工程における培養上清から単離した細胞外小胞のラマンスペクトルの変化を示す散布図である。
図7】本発明の一実施例において、iPS細胞から外胚葉、中胚葉への分化培養工程における培養上清から単離した細胞外小胞のラマンスペクトルの変化を示す散布図である。
図8】本発明の一実施例において、iPS細胞の培養条件における培養上清から単離した細胞外小胞由来ラマンスペクトルの変化を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。但し、これらの実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
==評価システム==
図1は本発明に係る評価システム101の模式図である。細胞の状態を評価するための評価システム101は細胞の培養上清に含まれる細胞外小胞に対してラマン分光分析をするためのラマン分光装置105と、ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、細胞の状態を評価するための解析装置108とを備える。
解析装置108はCPUなどを有し、CPUは、ラマンスペクトルを入力するためのラマン分光装置105におけるラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルと、そのラマンスペクトルを得た細胞の状態のデータとを入力するための入力部106と、ラマンスペクトルとそのラマンスペクトルを得た細胞の状態のデータとを対応付けたデータベースや、ラマンスペクトルに基づいて、細胞の状態を評価するための評価プログラムなどを有する記憶部107と、ラマン分光分析によって得られたラマンスペクトルに基づいて、細胞の状態を評価するための解析部110と、評価システム101の各装置の作動を制御する制御部111を備える。
評価システム101は、さらに、培養上清から細胞外小胞を単離するための細胞外小胞単離装置103、不要な溶液を排出するための溶液排出装置104、解析結果を表示するためのディスプレイなどの表示装置109、などの装置を備えていてもよい。
==自動培養システム==
図4は自動培養装置(401~409を含む)と評価システム(410~420を含む)とを備えた自動培養システムの模式図である。
細胞培養液は培養液保存容器401より溶液供給流路404を経て培養容器409に供給される。培養環境内の圧力は気圧調節流路402と外気フィルタ403によって保たれる。培養環境の各種気体濃度はガスボンベ407、ガス供給流路406にて調節される。これら培養液、ガスの動きはそれぞれ弁405とポンプ408にて調節される。
培養上清は、培養容器409から、溶液廃棄流路410を経て細胞外小胞単離装置411に供給される。細胞外小胞単離装置411は、培養上清導入部102において培養上清を受け取り、培養上清から細胞外小胞を単離する。単離方法は特に限定されず、公知の手法を用いることができる。細胞外小胞は試料流路412を経てラマン分光装置413に供給される。細胞外小胞単離装置411及びラマン分光装置413において生じた排液は溶液廃棄流路420を経て排液保存容器414に廃棄される。解析装置として、装置制御、データ解析、データストレージを担う端末415は各種弁、ポンプ、装置の制御及びラマン分光装置413で得られたラマンスペクトルの保存、解析を行う。端末415で得られたモニタリング結果に基づき、細胞培養の継続、中止、条件変更がなされる。本判断は作業者が実施してもよく、またあらかじめ設定した基準に従い、解析装置が実施してもよい。
==解析装置による制御フロー==
【0013】
図2は表示装置109に表示されるユーザインターフェースの一例の模式図である。また図3は評価システム101の制御部111による制御フローチャートである。
まず、作業者は、例えば、評価対象とする細胞状態の項目201及び細胞種202を入力することにより、評価条件の設定を行う(301)。制御部111が、設定された評価条件に従って、記憶部107に格納されている解析プログラムを読み込み(302)、それに従って解析手法203および解析するラマン信号204を表示するのが好ましいが、解析手法203および解析するラマン信号204を作業者が手動で入力してもよい。次に、作業者は、例えば、1スペクトルを取得する際のレーザ露光時間205、レーザパワー206、計測するラマン信号帯域207、計測データ数208を入力することにより、計測条件の設定を行う(303)。
制御部111は、培養容器409から培養上清を細胞外小胞単離装置411に供給する(304)。引き続き、制御部111は、以下のように制御を行う。
培養上清を得た細胞外小胞単離装置411は、培養上清から細胞外小胞を単離する(305)。細胞外小胞単離装置411は、単離した細胞外小胞をラマン分光装置105に送る。ラマン分光装置105は、細胞外小胞のラマン分光分析を開始する(306)。設定
した計測数のデータを取得したところで(307)、計測を終了する(308)ラマン分光装置105は、計測データを解析装置108に送ると、解析装置108は入力部106で計測データを受信し、解析部110で解析を行う。解析前に計測データを、一旦記憶部107に格納してもよい。解析装置108は、解析部110で得られた結果を計測データとともに表示装置109に送り、表示装置109は作業者に計測データ209および結果210を表示する。表示装置109では、解析結果は、計測した各ラマンスペクトルの分類に基づき、細胞状態の割合として表示されてもよい。
【0014】
==細胞状態の評価方法==
本発明では、培養上清中の細胞外小胞のラマンスペクトルに基づいて細胞状態を評価する。その評価方法は特に限定されないが、以下に述べる方法はその一例である。なお、本発明において、細胞状態とは、細胞の分化段階、細胞の生死、細胞の分裂段階、特定のシグナル伝達が活性化していること、遺伝子が導入されたこと、などが例示できる。例えば、細胞の状態が細胞の分化段階をあらわすとき、細胞の分化段階の特定方法は特に限定されず、例えば分化開始後の所定の日数によって特定したり、所定の分化マーカーが発現していることによって特定したり、所定の細胞形態をとっていることによって特定したりすることが例示できる。細胞の分化方向は特に限定されず、内胚葉、中胚葉、外胚葉などの特定の胚葉への分化であってもよく、神経細胞、線維芽細胞、上皮細胞、血液細胞、などの特定の細胞タイプへの分化であってもよい。分化させる細胞種は特に限定されず、iPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞、神経幹細胞や間葉系幹細胞等の幹細胞、神経前駆細胞や骨髄系前駆細胞等の前駆細胞といった未分化細胞が挙げられる
あらかじめ細胞状態が特定されている細胞から細胞外小胞を単離し、そのラマンスペクトルデータを複数、教師データとして用い、多変量解析、機械学習、ディープラーニング等の数値解析用いた細胞状態評価プログラムを構築する。この時、具体的な教師データとしては、ラマンスペクトルの波形全体または一部、または特徴的な波形部分を用いることが考えられる。また、ラマン分光計測法は限定されず、例えば自発ラマン散乱、表面増強ラマン、非線形ラマン散乱等が挙げられる。
【0015】
iPS細胞及びそこから分化した細胞の培養上清から単離した細胞外小胞のラマンスペクトルを用いる場合、713±10、830±10、858±10、885±10、895±10、919±10、942±10、997±10、1040±10、1065±10、1107±10、1133±10、1175±10、1299±10、1372±10、1420±10、1443±10、1739±10、2663±10、2730±10、2850±10、2887±10、2936±10、2964±10 cm-1からなる群から選択される波長領域にあるラマンスペクトルを少なくとも一つ用いてもよい。
【0016】
そして、細胞状態を評価したい細胞について、ラマンスペクトルデータを取得し、教師データと同様にラマンスペクトル分光分析を行って、細胞状態評価プログラムに代入することにより、当該細胞の細胞状態を評価することができる。
【実施例0017】
[実施例1]
本実施例では、幹細胞の分化誘導過程において、細胞外小胞に対するラマンスぺクトルのパターンが変化することを示す。具体的には、iPS細胞株201B7を使用して、12日間ドーパミン神経前駆細胞への分化誘導培養を行い、細胞外小胞のラマンスペクトル変化を評価した。尚、ドーパミン神経前駆細胞への分化誘導条件は、以下のように行った(Stem Cell Reports, vol.2 (2014), pp.337-350)。
まず、StemFit media(味の素社)で培養していたフィーダーフリーのiPS細胞を、TrypLE selectで10分間処理した後、単一細胞に分離した。次にiPS細胞をLM511-E8でコーティングした6ウェルプレートに4×105
胞の密度で播種し、4日間培養したとき、コンフルエントな状態になった。そこで、培地を、8%KSR、0.1mM MEM非必須アミノ酸(以上Invitrogen社)、ピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich社)、および0.1mM 2-メルカプトエタノールを添加したGMEMを含む分化培地に変更し、分化誘導を開始した。なお、神経分化をさらに効率的に誘導するため、培地にLDN193189(STEMGENT)とA83-01(Wako)を添加した(J. Neurosci. Res., vol.89 (2011), pp.117-126)。
【0018】
このようなiPS細胞からドーパミン神経前駆細胞への分化誘導培養を6ウェルプレートのうちの3ウェルでそれぞれ同様に実施し、分化誘導開始日のiPS細胞の培養上清と、分化誘導移行後8日目(分化中期)、分化誘導移行後12日目(分化後期)の培養上清を回収した。フォスファチジルセリンアフィニティ法(Sci Rep., vol. 6 (2016), pp 33935)を用いて、単離した細胞外小胞の画分をラマン分光計測した。ラマンスペクトルの解析には図5のラマンスペクトルに示す信号周辺の波数として,881.0,883.1,885.1,887.2,889.2,891.3,893.3,895.4,897.4,899.5,909.7,911.7,913.8,915.8,917.8,919.9,921.9,924.0,926.0,928.0,930.1,932.1,934.2,936.2,938.2,940.3,942.3,944.3,946.4,948.4,950.4,952.5,986.9,989.0,991.0,993.0,995.0,997.1,999.1,1001.1,1003.1,1005.1,1007.2,1029.3,1031.4,1033.4,1035.4,1037.4,1039.4,1041.4,1043.4,1045.4,1047.5,1049.5,1055.5,1057.5,1059.5,1061.5,1063.5,1065.5,1067.5,1069.5,1071.5,1073.5,1075.5,1097.5,1099.5,1101.5,1103.5,1105.5,1107.5,1109.5,1111.5,1113.5,1115.5,1117.5,1123.5,1125.5,1127.5,1129.5,1131.4,1133.4,1135.4,1137.4,1139.4,1141.4,1143.4,1165.2,1167.2,1169.2,1171.1,1173.1,1175.1,1177.1,1179.1,1181.0,1183.0,1185.0,1289.1,1291.1,1293.0,1295.0,1296.9,1298.9,1300.8,1302.8,1304.7,1306.7,1308.6,1310.6,1363.0,1364.9,1366.8,1368.8,1370.7,1372.6,1374.6,1376.5,1378.4,1380.4,1382.3,1409.3,1411.2,1413.1,1415.0,1417.0,1418.9,1420.8,1422.7,1424.6,1426.6,1428.5,1430.4,1432.3,1434.2,1436.2,1438.1,1440.0,1441.9,1443.8,1445.7,1447.7,1449.6,1451.5,1453.4,1729.9,1731.8,1733.6,1735.5,1737.3,1739.2,1741.0,1742.9,1744.7,1746.6,1748.4,1750.3,2653.3,2654.9,2656.5,2658.2,2659.8,2661.5,2663.1,2664.7,2666.4,2668.0,2669.7,2671.3,2672.9,2720.2,2721.9,2723.5,2725.1,2726.7,2728.4,2730.0,2731.6,2733.2,2734.9,2736.5,2738.1,2739.7,2839.6,2841.2,2842.8,2844.4,2846.0,2847.6,2849.2,2850.8,,2852.4,2854.0,2855.6,2857.2,2858.8,2860.4,2876.3,2877.9,2879.5,2881.1,2882.7,2884.3,2885.9,2887.4,2889.0,2890.6,2892.2,2893.8,2895.4,2897.0,2925.5,2927.1
,2928.7,2930.2,2931.8,2933.4,2935.0,2936.6,2938.1,2939.7,2941.3,2942.9,2944.4,2946.0,2952.3,2953.9,2955.5,2957.1,2958.6,2960.2,2961.8,2963.3,2964.9,2966.5,2968.1,2969.6,2971.2,2972.8,2974.4 cm-1を用いた。
培養した3ウェルの内、2ウェル分の計測データを教師データとし、1ウェル分をテストデータとした。教師データを用いて独立成分分析によりデータ特徴量の抽出を行い、ロジスティック回帰によって分類器の作成を行った。独立成分分析ではデータの次元を3次元に圧縮した。分類器に使用する独立成分分析の次元とロジスティック回帰のハイパーパラメータを10分割交差検証法にて最適化した。最適化の結果、分類器に用いる独立成分分析の次元数は2次元となった。計測した全スペクトルデータの独立成分分析結果の散布図を図6に示す。
図6のグラフで示されるように、iPS細胞、ドーパミン神経前駆細胞への分化誘導中期、分化誘導後期の各々でスペクトルデータが分離した。なお、解析にはPythonの機械学習ライブラリであるscikit-learn(0.23.1)を使用した。
作成した分類器によってテストデータを評価した結果、データの分類精度F値は86%
となった。
このように、細胞の分化状態によって細胞外小胞の組成が変化し、その変化が細胞外小胞のラマンスペクトルに反映される。
【0019】
[実施例2]
本実施例では、実施例1と異なる分化誘導系においても、細胞外小胞由来のラマンスぺクトルのパターンが変化することを示す。具体的には、iPS細胞株201B7を使用して、外胚葉及び中胚葉への分化誘導培養を行い、細胞外小胞のラマンスペクトル変化を評価した。尚、両胚葉への分化誘導は、STEMdiff Trilineage Differentiation Kit (R)を用いて行った。
【0020】
iPS細胞から外胚葉、中胚葉への分化誘導培養を6ウェルプレートの中の2ウェルずつ行い、分化誘導開始日のiPS細胞の培養上清と、各胚葉の分化誘導最終日の培養上清を回収し、そこから単離した細胞外小胞をラマン分光計測した。ラマンスペクトルの解析は実施例1と同様に行った。図7はiPS細胞、外胚葉、中胚葉の全スペクトルデータの
独立成分分析結果の散布図である。
図7のグラフに示されるように、iPS細胞と両胚葉のスペクトルデータがそれぞれ分離する傾向を示した。
培養した2ウェルの内、一方を教師データ、もう一方をテストデータとし、実施例1と同様に評価した分類精度は87%となった。
以上により、実施例1と異なる分化誘導系においても細胞の分化状態を細胞外小胞のラ
マンスペクトルによって評価可能である。
【0021】
[実施例3]
本実施例では、幹細胞の未分化状態を逸脱させることによって細胞外小胞のラマンスぺクトルが変化することを示す。具体的には、iPS細胞株201B7を増殖させる培養において、標準的な培養条件と並行して、未分化状態を逸脱させるため、iPS細胞の未分化性維持に必要な塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)を培地から除去した条件(以下、逸脱条件と称する)で、iPS細胞を培養した。両条件は6ウェルプレートのうちの3ウェルずつで行った。逸脱条件では、実施例1と同様にiPS細胞を播種したのち、3日目にFGF2を除去した培地に交換した。両培養条件とも、培養開始から7日目に細胞と培養上清を回収した。細胞の未分化マーカーNanogの発現量を定量RT-PCRで評価した結果、標準条件と比較して逸脱条件の発現量は有意に低下した。また実施例1と同様にラマン分光計測及びラマンスペクトルの解析を行った。図8は両培養条件の全スペク
トルデータの独立成分分析結果の散布図である。
図8のグラフに示されるように、スペクトルデータが培養条件ごとに分離する傾向を示した。実施例1、2と同様に評価した分類精度は85%となった。
このように、幹細胞の未分化状態を細胞外小胞由来ラマンスペクトルによって評価可能である。
【符号の説明】
【0022】
101:評価装置
102:培養上清導入部
103:細胞外小胞単離装置
104:溶液排出装置
105:ラマン分光装置
106:入力部
107:記憶部
108:解析装置
109:表示装置
110:解析部
111:制御部
201:評価項目
202:対象細胞種
203:解析手法
204:解析信号
205:露光時間
206:パワー
207:計測帯域
208:計測数
209:計測ラマンスペクトル
210:細胞状態の解析結果
401:培養液保存容器
402:気圧調節流路
403:外気フィルタ
404:溶液供給流路
405:弁
406:ガス供給流路
407:ガスボンベ
408:ポンプ
409:培養容器
410:溶液廃棄流路
411:細胞外小胞単離装置
412:試料流路
413:ラマン分光装置
414:排液保存容器
415:端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8