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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124451
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】光合波器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20230830BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20230830BHJP
   G02B 6/132 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G02B6/12 331
G02B6/125 301
G02B6/132
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028216
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100105337
【弁理士】
【氏名又は名称】眞鍋 潔
(72)【発明者】
【氏名】勝山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 慧
(72)【発明者】
【氏名】米沢 晋
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB17
2H147BB01
2H147BB07
2H147BB08
2H147BB09
2H147BD02
2H147BE15
2H147BE19
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14B
2H147EA16A
2H147EA16B
2H147FC01
2H147FD01
(57)【要約】
【課題】合波器の微細化に伴う1対の光導波路間のギャップ幅のバラツキによる合波特性の悪化を抑制する。
【解決手段】第1の光導波路と、第2の光導波路を有し、第1及び第2の光導波路は、所定のギャップ幅に近接する所定長の第1のモード結合領域と第2のモード結合領域をそれぞれ有し、第1及び第2のモード結合領域の光導波路が合波部を構成し、合波部では、第1及び第2のモード結合領域の光導波路の間で光が乗り移り、第1のモード結合領域の光導波路内の第1の光と、第1または第2のモード結合領域の光導波路内の前記第1の光と波長が異なる第2の光が、合波部で、第1及び第2のモード結合領域の光導波路の一方の光導波路に合波され、第1及び第2の光導波路内の少なくとも第1及び第2のモード結合領域の光導波路のコア断面が高さ方向で非対称であり、合波部を少なくとも一つ有する、光合波器。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光導波路と、
第2の光導波路を有し、
前記第1及び第2の光導波路は、所定のギャップ幅に近接する所定長の第1のモード結合領域と第2のモード結合領域をそれぞれ有し、
前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路が合波部を構成し、
前記合波部では、前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の間で光が乗り移り、
前記第1のモード結合領域の光導波路内の第1の光と、前記第1または第2のモード結合領域の光導波路内の前記第1の光と波長が異なる第2の光が、前記合波部で、前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の一方の光導波路に合波され、
前記第1及び第2の光導波路内の少なくとも前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路のコア断面が高さ方向で非対称であり、
前記合波部を少なくとも一つ有する、光合波器。
【請求項2】
前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の前記コア断面は、上辺と底辺とを有し、前記上辺と底辺の長さが異なり、前記上辺の長さの底辺の長さに対する比が0.95以下である、請求項1に記載の光合波器。
【請求項3】
前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の前記コア断面は、台形、擬似台形、幅が異なる複数の矩形を積層した形状、または隣接するコア間のギャップの一部がコア材料で埋められた形状のいずれかである、請求項2に記載の光合波器。
【請求項4】
前記擬似台形は、側面、上辺、底辺のいずれかが曲線である台形、上辺と側面の内角または側面と底辺の外角が丸められた台形のいずれかである、請求項3に記載の光合波器。
【請求項5】
前記第1の光導波路及び第2の光導波路は、基本モードの光伝搬が最大成分となる光導波路であり、
前記第1のモード結合領域の光導波路と前記第2のモード結合領域の光導波路との間に、マルチモード光導波路が配置された、請求項1に記載の光合波器。
【請求項6】
前記第1の光の第1の波長より第2の光の第2の波長が短く、
前記第1の光が前記第1のモード結合領域の光導波路から前記第2のモード結合領域の光導波路に乗り移り、前記第2の光が前記第2のモード結合領域の光導波路を直進して、前記第1及び第2の光が前記第2のモード結合領域の光導波路に合波される、請求項1に記載の光合波器。
【請求項7】
前記第1の光の第1の波長より第2の光の第2の波長が短く、
前記第1の光が前記第1のモード結合領域の光導波路から前記第2のモード結合領域の光導波路に乗り移ったのち最終的に前記第1のモード結合領域の光導波路に戻り、前記第2の光が前記第2のモード結合領域の光導波路から前記第1のモード結合領域の光導波路に乗り移り、前記第1及び第2の光が前記第1のモード結合領域の光導波路に合波される、請求項1に記載の光合波器。
【請求項8】
前記第1の光の第1の波長より第2の光の第2の波長が短く、
前記第1の光が前記第1のモード結合領域の光導波路から前記第2のモード結合領域の光導波路に乗り移り、その後前記第1のモード結合領域の光導波路に戻り、最終的に前記第2のモード結合領域の光導波路に乗り移り、前記第2の光が前記第1のモード結合領域の光導波路から前記第2のモード結合領域の光導波路に乗り移り、前記第1及び第2の光が前記第2のモード結合領域の光導波路に合波される、請求項1に記載の光合波器。
【請求項9】
前記第1の光が赤色、前記第2の光が青色である、請求項1乃至8のいずれかに記載の光合波器。
【請求項10】
請求項1の光合波器を製造する方法であって、
コアの材料を含むコア層を、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路にパターニングする工程を有する、光合波器の製造方法。
【請求項11】
第1のモード結合領域を有する第1の光導波路と、
前記第1の光導波路に隣接し、第2のモード結合領域を有する第2の光導波路と、
前記第1の光導波路と反対側で前記第2の光導波路に隣接し、第3のモード結合領域を有する第3の光導波路と、
前記第2の光導波路と反対側で前記第1の光導波路に隣接し、第4のモード結合領域を有する第4の光導波路とを有し、
前記第3のモード結合領域と前記第2のモード結合領域とが第1長にわたり第1のギャップ幅で近接して配置されて第1の合波部が構成され、
前記第2のモード結合領域と前記第1のモード結合領域とが第2長にわたり第2のギャップ幅で近接されて第2の合波部が構成され、
前記第1のモード結合領域と前記第4のモード結合領域とが第3長にわたり第3のギャップ幅で近接して配置されて第3の合波部が構成され、
第1波長を有する第1の光(R)が前記第1または第4の光導波路に入射され、
前記第1波長より短い第2波長を有する第2の光(G,B)が前記第2の光導波路に入射され、
前記第1波長より短く前記第2波長と異なる第3波長を有する第3の光が前記第3の光導波路に入射され、
前記第1乃至第3の光が、前記第2の光導波路の前記第2のモード結合領域または前記第3の光導波路の前記第3のモード結合領域に合波されて、前記第2または第3のモード結合領域につながる光導波路から出射され、
前記第1乃至第3の合波部が、前記第1乃至第3の光の入射側から出射側に向かう光伝搬方向において互いに重なり合うよう配置された、光合波器。
【請求項12】
前記第1乃至第3の合波部が重なり合う位置における前記光伝搬方向とは直行する方向の断面図において、前記第1乃至第4の光導波路の形状と配置が左右対称である、請求項11に記載の光合波器。
【請求項13】
前記第1及び第3のギャップ幅は略等しく、
前記第2のギャップ幅が前記第1及び第3のギャップ幅より大きい、請求項11または12に記載の光合波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビーム走査型映像投影装置などに用いられる光導波路型の光合波器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを走査してスクリーン等に映像を投影する光ビーム走査型映像投影装置において、カラー映像を投影するために、赤、青、緑の光の3原色を合波して1本のビームとする光合波器が用いられている。特に、網膜上に映像を投影する眼鏡型ディスプレイでは、この光合波器の小型化が求められる。例えば、特許文献1~3と非特許文献1には、小型化された光導波路型合波器が記載されている。これらの光合波器は、赤、青、緑の光をそれぞれ別の光導波路の入射端から入射し、それらの光を合波後、1本の光導波路の出力端から合波された光を出射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013―195603号公報
【特許文献2】WO2017/065225 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Akira Nakao, Shoji Yamada, Toshio Katsuyama, “Highly-efficient waveguide-type red-green-blue laser beam combiners for compact projection-type displays”, Optics Communications, Volume 501, 15 December 2021, 127335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、特許文献1の光導波路型合波器の構成を示す平面図及び側面図である。図1の側面図は、平面図の例えば左端の側面図である。図1に示す光導波路型合波器100は、第1~第3光導波路101~103及び第1~第3合波部110~130を有する。第1~第3光導波路は、通常、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれる。第1合波部110と第3合波部130は、第2光導波路102と第3光導波路103内の所定長L1、L3にわたり所定のギャップ幅gw1、gw3で近接したモード結合領域103cの光導波路で構成される光方向性結合器である。同様に、第2合波部120は、第1光導波路101と第2光導波路102内の所定長L2にわたり所定のキャップ幅gw2で近接したモード結合領域101cの光導波路で構成される光方向性結合器である。
【0006】
第2合波部120を例にすると、この光方向性結合器は、第1光導波路101のS字導波路101sと、所定長L2の直線状のモード結合領域101cの光導波路101と、もう一つのS字導波路101sを有し、更に、第2光導波路102の所定長L2の直線状のモード結合領域の光導波路を有する。第1光導波路101のモード結合領域101cの導波路101にギャップ幅gw2を介して近接する長さL2の領域が、第2光導波路102のモード結合領域に該当する。第1合波部110と第3合波部130も同様である。
【0007】
以下、光導波路を簡略して導波路と称する場合がある。光導波路と導波路は特に断らない限り同じものとする。また、光方向性結合器を簡略して方向性結合器と称することがある。
【0008】
図1の光合波器の場合の光合波方法は次の通りである。まず、第1導波路101の入射端101aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第2合波部120でモード結合により第2導波路102に乗り移り、その後、第3合波部130でモード結合により第3導波路103に乗り移り伝搬されたのち第2導波路102に戻り、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0009】
次に、第2導波路102の入射端102aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103へ乗り移って伝搬したのち、第3合波部130でモード結合により第2導波路102へ乗り移って伝搬して、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0010】
更に、第3導波路103の入射端103aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ伝搬光の一部が乗り移って伝搬し、残りが第3導波路103をそのまま伝搬した後、第3合波部130で第2導波路102へ乗り移り第2導波路102を伝搬した第3可視光Bと合波されて、第2導波路102の出射端102bから出射する。このように、すべての光は、同一の第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0011】
図2は、特許文献2の光導波路型合波器の構成を示す平面図及び断面図である。図2の側面図は、平面図の例えば左端の側面図である。図2の光導波路型合波器200は、第1~第3導波路101~103及び第1、第2合波部110、120を有する。第1~第3導波路は、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれる。第1合波部110及び第2合波部120も、図1と同様に、それぞれギャップ幅gw1、gw2で近接する1対の所定長のモード結合領域の光導波路を有する光方向性結合器である。
【0012】
図2の光合波器の場合の光合波方法は次の通りである。まず、第2導波路102の入射端102aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103に乗り移り、第1合波部110内で再び第2導波路に戻って伝搬し、続いて、第2合波部120で第1導波路101に乗り移り、第2合波部120内で再び前記第2導波路に戻って、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0013】
次に、第3導波路103の入射端103aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ乗り移って伝搬し、第2合波部120で第1導波路101へ乗り移った後、第2合波部120内で再び前記第2導波路に戻って、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0014】
そして、第1導波路101の入射端101aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第2合波部120でモード結合により第2導波路102に乗り移り、第2導波路102の出射端102bから出射する。このように、すべての光は、同一の第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0015】
ここで、これらの光導波路型合波器の合波部は、非特許文献1に示されるように、主に光方向性結合器で構成される。光方向性結合器とは、それぞれ異なる光が伝搬する2つの光導波路を接近させ、一方の光導波路を伝搬している光がもう一方の光導波路に乗り移ることができる両光導波路間のギャップ幅とモード結合領域の長さを有し、伝搬光が光導波路間を乗り移る現象(モード結合)を利用して、光の経路を変えるものである。
【0016】
この光方向性結合器には次の2つの課題がある。第1に、光方向性結合器では、図1および図2内の断面図で示すように、光方向性結合器を構成する光導波路101~103が、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。この場合、2つの導波路間に存在するギャップの幅は、光の乗り移りを容易にするため、ミクロン程度の大きさまで小さくする必要がある。このため、光方向性結合器を製造するときに、ギャップの微細化に伴うギャップ幅のバラツキが大きくなり、この結果、モード結合の大きさが変化し、光導波路型合波器の合波特性にバラツキが生じるという課題がある。この結果、光導波路型合波器の作製時の歩留まりの悪化による製造時の生産性低下という産業上の大きな問題が生じている。
【0017】
第2に、光合波部としての光方向性結合器自体のモード結合の効率が悪いという課題がある。即ち、3原色の赤、緑、青のうち波長差が最も大きい赤色光と青色光の間であっても、光方向性結合器での光のモード結合の差が小さく、一方の伝搬光が導波路間を乗り移り他方の伝搬光が乗り移らないことを意味する合波性能が低いという課題がある。つまり、赤色光と青色光の間でモード結合の差が小さく合波部での導波路間の乗り移り特性の差が小さく、光方向性結合器の合波性能が高くないという課題がある。
【0018】
そこで、本実施の形態の第1の側面の目的は、これらの光合波器のいずれかの課題を解決する光合波器及び光合波器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本実施の形態の第1の側面は、第1の光導波路と、第2の光導波路を有し、前記第1及び第2の光導波路は、所定のギャップ幅に近接する所定長の第1のモード結合領域と第2のモード結合領域をそれぞれ有し、前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路が合波部を構成し、前記合波部では、前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の間で光が乗り移り、前記第1のモード結合領域の光導波路内の第1の光と、前記第1または第2のモード結合領域の光導波路内の前記第1の光と波長が異なる第2の光が、前記合波部で、前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路の一方の光導波路に合波され、前記第1及び第2の光導波路内の少なくとも前記第1及び第2のモード結合領域の光導波路のコア断面が高さ方向で非対称であり、前記合波部を少なくとも一つ有する、光合波器である。
【発明の効果】
【0020】
第1の側面によれば、製造プロセスのバラツキによる光合波器の導波路間のギャップ幅のバラツキに起因する導波路型合波器の合波特性のバラツキを低減できる。また、方向性結合器自体のモード結合の効率(光合波器の合波特性)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】特許文献1の光導波路型合波器の構成を示す平面図及び側面図である。
図2】特許文献2の光導波路型合波器の構成を示す平面図及び断面図である。
図3】本実施の形態における光導波路型合波器を形成する光方向性結合器(合波部)の主要な動作例を示す図である。
図4】従来の光合波部(方向性結合器)における1対の導波路と本実施の形態における1対の導波路それぞれの断面形状を示す図である。
図5】青と赤の結合長の比(B/R比)と台形断面の上辺と底辺の長さの比(上辺/底辺比)の関係のシミュレーション結果を示す図である。
図6A】導波路断面の7種類の形状と上辺/底辺比の関係を示す図である。
図6B】導波路断面の7種類の形状と上辺/底辺比の関係を示す図である。
図7】横軸を図5と同じ上辺/底辺比とし、縦軸をギャップ幅が3.1から0.3μmの範囲でのギャップ幅gw変化に伴うB/R比の変動量である(1)最大値と最小値の差と、(2)標準偏差を示す図である。
図8】コアとクラッドとの屈折率差と導波路間隔とギャップ幅範囲が異なる光方向性結合器の図7に対応する図である。
図9】導波路高さとギャップ幅範囲が異なる光方向性結合器の図7に対応する図である。
図10】コア断面が幅の異なる矩形が2段に積層された形状の光方向性結合器の図7に対応する図である。
図11】コア断面が側面の一方が垂直で他方が斜めの台形の光方向性結合器の図7に対応する図である。
図12A】コア断面が導波路間のギャップの一部が埋め込まれている形状の光方向性結合器の導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率に対するB/R比の変化を示す図である。
図12B】コア断面が導波路間のギャップの一部が埋め込まれている形状の光方向性結合器の導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率に対するB/R比の変化を示す図である。
図13図5でその特性を示した代表的な方向性結合器の場合について、台形断面と矩形断面でのB/R比とギャップ幅 (gw)との関係を示す図である。
図14図5でその特性を示した代表的な方向性結合器の場合について、横軸を(台形底辺の長さと上辺の長さの差)/(台形底辺の長さ)とし、縦軸をB/R比の最大値と最小値の差としてプロットした図である。
図15図5でその特性を示した代表的な方向性結合器(コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%、導波路高さ(h)は1.6μm、導波路間隔 (d)は4μmで固定)の場合の赤色と青色のそれぞれの結合長と上辺/底辺比の関係を示す図である。
図16図5でその特性を示した代表的な方向性結合器の場合について、横軸を導波路間隔 (d)とし、縦軸をB/R比の最大値として、ギャップ幅 (g)をパラメータとしてプロットした図である。
図17】光方向性結合器の導波路のコア断面の擬似台形の形状例を示す図である。
図18】実施例6の3原色光導波路型合波器の例を示す平面図である。
図19】実施例7の合波器の平面図である。
図20】第3の実施の形態での第1の光導波路型合波器の構成を示す図である。
図21】第3の実施の形態の第1の合波器における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。
図22】第3の実施の形態での第2の光導波路型合波器の構成を示す図である。
図23】第3の実施の形態の第2の合波器における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。
図24】第3の実施の形態の第3及び第4の光導波路型合波器を示す図である。
図25】第3の実施の形態の第4の合波器800における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本実施の形態について説明する。
【0023】
[光導波路型合波器を形成する光方向性結合器(合波部)の主要な動作例]
図3は、本実施の形態における光導波路型合波器を形成する光方向性結合器(合波部)の主要な動作例を示す図である。光方向性結合器の動作例は、3原色の赤色と青色についてまとめると、図3の動作例(1)、(2)および(3)の3種類になる。
【0024】
合波部を構成する光方向性結合器は、短いギャップ幅gwで近接して並べられた所定長Lの直線状の2本の光導波路WG1、WG2を有する。2の本の光導波路間のギャップ幅が短いと、光導波路を伝搬する光のフィールドは、光導波路のコアとクラッドの界面を超えて染み出し、隣の光導波路まで達することができる。この現象は、光の波の性質による特性でありエバネット波と言われる。即ち、光が一方の光導波路中を伝搬中に徐々に隣の光導波路に乗り移っていき、最終的には、全て乗り移る。この光が全て乗り移る光導波路の長さが結合長である。
【0025】
光方向性結合器の光導波路長Lを結合長の半分にすると、光のモード結合により、伝搬する光の50%だけが光導波路間を乗り移り、光が2本の光導波路に50:50で配分される。光方向性結合器の外側で2本の光導波路のギャップ幅を十分長くすると、両光導波路に分配された光は50:50のままそれぞれの光導波路を伝搬する。光方向性結合器の光導波路長を結合長にすると、一方の光導波路を伝搬する光が他方の光導波路に全て乗り移る。更に、結合長の2倍にすると、一方の光導波路を伝搬する光が他方の光導波路に乗り移ったあと、元の光導波路に戻る。また、結合長の3倍にすると3回乗り移り、一方の光導波路を伝搬する光は乗り移りを3回繰り返して最終的に他方の光導波路に乗り移る。
【0026】
また、光の波長が長いほど光のフィールドが広く、光導波路の境界を超えて染み出す長さも長く、光モード結合が強くなり結合長が短くなる。したがって、3つの光、赤R、緑G、青Bの波長λがλR>λG>λBであるため、結合長LはLR<RG<RBの関係になる。
【0027】
上記の通り、モード結合は、光導波路からの伝搬光の拡がり(浸みだし)に関係し、隣の光導波路とのギャップ幅が小さいほど、光が隣の光導波路に到達しやすくなり、その結果、光が隣の光導波路に乗り移りやすくなる。光の波長が大きいと、この浸みだし量は大きくなるので、赤色光の方が青色光よりもモード結合が大きくなる。したがって、波長が大きい光は、モード結合領域が短くとも隣の光導波路に乗り移ることができる。
【0028】
動作例(1)では、赤Rと青Bの光を別々の光導波路WG1、WG2に入射し、赤Rが入射した時の光導波路WG1から隣接するもう一つの光導波路WG2に乗り移り、青Bは、入射した時の光導波路WG2を直進する。そして、赤R、青B両者とも青色が入射した光導波路WG2から合波されて出射する。この動作例(1)は、図1の第2合波部120の動作に対応する。
【0029】
動作例(2)では、赤Rと青Bの光を別々の光導波路WG1、WG2に入射し、赤Rが他方の光導波路WG2に一旦乗り移り、場合によっては、何度か2つの光導波路間で乗り移りを繰り返し、最終的には、元の入射した時の光導波路WG1に戻り、青Bは、入射した時の光導波路WG2からもう一つの光導波路WG1に乗り移る。そして、赤R、青B両者とも赤色が入射した光導波路WG1から合波されて出射する。この動作例(2)は、図2の第2合波部120の動作に対応する。
【0030】
動作例(3)では、赤Rと青Bの光が同じ光導波路WG1に入射し、赤Rが他方の光導波路WG2に一旦乗り移り、場合によっては、何度か2つの光導波路間で乗り移りを繰り返し、最終的には、他方の光導波路WG2に乗り移り、青Bも、入射した時の光導波路WG1から他方の光導波路WG2に乗り移る。そして、赤R、青B両者とも赤、青両者が入射した光導波路WG1とは別の光導波路WG2から合波されて出射する。この動作例(3)は、図1および図2に示される合波部には使われていないが、後述する実施の形態の合波部で使われる主要な動作の一つである。これらの動作例(1)、(2)および(3)を組み合わせることで、光導波路型合波器を形成することができる。
【0031】
上記の合波部の主要な動作例によれば、本明細書において合波部とは、方向性結合器の1対の光導波路(1対のモード結合領域の光導波路)に入射(伝搬)する波長の異なる少なくとも2つの光のいずれか一方または両方が、第1のモード結合領域の光導波路から第2のモード結合領域の光導波路に乗り移ることで、第1及び第2のモード結合領域の1対の光導波路のいずれか一方の光導波路に合波され、その後合波光が当該いずれか一方の光導波路から出射(伝搬)するものである。方向性結合器に入射伝搬する2つの光は、1対の光導波路に別々に入射される場合もあれば(図3の動作例(1)(2))、1対の光導波路の一方に一緒に入射される場合もある(図3の動作例(3))。
【0032】
なお、図3の動作例(1)、(2)および(3)では、2本の直線導波路からなる方向性結合器で説明したが、実際は、図1及び図2に示したように、曲線からなるS字状の1対の光導波路101sがこれらの方向性結合器の1対の光導波路(モード結合領域101cの光導波路101)の左端と右端にそれぞれつながっている。このため、2つの光導波路間での光の乗り移りは、2本の直線導波路からなる方向性結合器の部分のみで生じるのではなく、実際の合波器においては、これらのS字状の光導波路でも部分的に生じている。すなわち、ここで示した2本の直線導波路からなる方向性結合器は、動作原理の説明のためであり、実際の合波器製造時は、S字状の光導波路を実効的に組み入れた方向性結合器で構造を決定する必要がある。
【0033】
また、モード結合領域を、ここでは直線導波路として説明したが、多少直線からずれた曲線等でももちろんよく、要は、2本の隣接する光導波路間でモード結合が起こる導波路であればよい。以下で述べるモード結合領域は、すべて直線としているが、このように直線に限るものではない。
【0034】
なお、本実施の形態における方向性結合器は、基本モード光を伝搬する光導波路で構成される。または、本実施の形態の方向性結合器は、基本モード光の大きさが他の高次モード光よりも大きい擬似的な基本モードの光導波路で構成される。
【0035】
以上示した光導波路型合波器では、図1および図2の合波器を左方向から見た側面図に示すように、光導波路のコア断面が矩形の光導波路が主に用いられている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、第1に、これらの矩形の断面からなる光導波路の光方向性結合器では、光導波路間のギャップの微細化に伴うギャップ幅のバラツキが大きくなると、合波部のモード結合の大きさが大きく変化してしまい、導波路型光合波器の合波特性にバラツキが生じる問題が生じる。
【0036】
第2に、合波部としての方向性結合器自体のモード結合の効率が悪く、方向性結合器の合波性能が高くないという課題がある。
【0037】
このため、本発明者らは、矩形のコア断面からなる光導波路に代わり、コア断面が高さ方向で非対称な光導波路を検討した結果、上記の2つの問題点を解消できることを見出した。そこで、本実施の形態の光合波器では、光方向性結合器のS字導波路とモード結合領域の光導波路のコア断面形状を高さ方向で非対称にする。
【0038】
まず、コア断面が高さ方向で非対称な光導波路の一例として、台形断面の光導波路の場合について説明する。図4は、従来の光合波部(方向性結合器)における1対の導波路と本実施の形態における1対の導波路それぞれの断面形状を示す図である。これらの構造は、導波路高さ(h)、導波路幅 (w)、導波路間隔(d)、およびギャップ幅 (gw)で規定でき、台形の場合、ギャップ幅 (gw)は、台形底辺でのギャップ幅で定義する。なお、導波路間隔 (d)は、光導波路中心間の距離で定義する。
【0039】
合波部としての方向性結合器自体のモード結合の効率は、通常、結合長で表される。前述の通り、結合長とは、方向性結合器において、一方の光導波路を伝搬している光が、もう一つの光導波路に乗り移る導波路方向の距離を表している。したがって、結合長が長ければ、モード結合が小さく、結合長が短ければ、モード結合は大きくなる。この結合長は、光の波長によって異なり、一般に波長の短い青色の方が、波長の長い赤色よりも大きな値となる。これは、波長の長い赤色光のフィールドのコアから染み出す長さが、波長が短い青色光よりも長いことに起因する。また、結合長は方向性結合器の1対のモード結合領域の光導波路のギャップ幅にも依存する。ギャップ幅が狭いと結合長は短く、ギャップ幅が広いと結合長は長くなる。したがって、図3の(1)、(2)、(3)に示されている動作は、青の結合長(LB)と赤の結合長(LR)の比(LBをLRで割った値、B/R比(=LB/LR)と表記する。)で決まる。更に、結合長の比は、1対の光導波路のギャップ幅に依存し、さらに、2つの光の波長に依存する。
【0040】
検討の結果、本願の発明者らは、この結合長は、光の三原色のうち、波長差が最も大きい赤色と青色の場合に、とくにその比率、B/R比、が導波路断面形状に大きく依存することを見出した。
【0041】
図5は、青と赤の結合長の比(B/R比)と台形断面の上辺と底辺の長さの比(上辺/底辺比)の関係のシミュレーション結果を示す図である。この場合、コアとクラッドとの屈折率差は0.8%、導波路高さ(h)は1.6μm、導波路間隔 (d)は4μmである。これらの値は、非特許文献1で示された合波器の合波部である方向性結合器の代表的な値である。なお、コアとクラッドとの屈折率差は、コアの屈折率をncore、クラッドの屈折率をncladとしたとき、(ncore-nclad)/ncore×100 (%)で定義される。また、パラメータとして、ギャップ幅 (gw)を3.1から0.3μmまで変化させている。但し、導波路間隔 (d)は4μmで固定しているので、導波路幅 (w)が0.9から3.7μmまで変化している。
【0042】
図6A、6Bは、導波路断面の7種類の形状と上辺/底辺比の関係を示す図である。図5において、横軸の上辺/底辺比が1の場合は矩形断面に対応し(図6A(1)の断面)、上辺/底辺比が1未満かつ0より大の場合が台形断面に対応し(図6A(2))、上辺/底辺比が0以下の場合が三角形断面に対応し(図6A(3))、上辺/底辺比が1より大の場合が上辺の長さが底辺の長さより大きい逆台形断面に対応する(図6A(4))。
【0043】
更に、図6B(5)はコア断面が複数の矩形が積み重ねられた2段コア断面を、図6B(6)は一方の側面が垂直な台形断面を、図6B(7)は導波路間のギャップがコア材料で埋め込まれた断面を、それぞれ示す。図6B(7)の断面は、キャップ埋込高さ(gap embedded height: geh)がパラメータとして追加される。
【0044】
また、図5では、赤色の光の波長は、0.633μm、青色の光の波長は、0.448μmであるが、本願の実施の形態は、赤色、青色の光とも、この波長に限定されるものではなく、実際に青色、赤色に感ずるそれぞれの光の波長領域であればよい。具体的なそれぞれの波長範囲は、赤が、0.6~0.8μm程度、青色が、0.4~0.5μm程度である。
【0045】
なお、図5は、2本の直線状導波路からなる方向性結合器でのシミュレーション結果であるが、曲線からなるS字状の光導波路がこれらの方向性結合器につながっている場合は、赤色と青色の光のそれぞれの結合長自体は変化する。しかしながら、S字状の光導波路が方向性結合器の導波路につながっている場合、S字状の光導波路の曲げ半径が、この曲がりによる光の外部への放射損失がない実用的なS字状の光導波路であれば、青と赤の結合長の比(B/R比)は、2本の直線導波路からなる方向性結合器の場合とほぼ同じであることが確認されている。この結果は、図5に限らず、後述するすべての場合に当てはまる。
【0046】
[第1の課題であるB/R比の変動量(バラツキ)を低減する第1の実施の形態の光導波路型合波器]
図5には、8つのギャップ幅それぞれに対応して、横軸の上辺/底辺比=(w-2x)/w(図6A(3)参照)に対する縦軸のB/R比が示される。これによれば、x値を変化させて上辺/底辺比を変化させた場合、B/R比が上辺/底辺比が0~1でピークとなり、各ピークの位置はギャップ幅に応じてずれている。つまり、図5では、B/R比は、上辺/底辺比に大きく依存し、かつギャップ幅にも大きく依存することが示されている。
【0047】
そこで、図5から、ギャップ幅の変化に伴うB/R比の変動を定量化するため、横軸を図5と同じ上辺/底辺比とし、縦軸をギャップ幅が3.1から0.3μmの範囲での B/R比の最大値と最小値の差について示す。
【0048】
図7は、横軸を図5と同じ上辺/底辺比とし、縦軸をギャップ幅が3.1から0.3μmの範囲でのギャップ幅gw変化に伴うB/R比の変動量である(1)最大値と最小値の差と、(2)標準偏差を示す図である。図7は導波路間隔w=4μmの例である。ギャップ幅gwが3.1から0.3μmの範囲は、通常用いられるギャップ幅を網羅しており、図7(1)の結果は、通常作製される方向性結合器一般で成り立つ最大値と最小値の差とみなすことができる。なお、図5中に、一例として、上辺/底辺比が1の場合の最大値と最小値の差の大きさD_max-minを示している。図7から以下のことが示される。
【0049】
(1)上辺/底辺比が1の矩形断面から台形断面に変わるところで、B/R比の最大値と最小値の差が大きく変化し、上辺/底辺比が1未満かつ0より大きい台形になることによって、最大値と最小値の差が急激に小さくなる。なお、図中の直線は、この効果を示すための案内線である。
【0050】
(2)台形でのB/R比の最大値と最小値の差は、台形の範囲全域(上辺/底辺比が1未満かつ0より大)で矩形の場合(上辺/底辺比が1)に比べて大幅に小さくなっている。このことから、ギャップ幅がプロセス変動により変動したときのB/R比の変動幅が台形では小さいことを意味する。なお、上辺/底辺比が0以下でB/R比の最大値と最小値の差は同じく小さいが、この領域は、三角形断面の領域になる。
【0051】
(3)これらのB/R比の最大値と最小値の差と同じ効果が、図7(2)のギャップ幅を変えることによって得られたB/R比の標準偏差の場合でも得られている。
【0052】
以上の結果より、ギャップ幅の変動によるB/R比の変動の大きさは、矩形断面に比べて、上辺/底辺比が1未満で小さくなることが分かる。
【0053】
以上示したように、導波路間のギャップの微細化に伴ってギャップ幅のバラツキ(変動)が生じたとしても、上辺/底辺比が1未満の台形断面の場合、矩形断面に比べて、ギャップ幅の変動に対するB/R比の変動の大きさは小さい。この結果、光方向性結合器の導波路のコア断面を台形にすると、産業上重要な光導波路型合波器の合波特性のバラツキは低減する。図3の(1)、(2)、(3)に示されている光の乗り移り動作がB/R比で決まるので、合波部の導波路間のギャップ幅が製造プロセスでばらついてもB/R比の変動が少ないことは、合波部の動作特性の変動が少ないことを意味する。言い換えると、光合波部は、ギャップ幅と光の波長に依存する光路長の比、B/R比、がねらい通りの最適値になる場合、所望の合波特性を有する。したがって、製造バラツキによるギャップ幅バラツキに対してB/R比の変動が少ないと所望の合波特性が得られ易く、歩留まりが向上する。
【0054】
このことから、第1の実施の形態の合波部(光方向性結合器)の1対のまたは一方の導波路断面の上辺/底辺比が1未満、例えば0.95以下であることが望ましい。上辺/底辺比が0.95以下であれば、導波路のコア断面が台形といえる有意な形状となり、製造ばらつきを伴う矩形(上辺/底辺比が1±0.05)とは実質的に差別化される。また、導波路からの出射光の光強度が対称的(円形)な分布からあまりずれていない形状の範囲(この場合、台形の範囲)である上辺/底辺比が1未満(0.95以下)でかつ0以上であることが望ましい。最も好適には、例えば、上辺/底辺比が1未満(0.95以下)でかつ0.5以上が望ましく、更に、上辺/底辺比が1未満(0.85以下)でかつ0.5以上が望ましい。上辺/底辺比が1未満でかつ0.5以上であれば、出射光の光強度分布は円形に近いままとなる。また、上辺/底辺比が0以下であっても、出射光の光強度が対称的(円形)な分布であることが要求されない場合は、上辺/底辺比が0以下であってもよい。図6A(3)に示すとおり、上辺/底辺比が0以下とは、コア断面の高さが導波路の高さhより低い三角形を意味する。
【0055】
以上示した導波路断面の上辺/底辺比の特性は、図5および図7に示した代表的な方向性結合器の構造パラメータに限らず、後述する通常使用される他の方向性結合器の構造パラメータでも確認されており、通常用いられる合波器であれば成り立つ普遍的な効果である。例えば、光方向性結合器の導波路がクラッド層に囲まれたコア層の構造以外に、導波路のコア層が山の背(リッジ)形状のリッジ型導波路でも、同様の上辺/底辺比に対するB/R比の特性を有する。
【0056】
[コアの断面が高さ方向で非対称の形状について]
第1の実施の形態での光方向性結合器の1対の導波路のコア断面が高さ方向で非対称な形状は、図6A(2)~(4)と図6B(5)~(7)に示された、台形、三角、逆台形、2段形状、側面の一方が垂直な台形、矩形導波路間のギャップの一部がコア材料で埋め込まれたギャップ埋込み形状などが含まれる。
【0057】
[コア断面が台形または擬似台形]
コア断面が台形であると製造プロセスばらつきによるB/R比ばらつきが少ないことは図5図7等で既に説明した。コア断面が台形であることは、擬似台形であることを含む。
【0058】
例えば、コア断面の側壁が、直線形状でなく、直線からずれた曲線等からなる場合でも、近似的に形状が台形とみなせる擬似台形であり、かつ台形での特性が、当該擬似台形の特性とほぼ同じであれば、擬似台形も台形形状とすることができる。
【0059】
また、コア断面の上辺と底辺が直線でなく、緩やかな曲線である場合も、近似的に形状が台形とみなせる擬似台形であり、かつ台形の特性が、当該擬似台形の特性とほぼ同じであれば、当該擬似台形も台形形状とすることができる。更に、台形の上辺と側面との角が丸められた形状、側面と底辺との間の外角が丸められた形状も、擬似台形である。
【0060】
なお、ここでは、コア断面が台形形状の場合について述べたが、台形形状以外の以下に述べる導波路断面形状(図6Bの(5)2段コア形状、(6)台形の側面の一方が垂直で他方が斜めの形状、(7)導波路間のギャップが埋め込まれているギャップ埋込み形状)の場合も、上記と同様である。即ち、これらの形状の場合も、上辺、底辺、および側壁が直線からずれた曲線等からなる場合、近似的に上辺、底辺、および側壁が直線からなる対応する断面形状とみなせ、かつ対応する直線からなる断面形状の特性が、直線からずれた曲線等の場合の特性とほぼ同じであれば、上辺、底辺、および側壁が直線からずれた曲線等の場合も、直線からなる対応する断面形状とすることができる。
【0061】
図17は、光方向性結合器の導波路のコア断面の擬似台形の形状例を示す図である。図17には、3種類の擬似台形の例(1)カドの鈍り、(2)側壁の揺らぎ、(3)上底辺の揺らぎが示される。
【0062】
図17(1)カドの鈍りの例では、台形の上辺Ltと側面Lsとの間の角が削れており、理想的な台形の角と実際の形状との間の距離がその鈍り量Dとして示されている。また、台形の底辺Lbと側面Lsとの間の外角が埋められており、その理想的な台形の外角と実際の形状との間の距離がその鈍り量Dとして示されている。擬似台形とみなされる鈍り量Dの範囲は、例えば以下のとおりである。
D<MAX(Lt,Ls,Lb)*0.2
つまり、角の鈍り量Dが、その角に隣接する上辺Lt、底辺Lb、側面Lsのうち最も長いものの20%未満であれば、その台形は擬似台形とみなされる。本実施の形態では、この程度の製造プロセス等に起因する角の鈍りが形成されていても、擬似台形とみなす。
【0063】
図17(2)の側壁の揺らぎの例では、台形の側壁が曲線になっており、理想的な台形の側壁との間の距離が側壁の揺らぎ量Dとして示されている。擬似台形とみなされる揺らぎ量Dの範囲は、例えば以下のとおりである。
MAX(D)<Ls*0.2
即ち、側壁の揺らぎDの最大値が、その側壁の長さLsの20%未満であれば、その台形は擬似台形とみなされる。本実施の形態では、この程度の製造プロセス等に起因する側壁の揺らぎが形成されていても、擬似台形とみなす。
【0064】
図17(3)の上底辺の揺らぎの例では、台形の上辺と底辺が曲線になっており、理想的な台形の上辺と底辺との間の距離が上底辺の揺らぎ量Dとして示されている。擬似台形とみなされる上底辺の揺らぎ量Dの範囲は、例えば以下のとおりである。
MAX(D)<(Lt or Lb)*0.2
即ち、上辺又は底辺の揺らぎDの最大値が、その上辺又は底辺の長さLt又はLbの20%未満であれば、その台形は擬似台形とみなされる。本実施の形態では、この程度の製造プロセス等に起因する上底辺の揺らぎが形成されていても、擬似台形とみなす。
【0065】
[台形の他の例(1)]
図8は、コアとクラッドとの屈折率差と導波路間隔とギャップ幅範囲が異なる光方向性結合器の図7に対応する図である。図8では、導波路高さ(h)は1.6μmと図5および図7と同じであるが、コアとクラッドとの屈折率差:1.1%、導波路間隔 (d)は3.4μmの場合である。また、ギャップ幅は、1.2μmから2μmの範囲で変化させている。図8(1)は、B/R比の最大値と最小値の差と上辺/底辺比の関係、図8(2)は、B/R比の標準偏差と上辺/底辺比の関係である。この場合も、図7で説明した3つの結果(1)(2)(3)が同じく得られている。
【0066】
[台形の他の例(2)]
図9は、導波路高さとギャップ幅範囲が異なる光方向性結合器の図7に対応する図である。図9では、コアとクラッドとの屈折率差は0.8%、導波路間隔 (d)は4μmと図5および図7と同じであるが、導波路高さ(h)が1.2μmの場合である。また、ギャップ幅は、1.5μmから2.4μmの範囲で変化させている。図9(1)は、B/R比の最大値と最小値の差と上辺/底辺比の関係、図9(2)は、B/R比の標準偏差と上辺/底辺比の関係である。この場合も、図7で説明した3つの結果(1)(2)(3)が同じく得られている。
【0067】
以上の図7、8、9の3つの例の方向性結合器、即ち
(1)コアとクラッドとの屈折率差:0.8%、導波路高さ(h):1.6μm、導波路間隔 (d):4μmの例
(2)コアとクラッドとの屈折率差:1.1%、導波路高さ(h):1.6μm、導波路間隔 (d):3.4μmの例および
(3)コアとクラッドとの屈折率差:0.8%、導波路高さ(h):1.2μm、導波路間隔 (d):4μmの例で示したように、図7で説明した3つの結果(1)(2)(3)は、これらの3つの例の方向性結合器で成り立つことが示される。これら3つの例は、3原色合波器に通常使われる方向性結合器の代表例であるので、図7で説明した3つの結果(1)(2)(3)は、通常使われる方向性結合器であれば、一般的に成り立つといえる。ここで、通常使われる方向性結合器とは、コアとクラッドとの屈折率差5%以下、導波路間隔 (d)が、15μm以下、導波路高さ(h)が10μm以下であり、かつ、導波路を伝搬する主要なモードが基本モードになる場合である。
【0068】
[2段コア断面の例]
図6B(5)に示した導波路のコア断面が幅の異なる矩形が2段に積層されたコア断面(2段コア断面)からなる導波路を用いた方向性結合器においても、同様の結果が得られている。
【0069】
図10は、コア断面が幅の異なる矩形が2段に積層された形状の光方向性結合器の図7に対応する図である。この場合、導波路は、上段のコアの幅が下段のコアの幅より小さく、上段のコアと下段のコアの高さは同じとしている。また、コアとクラッドとの屈折率差は0.8%、導波路高さ(h)が1.6μm(上段のコアと下段のコアの高さの合計)、導波路間隔 (d)は4μmであり、ギャップ幅(下段のコア間のギャップ幅)は、1.5μmから2.7μmの範囲で変化させている。図10(1)は、B/R比の最大値と最小値の差と上辺/底辺比の関係、図10(2)は、B/R比の標準偏差と上辺/底辺比の関係である。ここでの、上辺/底辺比は、上段コアの幅と下段コアの幅の比である。図10から以下のことが示される。
【0070】
(1a)上辺/底辺比が1、つまり矩形断面から2段コア断面に変わるところで、B/R比の最大値と最小値の差が大きく変化し、2段コア断面になることによって、最大値と最小値の差が急激に小さくなる。なお、図中の直線は、この効果を示すための案内線である。
【0071】
(2a)2段コア断面でのB/R比の最大値と最小値の差は、2段コア断面の範囲全域(上辺/底辺比が1未満で0以上)で、矩形(上辺/底辺比が1)の場合に比べ、大幅に小さくなっている。
【0072】
(3a)これらのB/R比の最大値と最小値の差と同じ効果が、ギャップ幅を変えることによって得られたB/R比の標準偏差の場合も図10(2)に示すように得られている。
【0073】
2段コア断面の変形例は次のとおりである。上記では導波路のコア断面が幅の異なる矩形が2段に積層された形状の導波路について例示した。しかし、導波路のコア断面が幅の異なる矩形が2段以上積層された形状で、かつ上段に行くほどその幅が小さくなる場合も、上記(1a)(2a)(3a)の結果が得られている。なお、ここで、「上段に行くほどその幅が小さくなる」とは、多数の段数の中で大部分の段のコア幅が、上段に行くほどその幅が小さくなるということであり、多段コア断面の幅が単調に下段から上段に向かって減少することを意味していないことに留意されたい。このような多段のコア断面で、段数が大きくなった場合の極限が台形に相当する。
【0074】
また、台形断面でその側壁が、直線形状でなく、直線からずれた曲線等からなる場合は、多段のコア断面の段数が大きくなった場合の極限と考えることでき、直線からずれた曲線等からなる台形も上記(1a)(2a)(3a)の結果を示すのは当然である。なお、多段のコアのそれぞれの高さは、必ずしも同じ値である必要はない。
【0075】
[側面の一方が垂直で他方が斜めの断面の台形の例]
図6B(6)に示した、台形の側面の一方が垂直で他方が斜めの断面をもつ導波路を用いた方向性結合器においても、同様の結果が得られている。
【0076】
図11は、コア断面が側面の一方が垂直で他方が斜めの台形の光方向性結合器の図7に対応する図である。この場合、コアとクラッドとの屈折率差は0.8%、導波路高さ(h)が1.6μm、導波路間隔 (d)は4μmであり、ギャップ幅は、1.6μmから2.8μmの範囲で変化させている。図11(1)は、B/R比の最大値と最小値の差と上辺/底辺比の関係、図11(2)は、B/R比の標準偏差と上辺/底辺比の関係である。図11から以下のことが示される。
【0077】
(1b)上辺/底辺比が1、つまり矩形断面から台形断面に変わるところで、B/R比の最大値と最小値の差が大きく変化し、台形になることによって、最大値と最小値の差が急激に小さくなる。なお、図中の直線は、この効果を示すための案内線である。
【0078】
(2b)台形でのB/R比の最大値と最小値の差は、台形の範囲全域(上辺/底辺比が1未満で0以上)で、矩形の場合に比べ、大幅に小さくなっている。
【0079】
(2c)これらのB/R比の最大値と最小値の差と同じ効果が、ギャップ幅を変えることによって得られたB/R比の標準偏差の場合も図11(2)に示すように得られている。なお、これらの結果は、台形の斜めの側面が、隣接する導波路コア側であっても、反対側であっても、同じように得られている。
【0080】
[導波路間のギャップが埋め込まれている場合の例]
図6B(7)に示した、導波路間のギャップの一部が埋め込まれている方向性結合器においても、同様の結果が得られている。
【0081】
図12A図12Bは、コア断面が導波路間のギャップの一部が埋め込まれている形状の光方向性結合器の導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率に対するB/R比の変化を示す図である。この場合、コアとクラッドとの屈折率差は0.8%、導波路高さ(h)が1.6μm、導波路間隔 (d)は4μmであり、ギャップ幅は、1.6μmから2.8μmの範囲で変化させている。検討によると、B/R比は、導波路高さhに対するギャップ埋込み高さgehの比率に大きく依存し、かつギャップ幅gwにも大きく依存することが示された。そこで、図12A(1)は、ギャップ幅の変化に伴うB/R比の変動を定量化するため、横軸を導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率とし、縦軸をギャップ幅が1.6から2.8μmの範囲での B/R比の最大値と最小値の差としてプロットしたものである。図12A(1)から以下のことが示される。
【0082】
(4)B/R比の最大値と最小値の差は、ギャップが埋め込まれている場合が、埋め込まれていない場合よりも小さい。また、導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率が0から0.3になるまでは、B/R比の最大値と最小値の差が単調に減少し、0.3以上では、B/R比の最大値と最小値の差が小さく、かつほとんど一定になる。
【0083】
(5)これらのB/R比の最大値と最小値の差と同じ効果が、図12A(2)に示したギャップ幅を変えることによって得られたB/R比の標準偏差の場合も得られている。
【0084】
以上の結果より、コア断面が導波路間のギャップの一部が埋め込まれている形状の光方向性結合器では、ギャップ幅の変動によるB/R比の変動の大きさについては、B/R比の最大値と最小値の差が単調に減少し、導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率が0.3以上で小さく、かつほとんど一定になることが分かる。
【0085】
図12A及び後述する図12Bによれば、コア断面の導波路の高さhに対するギャップ埋込み高さgehの比率geh/hは、ギャップ埋め込み高さが0の場合と有意に異なる0.02から0.5までの範囲が好ましい。比率geh/hが0.02以上であればギャップ埋め込み高さが0の場合と有意に異なり、B/R比の変動幅が有意に狭くなる。0.02は、B/R比の最大値と最小値の差4.2の約90%の3.8に対応する比率geh/hの値である。また、比率geh/hが0.5以下であれば、光方向性結合器において、一方の導波路を伝搬する光が他方の導波路にほぼ100%乗り移ることができる。この上限値を超えると光の乗り移りの割合が悪くなる。
【0086】
または、比率geh/hは、ギャップ埋め込み高さが0の場合と有意に異なる0.02から0.9までの範囲が好ましい。比率geh/hが0.02以上は前述の通りである。比率geh/hが0.9以下であれば、一方の導波路を伝搬する光が他方の導波路に乗り移ることができる。この上限値を超えると、ギャップの埋め込みが多すぎて実質的に2つの導波路が合体したことと等価になり、光の乗り移りができなくなる。
【0087】
以上示した(4)(5)の結果は、ここで示した構造以外の代表的な構造の方向性結合器でも得られている。図12B(3)は、それらのB/R比の標準偏差と導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率の関係を示す。
図中、G1は、上述した構造(コアとクラッドとの屈折率差:0.8%、導波路高さ(h):1.6μm、導波路間隔 (d):4μm)、
G2は、コアとクラッドとの屈折率差:0.8%、導波路高さ(h):1.2μm、導波路間隔 (d):4μmの場合、
G3は、コアとクラッドとの屈折率差:1.1%、導波路高さ(h):1.6μm、導波路間隔 (d):3.4μmの場合である。
【0088】
いずれも、案内線で示すように、導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率が0.3を境に、B/R比の標準偏差の傾向が変化する。導波路高さに対するギャップ埋込み高さの比率が0から0.3になるまでは、B/R比の標準偏差の差が単調に減少し、0.3以上では、B/R比の標準偏差の差が小さく、かつほとんど一定になる。この標準偏差に対する結果は、最大値と最小値の差に対しても同じ傾向が得られており、上記(4)(5)で示した結果は、方向性結合器の特殊な構造のみに成り立つものでなく、一般的な方向接結合器で成り立つ普遍的な性質であることが分かる。
【0089】
なお、導波路間のギャップがコア材料で埋め込まれている本例は、前述の2段コア断面の場合と構造的には同じ分類になる。すなわち、2段コアの下段のコアが、2つの導波路間でつながっている場合に対応する。
【0090】
以上示した3つの例(2段コア断面の例、側面の一方が垂直で他方が斜めの断面の台形の例、および導波路間のギャップが埋め込まれている場合の例)は、通常の台形を含めて、コア断面が高さ方向で非対称な光導波路の代表例である。そしてそれらの光導波路では、ギャップの微細化に伴うギャップ幅のバラツキ(変動)があったとしても、矩形断面に比べて、B/R比の変動が小さくなる優位性があることが分かる。また、重要なことは、矩形断面に比べて優位な上記の構造を2種類以上組み合わせても、当然、矩形断面に比べて優位な特性は保持されることに留意されたい。例えば、台形断面の導波路からなる方向性結合器の導波路間のギャップがコア材料で埋め込まれている場合も、矩形断面に比べて優位な特性は保持される。このように、コア断面が高さ方向に非対称な光導波路を用いることが、本質的に矩形断面に比べてB/R比の変動の大きさを小さくする。
【0091】
[合波器製造プロセスにおけるギャップ幅のバラツキと合波器特性の関係]
図13は、図5でその特性を示した代表的な方向性結合器の場合について、台形断面と矩形断面でのB/R比とギャップ幅 (gw)との関係を示す図である。図13中の台形断面でのB/R比は、B/R比の最大値であり、各ギャップ幅 (gw)に対してB/R比が最大になるときのB/R比の値のことである。図5に示すとおり、このB/R比の最大値は、上辺/底辺比が台形の範囲(上辺/底辺比が0.95以下かつ0より大の範囲)に入っている時に得られるB/R比の最大値である。台形断面の上辺/底辺比が0.95以下かつ0より大の範囲内でのB/R比最大値を代表値として選び、ギャップ幅のばらつき(変動)に対するB/R比のばらつきを示している。一方、矩形断面でのB/R比は、図5の上辺/底辺比が1の場合のB/R比である。
【0092】
図13から、台形断面の方が、矩形断面の場合に比べて、B/R比のギャップ幅 (gw)依存性が明らかに小さく、ギャップの微細化に伴うギャップ幅の製造バラツキ(変動)があったとしても、台形断面の場合、矩形断面に比べて、B/R比の変動の大きさは小さくなる。この結果、産業上重要な導波路型合波器の合波特性の製造バラツキが低減することがこの結果からも導かれる。
【0093】
[合波器の製造プロセスとギャップ幅のバラツキ(変動)について]
ここで、ギャップの微細化に伴うギャップ幅のバラツキ(変動)について、合波器の製造プロセスとの関係を述べる。合波器は、通常、以下のプロセスによって製造される。
(1)Si基板あるいはSiO2基板上に、第1のSiO2ガラス膜、次いで屈折率を上げるためのドーパントを含む第2のSiO2ガラス膜を堆積し、第2のSiO2ガラス膜上に塗布したレジストの露光、現像で形成したマスクパターンを用いて、ドーパントを含む第2のSiO2ガラス膜を導波路コアとなる部分を除いてエッチングする。
(2)その後、さらにオーバークラッドとなる膜として第3のSiO2ガラス膜を堆積し、第1及び第3のSiO2ガラスクラッドに囲まれ、屈折率を上げるためのドーパントを含む第2のSiO2ガラスからなるコアの導波路からなる合波器を形成する。
【0094】
この場合、ドーパントを含む第2のSiO2ガラスのエッチング条件の微細な変動によって、合波器の方向性結合器における導波路間のギャップ幅が変動する、つまりバラツキが生じる。
【0095】
ただし、導波路間のギャップ幅は変動するが、方向性結合器を形成する2本の導波路の中心間の距離(導波路間隔 (d))は、マスクパターンによってのみ決まり、エッチング条件の微細な変動には依存しない。このため、図5,7,8,9、10,11,13,及び後述する図16で示した特性のギャップ幅 (gw)依存性は、導波路間隔 (d)を固定して求めている。
【0096】
ただし、図5,7,8,9、10,11,13,16で示した特性は、この導波路間隔 (d)が、多少変動したとしても同じ傾向を示している。よって、これらの図で得られた結果は、上述の(1)、(2)による製造プロセス以外で製造した合波器の場合も、当然有効である。例えば、ナノインプリント等の型を用いて第2のSiO2ガラス膜を圧縮成形することにより、コア部分を形成した場合等、2つの導波路を近接して並べる構造を形成する場合は、すべて当てはまることになる。
【0097】
ナノインプリント等の型を用いた圧縮成形では、導波路のコア形状の型をSiO2ガラスコア層に押し付けることで、山の背の形をしたコアを生成する。型を製造するときと、型をガラスコア層に押し付けるときに導波路間隔dとギャップ幅gwがばらつくことで、導波路間のギャップ幅にバラツキが生じる。
【0098】
また、ここでは、屈折率を上げるためのドーパントを含む第2のSiO2ガラスコアが第1、第3のSiO2ガラスクラッド材に全面的に囲まれている場合(チャンネル型光導波路)の例を示した。しかし、当然、第2のSiO2ガラスコアが全面的にSiO2ガラスクラッド材に囲まれていなくとも、光がコア内に閉じ込められていれば、同じ導波路断面形状依存性を示すことになる。その一例として、リッジ型導波路等がある。リッジ型導波路では、第1のSiO2ガラス膜と屈折率を上げるためのドーパントを含む第2のSiO2ガラス膜を形成し、マスクパターンにより両ガラス膜を山の背形状にエッチングして山の背形状のコアが形成される。コアの側面と上面にはクラッド層は形成されず、空気に接している。したがって、リッジ型導波路の場合も製造条件の微細な変動により合波器の方向性結合器における導波路間のギャップ幅が変動する。
【0099】
さらに、ここでは、SiO2ガラスクラッドに囲まれ、屈折率を上げるためのドーパントを含むSiO2ガラスからなるコアの導波路の合波器の例を示したが、コア、クラッドともこの材料に限定されるものではない。例えば、コアの屈折率がクラッドの屈折率よりも大きければ良く、ガラスの組成は、(1)コアが屈折率を上げるためのドーパントを含むSiO2ガラスや、(2)クラッドがSiO2ガラスには限定されない。また、ここでは、SiO2ガラスを主体とした材料の例を示したが、材料としては、SiO2ガラス以外のもの、例えば、プラスチック材等の有機化合物であってもよい。
【0100】
なお、ここでは光の3原色のうち、赤色と青色との関係について台形を含む断面が高さ方向で非対称な光導波路のギャップ幅のバラツキに対する優位性を述べているが、赤色と緑色、および緑色と青色においても、同様の断面形状に関する優位性が存在する。ただし、後述する方向性結合器自体のモード結合の効率向上での説明と同じく、赤色と青色の場合に比べて、赤色と緑色、および緑色と青色の場合は、2色間の波長差が小さく、合波器全体の特性に及ぼす改善効果は、赤色と青色の場合に比べて相対的に小さい。このため、主に、赤色と青色の場合の方向性結合器の特性改善が、合波器全体の特性改善に大きく寄与することになる。
【0101】
[B/R比と台形底辺の長さと上辺の長さの差との関係]
ここまでは、合波器を形成する導波路の断面形状として上辺/底辺比を用い、合波器のB/R比を評価してきた。次に、導波路の断面形状を表す指標として、台形底辺の長さと上辺の長さの差を用いて、別の観点から合波器のB/R比を評価する。
【0102】
図14は、方向性結合器のB/R比の最大値と最小値の差と、(台形底辺の長さと上辺の長さの差)/(台形底辺の長さ)との関係を示したものである。図6A(3)によれば、上辺が(w-2x)、底辺がwであるので、横軸は(台形底辺の長さと上辺の長さの差)/ (台形底辺の長さ)=2x/wである。ここで用いた方向性結合器は、図5でその特性を示した代表的な方向性結合器と同じである。同様に、パラメータとしてのギャップ幅 (gw)の変動幅も、固定した導波路間隔 (d)も同じとした。
【0103】
図14の横軸で、2x/w=0の位置が矩形断面、2x/wが0より大きい領域が台形断面、2x/wが0より小さい領域が上辺の方が底辺より大きい逆台形断面になる。図14より、矩形断面から台形断面になるにつれて、B/R比の最大値と最小値の差は、明らかに小さくなることが分かる。案内線20に示すとおりでる。このことは、図7~12で上辺/底辺比を用いて検討した場合と同様、矩形断面よりも台形断面の導波路を用いて形成した方向性結合器の方が、ギャップ幅の変動に対してB/R比の変動幅は小さく、産業上重要な導波路型合波器の合波特性のバラツキが低減することがこの結果からも導かれる。
【0104】
[第2の課題である方向性結合器自体のモード結合の効率(光方向性結合器の合波性能)を向上させる第2の実施の形態の光導波路型合波器]
第1の実施の形態では、光導波路型合波器の製造プロセスのバラツキによるギャップ幅のバラツキを改善する構成を記載した。第2の実施の形態では、光方向性結合器の合波部の2つの光導波路のコア形状を、台形等、高さ方向に非対称にすることで、方向性結合器自体のモード結合の効率(光方向性結合器の合波性能)を向上することができる。以下、光導波路型合波器自体の特性向上が可能な光導波路型合波器における合波部としての方向性結合器の構造について記述する。
【0105】
図15は、図5でその特性を示した代表的な方向性結合器(コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%、導波路高さ(h)は1.6μm、導波路間隔 (d)は4μmで固定)の場合の赤色と青色のそれぞれの結合長と上辺/底辺比の関係を示す図である。この場合のギャップ幅(gw)は、1.9μm、導波路幅(w)は、2.1μmである。
【0106】
図15から分かるように、上辺/底辺比が0から1の範囲(台形の範囲)で、青色Bの結合長が大幅に増加するのに対して、赤色Rの結合長はそれほど増加せず、低いままである。このことは、一方の導波路を伝搬する青色の光が隣接する導波路に乗り移ることのできる導波路の長さ(青色の結合長)が大きくなることを意味する。この理由は、導波路を伝搬する赤色光のフィールドは広く、緑色光のフィールドは狭いため、導波路のコア断面を台形にすると、波長が短い青色光のフィールドが底辺付近に閉じ込められてフィールドの広がりがより狭くなるが、波長の長い赤色光のフィールドの広がりは台形による影響は限定的であるからと考えられる。
【0107】
図3の(1)で示される赤色と青色の光の乗り移りの仕方の場合において、赤色光Rが導波路WG1からWG2に完全に乗り移り、一方、青色光Bが導波路WG2からWG1には殆ど乗り移らないという光方向性結合機の合波特性を向上させることができる。
【0108】
図16は、図5でその特性を示した代表的な方向性結合器の場合について、横軸を導波路間隔 (d)とし、縦軸をB/R比の最大値として、ギャップ幅 (g)をパラメータとしてプロットした図である。図13と同様に、B/R比の最大値とは、各ギャップ幅 (gw)に対してB/R比が最大になるときのB/R比の値のことであり、この最大値は、上辺/底辺比が台形の範囲に入っている時に得られる。
【0109】
図16から分かるように、B/R比の最大値は、導波路間隔 (d)に依存して、3近傍から9程度までの広い範囲に渡っている。一方、パラメータとしてのギャップ幅 (gw)依存性は小さい。このことから、図3の(2)、(3)で示される赤色と青色の光の乗り移りの仕方は、導波路断面が台形の場合、実現可能であり、かつ、ギャップ幅依存性が小さいというメリットがあることが分かる。
【0110】
具体的に説明すると、図3の(2)では、赤色光Rが4回乗り移る間に青色光Bが1回乗り移るので、B/R比が4近傍であれば、青色光Bと赤色光Rの結合長LB、LRの比がLB:LR=4:1になり、このタイプの乗り移りが可能となる。
【0111】
また、図3の(3)では、赤色が3回乗り移る間に青色が1回乗り移るので、B/R比が3近傍であれば、青色光Bと赤色光Rの結合長LB、LRの比がLB:LR=3:1になり、このタイプの乗り移りが可能となる。以上、B/R比が4近傍および3近傍の両方が、図16に示される範囲に入っていることが分かる。
【0112】
また、図3の(1)においても、前述したように、B/R比が大きければ大きいほどよく、図16では、B/R比が9程度まで十分大きくすることが可能である。よって、光導波路型合波器の基本構成となる図3(1)、(2)および(3)のすべてを台形の導波路で実現可能である。
【0113】
光の3原色のうち、赤色と青色との関係についてコア断面が高さ方向で非対称な(台形の)光導波路の優位性を述べているが、赤色と緑色、および緑色と青色においても、同様の優位性が存在することは、既に述べた通りである。
【0114】
[方向性結合器を形成する導波路の伝搬モード]
ここまでは、主に単一モード光を伝搬する導波路を用いた光方向性結合器の例を示した。ただし、ここでの導波路は、厳密に単一モード光のみを伝搬するものだけに限定されない。基本モード以外の低次のモード光を伝搬できる導波路でも、主要なモードが基本モード(伝搬モード中で光強度が最も大きいモードが基本モード)である擬似基本モードであれば、合波特性は多少劣化するが、ここまでに述べた合波特性、効果はすべて、単一モード光を伝搬する導波路を用いた例と同じく当てはまる。また、光方向性結合器の一方の導波路が、多モード光を伝搬する導波路であっても、基本的に、光の乗り移りのメカニズムは単一モード導波路の場合と同じであり、同じく、ここまでに述べた結果がすべて当てはまることになる。
【0115】
次に、第1及び第2の実施の形態における実施例について述べる。
【0116】
[実施例1:図1の合波器でコア断面が台形の例]
実施例1は、図1に示す3原色光導波路型合波器であり、その3つの光の合波部での乗り移り動作は、図1で説明したとおりであるが、更に加えると次の通りである。第1合波部110では、第3光導波路103を伝搬してきた青色光Bが第3と第2の光導波路に分離する。すなわち、第1合波部110のモード結合領域の長さL1が、青色光が第2導波路102に完全に乗り移る距離の半分のため、青色光が50%ずつ第3と第2の光導波路に分離する。分離した青色光は、第3合波部130で、再度第2導波路102に乗り移り始め、最終的には、全ての青色光が第2導波路に伝搬する。青色光の場合、光方向性結合器が、第2合波部120の存在により途中で途切れているが、第1合波部110と第3合波部130を合わせて、一つの方向性結合器になっていると考えることができる。一方、緑色光Gは、モード結合の大きさが青色光の2倍であるため、第1合波部110のモード結合領域の長さL1だけで、完全に隣の第3導波路103に乗り移ることができる。
【0117】
第3合波部130では、赤色光Rが第2導波路102から第3導波路103に乗り移り、更に第2導波路102に戻る。すなわち、第3合波部130のモード結合領域の長さL3は、赤色光が隣の光導波路に乗り移る結合長の2倍である。そのため、赤色光Rが、第2導波路102から第3導波路103に乗り移り、更に、第3導波路から第2導波路に戻り、結局、元の第2導波路102を伝搬する。以上の光の乗り移り動作は、モード結合の強さがが、概略、赤:緑:青=4:2:1になっていることに基づく。このモード結合の強さは、光の波長が大きければ大きいほど、大きくなる。光導波路からの伝搬光の拡がり(浸みだし)に波長依存性があるためである。
【0118】
基板111はSiからなり、クラッド層112は、SiO2ガラスからなり、光導波路101、102、103を構成するコアは、屈折率をクラッド層より高くしたSiO2ガラスからなる。第1~第3導波路101~103は基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路である。
【0119】
第1合波部110、第2合波部120、および第3合波部130は、方向性結合器である。なお、赤色光の波長は0.633μm、緑色光の波長は0.521μm、青色光の波長は0.448μmである。第1導波路101、第2導波路102、および第3導波路103の導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第3合波部130で3.2μm、第2合波部120で4μmである。また、第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面は、台形(上辺/底辺比は0.75)である。第1乃至3導波路のコア断面が台形(上辺/底辺比が0.75)でもよい。コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%である。
【0120】
この導波路のコア断面が台形の合波器は、コア断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器全体の長さを約10%減少させることができ、モード結合の効率が良くなった。また、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
【0121】
[実施例2:図1の合波器でコア断面が幅の異なる矩形を2段積層した形状の例]
実施例2は、図1に示す3原色光導波路型合波器の例である。実施例2の合波器の構造は、導波路の断面構造を除いて実施例1と同じである。第1~第3導波路101~103が基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路であることも実施例1と同じである。実施例2の導波路のコア断面は、図6(5)に示した幅が異なる矩形を2段積層した形状で、上段のコアの幅が下段のコアの幅の半分で、上段のコアと下段のコアの高さは、同じとした。導波路高さ(h)は1.6μm(上段のコアと下段のコアの高さの合計)、導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第3合波部130で3.2μm、第2合波部120で4μmである。各合波部は、方向性結合器からなる。ギャップ幅(上段のコア間のギャップ幅)は、第1合波部110と第3合波部130で0.8μm、第2合波部120で1.9μmである。また、上辺/底辺比は、0.85である。第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面が、幅が異なる矩形を2段積層した形状でもよい。
【0122】
この合波器は、コア断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器全体の長さを約8%減少させることができ、モード結合の効率が良くなった。また、合波器製造上の歩留まりを、約30%向上させることができた。
【0123】
[実施例3:図1の合波器で片側側面が斜めの台形断面の例]
実施例3は、図1に示す3原色光導波路型合波器の例である。実施例3の合波器の構造は、導波路の断面構造を除いて実施例1と同じである。実施例3の導波路のコア断面は、図6(6)に示した台形の側面の一方が垂直で他方が斜めの台形で、斜めの側面が導波路間で互いに向き合っている。第1導波路101、第2導波路102、および第3導波路103の導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第3合波部130で3.2μm、第2合波部120で4μmである。また、導波路断面の上辺/底辺比は0.75である。第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面が、片側斜面が斜めの台形形状でもよい。
【0124】
この合波器で、断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器全体の長さを約5%減少させることができ、モード結合の効率が良くなった。また、合波器製造上の歩留まりを、約15%向上させることができた。
【0125】
[実施例4:図1の合波器で導波路間のギャップが埋め込まれている方向性結合器の例]
実施例4は、図1に示す3原色光導波路型合波器の例である。実施例4の合波器の構造は、導波路の断面構造を除いて実施例1と同じである。実施例4の導波路のコア断面は、図6(7)に示した導波路間のギャップが埋め込まれている形状である。第1導波路101、第2導波路102、および第3導波路103の導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第3合波部130で3.2μm、第2合波部120で4μmである。また、導波路高さに対するギャップ埋め込み高さの比率は、0.2である。第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面が、導波路間ギャップが埋め込まれた形状でもよい。
【0126】
この合波器で、断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器全体の長さを約15%減少させることができ、モード結合の効率が良くなった。また、合波器製造上の歩留まりを、約30%向上させることができた。
【0127】
[実施例5:図2の合波器でコア断面が台形の例]
実施例5は、図2に示す3原色光導波路型合波器の例である。この場合、合波器は、第1~第3導波路101~103、第1および第2合波部110および120から形成されている。第1~第3導波路101~103は基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路である。これらの光導波路は、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。基板111はSiからなり、クラッド層112は、SiO2ガラスからなる。また、3つの光の合波部での乗り移り動作は、図2で説明したとおりである。
【0128】
ここで、第1合波部110、および第2合波部120は、方向性結合器である。なお、赤色光の波長は0.633μm、緑色光の波長は0.521μm、青色光の波長は0.448μmである。第1導波路101、第2導波路102、および第3導波路103の導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第2合波部120で3.2μm、である。また、導波路断面は、台形(上辺/底辺比は0.75)である。第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面が台形であればよい。コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%である。
【0129】
この合波器で、断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
【0130】
[実施例6:図18の合波器でコア断面が台形の例]
図18は、実施例6の3原色光導波路型合波器の例を示す平面図である。この合波器300では、第1~第3導波路101~103と、第1および第2合波部110および120の平面構造は図2と同様である。第1~第3導波路101~103が基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路であることも図2と同様である。但し、図2と異なり、この例では、第1~第3導波路101~103に緑色G、青色B、赤色Rがそれぞれ入射される。また、基板111の左端の側面図は図2と同様であるが、各導波路のコア断面は台形である。これらの光導波路は、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。基板111はSiからなり、クラッド層112は、SiO2ガラスからなる。
【0131】
また、第2導波路102の入射端102aに入射した青色光Bは、第1合波部110で直進し、続いて、第2合波部120で第1導波路101に移り、第1導波路101の出射端101bから出射する。第3導波路103の入射端103aに入射した赤色光Rは、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ移って伝搬し、第2合波部120で第1導波路101との間を繰り返し乗り移り最後に第1導波路101へ移った後、第1導波路101の出射端101bから出射する。第1導波路101の入射端101aに入射した緑色光Gは、第2合波部120でモード結合により第2導波路102移り、再度第2合波部120で第1導波路101へ戻った後、第1導波路101の出射端101bから出射する。このように、すべての光は、同一の第1導波路101の出射端101bから出射する。
【0132】
第2合波部120のB/R比は3である。そして、第2合波部120での赤色光Rの乗り移り回数は3、緑光Gの乗り移り回数は2、青色光Bの乗り移り回数は1である。第1合波部110の光の乗り移りは、図3(1)に示したもので、第2合波部120の光の乗り移りは、図3(3)に示したものと同等である。
【0133】
ここで、第1合波部110、および第2合波部120は、方向性結合器である。なお、赤色光の波長は0.633μm、緑色光の波長は0.521μm、青色光の波長は0.448μmである。第1導波路101、第2導波路102、および第3導波路103の導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110で4μm、第2合波部120で3.2μm、である。また、導波路断面は、台形(上辺/底辺比は0.75)である。第1乃至3導波路のうち少なくともモード結合領域の導波路のコア断面が台形であればよい。コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%である。
【0134】
この合波器で、断面が矩形の光導波路を用いた合波器よりも、合波器全体の長さを約10%減少させることができ、モード結合効率がよくなった。また、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
【0135】
[実施例7:図19の合波器でコア断面が台形の例]
図19は、実施例7の合波器の平面図である。この合波器400は、第1~第3導波路101~103、第1合波部110、および第2合波部120から形成されている。第1~第3導波路101~103は基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路である。ここで、第1合波部110と第2合波部120は、2本の光導波路が単純に隣接して配置されているのではなく、2本の光導波路の間に、導波路幅が大きなマルチモード光導波路105、106が配置されている。これらの多モード光導波路は、第1合波部110と第2合波部120のモード結合の効率を向上させる効果をもつ。
【0136】
実施例7の合波方法の一例は、次のとおりである。第3導波路103の入射端103aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合によりマルチモード光導波路105を介して第2導波路102に移り、第2合波部120では、そのまま直進して、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0137】
第1導波路101の入射端101aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第2合波部120でモード結合によりマルチモード光導波路106を介して第2導波路102へ移って伝搬し、第2導波路102の出射端102bから出射する。第2導波路102の入射端102aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110および第2合波部120でモード結合を起こすが、大部分の光は、そのまま直進し第2導波路102の出射端102bから出射する。このように、すべての光は、同一の第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0138】
この場合、図3(1)の赤色光が乗り移り、青色光が直進する動作が、合波部120で起こっている。ただし、赤色光は、多マルチモード光導波路106を介して乗り移るため、多少複雑な乗り移り方をするが、原理的には、図3(1)に示した動作で説明できる。このことから、第1~第3導波路101~103とマルチモード光導波路105、106のコア断面が高さ方向で非対称な光導波路を用いることにより、合波特性の向上が、図1図2図18に示した合波器と同様に得られる。
【0139】
[第3の実施の形態の光導波路型合波器]
図1図2図18図19の合波器は、複数の合波部が入射側から出射側に向かう光伝搬方向(図中左から右への水平方向)の異なる位置に配置されているため、合波器の光伝搬方向の長さが長くなり、合波器の小型化を困難にする。これに対して、第3の実施の形態の光導波路型合波器では、複数の合波部を光伝搬方向の一箇所に集積して配置し、合波器の光伝搬方向の長さを短くする。
【0140】
[第3の実施の形態の第1の合波器]
図20は、第3の実施の形態での第1の光導波路型合波器の構成を示す図である。図20には、第1の合波器500の平面図と切断面CS1での断面図が示される。この第1の光導波路型合波器500は、第1~第4導波路101~104と、第1~第3合波部110~130を有する。第1~第4導波路101~104は、基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路である。これらの合波部は、通常、光方向性結合器で形成されている。即ち、第1合波部110は、第3導波路103と第2導波路102それぞれの一部の導波路で、ギャップ幅gw1を介して近接する1対の所定長のモード結合領域103c、102cの導波路で構成される光方向性結合器である。第2合波部120は、第2導波路102と第1導波路101それぞれの一部の導波路で、ギャップ幅gw2を介して近接する1対の所定長のモード結合領域102c、101cの導波路で構成される光方向性結合器である。第3合波部130は、第1導波路101と第4導波路104それぞれの一部の導波路で、ギャップ幅gw3を介して近接する1対の所定長のモード結合領域101c、104cの導波路で構成される光方向性結合器である。
【0141】
なお、合波部の光方向性結合器は、1対の所定長の直線状のモード結合領域の導波路を所定のギャップ幅を隔てて近接して配置したものであり、所定長と所定のギャップ幅は伝搬する光が一方の導波路から他方の導波路に乗り移ることができるよう選択されている。前述したとおり、光が乗り移ることができる導波路間のギャップ幅と直線状の導波路の所定長とが伝搬する光の波長に応じて異なる。
【0142】
この第1の合波器500は、第1~第3導波路101~103の他に第1導波路101の第2導波路102とは反対側(図中下側)に第4導波路104を設けていて、第1~第3合波部110~130の各光伝搬方向の範囲が光伝搬方向に垂直な方向で互いに重なり合っている。図20の平面図に示すとおり、これらの光導波路は、通常、これまで述べた合波器同様、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。
【0143】
合波器500の合波は、例えば各合波部110~130の長さ等を調整することによって以下のようにすることができる。すなわち、合波方法の一例では、第1導波路101の入射端101aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第3合波部130、第2合波部120及び第1合波部110の三つの合波部のモード結合により、第4導波路104、第1導波路101、第2導波路102、第3導波路103を何度か行き来し、最終的には第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0144】
第2導波路102の入射端102aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103へ移って伝搬したのち、第2導波路102へ戻って伝搬して、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0145】
第3導波路103の入射端103aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ移り、第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0146】
なお、第2可視光(通常、緑色光G)、第3可視光(通常、青色光B)の光の一部は、第2合波部120及び第3合波部130を介して、第1導波路101と第4導波路104に乗り移るが、その乗り移り量は、例えば各合波部の長さを調整することによって小さくすることができる。このように、すべての色の光は、同一の第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0147】
図20(1)の平面図に示される光合波器の構造では、第1~第3合波部110~130の各光伝搬方向(図中水平方向)の範囲が光伝搬方向に垂直な方向(図中垂直方向)で重なり合っている。この重なり合っている部分を切断面CS1で切断した場合、図20(2)の断面図に示すように、合波部を構成する4本の光導波路103、102、101、104を、断面図において光導波路の構造(コア断面の高さと幅)および配置(導波路間隔とギャップ幅)とも左右対称とすると、合波効率が向上することがシミュレーションから示されている。このため、この合波器では、図20(2)の断面図に示すように、合波部を構成する光導波路の直線部分(モード結合領域)が、断面図において左右対称になっていることが望ましい。但し、上記光導波路の構造と配置が完全に左右対称でなくても、例えば95%程度左右対称であればよい。また、特性にこだわらなければ、この左右対称構造に限定されるものではない。
【0148】
また、第1~第3合波部110~130の各光伝搬方向の範囲が重なり合っている合波部を構成する4本の光導波路103、102、101、104のうち、中心にある光導波路102と101間のギャップ幅gw2を他のギャップ幅gw1、gw3よりも大きくすると、合波効率がさらに向上することがシミュレーションから示されている。よって、光導波路102と101間のギャップ幅gw2を他のギャップ幅gw1、gw3よりも大きくすることが望ましい。
【0149】
第3の実施の形態の第1の合波器500が第4導波路104を有することの技術的意義は、例えば以下の通りである。図1、2、18に示した合波器のように赤、青、緑に対応して3本の導波路で構成し、複数の合波部(方向性結合器)を合波器の長手方向(光伝搬方向)で少なくとも一部重ねた場合、1本の導波路の出射端から合波光を出射することができなかった。そこで、3本の導波路の外側に第4導波路を配置したところ、複数の合波部を光伝搬方向で重ねた構成で、1本の導波路の出射端から合波光を出射することできた。
【0150】
具体的には、3本の導波路で構成した合波器では、合波部110と120が図20に示すように部分的に重なっても青と緑の合波が可能で、第2導波路の出射端102bからその合波光が出射する。しかし、赤を青と緑の合波光に合波できず、出射端102b以外の出射端から出射してしまう。そこで、第4導波路104を赤が入射される第1導波路の外側に加えて、合波部130を形成すると、合波器120、130で第1導波路101を伝搬する赤色光が第2導波路102と第4導波路104に別れて乗り移っては第1導波路に戻ることを繰り返し、最終的に大部分の赤色光が出射端102bから出射するようになる。
【0151】
図21は、第3の実施の形態の第1の合波器500における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。第3導波路103に入射した青色光Bは、第1合波部110で第2導波路102に乗り移り、そのまま伝搬して出射端102bから出射する。図3(2)の青Bの乗り移りと同じである。第2導波路102に入射した緑色光Gは、第1合波部110で一旦は第3導波路103に乗り移り、その後第2導波路102に乗り移り、そのまま伝搬して出射端102bから出射する。青色光と緑色光の波長に基づく結合長の違いによる現象である。
【0152】
一方、第1導波路101に入射した赤色光Rは、第3合波部130で第4導波路104との乗り移りを繰り返しながら、第2合波部120で少し離れた位置にある第2、第3導波路102、103に徐々に光が乗り移り、最後は、第2導波路102に乗り移っている(この位置では第4導波路104は消滅または離れていて第3合波部130は存在しない。)。この赤色光Rの乗り移り方は、前述のとおり合波器内の3つの合波部を構成する光導波路の直線部分(モード結合領域)が、断面図で左右対称の構造と配置になっていることで、4本の導波路全体としての伝搬モードが各光導波路の独立した固有の伝搬モード(基本モード)の1次結合(加算)で表すことができ、最終的に1本の導波路102の固有の伝搬モードにすることができることにある。
【0153】
また、前述の、第1導波路101と第2導波路102との間のギャップ幅gw2を他のギャップ幅gw1、gw3より大きくしたことで、赤色光より波長の短い青色光と緑色光がなるべく第2合波部120を介して、第1導波路101と第4導波路104に乗り移らないようにすることができる。赤色光より波長が短い青色光や緑色光は、導波路から横方向に漏れている光(エバネッセント光)が少なく、大きくしたギャップ幅gw2を乗り移りづらくなる。このように、第1導波路101と第2導波路102との間のギャップ幅gw2を他のギャップ幅gw1、gw3より大きくすることが光合波の特性上望ましい。
【0154】
前述の重なり合った合波部での導波路の左右対称性については、合波器を3本の導波路で構成し、かつ第1導波路101と第2導波路102との間の導波路間距離を、第2導波路102と第3導波路103の間隔より大きくすると、対称性が崩れてしまう。この対称性の崩れを解消するために、第4の導波路104を加えたということもできる。
【0155】
第3の実施の形態での各合波部の長さを調整することの技術的な意味は次の通りである。図21の赤色光の進み方に示したように、第3導波路に入射した赤色光が出射用の第2導波路102に乗り移る第3合波部130の長さを決め、同時に、青色光と緑色光が同じく出射用の第2導波路102に乗り移る第1、第2合波部110、120の長さを決めることである。各合波部の長さは、シミュレーションによって決定することができる。モード結合理論による数値計算でも決定できるが、計算が極めて複雑になる。
【0156】
第4導波路104は、図20では、合波器内にその直線部分のみが存在しているが、もちろん、第4導波路104の入射側、または出射側に曲線からなるS字状導波路と入出射導波路をつないで、他の光導波路101、102、103と同様、入出射端を形成しても良い。図20中に入射側と出射側を破線で示したとおりである。第4導波路104の出射側にS字状導波路と出射導波路を設けることで、第4導波路104を伝搬するわずかな赤色光が迷光になってクラッド層内を伝搬することが抑制できる。また、第4導波路104の破線の入射側の導波路の入射端から別の光を入射することも可能である。
【0157】
また、光導波路103、102、101、104のコア断面構造は、矩形のようなコア断面が高さ方向で対称的でもよく、特性を向上させるためにコア断面が高さ方向で非対称な光導波路であってもよい。この場合、図3(2)の赤色光が元に戻り青色光が乗り移る動作が、第1合波部110で起こっている。ただし、赤色光は、第3、第2合波部130、120を介して第2光導波路102に乗り移るため、多少複雑な乗り移り方をするが、原理的には、図3(2)に示した動作で説明できる。
【0158】
図20に示す第3の実施の形態の第1の合波器500は、すべての合波部の各長手方向の範囲が重なり合っていることから、図1、2に示した合波器に比べて、合波器全体の長さを短くすることができる。
【0159】
[第3の実施の形態の第2の合波器]
図22は、第3の実施の形態での第2の光導波路型合波器の構成を示す図である。図22には、第2の合波器600の平面図と切断面CS2での断面図が示される。この第2の光導波路型合波器600は、図20に示した構造と同様、第1~第4導波路101~104Aと、第1~第3合波部110~130を有する。第1~第4導波路101~104Aは、基本モードまたは基本モードの光伝搬が最大成分である擬似基本モードの導波路である。これらの合波部は、通常、方向性結合器で形成されている。この第2の合波器600は、第1~第3導波路101~103の他に第4導波路104Aを有し、赤が第4導波路104Aに入射され、第1導波路101の入射側の導波路はなく、第1~第3合波部110~130の各光伝搬方向の範囲が重なり合っている。つまり、図22の第2の合波器600は、第1導波路101に赤は入射されず、第4導波路104Aに赤色光Rが入射されることが図20の第1の合波器500の構成とは異なる。第1~第3合波部110~130を構成する1対の導波路は図20の第1の合波器500と同じである。図22(2)の断面図に示すとおり、これらの光導波路は、通常、これまで述べた合波器同様、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。
【0160】
第2の合波器600の合波は、例えば、各合波部110~130の長さを調整することによって以下のようにすることができる。すなわち、合波方法の一例では、第4導波路104Aの入射端104aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第3合波部130、第2合波部120および第1合波部110の三つの合波部のモード結合により、第4導波路104A、第1導波路101、第2導波路102、第3導波路103を何度か行き来し、最終的には第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0161】
第2導波路102の入射端102aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103へ移って伝搬したのち、第2導波路102へ戻って伝搬して、第2導波路102の出射端102bから出射する。第3導波路103の入射端103aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ移り、第2導波路102の出射端102bから出射する。なお、第2可視光(通常、緑色光G)、第3可視光(通常、青色光B)の光の一部は、第2合波部120及び第3合波部130を介して、第1導波路101と第4導波路104に乗り移るが、その乗り移り量は、各合波部の長さを調整することによって小さくすることができる。このように、すべての色の光は、同一の第2導波路102の出射端102bから出射する。
【0162】
図22の第2の合波器600の構造においても、第1~第3合波部110~130の各光伝搬方向の範囲が重なり合っている。さらに、重なり合っている部分を切断面CS2で切断した場合、図22(2)断面図に示すように、合波部を構成する4本の光導波路103、102、101、104Aを、光導波路の構造(コア断面の高さと幅)および配置(導波路間隔とギャップ幅)とも左右対称とすると、合波効率は向上することがシミュレーションから示されている。このため、この合波器600でも、図22(2)断面図に示すように、第1~第3合波部を構成する4つの光導波路101~104Aの直線部分(モード結合領域)が、左右対称になっていることが望ましい。但し、上記光導波路の構造と配置が完全に左右対称でなくても、例えば95%程度左右対称であればよい。また、合波効率の特性にこだわらなければ、この左右対称構造に限定されるものではない。
【0163】
また、第1~第3合波部110~130の各長手方向の範囲が重なり合っている合波部を構成する4本の光導波路103、102、101、104Aのうち、中心にある光導波路102と101間のギャップ幅gw2を他のギャップ幅gw1、gw3よりも大きくすると、合波効率がさらに向上することがシミュレーションから示されている。
【0164】
図23は、第3の実施の形態の第2の合波器600における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。第3導波路103に入射した青色光Bと第2導波路102に入射した緑色光Gは、図21に示した第1の合波器500の第1合波部110と第2合波部120での乗り移りと同じである。一方、第4導波路104Aに入射した赤色光Rは、第3合波部130で第1導波路101との乗り移りを繰り返しながら、第2合波部120および第1合波部110で少し離れた位置にある第2、第3導波路102、103に徐々に光が乗り移ることを繰り返し、最後は、第2導波路102に乗り移っている(この位置では第4合波路104は消滅または離れていて第3合波部130は存在しない。)。
【0165】
図22では、第4光導波路104Aは、入射導波路とS字状導波路がつながっており、第1光導波路101は、S字状導波路と出射導波路がつながっているが、もちろん、第4光導波路104Aの出射側にS字状導波路と出射導波路をつないでもよく(図22中破線参照)、その場合第4光導波路104Aを伝搬する僅かな赤の伝搬光がクラッド層内で迷光となるのを防止できる。また光導波路101の入射側に入射導波路とS字状導波路とをつなげてもよく、他の光導波路102、103と同様、入出射端を形成しても良い。
【0166】
また、第2の合波器600も同様に、光導波路103、102、101、104Aのコア断面構造は、矩形のようなコア断面が高さ方向で対称的でもよく、特性を向上させるために、コア断面が高さ方向で非対称な光導波路であってもよい。この場合、図3(2)の赤色光が元に戻り、青色光が乗り移る動作が、第1合波部110で起こっている。ただし、第4導波路104Aに入射した赤色光は、第3、第2合波部130、120を介して第2導波路102に乗り移るため、多少複雑な乗り移り方をするが、原理的には、図3(2)に示した動作で説明できる。
【0167】
[第3の実施の形態の第3及び第4の合波器]
図24は、第3の実施の形態の第3及第4の光導波路型合波器を示す図である。図24(1)は、第3の光導波路型合波器700の平面図を示す。この第3の光導波路型合波器700の基本的な構造は、図20に示した第1の合波器500と同一であるので、説明は省略する。但し、第3の合波器700は、青色光Bが第2導波路102に入射し、緑色光Gが第3導波路103に入射することと、3つの光の合波光が第3導波路103の出射端103bから出射することが、図20の第1の合波器500と異なる。
【0168】
この第3の合波器700の合波は、各合波部の長さを調整することによって以下のようにすることができる。すなわち、合波方法の一例では、第1導波路101の入射端101aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第3合波部130、第2合波部120及び第1合波部110の3つの合波部のモード結合により、第4導波路104、第1導波路101、第2導波路102、第3導波路103を何度か行き来し、最終的には第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0169】
第2導波路102の入射端102aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103へ移り、第3導波路103の出射端103bから出射する。第3導波路103の入射端103aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ移って伝搬したのち、第3導波路103へ戻って伝搬して、第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0170】
なお、第2可視光(通常、緑色光G)、第3可視光(通常、青色光B)の光の一部は、第2合波部120及び第3合波部130を介して、第1導波路101と第4導波路104に乗り移るが、その乗り移り量は各合波部の長さを調整することによって小さくすることができる。このように、すべての色の光は、同一の第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0171】
また、図24(1)の第3の合波器700の構造の場合も、各合波部の光伝搬方向の範囲が重なり合うこと、各光導波路の構造および配置の関係、第4導波路に入出射導波路を設置すること、各導波路の断面構造、また合波器の特徴等は図20に示した構造の場合と同じである。
【0172】
図24(2)は、第4の光導波路型合波器800の平面図を示す。この第4の光導波路型合波器800の基本的な構造は、図22に示した第2の合波器600と同一であるので、説明は省略する。但し、第4の合波器800は、青色光Bが第2導波路102に入射し、緑色光Gが第3導波路103に入射することと、3つの光の合波光が第3導波路103の出射端103bから出射することが、図22の第2の合波器600と異なる。
【0173】
この第4の合波器800の合波は、各合波部の長さを調整することによって以下のようにすることができる。すなわち、合波方法の一例では、第4導波路104の入射端104aに入射した第1可視光(通常、赤色光R)は、第3合波部130、第2合波部120及び第1合波部110の3つの合波部のモード結合により、第4導波路104A、第1導波路101、第2導波路102、第3導波路103を何度か行き来し、最終的には第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0174】
第2導波路102の入射端102aに入射した第3可視光(通常、青色光B)は、第1合波部110でモード結合により第3導波路103へ移り、第3導波路103の出射端103bから出射する。第3導波路103の入射端103aに入射した第2可視光(通常、緑色光G)は、第1合波部110でモード結合により第2導波路102へ移って伝搬したのち、第3導波路103へ戻って伝搬して、第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0175】
図25は、第3の実施の形態の第4の合波器800における3色の光の進み方のシミュレーション結果を示す図である。第3導波路103に入射した緑色光Gは、第1合波部110で一旦第2導波路102に乗り移った後、第3導波路103に乗り移り、そのまま伝搬して出射している。第2導波路102に入射した青色光Bは、第1合波部110で第3導波路103に乗り移り、そのまま伝搬して出射している。そして、第4導波路104Aに入射した赤色光Rは、第3合波部130で第1導波路101との乗り移りを繰り返しながら、第2合波部120および第1合波部110で少し離れた位置にある第2、第3導波路102、103に徐々に光が乗り移り、最後は、第3導波路103に乗り移っている(この位置では第4導波路104Aは消滅または離れていて第3合波部130は存在しない。)。
【0176】
なお、第2可視光(通常、緑色光G)、第3可視光(通常、青色光B)の光の一部は、第2合波部120及び第3合波部130を介して、第1導波路101と第4導波路104Aに乗り移るが、その乗り移り量は各合波部の長さを調整することによって小さくすることができる。このように、すべての色の光は、同一の第3導波路103の出射端103bから出射する。
【0177】
また、図24(2)の第4の合波器800の構造の場合も、各合波部の光伝搬方向の範囲が重なり合うこと、各光導波路の構造および配置の関係、第1および第4導波路に入出射導波路を設置すること、各導波路の断面構造、また合波器の特徴等は図22に示した構造の場合と同じである。
【0178】
次に、第3の実施の形態における実施例について述べる。
【0179】
本実施例は、図20、22、24でそれぞれ説明した4種類の合波器500~800の構成をそれぞれ有し、第1~第4導波路101~104、104A、第1~第3合波部110~130を有する。これらの光導波路は、基板111上に形成されたクラッド層112内に埋め込まれている。基板111はシリコンSiからなり、クラッド層112は、SiO2ガラスからなる。第1合波部110、第2合波部120、および第3合波部130は、光方向性結合器である。なお、赤色光の波長は0.633μm、緑色光の波長は0.521μm、青色光の波長は0.448μmである。第1導波路101、第2導波路102、第3導波路103、及び第4導波路104、104Aの導波路幅 (w)は、2.1μm、導波路高さ(h)は、1.6μm。導波路間隔 (d)は、第1合波部110と第3合波部130で3.2μm、第2合波部120で4μmである。コアとクラッドとの屈折率差は、0.8%である。
【0180】
上記の構造で作製した各合波器の特性は以下のとおりである。
(1)図20の第1の合波器500の場合:
導波路断面が矩形の場合、合波器長1.6mmで、3色平均の合波効率70%が得られている。また、導波路断面を台形にすることによって、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
(2)図22の構造の第2の合波器600の場合:
導波路断面が矩形の場合、合波器長2mmで、3色平均の合波効率87%が得られている。また、導波路断面を台形にすることによって、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
(3)図24(1)の構造の第3の合波器700の場合:
導波路断面が矩形の場合、合波器長1.8mmで、3色平均の合波効率92%が得られている。また、導波路断面を台形にすることによって、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
(4)図24(2)の構造の第4の合波器800の場合:
導波路断面が矩形の場合、合波器長1.5mmで、3色平均の合波効率85%が得られている。また、導波路断面を台形にすることによって、合波器製造上の歩留まりを、約20%向上させることができた。
【符号の説明】
【0181】
100~800:光導波路型合波器
101~104、104A:第1乃至第4光導波路
101a~104a:入射端
101b~103b:出射端
101c~104c:モード結合領域の導波路
110~140:第1乃至第4合波部
111:基板
112:クラッド層
gw:ギャップ幅
図1
図2
図3
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図6A
図6B
図7
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図12A
図12B
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