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特開2023-124523二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサ
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  • 特開-二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124523
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230830BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230830BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20230830BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230830BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20230830BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J7/04 Z
B29C55/12
B32B15/08 E
B32B15/085 Z
H01G4/32 511L
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028328
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石渡 忠和
(72)【発明者】
【氏名】石田 立治
(72)【発明者】
【氏名】米田 美彦
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
4F210
5E082
【Fターム(参考)】
4F006AA12
4F006AB73
4F006BA06
4F006CA08
4F006DA01
4F071AA20
4F071AA80
4F071AA81
4F071AA88
4F071AC11
4F071AE05
4F071AF53
4F071AH12
4F071AH16
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB01B
4F100AB01C
4F100AB10B
4F100AB10C
4F100AK07A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EJ38A
4F100GB41
4F100GB51
4F100JA06A
4F100JA07A
4F210AA11
4F210AC03
4F210AG01
4F210AH33
4F210AR01
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
5E082BC23
5E082EE07
5E082EE23
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG35
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】高温下でも高い絶縁破壊強度を示す二軸延伸ポリプロピレンフィルム及び当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた金属化フィルムを提供する。
【解決手段】超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である、ことを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である、ことを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)が2.40Km/sec以上である、請求項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)と最小値(Vmin)との比(Vmax/Vmin)が2.8以上である、請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、230℃における溶融張力が9g/cm以上20g/cm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂及び長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、歪硬化性パラメータが3以上6未満である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂及び長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、230℃におけるメルトフローレートが1~6g/10minである、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの分子量分布(Mw/Mn)が5.0以上10.0以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、Z平均分子量Mzが95.0万以上150.0万以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項9】
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wが2.6%以上4.0%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項10】
コンデンサ用である、請求項1~9のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属層を有する金属化フィルム。
【請求項12】
厚みが1.8μm以上3.0μm以下である、請求項11に記載の金属化フィルム。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の金属化フィルムを含むコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは電気機器等に用いられており、耐電圧性等の電気特性に優れるため、コンデンサ用誘電体フィルムとして用いられている。
【0003】
上述のようなコンデンサ用誘電体フィルムから製造されるコンデンサは、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車等のパワーコントロールユニットを構成するインバータ等に用いることができる。
【0004】
このようなコンデンサを製造するための二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、近年のコンデンサの小型化及び高容量化により、フィルム厚みを薄くする必要があり、厚みが薄くても高い絶縁破壊強度を示すことが要求される。
【0005】
例えば、特許文献1には、コンデンサ用に用いられるポリプロピレンフィルムとして、ポリプロピレン樹脂が特定の範囲の融解ピークを有するポリプロピレンフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第42929923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のポリプロピレンフィルムは、耐熱性が十分でないという問題がある。
【0008】
上述のようなコンデンサは、エンジンルーム内で温度が上昇する環境や、コンデンサの自己発熱等の環境下で使用されるため、120℃程度(例えば、100℃~125℃)の高温下における高い耐熱性が要求される。すなわち、コンデンサには、高温下でもショートを起こさず、絶縁性及び静電容量を維持することが求められる。
【0009】
このようなコンデンサを製造するための二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、高温下でも高い絶縁破壊強度を示すことが要求される。
【0010】
従って、高温下でも高い絶縁破壊強度を示す二軸延伸ポリプロピレンフィルム及び当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた金属化フィルムの開発が求められており、高温下でも絶縁性及び静電容量を維持することできるコンデンサの開発が求められている。
【0011】
本発明は、高温下でも高い絶縁破壊強度を示す二軸延伸ポリプロピレンフィルム及び当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた金属化フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、高温下でも絶縁性及び静電容量を維持することできるコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である二軸延伸ポリプロピレンフィルムによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサに関する。
1.超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である、ことを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
2.超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)が2.40Km/sec以上である、項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
3.超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)と最小値(Vmin)との比(Vmax/Vmin)が2.8以上である、項1又は2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
4.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、230℃における溶融張力が9g/cm以上20g/cm以下である、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
5.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂及び長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、歪硬化性パラメータが3以上6未満である、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
6.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂及び長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有し、前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂は、230℃におけるメルトフローレートが1~6g/10minである、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
7.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの分子量分布(Mw/Mn)が5.0以上6.9以下である、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
8.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、Z平均分子量Mzが95.0万以上150.0万以下である、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
9.前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wが2.6%以上4.0%以下である、項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
10.コンデンサ用である、項1~9のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
11.項1~10のいずれかに記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属層を有する金属化フィルム。
12.厚みが1.8μm以上3.0μm以下である、項11に記載の金属化フィルム。
13.項11又は12に記載の金属化フィルムを含むコンデンサ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、高温下でも高い絶縁破壊強度を示すことができる。また、本発明は、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた金属化フィルムを提供することができる。更に、本発明のコンデンサは、高温下でも絶縁性及び静電容量を維持することできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】歪硬化性パラメータ(λ)についての概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、数値範囲の「~」とは、以上と以下とを意味する。即ち、α~βという表記は、α以上β以下、或いは、β以上α以下を意味し、範囲としてα及びβを含む。また、複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0017】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現は、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0018】
本明細書中において、「コンデンサ」なる表現は、「コンデンサ」、「コンデンサ素子」及び「フィルムコンデンサ」という概念を含む。
【0019】
本明細書中において、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの方向は次の通りである。まず、フィルムの機械方向は、Machine Direction(以下、「MD方向」とも示す。)と同じ方向である。MD方向は、長さ方向、流れ方向と呼ぶことがある。次に、フィルムの横方向は、Transverse Direction(以下、「TD方向」とも示す。)と同じ方向である。TD方向は、幅方向と呼ぶことがある。
【0020】
1.二軸延伸ポリプロピレンフィルム
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である。本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上であることにより、高温下でも高い絶縁破壊強度を示すことができる。以下に説明する。
【0021】
本発明者は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの超音波伝搬速度が高くなると、電気特性(耐電圧性)が向上することを見出した。超音波伝搬速度Vは、剛性率G及び密度ρと、下記式(1)の関係を示す。
G=ρV (1)
【0022】
すなわち、上記式(1)では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの超音波伝搬速度が、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性率と密度とのバランスの関係にあることを示している。
【0023】
本発明の作用は明確ではないが、上記式(1)の内容から、超音波伝搬速度が二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンの分子鎖の「絡み合い効果」、及び、「結晶化」に影響されると推測される。
【0024】
例えば、分子鎖の「絡み合い」を促進するため、分岐ポリプロピレンを用いることが考えられる。分岐ポリプロピレンは結晶核剤的な作用をするため、ポリプロピレンの「結晶化」が進むと推測される。しかしながら、過度の「結晶化」は、密度ρを増大させるため、上記式(1)から、超音波伝搬速度Vは、小さくなると考えられる。
【0025】
また、「絡み合い」を促進するため、特定の分子量、分子量分布を示すポリプロピレンを用いることが考えられる。例えば、特定のZ平均分子量を示す超高分子量成分が、ポリプロピレンの分子鎖の「絡み合い効果」を促進するため、室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上となる。
【0026】
すなわち、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの超音波伝搬速度は、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの剛性率と密度とのバランスの関係にあるため、本発明のように、室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である二軸延伸ポリプロピレンフィルムとすることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンの分子鎖の「絡み合い効果」、及び、「結晶化」が適度な範囲となり、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、高温下でも高い絶縁破壊強度を示すことができると推測される。
【0027】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記作用を示すため、例えば、125℃の高温下でも、500Vdc/μm以上の高い絶縁破壊強度を示すことができる。また、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを誘電体として用いたコンデンサにおいても、例えば、100℃以上の高温下にて、400Vdc/μm以上の高電圧を短時間印加しても、ショートを起こさず絶縁性及び静電容量を維持することができる。
【0028】
以下、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムについて詳細に説明する。
【0029】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値が1.60Km/sec以上である。上記平均値が1.60Km/sec未満であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下(120℃程度、例えば、100℃~125℃)での絶縁破壊強度が低下する。上記平均値は、1.63Km/sec以上が好ましく、1.65Km/sec以上がより好ましい。また、上記平均値の上限は特に限定されず、2.00Km/sec以下が好ましく、1.90Km/sec以下がより好ましく、1.80Km/sec以下が更に好ましい。上記平均値の上限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの結晶性低下(密度低下)を抑制することができ、耐熱性がより向上する。
【0030】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)は、2.40Km/sec以上が好ましく、2.45Km/sec以上がより好ましい。また、上記最大値の上限は特に限定されず、2.85Km/sec以下が好ましく、2.80Km/sec以下がより好ましい。上記最大値の下限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。上記最大値の上限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの結晶性低下(密度低下)を抑制することができ、耐熱性がより向上する。
【0031】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度のうちの最小値(Vmin)は、0.820Km/sec以上が好ましく、0.835Km/sec以上がより好ましい。また、上記最小値の上限は特に限定されず、1.000Km/sec以下が好ましく、0.950Km/sec以下がより好ましい。上記最小値の下限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。上記最小値の上限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの結晶性低下(密度低下)を抑制することができ、耐熱性がより向上する。
【0032】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、上記最大値(Vmax)と上記最小値(Vmin)との比(Vmax/Vmin)は、2.80以上が好ましく、2.82以上がより好ましい。また、上記Vmax/Vminの上限は、3.50以下が好ましく、3.30以下がより好ましい。上記Vmax/Vminの下限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。上記Vmax/Vminの上限が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊強度と他の物性とを両立させることができ、耐熱性の低下を抑制しつつ絶縁破壊強度を向上させることができる。
【0033】
本明細書における、上記超音波配向性試験機を用いて測定した室温における全方向の超音波伝搬速度の平均値、最大値、最小値の測定は、後述の実施例に記載の測定方法による。当該測定方法において、室温は25℃±2℃を意味しており、25℃で測定されることが好ましい。
【0034】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、コンデンサに使用した場合のコンデンサの小型化及び高容量化をより向上させることができる観点から、上限は6.0μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましく、3.5μm以下が更に好ましく、3.0μm以下が特に好ましく、2.8μm以下が最も好ましい。また、製造上の観点から、下限は、0.8μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.8μm以上が更に好ましく、2.0μm以上が特に好ましい。本明細書における二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みの測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0035】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの密度は特に限定されず、コンデンサに用いることがより容易になる観点から、919kg/m以上930kg/m以下が好ましい。
【0036】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの分子量分布(Mw/Mn)が5.0以上10.0以下であることが好ましい。また、分子量分布の下限値は、好ましくは5.2以上であり、より好ましくは6.0以上であり、更に好ましくは6.4以上である。また、分子量分布の上限値は好ましくは9.0以下であり、より好ましくは8.6以下である。分子量分布が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下における絶縁破壊強度がより向上し、且つ、機械方向(MD)の熱収縮が抑制される。
【0037】
なお、上記ポリプロピレン樹脂を構成するポリプロピレン樹脂の特性であるMw、Mn、及び、Mw/Mnは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム中の(二軸延伸ポリプロピレンフィルムを形成した後の)ポリプロピレン樹脂の性状であり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造する際に原料として用いるポリプロピレン樹脂の性状とは異なる。
【0038】
本明細書における上記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0039】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、Z平均分子量Mzが95.0万以上150.0万以下であることが好ましい。また、Z平均分子量の下限値は、好ましくは100.0万以上であり、より好ましくは105.0万以上であり、更に好ましくは110.0万以上である。また、上限値は好ましくは140.0万以下であり、より好ましくは130.0万以下であり、更に好ましくは120.0万以下である。Z平均分子量が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下における絶縁破壊強度がより向上する。
【0040】
なお、上記ポリプロピレン樹脂を構成するポリプロピレン樹脂の特性であるZ平均分子量Mzは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム中の(二軸延伸ポリプロピレンフィルムを形成した後の)ポリプロピレン樹脂の性状であり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造する際に原料として用いるポリプロピレン樹脂の性状とは異なる。
【0041】
本明細書における上記ポリプロピレン樹脂のZ平均分子量の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0042】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wが2.6%以上4.0%以下であることが好ましい。また、上記重量分率wの下限値は、好ましくは2.8%以上であり、より好ましくは3.0%以上であり、更に好ましくは3.2%以上であり、特に好ましくは3.4%以上である。また、上限値は好ましくは3.9%以下である。重量分率wが上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下における絶縁破壊強度がより向上する。
【0043】
なお、上記ポリプロピレン樹脂を構成するポリプロピレン樹脂の特性である対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム中の(二軸延伸ポリプロピレンフィルムを形成した後の)ポリプロピレン樹脂の性状であり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造する際に原料として用いるポリプロピレン樹脂の性状とは異なる。
【0044】
本明細書における上記ポリプロピレン樹脂の重量分率wの測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0045】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの分子量分布(Mw/Mn)が5.0以上10.0以下であり、Z平均分子量Mzが95.0万以上150.0万以下であり、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wが2.6%以上4.0%以下であることが好ましい。本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂が上記特性示すことにより、ポリプロピレン樹脂の分子鎖の「絡み合い効果」、及び、「結晶化」が適度な範囲となり、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、高温下でも高い絶縁破壊強度を示すことができる。
【0046】
上記ポリプロピレン樹脂の含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂全体の量を100質量%として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上である。ポリプロピレン樹脂の含有量の上限は特に限定されず、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂全体の量を100質量%として、例えば、100質量%、98質量%程度であればよい。
【0047】
上記ポリプロピレン樹脂は、直鎖ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。上記ポリプロピレン樹脂が直鎖ポリプロピレン樹脂であることにより、上記重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である分子量分布(Mw/Mn)、Z平均分子量Mz、及び、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wを上記範囲に調整し易くなり、このため、超音波伝搬速度の平均値、最大値(Vmax)、最小値(Vmin)、及び、(Vmax/Vmin)を上記範囲に調整し易くなる。
【0048】
上記ポリプロピレン樹脂としては、一種のポリプロピレン樹脂を単独で用いてもよいし、二種以上のポリプロピレン樹脂を混合して用いてもよい。
【0049】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が二種以上である場合、本明細書において、最も含有量が多いポリプロピレン樹脂を「ポリプロピレン樹脂A」、「主成分のポリプロピレン樹脂」、「ベース樹脂」と示す。また、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が一種である場合、当該ポリプロピレン樹脂も、本明細書では主成分に位置づけ、「ポリプロピレン樹脂A」、「主成分のポリプロピレン樹脂」と示す。また、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が二種以上である場合、本明細書において、最も含有量が多いポリプロピレン樹脂とは異なるポリプロピレン樹脂を「ポリプロピレン樹脂B」、「ブレンド樹脂」と示す。
【0050】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、含まれるポリプロピレン樹脂が二種以上(特に二種)である場合、例えば、ポリプロピレン樹脂Aとともにブレンド樹脂として、例えば下記ポリプロピレン樹脂Bを含むことが好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Aのうち一種を「ベース樹脂」とし、他の一種を「ブレンド樹脂」としてもよい。以下、ベース樹脂としてのポリプロピレン樹脂Aと、ブレンド樹脂としてのポリプロピレン樹脂Bの二種を用いる場合について例示的に説明する。
【0051】
(ポリプロピレン樹脂A)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂Aとして、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等の結晶性ポリプロピレンを用いることができる。ポリプロピレン樹脂Aは、直鎖ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。上記ポリプロピレン樹脂Aが直鎖結晶性ポリプロピレン樹脂であることにより、ポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂A及びポリプロピレン樹脂Bの混合樹脂)の上記重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である分子量分布(Mw/Mn)、Z平均分子量Mz、及び、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wを上記範囲に調整し易くなり、このため、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの超音波伝搬速度の平均値、最大値(Vmax)、最小値(Vmin)、及び、(Vmax/Vmin)を上記範囲に調整し易くなる。
【0052】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂Aの含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂の量の合計を100質量%として、50質量超過が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、62質量%以上が特に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Aの含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂の量の合計を100質量%として、100質量%未満が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましく、80質量%以下が特に好ましく、75質量%以下が最も好ましい。
【0053】
ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwは、25.0万以上36.0万以下が好ましく、28.0万以上35.0万以下がより好ましく、30.0万以上35.0万以下が更に好ましく、30.0万以上35.0未満が特に好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwが上記範囲であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造工程において、キャスト原反シートの厚さの制御がより容易であり、厚みムラがより発生し難い。
【0054】
なお、上記ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwは、原料樹脂としてのポリプロピレン樹脂Aの特性である。また、後述するポリプロピレン樹脂Aの数平均分子量Mn、Z平均分子量Mz、分子量分布(Mw/Mn)、分子量分布(Mz/Mn)、対数分子量Log(M)=4.0の重量分率w、230℃でのメルトフローレート(MFRA)、メソペンタッド分率([mmmm])、及び、ヘプタン不溶分(HI)も同様に、原料樹脂としてのポリプロピレン樹脂Aの特性である。
【0055】
ポリプロピレン樹脂Aの数平均分子量Mnは、3.0万以上5.4万以下が好ましく、3.3万以上5.2万以下がより好ましく、3.3万以上4.7万以下が更に好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの数平均分子量Mnが上記範囲であると、製造されるコンデンサの耐熱性がより向上する。
【0056】
ポリプロピレン樹脂AのZ平均分子量Mzは、100万以上200万以下が好ましく、125万以上180万以下がより好ましい。ポリプロピレン樹脂AのZ平均分子量Mzが上記範囲であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温での絶縁破壊強度がより向上する。
【0057】
ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布(Mw/Mn)は、5.0以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、6.0以上が更に好ましく、7.0以上が特に好ましく、8.0以上が最も好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布(Mw/Mn)は、10.5以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、9.5以下が更に好ましい。Mw/Mnが上記範囲であることにより、ポリプロピレンフィルムの延伸性がより向上し、より薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0058】
ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布(Mz/Mn)は、10以上100以下が好ましく、15以上70以下がより好ましく、15以上60以下が更に好ましい。Mz/Mnが上記範囲であると、ポリプロピレンフィルムの延伸性がより向上し、より薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0059】
ポリプロピレン樹脂Aの積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wは、3.8%以上が好ましく、4.0%以上がより好ましい。また、上記重量分率wは、6.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの上記重量分率wが上記範囲であることにより、後述するポリプロピレン樹脂Bの重量分率wとの組み合わせによってポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの混合後の重量分率wを2.6%以上4.0%以下に調整し易くなり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下における絶縁破壊強度がより向上する。
【0060】
ポリプロピレン樹脂Aの230℃でのメルトフローレート(MFRA)は、3.0g/10分以上が好ましく、3.5g/10分以上がより好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Aの230℃でのメルトフローレート(MFRA)は、10.0g/10分以下が好ましく、8.0g/10分以下がより好ましく、6.0g/10分以下が更に好ましく、5.0g/10分以下が特に好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの230℃におけるメルトフローレートが上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。
【0061】
本明細書における樹脂の230℃でのメルトフローレート(MFR)の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0062】
ポリプロピレン樹脂Aのメソペンタッド分率([mmmm])は、99.8%以下が好ましく、99.5%以下がより好ましく、99.0%以下が更に好ましい。また、上記メソペンタッド分率は、94.0%以上が好ましく、94.5%以上がより好ましく、95.0%以上が更に好ましい。メソペンタッド分率が上記範囲であると、適度に高い立体規則性により、ポリプロピレン樹脂の結晶性が向上し、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での耐電圧性がより向上し、また、キャストシート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を示すことができる。
【0063】
本明細書における樹脂のメソペンタッド分率([mmmm])の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0064】
ポリプロピレン樹脂Aのヘプタン不溶分(HI)は、97.0%以上98.5%以下が好ましい。なお、ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。ヘプタン不溶分が上記範囲であると、適度に高い立体規則性により、ポリプロピレンフィルム中でのポリプロピレン樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での絶縁破壊強度が向上する。更に、ポリプロピレンフィルムの製造工程において、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。
【0065】
本明細書における樹脂のヘプタン不溶分(HI)の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0066】
(ポリプロピレン樹脂B)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂Bとして、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等の結晶性ポリプロピレンを挙げることができる。ポリプロピレン樹脂Bは、直鎖ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。上記ポリプロピレン樹脂Bが直鎖結晶性ポリプロピレン樹脂であることにより、ポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂A及びポリプロピレン樹脂Bの混合樹脂)の上記重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布(Mw/Mn)、Z平均分子量Mz、及び、積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wを上記範囲に調整し易くなり、このため、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの超音波伝搬速度の平均値、最大値(Vmax)、最小値(Vmin)、及び、(Vmax/Vmin)を上記範囲に調整し易くなる。
【0067】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂Bの含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂の量の合計を100質量%として、50質量%未満が好ましく、49質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Bの含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂の量の合計を100質量%として、10質量%以上が好ましく15質量%%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が特に好ましい。
【0068】
ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwは、30.0万以上が好ましく、35.0万以上がより好ましく、36.0万以上が更に好ましく、36.0万超過が特に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwは、55.0万以下が好ましく、45.0万以下がより好ましく、42.0万以下が更に好ましい。ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwが上記範囲であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造工程において、キャスト原反シートの厚さの制御がより容易であり、厚みムラがより発生し難い。
【0069】
なお、上記ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwは、原料樹脂としてのポリプロピレン樹脂Bの特性である。また、後述するポリプロピレン樹脂Bの数平均分子量Mn、Z平均分子量Mz、分子量分布(Mw/Mn)、分子量分布(Mz/Mn)、対数分子量Log(M)=4.0の重量分率w、230℃でのメルトフローレート(MFRB)、MFRA-MFRB、メソペンタッド分率([mmmm])、及び、ヘプタン不溶分(HI)も同様に、原料樹脂としてのポリプロピレン樹脂Bの特性である。
【0070】
ポリプロピレン樹脂Bの数平均分子量Mnは、4.0万以上5.4万以下が好ましく、4.2万以上5.0以下がより好ましく、4.4万以上4.8万以下が更に好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの数平均分子量Mnが上記範囲であると、製造されるコンデンサの耐熱性がより向上する。
【0071】
ポリプロピレン樹脂BのZ平均分子量Mzは、155万超過200万以下が好ましく、158万以上190万以下がより好ましい。ポリプロピレン樹脂BのZ平均分子量Mzが上記範囲であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温での絶縁破壊強度がより向上する。
【0072】
ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布(Mw/Mn)は、5.0以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、7.0以上が更に好ましく、7.5以上が特に好ましく、8.0以上が最も好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布(Mw/Mn)は、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、8.5以下が更に好ましい。Mw/Mnが上記範囲であることにより、ポリプロピレンフィルムの延伸性がより向上し、より薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0073】
ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布(Mz/Mn)は、30以上40以下が好ましく、33以上36以下がより好ましい。Mz/Mnが上記範囲であると、ポリプロピレンフィルムの延伸性がより向上し、より薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0074】
ポリプロピレン樹脂Bの積分分子量分布曲線における対数分子量Log(M)=4.0の重量分率wは、2.0%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましく、3.0%以上が更に好ましい。また、上記重量分率wは、5.0%以下が好ましく、4.2%以下がより好ましく、3.8%未満が更に好ましい。ポリプロピレン樹脂Bの上記重量分率wが上記範囲であることにより、上述のポリプロピレン樹脂Aの重量分率wとの組み合わせによってポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの混合後の重量分率wを2.6%以上4.0%以下とし易くなり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下における絶縁破壊強度がより向上する。
【0075】
ポリプロピレン樹脂Bの230℃でのメルトフローレート(MFRB)は、4.5g/10分以下が好ましく、4.0g/10分以下がより好ましく、3.5g/10分未満が更に好ましく、3.0g/10分未満が特に好ましく、2.8g/10分未満が最も好ましい。また、ポリプロピレン樹脂Bの230℃でのメルトフローレート(MFRB)は、0.1g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましく、1.5g/10分以上が更に好ましい。
【0076】
なお、主成分のベース樹脂としてのポリプロピレン樹脂AのMFRAとブレンド樹脂であるポリプロピレン樹脂BのMFRBの差分MFRA-MFRBは、1.2g/10分以上であることが好ましい。すなわち、MFRAはMFRBよりも大きいことが好ましい。上記MFRA-MFRBは、1.3g/10分以上が好ましく、1.5g/10分以上がより好ましく、1.7g/10分以上が更に好ましい。上記MFRA-MFRBが1.2g/10分未満(当該1.2g/10分未満は、マイナスの値も包含する)である場合、ポリプロピレンフィルムの製造工程において、キャスト原反シート成形時点での海-島相分離構造が形成されないか、又は形成されるにしても島のサイズが非常に小さいため、最終的に、高温での絶縁破壊強度に優れたポリプロピレンフィルムが得られ難くなるおそれがある。特に、MFRAとMFRBとの差が大きくても、MFRBの方が大きい場合(上記MFRA-MFRBがマイナスとなる場合)、海-島相分離構造の島のサイズが非常に小さくなる。
【0077】
ポリプロピレン樹脂Bのメソペンタッド分率([mmmm])は、99.8%以下が好ましく、99.5%以下がより好ましく、99.0%以下が更に好ましい。また、上記メソペンタッド分率は、94.0%以上が好ましく、94.5%以上がより好ましく、95.0%以上が更に好ましい。メソペンタッド分率が上記範囲であると、適度に高い立体規則性により、ポリプロピレン樹脂の結晶性が向上し、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での耐電圧性がより向上し、また、キャストシート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を示すことができる。
【0078】
ポリプロピレン樹脂Bのヘプタン不溶分(HI)は、97.5%以上が好ましく、98.0%以上がより好ましく、98.5%超過が更に好ましく、98.6%以上が特に好ましい。また、ヘプタン不溶分は、99.5%以下が好ましく、99.0%以下がより好ましい。
【0079】
以上、ポリプロピレン樹脂A(ベース樹脂)とポリプロピレン樹脂B(ブレンド樹脂)の二種を用いる場合について例示的に説明したが、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂以外の樹脂を含有していてもよい。その場合、ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの合計の含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂全体を100質量%として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上である。ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの合計の含有量の上限は特に限定されず、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂全体を100質量%として、例えば、100質量%、98質量%程度であればよい。上述のポリプロピレン樹脂以外の樹脂としては、例えば、後述する長鎖分岐ポリプロピレン樹脂が挙げられる。
【0080】
(長鎖分岐ポリプロピレン樹脂)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記ポリプロピレン樹脂の他に、更に、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有していてもよい。
【0081】
上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂のなかでも、メタロセン触媒を用いてプロピレンを重合することにより得られる長鎖分岐ポリプロピレン樹脂(以下、「長鎖分岐ポリプロピレン樹脂C」とも示す。)が好ましい。二軸延伸ポリプロピレンフィルムがポリプロピレン樹脂の他に長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを含有する、キャストシートにβ晶が多量に形成される。当該β晶を含むキャストシートを延伸することによりβ晶がα晶に転移することから、β晶とα晶との密度の差に起因して、延伸により得られるポリプロピレンフィルムに(略)円弧形状の凹凸が形成され、好適に表面を粗面化することができる。
【0082】
長鎖分岐ポリプロピレン樹脂として、上記メタロセン触媒を用いて重合された長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cではなく、過酸化物による架橋変性により得られる長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を用いた場合、過酸化物による架橋変性により得られる長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の有するα晶造核効果によって、キャストシートにはα晶の形成が促進され、β晶の形成が抑制される。α晶を含むキャストシートを延伸しても結晶子の転移は起こり難く、凹凸は形成され難い。このため、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを粗面化するためには、メタロセン触媒を用いて重合された長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを好適に用いることができる。
【0083】
また、メタロセン触媒は、オレフィンマクロマーを生成する重合用触媒を形成するメタロセン化合物であることが一般的である。メタロセン触媒を用いてプロピレンを重合して得られた長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cは、ポリプロピレンの分岐鎖長や分岐鎖間隔が適度となり、線状ポリプロピレンとの相溶性がより向上し、且つ、より均一な組成、より均一な表面形状が得られやすいため好ましい。
【0084】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記ポリプロピレン樹脂A、及び、上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを含有することが好ましく、上記ポリプロピレン樹脂A、上記ポリプロピレン樹脂B、及び、上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを含有することがより好ましい。上記ポリプロピレン樹脂Aと、上記ポリプロピレン樹脂Bとは、ヘプタン不溶分(HI)、及び/又は、メルトフローレート(MFR)等が異なり、微細混合状態(相分離状態)となっているため、そのような未延伸ポリプロピレンフィルムを延伸することにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成する樹脂成分の配置が複雑化する。本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、ヘプタン不溶分(HI)、及び/又は、メルトフローレート(MFR)等が異なるポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとを含み、更に、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを含むことにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成する樹脂成分の配置が複雑化することにより二軸延伸ポリプロピレンフィルムの耐電圧性がより向上し、微細化された(略)円弧形状の凹凸が形成され、より好適な粗面化を実現することができる。
【0085】
上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cの代表的市販品としては、例えば日本ポリプロ株式会社製MFX3、MFX6、日本ポリプロ株式会社製MFX8等が挙げられる。
【0086】
上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の230℃における溶融張力は、3g/cm以上25g/cm以下が好ましく、5g/cm以上20g/cm以下がより好ましく、9g/cm以上20g/cm以下が更に好ましく、9g/cm以上17g/cm以下が特に好ましい。溶融張力が上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。本明細書における樹脂の230℃における溶融張力の測定は、後述の実施例に記載の測定方法による。
【0087】
上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の歪硬化性パラメータは、2以上10以下が好ましく、3以上6未満が好ましく、4以上6未満がより好ましい。歪硬化性パラメータが上記範囲であることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。本明細書における樹脂の歪硬化性パラメータの測定は、後述の実施例に記載の測定方法による。
【0088】
上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の230℃におけるメルトフローレートは、0.1~12g/10minが好ましく、1~6g/10minがより好ましく、1.5~4g/10minがより好ましく、2~3.5g/10minが更に好ましい。230℃におけるメルトフローレートが上記範囲であることにより、溶融状態での流動特性に優れるため、メルトフラクチャー等の不安定流動がより発生し難く、且つ、延伸時の破断がより抑制される。したがって、膜厚均一性がより良好であるため、絶縁破壊が起こり易い薄肉部の形成が抑制され、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下での絶縁破壊強度がより向上する。
【0089】
長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、15万以上60万以下が好ましく、20万以上50万以下がより好ましく、25万以上45万以下が更に好ましく、35万以上42万以下が特に好ましい。上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが上記範囲であると、樹脂流動性がより適度となり、キャストシートの厚さの制御がより容易であり、薄い延伸フィルムを作製することがより容易となる。また、キャストシートおよび延伸フィルムの厚みにムラが発生し難くなり、より適度な延伸性を得ることができる。
【0090】
長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mnは、10万以上30万以下が好ましく、10万以上25万以下がより好ましく、10万以上20万以下が更に好ましい。長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mnが上記範囲であると、製造されるコンデンサの耐熱性がより向上する。
【0091】
長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、1.5以上4.5以下が好ましく、1.8以上4.2以下がより好ましく、2.0以上4.0以下が更に好ましく、2.1以上3.9以下が特に好ましく、2.2以上3.0以下が最も好ましい。Mw/Mnが上記範囲であることにより、ポリプロピレンフィルムの延伸性がより向上し、より薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0092】
前記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等は、触媒や重合条件を調整することによって制御することができる。
【0093】
長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂の量の合計を100質量%として、0.1質量%以上が好ましく0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、2質量%以上が特に好ましく、2.5質量%以上が最も好ましい。また、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれる樹脂全体を100質量%として、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、7質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、1種又は2種以上の長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有することができる。
【0094】
(他の樹脂)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂、及び、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂以外の他の樹脂(以下「他の樹脂」ともいう)を含んでもよい。「他の樹脂」は、上記ポリプロピレン樹脂、及び、上記長鎖分岐ポリプロピレン樹脂以外の樹脂であって、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができれば特に制限されない。当該他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(1-メチルペンテン)等のポリプロピレン以外の他のポリオレフィン;エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のα-オレフィン同士の共重合体;スチレン-ブタジエンランダム共重合体等のビニル単量体-ジエン単量体ランダム共重合体;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のビニル単量体-ジエン単量体-ビニル単量体ランダム共重合体等が挙げられる。
【0095】
(添加剤)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、添加剤を更に含むことができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0096】
(二軸延伸ポリプロピレンフィルムの特性)
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの100℃での直流電圧における絶縁破壊強度(DCES100℃)は、550V/μm以上が好ましく、560V/μm以上がより好ましく、570V/μm以上が更に好ましく、580V/μm以上が特に好ましい。100℃での直流電圧における絶縁破壊強度の上限は高い程好ましいが、例えば、650V/μm、630V/μm等である。
【0097】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの125℃での直流電圧における絶縁破壊強度(DCES125℃)は、530V/μm以上が好ましく、540V/μm以上がより好ましく、550V/μm以上が更に好ましく、565V/μm以上が特に好ましく、570V/μm以上が最も好ましい。また、125℃での直流電圧における絶縁破壊強度の上限は高い程好ましいが、例えば、610V/μm、580V/μm等である。
【0098】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの100℃での体積抵抗率(1分値)は、好ましくは1.40×1015Ω・m以上4.00×1015Ω・m以下であり、より好ましくは1.40×1015Ω・m以上2.00×1015Ω・m以下である。本明細書におけるポリプロピレンフィルムの体積抵抗率(1分値)の測定方法は、実施例記載の方法による。
【0099】
2.二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法
上記本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法は特に限定されず、例えば、 少なくともポリプロピレン樹脂A及びポリプロピレン樹脂Bを含有するポリプロピレン樹脂組成物を温度225℃以上270℃以下且つ剪断速度2000s-1以上15000s-1以下で溶融させる工程を含み、
上記ポリプロピレン樹脂Aのメルトフローレート(MFRA)と上記ポリプロピレン樹脂Bの(MFRB)との差分MFRA-MFRBが、1.2g/10分以上であり、
上記ポリプロピレン樹脂組成物中の上記ポリプロピレン樹脂Aの含有量が、上記ポリプロピレン樹脂組成物中の上記ポリプロピレン樹脂Bの含有量よりも多い、製造方法により製造することができる。以下、上記製造方法について例示的に説明する。
【0100】
上記製造方法によれば、高温下において、良好な絶縁破壊強度を示す二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することができる。良好な絶縁破壊強度を示す二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することができる理由としては、特定の、異なる2種のポリプロピレン樹脂を使用したことによるキャスト原反シートの海-島相分離構造(特に、適切な島のサイズ)によると考えられる。
【0101】
上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法では、少なくともポリプロピレン樹脂A及びポリプロピレン樹脂Bを含有するポリプロピレン樹脂組成物を用いる。ここで、ポリプロピレン樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂Aの含有量が、ポリプロピレン樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂Bの含有量よりも多いことは、ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの関係において、ポリプロピレン樹脂Aが主成分のベース樹脂であり、ポリプロピレン樹脂Bがベース樹脂に対するブレンド樹脂であることを意味する。なお、上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法における「ポリプロピレン樹脂A」、「ポリプロピレン樹脂B」は、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて説明した「ポリプロピレン樹脂A」、「ポリプロピレン樹脂B」と同一であるが、上記製造方法では、特にMFRAとMFRBの差分MFRA-MFRBが1.2g/10分以上であることが好ましい。なお、二軸延伸ポリプロピレンフィルム長鎖分岐ポリプロピレン樹脂を含有する場合、上記ポリプロピレン樹脂A、及び、上記「ポリプロピレン樹脂B」に、上記「長鎖分岐ポリプロピレン樹脂」を添加して用いればよく、ポリプロピレン樹脂A、ポリプロピレン樹脂B、及び、長鎖分岐ポリプロピレン樹脂Cを含有するポリプロピレン樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0102】
上記製造方法に適用する樹脂を混合する方法としては、特に制限はないが、ベース樹脂、ブレンド樹脂、及び、必要に応じて長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の重合粉、又は、ペレットを、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、ベース樹脂、ブレンド樹脂、及び、必要に応じて長鎖分岐ポリプロピレン樹脂の重合粉、又は、ペレットを、混練機に供給し、溶融混練して混練物を得る方法が挙げられる。
【0103】
上記ミキサー、上記混練機は、特に限定されない。上記混練機は、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプ、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでもよい。2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプであってもよい。
【0104】
溶融混練による混練の場合は、良好な混練物が得られれば、混練温度は特に制限されない。一般的には、200℃以上300℃以下の範囲であり、樹脂の劣化を抑制する観点から、230℃以上270℃以下が好ましい。また、樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素等の不活性ガスをパージしてもよい。溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズしてもよい。これにより、混合ポリプロピレン原料樹脂ペレットを調製することができる。
【0105】
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて説明した添加剤と同一の添加剤を用いることができる。上記ポリプロピレン樹脂組成物は、上記添加剤を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない程度の含有量で含有していてもよい。
【0106】
上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法では、まずポリプロピレン樹脂ペレット、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット、又は、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットを押出機に供給して、加熱溶融する。
【0107】
上記ポリプロピレン樹脂組成物は、225℃以上270℃以下で溶融させることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン樹脂組成物の加熱溶融時の押出機設定温度を、225℃以上270℃以下とする。これにより、後述するキャスト原反シート成形時点での海-島相分離構造が形成され、高温での絶縁破壊強度に優れた二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0108】
ポリプロピレン樹脂組成物は、温度225℃以上270℃以下にした状態で剪断速度2000s-1以上15000s-1以下で溶融させることが好ましい。これにより、後述するキャスト原反シート成形時点での海-島相分離構造が形成され、高温での絶縁破壊強度に優れたポリプロピレンフィルムを製造することができる。剪断速度が2000s-1未満であると、押出量が一定せず、原反シートの形状や寸法が不規則になったり、又は規則的に変動するおそれがあり、原反シート搬送時の破断や延伸時の破断が発生し易くなるおそれがある。また、剪断速度が15000s-1を上回ると、押出機内でブレークアップと呼ばれる現象により未溶融物が押出され、均一な原反シートが得られなくなることで延伸時の破断が発生し易くなるおそれがあるか、又は、チップクリアランスを通過する際の発熱が過多となり、ポリプロピレン樹脂組成物の劣化が著しくなることで、均一な原反シートが得られても、延伸により得られるフィルムの絶縁破壊強度が低下するおそれがある。剪断速度は、押出機のシリンダ直径及びスクリュー回転数、スクリューの溝深さで調整することができる。
【0109】
上記剪断速度は、2000s-1以上10000s-1以下が好ましく、2000s-1以上2300s-1以下がより好ましい。剪断速度がかかる範囲内であることにより、重量分率wが2.6%以上4.0%以下である二軸延伸ポリプロピレンフィルムが得られ易くなり、二軸延伸ポリプロピレンフィルムをコンデンサ誘電体として用いたフィルムコンデンサの耐熱性がより向上する。
【0110】
次に、Tダイを用いて溶融された上記ポリプロピレン樹脂組成物をシート状に押し出し、少なくとも1個以上の金属ドラムで冷却、固化させることで、未延伸のキャスト原反シートを成形することができる。上記金属ドラムの表面温度(押し出し後、最初に接触する金属ドラムの温度)は、50℃以上105℃以下であることが好ましく、より好ましくは、60℃以上100℃以下である。上記金属ドラムの表面温度は、使用するポリプロピレン樹脂の物性等に応じて決定することができる。金属ドラムの表面温度が50℃未満であると、原反シートの良好なシート成形性が得られ難いため、延伸製膜時に延伸ムラや破断が生じ易くなるおそれがある。
【0111】
上記キャスト原反シートの厚さは特に制限されず、0.05mm以上2mm以下が好ましく、0.1mm以上1mm以下がより好ましい。
【0112】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記キャスト原反シートに二軸延伸処理を行って製造することができる。延伸は、縦及び横に二軸に配向させる二軸延伸が好ましく、延伸方法としては逐次二軸延伸方法が好ましい。上記逐次二軸延伸方法としては、例えば、先ず、キャスト原反シートを110℃以上170℃以下の温度(好ましくは135℃以上170℃以下)に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に延伸する。流れ方向の延伸倍率は3.5倍以上5.5倍以下が好ましく、4.2倍以上5.4倍以下がより好ましい。次いで、当該シートをテンターに導いて、横方向に延伸する。横方向の延伸時の温度は150℃以上165℃以下が好ましく、横方向の延伸倍率は9倍以上11倍以下が好ましい。次いで、2倍以上10倍以下に緩和、熱固定を施す。
【0113】
以上説明した製造方法により、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造することができる。
【0114】
上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、金属蒸着加工工程などの後工程において接着特性をより向上させる観点から、延伸及び熱固定工程終了後に、オンライン又はオフラインにてコロナ放電処理を行ってもよい。コロナ放電処理は、公知の方法を用いて行うことができる。雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、又は、これらの混合ガスを用いて行うことが好ましい。
【0115】
上述の製造方法により製造された本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、フィルムの厚さが6.0μm以下のように薄い場合でも125℃程度(100℃~125℃)の高温下において直流電圧を印加させた際の絶縁破壊強度、及び、交流電圧を印加させた際の絶縁破壊強度に優れるとともに、上記高温を超える150℃程度までの温度で機械方向(MD)の熱収縮が抑制されている点で優れた耐熱収縮性を示すことができる。また、上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いたコンデンサは、120℃程度(100℃~125℃)の高温下において優れた耐熱性を有し、具体的には、上記高温下で長時間使用した場合でもコンデンサの静電容量の低下が抑制されているおり、エンジンルーム内を想定した上記高温と低温との間の繰り返し使用においてコンデンサの熱締まり(変形)が抑制されている点で優れた耐熱衝撃性も有している。よって、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用途として好適であり、好ましくは、ハイブリッド自動車・電気自動車におけるインバータを構成するコンデンサの誘電体に用いることができる。
【0116】
3.金属化フィルム、コンデンサ及びそれらの製造方法
本発明の金属化フィルムは、上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属層を有する金属化フィルムである。
【0117】
金属層は、電極として機能する。金属層に用いられる金属としては、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、それらの合金などを使用することができる。これらの中でも、環境への負荷、経済性、コンデンサ性能に優れる点で、亜鉛、アルミニウムが好ましい。
【0118】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面(片面又は両面)に金属層を積層する方法としては特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。生産性及び経済性に優れる観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法としては、るつぼ方式、ワイヤー方式等が挙げられ、適宜最適なものを選択することができる。
【0119】
蒸着により金属層を積層する際のマージンパターンは特に限定されず、コンデンサの保安性がより向上し、コンデンサの破壊、ショートがより抑制される観点から、フィッシュネットパターン、Tマージンパターン等の、いわゆる特殊マージンを含むパターンをに二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片方の面上に施すことが好ましい。
【0120】
マージンを形成する方法としては特に限定されず、テープ法、オイル法等の公知の方法により形成すればよい。
【0121】
本発明の金属化フィルムの厚みは特に限定されず、1.8μm以上3.0μm以下が好ましく、2.0μm以上2.8μm以下がより好ましい。
【0122】
本発明のコンデンサは、上記金属化フィルムを含むコンデンサである。本開示の金属化フィルムは、従来公知の方法で積層するか、又は、巻回してフィルムコンデンサとすることができる。
【0123】
上記フィルムコンデンサは、金属化フィルムが複数積層された構成を有していてもよいし、巻回された金属化フィルムを有していてもよい。このようなフィルムコンデンサは、電気自動車、ハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ電源機器用コンデンサ等に好適に使用することができる。また、鉄道車両用、風力発電用、太陽光発電用、一般家電用等の用途においても好適に使用することができる。
【実施例0124】
本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0125】
なお、実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
・A1:酸化防止剤としてイルガノックス1010を添加したプライムポリマー社製ポリプロピレン樹脂、重量平均分子量(Mw):31万、数平均分子量(Mn):3.3万、分子量分布(Mw/Mn):9.4、Z平均分子量(Mz):140万、Log(M)=4.0の重量分率w:6.2%、メソペンタッド分率:95.8%、メルトフローレート(230℃):4.9g/10min、ヘプタン不溶分:97.3%
・A2:ポレアリス社製ポリプロピレン樹脂、重量平均分子量(Mw):34万、数平均分子量(Mn):4.2万、分子量分布(Mw/Mn):8.1、Z平均分子量(Mz):150万、Log(M)=4.0の重量分率w:4.5%、メソペンタッド分率:96.9%、メルトフローレート(230℃):4.0g/10min、ヘプタン不溶分:98.5%
・B1:大韓油化製ポリプロピレン樹脂、重量平均分子量(Mw):38万、数平均分子量(Mn):4.6万、分子量分布(Mw/Mn):8.3、Z平均分子量(Mz):160万、Log(M)=4.0の重量分率w:3.3%、メソペンタッド分率:98.0%、メルトフローレート(230℃):2.3g/10min、ヘプタン不溶分:98.8%
・B2:大韓油化製ポリプロピレン樹脂、重量平均分子量(Mw):35万、数平均分子量(Mn):4.5万、分子量分布(Mw/Mn):7.8、Z平均分子量(Mz):160万、Log(M)=4.0の重量分率w:4.6%、メソペンタッド分率:97.2%、メルトフローレート(230℃):3.8g/10min、ヘプタン不溶分:98.6%
・C1:日本ポリプロ社製メタロセン長鎖分岐ポリプロピレン樹脂、メルトフローレート(230℃):2.8g/10min、歪硬化性パラメータ:5.8、溶融張力(230℃):17g/cm、重量平均分子量(Mw):38万、数平均分子量(Mn):16万、分子量分布(Mw/Mn):2.4
・C2:日本ポリプロ社製メタロセン長鎖分岐ポリプロピレン樹脂、メルトフローレート(230℃):8g/10min、歪硬化性パラメータ:4.5、溶融張力(230℃):6g/cm、重量平均分子量(Mw):28万、数平均分子量(Mn):11万、分子量分布(Mw/Mn):2.7
・C3:日本ポリプロ社製メタロセン長鎖分岐ポリプロピレン樹脂、メルトフローレート(230℃):2.9g/10min、歪硬化性パラメータ:5、溶融張力(230℃):9g/cm、重量平均分子量(Mw):38万、数平均分子量(Mn):14万、分子量分布(Mw/Mn):2.7
【0126】
[実施例1]
(二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造)
上記樹脂A1、B1、及び、C1を、混合比率が質量比で(樹脂A1):(樹脂B1):(樹脂C1)=63:34:3となるようにドライブレンドした。次いで、押出機に供給して樹脂温度250℃の温度で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を92℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約115μmの未延伸のキャスト原反シートを作製した。次いで、当該未延伸のキャスト原反シートを140℃の温度で流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、テンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ2.3μmの非常に薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造した。
【0127】
(金属化フィルムの製造)
蒸着装置(アルバック社製、製品名:巻取式真空蒸着装置EWE-060)を用いて、金属層の表面抵抗率が20Ω/□になるよう上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムにアルミニウム金属層を形成した。この際、オイルマージン法により、スリット後にフィルム幅方向一方の端部にフィルムの長手方向に連続した絶縁溝部(絶縁マージン:幅方向の長さ1mm)が形成されるよう蒸着を行った。当該フィルムをスリットし、全幅30mmの金属化フィルムを製造した。金属化フィルムの厚みは2.3μmであった。
【0128】
(コンデンサの製造)
2枚の金属化フィルムを相合わせた。株式会社皆藤製作所製自動巻取機3KAW-N2型を用い、相合わせた金属化フィルムを、巻き取り張力140~180g、接圧200~255g、巻き取り速度4m/sの条件で、1360ターン巻回した。素子巻きした素子に、荷重5.2kg/cmでプレスしながら120℃で15時間熱処理を施した。次いで、素子端面に亜鉛金属を溶射した。溶射条件は、フィード速度15mm/s、溶射電圧22V、溶射圧力0.3MPaとし、厚さ0.7mmであった。上記により扁平型コンデンサを製造した。次いで、扁平型コンデンサの端面にリード線をはんだ付けし、扁平型コンデンサをエポキシ樹脂で封止した。エポキシ樹脂の硬化は、90℃で2.5時間加熱した後、更に、120℃で2.5時間加熱して行った。製造されたコンデンサの静電容量は50μFであった。
【0129】
[実施例2]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。また、樹脂C1は用いなかった。上記樹脂A2及びB1を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1)=65:35となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0130】
[実施例3]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。上記樹脂A2、B1、及び、C1を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1):(樹脂C1)=63:34:3となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0131】
[実施例4]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。上記樹脂A2、B1、及び、C1を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1):(樹脂C1)=64:35:1となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0132】
[実施例5]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。上記樹脂A2、B1、及び、C1を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1):(樹脂C1)=60:30:10となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0133】
[実施例6]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。また、樹脂C1に代えて、樹脂C2を用いた。上記樹脂A2、B1、及び、C2を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1):(樹脂C2)=63:34:3となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0134】
[実施例7]
樹脂A1に代えて、樹脂A2を用いた。また、樹脂C1に代えて、樹脂C3を用いた。上記樹脂A2、B1、及び、C3を、混合比率が質量比で(樹脂A2):(樹脂B1):(樹脂C3)=63:34:3となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0135】
[比較例1]
樹脂B1に代えて、樹脂B2を用いた。また、C1は用いなかった。上記樹脂A1及びB2を、混合比率が質量比で(樹脂A1):(樹脂B2)=65:35となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0136】
[比較例2]
樹脂C1は用いなかった。上記樹脂A1及びB1を、混合比率が質量比で(樹脂A1):(樹脂B1)=65:35となるようにドライブレンドした。それ以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、及び、コンデンサを製造した。
【0137】
<測定方法>
各実施例及び比較例について、以下の測定条件により特性を評価した。
【0138】
(1)樹脂の特性評価
(超音波伝搬速度の測定)
超音波伝搬速度は、SST(Sonic Sheet Tester,超音波伝搬速度測定計)により測定した。具体的には、野村商事株式会社製SST-4000型超音波配向性試験器により測定した。当該SSTは、被検体である二軸延伸ポリプロピレンフィルムを載置する測定台と、超音波を発振-受信する8対16個の超音波送受信素子をSSTの測定ヘッドとして備えている。超音波は、周波数25MHzのものを使用した。上記発振端子と受信端子を、測定台上に載置された二軸延伸ポリプロピレンフィルムの上面に、所定距離(120mm)を隔てて接触させ、発振端子から、超音波をパルス状に発振させた。このとき、被検体中を超音波が伝搬し、受信端子まで到達するまでの時間を測定し、上記所定距離と時間から、超音波伝搬速度を算出した。測定時間は13秒とした。
【0139】
測定は、11.25°毎に設置された8対16個の素子によって、超音波伝搬速度を360°(全方向)にわたって行った。これらの測定値の平均値を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの全方向の超音波伝搬速度の平均値とした。
【0140】
また、360°にわたる一度の測定で最大となる軸(ピーク軸)の測定値を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの全方向の超音波伝搬速度のうちの最大値(Vmax)とした。
【0141】
更に、360°にわたる一度の測定で最小となる軸(ディープ軸)の測定値を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの全方向の超音波伝搬速度のうちの最小値(Vmin)とした。
【0142】
上記超音波伝搬速度の測定は、室温(25℃±2℃)で行った。
【0143】
(ポリプロピレン樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び重量分率wの測定)
各実施例及び比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを試料とし、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を用いて以下の条件で、ポリプロピレン樹脂の平均分子量及び分子量分布を測定した。
【0144】
装置:HLC-8321GPC/HT(検出器:示差屈折計(RI))(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel guardcolumnHHR(30)HT(7.5mmI.D.×7.5cm)×1本 + TSKgel GMHHR-H(20)HT(7.8mmI.D.×30cm)×3本 (東ソー株式会社製)
溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン(富士フィルム和光純薬製GPC用)+BHT(0.05%)
流速:1.0mL/分
検出条件:polarity-(-)
注入量:0.3mL
カラム温度:140℃
システム温度:40℃
試料濃度:1mg/mL
試料前処理:試料(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)を秤量し、溶媒(0.1%のBHTを添加した1,2,4-トリクロロベンゼン)を加えて140℃で1時間振盪溶解させた。その後0.5μmの焼結フィルターで加熱濾過した。
検量線:東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた5次近似曲線の検量線を作成した。但し、分子量はQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算した。
【0145】
得られた検量線及びSECクロマトグラムより、測定装置用の解析ソフトウェアを用いて、横軸に分子量(対数値)、縦軸に濃度分率の積分値をプロットし、積分分子量分布曲線を得た。各分子量における積分分子量分布曲線の微分値(積分分子量分布曲線の傾き)を求め、横軸に分子量(対数値)、縦軸に微分値をプロットし、微分分子量分布曲線を得た。
【0146】
これらの曲線から、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、及びZ平均分子量Mzを得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。また、積分分子量分布曲線において対数分子量Log(M)=4.0のときの値を重量分率wとした。この重量分率wは、対数分子量Log(M)=4.0、すなわち分子量10,000以下である分子の重量分率を示す。
【0147】
(ヘプタン不溶分(HI))
実施例、比較例で使用した原料の各ポリプロピレン樹脂を用いて、10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを調製した。次いで、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。
【0148】
(メソペンタッド分率)
実施例、比較例で使用した原料の各ポリプロピレン樹脂を溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)を用いて、以下の条件でメソペンタッド分率を測定した。
高温型核磁気共鳴(NMR)装置:日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)、型番:JNM-ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト-ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1))
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4,500回
シフト基準:CH(mmmm)=21.7ppm
立体規則性度を表すペンタッド分率は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrm等)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。mmmmやmrrm等に由来する各シグナルの帰属に関し、例えば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」等のスペクトルの記載を参考とした。
【0149】
(溶融張力の測定)
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、下記の条件で、実施例、比較例で使用した原料の樹脂を紐状に押し出して、ローラーに巻き取っていった時にプーリーに検出される張力を、溶融張力とした。
キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:20mm/分
巻き取り速度:4.0m/分
温度:230℃
なお、溶融張力が極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度における張力を溶融張力とした。
【0150】
(歪硬化性パラメータの測定)
歪硬化性パラメータは、以下の電断粘弾性測定結果と伸長粘度測定結果から、以下の手順で算出した。
a)動的剪断粘弾性測定
装置:ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)
治具:コーンプレート(25mmφ、0.1rad.)
温度:230℃
周波数:100~0.01rad./sec.
b)伸長粘度測定
装置:ARES-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)
治具:伸長粘度フィクスチャー
温度:230℃
歪み速度:0.1/s。ただし、この条件でトルクが低く、伸長粘度が測定できない場合は、歪み速度を1.0/sとした。
予備歪み:0.2mm
測定手順:
(1)実施例、比較例で使用した原料の樹脂ペレットを230℃で5分間、熱プレス機を用いて加熱圧縮し、約0.6mmのプレスシートを作製した。得られたプレスシートをティー・エイ・インスツルメント社製のレオメータARES-G2を用いて剪断粘弾性測定(周波数分散)および伸長粘度測定を行った。
(2)剪断粘弾性測定(周波数分散)は、コーンプレート治具(25mmφ、0.1rad)へプレスシートを挟み、230℃で周波数100~0.01rad/secで測定した。
(3)伸長粘度測定は、伸長粘度測定治具を用いて230℃で、予備歪み0.2mmを与えた後に歪み速度0.1/sで測定した。なお、この条件でトルクが低く、伸長粘度が測定できない場合は、歪み速度を1.0/sとした。上記伸長粘度測定治具は、熔融ポリマー等の高粘性物質の伸長粘度を測定するための治具であり、一定のHenky歪み速度で引っ張ることができるように、固定部と回転ドラムから構成されている。
(4)剪断粘弾性測定(周波数分散)により得られたデータを、「尾崎邦宏 村井朝 別所信夫 金鳳植 日本レオロジー学会誌 4巻 166(1976)」の記載の方法に基づき、次式(B)に示される粘度成長関数
【数1】
を求めた。
【数2】
ただしω=1/tとする。
ここで、G’(ω)は角速度ωの関数としての貯蔵弾性率、G’(ω/2)はω/2の関数としての貯蔵弾性率、G”(ω)は角速度ωの関数としての損失弾性率、tは時間である。
(5)一方、伸長粘度測定により得られた非定常一軸伸長粘度曲線ηE(t)において、歪の大きさが2以上で伸長粘度が最大となる点における時間をtmaxとし、下記式(A)により伸長粘度の非線形性パラメータ、すなわち歪み硬化性パラメータ(λ)を求めた。なお、λについての概念図を図1に示した。
【数3】
(6)なお、式(B)により得られる粘度成長関数と、非定常一軸伸長粘度曲線との間で、短時間側の線形領域の重なりが悪い場合には、非定常一軸伸長粘度曲線における線形部分の中点付近が重なるようにシフトさせてから歪み硬化性パラメータλを求めた。これは、伸長粘度測定において、歪の開放等で想定値よりも断面積が増加する場合、粘度が小さいために試料が垂れ下がり断面積が低下する場合があるため、その誤差を軽減するための措置である。
【0151】
(メルトフローレート(MFR)の測定)
実施例、比較例で使用した原料の樹脂ペレットのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックスを用いてJIS K 7210の条件Mに準じて測定した。具体的には、まず、試験温度230℃にしたシリンダ内に、4gに秤りとった試料を挿入し、2.16kgの荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された試料の重量を測定し、MFR(単位:g/10分又はg/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。
【0152】
(2)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの特性評価
(絶縁破壊強度の測定:直流(DC))
JIS C2151(2006)17.2.2(平板電極法)記載の電極構成にて、下記の試験条件で、室温(25℃)、100℃又は125℃における二軸延伸ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧(BDV)を16回測定した。なお、昇圧中に下記の上限基準値の漏れ電流を検知した時点での印加電圧をBDVとした。BDVを、フィルムの厚み(μm)で割り、16回の測定結果中の上位2点および下位2点を除いた12点の平均値を、絶縁破壊の強さDCES(V/μm)とした。
試験片:約150mm×150mm
試験片の状態調節:雰囲気条件にて30分
電源:直流
雰囲気:空気中、室温(25℃)、100℃又は125℃
試験機:菊水電子工業社製 DC耐電圧/絶縁抵抗試験機TOS9213AS
電圧上昇速度:100V/s
電流検出応答速度:MID
上限基準値:5mA
【0153】
(体積抵抗率の測定)
<体積抵抗率ρVの測定>
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの体積抵抗率の具体的な測定手順を以下に記すが、特に記載のない条件はJIS C 2139-3-1:2018を基に下記のように測定した。
まず、100℃環境の恒温槽に、体積抵抗率測定用治具(以下、単に、治具ともいう)を配置した。治具の構成は下記の通りである。また、治具には、直流電源、直流電流計を接続した。
【0154】
<体積抵抗率測定用治具>
主電極(直径50mm)
対電極(直径85mm)
主電極を囲う環状のガード電極(外径80mm、内径70mm)
各電極は、金メッキされた銅製で、試料と接する面には導電性ゴムを貼付する。使用した導電性ゴムは、信越シリコーン社製、EC-60BL(W300)で、導電性ゴムの光沢のある面を、金メッキされた銅と接するように貼付する。
次いで、実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下、試料ともいう)を恒温槽内の治具にセットした。具体的には、試料の一方の面に、主電極、及び、ガード電極を密着させ、他方の面に対電極を密着させ、荷重5kgfで試料と各電極を密着させた。その後、30分間静置した。
次いで、電位傾度200V/μmとなるように試料に電圧を印加した。
電圧の印加後、1分経過時点での電流値を読み取り、次式により体積抵抗率を算出した。なお、電圧の印加および電流値の測定には、Keithley社製の6517B(エレクトロメータ/絶縁抵抗計)を用いた。
体積抵抗率=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(試料の厚さ)×(電流値)]
ここで、有効電極面積は、下記式により求めた。
(有効電極面積)=円周率×[[[(主電極の直径)+(ガード電極の内径)]/2]
/2]
これを3回繰り返し、有効数字1桁で求めた算術平均値を、体積抵抗率(Ω・cm)とした。
【0155】
(厚みの測定)
温度23±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、シチズンセイミツ株式会社製 紙厚測定器 MEI-11(測定圧100kPa、降下速度3mm/秒、測定端子φ=16mm、測定力20.1N)を用いて、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みを測定した。サンプルは10枚以上重ねたままロールより切り出し、切り出しの際にフィルムにシワや空気が入らないように取り扱った。10枚重ねのサンプルに対し、5回測定を行い、5回の平均値を10で除して、厚みを算出した。
【0156】
(ヘーズの測定)
日本電色社製 ヘーズメーター NDH-5000を用い、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを50mm×100mmにカットしたサンプルのヘーズを測定した。測定数は3とし、その平均値を採用した。
【0157】
(引張弾性率の測定)
JISK-7127(1999)に準拠し、サンプル形状は試験片タイプ2に準拠したもの(サンプル幅15mm、サンプル長さ190mm)を用い、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製 万能材料試験機 テンシロンRTG-1210)を用いて、23℃、試験速度200mm/分、チャック間距離100mmの条件にて、MD方向およびTD方向について、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの引張弾性率を測定した。MD方向の引張弾性率を測定する際は、MD方向の長さ190mm、TD方向の幅15mmで切り出した試験片を用い、TD方向の引張弾性率を測定する際は、TD方向の長さ190mm、MD方向の幅15mmで切り出した試験片を用いて測定を行った。
【0158】
(3)コンデンサ素子の特性評価
(短時間耐電圧性試験(高電圧負荷時の容量減少評価))
予め素子を試験環境温度(25℃)にて1時間以上静置した後、試験前の初期静電容量を日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50にて評価した。次いで、高圧電源を用い、コンデンサ素子に直流1300Vの電圧を10秒間負荷した。電圧負荷後の素子の静電容量をLCRテスターで測定し、下記式に基づいて電圧負荷前後の静電容量変化率を算出した。素子3個について静電容量変化率を測定し、平均値を測定値とした。静電容量変化率は、±1%以内であれば実用上問題ないと評価され、±0.5%以内であると更によいと評価される。
【0159】
(静電容量変化率)=[[(電圧負荷後の静電容量)-(初期静電容量)]/(初期静電容量)]×100(%)
【0160】
(ステップ昇圧耐電圧性試験(高温下の容量減少電圧評価))
予め素子を試験環境温度(115℃(想定最高温度+15℃))にて1時間以上予熱した後、試験前の初期静電容量を日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50にて評価した。次いで、115℃の高温環境下にて、高圧電源を用い、コンデンサ素子に直流600Vの電圧を1時間負荷した。電圧負荷を終え、室温(23℃)に放冷した後の素子の静電容量をLCRテスターで測定し、上記静電容量変化率を算出する式により電圧負荷前後の容量変化率を算出した。素子の静電容量を測定後、試験素子を高温環境下に戻し、予熱後、高圧電源を用いて直流650Vの電圧を1時間負荷し、電圧負荷を終え、室温(23℃)に放冷した後の素子の容量を測定し、容量変化率を算出した。以降、容量減少率が、-0.5%を超えるまで、電圧を50Vずつ昇圧を繰り返して試験を継続した。容量減少率が、-0.5%を超えた時の電圧を、容量減少電圧として評価した。素子3個について容量減少電圧を測定し、平均値を測定値とした。容量減少電圧は、900V以上が実用上問題ないと評価され、950V以上であると更によいと評価される。
【0161】
実施例及び比較例の上記特性評価の結果を表1に示す。
【0162】
【表1】
図1