(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124508
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】セルロース布紙含浸剤キット、耐水化セルロース布紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 17/02 20060101AFI20230830BHJP
D21H 17/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
D21H17/02
D21H17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028306
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】横山 優花
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】石井 慧
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG42
4L055EA32
4L055FA19
4L055GA47
(57)【要約】
【課題】セルロース布紙に優れた耐水性を付与できるセルロース布紙含浸剤キットを提供する。
【解決手段】糖質、フェノール類、及び有機酸アンモニウム塩を含む一次含浸剤が収容された第一の容器と、乾性油を含む二次含浸剤が収容された第二の容器とを備えるセルロース布紙含浸剤キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質、フェノール類、及び有機酸アンモニウム塩を含む一次含浸剤が収容された第一の容器と、乾性油を含む二次含浸剤が収容された第二の容器とを備えるセルロース布紙含浸剤キット。
【請求項2】
前記糖質と前記フェノール類と前記有機酸アンモニウム塩との合計質量に対する前記乾性油の割合が、固形分換算で50~500質量%である請求項1に記載のセルロース布紙含浸剤キット。
【請求項3】
前記フェノール類が、タンニンを含む請求項1又は2に記載のセルロース布紙含浸剤キット。
【請求項4】
前記糖質に対する前記フェノール類の割合が、固形分換算で1~50質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロース布紙含浸剤キット。
【請求項5】
前記有機酸アンモニウム塩/(前記糖質と前記フェノール類との合計質量)で表される質量比が、固形分換算で0.02~1.0である請求項1~4のいずれか一項に記載のセルロース布紙含浸剤キット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロース布紙含浸剤キットを用いた耐水化セルロース布紙。
【請求項7】
セルロース布紙に、請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロース布紙含浸剤キットの前記一次含浸剤を含浸し、硬化した後、前記二次含浸剤を含浸する、耐水化セルロース布紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース布紙含浸剤キット、耐水化セルロース布紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板等の積層板、化粧板、オイルフィルタ、摺動部材等の各種の成形物の製造において、紙等のセルロース布紙に熱硬化性材料を含浸した含浸物が用いられている。このような含浸物を硬化させた硬化物は、セルロース布紙に比べて強度に優れる。
【0003】
前記熱硬化性材料の一つとして、糖質又は糖質とフェノール類との混合物である第一成分と、有機酸アンモニウム塩とを含むセルロース布紙含浸用組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載のセルロース布紙含浸用組成物をセルロース布紙に含浸し、硬化した場合、セルロース布紙の強度は改善されるが、セルロース布紙の耐水性は改善されず、かえって耐水性が低下することがある。
【0006】
近年、セルロース布紙の活用は、SDGsやカーボンニュートラルの観点から非常に重要視されている。セルロース布紙の耐水性が向上することで、ポリ袋の代替としての紙袋や、紙皿、紙コップ、ストロー等の紙成形品といった身近な消耗品へも展開が期待できる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、セルロース布紙に優れた耐水性を付与できるセルロース布紙含浸剤キット、これを用いた耐水化セルロース布紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]糖質、フェノール類、及び有機酸アンモニウム塩を含む一次含浸剤が収容された第一の容器と、乾性油を含む二次含浸剤が収容された第二の容器とを備えるセルロース布紙含浸剤キット。
[2]前記糖質と前記フェノール類と前記有機酸アンモニウム塩との合計質量に対する前記乾性油の割合が、固形分換算で50~500質量%である前記[1]のセルロース布紙含浸剤キット。
[3]前記フェノール類が、タンニンを含む前記[1]又は[2]のセルロース布紙含浸剤キット。
[4]前記糖質に対する前記フェノール類の割合が、固形分換算で1~50質量%である前記[1]~[3]のいずれかのセルロース布紙含浸剤キット。
[5]前記有機酸アンモニウム塩/(前記糖質と前記フェノール類との合計質量)で表される質量比が、固形分換算で0.02~1.0である前記[1]~[4]のいずれかのセルロース布紙含浸剤キット。
[6]前記[1]~[5]のいずれかのセルロース布紙含浸剤キットを用いた耐水化セルロース布紙。
[7]セルロース布紙に、前記[1]~[5]のいずれかのセルロース布紙含浸剤キットの前記一次含浸剤を含浸し、硬化した後、前記二次含浸剤を含浸する、耐水化セルロース布紙の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルロース布紙に優れた耐水性を付与できるセルロース布紙含浸剤キット、これを用いた耐水化セルロース布紙及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔セルロース布紙含浸剤キット〕
本発明のセルロース布紙含浸剤キットは、一次含浸剤が収容された第一の容器と、二次含浸剤が収容された第二の容器とを備える。
一次含浸剤は、糖質、フェノール類、及び有機酸アンモニウム塩を含む。
二次含浸剤は、乾性油を含む。
二次含浸剤は、一次含浸剤の後にセルロース布紙に含浸される。
【0011】
<一次含浸剤>
一次含浸剤において、糖質としては、例えば単糖、オリゴ糖、デキストリン、フラクタン、それらの誘導体等が挙げられる。
本発明において、「オリゴ糖」は2以上10以下の単糖が結合したものとする。「デキストリン」は、一般的なマルトデキストリンの概念も含み、DE(dextrose equivalent)が20以下の糖組成物をいう。「フラクタン」は11以上の単糖が結合したものとする。
単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース等が挙げられる。
オリゴ糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース等の二糖;マルトトリオース、ラフィノース等の三糖;マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;フラクトオリゴ糖;マンノオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。
糖質は、還元糖でもよく非還元糖でもよく、還元糖が好ましい。
【0012】
糖質は、水溶性であることが好ましい。一次含浸剤をセルロース布紙に含浸させる際、通常、糖質等が液状媒体に溶解した溶液の状態とされる。糖質が水溶性であれば、液状媒体として水のみを用いることができる。
「水溶性」とは、20℃の水への溶解度が2g/100mL以上であることを示す。
水溶性の糖質としては、例えば単糖、二糖、オリゴ糖、デキストリン等が挙げられ、単糖又は二糖が好ましく、単糖がより好ましい。
糖質は1種を単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0013】
フェノール類としては、植物原料由来のフェノール類、化石燃料由来のフェノール類等が挙げられる。
植物原料由来のフェノール類としては、例えばフラボノイド系のタンニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、フェノール酸系のクロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、リグニン等のポリフェノール、カルダノール、カシューナッツシェルリキッド等が挙げられる。
化石燃料由来のフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、アミノフェノール、キシレノール、トリメチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
フェノール類としては、SDGs(Sustainable Development Goals)やカーボンニュートラルの観点から、植物原料由来のフェノール類が好ましい。
【0014】
フェノール類は、水溶性であることが好ましい。フェノール類が水溶性であれば、前記した液状媒体として水のみを用いることができる。
水溶性の定義は前記の通りである。すなわち水溶性のフェノール類とは、20℃の水への溶解度が2g/100mL以上のフェノール類を示す。
水溶性のフェノール類としては、例えばレゾルシノール、タンニン、フェノール、クレゾール、アミノフェノール、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
【0015】
フェノール類としては、セルロース布紙に対する補強効果に優れることから、多価フェノール類(水酸基を2個以上有するフェノール類)が好ましく、SDGsやカーボンニュートラルの観点から、植物原料由来の多価フェノール類がより好ましく、植物原料由来の水溶性の多価フェノール類がさらに好ましい。
植物原料由来の多価フェノール類としては、タンニンが好ましい。
タンニンとしては、例えば柿渋タンニン(カキタンニン)、タンニン酸、ミモザタンニン、ワットルタンニン、ケブラチョ(ケブラコ)タンニン、チェストナットタンニン、ミラボラムタンニン、ミロバランタンニン、バロニアタンニン、スマックタンニン、ガンビアタンニン、オークタンニン、タラタンニン、ジビジビタンニン、ボルネオカッチタンニン、スプルースタンニン、ヘムロックタンニン等が挙げられる。
フェノール類は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
有機酸アンモニウム塩は、一次含浸剤の硬化反応において、糖質と反応するアンモニアの供給源、及びその後の反応で触媒として機能する酸性物質の供給源として機能する。
有機酸アンモニウム塩としては、例えば、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム等のカルボン酸アンモニウム塩;フェノールスルホン酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸アンモニウム、キシレンスルホン酸アンモニウム等の芳香族スルホン酸アンモニウム塩;グルタミン酸アンモニウム等のアミノ酸アンモニウム塩等が挙げられる。
有機酸アンモニウム塩は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
有機酸アンモニウム塩としては、硬化反応を促進する効果がより優れる点、セルロース布紙にダメージを与えにくい点から、カルボン酸アンモニウム塩が好ましい。なかでも補強効果が高く入手しやすい点から、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0018】
一次含浸剤は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、糖質、フェノール類及び有機酸アンモニウム塩以外の他の成分をさらに含んでもよい。
他の成分としては、特に限定されず、セルロース布紙含浸剤に配合しうる成分として公知の成分のなかから適宜選択して使用できる。例えば、水、有機溶剤、無機酸アンモニウム塩、添加剤(界面活性剤、撥水剤、消泡剤、難燃剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、着色剤、増粘剤、増量剤等)等が挙げられる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。無機酸アンモニウム塩としては、セルロース布紙にダメージを与えない範囲で公知のものを適宜使用でき、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
一次含浸剤は、セルロース布紙への含浸性から、典型的には、水をさらに含む。
一次含浸剤は、水中に糖質、フェノール類及び有機酸アンモニウム塩が溶解又は分散している液状の組成物であってよい。
【0020】
一次含浸剤において、糖質(100質量%)に対するフェノール類の割合は、固形分換算で1~50質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましく、5~25質量%が特に好ましい。フェノール類の割合が前記下限値以上であれば、セルロース布紙に対する補強効果がより優れ、前記上限値以下であれば、より経済的なコストで補強効果を高めることができる。
【0021】
糖質とフェノール類との合計の含有量は、一次含浸剤の固形分(100質量%)に対し、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、70~90質量%が特に好ましい。糖質とフェノール類は、一次含浸剤の硬化物の骨格を形成する成分である。糖質とフェノール類との合計の含有量が前記下限値以上であれば、セルロース布紙に対する補強効果がより優れ、前記上限値以下であれば、有機酸アンモニウム塩等の他成分による効果が充分に発揮される。
【0022】
糖質、フェノール類それぞれの含有量は固形分量である。
フェノール類の固形分は、不揮発分である。不揮発分とは、試料1.5gを135℃で1時間加熱した後の残分を示す。
【0023】
一次含浸剤において、有機酸アンモニウム塩/(糖質とフェノール類との合計質量)で表される質量比は、0.02~1.0が好ましく、0.05~0.6がより好ましい。該質量比が前記下限値以上であれば、セルロース布紙に対する補強効果がより優れる。また、セルロース布紙に一次含浸剤を含浸した含浸物を硬化させる際に、所定の成形条件内(温度、時間)で硬化を完了させやすい。該質量比が前記上限値以下であれば、より経済的なコストで優れた補強効果を得ることができる。
【0024】
一次含浸剤において、糖質とフェノール類と有機酸アンモニウム塩との合計の含有量は、一次含浸剤の固形分(100質量%)に対し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。該合計の含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0025】
一次含浸剤が水を含む場合、水の含有量は、一次含浸剤のセルロース布紙に対する含浸性を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、例えば一次含浸剤の総質量に対して5~95質量%とすることができる。
【0026】
一次含浸剤における有機溶剤の含有量は、適宜調整すればよいが、環境面、安全面から、なるべく少ないことが好ましい。具体的には、有機溶剤の含有量は、一次含浸剤の総質量に対し、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、有機溶剤を実質的に含まないことが最も好ましい。ここで「有機溶剤を実質的に含まない」とは、一次含浸剤の調製に際して有機溶剤が配合されていないことを示す。
【0027】
一次含浸剤は、無機酸アンモニウム塩を含まないことが好ましい。無機酸アンモニウム塩を含まない、つまりアンモニウム塩として有機酸アンモニウム塩のみを含むことで、一次含浸剤の硬化性、硬化物の強度がより優れる。
【0028】
一次含浸剤は、ホルムアルデヒドを使用せずともセルロース布紙に対して優れた補強効果を発揮し得る。そのため、一次含浸剤は、ホルムアルデヒドを実質的に含まないことが好ましい。
ここで「ホルムアルデヒドを実質的に含まない」とは、一次含浸剤の調製に際してホルムアルデヒドを含む原料(例えばホルムアルデヒドや、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール・ホルムアルデヒド樹脂)が配合されていないことを示す。
【0029】
一次含浸剤の固形分濃度は、一次含浸剤の総質量に対し、5~80質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。固形分濃度が前記範囲内であれば、含浸性と補強効果のバランスが良好である。
【0030】
一次含浸剤が液状である場合、一次含浸剤の粘度は、500mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以下がより好ましい。粘度が前記範囲内であれば、含浸性が良好である。一次含浸剤の粘度の下限は特に限定されないが、例えば5mPa・sである。
粘度は、25℃にてE型粘度計(例えば東機産業社製 TVE-25)により測定される値である。
【0031】
一次含浸剤は、糖質、フェノール類、有機酸アンモニウム塩、必要に応じて他の成分を混合することにより調製できる。
糖質として2種以上を併用する場合、一次含浸剤の調製に際して、各糖質をそれぞれ配合してもよく、2種以上の糖質を含む原料を用いてもよい。2種以上の糖質を含む原料としては、例えば、異性化糖(グルコース、フルクトース等を含有)、水飴(グルコース、マルトース等を含有)等が挙げられる。
一次含浸剤が水を含む場合、一次含浸剤の調製に際して、水分と糖質を含み液体状になっている原料(液状糖質原料)を用いてもよい。一次含浸剤中の水は、液状糖質原料に由来するものであってもよく、一次含浸剤の調製時に別途配合されたものであってもよく、それらの両方であってもよい。
【0032】
一次含浸剤は、第一の容器に収容される。第一の容器は、一次含浸剤を収容可能であればよく、材質、形状等に特に制限は無い。
【0033】
<二次含浸剤>
乾性油は、ヨウ素価が130以上の油であり、酸化によって固化する。
乾性油のヨウ素価は、固化しやすさの点から、130以上が好ましく、150以上がより好ましい。ヨウ素価の上限は特に規定はないが、例えば200である。
ヨウ素価は、JIS K 0070により測定される。
【0034】
乾性油としては、例えば、荏油、亜麻仁油、桐油、芥子油、紫蘇油、胡桃油、紅花油、向日葵油、魚油(鰯油)、大豆油、ブラッククミンシードオイル、りんご油、ブドウ種子油、サボテンオイル、小麦胚芽油、パンプキンシードオイル、パッションフルーツシードオイル、グァバシードオイル、菜種油、ボラージオイル、シシンブリウムオイル、松の実油、カメリナオイル、クランベリーシードオイル、ライムシードオイル、ニガウリ油、麻油、シーバックソーンオイル、月見草オイル、イチゴ油、ブラックカラントオイル、カニナバラ果実油、ラズベリーシードオイル、インカインチオイル、キウイシードオイル、カレンデュラシードオイル、チアシードオイル、ザクロ種子油、ククイナッツ油、クロフサスグリ種子油、ルリジサ種子油等や、加工油としてスタンドリンシードオイル、ボイルドポピーオイル、サンブリーチドポピーオイル、ボイルドリンシードオイル、サンブリーチドリンシードオイル等が挙げられる。
乾性油は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
乾性油としては、ハンドリングの点から、荏油、亜麻仁油、桐油、芥子油、紫蘇油、胡桃油、紅花油、向日葵油からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
二次含浸剤は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、乾性油以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、例えば、油希釈剤等が挙げられる。
【0036】
油希釈剤は、乾性油を希釈し、二次含浸剤のセルロース布紙への含浸性を高める目的で用いられる。油希釈剤は通常、25℃にて液状で、乾性油と混和可能な揮発性化合物が用いられ、二次含浸剤の含浸剤後に乾燥により除去される。
油希釈剤としては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、アセトニトリル、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、トルエンが挙げられる。油希釈剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
一次含浸剤の糖質とフェノール類と有機酸アンモニウム塩との合計質量に対する乾性油の割合は、固形分換算で50~500質量%が好ましく、100~300質量%がより好ましい。乾性油の割合が前記下限値以上であれば、一次含浸剤及び二次含浸剤を含浸させたセルロース布紙の耐水性がより優れ、前記上限値以下であれば、一次含浸剤及び二次含浸剤を含浸させることによるセルロース布紙の質量増加を抑制できる。
【0038】
二次含浸剤が油希釈剤を含む場合、油希釈剤の含有量は、二次含浸剤のセルロース布紙に対する含浸性を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、例えば二次含浸剤の総質量に対して0~500質量%とすることができる。
【0039】
二次含浸剤は、第二の容器に収容される。第二の容器は、二次含浸剤を収容可能であればよく、材質、形状等に特に制限は無い。
【0040】
〔耐水化セルロース布紙〕
本発明の耐水化セルロース布紙は、上述のセルロース布紙含浸剤キットを用いたものである。
本発明の耐水化セルロース布紙は、セルロース布紙に、前記した一次含浸剤を含浸し、硬化した後、前記した二次含浸剤を含浸して得られる。
【0041】
セルロース布紙とは、セルロース繊維を主たる構成成分とする布紙を示し、布紙とは、紙及び布の総称である。布としては、不織布、織布、フェルト等が挙げられる。
セルロース布紙としては、特に限定されず、本含浸物の用途に応じて適宜選択できる。
セルロース布紙としては、紙が好ましい。紙としては、ろ紙、クラフト紙、加工原紙、ライナー原紙、ライナー紙、段ボール紙等が挙げられる。
セルロース布紙の坪量は、30~500g/m2が好ましく、50~300g/m2がより好ましい。
【0042】
セルロース布紙への一次含浸剤の含浸方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば一次含浸剤又は一次含浸剤を水等で希釈した希釈物にセルロース布紙を浸漬する方法、一次含浸剤又は一次含浸剤を水等で希釈した希釈物をセルロース布紙に塗布する方法等が挙げられる。
一次含浸剤は、セルロース布紙全体に含浸してもよく、セルロース布紙の一部、例えば表層付近のみに含浸してもよい。
一次含浸剤の含浸量は、用途や成形条件によって適宜調整できる。
【0043】
セルロース布紙に一次含浸剤を含浸した後、硬化させる前に、一次含浸剤を含浸したセルロース布紙を乾燥させることによって、プリプレグとしてもよい。
乾燥は、水等の溶媒を除去するため及び硬化条件調整のために行われる。乾燥は、公知の方法により行うことができる。乾燥条件としては、一次含浸剤が完全硬化しない範囲で適宜設定できる。
以下、一次含浸剤を含浸したセルロース布紙及びこれを乾燥したプリプレグを総称して「一次含浸物」とも記す。
硬化の前に、一次含浸物の数枚~数十枚を重ねてもよい。
硬化の前に、一次含浸物やこれを数枚~数十枚重ねたものを任意の形状に成形してもよい。
【0044】
一次含浸剤は熱硬化性を有するので、一次含浸物を熱処理することで硬化できる。
熱処理は、公知の方法により行うことができ、例えば熱プレス、アニール処理が挙げられる。熱処理条件としては、例えば120~200℃にて10~60分の条件が挙げられる。
以下、硬化した一次含浸物を「一次硬化物」とも記す。
【0045】
一次硬化物への二次含浸剤の含浸方法としては、例えば一次含浸剤の含浸方法と同様の方法が挙げられる。
二次含浸剤は、一次硬化物全体に含浸してもよく、一次硬化物の一部、例えば表層付近のみに含浸してもよい。
二次含浸剤の含浸量は、一次含浸剤の糖質とフェノール類と有機酸アンモニウム塩との合計質量に対する二次含浸剤の乾性油の割合が、前記した好ましい範囲内となる量が好ましい。
【0046】
二次含浸剤を含浸した後、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。
二次含浸剤の含浸後の熱処理は、乾性油の固化の促進のため及び油希釈剤の除去のために行われる。熱処理は、公知の方法により行うことができる。熱処理条件としては、例えば120~200℃にて10~60分の条件が挙げられる。
【0047】
上記のようにして、セルロース布紙が耐水化された耐水化セルロース布紙が得られる。
耐水化セルロース布紙は、典型的には、セルロース布紙と、セルロース布紙に含浸した一次硬化物と、一次硬化物の表面の少なくとも一部を覆う二次含浸剤の固化物とを含む。
耐水化セルロース布紙は、一次含浸剤を含浸する前のセルロース布紙や一次硬化物に比べ、耐水性に優れる。
【0048】
耐水化セルロース布紙の用途は特に限定されず、例えば袋、皿、コップ、ストロー、食器、半導体基板等の積層板、化粧板、オイルフィルタ、摺動部材、芯材、コア材、ローラー、紙箱等の各種の用途に用いることができる。
紙箱に用いられるような厚手の耐水化セルロース布紙を製造する場合、目的の厚さのセルロース布紙(例えば厚紙)に一次含浸剤及び二次含浸剤を直接塗布することで目的の耐水化セルロース布紙を製造してもよく、目的の厚さよりも薄い複数のセルロース布紙(例えば一般的な薄い紙)に一次含浸剤及び二次含浸剤を塗布し、それらをニカワ等の接着剤で貼り合わせて貼紙とすることで目的の耐水化セルロース布紙を製造してもよい。
【実施例0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。以下において「%」は、特に言及がない場合は、「質量%」を示す。「部」は「質量部」を示す。
【0050】
(使用材料)
糖質:群栄化学工業社製75FG、異性化糖、固形分75.5%、固形分全体に対してグルコースを50.9%、フルクトースを43.7%、その他の糖質を5.4%含有。
フェノール類:三桝嘉七商店社製柿渋タンニン、固形分5~6%。
アンモニウム塩:和光純薬工業製クエン酸二アンモニウム、固形分100%。
乾性油:太田油脂株式会社性荏油。
油希釈剤:和光純薬工業社製1-プロパノール。
【0051】
(実施例1~7、比較例1~6)
[セルロース布紙含浸剤の調製]
表1~2に示す配合に従い糖質、アンモニウム塩、フェノール類を水に溶解して液状の一次含浸剤を調製した。表1~2中、糖質、アンモニウム塩、フェノール類それぞれの量は固形分量を示した。表1~2中の「水分」は、糖質、フェノール類それぞれの水分と、溶解に用いた水との合計量を示した。
表1~2に示す配合に従い乾性油と油希釈剤を混合して液状の二次含浸剤を調製した。
【0052】
[サンプルの作製]
坪量約50g/m2のクラフト紙(北越コーポレーション社製、片艶未晒)を15cm×15cmの正方形に裁断し、質量を測定した。このクラフト紙のみを比較例1のサンプルとした。
比較例2では、一次含浸剤をJKワイパー(日本製紙クレシア社製)に含ませ、クラフト紙の両面に隙間なく含浸し、表1~2に示す熱処理条件で熱処理(硬化処理)を行って、一次含浸剤が含浸されたサンプルを得た。
比較例3~5では、二次含浸剤をJKワイパー(日本製紙クレシア社製)に含ませ、クラフト紙の両面に隙間なく含浸し、表1~2に示す熱処理条件で熱処理(硬化処理)を行って、二次含浸剤が含浸されたサンプルを得た。
比較例6、実施例1~7では、まず、一次含浸剤をJKワイパー(日本製紙クレシア社製)に含ませ、クラフト紙の両面に隙間なく含浸し、表1~2に示す熱処理条件で熱処理(硬化処理)を行って、一次含浸剤が含浸されたサンプルを得た。次いで、このサンプルに、一次含浸剤と同様に二次含浸剤を含浸し、表1~2に示す熱処理条件で熱処理を行って、二次含浸剤が含浸されたサンプルを得た。
【0053】
各サンプルの質量を測定し、測定した質量から以下の式により、クラフト紙に含浸された一次含浸剤、二次含浸剤それぞれの固形分量を求めた。
一次含浸剤の固形分量(g)=B-A
二次含浸剤の固形分量(g)=C-(A+(B-A))
ここで、Aは含浸前のクラフト紙の質量(g)を示し、Bは一次含浸剤が含浸されたサンプルの熱処理後の質量(g)を示し、Cは二次含浸剤が含浸されたサンプルの熱処理後の質量(g)を示す。
【0054】
[吸水量の評価]
作製したサンプルの吸水量を以下の手順で評価した。
作製したサンプルの質量を測定した。バットに深さ1cmに水をはり、その水中にサンプルを完全に浸漬し、3分間放置した。3分後にサンプルを水から取り出し、キムタオル(日本製紙クレシア社製)ではさんで水気をふき取った。その後、別のキムタオルでサンプルの表面に残った水滴をふき取り、サンプル表面に水滴が残らないようにした。水気をふき取ったサンプルの質量を測定し、浸水前後の質量差を吸水量とした。結果を表1~2に示す。吸水量が少ないほど耐水性に優れる。
【0055】
【0056】
【0057】
一次含浸剤と二次含浸剤を含浸した実施例1~7の吸水量は、クラフト紙のみの比較例1の吸水量よりも少なく、耐水性の向上が確認できた。
一方、一次含浸剤のみを含浸した比較例2の吸水量は、比較例1よりも多く、耐水性が低下していた。
二次含浸剤のみを含浸した比較例3~5の吸水量は、比較例1より少ないものの、実施例1~7に比べて多かった。
糖質及びアンモニウム塩を含まない一次含浸剤と二次含浸剤を含浸した比較例6の吸水量は、比較例1より少ないものの、実施例1~7に比べて多かった。