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特開2023-124564複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラム
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  • 特開-複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124564
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20230830BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028391
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西井 康真
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105GG05
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で算定し、算定された時刻ずれ量を時刻ずれの補正に供することを可能にした、複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】建物10に搭載されている複数の地震計15の時刻ずれ量の特定方法であり、異なる階に設置されているそれぞれの地震計15により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求めるA工程、層間変位Aと複数の層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を最小とする際の時刻ずれ量を複数の地震計の時刻ずれ量とする、B工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法であって、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求める、A工程と、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とする、B工程とを有することを特徴とする、複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法。
【請求項2】
前記低周波数帯の設定において、
前記建物の1次固有振動数をfとした際に、前記低周波数帯をf/5もしくは0.5Hz乃至f/2の範囲に設定することを特徴とする、請求項1に記載の複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法。
【請求項3】
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置であって、
演算部を有し、
前記演算部では、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とすることを特徴とする、複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置。
【請求項4】
前記建物の備える複数の地震計と、請求項3に記載の特定装置とを有し、
前記地震計にて計測された計測データが前記特定装置にて受信されるように構成されていることを特徴とする、複数の地震計の時刻ずれ量の特定システム。
【請求項5】
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置を構成するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とすることを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数階建ての建物の例えば1階と上層階に加速度センサ等の地震計を設置し、地震時に計測された計測データから建物の変形を算定する際には、1階と上層階にある地震計同士を有線にて接続し、双方の地震計の時刻を同期することが望ましいものの、階を跨ぐ地震計同士の有線による接続は、接続工事の煩雑さに加えて設置場所の変更に対して臨機に対応できないこと、配線制限があることなどの課題を有している。
【0003】
それに対して、無線にて地震計同士を接続することにより、有線による接続の際のデメリットは解消されるものの、今度は、地震計同士の時刻を同期させ難くなることから、建物の同時刻における各階の変形を正しく算定できないといった別の課題が生じる。
【0004】
ここで、特許文献1には、2つの地震計測器の計時時刻にずれが生じていたとしても、ずれを補正して正確な層間変位量を算出することのできる、解析方法が提案されている。具体的には、木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で得られた、時刻歴に沿ったX軸方向とY軸方向、及びZ軸方向の第1の加速度データと、木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で得られた、時刻歴に沿ったX軸方向とY軸方向、及びZ軸方向の第2の加速度データとを用いて、あらかじめ定められた解析処理プログラムにより木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出するに際し、第1の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第1の加速度データと第2の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第2の加速度データについて相関係数を算出し、算出結果に基づいて第1の加速度データと第2の加速度データの間の時刻歴のずれを補正したうえで、層間変位量の算出を行う解析方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-100875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の解析方法は、複数の地震計測器で計測された鉛直方向の加速度波形の時刻を少しずつずらしながら相関係数を算出し、相関係数が最大となるときの時刻ずれ量を、実際の時刻ずれ量と判断する方法である。そのため、全周波数帯で相関係数を算出することにより、ノイズが多くなることに依拠して精度が低くなり、このことは特に高周波数側において顕著になるといった課題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で算定し、算定された時刻ずれ量を時刻ずれの補正に供することを可能にした、複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法の一態様は、
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法であって、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求める、A工程と、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とする、B工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、複数の地震計により測定された加速度波形に基づく各階の変位から計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらした際の各階の変位から時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、それぞれの層間変位に関するフーリエスペクトルの低周波数帯における面積を最小とする際の時刻ずれ量を、複数の地震計の時刻ずれ量とすることにより、複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で算定することができる。ここで、「複数の地震計」とは、例えば、1階(もしくは基礎階)と、2階以上の上層階に2つもしくは3つ以上の地震計が設置されている場合に、建物に入力される地盤振動を計測する1階もしくは基礎階の地震計と、2階以上の上層階のいずれか1つの地震計を意味しており、例えば、1階と2階の地震計、1階と3階の地震計、1階と屋上階(RF)の地震計等の組み合わせが含まれる。
【0010】
また、フーリエスペクトルの面積を算定する際の「低周波数帯」とは、建物が共振しない低周波数帯であり、複数階の建物が全体的に並進挙動する程度の周波数帯や、応答が増幅しない周波数帯を意味している。フーリエスペクトルの中でも低周波数帯の面積を算定することにより、ノイズ(誤差)の影響を少なくできる。
【0011】
本発明者等によれば、複数の地震計の間で時刻ずれ量がある場合は、特定の周波数において周期的にピークが存在し、一方で、時刻ずれ量がない場合は周期的にピークが存在しないことが特定されている。周期的にピークが存在する場合は、自ずとフーリエスペクトルにおけるある周波数帯(低周波数帯)の面積は大きくなり、周期的にピークが存在しない場合は、フーリエスペクトルの面積は小さくなる。計測値から少しずつ加速度波形の時刻をずらして、それぞれの層間変位を求めるとともに各層間変位のフーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、最小の面積のフーリエスペクトルの時刻ずれ量をもって、複数の地震計の間の時刻ずれ量とできる。例えば、想定される時刻ずれ量の中で時刻ずれ量のピッチを大きくとってフーリエスペクトルの面積を最小とする際の時刻ずれ量を特定した後、この時刻ずれ量の近傍でさらに時刻ずれ量のピッチを小さくとって、あらためて、フーリエスペクトルの面積を最小とする際の時刻ずれ量を特定することにより、より精緻な時刻ずれ量の特定が可能になる。
【0012】
また、本発明による複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法の他の態様は、
前記低周波数帯の設定において、
前記建物の1次固有振動数をfとした際に、前記低周波数帯をf/5もしくは0.5Hz乃至f/2の範囲に設定することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、低周波数帯の上限値と下限値を定量的に設定することにより、フーリエスペクトルの面積の算定領域を明確にすることができる。
【0014】
ここで、上限値の設定根拠に関しては、通常地震の際の弾性域における層間変形角が一般に1/200程度に設定され、大規模地震の際の塑性域における層間変形角が1/100~1/75程度に設定されることから、塑性域は弾性域のおよそ1/2倍程度になることに基づき、1次固有振動数:fの1/2倍を低周波数帯の上限値としている。
【0015】
一方、下限値の設定根拠は、現在一般に使用されている地震計の性能(分解能)に基づいて0.5Hzを下限値としている。すなわち、下限値は、地震計の性能に応じて多様に変化し得ることから、ここでは現状使用の一般の地震計の性能に基づいて設定することとした。また、一般の住宅の1次固有振動数:fから、0.5Hz程度となる値としてf/5を下限値としている。
【0016】
また、本発明による複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置の一態様は、
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置であって、
演算部を有し、
前記演算部では、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とすることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、複数の地震計により測定された加速度波形に基づく各階の変位から計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらした際の各階の変位から時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、それぞれの層間変位に関するフーリエスペクトルの低周波数帯における面積を最小とする際の時刻ずれ量を、複数の地震計の時刻ずれ量とすることにより、複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で算定することができる。
【0018】
また、本発明による複数の地震計の時刻ずれ量の特定システムの一態様は、
前記建物の備える複数の地震計と、前記特定装置とを有し、
前記地震計にて計測された計測データが前記特定装置にて受信されるように構成されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、複数の地震計にて計測された各計測データを、例えば建物を建設したハウスメーカーや建設会社等の本支店の関連部署等にある特定装置に無線通信等によって送信し、計測データを受信した特定装置にて対象建物の時刻ずれ量を速やかに特定し、特定された時刻ずれ量に基づいて複数の地震計の時刻ずれの補正(時刻の同期)を行った上で、建物の変形や層間変形角を高精度に算定することができる。ここで、特定装置における計測データの受信は、ネットワークを介して無線通信にて受信する方法の他にも、対象建物の入居者やハウスメーカーの担当者等が計測データを入手し、特定装置に入力する方法であってもよい。
【0020】
また、本発明によるプログラムの一態様は、
建物に搭載されている複数の地震計の時刻ずれ量の特定装置を構成するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
異なる階に設置されているそれぞれの前記地震計により測定された加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、
前記層間変位Aと複数の前記層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、該フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、該面積を最小とする際の時刻ずれ量を、前記複数の地震計の時刻ずれ量とすることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、時刻ずれ量の特定装置を構成するコンピュータに所定の処理を実行させることにより、複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で算定することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムによれば、複数の地震計の時刻ずれ量を高い精度で特定し、特定された時刻ずれ量を時刻ずれの補正に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る、複数の地震計の時刻ずれ量の特定システムの一例を示す全体構成図である。
図2】実施形態に係る時刻ずれ量の特定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る時刻ずれ量の特定装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】時刻ずれ量のある層間変位と時刻ずれ量のない層間変位のそれぞれの振幅グラフの例を示す図である。
図5A】時刻ずれ量が-0.4秒のケースにおける、周波数と層間変位のフーリエスペクトルの関係を示す図である。
図5B】時刻ずれ量が-0.2秒のケースにおける、周波数と層間変位のフーリエスペクトルの関係を示す図である。
図5C】時刻ずれ量がないケースにおける、周波数と層間変位のフーリエスペクトルの関係を示す図である。
図5D】時刻ずれ量が+0.1秒のケースにおける、周波数と層間変位のフーリエスペクトルの関係を示す図である。
図5E】時刻ずれ量が+0.7秒のケースにおける、周波数と層間変位のフーリエスペクトルの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムの一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態に係る複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラム]
はじめに、図1乃至図4を参照して、実施形態に係る複数の地震計の時刻ずれ量の特定方法と特定装置、特定システム、及びプログラムの一例について説明する。ここで、図1は、複数の地震計の時刻ずれ量の特定システムの一例を示す全体構成図である。
【0026】
時刻ずれ量の特定システム50は、複数の地震計15を各階に備えている複数階建て(図示例は2階建て)の建物10と、建物10を建設したハウスメーカー30にある実施形態に係る特定装置40とを有し、地震計15と特定装置40がネットワーク20を介して接続されて計測データが特定装置40に送信されるようになっている。ここで、特定システムは、ネットワーク20を介することなく、建物10の入居者やハウスメーカーの担当者等が計測データを入手し、特定装置40に入力する形態であってもよく、このような形態も含んでいる。
【0027】
図示例の2階建ての建物10では、1階と2階にそれぞれ地震計15A,15Bが搭載されている。地盤G内を伝播されてきた地震動Eにより建物10が振動し、その際の地盤振動が1階にある地震計15Aにて測定され、測定された計測データ(加速度データで、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸の加速度データ)が記録される。一方、建物の振動(応答振動)は2階(上層階)にある地震計15Bにて測定され、同様に加速度データとして記録される。双方の地震計15A,15Bは有線にて時刻同期されておらず、それぞれの計測データがネットワーク20を介して特定装置40に送信される。
【0028】
ネットワーク20には、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。
【0029】
次に、図2を参照して、時刻ずれ量の特定装置40のハードウェア構成の一例を説明するとともに、図3を参照して、時刻ずれ量の特定装置40の機能構成の一例を説明する。
【0030】
図2に示すように、時刻ずれ量の特定装置40は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。
【0031】
時刻ずれ量の特定装置40を構成するコンピュータは、接続バス46により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)41、主記憶装置42、補助記憶装置43、入出力IF(interface)44、及び通信IF45を備えている。主記憶装置42と補助記憶装置43は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0032】
CPU41は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU41は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU41は、コンピュータからなる特定装置40の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU41は、例えば、補助記憶装置43に記憶されたプログラムを主記憶装置42の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0033】
主記憶装置42は、CPU41が実行するコンピュータプログラムや、CPU41が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置42は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置43は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置43には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF45を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。特定装置40に対する外部装置等には、地震計15や関連部署の他のコンピュータ(各種の構造計算用コンピュータ)等が含まれる。
【0034】
補助記憶装置43は、例えば、主記憶装置42を補助する記憶領域として使用され、CPU41が実行するコンピュータプログラムや、CPU41が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置43は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置43として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0035】
入出力IF44は、特定装置40に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF44には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。特定装置40は、入出力IF44を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0036】
また、入出力IF44には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。特定装置40では、時刻ずれ量があるケースとないケースのそれぞれの層間変位のフーリエスペクトルや、各フーリエスペクトルの低周波数帯における面積、二つの地震計15A,15Bの間の時刻ずれ量等が表示される。
【0037】
通信IF45は、特定装置40が接続するネットワーク20とのインターフェイスである。通信IF45は、上記するインターネット等の公衆ネットワークをはじめとする様々なネットワーク20を介して、地震計15から計測データを特定装置40に送信する。
【0038】
図3に示すように、特定装置40は、CPU41によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部402、演算部404、及び格納部406の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0039】
通信部402は、地震発生後に、各地震計15から送信された計測データを一定時間受信し、格納部406に随時格納する。
【0040】
演算部404は、計測データに基づいて、二つの地震計15A,15Bの間の時刻ずれ量を特定する。
【0041】
ここで、一階の地震計15Aにより測定された加速度波形(地面の加速度波形と等価)と2階の床位置での絶対変位は、以下の式(X)により表すことができる。尚、低周波数帯では位相差がないとして、初期位相については考慮しない。
【0042】
【数1】
【0043】
式(X)より、1階と2階の層間変位(1層目の層間変位)は、以下の式(Y)により表すことができる。
【0044】
【数2】
【0045】
このときの層間変位の振幅は、以下の式(Z)により表すことができる。
【0046】
【数3】
【0047】
例えば、式(Z)において、A=1.0、B=1.5として、周波数fを横軸とし、振幅を縦軸として表すと、図4のようになる。ここで、図4では、時刻ずれがない場合の振幅を実線で示し、時刻ずれ量:α=0.1秒の振幅を点線で示し、時刻ずれ量:α=0.5秒の振幅を一点鎖線で示し、時刻ずれ量:α=1.0秒の振幅を二点鎖線で示している。
【0048】
図4より、時刻ずれ量があるケースにおいては、特定の周波数において周期的にピークがあり、時刻ずれのないケースでは、ピークが存在しないことが分かる。ただし、A,Bの値により、時刻ずれのないケースの直線(水平線)のy切片は変化する。
【0049】
このことから、複数の地震計の間に時刻ずれがある場合は、ある一定の範囲における振幅の積分値(面積)は最小とならず、時刻ずれがない場合において最小となることが分かる。
【0050】
上記する時刻ずれがない場合に振幅の面積が最小になることに加えて、その面積の算定範囲を規定する周波数帯は建物の振動特性を反映した範囲に設定されるべきであることから、建物の1次固有振動数をfとした際に、f/5もしくは0.5Hz乃至f/2の範囲の低周波数帯を、層間変位のフーリエスペクトルの面積を算定する際の周波数帯に設定する。
【0051】
時刻ずれのない場合の層間変位のフーリエスペクトルの面積と、時刻ずれのある場合(様々な時刻ずれ量のケース)の層間変位のフーリエスペクトルの面積を上記低周波数帯において算定し、面積が最小となる層間変位を特定し、特定された層間変位の元になる複数の地震計の加速度波形が時刻ずれがない波形であると特定することができる。
【0052】
仮に、計測値の加速度波形が面積最小となる層間変位のフーリエスペクトルの元になる波形である場合は、計測値を時刻ずれなしと特定できる。一方、計測値の加速度波形から人為的に時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて算定された、時刻ずれ処理波形に基づく層間変位のフーリエスペクトルが面積最小となる場合は、その人為的に設定された時刻ずれ量だけ、複数の地震計同士の時刻がずれているとすることができる。
【0053】
演算部404では、二つの地震計15A,15Bにより測定されたそれぞれの加速度波形を二階積分して各階(図示例は1階と2階)の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求める、A工程を実行する。ここで、計測値の加速度波形の時刻をずらして時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求める処理は、複数の人為的に設定された時刻ずれ量ごとに行う。
【0054】
次いで、層間変位Aと複数の層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、面積を最小とする際の時刻ずれ量を、複数の地震計の時刻ずれ量とする、B工程を実行する。
【0055】
この演算部404によるA工程とB工程の一連の処理は、実施形態に係る時刻ずれ量の特定方法となる。
【0056】
特定装置40は、コンピュータに以下の処理を実行させるプログラムがインストール等されることにより、演算部404における上記処理が実行される。すなわち、このプログラムに基づく処理は、二つの地震計15A,15Bにより測定されたそれぞれの加速度波形を二階積分して各階の変位を求め、各階の変位に基づいて計測値に基づく層間変位Aを求めるとともに、計測値の加速度波形の時刻をずらして同様に各階の変位を求め、各階の変位に基づいて時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bを求め、層間変位Aと複数の層間変位Bのそれぞれのフーリエスペクトルを算定し、フーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定し、面積を最小とする際の時刻ずれ量を、複数の地震計の時刻ずれ量とする。
【0057】
図示する地震計の時刻ずれ量の特定装置や特定システム、特定方法によれば、層間変位のフーリエスペクトルの低周波数帯における面積を最小とする計測値の加速度波形もしくは時刻ずれ処理波形を時刻ずれなしと特定し、このことに基づいて、計測値の加速度波形の時刻ずれの有無と時刻ずれがある場合の時刻ずれ量を、比較的短時間で特定することができる。
【0058】
さらに、低周波数帯を対象に時刻ずれ量の特定を行うことから、ノイズ(誤差)の影響が少なく、高い精度で時刻ずれ量の特定を行うことができる。
【0059】
特定装置40は、さらに、不図示の構造計算部を備えていて、特定された時刻ずれ量に基づいて地震計15A,15Bのそれぞれの計測データの時刻ずれを補正した後、時刻同期された双方の計測データに基づいて1階と2階の地震時の変形量を算定し、建物10の層間変形角を算定してもよい。算定された層間変形角等に基づき、建物10の安全度や損傷の程度等を評価することができる。
【0060】
[時刻ずれ量の算定式の妥当性を検証する実験及び解析]
本発明者等は、上記する特定装置40や特定方法による一連の処理を用いて、実験及び解析を行った。この実験と解析では、結果的に時刻ずれがなかった2つの地震計の実測値(計測値の加速度波形)に基づく層間変位Aのフーリエスペクトルを算定し、さらに、計測値の加速度波形の時刻を人為的に4パターンでずらして4種の時刻ずれ処理波形を作成し、それぞれの時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bのフーリエスペクトルを算定し、計5種の層間変位のフーリエスペクトルの低周波数帯における面積を算定した上で、最小面積を与えるフーリエスペクトルを特定した。
【0061】
ここで、計測値の加速度波形に対して人為的に設定した時刻ずれ量(結果的に、設定した時刻ずれ量はそのまま時刻ずれ量となる)は、-0.4秒、-0.2秒、+0.1秒、+0.7秒である。
【0062】
また、フーリエスペクトルの面積を算定する低周波数帯は、1.0Hz乃至4.0Hz未満の範囲とした。図5A乃至図5Eはそれぞれ、、-0.4秒の時刻ずれ量を有するケース、-0.2秒の時刻ずれ量を有するケース、時刻ずれなしのケース(実測値のケース)、+0.1秒の時刻ずれ量を有するケース、及び+0.7秒の時刻ずれ量を有するケースである。
【0063】
図5A乃至図5Eにおいて、それぞれの面積A1乃至A5を算定した結果、図5Cのフーリエスペクトルの面積A3が最小になることが特定された。
【0064】
図5Cのフーリエスペクトルは、実測値の加速度波形に基づくフーリエスペクトルであることから、実測値の加速度波形が時刻ずれなしと特定することができる。
【0065】
尚、ここから、実測値に対する人為的な時刻ずれ量のピッチをより小さく設定して(例えば、-0.01秒、+0.01秒等)、それぞれの時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bのフーリエスペクトルを算定し、あらためて面積最小を与えるフーリエスペクトルを特定してもよい。この処理により、例えば時刻ずれ量が+0.01秒に設定された時刻ずれ処理波形に基づく層間変位Bのフーリエスペクトルの面積が最小となった場合は、実測値が時刻ずれを有していて、時刻ずれ量が+0.01秒であると特定することができる。
【0066】
このように、最初のステップは、人為的に設定する時刻ずれ量のピッチを大きくとって処理を行い、面積最小を与える層間変位のフーリエスペクトルの元になる、計測値の加速度波形もしくは時刻ずれ処理波形を特定した後、次のステップにおいて、人為的に設定する時刻ずれ量のピッチを小さくとって処理を行うことにより、時刻ずれの有無や時刻ずれ量の特定の精度を向上させることができる。
【0067】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0068】
10:建物(2階建ての建物)
15,15A,15B:地震計
20:ネットワーク
30:ハウスメーカー
40:特定装置(時刻ずれ量の特定装置)
50:特定システム(時刻ずれ量の特定システム)
402:通信部
404:演算部
406:格納部
G:地盤
E:地震動
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E