(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124511
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20230830BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230830BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20230830BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20230830BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
H03H9/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028309
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】後藤 篤矢
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA16
5J097AA18
5J097BB02
5J097BB11
5J097BB15
5J097DD21
5J097EE08
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5J097KK04
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5J108BB08
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5J108DD02
5J108JJ01
5J108JJ02
(57)【要約】
【課題】減衰特性を向上させることが可能なフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタは、入力端子Tinと、出力端子Toutと、グランド端子Tgと、一端が入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直列経路内の複数のノードN1~N3にそれぞれ接続され、他端がグランド端子Tgに接続された1または複数の並列共振器P1~P3と、複数のノードのうち互いに隣接する一対のノードN1、N2の間、複数のノードのうち最も入力端子に電気的に近いノードN1と入力端子との間、または複数のノードのうち最も出力端子に電気的に近いノードN3と出力端子との間、に直列接続された第1直列共振器S2aと第2直列共振器S2bとを含み、入力端子と出力端子との間に接続された複数の直列共振器S1~S4と、一端が第1直列共振器S2aと第2直列共振器S2bとの間のノードN4に接続され、他端がグランド端子Tgに接続されたキャパシタCとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、
出力端子と、
グランド端子と、
一端が前記入力端子と前記出力端子との間の直列経路内の複数のノードにそれぞれ接続され、他端が前記グランド端子に接続された1または複数の並列共振器と、
前記複数のノードのうち互いに隣接する一対のノードの間、前記複数のノードのうち最も前記入力端子に電気的に近いノードと前記入力端子との間、または前記複数のノードのうち最も前記出力端子に電気的に近いノードと前記出力端子との間、に直列接続された第1直列共振器と第2直列共振器とを含み、前記入力端子と前記出力端子との間に接続された複数の直列共振器と、
一端が前記第1直列共振器と前記第2直列共振器との間のノードに接続され、他端が前記グランド端子に接続されたキャパシタと、
を備えるフィルタ。
【請求項2】
前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器における制動容量のキャパシタンスの0.01倍以上である請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器における制動容量のキャパシタンスの1倍以下である請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器における制動容量のキャパシタンスと前記第2直列共振器における制動容量のキャパシタンスとの平均値の0.02倍以上である請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器における制動容量のキャパシタンスと前記第2直列共振器における制動容量のキャパシタンスとの平均値の2倍以下である請求項4に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1直列共振器の制動容量のキャパシタンスは、前記第2直列共振器の制動容量のキャパシタンスの0.1倍以上かつ10倍以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第1直列共振器と前記第2直列共振器とは前記一対のノードの間に直列接続されている請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記キャパシタの他端は他の共振器を介さずに前記グランド端子に接続されている請求項1から7のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記キャパシタの他端は、前記複数の並列共振器の他端が共通に接続されるグランドノードと、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器と、の間のノードに接続される請求項8に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記複数の並列共振器および前記複数の直列共振器は、弾性波共振器である請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えばラダー型フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの通信機器に用いられるフィルタとしてラダー型フィルタが知られている。ラダー型フィルタは、入力端子と出力端子との間に直列に接続された直列共振器と、一端が入力端子と出力端子との間の直列経路に接続され、他端がグランドに接続された並列共振器と、を備える。並列共振器の1つが直列分割され、一端が直列経路に接続され、他端が直列分割された並列共振器の間のノードに接続されたインダクタを備えるラダー型フィルタが知られている(例えば特許文献1)。一端が直列経路に接続され、他端が直列分割された並列共振器の間のノードに接続されたキャパシタを備えるラダー型フィルタが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-11635号公報
【特許文献2】特開2017-103654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、他の特性を劣化させずに急峻な減衰極を形成することができる。減衰帯域に急峻な減衰極を形成せず、通過帯域の通過特性を劣化させることなく、減衰帯域の減衰特性を向上させることが求められる場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、減衰特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、入力端子と、出力端子と、グランド端子と、一端が前記入力端子と前記出力端子との間の直列経路内の複数のノードにそれぞれ接続され、他端が前記グランド端子に接続された1または複数の並列共振器と、前記複数のノードのうち互いに隣接する一対のノードの間、前記複数のノードのうち最も前記入力端子に電気的に近いノードと前記入力端子との間、または前記複数のノードのうち最も前記出力端子に電気的に近いノードと前記出力端子との間、に直列接続された第1直列共振器と第2直列共振器とを含み、前記入力端子と前記出力端子との間に接続された複数の直列共振器と、一端が前記第1直列共振器と前記第2直列共振器との間のノードに接続され、他端が前記グランド端子に接続されたキャパシタと、を備えるフィルタである。
【0007】
上記構成において、前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器における制動容量のキャパシタンスの0.01倍以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器における制動容量のキャパシタンスの1倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器における制動容量のキャパシタンスと前記第2直列共振器における制動容量のキャパシタンスとの平均値の0.02倍以上である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記キャパシタのキャパシタンスは、前記第1直列共振器における制動容量のキャパシタンスと前記第2直列共振器における制動容量のキャパシタンスとの平均値の2倍以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1直列共振器の制動容量のキャパシタンスは、前記第2直列共振器の制動容量のキャパシタンスの0.1倍以上かつ10倍以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1直列共振器と前記第2直列共振器とは前記一対のノードの間に直列接続されている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記キャパシタの他端は他の共振器を介さずに前記グランド端子に接続されている構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記キャパシタの他端は、前記複数の並列共振器の他端が共通に接続されるグランドノードと、前記第1直列共振器または前記第2直列共振器に最も電気的に近い並列共振器と、の間のノードに接続される構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記複数の並列共振器および前記複数の直列共振器は、弾性波共振器である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、減衰特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1に係るフィルタAの回路図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図であり、
図2(b)は、実施例1における別の弾性波共振器の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、シミュレーションにおける直列共振器の等価回路、
図3(b)は、並列共振器の等価回路である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、シミュレーションにおけるフィルタBの回路図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、シミュレーションにおけるフィルタAおよびBの通過特性を示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、シミュレーションにおけるフィルタCの回路図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、シミュレーションにおけるフィルタCおよびBの通過特性を示す図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーションにおけるフィルタDの回路図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、シミュレーションにおけるフィルタDおよびBの通過特性を示す図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、シミュレーションにおけるフィルタEの回路図である。
【
図11】
図11(a)から
図11(c)は、シミュレーションにおけるフィルタEおよびBの通過特性を示す図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2に係るフィルタの回路図である。
【
図13】
図13は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
図1(a)は、実施例1に係るフィルタAの回路図である。
図1(a)に示すように、実施例1に係るフィルタAでは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に複数の直列共振器S1~S4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に複数の並列共振器P1~P3が並列に接続されている。並列共振器P1~P3の一端は入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直列経路内の複数のノードN1~N3にそれぞれ接続され、他端はグランド端子Tgに接続されている。並列共振器P1~P3が入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直列経路に接続されるノードはそれぞれノードN1~N3である。直列共振器S1の一端および他端はそれぞれ入力端子TinおよびノードN1に接続されている。直列共振器S2の一端および他端はそれぞれノードN1およびN2に接続されている。直列共振器S3の一端および他端はそれぞれノードN2およびN3に接続されている。直列共振器S4の一端および他端はそれぞれノードN3および出力端子Toutに接続されている。
【0021】
直列共振器S2は、直列共振器S2aおよびS2bに直列分割されている。直列共振器S2aとS2bとの間のノードはノードN4である。並列共振器P2とグランド端子Tgとの間のノードはノードN5である。キャパシタCの一端はノードN4に接続され、他端はノードN5に接続されている。
【0022】
図1(b)は、実施例1に係るフィルタAの回路図である。
図1(b)に示すように、直列共振器S1を直列共振器S1aとS1bに直列分割し、直列共振器S3を直列共振器S3aとS3bとに直列分割し、直列共振器S4を直列共振器S4aとS4bに直列分割している。並列共振器P1を並列共振器P1aとP1bに並列分割し、並列共振器P2を並列共振器P2aとP2bとに並列分割し、並列共振器P3を並列共振器P3aとP3bに並列分割している。直列分割された直列共振器S1a、S1b、S3a、S3b、S4aおよびS4b、および並列分割された並列共振器P1a、P1b、P2a、P2b、P3aおよびP3bの静電容量値等を適宜設定することで、
図1(a)と
図1(b)とは等価な回路となる。
【0023】
直列共振器S1~S4および並列共振器P1~P3に用いられる弾性波共振器について説明する。
図2(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図であり、
図2(b)は、実施例1における別の弾性波共振器の断面図である。
図2(a)の例では、弾性波共振器30は弾性表面波共振器である。基板10の上面にIDT(Interdigital Transducer)12と反射器14が設けられている。IDT12は、互いに対向する1対の櫛型電極18を有する。櫛型電極18は、複数の電極指16と複数の電極指16を接続するバスバー15とを有する。反射器14は、IDT12の両側に設けられている。IDT12は基板10に弾性表面波を励振する。基板10は、例えば、単結晶タンタル酸リチウム基板、単結晶ニオブ酸リチウム基板または水晶基板等の圧電基板である。基板10は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、水晶基板またはシリコン基板等の支持基板上に圧電基板が接合された複合基板でもよい。IDT12および反射器14は例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜との金属膜により形成される。基板10上にIDT12および反射器14を覆うように保護膜または温度補償膜が設けられていてもよい。
【0024】
図2(b)の例では、弾性波共振器30は圧電薄膜共振器である。基板20上に圧電膜24が設けられている。圧電膜24を挟むように下部電極22および上部電極26が設けられている。下部電極22と基板20との間に空隙25が形成されている。圧電膜24の少なくとも一部を挟み下部電極22と上部電極26とが対向する領域が共振領域28である。共振領域28内の下部電極22および上部電極26は圧電膜24内に、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動モードの弾性波を励振する。基板20は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である。下部電極22および上部電極26は例えばルテニウム膜等の金属膜である。圧電膜24は例えば窒化アルミニウム膜、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜である。空隙25の代わりに音響反射膜が設けられていてもよい。
【0025】
[シミュレーション]
実施例1および比較例について通過特性をシミュレーションした。
図3(a)は、シミュレーションにおける直列共振器の等価回路、
図3(b)は、並列共振器の等価回路である。
図3(a)および
図3(b)に示すように、弾性波共振器の等価回路として、無損失のBVD(Butterworth-Van Dyke)モデルを用いる。
図3(a)に示すように、直列共振器S1a~S4bでは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に位置するノードNaとNbとの間にインダクタL1とキャパシタC1が直列接続されている。ノードNaとNbとの間においてキャパシタC0がインダクタL1とキャパシタC1に並列接続されている。
【0026】
図3(b)に示すように、並列共振器P1a~P3bでは、ノードNaとNbとの間に位置するノードNcと、グランドとの間にインダクタL1とキャパシタC1が直列接続されている。ノードNcとグランドとの間においてキャパシタC0がインダクタL1とキャパシタC1に並列接続されている。キャパシタC0は、制動容量である。
図2(a)の弾性表面波共振器では、キャパシタC0は、一対の櫛型電極18間の静電容量のキャパシタンスに相当する。
図2(b)の圧電薄膜共振器では、キャパシタC0は、下部電極22と上部電極26との間の静電容量のキャパシタンスに相当する。インダクタL1およびキャパシタC1は、それぞれ動インダクタンスおよび動キャパシタンスに相当する。
【0027】
表1は、シミュレーションに用いたキャパシタC0およびC1のキャパシタンス並びにインダクタL1のインダクタンスを示す表である。
【表1】
【0028】
表1に示すように、直列共振器S1a~S4bのキャパシタC0のキャパシタンスは1.3pFであり、並列共振器P1a~P3bのキャパシタC0のキャパシタンスは1.416pFである。
【0029】
[フィルタAとBの比較]
フィルタBは、キャパシタCが設けられていない比較例である。
図4(a)および
図4(b)は、シミュレーションにおけるフィルタBの回路図である。
図4(a)および
図4(b)に示すように、フィルタBでは、キャパシタCは設けられていない。
図4(a)に示すように、直列共振器S2は直列分割されていない。その他の構成は、実施例1のフィルタAと同じであり説明を省略する。
【0030】
図5(a)から
図5(c)は、シミュレーションにおけるフィルタAおよびBの通過特性を示す図である。横軸は周波数である。縦軸はS21の絶対値であり、減衰量および損失に相当する。バンド40の通信帯域は2.3GHz~2.4GHzである。
図5(b)および
図5(c)は
図5(a)の拡大図である。周波数f1およびf2は減衰帯域内の周波数であり、周波数f3およびf4はバンド40の通信帯域の低周波端および高周波端の周波数である。フィルタAではキャパシタCのキャパシタンスを0.1pF、0.2pFおよび0.3pFに設定している。
【0031】
表2は、フィルタBおよびAの周波数f1~f4におけるS21を示す表である。
【表2】
【0032】
図5(a)、
図5(b)および表2に示すように、減衰帯域における減衰量はキャパシタCのキャパシタンスを大きくすることで大きくなる。周波数f1およびf2において、C=0.3pFのフィルタAでは、フィルタBに比べ減衰量がそれぞれ1.124dBおよび1.383dB大きくなり、減衰量が改善している。
図5(a)、
図5(c)および表2に示すように、フィルタAとBとの通過帯域における損失はほとんど同じである。周波数f3において、フィルタBとAの損失の差は0.024dBである。周波数f4において、フィルタAはフィルタBより損失が0.165dB小さい。このように、フィルタAではフィルタBに比べ、通過帯域の通過特性がほとんど変わらず、減衰帯域の減衰量を大きくできる。
【0033】
[フィルタCとBの比較]
フィルタCは、キャパシタCの一端がノードN1に接続された比較例である。
図6(a)および
図6(b)は、シミュレーションにおけるフィルタCの回路図である。
図6(a)および
図6(b)に示すように、フィルタCでは、キャパシタCの一端はノードN1に接続されている。その他の構成は、実施例1のフィルタAと同じであり説明を省略する。
【0034】
図7(a)から
図7(c)は、シミュレーションにおけるフィルタCおよびBの通過特性を示す図である。フィルタCではキャパシタCのキャパシタンスを0.1pF、0.2pFおよび0.3pFに設定している。
【0035】
表3は、フィルタBおよびCの周波数f1~f4におけるS21を示す表である。
【表3】
【0036】
図7(a)、
図7(b)および表3に示すように、フィルタCにおける減衰帯域における減衰量はキャパシタCのキャパシタンスを大きくすることで大きくなるものの、フィルタCにおける減衰量はフィルタAより小さい。周波数f1およびf2において、C=0.3pFのフィルタCでは、フィルタBに比べ減衰量がそれぞれ0.549dBおよび0.696dB改善するものの、フィルタCにおける減衰量の改善量はフィルタAにおける減衰量の改善量の1/2程度である。
図7(a)、
図7(c)および表3に示すように、周波数f3において、フィルタCのキャパシタCのキャパシタンスが大きくなると損失が劣化する。C=0.3pFのフィルタCはフィルタBに比べ損失が0.180dB大きくなる。周波数f4において、C=0.3pFのフィルタCとフィルタBとの損失の差は0.006dBであり、損失差はほとんどない。このように、フィルタCでは、フィルタBに比べ、通過帯域の通過特性はほとんど同じかやや悪い。フィルタAに比べ、減衰帯域の減衰量が悪い。
【0037】
[フィルタDとBの比較]
フィルタDは、キャパシタCの一端がノードN2に接続された比較例である。
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーションにおけるフィルタDの回路図である。
図8(a)および
図8(b)に示すように、フィルタDでは、キャパシタCの一端はノードN2に接続されている。その他の構成は、実施例1のフィルタAと同じであり説明を省略する。
【0038】
図9(a)から
図9(c)は、シミュレーションにおけるフィルタDおよびBの通過特性を示す図である。フィルタDではキャパシタCのキャパシタンスを0.1pF、0.2pFおよび0.3pFに設定している。
【0039】
表4は、フィルタBおよびDの周波数f1~f4におけるS21を示す表である。
【表4】
【0040】
図9(a)、
図9(b)および表4に示すように、フィルタDにおける減衰帯域における減衰量はキャパシタCのキャパシタンスを大きくすることで大きくなるものの、フィルタDにおける減衰量はフィルタAより小さい。周波数f1およびf2において、C=0.3pFのフィルタDでは、フィルタBに比べ減衰量がそれぞれ0.554dBおよび0.684dB改善するものの、フィルタDにおける減衰量の改善量はフィルタAの減衰量の改善量の1/2程度である。
図9(a)、
図9(c)および表4に示すように、周波数f3において、C=0.3pFのフィルタDとフィルタBとの損失の差は0.018dBであり、損失差はほとんどない。周波数f4において、フィルタDのキャパシタCのキャパシタンスが大きくなると損失が劣化する。C=0.3pFのフィルタDはフィルタBに比べ損失が0.301dB劣化する。このように、フィルタDではフィルタBに比べ、通過帯域の通過特性はほとんど同じかやや悪く、フィルタAに比べ、減衰帯域の減衰量が悪い。
【0041】
[フィルタEとBの比較]
フィルタEは、特許文献2を参考に想定した比較例である。
図10(a)および
図10(b)は、シミュレーションにおけるフィルタEの回路図である。
図10(a)に示すように、フィルタEでは、並列共振器P1は並列共振器P1aとP1bとに直列分割されている。キャパシタCの一端はノードN1に接続され、キャパシタCの他端は、並列共振器P1aとP1bとの間のノードN6に接続されている。その他の構成はフィルタBと同じである。
図10(b)に示すように、ノードN1に接続された並列共振器P1は、並列分割せず、並列共振器P1aおよびP1bに直列分割されている。キャパシタCの一端および他端はそれぞれノードN1およびN6に接続されている。並列共振器P1aおよびP1bのキャパシタC0およびC1のキャパシタンス並びにインダクタL1のインダクタンス(
図3(a)参照)は、表1の直列共振器の値を用いている。
その他の構成はフィルタと同じである。
【0042】
図11(a)から
図11(c)は、シミュレーションにおけるフィルタEおよびBの通過特性を示す図である。フィルタEではキャパシタCのキャパシタンスを0.02pFに設定している。
【0043】
表5は、フィルタBおよびEの周波数f1~f4におけるS21を示す表である。特許文献2では、2次歪を抑制するため並列共振器を直列分割しており、寄生容量に起因して2次歪が劣化することを抑制するためキャパシタを設けている。このため、キャパシタのキャパシタンスは小さい。そこで、フィルタEではC=0.02pFとしている。
【表5】
【0044】
図11(a)、
図11(b)および表5に示すように、フィルタEとBとでは減衰帯域における減衰量はほとんど同じである。また、
図11(a)、
図11(c)および表5に示すように、フィルタEとBとでは、通過帯域における損失はほとんど同じである。このように、フィルタEとBとでは、通過帯域の通過特性および減衰帯域の減衰量ともにほとんど同じである。
【0045】
以上のシミュレーションの結果をまとめると、フィルタAのように、直列共振器S2aとS2bとの間のノードN4とグランドとの間にキャパシタを接続すると、通過帯域の通過特性の劣化は小さくかつ減衰帯域の減衰量を大きくできる。減衰帯域の減衰量を大きくできる理由として、並列共振器P2にキャパシタが並列接続されたためとも考えられる。しかし、フィルタCおよびDのように、キャパシタの一端をノードN1またはN2に接続すると、減衰帯域の減衰量は小さい。このことから、単に並列共振器P2にキャパシタCを並列接続されただけでなく、キャパシタCの一端をノードN4に接続することにより減衰帯域の減衰量が大きくなったと考えられる。
【0046】
このように、実施例1によれば、複数の直列共振器S1~S4は、複数ノードN1~N3のうち互いに隣接する一対のノードN1およびN2の間に直列接続された直列共振器S2a(第1直列共振器)と直列共振器S2b(第2直列共振器)を含む。キャパシタCの一端は直列共振器S2aとS2bとの間のノードN4に接続され、他端はグランド端子Tgに接続されている。これにより、フィルタAのように、通過特性等を劣化させずに減衰帯域における減衰特性を向上できる。
【0047】
表1にように、フィルタAでは、並列共振器P1a~P3bのキャパシタC0(制動容量)のキャパシタンスは1.416pFである。
図1(a)のように、隣接する直列共振器S1~S4間のノードN1~N3とグランド端子Tgとの間に接続される並列共振器P1~P3が各々1個のみのとき(すなわち直列分割されずかつ並列分割されていないとき)、並列共振器P1~P3の制動容量のキャパシタンスは2.832pF(2×1.416pF)である。
【0048】
図5(b)および表2より、キャパシタCのキャパシタンスは、直列共振器S2aまたはS2bに最も近い並列共振器P1およびP2における制動容量のキャパシタンスの0.01倍(フィルタAに換算すると、0.02832pF)以上あれば、フィルタBより減衰特性が十分向上すると考えられる。キャパシタCのキャパシタンスは、並列共振器P1およびP2の制動容量のキャパシタンスの0.02倍(0.05664pF)以上が好ましく、0.05倍(0.1416pF)以上がより好ましい。キャパシタCのキャパシタンスが大きすぎると、通過特性等が劣化する。この観点から、キャパシタCのキャパシタンスは、並列共振器P1およびP2における制動容量のキャパシタンスの1倍(フィルタAでは、2.832pF)以下が好ましく、0.5倍(1.416pF)以下がより好ましく、0.2倍(0.5664pF)以下がさらに好ましい。
【0049】
なお、並列共振器P1およびP2における制動容量のキャパシタンスが異なる場合には、並列共振器P1およびP2における制動容量のキャパシタンスを平均して用いる。また、
図1(b)のように、隣接する直列共振器S2とS3との間のノードN2とグランド端子Tgとの間に、複数の並列共振器P2aおよびP2bが並列接続されている場合には、
図1(a)ように、ノードN2とグランド端子Tgとの間に1個のみの並列共振器P2が接続されていると仮定し、複数の並列共振器を合成した並列共振器P2における制動容量のキャパシタンスを用いる。同様に、ノードN2とグランド端子Tgとの間に、複数の並列共振器が直列接続されている場合、複数の並列共振器を合成した並列共振器P2における制動容量のキャパシタンスを用いる。
【0050】
表1のように、フィルタAでは、直列共振器S2aおよびS2bのキャパシタC0(制動容量)のキャパシタンスは1.3pFである。キャパシタCのキャパシタンスは、直列共振器S2aにおける制動容量のキャパシタンスと直列共振器S2bにおける制動容量のキャパシタンスとの平均値の0.02倍(フィルタAに換算すると、0.026pF)以上あれば、フィルタBより減衰特性が十分向上すると考えられる。キャパシタCのキャパシタンスは、直列共振器S2aおよびS2bにおける制動容量のキャパシタンスの平均値の0.04倍(0.052pF)以上が好ましく、0.1倍(0.13pF)以上がより好ましい。キャパシタCのキャパシタンスが大きすぎると、通過特性等が劣化する。この観点から、キャパシタCのキャパシタンスは、直列共振器S2aおよびS2bにおける制動容量のキャパシタンスの平均値の2倍(フィルタAでは、2.6pF)以下が好ましく、1倍(1.3pF)以下がより好ましく、0.4倍(0.52pF)以下がさらに好ましい。
【0051】
フィルタCおよびDでは、フィルタAに比べ減衰帯域の減衰特性が悪いことから、直列共振器S2aにおける制動容量のキャパシタンスと直列共振器S2bにおける制動容量のキャパシタンスとが略等しいことが最も好ましいと考えられる。この観点から、直列共振器S2aにおける制動容量のキャパシタンスは、直列共振器S2bにおける制動容量のキャパシタンスの0.1倍以上かつ10倍以下であることが好ましく、0.2倍以上かつ5倍以下であることがより好ましく、0.5倍以上かつ2倍以下であることがさらに好ましい。
【0052】
キャパシタCの他端とグランド端子Tgとの間に他の共振器が接続されていると、減衰帯域の減衰特性はフィルタAほど改善しないと考えられる。よって、キャパシタCの他端は他の共振器を介さずにグランド端子Tgに接続されていることが好ましい。
【0053】
キャパシタCの他端は、グランド端子Tgに接続されていればよいが、並列共振器P2とグランド端子Tg(すなわち複数の並列共振器P1~P3の他端が共通に接続されるグランドノード)との間のノードN5に接続されることが好ましい。これにより、ノードN5とグランド端子Tgとの間の寄生インダクタンスの影響を抑制できる。
【0054】
図12(a)は、実施例1の変形例1に係るフィルタの回路図である。
図12(a)に示すように、実施例1の変形例1では、入力端子TinとノードN1との間において、直列共振器S1aおよびS1bが直列接続されている。キャパシタCの一端は、直列共振器S1aとS1bとの間のノードN4に接続され、キャパシタCの他端は、並列共振器P1とグランド端子Tgとの間のノードN5に接続されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
図12(b)に示すように、実施例1の変形例2では、出力端子ToutとノードN3との間において、直列共振器S4aおよびS4bが直列接続されている。キャパシタCの一端は、直列共振器S4aとS4bとの間のノードN4に接続され、キャパシタCの他端は、並列共振器P3とグランド端子Tgとの間のノードN5に接続されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0056】
実施例1の変形例1および2のように、第1直列共振器および第2直列共振器は、最も入力端子Tinに電気的に近いノードN1と入力端子Tinとの間、または最も出力端子Toutに電気的に近いノードN3と出力端子Toutとの間、に直列接続されていればよい。
【0057】
実施例1およびその変形例では、直列共振器S1~S4および並列共振器P1~P3の例を説明したが、直列共振器は1または複数であればよく、並列共振器は1または複数であればよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。