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特開2023-124486アルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124486
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】アルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/06 20060101AFI20230830BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20230830BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C21C7/06
C21C7/04 C
C21C7/072 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028270
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 元樹
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA14
4K013CA04
4K013CE01
4K013CE04
4K013CE06
4K013EA19
4K013EA20
4K013EA25
4K013EA28
(57)【要約】
【課題】Caを溶鋼に添加すること無く、溶鋼に付与する酸素を制御することで、溶鋼中において固液共存領域を回避することができ、タンディッシュのノズルが閉塞することを防止することが可能となるアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法を提供する。
【解決手段】本発明は、二次精錬後にCaを非添加とするアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法であって、脱炭精錬を実施した溶鋼5に対して脱酸Alを投入した後から二次精錬終了までの間における、Alを除く合金添加によるCaインプット比率Aを0.001%以上とし、酸素を二次精錬中の溶鋼5に付与する際に、送酸量B(Nm)に関する式:12.5×A(Caインプット比率(%))×M(溶鋼重量(kg))+64.2<B<1000を満たす。
【選択図】図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次精錬後にCaを非添加とするアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法であって、
脱炭精錬を実施した溶鋼に対して脱酸Alを投入した後から二次精錬終了までの間における、Alを除く合金添加によるCaインプット比率Aを0.001%以上とし、
酸素を前記二次精錬中の溶鋼に付与する際に、送酸量B(Nm)に関する式(1)を満たす
ことを特徴とするアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法。
12.5×A×M+64.2<B<1000 ・・・(1)
ただし、M:溶鋼重量(kg)
A:Caインプット比率(%)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次精錬後にCaを非添加とするアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、転炉等で脱炭処理された溶鋼は、二次精錬工程へ搬送され、その二次精錬工程にて溶鋼の真空脱ガス処理が行われている。真空脱ガス処理(RH処理)では、主に、溶鋼の成分調整や溶鋼の脱ガス処理が実施されている。例えば、溶鋼中のカルシウムを目標とする値以下にすることが行われている。
低カルシウム鋼を溶製する技術が特許文献1に開示されている。具体的には、成分調整用の金属または合金鉄を前記真空槽にて添加して溶鋼の成分を調整するにあたり、成分調整用の金属または合金鉄の最後の添加時点からの必要環流時間tをカルシウム濃度から求めて、求めた必要環流時間tを確保し、且つ、必要環流時間tよりも60秒を越えない範囲内で溶鋼を環流し、その後、精錬を終了することとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-119656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1は、初期のCa濃度に応じて必要環流時間tが増加してしまうため、高成分鋼では必要環流時間tが長くなってしまい、処理に多くの時間が費やされてしまう。また、環流時間の制御範囲が狭いため、脱ガスや成分のその他の制御項目に関する自由度が小さく、使い難い技術である。
さて、地球温暖化対策の一環として、COの排出規制が年々厳しくなっており、自動車においては一層の軽量化が求められてきている。これに加えて、自動車においては衝突時の安全性の向上も求められており、その観点も相まって、これら軽量化と安全性のニーズに合致する高張力鋼(ハイテン鋼)の使用割合が年々増加してきている。
【0005】
このような鋼材のハイテン化には、圧延ー熱処理の技術を向上させるだけでは不可能であり、添加する合金を増加させることが必須となる。これにより、ハイテン鋼は年々高合金化しているが、連続鋳造工程において、タンディッシュのノズルが閉塞してしまうという問題が生じる虞がある。
このノズルの閉塞が発生する問題は、高含有のSi,Mn鋼を鋳造する際に、溶鋼中において固液共存状態で存在する介在物が原因となる。つまり、液相の介在物がバインダーとなって、固相の介在物がノズルの内壁に付着してしまい、ノズルを閉塞させる。ただし、固相の介在物のみ存在する場合は、ノズル内壁に付着せずに接触する程度となり、ノズルの閉塞は起こらない。
【0006】
このように、ノズルの閉塞を防ぐには、溶鋼中において固液共存領域を回避する(固液共存させない)ことが必要となる。
例えば全体を、液相領域にして固液共存領域を回避する方法には、高含有のCa合金を使用する方法や、二次精錬後にCaワイヤーを添加する方法がある。しかしながら、この方法では、昇熱負荷が大きく、取鍋耐火物への負荷が大きくなる。
【0007】
一方で、固相領域にして固液共存領域を回避する方法には、低Ca含有の合金を使用する方法や、脱酸前に合金を添加する方法がある。しかしながら、この方法では、高成分の鋼種(Si,Mnなどが高含有の鋼種)であるほど、高純度の合金の使用が必要になってくる。
このようなことにより、本願発明者は、Alキルド鋼(アルミシリコンキルド鋼)では、溶鋼中に酸素を付与することで、Alが多くなることに着目した。二次精錬(RH処理)でOB量(送酸量)に応じて溶鋼中の介在物組成が変化し、十分に酸素が付与された場合は介在物の組成が固相領域となることを確認したことから、Ca添加量に応じた適正な送酸量を検討した。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、Caを溶鋼に添加すること無く、溶鋼に付与する酸素を制御することで、溶鋼中において固液共存領域を回避することができ、タンディッシュのノズルが閉塞することを防止することが可能となるアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかるアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法は、二次精錬後にCaを非添加とするアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法であって、脱炭精錬を実施した溶鋼に対して脱酸Alを投入した後から二次精錬終了までの間における、Alを除く合金添加によるCaインプット比率Aを0.001%以上とし、酸素を前記二次精錬中の溶鋼に付与する際に、送酸量B(Nm)に関する式(1)を満たすことを特徴とする。
【0010】
12.5×A×M+64.2<B<1000 ・・・(1)
ただし、M:溶鋼重量(kg)
A:Caインプット比率(%)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Caを溶鋼に添加すること無く、溶鋼に付与する酸素を制御することで、溶鋼中において固液共存領域を回避することができ、タンディッシュのノズルが閉塞することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ノズルの閉塞における付着部位と、付着物の組成を示した図である。
図2】二次精錬前における溶鋼中の介在物の組成を示した図である。
図3】EPMAによる(CaO/Al)組成分析結果と、PDA Ca/PDA Alの関係を示した図である。
図4】RH送酸量(Nm)と、PDA Ca/PDA Alの関係を示した図である。
図5A】Caインプット比率A(%)と、送酸量B/M(Nm/kg-steel)の関係における、PDA Ca/PDA Al≧8.2の分布を示した図である。
図5B】Caインプット比率A×溶鋼重量M(kg)と、送酸量B(Nm)の関係における、PDA Ca/PDA Al≧8.2の分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかるアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
転炉等で脱炭処理された溶鋼5は、二次精錬工程へ搬送され、その二次精錬工程にて真空脱ガス処理(RH処理)などの処理が行われている。その後、溶鋼5は取鍋1からタンディッシュ2に移され、タンディッシュ2のノズル3から鋳型4(連続鋳造装置)に注入される。
【0014】
RH式真空脱ガス処理装置では、主に、溶鋼5の成分調整や溶鋼5の脱ガス処理が行われている。図示はしないが、RH式真空脱ガス処理装置は、溶鋼5が装入される取鍋1と、真空状態となって溶鋼5内の脱ガスを行う真空槽とを有している。真空槽の下部には、取鍋1内の溶鋼5に浸漬させる2本の浸漬管が設けられている。この浸漬管の一方側には、真空槽へ向かう溶鋼5に対してガスを吹き込むガス吹込管が設けられている。真空槽の上部には、槽内のガスを外部へ排気する排気口が設けられている。
【0015】
RH真空脱ガス処理を行うにあたっては、まず、浸漬管を取鍋1内の溶鋼5に浸漬させる。そして、ガス吹込管からアルゴンガスや窒素ガスなどのガスを吹き込むと共に、排気口から真空槽内のガスを外部へ排気して、真空槽内を略真空状態にしておき、溶鋼5を真空槽と取鍋1との間で循環させる。このとき、溶鋼5の成分を調整するために、合金等を溶鋼5に供給する。
【0016】
本発明にかかるアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法は、二次精錬後にCaを非添加とするアルミシリコンキルド鋼(高合金鋼)の二次精錬方法であって、脱炭精錬を実施した溶鋼5に対して脱酸Alを投入した後から二次精錬終了までの間における、Alを除く合金添加によるCaインプット比率Aを0.001%以上とし、酸素を二次精錬中の溶鋼5に付与する際に、送酸量B(Nm)に関する式(1)を満たす。
【0017】
12.5×A×M+64.2<B<1000 ・・・(1)
ただし、M:溶鋼重量(kg)
A:Caインプット比率(%)
以下に、本発明のアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法について、詳細に説明する。
本発明は、二次精錬後にCaを添加しない場合における、アルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法を対象としている。
【0018】
すなわち、本発明は、溶鋼5に所定量の酸素を吹き込んで、溶鋼5内の介在物中のCaOを取り除くことで、タンディッシュ2の底部に備えられたノズル3の閉塞を防ぐ場合を対象としている。そのため、溶鋼5に対してCaを投入することで、ノズル3が閉塞しない介在物組成にする、二次精錬後にCaを溶鋼5に添加する場合は対象に含まない。
ノズル3の閉塞については、Si,Mnを多く含む成分系が主となって、発生する。
【0019】
付着物に含まれるAlが原因となってノズル3の内壁に付着することにより、ノズル3の閉塞をもたらす。そのため、本発明では、アルミシリコンキルド鋼を対象とする。
図5Aに、Caインプット比率A(%)と、送酸量B/溶鋼重量M(Nm/kg-steel)の関係における、PDA Ca/PDA Al≧8.2の分布を示す。
【0020】
図5Aに示すように、本発明では、脱炭精錬を実施した溶鋼5に対して脱酸Alを投入した後から二次精錬終了まで間における、Alを除く合金添加によるCaインプット比率Aを0.001%以上としている。
なお、好ましくは、Caインプット比率Aについて、0.001%以上0.003%以下とするとよい(図5Aを参照)。
【0021】
さて、本発明については、Si,Mn添加鋼で検討して得られたものであるが、送酸量と添加量が比例する、Alを除いた合金に含まれるCaは、Si,Mnと同じ影響を及ぼす。
また、Alについては、脱酸・成分調整・溶鋼5の昇熱を目的に添加するものであるが、脱炭精錬後に最初に添加するAlを脱酸Alとする。
【0022】
ただし、他の成分を調整するための添加物に含まれる微量Alについては、上記の脱酸Alに含まない。
また、脱酸Alを添加するまでに合金を添加した場合については、Caインプット比率Aには含めない。
Si,Mn添加物のCa含有量をa1(%),a2(%),a3(%),・・・とし、添加量をb1(kg),b2(kg),b3(kg),・・・としたとき、Caインプット比率Aは下式で与えられる。
【0023】
A=(Σ(a×b))/M
ただし、M:溶鋼重量(kg)
例えば、二次精錬開始前にAl脱酸を実施する場合は、二次精錬で添加する全合金量をCaインプット比率Aとする。一方、二次精錬でAl脱酸を実施する場合は、脱酸Alより後に添加する合金量をCaインプット比率Aとする。
【0024】
Caインプット比率Aが0.001%以上の範囲では、溶鋼5中の介在物にCaOが多く含まれるため、ノズル3の閉塞をもたらす介在物組成となる。
その介在物は、溶鋼5中では固液共存で存在(固相と液相が混在)している。その液相がバインダーとなって、介在物がノズル3の内壁に施工されている耐火物に付着しやすくなるため、ノズル3の閉塞をもたらす。
【0025】
このように、CaOが含まれる介在物組成の影響による、ノズル3の閉塞を防ぐ対策については、二次精錬後にCaを溶鋼5に添加することで組成を改質することが一般的であ
る(参考文献:鉄鋼便覧 第5版 第1巻)。
ところが、上記の手法では、本発明のようなCaを添加せずにノズル3の閉塞を防ぐ対策に比べてコストが高い、昇熱負荷が大きい、ノズル3の耐火物が溶損してしまうといった多くのデメリット(課題)が存在する。
【0026】
図5Bに、Caインプット比率A×溶鋼重量M(kg)と、送酸量B(Nm)の関係における、PDA Ca/PDA Al≧8.2の分布を示す。
図5Bに示すように、本発明では、酸素を二次精錬中の溶鋼5に付与する際に、送酸量B(Nm)に関する式(1)を満たす。
12.5×A×M+64.2<B<1000 ・・・(1)
ただし、M:溶鋼重量(kg)
A:Caインプット比率(%)
式(1)は、介在物組成を固相領域側の組成に改質して、固液共存領域を回避することで、ノズル3の閉塞を防ぐことができる条件である。
【0027】
なお、Caを溶鋼5に添加する手法は、介在物組成を液相領域側の組成へ改質することであるが、本発明は、前述とは異なる手法で固液共存領域の組成から回避するものとしている。
また、後ほど示す本実施例や比較例については、脱ガス精錬(RH処理)の送酸量Bであるが、溶鋼5中の介在物組成を改質する目的で実施するため、送酸を実施する工程に関しては脱ガス精錬に限定しない。
【0028】
上記のように、送酸量Bの下限(12.5×A×M+64.2(Nm)<B)については、PDA Ca/PDA Alの範囲から求められる。
また、送酸量Bの上限(B<1000Nm)については、送酸による処理時間が長くなる、RH真空槽内に施工された耐火物の負荷が大きくなるといったデメリットが存在するため設定した。
【0029】
【表1】
【0030】
[実施例]
以下に、本発明のアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
図1に、ノズル3の閉塞における付着部位と、付着物の組成を示す。
鋼に対してSiやMnを添加する際には、単体金属や合金を用いるが、これらは不純物を含んでいる。これらの不純物のうち、Caについては、溶鋼5中の介在物の組成に影響を及ぼすため、連続鋳造工程前においてノズル3の閉塞に繋がるリスクを有している。また、高張力鋼は、これらの元素を多く含むため、ノズル3の閉塞を発生させやすい。
【0034】
図1に示すように、例えば、高張力鋼を製造することを目的とした場合において、閉塞したノズル3の断面を観察すると、CaOをバインダーとした介在物が付着していることがわかる。
このとき、溶鋼5中の介在物は、固液共存領域に位置していることから、Si,Mnを多く含む高張力鋼においては、安定的に連続鋳造を実施するために、この固液共存領域を回避する必要がある。
【0035】
固液共存領域を回避する方法としては、溶鋼5へのCa添加量を増加させて介在物組成を液相領域側の組成に改質すること、または、Ca添加量を減らす乃至は溶鋼5中のCaを取り除くことで介在物組成を固相領域側の組成に改質することが挙げられる。
介在物組成を液相領域側の組成に改質して、固液共存領域を回避する方法には、高Ca合金を使用する方法や、二次精錬後にCaワイヤーを添加する方法などがある。ところが、前者の方法(高Ca合金の使用)では、Al昇熱の実施が困難になる。また、後者の方法(Caワイヤーの添加)では、Caワイヤー投入による冷却量相当の昇熱が必要となるため、昇熱負荷が大きい上に、耐火物の溶損の懸念もあり、コストが高くなってしまう。
【0036】
一方で、介在物組成を固相領域側の組成に改質して、固液共存領域を回避する方法には、低Ca合金を使用する方法や、脱酸前に合金を添加する方法などがある。ところが、この方法では、高成分の鋼種(Si,Mnなどが高含有の鋼種)であるほど、高純度の合金の使用が必要になり、コストが高くなってしまう。
このことから、本発明では、高純度の合金による成分調整に依存せずに、介在物組成を固相領域側の組成に改質して、固液共存領域を回避することで、ノズル3の閉塞を防止する対策を行っている。
【0037】
そこで、本発明は、溶鋼5中に酸素が多く含まれる場合に、CaOが取り除かれることに着目した。
図2に、出鋼後に、Caを0.3%含有するSi合金を溶鋼5に0.9%相当添加し、その後にAl脱酸を実施したときにおける二次精錬前の溶鋼5中の介在物組成を示す。ただし、介在物の平均組成については、Al領域に位置する。また、CaOは少ないため、Ca含有合金を添加することについては、無視することができる。
【0038】
以上のことから、脱酸後のCa含有合金の添加量が、溶鋼5中の介在物組成に大きく影響することがわかる。
二次精錬においては、要求される規格に応じて合金を添加する必要があるため、合金の添加量が多い鋼種では、Caのインプット量が多いため、介在物中のCaOが多くなる。
図3に、EPMAによる(CaO/Al)組成分析の結果と、PDA Ca/PDA Alの関係を示す。
【0039】
ここで、ノズル3の閉塞が発生する条件を検討するにあたっては、PDA Ca/PDA Alの比を用いた。
図3に示すように、CaO/Al<0.15の領域においては、カントバックで分析したPDA Ca/PDA Alと相関関係があることがわかる。
なお、カントバック分析については、株式会社島津製作所製の発光分光分析装置(Optical Emission Spectrometer)、型番:PDA-6000あるいはPDA-7000を用いて実施した。
【0040】
次に、ノズル3の閉塞が発生する領域を検討した。
表4に、鋼種αにおける平均Caインプット(PDA Ca/PDA Al)と、ノズル3の閉塞状況の関係を示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4に示すように、PDA Ca/PDA Al≧8.2では、ノズル3の閉塞が発生するようになることがわかる。このことから、PDA Ca/PDA Al<8.2をノズル3の閉塞が発生しない範囲として規定し、その規定を満たすことができる操業条件の範囲を検討した。
そこで、二次精錬でのCaO低減方法として、Alキルド鋼において溶鋼5中に酸素を付与することで、Alが増加することに着目した。この二次精錬で溶鋼5に酸素を付与する手段としては、例えば、溶鋼5の昇熱に用いられるOB(酸素を溶鋼5に吹き込む方法)がある。
【0043】
図4に、鋼種αにおけるRH送酸量(Nm)と、PDA Ca/PDA Alの関係を示す。
図4に示すように、送酸量140Nm以上で、PDA Ca/PDA Al<8.2となる。
しかしながら、鋼種でCaインプット量が大きく異なるだけでなく、二次精錬前の成分濃度は、転炉吹錬条件や混入スラグによって大きく変動するため、二次精錬前の成分濃度と要求規格から合金を投入する必要がある。
【0044】
そこで、ノズル3の閉塞が発生した鋼種α,βを用いて、二次精錬におけるCaインプットに応じた必要な送酸量を検討した。
図5Bに、Caインプット比率A×溶鋼重量M(kg)と、送酸量B(Nm)の関係における、PDA Ca/PDA Al≧8.2の分布を示す。
図5Bに示すように、送酸量が少ない場合のみPDA Ca/PDA Al≧8.2となり、Caインプットが多くなると、より多い送酸量でもPDA Ca/PDA Al≧8.2となる傾向にあった。
【0045】
このことより、PDA Ca/PDA Al<8.2となる領域((1)と(2)を満たす範囲)を本発明の範囲とした。
(1) CaインプットA:A≧2.5kg
(2) 送酸量B:B>12.5×A×M+64.2
上記の範囲では、ノズル3の閉塞を発生させることなく、連続鋳造工程を実施することができる。
【0046】
本発明のアルミシリコンキルド鋼の二次精錬方法によれば、Caを溶鋼5に添加すること無く、溶鋼5に付与する酸素を制御することで、溶鋼5中において固液共存領域を回避することができ、タンディッシュ2のノズル3が閉塞することを防止することが可能となる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0047】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0048】
1 取鍋
2 タンディッシュ
3 ノズル
4 鋳型(連続鋳造装置)
5 溶鋼
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B