(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124517
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】三次元計測システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/25 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01B11/25 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028317
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】辻本 将隆
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD06
2F065FF09
2F065HH06
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065NN05
2F065QQ31
2F065UU05
(57)【要約】
【課題】三次元形状を計測する時間を短くできる三次元計測システムを提供する。
【解決手段】プロジェクタ20と、オン時間比率が一方向に正弦波状に変化する第1投影パターンを計測対象物5に投影する投影制御部11と、イベントカメラ30と、第1投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて決定できる第1オン時間比率を画素別に決定する第1オン時間比率決定部12と、第1オン時間比率波形とは180度ではない位相差だけ位相が異なっている第2オン時間比率波形を構成する第2オン時間比率を画素別に決定する第2オン時間比率決定部13と、オフセット成分が除去されている第1オン時間比率と第2オン時間比率に基づいて、イベントカメラの複数の画素について位相を算出する位相算出部15と、その位相に基づいて画素別の三次元座標を算出する座標決定部16とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクタ(20)と、
前記プロジェクタを制御して、単位時間あたりのオン時間比率が一方向に正弦波状に変化する投影パターンである第1投影パターンを計測対象物(5)に投影する投影制御部(11)と、
複数の画素を備え、前記計測対象物を含む範囲を撮影範囲とし、前記撮影範囲において輝度変化を検出した前記画素が、輝度変化が生じたことを示すイベントデータを出力するイベントカメラ(30)と、
前記第1投影パターンを前記プロジェクタが投影しているときに前記イベントカメラが出力した前記イベントデータに基づいて決定できる前記オン時間比率である第1オン時間比率を、前記画素別に決定する第1オン時間比率決定部(12)と、
前記一方向の位置の変化に対する前記第1オン時間比率の変化を示す第1オン時間比率波形とは、180度ではない所定の位相差だけ位相が異なっている第2オン時間比率波形を構成する第2オン時間比率を、前記画素別に決定する第2オン時間比率決定部(13)と、
オフセット成分が除去されている前記第1オン時間比率と前記第2オン時間比率に基づいて、前記イベントカメラの複数の前記画素について位相を算出する位相算出部(15)と、
前記位相算出部が算出した前記位相に基づいて、前記画素別の三次元座標を算出する座標決定部(16)とを備える、三次元計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記投影制御部は、前記第1投影パターン、および、前記第1投影パターンとは前記位相差だけ位相が異なっている第2投影パターンを、順次、前記計測対象物に投影し、
前記第2オン時間比率決定部は、前記第2投影パターンを前記プロジェクタが投影しているときに前記イベントカメラが出力した前記イベントデータに基づいて、前記第2オン時間比率を前記画素別に決定し、
前記第1オン時間比率と前記第2オン時間比率から、互いに同じオフセットを除去するオフセット除去部(14)を備える、三次元計測システム。
【請求項3】
請求項2に記載の三次元計測システムであって、
前記オフセット除去部は、前記第1オン時間比率波形または前記第2オン時間比率波形からオフセットを算出し、算出した前記オフセットを前記第1オン時間比率波形および前記第2オン時間比率波形から除去する、三次元計測システム。
【請求項4】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記第2オン時間比率決定部は、前記第1オン時間比率波形を1階微分して前記第2オン時間比率を算出する、三次元計測システム。
【請求項5】
請求項4に記載の三次元計測システムであって、
前記第1オン時間比率波形からオフセットを算し、算出した前記オフセットを前記第1オン時間比率波形から除去するオフセット除去部(14)を備える、三次元計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
位相シフト法により物体の三次元形状を計測する三次元計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、計測対象物の三次元形状を計測する三次元計測システムとして、位相シフト法を用いるシステムが知られている。位相シフト法は位相をずらした複数枚の縞パターン画像を投影し三角測量を行う手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にも開示されているように、位相シフト法を用いた三次元計測手法では、位相と、輝度振幅と、背景輝度の3つの未知数が含まれる等式を用いることが一般的である。3つの未知数があるため、三次元形状を計測するためには、最低でも、初期位相を互いに異ならせた3つ以上の縞パターンを投影し、それぞれの縞パターン画像を投影した状態で画像を撮影する時間が必要になる。そこで、三次元形状を計測する時間をより短くすることが望まれる。
【0005】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、三次元形状を計測する時間を短くできる三次元計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的態様との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するための三次元計測システムに係る1つの開示は、
プロジェクタ(20)と、
プロジェクタを制御して、単位時間あたりのオン時間比率が一方向に正弦波状に変化する投影パターンである第1投影パターンを計測対象物(5)に投影する投影制御部(11)と、
複数の画素を備え、計測対象物を含む範囲を撮影範囲とし、撮影範囲において輝度変化を検出した画素が、輝度変化が生じたことを示すイベントデータを出力するイベントカメラ(30)と、
第1投影パターンをプロジェクタが投影しているときにイベントカメラが出力したイベントデータに基づいて決定できるオン時間比率である第1オン時間比率を、画素別に決定する第1オン時間比率決定部(12)と、
一方向の位置の変化に対する第1オン時間比率の変化を示す第1オン時間比率波形とは、180度ではない所定の位相差だけ位相が異なっている第2オン時間比率波形を構成する第2オン時間比率を、画素別に決定する第2オン時間比率決定部(13)と、
オフセット成分が除去されている第1オン時間比率と第2オン時間比率に基づいて、イベントカメラの複数の画素について位相を算出する位相算出部(15)と、
位相算出部が算出した位相に基づいて、画素別の三次元座標を算出する座標決定部(16)とを備える、三次元計測システムである。
【0008】
この三次元計測システムとは異なり、輝度を一方向に正弦波状に変化させた縞パターン画像を計測対象物に投影する場合、投影された縞パターンの輝度を検出する必要があるので、カメラとして、フレームベースカメラを用いる。輝度を一方向に正弦波状に変化させた縞パターン画像をフレームベースカメラで撮影する場合には、縞パターン画像が投影される物体の色により、フレームベースカメラで検出できる輝度値の振幅が変化する。したがって、フレームベースカメラが撮影する画像の振幅は一定にならない。
【0009】
これに対して、この三次元計測システムでは、プロジェクタは、単位時間あたりのオン時間比率が一方向に正弦波状に変化する第1投影パターンを計測対象物に投影し、投影パターンを撮影するカメラとしてイベントカメラを備えている。
【0010】
イベントカメラは、輝度変化を検出するカメラであり、輝度の大きさは検出しない。よって、イベントカメラが出力するイベントデータは、投影パターンが投影される物体の反射率が異なることによる影響を受けない。したがって、第1投影パターンをプロジェクタが投影しているときにイベントカメラが出力するイベントデータに基づいて決定できる第1オン時間比率のオフセットは、画素によらず一定になる。
【0011】
オフセットが一定であると、第1オン時間比率および第2オン時間比率からオフセットを容易に除去できる。そのため、第1オン時間比率および第2オン時間比率をもとに位相を算出する式においてもオフセットを除去できる。位相を算出する式からオフセットを除去できると、未知数が1つ減ることになるので、未知数を求めるために投影する投影パターンの数を少なくできる。投影する投影パターンの数を少なくできるので、三次元形状を計測する時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の三次元計測システム1の構成を示す図。
【
図3】プロジェクタが投影する投影パターンを説明する図。
【
図4】制御装置が実行する三次元計測処理を示す図。
【
図5】第1オン時間比率波形を周波数解析した結果を概念的に示す図。
【
図6】オフセットを除去した第1オン時間比率波形を概念的に示す図。
【
図9】位相θと高さ座標z
mとの関係を示すグラフ。
【
図10】水平座標(x
m、y
m)の算出方法を説明する図。
【
図11】第2実施形態で制御装置10が実行する三次元計測処理を示す図。
【
図12】第3実施形態で制御装置10が実行する三次元計測処理を示す図。
【
図14】オンオフ回数の変化により作成する投影パターンを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態の三次元計測システム1の構成を示す図である。三次元計測システム1は、制御装置10と、プロジェクタ20と、イベントカメラ30とを備えている。三次元計測システム1は、作業台2の上に置かれた計測対象物5の三次元形状を位相シフト法により計測する。作業台2の上面は平面であり、作業台2の任意の位置に計測対象物5が位置する。三次元計測システム1は、たとえば、ロボットにピッキング、組付け作業、製品検査等を行わせる際のロボットの目として利用する。
【0014】
制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。たとえば、制御装置10は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータを、本実施形態の制御装置10として作動させるためのプログラムが格納されている。
【0015】
プロセッサは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶された三次元計測プログラムを実行する。これにより、制御装置10は、
図2に示す投影制御部11、第1オン時間比率決定部12、第2オン時間比率決定部13、オフセット除去部14、位相算出部15、座標決定部16として作動する。制御装置10が
図2に示す作動を実行することは、上記三次元計測プログラムに対応する三次元計測方法が実行されることを意味する。
図2に示す各部の作動は、
図4に示すフローチャートにおいて説明する。
【0016】
プロジェクタ20には、DLP(登録商標)プロジェクタを使うことができる。DLPプロジェクタはDMD(Digital Mirror Device)素子を備えている。DMD素子は、投影される画像の各画素に相当する微細なミラーをアレイ状に配列した素子である。DMD素子は、各ミラーの角度を、光を外部に投射するオン角度と、光を外部に投射しないオフ角度に変化させることができる。したがって、DLPプロジェクタは、オンオフ時間を画素ごとに調整できる。
【0017】
プロジェクタ20は、制御装置10に制御されることで、単位時間あたりのオン時間比率が一方向に正弦波状に変化する投影パターンを計測対象物5に投影する。一方向は、本実施形態では、x方向とする。
【0018】
図3は、プロジェクタ20が投影する投影パターンを説明する図である。
図3は、プロジェクタ20のy座標を任意の座標に固定し、一方向の一例であるx方向の画素の位置の変化に対するオン時間の変化を示している。
図3に示すように、投影パターンは、x画素の位置の変化に対してオン時間が正弦波状に変化するパターンである。ここでの正弦波は、位相θが0度の位置を特定するものではない。したがって、正弦波状は余弦波状と言い換えることもできる。
【0019】
投影パターンは、どのy座標についても、x画素の位置の変化に対してオン時間が同様に変化する。縦軸のオン時間は、単位時間内において継続的にオンしている時間である。単位時間は、たとえば255msである。オン時間の間にプロジェクタ20の各画素から投射される光の色は単色である。投影パターンに使う単色は、赤、緑、青など任意の色でよい。投影パターンにおいてオンになっている部分の光強度は、イベントカメラ30がオンオフを検出できるレベルの強度であればよい。
【0020】
イベントカメラ30は、複数の画素を二次元状に備える。イベントカメラ30では、輝度変化を検出した画素が、その画素の位置が特定できる二次元データを含むイベントデータを非同期で出力する。イベントデータは、二次元データと、輝度変化が発生した時刻、輝度変化の符号とを含んでいる。
【0021】
イベントカメラ30は、計測対象物5を含む範囲が撮影範囲となるように、位置が固定されている。また、プロジェクタ20とイベントカメラ30との間の距離は事前に計測されている。
【0022】
〔三次元計測処理〕
次に、
図4を用いて、制御装置10が実行する三次元計測処理を説明する。制御装置10は、この三次元計測処理を実行して計測対象物5の三次元形状を計測する。三次元計測処理は、たとえば、ユーザが所定の開始操作をすることにより開始する。
【0023】
S11とS12は投影制御部11が実行する。S11では、プロジェクタ20を制御して、第1投影パターンを投影させる。また、その状態で、イベントカメラ30により計測対象物5を撮影させる。第1投影パターンは、一方向であるx方向の画素の位置の変化に対してオン時間が正弦波状に変化するパターンである。
【0024】
S12では、プロジェクタ20を制御して、第2投影パターンを投影させる。また、その状態で、イベントカメラ30により計測対象物5を撮影させる。第2投影パターンは、第1投影パターンと位相θが異なる投影パターンである。位相θは、
図3に示した投影パターンが示す正弦波の位相である。第1投影パターンの位相θ1と第2投影パターンの位相θ2との位相差δは、0度、180度ではない値に設定する。たとえば、位相差δは90度である。0度、180度ではない値に設定する理由は、位相θを後述する式1を用いて算出するためである。
【0025】
S13は第1オン時間比率決定部12が実行する。なお、S12よりも前にS13を実行してもよい。S13では、第1投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて、オン時間比率をイベントカメラ30が備える画素別に決定する。ここで決定するオン時間比率を第1オン時間比率とする。オン時間比率は、単位時間に対して、投影パターンにおいてイベントカメラ30の各画素に対応する部分がオンになっている時間の比率である。イベントデータには、輝度変化が発生した時刻と、輝度変化の符号が含まれている。したがって、イベントデータから、投影パターンにおいてイベントカメラ30の各画素に対応する部分がオンになっている時間を算出することができる。この時間を単位時間で割ると単位時間比率が算出できる。
【0026】
イベントカメラ30の各画素について第1オン時間比率を算出すると、x画素の変化に対する第1オン時間比率の変化も決定できる。x画素の変化に対する第1オン時間比率の変化を示す波形を第1オン時間比率波形とする。
【0027】
S14は第2オン時間比率決定部13が実行する。S14では、第2投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて、オン時間比率をイベントカメラ30が備える画素別に決定する。ここで決定するオン時間比率を第2オン時間比率とする。イベントカメラ30の各画素について第2オン時間比率を算出すると、x画素の変化に対する第2オン時間比率の変化も決定できる。x画素の変化に対する第2オン時間比率の変化を示す波形を第2オン時間比率波形とする。
【0028】
次のS15およびS16は、オフセット除去部14が実行する。第1オン時間比率波形および第2オン時間比率波形は、いずれも、オフセットを持つ。S15では、第1オン時間比率波形および第2オン時間比率波形のオフセットを算出する。オフセットは、第1オン時間比率波形または第2オン時間比率波形を周波数解析することで算出できる。第1オン時間比率波形および第2オン時間比率波形は、位相θは異なるがオフセットは同じである。したがって、周波数解析は、第1オン時間比率波形または第2オン時間比率波形のいずれかのみ行えばよい。
【0029】
図5には、第1オン時間比率波形を周波数解析した結果を概念的に示している。
図5に示すように、第1オン時間比率波形を周波数解析すると、第1オン時間比率波形の周波数よりも低い周波数に0次のスペクトルが見られる。この周波数がオフセット成分である。なお、
図5は概念図であり、立体形状を示す周波数成分、ノイズに起因する周波数成分は省略している。
【0030】
S16では、S15で算出したオフセットを、第1オン時間比率波形および第2オン時間比率波形からそれぞれ除去する。
図6には、オフセットを除去した第1オン時間比率波形を概念的に示す。オフセット除去後の第1オン時間比率波形は、I1=Acosθと表すことができる。I1はオフセット除去後の第1オン時間比率であり、Aは波形の振幅、θは波形の位相である。
【0031】
S17は位相算出部15が実行する。S17では、イベントカメラ30の画素(x、y)ごとに位相θを算出する。イベントカメラ30の画素(x、y)ごとの位相θは、
図7に示す式1を用いて算出する。式1において、I1は、画素(x、y)におけるオフセット除去後の第1オン時間比率である。I2は、画素(x、y)におけるオフセット除去後の第2オン時間比率である。δは、第1オン時間比率波形と第2オン時間比率波形の位相差である。したがって、式1の右辺の変数は、画素(x、y)ごとに値が決定できる。よって、式1から、イベントカメラ30の画素(x、y)ごとに位相θを算出できる。一般的な位相シフト法では輝度を用いるのに対して、本実施形態では第1オン時間比率I1、I2を用いる。第1、第2オン時間比率は輝度代用値であると言える。
【0032】
図8に、式1の導出過程を示す。式2は、オフセット除去後の第1オン時間比率波形を示す式である。式3は、オフセット除去後の第2オン時間比率波形を示す式である。式3の両辺を式2で割ることで、式4のように変形できる。式4を変形すると式5が得られる。さらに、式5を変形すると、式6が得られる。そして、式6を変形すると式1が得られる。
【0033】
S18、S19は座標決定部16が実行する。S18では、S17で算出した各画素(x、y)の位相θから、座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。座標計測点Pは、計測対象物5あるいは作業台2の表面上の点である。
【0034】
高さ座標z
mは、プロジェクタ20とイベントカメラ30とを含む平面から物体までの距離である。高さ座標z
mは、
図9に示す位相θと高さ座標z
mとの関係を示すグラフと、S17で算出した位相θとを用いて決定する。
図9に示すグラフは、プロジェクタ20の座標、イベントカメラ30の座標、高さ座標z
m、基準面における投影パターンの1周期分の長さが分かれば作成することができるグラフである。なお、基準面は、作業台2の表面である投影面に平行であって、プロジェクタ20およびイベントカメラ30までの距離がz
mとなっている面である。
【0035】
プロジェクタ20とイベントカメラ30を固定すれば、プロジェクタ20の座標、イベントカメラ30の座標は既知になる。また、基準面までの高さ座標z
mは与える値である。さらに、基準面までの高さ座標z
mが決まれば、その基準面における投影パターンの1周期分の長さも決まる。よって、
図9に示すグラフは事前に求めることができる。
【0036】
図9に示すグラフを事前に求めておき、S18では、事前に求めた
図9に示すグラフに、S17で算出した位相θを当てはめて、各座標計測点Pの高さ座標z
mを決定する。なお、位相θが何周期目であるかが不明だと、高さ座標z
mも決定することができない。しかし、ある座標計測点Pにおける高さ座標z
mは、その座標計測点Pに隣接する座標計測点Pの高さ座標z
mに対して連続的な変化をする。したがって、位相θが何周期目であるかが不明でも計測対象物5の三次元形状を計測することはできる。また、作業台2の高さ座標z
mは既知であるので、作業台2の高さ座標z
mと比較をすることで、座標計測点Pの高さ座標z
mを決定してもよい。
【0037】
S19では、S18で高さ座標z
mを決定した座標計測点Pについて、水平座標(x
m、y
m)を決定する。S18において決定した高さ座標z
mは、画素(x、y)には対応付けられている。画素(x、y)が決まると、イベントカメラ30に対する方向(α
x、α
y)は定まる。なお、α
xは、
図10に示すように、イベントカメラ30から座標計測点Pに向かう方向のうち、x
mz
m平面におけるz
m軸との間の角度である。α
yは
図10には図示していないが、α
yはイベントカメラ30から座標計測点Pに向かう方向のうち、y
mz
m平面におけるz
m軸との間の角度である。
図10から分かるように、水平座標(x
m、y
m)は、高さ座標z
mとα
m、α
yから幾何学計算により算出することができる。
【0038】
S17からS19までの処理を各画素(x、y)に対して実行することで、計測対象物5の三次元座標を決定することができる。
【0039】
〔第1実施形態のまとめ〕
以上、説明した本実施形態の三次元計測システム1は、プロジェクタ20は、単位時間あたりのオン時間比率がx方向に正弦波状に変化する第1投影パターンと第2投影パターンとを計測対象物5に投影する。また、三次元計測システム1は、投影パターンを撮影するカメラとしてイベントカメラ30を備えている。
【0040】
イベントカメラ30が出力するイベントデータは、投影パターンが投影される物体の反射率が異なることによる影響を受けない。したがって、第1投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力するイベントデータに基づいて決定できる第1オン時間比率のオフセットは、画素によらず一定になる。
【0041】
オフセットが一定であると、第1オン時間比率および第2オン時間比率からオフセットを容易に除去できる。そのため、第1オン時間比率および第2オン時間比率をもとに位相θを算出する式1においてもオフセットを除去できる。位相θを算出する式1からオフセットを除去できると、未知数が1つ減ることになるので、未知数を求めるために投影する投影パターンの数を少なくできる。投影する投影パターンの数を少なくできるので、三次元形状を計測する時間を短くできる。
【0042】
この三次元計測システム1は、プロジェクタ20は第1投影パターンを投影するだけでなく、第2投影パターンも投影する。第2投影パターンは、第1投影パターンとは、位相差δだけ位相θが異なっているパターンである。第2オン時間比率決定部13は、第2投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて第2オン時間比率波形を生成する(S14)。
【0043】
このようにして生成した第2オン時間比率波形は、第1オン時間比率波形と同じオフセット成分を持つ。そこで、オフセット除去部14は、同じオフセット成分を、第1オン時間比率波形と第2オン時間比率波形から除去する(S16)。2つの波形から同じオフセット成分を除去すればよいので、2つの波形から除去するオフセット成分が別々である場合に比較して処理が簡単になる。
【0044】
オフセット除去部14は、生成した第1オン時間比率波形または記第2オン時間比率波形からオフセットを算出する(S15)。オフセットを、実際に生成した波形から算出するので、プロジェクタ20の個体差などでオフセットが三次元計測システム1ごとに異なっていたとしても、第1オン時間比率波形および第2オン時間比率波形から精度よくオフセットを除去できる。
【0045】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0046】
図11に、第2実施形態で制御装置10が実行する三次元計測処理を示す。
図11は、
図4に代えて実行する処理である。
図11は、
図4のS13、S14、S16に代えて、S13-1、S14-1、S16-1を実行する。また、オフセットを算出するS15は実行しない。代わりに、オフセットが事前に測定等に基づいて決定されて、制御装置10の所定の記憶部に記憶されている。
【0047】
S13-1では、第1オン時間比率決定部12が、S13と同様、第1投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて、イベントカメラ30が備える画素別に第1オン時間比率を決定する。S13では、さらに、第1オン時間比率波形を決定していたが、S13-1では、第1オン時間比率波形は決定しない。
【0048】
S14-1では、第2オン時間比率決定部13が、S14と同様、第2投影パターンをプロジェクタ20が投影しているときにイベントカメラ30が出力したイベントデータに基づいて、イベントカメラ30が備える画素別に第2オン時間比率を決定する。ただし、S14とは異なり、第2オン時間波形は決定しない。
【0049】
S14-1を実行後は、S16-1を実行する。S16-1では、オフセット除去部14が、S13-1、S14-1で決定した各画素の第1オン時間比率および第2オン時間比率から、事前に記憶されているオフセットを引くことでオフセットを除去する。その後は、第1実施形態と同様、S17以下を実行する。
【0050】
この第2実施形態では、オフセットが事前に記憶されているので、オフセットを算出する処理が不要となる。よって、第1実施形態よりも、さらに三次元形状を計測する時間を短くできる。
【0051】
<第3実施形態>
図12に、第3実施形態で制御装置10が実行する三次元計測処理を示す。
図12は、
図4に代えて実行する処理である。
図12は、
図4のS14、S15、S16に代えて、S14-2、S15-2、S16-2を実行する。
【0052】
図12に示す三次元計測処理では、第2投影パターンを投影および撮影するS12は実行しない。S12を実行しなくても、S14-2により第2オン時間比率波形を生成できる。S14-2は第2オン時間比率決定部13が実行する。S14-2では、S13で生成された第1オン時間比率波形を1階微分して第2オン時間比率波形を算出する。1階微分すると、位相θが90度ずれた波形が得られる。よって、第1オン時間比率波形を1階微分した波形を第2オン時間比率波形とすることができる。
【0053】
1階微分は、中心差分により算出することができる。中心差分の式は
図13に示している。中心差分では、1つの微分値を算出するのに3画素分のデータが必要になる。ただし、3画素分のデータの中心は計算には使わない。
【0054】
S15-2では、第1オン時間比率波形のオフセットを算出する。S15-2とは異なり、第2オン時間比率波形は用いず、第1オン時間比率波形を周波数解析することでオフセットを算出する。第2オン時間比率波形を用いない理由は、第2オン時間比率波形は第1オン時間比率波形を微分することにより生成しており、微分によりオフセットは除去されているからである。
【0055】
S16-2では、S15-2で算出したオフセットを第1オン時間比率波形から除去する。その後は、第1実施形態と同様、S17以下を実行する。
【0056】
この第3実施形態では、第1オン時間比率波形を1階微分して第2オン時間比率波形を生成している。したがって、第2投影パターンを投影する必要がない。加えて、このようにして第2オン時間比率波形を生成すると、第2オン時間比率波形はオフセットが除去された波形になるので、別途、オフセットを除去する処理が不要になる。
【0057】
また、第1オン時間比率波形については、生成した第1オン時間比率波形からオフセットを算出し(S15-2)、そのオフセットを、第1オン時間比率波形から除去する。よって、第1オン時間比率波形から精度よくオフセットを除去できる。
【0058】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0059】
<変形例1>
実施形態では、投影パターンは、単位時間内において継続的にオンしているオン時間を、x方向において正弦波状に変化させたパターンであった。しかし、継続的にオンすることに代えて、
図14に示すように、単位時間よりも十分に短い時間にオン時間を設定し、単位時間内においてオンオフする回数をx方向において正弦波状に変化させたパターンを投影パターンとしてもよい。
【0060】
<変形例2>
実施形態では、1階微分を中心差分により算出していた。しかし、前進差分または後退差分により1階微分を算出してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1:三次元計測システム 2:作業台 5:計測対象物 10:制御装置 11:投影制御部 12:第1オン時間比率決定部 13:第2オン時間比率決定部 14:オフセット除去部 15:位相算出部 16:座標決定部 20:プロジェクタ 30:イベントカメラ