(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124460
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】多層フィルム、容器、及び容器製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230830BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230830BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20230830BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20230830BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
C09J7/29
C09J123/26
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028228
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】竹田 啓人
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB01
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB62
3E086BB71
3E086CA01
3E086DA08
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK03A
4F100AK03C
4F100AK03D
4F100AK04A
4F100AK63A
4F100AK63C
4F100AK68D
4F100AK69B
4F100AL06D
4F100AT00E
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100CB00D
4F100DG10E
4F100EC03
4F100EH20
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ53
4F100GB16
4F100JD02B
4F100YY00D
4J004AA07
4J004CB03
4J004CC03
4J004CE01
4J004FA08
4J040DA151
4J040MA09
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の湾曲が少ない多層フィルムを実現する。
【解決手段】予め立体的に成形された紙製の基材に対して接着層16が接する状態で熱融着される多層フィルム10であって、最外層11と、中間層13と、保持層15と、保持層15と接する接着層16と、を記載の順に備え、最外層11と保持層15とが、互いに同種の樹脂を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め立体的に成形された紙製の基材に対して接着層が接する状態で熱融着される多層フィルムであって、
最外層と、中間層と、保持層と、前記保持層と接する前記接着層と、を記載の順に備え、
前記最外層と前記保持層とが、互いに同種の樹脂を含む、多層フィルム。
【請求項2】
前記最外層から前記中間層までのそれぞれの層と、前記保持層から前記中間層までのそれぞれの層とが、厚みと材質において対称性を有する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記同種の樹脂は、同種のポリオレフィン系樹脂である、請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記多層フィルム全体の厚みは、200μm以下であり、前記多層フィルム全体の厚みに対する前記接着層の厚みの割合は、25%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記接着層は、極性基を有する変性ポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記中間層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むガスバリア層である、請求項1から5のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記最外層が、エチレン系樹脂材を含み、流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記多層フィルムの前記最外層から前記熱板の表面までの最大距離である加熱湾曲量が0.5cm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項8】
前記多層フィルムは、吸収線量15~250kGyの条件で電子線照射されたものである、請求項7に記載の多層フィルム。
【請求項9】
前記最外層が、ポリプロピレン系樹脂を含み、流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記多層フィルムの前記最外層から前記熱板の表面までの最大距離である加熱湾曲量が1cm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項10】
流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が前記熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記熱板の表面と前記多層フィルムの端部の接線とが成す角である加熱湾曲角度が45°以下である、請求項7から9のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項11】
レンジアップ食品用である、請求項1から10のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項12】
予め立体的に成形された前記基材と、請求項1から11のいずれか一項に記載の多層フィルムと、を備え、
前記多層フィルムが前記基材に熱融着されている、容器。
【請求項13】
前記容器が、レンジアップ耐性を有する、請求項12に記載の容器。
【請求項14】
平面状の紙製材料から立体的な形状を有する基材を成形する基材成形工程と、
最外層と、中間層と、前記最外層と同種の樹脂を含む保持層と、前記保持層と接する接着層と、を記載の順に備える多層フィルムを形成する多層フィルム形成工程と、
前記多層フィルムを加熱して軟化させる加熱軟化工程と、
前記加熱軟化工程により軟化した前記多層フィルムを、前記基材に前記接着層が接する状態で密着させることにより熱融着させるラミネート工程と、を含む容器製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム、容器、及び容器製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
予め立体的に形成された基材に対して接着される多層フィルムが知られている。例えば特許文献1には、紙容器に対して接着される紙容器用ラミネートフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、予め立体的に形成された基材である紙コップに多層フィルムを加熱してから密着させて接着している。しかし、多層フィルムは複数の層を有するため、その複数の層における加熱時の挙動の差により加熱時に多層フィルムが湾曲してしまう場合があった。このため、立体的な基材のフランジ部に多層フィルムが折りたたまれた状態で熱溶着され、蓋材とのシール不良が起こるという問題があった。
【0005】
そこで、予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の湾曲が少ない多層フィルムの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多層フィルムは、
予め立体的に成形された紙製の基材に対して接着層が接する状態で熱融着される多層フィルムであって、
最外層と、中間層と、保持層と、前記保持層と接する前記接着層と、を記載の順に備え、
前記最外層と前記保持層とが、互いに同種の樹脂を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る容器は、
予め立体的に成形された前記基材と、上記の多層フィルムと、を備え、
前記多層フィルムが前記基材に熱融着されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る容器製造方法は、
平面状の紙製材料から立体的な形状を有する基材を成形する基材成形工程と、
最外層と、中間層と、前記最外層と同種の樹脂を含む保持層と、前記保持層と接する接着層と、を記載の順に備える多層フィルムを形成する多層フィルム形成工程と、
前記多層フィルムを加熱して軟化させる加熱軟化工程と、
前記加熱軟化工程により軟化した前記多層フィルムを、前記基材に前記接着層が接する状態で密着させることにより熱融着させるラミネート工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、多層フィルムの最外層と保持層とが互いに同種の樹脂を含むことで、積層方向における層構造の対称性が高くなるので、加熱時に、積層方向の一方側と他方側とで挙動の差が小さくなる。よって、予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の多層フィルムの湾曲を少なくすることが可能である。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記最外層から前記中間層までのそれぞれの層と、前記保持層から前記中間層までのそれぞれの層とが、厚みと材質において対称性を有することが好ましい。
【0012】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記同種の樹脂は、同種のポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0013】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記多層フィルム全体の厚みは、200μm以下であり、前記多層フィルム全体の厚みに対する前記接着層の厚みの割合は、25%以下であることが好ましい。
【0014】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記接着層は、極性基を有する変性ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記中間層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含むガスバリア層であることが好ましい。
【0016】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記最外層が、エチレン系樹脂材を含み、流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記多層フィルムの前記最外層から前記熱板の表面までの最大距離である加熱湾曲量が0.5cm以下であることが好ましい。
【0017】
これらの構成によれば、予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の多層フィルムの湾曲を一層少なくすることが可能となる。
【0018】
上記の多層フィルムは、一態様として、
吸収線量15~250kGyの条件で電子線照射されたものであることが好ましく、より好適には吸収線量30~125kGyの条件で電子線照射されたものであることがより好ましい。
【0019】
これらの構成によれば、吸収線量15kGy以上の条件で電子線照射されたものであるため高い耐熱性を有することが可能となり、かつ、吸収線量250kGy以上の条件で電子線照射されたものであるため、熱収縮が大きすぎないようにすることを可能にする。
【0020】
上記の多層フィルムは、一態様として、
前記最外層が、ポリプロピレン系樹脂を含み、流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記多層フィルムの前記最外層から前記熱板の表面までの最大距離である加熱湾曲量が1cm以下であることが好ましい。
【0021】
上記の多層フィルムは、一態様として、
流れ方向を短辺とした10cm×3cmの前記多層フィルムを前記最外層が前記熱板の表面と接する状態で前記熱板上に置き145℃で1分保持した後の、前記熱板の表面と前記多層フィルムの端部の接線とが成す角である加熱湾曲角度が45°以下であることが好ましい。
【0022】
これらの構成によれば、予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の多層フィルムの湾曲をより少なくすることが可能である。
【0023】
これらの構成によれば、予め立体的に成形された基材に対して熱融着する際の多層フィルムの湾曲をより少なくすることが可能である。
【0024】
上記の多層フィルムは、一態様として、
レンジアップ食品用であることが好ましい。
【0025】
高い耐熱性を有する上記の多層フィルムは、上記用途に好適に使用できる。
【0026】
上記の容器は、一態様として、
レンジアップ耐性を有することが好ましい。
【0027】
レンジアップ耐性を有することにより、上記の容器をレンジアップ食品に好適に使用できる。
【0028】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】多層フィルムの層構成を示す断面模式図である。
【
図3】多層フィルムの湾曲量の測定方法を示す図である
【
図4】容器の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る多層フィルム10について、図面を参照して説明する。
図1は、多層フィルム10の層構成を示す断面模式図である。
図2は、容器20の構成を示す断面模式図である。多層フィルム10は、予め立体的に成形された基材21に対して接着層16が接する状態で熱融着されるフィルムである。多層フィルム10は、第一の面の側に設けられた最外層11と、中間層13と、保持層15と、第二の面の側に設けられた接着層16と、を記載の順に備えている。接着層16は、保持層15と接している。この多層フィルム10が基材21に熱融着されることで容器20となる。図示の例では、多層フィルム10は、最外層11側から順に、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を備える。
【0031】
最外層11と保持層15とは、互いに同種の樹脂を含んでいる。ここで、「同種の樹脂」とは、共通の構成単位を有する樹脂同士であって、構成単位の全量(mol)対する共通の構成単位の量(mol)の割合がいずれも20mol%以上であるものを意味する。
【0032】
同種の樹脂について、例えばエチレン系樹脂を例に挙げて具体的に説明すると、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン(mLLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA樹脂)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA樹脂)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体等は、構成単位の全量(モル)対するエチレンから誘導された構成単位の量(mol)の割合が20mol%以上であるため同種であるとする。また、例えばプロピレン-エチレンランダム共重合体及びプロピレン-エチレンブロック共重合体等のうち、構成単位の全量(mol)対する、エチレンから誘導された構成単位の量(mol)の割合が20mol%未満であるものは、上述の低密度ポリエチレン等とは同種ではないとする。
【0033】
同種の樹脂は、構成単位の全量(mol)対する共通の構成単位の量(mol)の割合が、好適にはいずれも30mol%以上であり、より好適にはいずれも40mol%以上であり、更に好適にはいずれも50mol%以上である。
【0034】
本実施形態では、最外層11と保持層15とは、互いに同種のポリオレフィン系樹脂を含んでいる。「同種のポリオレフィン系樹脂」の定義は上記に準ずる。また、「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィンに由来する単位を含む高分子であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4メチルペンテン等のオレフィン類の単独重合体若しくは2種以上のオレフィン類の共重合体、又は1種以上のオレフィン類とオレフィン類以外の異種成分との共重合体が挙げられる。
【0035】
最外層11は、容器20の内容物と直接接する層であり各種の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい。最外層11は、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及び熱可塑性エラストマー等で構成される。好適には、最外層11は前述のポリオレフィン系樹脂で構成される。また、最外層11は前述のポリオレフィン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。また、最外層11は、ポリオレフィン系樹脂単独であってもよいし、ポリオレフィン系樹脂と他の材料との混合物により構成されていてもよい。前記他の材料は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択され得る。
【0036】
本実施形態において、最外層11は保持層15と同種のポリエチレン系樹脂で構成される。「ポリエチレン系樹脂」とは、エチレンを少なくともモノマー単位として含む高分子である。前述のポリエチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール系樹脂、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸系樹脂、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル系樹脂、アイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエチレンとしては、特に限定されないが、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDEP)などが例示される。最外層11はポリエチレン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。最外層11は、好適には、ポリエチレンを10質量%以上含む。より好適には、ポリエチレンを25質量%以上含む。更に好適には、ポリエチレンを50質量%以上含む。
【0037】
最外層11がポリエチレンを含む場合、多層フィルム10を最外層11側から電子線を照射して最外層11の架橋密度を向上させることができる。好適には、最外層11は低密度のポリエチレンを含む。このようにすれば、多層フィルム10を最外層11側から電子線を照射して最外層11の架橋密度をより向上させることができる。
【0038】
最外層11は、エチレン系樹脂材に熱融着可能な層であることが好ましい。「エチレン系樹脂材」とは、エチレンを少なくともモノマー単位として含む樹脂材である。エチレン系樹脂材としては、ポリエチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等から構成される部材が例示される。ポリエチレン系樹脂としては、例えばエチレンの単独重合体、エチレンと他の単量体とのブロック共重合体、又はエチレンと他の単量体とのランダム共重合体が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル系樹脂としては、例えばエチレンと酢酸ビニルとの混合物又は共重合体が挙げられる。
【0039】
第一中間接着層12及び第二中間接着層14は、それぞれ、その両側に隣接する層同士を接着させる機能を有する層である。すなわち、第一中間接着層12は最外層11と中間層13とを接着させる層であり、第二中間接着層14は中間層13と保持層15とを接着させる層である。第一中間接着層12及び第二中間接着層14を構成する材料としては、公知の接着性ポリマーを用いることができ、各層が接着させるべき二層の組合せに応じて使用する材料が選択される。第一中間接着層12及び第二中間接着層14は、互いに同種の樹脂を含んでいることが望ましい。
【0040】
中間層13の機能は特に限定されないが、好適には、ガスバリア性を多層フィルム10に付与する。「ガスバリア性」とは、ガスの透過しにくさのことを指す。中間層13は、例えば、炭酸ガス(CO2)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)に対するガスバリア性を多層フィルム10に付与する。本実施形態では、中間層13は、特に酸素ガス(O2)に対するガスバリア性を多層フィルム10に付与するガスバリア層であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む構成とされている。ここで、エチレン-ビニルアルコール共重合体として、エチレン含有率が38mol%以下のものを用いると、ガスバリア性が特に高くなるため好ましい。なお、エチレン-ビニルアルコール共重合体の他に、中間層13に含まれる材料として好適な材料の例としては、ポリアミドMXD6、ポリ塩化ビニリデンなどが例示される。また、中間層13に、ガスバリア性を有する添加剤(マイカ、粘土など)が配合されていてもよい。
【0041】
中間層13の材料及び厚さは、多層フィルム10のガスバリア性に対して大きく影響するため、要求されるガスバリア性を発現する範囲で中間層13の材料及び厚さが選択される必要がある。中間層13の材料及び厚さは、当該材料を当該厚さに成形したフィルムについてJIS K 7126-2:2006(等圧法)により測定した酸素透過度が、5.0ml/m2・day・atm以下であるように決定される。例えば、中間層13をエチレン含有率が38mol%以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体により構成し、その厚さを6μm以上とすると、酸素透過度5.0ml/m2・day・atm以下の基準を達成しやすい。なお、中間層13の材料及び厚さは、当該材料を当該厚さに成形したフィルムの酸素透過度が3.0ml/m2・day・atm以下であるように決定されることがより好ましく、1.0ml/m2・day・atm以下であるように決定されることが更に好ましい。
【0042】
保持層15は、接着層16に接して設けられている。前述の通り、保持層15は最外層11と同種の樹脂を含む。保持層15は、接着層16を保持する層であり、接着層16と多層フィルム10のその他の部分とが剥離することを防止する機能を有する。保持層15には、例えば接着層16を構成する材料と共通する分子構造を有する材料や、接着層16を構成する材料と融点が近い材料などが用いられる。好適には、保持層15は最外層11と同種のポリオレフィン系樹脂を含む。保持層15はポリオレフィン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。また、保持層15は、ポリオレフィン系樹脂単独であってもよいし、ポリオレフィン系樹脂と他の材料との混合物により構成されていてもよい。前記他の材料は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択され得る。
【0043】
本実施形態では、保持層15は最外層11と同種のポリエチレン系樹脂から構成されている。ポリエチレンは、接着層16に好適に用いられる変性ポリオレフィン系樹脂と共通する分子構造を有するため、接着層16との接着性が高く、これによって接着層16の剥離を好適に防止し得る。保持層15はポリエチレン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。保持層15は、好適には、ポリエチレンを10質量%以上含む。より好適には、ポリエチレンを25質量%以上含む。更に好適には、ポリエチレンを50質量%以上含む。
【0044】
接着層16は、予め立体的に成形された基材21に接着可能な層である。好適には、接着層16は基材21に熱融着可能な熱融着層である。基材21は紙から構成される紙製の基材である。接着層16は、極性基を有する変性ポリオレフィン系樹脂を含むことが望ましい。接着層16が変性ポリオレフィン系樹脂を含むことによって、紙製の基材21との接着性に優れる。変性ポリオレフィン系樹脂は、カルボキシ基、又は2個のカルボキシ基が無水物化された基、を有するモノマーから誘導された構成単位を有することが好ましい。
【0045】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、変性ポリプロピレン系樹脂、変性ポリエチレン系樹脂が好ましい。変性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンとエチレンとα-オレフィンとの3元共重合体等のポリプロピレン系樹脂に、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物を、グラフト共重合した変性重合体等が挙げられる。また、変性ポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、共重合体等が挙げられる。接着層16は、変性ポリオレフィン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。また、接着層16は、変性ポリオレフィン系樹脂単独であってもよいし、変性ポリオレフィン系樹脂と他の材料との混合物により構成されていてもよい。前記他の材料は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択され得る。
【0046】
接着層16における、接着層16の全質量に対する、極性基を有する変性ポリオレフィン系樹脂の含有量の割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、多層フィルム10と紙製の基材21との接着性がより高くなる。
【0047】
多層フィルム10全体の厚さに対する、接着層16の厚さの割合は、好適には25%以下である。より好適には20%以下であり、更に好適には15%以下である。接着層16の厚さは、多層フィルム10全体の厚さに対する、接着層16の厚さの割合が上記範囲内であれば、特に制限はないが、好適には50μm以下であり、より好適には40μm以下であり、更に好適には30μm以下である。
【0048】
多層フィルム10は、最外層11から中間層13までのそれぞれの層と、保持層15から中間層13までのそれぞれの層とが、厚みと材質において対称性を有することが望ましい。厚みにおいて対称性を有するとは、対応する層の厚みが±30%以内であることを意味する。また、好適には±10%以内であり、更に好適には±5%以内である。材質において対称性を有するとは、対応する層の厚みが互いに同種の樹脂を含むこと、すなわち、構成単位の全量(mol)対する共通の構成単位の量(mol)の割合が20mol%以上であることを意味する。対応する層とは、積層方向(厚み方向)において中間層13に対し対称の場所に位置する層を意味する。
【0049】
多層フィルム10全体の厚さは、特に限定されないが、好適には200μm以下である。より好適には150μm以下であり、更に好適には40μm以上140μm以下である。多層フィルム10の厚さが40μm未満であると、中間層13が薄くなり、ガスバリア性が必要とされる水準に満たない場合がある。また、多層フィルム10の厚さが40μm未満であると、多層フィルム10を製造する際の歩留まりが低くなる可能性がある。一方、多層フィルム10の厚さが200μmを超えると、接着層16を他部材と熱融着させる際に接着面に熱が伝わりにくくなり、熱融着不良が生じやすくなる場合がある。本実施形態に係る多層フィルム10の厚さは、例えば100μmである。
【0050】
多層フィルム10全体の厚さに対する最外層11及び保持層15の厚みの割合は、好適にはそれぞれ10%以上である。より好適にはそれぞれ12%以上であり、更に好適にはそれぞれ25%以上である。多層フィルム10全体の厚さに対する第一中間接着層12及び第二中間接着層14の厚みの割合は、好適にはそれぞれ20%以下であり、好適にはそれぞれ10%以下であり、更に好適にはそれぞれ8%以下である。図示の例では、多層フィルム10全体の厚さに対する各層の厚みの割合は、最外層11及び保持層15がそれぞれ28%及び30%、第一中間接着層12及び第二中間接着層14がそれぞれ8%、中間層13が12%である。
【0051】
図3は、多層フィルム10の加熱湾曲量ΔWhの測定方法を示す図である。多層フィルム10には、流れ方向と横断方向とがある。流れ方向とは後述の多層フィルム形成工程S12において各材料が流動した方向(所謂Machine Direction)であり、多層フィルムの横断方向とは流れ方向を横断する方向(所謂Transverse Direction)である。
【0052】
加熱湾曲量ΔWhとは、多層フィルム10の流れ方向を短辺とした10cm×3cmの多層フィルム10を最外層11が145℃に加熱した状態の平板である熱板30の表面と接する状態で熱板30上に置き1分保持した後の、多層フィルム10の最外層11から熱板30の表面までの最大距離である。この加熱湾曲量ΔWhは、加熱状態での多層フィルム10の湾曲度合を示す量である。多層フィルム10の加熱湾曲量ΔWhは、好適には0.5cm以下であり、より好適には0.2cm以下であり、更に好適には0.1cm以下である。また、熱板30の表面と、多層フィルム10の端部の接線と、が成す角である加熱湾曲角度Δθが45°以下であり、好適には40°以下であり、より好適には35°以下である。好適には、多層フィルム10の端部とは熱板30から最も遠い側の部分である。上記の多層フィルム10の端部の接線は、最外層11側の接線でも良く、接着層16側の接線でも良い。
【0053】
また、多層フィルム10は、吸収線量15~250kGyの条件で電子線照射されたものであることが好ましく、より好適には吸収線量30~125kGyの条件で電子線照射されたものであることが好ましい。この範囲にあることにより、高い耐熱性を有することが可能となり、かつ熱収縮が大きすぎないようにすることを可能にする。
【0054】
多層フィルム10は、吸収線量15kGy以上130kGy以下の条件で電子線照射されたものであることが好ましい。多層フィルム10を20kGy以上130kGy以下で電子線照射することにより、多層フィルム10(特に、最外層11、中間層13と、保持層15)の架橋密度を向上させることができる。その結果、多層フィルム10全体として、耐熱性及び溶融張力を向上させることができる。
【0055】
電子線照射により多層フィルム10の架橋密度が向上する理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、多層フィルム10に電子線が照射されると、多層フィルム10の最外層11のポリエチレン中の炭素-水素結合が切断され、切断された結合末端にラジカルが発生する。発生したラジカルは、分子鎖の分子運動により、他のポリエチレン分子鎖に接触し、水素原子を引き抜いてポリエチレン分子鎖中の炭素原子と結合し、その結果、架橋構造が形成されるものと考えられる。中間層13でも同様の現象が起きているものと推測される。
【0056】
電子線照射の吸収線量は、20kGy以上130kGy以下であることがより好ましく、25kGy以上125kGy以下であることがさらに好ましい。電子線照射の吸収線量が前記下限値以上であることで、多層フィルム10の架橋密度をより向上させることができる。電子線照射の吸収線量が前記上限値以下であることで、多層フィルム10が過剰な強度となることが抑制される。
【0057】
電子線照射の加速電圧は、100kV以上300kV以下であることが好ましく、120kV以上280kV以下であることがより好ましく、140kV以上260kV以下であることがさらに好ましい。電子線照射の加速電圧が前記下限値以上であることで、多層フィルム10の架橋密度をより向上させることができる。電子線照射の加速電圧が前記上限値以下であることで、多層フィルム10が過剰な強度となることが抑制される。
【0058】
容器20は、予め立体的に成形された基材21と、多層フィルム10と、を備え、多層フィルム10が基材21に熱融着されている。本実施形態では、容器20は更に蓋材22を備えている。容器20には内容物として例えば食品や薬品等が収容される。蓋材22としては、例えばポリエチレン系樹脂材で構成されたトップシール包装用のトップフィルムや、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂材で構成されたスキンパック包装用のスキンフィルムが用いられる。「トップシール包装」とは、器に内容物を充填し、トップフィルムを器に熱融着して好適には密封する包装である。「スキンパック包装」とは、トレー、台紙、エアキャップ、或いはフィルム等の器に製品を置き、加熱したスキンフィルムを上から被せ、同時に下方から空気を抜き、スキンフィルムを食品と器の表面に密着させて好適には密封する包装方法である。図示の例では、予め立体的に成形された基材21は紙容器であってトップシール包装用の器であり、蓋材22はトップフィルムである。
【0059】
最外層11が保持層15と同種のポリエチレン系樹脂を含む場合は、最外層11が耐油性を有するので、食品等が有する油分によって基材21が損傷することを回避できる。また、最外層11は電子線架橋により耐熱性が付与されていることから、例えば電子レンジで加熱された食品に対して十分な耐熱性を有する。好適には、多層フィルム10は、レンジアップ食品に用いることができるレンジアップ食品用多層フィルムである。ここで、レンジアップ食品とは電子レンジで加熱調理する食品を意味する。また、好適には、容器20は、レンジアップ耐性を有する。レンジアップ耐性を有するとは、食品を電子レンジで加熱調理可能であることを意味する。好適には、レンジアップ耐性を有するとは、JIS S2029:2002に規定された「電子レンジ高周波適正性試験」及び「電子レンジ耐久性試験」に適合することを意味する。
【0060】
最外層11は、蓋材22に熱融着される。このため、多層フィルム10と蓋材22とにより画定される空間に食品等を密封することが可能である。例えば、多層フィルム10は中間層13に由来する高いガスバリア性(特に酸素バリア性であり、酸素透過度5.0ml/m2・day・atm以下である。)を有する。蓋材22が同様に高いガスバリア性を有することにより、食品等を高いガスバリア性を有する部材により密封することができるので、食品等の劣化を抑制できる。
【0061】
輸送や陳列時に蓋材22が剥がれないために、蓋材22と多層フィルム10の最外層11との剥離強度は1n/15mm以上が求められる。また、容器20から食品等を取り出すときには、蓋材22を多層フィルム10の最外層11から剥離する。このとき蓋材22を多層フィルム10の最外層11から剥離する一方で、多層フィルム10の接着層16は基材21から剥離しないことが求められる。このため、蓋材22と最外層11との剥離強度は、基材21と接着層16との剥離強度より小さい値であることが好ましい。また、蓋材22を多層フィルム10の最外層11から剥離する操作は一般的に手作業で行われるので、蓋材22と最外層11との剥離強度は手作業で剥離しやすい程度とすることが好ましく、具体的には11n/15mm以下とすることが好ましい。
【0062】
容器20の製造方法は、
図4に示すように、基材成形工程S11と、多層フィルム形成工程S12と、加熱軟化工程S13と、ラミネート工程S14とが含まれる。
【0063】
基材成形工程S11は、平面状の紙製材料から立体的な形状を有する基材21を成形する工程である。基材成形工程S11としては、公知の成形方法を用いることができる。かかる成形方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチフォーミング成形、プレス成形などの方法が例示される。紙製材料としては、古紙パルプやバージンパルプ、これらを適宜混合したパルプ等が用いられてもよい。容器20は、板紙を所望の形状となるように切込みを入れて組み立てることで立体的な形状に成形されたものであってもよく、型により成形されたものであってもよい。
【0064】
多層フィルム形成工程S12は、最外層11と、中間層13と、最外層11と同種の樹脂を含む保持層15と、保持層15と接する接着層16とを記載の順に備える多層フィルム10を形成する工程である。多層フィルム形成工程S12としては、例えば共押出成形が用いられる。すなわち、最外層11、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を構成する各材料を押出機から押し出して、これをtダイから吐出させることによって、上記の構成の多層フィルム10が形成される。他の形成方法として、層ごとにフィルム状に成形した最外層11、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を互いに熱融着させる方法によって多層フィルム10が形成されてもよい。また、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法及びウェットラミネート法のいずれかによって接着剤を用いて貼り合わせることにより、多層フィルム10が形成されてもよい。図示の例では、基材成形工程S11の次に多層フィルム形成工程S12が行われるが、逆の順番でもよいし並行して行われてもよい。
【0065】
加熱軟化工程S13は多層フィルム10を加熱して軟化させる工程である。本実施形態では、基材21を成形型の下型に配置し、成形型の上型である熱板30に多層フィルム10を接着層16側が基材21に相対するように配置して120℃~150℃で加熱軟化させる。
【0066】
ラミネート工程S14は、加熱軟化工程S13により軟化した多層フィルム10を、基材21に接着層16が接する状態で密着させることにより熱融着させる工程である。本実施形態では、多層フィルム10が配置された上型を降下させて、下型に配置された基材21に多層フィルム10の接着層16を密着させて圧力1.0kgf~2.5kgf、好ましくは、1.5kgf~2.0kgfで加圧して、その状態で1~5秒間保持することにより、多層フィルム10と基材21とを熱融着させる。
【0067】
本実施形態の多層フィルム10は、予め立体的に成形された基材21に対して接着層16が接する状態で熱融着される多層フィルム10であって、最外層11と、中間層13と、保持層15と、保持層15と接する接着層16と、を記載の順に備え、最外層11と保持層15とが、互いに同種の樹脂を含む。この構成によれば、多層フィルム10の最外層11と保持層15とが互いに同種の樹脂を含むので、加熱軟化工程S13における多層フィルム10の湾曲を少なくすることができる。特に、多層フィルム10の流れ方向を短辺とした10cm×3cmの試験片を準備して最外層11が加熱した状態の熱板30の表面と接する状態で熱板30上に置き145℃で1分間保持した後の最外層11から熱板30の表面までの最大距離(加熱湾曲量ΔWh)が0.5cm以下であり、熱板30の表面と、多層フィルム10の端部の接線と、が成す角である加熱湾曲角度Δθが45°以下となる多層フィルム10を用いることで、効果的に湾曲を少なく抑えることができる。
【0068】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る多層フィルム10について説明する。上記第1の実施形態では、多層フィルム10の最外層11と保持層15とが同種のポリエチレン系樹脂を含んでいたが、本実施形態では、最外層11と保持層15とが、同種のポリプロピレン系樹脂を含む点で異なっている。以下では、第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、第1の実施形態と同様とする。
【0069】
ここで、「ポリプロピレン系樹脂」とは、プロピレンを少なくともモノマー単位として含む高分子である。ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン単独であってもよいし、ポリプロピレンと他の材料との混合物により構成されていてもよい。単独でまたは他の材料と混合して使用されるポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどが例示される。また、ポリプロピレン系樹脂がポリプロピレン以外の材料を含む場合、当該材料の例としては、ポリエチレンやエラストマーなどの高分子などが例示される。このポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDEP)などが例示される。ポリプロピレン系樹脂として、ポリプロピレンと他の材料との混合物を用いると、耐寒衝撃性を付与することができる。
【0070】
最外層11はポリプロピレン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。最外層11が保持層15と同種のポリプロピレン系樹脂を含む場合、最外層11が耐油性を有するので、食品等が有する油分によって基材21が損傷することを回避できる。また、最外層11に用いられているポリプロピレン系樹脂の軟化点が一般的に120℃程度であることから、例えば電子レンジで加熱された食品に対して十分な耐熱性を有する。従って、本実施形態の多層フィルム10も、好適にはレンジアップ食品用多層フィルムである。最外層11は、好適には、ポリプロピレンを10質量%以上含む。より好適には、ポリプロピレンを25質量%以上含む。更に好適には、ポリプロピレンを50質量%以上含む。
【0071】
本実施形態では、保持層15は、前述の通り最外層11と同種のポリプロピレン系樹脂を含む。ポリプロピレンは、接着層16に好適に用いられる変性ポリオレフィン系樹脂と共通する分子構造を有するため、接着層16との接着性が高く、これによって接着層16の剥離を好適に防止し得る。保持層15はポリプロピレン系樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいても良い。保持層15は、好適には、ポリプロピレンを10質量%以上含む。より好適には、ポリプロピレンを25質量%以上含む。更に好適には、ポリプロピレンを50質量%以上含む。
【0072】
また、本実施形態では、多層フィルム10の加熱湾曲量ΔWhは、好適には1.0cm以下であり、より好適には0.8cm以下であり、更に好適には0.6cm以下である。また、本実施形態では、熱板30の表面と、多層フィルム10の端部の接線と、が成す角である加熱湾曲角度Δθが45°以下であり、好適には40°以下である。
【0073】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る多層フィルム10、容器20のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0074】
上記の実施形態では、多層フィルム10が、最外層11、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を備える構成を例として説明した。しかし、本発明に係る多層フィルム10において、第一中間接着層12及び第二中間接着層14の存否は任意である。また、例えば中間層13と異なる機能を有する2つの層が積層方向において中間層13の両側に、当該中間層13に対して対称に更に設けられてもよい。
【0075】
本発明に係る多層フィルム10を構成する各層に用いられる高分子材料には、公知の添加剤が添加されてもよい。かかる添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、撥水材、撥油材などが例示される。
【0076】
上記の実施形態では、基材成形工程S11と、多層フィルム形成工程S12と、加熱軟化工程S13と、ラミネート工程S14とを含む容器製造方法が例示されていたが、他の工程があってもよい。例えば、蓋材成形工程やグラビア印刷工程等が更に設けられていてもよい。
【0077】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
以下に示す手順で、下記の試料1~試料9の多層フィルムを製造した。
【0080】
〔試料1~試料4の製造〕
最外層11を構成する樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.938/cm3、宇部丸善ポリエチレン株式会社製、4040FC)及び、直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.913/cm3、宇部丸善ポリエチレン株式会社製、1520F)を準備した。なお、最外層11は2層から構成され、1層目に4040FC、2層目に1520Fが位置する。1層目と2層目の重量比は1:1である。
【0081】
第一中間接着層12及び第二中間接着層14を構成する樹脂として、変性ポリオレフィン樹脂(三井化学株式会社製、NF536)を準備した。
【0082】
中間層13を構成する樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(三菱ケミカル株式会社製、GH3804B)を準備した。
【0083】
保持層15を構成する樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.913/cm3、宇部丸善ポリエチレン株式会社製、1520F)を準備した。
【0084】
接着層16を構成する樹脂として、エチレン酢酸ビニル共重合体(エチレン:酢酸ビニルの共重合比=84:16、三井・ダウポリケミカル株式会社製、V5714RC)を準備した。
【0085】
次いで、最外層11、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を、この順で共押出成形することにより、多層フィルムを製造した。得られた多層フィルムは、最外層11(厚さ=28μm)、第一中間接着層12(厚さ=8μm)、中間層13(厚さ=12μm)、第二中間接着層14(厚さ=8μm)、保持層15(厚さ=30μm)、及び接着層16(厚さ=14μm)がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された、厚さが100μmのものである。
【0086】
次いで、多層フィルムの最外層11側から加速電圧150kVとし、吸収線量を30kGy~60kGyとして電子線照射を行った。この多層フィルムのうち、吸収線量60kGyで電子線を照射した多層フィルムを試料1、吸収線量45kGyで電子線を照射した多層フィルムを試料2、吸収線量30kGyで電子線を照射した多層フィルムを試料3、電子線照射を行わなかった多層フィルムを試料4とした。
【0087】
〔試料5の製造〕
保持層15を構成する樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレンの代わりにアイオノマー(密度0.940/cm3、三井・ダウポリケミカル株式会社製、1601)を用いた点、及び、電子線照射を行わなかった点以外は試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料5とした。
【0088】
〔試料6の製造〕
最外層11及び保持層15を構成する樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレンの代わりにアイオノマー(密度0.940/cm3、三井・ダウポリケミカル株式会社製、1601)を用いた点、及び、電子線照射を行わなかった点以外は試料1と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料6とした。
【0089】
〔試料7の製造〕
最外層11及び保持層15を構成する樹脂として、ポリプロピレン(密度0.900/cm3、住友化学社製、WF836DG3)を準備した。
【0090】
第一中間接着層12及び第二中間接着層14を構成する樹脂として、変性ポリオレフィン樹脂(三菱ケミカル株式会社製、GH3804B)を準備した。
【0091】
中間層13を構成する樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、J171B)を準備した。
【0092】
接着層16を構成する樹脂として、エチレン酢酸ビニル共重合体(エチレン:酢酸ビニルの共重合比=84:16、三井・ダウポリケミカル株式会社製、V5714RC)を準備した。
【0093】
次いで、最外層11、第一中間接着層12、中間層13、第二中間接着層14、保持層15、及び接着層16を、この順で共押出成形することにより、多層フィルム(試料7)を製造した。得られた多層フィルム(試料7)は、最外層11(厚さ=28μm)、第一中間接着層12(厚さ=8μm)、中間層13(厚さ=12μm)、第二中間接着層14(厚さ=8μm)、保持層15(厚さ=30μm)、及び接着層16(厚さ=14μm)がこの順に、これらの厚さ方向において積層されて構成された、厚さが100μmのものである。
【0094】
〔試料8の製造〕
保持層15を構成する樹脂として、ポリプロピレンの代わりにアイオノマー(密度0.940/cm3、三井・ダウポリケミカル株式会社製、1601)を用いた点以外は試料7と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料8とした。
【0095】
〔試料9の製造〕
保持層15を構成する樹脂として、ポリプロピレンの代わりに直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.913/cm3、宇部丸善ポリエチレン株式会社製、1520F)を用いた点以外は試料7と同じ方法で多層フィルムを製造し、試料9とした。
【0096】
〔湾曲量の測定〕
試料1~試料9の多層フィルムについて、前述の加熱湾曲量ΔWhを測定した。
試料1~試料9の多層フィルムについて、前述の加熱湾曲角度Δθを測定した。
【0097】
試料1~試料9の構成の概略と、上記ゲル分率及び湾曲量の測定結果とを下記の表1に示す。なお、表中の樹脂名の略称は、それぞれ以下の樹脂を表す。
LLPDE:直鎖状低密度ポリエチレン
ION :アイオノマー
PP :ポリプロピレン
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、たとえば食品包装の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 :多層フィルム
11 :外層
12 :第一中間接着層
13 :中間層
14 :第二中間接着層
15 :保持層
16 :接着層
20 :容器
21 :基材
22 :蓋材
30 :熱板