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  • 特開-二軸延伸ポリアミドフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124440
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリアミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230830BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20230830BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230830BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20230830BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20230830BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20230830BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B32B27/34
B32B27/00 M
H01M50/129
H01M50/121
H01M50/131
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028195
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】313016820
【氏名又は名称】興人フィルム&ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F100
5H011
【Fターム(参考)】
3E086AD30
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB23
3E086BB35
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3E086BB58
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3E086BB74
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3E086CA40
4F071AA54
4F071AF13C
4F071AF13Y
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4F071AF43Y
4F071AF54Y
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4F071AH12
4F071BB06
4F071BB08
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4F100AK46A
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4F100JK08A
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4F100JL12C
5H011AA09
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011KK00
(57)【要約】
【課題】
成形性に優れ、デラミネーションを抑制できる二軸延伸ポリアミドフィルムの提供。
【解決手段】
90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ変形率が1.8%以上である、二軸延伸ポリアミドフィルム。
少なくとも基材層、バリア層及びシーラント層を有する積層体である冷間成形用電池ケース包材であって、該基材層が上記二軸延伸ポリアミドフィルムである、冷間成形用電池ケース包材。
上記冷間成形用電池ケース包材を使用して、シーラント層が最内層になるように電池収納部を形成した電池ケース。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ変形率が1.8%以上である、二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項2】
前記二軸延伸ポリアミドフィルムは一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての50%モジュラス値が140MPa以上のフィルムである、請求項1に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項3】
少なくとも基材層、バリア層及びシーラント層を有する積層体である冷間成形用電池ケース包材であって、
前記基材層が請求項1又は請求項2に記載の二軸延伸ポリアミドフィルムである、冷間成形用電池ケース包材。
【請求項4】
請求項3に記載の冷間成形用電池ケース包材を使用して、シーラント層が最内層になるように電池収納部を形成した電池ケース。
【請求項5】
請求項4に記載の電池ケースの電池収納部に電池本体を収納し、該電池本体が密封されている、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸延伸ポリアミドフィルムに関する。詳細には、本発明は、冷間成形用包材、特にリチウムイオン二次電池等の電池ケース包材の主要基材として好適に用いられる、冷間成形用二軸延伸ポリアミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット端末、その他様々なものにリチウムイオン二次電池は利用され、その形態として積層体タイプの外装体を用いたリチウムイオン二次電池が広く普及している。積層体の基材としては、主にポリアミドフィルムが使用されており、ポリアミドフィルムの高強度の特性が冷間成形の成形深さに寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5999674号公報
【特許文献2】特許第6444070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高強度のポリアミドフィルムを含む積層体を用いて成形体を作製した場合、成形深さは大きくなるが、その反面、成形体に残留する応力も大きくなる為、積層体の層間の密着強度が低いとデラミネーション(層間剥離)を引き起こす虞がある。ポリアミドフィルムが水分にさらされたり、高湿度下に置かれたりする状況にある場合、さらに積層体の層間の密着強度の低下を招き、デラミネーションを引き起こす可能性がより高まる。特にリチウムイオン二次電池は様々な使用形態があり、過酷な環境にさらされることを想定し、性能評価方法として、熱水中に浸漬する試験等が行われている。この為、成形体の残留応力をある一定より小さくするために、成形深さを小さくせざるを得ない。
【0005】
特許文献1には、ナイロンフィルムの熱収縮応力及び引張強度を特定の範囲に調整することにより、優れた冷間成形性の確保と各層間でのデラミネーションの抑制とを両立する二軸延伸ナイロンフィルムが提案されている。また、特許文献2には、特定の酸化防止剤を添加したポリアミド樹脂を使用することにより、過酷条件下において、劣化によるクラックの発生や破断を抑制した二軸延伸ポリアミドフィルムが提案されている。
しかし、特許文献1及び特許文献2には、熱収縮応力及び引張強度以外の物性を調整することについては何ら提案も示唆もされていない。
【0006】
本発明の目的は、成形性に優れ、デラミネーションを抑制できる二軸延伸ポリアミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミドフィルムのクリープ変形率を大きくすることによって、成形性に優れ、デラミネーションを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は下記の[1]~[5]を提供するものである。
[1]90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ変形率が1.8%以上である、二軸延伸ポリアミドフィルム。
[2]前記二軸延伸ポリアミドフィルムは一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての50%モジュラス値が140MPa以上のフィルムである、[1]に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
【0009】
[3]少なくとも基材層、バリア層及びシーラント層を有する積層体である冷間成形用電池ケース包材であって、前記基材層が[1]又は[2]に記載の二軸延伸ポリアミドフィルムである、冷間成形用電池ケース包材。
【0010】
[4][3]に記載の冷間成形用電池ケース包材を使用して、シーラント層が最内層になるように電池収納部を形成した電池ケース。
【0011】
[5][4]に記載の電池ケースの電池収納部に電池本体を収納し、該電池本体が密封されている、電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、成形深さが4.5mm以上であることから、優れた成形性を有し、かつデラミネーションを抑制できるという効果を奏する。
よって、本発明によれば、従来よりも成形深さがより大きい電池ケースを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1はチューブラー同時二軸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
[二軸延伸ポリアミドフィルム]
本発明は、90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ変形率が1.8%以上である、二軸延伸ポリアミドフィルムである。
【0015】
(二軸延伸ポリアミドフィルムの原料)
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの原料であるポリアミド樹脂としては、脂肪族系ポリアミド樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、又は脂肪族系ポリアミド樹脂と芳香族系ポリアミド樹脂との混合物が挙げられる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られるポリアミド樹脂を挙げることができる。
具体的には、ε-カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、9-アミノノナン酸、α-ピロリドン、α-ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカ二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸との塩を重縮合せしめて得られる重合体又はこれらの共重合体、例えば、ナイロン(ポリアミド)6、ナイロン6/6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン6/66/12共重合体、その他ポリアミド系共重合体、ナイロンMXD6、アラミド、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリマレイミドアミン(PMIA)、ポリアミノビスマレイミド(PABM)などが挙げられる。これらの中でも、生産性や成形性、強度物性を主としたフィルム物性の観点から、本発明で用いられるポリアミド樹脂としては、ナイロン(ポリアミド)6がもっとも好ましい。
【0016】
また、ナイロン6等のポリアミド樹脂において、その数平均分子量は10,000~30,000のものが好ましく、特に好ましくは22,000~24,000のものである。数平均分子量が10,000以上のポリアミド樹脂を使用することにより、得られる二軸延伸ポリアミドフィルムの衝撃強度や引張強度を十分なものとすることができる。また数平均分子量が30,000以下のポリアミド樹脂は、分子鎖の絡み合いが適度なものとなり、延伸加工における過度なひずみの発生を抑え、延伸加工時に破断やパンクを抑制し、二軸延伸ポリアミドフィルムの安定的な生産につながる。
【0017】
また、本発明に使用されるポリアミド樹脂は、得られるフィルムの物性に支障をきたさない範囲内で、ポリカーボネート樹脂やポリエステルなどの他の樹脂を含むことができる。
さらに、本発明に使用されるポリアミド樹脂、及び上記他の樹脂は、得られるフィルムの物性に支障をきたさない範囲内で、必要に応じて滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤、結晶化促進剤などの添加剤を含むことができる。
【0018】
(二軸延伸ポリアミドフィルムの製造方法)
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、公知の方法により、製造することができる。
例えば、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、前記ポリアミド樹脂を溶融押出し、冷却して未延伸フィルムを得る工程、該未延伸フィルムを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程、及び該二軸延伸フィルムを熱処理する工程を含む製造方法により、得られる。
【0019】
<溶融押出・冷却工程>
本工程は、ポリアミド樹脂を溶融押出し、冷却して未延伸フィルムを得る工程である。
Tダイ製膜の場合は、シート状の溶融樹脂を水槽に浸漬することにより内外とも直接水冷する。
一方、環状製膜の場合は、押出機に下向きに取り付けた環状ダイより下方に押し出して、溶融管状薄膜を成形する。次に環状ダイに連結されている冷却マンドレルに導かれ、冷却マンドレルの各ノズルから導入された冷却水が溶融管状薄膜の内側に直接接触して冷却する。同時に、冷却マンドレルと組み合わせて使用される外部冷却槽からも冷却水が流され、溶融管状薄膜の外側にも冷却水が直接接触して、溶融管状薄膜を冷却する。内部水、および外部水の温度は30℃以下が好ましく、急冷製膜の観点から20℃以下が特に好ましい。30℃より高くなると、未延伸フィルムの白化や冷却水の沸騰による未延伸フィルムの外観不良等を招き、延伸も徐々に困難になる場合がある。
【0020】
<二軸延伸工程>
本工程は、得られた未延伸フィルムを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程である。
二軸延伸する方法としては、チューブラー方式若しくはテンター方式で縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸法、又は縦延伸と横延伸とを順次行う逐次二次延伸法などから適宜選択される。得られる二軸延伸ポリアミドフィルムの縦横の強度バランスの観点から、チューブラー方式による同時二軸延伸法が好ましい。このように二軸延伸加工を施すことにより、特に強度物性が飛躍的に向上し、成形性に優れた二軸延伸ポリアミドフィルムを得ることが出来る。
延伸倍率は、流れ方向(長手方向)(以下、「MD」とも記載する。)、および垂直方向(「TD」とも記載する。)それぞれ2.8~4.0倍の範囲であることが好ましく、3.0~3.4倍の範囲であることが特に好ましい。延伸倍率が2.8倍未満である場合、得られる二軸延伸ポリアミドフィルムの衝撃強度や引張強度が不十分となる虞がある。
また4.0倍を超える場合、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生するため、延伸加工時に破断やパンクが頻繁に発生し、フィルムを安定的に生産出来ない虞がある。
延伸温度は、40~80℃の範囲が好ましく、45~65℃の範囲が特に好ましい。
【0021】
<熱処理工程>
本工程は、得られた二軸延伸フィルムを熱処理する工程である。熱処理としては、熱ロール方式による熱処理が好ましい。熱ロール方式による熱処理をすることにより、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを得ることができる。熱ロール方式の、熱ロールの材質は特に限定されない。
熱ロールにフィルムを接触させた後、50℃以下の温度に設定した冷却ロールに接触させる為、熱ロールと冷却ロールとで1つの熱処理設備となる。1つの熱処理設備を使用して、1段階で熱処理を完結させても良いが、フィルムに対して急激な収縮などの変化を与えにくく、フィルム切断などの操業トラブルの要因をより抑えられる観点から、2つ以上の熱処理設備を使用し、60℃~215℃で段階的に熱処理(複数段階による熱処理)を行う方が好ましい。
最も高い熱処理温度(以下、「主熱処理温度」とも記載する。)としては、好ましくは185℃~215℃であり、特に好ましくは190℃~210℃である。主熱処理温度が215℃を超える場合は、結晶化度が高くなり過ぎるため、フィルムの強度物性が低下してしまう虞がある。一方、主熱処理温度が185℃未満である場合は、フィルムの熱寸法安定性が大きく低下するため、ラミネート加工時にフィルムが縮み易くなって、あるいは成形後、ヒートシールして密閉する工程でデラミネーションが発生し易くなって、実用上問題が生じる虞がある。
【0022】
二軸延伸フィルムの熱処理方式としては、熱ロール方式、テンター方式、もしくは熱ロール方式とテンター方式との併用がある。熱ロール方式は熱ロールがフィルムに接触する瞬間に熱がかかる。これに対し、テンター方式は熱処理に掛かる時間が比較的長く、また、テンタークリップでフィルムの両端を挟みながら熱処理を行う為、テンター方式は熱ロール方式に比べて、より緊張熱固定となる。このため、テンター方式による熱処理ではフィルム中の微結晶部分が多くなり、その結果、クリープ変形率が小さいフィルムになると考えられる。また、テンター方式による垂直方向(TD)の固定のみならず、熱処理中の流れ方向(MD)の緊張熱固定によってもクリープ変形率は小さくなる。
反対に、熱ロール方式による熱処理中にフィルムを弛緩する(僅かに緩めながら熱処理を行う)ことによって、クリープ変形率を大きくすることが出来る。また、短時間での熱処理となる熱ロール方式では、微結晶部分が少なくなり、その結果、クリープ変形率が大きくなると考えられる。
本発明において、熱処理中に流れ方向(MD)にフィルムを弛緩(緩和)させる場合、その弛緩率は、例えば、0.1%~15.0%であり、3.0%~12.0%であることが好ましく、5.0%~9.0%であることがより好ましい。
【0023】
クリープ変形は、応力と時間によって生じ、熱可塑性樹脂の場合、熱によって促進される。このため、クリープ変形率は、印刷、ラミネートおよび製袋加工などの応力と熱とが、基材および積層体に掛かる場合に関係するパラメーターと考えられる。クリープ変形が小さければ寸法の変動が小さく、印刷、製袋加工の精度の点では有利であるが、一方で、特に剛直な金属箔等とのラミネート時や、得られたラミネート体の成形後では、形成されるラミネート層などの永久歪みが少ない分、基材に掛かる残留応力が大きくなると考えられる。よって、クリープ変形率が大きい基材であれば、永久歪みによって残留応力が緩和し、デラミネーションが発生しにくくなると考えられる。
【0024】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ
変形率が1.8%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、さらに好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3.0%以上である。1.8%以上であれば、成形体の残留応力が緩和して、デラミネーション抑制効果が安定して発現する。一方、二軸延伸ポリアミドフィルムが伸びやすくなり、ラミネート加工時に二軸延伸ポリアミドフィルムにシワが生じるのを十分に抑制する観点から、クリープ変形率は、好ましくは10%以下である。
なお、クリープ変形率は、例えば、実施例に記載した方法により求めることができる。
【0025】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、その4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における引張破断強度が、いずれも240MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは280MPa以上である。これにより、一般的に成形しにくいとされる成形深さが大きい金型形状の場合においても、成形時に二軸延伸ポリアミドフィルム、およびアルミニウム箔が破断し難くなり、安定して優れた成形性を確保することが出来る。4方向のうち、いずれか一方向でも引張破断強が240MPa未満の場合、成形時に二軸延伸ポリアミドフィルムが容易に破断するようになり、特に高伸度時の引張強度が要求される成形深さが大きい金型形状を成形する場合に、安定した成形性が得られない虞がある。
また、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、その4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における50%モジュラス値が、それぞれ独立して、140MPa以上、150MPa以上、160MPa以上、170MPa以上、180MPa以上、190MPa以上又は200MPa以上にすることができる。
さらに、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの一態様において、その4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における50%モジュラス値は、いずれも140MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがさらに好ましい。これにより、特に成形深さが比較的小さい金型形状を成形する場合において、安定した成形性を確保することが出来る。4方向のうち、いずれか1方向でも50%モジュラス値が140MPa未満の場合、成形時に二軸延伸ポリアミドフィルムが容易に破断するようになり、安定した成形性が得られない虞がある。
なお、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における一軸引張破断強度、および50%モジュラス値は、一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分)により得られた応力-ひずみ曲線から求められる。
【0026】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは、例えば、5μm~50μmであり、好ましくは10μm~30μmである。厚みが5μm未満である場合は、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いたラミネート包材の耐衝撃性が低くなり、成形性が不十分となる虞がある。一方、50μm超である場合、形状維持の強度は向上するものの、特に破断防止や成形性の向上への効果は小さく、電池の体積エネルギー密度を低下させるだけである。
【0027】
[冷間成形用電池ケース包材]
本発明は、少なくとも基材層、バリア層及びシーラント層を有する積層体である冷間成形用電池ケース包材であって、前記基材層が上記の二軸延伸ポリアミドフィルムである、冷間成形用電池ケース包材である。
基材層としては、上記の二軸延伸ポリアミドフィルムのみから構成されていてもよいし、上記の二軸延伸ポリアミドフィルムと他の基材との併用で構成されていてもよい。そのような他の基材としては、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸エチレン-ビニルアルコール系フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、二軸延伸ポリスチレンフィルム、二軸延伸ポリ塩化ビニリデンフィルム及び二軸延伸ポリビニルア
ルコールフィルムなどが挙げられる。他の基材は1種又は2種以上を使用することができる。
また、バリア層としては、電池ケース包材に高い防湿性を付与する観点から、金属箔からなる層が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム-鉄系合金の軟質材からなるアルミニウム箔層がより好ましい。一般に、アルミニウム箔層を含むラミネート包材は、冷間成形時にアルミニウム箔層の破断やピンホールが生じ易いため冷間成形に適していない。しかし、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを含むラミネート包材(電池ケース包材)は、優れた成形性、耐衝撃性および耐ピンホール性を有するため、冷間での張出し成形や深絞り成形等の際に、アルミニウム箔層の破断を抑制できる。また、積層時の接着性を向上させる観点から、アルミニウム箔層の片面又は両面に、シランカップリング剤やチタンカップリング剤などのカップリング剤によるアンダーコート処理、又はコロナ放電処理などの表面処理を施してもよい。
さらに、シーラント層としては、ヒートシール性、密封性や耐薬品性を電池ケース包材に付与する観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリエチレン、エチレン-アクリレート共重合体、アイオノマー樹脂及びポリ塩化ビニルなどの未延伸フィルムからなるシーラント層が好ましい。シーラント層は1種又は2種以上のフィルムを使用することができる。
【0028】
本発明の冷間成形用電池ケース包材は、接着剤を介して基材層、バリア層及びシーラント層の各層を積層するドライラミネート法などにより、製造することができる。
接着剤としての樹脂は特に限定されないが、主剤としてポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル-エポキシ共重合樹脂等の樹脂と、硬化剤としてイソシアネート樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン樹脂、フェノール樹脂等の1種又は2種以上を用いた接着剤が挙げられる。このような接着剤により設けられた接着層は、冷間成形加工に適したものとなる。
【0029】
本発明の冷間成形用電池ケース包材の厚みは250μm以下であることが好ましい。厚みが250μmを超える場合、冷間成形によるコーナー部の成形が困難となり、シャープな形状の成形体が得られない場合がある。
基材層の厚みは5μm~50μmであることが好ましい。
バリア層の厚みは20μm~100μmであることが好ましい。これにより、成形体の形状を良好に保持することが可能となり、また酸素や水分等が包材内へ侵入することを防止できる。バリア層の厚みが20μm未満である場合、電池ケース包材の冷間成形時にバリア層の破断が生じ易く、また、破断しない場合でもピンホール等が発生し易くなるため、包材中に酸素や水分等が侵入してしまう場合がある。一方、バリア層の厚みが100μmを超える場合、冷間成形時の破断やピンホール発生防止の効果も大きく改善されるわけではなく、電池ケース包材の厚みが厚くなるだけで好ましくない。
シーラント層の厚みは20μm~100μmであることが好ましい。
【0030】
本発明の電池ケース包材は、張出し成形、または深絞り成形などの冷間(常温)成形法により加工可能な性能を有する包材であり、電池ケース包材の厚みが薄いにもかかわらず強度が大きいため、シャープな成形が可能であり、かつ成形時にバリア層の破断やピンホールの発生や、成形後のデラミネーションが発生しにくいラミネート包材である。
【0031】
本発明の電池ケース包材は、特に腐食性の高い電解液を使用し、かつ水分や酸素の侵入を極度に嫌うリチウムイオン二次電池用包材として使用できる。また、本発明の電池ケース包材は、リチウムイオン二次電池以外に、一次電池、二次電池などにおいても、電池ケースとして軽量で、シャープな形状の成形性が要求される場合に使用可能である。
【0032】
[電池ケース]
本発明は、上記の冷間成形用電池ケース包材を使用して、シーラント層が最内層になるように電池収納部を形成した電池ケースである。
本発明の電池ケースは、二次電池、特にリチウムイオン二次電池用の電池ケースとして好適に用いられる。また、本発明の電池ケース包材は成形性が非常に良好であるので、公知の方法に従って成形することにより、本発明の電池ケースを簡便に得ることができる。成形方法は特に限定されないが、冷間(常温)成形(張出し成形又は深絞り成形)によって成形すると、複雑な形状や寸法精度が高い電池ケースを作製することができる。
【0033】
[電池]
本発明は、上記の電池ケースの電池収納部に電池本体を収納し、該電池本体が密封されている、電池である。
該電池としては、特に制限されないが、例えば、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0034】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを含むラミネート包材はヒートシール性、耐薬品性及び成形性などに優れているため、上記の電池ケース包材以外に、医薬品、化粧品、写真用薬品及びその他腐食性の強い有機溶剤を含む内容物を入れる容器用材料としても利用可能な包材である。
【実施例0035】
以下に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1 (二軸延伸ポリアミドフィルムの製造)
ナイロン(ポリアミド)6ペレット(相対粘度3.48)を押出機中、255℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して未延伸フィルムを作製した。次に、図1に示す構造のチューブラー同時二軸延伸装置にて、この未延伸フィルムを一対のニップロール1間に挿通した後、中に空気を圧入しながら予熱ヒーター2、および主熱ヒーター3で加熱すると共に、延伸終了点に冷却エアーリング4よりエアーを吹き付けることにより、チューブラー法によるMD、およびTD同時二軸延伸フィルム5を得た。延伸倍率は、MDが3.2倍、TDが3.2倍であり、延伸温度は60℃であった。次に、この二軸延伸フィルム5を熱ロール式熱処理設備に投入し、198℃で熱処理を施すことにより二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。なお、二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは15μmであった。熱ロール式の熱処理中に、二軸延伸フィルムのMDを弛緩し、最終的なMD延伸倍率は、3.0倍であった。
【0037】
(二軸延伸ポリアミドフィルムの50%モジュラス値の測定方法)
二軸延伸ポリアミドフィルムの50%モジュラス値の測定は、(株)オリエンテック製テンシロン万能試験機(型式:RTC-1210-A)を使用し、試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分の条件で、0℃(MD)方向/45°方向/90°(TD)方向/135°方向の4方向それぞれについて測定を行った。なお、測定には、23℃×50%の環境下で2時間調湿した二軸延伸ポリアミドフィルムを使用した。
得られた応力-ひずみ曲線に基づいて、各方向の50%モジュラス値を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
(二軸延伸ポリアミドフィルムのクリープ変形率の測定方法)
得られた二軸延伸ポリアミドフィルムより、MD300mm、TD50mmの短冊上の試験片を作製し、23℃×50%の環境下で2時間調湿した。調湿した試験片のMDに標線間の長さが250mmになるように標線を2本引き、標線間の長さを計測した(試験前
の標線間長さ)。一方の標線位置を幅50mmのクリップで挟み、もう片方の標線位置を幅50mmのクリップで挟みかつクリップを含めて1kgとなるように調整した錘を該クリップに取り付けた。そして、錘を取り付けたクリップが下に来るように、試験片を90℃に設定した電気炉内に吊るした(すなわち20kg/mの鉛直荷重を負荷)。1分後、電気炉から出すと同時に錘、クリップを取り外し、標線間長さをスケールで測定した(試験後の標線間長さ)。下記式で求められる数値をクリープ変形率(単位;%)とした。
クリープ変形率(%)=(試験後の標線間長さ-試験前の標線間長さ)/試験前の標線間長さ×100
【0039】
(二軸延伸ポリアミドフィルムの平均結晶化パラメーターの測定方法)
二軸延伸ポリアミドフィルムを赤外分光光度計(ATR法、Geプリズム使用)によって各波数の吸光度を測定した。ナイロン6のα晶に起因する1200cm-1の吸光度をAとし、結晶化等の構造変化に依存せず、試料の厚みのみで単調に強度が変化する1370cm-1の吸光度をBとした場合、AをBで除することで求められる数値を結晶化パラメーターとした。結晶化は延伸配向をきっかけにしても生じる為、測定方向によって結果に差が生じる。このため、MD、およびTDに測定し、その平均値を平均結晶化パラメーターとした。これにて二軸延伸ポリアミドフィルムの結晶化の度合いを比較評価した。
【0040】
(冷間成形性、デラミネーションの発生状況の評価方法)
二軸延伸ポリアミドフィルムを含むラミネート包材(電池ケース包材)の冷間成形性を評価した。具体的には、まず得られた二軸延伸ポリアミドフィルムを基材層(厚み15μm)とし、アルミニウム箔(厚み32μm)、および未延伸ポリプロピレンフィルム(厚み30μm)をそれぞれドライラミネート(ドライ塗布量4.0g/m)することによりラミネート包材を得た。なお、ドライラミネート用の接着剤としては、東洋モートン(株)製TM-K55/東洋モートン(株)製CAT-10(配合比100/8)を用いた。また、ドライラミネート後のラミネート包材は、60℃で72時間エージングを行った。このようにして得られたラミネート包材は、23℃×50%の環境下で2時間調湿後、圧縮用金型(38mm×38mm)を用いて、未延伸ポリプロピレンフィルム側から最大荷重10MPaで冷間(常温)にて成形し、ピンホールやクラックなどの欠陥が発生しない最高成形深さを0.5mmピッチで評価した。前記方法で冷間成形したラミネート包材について、二軸延伸ポリアミドフィルム/アルミニウム箔間でのデラミネーションの有無を目視にて確認した。また、包材を100℃熱水中にて30分処理し、水気をふき取った後23℃×50%RHで24時間保管した後、二軸延伸ポリアミドフィルム/アルミニウム箔間のデラミネーションの有無を目視にて確認した。
【0041】
実施例2~6、比較例1~8
表1に示す通り、熱処理方式、主熱処理温度、MD延伸倍率、熱処理中のMD弛緩率、MD最終延伸倍率を変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示した結果より、クリープ変形率が1.8%以上である二軸延伸ポリアミドフィ
ルムを用いたラミネート包材(電池ケース包材)は、成形深さが4.5mm以上であり、成形直後及び熱水処理後において、二軸延伸ポリアミドフィルム及びアルミニウム箔間のデラミネーションが発生しなかった(実施例1~実施例3)。その中でもクリープ変形率が2.0%以上である場合は、成形深さが5.0mmであり、成形性がより優れていた(実施例1及び実施例2)。
これに対し、クリープ変形率が1.5%である二軸延伸ポリアミドフィルムを用いたラミネート包材は、成形深さが4.5mmであったが、熱水処理後において二軸延伸ポリアミドフィルム及びアルミニウム箔間のデラミネーションが発生した(比較例1及び比較例2)。
また、クリープ変形率が1.5%以下でありかつ4方向すべての50%モジュラス値が130MPa以下である二軸延伸ポリアミドフィルムを用いたラミネート包材は、成形深さ4.0mmで成形割れが生じた(比較例3及び比較例4)。
したがって、本発明は、90℃で吊り下げられたフィルムストリップの長手端に20kg/mの鉛直荷重を60秒間負荷した際のフィルム長手方向のクリープ変形率を1.8%以上としたことにより、優れた成形性、特に優れた冷間成形性とデラミネーションの抑制との両立を達成したことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは冷間成形用包材、特にリチウムイオン二次電池等の電池ケース包材の主要基材として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1 ニップロール
2 予熱ヒーター
3 主熱ヒーター
4 冷却エアーリング
5 二軸延伸フィルム
図1